(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164359
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】機能性繊維および機能性化合物
(51)【国際特許分類】
D06M 13/224 20060101AFI20231102BHJP
D06M 13/402 20060101ALI20231102BHJP
D06B 19/00 20060101ALI20231102BHJP
D06M 13/463 20060101ALI20231102BHJP
D06M 13/292 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
D06M13/224
D06M13/402
D06B19/00 Z
D06M13/463
D06M13/292
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072348
(22)【出願日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2022074613
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 照夫
(72)【発明者】
【氏名】廣垣 和正
【テーマコード(参考)】
3B154
4L033
【Fターム(参考)】
3B154AA07
3B154AB19
3B154BA14
3B154BB02
3B154BB12
3B154BC01
3B154BE01
3B154BF01
3B154BF02
3B154DA30
4L033AA07
4L033AB01
4L033AB03
4L033AB04
4L033AC07
4L033AC10
4L033AC15
4L033BA21
4L033BA39
4L033BA71
4L033BA86
(57)【要約】
【課題】機能性化合物を有効利用して機能性繊維を製造し、機能を長期間維持させる。
【解決手段】繊維と、繊維に一部の部位が導入された機能性化合物と、を含み、機能性化合物は、アンカー部位と、アンカー部位と直接的または間接的に結合する機能性部位とを有し、アンカー部位が、繊維内に導入され、機能性部位が、繊維から外側に突出している、機能性繊維。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と、前記繊維に一部の部位が導入された機能性化合物と、を含み、
前記機能性化合物は、アンカー部位と、前記アンカー部位と直接的または間接的に結合する機能性部位とを有し、
前記アンカー部位が、前記繊維内に導入され、前記機能性部位が、前記繊維の外側に突出している、機能性繊維。
【請求項2】
前記アンカー部位は、重量平均分子量Mwが1000~20000の高分子鎖、または分子量60以上の複素環式化合物基または芳香族化合物基である、請求項1に記載の機能性繊維。
【請求項3】
前記高分子鎖における炭素原子、水素原子およびハロゲン原子の合計割合:Rcxが、20質量%以上である、請求項2に記載の機能性繊維。
【請求項4】
前記機能性部位の前記アンカー部位側の末端にエステル結合、アミド結合またはカルボニル基が結合している、請求項1に記載の機能性繊維。
【請求項5】
前記アンカー部位と、前記機能性部位とは、前記繊維の外側に少なくとも一部が突出する連結基を介して結合している、請求項1~4のいずれか1項に記載の機能性繊維。
【請求項6】
前記連結基の炭素数は、3以上20以下または6以上20以下である、請求項5に記載の機能性繊維。
【請求項7】
前記機能性化合物が、式:A-(C)n-Fで示され、
Aがアンカー部位、Lが連結基、Fが機能性部位、n=0または1とするとき、
前記連結基は、炭素数6以上20以下のポリアルキレン基、炭素数6以上20以下のポリオキシアルキレン基、-R1-COO-R2-基(R1、R2はそれぞれ独立に炭素数3以上15以下のアルキレン基)または-R3-CONH-R4-基(R3、R4はそれぞれ独立に炭素数3以上15以下のアルキレン基)であり、
Aは、LまたはFに結合するエーテル結合、エステル結合またはアミド結合を有してもよい、請求項5に記載の機能性繊維。
【請求項8】
Fが、リン酸基 リン酸誘導体基または4級アンモニウム基である、請求項7に記載の機能性繊維。
【請求項9】
前記繊維は、合成樹脂繊維であり、
前記アンカー部位は、疎水性基を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の機能性繊維。
【請求項10】
前記繊維は、ポリエステル繊維である、請求項1~4のいずれか1項に記載の機能性繊維。
【請求項11】
前記繊維は、セルロースまたは蛋白質を主成分とする天然由来の繊維であり、
前記アンカー部位は、前記繊維に対して共有結合可能な官能基を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の機能性繊維。
【請求項12】
前記機能性部位は、親水性基、撥水性基、防炎作用を有する官能基および抗菌または抗ウイルス作用を有する官能基からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の機能性繊維。
【請求項13】
前記アンカー部位に対応する化合物の25℃におけるハンセン溶解度パラメータHSP1と、前記機能性部位に対応する化合物の25℃におけるハンセン溶解度パラメータHSP2との差:ΔHSP(=HSP1-HSP2)は、4MPa0.5以上8MPa0.5以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の機能性繊維。
【請求項14】
前記繊維が、糸、または織物、編物、織布および不織布からなる群より選択される少なくとも1つの繊維布帛を構成している、請求項1~4のいずれか1項に記載の機能性繊維。
【請求項15】
請求項1~4のいずれか1項に記載の機能性繊維を含む、繊維布帛。
【請求項16】
繊維に機能性を付与するための機能性化合物であって、
前記化合物は、前記繊維内に導入されるアンカー部位と、前記繊維から突出する機能性部位とを有し、
前記機能性部位は、前記アンカー部位と直接的または間接的に結合する、機能性化合物。
【請求項17】
繊維を請求項16に記載の機能性化合物とともに超臨界流体と接触させる工程と、
前記アンカー部位を、前記超臨界流体に溶解させる工程と、
前記繊維を前記超臨界流体で膨潤させる工程と、
前記超臨界流体に溶解した前記アンカー部位を前記超臨界流体で膨潤した前記繊維に導入し、前記機能性部位を前記繊維の外側に突出させる工程と、
を具備する、機能性繊維の製造方法。
【請求項18】
前記超臨界流体が、温度80℃~130℃、圧力10MPa~30MPaの超臨界二酸化炭素である、請求項17に記載の機能性繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性繊維および機能性化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維に様々な機能を付与することが試みられている。例えば、機能性化合物を含む樹脂コーティングで繊維表面を覆うことが行われている。しかし、樹脂コーティングは、摩擦、洗浄等により剥がれやすく、所望の機能を長期間維持することは困難である。
【0003】
一方、染色の分野では、着色が困難なポリプロピレン繊維の染色方法として、超臨界二酸化炭素(scCO2)を染色媒体として用いる超臨界(流体)染色の技術が開発されている(例えば、特許文献1)。超臨界染色によれば、発色団を有する化合物(例えばアントラキノン系化合物)を繊維の内部に取り込むことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報第2019/146174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超臨界染色では、発色団を有する化合物の大半が繊維内部に取り込まれ、繊維表面に露出する化合物は僅かである。
【0006】
一方、染色以外の分野でも、繊維に様々な機能を付与することが望まれている。例えば、合成樹脂繊維に撥水性、親水性、防炎性、抗菌性、抗ウイルス性、接触冷感性、吸湿発熱性、防汚性などを付与することが望まれる。
【0007】
上記に例示した染色以外の機能を発現する化合物は、繊維内部に取り込まれると、その機能を発現することが困難になる。その場合、繊維表面に露出する僅かな量の化合物が、所望の機能を担うことになる。つまり、超臨界染色を応用して、超臨界流体を用いて繊維に機能を付与する場合、機能性化合物の大半を有効利用することができず、コスト、環境負荷などの面で不利になる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、繊維と、前記繊維に一部の部位が導入された機能性化合物と、を含み、前記機能性化合物は、アンカー部位と、前記アンカー部位と直接的または間接的に結合する機能性部位とを有し、前記アンカー部位が、前記繊維内に導入され、前記機能性部位が、前記繊維から外側に突出している、機能性繊維に関する。
【0009】
本発明の別の側面は、繊維に機能性を付与するための機能性化合物であって、前記化合物は、前記繊維内に導入されるアンカー部位と、前記繊維から突出する機能性部位とを有し、前記機能性部位は、前記アンカー部位と直接的または間接的に結合する、機能性化合物に関する。
【0010】
本発明の更に別の側面は、繊維を上記の機能性化合物とともに超臨界流体と接触させる工程と、前記アンカー部位を、前記超臨界流体に溶解させる工程と、前記繊維を前記超臨界流体で膨潤させる工程と、前記超臨界流体に溶解した前記アンカー部位を前記超臨界流体で膨潤した前記繊維に導入し、前記機能性部位を前記繊維の外側に突出させる工程と、を具備する、機能性繊維の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、繊維に付与した所望の機能が長期間維持され得るとともに、その機能を発現する機能性化合物を有効利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る機能性化合物の構造(a)および別の実施形態に係る機能性化合物の構造(b)を示す概念図である。
【
図2】一実施形態に係る機能性繊維の構造(a)および別の実施形態に係る機能性繊維の構造(b)を示す概念図である。
【
図3】機能性化合物(FC1)の具体例の構造を示す化学式である。
【
図4】機能性繊維(F)の製造装置の一例の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値、材料等を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値、材料等を適用してもよい。なお、本開示に特徴的な部分以外の構成要素には、公知の機能性繊維もしくは機能性化合物の構成要素を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値Bの範囲」という場合、当該範囲には数値Aおよび数値Bが含まれる。
【0014】
以下の説明において、特定の物性や条件などに関する数値の下限と上限とを例示した場合、下限が上限以上とならない限り、例示した下限のいずれかと例示した上限のいずれかを任意に組み合わせることができる。複数の材料が例示される場合、特に言及しない限り、その中から1種を選択して単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
以下の説明において、「~を含有する」もしくは「~を含む」という用語は、「~を含有する(もしくは含む)」、「実質的に~からなる」および「~からなる」を包含する表現である。
【0016】
また、本開示は、添付の特許請求の範囲に記載の複数の請求項から任意に選択される2つ以上の請求項に記載の事項の組み合わせを包含する。つまり、技術的な矛盾が生じない限り、添付の特許請求の範囲に記載の複数の請求項から任意に選択される2つ以上の請求項に記載の事項を組み合わせることができる。
【0017】
一般に、撥水性、親水性、防炎性、抗菌性、抗ウイルス性、接触冷感性、吸湿発熱性、防汚性などを有する機能性化合物の機能を発現させつつ、繊維(特に合成樹脂繊維)に、長期間に亘って機能性化合物を固定化することは困難である。機能性化合物を繊維表面にコーティングしても、機能性化合物は、摩擦や洗浄により繊維表面から剥がれ落ち、やがて機能は消失する。
【0018】
防炎性を繊維に付与する場合、繊維の質量の15%以上もしくは20%以上の機能性化合物を付与することが望ましいが、そのような質量の機能性化合物を安定的に繊維表面に固定化することは、一般的には困難を伴う。一方、抗菌性や抗ウイルス性を繊維に付与する場合、繊維の質量の例えば0.2%以上5%以下の機能性化合物を付与すれば十分であるが、そのような質量の機能性化合物は、比較的短期間で消失し得る。
【0019】
長期間に亘って、機能性化合物の機能を発現させるためには、機能性化合物を分子レベルで繊維に固定化することが必要である。換言すれば、機能性化合物の分子を繊維の内部にまで導入し、繊維に機能性化合物の分子の少なくとも一部を埋設することが必要である。
【0020】
しかし、繊維の内部に、機能性化合物のほとんどが埋め込まれてしまうと、機能性化合物は、撥水性、親水性、防炎性、抗菌性、抗ウイルス性、接触冷感性、吸湿発熱性、防汚性などの機能を存分に発現することができない。
【0021】
一方、機能性化合物の機能を発現する部分を繊維の外部に露出させつつ、機能性化合物の一部を繊維の内部に強固に固定することができれば、機能性化合物は、長期間に亘って繊維表面から剥がれ落ちず、かつ繊維の外部に露出する部分は、その機能を存分に発揮することが可能である。そのモデルは、土壌に根を張る植物に例えることができる。
【0022】
すなわち、繊維の内部に強固に固定化され得るアンカー部位と、繊維の外部に露出して所望の機能を発現する機能性部位を有する機能性化合物を設計し、そのような機能性化合物のアンカー部位を選択的に繊維の内部に埋め込むことができれば、長期間に亘って繊維に所望の機能を付与することができるようになる。
【0023】
本開示は、そのような機能性化合物の分子設計と、機能性化合物と繊維を分散させた超臨界流体(主に超臨界二酸化炭素(scCO2))中における、機能性化合物と繊維との複合化メカニズムの分析結果を基礎として成されたものである。
【0024】
また、超臨界流体中において、機能性化合物のアンカー部位を選択的に繊維の内部に埋め込むためには、アンカー部位と機能性部位とが異なる性質を有することが重要である。アンカー部位は繊維との親和性が高いほど望ましく、機能性部位は繊維との親和性が低いほど望ましい。例えば、繊維が疎水性であればアンカー部位も疎水性であり、撥水加工剤を除き機能性部位は親水性であることが望ましい。
【0025】
また、アンカー部位は、アンカー効果を発現しやすいように、平面的もしくは立体的に空間占有率の大きい分子構造を有することが好ましい。
【0026】
更に、アンカー部位と機能性部位とが異なる性質を有する場合でも、分子内におけるアンカー部位と機能性部位との距離が近いほど、アンカー部位は繊維の内部に導入されにくくなり、機能性化合物を繊維に固定化することが困難になり得る。あるいは、機能性部位がアンカー部位とともに繊維の内部に取り込まれ、機能を発現できなくなる。従って、アンカー部位自身もしくは機能性部位自身の分子サイズや、アンカー部位と機能性部位とを連結する連結基の分子鎖の長さも、機能性化合物と繊維との複合化の進行度合いに対する重要な因子となり得る。分子鎖が長いほど、アンカー部位は機能性部位の影響を受けにくくなり、親和性を有する繊維の内部に取り込まれやすくなる。そして、連結基が繊維との親和性を有することで、アンカー部位は更に機能性部位の影響から大きく開放されて繊維の内部に導入されやすくなる。
【0027】
本開示は、以上のような分子設計に基づいて、超臨界流体を利用して様々な機能を繊維に付与する技術に関する。以下では、超臨界流体として主に超臨界二酸化炭素(scCO2)を用いる場合を例にとって説明する。ただし超臨界流体は特に限定されず、scCO2以外の超臨界流体を用いてもよい。
【0028】
繊維に付与される機能とは、例えば、撥水性、親水性、防炎性、抗菌性、抗ウイルス性、接触冷感性、吸湿発熱性、防汚性などが挙げられる。所望の機能は、撥水化剤、親水化剤、防炎剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、接触冷感剤、吸湿発熱剤、防汚加工剤などの機能性化合物により付与される。
【0029】
繊維の形態は、特に限定されず、例えば、糸、織物、編物、織布、不織布などであってもよい。
【0030】
繊維の多くは光透過性(透明性)を有するため、染色を目的とする色素化合物などは、必ずしも繊維外部に存在する必要がない。一方、外部との接触を前提に機能を発現する機能性化合物は、繊維外部に露出している必要がある。例えば繊維内部に完全に取り込まれた抗菌剤は、もはや抗菌性を発現し得ない。
【0031】
できるだけ効果的に機能を発現させるためには、機能性化合物を繊維内部に満遍なく分布させるのではなく、機能性化合物をできるだけ繊維の表面近傍に偏在させて外部に露出させる必要がある。そうすることで、機能性化合物を無駄にせず、有効利用することも可能である。
【0032】
一方、所望の機能を長期間維持させるためには、機能性化合物の分子の一部が繊維内部に取り込まれる必要がある。そのためには、機能性化合物の分子の一部だけが繊維内部に取り込まれ、所望の機能を発現する部位が繊維外部に露出するように、機能性化合物の分子構造を設計する必要がある。
【0033】
具体的には、本開示に係る機能性繊維(以下、「機能性繊維(F)」とも称する。)は、繊維と、繊維に一部の部位が導入された機能性化合物と、を含む。機能性化合物は、アンカー部位と、アンカー部位と直接的または間接的に結合する機能性部位と、を有する。アンカー部位は、繊維内部に導入される部位である。一方、機能性部位は、繊維から外側に突出(もしくは露出)する部位である。
【0034】
アンカー部位は、重量平均分子量Mw(以下、単に「分子量Mw」とも称する。)が1000~20000の高分子鎖であってもよく、分子量60以上、更には120以上の複素環式化合物基または芳香族化合物基であってもよい。高分子鎖は分子量Mwが十分に大きいため、高分子鎖をアンカー部位とすることで機能性化合物が強固に繊維に固定化される。よって、機能性化合物が繊維から脱離する現象が顕著に低減される。大きな分子量を有する複素環式化合物基または芳香族化合物基(例えば、ナフチル基以上の多環式芳香族化合物)がアンカー部位である場合も、機能性化合物が強固に繊維に固定化される。
【0035】
通常、高分子鎖を繊維(特に疎水性繊維)の内部に注入することは困難である。しかし、超臨界二酸化炭素などの超臨界流体を媒体に用いることで、疎水性繊維であっても、その多くが大きく膨潤し、高分子鎖が繊維の材料内に注入され得るようになる。アンカー部位もしくは高分子鎖が繊維に対して高い親和性を有する場合、そのような注入は促進される。高分子鎖のアンカー部位が繊維内に導入された機能性化合物は、超臨界状態を解除した場合でも、洗濯などで脱離することはない。
【0036】
一方、機能性部位は、繊維の表面から外側に突出もしくは露出するように、繊維に対して低い親和性を有するように設計することが望ましい。例えば、繊維が疎水性繊維である場合、機能性部位は親水性部位であることが望ましい。
【0037】
アンカー部位となる高分子鎖における炭素原子、水素原子およびハロゲン原子の合計割合(Rcx)が、例えば、20質量%以上、更には70質量%以上(例えば100%)であってもよい。このような高分子鎖は疎水性が高く、繊維が疎水性繊維である場合に機能性化合物を繊維に固定化しやすくなる。
【0038】
一方、機能性部位における炭素原子、水素原子およびハロゲン原子の合計割合(Rcx)は、アンカー部位の高分子鎖におけるRcxより小さくてもよく、例えば、50質量%以下もしくは20質量%未満であってもよい。このような高分子鎖は親水性が高く、繊維が疎水性繊維である場合に親水性を繊維に付与するのに適している。機能性部位におけるRcxとアンカー部位の高分子鎖におけるRcxとの差は10質量%以上でもよく、20質量%以上でもよく、30質量%以上でもよい。
【0039】
なお、機能性化合物の構造式が特定でき、構造式からアンカー部位と機能性部位とを明確に分類できる場合には、現実に繊維内に導入されている部位にかかわらず、構造式から各部位の分子量Mw、割合Rcxを算出すればよい。例えば、実際には、アンカー部位と分類された部位の一部が繊維内に導入されていない場合でも、構造式からアンカー部位と分類された部位はアンカー部位と見なす。また、例えば、実際には、機能性部位と分類された部位の一部が繊維内に導入されてアンカー部位として機能している場合でも、構造式から機能性部位と分類された部位は機能性部位と見なす。
【0040】
機能性部位のアンカー部位側の末端とアンカー部位との間には、エステル結合、アミド結合またはカルボニル基などを介した連結基を導入するのが望ましい。アンカー部位と機能性部位は、性質が大きく異なるため、連結基は両者が干渉しあうことを避ける役割を果たす。アンカー部位は、相対的に機能性部位よりも繊維に対する親和性が高い部位である。また、アンカー部位は、相対的に機能性部位よりも超臨界流体に対する相溶性が高い部位である。そのような機能性化合物は、アンカー部位の前駆体と機能性部位の前駆体とのエステル化反応、アミド化反応等を利用することで容易に生成させることができる。例えば、アンカー部位の前駆体と機能性部位の前駆体の一方が末端水酸基を有し、他方が末端カルボキシル基を有する場合、慣用的な方法によりエステル化反応を進行させることができる。
【0041】
連結基がない場合、機能性部位のアンカー部位側の末端にエステル結合、アミド結合もしくはカルボニル基が結合している場合、構造式における当該エステル結合、アミド結合もしくはカルボニル基を機能性部位の一部と見なしてもよく、アンカー部の一部と見なしてもよい。
【0042】
アンカー部位が繊維内部に導入された状態とは、アンカー部位が繊維内部に取り込まれた状態、もしくはアンカー部位が繊維内部に埋め込まれた状態でもよい。これにより、アンカー部位が繊維と少なくとも物理的に結合する。アンカー部位の繊維内部への導入は、繊維とアンカー部位との化学反応を伴ってもよい。換言すれば、アンカー部位は繊維と化学的に結合していてもよい。
【0043】
また、本開示に係る機能性化合物(以下、「機能性化合物(FC)」)は、機能性繊維(F)を形成し得る分子構造を有し、繊維に機能を付与する。機能性化合物(FC)は、繊維内に導入されるアンカー部位と、繊維から突出する機能性部位とを有する。
【0044】
アンカー部位が繊維内部に導入されることで、機能性化合物(FC)が繊維に強固に固定され、摩擦、洗濯などによって機能性化合物(FC)が繊維から除去されることが抑制され、長期に亘り、機能を発揮させことができる。また、機能性部位が外側に突出もしくは露出していることで機能性部位の機能が効果的に発揮される。
【0045】
異なる性質を有する2つの部位が機能性化合物内の一分子内に存在する場合、一方の部位の繊維に対する親和性が相対的に大きく、他方の部位の繊維に対する親和性が相対的に小さくなる。繊維に対する親和性が相対的に高い方が繊維内部に導入され、アンカー部位になる。繊維に対する親和性が相対的に低い方は、繊維から露出する。繊維から露出する部位は、分子構造に応じて何れか機能を発現する機能性部位になる。
【0046】
アンカー部位および機能性部位の繊維に対する親和性は、例えば、繊維の親水性、疎水性、極性、非極性などの少なくとも1つに依存する。例えば、繊維が疎水性であれば、アンカー部位は疎水性であることが望ましい。その場合、機能性部位は親水性であってもよい。また、繊維が親水性であれば、アンカー部位は親水性であることが望ましい。その場合、機能性部位は疎水性であってもよく、撥水性を有してもよい。
【0047】
アンカー部位と機能性部位とは、直接的または間接的に結合している。直接的結合とは、例えば、アンカー部位の前駆体と機能性部位の前駆体とが反応して形成される結合であり得る。例えば、アンカー部位の前駆体および機能性部位の前駆体の一方および他方がカルボキシル基および水酸基であり、カルボキシル基と水酸基とのエステル化反応によりエステル結合が形成される場合、そのエステル結合は直接的結合に分類される。
【0048】
間接的結合とは、例えば、2つの反応性基を有する連結基の前駆体の一方の反応性基と、アンカー部位の前駆体とが反応し、連結基の前駆体の他方の反応性基と機能性部位の前駆体とが反応して形成される結合であり得る。このとき得られる機能性化合物では、アンカー部位と、機能性部位とが、連結基を介して結合している。アンカー部位と機能性部位とは、繊維の外側に突出する連結基を介して結合していてもよい。アンカー部位と機能性部位とは、構造式から連結基と分類された部位であって、少なくともその一部が繊維の内部に取り込まれた部位を介して結合していてもよい。
【0049】
連結基を介在させることで、アンカー部位の前駆体と機能性部位の前駆体とで性質が顕著に相違する場合でも、両者の反発が抑制され、機能性化合物(FC)を合成することが容易になる。また、連結基によりアンカー部位と機能性部位との距離を離すことで、アンカー部位が繊維の内部に導入されやすくなる。連結基を構成する炭素数は、例えば、3~20もしくは6~20もしくは8~20であってもよい。
【0050】
機能性部位の物理的もしくは立体的な影響をできるだけ除外する観点から、連結基は柔軟な骨格を有することが望ましい。すなわち、連結基は、いわゆるソフトセグメントであることが望ましい。機能性部位がその機能を十分に発揮するためには、機能性部位の(再)配列や運動が重要な役割を演ずることがある。例えば、抗ウイルス剤で抗ウイルス加工する場合、機能性部位が運動できるように自由度を高くすることで効果が高くなる。また、撥水化剤で撥水性を付与する場合などには、機能性部位を結晶化させることで効果が高くなる。柔軟なソフトセグメントの連結基でアンカー部位と機能性部位とを連結することで、これらの効果が高められやすい。一方、アンカー部位と機能性部位とが相互の運動を規制するように窮屈に連結されてしまうと、機能性部位の(再)配列や結晶化が妨げられる。
【0051】
ソフトセグメントとしては、典型的には、アルキレン基、オキシアルキレン基、ポリオキシアルキレン基(ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基など)、ポリエーテル基などであり得る。これらの基は、セグメントの途中に、エステル結合、アミド結合などの結合を有してもよいが、連結基に疎水性を付与したい場合には、そのような結合は2つ以下が好ましく、1つ以下がより好ましい。ソフトセグメントの炭素数は、例えば、3~20もしくは6~20もしくは8~20であってもよい。ソフトセグメントの分子量は、50以上でもよい。
【0052】
なお、機能性化合物の構造式が特定でき、構造式からアンカー部位と連結基とを明確に分類できる場合には、現実に繊維内に導入されている部位にかかわらず、構造式から各部位の分子量Mw、割合Rcxを算出すればよい。例えば、実際には、アンカー部位と分類された部位の一部が繊維内に導入されていない場合でも、構造式からアンカー部位と分類された部位はアンカー部位と見なす。また、例えば、実際には、連結基と分類された部位の一部が繊維内に導入されてアンカー部位として機能している場合でも、構造式から連結基と分類された部位は連結基と見なす。
【0053】
機能性化合物が、式:A-(C)n-Fで示され、Aがアンカー部位、Cが連結基、n=0または1、Fが機能性部位とするとき、連結基(C)は、炭素数6以上20以下のポリアルキレン基、炭素数6以上20以下のポリオキシアルキレン基、-R1-COO-R2-基(R1、R2はそれぞれ独立に炭素数2以上15以下のアルキレン基)または-R3-CONH-R4-基(R3、R4はそれぞれ独立に炭素数2以上15以下のアルキレン基)であってもよい。AはLまたはFに結合するエーテル結合、エステル結合またはアミド結合を有してもよい。ただし、そのようなエーテル結合、エステル結合またはアミド結合は、LまたはFの一部と見なしてもよい。結合がA、L、Fのいずれの部位に含まれるかは特に問題ではない。Fは、リン酸基、リン酸誘導体基または4級アンモニウム基であってもよい。
【0054】
アンカー部位と機能性部位の性質の相違は、溶解度パラメータを用いて評価してもよい。溶解度パラメータを利用すれば、アンカー部位と繊維との親和性および機能性部位と繊維との親和性を定量的に判定することができる。繊維の25℃におけるハンセン溶解度パラメータHSPfとの差が小さい部位ほど、繊維との親和性が高い。ただし、アンカー部位と機能性部位の性質の相違があまりに小さい場合には、機能性化合物の全体が繊維に万遍なく取り込まれたり、機能性化合物を繊維に固定化できなかったりすることがある。
【0055】
例えば、アンカー部位に対応する化合物の25℃におけるハンセン溶解度パラメータHSP1と、機能性部位に対応する化合物の25℃におけるハンセン溶解度パラメータHSP2との差:ΔHSP(=HSP1-HSP2)は、4MPa0.5以上8MPa0.5以下であってもよい。
【0056】
機能性化合物を式:A-(C)n-Fで示し、Aをアンカー部位、Lを連結基、n=0または1、Fを機能性部位とするとき、アンカー部位のハンセン溶解度パラメータHSP1は、Aに「-(C)n-F」の代わりに水素原子(H)が結合した化合物(A-H)のハンセン溶解度パラメータと同等と見なしてよい。また、機能性部位のハンセン溶解度パラメータHSP2は、Fに「A-(C)n-」の代わりに水素原子(H)が結合した化合物(H-F)のハンセン溶解度パラメータと同等と見なしてよい。
【0057】
アンカー部位は、機能性部位に比較して、使用する超臨界流体(例えば、scCO2)に対する相溶性が高いことが望ましい。アンカー部位の超臨界流体に対する相溶性が高いほど、アンカー部位が繊維内部に導入されやすい。
【0058】
以下、繊維と好ましいアンカー基との組み合わせを複数例示する。
(i)繊維が合成樹脂繊維である場合、アンカー部位は、疎水性基を含むことが望ましい。合成樹脂繊維は疎水性であることが多いためである。疎水性の合成樹脂繊維としては、例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレートなど)、ポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレンなど)、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、アラミドなど)、ポリアクリル系繊維、フッ素ポリマーなどが挙げられる。疎水性合成樹脂繊維に対するアンカー部位の疎水性基としては、例えば、炭素数3以上(例えば炭素数3~30)の直鎖および分岐した炭化水素基が望ましい。そのような炭化水素基として、例えば直鎖または分岐状のアルキル基、直鎖または分岐状のアルケニル基、直鎖または分岐状の脂環式炭化水素基、ビフェニル基などが挙げられる。脂環式炭化水素基の環構造としては、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、ノルボルネン基、ジシクロベンタジエン基などが挙げられる。
【0059】
(ii)繊維がポリプロピレン繊維である場合、アンカー部位は、炭素数3以上(例えば炭素数3~30)の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基、シクロヘキシル基もしくはシクロペンチル基を有する脂環式炭化水素基などが好ましい。
【0060】
(iii)繊維がポリエステル繊維である場合、アンカー部位は、1個以上の芳香環(フェニル基など)もしくは複素環を有し、かつ炭素数3以上(例えば炭素数3~30)の直鎖もしくは分岐状の炭化水素部分を有する基、シクロヘキシル基もしくはシクロペンチル基を有する脂環式炭化水素基などが好ましい。中でも芳香環を有するポリエステル繊維には、より親和性を高めるために、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、複素5員環、複素6員環などの芳香環を有することが望ましい。
【0061】
(iv)繊維が、セルロースまたは蛋白質を主成分とする天然由来の繊維(綿、絹など)である場合、アンカー部位は、繊維に対して共有結合可能な官能基を含む構造を有すればよい。天然由来の繊維は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基などの官能基を有する。繊維が有する官能基と、アンカー部位の前駆体が有する官能基とが反応し、共有結合を形成することで、より強固に機能性化合物を繊維に固定化できる。アンカー部位の前駆体が有する官能基としては、トリアジン環を有する基、ビニルスルホン酸基などが望ましい。トリアジン環を有する基としては、例えば、ジクロロトリアジン環を有する基、モノクロロトリアジン環を有する基などが挙げられる。
【0062】
機能性部位は、例えば、親水性基、撥水性基、防炎作用を有する官能基、抗菌作用を有する官能基および抗ウイルス作用からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有してもよい。機能性部位の骨格には、従来の水系繊維加工剤の分子骨格をそのまま利用してもよい。
【0063】
親水性基としては、ポリエチレングリコール基、ポリプロピレングリコール基などのポリエーテル鎖、グルコース、ガラクトースなどの単糖類残基、スクロース、マンノースなどの二糖類残基、でんぷん、デキストリンなどの多糖類残基、もしくはこれらを任意の組み合わせで連結した化合物基などが挙げられる。
【0064】
撥水性基としては、炭素数を3個以上有する直鎖および分岐した炭化水素基、炭素数を4個以上有する直鎖および分岐したパーフルオロ炭化水素基、水素原子の一部をフッ素で置換した炭素数を3個以上有する直鎖および分岐した炭化水素基などが挙げられる。
【0065】
防炎作用(難燃作用)を有する官能基としては、リン酸基およびその誘導体を含む官能基(リン酸エステル基、ハロゲン化リン酸基など)、ホウ素化合物基などが挙げられる。
【0066】
抗菌作用もしくは抗ウイルス作用を有する基としては、第4級アンモニウム基、第4級アンモニウム基を含む化合物基、銀イオンなどの金属イオンを含む金属錯体を含む化合物基などが挙げられる。
【0067】
図1に、機能性化合物(FC)の例の構造を概念的に示す。
図1(a)は、アンカー部位(A)と機能性部位(F)とが直接的に結合している機能性化合物(FC1)の概念図である。
図1(b)は、アンカー部位(A)と機能性部位(F)とが連結基(C)を介して間接的に結合している機能性化合物(FC2)の概念図である。
【0068】
機能性化合物(FC2)では、アンカー部位(A)と機能性部位(F)とが、ソフトセグメントである連結基(C)を介して連結されているため、アンカー部位(A)と機能性部位(F)とが互いに独立して比較的自由に動くことができる。そのため、超臨界流体に溶解するアンカー部位(A)が比較的容易に(つまり機能性部位(F)の制限をほとんど受けずに)繊維内部に導入される。
【0069】
ただし、アンカー部位(A)と機能性部位(F)の少なくとも一方が、ソフトセグメント部位を有し、その部位で結合している場合には、アンカー部位(A)が機能性部位(F)からの制限をほとんど受けない。そのため、連結基(C)が無い場合でも容易に繊維内部に導入される。
【0070】
アンカー部位が繊維内に導入されていることは、様々な方法で確認することができる。例えば、アンカー部位が窒素原子(N)を含む場合、EDXなどのX線元素分析で、繊維断面でN原子のマッピングを作成することでN原子の分布を確認できる。また、アンカー部位が窒素原子(N)を含まない場合(例えば、アンカー部位がエチレングリコール鎖を有する場合)には、繊維断面をオスミウム酸でステイニングすれば、X線元素分析でエチレングリコール鎖の分布を確認できる。一方、繊維表面から突出する機能性部位の存在は、繊維の表面分析(XPS等)で確認できる。
【0071】
図2に、機能性繊維(F)の例の構造を概念的に示す。
図2(a)は、機能性化合物(FC1)のアンカー部位1が繊維4の内部に取り込まれ、機能性部位2が繊維の外部に露出している機能性繊維(F)の概念図である。
図2(b)は、機能性化合物(FC2)のアンカー部位1が繊維4の内部に取り込まれ、連結基3を介して機能性部位2が繊維の外部に露出している機能性繊維(F)の概念図である。連結基3の少なくとも一部が繊維4の内部に取り込まれ、アンカー部位の一部を形成していてもよい。
【0072】
図3の式(1)には、機能性化合物(FC1)の例のより具体的な構造を示す。nは、例えば5~25の整数であり、mは、例えば3~20の整数である。式(1)で示される機能性化合物(FC1)は、いずれもアンカー部位(A)と機能性部位(F)の両方がソフトセグメントであり、明確な連結基(C)を有さない。ここでは、機能性化合物(FC1)として、高級脂肪酸とポリエチレンオキサイドモノメチルエーテルとのエステル化合物を示したが、構造は特に限定されず、他の類似の構造を有する様々な化合物を用い得る。式(1)の機能性化合物は、例えば、ポリプロピレン繊維に親水性を付与する親水化剤である。炭化水素鎖であるポリエチレン部位は、ポリプロピレン(PP)繊維との親和性が高く、かつ超臨界二酸化炭素(scCO
2)との相溶性にも優れている。
【0073】
図3の式(2-1)および式(2-2)には、機能性化合物(FC2)の例のより具体的な構造を示す。l(エル)は例えば2~10(好ましくは6以上)の整数である。nは、例えば3~20(好ましくは6以上)の整数であり、mは、例えば3~30(好ましくは6以上)の整数である。式(2)で示される機能性化合物(FC2)は、アンカー部位(A)がビシクロ構造を有する脂環式炭化水素であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維との親和性に優れ、scCO
2との相溶性にも優れている。機能性部位(F)はソフトセグメントであり、柔軟な連結基(C)を介してアンカー部位(A)と間接的に結合している。ここでも、機能性化合物(FC2)として、ビシクロ化合物と高級脂肪酸とポリエチレンオキサイドモノメチルエーテルとの化合物を示したが、構造は特に限定されず、他の類似の構造を有する様々な化合物を用い得る。
【0074】
図3の式(3)には、機能性化合物(FC2)の別の例のより具体的な構造を示す。l(エル)は例えば1~5の整数である。nは、例えば3~25(好ましくは6以上)の整数であり、mは、例えば3~20(好ましくは6以上)の整数である。式(3)で示される機能性化合物(FC2)は、アンカー部位(A)がジクロロトリアジン構造を有し、綿のような天然繊維と共有結合し、scCO
2との相溶性にも優れている。ジクロロトリアジン環は、天然繊維もしくはセルロース化合物の水酸基やアミノ基と化学反応するとともに天然繊維の内部に取り込まれる。機能性部位(F)はソフトセグメントであり、柔軟な連結基(C)を介してアンカー部位(A)と間接的に結合している。ここでは、機能性化合物(FC2)として、トリアジン環と高級脂肪酸とポリエチレンオキサイドモノメチルエーテルとの化合物を示したが、構造は特に限定されず、他の類似の構造を有する様々
な化合物を用い得る。また、式(3)のようなFC2では、ジクロロトリアジン構造以外に、スルファートエチルスルフォン構造、モノフロロトリアジン構造、ジフロロモノクロロピリミジン構造、トリクロロピリミジン構造、モノクロロトリアジン構造などのトリアジンもしくはピリミジン構造を用いてもよい。
【0075】
図3の式(4)には、機能性化合物(FC2)の更に別の例のより具体的な構造を示す。nは、例えば3~25(好ましくは6以上)の整数であり、mは、例えば3~20(好ましくは6以上)の整数である。式(4)で示される機能性化合物(FC2)は、アンカー部位(A)がナフタレン構造を有し、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維のようなポリエステル繊維との親和性に優れ、scCO
2との相溶性にも優れている。機能性部位(F)は、リン酸基およびその誘導体を含む化合物基、ホウ素化合物基、第4級アンモニウム基、第4級アンモニウム基を含む化合物基、金属錯体を含む化合物基などである。機能性部位(F)は、柔軟な連結基(C)を介してアンカー部位(A)と間接的に結合している。連結基(C)は、結合L1を介して、結合L2を含むソフトセグメントと結合している。結合L1および結合L2は、それぞれ独立にエステル結合、アミド結合などであり得る。ナフタレン構造の代わりに、他の多環式芳香族化合物や複素環式化合物基をアンカー部位(A)に用いてもよい。
【0076】
具体的には、本開示に係る機能性化合物は、例えば、以下の態様を含む。
(1)アンカー部位(A)が炭素数6以上20以下のアルキル基であり、連結基(C)が炭素数6以上20以下のアルキレン基であり、機能性部位(F)が炭素数6以上20以下のポリオキシアルキル基である機能性化合物。
【0077】
(2)アンカー部位(A)が1つ以上の芳香環(好ましくは2つ以上の芳香環)を含む芳香族化合物基であり、連結基(C)が炭素数6以上20以下のアルキレン基であり、機能性部位(F)が炭素数6以上20以下のポリオキシアルキル基である機能性化合物。
【0078】
(3)アンカー部位(A)が1つ以上の芳香環(好ましくは2つ以上の芳香環)を含む芳香族化合物基であり、連結基(C)が炭素数6以上20以下のアルキレン基であり、機能性部位(F)がリン酸エステル基、リン酸基等である難燃性の、もしくは、機能性部位(F)が第4級アンモニウム基、アミノエステル基等である抗菌性の、もしくは、機能性部位(F)がカルボキシル基、水酸基等である親水性の機能性化合物。
【0079】
(4)アンカー部位(A)が多環芳香族化合物基(ナフタレン骨格、アントラセン骨格などを含む化合物)であり、連結基(C)が炭素数6以上20以下のアルキレン基であり、機能性部位(F)がリン酸エステル基、リン酸基等である難燃性の、もしくは、機能性部位(F)が第4級アンモニウム基、アミノエステル基等である抗菌性の、もしくは、機能性部位(F)がカルボキシル基、水酸基等である親水性の機能性化合物。
【0080】
上記各態様において、連結基(C)は、炭素数6以上20以下のアルキレン基の代わりに、炭素数3以上15以下のポリオキシアルキレン基であってもよく、炭素数3以上10以下のアルキレン基と炭素数2以上10以下のポリオキ・BR>Vアルキレン基との結合体であってもよい。
【0081】
連結基(C)はエステル結合、アミド結合などの結合を介して結合した2以上の分子鎖(例えば、既述のアルキレン基、ポリオキシアルキレン基など)有してもよい。
【0082】
連結基(C)とアンカー部位(A)は、エステル結合、アミド結合などの結合を介して結合しいてもよい。その場合、結合は、連結基(C)とアンカー部位(A)のいずれに属するものと解釈してもよい。
【0083】
連結基(C)と機能性部位(F)は、エステル結合、アミド結合などの結合を介して結合しいてもよい。その場合、結合は、連結基(C)と機能性部位(F)のいずれに属するものと解釈してもよい。
【0084】
本開示に係る機能性繊維の製造方法では、媒体として用いる超臨界流体(特にscCO2)による有機化合物の溶解性や、疎水性高分子への膨潤性と高い浸透性を利用する。超臨界流体に有機化合物である機能性化合物を適度に溶解させ、CO2で膨潤した高分子である繊維内に注入する。その後、CO2を常圧に戻すことで繊維が元の状態に収縮して繊維に機能性化合物が固定化される。機能性繊維(F)の製造は、例えば、scCO2を用いて合成繊維を染色する公知の染色法に準じて行うことができる。すなわち、染料の代わりに機能性化合物(FC)を用いること以外、公知の染色法(特許文献1参照)と同様に機能性繊維(F)を製造することができる。
【0085】
具体的には、機能性繊維(F)を製造方法は、例えば、繊維を機能性化合物とともに超臨界流体と接触させる工程と、機能性化合物のアンカー部位を、超臨界流体に溶解させる工程と、繊維を前記超臨界流体で膨潤させる工程と、超臨界流体に溶解したアンカー部位を超臨界流体で膨潤した繊維に導入し、機能性部位を繊維の外側に突出させる工程と、を具備する。その後、繊維を元の状態に収縮させると、繊維に機能性化合物が固定化される。超臨界流体として、例えば、超臨界二酸化炭素を用いてもよい。超臨界二酸化炭素は、例えば、80℃以上130℃以下の温度と、10MPa以上30MPa以下の圧力を有する。ここで工程として示したものは、要素工程として示したものであり、同一処理内、同一装置内で複数の要素工程を実施することを排除するものではない。
【0086】
機能性繊維を製造するための装置の一例を
図4に示す。装置200は、液体二酸化炭素ボンベ201、フィルタ202、冷却ジャケット203、高圧ポンプ204、予熱器205、圧力ゲージ206~208、磁気駆動部209、DCモータ210、安全弁211、212、冷却器213、停止弁214~218、ニードル弁219、加熱器220から構成される。機能性化合物(FC)を付与する対象となる繊維は、図示例では、シリンダ221に巻き付けられ、高圧ステンレススチール槽222内に収容される。機能性化合物(FC)223は、紙ワイプ等で包まれた状態で、槽222内のシリンダ221の上方の流体通路に置かれている。このような装置は、機能性繊維を製造する装置の一例に過ぎず、適宜変更を加えてもよい。
【0087】
槽222の弁を閉じ、槽222内を加熱して温度を120℃程度に保持し、ポンプ204から液体二酸化炭を、冷却ジャケット203を介して槽222内に流入させる。二酸化炭素流体は、槽222の底部に取り付けたステンレススチール製のインペラ224と磁気駆動部209によって循環される。流体はシリンダ221の内側から外側に向かって流れて循環される。温度、圧力がある一定の値(例えば、120℃、25MPa)に達した後、例えば60分間程度維持すれば、繊維に機能性化合物を付与することができ、機能性繊維が得られる。
【0088】
以上のように、本開示は、少なくとも以下の態様を包含する。
(1)繊維と、前記繊維に一部の部位が導入された機能性化合物と、を含み、
前記機能性化合物は、アンカー部位と、前記アンカー部位と直接的または間接的に結合する機能性部位とを有し、
前記アンカー部位の少なくとも一部が、前記繊維内に導入され、前記機能性部位の少なくとも一部が、前記繊維の外側に突出している、機能性繊維。
【0089】
(2)前記アンカー部位は、重量平均分子量Mwが1000~20000の高分子鎖または分子量60以上の複素環式化合物基または芳香族化合物基である、上記(1)に記載の機能性繊維。
【0090】
(3)前記高分子鎖における炭素原子、水素原子およびハロゲン原子の合計割合:Rcxが、20質量%以上、更には70質量%以上(例えば100%)である、上記(2)に記載の機能性繊維。
【0091】
(4)前記機能性部位の前記アンカー部位側の末端にエステル結合、アミド結合またはカルボニル基が結合している、上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の機能性繊維。
【0092】
(5)前記アンカー部位と、前記機能性部位とは、少なくとも一部が前記繊維の外側に突出する連結基を介して結合している、上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の機能性繊維。
【0093】
(6)前記連結基の炭素数は、3以上20以下または6以上20以下である、上記(5)に記載の機能性繊維。
【0094】
(7)前記機能性化合物が、式:A-(C)n-Fで示され、
Aがアンカー部位、Lが連結基、n=0または1、Fが機能性部位とするとき、
前記連結基は、炭素数6以上20以下のポリアルキレン基、炭素数6以上20以下のポリオキシアルキレン基、-R1-COO-R2-基(R1、R2はそれぞれ独立に炭素数3以上15以下のアルキレン基)または-R3-CONH-R4-基(R3、R4はそれぞれ独立に炭素数3以上15以下のアルキレン基)であり、
Aは、LまたはFに結合するエーテル結合、エステル結合またはアミド結合を有してもよい、上記(5)または(6)に記載の機能性繊維。
【0095】
(8)Fが、リン酸基、リン酸誘導体基または4級アンモニウム基である、上記(7)に記載の機能性繊維。
【0096】
(9)前記繊維は、合成樹脂繊維であり、
前記アンカー部位は、疎水性基を含む、上記(1)~(8)のいずれか1つに記載の機能性繊維。
【0097】
(10)前記繊維は、ポリエステル繊維である、上記(1)~(9)のいずれか1つに記載の機能性繊維。
【0098】
(11)前記繊維は、セルロースまたは蛋白質を主成分とする天然由来の繊維であり、
前記アンカー部位は、前記繊維に対して共有結合可能な官能基を含む、上記(1)~(10)のいずれか1つに記載の機能性繊維。
【0099】
(12)前記機能性部位は、親水性基、撥水性基、防炎作用を有する官能基および抗菌または抗ウイルス作用を有する官能基からなる群より選択される少なくとも一種を含む、上記(1)~(11)のいずれか1つに記載の機能性繊維。
【0100】
(13)前記アンカー部位に対応する化合物の25℃におけるハンセン溶解度パラメータHSP1と、前記機能性部位に対応する化合物の25℃におけるハンセン溶解度パラメータHSP2との差:ΔHSP(=HSP1-HSP2)は、4MPa0.5以上8MPa0.5以下である、上記(1)~(12)のいずれか1つに記載の機能性繊維。
【0101】
(14)前記繊維が、糸、織物、編物、織布および不織布からなる群より選択される少なくとも1つの繊維布帛を構成している、上記(1)~(13)のいずれか1つに記載の機能性繊維。
【0102】
(15)上記(1)~(14)のいずれか1つに記載の機能性繊維を含む、繊維布帛。
【0103】
(16)繊維に機能性を付与するための機能性化合物であって、
前記化合物は、前記繊維内に少なくとも一部が導入されるアンカー部位と、前記繊維から少なくとも一部が突出する機能性部位とを有し、
前記機能性部位は、前記アンカー部位と直接的または間接的に結合する、機能性化合物。
【0104】
(17)繊維を上記(13)に記載の機能性化合物(すなわち、上記(1)に記載の機能性化合物)とともに超臨界流体と接触させる工程と、
前記アンカー部位を、前記超臨界流体に溶解させる工程と、
前記繊維を前記超臨界流体で膨潤させる工程と、
前記超臨界流体に溶解した前記アンカー部位の少なくとも一部を前記超臨界流体で膨潤した前記繊維に導入し、前記機能性部位の少なくとも一部を前記繊維の外側に突出させる工程と、
を具備する、機能性繊維の製造方法。
【0105】
(18)前記超臨界流体が、温度80℃~130℃、圧力10MPa~30MPaの超臨界二酸化炭素である、上記(17)に記載の機能性繊維の製造方法。
【0106】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例(cont.)に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0107】
《実施例1》
繊維布帛として株式会社色染社から購入したポリエチレンテレフタレート(PET)布帛とポリプロピレン(PP)布帛(PP No.1)および三菱ケミカル株式会社製のPPニット(PP No.2)をそのまま使用した。
【0108】
機能性化合物(FC)として親水化剤である大原パラヂウム株式会社製の脂肪酸とポリエチレングリコールとの縮合物(
図3の式(1))を用いた。アンカー部位となるアルキル鎖の炭素数はC18、C22のいずれかであり、機能性部位であるポリエチレングリコール(PEG)鎖の分子量Mwは1000または2000である。
【0109】
図4に示す装置(容量300mLの「耐圧硝子株式会社製のTAS-3型」)を用いて、超臨界染色に準じて、染料の代わりに上記親水化剤を機能性部位とした機能性化合物FCを用い、媒体としてscCO
2を用いて繊維布帛を親水化処理(機能化処理)した。
【0110】
処理後の繊維布帛(機能性繊維)の親水化の程度を水との接触角により評価した。結果を表1に示す。接触角は、水2μLを繊維布帛に滴下30秒後に測定した。表1の値は、5箇所(1箇所につき左右測定)での測定値の平均値である。
【0111】
また、繊維布帛をFT-IRおよびXPS法により分析し、機能性化合物(FC)の注入状態を考察した。入手したPP織物について、予めFT-IR分析およびXPS分析したところ、C元素に対し、7%~10%のO元素が確認された。観察された酸素は、マレイン酸等の変性剤か、繊維に練り込まれた他の化合物に由来すると考えられる。scCO2によるブランク処理では、この値は変化しなかったことから、繊維に化学的に結合されているものと判断した。
【0112】
次に、親水化処理した繊維布帛の機能性化合物の注入量を考察した。注入量は、親水化処理の前後における繊維布帛の質量差から計算した。PP No.1およびPP No.2の両者について、大きな差はなかったので、ここではPP No.1の結果のみ、アルキル鎖とPEG鎖との組み合わせとともに表1に示す。
【0113】
【0114】
親水化処理を行わないブランク(Cont.)の繊維布帛では接触角は130.7°と大きく、撥水性であることが明確である。PEG1、PEG3では接触角が減少している。さらにPEG2では繊維内への親水化剤の取り込みが大きく、水滴は瞬時に繊維布帛に浸透し、高度に親水化されていることが明らかとなった。また、機能性部位であるポリエチレングリコール(PEG)鎖の分子量Mwが1000の場合、アンカー部位となるアルキル鎖の炭素数がC18の場合に比べてC22の場合の方が、機能性化合物の注入量が多くなることが理解できる。これはC22のアンカー部位がより有効に作用していることを示している。また、機能性部位であるポリエチレングリコール(PEG)鎖は、分子量Mwが大きくなるに従い、次第に疎水性を呈するようになることが知られている。分子量Mw2000の場合、機能性部位の疎水性が増加したため、ブランク(Cont.)に対する親水化の程度が小さくなったものと推測される。
【0115】
《実施例2》
難燃作用を有する機能性化合物(FC)として、アンカー部位(A)にナフチル基、機能性部位(F)にリン酸基、連結基(L)に-C3H6-CONH-C2H4-基を有し、AはLに結合するエステル結合を有するナフトール誘導リン酸化合物を用いた。
【0116】
ポリエステル織物(ポリエステルトロピカル(帝人株式会社製))5gと、機能性化合物(ナフトール誘導リン酸化合物)1gと、scCO2の共溶媒としてのベンジルアルコール(富士フイルム和光純薬株式会社製の試薬特級)2.7g(scCO2に対し約0.5モル%相当の質量)を、容量400mLの超臨界流体染色・加工試験装置(株式会社アイテック製の型式C-04-M-FU)の処理容器に投入した。処理容器を密閉したのち、容器内に液体二酸化炭素を注入しながら加熱し、温度120℃、圧力25MPaのscCO2雰囲気内で2時間処理した。その結果、ポリエステル織物の質量が4%増加し、ナフトール誘導リン酸化合物の吸着が確認された。処理されたポリエステル織物の難燃性を消防法の防炎性試験45°コイル法にて評価し、難燃性を確認した。なお、本実施例では連結基が短く、かつアミド結合を含むため、ポリエステル織物の質量の増加は4%であったが、連結基の炭素数をより大きく(例えばメチレン基(-CH2-)炭素数を8以上に大きく)することで、質量の増加率は更に増大すると予測される。
【0117】
ナフトール誘導リン酸化合物は、以下の方法で合成した。合成スキームを以下に示す。
【0118】
【0119】
上記合成スキームについて説明すると、1-ナフトール(1)(7.2 g、M=144.17、5mmol)とKOH(2.8g、M=56.11、5mmol)を水50 mLに溶解させ(完全には溶解しない)、氷で冷却し、0℃にした。得られた液に無水グルタル酸(2)(5.7g、M=114.10、5mmol)を加え、30分間、0℃で攪拌し、その後、エーテル200mLと水200mLを加えて分液した。水層に3MのHClを50mL加え、酸性であることを確認した後、クロロホルム150mLで分液した。クロロホルム層にNa2SO4を加えて乾燥し、濾過して、エバポレータでクロロホルムを除去し、固体であるカルボン酸(3)を71%(M=258.27、9.2g、3.56mmol)の収率で得た。
【0120】
次に、カルボン酸(3)(4.13g、M=258.27、1.6mmol)を無水ジクロロメタン150mLに溶解させ、氷で冷却し、0℃にした。得られた液に、エチレンジクリライド(EDC)(3.68g、M=191.7、1.2eq.x1.6mmol(1.92( mmol))とジメチルアミノピリジン(DMAP)(0.586g、M=122.17、0.3eq.x1.6mmol(0.48mmol))を加えた後、アミン(4)(2.257g、M=141.06、1.6mmol)を加え、15時間、室温で攪拌した。得られた液に200mLの0.5MのHClと200mLのクロロホルムを加えて、分液した。このとき、水層が酸性であることを確認した。その水層にクロロホルム100mLを加えて、分液した。この操作を2回繰り返し、クロロホルム層を合わせた。このクロロホルム層に、飽和食塩水200mLを加えて、分液した。この水層にクロロホルム50mLを加えて、分液した。この操作を2回繰り返し、クロロホルム層を合わせた。クロロホルム層にNa2SO4を加えて乾燥し、濾過して、エバポレータでクロロホルムを除去し、粘性の液体であるナフトール誘導リン酸化合物を91%(M=38.32、5.55g、1.44mmol)の収率で得た。
【0121】
《実施例3》
実施例2と同じポリエステル織物を20gと、機能性化合物(ナフトール誘導4級アンモニウム化合物)5gと、scCO2の共溶媒としての水2.7g(scCO2に対し約3モル%相当の質量)を、実施例1と同じ装置の処理容器に投入した。処理容器を密閉したのち、容器内に液体二酸化炭素を注入しながら加熱し、温度120℃、圧力25MPaのscCO2雰囲気内で2時間処理した。その結果、ポリエステル織物の質量が0.5%増加し、ナフトール誘導4級アンモニウム化合物の吸着が確認された。処理されたポリエステル織物の抗菌性をJIS L 1902:2015に準拠した試験方法(菌液吸収法(試験菌種:黄色ブドウ球菌))にて評価したところ、抗菌性は1.2(洗濯10回後は1.0)の結果を得た。合格基準は2.1であるが、抗菌性が確認できたことに加え、洗濯10回後における抗菌性の低下は僅かであり、機能性化合物のアンカー部位が繊維に埋設されていることを確認することができた。本実施例でも、連結基が比較的短く、かつアミド結合を含むため、ポリエステル織物の質量の増加は0.5%であったが、連結基の炭素数をより大きく(例えばメチレン基(-CH2-)炭素数を8以上に大きく)することで、質量の増加率は更に増大すると予測される。
【0122】
ナフトール誘導4級アンモニウム化合物は、以下の方法で合成した。合成スキームを以下に示す。
【0123】
【0124】
カルボン酸(3)(4.13g、M=258.27、1.6mmol)を無水ジクロロメタン150mLに溶解させ、氷で冷却し、0℃にした。得られた液に、EDC(3.68g、M=191.7、1.2eq.x1.6mmol(1.92mmol))とDMAP(0.586g、M=122.17、0.3eq.x1.6mmol(0.48 mmol))を加えた後、アミン(6)(4.153g、M=216.33、1.2eq.x1.6mmol(1.92mmol))を無水ジクロロメタン50mLに溶解させて加え、15時間、室温で攪拌した。100mLの0.5MのHClと100mLのクロロホルムを加えて、分液した。このとき、水層が酸性であることを確認した。水層にクロロホルム50mLを加えて、分液した。この操作を2回繰り返し、クロロホルム層を合わせた。このクロロホルム層に、0.5MのNaOHを100mL加えて、分液した。このとき、水層が塩基性であることを確認した。その水層にクロロホルム50mLを加えて、分液した。この操作を2回繰り返し、クロロホルム層を合わせた。そのクロロホルム層に、水100mLを加えて、分液した。水層にクロロホルム50mLを加えて、分液した。この操作を2回繰り返し、クロロホルム層を合わせた。クロロホルム層にNa2SO4を加えて乾燥し、濾過して、エバポレータにてクロロホルムを除去し、固体であるアミド(7)を96%(M=456.58、7.0g、1.54mmol)の収率で得た。
【0125】
アミド(7)(7.2g、M=456.58、7.0g、1.58mmol)に無水ジクロロメタン100mLとトリフルオロ酢酸10mLを加えて、室温で2時間攪拌した。TLCで原料の消失を確認して、ドライヤーを使用し、ドラフト内で溶媒を除去した。そこに、アセトニトリル150mLを加えて溶解させ、K2CO3(15.29g、M=138.21、7eq. x1.58mmo(11.6mmol))とCH3I(16.47g(7.22 mL、d=2.28)、M=141.94、7eq.x1.58mmol(11.6mmol))を加えて、50℃で23時間攪拌する。150mLの水と150mLのクロロホルムを加えて、分液した。水層にクロロホルム50mLを加えて、分液した。この操作を2回繰り返し、クロロホルム層を合わせた。クロロホルム層にNa2SO4を加えて乾燥し、濾過して、エバポレータでクロロホルムを除去し、粘性の液体であるナフトール誘導4級アンモニウム化合物(8)を90%(M=526.46、7.5g、1.42mmol)の収率で得た。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本開示は、繊維に、様々な機能を付与する場合に適用できる。
【符号の説明】
【0127】
1 アンカー部位
2 機能性部位
3 連結基
4 繊維
200 装置
201 液体二酸化炭素ボンベ
202 フィルタ
203 冷却ジャケット
204 高圧ポンプ
205 予熱器
206~208 圧力ゲージ
209磁気駆動部
210 DCモータ
211、212 安全弁
213 冷却器
214~218 停止弁
219 ニードル弁
220 加熱器
221 シリンダ
222 高圧ステンレススチール槽
223 機能性化合物(FC)
224 インペラ