(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164363
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】免疫機能活性化剤、ワクチンアジュバントおよび免疫誘導方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/39 20060101AFI20231102BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
A61K39/39
A61P37/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072970
(22)【出願日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2022074927
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮
(72)【発明者】
【氏名】小俣 大樹
(72)【発明者】
【氏名】宗像 理紗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠乃
(72)【発明者】
【氏名】小泉 桂一
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085AA38
4C085FF14
4C085FF18
4C085FF19
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG08
4C085GG10
(57)【要約】
【課題】体液性免疫および細胞性免疫のいずれの誘導をも増強することができ、しかも、有効成分が細胞壁由来(天然物由来)であり、消費者に対して安心感を与えることができる免疫機能活性化剤、ワクチンアジュバントおよび上記免疫機能活性化剤を投与する工程を有する免疫誘導方法を提供する。
【解決手段】本発明の免疫機能活性化剤は、最大径が1~800nmの範囲にある粒子を有効成分とする免疫機能活性化剤であって、前記粒子が細胞壁由来の多糖類からなることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大径が1~800nmの範囲にある粒子を有効成分とする免疫機能活性化剤であって、前記粒子が細胞壁由来の多糖類からなるものである免疫機能活性化剤。
【請求項2】
前記粒子が甘草、酵母、乳酸菌からなる群から選ばれる少なくとも一つを由来とするものである請求項1記載の免疫機能活性化剤。
【請求項3】
感染症治療および/またはがん免疫療法において用いられるものである請求項1または2記載の免疫機能活性化剤。
【請求項4】
体液性免疫および/または細胞性免疫を誘導するものである請求項1または2記載の免疫機能活性化剤。
【請求項5】
皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、経肺投与、血管内投与、経鼻投与、経口投与からなる群から選ばれる少なくとも一つの投与法で投与される請求項1または2記載の免疫機能活性化剤。
【請求項6】
最大径が1~800nmの範囲にある粒子を有効成分とするワクチンアジュバントであって、前記粒子が細胞壁由来の多糖類からなるものであるワクチンアジュバント。
【請求項7】
皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、経肺投与、血管内投与、経鼻投与、経口投与からなる群から選ばれる少なくとも一つの投与法で投与される請求項6記載のワクチンアジュバント。
【請求項8】
請求項1または2記載の免疫機能活性化剤を投与する工程を有する免疫誘導方法。
【請求項9】
前記免疫機能活性化剤を投与する工程が、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、経肺投与、血管内投与、経鼻投与、経口投与からなる群から選ばれる少なくとも一つの投与法により前記免疫機能活性化剤を投与するものである請求項8記載の免疫誘導方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞壁由来の多糖類からなる最大径が1~800nmの粒子を有効成分とする免疫機能活性化剤、上記免疫機能活性化剤を有するワクチンアジュバント、上記免疫機能活性化剤を投与する工程を有する免疫誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感染症治療や、がん免疫療法等の医療分野においては、従来、免疫賦活活性を向上させるために、様々な予防法および治療方法が検討されており、例えば、特許文献1では、細胞性の免疫の誘導作用が高い免疫賦活剤が提案されている。また、これらの医療分野においては、その予防法や治療方法に用いるアジュバントについても、現在までに様々なものが開発されている。このような状況下において、免疫機能活性化の有効性と、人体に対する安全性を兼ね備える免疫機能活性化剤のさらなる開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明ではこのような背景下において、体液性免疫および細胞性免疫のいずれの誘導をも増強することができ、しかも、有効成分が細胞壁由来(天然物由来)であり、消費者に対して安心感を与えることができる免疫機能活性化剤、上記免疫機能活性化剤を有するワクチンアジュバントおよび上記免疫機能活性化剤を投与する工程を有する免疫誘導方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
しかるに、本発明者等はかかる事情に鑑み、まず、天然物から得られる物質の検討を行った。なかでも、近年見出された、天然物から得られる粒径の小さい粒子に様々な特性があることに着目し、さらに研究を重ねた。その結果、天然物のなかでも、細胞壁由来の多糖類からなる最大径が1~800nmの範囲にある粒子が、体液性免疫および細胞性免疫の誘導を増強することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明の要旨は、次のとおりである。
[1] 最大径が1~800nmの範囲にある粒子を有効成分とする免疫機能活性化剤であって、前記粒子が細胞壁由来の多糖類からなるものである免疫機能活性化剤。
[2] 前記粒子が甘草、酵母、乳酸菌からなる群から選ばれる少なくとも一つを由来とするものである[1]記載の免疫機能活性化剤。
[3] 感染症治療および/またはがん免疫療法において用いられるものである[1]または[2]記載の免疫機能活性化剤。
[4] 体液性免疫および/または細胞性免疫を誘導するものである[1]~[3]のいずれかに記載の免疫機能活性化剤。
[5] 皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、経肺投与、血管内投与、経鼻投与、経口投与からなる群から選ばれる少なくとも一つの投与法で投与される[1]~[4]のいずれかに記載の免疫機能活性化剤。
[6] 最大径が1~800nmの範囲にある粒子を有効成分とするワクチンアジュバントであって、前記粒子が細胞壁由来の多糖類からなるものであるワクチンアジュバント。[7] 皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、経肺投与、血管内投与、経鼻投与、経口投与からなる群から選ばれる少なくとも一つの投与法で投与される[6]記載のワクチンアジュバント。
[8] [1]~[5]のいずれかに記載の免疫機能活性化剤を投与する工程を有する免疫誘導方法。
[9] 前記免疫機能活性化剤を投与する工程が、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、経肺投与、血管内投与、経鼻投与、経口投与からなる群から選ばれる少なくとも一つの投与法により前記免疫機能活性化剤を投与するものである[8]記載の免疫誘導方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の免疫機能活性化剤は、体液性免疫および細胞性免疫のいずれについても誘導作用が高く、両者の相乗効果によって、より高い免疫機能活性化を発揮することができる。また、有効成分が天然物由来であり、使用者に対してより安心感を与えることができる。 そして、本発明のワクチンアジュバントは、抗原とともに用いることで免疫機能活性(免疫原性)を高めることができる。
さらに、本発明の免疫誘導方法は、簡便な工程を経由するだけで体液性免疫および細胞性免疫の効果が得られるため、安全で使い勝手がよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施の形態である粒子の透過型電子顕微鏡写真を示した図である。
【
図2】本発明の一実施の形態である甘草由来の粒子の粒度分布を示した図である。
【
図3】本発明の一実施の形態である酵母由来の粒子の粒度分布を示した図である。
【
図4】本発明の一実施例の形態である乳酸菌由来の粒子の粒度分布を示した図である。
【
図5】上記甘草由来の粒子に対する細胞実験(樹状細胞の成熟化)の結果を示した図である(CD40)。
【
図6】上記甘草由来の粒子に対する細胞実験(樹状細胞の成熟化)の結果を示した図である(CD80)。
【
図7】上記甘草由来の粒子に対する細胞実験(樹状細胞の成熟化)の結果を示した図である(CD86)。
【
図9】上記乳酸菌由来の粒子に対する細胞実験(樹状細胞の成熟化)の解析結果を示した図である(CD40)。
【
図10】上記甘草由来の粒子に対する動物実験(皮下免疫:抗原特異的な抗体産生)の結果を示した図である(トータルIgG)。
【
図11】上記甘草由来の粒子に対する動物実験(皮下免疫:抗原特異的な抗体産生)の結果を示した図である(IgG
1)。
【
図12】上記甘草由来の粒子に対する動物実験(皮下免疫:抗原特異的な抗体産生)の結果を示した図である(IgG
2c)。
【
図13】上記甘草由来の粒子に対する動物実験(皮下免疫:抗原特異的な抗体産生)の結果を示した図である(実施例8,9)。
【
図14】上記酵母由来の粒子に対する動物実験(皮下免疫:抗原特異的な抗体産生)の結果を示した図である(OVA1μg)。
【
図15】上記酵母由来の粒子に対する動物実験(皮下免疫:抗原特異的な抗体産生)の結果を示した図である(OVA10μg)。
【
図16】上記甘草由来の粒子に対する動物実験(皮下免疫:T細胞応答)の結果を示した図である。
【
図17】上記酵母由来の粒子に対する動物実験(皮下免疫:T細胞応答)の結果を示した図である(OVA1μg)。
【
図18】上記酵母由来の粒子に対する動物実験(皮下免疫:T細胞応答)の結果を示した図である(OVA10μg)。
【
図19】上記甘草由来の粒子に対する動物実験(皮下免疫:抗腫瘍免疫の誘導1)の結果を示した図である(実施例15)。
【
図20】上記甘草由来の粒子に対する動物実験(皮下免疫:抗腫瘍免疫の誘導1)の結果を示した図である(比較例16)。
【
図21】上記甘草由来の粒子に対する動物実験(皮下免疫:抗腫瘍免疫の誘導1)の結果を示した図である(比較例17)。
【
図22】上記甘草由来の粒子に対する動物実験(皮下免疫:抗腫瘍免疫の誘導2)の結果を示した図である(E.G7-OVA細胞)。
【
図23】上記甘草由来の粒子に対する動物実験(皮下免疫:抗腫瘍免疫の誘導2)の結果を示した図である(MC38細胞)。
【
図24】上記甘草由来の粒子に対する動物実験(経鼻免疫:抗原特異的な抗体産生)の結果を示した図である(トータルIgG)。
【
図25】上記甘草由来の粒子に対する動物実験(経鼻免疫:抗腫瘍免疫の誘導1)の結果を示した図である(実施例17)。
【
図26】上記甘草由来の粒子に対する動物実験(経鼻免疫:抗腫瘍免疫の誘導1)の結果を示した図である(比較例20)。
【
図27】上記甘草由来の粒子に対する動物実験(経鼻免疫:抗腫瘍免疫の誘導1)の結果を示した図である(比較例21)。
【
図28】上記甘草由来の粒子に対する動物実験(経鼻免疫:抗腫瘍免疫の誘導2)の結果を示した図である(E.G7-OVA細胞)。
【
図29】上記甘草由来の粒子に対する動物実験(経鼻免疫:抗腫瘍免疫の誘導2)の結果を示した図である(MC38細胞)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。
ただし、本発明は、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
また、本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」または「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
そして、「Xおよび/またはY(X,Yは任意の構成)」とは、XおよびYの少なくとも一方を意味するものであって、Xのみ、Yのみ、X及びY、の3通りを意味するものである。
【0010】
<免疫機能活性化剤>
本発明の免疫機能活性化剤は、細胞壁由来の多糖類からなり、最大径が1~800nmの範囲にある粒子を有効成分とするものである。そして、本発明の免疫機能活性化剤は、医療分野および健康増進分野等に広く用いることができ、なかでも、感染症治療、がん免疫療法において効果的に用いることができる。また、抗アレルギー剤、免疫調整剤も含む概念である。
【0011】
なお、本発明において、有効成分とは、本発明の効果である「免疫機能活性化」が得られる成分を意味するものであり、仮に「免疫機能活性化」効果がある成分であってもその効果が得られない程度の濃度で配合される成分は含まれない。
【0012】
まず、本発明の有効成分である粒子について説明する。上記粒子は、細胞壁由来の多糖類からなり、上記細胞壁は、植物界に属する生物、菌界に属する生物、原生生物界に属する生物、原核生物界に属する生物等の細胞にみられる。上記生物として、好ましくは、生薬の原材料となる基原植物、子のう菌、担子菌、細菌等があげられ、なかでも、カンゾウ(Glycyrrhiza uralensis)、ショウキョウ(Zingiber officinale)、酵母、乳酸菌等が好ましい。
【0013】
上記多糖類としては、例えば、セルロース、ヘミセルロース、ペクチン等があげられる。上記多糖類の構成糖としては、例えば、グルコース、キシロース、ガラクトース、フコース、セロトリオース、セロテトラオース、キシラン、アラビノース、マンノース、ラムノース等があげられる。
【0014】
本発明の有効成分である粒子は、最大径が1~800nmであり、10~800nmであることがより好ましく、さらに好適には30~500nmであり、さらに好適には40~300nmであり、形状は、球体、楕円体、円盤型(赤血球のような形状)であるがこれに限定されず、中でも球体が好ましい。そして、本発明において「粒子の最大径」とは、粒子が球体である場合にはその直径をいい、その他の形状である場合には、その最大長をいう。粒子の径は、例えば、得られた粒子を超純水に分散させ、その分散液を、動的光散乱法を用いて測定することができる。動的光散乱法を用いて粒子径を測定した場合、算出された平均粒子径をその粒子の最大径とし、算出された平均粒子径が、最大径で規定される範囲に入っていればよい。
【0015】
上記粒子は、通常、
図1の電子顕微鏡画像において符号Aで示すような形状をしており、好ましくは球体の形状をしている。上記球体には、真球だけでなく、楕円体等の形状も含まれる。
図1の粒子Aは甘草を由来とするものであり、ネガティブ染色した粒子Aを、透過型電子顕微鏡で撮影したものである。
【0016】
上記粒子Aは、電子顕微鏡で観察した際、その構造が、2層構造、2重膜構造、多層構造、多重膜構造にも見える。このことより、本発明の有効成分である粒子は、少なくとも最外層と内部とは異なる電子密度を有していると考えられる。
【0017】
本発明の有効成分である粒子は、水系および油系のいずれの液体に対する耐溶解性を有し分散性がよく、なかでも水系の液体に対する分散性が高い。また、その優れた分散性が長期間保たれる。上記粒子の分散性は、例えば、得られた粒子を超純水に分散させ、その分散液を透過型電子顕微鏡で撮影し、その分散の程度を観察することにより判別することができる。また、上記分散液を一定期間保存後のものと対比することにより、分散性保持の程度を判別することができる。
【0018】
本発明の有効成分である粒子は、耐圧性および耐熱性に優れ、少なくとも2気圧までの加圧、121℃までの加熱により粒子径の変化がほぼない。粒子の耐圧性、耐熱性は、例えば、超純水に分散させた粒子と、この分散液を加圧および加熱したものとに含まれる粒子について、それぞれ動的光散乱法で粒子径の分布を算出し、両者を対比したときに、両者において粒子径の分布が変動していないことから判別することができる。
【0019】
本発明の有効成分である粒子は、耐寒性および耐乾燥性に優れ、-50~-80℃までの冷却、乾燥により粒子径の変化がほぼない。粒子の耐寒性および耐乾燥性は、例えば、超純水に分散させた粒子と、この分散液を凍結乾燥(-50℃)し、その乾燥物を再度超純水に分散させたものに含まれる粒子について、それぞれ動的光散乱法で粒子径の分布を算出し、両者を対比したときに粒子径の分布が変動していないことから判別することができる。また、上記凍結乾燥物を-80℃で7日間保存後、超純水に分散させたものに含まれる粒子を、同様に対比させても粒子径の分布の変動はない。
【0020】
本発明の有効成分である粒子は、例えば、細胞壁を溶解する工程と、該工程により得られた溶解物から粒子を分離する工程とを備える方法により製造することができる。
【0021】
上記細胞壁を溶解する工程としては、例えば、加熱処理、超音波処理、分解酵素による処理、アルカリ分解処理等があげられる。これらは単独でもしくは組み合わせて用いることができる。なかでも、効率化と健康面への配慮の点から、加熱処理、分解酵素による処理が好ましく、とりわけ加熱処理が好ましい。
【0022】
上記加熱処理としては、例えば、細胞壁を有する生物を液体に浸漬し、この液体ごとその生物を加熱することにより、細胞壁を構成する成分を液体に溶解させて溶解物を得ることがあげられる。より詳しく説明すると、まず、材料となる、細胞壁を有する生物を準備する。この生物はどのような状態であってもよいが、効率化の点から、乾燥、粉砕されていることが好ましい。上記準備した生物を別途用意した液体に浸漬し、通常、60℃以上で3分間以上、加熱し、溶解物を得る。なお、加熱時間が長いほど収率が高まる傾向がみられる。上記液体としては、水、アルコール等の各種溶媒として用いられる液体を単独もしくは2種以上混合して用いてもよい。しかし、粒子を、皮下投与、経鼻投与、経口投与等することを考慮すると、健康面への配慮の点から、水もしくは水系の液体が好ましく用いられる。
【0023】
なお、上記「細胞壁を構成する成分を溶解させる」とは、基本骨格と基質とを分離する等して細胞壁の構造を崩壊させ、液体中に該成分が分散した系を形成することをいい、該成分のひとつである多糖をサイズの小さいものに分解する等により、液体中に分散させることも含まれる。
【0024】
つぎに、上記工程により得られた溶解物から、本発明の有効成分である粒子を分離する工程としては、例えば、遠心分離、フィルターろ過、限外ろ過、超遠心分離等があげられる。これらは、材料となる細胞壁を有する生物の種類等に応じて、より適するものが用いられる。なかでも、操作の容易性の点から、遠心分離、フィルターろ過が好ましく、精製度を高める点から、これらを組み合わせて用いることが好ましい。
【0025】
上記遠心分離としては、粒子のサイズにもよるが、例えば、溶解物を1万~100万×gで遠心分離し、その上清を採取する方法があげられる(粗分離工程)。さらに、より精製度を高めるために、例えば、上記上清をポアサイズ0.22~0.45μmのフィルターでろ過し、そのろ液を得るようにしてもよい(精密分離工程)。
【0026】
このように、本発明の有効成分である粒子は、細胞壁を構成する成分、例えば、セルロース等に対し、末端分子の置換等を行うことを目的とする手法(例えば、苛性ソーダ、塩酸等を用いる手法)を採用していないため、安全性にも優れている。
【0027】
本発明の免疫機能活性化剤は、このようにして得られた、天然物を由来とする粒子を有効成分として有するものであり、粒子のみからなるものであってもよいし、他の成分を有するものであってもよい。
【0028】
本発明の有効成分である粒子とともに用いる他の成分としては、例えば、薬理作用を有する成分、添加剤等があげられる。上記添加剤としては、例えば、基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、増粘剤、保湿剤、着色剤、香料、キレート剤等があげられる。
【0029】
本発明の免疫機能活性化剤は、樹状細胞の成熟化を誘導することができるため、体液性免疫、細胞性免疫の双方をより効率的に高めることができる。また、抗原特異的IgG産生を誘導することができ、また、CD8+T細胞応答および抗腫瘍免疫を誘導することができるため、本発明の免疫機能活性化剤は、体液性免疫および細胞性免疫の相乗効果によって、より効果的に免疫機能活性化を図ることができる。
【0030】
本発明の免疫機能活性化剤は、所望の効果が得られる限り投与経路は特に制限されず、経腸投与および非経腸投与のいずれであってもよい。
上記経腸投与としては、例えば、経鼻投与、経口投与、経管栄養、注腸投与等があげられる。上記非経腸投与としては、経静脈投与、経動脈投与、経肺投与、血管内投与、筋肉内投与、心臓内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与等があげられる。
なかでも、投与経路として、皮下投与、経鼻投与を用いると、より免疫応答をより確実に誘導することができる。
【0031】
本発明の免疫機能活性化剤は、任意の形状で用いることができ、経口製剤形態および非経口製剤形態のいずれの形態で用いることができる。
上記経口製剤形態としては、例えば、錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤等があげられる。
上記非経口製剤形態としては、例えば、注射用製剤(点滴注射剤、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤等)、外用剤(軟膏剤、パップ剤、ローション剤等)、坐剤吸入剤、点眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、リポソーム剤等があげられる。
【0032】
本発明の免疫機能活性化剤は、医薬及び試薬以外にも、例えば食品添加剤、食品組成物(健康食品、健康増進剤、栄養補助食品(サプリメントなど)を包含する)、化粧品などの組成物の成分としても用いることができる。
【0033】
本発明の免疫機能活性化剤を、食品添加剤、健康増進剤、栄養補助食品(サプリメントなど)等の成分として用いる場合、上記食品添加物等の形状は、例えば、錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤等とすることができる。
【0034】
本発明の免疫機能活性化剤を、食品組成物として用いる場合、上記食品組成物の形状は、例えば、液状、ゲル状あるいは固形状の食品、飲料(例えば、ジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳等)、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、乳製品(例えば、粉末状、液状、ゲル状、固形状等)、パン、菓子(例えば、クッキー等)等とすることができる。
【0035】
<ワクチンアジュバント>
本発明のワクチンアジュバントは、細胞壁由来の多糖類からなり、その最大径が1~800nmの範囲にある粒子を有効成分とするものである。上記粒子は、本発明の免疫機能活性化剤で説明したものと同じであり、同様の効果を奏するものである。
【0036】
上記ワクチンアジュバントとは、通常、抗原と併用することにより、その抗原性を高めて免疫応答を誘導しやすくする物質を意味する。
すなわち、抗原の一部の成分を精製して接種するワクチンは、一般的に効果が弱いため、アジュバントの使用が必要である。
さらに、近年のワクチン開発は感染症を対象とするだけでなく、がんやアルツハイマー、糖尿病や高血圧の生活習慣病、花粉や食物のアレルギー、自己免疫疾患等の非感染症にまで対象とするようになっている。しかし、上記非感染症を対象とするワクチンのターゲットは、通常、免疫反応が誘導できないため、所望の効果を得ることが困難である。
よって、上記非感染症をワクチンの対象とした場合でも強い免疫反応を誘導することができるアジュバントの開発が求められている。
【0037】
本発明のワクチンアジュバントは、上記の要望に沿うものであり、抗原の一部の成分を精製して接種するワクチンに用いるだけでなく、体液性免疫および/または細胞性免疫の誘導を増強することができるため、上記のような非感染症をワクチンの対象とした場合でも強い免疫反応を誘導することができる。
【0038】
本発明のワクチンアジュバントは、免疫応答を誘導しやすくできる限り、どのような方法で投与してもよいが、皮下投与または経鼻投与が好ましく、低侵襲で全身免疫および粘膜免疫の誘導ができる点で、経鼻投与が好ましい。
【0039】
<免疫誘導方法>
本発明の免疫誘導方法は、上記免疫機能活性化剤を投与する工程を有するものであり、上記免疫機能活性化剤を投与する工程には、上記免疫機能活性化剤を投与した後、一定期間経過後に、さらに上記免疫機能活性化剤を投与して追加する工程が含まれる。
【0040】
本発明の免疫誘導方法は、免疫応答を誘導できる限り、上記免疫機能活性化剤を投与する工程において、上記免疫機能活性化剤をどのような方法で投与してもよい。なかでも、投与を簡便に行うことができるとの観点から、上記免疫機能活性化剤を皮下投与または経鼻投与することが好ましく、低侵襲で全身免疫および粘膜免疫の誘導ができる点で、経鼻投与が好ましい。
【実施例0041】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例中、「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0042】
まず、細胞壁を有する生物として、甘草(刻み生薬:栃本天海堂社、トチモトのカンゾウP)、酵母(乾燥品:日本ガーリック社、天然ビール酵母)および乳酸菌(粉末:ビオラボ社、乳酸菌粉末KA-18)を準備し、以下のとおりに、本発明の有効成分となる粒子を作製した。
【0043】
[甘草由来の粒子]
刻み甘草(乾燥品)100gを超純水500mLに入れて50分間煮沸し、甘草煎じ液を作製し放冷後、粗大画分除去を目的に20000×gで60分間遠心分離した。その上清を回収し、ナノ粒子の精製を目的として回収した上清とエタノールを体積比として等量混合し、20000×gで20分間遠心分離後、上清除去を行なった。上記60分間遠心分離後の上清とエタノールを体積比で等量混合する工程以降を2回繰り返して実施した後、容器の底面に残ったペレットを超純水で再分散させ、上記で混合したエタノールの除去を目的として分画分子量(MWCO)50kDaの透析膜を用いて超純水中で1日透析を実施し、凍結乾燥して得た。
【0044】
得られた粒子の粒度分布を
図2に示し、その回収量、平均粒子径、多分散指数、ゼータ電位を下記の表1に示す。
【0045】
【0046】
[酵母由来の粒子]
酵母(乾燥品)100gを超純水1Lに入れて90℃で3時間加熱し、放冷後、粗大画分除去を目的に12300×gで30分間遠心分離を行った。その上清を回収し、再度、140000×gで60分間の遠心分離を行った。上清を除去し、容器の底面に残った粒子の集合体であるペレットを超純水で再分散させ、凍結乾燥して得た。
【0047】
得られた粒子の粒度分布を
図3に示し、その回収量、平均粒子径、多分散指数を下記の表2に示す。
【0048】
【0049】
[乳酸菌由来の粒子]
乳酸菌(粉末)10gを超純水100mLに入れて90℃で3時間加熱し、放冷後、粗大画分除去を目的に12300×gで30分間遠心分離を行った。その上清を回収し、再度、140000×gで60分間の遠心分離を行った。上清を除去し、容器の底面に残った粒子の集合体であるペレットを超純水で再分散させ、凍結乾燥して得た。
【0050】
得られた粒子の粒度分布を
図4に示し、その回収量、平均粒子径、多分散指数を下記の表3に示す。
【0051】
【0052】
上記得られた粒子に対し、まず、マウス樹状細胞株(DC2.4細胞)を用いた細胞実験を行い、樹状細胞の成熟化の検討を行った。ついで、上記得られた粒子に対して動物実験(皮下免疫)を行い、抗原特異的な抗体産生、細胞応答、抗腫瘍免疫の誘導(1),(2)の各項目の検討を行った。各実験はそれぞれ以下の条件で行った。
【0053】
<1.細胞実験:樹状細胞の成熟化>
(1-1)甘草由来の粒子
[実施例1、比較例1および参考例1]
実施例1として、上記で得られた甘草由来の粒子を100μg/mLとなるよう、マウス樹状細胞株(DC2.4細胞 5×10
5cells/2mL)に作用させ、37℃で24時間培養した後に、樹状細胞の成熟マーカーであるCD40、CD80、CD86に対する発現量を測定した。
一方、マウス樹状細胞株に対し何も作用させなかったものを比較例1Aとし、上記甘草由来の粒子作製工程で得られた甘草煎じ液(各種精製前のもの)100μg/mLを作用させたものを比較例1Bとし、ポジティブコントロールとしてリポ多糖(LPS)0.1μg/mLを作用させたものを参考例1として、実施例1と同様に各成熟マーカーの発現量を測定した。
これらの結果に対しフローサイトメトリーによる解析を行い、CD40に対する結果を
図5に、CD80に対する結果を
図6に、CD86に対する結果を
図7に示した。また、これらを対比した結果を
図8に示した。
【0054】
(1-2)酵母由来の粒子
[実施例2,3、比較例2および参考例2]
実施例2,3として、上記で得られた酵母由来の粒子を下記の表4に示す濃度でマウス樹状細胞株(DC2.4細胞 5×105cells/2mL)にそれぞれ作用させ、37℃で24時間培養した後に、樹状細胞の成熟マーカーであるCD40、CD80、CD86に対する発現量を測定した。
一方、マウス樹状細胞株に対し何も作用させなかったものを比較例2とし、ポジティブコントロールとしてリポ多糖(LPS)0.1μg/mLを作用させたものを参考例2として、実施例2,3と同様に各成熟マーカーの発現量を測定した。
これらの結果に対しフローサイトメトリーによる解析を行い、各成熟マーカーにおける発現率を下記の表4に併せて示した。
【0055】
【0056】
(1-3)乳酸菌由来の粒子
[実施例4~6および比較例3]
実施例4~6として、上記で得られた乳酸菌由来の粒子を1,10,100μg/mLとなるようマウス樹状細胞株(DC2.4細胞 5×10
5cells/2mL)にそれぞれ作用させ、37℃で24時間培養した後に、樹状細胞の成熟マーカーであるCD40に対する発現量を測定した。
一方、マウス樹状細胞株に対し何も作用させなかったものを比較例3として、実施例4~6と同様に各成熟マーカーの発現量を測定した。
これらの結果に対しフローサイトメトリーによる解析を行い、CD40に対する結果を
図9に示した。
【0057】
図5~9および上記表4に示されるとおり、いずれの実施例も、ポジティブコントロールであるLPSと同等の発現量を示していることから、本発明の免疫機能活性化剤は、抗体産生等の獲得免疫活性化の初発段階に重要である、樹状細胞の成熟化に影響を及ぼすことが認められる。
【0058】
<2.動物実験(皮下免疫):抗原特異的な抗体産生>
(2-1)甘草由来の粒子
[実施例7、比較例4,5]
実施例7として、上記で得られた甘草由来の粒子100μgおよびモデル抗原のニワトリ卵白アルブミン(OVA)100μgをマウス(C57BL/6J、6週齢、雌)の後背部に皮下免疫した。上記皮下免疫を7日後に再度行い(皮下免疫回数:合計2回)、最後の皮下免疫を行った日から7日後に採血を行い、トータルIgG、IgG
1およびIgG
2Cの値(抗体価)を測定した。
一方、免疫を一切行わなかったものを比較例4とし、甘草由来の粒子を用いなかった以外は実施例7と同様に免疫したものを比較例5とし、実施例7と同様に抗体価を測定した。それらの結果を、トータルIgGについては
図10に示し、IgG
1については
図11に示し、IgG
2Cについては
図12に示した。
【0059】
図10に示されるとおり、抗原と甘草由来の粒子を併用し免疫することで抗原特異的なIgGを誘導することができた。また、
図11および
図12に示された内容から、誘導されたトータルIgGのサブクラス解析をしたところ、抗原特異的なIgG
1、IgG
2Cの誘導が認められた。一方、抗原のみで免疫した場合、Th2型免疫応答が優位となった(比較例5参照)。このように、実施例7は、Th1型免疫応答を効率よく誘導可能な免疫機能活性化剤として有用であることが明らかとなった。
ところで、樹状細胞を主とする抗原提示細胞から提示された抗原情報はT細胞へと伝達され、抗原特異的な獲得免疫を誘導する。上記獲得免疫は体液性免疫と細胞性免疫に区分され、体液性免疫(Th2型)では作用標的(病原体やがん細胞など)に対する抗体産生を狙い、細胞性免疫では細胞傷害性T細胞による作用標的への直接傷害に基づき作用標的の排除を狙う。よって、免疫機能活性化剤においては体液性免疫および細胞性免疫のどちらも誘導可能であることが望ましい。なお、IgG
2cは抗体の中でも細胞性免疫(Th1)型のサイトカインに応答し産生される抗体である。
【0060】
(2-2)甘草由来の粒子
[実施例8,9]
抗原となるOVAの量を1μgに変更した以外は実施例7と同様にして免疫したものを実施例8とし、OVAの量を10μgに変更した以外は実施例7と同様にして免疫したものを実施例9として、実施例7と同様にトータルIgGを測定した。その結果を、実施例7および比較例4のトータルIgGとともに
図13に示した。
【0061】
図13に示されるように、抗原量が1μgであっても、抗原量が100μgと同等の抗体産生を誘導したことがわかった。病原体やがん細胞由来の抗原は、調製にかかる時間、経済コスト、安全性等の点から、免疫時の投与量は少ないほど望ましい。本発明の免疫機能活性化剤は、抗原量を100分の一に抑えた1μgでも100μgと同等の抗体価が得られ、高い免疫機能が認められることから、時間、経済コスト、安全性に優れるものであることがわかる。
【0062】
(2-3)酵母由来の粒子
[実施例10,11、比較例6~9および参考例3,4]
実施例10,11として、上記で得られた酵母由来の粒子100μgおよびOVA(1μgまたは10μg)をマウス(C57BL/6J、6週齢、雌)の後背部に皮下免疫した。上記皮下免疫を7日後に再度行い(皮下免疫回数:合計2回)、最後の皮下免疫を行った日から7日後に採血を行い、トータルIgGの抗体価を測定した。
また、上記実施例10(OVA1μg)において、酵母由来の粒子を用いなかった以外は同様に免疫したものを比較例6とし、一切の免疫を行わなかったものを比較例7とし、酵母由来の粒子の代わりにポジティブコントロールとして、水酸化アルミニウム・水酸化マグネシウム製剤(Thermo Scientific社製、Imject Alum Adjuvant)(以下「Alum」とする)1mgを用いたものを参考例3とした。
さらに、上記実施例11(OVA10μg)において、酵母由来の粒子を用いなかった以外は同様に免疫したものを比較例8とし、一切の免疫を行わなかったものを比較例9とし、酵母由来の粒子の代わりにポジティブコントロールとしてAlum(1mg)を用いたものを参考例4とした。
これらについて、実施例10,11と同様に抗体価をそれぞれ測定し、トータルIgGの抗体価を
図14,15に併せて示す。なお、抗体価5以下の個体は5として算出している。
【0063】
図14,15に示されるとおり、酵母由来の粒子で免疫すると、抗原量1μgであっても抗原量10μgであっても、いずれの実施例も比較例より有意な抗体価の増加を示している。これらの抗体価は、ポジティブコントロールのAlumと同等であり、いずれも高い抗体産生増強効果が認められる。
【0064】
<3.動物実験(皮下免疫):T細胞応答>
(3-1)甘草由来の粒子
[実施例12および比較例10,11]
実施例12として、上記で得られた甘草由来の粒子100μgおよびモデル抗原のニワトリ卵白アルブミン(OVA)100μgをマウス(C57BL/6J、6週齢、雌)の後背部に皮下免疫した。上記皮下免疫を7日後に再度行い(皮下免疫回数:合計2回)、最後の皮下免疫を行った日から7日後に脾細胞を回収した。
一方、上記実施例12において、一切の免疫を行わなかったものを比較例10とし、甘草粒子を用いなかった以外は同様に免疫したものを比較例11として、実施例12と同様に脾細胞を回収した。
【0065】
これらの実施例および比較例に対し、以下の(a)~(d)に示す条件で脾細胞に対する刺激をそれぞれ行い、3日後の細胞上清中のIFN-γ量をELISA法で測定し、その結果を
図16に併せて示した。
(a)OVA10μM
(b)OVA由来MHCクラスIエピトープペプチド(SL8)100nM
(c)OVA由来MHCクラスIエピトープペプチド(SL8)10μM
(d)刺激なし(non)
【0066】
図16に示されるとおり、実施例12はいずれの再刺激でも比較例10,11よりも高いIFN-γ産生が認められ、特に抗原特異的なCD8
+T細胞応答を誘導可能であることがわかった。
抗原特異的T細胞受容体を有するT細胞は、抗原の再刺激により活性化してIFN-γを産生する。特に、OVA由来MHCクラスIエピトープペプチド(SL8)による刺激はCD8
+T細胞を特異的に活性化可能であるため、本発明の免疫機能活性化剤は、細胞性免疫に対しても優れた効果を奏するといえる。
【0067】
(3-2)酵母由来の粒子
[実施例13,14、比較例12~15および参考例5,6]
実施例13,14として、上記で得られた酵母由来の粒子100μgと、OVA1μg(実施例13)または10μg(実施例14)とを、マウス(C57BL/6J、6週齢、雌)の後背部に皮下免疫した。上記皮下免疫を7日後に再度行い(皮下免疫回数:合計2回)、最後の皮下免疫を行った日から7日後に脾細胞を回収した。
一方、上記実施例13において、一切の免疫を行わなかったものを比較例12とし、酵母由来の粒子を用いなかった以外は同様に免疫したものを比較例13とし、酵母由来の粒子の代わりにポジティブコントロールとしてAlum(1mg)を用いたものを参考例5とした。
また、上記実施例14において、一切の免疫を行わなかったものを比較例14とし、酵母由来の粒子を用いなかった以外は同様に免疫したものを比較例15とし、酵母由来の粒子の代わりにポジティブコントロールとしてAlum(1mg)を用いたものを参考例6とした。
これらを、実施例13,14と同様にして脾細胞をそれぞれ回収した。
【0068】
これらの実施例、比較例および参考例に対し、以下の(a)~(d)に示す条件で脾細胞に対する刺激をそれぞれ行い、3日後の細胞上清中のIFN-γ量をELISA法で測定し、その結果を
図17,18に併せて示した。
(a)OVA10μM
(b)OVA由来MHCクラスIエピトープペプチド(SL8)0.1μM
(c)OVA由来MHCクラスIエピトープペプチド(SL8)10μM
(d)刺激なし(non)
【0069】
図17に示されるとおり、実施例13は、OVA1μg免疫時に、OVA10μMの再刺激により、比較例12,13よりも高いT細胞応答が認められた。しかも、
図18に示されるとおり、実施例14は、OVA(10μg)免疫時に、いずれのSL8での再刺激でも高いCD8
+T細胞応答が認められた。これらのT細胞応答は、参考例5,6では認められていないことから、本発明の免疫機能活性化剤の有用な効果の一つといえる。
【0070】
<4.動物実験(皮下免疫):抗腫瘍免疫の誘導(1)>
[実施例15]
実施例15として、上記で得られた甘草由来の粒子100μgを、100μgのOVAとともに、マウス(C57BL/6J、6週齢、雌)の後背部に皮下免疫した。上記皮下免疫を7日後に再度行い(皮下免疫回数:合計2回)、最後の皮下免疫を行った日から7日後に、上記マウスの後背部にOVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)を1×10
6cellsを移植し、移植後の経過日数に伴う腫瘍体積(mm
3)の変化を測定した。測定した結果を
図19に示す。
【0071】
[比較例16,17]
甘草由来の粒子を用いなかった以外は同様に免疫したものを比較例16とし、一切の免疫を行わなかったものを比較例17として、実施例15と同様に腫瘍体積の変化を測定した。比較例16の結果を
図20に示し、比較例17の結果を
図21に示す。
【0072】
図19に示されるとおり、実施例15はすべてのマウスにおいて腫瘍の生着および増殖が認められなかったことから(拒絶率5/5)、本発明の免疫機能活性化剤は、免疫療法におけるアジュバントとしての有効性が認められたといえる。これに対し、比較例16,17は、
図20(拒絶率0/5)および
図21(拒絶率1/5)に示されるとおり、腫瘍体積の増加が認められた。
【0073】
<5.動物実験(皮下免疫):抗腫瘍免疫の誘導(2)>
(5-1)
実施例15で用いた、OVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)が生着しなかったマウスに対して、上記OVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)の移植後70日経過時に、再度、OVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)1×10
6cellsを後背部に移植し、免疫記憶の成立を評価した。測定した結果を
図22に示す。
【0074】
図22に示されるとおり、実施例15でがん細胞を拒絶したマウスは、70日後のがん細胞再移植において再度がん細胞を拒絶したことから、本発明の免疫機能活性化剤によるがん細胞に対する免疫記憶の誘導が認められたといえる。
【0075】
(5-2)
実施例15で用いた、OVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)が生着しなかったマウスに対して、上記OVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)の移植後70日経過時に、今度は、大腸がん細胞株(MC38)1×10
6cellsを後背部に移植し、細胞特異的な免疫記憶の成立を評価した。測定した結果を
図23に示す。
【0076】
図23に示されるとおり、実施例15で移植されたOVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)を拒絶したマウスは、大腸がん細胞株(MC38)を拒絶しなかった。
一方で、
図22に示したとおり、実施例15で移植されたOVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)を拒絶したマウスは、再度OVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)を拒絶していることから、本発明の免疫機能活性化剤による免疫応答の増強効果は、抗原特異的かつ細胞特異的であり、作用標的以外の免疫応答を誘導しないといえる。
【0077】
このように、上記粒子は免疫機能を活性化することが証明された。
よって、上記粒子を有効成分として有する免疫機能活性化剤は、細胞壁由来(天然物由来)であり、体液性免疫および細胞性免疫のいずれの誘導をも増強することができるため、免疫機能活性化の有効性と人体に対する安全性とを兼ね備えたものである。
【0078】
さらに、上記得られた粒子に対して動物実験(経鼻免疫)を行い、抗原特異的な抗体産生、抗腫瘍免疫の誘導の各項目の検討を行った。各実験はそれぞれ以下の条件で行った。
【0079】
<6.動物実験(経鼻免疫):抗原特異的な抗体産生>
[実施例16]
実施例16として、上記で得られた甘草由来の粒子(100μg)およびOVA(100μg)を、マウス(C57BL/6J、6週齢、雌)に経鼻免疫した。上記経鼻免疫を7日後に再度行い(経鼻免疫回数:合計2回)、最後の経鼻免疫を行った日から7日後に採血し、トータルIgGの抗体価を測定した。
【0080】
[比較例18,19]
上記実施例16において、一切の免疫を行わなかったものを比較例18とし、甘草由来の粒子を用いなかった以外は同様に免疫したものを比較例19として、実施例16と同様に測定したトータルIgGの抗体価を
図24に示した。
【0081】
図24に示されるとおり、実施例16は、比較例18,19と比較して抗体価が有意に増加している。このことから、本発明の免疫機能活性化剤は、経鼻免疫においても高い抗体産生増強効果を有すると認められる。
【0082】
<7.動物実験(経鼻免疫):抗腫瘍免疫の誘導(1)>
[実施例17]
上記甘草由来の粒子(100μg)およびOVA(100μg)をマウス(C57BL/6J、6週齢、雌)に経鼻免疫した。上記経鼻免疫を7日後に再度行い(経鼻免疫回数:合計2回)、最後の経鼻免疫を行った日から7日後に、上記マウスの後背部にOVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)を1×10
6cells移植し、移植後の経過日数に伴う腫瘍体積(mm
3)の変化を測定した。測定した結果を
図25に示す。
【0083】
[比較例20,21]
甘草粒子を用いなかった以外は同様に免疫したものを比較例20とし、一切の免疫を行わなかったものを比較例21として、実施例17と同様に腫瘍体積(mm
3)の変化を測定した。比較例20の結果を
図26に示し、比較例21の結果を
図27に示す。
【0084】
図25に示されるとおり、実施例17は、ほとんどのマウスにおいてがん細胞が拒絶されたのに対し(拒絶率4/5)、比較例20,21は腫瘍体積が増加した(
図26(拒絶率0/5)および
図27(拒絶率1/5)参照)。このことから、本発明の免疫機能活性化剤は、経鼻免疫においてもがん免疫療法におけるアジュバントとしての有効性が認められるといえる。
【0085】
<8.動物実験(経鼻免疫):抗腫瘍免疫の誘導(2)>
(8-1)
実施例17で用いた、OVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)が生着しなかったマウスに対して、上記OVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)の移植後70日経過時に、再度、OVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)1×10
6cellsを後背部に移植し、その腫瘍体積の測定を経時的に行った(Re-challenge)。
対照として、一切の免疫をしていないマウスにOVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)1×10
6cellsを後背部に移植し、その腫瘍体積の測定を経時的に行った(First-challenge)。そして、これらの結果からOVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)の移植に対する拒絶率を算出した。その結果を
図28に示す。
【0086】
(8-2)
実施例17で用いた、OVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)が生着しなかったマウスに対して、上記OVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)の移植後70日経過時に、今度は、大腸がん細胞株(MC38)1×10
6cellsを後背部に移植し、その腫瘍体積の測定を経時的に行った(Re-challenge)。
対照として、一切の免疫をしていないマウスに大腸がん細胞株(MC38)1×10
6cellsを後背部に移植し、その腫瘍体積の測定を経時的に行った(First-challenge)。そして、これらの結果からOVA発現リンパ腫細胞株(E.G7-OVA)の移植に対する拒絶率を算出した。その結果を
図29に示す。
【0087】
図28に示されるとおり、実施例17でがん細胞を拒絶したマウスは、移植後70日経過時のがん細胞再移植において再度がん細胞を拒絶したことから、本発明の免疫機能賦活化剤は、経鼻免疫でもがん細胞に対する免疫記憶の誘導が認められる。
一方で、
図29に示されるとおり、実施例17でがん細胞を拒絶したマウスは、OVA発現のない大腸がん細胞株(MC38)を拒絶しなかった。このことから、本発明の免疫機能活性化剤の経鼻免疫による免疫応答の増強効果は、抗原特異的かつ細胞特異的であり、作用標的以外の免疫応答を誘導しないといえる。
【0088】
このように、上記粒子は、経鼻免疫においても免疫機能活性化させることができるため、上記粒子を有効成分とする免疫機能活性化剤は、経鼻免疫においても有効であることが示された。そして、経鼻で効果があれば、同じく経粘膜投与である経腟、目、口腔内等でも効果があるといえる。
すなわち、本発明の免疫機能活性化剤は、全身免疫だけでなく粘膜面にも免疫応答を誘導可能であり、粘膜面を介して感染するような病原体に対しても効果が期待できる。また、経鼻免疫は、皮下免疫とは異なり、非侵襲的であり、かつ医療廃棄物を少なくできることから、実用面でも利点がある。
本発明の免疫機能活性化剤は、免疫機能活性化の有効性と、人体に対する安全性を兼ね備える免疫機能活性化剤として、産業上有用である。また、本発明のワクチンアジュバントは、各種感染症のほか、がん免疫療法に対して用いられるワクチンアジュバントとして、産業上有用である。そして、本発明の免疫誘導方法は、人体に対する安全性が高く、簡便な工程を経由するだけでよいため、産業上有用である。