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特開2023-164386可撓性コロナ耐性絶縁体を有するマグネットワイヤ
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  • 特開-可撓性コロナ耐性絶縁体を有するマグネットワイヤ 図1A
  • 特開-可撓性コロナ耐性絶縁体を有するマグネットワイヤ 図1B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164386
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】可撓性コロナ耐性絶縁体を有するマグネットワイヤ
(51)【国際特許分類】
   H01F 5/06 20060101AFI20231102BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20231102BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
H01F5/06 Q
H01B7/02 A
H01F5/06 H
H01F27/28 123
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023073603
(22)【出願日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】17/731,357
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】598077037
【氏名又は名称】エセックス フルカワ マグネット ワイヤ ユーエスエイ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100173473
【弁理士】
【氏名又は名称】高井良 克己
(72)【発明者】
【氏名】マシュー リーチ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ジェイ コーネル
(72)【発明者】
【氏名】アレン ロー ギッシンジャー
(72)【発明者】
【氏名】アラン アール ネル
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック マーシャル マクファーランド
(72)【発明者】
【氏名】タマンナ ファードス マクファーランド
(72)【発明者】
【氏名】モハンマド マズハル サイード
【テーマコード(参考)】
5E043
5G309
【Fターム(参考)】
5E043AB01
5G309MA03
(57)【要約】
【課題】可撓性コロナ耐性エナメル絶縁体を有するマグネットワイヤは、導体と、導体の周囲に形成された多層絶縁システムとを含み得る。
【解決手段】絶縁システムは、第1のポリマーエナメル絶縁体から形成されるベースコート、第2のポリマーエナメル絶縁体から形成されるミッドコート、および第3のポリマーエナメル絶縁体から形成されるトップコートを含み得る。ミッドコートは、ベースとなるポリアミドイミド材料に分散された二酸化ケイ素と酸化クロムとを含有するフィラーを含み得る。加えて、マグネットワイヤは、ワイヤを4mmのマンドレルの周りで180度曲げたときに、トップコートにほとんど亀裂が生じないか、または全く生じない場合があり得る。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネットワイヤであって、
導体と、
前記導体の周囲に形成された絶縁システムであって、前記絶縁システムは、
THEICポリエステルを備える第1のポリマーエナメル絶縁体のベースコートと、
前記ベースコートの周囲に形成された第2のポリマーエナメル絶縁体のミッドコートであって、前記第2のポリマーエナメル絶縁体は、ベースポリアミドイミド材料中に分散されたフィラーを備え、前記フィラーは、20重量%~80重量%の二酸化ケイ素および20重量%~80重量%の酸化クロムを備える、ミッドコートと、
前記ミッドコートの周囲に形成された第3のポリマーエナメル絶縁体のトップコートと、
を備え、
前記ワイヤを4mmのマンドレルの周りで180度曲げたとき、トップコートの亀裂頻度は1.0未満であり、前記トップコートの亀裂頻度は、前記マンドレルの周りでそれぞれ曲げられたワイヤのサンプル20個当たりのそれぞれのトップコートの亀裂の数を表す、
前記導体の周囲に形成された絶縁システムと、
を備えるマグネットワイヤ。
【請求項2】
前記ミッドコートは、前記絶縁システムの総厚の少なくとも5パーセントを占める、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項3】
前記ミッドコートは、前記絶縁システムの総厚の少なくとも25%を占める、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項4】
前記トップコートは、未充填のポリアミドイミドを備える、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項5】
前記ベースコートは、前記絶縁システムの総厚の10%~70%である第1の厚さを有し、
前記ミッドコートは、総厚の5%~80%である第2の厚さを有し、
前記トップコートは、総厚の5%~50%である第3の厚さを有する、
請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項6】
前記ベースコートは、絶縁システムの総厚の45%~65%である第1の厚さを有し、
前記ミッドコートは、総厚の5%~40%である第2の厚さを有し、
前記トップコートは、総厚の5%~35%である第3の厚さを有する、
請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項7】
前記ベースコートは、前記絶縁システムの総厚の45%~65%である第1の厚さを有し、
前記ミッドコートは、総厚の25%~40%である第2の厚さを有し、
前記トップコートは、総厚の5%~15%である第3の厚さを有する、
請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項8】
前記絶縁システムは、少なくとも220℃のサーマルインデックスを有する、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項9】
前記絶縁システムは、少なくとも240℃のサーマルインデックスを有する、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項10】
マグネットワイヤであって、
導体と、
前記導体の周囲に形成された絶縁システムであって、前記絶縁システムは、
第1のポリマーエナメル絶縁体のベースコートと、
前記ベースコートの周囲に形成された第2のポリマーエナメル絶縁体のミッドコートであって、前記第2のポリマーエナメル絶縁体は、ベースポリアミドイミド材料中に分散されたフィラーを備え、前記フィラーは、20重量%~80重量%の二酸化ケイ素および20重量%~80重量%の酸化クロムを備える、ミッドコートと、
前記ミッドコートの周囲に形成された第3のポリマーエナメル絶縁体のトップコートと、
を備え、
前記ミッドコートは、前記絶縁システムの総厚の少なくとも5%を占める、
前記導体の周囲に形成された絶縁システムと、
を備える、マグネットワイヤ。
【請求項11】
前記ワイヤを4mmのマンドレルの周りに180度曲げたときのトップコートの亀裂頻度は、1.0未満であり、前記トップコートの亀裂頻度は、前記マンドレルの周りにそれぞれ曲げられた前記ワイヤのサンプル20個当たりのそれぞれのトップコートの亀裂の数を表す、請求項10に記載のマグネットワイヤ。
【請求項12】
前記ベースコートは、THEICポリエステルを備える、請求項10に記載のマグネットワイヤ。
【請求項13】
前記トップコートは、未充填のポリアミドイミドを備える、請求項10に記載のマグネットワイヤ。
【請求項14】
前記ミッドコートは、前記絶縁システムの総厚の少なくとも25パーセントを占める、請求項10に記載のマグネットワイヤ。
【請求項15】
前記ベースコートは、前記絶縁システムの総厚の10%~70%である第1の厚さを有し、
前記ミッドコートは、総厚の5%~80%である第2の厚さを有し、
前記トップコートは、総厚の5%~50%である第3の厚さを有する、
請求項10に記載のマグネットワイヤ。
【請求項16】
前記ベースコートは、前記絶縁システムの総厚の45%~65%である第1の厚さを有し、
前記ミッドコートは、総厚の5%~40%である第2の厚さを有し、
前記トップコートは、総厚の5%~35%である第3の厚さを有する、
請求項10に記載のマグネットワイヤ。
【請求項17】
前記ベースコートは、前記絶縁システムの総厚の45%~65%である第1の厚さを有し、
前記ミッドコートは、総厚の25%~40%である第2の厚さを有し、
前記トップコートは、総厚の5%~15%である第3の厚さを有する、
請求項10に記載のマグネットワイヤ。
【請求項18】
前記絶縁システムは、少なくとも220℃のサーマルインデックスを有する、請求項10に記載のマグネットワイヤ。
【請求項19】
マグネットワイヤであって、
導体と、
前記導体の周囲に形成された総厚を有する絶縁システムであって、前記絶縁システムは、
THEICポリエステルを備える第1のポリマーエナメル絶縁体のベースコートであって、前記ベースコートは、総厚の10%~70%である第1の厚さで形成される、ベースコートと、
前記ベースコートの周囲に、総厚の5%~80%である第2の厚さで形成された第2のポリマーエナメル絶縁体のミッドコートであって、前記第2のポリマーエナメル絶縁体は、ベースポリアミドイミド材料中に分散されたフィラーを備え、前記フィラーは、20重量%~80重量%の二酸化ケイ素および20重量%~80重量%の酸化クロムを備える、ミッドコートと、
ポリアミドイミドを備える第3のポリマーエナメル絶縁体のトップコートであって、総厚の5%~50%である第3の厚さで前記ミッドコートの周囲に形成される、トップコートと、
を備え、
ワイヤを4mmのマンドレルの周りで180度曲げたとき、トップコートの亀裂頻度は1.0未満であり、前記トップコートの亀裂頻度は、前記マンドレルの周りでそれぞれ曲げられたワイヤのサンプル20個当たりのそれぞれのトップコートの亀裂の数を表す、
前記導体の周囲に形成された総厚を有する絶縁システムと、
を備えるマグネットワイヤ。
【請求項20】
第1の厚さは、総厚の45%~65%であり、
第2の厚さは、総厚の25%~40%であり、
第3の厚さは、総厚の5%~15%である、
請求項19に記載のマグネットワイヤ。
【請求項21】
前記ベースコートは、前記絶縁システムの総厚の45%~65%である第1の厚さを有し、
前記ミッドコートは、総厚の25%~40%である第2の厚さを有し、
前記トップコートは、総厚の5%~15%である第3の厚さを有する、
請求項19に記載のマグネットワイヤ。
【請求項22】
前記絶縁システムは、少なくとも220℃のサーマルインデックスを有する、請求項19に記載のマグネットワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年5月10日に出願され「Magnet Wire with Corona Resistant Polyamideimide Insulation」と題する米国特許出願第17/316,333号の一部継続出願であり、当該出願は、2020年8月26日に出願され「Magnet Wire with Corona Resistant Polyimide Insulation」と題する米国特許第11,004,575号の一部継続出願であり、当該は、2019年5月6日に出願され「Magnet Wire with Corona Resistant Polyimide Insulation」と題する米国特許第10,796,820号の一部継続出願であり、当該は、2018年5月7日に出願され「Corona Resistant Polyimide Magnet Wire Insulation」と題する米国仮出願第62/667,649号の優先権を主張する。これらの先行事項の各々の内容は、参照によってその全体が本明細書に援用される。
【0002】
(技術分野)
本開示の実施形態は、概してマグネットワイヤに関し、より詳細には、モーター巻線の寿命および熱伝導性を改善するように設計された耐コロナ性ポリアミドイミドを組み込んだ絶縁システムを含むマグネットワイヤに関する。
【背景技術】
【0003】
巻線または磁気巻線とも称されるマグネットワイヤは、インバータ駆動モーター、モータースタータージェネレータ、変圧器等の、多種の電気機械およびデバイスで利用される。マグネットワイヤは、典型的に、中心導体の周囲に形成されたポリマーエナメル絶縁体を含む。エナメル絶縁体は、ワイヤにワニスを塗布し、オーブン内でワニスを硬化させて溶媒を除去することによって形成され、それによって、薄いエナメル層を形成する。このプロセスは、目的のエナメルの構造または厚さが達成されるまで繰り返される。エナメル層を形成するために利用されるポリマー材料は、特定の最高動作温度での使用を意図される。加えて、電気デバイスは、ワイヤの絶縁体を破壊または劣化させ得る比較的高い電圧条件に供され得る。例えば、インバータは、特定のタイプのモーターに入力される可変周波数を生成し得、可変周波数は、モーターの早期巻線不良を引き起こす急峻な波形を示し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワイヤ絶縁体の劣化の結果としての早期不良を減らすための試みがなされてきた。これらの試みは、電気機械およびデバイスの取扱いおよび製造中におけるワイヤおよび絶縁体への損傷を最小限にすることならびに必要に応じてより短いリード長を使用することを含んでいた。さらに、リアクトルコイルまたはインバータドライブとモーターとの間のフィルターは、インバータドライブ/モーターの組み合わせによって生成される電圧スパイクおよび高周波を低減することによって、巻線の寿命を延ばし得る。しかしながら、このようなコイルは高価であり、システムの全体的なコストを増加させる。絶縁体の量を増やすと、電気デバイスの巻線の寿命が向上し得るが、このオプションは高価であり、デバイス内の銅の隙間の量を減らし、それによってモーターの効率が低下する。加えて、特定の数のエナメル層に達すると、層間剥離が発生し得る。
【0005】
コロナ耐性を改善するためのより最近の試みには、エナメルにフィラーを組み込むことが含まれている。フィラーが少なくとも1つのエナメル層に分散されている多層絶縁システムを含むワイヤが開発されている。しかしながら、これらの従来のワイヤの多くは、モータアセンブリに組み込む前に曲げて成形すると、乏しい可撓性を示すことがわかっている。多くの場合、ワイヤの成形時に、少なくとも最外層のエナメル層(またはトップコート)、場合によっては複数のエナメル層に亀裂が生じることが判明した。さらに大きな亀裂は、長方形ワイヤまたは異形ワイヤで確認された。
それゆえ、電気デバイス内に存在するより高い温度および/または電圧に長期間耐えるように設計された絶縁体を有し、可撓性がさらに向上し、ワイヤの曲げや成形が可能になる、改良されたマグネットワイヤについての好機が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
詳細な説明は、添付の図を参照して示される。図では、参照番号の左端の数字は、参照番号が最初に表示される図を識別する。異なる図で同じ参照番号を使用している場合は、同様または同一の事柄を提示する。しかしながら、種々の実施形態は、図に示されているもの以外の要素および/または構成要素を利用し得る。また、図面は、本明細書に記載の例示的な実施形態を説明するために提供され、本開示の範囲を限定することを意図しない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本開示の種々の実施形態に従って形成され得る例示的なマグネットワイヤ構造の断面図である。
図1B】本開示の種々の実施形態に従って形成され得る例示的なマグネットワイヤ構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の特定の実施形態は、従来のマグネットワイヤと比較して向上したコロナ耐性、熱寿命、可撓性を有する多層絶縁システムを含むマグネットワイヤに関する。本開示の一態様によれば、マグネットワイヤは、導体と、導体の周囲に形成された絶縁システムと、を含み得る。絶縁システムは、少なくとも3層のエナメル絶縁を含み得る。ベースコートは、ポリエステル、THEICポリエステル、ポリエステルイミド、またはポリアミドイミド(「PAI」)などの第1のポリマー材料から形成され得る。一例の実施形態では、ベースコートは、比較的高い固形分含量および粘度を有するTHEICポリエステルから形成され得る。ミッドコートは、PAIを含むベース樹脂材料から形成され得、フィラー材料は、ベース樹脂に添加または配合され得る。次いで、未充填PAIから形成されたトップコートなどのトップコートは、充填PAIミッドコート上に形成され得る。
【0009】
ベースコート、ミッドコート、およびトップコートの各々は、所望の層厚を提供する任意の適切な数の副層を含み得る。加えて、ベースコート、ミッドコートおよびトップコートの間の厚さの任意の適切な比を利用し得る。特定の実施形態では、ベースコートは、全絶縁体の厚さの約10パーセント(10%)~約70パーセント(70%)の第1の厚さを有し得、ミッドコートは、全絶縁体の厚さの約5パーセント(5%)~約80パーセント(80%)の第2の厚さを有し得、トップコートは、全絶縁体の厚さの約5パーセント(5%)~約50パーセント(50%)の第3の厚さを有し得る。特定の実施形態では、ベースコートは、総厚の約45パーセント(45%)~65パーセント(65%)を占め得、ミッドコートは、総厚の約25パーセント(25%)~40パーセント(40%)を占め得、トップコートは、総厚の5パーセント(5%)~15パーセント(15%)を占め得る。さらに他の実施形態では、ベースコートは、総厚の約45パーセント(45%)~65パーセント(65%)を占め得、ミッドコートは、総厚の約5パーセント(5%)~40パーセント(40%)を占め得、トップコートは、総厚の5パーセント(5%)~35パーセント(35%)を占め得る。特定の実施形態では、ミッドコートが全エナメル絶縁体の厚さの少なくとも5パーセント(5%)を占める場合に、マグネットワイヤが所望の電気的性能を提供し得ることが見出されている。他の実施形態では、ミッドコートが全エナメル絶縁体の厚さの少なくとも15%、20%、または25%を占める場合に、所望の電気的性能が提供され得る。
【0010】
本開示の一態様によれば、ミッドコートは、PAIを含むポリマー樹脂に添加されたフィラーを含み得る。ベース樹脂がPAIに加えてポリマー材料を含み得る場合であっても、理解を容易にするために、樹脂は、PAI樹脂と呼ばれ得る。フィラーは、少なくとも酸化クロム(III)(Cr)(酸化クロムとも称される)および二酸化ケイ素(SiO)(シリカとも称される)のブレンドを含み得る。ブレンドはさらに、所望に応じて、酸化チタン(IV)(TiO)(二酸化チタンとも称される)のような、他の適切な材料を含み得る。フィラーの添加は、充填PAIから形成されたエナメル層および/または充填PAIエナメル層を組み込んだマグネットワイヤ絶縁システムの耐コロナ性および/または熱寿命を改善し得る。結果として、マグネットワイヤおよび/またはマグネットワイヤを組み込んだ電気デバイス(例えば、モーターなど)の寿命は、部分放電および/または他の悪条件の下で増加または延長され得る。フィラーは、充填PAI層を形成するために任意の適切な比でPAIに添加され得る。例えば、特定の実施形態では、フィラーの総量は、約10重量パーセント(10%)~約25重量パーセント(25%)、例えば約15重量パーセント(15%)とし得る。フィラーに配合される様々な成分には、多種多様な配合比や混合比を利用され得る。例えば、酸化クロムおよび二酸化ケイ素は、多種多様な適切な重量比で配合され得る。様々な実施形態では、フィラーは、約20重量パーセント(20%)~約80重量パーセント(80%)の二酸化ケイ素と、約20重量パーセント(20%)~約80重量パーセント(80%)の酸化クロムとを含み得る。
【0011】
充填されたPAIミッドコートを追加のエナメル層と組み合わせた多層エナメルシステムは、さまざまな利点を提供し得る。例えば、エナメルシステムの全体的なコストは、すべて充填されたPAIを含むシステムと比較して削減され得る。しかしながら、エナメルシステムの全体的な性能(例えば、熱耐久性、耐コロナ性など)は、すべて充填されたPAIを含む絶縁体の性能と同等であり得、および/または所望の用途(例えば、電気自動車用途等)であり得る。別の例として、エナメルシステムは、マグネットワイヤの成形または加工を可能にする可撓性を向上させ得る。例えば、マグネットワイヤをU字型ヘアピン形状または他の適切な形状に曲げてモーター用途に組み込み得、強化された可撓性によって、エナメル絶縁体に亀裂が形成されることなくワイヤを成形し得る。
【0012】
本開示の他の実施形態は、改善されたコロナ耐性、熱寿命、および可撓性を有する多層絶縁システムを含むマグネットワイヤを製造する方法を対象とする。導体が設けられ得、導体の周囲に多層絶縁システムが形成され得る。絶縁システムを形成するために、第1のポリマーエナメル絶縁体のベースコートが導体の周囲に形成され得る。特定の実施形態では、第1のポリマーエナメル絶縁体は、比較的高い固形分および/または粘度を有する樹脂材料から形成されたTHEICポリエステルなどのTHEICポリエステルを含み得る。例えば、THEICポリエステルを含むワニスをワイヤに塗布し、硬化させてベースコートを形成し得る。他の実施形態では、第1のポリマー材料は、ポリエステル、ポリエステルイミド、PAI、または他の適切な材料を含み得る。第2のポリマーエナメル絶縁体のミッドコートは、ベースコートの周りに形成され得(例えば、充填PIを含むワニスを塗布し、塗布された材料を硬化させることによって)、第2のポリマーエナメル絶縁体は、ベースポリアミドイミド材料中に分散されたフィラーを含み得る。フィラーは、二酸化ケイ素と酸化クロムとの組み合わせ、例えば、20重量パーセント~80重量パーセントの二酸化ケイ素および20重量パーセント~80重量パーセントの酸化クロムを含み得る。加えて、フィラーは、第2のポリマー絶縁体の10重量パーセント~25重量パーセントを構成し得る。未充填のPAIを含む第3のポリマーエナメル絶縁体などの第3のポリマーエナメル絶縁体のトップコートは、ミッドコートの周りに形成され得る(例えば、PAIを含むワニスを塗布し、塗布された材料を硬化させることによって)。ベースコート、ミッドコート、およびトップコートは、多種多様な適切な厚さおよび/または構造で形成され得、多種多様な適切な厚さの比が利用され得る。加えて、成形されたマグネットワイヤを4mmのマンドレルの周囲で180度曲げたとき、トップコートの亀裂頻度は1.0未満であり、トップコートの亀裂頻度は、マンドレルの周囲でそれぞれ曲げられたワイヤの20サンプルあたりのそれぞれのトップコートの亀裂の数を表す。
【0013】
マグネットワイヤの形成中、ベースコート、ミッドコート、トップコートについてさまざまな厚さと厚さの比を利用し得る。一例の実施形態では、ミッドコートを形成することは、絶縁システムの総厚の少なくとも25パーセントを占めるミッドコートを形成することを含み得る。別の例として、ベースコートを形成することは、絶縁システムの総厚の10パーセント~70パーセントである第1の厚さを有するベースコートを形成することを含み得、ミッドコートを形成することは、総厚の25パーセント~80パーセントである第2の厚さを有するミッドコートを形成することを含み得、トップコートを形成することは、総厚の5パーセント~50パーセントである第3の厚さを有するトップコートを形成することを含み得る。さらに別の例として、ベースコートを形成することは、絶縁システムの総厚の45パーセント~65パーセントである第1の厚さを有するベースコートを形成することを含み得、ミッドコートを形成することは、総厚の25パーセント~40パーセントである第2の厚さを有するミッドコートを形成することを含み得、トップコートを形成することは、総厚の5パーセント~15パーセントである第3の厚さを有するトップコートを形成することを含み得る。
【0014】
本開示の実施形態は、本開示の特定の実施形態が示されている添付の図面を参照して、以下により完全に説明されよう。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で実施され得、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底しており、完全なものであり、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるように提供される。同様の番号は、全体を通して同様の要素を指す。
【0015】
図1Aは、エナメル絶縁体でコーティングされた導体110を含み得る、例示的な円形マグネットワイヤ100の断面端面図を示す。任意の適切な数のエナメル層を必要に応じて利用し得る。例えば、図1Aに示すように、導体110は、ポリマーベースコート120、ベースコート120上に配置または形成されたポリマーミッドコート130、およびミッドコート130上に配置または形成されたポリマートップコート140によって囲まれ得る。ミッドコート130などの1つ以上のエナメル層は、二酸化ケイ素と酸化クロムとの組み合わせを含むフィラーのなどの、適切な無機フィラーを含む充填PAI層であり得る。
【0016】
図1Bは、例示的な長方形マグネットワイヤ150の断面端面図を示し、これは、エナメル絶縁体でコーティングされた導体160を含み得る。任意の適切な数のエナメル層を必要に応じて利用し得る。例えば、図1Bに示すように、導体は、ポリマーベースコート170、ベースコート170上に配置または形成されたポリマーミッドコート180、およびミッドコート180上に配置または形成されたポリマートップコート190によって囲まれ得る。ミッドコート180などの1つ以上のエナメル層は、二酸化ケイ素と酸化クロムとの組み合わせを含むフィラーなどの適切な無機フィラーを含む充填PAI層であり得る。図1Aの円形ワイヤ100を、下記で詳しく説明する。しかしながら、図1Bの長方形ワイヤ150の様々な構成要素は、図1Aの円形ワイヤ100について説明したものと同様であり得ることが理解されよう。
【0017】
導体110は、多種多様な適切な材料または材料の組み合わせから形成され得る。例えば、導体110は、銅、アルミニウム、アニールされた銅、無酸素銅、銀メッキ銅、ニッケルメッキ銅、銅クラッドアルミニウム(「CCA」)、銀、金、導電性合金、バイメタル、カーボンナノチューブまたは他の適切な導電性材料から形成され得る。加えて、導体110は、図示の円環状または円形の断面形状等の任意の適切な断面形状で形成され得る。他の実施形態では、導体110は、(図1Bに示されるような)長方形、正方形、楕円形、卵様楕円形または任意の他の適切な断面形状を有し得る。長方形のような特定の断面形状に所望されるように、導体は、丸みを帯びた、鋭い、滑らかな、湾曲した、角度がついた、切頭状のまたは他の形状の角を有し得る。導体110はまた、任意の適切なゲージ、直径、高さ、幅、断面積等のような任意の適切な寸法(例えば、16AWG、18AWGなど)で形成され得る。例えば、長方形の導体は、約1.0mm~約3.0mmの短辺と約2.0mm~約5.0mmの長辺とを有し得る。
【0018】
図示のベースコート120、ミッドコート130およびトップコート140などの、任意の数のエナメル層は、導体110の周りに形成され得る。エナメル層は、通常、ポリマーワニスを導体110に塗布し、次いで、導体110を適切なエナメルオーブンまたは炉で焼き付けすることによって形成される。ポリマーワニスは、通常、1つ以上の溶媒に懸濁された熱硬化性ポリマー材料または樹脂(すなわち、固体)を含む。熱硬化性または熱硬化されたポリマーは、軟質の固体または粘性の液体(例えば、粉末等)から不溶性のまたは架橋された樹脂に不可逆的に硬化し得る材料である。熱硬化性ポリマーは、通常、溶融プロセスによってポリマーが分解または劣化するため、押し出しを介する塗布のために溶融することができない。したがって、熱硬化性ポリマーを溶媒に懸濁してワニスを形成し、これを塗布および硬化してエナメルフィルム層を形成し得る。ワニスを塗布した後、焼き付けまたは他の適切な硬化の結果として溶媒が除去され、それによって固体のポリマーエナメル層が残る。必要に応じて、エナメルの複数の層を導体110に塗布して、所望のエナメルの厚さまたは構造(例えば、導体および任意の下層の厚さを差し引くことによって得られるエナメルの厚さ)を達成し得る。各エナメル層は、同様のプロセスを利用して形成され得る。言い換えると、第1のエナメル層は、例えば、適切なワニスを塗布し、導体をエナメルオーブンに通すことによって形成され得る。続いて、第2のエナメル層は、適切なワニスを塗布し、導体を同じエナメルオーブンまたは異なるエナメルオーブンのいずれかに通すことによって、形成され得る。追加の層も同様の方法で形成される。エナメルオーブンは、オーブンを通るワイヤの複数の通過を容易にするように構成され得る。所望に応じて、1つ以上のエナメルオーブンに加えてまたはその代替として、他の硬化装置を利用し得る。例えば、1つ以上の適切な赤外光、紫外線、電子ビーム、および/または他の硬化システムを利用し得る。
【0019】
ベースコート120、ミッドコート130およびトップコート140などのエナメルの各層は、任意の適切な数の副層で形成され得る。例えば、ベースコート120は、単一のエナメル層、あるいは、所望の構造または厚さが達成されるまで形成される複数のエナメル層または副層を含み得る。エナメルの各層は、約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、75、80、90、または100マイクロメートルの厚さ、前述の値の任意の2つの間の範囲に含まれる厚さ、および/または前述の値の1つによって最小端または最大端のいずれかに制限される範囲に含まれる厚さなどの任意の所望の厚さを有し得る。総絶縁システム(例:エナメル層の結合した厚さ)は、約5、10、15、20、25、30、40、50、60、70、75、80、90、100、125、150、175、200、225、250、275、または300マイクロメートルの厚さ、前述の値の任意の2つの間の範囲に含まれる厚さ(例:60ミクロンと100ミクロンの間の厚さなど)、および/または前述の値の1つによって最小端または最大端のいずれかに制限される範囲に含まれる厚さなどの任意の所望の厚さをも有し得る。特定の実施形態では、例示的な厚さの値は、エナメル層またはエナメルシステム全体の厚さに適用され得る。他の実施形態では、例示的な厚さの値は、1つのエナメル層またはエナメルシステム全体の構造に適用され得る(例えば、エナメルの追加によるワイヤ全体の厚さの変化、エナメル層またはエナメルシステムの厚さの2倍、エナメル層またはエナメルシステムによるワイヤの両側の厚さなど)。さらに他の実施形態では、エナメル層またはエナメルシステムの構造厚さの値の例を提供するために、上記で提供された厚さの値の例は、2倍になり得る。実際、任意の適切な厚さを有するエナメル層および/または絶縁システムを用いて、多種多様な異なるワイヤ構造を形成し得る。
【0020】
エナメル層を形成するために、所望に応じて、多種多様な異なるタイプのポリマー材料を利用し得る。適切な熱硬化性材料の例には、ポリアミドイミド(「PAI」)、アミドイミド、ポリエステル、トリス(2-ヒドロキシエチルイソシアヌレート)またはTHEICポリエステル、ポリエステルイミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリケトンなどが含まれるが、これらに限定されない。本開示の一態様によれば、ミッドコート130などの少なくとも1つのエナメル層は、充填されたPAIを含み得る。特定の実施形態では、エナメル絶縁システム全体がPAIから形成され得る。例えば、エナメル絶縁システムは、未充填のPAIベースコート120、充填されたPAIミッドコート130、および未充填のPAIトップコート140を含み得る。他の実施形態では、1つ以上のPAI層は、他のタイプの熱硬化性材料から形成されたエナメル層と組み合わせられ得る。例えば、ベースコート120は、ポリエステルまたはTHEICポリエステルなどのPAI以外の材料から形成され得る。次いで、ミッドコート130は、充填PAIから形成され得、トップコート140は、非充填PAIまたは別の適切な熱硬化性材料から形成され得る。異なるエナメル層間では、任意の適切な厚さ比を利用することができる。実際、エナメル層の広範な適切な組み合わせは、任意の適切な材料および/または材料の組み合わせから形成され得る。
【0021】
特定の実施形態では、マグネットワイヤ100は、3層絶縁システムで形成され得る。ベースコート120は、ポリエステル、THEICポリエステル、ポリエステルイミド、またはPAIなどの第1のポリマー材料から形成され得る。ミッドコート130は、充填されたPAIから形成され得る。次いで、未充填のPAIから形成されたトップコートなどのトップコート140を、充填されたPAIミッドコート130の上に形成し得る。1つの例示的な実施形態では、ベースコート120は、THEICポリエステルを含み得る。所望に応じて、THEICポリエステルまたは変性THEICポリエステルエナメルは、比較的高い固形分含量および/または比較的高い粘度を有する材料から形成され得る。例えば、固形分含有量は、少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%であり得る。特定の実施形態では、固形分含量は、50%~55%であり得る。特定の実施形態では、THEICポリエステル材料は、少なくとも25,000センチポアズの粘度、例えば25,000~65,000センチポアズの粘度を有し得る。比較的高い固形分および高い粘度を含む結果として、ベースコート120は、1.3未満、1.2未満または1.1未満の同心度などの比較的低い同心度で形成され得る。これは、長方形ワイヤ(図2Bのワイヤ150など)にも当てはまり、ワニスは通常、ワイヤ上への塗布とエナメル層への硬化との間において流動または移動(例えば、角へ流動)する。同心度の低いベースコート120を形成することによって、後続の層の同心度が改善され得、絶縁システムの可撓性が向上し得る。
【0022】
所望に応じて、ミッドコート130を形成するために利用されるベースPAI材料は、比較的高い固形分含量および/または比較的高い粘度を有し得る。例えば、固形分含量は少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%であり得る。特定の実施形態では、固形分含量は30%~45%であり得る。特定の実施形態では、充填されたPAI材料は、少なくとも10,000センチポアズの粘度、例えば10,000~25,000センチポアズの粘度を有し得る。比較的高い固形分および高い粘度を含む結果として、ミッドコート130は、比較的低い同心度、例えば、1.3未満、1.2未満、または1.1未満の同心度で形成され得、その結果、マグネットワイヤ絶縁システムの可撓性が向上し得る。
【0023】
様々な実施形態では、ベースコート120、ミッドコート130、およびトップコート140の間の厚さの任意の適切な比を利用し得る。所望に応じて、異なるエナメル層の厚さは、マグネットワイヤ100の所望の用途(例えば、ハイブリッド車および電気自動車用途など)および所望の熱性能、耐コロナ性、部分放電性能、可撓性などの関連する性能要件に少なくとも部分的に基づき得る。特定の実施形態では、ベースコート120は、全絶縁体厚さの約10パーセント(10%)~約70パーセント(70%)である第1の厚さを有し得、ミッドコート130は、全絶縁体厚さの約5パーセント(5%)~約8パーセント(80%)である第2の厚さを有し得、トップコート140は、全絶縁体厚さの約5パーセント(5%)~約50パーセント(50%)である第3の厚さを有し得る。特定の実施形態では、ベースコート120は、総厚の約45パーセント(45%)~65パーセント(65%)を占め得、ミッドコート130は、総厚の約25パーセント(25%)~40パーセント(40%)を占め得、トップコート140は、総厚の5パーセント(5%)~15パーセント(15%)を占め得る。さらに他の実施形態では、ベースコートは、総厚の約45パーセント(45%)~65パーセント(65%)を占め得、ミッドコートは、総厚の約5パーセント(5%)~40パーセント(40%)を占め得、トップコートは、総厚の5パーセント(5%)~35パーセント(35%)を占め得る。
【0024】
ベースコート120、ミッドコート130、およびトップコート140の間の他の適切な厚さ比は、所望に応じて多種多様に利用され得る。特定の実施形態では、充填PAI層(例えば、充填PAIミッドコート130など)の他のエナメル層(例えば、ベースコート120およびトップコート140)に対する厚さは、従来のエナメル絶縁システムに比べて改善された所望の全体的性能を有する絶縁システムをもたらし得る。言い換えれば、充填PAI絶縁体が全の絶縁体厚さのうちの十分なレベルを占めるとき、マグネットワイヤ100は、所望のサーマルインデックス、所望の熱寿命、所望の耐コロナ性、所望の部分放電開始電圧などの1つ以上の所望の性能特性を示し得る。特定の実施形態では、充填PAIエナメル層(例えば、充填PAIミッドコート130など)は、全絶縁体厚さの少なくとも5パーセント(5%)を占め得る。実際、充填PAIエナメル層は、コロナ電荷を分散させるのに十分な厚さである場合、特定の用途には十分であり得る。他の実施形態では、充填PAIエナメル層(例えば、充填PAIミッドコート130など)は、全絶縁体の厚さの少なくとも25パーセント(25%)または少なくとも30パーセント(30%)を占め得る。様々な他の実施形態では、充填PAIエナメルは、エナメル全体の厚さの少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、75、または80%を占める厚さ、または上記の値のいずれか2つの間の範囲に含まれる厚さを有し得る。
【0025】
充填PAIを多層エナメル絶縁システムに組み込むことによって、さまざまな利点が得られる。特定の実施形態では、充填PAIエナメル層(例えば、3層絶縁システムにおける充填ミッドコート層130など)の組み込みは、従来のマグネットワイヤと比較して、マグネットワイヤ絶縁システムの熱性能、コロナ放電性能、および/または部分放電性能を改善し得る。これらの性能特性は、すべて充填されたPAIエナメルを含む絶縁体と類似または同等であり得る。しかしながら、追加層(すなわち、(1つ以上の)非充填PAI層)の組み合わせは、すべての充填PAIまたは高コストの材料を含むエナメルと比較して、エナメル絶縁システムの全体的なコストを低下または低減させ得る。言い換えれば、所望の性能を達成するのに十分な量の充填されたPAIエナメルを含み得るが、一方、所望の全体的な絶縁の構造または厚さを達成するため、および/または導体110への接着および/または低摩耗などの他の所望のパラメータを促進するために、より低コストの(1つ以上の)エナメルを利用し得る。
【0026】
図1A~1Bのワイヤ100、150を引き続き参照すると、1つ以上の適切な添加剤は、必要に応じて、1つ以上のエナメル層に組み込まれ得る。添加剤は、ワイヤの様々な構成要素および/または層間の接着促進、絶縁システムの可撓性の向上、潤滑の提供、粘度の向上、耐湿性の向上、および/または高温安定性の促進など、様々な目的を果たし得る。例えば、添加剤は、エナメル層と下地層(例えば、導体、下地コート、下地エナメル層など)との間、および/または(1つ以上の)フィラーとベースポリマー材料との間のより大きな接着を補助または促進するための接着促進剤として機能し得る。様々な実施形態では、所望に応じて、多種多様な適切な添加剤を利用し得る。
【0027】
特定の実施形態では、1つ以上の適切な表面改質処理を、導体および/または任意の数のエナメル層上で利用して、その後に形成されるエナメル層との接着を促進し得る。適切な表面改質処理の例には、プラズマ処理、紫外線(「UV」)処理、コロナ放電処理、および/またはガス火炎処理が含まれるが、これらに限定されない。表面処理は、導体またはエナメル層の形状を変更し得、および/または導体またはエナメル層の表面に、その後に形成されるエナメル層の結合を強化または促進する官能基を形成し得る。変化した形状はまた、処理された層の表面張力を変化させることによって、後続のエナメル層を形成するために利用されるワニスの湿潤性を増強または向上させ得る。結果として、表面処理は層間剥離を減らし得る。
【0028】
様々な実施形態では、所望に応じて、1つ以上の他の絶縁層は、複数のエナメル層に加えて、マグネットワイヤ100、150に組み込まれ得る。例えば、1つ以上の押し出された熱可塑性層(例えば、押し出されたオーバーコート等)、半導体性層、テープ絶縁層(例えば、ポリマーテープ等)および/またはコンフォーマルコーティング(例えば、パリレンコーティング等)は、マグネットワイヤ100、150に組み込まれ得る。所望に応じて、他の多種多様な絶縁体構成および/または層の組み合せを利用し得る。加えて、全体的な絶縁システムは、任意の適切な材料および/または材料の組み合わせから形成された任意の数の適切な副層を含み得る。
【0029】
本開示の一態様によれば、1つ以上のポリアミドイミド層(および場合によっては他のエナメル層)は、適切なフィラーを含み得る。例えば、マグネットワイヤ100、150などのマグネットワイヤに組み込まれた1つ以上のPAIエナメル層は、適切なフィラーを含み得る。加えて、フィラーは、少なくとも酸化クロム(III)(Cr)と二酸化ケイ素(SiO)とのブレンドを含み得る。酸化クロムと二酸化ケイ素とのブレンドは、酸化チタン(IV)(TiO)など、所望に応じて他の適切な材料をさらに含み得る。他の実施形態では、フィラーは、少なくとも二酸化チタンと二酸化ケイ素とのブレンドを含み得る。フィラーの添加は、マグネットワイヤ上に充填されたPAIから形成されたエナメル層のコロナ耐性および/または熱寿命を向上させ得る(例えば、図1Aのミッドコート130など)。結果として、マグネットワイヤおよび/またはマグネットワイヤを組み込んだ電気デバイス(例えば、モーターなど)の寿命は、部分放電および/または他の悪条件の下で増加または延長され得る。
【0030】
フィラーの添加は、マグネットワイヤ100、150の熱伝導性をも向上し得る。1つ以上の充填PAI絶縁層は、マグネットワイヤの導体から熱を伝導または引き出し得る。その結果、マグネットワイヤは、充填絶縁層を含まない従来のマグネットワイヤよりも比較的低い温度で動作し得る。例えば、電気機械に使用されるとき、マグネットワイヤおよび/または電気機械は、充填絶縁層を使用しない従来の装置よりも摂氏約5、6、7、8、9、10、11、または12度低い温度で動作し得る。この改善された熱伝導率は、より高い電圧でのマグネットワイヤおよび/または電気機械の動作を容易にし、それによって出力を改善し得る。様々な実施形態では、充填PAI絶縁層は、同様の厚さを有する未充填PAI絶縁層の少なくとも1.5倍、2倍、3倍、または4倍の熱伝導率を有し得る。言い換えれば、充填されたPAI絶縁層は、フィラーが添加されたベースPAI材料の第2の熱伝導率の少なくとも1.5倍、2倍、3倍、または4倍である第1の熱伝導率を有し得る。
【0031】
フィラー材料は、任意の適切な比でPAIに添加され得る。特定の実施形態では、充填されたPAIエナメル絶縁層中のフィラーの総量は、約10重量パーセント(10%)~約25重量パーセント(25%)であり得る。例えば、フィラーの総量は、約15重量パーセント(15%)~約20重量パーセント(20%)であり得る。他の様々な実施形態では、フィラーの総量は、約5、7.5、10、12.5、15、17、17.5、20、25、30、35、40、45、または50重量パーセント、上記の値の任意の2つの間の範囲に含まれる量または上記の値のうちの1つによって最小または最大のいずれかの端に制限される範囲に含まれる量であり得る。巻線の寿命における実質的な改善は、全フィラーレベルが約5重量%よりはるかに低い場合には観察されず、特定のマグネットワイヤ用途では、フィラーの重量パーセントが増加し、閾値を超えると、絶縁体の可撓性が許容できなくなり得る。例えば、総充填量が重量ベースで約50%を超えると、可撓性に悪影響を及ぼし得る。
【0032】
フィラーに配合される様々な成分には、多種多様な配合比または混合比が利用され得る。例えば、酸化クロムおよび二酸化ケイ素は、多種多様な適切な重量比で配合され得る。様々な実施形態では、フィラーは、約20重量パーセント(20%)~約80重量パーセント(80%)の二酸化ケイ素、および約20重量パーセント(20%)~約80重量パーセント(80%)の酸化クロムを含み得る。例えば、フィラーは、約20、25、30、33、35、40、45、50、55、60、65、67、70、75、または80重量%、上記の値のいずれか2つの間の範囲に含まれる重量%(例えば、20%~40%の間など)、または上記の値のいずれかによって最小端または最大端のいずれかで囲まれた範囲に含まれる重量%(例えば、少なくとも20%など)の二酸化ケイ素を含み得る。同様に、フィラーは、約20、25、30、33、35、40、45、50、55、60、65、67、70、75、または80重量%、上記の値のいずれか2つの間の範囲に含まれる重量%(例えば、20%と40%の間など)、または上記の値のいずれかによって最小端または最大端のいずれかで囲まれた範囲に含まれる重量%(例えば、少なくとも20%など)の酸化クロムを含み得る。所望に応じて、第1の成分(例えば、二酸化チタン)と第2の成分(例えば、二酸化ケイ素)との比は、約80/20、75/25、70/30、67/33、65/35、60/40、55/45、50/50、45/55、40/60、35/65、33/67、30/70、25/75、20/80またはその他の適切な比であり得る。
【0033】
特定の実施形態では、フィラーに利用される成分は、1つ以上の所望の特性に基づいて選択され得る。例えば、第1のフィラー成分(例えば、酸化クロムなど)は、比較的低い抵抗率を有する無機酸化物として選択され得、第2のフィラー成分(例えば、二酸化ケイ素など)は、比較的大きな表面積を有する無機酸化物として選択され得る。混合物は、エナメル層を形成する前にPAIに添加され得、PAIエナメル層は、表面積の大きい無機酸化物と抵抗率の低い無機酸化物との混合物を含み得る。表面積の大きい無機酸化物は、より多くのエネルギーが絶縁体を貫通することを可能にし、それによって電気機器における高電圧および高周波の波形によって引き起こされる絶縁体の劣化を低減すると考えられる。二酸化ケイ素またはケイ素は、約90~約550m/gの表面積など、多種多様な比表面積を有するグレードで市販される。例えば、Evonik Degussa Corporationから入手可能なAEROSIL 90は90m/gの比表面積を有し、Cabot Corporationから入手可能なCAB-O-SIL EH-5は380m/gの比表面積を有する。特定の実施形態では、電気装置の巻線に存在する電圧波形に対する抵抗は、ケイ素の表面積が増加するにつれて改善され得る。したがって、約380m/g~約550m/gの比表面積を有するケイ素グレードが好ましく、または約380m/g、約550m/g、または別の閾値よりも大きい比表面積を有するケイ素グレードは、改善された性能を提供し得る。
【0034】
フィラーの成分は、任意の適切な粒径、表面積、および/または他の寸法を含み得る。例えば、フィラー成分は、約1ミクロン未満の公称粒径を有し得る。特定の実施形態では、フィラー成分は、ナノ粒子を含み得る。加えて、PAIポリマーにフィラーを添加するために、多種多様な適切な方法および/または技術を利用し得る。特定の実施形態では、フィラーは、ヘグマンゲージもしくは「8」またはそれよりも細かい粉砕のような所望の量以下に凝集体を低減するために、媒体粉砕、ボール粉砕、またはさもなければ摩砕または粉砕され得る。これらは概して高濃度で製造され、最終製剤の最終的な「減少」で低下し得る。所望に応じて、フィラーは、その粒子径は、約1.0ミクロン未満になるまで粉砕または摩砕され得る。所望に応じて他の粒子径にもされ得る。特定の実施形態では、フィラーは溶媒の存在下でPAIワニスに直接粉砕し得る。フィラーを直接PAIワニス(1液型合成物とも称される)に組み込んだ結果、より高い粘度および/またはより高い固形分含量のPAIが得られ得る。より高い粘度および/またはより高い固形分は、PAIエナメル層が形成されるとき、より良い同心度を可能にし、それによって可撓性が向上し得る。他の実施形態では、フィラーは他の物質内で粉砕してからPAIワニスに加えられ得る。例えば、フィラーを含むPAIまたは他のペーストを形成し、エナメル層を塗布する前にポリマーペーストをPAIと組み合わせ得る。粉砕中に溶媒を添加することによって、フィラー粒子の再凝集または凝集を防ぎ得ることを理解されたい。フィラーをPAIポリマーに分散させた後、PAIポリマーを任意の適切な方法で導体に塗布し得る。例えば、未硬化のPAI絶縁体は、マルチパスコーティングおよびフローティングまたはワイピングダイを使用してマグネットワイヤに塗布され得、その後、高温で硬化(例えば、エナメルオーブン内で硬化)され得る。他のエナメル層(例えば、ベースコートエナメル層、ポリアミドイミドトップコートなど)も同様の方法で形成され得る。
【0035】
1つ以上の充填PAIエナメル層を含むマグネットワイヤ100、150は、従来のマグネットワイヤエナメルと比較して向上したコロナ耐性、熱伝導率および/または熱性能を示し得る。例えば、1つ以上の充填PAIエナメル層を使用することによって、220℃以上の耐熱クラス、サーマルインデックス、または熱耐久性のマグネットワイヤを提供し得る。特定の実施形態では、充填PAI絶縁体を含むワイヤは、240℃以上の耐熱クラス、サーマルインデックス、または熱耐久性を有し得る。特定の実施形態では、1つ以上のトップコート層(例えば、PAIトップコート)を追加することによって、マグネットワイヤの耐熱クラスを実質的に低下させることなく、追加の靭性と耐摩耗性とを提供し得る。マグネットワイヤまたはマグネットワイヤ絶縁層のサーマルインデックスは、一般的に電気絶縁材料の温度対時間特性を比較する摂氏の数値として定義される。これは、温度に対する寿命のアレニウスプロットを指定された時間(通常は20,000時間)に外挿することによって求められ得る。マグネットワイヤのサーマルインデックスまたは熱耐久性を測定または決定するための1つの試験は、ASTMインターナショナルが定めたASTM D2307試験である。耐熱クラスは概して、全米電機工業会(NEMA)またはULなどの標準化団体が定めたサーマルインデックスの範囲を示す。例えば、220クラスの材料は220℃~239℃のサーマルインデックスを有し、240クラスの材料は240℃と別の閾値との間のサーマルインデックスを有する。さらに、1つ以上のフィラーをPAIに添加すると、絶縁体の熱老化に悪影響を与えたり、損傷したりすることなく、インバータの使用寿命および/または電気機械の寿命を改善し得る。
【0036】
上述したように、充填PAI層を多層エナメル絶縁システム(例えば、図1Aおよび図1Bに示されるような3層システム)に組み込むことによって、ワイヤのコストを抑制しつつ性能を向上させ得る。例えば、充填されたPAI層は、従来のマグネットワイヤ絶縁システムと比較して、改善されたサーマルインデックス、熱寿命、コロナ性能、PDIV性能、および/または他の所望の特性を提供し得る。しかしながら、充填された(1つ以上の)PAI層と、より安価な材料(例えば、THEICポリエステルなど)から形成された1つ以上の層との組み合わせは、全体的なコストの抑制を支援し得る。実際、充填PAI絶縁体中のフィラーの固有の組み合わせと量、および絶縁システム内の層間の厚さ比は、同価格の従来型ワイヤよりも高い所望のサーマルインデックスをもたらし得る。
【0037】
特定の実施形態では、充填PAIと(1つ以上の)追加層との組み合わせを含む多層エナメルシステム、例えば、THEICポリエステルベースコート120、充填PAIミッドコート130、および非充填PAIトップコート140を含むシステムは、所定の用途(例えば、電気自動車またはハイブリッド電気自動車用のインバータデューティワイヤなど)に対して所望の閾値を超えるサーマルインデックスを有し得る。例えば、多層絶縁システムは、少なくとも220℃または少なくとも220℃のサーマルインデックスを有し得る。様々な実施形態では、多層絶縁システムは、少なくとも220℃、230℃、235℃、または240℃のサーマルインデックスを有し得るか、または上記の値のいずれか2つの間の範囲に含まれるサーマルインデックスを有し得る。特定の実施形態では、絶縁システムの全体的なサーマルインデックスは、追加層(例えば、THEICポリエステルなど)を形成するために利用される特定のポリマー材料によって提供されるサーマルインデックスを上回り得る。言い換えれば、充填PAI層を含めることで絶縁システムのサーマルインデックスを向上させ得る一方で、他の層を含めることで追加の利点(例えば、コスト上の利点など)を提供し得る。
【0038】
特定の実施形態では、充填PAIと(1つ以上の)追加層との組み合わせを含む多層エナメルシステム、例えば、THEICポリエステルベースコート120、充填PAIミッドコート130、および非充填PAIトップコート140を含むシステムは、所望の用途(例えば、ハイブリッド車および電気自動車用途など)に適した、強化された部分放電開始電圧(「PDIV」)および絶縁破壊または絶縁耐力性能を示し得る。特定の実施形態では、3層絶縁システムを有する円形ワイヤ100は、少なくとも500ボルトの二乗平均平方根(RMS)のPDIVを有し得る。三層絶縁システムを有する長方形ワイヤ150は、少なくとも1,100ボルトの平均PDIVを有し得る。他の実施形態では、長方形ワイヤは、少なくとも1,000、1050、1,100、1,150、または1,200ボルトの平均PDIV、または上記の値のいずれか2つの間の範囲に含まれるPDIVを有し得る。加えて、3層絶縁システムを有するマグネットワイヤ100、150は、少なくとも15,000ボルトの室温での絶縁破壊を有し得る。様々な実施形態では、絶縁破壊は、少なくとも15,000、16,000、17,000、18,000、19,000、または20,000ボルト、または上記の値の任意の2つの間の範囲に含まれる絶縁破壊であり得る。
【0039】
加えて、特定の実施形態では、充填されたPAIと1つ以上の追加のエナメル層(例えば、THEICポリエステルなど)とを組み合わせた多層絶縁システムは、特定の従来のマグネットワイヤ絶縁システムと比較して可撓性を高め得る。この強化された可撓性によって、長方形マグネットワイヤ150は、絶縁体に亀裂を生じさせたりさもなければ損傷させたりすることなく、所望の用途(例えば、モータ用途など)に組み込むために、より容易に成形されたり、曲げられたりすることが可能になり得る。例えば、マグネットワイヤ150は、絶縁体を損傷するまたは損なうことなく、ヘアピン(例えば、ほぼU字型のヘアピン)または他の所定の形状により容易に成形され得る。ポリエステルベースの上に充填されたPAI絶縁体を組み込んだ絶縁体システムなど、他のある種の絶縁システムは可撓性が低く、同様の曲げや成形を受けるとエナメルにひび割れが生じ得ることが判明している。特定の実施形態では、充填PAIを組み込んだ絶縁システムを有するマグネットワイヤ150は、1.0未満の亀裂頻度を有するトップコート140で、ワイヤ100を4mmのマンドレルの周りに180°曲げることが可能である可撓性を有し得る。他の実施形態では、トップコート140の亀裂頻度は、1.0未満、0.8未満、0.75未満、0.65未満、0.5未満、0.4未満、0.25未満、0.1未満、または前述の値のいずれか2つの間の範囲に含まれる頻度であり得る。さらに他の実施形態では、トップコート140の亀裂頻度はゼロであり得る。トップコートの亀裂頻度は、曲げられたワイヤの20サンプルあたりのトップコート140絶縁層で確認された亀裂の総数(例えば、20サンプルについてカウントされた亀裂の総数を20で割ったもの)として定義される。下記の例に示すように、他の絶縁システムを有するマグネットワイヤは、トップコートの亀裂および/または絶縁システムを完全に貫通する亀裂の両方をもたらす、はるかに低い可撓性を示した。
【0040】
図1A~1Bを参照して上記で説明したマグネットワイヤ100、150は、例としてのみ提供されている。様々な実施形態では所望に応じて、図示されたマグネットワイヤ100、150に対して多種多様な代替案を作成し得る。例えば、1つ以上のエナメル層に加えて、多種多様な異なるタイプの絶縁層は、マグネットワイヤ100、150に組み込まれ得る。別の例として、マグネットワイヤ100、150および/または1つ以上の絶縁層の断面形状を変更し得る。実際、本開示は、多種多様な適切なマグネットワイヤ構造を想定している。これらの構造には、任意の数の層および/または副層を有する絶縁システムが含まれ得る。
【実施例0041】
以下の実施例は、例示的かつ非限定的なものとして意図されており、本発明の特定の実施形態を表す。実施例では、多層エナメル絶縁システムを組み込んだ3つの異なるマグネットワイヤ構造の比較データを示す。第1のワイヤ構造は、本開示の実施形態で規定する多層エナメルシステムを含む。第1の構造を有する円形ワイヤサンプルは、18AWG導体、約38ミクロンの構造を有するTHEICポリエステルベースコート、約23ミクロンの構造を有する充填PAIミッドコート(等量のCrおよびSiOを有する15重量%のフィラー)、および約8ミクロンの構造を有する未充填PAIトップコートを含む。長方形ワイヤのサンプルには、約50ミクロンの構造を有するTHEICポリエステルベースコート、約28ミクロンの構造を有する充填PAIミッドコート(等量のCrおよびSiOを有する15重量%のフィラー)、約7ミクロンの構造を有する未充填PAIトップコートが含まれる。
【0042】
第2のワイヤ構造は、「Magnet Wire Insulation for Inverter Duty Motors」と題された米国特許第6,403,890号明細書に一般的に記載されている構造である。第2の構造もまた、充填PAIミッドコートを含むが、しかしながら、ポリエステルベースコートは、本発明の第1のワイヤ構造のTHEICポリエステルベースコートとは異なる配合を有する。製品試験および評価中に、モーターに挿入する前にマグネットワイヤを曲げたり成形したりする必要がある特定の用途では、第2の構造では十分な可撓性が得られないことが判明した。第2の構造を有する円形ワイヤサンプルは、約38ミクロンの構造を有するポリエステルベースコート、約25ミクロンの構造を有する充填PAIミッドコート(等量のCrおよびSiOを有する15重量%のフィラー)、および約8ミクロンの構造を有する未充填PAIトップコートを有する18AWGワイヤを含む。長方形サンプルは、約51ミクロンの構造を有するポリエステルベースコート、約25ミクロンの構造を有する充填PAIミッドコート(等量のCrおよびSiOを有する15重量%のフィラー)、約9ミクロンの構造を有する未充填PAIトップコートを有する。
【0043】
第3のワイヤ構造は、「Magnet Wire with Corona Resistant Polyamideimide Insulation」と題された米国特許出願第17/316,333号明細書に一般的に記載されている構造である。第2の構造もまた、充填PAIミッドコートを含むが、ポリエステルベースコートは、本発明の第1のワイヤ構造のTHEICポリエステルベースコートとは異なる配合を有する。製品試験および評価中に、モーターに挿入する前にマグネットワイヤを曲げたり成形したりする必要がある特定の用途では、第2の構造では十分な可撓性が得られないことが判明した。第3の構造を有する円形ワイヤサンプルは、約40ミクロンの構造を有するポリエステルベースコート、約46ミクロンの構造を有する充填PAIミッドコート(3:1比のTiOおよびSiOを有する25重量%のフィラー)、および約6ミクロンの構造を有する未充填PAIトップコートを有する16AWGワイヤを含む。長方形サンプルは、約50ミクロンの構造を有するポリエステルベースコート、約30ミクロンの構造を有する充填PAIミッドコート(3:1比のTiOおよびSiOを有する25重量%のフィラー)、約8ミクロンの構造を有する未充填PAIトップコートを有する。
【0044】
表1は、3つの異なる構造のワイヤの比較熱試験データである。熱試験では、各タイプの10サンプルのワイヤを異なる温度で通電試験し、絶縁不良までの時間を測定した。本出願の時点では、完全な試験はまだ完了していない。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、3種類のワイヤは同様の熱性能を示したが、これはPAIミッドコート層が充填されていることを考えれば驚くべきことではない。完全なテストは完了していないが、第1のワイヤのサーマルインデックスは220℃を超え、おそらく240℃を超えるサーマルインデックスを有するだろう。したがって、THEICポリエステルベースコート、充填PAIミッドコート、PAIトップコートを組み合わせた多層構造は、主に充填PAI絶縁体を含むマグネットワイヤと同様の熱性能を有し得る。
【0047】
表2に、3種類のワイヤ構造における部分放電開始電圧(PDIV)および絶縁破壊の値を示す。PDIVおよび絶縁破壊の値を、円形ワイヤサンプルと長方形ワイヤサンプルの両方について示す。業界標準のPDIV試験は、市販のPDIV試験機を用いて行われた。この試験機では、一定の電流で特定の電圧ランプをワイヤサンプルに印加し、適切なPDIV値を決定する。円形ワイヤサンプルでは二乗平均平方根(RMS)PDIVを計算し、長方形ワイヤサンプルではピークPDIVを計算する。円形ワイヤサンプルの絶縁破壊を測定するため、異なる温度で20,000ボルトまでの傾斜電圧をワイヤから形成されたねじり対に印加し、絶縁不良または絶縁破壊のポイントを特定する。長方形ワイヤについては、まず、撚り合わされた対のワイヤサンプルについて試験が行われた。ワイヤ対をわずかに曲げ、結束し、異なる温度で20,000ボルトまで電圧を上昇させた。加えて、ボールベアリングで囲まれた箱の中にサンプルを入れるショットボックス試験も行った。その後、20,000ボルトまで電圧を上昇させ、絶縁不良点を決定する。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、試験したすべてのワイヤは、ハイブリッド車および電気自動車などの幅広い用途に受け入れられるPDIVおよび絶縁破壊性能を示した。第1のワイヤが全体的に最も優れた絶縁破壊性能を示し、特に240℃で性能が向上した。
【0050】
表3は、3つのワイヤ構造の可撓性データである。円形サンプルと長方形サンプルとの両方を試験した。円形ワイヤの場合、サンプルは細長くし、異なるサイズのマンドレルにコイル状に巻き付けた。また、サンプルを20%伸長させ、異なるマンドレルに巻き付け、異なる温度(例えば240℃および260℃)で30分間加熱する耐ヒートショック試験をも行った。マンドレルのサイズは、試験するサンプルの直径とほぼ等しい。その後、トップコート絶縁体(すなわちPAIトップコート)に亀裂が形成されているかどうか、また場合によっては絶縁体が裸導体に亀裂が形成されているかどうかを判定した。長方形ワイヤについては、サンプルを4mm、6mm、8mm、10mmのマンドレルの周囲で180°曲げ、トップコート絶縁体に亀裂が形成されるか、裸導体に亀裂が形成されるかを判定した。テストに基づき、異なるタイプのワイヤについてトップコートの亀裂頻度が計算された。トップコートの亀裂発生頻度は、試験されたワイヤのサンプル20個(すなわち、あるワイヤタイプのサンプル20個)あたりのそれぞれのトップコートの亀裂の数を表している。
【0051】
【表3】
【0052】
表3に示すように、円形サンプルと長方形サンプルとの両方について、第1のワイヤ構造は、第2および第3のワイヤ構造よりもはるかに高い可撓性を有する。実際、第2のワイヤと第3のワイヤとのそれぞれの円形サンプルと長方形サンプルとは、しばしば、絶縁層すべてに亀裂が入り、剥き出しの銅導体が露出した。これとは対照的に、第1のワイヤにおけるトップコートの亀裂は30倍の倍率で確認された。第1のワイヤのサンプルでは、トップコートの亀裂発生頻度はゼロであった。従って、第1のワイヤ構造の固有のエナメル層構造は、他の試験されたワイヤよりもはるかに大きな可撓性を提供すると結論づけられ得る。これは特に、多くのハイブリッド車や電気自動車の用途に必要とされる長方形ワイヤに当てはまる。
【0053】
表1~3に含まれるサンプルは、フィラー材料の特定の配合比、全体的な充填率(例えば、絶縁体の約15重量%など)、多層システムにおける層構造および層厚、ならびに層厚の比を規定しているが、他の実施形態では、多種多様な他の適切な配合比、充填率、層構造、および層厚の比を利用し得る。
【0054】
条件語、とりわけ、「し得る」、または「し得た」、等は、特に明記しない限り、または使用される文脈内で別の方法で理解されない限り、概して、特定の特徴、要素、および/または操作を、特定の実施形態が含み得たものであり、一方で、他の実施形態はそれらを含まないことを伝えることを意図する。したがって、そのような条件付き言語は、概して、機能、要素および/または操作が何らかの形で1つ以上の実施形態に必要とされること、または1つ以上の実施形態がユーザ入力またはプロンプトの有無に関わらず、これらの特徴、要素、および/または操作を含むかもしくは特定の実施形態で実行されるかどうかを決定するための論理を必然的に含むことを意味することを意図しない。
【0055】
本明細書に示される開示の多くの修正および他の実施形態は、前述の説明および関連する図面に提示された教示の利点を有することが明らかであろう。それゆえ、本開示は、開示された特定の実施形態に限定されるべきではなく、改変および他の実施形態は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されていることを理解されたい。本明細書では特定の用語が使用されているが、それらは一般的かつ説明的な意味でのみ使用されており、限定の目的ではない。
図1A
図1B
【手続補正書】
【提出日】2023-07-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネットワイヤであって、
導体と、
前記導体の周囲に形成された絶縁システムであって、前記絶縁システムは、
THEICポリエステルを備える第1のポリマーエナメル絶縁体のベースコートと、
前記ベースコートの周囲に形成された第2のポリマーエナメル絶縁体のミッドコートであって、前記第2のポリマーエナメル絶縁体は、ベースポリアミドイミド材料中に分散されたフィラーを備え、前記フィラーは、20重量%~80重量%の二酸化ケイ素および20重量%~80重量%の酸化クロムを備える、ミッドコートと、
前記ミッドコートの周囲に形成された第3のポリマーエナメル絶縁体のトップコートと、
を備え、
前記ワイヤを4mmのマンドレルの周りで180度曲げたとき、トップコートの亀裂頻度は1.0未満であり、前記トップコートの亀裂頻度は、前記マンドレルの周りでそれぞれ曲げられたワイヤのサンプル20個当たりのそれぞれのトップコートの亀裂の数を表す、
前記導体の周囲に形成された絶縁システムと、
を備えるマグネットワイヤ。
【請求項2】
前記ベースコートは、前記絶縁システムの総厚の45%~65%である第1の厚さを有し、前記ミッドコートは、総厚の25%~40%である第2の厚さを有し、前記トップコートは、総厚の5%~15%である第3の厚さを有する、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項3】
前記ミッドコートは、前記絶縁システムの総厚の少なくとも25パーセントを占める、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項4】
前記トップコートは、未充填のポリアミドイミドを備える、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項5】
前記絶縁システムは、少なくとも220℃のサーマルインデックスを有する、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項6】
前記絶縁システムは、少なくとも240℃のサーマルインデックスを有する、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項7】
マグネットワイヤであって、
導体と、
前記導体の周囲に形成された絶縁システムであって、前記絶縁システムは、
ポリエステルを備え、絶縁体の総厚の少なくとも45パーセントである厚さを有する、第1のポリマーエナメル絶縁体のベースコートと、
前記ベースコートの周囲に形成された第2のポリマーエナメル絶縁体のミッドコートであって、前記第2のポリマーエナメル絶縁体は、ベースポリアミドイミド材料中に分散されたフィラーを備え、前記フィラーは、20重量%~80重量%の二酸化ケイ素および20重量%~80重量%の酸化クロムを備える、ミッドコートと、
前記ミッドコートの周囲に形成された第3のポリマーエナメル絶縁体のトップコートと、
を備え、
前記絶縁システムは、少なくとも220℃のサーマルインデックスを有する、
前記導体の周囲に形成された絶縁システムと、
を備える、マグネットワイヤ。
【請求項8】
前記ワイヤを4mmのマンドレルの周りに180度曲げたときのトップコートの亀裂頻度は、1.0未満であり、前記トップコートの亀裂頻度は、前記マンドレルの周りにそれぞれ曲げられた前記ワイヤのサンプル20個当たりのそれぞれのトップコートの亀裂の数を表す、請求項に記載のマグネットワイヤ。
【請求項9】
前記ベースコートは、THEICポリエステルを備える、請求項に記載のマグネットワイヤ。
【請求項10】
前記トップコートは、未充填のポリアミドイミドを備える、請求項に記載のマグネットワイヤ。
【請求項11】
前記ミッドコートは、総厚の少なくとも25パーセントを占める、請求項に記載のマグネットワイヤ。
【請求項12】
前記ミッドコートは、総厚の少なくとも30%を占める、請求項に記載のマグネットワイヤ。
【請求項13】
前記ベースコートは、総厚の45%~65%である第1の厚さを有し、
前記ミッドコートは、総厚の25%~40%である第2の厚さを有し、
前記トップコートは、総厚の5%~15%である第3の厚さを有する、
請求項に記載のマグネットワイヤ。
【請求項14】
マグネットワイヤであって、
導体と、
前記導体の周囲に形成された総厚を有する絶縁システムであって、前記絶縁システムは、
THEICポリエステルを備える第1のポリマーエナメル絶縁体のベースコートであって、前記ベースコートは、総厚の45%~65%である第1の厚さで形成される、ベースコートと、
前記ベースコートの周囲に、総厚の25%~40%である第2の厚さで形成された第2のポリマーエナメル絶縁体のミッドコートであって、前記第2のポリマーエナメル絶縁体は、ベースポリアミドイミド材料中に分散されたフィラーを備え、前記フィラーは、20重量%~80重量%の二酸化ケイ素および20重量%~80重量%の酸化クロムを備える、ミッドコートと、
ポリアミドイミドを備える第3のポリマーエナメル絶縁体のトップコートであって、総厚の5%~15%である第3の厚さで前記ミッドコートの周囲に形成される、トップコートと、
を備え、
ワイヤを4mmのマンドレルの周りで180度曲げたとき、トップコートの亀裂頻度は1.0未満であり、前記トップコートの亀裂頻度は、前記マンドレルの周りでそれぞれ曲げられたワイヤのサンプル20個当たりのそれぞれのトップコートの亀裂の数を表す、
前記導体の周囲に形成された総厚を有する絶縁システムと、
を備えるマグネットワイヤ。
【請求項15】
前記絶縁システムは、少なくとも220℃のサーマルインデックスを有する、請求項14に記載のマグネットワイヤ。
【請求項16】
前記絶縁システムの総厚は、少なくとも50マイクロメートルである、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項17】
総厚は、少なくとも50マイクロメートルである、請求項7に記載のマグネットワイヤ。
【請求項18】
総厚は、少なくとも50マイクロメートルである、請求項14に記載のマグネットワイヤ。
【外国語明細書】