(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164402
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】吸音構造体
(51)【国際特許分類】
G10K 11/172 20060101AFI20231102BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20231102BHJP
B62D 25/18 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
G10K11/172
G10K11/16 110
B62D25/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074724
(22)【出願日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2022074133
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐俣 萌実
(72)【発明者】
【氏名】豊島 剣一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 進
【テーマコード(参考)】
3D203
5D061
【Fターム(参考)】
3D203AA01
3D203CA79
3D203CB24
3D203DA15
5D061BB37
5D061CC04
(57)【要約】
【課題】コンパクトな構成としつつ低音域での吸音力を容易に高められる吸音構造体を提供する。
【解決手段】吸音構造体10は、騒音発生源Sに対向配置される対向壁30と、対向壁30の対向壁面31の幅方向に並んで配置されるとともに互いに管路長が異なる複数の共鳴管路43と、を一の層に対して有する複数の吸音層20を備える。複数の吸音層20は、対向壁30の対向壁面31の面直方向Tにて相互に接触した状態で積層されている。各吸音層21、22、23は、複数の共鳴管路43が、隣接する他の共鳴管路43との間が区画壁41で区画されるとともに管路の導波方向Cでの一方が閉塞され他方が開口されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音発生源に対向して配置される対向壁面を有する対向壁と、該対向壁の前記対向壁面に沿って並んで配置されるとともに互いの導波方向での管路長が異なる複数の共鳴管路と、を一の層に有する複数の吸音層を備え、
前記複数の吸音層は、前記対向壁面の面直方向にて相互に接触した状態で積層され、
前記複数の共鳴管路は、各共鳴管路の導波方向での同じ一方側が閉塞端とされ他方側が開口端とされている、吸音構造体。
【請求項2】
前記騒音発生源に対する配置姿勢において、
各共鳴管路の前記開口端は、鉛直方向の最下端に位置する、請求項1に記載の吸音構造体。
【請求項3】
前記配置姿勢における前記開口端の高さは、
前記騒音発生源との対向方向で遠方に位置する前記対向壁の下端面よりも上方に位置し、
前記騒音発生源との対向方向で近方に位置する前記対向壁の下端面とは同一の高さ若しくは下方に位置する、請求項2に記載の吸音構造体。
【請求項4】
前記複数の共鳴管路は、前記共鳴管路の壁面を構成する壁の一部が、他の共鳴管路の壁面を構成する壁と同一の壁で構成されている、請求項1または2に記載の吸音構造体。
【請求項5】
前記騒音発生源は、自動車用タイヤであり、
当該吸音構造体は、該自動車用タイヤのマッドガードの部分に配置される、請求項4に記載の吸音構造体。
【請求項6】
前記共鳴管路のそれぞれは、前記導波方向での管路長が430mm以下である、請求項5に記載の吸音構造体。
【請求項7】
前記共鳴管路のそれぞれは、前記開口端から前記閉塞端に至るまで直線状の管路である、請求項5に記載の吸音構造体。
【請求項8】
前記共鳴管路のそれぞれは、前記配置姿勢において、前記開口端の鉛直下方に対向する位置に、他の構造部品が配置されていない、請求項5に記載の吸音構造体。
【請求項9】
少なくとも一つの前記共鳴管路の前記開口端に網状部材が配置されている、請求項1または2に記載の吸音構造体。
【請求項10】
前記網状部材は前記開口端と平行に配置されている、請求項9に記載の吸音構造体。
【請求項11】
前記網状部材は前記騒音発生源に対して近方から遠方に向かって下降する一の平面上に位置するように配置されている、請求項9に記載の吸音構造体。
【請求項12】
前記網状部材が配置された少なくとも一つの前記共鳴管路において、前記開口端における前記網状部材の面積は前記開口端の開口面積よりも大きい、請求項9に記載の吸音構造体。
【請求項13】
前記共鳴管路の、前記面直方向において前記騒音発生源に対して近方の対向壁の下端面は遠方の対向壁の下端面よりも上方に位置し、前記共鳴管路のそれぞれの開口端は前記騒音発生源に対して近方から遠方に向かって下降する一の平面上に位置する、請求項1または2に記載の吸音構造体。
【請求項14】
少なくとも一つの前記共鳴管路の前記開口端の内周に、前記共鳴管路の断面積を狭める断面積狭化部が配置されている、請求項1または2に記載の吸音構造体。
【請求項15】
前記共鳴管路における前記断面積狭化部が設けられている部位の断面積は、前記断面積狭化部が設けられていない部位の断面積に対して10~65%である、請求項14に記載の吸音構造体。
【請求項16】
前記共鳴管路の管路長に占める、前記断面積狭化部が設けられている部位の前記共鳴管路の導波方向の長さの割合が4~20%である、請求項14に記載の吸音構造体。
【請求項17】
前記共鳴管路において前記断面積狭化部が設けられている部位の断面積は、前記閉塞端側から前記開口端側に向かって増加している、請求項14に記載の吸音構造体。
【請求項18】
少なくとも一つの前記共鳴管路を構成する吸音壁間の幅は、前記閉塞端から前記開口端に向かって拡大している、請求項1または2に記載の吸音構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
吸音構造に係る技術として、例えば特許文献1が開示されている。
【0003】
同文献記載の技術では、吸音効果を高める際は、配置姿勢において幅方向に吸音構造を広げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、同文献記載の技術では、吸音構造を幅方向に広げるので、吸音構造体の投影面積が広くなって装置が大型化するという問題がある。また、低音域での吸音力を高めるほど配置する吸音材の厚さを厚くする必要がある。そのため、例えば自動車の室内に適用する場合、室内空間が狭くなるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、コンパクトな構成としつつ低音域の吸音力を容易に高められる吸音構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る吸音構造体は、騒音発生源に対向して配置される対向壁面を有する対向壁と、該対向壁の前記対向壁面に沿って並んで配置されるとともに互いの導波方向での管路長が異なる複数の共鳴管路と、を一の層に有する複数の吸音層を備え、前記複数の吸音層は、前記対向壁面の面直方向にて相互に接触した状態で積層され、前記複数の共鳴管路は、各共鳴管路の導波方向での同じ一方側が閉塞端とされ他方側が開口端とされている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コンパクトな構成としつつ低音域の吸音力を容易に高められる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一態様に係る吸音構造体の一実施形態を説明する模式図であって、同図では、実施形態の吸音構造体を自動車用タイヤのマッドガード部分に対向配置した配置例を示している。
【
図4】吸音層での複数の共鳴管路の構成例を示す模式的斜視図である。
【
図5】本発明の一態様に係る吸音構造体の作用効果を説明する模式的斜視図であり、同図は、隣接する吸音層相互の共鳴管路での連成振動で空気粒子間の摩擦が生じて、吸音効果を増大させるイメージを示している。
【
図6A】変形例1に係る吸音構造体の要部拡大図である。
【
図6B】変形例2に係る吸音構造体の要部拡大図である。
【
図6C】変形例3に係る吸音構造体の要部拡大図である。
【
図6D】変形例4に係る吸音構造体の要部拡大図である。
【
図7】共鳴管路の変形例を示す拡大図であり、
図7(a)および
図7(b)は変形例5に係る吸音構造体の共鳴管路の拡大図であり、
図7(c)は変形例6に係る吸音構造体の共鳴管路の拡大図である。
【
図8】試験例1等における測定に用いた評価装置を示す模式図である。
【
図9】試験例1における吸音試験の結果を示すグラフであり、
図8(a)は吸音層の積層数に対する周波数と音圧との関係を示すグラフ、
図8(b)は吸音層の積層数と音圧との関係を示すグラフである。
【
図10】試験例2において作製した比較例および実施例の吸音構造体の吸音層における共鳴管路の配列を示す図である。
【
図11】試験例3における吸音試験の結果を示すグラフである。
【
図12】試験例4等における測定に用いた垂直入射吸音率計測システムの模式図である。
【
図13】試験例4における吸音試験の結果を示すグラフである。
【
図14】試験例5における吸音試験の結果を示すグラフである。
【
図15】試験例6における吸音試験の結果を示すグラフである。
【
図16】試験例7における吸音試験の結果を示すグラフである。
【
図17】試験例8における吸音試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。本実施形態は、自動車用タイヤからの放射音を吸音する吸音構造体の例であり、特に、マッドガード用の吸音構造として好適な吸音構造体である。
【0011】
なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0012】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0013】
[吸音構造体の構成]
図1に示すように、本実施形態の吸音構造体10は、騒音発生源Sに対向して配置される対向壁面31を有する対向壁30と、複数の吸音層20とを備える。
【0014】
本実施形態では、複数の吸音層20として、3層の吸音層21,22,23を有する。これら吸音層21,22,23は、騒音発生源Sとの対向方向Tに積層される。本実施形態では、騒音発生源S側から順に、第一吸音層21,第二吸音層22,第三吸音層23が積層されている。なお、各吸音層21,22,23は、同様の構成を有するので、以下、複数の吸音層21,22,23の相違を特に区別しないときは代表符号20とも記載する。
【0015】
より詳しくは、対向壁30は、平面視が矩形平板状の板部材であり(
図3参照)、
図2に拡大図示するように、複数の吸音層21,22,23は、対向壁30の対向壁面31の対向方向T(面直方向でもある)にて相互に接触した状態で一体化されている。
【0016】
本実施形態の吸音構造体10では、各吸音層21,22,23は、吸音壁40と、吸音壁40の前後に騒音発生源Sに正対して配置される対向壁30との組によって構成される。そのため、隣接する他の吸音層20との間に位置する対向壁30は、隣接する他の吸音層20の対向壁30と同一の壁で構成される。
【0017】
各吸音層20は、前後の対向壁30の間に設けられて、
図3に示すように、対向壁面31の幅方向Wに並んで配置されるとともに、互いに導波方向Cでの管路長Lが異なる複数の共鳴管路43と、を有する。
【0018】
本実施形態の各共鳴管路43は、開口端44から閉塞端45まで導波方向Cに沿って伸びる直線状の管路であり、導波方向Cが鉛直方向Vに沿って設けられている。本実施形態では、各共鳴管路43の管路長Lは、吸音設計周波数として約200Hz以上を吸音するべく、430mm以下とされている。
【0019】
特に、本実施形態では、各吸音層20の複数の共鳴管路43は、幅方向Wで隣接する他の共鳴管路43との間が導波方向Cに沿って伸びる長尺な直方体状の区画壁41で区画されている。
【0020】
さらに、各吸音層20の複数の共鳴管路43は、各共鳴管路43の導波方向Cでの同じ一方側(この例では同図の上側)において、区画壁41同士の間を埋めるように、短尺な直方体状の閉塞壁42が固定されている。これにより、各吸音層20の複数の共鳴管路43は、各共鳴管路43の導波方向Cでの同じ一方側が閉塞端45とされ他方側(この例では同図の下側)が開口端44とされている。
【0021】
特に、本実施形態では、閉塞端45を形成する閉塞壁42として、
図3に示すように、導波方向Cでの長さが互いに異なる三種類の閉塞壁(閉塞壁(短)42a、閉塞壁(中)42b、閉塞壁(長)42c)を幅方向Wで順に介装することで、互いに導波方向Cでの管路長Lが異なる複数の共鳴管路43を形成している。
【0022】
これにより、本実施形態では、
図4に斜視図を示すように、共鳴管路43の周壁面を構成する壁の一部が、他の共鳴管路43の周壁面を構成する壁と同一の壁で構成される。
【0023】
つまり、本実施形態の例では、騒音発生源Sとの対向方向Tでは、隣接する吸音層20との間に位置する対向壁30の前後の対向壁面31が隣接する他の吸音層20との共用壁とされる。また、各吸音層20の複数の共鳴管路43相互は、幅方向Wで隣接する共鳴管路43との間に位置する区画壁41の左右の壁面が隣接する他の共鳴管路43との共用壁とされる。なお、本明細書において、複数の共鳴管路の「互いの導波方向での管路長が異なる」とは、ある吸音層を構成する複数の共鳴管路のうち、他の共鳴管路との間で導波方向での管路長が異なるものが少なくとも一つ存在することを意味する。ただし、好ましい実施形態においては、ある共鳴管路を構成する複数の共鳴管路のすべてが、自身が隣り合う共鳴管路との間で導波方向での管路長が異なっている。
[吸音構造体の配置姿勢]
次に、上述した吸音構造体10の自動車用タイヤSに対する配置姿勢について説明する。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の吸音構造体10は、騒音発生源である自動車用タイヤSに対向配置される。本実施形態では、少なくとも2層以上(この例では3層)積層された吸音層20を有する吸音構造体10を、自動車用タイヤSのマッドガードGの部分に配置している。
【0025】
図1に示す配置姿勢において、各共鳴管路43の開口端44は、鉛直方向Vでの最下端に位置して路面Rに対向して配置される。本実施形態では、共鳴管路43のそれぞれは、開口端44の鉛直下方で路面Rに対向する位置には、水平姿勢で設置される他の構造部品が配置されない。
【0026】
この配置姿勢において、吸音層20は、各共鳴管路43の開口端44が各共鳴管路43の最下端に位置するため路面R側を向き、吸音層20が自動車用タイヤSに対向する水平方向Hで複数層が積層配置されることになる。
【0027】
より詳しくは、同配置姿勢において、各開口端44の鉛直方向Vでの高さは、
図2に示すように、騒音発生源Sに対する対向方向Tで遠方Fに位置する対向壁30の下端面32よりも上方に位置している。また、騒音発生源Sに対して近方Nに位置する対向壁30の下端面32と同一の高さ若しくは下方に位置している。これにより、各吸音層20相互には、騒音発生源Sの近方Nから遠方Fに向けて順に低くなるように段差Dが設けられる。
【0028】
そして、本実施形態の吸音構造体10を用い、
図1に示す配置姿勢において、マッドガードGの部分、つまり、車両進行方向(車両前方)に対して自動車用タイヤSの後方にて対向壁30が対向するように吸音構造体10を配置する。これにより、上述したように、各吸音層20は、各共鳴管路43の開口端44が配置姿勢での鉛直方向Vでの最下端に位置する。
【0029】
特に、本実施形態では、自動車用タイヤSの放射音圧が最も高いマッドガードGの部分に、放射音を吸音可能で且つマッドガードGに要求される耐久性を満足する板状レゾネータ構造として吸音構造体10を配置している。なお、マッドガードGの部分に配置する板状レゾネータ構造としての吸音構造体10による吸音機能の狙い周波数は、700~900Hzである。
【0030】
[作用効果]
本実施形態の吸音構造体10が吸音効果を奏する機序は、
図5にイメージを示すように、各共鳴管路43の開口端44から各共鳴管路43の空洞内に入射した音波が、空洞の長さに応じた特定の周波数の定在波(1/4波長)Bをつくり、その定在波Bが空洞内で振動を繰り返すことで、空気粒子間の摩擦によりエネルギを効率良く消費するものである。
【0031】
特に、本実施形態の吸音構造体10においては、複数の吸音層20は、対向壁面31の面直方向(対向方向T)にて相互に接触した状態で積層され、複数の共鳴管路43は、各共鳴管路43の導波方向Cでの同じ一方側が閉塞端45とされ他方側が開口端44とされているので、コンパクトな構成としつつ低音域での吸音力を容易に高められる。
【0032】
ここで、自動車の車外騒音の主な要因にはタイヤからの放射音がある。自動車用タイヤSからの放射音は、タイヤと路面Rとの接触部近傍において最も騒音が大きい。これに対し、例えば特許文献1に開示される技術のように、吸音構造体を幅方向に一層並べただけでは、コンパクトな構造で十分な吸音効果を得る上で不十分であり、未だ改善の余地がある。
【0033】
そこで、自動車用タイヤSの吸音用として好適な吸音構造体が望まれるところ、本願発明者らによる上記試験結果にも示すように、管路長Lの異なる複数の共鳴管路43を対向壁30の対向壁面31に設置した吸音層20を対向方向Tで2層以上を積層配置することにより吸音効果が向上するという知見を得た。
【0034】
この知見に基づき、本実施形態の吸音構造体10は、対向壁30と、対向壁30の対向壁面31に沿って幅方向Wに並んで配置されて互いに管路長Lが異なる複数の共鳴管路43と、を一の層に有する吸音層20を複数層備える構成を採用したのである。
【0035】
つまり、本実施形態の吸音構造体10によれば、
図5において、各共鳴管路43に入射した音波は空洞の閉塞端45で反射され、共鳴管路43の外部に開口端44から再び放出される音波が開口端44で回折し、そのエネルギの一部が隣接する共鳴管路43の空洞内に流れ込み、隣接する共鳴管路43の空洞相互間でエネルギが受け渡される。
【0036】
これにより、隣接する共鳴管路43の空洞内で連成振動が生じ、さらに、空気粒子間の摩擦が生じて音波のエネルギを消費するとともに、段差Dを順に設けた対向壁面31が音波を反射させ、開口端44に音波を導き空気粒子の摩擦を高めることができる。
【0037】
なお、同図において、符号Bは、定在波の振動で空気粒子間の摩擦が生じるイメージを示し、符号Eに示す矢印は、隣接する吸音層20相互の共鳴管路43での空洞の連成振動で空気粒子間の摩擦が生じて吸音効果を増大させるイメージを示している。また、符号Fに示す矢印は、対向壁面31が音波を反射させて開口端44に音波を導き空気粒子の摩擦を高めるイメージを示している。
【0038】
このように、本実施形態の吸音構造体10によれば、コンパクトな構成としつつも吸音効果を増大させることができる。特に、後述する
図9(b)に示すように、2層以上の吸音層20を騒音発生源Sに対向して積層配置することで、500Hz~1000Hzの音響ノイズを約1dB以上低減可能である。
【0039】
また、本実施形態の吸音構造体10によれば、騒音発生源Sに対する配置姿勢において、各共鳴管路43の開口端44が共鳴管路43の最下端に位置するので、マッドガード用の吸音構造として、タイヤからの泥等の付着物が共鳴管路43の内部に浸入することが防止または抑制される。そのため、長期間に亘って各共鳴管路43の閉塞を防止または抑制可能である。よって、タイヤからの放射音を安定して吸音できる板状レゾネータ構造として優れている。
【0040】
換言すれば、本実施形態の板状レゾネータ構造は、泥が付着しても吸音機能を維持できるため、マッドガード用の吸音構造として好適である。つまり、例えば吸音材であっても、発泡体や繊維体であるとマッドガード用の吸音構造としての耐久性が本実施形態の構成と比較して低いといえるため、マッドガード用の吸音構造として不十分である。
【0041】
さらに、本実施形態の吸音構造体10では、複数の共鳴管路43を騒音発生源Sに対して正対方向で複数積層するとともに、配置姿勢における開口端44の高さが、騒音発生源Sとの対向方向Tで遠方Fに位置する対向壁30の下端面32よりも上方に位置し、騒音発生源Sとの対向方向Tで近方Nに位置する対向壁30の下端面32とは同一の高さ若しくは下方に位置させている。
【0042】
これにより、本実施形態の吸音構造体10によれば、吸音層20相互の段差Dにより、騒音発生源Sよりも遠方側が下方に張り出す多段の壁面が設定されるので、上記符号Fに示す反射とEに示す連成振動を一層効率良く生じさせ、吸音性能をより向上させることができる。
【0043】
さらに、本実施形態の吸音構造体10によれば、共鳴管路43を構成する区画壁41の一部が、他の共鳴管路43と同一の壁とする構成を採用したので、安価で製造しやすい吸音層構造を提供できる。
【0044】
また、本実施形態の吸音構造体10においては、騒音発生源が自動車用タイヤSであり、吸音構造体10は、自動車用タイヤSのマッドガードGの部分に配置しているので、本実施形態の吸音構造体10の用途として好適である。
【0045】
つまり、通常、楽器での防音用途では60~160Hz領域の吸音を対象とする。これに対し、ロードノイズ吸音は300~1000Hz領域の吸音を対象とする。そのため、本実施形態の吸音構造体10を自動車用タイヤSのマッドガードGの部分に配置すれば、本実施形態の吸音構造体10の性能を十分に発揮できるといえる。
【0046】
特に、本実施形態の吸音構造体10においては、ロードノイズ(約300Hz~1000Hz)の吸音用として、約200Hz以上の周波数を吸音すべく、共鳴管路43の導波方向Cでの管路長Lを430mm以下に設定しているので、同用途としてより一層好適である。
【0047】
また、本実施形態の吸音構造体10において、共鳴管路43は、開口端44から閉塞端45まで直線状の管路としているので、コンパクトな構成で低音域での吸音力を高めるとともに、共鳴管路43内への泥等の異物が浸入する弊害を防止または抑制する上で更に好適である。
【0048】
また、本実施形態の吸音構造体10において、上述した配置姿勢において、開口端44の鉛直下方に対向する位置に、棚部材等の、水平姿勢で設置される他の構造部品が配置されていないので、開口端44およびその近傍での泥だまりの弊害をより確実に防止または抑制できる。そのため、自動車用タイヤSのマッドガードGの部分に配置する上で更に好適である。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の吸音構造体10によれば、コンパクトな構成としつつ低音域の吸音力を容易に高められる。なお、本発明に係る吸音構造体は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能であることは勿論である。
【0050】
以下、上記実施形態で説明した吸音構造体10の変形例を説明する。なお、以下では、説明の重複を避けるため、上記実施形態で説明した吸音構造体10の各構成と同様の構成については詳細な説明を省略する。
【0051】
<変形例1>
図6Aは、変形例1に係る吸音構造体10の要部拡大図である。この吸音構造体10は、
図2に示す実施形態の構成要素に加えて、網状部材である樹脂メッシュ46をさらに備えており、この樹脂メッシュ46は、それぞれの共鳴管路43の開口端44を塞ぐように、開口端44に平行に設置されている。樹脂メッシュ46が設置されている点を除き、この吸音構造体10は、上記実施形態で説明した吸音構造体10と同様の構成を有している。なお、図示はしていないが、変形例1において、ナイロンメッシュはすべての開口端44を覆うように配置されている。
【0052】
図6Aにおいて、網状部材は樹脂メッシュ46から構成されているが、場合によっては、網状部材は金属等の他の材料から構成されていてもよい。ただし、樹脂メッシュを用いることにより軽量化が可能であり、設置の操作も簡便であるといった利点がある。
【0053】
このような変形例1に係る吸音構造体10も、上記実施形態で説明した吸音構造体10と同様に、複数の吸音層20は対向壁面31の面直方向(対向方向T)にて相互に接触した状態で積層され、複数の共鳴管路43は、各共鳴管路43の導波方向Cでの同じ一方側が閉塞端45とされ他方側が開口端44とされている。このため、コンパクトな構成としつつ低音域での吸音力を容易に高められるという効果を同様に奏する。
【0054】
また、変形例1に係る吸音構造体10は、共鳴管路43の開口端44に網状部材が配置されていることで、特に700~900Hzの音波に対する吸音性能が向上している(
図13に示す参考例2を参照)。さらに、樹脂メッシュ46が開口端に平行に配置されていることで、特に700~2000Hzの周波数帯の音波に対して優れた吸音性能を示す(
図14に示す参考例5を参照)。したがって、ロードノイズ(500~2000Hz)の低減を目的とする場合などにこのような構成とすることが有効である。なお、網状部材の設置により、タイヤからの泥等の付着物で共鳴管路が長期間閉塞され難くなることから、タイヤ放射音を安定して吸音できるようになるという利点もある。
【0055】
<変形例2>
図6Bは、変形例2に係る吸音構造体10の要部拡大図である。この吸音構造体10は、
図6Aに示す変形例1において、網状部材である樹脂メッシュ46の配置形態が異なる点を除き、上記変形例1で説明した吸音構造体10と同様の構成を有している。具体的に、変形例2に係る吸音構造体10においては、樹脂メッシュ46が、騒音発生源Sに対して近方から遠方に向かう向きに張力をかけて平面状に配置されている。言い換えれば、変形例2において、樹脂メッシュ46は、騒音発生源Sに対して近方から遠方に向かって下降する一の平面上に位置するように配置されている。
【0056】
このような変形例2に係る吸音構造体10も、コンパクトな構成としつつ低音域での吸音力を容易に高められるという効果や、特に700~900Hzの音波に対して優れた吸音性能を示すという効果を奏する。さらに、樹脂メッシュ46が騒音発生源Sに対して近方から遠方に向かって下降する一の平面上に位置するように配置されていることで、特に2700~4000Hzの周波数帯の音波に対して優れた吸音性能を示す(
図14に示す参考例6を参照)。
【0057】
<変形例3>
図6Cは、変形例3に係る吸音構造体10の要部拡大図である。この吸音構造体10は、
図6Aに示す変形例1において、網状部材である樹脂メッシュ46の配置形態が異なる点を除き、上記変形例1で説明した吸音構造体10と同様の構成を有している。具体的に、変形例3に係る吸音構造体10においては、樹脂メッシュ46が開口端44に平行に設置されている。一方、樹脂メッシュ46が配置された共鳴管路43において、開口端44における樹脂メッシュ46の面積が開口端44の開口面積よりも大きくなるように樹脂メッシュ46が配置されている(この点では変形例2も同様である)。言い換えれば、変形例3において、樹脂メッシュ46は、開口端44の面積に対して多少の余裕を持たせて弛ませるように配置されている。
【0058】
このような変形例3に係る吸音構造体10も、コンパクトな構成としつつ低音域での吸音力を容易に高められるという効果や、特に700~900Hzの音波に対して優れた吸音性能を示すという効果を奏する。さらに、樹脂メッシュ46が余裕を持って弛ませるように配置されていても変形例1と同等の吸音性能を示す(
図13に示す参考例3および参考例4を参照)。このことは、吸音構造体10の製造時において開口端44に樹脂メッシュ46を配置する際に、厳しい位置合わせなどの製造上の制約が存在しないことを意味する。
【0059】
<変形例4>
図6Dは、変形例4に係る吸音構造体10の要部拡大図である。この吸音構造体10は、
図2に示す実施形態において、共鳴管路43の、前記面直方向において騒音発生源Sに対して近方の対向壁30の下端面32は遠方の対向壁30の下端面32よりも上方に位置し、前記共鳴管路43のそれぞれの開口端44は騒音発生源Sに対して近方から遠方に向かって下降する一の平面上に位置するように構成されている。この点を除き、この吸音構造体10は、上記実施形態で説明した吸音構造体10と同様の構成を有している。
【0060】
このような変形例4に係る吸音構造体10も、コンパクトな構成としつつ低音域での吸音力を容易に高められるという効果を奏する。また、変形例4に係る吸音構造体10は、上記のような構成とされていることで、特に3次の吸音効果が発現する3000Hz近傍の周波数の音波に対する吸音性能に優れるという利点がある(
図11に示す参考例1を参照)。
【0061】
<変形例5>
図7(a)は、変形例5に係る吸音構造体10の共鳴管路43の拡大図である。変形例5では、
図3および
図4に示す実施形態において、共鳴管路43の開口端44の内周の開口端44から所定の長さで、共鳴管路43の断面積を狭める断面積狭化部47が配置されている。この点を除き、変形例5に係る吸音構造体10は、上記実施形態で説明した吸音構造体10と同様の構成を有している。なお、共鳴管路43において断面積狭化部47が設けられている部位の断面積は、
図7(a)に示すように閉塞端45側から開口端44側に向かって一定であってもよいし、
図7(b)に示すように閉塞端45側から開口端44側に向かって増加していてもよいし、逆に閉塞端45側から開口端44側に向かって減少していてもよい。また、
図7(a)や
図7(b)に示すように断面積狭化部47の下端部は共鳴管路43の開口端44と一致していることが好ましいが、場合によっては断面積狭化部47の下端部は共鳴管路43の開口端44よりも多少下方に位置していてもよいし、多少上方に位置していてもよい。
【0062】
このような変形例5に係る吸音構造体10も、コンパクトな構成としつつ低音域での吸音力を容易に高められるという効果を奏する。また、変形例5に係る吸音構造体10は、上記のような構成とされていることで、吸音率が向上するとともに、ピーク吸音率が発現する周波数帯が変化するという利点がある(
図15および
図16に示す各参考例を参照)。このような効果が奏されるのは、断面積狭化部47の設置により共鳴管路43がヘルムホルツ共鳴器のような構成となり、共鳴管路43の内部に生じる定在波が振動を繰り返して空気粒子間の摩擦によりエネルギを消費する結果、音を減衰させることによるものと考えられる。
【0063】
ここで、断面積狭化部47のサイズについて特に制限はないが、そのサイズに応じてピーク吸音率を発現する周波数帯は異なることから、吸音を目的とする周波数帯を考慮して断面積狭化部47のサイズを設定すればよい。好ましい実施形態において、共鳴管路43における断面積狭化部47が設けられている部位の断面積は、断面積狭化部47が設けられていない部位の断面積に対して、好ましくは10~65%であり、より好ましくは10~35%である。また、共鳴管路43の管路長に占める、断面積狭化部47が設けられている部位の共鳴管路43の導波方向の長さの割合は、好ましくは4~20%であり、より好ましくは9~20%である。断面積狭化部47のサイズがこのような範囲を満たすものであると、特に吸音性能に優れるという利点がある。
【0064】
<変形例6>
図7(c)は、変形例6に係る吸音構造体10の共鳴管路43の拡大図である。変形例6では、
図3および
図4に示す実施形態において、共鳴管路43の開口端44の内周の開口端44から所定の長さで、共鳴管路43の断面積を狭める断面積狭化部47が配置されている。また、変形例6では、共鳴管路43を構成する吸音壁40間の幅が、閉塞端45から開口端44に向かって拡大している。これらの点を除き、変形例6に係る吸音構造体10は、上記実施形態で説明した吸音構造体10と同様の構成を有している。
【0065】
このような変形例6に係る吸音構造体10も、コンパクトな構成としつつ低音域での吸音力を容易に高められるという効果を奏する。また、変形例6に係る吸音構造体10は、上記のような構成とされていることで抜き勾配θが存在し、これにより共鳴管路43は製造時に金型から抜き取られ易い。このため、吸音構造体10の生産性を大幅に向上させることができる。なお、
図17に示すように、抜き勾配θの大きさによってピーク吸音率を発現する周波数帯が変化することが判明している。したがって、吸音を目的とする周波数帯を考慮して抜き勾配θを設定すればよい。ただし、吸音性能に優れるという観点から、抜き勾配θは、(0°を超えて)10°以下であることが好ましく、3°以下であることがさらに好ましい。
【0066】
なお、以下の実施形態も本発明の範囲に含まれる:請求項2の特徴を有する請求項1に記載の吸音構造体;請求項3の特徴を有する請求項2に記載の吸音構造体;請求項4の特徴を有する請求項1~3のいずれかに記載の吸音構造体;請求項5の特徴を有する請求項4に記載の吸音構造体;請求項6の特徴を有する請求項5に記載の吸音構造体;請求項7の特徴を有する請求項5または6に記載の吸音構造体;請求項8の特徴を有する請求項5~7のいずれかに記載の吸音構造体;請求項9の特徴を有する請求項1~8のいずれかに記載の吸音構造体;請求項10の特徴を有する請求項9に記載の吸音構造体;請求項11の特徴を有する請求項9に記載の吸音構造体;請求項12の特徴を有する請求項9~11のいずれかに記載の吸音構造体;請求項13の特徴を有する請求項1~12のいずれかに記載の吸音構造体;請求項14の特徴を有する請求項1~13のいずれかに記載の吸音構造体;請求項15の特徴を有する請求項14に記載の吸音構造体;請求項16の特徴を有する請求項14または15に記載の吸音構造体;請求項17の特徴を有する請求項14~16のいずれかに記載の吸音構造体;請求項18の特徴を有する請求項1~17のいずれかに記載の吸音構造体。
【実施例0067】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0068】
《吸音構造体の吸音性能の評価》
種々の構造を有する吸音構造体を作製し、その吸音性能を評価した。なお、以下で作製した吸音構造体や共鳴管はすべてポリプロピレン(PP)製であり、その作製には3Dプリンタを用いた。
【0069】
[試験例1]
本発明の一形態に係る吸音構造体について、各周波数の音波に対する吸音性能を測定した。なお、上記実施形態での対応する符号を括弧書きで付記する。
【0070】
図8に評価装置の模式図を示す。同図に示すように、評価装置100は、上部に開口する試験用筐体110の内部の底面上に、騒音発生源としての音源Sを設置し、試験用筐体110の上部の開口部分を覆うように試験用の吸音構造体10を設置した。また、吸音構造体10の、音源Sとは反対側にマイクロフォンMを配置した。マイクロフォンMの離隔距離Aは500mmとした。
【0071】
本評価試験では、試験用の吸音構造体10として、一方が閉塞し、他方が開口した管路長Lの異なる複数の共鳴管路43が一の壁面上に設置してある吸音層20を用意した。積層による効果を比較するために、0層、1層、2層、8層、12層までの吸音層20を、試験用筐体110の上部の音源Sとの対向位置に設置してそれぞれの積層による吸音性能を測定した。また、本評価試験では、比較例の吸音構造体120として、吸音層20を構成する対向壁30と同じ材料を用いた単純な板材を同様に積層設置し、吸音構造体10と同様に試験用筐体110の上部の開口部分を覆うように設置してそれぞれの吸音性能を比較測定した。
【0072】
図8に示す評価装置での配置姿勢において、本実施形態の吸音構造体10に対応する、2層、8層、12層の実施例では、吸音層20は騒音発生源Sに対して正対し、吸音層20が対向壁30の壁面31の面直方向に複数層が接触している。
【0073】
つまり、複数の吸音層20は、対向壁30の壁面31の面直方向にて相互に接触した状態で積層される。各吸音層20は、複数の共鳴管路43が、隣接する他の共鳴管路43との間が区画壁41で区画されるとともに各共鳴管路43の導波方向での一方が閉塞され他方が開口されている。なお、上記実施形態での自動車用タイヤSに対する配置姿勢に対し、この評価装置100での上下の方向が車両での前後方向に対応することになる。また、評価に当たっては、100~8192Hzのホワイトノイズを出力し、マイクロフォンMを用いてで音圧レベル(Sound Pressure Level)を測定した。
【0074】
試験例1の評価結果を
図9(a)および(b)に示す。同図に示すように、2層、8層、12層の実施例に係る吸音構造体(10)では、吸音層(20)を二層以上積層することにより、吸音設計周波数(700~900Hz)よりも広範囲の500~1000Hzにおいて音圧レベルが有意に低下しており、優れた吸音効果を奏することがわかる。
【0075】
[試験例2]
吸音層が有する複数の共鳴管路について、互いの導波方向の管路長が異なることによる効果を確認する目的で、この特徴を備えた吸音構造体およびこの特徴を備えていない吸音構造体を作製し、各周波数の音波に対する吸音性能を測定した。
【0076】
具体的には、まず、比較例として、3つの吸音層が対向壁の壁面の面直方向にて相互に接触した状態で積層され、各吸音層を構成する共鳴管路における互いの導波方向の管路長が同一である吸音構造体を作製した。本比較例の吸音構造体においては、
図10(a)に示すように、騒音発生源Sの側(
図10(a)の下側)に位置する吸音層から、共鳴管路の共鳴周波数が900Hz(図中の「9」)、800Hz(図中の「8」)および700Hz(図中の「7」)でそれぞれ同一となるように、各吸音層における共鳴管路の長さが設定されている。
【0077】
一方、実施例として、3つの吸音層が対向壁の壁面の面直方向にて相互に接触した状態で積層され、各吸音層を構成する共鳴管路における互いの導波方向の管路長が異なる吸音構造体を作製した。本実施例の吸音構造体においては、
図10(b)に示すように、互いに隣り合う共鳴管路の共鳴周波数が異なるように、各吸音層における共鳴管路の長さが設定されている。
【0078】
上記で作製したそれぞれの吸音構造体について、
図8に示す評価装置を用いて音圧レベルのOverall値を比較した。結果を下記の表1に示す。
【0079】
【0080】
表1に示すように、吸音層を構成する複数の共鳴管路において、互いの導波方向の管路長が異なっている実施例では、比較例と比べて音圧レベルの低減効果がより優れていることがわかる。
【0081】
[試験例3]
参考例1として、3つの吸音層が対向壁の壁面の面直方向にて相互に接触した状態で積層され、各吸音層を構成する共鳴管路における互いの導波方向の管路長がすべて共鳴周波数900Hzに相当する吸音構造体を作製した。この際、参考例の吸音構造体の開口端の構造は、
図6Dに示すように、吸音層を構成する共鳴管路の、面直方向において騒音発生源に対して近方の対向壁の下端面は遠方の対向壁の下端面よりも上方に位置し、共鳴管路のそれぞれの開口端は騒音発生源に対して近方から遠方に向かって下降する一の平面上に位置するように構成した。
【0082】
一方、比較参考例1として、開口端の構造を参考例のようには構成せず、
図2に示すように単に各吸音層をずらして3層積層した吸音構造体を作製した。
【0083】
上記で作製したそれぞれの吸音構造体について、
図8に示す評価装置を用いて音圧レベルのOverall値を比較した。なお、測定条件は試験例2と同じとした。結果を
図11に示す。
図11に示すように、参考例1の構成を備えることで、比較参考例1の場合と比較して、特に3次の吸音効果が発現する3000Hz近傍の周波数の音波に対する吸音性能が顕著に向上することがわかる。なお、2000~3000Hzの周波数帯における音圧レベルは、サンプルなしの70.5[dB]に対して、比較参考例1では69.2[dB](低減量=1.3[dB])であったのに対し、参考例1では68.8[dB](低減量=1.7[dB])であった
[試験例4]
以下の構造を有する比較参考例および参考例の共鳴管を作製した。
【0084】
比較参考例2:正方形断面で閉塞端および開口端を有する中空構造(導波方向の内寸長さ104mm、外寸幅22mm、壁厚み2mm);
参考例2:比較参考例2において、開口端に沿うようにナイロン(#132)製メッシュを設置した;
参考例3:比較参考例2において、開口端の各辺の両端からそれぞれ6mmの突起部(導波方向の長さ4mm)を設けることにより各辺に幅10mmの溝部を設け、突起部の先端に沿うようにナイロン(#132)製メッシュを設置した。これにより、開口端におけるナイロンメッシュの面積(484mm
2)は開口端の面積(324mm
2)よりも大きくなるように構成されている;
参考例4:参考例3において、突起部の導波方向の長さを2mmに変更した。これにより、開口端におけるナイロンメッシュの面積(404mm
2)は開口端の面積(324mm
2)よりも大きくなるように構成されている;
上記で作製した比較参考例2および参考例2~参考例4の共鳴管について、垂直入射吸音率計測システムを用いて、伝達関数法(2マイクロホン法)により、各周波数の音波に対する垂直入射吸音率αを測定した。なお、測定に用いた垂直入射吸音率計測システム200の模式図を
図12に示す。垂直入射吸音率計測システム200は、筐体210と、スピーカー220と、スピーカー220に接続された増幅器221および信号発生器222と、サイレンサーユニット230と、第1のマイクロフォンM1および第2のマイクロフォンM2と、マイクロフォン(M1,M2)に接続された測定用増幅器241および測定用コンピュータ242と、を備えている。測定に当たっては、垂直入射吸音率計測システム200のサイレンサーユニット230に上記で作製した共鳴管をその開口端44がスピーカー220側を向くように配置し、スピーカー220からホワイトノイズを発生させて、筐体210の側面に設置した二つのマイクロフォン(M1,M2)により伝達関数を測定し、下記(1)式を用いて所定の周波数域における垂直入射吸音率を算出した。
【0085】
垂直入射吸音率(%)=1-(複素音圧反射係数の絶対値)2 (1)
ここで、測定条件は下記の通りである。
【0086】
(FFT)
測定周波数(Fmax):16384Hz
Δf:2Hz
ウィンドウ:ハニング
アベレージ回数:100回
オーバーラップ率:25%
(ソース)
信号の種類:連続ランダム(ホワイトノイズ)
周波数範囲:35.2~1600Hz
出力電圧(SDADASIII):1V。
【0087】
結果を
図13に示す。
図13に示すように、比較参考例2と参考例2との対比から、ナイロンメッシュのような網状部材を共鳴管路の開口端に設けることにより700~900Hzの周波数帯における吸音率が大幅に向上することがわかる。一方、参考例2~参考例4の対比からは、共鳴管路の開口端に網状部材を設けるにあたり、開口端にちょうど沿うように設けずに、網状部材の面積が開口端の面積よりも大きくなるように緩く設けたとしても同等の吸音率が達成されることがわかる。
【0088】
[試験例5]
以下の構造を有する比較参考例および参考例の共鳴管を作製した。
【0089】
比較参考例3:比較参考例2において、厚み2mmの壁からなる導波方向に延在する十字形断面の仕切りを用いて中空構造の管内部を4つの領域に区画した(これにより2つの共鳴管からなる吸音層が2層積層された構成となっている)。また、共鳴管の4つの外壁のうちの1つの長さを4mm延長し、前記仕切りを構成する当該面と平行な壁および当該壁と長さを延長した前記外壁との間の部材の長さを2mm延長して、開口端を階段状となるように構成した;
参考例5:比較参考例3において、階段状の開口端に沿うようにナイロン(#132)製メッシュを設置した;
参考例6:比較参考例3において、長さを4mm延長した外壁側から長さを延長していない外壁側へ張力をかけてナイロン(#132)製メッシュを設置した。これにより、前記メッシュは騒音発生源Sに対して近方から遠方に向かって下降する一の平面上に位置するように配置されている。
【0090】
上記で作製した比較参考例3並びに参考例5および参考例6の共鳴管について、上記と同様の方法を用いて、伝達関数法(2マイクロホン法)により、各周波数の音波に対する垂直入射吸音率αを測定した。なお、測定条件は下記の通りである。
【0091】
(FFT)
測定周波数(Fmax):10240Hz
Δf:10Hz
ウィンドウ:ハニング
アベレージ回数:100回
オーバーラップ率:0%
(ソース)
信号の種類:連続ランダム(ホワイトノイズ)
周波数範囲:200~7000Hz
出力電圧(SDADASIII):0.5V。
【0092】
結果を
図14に示す。
図14に示すように、各参考例の共鳴管は、比較参考例5の共鳴管と比較して、網状部材の設置により広い周波数帯にわたって優れた吸音性能を示すことがわかる。また、参考例5の共鳴管は、参考例6の共鳴管と比較して、特に800~2000Hzの周波数帯の音波に対して優れた吸音性能を示すことがわかる。一方、参考例6の共鳴管は、参考例5の共鳴管と比較して、特に2700~4000Hzの周波数帯の音波に対して優れた吸音性能を示すことがわかる。
【0093】
[試験例6]
以下の構造を有する参考例の共鳴管を作製した。
【0094】
比較参考例2:上記比較参考例2と同じである;
比較参考例4:参考例7において、導波方向の内寸長さを82mmに変更した;
参考例7:比較参考例2において、
図7(a)に示すように厚み2mmの断面積狭化部(47)(L
1=10mm、w
1=14mm)を設けた;
参考例8:比較参考例2において、
図7(a)に示すように厚み4mmの断面積狭化部(47)(L
1=10mm、w
1=10mm)を設けた;
参考例9:比較参考例2において、
図7(a)に示すように厚み6mmの断面積狭化部(47)(L
1=10mm、w
1=6mm)を設けた。
【0095】
上記で作製した比較参考例2および比較参考例4並びに参考例7~参考例9の共鳴管について、上記と同様の方法を用いて、伝達関数法(2マイクロホン法)により、各周波数の音波に対する垂直入射吸音率αを測定した。なお、測定条件は試験例4と同じとした。
【0096】
結果を
図15に示す。
図15に示すように、参考例7~参考例9の共鳴管は、比較参考例2および比較参考例4の共鳴管と比較して、断面積狭化部の設置(断面積は10~65%に狭化されている)により共鳴周波数のピークは低周波数側へシフトしたものの、ピーク周波数における吸音率は大幅に向上した。特に、断面積が10~35%に狭化されている参考例8および参考例9では、参考例7よりも優れた吸音率が達成された。
【0097】
[試験例7]
以下の構造を有する参考例の共鳴管を作製した。
【0098】
比較参考例2:上記比較参考例2と同じである;
比較参考例4:上記比較参考例4と同じである;
参考例8:上記参考例8と同じである;
参考例10:参考例8において、断面積狭化部(47)(厚み4mm)のL1を5mmに変更した;
参考例11:参考例8において、断面積狭化部(47)(厚み4mm)のL1を20mmに変更した。
【0099】
上記で作製した比較参考例2および比較参考例4並びに参考例8、参考例10および参考例11の共鳴管について、上記と同様の方法を用いて、伝達関数法(2マイクロホン法)により、各周波数の音波に対する垂直入射吸音率αを測定した。なお、測定条件は試験例4と同じとした。
【0100】
結果を
図16に示す。
図16に示すように、参考例8、参考例10および参考例11の共鳴管は、比較参考例2および比較参考例4の共鳴管と比較して、断面積狭化部の設置(断面積は約30%に狭化され、管路長Lに対する断面積狭化部の長さL
1の割合は4~20%となっている)により共鳴周波数のピークは低周波数側へシフトしたものの、ピーク周波数における吸音率は大幅に向上した。特に管路長Lに対する断面積狭化部の長さL
1の割合が9~20%である参考例8および参考例11では、参考例10よりも優れた吸音率が達成された。
【0101】
[試験例8]
以下の構造を有する参考例の共鳴管を作製した。
【0102】
参考例12:比較参考例2において、共鳴管の外寸幅を29mmに変更した;
参考例13:比較参考例2において、
図7(c)に示すように、共鳴管路を構成する吸音壁間の幅が閉塞端から開口端に向かって拡大するように構成した(閉塞端のサイズはそのまま、抜き勾配3°);
参考例14:参考例12において、
図7(c)に示すように、共鳴管路を構成する吸音壁間の幅が閉塞端から開口端に向かって拡大するように構成した(閉塞端のサイズはそのまま、抜き勾配10°)。
【0103】
上記で作製した参考例12~参考例14の共鳴管について、上記と同様の方法を用いて、伝達関数法(2マイクロホン法)により、各周波数の音波に対する垂直入射吸音率αを測定した。なお、測定条件は試験例4と同じとした。
【0104】
結果を
図17に示す。
図17に示すように、抜き勾配10°の参考例14では吸音率は低下したもののピーク周波数は1150Hz近傍にシフトした。一方、抜き勾配3°の参考例13では、参考例12と同等の吸音率を維持したまま、ピーク周波数は950Hz近傍にシフトした。