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特開2023-164431,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレンの製造法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016443
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレンの製造法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/08 20060101AFI20230126BHJP
   C07C 69/16 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120754
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000180586
【氏名又は名称】株式会社ケミクレア
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】森田 雅之
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC48
4H006BJ50
4H006KA06
(57)【要約】
【課題】医薬品やその製造原料として有用な1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレンの工業的な製造法を提供すること。
【解決手段】2-メチルナフトキノンの亜硫酸水素塩に亜ジチオン酸塩を反応させ、次いでアセチル化剤を反応させることを特徴とする1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレンの製造法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-メチルナフトキノンの亜硫酸水素塩に亜ジチオン酸塩を反応させ、次いでアセチル化剤を反応させることを特徴とする1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレンの製造法。
【請求項2】
2-メチルナフトキノンの亜硫酸水素塩に亜ジチオン酸塩とアルカリを同時に反応させ、次いでアセチル化剤を反応させることを特徴とする1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレンの製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレンの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレンは止血性ビタミンとして有用なビタミンK4であり、また低プロトロンビン血症に有用なフィトナジオン(ビタミンK1)、低プロトロンビン血症及び骨粗鬆症における骨量・疼痛の改善に有用なメナテトレノン(ビタミンK2)の製造中間体として知られている。
【0003】
1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレンの製造法としては、2-メチル-1,4-ナフトキノンを亜ジチオン酸ナトリウム等で還元してナフタレンジオールとし、更に無水酢酸等でアセチル化して製造されてきた(非特許文献1)。
また、2-メチル-1,4-ナフトキノンを亜鉛還元して2-メチル-1,4-ナフタレンジオールとした後、無水酢酸を反応させる方法(特許文献1)、及び2-メチル-1,4-ナフトキノンを無水酢酸及び4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下でPd/Cを用いた還元アセチル化反応に付す方法(特許文献2)も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】CN102503818A
【特許文献2】US2017/0260117A1
【特許文献3】特開平10-120614号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Biol.Chem., 133,391,1940
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記何れの方法も、光や熱に対する安定性が低く、加えて皮膚に対して刺激性を有する2-メチル-1,4-ナフトキノンを原料とするため、純度の高い1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレンの製造法としては問題があった。
従って、本発明の課題は、医薬品やその製造原料として有用な1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレンの新たな工業的な製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレンの製造法について種々検討した結果、安定で安全性の高い2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩を原料とし、亜ジチオン酸塩を直接作用させることにより、フリー化(脱塩)と還元反応が同時に進行し、2-メチル-1,4-ナフタレンジオールが効率的に得られることを見出した。次いで、常法によりアセチル化すれば高収率、高品質で1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレンが工業的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、次の発明[1]及び[2]を提供するものである。
[1]2-メチルナフトキノンの亜硫酸水素塩に亜ジチオン酸塩を反応させ、次いでアセチル化剤を反応させることを特徴とする1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレンの製造法。
[2]2-メチルナフトキノンの亜硫酸水素塩に亜ジチオン酸塩とアルカリを同時に反応させ、次いでアセチル化剤を反応させることを特徴とする1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレンの製造法。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法によれば、安定で安全性の高い2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩から高品質の1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレンを高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレン(V)の製造法は、2-メチルナフトキノンの亜硫酸水素塩(I)に亜ジチオン酸塩(II)を反応させ、次いでアセチル化剤(IV)を反応させることを特徴とする。本発明を反応式で示せば、次のとおりである。
【0011】
【化1】
(反応式中、Mは金属原子又はアミン類を示す)
【0012】
本発明方法で用いられる原料は、2-メチルナフトキノンの亜硫酸水素塩(I)である。当該亜硫酸水素塩は、従来の製造法で用いられる2-メチルナフトキノンに比べて、光や熱に対する安定性が高く、皮膚に対して刺激性もほとんどない。
亜硫酸水素塩としては、亜硫酸水素アルカリ金属、亜硫酸水素アルカリ土類金属、亜硫酸水素アミン類などが挙げられる。具体的には、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素カルシウム、亜硫酸水素アンモニウム、亜硫酸水素ジメチルピリジノールなどが挙げられる。
また、2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩は、3水和物などの水和物の形態のものを使用することもできる。
2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩(I)は、2-メチルナフトキノンに亜硫酸水素塩を反応させることにより製造でき、光や熱に対する安定性が高いことが知られているが(特許文献3)、これに亜ジチオン酸塩(II)を反応させることにより、フリー化(脱塩)と還元反応が同時に進行することは全く知られていない。
【0013】
亜ジチオン酸塩(II)としては、亜ジチオン酸ナトリウム、亜ジチオン酸カリウム、亜ジチオン酸亜鉛などの亜ジチオン酸金属塩が挙げられる。このうち、亜ジチオン酸ナトリウムが入手の容易性の点から好ましい。
亜ジチオン酸塩の使用量は、収率の点から、2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩に対して1.0倍モル以上5.0倍モル以下が好ましく、1.2倍モル以上4.0倍モル以下がより好ましく、1.5倍モル以上3.0倍モル以下がさらに好ましい。
【0014】
2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩(I)と亜ジチオン酸塩(II)との反応は、水溶液中又は水と有機溶媒との混合溶媒中で行うのが好ましい。より具体的には、フリー化(脱塩)と還元反応を同時に進行させる点から、2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩(I)含有溶液中に、亜ジチオン酸塩(II)含有溶液を滴下することにより反応させるのがより好ましい。
2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩(I)含有溶液の溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;イソプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶媒が用いられる。亜ジチオン酸塩(II)含有溶液の溶媒としては、水が好ましい。
【0015】
2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩(I)と亜ジチオン酸塩(II)との反応の反応温度は、フリー化(脱塩)と還元反応を同時に進行させる点、生産効率の点から、10℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましく、20℃以上50℃以下がさらに好ましい。
また、反応時間は、反応温度、用いる溶媒によっても異なるが、2時間程度から48時間までの範囲で行うことができる。
【0016】
2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩(I)と亜ジチオン酸塩(II)との反応においては、この反応系にアルカリを添加し、2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩(I)に亜
ジチオン酸塩(II)とアルカリを同時に反応させるのが、反応速度を高め、反応収率を高める点で好ましい。
アルカリは、2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩(I)に亜ジチオン酸塩(II)と
アルカリを同時に反応させる点から、亜ジチオン酸塩(II)中に添加するのが好ましく、亜ジチオン酸塩(II)含有溶液中に添加して滴下するのがより好ましい。従って、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの炭酸アルカリ金属塩;炭酸水素ナトリウムなどの炭酸水素アルカリ金属塩などが好ましい。
【0017】
前記アルカリは、反応速度を高め、反応収率を高める点、過剰なアルカリが2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩(I)に作用して反応系が着色するのを防止する点から、2-
メチルナフトキノン亜硫酸水素塩(I)に対して0.1倍モル以上5倍モル以下使用する
のが好ましく、0.5倍モル以上4倍モル以下使用するのがより好ましく、1.2倍モル以上3.6倍モル以下使用するのがさらに好ましい。
また、アルカリは、2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩(I)に亜ジチオン酸塩(I
I)とアルカリを同時に反応させる点、アルカリが先に2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩(I)に作用して反応系が着色するのを防止する点から、前記亜ジチオン酸塩(II
)含有溶液に添加して、その溶液を滴下することにより反応させるのがより好ましい。
【0018】
アルカリを使用した場合には、反応速度が高くなるので、亜ジチオン酸塩の使用量は、2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩に対して0.7倍モル以上3.0倍モル以下が好ましく、0.7倍モル以上2.0倍モル以下がより好ましく、1.0倍モル以上1.5倍モル以下がさらに好ましい。
また、アルカリを使用した場合、反応は、10℃以上50℃以下で、1時間から10時間程度で十分である。
【0019】
前記の反応により、2-メチルナフトキノン亜硫酸水素塩(I)のフリー化(脱塩)と還元反応が同時に進行するので、2-メチル-1,4-ナフタレンジオール(III)が効率よく生成する。次いで、この2-メチル-1,4-ナフタレンジオール(III)にアセチル化剤を反応させれば、1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレン(V)が得られる。
【0020】
アセチル化剤としては、通常ヒドロキシ基のアセチル化に用いることができるアセチル化剤であれば特に限定されず、例えば無水酢酸、アセチルハライド、酢酸メチル、N-メチルアセトアミドが挙げられるが、無水酢酸、塩化アセチルが好ましい。
アセチル化反応は、通常のアセチル化反応条件であればよく、例えばピリジン、4-ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチルアニリン、トリエチルアミンなどの塩基の存在下、アセチル化剤を有機溶媒中で反応させればよい。反応は、20℃~100℃で1時間から20時間で十分である。
【0021】
本発明方法によれば、高収率で1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレン(V)が得られるので、反応液からの目的物の精製は、通常の洗浄、再結晶などの常法で可能である。
【実施例0022】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1
(1)市水160g、亜ジチオン酸ナトリウム29.7g(純度90.1%、0.154mol)の混合溶液を準備した。300mLの四ツ口フラスコに2-メチルナフトキノンの亜硫酸水素塩・3水和物17.4g(純度97.7%、0.051mol)、酢酸エチル82mLを加え50℃に加熱し、先の混合溶液を滴下した。同温で3時間熟成した後に分液し、有機層を20%食塩水で洗浄し2-メチル-1,4-ナフタレンジオール酢酸エチル溶液を得た。
(2)前記2-メチル-1,4-ナフタレンジオール酢酸エチル溶液にピリジン0.45g(0.006mol)を加え、65~70℃で無水酢酸17.1g(0.167mol)を滴下し、同温で3時間熟成した。有機層を市水、5%重曹水で洗浄し、有機層を濃縮して残留物にイソプロパノール(IPA)と市水の混合溶液を加えた。生じたスラリーを濾別、減圧乾燥して無色結晶性粉末の1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレン12.0g(0.046mol)を得た。HPLC純度99.96Area%であり、2-メチルナフトキノンの亜硫酸水素塩・3水和物からの収率は90.2%であった。
【0024】
実施例2
実施例1の(1)において、亜ジチオン酸ナトリウムの使用量を14.85g(純度90.1%、0.0768mol)とし、熟成時間を24時間とする以外は実施例1と同様に反応を行い、1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレン9.3g(0.036mol)を得た。HPLC純度99.97Area%であり、2-メチルナフトキノンの亜硫酸水素塩・3水和物からの収率は70.2%であった。
【0025】
実施例3
(1)市水400g、亜ジチオン酸ナトリウム74.3g(純度90.1%、0.384mol)、25%苛性ソーダ49.1g(0.308mol)の混合溶液を準備した。1Lの四ツ口フラスコに2-メチルナフトキノンの亜硫酸水素塩・3水和物87.0g(純度97.7%、0.257mol)、酢酸エチル400mLを加え50℃に加熱し、先の混合溶液を滴下した。同温で1時間熟成した後に分液し、有機層を20%食塩水で洗浄し2-メチル-1,4-ナフタレンジオール酢酸エチル溶液を得た。
(2)前記2-メチル-1,4-ナフタレンジオール酢酸エチル溶液にピリジン2.21g(0.028mol)を加え、65~70℃で無水酢酸85.4g(0.837mol)を滴下し、同温で3時間熟成した。有機層を市水、5%重曹水で洗浄し、有機層を濃縮して残留物にIPAと市水の混合溶液を加えた。生じたスラリーを濾別、減圧乾燥して無色結晶性粉末の1,4-ジアセトキシ-2-メチルナフタレン62.9g(0.244mol)を得た。HPLC純度は99.95Area%であり、2-メチルナフトキノンの亜硫酸水素塩・3水和物からの収率は94.7%であった。
【0026】
実施例4
実施例3の(1)において、25%苛性ソーダの使用量を147.3g(0.921mol)とする以外は実施例3と同様に反応を行い、1,4-ジアセトキシ-2-チルナフタレン60.1g(0.233mol)を得た。HPLC純度99.92Area%であり、2-メチルフトキノンの亜硫酸水素塩・3水和物からの収率は90.5%であった。
【0027】
実施例5
実施例3の(1)において、亜ジチオン酸ナトリウムの使用量を49.75g(純度90.1%、0.257mol)とし、熟成時間を3時間とする以外は実施例3と同様に反応を行い、1,4-ジアセトキシ-2-チルナフタレン52.3g(0.202mol)を得た。HPLC純度99.98Area%であり、2-メチルフトキノンの亜硫酸水素塩・3水和物からの収率は78.7%であった。
【0028】
実施例6
実施例3の(1)において、25%苛性ソーダの使用量を20.6g(0.129mol)とし、熟成時間を2時間とする以外は実施例3と同様に反応を行い、1,4-ジアセトキシ-2-チルナフタレン61.3g(0.237mol)を得た。HPLC純度99.97Area%であり、2-メチルフトキノンの亜硫酸水素塩・3水和物からの収率は92.3%であった。