(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164477
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】治療的使用のための鉄錯体化合物
(51)【国際特許分類】
C07F 15/02 20060101AFI20231102BHJP
C07H 3/04 20060101ALI20231102BHJP
C07H 3/06 20060101ALI20231102BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20231102BHJP
A61K 31/7135 20060101ALI20231102BHJP
A61P 13/12 20060101ALN20231102BHJP
A61P 7/06 20060101ALN20231102BHJP
【FI】
C07F15/02
C07H3/04 CSP
C07H3/06
A61K33/26
A61K31/7135
A61P13/12
A61P7/06
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023137244
(22)【出願日】2023-08-25
(62)【分割の表示】P 2020513641の分割
【原出願日】2018-09-10
(31)【優先権主張番号】17190302.4
(32)【優先日】2017-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】511228241
【氏名又は名称】ファーマコスモス ホールディング エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】クリステンセン,トビアス エス.
(72)【発明者】
【氏名】アンドリアセン,ハンス ビー.
(57)【要約】
【課題】従来の鉄製品、特に獣医学的使用のための鉄製品が、多くの場合、ヒトおよび/または非ヒト動物の健康に有害であり得る、比較的高い量の非鉄金属不純物、例えば、ヒ素、クロム、鉛、水銀、カドミウムまたはアルミニウムを含有する。
【解決手段】本発明は、ヒ素、クロム、鉛、カドミウム、水銀および/またはアルミニウムの少ない、治療的使用のための鉄錯体化合物、その組成物、ならびに前記鉄錯体化合物を調製する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄錯体化合物を調製する方法であって
(i)水溶性鉄塩、水酸化鉄または水酸化酸化鉄から選択される形態の鉄を含む鉄調製物を用意する工程であって、
- 鉄調製物中のヒ素の量が、鉄1g当たり4.5μgを超えず、
- 鉄調製物中の鉛の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えない、
工程、ならびに
(ii)水の存在下で、鉄調製物を配位子と接触させて、鉄錯体化合物を形成する工程
を含む方法。
【請求項2】
- 鉄調製物中のカドミウムの量が、鉄1g当たり0.6μgを超えず、
- 鉄調製物中の水銀の量が、鉄1g当たり0.9μgを超えない、
請求項2に記載の方法。
【請求項3】
- 鉄調製物中のクロムの量が、鉄1g当たり330μgを超えない、
請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
鉄調製物中のアルミニウムの量が、鉄1g当たり200μgを超えない、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
鉄調製物が、
(a)ペンタカルボニル鉄から;または
(b)鉄塩の水溶液から鉄塩の再結晶化によって、好ましくは硝酸を含有する水溶液から硝酸第二鉄の再結晶化によって、または
(c)鉄塩水溶液を有機溶媒で抽出することによって、好ましくは、塩化第二鉄溶液を、4~20個の炭素原子を有するアルコールもしくはアミン塩の有機溶液で抽出することによって、または
(d)鉄塩水溶液、好ましくは塩化鉄もしくは硫酸鉄を含む水溶液の電気分解の間にアノードで堆積される鉄から、または
(e)鉄塩水溶液を、塩基と接触させて水酸化鉄の沈殿物を形成し、沈殿物をろ過もしくは遠心分離によって液体から分離することによって、ここで、塩基は、好ましくは水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムから選択され;または
(f)塩化第二鉄および不揮発性不純物を含む混合物から塩化第二鉄を蒸留することによって
得られる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
- 鉄錯体化合物中のヒ素の量が、鉄1g当たり4.5μgを超えず、好ましくは鉄1g当たり1.5μgを超えず、
- 鉄錯体化合物中の鉛の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えず、好ましくは鉄1g当たり0.5μgを超えない、
鉄錯体化合物。
【請求項7】
- 鉄錯体化合物中のカドミウムの量が、鉄1g当たり0.6μgを超えず、好ましくは鉄1g当たり0.4μgを超えず、
- 鉄錯体化合物中の水銀の量が、鉄1g当たり0.9μgを超えず、好ましくは鉄1g当たり0.3μgを超えない、
請求項6に記載の鉄錯体化合物。
【請求項8】
- 鉄錯体化合物中のクロムの量が、鉄1g当たり330μgを超えず、好ましくは鉄1g当たり100μgを超えない、
請求項6または請求項7に記載の鉄錯体化合物。
【請求項9】
鉄錯体化合物中のアルミニウムの量が、鉄1g当たり200μgを超えず、好ましくは鉄1g当たり25μgを超えない、鉄錯体化合物。
【請求項10】
鉄錯体化合物が鉄炭水化物錯体化合物であり、任意選択により、鉄錯体化合物中で配位子として働く炭水化物中の還元性アルデヒド基の含有量が、酸化、水素化またはその両方の組合せによって低減されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法または請求項6~9のいずれか1項に記載の鉄錯体化合物。
【請求項11】
鉄炭水化物錯体化合物が、カルボキシマルトース鉄、ポリグルコースソルビトールカルボキシメチルエーテル鉄錯体、マンニトール鉄錯体、デキストラン鉄、水素化デキストラン鉄、酸化デキストラン鉄、鉄カルボキシアルキル化還元オリゴ糖および多糖、スクロース鉄、グルコン酸鉄、デキストリン鉄、水素化デキストリン鉄、酸化デキストリン鉄、ポリマルトース鉄、水素化ポリマルトース鉄、オリゴマルトース鉄、オリゴマルトース水素化鉄、ポリイソマルトース鉄、水素化ポリイソマルトース鉄、鉄水素化オリゴ糖、例えば、水素化オリゴイソマルトース鉄、ヒドロキシエチルデンプン鉄、ソルビトール鉄、デキストラングルコヘプトン酸鉄ならびにその2種以上の混合物から選択される、請求項10に記載の方法または鉄錯体化合物。
【請求項12】
鉄錯体化合物が、重合配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法または請求項6~9のいずれか1項に記載の鉄錯体化合物。
【請求項13】
配位子が、カルボン酸、例えば、アジピン酸、グルタル酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、アスパラギン酸、ピメリン酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸および安息香酸;食品添加剤、例えば、マルトール、エチルマルトールおよびバニリン;配位子特性を有するアニオン、例えば、重炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオン;鉱物配位子、例えば、シリケート、ボレート、モリブデートおよびセレネート;アミノ酸、例えば、トリプトファン、グルタミン、プロリン、バリンおよびヒスチジン;および栄養素ベースの配位子、例えば、フォレート、アスコルベート、ピリドキシンおよびナイアシン;ならびにその2種以上の混合物から選択される、請求項12に記載の方法または鉄錯体化合物。
【請求項14】
鉄錯体化合物が、デキストラン鉄、水素化デキストラン鉄およびグルコヘプトン酸デキストラン鉄から任意選択により選択される、非ヒト動物における鉄欠乏症の治療または予防に用いられる、請求項6~13のいずれか1項に記載の鉄錯体化合物。
【請求項15】
ヒト対象、好ましくは、腎機能の喪失または障害を患っているヒト対象、例えば透析を必要とするヒトにおける鉄欠乏症の治療または予防に用いられる、請求項6~13のいずれか1項に記載の鉄錯体化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒ素、鉛、クロム、水銀、カドミウムおよび/またはアルミニウムの少ない、治療的使用のための鉄錯体化合物、その組成物、ならびに前記鉄錯体化合物を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄欠乏症および鉄欠乏性貧血のリスクは、世界中でヒトおよび家畜の健康に高く関係している。
【0003】
鉄欠乏症は、妊娠および授乳、小児期の発達、消化管出血、炎症性腸疾患、うっ血性心不全、下肢静止不能症候群、寄生虫感染症、特定の薬剤の慢性摂取、腎機能障害および他多数を含む多数の一般的な状態と関連している。鉄製品は、ヒトにおける鉄欠乏症およびそれに伴う貧血を治療または予防するために一般的に使用される。
【0004】
鉄欠乏症の予防および治療は、畜産においても重要な側面である。例えば、鉄欠乏性貧血の予防のための注射用鉄の使用は、世界全体にわたって養豚におけるほとんど業界標準である。20世紀半ばの初期の報告に、仔ブタへの補充鉄の必要性が詳述されたため、製品表示指示により、ブタ1頭につき200mg用量の注射用鉄が日常的に与えられている(Kernkampら、J Anim Sci. 1962、21:527-532; Ullreyら、J Anim Sci. 1959、18:256-263; Zimmermanら、J Anim Sci. 1959、18:1409-1415)。したがって、家畜への鉄製品の投与は、畜産において、確立された、多くの場合必須の慣行である。
【0005】
鉄欠乏症およびそれに伴う貧血の治療または予防に使用するための様々な形態の鉄製品が記載されている。例えば、少数であるが名前を挙げると、WO2016/206600A1、WO2016/066172A1、WO2010/108493A1、WO99/48533A1、US6,977,249B1、EP1554315B1、US8,926,947B2およびWO2008/096130A1を参照されたい。
【0006】
本発明の目的は、ヒトおよび家畜への投与、ならびに家畜から生産された食品のヒト消費者に安全である鉄製品を提供することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、従来の鉄製品、特に獣医学的使用のための鉄製品が、多くの場合、ヒトおよび/または非ヒト動物の健康に有害であり得る、比較的高い量の非鉄金属不純物、例えば、ヒ素、クロム、鉛、水銀、カドミウムまたはアルミニウムを含有することを見出した。家畜製品のヒト消費者までの食物連鎖にわたるそのような不純物の蓄積により、この健康リスクは悪化し得る。したがって、本発明者らは、ヒ素、クロム、鉛、水銀、カドミウムおよび/またはアルミニウムなどの不純物の少ない鉄錯体化合物を調製するための新規方法を考案した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって一態様では、本発明は、鉄錯体化合物を調製する方法であって、
(i)水溶性鉄塩、水酸化鉄、水酸化酸化鉄およびその2種以上の混合物から選択される形態の鉄を含む鉄調製物を用意する工程であって、
- 鉄調製物中のヒ素の量が、鉄1g当たり4.5μgを超えず、
- 鉄調製物中の鉛の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えない、
工程、ならびに
(ii)水の存在下で、鉄調製物を配位子と接触させて、鉄錯体化合物を形成する工程
を含む方法を提供する。
【0009】
さらなる態様では、本発明は、本発明の方法によって得られる鉄錯体化合物を提供する。
【0010】
さらなる態様では、本発明は、
- 鉄調製物中のヒ素の量が、鉄1g当たり4.5μgを超えず、
- 鉄調製物中の鉛の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えない、
鉄錯体化合物を提供する。
【0011】
さらなる態様では、本発明は、鉄錯体化合物中のアルミニウムの量が、鉄1g当たり200μgを超えない、鉄錯体化合物を提供する。
【0012】
さらなる態様では、本発明は、本発明の鉄錯体化合物および薬学的に許容される担体を含む組成物を提供する。
【0013】
さらなる態様では、本発明は、治療的使用のための本発明の鉄錯体化合物または組成物を提供する。
【0014】
関連する態様では、本発明は、対象における鉄欠乏症の治療または予防に使用するための、本発明の鉄錯体化合物または組成物を提供する。
【0015】
本発明はまた、対象における鉄欠乏症の治療または予防のための医薬品の製造における本発明の鉄錯体化合物または組成物の使用に関する。本発明はまた、有効量の本発明の鉄錯体化合物または組成物を対象に投与することによる、対象における鉄欠乏症の治療または予防のための方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
さらに指定されない限り、本明細書で使用される場合、「鉄錯体化合物」という用語は、Fe3+および/またはFe2+を含む鉄イオンまたは鉄粒子と配位子との任意の錯体を指す。
【0017】
適宜、本発明の鉄錯体化合物中で使用される配位子および塩、ならびにその組成物の担体および他の成分は、生理学的に許容されるものとする。本明細書で使用される場合、「生理学的に許容される」という用語は、配位子、塩、担体または他の成分が、配位子、塩、担体または他の成分を含む鉄錯体化合物または組成物が治療有効量で対象に投与された場合、急性毒性を引き起こさないことを意味する。
【0018】
さらに指定されない限り、本明細書で使用される場合、「炭水化物」という用語には、本明細書に記載されている通りの、還元、酸化、誘導体化された炭水化物またはその組合せが含まれる。特に、炭水化物は、例えばUS3,639,588に記載されている通りの方法を使用して、例えば、炭水化物のヒドロキシル基とのエーテル、アミド、エステルおよびアミンの形成によって、または炭水化物のアルデヒド基をグリコール基に変換してヘプトン酸、例えば、デキストラングルコヘプトン酸またはデキストリングルコヘプトン酸が形成されるようにすることによって、誘導体化され得る。したがって、本明細書で使用される場合、「炭水化物」という用語は、実験式Cm(H2O)n(式中、mおよびnは、互いに同じであっても異なっていてもよい整数である)を有する化合物に限定されない。
【0019】
本発明の鉄炭水化物錯体化合物中の配位子として使用され得る炭水化物には、例えば、単糖;二糖、例えば、スクロースおよびマルトース;オリゴ糖および多糖、例えば、マルトデキストリン、ポリグルコース、デキストラン、ポリマルトースおよびオリゴマルトース、ポリイソマルトースおよびオリゴイソマルトース;糖アルコール、例えば、ソルビトールおよびマンニトール;糖酸およびその塩、例えば、グルコン酸、グルコン酸塩、デキストラングルコヘプトン酸、デキストリングルコヘプトン酸、デキストラングルコヘプトン酸塩およびデキストリングルコヘプトン酸塩、ならびにその還元および/または酸化および/または誘導体化変異体、例えば、カルボキシマルトース、ポリグルコースソルビトールカルボキシメチルエーテル、水素化デキストラン、酸化デキストラン、カルボキシアルキル化オリゴ糖および多糖、酸化オリゴ糖および多糖、水素化デキストリン、酸化デキストリン、水素化ポリマルトース、水素化オリゴマルトース、水素化ポリイソマルトース、水素化オリゴイソマルトース、水素化オリゴマルトース、ヒドロキシエチルデンプンまたはその2種以上の混合物が含まれる。好ましい実施形態では、炭水化物は、カルボキシマルトース、ポリグルコースソルビトールカルボキシメチルエーテル、マンニトール、デキストラン、水素化デキストラン、スクロース、グルコネート、デキストリン、水素化オリゴイソマルトース(オリゴマルトシド)またはその2種以上の混合物である。
【0020】
本明細書で使用される場合、「オリゴ糖」という用語は、少数、典型的には3~10個の単糖単位を有する炭水化物またはその還元および/もしくは酸化および/もしくは誘導体化変異体、または分子の大部分(例えば、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%またはそれよりも多く)が、少数、典型的には3~10個の単糖単位を有する、2種以上の炭水化物またはその還元および/もしくは酸化および/もしくは誘導体化変異体の混合物を指す。
【0021】
本明細書で使用される場合、「モノマー糖」という用語は、単糖またはその還元および/もしくは酸化および/もしくは誘導体化変異体、または2種以上の単糖および/もしくはその変異体の混合物を指す。
【0022】
本明細書で使用される場合、「ダイマー糖」という用語は、2つの単糖単位(例えば、二糖)を有する炭水化物またはその還元および/もしくは酸化および/もしくは誘導体化変異体、または分子の大部分(例えば、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%またはそれよりも多く)が2つの単糖単位を有する、2種以上の炭水化物またはその還元および/もしくは酸化および/もしくは誘導体化変異体の混合物を指す。
【0023】
糖アルコールは、アルデヒド基がヒドロキシル基に変換された単糖または二糖誘導体である。
【0024】
糖酸は、カルボキシル基を有する単糖誘導体である。カルボキシル基は、例えば、アルドースのアルデヒド基を酸化してアルドン酸を形成すること、2-ケトースの1-ヒドロキシル基を酸化してα-ケト酸(ウロソン酸)を形成すること、アルドースもしくはケトースの末端ヒドロキシル基を酸化してウロン酸を得ること、またはアルドースの両端を酸化してアルダル酸を得ることによって得ることができる。
【0025】
本発明の方法の工程(i)において、ヒ素および鉛が少なく、任意選択によりクロム、水銀、カドミウムおよび/またはアルミニウムも少ない、鉄調製物が用意される。
【0026】
前記非鉄金属の量は、本明細書において、鉄調製物または鉄錯体化合物中の鉄の量に対して示される。鉄、ヒ素、クロム、鉛、水銀、カドミウムおよびアルミニウムなどの金属は、様々な形態(元素形態、塩、錯体化合物)で存在する。本明細書において示される鉄ならびに、ヒ素、クロム、鉛、水銀、カドミウムおよびアルミニウムなどの非鉄金属の量は、それが存在する形態に関わらず、それぞれの金属の総量を指す。
【0027】
非鉄金属の量は、好ましくは、誘導結合プラズマ(ICP)法、例えば誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を使用して決定される。この目的のために使用できるデバイスの例には、8800トリプル四重極ICP-MS(Agilent Technologies)およびiCAP(商標)Qシリーズ(Thermo Fisher Scientific)のICP-MSデバイスが含まれるが、これらに限定されない。比較的高い測定限界を有するおよび/または鉄による干渉への感度の高い原子吸光分析(AAS)などの方法は、一般に推奨されない。
【0028】
別途指定されない限り、本明細書で使用される場合、特定の値の文脈における「約」という用語は、その値が、最大20%、特に最大10%、より詳細には最大5%、例えば最大1%変動し得ることを示す。
【0029】
本発明の方法において使用される鉄調製物中、
- ヒ素の量は、鉄1g当たり4.5μgを超えず、例えば、鉄1g当たり3.0μg、鉄1g当たり2.5μg、または鉄1g当たり2.0μgを超えず、特に、鉄1g当たり1.5μgを超えず、例えば、鉄1g当たり1.0μg、鉄1g当たり0.8μg、鉄1g当たり0.5μg、または鉄1g当たり0.3μgを超えず、
- 鉛の量は、鉄1g当たり1.5μg、鉄1g当たり1.3μg、鉄1g当たり1.0μg、または鉄1g当たり0.7μgを超えず、特に、鉄1g当たり0.5μgを超えず、例えば、鉄1g当たり0.4μg、または鉄1g当たり0.2μgを超えず、
- 任意選択により、カドミウムの量は、鉄1g当たり0.6μgを超えず、例えば、鉄1g当たり0.5μgを超えず、特に、鉄1g当たり0.4μgを超えず、例えば、鉄1g当たり0.3μg、または鉄1g当たり0.2μgを超えず、
- 任意選択により、水銀の量は、鉄1g当たり0.9μgを超えず、例えば、鉄1g当たり0.7μg、または鉄1g当たり0.5μgを超えず、特に、鉄1g当たり0.3μgを超えず、例えば、鉄1g当たり0.2μg、または鉄1g当たり0.10μgを超えず、
- 任意選択により、クロムの量は、鉄1g当たり330μgを超えず、例えば、鉄1g当たり250μg、または鉄1g当たり170μgを超えず、特に、鉄1g当たり100μgを超えず、例えば、鉄1g当たり75μg、鉄1g当たり50μg、または鉄1g当たり20μgを超えず、
- 任意選択により、アルミニウムの量は、鉄1g当たり200μgを超えず、例えば、鉄1g当たり150μg、鉄1g当たり100μg、または鉄1g当たり50μgを超えず、特に、鉄1g当たり25μgを超えず、例えば、鉄1g当たり20μg、または鉄1g当たり15μgを超えない。
【0030】
本発明の方法において使用される鉄調製物は、水溶性鉄塩、水酸化鉄および水酸化酸化鉄から選択される形態の鉄を含む。鉄調製物は、これらの鉄形態のうちの2種以上の混合物を含有していてもよい。
【0031】
特定の実施形態では、鉄調製物は、水溶性鉄塩、例えば、臭化、硫酸または塩化鉄、特に、塩化第二鉄(FeCl3)、塩化第一鉄(FeCl2)またはその混合物を含む。適宜、水溶性鉄塩は、生理学的に許容される塩である。
【0032】
さらなる特定の実施形態では、鉄調製物は、水酸化鉄、例えば、水酸化第二鉄(Fe(OH)3)、水酸化第一鉄(Fe(OH)2)またはその混合物を含む。
【0033】
さらなる特定の実施形態では、鉄調製物は、水酸化酸化鉄を含む。水酸化酸化鉄はまた、オキシ水酸化鉄と呼ばれることもある。水酸化酸化鉄は、1つまたは1つ以上の鉄イオン、1つまたは1つ以上のオキソ基、および1つまたは1つ以上のヒドロキシル基からなる化合物である。特定の水酸化酸化鉄には、例えば、無水(FeO(OH))形態で生じる水酸化酸化第二鉄および水和(FeO(OH)・nH2O)形態、例えば、水酸化酸化第二鉄一水和物(FeO(OH)・H2O)が含まれる。水酸化酸化鉄は、例えばRompp lexicon Chemie、10. Auflage、1997に記載されている通り、加水分解および沈殿によって、例えば鉄(III)塩水溶液から調製できる。水酸化酸化鉄は、様々な多形形態で存在し得る。例えば、FeO(OH)の多形には、α-FeO(OH)(針鉄鉱)、β-FeO(OH)(アカガナイト)、γ-FeO(OH)(レピドクロサイト)およびδ-FeO(OH)(フェロキシハイト)が含まれる。
【0034】
本発明の方法において使用される鉄調製物、すなわち、本発明によって必要とされる通りの非鉄金属不純物が少ない鉄調製物は、
(a)ペンタカルボニル鉄から;または
(b)その水溶液からの鉄塩の再結晶化によって;または
(c)鉄塩水溶液を有機溶媒で抽出することによって;または
(d)鉄塩水溶液の電気分解の間にアノードに堆積される鉄から;または
(e)鉄塩水溶液を塩基と接触させて水酸化鉄の沈殿物を形成し、沈殿物をろ過もしくは遠心分離によって液体から分離することによって;または
(f)塩化第二鉄および不揮発性不純物を含む混合物から塩化第二鉄を蒸留することによって
得ることができる。
【0035】
好ましい実施形態によると、鉄調製物は、鉄塩水溶液(例えば、ニッケル製造のための鉄含有ニッケル鉱の処理の間に得られる鉄塩水溶液)を有機溶媒で抽出する方法によって得られる。
【0036】
特に好ましい実施形態によると、本発明の方法において使用される鉄調製物は、ペンタカルボニル鉄から調製される。
【0037】
本明細書に記載されている通りの
(a)ペンタカルボニル鉄から;または
(b)その水溶液からの鉄塩の再結晶化による;または
(c)鉄塩水溶液を有機溶媒で抽出することによる;または
(d)鉄塩水溶液の電気分解の間にアノードに堆積される鉄から;または
(e)鉄塩水溶液を塩基と接触させて水酸化鉄の沈殿物を形成し、沈殿物をろ過もしくは遠心分離によって液体から分離することによる;または
(f)塩化第二鉄および不揮発性不純物を含む混合物から塩化第二鉄を蒸留することによる
鉄調製物の生成は、本発明の方法の工程であり得るが、そうである必要はない。
【0038】
ペンタカルボニル鉄から水溶性鉄塩、水酸化鉄または水酸化酸化鉄を調製する方法は、当技術分野で公知である。例えば、第1の工程において、例えばUS4,056,386に記載されている通り、任意選択によりH2、NO、PF3、PH3、NH3および/またはI2などの触媒の存在下、高温(例えば、200℃以上)で、ペンタカルボニル鉄を分解して、鉄(いわゆるカルボニル鉄)を形成できる。鉄は、(好ましくは、過剰量の)塩酸と反応させて、FeCl2を得ることができる。FeCl2は、塩酸および(好ましくは、わずかに不足量の)塩素酸ナトリウムと反応させて、FeCl3を得ることができる。FeCl2は、塩酸と反応させ、例えば過酸化水素を使用して酸化させて、FeCl3を形成できる。この反応を使用して、塩酸および塩素酸ナトリウムとの反応から残留しているFeCl2を酸化して、FeCl2からFeCl3へのより完全な変換を達成できる。また、塩素(Cl2、気体)を酸化剤として使用できる。
【0039】
カルボニル鉄は、例えば、好ましくは高圧下(例えば、15~20MPaの高さ)で、一酸化炭素を熱鉄(例えば、約200℃の熱さ)に方向付けることによって調製できる。カルボニル鉄のそのような調製は、例えば、1926年6月26日に公開されたBadische Anilin- & Soda-Fabrikの仏国特許出願第607.134号に記載されている。
【0040】
その水溶液からの鉄塩調製物の再結晶化による、本明細書に記載されている通りの鉄調製物を調製する方法は、当技術分野で公知である。このために、水溶性塩鉄調製物の水溶液が用意し、この溶液から鉄塩(例えば、硝酸第二鉄)を再結晶化(例えば、溶液の温度を低下させることによって)させ、この液体から鉄塩結晶を分離、溶解して、その水溶液が形成されるようにし、次いで、再結晶化および分離に再度かける。溶解、再結晶化および分離の工程は、1回またはさらに数回繰り返して、鉄塩調製物の純度を上げる、特に、その非鉄金属不純物の量を低減できる。特定の例によると、硝酸第二鉄は、硝酸を含有するその水溶液から再結晶化させる。具体的には、硝酸第二鉄は、約50~60℃で約55~65%水性硝酸に溶解される。溶液は、結晶硝酸第二鉄沈殿物が形成され、液体から分離され得る約15℃以下の温度に冷却する。溶解、再結晶化および分離の前記工程は、1回またはさらに数回繰り返すことができる。
【0041】
鉄塩水溶液を有機溶媒で抽出することによる、本明細書に記載されている通りの鉄調製物を調製する方法は、当技術分野で公知である。このために、塩化第二鉄水溶液を、有機溶媒で処理して、塩化第二鉄を有機溶媒中に選択的に溶解すること(抽出)ができ、次いで、選択的に溶解された塩化第二鉄は、塩化第二鉄から有機溶媒を除去することによって回収できる。例示的な有機溶媒には、約4~20個の炭素原子を有するアルコール、特に、6~10個の炭素原子を有するアルコール、例えば、n-オクタノール、およびアミン塩の有機溶液、例えば、トルエン中トリ-n-ラウリルアミン塩酸塩が含まれる。塩化第二鉄水溶液中の塩酸の存在により、抽出効率が改善され得る。有機溶媒を添加する前の部分蒸発により、出発水溶液中の塩化第二鉄の濃度を、特に塩化第二鉄280~850g/lの範囲の濃度に上昇させることが有利である。蒸発および溶媒抽出の精製サイクルは、所望の純度の塩化第二鉄調製物が得られるまで繰り返すことができる。塩化第一鉄の水溶液もまた、塩素による酸化によって塩化第一鉄が塩化第二鉄に最初に変換される場合、精製され得る。鉄塩の有機溶媒による抽出のための具体的な方法は、例えば、CA2318823A1およびMulerら("Liquid-liquid extraction of ferric chloride by tri-n-laurylamine hydrochloride"、EUR 2245.e、Euratom report、Transplutonium Elements Program、 Euratom Contract No. 003-61-2 TPUB、Presses Academiques Europeennes、Brussels、1965)に記載されている。
【0042】
鉄がアノードに堆積される鉄塩水溶液の電気分解方法は、当技術分野で公知である。例えば、Cainら("Preparation of pure iron and iron-carbon alloy" in Bulletin of the Bureau of Standards、Vol. 13、1916)およびMostadら(Hydrometallurgy、2008、90、213-220)を参照されたい。電気分解のための好適な鉄溶液には、塩化鉄溶液、硫酸鉄溶液ならびに塩化鉄および硫酸鉄の両方を含有する溶液が含まれる。溶液は、典型的には、中性または酸性である。
【0043】
本明細書に記載されている通りの鉄調製物はさらに、鉄塩水溶液を塩基と接触させて水酸化鉄の沈殿物を形成し、沈殿物をろ過もしくは遠心分離によって液体から分離することによって得ることができる。水酸化鉄の沈殿のための好適な塩基には、水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムが含まれる。あるいは、重炭酸ナトリウムを使用できる。ろ過または遠心分離によって残留している溶液からそのような沈殿物を分離する方法は、当技術分野で公知である。
【0044】
本発明の方法に使用される鉄調製物などの非鉄金属不純物の少ない鉄調製物はまた、塩化第二鉄および不揮発性不純物を含む混合物の蒸留によって調製することもできる。蒸留のために、混合物は、選択した圧力および温度で混合物が概ねその沸点になるように選択された温度および圧力にかけられる。これらの条件で、混合物は、気相と液体塩化第二鉄中の不揮発性不純物のスラリーとに分離する。蒸気は、実質的に純粋な塩化第二鉄であり、これは、スラリーから蒸気を分離することによって回収できる。特定の実施形態によると、混合物の概ね沸点の温度は、前記沸点の10℃以内であり、好ましくは前記沸点である温度を意味する。蒸留は、例えば、300℃~700℃の範囲の温度および0.1~5.1MPaの範囲、好ましくは0.2~0.4MPaの範囲の圧力で実施でき、ここで、選択した圧力および温度で、混合物は概ねその沸点である。
【0045】
蒸留の間、スラリーを機械により(例えば、パドル撹拌機などによって)かきまぜることによって、または好ましくは、スラリーに気体(例えば、窒素、ヘリウム、塩素またはその混合物)通してバブリングすることによって、スラリー中の不揮発性固体の沈殿を防ぐことができる。
【0046】
塩化第二鉄蒸気の分離後、スラリーを加熱して塩化第二鉄を蒸発させ、塩化第二鉄含有蒸気を分離および冷却し、それを蒸留プロセスに再導入することによって、残留しているスラリーを再利用できる。好ましくは、スラリーの再利用は、蒸留の間、スラリー中に存在する固体の量が約20wt%未満、特に約12wt%未満になるように実施される。
【0047】
蒸留プロセスに導入される塩化第二鉄および不揮発性不純物を含む混合物は、例えば、鉄含有鉱石(例えば、チタン鉄鉱などのチタン鉄鉱石)を塩素化して塩化第二鉄および不揮発性不純物を含む気体混合物を生成し、この気体を冷却して塩化第二鉄および不揮発性不純物の固体混合物を堆積させることによって得ることができる。次いで、前記固体混合物は、蒸留プロセスに導入できる。気体混合物から塩化第二鉄および不揮発性不純物の固体混合物を分離する前に、任意選択により、気体混合物を塩化第二鉄の露点を超える温度にかけて、この温度ではもはや気体ではない不揮発性不純物を除去できる。次いで、こうして予備精製された気体混合物を冷却して、塩化第二鉄および不揮発性不純物の固体混合物を堆積させることができ、これは、蒸留プロセスに導入できる。例えば、US3,906,077を参照されたい。
【0048】
鉄調製物を調製および精製する様々な方法を組み合わせて、鉄調製物の純度をより一層上げることができる。例えば、鉄塩水溶液の電気分解によって調製された鉄は、水溶性鉄塩に変換され得、次いで、これは、
(1)鉄塩の水溶液を形成するための溶解、
(2)水溶液からの鉄塩の再結晶化、および
(3)残留している溶液からの再結晶化鉄塩の分離
の1回または複数のサイクルにかけられる。
【0049】
本発明の鉄錯体化合物は、本明細書に記載されている通りのヒ素および鉛が少なく、任意選択により、クロム、水銀、カドミウムおよび/またはアルミニウムも少ない鉄調製物を、水の存在下で配位子と接触させることによって調製できる。これは、本発明の鉄錯体化合物を調製する方法の工程(ii)を表している。水酸化鉄および/または水酸化酸化鉄の形態の鉄を含む鉄調製物は、この工程に直接使用できる。例えば、水溶液中で水酸化鉄(例えば、水酸化第二鉄)および/または水酸化酸化鉄の沈殿物を配位子(例えば、炭水化物調製物)と接触させ、続いて、加熱し、pHを上昇させて鉄錯体化合物(例えば、FeO(OH)コアを含む鉄錯体化合物)を形成する。あるいは、鉄調製物を酸と接触させることによって、鉄調製物の水酸化鉄および/または水酸化酸化鉄は、本明細書に記載されている通りの水溶性鉄塩に変換される。適宜、この変換は、反応物質(水酸化鉄および/または水酸化酸化鉄ならびに酸)を含む水溶液中で実施される。酸の選択は、生成されることになる鉄塩に依存する。例えば、塩化鉄は、鉄調製物の水酸化鉄および/または水酸化酸化鉄を塩酸と反応させることによって調製できる。鉄調製物に加えて、鉄錯体化合物を調製するための本発明の方法の工程(ii)において使用される試薬は、適宜、ヒ素、クロム、鉛、水銀、カドミウムおよび/またはアルミニウムなどの非鉄不純物を実質的に含まない。
【0050】
一群の実施形態によると、鉄錯体化合物は鉄炭水化物錯体化合物である、すなわち、鉄錯体化合物中の配位子は炭水化物である。
【0051】
好ましくは、炭水化物中の還元性アルデヒド基の含有量は、少なくとも部分的に低減される。これは、水素化、酸化またはその組合せによって達成できる。水素化および/または酸化された炭水化物を含む鉄炭水化物錯体化合物は、例えば、US8,929,947B2、EP1554315B1、US6,977,249B1、WO2010/108493A1またはWO99/48533A1に記載されている通りに調製できる。還元性炭水化物の量は、ソモギー試薬を使用して決定できる。
【0052】
具体的には、アルデヒド基は、水素化によって、例えば、炭水化物を水溶液中で水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤と、またはPtもしくはPdなどの水素化触媒の存在下で水素と反応させることによって、ヒドロキシル基に変換できる。
【0053】
水素化に代えてまたはこれに加えて、アルデヒド基は、例えば、アルカリ性範囲内、例えば、pH8~pH12、特にpH9~pH11の範囲内のpHで、次亜塩素酸塩水溶液を使用した炭水化物の酸化によって、酸化できる。好適な次亜塩素酸塩には、例えば、アルカリ金属次亜塩素酸塩、例えば、次亜塩素酸ナトリウムが含まれる。次亜塩素酸塩水溶液は、例えば、活性塩素として計算して少なくとも13wt%、特に13~16wt%の範囲の濃度を有し得る。酸化反応は、例えば、15~40℃、好ましくは25~35℃の範囲の温度で実施できる。反応時間は、例えば、10分~4時間、例えば、1~1.5時間の範囲である。例えば、臭化ナトリウムなどのアルカリ金属臭化物の形態の、触媒量の臭素イオンの添加が、酸化反応を促進し得るが、これは必須ではない。
【0054】
炭水化物のアルデヒド基は、水素化および酸化の両方によって変換され得る。これは、例えば、炭水化物をまず水素化してアルデヒド基の一部をヒドロキシル基に変換し、次いで、実質的にすべての残留しているアルデヒド基をカルボキシル基に酸化することで達成できる。炭水化物がデキストランなどの多糖である場合、これから形成された鉄炭水化物錯体の平均分子量は、水素化アルデヒド基対酸化アルデヒド基の比を調節することによって影響され得る。安定な生成物を得るために、酸化前の炭水化物(例えば、デキストラン)中の還元性基の量は、15wt%を超えない。
【0055】
還元および/または酸化炭水化物を含む炭水化物は、例えば、炭水化物のヒドロキシル基とのエーテル、アミド、エステルおよびアミンの形成によって誘導体化され得る。特定の実施形態では、炭水化物は、炭水化物のヒドロキシル基とのカルボキシアルキルエーテル、特にカルボキシメチルエーテルの形成によって誘導体化される。生成物におけるカルボキシメチル化炭水化物、例えば本発明の鉄炭水化物錯体化合物の使用により、対象に非経口投与した場合、対応する非カルボキシル化炭水化物を含む生成物と比較して、生成物の毒性が低減され得る。
【0056】
本発明の鉄炭水化物錯体化合物には、例えば、カルボキシマルトース鉄、ポリグルコースソルビトールカルボキシメチルエーテル鉄錯体、マンニトール鉄錯体、デキストラン鉄、水素化デキストラン鉄、酸化デキストラン鉄、鉄カルボキシアルキル化還元オリゴ糖および多糖、スクロース鉄、グルコン酸鉄、デキストリン鉄、水素化デキストリン鉄、酸化デキストリン鉄、ポリマルトース鉄、水素化ポリマルトース鉄、オリゴマルトース鉄、オリゴマルトース水素化鉄、ポリイソマルトース鉄、水素化ポリイソマルトース鉄、鉄水素化オリゴ糖、例えば、水素化オリゴイソマルトース鉄、ヒドロキシエチルデンプン鉄、ソルビトール鉄、デキストラングルコヘプトン酸鉄(例えば、グレプトフェロン)ならびにその2種以上の混合物が含まれる。特定の実施形態によると、本発明の鉄炭水化物錯体化合物は、カルボキシマルトース鉄、ポリグルコースソルビトールカルボキシメチルエーテル鉄錯体、マンニトール鉄錯体、デキストラン鉄、水素化デキストラン鉄、スクロース鉄、グルコン酸鉄、デキストリン鉄、水素化オリゴイソマルトース鉄およびその2種以上の混合物から選択される。
【0057】
本発明の鉄炭水化物錯体化合物中の炭水化物は、典型的には、500~80,000Da、例えば、800~40,000Daまたは800~10,000Da、特に800~3,000Daの重量平均分子量(MW)を有する。
【0058】
本発明の鉄炭水化物錯体化合物の見掛け分子量(Mp)は、典型的には、800~800.000Da、例えば、10,000~500,000Daまたは20,000~400,000Daまたは50,000~300,000Da、特に90,000~200,000Daの範囲である。見掛け分子量Mpは、例えば、デキストラン標準を使用したゲル浸透クロマトグラフィーによって決定できる。例えば、Jahnら、Eur J Pharm Biopharm 2011、78、480~491に記載されている方法を参照されたい。
【0059】
(任意選択により還元および/または酸化および/または誘導体化された)オリゴ糖または多糖調製物である炭水化物調製物中のダイマーの量は、それから調製される鉄炭水化物錯体化合物の安定性に関する主要因であることが見出だされた。WO2010/108493A1を参照されたい。したがって、炭水化物が(任意選択により還元および/または酸化および/または誘導体化された)オリゴ糖または多糖調製物である本発明の鉄炭水化物錯体化合物において、前記調製物中のダイマー糖の含有量は、炭水化物の総重量に対して、好ましくは2.9wt%以下、特に2.5wt%以下、とりわけ2.3wt%以下である。炭水化物調製物中のモノマー糖の含有量が、炭水化物の総重量に対して0.5wt%以下であることもまた好ましい。これにより、とりわけ非経口投与のための調製物中に存在する場合、モノマーおよび鉄の化合物から放出される遊離鉄イオンによって引き起こされる毒性作用のリスクが低減される。上で示される通りのダイマー糖および/またはモノマー糖の含有量は、例えば、340~800Daの範囲のカットオフ値を有する膜を使用した、例えば、膜ろ過などの精製方法によって、炭水化物調製物から前記より小さい糖分子を除去することによって低くすることができる。精製方法によって得られる画分中のダイマー糖およびモノマー糖の濃度は、ゲル浸透クロマトグラフィーによってモニタリングできる。画分中の(任意選択により還元および/または酸化および/または誘導体化された)オリゴ糖または多糖の含有量は、旋光度によって決定できる。
【0060】
乾燥分について決定された本発明の鉄炭水化物錯体化合物中の鉄の量は、典型的には、10~50wt%、例えば、15~45wt%、特に24~32wt%の範囲である。本発明による注射用の鉄錯体溶液中の鉄の濃度は、典型的には、25~300mg/ml、例えば50~200mg/mlの範囲である。本発明による注射用の鉄錯体溶液の好ましい特定の実施形態では、鉄の濃度は、約100mg/mlまたは約200mg/mlである。
【0061】
特定の実施形態では、炭水化物は、500~7,000Da、例えば、500~3,000Da、700~1,400Da、特に約1,000Daの重量平均MWを有する水素化多糖もしくは水素化オリゴ糖またはその混合物(以下、水素化多糖/オリゴ糖と呼ぶ)である。そのような水素化多糖/オリゴ糖の数平均分子量(Mn)は、好ましくは400~1,400Daの範囲であり、これらの分子の90wt%は、3,500Da未満、特に2,700Da未満の分子量を有し、残り10%の分子の分子量は、4,500未満、特に3,200Da未満である。例えば、前記水素化多糖/オリゴ糖は、水素化ポリグルコース、オリゴグルコースまたはその混合物、例えば、水素化デキストラン、水素化デキストリンもしくは水素化オリゴイソマルトース((オリゴイソマルトシド)またはその混合物であり、ここで、水素化オリゴイソマルトース、特に、分子の大部分(例えば、少なくとも60%、例えば、70~80%)が3~6つの単糖単位を有する水素化オリゴイソマルトースが好ましい。これに従い、本発明の好ましい実施形態では、鉄錯体化合物は、水素化オリゴイソマルトース鉄、特に、水素化オリゴイソマルトシド分子の大部分(例えば、少なくとも60%、例えば、70~80%)が、3~6つの単糖単位を有する水素化オリゴイソマルトース鉄(III)、例えば、鉄(III)イソマルトシド1000(INN名:デルイソマルトース第二鉄)である。鉄イソマルトシドは、典型的には、鉄の徐放をもたらす水酸化酸化鉄および水素化イソマルトース(イソマルトシド)鎖の強力なコロイド錯体を特徴とする。
【0062】
上に記載されている特定の実施形態では、水素化多糖/オリゴ糖の総重量に対して、水素化多糖/オリゴ糖のダイマー糖の含有量は、好ましくは、2.9wt%以下、特に2.5wt%以下、とりわけ2.3wt%以下である。好ましくは、本発明の鉄炭水化物錯体化合物を調製するために使用される水素化多糖/オリゴ糖の調製物は、0.5wt%以下のモノマー糖の含有量を有する。そのような水素化多糖/オリゴ糖調製物から調製された水素化デキストラン鉄錯体化合物は、典型的には、120,000~180,000Da、特に130,000~160,000Daの範囲の見掛け分子量(Mp)を有する。水素化多糖/オリゴ糖調製物を鉄調製物と接触させる前に、調製物は、高分子量水素化多糖および/または低分子量水素化オリゴ糖を除去するための膜処理によって精製できる。特定の実施形態では、水素化多糖/オリゴ糖調製物は、340~800Daのカットオフ値を有する1つまたは複数の膜処理によって精製されている。さらにより特定の実施形態では、水素化多糖/オリゴ糖調製物は、2,700Daを超える分子量を有する多糖の捕捉を可能にするカットオフ値を有する膜を使用した1回または複数の膜処理、任意選択により、続いてさらなる加水分解、続いて340~800Daのカットオフ値を有する膜を使用した1回または複数の膜処理によって精製されている。
【0063】
特に好ましい実施形態では、本発明の鉄錯体化合物は、H2Oを含有する式
{FeO(1-3X)(OH)(1+3X)(C6H5O7
3-)X},(C6H10O6)R(-C6H10O5-)Z(C6H13O5)R,(MeCl)Y(式中、
Xは、0.0311±0.0062、特に0.0311±0.0031であり、
Rは、0.1400±0.0420、特に0.1400±0.0210であり、
Zは、0.4900±0.1470、特に0.4900±0.0735であり、
Yは、1.8000±1.0800、特に1.8000±0.4500であり、
Meは、一価金属イオン、例えば、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンであり、好ましくは、ナトリウムイオンである)
を有する化合物である。
【0064】
さらなる特に好ましい実施形態では、本発明の鉄錯体化合物は、式
{FeO(1-3X)(OH)(1+3X)(C6H5O7
3-)X},(H2O)T,(C6H10O6)R(-C6H10O5-)Z(C6H13O5)R,(MeCl)Y(式中、
Xは、0.0311±0.0062、特に0.0311±0.0031であり、
Tは、0.2500±0.1250、特に0.2500±0.24750であり、
Rは、0.1400±0.0420、特に0.1400±0.0210であり、
Zは、0.4900±0.1470、特に0.4900±0.0735であり、
Yは、1.8000±1.0800、特に1.8000±0.4500であり、
Meは、一価金属イオン、例えば、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンであり、好ましくは、ナトリウムイオンである)
を有する化合物である。
【0065】
特定の実施形態では、本発明の鉄錯体化合物は、本明細書に記載されているように水素化および酸化された多糖/オリゴ糖(例えば、デキストランなどのポリグルコース)との鉄錯体である。そのような鉄錯体化合物は、典型的には、50,000~150,000Da、特に70,000~130,000Da、より詳細には80,000~120,000Daの範囲の見掛け分子量(Mp)を有する。
【0066】
特定の実施形態では、本発明の鉄錯体化合物は、炭水化物が、2,000~6,000Daの範囲の重量平均分子量(MW)を有する水素化デキストランである鉄錯体である。これらの特定の実施形態のうちの1つでは、鉄錯体は、36~41wt%の鉄含有量(乾燥分について決定)を有し、任意選択により、約200mg/mlの鉄含有量を有する注射用溶液の形態で存在する。これらの特定の実施形態のうちの別のものでは、鉄錯体は、23~39wt%の鉄含有量(乾燥分について決定)を有し、任意選択により、約100mg/mlを有する注射用溶液の形態で存在する。
【0067】
別の好ましい実施形態では、鉄錯体は、デキストラン鉄注射についての英国薬局方および/または米国薬局方のモノグラフに準拠するデキストラン鉄錯体である。
【0068】
本発明の鉄炭水化物錯体化合物は、
(1)炭水化物および水溶性鉄塩(例えば、塩化第二鉄)を含む本明細書に記載されている通りの鉄調製物を含む水溶液を用意すること、
(2)水溶液に塩基を添加して水酸化鉄を形成すること、ならびに
(3)次いで、水溶液を加熱して、鉄炭水化物錯体化合物を形成すること
によって調製できる。
【0069】
好ましくは、水酸化鉄の沈殿を防ぐために、工程(1)の水溶液のpHは、酸性であり、例えば、溶液は2以下のpHである。工程(2)の塩基の添加は、好ましくは、pHを、例えば5以上のpH、例えば、pH11、12、13または14まで増加させるように、ゆっくりまたは徐々に実施される。そのような漸増は、まず弱塩基(例えば、アルカリ金属炭酸塩もしくはアルカリ土類金属炭酸塩、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウムもしくは重炭酸カリウムまたはアンモニア)を添加して、例えばpH2~4まで、例えば、2~3まで、pHを上昇させ、次いで、強塩基(例えば、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムまたは水酸化マグネシウム)を添加することによってpHをさらに上昇させることによって達成できる。
【0070】
あるいは、本発明の鉄炭水化物錯体化合物は、
(1)炭水化物および水酸化鉄、水酸化酸化鉄またはその混合物を含む本明細書に記載されている通りの鉄調製物を含む水溶液を用意すること、ならびに
(2)次いで、水溶液を加熱して、鉄炭水化物錯体化合物を形成すること
によって調製できる。
【0071】
本発明の鉄炭水化物錯体化合物を調製するための2つの上記方法の最後の工程における水溶液の加熱により、鉄炭水化物錯体化合物の形成が促進される。例えば、水溶液は、15℃~沸点の範囲の温度に加熱され得る。好ましくは、温度は徐々に上昇させ、例えば、第1の工程で水溶液を15~70℃に加熱し、次いで、沸騰するまでさらに徐々に加熱する。反応を終了させるために、酸、例えばHClまたは水性塩酸を添加することによって、例えばpH5~6にpHを低下させることができる。一実施形態では、pHの前記低下は、溶液が約50℃に加熱されたとき、かつそれがさらに加熱される前に実施される。
【0072】
加熱後、生成物は、ろ過によってさらに処理でき、塩基または酸、例えば上で言及したものを添加することによってそのpHを中性またはわずかに酸性pH(例えば、pH5~7)に調整できる。さらなる任意選択の工程には、限外ろ過または透析によって達成され得る精製、特に塩の除去、ならびにろ過および/または加熱処理(例えば、121℃以上の温度での)によって達成され得る殺菌が含まれる。精製された溶液は、医薬組成物を調製するために直接使用できる。あるいは、固体鉄炭水化物錯体は、沈殿によって、例えば、エタノールなどのアルコールを添加することによる沈殿によって、または乾燥、例えば噴霧乾燥によって得ることができる。
【0073】
鉄炭水化物錯体化合物は、それを有機ヒドロキシル酸またはその塩、例えばクエン酸、クエン酸塩またはグルコネートと混合することによって安定化させることができる。
【0074】
別の群の実施形態によると、鉄錯体化合物は、重合配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物である。重合配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物は、鉄イオン(例えば、Fe3+)、配位子ならびにオキソおよび/またはヒドロキシル基を含むまたはこれらから基本的になる。鉄イオン、オキソおよび/またはヒドロキシル基は、ポリオキソ-ヒドロキシ鉄粒子を形成する。配位子は、最初に存在するオキソまたはヒドロキシル基の部分の置換によりその中に組み込まれる。この置換は、一般に、非化学量論的であり、形式結合により起こり、オキソ-ヒドロキシ鉄の化学、結晶度および物質特性の明確な変化をもたらす。重合配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物は、例えば、WO2008/096130A1に記載されている。
【0075】
本発明の配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物の好適な配位子には、例えば、カルボン酸、例えば、アジピン酸、グルタル酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、アスパラギン酸、ピメリン酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸および安息香酸;食品添加剤、例えば、マルトール、エチルマルトールおよびバニリン;配位子特性を有するアニオン、例えば、重炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオン;鉱物配位子、例えば、シリケート、ボレート、モリブデートおよびセレネート;アミノ酸、特にタンパク新生アミノ酸、例えば、トリプトファン、グルタミン、プロリン、バリンおよびヒスチジン;および栄養素ベースの配位子、例えば、フォレート、アスコルベート、ピリドキシンおよびナイアシン;ならびにその2種以上の混合物が含まれる。
【0076】
配位子対鉄の平均モル比は、典型的には、10:1~1:10の範囲、例えば、5:1~1:5、4:1~4:1、3:1~1:3、2:1~1:2の範囲または約1:1である。
【0077】
本発明の重合配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物は、本明細書に記載されている通りの、ヒ素および鉛が少なく、任意選択により、クロム、水銀、カドミウムおよび/またはアルミニウムも少ない鉄調製物を、水溶液中、第1のpH(A)で配位子と接触させ、次いでpH(A)を第2のpH(B)に変化させて、重合配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物の固体沈殿物を生じさせることによって調製できる。固体沈殿物は、粒子、コロイドまたはサブコロイド(ナノ粒子)構造を有し得る。
【0078】
pH(A)は、pH(B)とは異なる。好ましくは、pH(A)は、pH(B)よりも酸性である。例えば、pH(A)は、pH2以下であり、pH(B)はpH2超である。オキソ-ヒドロキシ重合が開始するpHから開始して、pHを、好ましくはさらに上昇させて、反応を完了させ、形成された重合配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物の沈殿を促進する。前記pH変化の間、さらなる配位子および/または賦形剤を添加できる。前記pH変化は、好ましくは、徐々にまたは段階的方式で、例えば、約24時間の期間にわたってまたは約1時間の期間にわたって、特に20分間の期間にわたって行われる。pH変化は、酸または塩基の添加によって実施できる。例えば、pHは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは重炭酸ナトリウムを添加することによって上昇させることができる。
【0079】
重合配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物は、典型的には、水溶液中で生成され、ここで、鉄イオンおよび配位子の濃度は、1μM以上、特に1mM以上である。鉄イオンと配位子との比は、鉄イオンの相対量が、オキソ-ヒドロキシ重合の起こる速度があまりに急速なために効率的な配位子取込みが妨げられるほど高くなく、配位子の相対量が、鉄オキソ-ヒドロキシ重合を妨げるほど高くないように選択される。例えば、鉄濃度は、1mM~300mM、例えば、20mM~200mMの範囲、特に約40mMである。
【0080】
重合配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物の形成のために使用される配位子は、いくらかの緩衝能を有し得、これは、錯体形成の間にpH範囲を安定化するのを助ける。緩衝はまた、鉄イオンとの形式結合に関与しない無機または有機緩衝剤を、鉄調製物および配位子を含有する水溶液に添加することによって達成することもできる。典型的には、そのような緩衝液の濃度は、存在する場合、500mM未満または200mM未満、特に100mM未満である。
【0081】
重合配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物の形成は、典型的には、20℃~120℃、例えば20℃~100℃、特に20~30℃の範囲内の温度で起こる。
【0082】
任意選択により、鉄調製物および配位子を含む水溶液中のイオン強度は、さらなる電解質、例えば、最大10wt%、例えば最大2wt%、特に最大1wt%の量の、例えば、塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを添加することによって増加させることができる。
【0083】
重合配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物の固体沈殿物は、さらなる使用または製剤化の前に、分離し、任意選択により乾燥し、例えば摩砕することによってさらに処理できる。
【0084】
本発明はまた、本明細書に記載されている通りの本発明の方法によって得ることができる鉄錯体化合物に関する。
【0085】
本発明はまた、
- ヒ素の量が、鉄1g当たり4.5μgを超えず、例えば、鉄1g当たり3.0μg、鉄1g当たり2.5μg、または鉄1g当たり2.0μgを超えず、特に、鉄1g当たり1.5μgを超えず、例えば、鉄1g当たり1.0μg、鉄1g当たり0.8μg、鉄1g当たり0.5μg、または鉄1g当たり0.3μgを超えず、
- 鉛の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えず、鉄1g当たり1.3μg、鉄1g当たり1.0μg、または鉄1g当たり0.7μgを超えず、特に、鉄1g当たり0.5μgを超えず、例えば、鉄1g当たり0.4μg、または鉄1g当たり0.2μgを超えず、
- 任意選択により、カドミウムの量が、鉄1g当たり0.6μgを超えず、例えば、鉄1g当たり0.5μgを超えず、特に、鉄1g当たり0.4μgを超えず、例えば、鉄1g当たり0.3μg、または鉄1g当たり0.2μgを超えず、
- 任意選択により、水銀の量が、鉄1g当たり0.9μgを超えず、例えば、鉄1g当たり0.7μg、または鉄1g当たり0.5μgを超えず、特に、鉄1g当たり0.3μgを超えず、例えば、鉄1g当たり0.2μg、または鉄1g当たり0.10μgを超えず、
- 任意選択により、クロムの量が、鉄1g当たり330μgを超えず、例えば、鉄1g当たり250μg、または鉄1g当たり170μgを超えず、特に、鉄1g当たり100μgを超えず、例えば、鉄1g当たり75μg、鉄1g当たり50μg、または鉄1g当たり20μgを超えず、
- 任意選択により、アルミニウムの量が、鉄1g当たり200μgを超えず、例えば、鉄1g当たり150μg、鉄1g当たり100μg、または鉄1g当たり50μgを超えず、特に、鉄1g当たり25μgを超えず、例えば、鉄1g当たり20μg、または鉄1g当たり15μgを超えない、
鉄錯体化合物に関する。
【0086】
第1の実施形態では、本発明の鉄錯体化合物は、
- ヒ素の量が、鉄1g当たり4.5μgを超えないこと、および
- 鉛の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えないこと、および
- 任意選択により、アルミニウムの量が、鉄1g当たり200μgを超えない、特に、鉄1g当たり150μgを超えない、好ましくは、鉄1g当たり100μgを超えないこと
を特徴とする。
【0087】
第2の実施形態では、本発明の鉄錯体化合物は、
- ヒ素の量が、鉄1g当たり4.5μgを超えないこと、および
- 鉛の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えないこと、および
- カドミウムの量が、鉄1g当たり0.6μgを超えないこと、および
- 水銀の量が、鉄1g当たり0.9μgを超えないこと、および
- 任意選択により、アルミニウムの量が、鉄1g当たり200μgを超えない、特に、鉄1g当たり150μgを超えない、好ましくは、鉄1g当たり100μgを超えないこと
を特徴とする。
【0088】
第3の実施形態では、本発明の鉄錯体化合物は、
- ヒ素の量が、鉄1g当たり4.5μgを超えないこと、および
- 鉛の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えないこと、および
- カドミウムの量が、鉄1g当たり0.6μgを超えないこと、および
- 水銀の量が、鉄1g当たり0.9μgを超えないこと、および
- クロムの量が、鉄1g当たり330μgを超えないこと、および
- 任意選択により、アルミニウムの量が、鉄1g当たり200μgを超えない、特に、鉄1g当たり150μgを超えない、好ましくは、鉄1g当たり100μgを超えないこと
を特徴とする。
【0089】
第4の実施形態では、本発明の鉄錯体化合物は、
- ヒ素の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えないこと、および
- 鉛の量が、鉄1g当たり0.5μgを超えないこと
を特徴とする。
【0090】
第5の実施形態では、本発明の鉄錯体化合物は、
- ヒ素の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えないこと、および
- 鉛の量が、鉄1g当たり0.5μgを超えないこと、および
- カドミウムの量が、鉄1g当たり0.4μgを超えないこと、および
- 水銀の量が、鉄1g当たり0.3μgを超えないこと
を特徴とする。
【0091】
第6の実施形態では、本発明の鉄錯体化合物は、
- ヒ素の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えないこと、および
- 鉛の量が、鉄1g当たり0.5μgを超えないこと、および
- カドミウムの量が、鉄1g当たり0.4μgを超えないこと、および
- 水銀の量が、鉄1g当たり0.3μgを超えないこと、および
- クロムの量が、鉄1g当たり100μgを超えないこと
を特徴とする。
【0092】
第7の実施形態では、本発明の鉄錯体化合物は、
- ヒ素の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えないこと、および
- 鉛の量が、鉄1g当たり0.5μgを超えないこと、および
- カドミウムの量が、鉄1g当たり0.4μgを超えないこと、および
- 水銀の量が、鉄1g当たり0.3μgを超えないこと、および
- クロムの量が、鉄1g当たり100μgを超えないこと、および
- アルミニウムの量が、鉄1g当たり25μgを超えないこと
を特徴とする。
【0093】
第8の実施形態では、本発明の鉄錯体化合物は、
- ヒ素の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えないこと、および
- 鉛の量が、鉄1g当たり0.5μgを超えないこと、および
- カドミウムの量が、鉄1g当たり0.4μgを超えないこと、および
- 水銀の量が、鉄1g当たり0.3μgを超えないこと、および
- クロムの量が、鉄1g当たり100μgを超えないこと、および
- アルミニウムの量が、鉄1g当たり20μgを超えないこと
を特徴とする。
【0094】
第9の実施形態では、本発明の鉄錯体化合物は、
- ヒ素の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えないこと、および
- 鉛の量が、鉄1g当たり0.5μgを超えないこと、および
- カドミウムの量が、鉄1g当たり0.4μgを超えないこと、および
- 水銀の量が、鉄1g当たり0.3μgを超えないこと、および
- クロムの量が、鉄1g当たり100μgを超えないこと、および
- アルミニウムの量が、鉄1g当たり15μgを超えないこと
を特徴とする。
【0095】
前記第1~第9の実施形態のいずれか1つによる鉄錯体化合物、またはその組成物は、対象における鉄欠乏症の治療または予防のために使用できる。対象は、ヒト対象または非ヒト動物、特に非ヒト哺乳動物、例えば、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ラクダ、ヒツジ、ヤギまたはウシであり得る。前記第1~第3の実施形態のいずれか1つによる鉄錯体化合物およびその組成物の場合、対象は、好ましくは、ヒト対象である。前記第4~第9の実施形態のいずれか1つによる鉄錯体化合物およびその組成物の場合、対象は、好ましくは、非ヒト動物、特に食品製造(例えば、乳および/または肉生産)のための動物の幼児、例えば、仔ブタである。
【0096】
前記第1~第9の実施形態のいずれか1つによる鉄錯体化合物は、様々な投与方法のために、例えば、筋肉内投与のためまたは静脈内投与のために製剤化および使用できる。前記第1~第3の実施形態のいずれか1つによる鉄錯体化合物は、好ましくは、静脈内投与のために製剤化および使用される。前記第4~第9の実施形態のいずれか1つによる鉄錯体化合物は、好ましくは、筋肉内投与のために製剤化および使用される。
【0097】
本発明は、
- アルミニウムの量が、鉄1g当たり200μgを超えず、例えば、鉄1g当たり150μg、鉄1g当たり100μg、または鉄1g当たり50μgを超えず、特に、鉄1g当たり25μgを超えず、例えば、鉄1g当たり20μg、または鉄1g当たり15μgを超えず、
- 任意選択により、ヒ素の量が、鉄1g当たり4.5μgを超えず、例えば、鉄1g当たり3.0μg、鉄1g当たり2.5μg、または鉄1g当たり2.0μgを超えず、特に、鉄1g当たり1.5μgを超えず、例えば、鉄1g当たり1.0μg、鉄1g当たり0.8μg、鉄1g当たり0.5μg、または鉄1g当たり0.3μgを超えず、
- 任意選択により、鉛の量が、鉄1g当たり1.5μg、鉄1g当たり1.3μg、鉄1g当たり1.0μg、または鉄1g当たり0.7μgを超えず、特に、鉄1g当たり0.5μgを超えず、例えば、鉄1g当たり0.4μg、または鉄1g当たり0.2μgを超えず、
- 任意選択により、カドミウムの量が、鉄1g当たり0.6μgを超えず、例えば、鉄1g当たり0.5μgを超えず、特に、鉄1g当たり0.4μgを超えず、例えば、鉄1g当たり0.3μg、または鉄1g当たり0.2μgを超えず、
- 任意選択により、水銀の量が、鉄1g当たり0.9μgを超えず、例えば、鉄1g当たり0.7μg、または鉄1g当たり0.5μgを超えず、特に、鉄1g当たり0.3μgを超えず、例えば、鉄1g当たり0.2μg、または鉄1g当たり0.10μgを超えず、
- 任意選択により、クロムの量が、鉄1g当たり330μgを超えず、例えば、鉄1g当たり250μg、または鉄1g当たり170μgを超えず、特に、鉄1g当たり100μgを超えず、例えば、鉄1g当たり75μg、鉄1g当たり50μg、または鉄1g当たり20μgを超えない、
鉄錯体化合物に関する。
【0098】
一実施形態では、本発明の鉄錯体化合物は、
- アルミニウムの量が、鉄1g当たり200μgを超えないこと
を特徴とする。
【0099】
さらなる実施形態では、本発明の鉄錯体化合物は、
- アルミニウムの量が、鉄1g当たり150μgを超えないこと
を特徴とする。
【0100】
さらなる実施形態では、本発明の鉄錯体化合物は、
- アルミニウムの量が、鉄1g当たり100μgを超えないこと
を特徴とする。
【0101】
前述の3つの実施形態のうちのいずれか1つによる鉄錯体化合物またはその組成物は、対象における鉄欠乏症の治療または予防のために使用できる。対象は、ヒト対象または非ヒト動物、特に非ヒト哺乳動物、例えば、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ラクダ、ヒツジ、ヤギまたはウシであり得る。好ましくは、対象は、ヒト対象である。
【0102】
前述の3つの実施形態のうちのいずれか1つによる鉄錯体化合物は、様々な投与方法のために、例えば、筋肉内投与のためまたは静脈内投与のために製剤化および使用できる。
【0103】
本発明は、本明細書に記載されている通りの本発明の鉄錯体化合物および薬学的に許容される担体を含む組成物をさらに提供する。組成物の形態は、意図される投与様式に応じて選択される。したがって、組成物は、経口、非経口または他の形式の投与のために適合され得る。
【0104】
経口使用のための組成物の例には、顆粒剤、錠剤、カプセル剤(例えば、硬ゼラチンカプセル剤または軟ゼラチンカプセル)ならびに液剤、例えば、溶液および懸濁液が含まれる。錠剤およびカプセル剤は、薬学的に許容される担体、例えば、前ゼラチン化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ラクトース、結晶セルロースまたはリン酸水素カルシウム、ならびにさらなる賦形剤、例えば、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)を使用して従来の方法によって調製できる。錠剤は、当技術分野で周知の方法を使用してコーティングされ得る。経口投与のための液剤は、例えば、溶液、シロップもしくは懸濁液の形態をとってもよく、または使用前に水もしくは他の好適な液体で構成するための乾燥製品として提示されてもよい。そのような液剤は、従来の方法によって調製でき、薬学的に許容される添加剤、例えば、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または水素化食用脂);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);非水性ビヒクル(例えば、アーモンド油、油状エステル、エチルアルコールまたは分画植物油);保存剤(例えば、メチルまたはプロピル-p-ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸);緩衝塩、香味料、着色料および/または甘味料を含む。経口投与のための組成物は、鉄錯体化合物の遅延放出、徐放または持続放出のために製剤化できる。
【0105】
非経口投与のための組成物は、例えば、滅菌水、食塩水または他の緩衝水溶液などの液体担体中の、注射用または注入用溶液、懸濁液またはエマルジョンの形態を有し得る。そのような組成物は、さらなる添加剤、例えば、安定化剤(例えば、クエン酸、クエン酸塩またはグルコネート)、抗菌剤(例えば、ベンジルアルコールまたはフェノール)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム)および/または調度を調整するための薬剤(例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロース)を含み得る。あるいは、鉄錯体化合物は、使用前に滅菌水または食塩水または別の好適な液体で構成するための粉末の形態で提示され得る。非経口投与のための組成物は、例えば、好適なポリマー担体または疎水性担体とともに、埋込み用または注射用デポー組成物として製剤化されてもよい。
【0106】
特定の実施形態では、本発明の組成物は、非経口投与(例えば、筋肉内注射、皮下注射、静脈内注射または静脈内注入、任意選択によりボーラス注射または注入)のために、例えば、食塩水などの水性担体中の注射用または注入用溶液として製剤化される。
【0107】
本発明の組成物は、さらなる栄養または医薬剤、例えば、ビタミン、特に水溶性ビタミン、微量栄養素、例えば、コバルト、銅、亜鉛もしくはセレニウム、エリスロポエチン、静菌薬または抗生物質を含み得る。水溶性ビタミンは、乳化によって本発明の水性組成物に組み込まれ得る。
【0108】
本発明は、治療的使用のための本明細書に記載されている通りの本発明の鉄錯体化合物を提供する。これに従い、本発明の鉄錯体化合物を対象に投与する方法が本明細書に記載される。鉄錯体化合物は、例えば、経口または非経口(例えば、筋肉内注射、皮下注射、静脈内注射または静脈内注入、任意選択によりボーラス注射または注入によって)投与できる。鉄錯体化合物は、本明細書に記載されている通りのその組成物の形態で投与できる。
【0109】
特に、本発明の鉄錯体化合物は、対象における鉄欠乏症の治療または予防のために使用できる。対象は、例えば、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ラクダ、ヒツジ、ヤギ、ウシおよびヒトから選択できる。
【0110】
本発明の鉄錯体化合物はまた、幼児、例えば、小児、仔ブタ、仔ウマ、ラクダの仔、仔ヒツジ、仔ヤギまたは仔ウシにおける鉄欠乏症の治療または予防のために有用である。
【0111】
本明細書で使用される場合、幼児という用語は、新生児から開始する非成体出生児を含む。
【0112】
本発明の鉄錯体化合物を投与することによって治療または予防できる鉄欠乏症は、例えば、慢性失血、急性失血、妊娠、出産、授乳、小児の発達、重度の子宮出血、月経、消化管出血、慢性内出血、炎症性腸疾患、うっ血性心不全、下肢静止不能症候群、寄生虫感染、慢性腎疾患または腎不全などによる腎機能の喪失または傷害、透析、手術、アルコール、サリチレート、ステロイド、非ステロイド系抗炎症剤、赤血球生成刺激剤(ESA)などの薬剤または鉄吸収を阻害する薬物の慢性摂取と関連する鉄欠乏症であり得る。
【0113】
本発明の鉄錯体化合物は、妊娠哺乳動物、妊娠することが予想される哺乳動物(例えば、受精前の哺乳動物)または哺乳中の哺乳動物における鉄欠乏症の治療または予防のために特に有用である。雌ブタなどの哺乳動物の血中ヘモグロビンレベルは、パリティが増加すると減少することが知られている。特定の実施形態によると、本発明の鉄錯体化合物は、妊娠しているまたは妊娠することが予想される、2以上のパリティ、例えば、第3パリティ、例えば、第4パリティ、例えば、第5パリティ、例えば、第6パリティ、例えば、第7パリティ、例えば第8パリティまたはそれ以上の哺乳動物における鉄欠乏症の治療または予防のために使用される。本発明の鉄錯体化合物は、妊娠前および/または間の1つまたは複数の時点で、例えば、妊娠の間に、例えば、分娩前の15週間~2週間の期間にわたって、2、3、4、5、6またはそれよりも多い用量を哺乳動物に投与できる。鉄錯体化合物は、他の栄養または医薬剤、例えば、ビタミン、微量栄養素、例えば、コバルト、銅、亜鉛もしくはセレニウム、エリスロポエチン、静菌薬または抗生物質と一緒に投与できる。本発明の鉄錯体化合物を使用した、妊娠哺乳動物または妊娠することが予想される哺乳動物における鉄欠乏症の治療または予防により、死産児の率を低下させることができる。妊娠哺乳動物または妊娠することが予想される哺乳動物または哺乳中の哺乳動物における鉄欠乏症の治療または予防のための本発明の鉄錯体化合物の使用により、離乳までの出生児の生存率、健康および/または成長を増加させることができ、前記哺乳動物によって出産または哺乳されることになる胎児または幼児における鉄欠乏症を治療または予防できる。これは、胎児または幼児の脳における鉄欠乏症の治療または予防を含む。胎児または幼児の脳における鉄欠乏症は、胎児または幼児の脳の発達異常を引き起こし得、下肢静止不能症候群(RLS)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、注意欠陥障害(ADD)、欠神発作、双極性障害、精神分裂病、強迫性障害(OCD)、自閉症および境界型人格障害(BPD)などの疾患および障害と関連する。WO2016/206699A1を参照されたい。したがって、本発明の鉄錯体化合物は、胎児もしくは幼児の母親または幼児を哺乳している哺乳動物に鉄錯体化合物を投与することによって、胎児または幼児における鉄欠乏症、特に、胎児または幼児の脳における鉄欠乏症を治療または予防するために使用でき、ここで、鉄錯体化合物は、妊娠の前のフェーズの間および/または妊娠の間および/または哺乳の間に母親に投与できる。
【0114】
本発明の鉄錯体化合物はまた、腎機能の喪失または障害を患っているヒト、例えば透析を必要とするヒトにおける鉄欠乏症の治療または予防のために有用である。腎機能の喪失または障害を有するヒトは、多くの場合、エリスロポエチンが低く、十分な赤血球生成を可能にするためにESAなどの薬物を投与される。ESAによって誘導される赤血球生成は、通常よりも速く患者の貯蔵鉄を消費することがあり、したがって、鉄欠乏症のリスクが増加する。さらに、透析を受けているヒト患者の食事では、赤肉および豆類などの特定の鉄が豊富な食物の摂取、したがって、患者が自身の食事から十分な鉄を摂取する可能性が制限され得る。さらに、臨床検査のための頻繁な血液採取、血管アクセスのための手術手技ならびに血液透析器および管への血液喪失が、患者の鉄喪失に寄与するさらなる要因である。したがって、腎機能の喪失または障害を患うヒト、とりわけ、透析を受けている透析を必要とするヒトは、特に鉄欠乏症のリスクがある。
【0115】
ヒト対象、特に、腎機能の喪失または障害を患っている患者、例えば、透析を必要とする患者への投与のための本発明の鉄錯体化合物中のアルミニウムの量は、好ましくは、鉄1g当たり200μgを超えず、例えば、鉄1g当たり150μg、鉄1g当たり100μg、または鉄1g当たり50μgを超えず、特に、鉄1g当たり25μg、鉄1g当たり20μg、または鉄1g当たり15μgを超えない。
【0116】
非ヒト動物対象の幼児、特に、非ヒト哺乳動物の幼児、例えば、仔ブタへの投与のための本発明の鉄錯体化合物中のアルミニウムの量は、好ましくは、鉄1g当たり25μgを超えず、例えば、鉄1g当たり20μg、または鉄1g当たり15μgを超えない。
【0117】
本発明の鉄錯体化合物は、2分以下以内で鉄200mg以上を含有する用量で対象に投与するのに適している。
【0118】
本発明の鉄錯体化合物の単回用量は、鉄200mg以上、鉄500mg以上、例えば、鉄750mg以上、例えば、鉄500~1000mgを含有し得る。
【0119】
本発明の鉄錯体化合物は、ヒトなどの対象に、1回に対象の体重1kg当たり鉄最大5mg、1回に対象の体重1kg当たり鉄最大10mg、1回に対象の体重1kg当たり鉄最大15mg、またはさらに1回に対象の体重1kg当たり鉄最大20mg、例えば、1回に対象の体重1kg当たり鉄15~20mgの量で投与できる。
【0120】
仔ブタなどの対象に投与できる本発明の鉄錯体化合物の量は、さらにより高量、例えば、1回に体重1kg当たり鉄最大50mg、1回に体重1kg当たり鉄最大100mg、または1回に体重1kg当たり鉄最大200mg、例えば、1回に対象の体重1kg当たり鉄約200mgであり得る。
【0121】
鉄欠乏症の治療または予防のための本発明の鉄錯体化合物の使用は、4週毎またはより高い頻度、例えば、3週毎もしくはより高い頻度、2週毎もしくはより高い頻度、または毎週もしくはより高い頻度での、鉄200mg以上量を含有する1回用量の鉄錯体化合物の投与を含み得る。
【0122】
治療用鉄補給剤としての使用に加えて、本発明の鉄錯体化合物はまた、例えば、食事療法の鉱物補給剤もしくは栄養強化剤(fortificant)、抗造血薬、または鉄をベースとするホスフェート結合剤としても使用できる。前記さらなる使用の場合、鉄錯体化合物は、通常、経口投与される。
【0123】
本発明は、以下の実施形態E1~E68にさらに関する。
E1. 鉄錯体化合物を調製する方法であって、
(i)水溶性鉄塩、水酸化鉄または水酸化酸化鉄から選択される形態の鉄を含む鉄調製物を用意する工程であって、
- 鉄調製物中のヒ素の量が、鉄1g当たり4.5μgを超えず、
- 鉄調製物中の鉛の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えない、
工程、ならびに
(ii)水の存在下で、鉄調製物を配位子と接触させて、鉄錯体化合物を形成する工程
を含む方法。
E2.
- 鉄調製物中のカドミウムの量が、鉄1g当たり0.6μgを超えず、
- 鉄調製物中の水銀の量が、鉄1g当たり0.9μgを超えない、
E2の方法。
E3.
- 鉄調製物中のクロムの量が、鉄1g当たり330μgを超えない、
E1またはE2の方法。
E4. 鉄調製物中のアルミニウムの量が、鉄1g当たり200μgを超えない、E1~E3のいずれか1つの方法。
E5. 鉄調製物が、
(a)ペンタカルボニル鉄から;または
(b)その水溶液からの鉄塩の再結晶化によって;または
(c)鉄塩水溶液を有機溶媒で抽出することによって;または
(d)鉄塩水溶液の電気分解の間にアノードに堆積される鉄から;または
(e)鉄塩水溶液を塩基と接触させて水酸化鉄の沈殿物を形成し、沈殿物をろ過もしくは遠心分離によって液体から分離することによって;または
(f)塩化第二鉄および不揮発性不純物を含む混合物から塩化第二鉄を蒸留することによって
得られる、E1~E4のいずれか1つの方法。
E6. その水溶液からの鉄塩の再結晶化が、硝酸を含有する水溶液からの硝酸第二鉄の再結晶化である、E5の方法。
E7. 鉄塩が塩化第二鉄であり、有機溶媒が、4~20個の炭素原子、特に6~10個の炭素原子を有するアルコールまたはアミン塩の有機溶液である、E5の方法。
E8. 鉄塩水溶液の電気分解が、塩化鉄または硫酸鉄を含む水溶液の電気分解である、E5の方法。
E9. 鉄塩水溶液が接触させられる塩基が、水酸化ナトリウム、重炭酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムから選択される、E5の方法。
E10. 鉄調製物が、水酸化鉄、水酸化酸化鉄またはその混合物を水溶性鉄塩に変換することによって得られる水溶性鉄塩を含む、E1~E9のいずれか1つの方法。
E11. 鉄錯体化合物が、鉄炭水化物錯体化合物である、E1~E10のいずれか1つの方法。
E12. 鉄錯体化合物中で配位子として働く炭水化物中の還元性アルデヒド基の量が、
- 酸化、
- 水素化、または
- その両方の組合せ
によって低減されている、E11の方法。
E13. 工程(i)の鉄調製物が、水溶性鉄塩を含み、方法の工程(ii)が、
(1)鉄調製物および炭水化物を含む水溶液を用意すること、
(2)水溶液に塩基を添加して水酸化鉄を形成すること、ならびに
(3)次いで、水溶液を加熱して、鉄炭水化物錯体化合物を形成すること
を含む、E11またはE12の方法。
E14. 工程(i)の鉄調製物が、水酸化鉄または水酸化酸化鉄を含み、方法の工程(ii)が、
(1)鉄調製物および炭水化物を含む水溶液を用意すること、ならびに
(2)次いで、水溶液を加熱して、鉄炭水化物錯体化合物を形成すること
を含む、E11またはE12の方法。
E15. 鉄炭水化物錯体化合物が、カルボキシマルトース鉄、ポリグルコースソルビトールカルボキシメチルエーテル鉄錯体、マンニトール鉄錯体、デキストラン鉄、水素化デキストラン鉄、酸化デキストラン鉄、鉄カルボキシアルキル化還元オリゴ糖および多糖、スクロース鉄、グルコン酸鉄、デキストリン鉄、水素化デキストリン鉄、酸化デキストリン鉄、ポリマルトース鉄、水素化ポリマルトース鉄、ポリイソマルトース鉄、水素化ポリイソマルトース鉄、鉄水素化オリゴ糖、例えば、水素化オリゴイソマルトース鉄、ヒドロキシエチルデンプン鉄、ソルビトール鉄、デキストラングルコヘプトン酸鉄ならびにその2種以上の混合物から選択される、E11~E14のいずれか1つの方法。
E16. 鉄炭水化物錯体化合物が、カルボキシマルトース鉄、ポリグルコースソルビトールカルボキシメチルエーテル鉄錯体、マンニトール鉄錯体、デキストラン鉄、水素化デキストラン鉄、スクロース鉄、グルコン酸鉄、デキストリン鉄、水素化オリゴイソマルトース鉄およびその2種以上の混合物から選択される、E11~E15のいずれか1つの方法。
E17. 鉄炭水化物錯体化合物の炭水化物構成成分が、500~80,000Daの重量平均分子量(MW)を有する、E11~E16のいずれか1つの方法。
E18. 鉄炭水化物錯体化合物の見掛け分子量が、800~800.000Daの範囲である、E11~E17のいずれか1つの方法。
E19. 鉄錯体化合物が、重合配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物である、E1~E10のいずれか1つの方法。
E20. 方法の工程(ii)が、
(1)鉄調製物を、第1のpH(A)で水溶液中で配位子と接触させること、および
(2)pH(A)を第2のpH(B)に変化させて、重合配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物の固体沈殿物を生じさせること
を含む、E19の方法。
E21. 配位子が、カルボン酸、例えば、アジピン酸、グルタル酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、アスパラギン酸、ピメリン酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸および安息香酸;香味料、例えば、マルトール、エチルマルトールおよびバニリン;配位子特性を有するアニオン、例えば、重炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオン;鉱物配位子、例えば、シリケート、ボレート、モリブデートおよびセレネート;アミノ酸、例えば、トリプトファン、グルタミン、プロリン、バリンおよびヒスチジン;および栄養素ベースの配位子、例えば、フォレート、アスコルベート、ピリドキシンおよびナイアシン;ならびにその2種以上の混合物から選択される、E19またはE20の方法。
E22. 配位子対鉄の平均モル比が、10:1~1:10の範囲である、E19~E21のいずれか1つの方法。
E23. 鉄錯体化合物を、クエン酸、クエン酸塩およびグルコネートから選択される化合物と混合する工程をさらに含む、E1~E22のいずれか1つの方法。
E24. E1~E23のいずれか1つの方法によって得ることができる鉄錯体化合物。
E25.
- 鉄錯体化合物中のヒ素の量が、鉄1g当たり4.5μgを超えず、
- 鉄調製物中の鉛の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えない、
鉄錯体化合物。
E26.
- 鉄錯体化合物中のヒ素の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えず、
- 鉄錯体化合物中の鉛の量が、鉄1g当たり0.5μgを超えない、
E25の鉄錯体化合物。
E27.
- 鉄錯体化合物中のカドミウムの量が、鉄1g当たり0.6μgを超えず、
- 鉄錯体化合物中の水銀の量が、鉄1g当たり0.9μgを超えない、
E25またはE26の鉄錯体化合物。
E28.
- 鉄錯体化合物中のカドミウムの量が、鉄1g当たり0.4μgを超えず、
- 鉄錯体化合物中の水銀の量が、鉄1g当たり0.3μgを超えない、
E27の鉄錯体化合物。
E29.
- 鉄錯体化合物中のクロムの量が、鉄1g当たり330μgを超えない、
E25~E28の鉄錯体化合物。
E30.
- 鉄錯体化合物中のクロムの量が、鉄1g当たり100μgを超えない、
E29の鉄錯体化合物。
E31.
- 鉄錯体化合物中のアルミニウムの量が、鉄1g当たり200μgを超えない、
E25~E30のいずれか1つの鉄錯体化合物。
E32. 鉄錯体化合物中のアルミニウムの量が、鉄1g当たり100μgを超えない、E31の鉄錯体化合物。
E33. 鉄錯体化合物中のアルミニウムの量が、鉄1g当たり25μgを超えない、E32の鉄錯体化合物。
E34. 鉄錯体化合物中のアルミニウムの量が、鉄1g当たり200μgを超えない、鉄錯体化合物。
E35. 鉄錯体化合物中のアルミニウムの量が、鉄1g当たり100μgを超えない、E34の鉄錯体化合物。
E36. 鉄錯体化合物中のアルミニウムの量が、鉄1g当たり25μgを超えない、E34の鉄錯体化合物。
E37.
- 鉄錯体化合物中のヒ素の量が、鉄1g当たり4.5μgを超えず、
- 鉄錯体化合物中の鉛の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えない、
E34~E36のいずれか1つの鉄錯体化合物。
E38.
- 鉄錯体化合物中のヒ素の量が、鉄1g当たり1.5μgを超えず、
- 鉄錯体化合物中の鉛の量が、鉄1g当たり0.5μgを超えない、
E37の鉄錯体化合物。
E39.
- 鉄錯体化合物中のカドミウムの量が、鉄1g当たり0.6μgを超えず、
- 鉄錯体化合物中の水銀の量が、鉄1g当たり0.9μgを超えない、
E34~E38のいずれか1つの鉄錯体化合物。
E40.
- 鉄錯体化合物中のカドミウムの量が、鉄1g当たり0.4μgを超えず、
- 鉄錯体化合物中の水銀の量が、鉄1g当たり0.3μgを超えない、
E39の鉄錯体化合物。
E41.
- 鉄錯体化合物中のクロムの量が、鉄1g当たり330μgを超えない、
E34~E40の鉄錯体化合物。
E42.
- 鉄錯体化合物中のクロムの量が、鉄1g当たり100μgを超えない、
E41の鉄錯体化合物。
E43. 鉄錯体化合物が、鉄炭水化物錯体化合物である、E24~E42のいずれか1つの鉄錯体化合物。
E44. 鉄錯体化合物中で配位子として働く炭水化物中の還元性アルデヒド基の含有量が、
- 酸化、
- 水素化、または
- その両方の組合せ
によって低減されている、E43の鉄錯体化合物。
E45. 鉄炭水化物錯体化合物が、カルボキシマルトース鉄、ポリグルコースソルビトールカルボキシメチルエーテル鉄錯体、マンニトール鉄錯体、デキストラン鉄、水素化デキストラン鉄、酸化デキストラン鉄、鉄カルボキシアルキル化還元オリゴ糖および多糖、スクロース鉄、グルコン酸鉄、デキストリン鉄、水素化デキストリン鉄、酸化デキストリン鉄、ポリマルトース鉄、水素化ポリマルトース鉄、ポリイソマルトース鉄、水素化ポリイソマルトース鉄、鉄水素化オリゴ糖、例えば、水素化オリゴイソマルトース鉄、ヒドロキシエチルデンプン鉄、ソルビトール鉄、デキストラングルコヘプトン酸鉄ならびにその2種以上の混合物から選択される、E43の鉄錯体化合物。
E46. 鉄炭水化物錯体化合物が、カルボキシマルトース鉄、ポリグルコースソルビトールカルボキシメチルエーテル鉄錯体、マンニトール鉄錯体、デキストラン鉄、水素化デキストラン鉄、スクロース鉄、グルコン酸鉄、デキストリン鉄、水素化オリゴイソマルトース鉄およびその2種以上の混合物から選択される、E43の鉄錯体化合物。
E47. 鉄炭水化物錯体化合物の炭水化物構成成分が、500~80,000Daの重量平均分子量(MW)を有する、E43~E46のいずれか1つの鉄錯体化合物。
E48. 鉄炭水化物錯体化合物の見掛け分子量が、800~800.000Daの範囲である、E43~E47のいずれか1つの鉄錯体化合物。
E49. 鉄錯体化合物が、重合配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物である、E24~E42のいずれか1つの鉄錯体化合物。
E50. 重合配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物が、
(1)鉄調製物を、第1のpH(A)で水溶液中で配位子と接触させること、および
(2)pH(A)を第2のpH(B)に変化させて、重合配位子置換オキソ-ヒドロキシ鉄錯体化合物の固体沈殿物を生じさせること
によって得られる、E49の鉄錯体化合物。
E51. 配位子が、カルボン酸、例えば、アジピン酸、グルタル酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、アスパラギン酸、ピメリン酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸および安息香酸;食品添加剤、例えば、マルトール、エチルマルトールおよびバニリン;配位子特性を有するアニオン、例えば、重炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオン;鉱物配位子、例えば、シリケート、ボレート、モリブデートおよびセレネート;アミノ酸、例えば、トリプトファン、グルタミン、プロリン、バリンおよびヒスチジン;および栄養素ベースの配位子、例えば、フォレート、アスコルベート、ピリドキシンおよびナイアシン;ならびにその2種以上の混合物から選択される、E49またはE50の鉄錯体化合物。
E52. 鉄錯体化合物が、クエン酸、クエン酸塩およびグルコネートから選択される化合物で安定化される、E24~E51のいずれか1つの鉄錯体化合物。
E53. H2Oを含有する式
{FeO(1-3X)(OH)(1+3X)(C6H5O7
3-)X},(C6H10O6)R(-C6H10O5
-)Z(C6H13O5)R,(MeCl)Y
(式中、
Xは0.0311±0.0062であり、Rは0.1400±0.0420であり、Zは0.4900±0.1470であり、Yは1.8000±1.0800であり、Meは一価金属イオンである)
を有する、E24~E52のいずれか1つの鉄錯体化合物。
E54.Xが0.0311±0.0031であり、Rが0.1400±0.0210であり、Zが0.4900±0.0735であり、Yが1.8000±0.4500である、E53の鉄錯体化合物。
E55. E24~のいずれか1つの鉄錯体化合物および薬学的に許容される担体を含む組成物。
E56. 治療的使用のための、E24~E54のいずれか1つの鉄錯体化合物またはE55の組成物。
E57. 対象における鉄欠乏症の治療または予防に使用するためのE24~E54のいずれか1つの鉄錯体化合物。
E58. 対象が非ヒト動物であり、鉄錯体化合物が、デキストラン鉄、水素化デキストラン鉄およびグルコヘプトン酸デキストラン鉄から選択される、E57による使用のための鉄錯体化合物。
E59. 対象が、腎機能の喪失または障害を患っているヒト、例えば透析を必要とするヒトである、E57による使用のための鉄錯体化合物。
E60. 対象が幼児である、E57~E59のいずれか1つによる使用のための鉄錯体化合物。
E61. 対象が、妊娠哺乳動物または妊娠することが予想される哺乳動物または哺乳中の哺乳動物である、E57またはE58による使用のための鉄物質。
E62. 対象が、ヒト、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ラクダ、ヒツジ、ヤギおよびウシから選択される、E57~E61のいずれか1つによる使用のための鉄錯体化合物。
E63. 治療または予防が、鉄錯体化合物の非経口投与を含む、E57~E62のいずれか1つによる使用のための鉄錯体化合物。
E64. 非経口投与が、筋肉内注射、皮下注射、静脈内注射および静脈内注入から選択され、任意選択により、ボーラス注射または注入である、E63による使用のための鉄錯体化合物。
E65. 治療または予防が、2分以下以内の鉄200mg以上の量を含有する用量の鉄錯体化合物の投与を含む、E57~E64のいずれか1つによる使用のための鉄錯体化合物。
E66. 治療または予防が、4週毎またはより高い頻度、例えば、3週毎もしくはより高い頻度、3週毎もしくはより高い頻度、または毎週もしくはより高い頻度での鉄200mg以上の量を含有する1回用量の鉄錯体化合物の投与を含む、E57~E65のいずれか1つによる使用のための鉄錯体化合物。
E67. 治療または予防が、鉄500mg~1000mgの量を含有する単回用量の鉄錯体化合物の投与を含む、E57~E66のいずれか1つによる使用のための鉄錯体化合物。
E68. 治療または予防が、1回に対象の体重1kg当たり鉄15~20mgを含有する量の鉄錯体化合物の投与を含む、E57~E66のいずれか1つによる使用のための鉄錯体化合物。
【実施例0124】
実施例1:カルボニル鉄からの塩化第二鉄の生成
塩化第二鉄を、窒素雰囲気中、3工程反応を使用してカルボニル鉄から生成した。
【0125】
工程1:カルボニル鉄(5.2kmol)を、わずかに過剰量のHCl(10.8kmol)と反応させて、塩化第一鉄および水素を形成した。
【0126】
この工程における反応は、次式の通りである:Fe+2HCl → FeCl2+H2
【0127】
工程2:工程1で得られた塩化第一鉄を、HCl(4.06kmol)およびわずかに不足量のNaClO3(0.82kmol)と反応させて、塩化第二鉄、塩化ナトリウムおよび水を形成した。
【0128】
この工程における反応は、次式の通りである:
6FeCl2+6HCl+NaClO3 → 6FeCl3+NaCl+3H2O
【0129】
工程3:工程2の後に残留している残留塩化第一鉄を、二価鉄イオンがそれ以上検出されなくなるまで過酸化水素を段階的に添加することによって達成される制御された酸化によって塩化第二鉄に変換した。
【0130】
この工程における主反応は、次式の通りである:
FeCl2+2HCl+H2O2 → FeCl3+2H2O
【0131】
式:2HCl+H2O2 → Cl2+2H2Oに従う、塩酸および過酸化水素の副反応がある。
【0132】
実施例2:カルボニル鉄からの鉄錯体化合物の生成
鉄イソマルトシド1000、水素化オリゴイソマルトース(オリゴイソマルトシド)鉄錯体化合物をWO2010/108493A1に記載されている方法を使用して生成した。
【0133】
実施例1に記載されている方法によってカルボニル鉄から生成したFeCl3を使用した。240kgのFe3+を含有する量のFeCl3を、1,097Daの重量平均分子量ならびに0.8wt%の単糖および二糖の含有量を有する560kgの水素化オリゴイソマルトース(オリゴイソマルトシド、すなわち、イソマルトシド1000)調製物と合わせた。これにより、24.2wt%のFe3+を含有する鉄イソマルトシド1000粉末903kgが生成した。したがって、式
{FeO(1-3X)(OH)(1+3X)(C6H5O7
3-)X},(H2O)T,(C6H10O6)R(-C6H10O5-)Z(C6H13O5)R,(NaCl)Y
(式中、Xは約0.031であり、Tは約0.25であり、Rは約0.14であり、Zは約0.49であり、Yは約0.14である)を有する最終生成物中に、約91.1%のFe3+が組み込まれた。
【0134】
実施例3:有機溶媒を使用したニッケル鉱からの、水溶液から水性鉄塩を抽出することによって誘導された塩化第二鉄からの鉄錯体化合物の生成
第1の工程において、ニッケル製造のための鉄含有ニッケル鉱の処理の間に得られた塩化第二鉄水溶液を用意し、有機溶媒を使用して塩化第二鉄水溶液を抽出することによって、塩化第二鉄調製物を生成した。
【0135】
第2の工程において、鉄イソマルトシド1000、水素化オリゴイソマルトシド鉄錯体化合物をWO2010/108493A1に記載されている方法を使用して生成した。
【0136】
第1の工程で得られた、240kgのFe3+を含有する量のFeCl3を、1,022Daの重量平均分子量ならびに1.2wt%の単糖および二糖の含有量を有する560kgの水素化オリゴイソマルトシド調製物と合わせた。これにより、24.8wt%のFe3+を含有する水素化オリゴイソマルトシド鉄粉末888kgが生成した。したがって、式
{FeO(1-3X)(OH)(1+3X)(C6H5O7
3-)X},(H2O)T,(C6H10O6)R(-C6H10O5-)Z(C6H13O5)R,(NaCl)Y
(式中、Xは約0.031であり、Tは約0.25であり、Rは約0.14であり、Zは約0.49であり、Yは約0.14である)を有する最終生成物中に、約91.8%のFe3+が組み込まれた。
【0137】
実施例4:鉄錯体化合物の非鉄金属不純物含有量
ICP-MSによって決定した本発明のいくつかの鉄錯体化合物中の非鉄金属の量を、表1にまとめる。
【0138】