(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016448
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】ダイヤフラム弁体の製造方法、ダイヤフラム弁体及びこれを備える流体制御機器
(51)【国際特許分類】
F16K 7/12 20060101AFI20230126BHJP
F16J 3/02 20060101ALI20230126BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
F16K7/12 A
F16J3/02 A
F16J3/02 D
F16J15/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120767
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000106760
【氏名又は名称】CKD株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 里佳
(72)【発明者】
【氏名】石川 信治
【テーマコード(参考)】
3J043
3J045
【Fターム(参考)】
3J043AA07
3J043CB14
3J043DA10
3J043DA11
3J045AA04
3J045BA03
3J045CA03
3J045DA01
(57)【要約】
【課題】
屈曲耐久性に優れたダイヤフラム弁体およびこれを備える流体制御機器を提供すること。
【解決手段】
パーフルオロアルコキシアルカンを原材料として、押出成形により丸棒材130を成形する工程と、丸棒材130を切削加工することで、ダイヤフラム弁体122の形状を得る工程と、を備え、原材料は、比重が2.08以上、2.16以下の範囲であること、丸棒材130は、メルトフローレートが1.1g/10min以上、2.8g/10min以下であること。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路および弁座を備える流体制御機器に用いられ、前記弁座に当接離間することで前記流路を流れる流体を制御する弁体部と、前記弁体部から外方に延びるとともに前記弁体部を支持するダイヤフラム部と、を備えるダイヤフラム弁体を製造するダイヤフラム弁体の製造方法において、
パーフルオロアルコキシアルカンを原材料として、押出成形により丸棒材を成形する工程と、
前記丸棒材を切削加工することで、前記ダイヤフラム弁体の形状を得る工程と、を備え、
前記原材料は、比重が2.08以上、2.16以下の範囲であること、
前記丸棒材は、メルトフローレートが1.1g/10min以上、2.8g/10min以下であること、 を特徴とするダイヤフラム弁体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のダイヤフラム弁体の製造方法において、
前記丸棒材の押出方向と、前記ダイヤフラム弁体の、前記弁座に当接離間する方向と、が平行であること、
前記弁体部の中心軸の近傍よりも前記ダイヤフラム部のメルトフローレートが、小さくなるように前記切削加工を行うこと、
を特徴とするダイヤフラム弁体の製造方法。
【請求項3】
流路および弁座を備える流体制御機器に用いられ、前記弁座に当接離間することで前記流路を流れる流体を制御する弁体部と、前記弁体部から外方に延びるとともに前記弁体部を支持するダイヤフラム部と、を備えるダイヤフラム弁体において、
パーフルオロアルコキシアルカンを原材料とした、押出成形による丸棒材を切削加工することで得られる、切削加工品であること、
前記原材料は、比重が2.08以上、2.16以下の範囲であること、
前記丸棒材は、メルトフローレートが1.1g/10min以上、2.8g/10min以下であること、 を特徴とするダイヤフラム弁体。
【請求項4】
請求項3に記載のダイヤフラム弁体において、
前記丸棒材の押出方向と、前記ダイヤフラム弁体の、前記弁座に当接離間する方向と、が平行であること、
前記弁体部の中心軸の近傍よりも前記ダイヤフラム部のメルトフローレートが小さいこと、 を特徴とするダイヤフラム弁体。
【請求項5】
請求項3または4に記載のダイヤフラム弁体を備えることを特徴とする流体制御機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤフラム弁体の製造方法、ダイヤフラム弁体及びこれを備える流体制御機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体制御装置に用いられる薬液の流量制御には、例えばダイヤフラムバルブなどの流体制御機器が用いられる。ダイヤフラムバルブは、流路と、弁座と、ダイヤフラム弁体とを備えており、ダイヤフラム弁体は、弁座に当接離間することで流路を流れる流体を制御する弁体部と、上記当接離間の動作に伴って屈曲することで弁体部を支持するダイヤフラム部と、を備える。
【0003】
ここで、ダイヤフラム弁体は、薬液と接触するため、耐腐食性を有するフッ素樹脂を用いて形成することが一般的である。また、弁体部と弁座との当接離間の繰り返しによる発塵を防ぐことや、ダイヤフラム部の屈曲の繰り返しによる破壊を防ぐことを目的として、フッ素樹脂の中でも、低発塵性、屈曲耐久性を有する材料を用いることが望ましい。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されるダイヤフラム弁体(特許文献1中のダイヤフラム弁体4)は、ダイヤフラム部(特許文献1中のダイアフラム部材42)が、屈曲耐久性の高いPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)により形成されている。このダイヤフラム部は、丸棒材を切削加工することで得られるものである。そして、このダイヤフラム部に対して、インサート成形により、低発塵性を有するPFA(パーフルオロアルコキシアルカン)を用いて弁体部(特許文献1中の弁座当接部材)が形成される。このように、弁体部とダイヤフラム部とを、それぞれ異なった材料で形成するのは、弁体部に求められる低発塵性については、一般的にPFAの方がPTFEよりも優れ、ダイヤフラム部に求められる屈曲耐久性については、一般的にPTFEの方がPFAよりも優れるためである。
【0005】
一方で、特許文献2には、PFAを用いて、射出成型により弁体部(特許文献2中の弁体部15a)とダイヤフラム部(特許文献2中の膜部15b)とが一体として形成されたダイヤフラム弁体(特許文献2中のダイアフラム15)が開示されている。特許文献2に開示されるダイヤフラム弁体に用いられるPFAは、比重が2.135未満とされている。このように比重の低いPFAは、結晶化度が低く、分子量が高いため、従来用いられてきたPFAに比べて屈曲耐久性が高いものと考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/221877号
【特許文献2】特開2021-67363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されるダイヤフラム弁体は、ダイヤフラム部に対し、インサート成形により弁体部を形成しているため、インサート成形を行う工程は複雑となり、製造コストが高くなる傾向にある。このため、弁体部とダイヤフラム部とは、特許文献2に開示されるダイヤフラム弁体のように、一体であることが望ましい。
【0008】
しかし、特許文献2に開示されるような、屈曲耐久性の高いPFAは、メルトフローレート(MFR)が低く、射出成形が困難であるという問題がある。なお、MFRとは、ASTM D1238に準拠し、樹脂温度が摂氏372度、荷重5kg、オリフィスの内径2.1mm、オリフィスの高さが8.0mmの条件で測定した結果得られる値である。
【0009】
MFRの低い材料を用いて射出成型を行うためには、例えば通常の使用条件以上に加熱することで、射出成型が可能な程度にまで流動しやすい状態にする必要がある。しかし、このような流動しやすい状態とは、材料が過度に加熱された状態であることを意味する。過度に加熱された材料は、劣化し、物性が低下する。そうすると、ダイヤフラム弁体の屈曲耐久性が、従来のPTFEにより形成したダイヤフラム弁体と比較して、大幅に低下するおそれがある。このため、一般的には、MFRが15g/10min以上の材料を用いている。しかし、特許文献2においては、MFRが3g/10min以下のPFAを用いて射出成型によりダイヤフラム弁体を得るものとしており、出願人が実験したところによると、現実には、そのようなPFAを用いて、射出成型によって従来のPTFEにより形成したダイヤフラム弁体と同等程度、またはそれ以上の屈曲耐久性を有するダイヤフラム弁体を得ることは困難であった。
【0010】
さらに、射出成型によってダイヤフラム弁体を得ようとすると、ダイヤフラム弁体に、金型のキャビティ内を流れる溶融樹脂同士が合流して形成されるウエルドラインが発生するおそれがあるなど、ダイヤフラム弁体を形成する材料の組成に均一性を欠くおそれがある。組成に均一性を欠くと、ダイヤフラム弁体の屈曲耐久性に悪影響を与えるおそれがある。
【0011】
また、PFAは、比重が低いほど屈曲耐久性が高いものと考えられていたが、必ずしもそうではないことを、発明者は試験により確認した。この試験について
図5を用いて詳しく説明する。
図5は、ダイヤフラム弁体を形成するPFAの比重の値と、ダイヤフラム弁体の屈曲耐久回数の関係を近似直線により表すグラフである。このグラフの縦軸が、ダイヤフラム弁体を形成するPFAの比重の値であり、横軸が、ダイヤフラム弁体の屈曲耐久回数である。
【0012】
試験条件は、以下の通りである。比重の異なるPFAにより形成される複数のダイヤフラム弁体を用意し、当該ダイヤフラム弁体を組み込んだダイヤフラムバルブに対し、常温の雰囲気下で、常温の流体を、流体圧0.2~0.5MPaで封入し、ダイヤフラム弁体を、0.5~2.5mmのストロークで、かつ、弁閉時間および弁開時間をそれぞれ0.5~10秒のサイクルで開閉する。
【0013】
この条件で試験を行った結果、
図5に示すグラフの通り、従来考えられていたPFAの比重と屈曲耐久回数との相関性が得られなかった。よって、PFAの比重の値のみによって、屈曲耐久性の優劣を判断することは困難であると考えられる。
【0014】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、屈曲耐久性に優れたダイヤフラム弁体およびこれを備える流体制御機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明のダイヤフラム弁体の製造方法は、次のような構成を有している。
【0016】
流路および弁座を備える流体制御機器に用いられ、前記弁座に当接離間することで前記流路を流れる流体を制御する弁体部と、前記弁体部から外方に延びるとともに前記弁体部を支持するダイヤフラム部と、を備えるダイヤフラム弁体を製造するダイヤフラム弁体の製造方法において、パーフルオロアルコキシアルカンを原材料として、押出成形により丸棒材を成形する工程と、前記丸棒材を切削加工することで、前記ダイヤフラム弁体の形状を得る工程と、を備え、前記原材料は、比重が2.08以上、2.16以下の範囲であること、前記丸棒材は、メルトフローレートが1.1g/10min以上、2.8g/10min以下であること、を特徴とする。
【0017】
上記ダイヤフラム弁体の製造方法によれば、丸棒材を切削加工することにより、ダイヤフラム弁体の形状を得るため、弁体部とダイヤフラム部を一体とすることができる。したがって、弁体部とダイヤフラム部とを異なった材料で構成するダイヤフラム弁体よりも、製造コストを抑えることが可能である。
【0018】
また、上記ダイヤフラム弁体の製造方法によれば、ダイヤフラム弁体の原材料として、比重が2.08以上、2.16以下の範囲であり、かつ、丸棒材のメルトフローレート(MFR)が1.1g/10min以上、2.8g/10min以下となるパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)が選択される。これにより、屈曲耐久性に優れたダイヤフラム弁体を得ることが可能である。PFAは、MFRの値が低くなるほど、屈曲耐久性が向上することを、発明者は試験により確認した。MFRの値が低くなるほど屈曲耐久性が向上するのは、MFRが低いほど、分子鎖が長く、分子間の絡み合いが強くなるからである。本発明者は、比重が2.08以上、2.16以下の範囲にあり、かつ、丸棒材のMFRが1.1g/10min以上、2.8g/10min以下となるPFAを選択し、試験を行った結果、ダイヤフラム部の屈曲耐久性が向上することを確認した。なお、上記した丸棒材のMFRとは、原材料であるPFAの、成形後のMFRを意味する。成形後のMFRとは、原材料であるPFAを溶融成形した後に、再び溶融させて測定したものであり、この測定は、ASTM D1238に準拠し、樹脂温度が摂氏372度、荷重5kg、オリフィスの内径2.1mm、オリフィスの高さが8.0mmの条件下で行われるものである。
【0019】
また、上記ダイヤフラム弁体の製造方法によれば、丸棒材は、押出成形により形成される。MFRが1.1g/10min以上、2.8g/10min以下のPFAを射出成型に用いることとすると、当該PFAは、射出成型が可能な程度にまで流動しやすい状態にするために、過度に加熱され、劣化するおそれがある。上記ダイヤフラム弁体の製造方法によれば、丸棒材は、押出成形により形成されるため、PFAの劣化を防止することが可能となる。
【0020】
なお、一般的に、半導体製造装置に用いられる流体制御機器のダイヤフラム弁体は、開閉頻度の少ないもので最低でも100万回の開閉動作に耐えうる屈曲耐久性を要するところ、MFRが2.8g/10minを超えると、ダイヤフラム弁体の屈曲耐久性が低下し、上記100万回の開閉動作に耐えられなくなるおそれがある。また、MFRが1.1g/10min未満となると、より分子間の絡み合いが強くなり、屈曲耐久性が増すと考えられるが、押出成形が困難となるため、生産性の観点から好ましくない。また、押出成形が困難となると、丸棒材の組成が不均一となり、屈曲耐久性が安定しないおそれもある。また、PFAの物性のばらつきを考慮すれば、PFAのMFRは、1.1g/10min以上、2.8g/10min以下の範囲内において、1.5g/10min以上、2.6g/10min以下の範囲がより好ましく、2.2g/10min以上、2.6g/10min以下の範囲がさらに好ましい。
【0021】
また、丸棒材は押出成形により形成されるため、射出成型に比して、ウエルドラインが発生しにくいなど、材料の組成を均一に保ちやすい。このような丸棒材を用いてダイヤフラム弁体を形成することにより、ダイヤフラム弁体の屈曲耐久性を確保しやすくなる。
【0022】
さらに、上記課題を解決するために、本発明のダイヤフラム弁体は、次のような構成を有している。
【0023】
流路および弁座を備える流体制御機器に用いられ、前記弁座に当接離間することで前記流路を流れる流体を制御する弁体部と、前記弁体部から外方に延びるとともに前記弁体部を支持するダイヤフラム部と、を備えるダイヤフラム弁体において、パーフルオロアルコキシアルカンを原材料とした、押出成形による丸棒材を切削加工することで得られる、切削加工品であること、前記原材料は、比重が2.08以上、2.16以下の範囲であること、前記丸棒材は、メルトフローレートが1.1g/10min以上、2.8g/10min以下であること、を特徴とする。
【0024】
上記ダイヤフラム弁体によれば、丸棒材を切削加工することにより、ダイヤフラム弁体の形状を得るため、弁体部とダイヤフラム部を一体とすることができる。したがって、弁体部とダイヤフラム部とを異なった材料で構成するダイヤフラム弁体よりも、製造コストを抑えることが可能である。
【0025】
また、上記ダイヤフラム弁体によれば、ダイヤフラム弁体の原材料として、比重が2.08以上、2.16以下の範囲であり、かつ、丸棒材のメルトフローレート(MFR)が1.1g/10min以上、2.8g/10min以下のパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)が選択される。これにより、屈曲耐久性に優れたダイヤフラム弁体122を得ることが可能である。PFAは、MFRの値が低くなるほど屈曲耐久性が向上することを、発明者は試験により確認した。MFRの値が低くなるほど屈曲耐久性が向上するのは、MFRが低いほど、分子鎖が長く、分子間の絡み合いが強くなるためであると考えられる。本発明者は、比重が2.08以上、2.16以下の範囲にあり、かつ、丸棒材のMFRが1.1g/10min以上、2.8g/10min以下となるPFAを選択し、試験を行った結果、ダイヤフラム部124の屈曲耐久性が向上することを確認した。なお、上記した丸棒材のMFRとは、原材料であるPFAの、成形後のMFRを意味する。成形後のMFRとは、原材料であるPFAを溶融成形した後に、再び溶融させて測定したものであり、この測定は、ASTM D1238に準拠し、樹脂温度が摂氏372度、荷重5kg、オリフィスの内径2.1mm、オリフィスの高さが8.0mmの条件下で行われるものである。
【0026】
また、上記ダイヤフラム弁体によれば、丸棒材は、押出成形により形成される。MFRが1.1g/10min以上、2.8g/10min以下のPFAを射出成型に用いることとすると、当該PFAは、射出成型が可能な程度にまで流動しやすい状態にするために、過度に加熱され、劣化するおそれがある。上記ダイヤフラム弁体によれば、丸棒材は、押出成形により形成されるため、PFAの劣化を防止することが可能となる。
【0027】
なお、一般的に半導体製造装置に用いられる流体制御機器のダイヤフラム弁体は、開閉頻度の少ないもので最低でも100万回の開閉動作に耐えうる屈曲耐久性を要するところ、MFRが2.8g/10minを超えると、ダイヤフラム弁体の屈曲耐久性が低下し、上記100万回の開閉動作に耐えられなくなるおそれがある。また、MFRが1.1g/10min未満となると、より分子間の絡み合いが強くなり、屈曲耐久性が増すと考えられるが、押出成形が困難となり、生産性の観点から好ましくない。また、押出成形が困難となると、丸棒材の組成が不均一となり、屈曲耐久性が安定しないおそれもある。また、PFAの物性のばらつきを考慮すれば、PFAのMFRは、1.1g/10min以上、2.8g/10min以下の範囲内において、1.5g/10min以上、2.6g/10min以下の範囲がより好ましく、2.2g/10min以上、2.6g/10min以下の範囲がさらに好ましい。
【0028】
また、丸棒材は押出成形により形成されるため、射出成型に比して、ウエルドラインが発生しにくいなど、材料の組成を均一に保ちやすい。このような丸棒材を用いてダイヤフラム弁体を形成することにより、ダイヤフラム弁体の屈曲耐久性を確保しやすくなる。
【0029】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の流体制御機器(例えばダイヤフラムバルブ)は、上記ダイヤフラム弁体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明のダイヤフラム弁体の製造方法およびダイヤフラム弁体、ダイヤフラム流体制御機器によれば、屈曲耐久性に優れたダイヤフラム弁体およびこれを備える流体制御機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本実施形態に係るダイヤフラムバルブの断面図である。
【
図2】本実施形態に係るダイヤフラム弁体の断面図である。
【
図3】ダイヤフラム弁体の製造工程を説明する図である。
【
図4】ダイヤフラム弁体を形成するPFAのMFRの値と、ダイヤフラム弁体の屈曲耐久回数の関係を近似直線により表すグラフである。
【
図5】ダイヤフラム弁体を形成するPFAの比重の値と、ダイヤフラム弁体の屈曲耐久回数の関係を近似直線により表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施形態に係るダイヤフラムバルブ1(流体制御機器の一例)について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るダイヤフラムバルブ1の断面図である。
図2は、本実施形態に係るダイヤフラム弁体122の断面図である。
【0033】
ダイヤフラムバルブ1は、半導体製造工程に用いられる薬液の流体制御を行う薬液弁であり、
図1に示すように、上下に積み重なる駆動部11と弁部12とからなる。
【0034】
駆動部11は、第1ハウジング111と、第2ハウジング112とが、
図1中の上下方向に積み重なるようにして形成されており、その内部にピストン113を備えている。
【0035】
第1ハウジング111は、第2ハウジング112とは反対側の端部(
図1中の上端部)が閉塞されている一方で、第2ハウジング112側の端部(
図1中の下端部)が開口された中空筒状をなしており、外周面には、第1給排気口111aが形成されている。そして、第1ハウジング111の
図1中の下端部は、第2ハウジング112の
図1中の上端側に、Oリング115を介して気密的に嵌装されている。
【0036】
第2ハウジング112は、第1ハウジング111側の端部(
図1中の上端部)、弁部12側の端部(
図1中の下端部)ともに開口された中空筒状をなしており、外周面には第2給排気口112aが形成されている。
【0037】
第1ハウジング111と第2ハウジング112とは同軸上に並んでおり、第1ハウジング111の中空部と、第2ハウジング112の中空部によりピストン室116が形成されている。
【0038】
ピストン室116には、ピストン113が、
図1中の上下方向に摺動可能に装填されている。ここで、
図1中の上方向は、開弁方向であり、
図1中の下方向は、閉弁方向である。ピストン113は、円盤状のピストン部113aを備えており、該ピストン部113aにより、ピストン室116が、上室116aと、下室116bとに区画されている。ピストン部113aの外周面と、ピストン室116の内壁面の間にはOリング117が配置されており、上室116aと、下室116bとの間を気密に保っている。
【0039】
上室116aは、第1連通路111bによって、第1給排気口111aと連通しており、下室116bは、第2連通路112bによって、第2給排気口112aと連通している。また、上室116aには、コイルスプリング114が配設されており、コイルスプリング114の
図1中の下端部は、ピストン部113aの上端面に当接し、コイルスプリング114の
図1中の上端部は、下室116bの上面に当接している。そして、コイルスプリング114は、弾性力により、ピストン113を閉弁方向に付勢している。よって、第2給排気口112aから下室116bに操作エアが供給されると、下室116bの圧力が上昇することで、コイルスプリング114の弾性力に抗して、ピストン113が開弁方向に移動されるようになっている。この際、上室116a内の空気は、第1給排気口111aから排気される。そして、下室116bへの操作エアが停止されると、コイルスプリング114の弾性力により、ピストン113が閉弁方向に移動されるようになっている。
【0040】
また、ピストン113は、ピストン部113aの下端側に延伸するピストンロッド113cを備えている。このピストンロッド113cは、第2ハウジング112の下端面と下室116bとを貫通する貫通孔112cに挿通されている。ピストンロッド113cの外周面と、貫通孔112cの内周面との間にはOリング118が配設され、下室116bを気密に保っている。そして、ピストンロッド113cの先端部には、弁部12を構成するダイヤフラム弁体122が螺合されている。
【0041】
弁部12は、駆動部11の
図1中の下側に連結されており、弁部本体121と、ダイヤフラム弁体122と、台座126とから構成される。
【0042】
弁部本体121は、薬液等の流体が入力される入力流路121aと、入力された流体が出力される出力流路121bとを備える(入力流路121a、出力流路121bともに流路の一例)。そして、弁部本体121の
図1中の上端面中央には、弁室121cが穿設されており、弁室121cは、入力流路121aと出力流路121bを連通している。また、弁室121cの底面には、ダイヤフラム弁体122が当接離間する環状弁座121d(弁座の一例)が形成されている。
【0043】
ダイヤフラム弁体122は、
図1および
図2に示されているように、弁体部123と、ダイヤフラム部124と、支持部125とを備えている。
【0044】
弁体部123は、
図2に示すように、細径部123aと、拡径部123bと、太径部123cとからなり、いわゆる釣り鐘状の略円柱形状に形成されている。細径部123aの上端は、
図1に示すように、ピストン113のピストンロッド113cの下端に連結されている。これにより、ピストン113が上下方向に摺動するに伴って、弁体部123が上下動することが可能となっている。また、細径部123aの下端には、拡径部123bを介して細径部123aよりも直径の大きい太径部123cが接続されている。太径部123cの、環状弁座121dに対向する下面は、弁体部123の上下動に伴って環状弁座121dに当接離間して流体を制御するためのシール面123dである。
【0045】
ダイヤフラム部124は、
図2に示すように、細径部123aの外周面から半径方向の斜め上外方に伸びるようにして形成されている。なお、ダイヤフラム部124の形状は、
図2に示す形状に限定されるものでなく、一部を湾曲させるなどしてより柔軟性を持たせた形状としても良い。支持部125は、
図2に示すように、ダイヤフラム部124の外縁部に、肉厚に設けられている。支持部125が、駆動部11 と弁部12との間に挟持されることにより、ダイヤフラム弁体122は、固定されており、弁室121c内において、ダイヤフラム部124が弁体部123を支持した状態となっている。したがって、弁体部123が上下動するに伴い、弁体部123を支持するダイヤフラム部124は屈曲を繰り返す。
【0046】
この屈曲の繰り返しによるダイヤフラム部124の破壊を防止するため、ダイヤフラム部124には屈曲耐久性が求められる。そこで、ダイヤフラム弁体122の材質として、比重が2.08以上、2.16以下の範囲であり、かつ、押出成形により得られる丸棒材130(
図3参照)のメルトフローレート(MFR)が1.1g/10min以上、2.8g/10min以下になるPFA(パーフルオロアルコキシアルカン)を選択している。なお、丸棒材130のMFRとは、原材料であるPFAの、成形後のMFRを意味する。成形後のMFRとは、原材料であるPFAを押出成形して得た丸棒材130を、再び溶融させて測定したものであり、この測定はASTM D1238に準拠し、樹脂温度が摂氏372度、荷重5kg、オリフィスの内径2.1mm、オリフィスの高さが8.0mmの条件下で行われるものである。成形後のMFRは、原材料のMFR(すなわち成形前のMFR)に比べて、約5~15%上昇する。これは成形時に加熱されることによって、材料の熱劣化が起こるためである。よって、丸棒材130のMFRが1.1g/10min以上、2.8g/10min以下になるようにするには、成形前のMFRが1g/10min以上、2.5g/10min以下のPFAを選択するのが良い。
【0047】
PFAは、一般的に用いられるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)と比較して、低発塵性に優れる分子構造を有している。したがって、PFAによりダイヤフラム弁体122を形成すれば、弁体部と弁座との当接離間の繰り返しによる発塵を防ぐことができる。一方で、PFAは、一般的に、PTFEに比較して柔軟性が低く、屈曲耐久性に劣るという特性を有する。そのようなPFAによりダイヤフラム弁体122を形成すると、ダイヤフラム部124の屈曲の繰り返しにより、破壊しやすくなるおそれがあった。そのような中、近年、例えば特開2017-119750 号公報に記載されているように、柔軟性が高い分子構造のPFAが開発され、流通するようになった。PFAは、結晶化度が低く、分子量が高いほど、屈強耐久性が高くなると期待されている。言い換えれば、分子量が高いものほど比重が低くなるため、PFAは、比重が低いほど、屈曲耐久性が高くなると期待されている。しかし、
図5のグラフに示す通り、必ずしも比重が低いほど、屈曲耐久性が高くなるわけではないことを、発明者は試験により確認した。
【0048】
そこで発明者は、PFAのMFRに注目して試験を行った結果、PFAは、MFRの値が低くなるほど屈曲耐久性が向上することを確認した。
図4は、ダイヤフラム弁体122を形成するPFAのMFRの値と、ダイヤフラム弁体122の屈曲耐久回数の関係を近似直線により表すグラフである。このグラフの縦軸が、ダイヤフラム弁体122を形成するPFAのMFRの値であり、横軸が、ダイヤフラム弁体122の屈曲耐久回数である。
【0049】
試験条件は、以下の通りである。MFR値の異なるPFAにより形成される複数のダイヤフラム弁体を用意し、当該ダイヤフラム弁体を組み込んだダイヤフラムバルブに対し、常温の雰囲気下で、常温の流体を、流体圧0.2~0.5MPaで封入し、ダイヤフラム弁体を、0.5~2.5mmのストロークで、かつ、弁閉時間および弁開時間をそれぞれ0.5~10秒のサイクルで開閉する。この条件で試験を行った結果、
図4に示すグラフの通り、ダイヤフラム弁体を形成するPFAのMFRの値が低いほど、屈曲耐久回数が高いことが分かった。MFRの値が低くなるほど屈曲耐久性が向上するのは、MFRの値が低くなるほど、分子鎖が長く、分子間の絡み合いが強くなるためであると考えられる。
【0050】
具体的な屈曲耐久回数を挙げると、比重が約2.11かつ、MFRが2.5g/10minのPFAにより形成したダイヤフラム弁体122と、比重が約2.17かつ、MFRが14g/10minのPFAにより形成したダイヤフラム弁体122と同一形状のダイヤフラム弁体(第1比較試料とする)とを用い、上記試験条件により、開閉動作の繰り返しによる屈曲耐久性試験を行ったところ、ダイヤフラム弁体122のダイヤフラム部124は100万回程度の開閉動作に耐久可能であるのに対し、第1比較試料の耐久可能な開閉動作は、10万回以下であった。
【0051】
次に、上記したダイヤフラム弁体122の製造工程について、
図3を用いて説明する。
図3は、ダイヤフラム弁体122の製造工程を説明する図である。
【0052】
まず、上記した、比重が2.08以上、2.16以下の範囲にあり、かつ、成形後のMFRが2.8g/10min以下となるPFAを原材料として、押出成形により丸棒材130を成形する。
【0053】
丸棒材130は、一般的に、押出成形機によって以下のようにして得られる。押出成形機は、加熱シリンダと、加熱シリンダの内部に設けられるスクリューと、スクリューの先端側に位置される金型と、を備えている。成形対象となる材料は、加熱シリンダに投入されると、加熱シリンダ内で加熱されるとともに、スクリューにより回転される。これにより、材料は、スクリュー先端側に送られながら溶融される。そして、溶融された材料は、スクリューにより金型に送り出される。金型は、内部に成形部を備えており、当該成形部によって金型に送り出された材料を中実の円筒状に形成し、吐出する。そして、金型から吐出された円筒状の材料を、所定の長さで切断することで、丸棒材130を得る。以上のように、押出成形により丸棒材130を成形するため、射出成型により成形する場合と比べて、ウエルドラインが発生しにくいなど、丸棒材130の材料の組成を均一に保ちやすい。
【0054】
次に、切削加工により、丸棒材130から、
図3の二点鎖線に示すように、ダイヤフラム弁体122を切り出す。上記の通り、押出成形により丸棒材130は、材料の組成を均一に保ちやすく、このような丸棒材130を用いてダイヤフラム弁体122を形成することで、ダイヤフラム弁体122の屈曲耐久性を確保しやすくなる。
【0055】
また、押出成形による丸棒材130の物性の異方性から、ダイヤフラム部124の屈曲耐久性を確保するためには、丸棒材130の押出方向Dと、ダイヤフラム弁体122の、環状弁座121dに当接離間する方向とが平行となるようにすることが望ましい。
【0056】
さらに、ダイヤフラム部124の屈曲耐久性を確保するためには、ダイヤフラム部124のMFRが、弁体部123の中心軸A11の近傍のMFRよりも小さくなるようにすることが望ましい。なお、このMFRは、丸棒材130のMFR、すなわち成形後のMFRを意味する。中心軸A11の近傍とは、例えば、範囲127(
図3中のドット部)である。範囲127は、中心軸A11を中心軸とした円柱状の領域であり、直径はダイヤフラム弁体122の細径部123aと略同一である。この直径を細径部123aと略同一としているのは、範囲127にダイヤフラム部124が含まれないようにするためである。したがって、範囲127の直径を必ずしも細径部123aと略同一とする必要はなく、範囲127にダイヤフラム部124が含まれない程度の直径であれば良い。
【0057】
丸棒材130は、押出成形機の金型から吐出されると、外周面から冷却されていくため、外周から中心部に向かうほど、熱劣化によりMFRが高くなる。ダイヤフラム部124の屈曲耐久性を向上させるためには、MFRが低い方が望ましい。よって、弁体部123の中心軸A11の近傍(範囲127)を、丸棒材130外周部よりもMFRの高い中心部(中心軸A12付近)で形成し、中心部(中心軸A12付近)よりもMFRの低い部分でダイヤフラム部124を形成することで、ダイヤフラム部124の屈曲耐久性を確保することが可能となる。なお、
図3においては、丸棒材130の中心軸A12と、ダイヤフラム弁体122の中心軸A11とが一致した状態であるが、必ずしも一致している必要はない。
【0058】
以上説明したように、本実施形態のダイヤフラム弁体122の製造方法によれば、
(1)流路(例えば入力流路121a、出力流路121b)および弁座(例えば環状弁座121d)を備える流体制御機器(例えばダイヤフラムバルブ1)に用いられ、弁座(環状弁座121d)に当接離間することで流路(入力流路121a、出力流路121b)を流れる流体を制御する弁体部123と、弁体部123から外方に延びるとともに弁体部123を支持するダイヤフラム部124と、を備えるダイヤフラム弁体122を製造するダイヤフラム弁体の製造方法において、パーフルオロアルコキシアルカンを原材料として、押出成形により丸棒材130を成形する工程と、丸棒材130を切削加工することで、ダイヤフラム弁体122の形状を得る工程と、を備え、原材料は、比重が2.08以上、2.16以下の範囲であること、丸棒材130は、メルトフローレートが1.1g/10min以上、2.8g/10min以下であること、を特徴とする。
【0059】
(1)に記載のダイヤフラム弁体の製造方法によれば、丸棒材130を切削加工することにより、ダイヤフラム弁体122の形状を得るため、弁体部123とダイヤフラム部124を一体とすることができる。したがって、弁体部とダイヤフラム部とを異なった材料で構成するダイヤフラム弁体よりも、製造コストを抑えることが可能である。
【0060】
さらにまた、(1)に記載のダイヤフラム弁体の製造方法によれば、ダイヤフラム弁体122の原材料として、比重が2.08以上、2.16以下の範囲であり、かつ、丸棒材130のメルトフローレート(MFR)が1.1g/10min以上、2.8g/10min以下となるパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)が選択される。これにより、屈曲耐久性に優れたダイヤフラム弁体122を得ることが可能である。PFAは、MFRの値が低くなるほど屈曲耐久性が向上することを、発明者は試験により確認した。MFRの値が低くなるほど屈曲耐久性が向上するのは、MFRが低いほど、分子鎖が長く、分子間の絡み合いが強くなるためであると考えられる。本発明者は、比重が2.08以上、2.16以下の範囲にあり、かつ、丸棒材130のMFRが1.1g/10min以上、2.8g/10min以下となるPFAを選択し、試験を行った結果、ダイヤフラム部124の屈曲耐久性が向上することを確認した。なお、上記した丸棒材130のMFRとは、原材料であるPFAの、成形後のMFRを意味する。成形後のMFRとは、原材料であるPFAを溶融成形した後に、再び溶融させて測定したものであり、この測定は、ASTM D1238に準拠し、樹脂温度が摂氏372度、荷重5kg、オリフィスの内径2.1mm、オリフィスの高さが8.0mmの条件下で行われるものである。
【0061】
また、(1)に記載のダイヤフラム弁体の製造方法によれば、丸棒材130は、押出成形により形成される。MFRが1.1g/10min以上、2.8g/10min以下のPFAを射出成型に用いることとすると、当該PFAは、射出成型が可能な程度にまで流動しやすい状態にするために、過度に加熱され、劣化するおそれがある。(1)に記載のダイヤフラム弁体の製造方法によれば、丸棒材130は、押出成形により形成されるため、材料の劣化を防止することが可能となる。
【0062】
なお、一般的に半導体製造装置に用いられる流体制御機器(ダイヤフラムバルブ1)のダイヤフラム弁体122は、開閉頻度の少ないもので最低でも100万回の開閉動作に耐えうる屈曲耐久性を要するところ、MFRが2.8g/10minを超えると、ダイヤフラム弁体122の屈曲耐久性が低下し、上記100万回の開閉動作に耐えられなくなるおそれがある。また、MFRが1.1g/10min未満となると、より分子間の絡み合いが強くなり、屈曲耐久性が増すと考えられるが、押出成形が困難となるため、生産性の観点から好ましくない。また、押出成形が困難となると、丸棒材の組成が不均一となり、屈曲耐久性が安定しないおそれもある。また、PFAの物性のばらつきを考慮すれば、PFAのMFRは、1.1g/10min以上、2.8g/10min以下の範囲内において、1.5g/10min以上、2.6g/10min以下の範囲がより好ましく、2.2g/10min以上、2.6g/10min以下の範囲がさらに好ましい。
【0063】
また、丸棒材130は押出成形により形成されるため、射出成型に比して、ウエルドラインが発生しにくいなど、材料の組成を均一に保ちやすい。このような丸棒材130を用いてダイヤフラム弁体122を形成することにより、ダイヤフラム弁体122の屈曲耐久性を確保しやすくなる。
【0064】
(2)(1)に記載のダイヤフラム弁体の製造方法において、丸棒材130の押出方向Dと、ダイヤフラム弁体122の、弁座(環状弁座121d)に当接離間する方向と、が平行であること、弁体部123の中心軸A11の近傍(例えば範囲127)よりもダイヤフラム部124のメルトフローレートが、小さくなるように切削加工を行うこと、を特徴とする。
【0065】
(2)に記載のダイヤフラム弁体の製造方法によれば、丸棒材130の押出方向Dと、ダイヤフラム弁体122の、弁座(環状弁座121d)に当接離間する方向と、が平行であるため、ダイヤフラム弁体122の屈曲耐久性を確保することができる。押出成形による丸棒材130の物性の異方性から、ダイヤフラム部124の屈曲耐久性を確保するために、丸棒材130の押出方向Dと、ダイヤフラム弁体122の、環状弁座121dに当接離間する方向と、が平行であることが望ましいことを、本発明者は実験により確認した。
【0066】
また、(2)に記載のダイヤフラム弁体の製造方法によれば、弁体部123の中心軸A11の近傍(例えば範囲127)よりもダイヤフラム部124のメルトフローレートが、小さくなるように切削加工を行うため、ダイヤフラム弁体122の屈曲耐久性を確保することができる。丸棒材130は、押出成形機の金型から吐出されると、外周面から冷却されていくため、外周から中心部に向かうほど、熱劣化によりMFRが高くなる。ダイヤフラム部124の屈曲耐久性を向上させるためには、MFRが低い方が望ましい。よって、弁体部123の中心軸A11の近傍(範囲127)を、丸棒材130外周部よりもMFRの高い中心部(中心軸A12付近)で形成し、中心部(中心軸A12付近)よりもMFRの低い部分でダイヤフラム部124を形成することで、ダイヤフラム部124の屈曲耐久性を確保することが可能となる。
【0067】
また、本実施形態のダイヤフラム弁体122によれば、
(3)流路(例えば入力流路121a、出力流路121b)および弁座(例えば環状弁座121d)を備える流体制御機器(例えばダイヤフラムバルブ1)に用いられ、弁座(環状弁座121d)に当接離間することで流路(入力流路121a、出力流路121b)を流れる流体を制御する弁体部123と、弁体部123から外方に延びるとともに弁体部123を支持するダイヤフラム部124と、を備えるダイヤフラム弁体122において、パーフルオロアルコキシアルカンを原材料とした、押出成形による丸棒材130を切削加工することで得られる、切削加工品であること、原材料は、比重が2.08以上、2.16以下の範囲であること、丸棒材130は、メルトフローレートが1.1g/10min以上、2.8g/10min以下であること、を特徴とする。
【0068】
(3)に記載のダイヤフラム弁体122によれば、丸棒材130を切削加工することにより、ダイヤフラム弁体122の形状を得るため、弁体部123とダイヤフラム部124を一体とすることができる。したがって、弁体部とダイヤフラム部とを異なった材料で構成するダイヤフラム弁体よりも、製造コストを抑えることが可能である。
【0069】
また、(3)に記載のダイヤフラム弁体122によれば、ダイヤフラム弁体122の原材料として、比重が2.08以上、2.16以下の範囲であり、かつ、丸棒材130のメルトフローレート(MFR)が1.1g/10min以上、2.8g/10min以下となるパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)が選択される。PFAは、MFRの値が低くなるほど屈曲耐久性が向上することを、発明者は試験により確認した。MFRの値が低くなるほど屈曲耐久性が向上するのは、MFRが低いほど、分子鎖が長く、分子間の絡み合いが強くなるためであると考えられる。本発明者は、比重が2.08以上、2.16以下の範囲にあり、かつ、丸棒材130のMFRが1.1g/10min以上、2.8g/10min以下となるPFAを選択し、試験を行った結果、ダイヤフラム部124の屈曲耐久性が向上することを確認した。なお、上記した丸棒材130のMFRとは、原材料であるPFAの、成形後のMFRを意味する。成形後のMFRとは、原材料であるPFAを溶融成形した後に、再び溶融させて測定したものであり、この測定は、ASTM D1238に準拠し、樹脂温度が摂氏372度、荷重5kg、オリフィスの内径2.1mm、オリフィスの高さが8.0mmの条件下で行われるものである。
【0070】
また、(3)に記載のダイヤフラム弁体122によれば、丸棒材130は、押出成形により形成される。MFRが1.1g/10min以上、2.8g/10min以下のPFAを射出成型に用いることとすると、当該PFAは、射出成型が可能な程度にまで流動しやすい状態にするために、過度に加熱され、劣化するおそれがある。(3)に記載のダイヤフラム弁体122によれば、丸棒材130は、押出成形により形成されるため、PFAの劣化を防止することが可能となる。
【0071】
なお、一般的に半導体製造装置に用いられる流体制御機器(ダイヤフラムバルブ1)のダイヤフラム弁体122は、開閉頻度の少ないもので最低でも100万回の開閉動作に耐えうる屈曲耐久性を要するところ、MFRが2.8g/10minを超えると、ダイヤフラム弁体122の屈曲耐久性が低下し、上記100万回の開閉動作に耐えられなくなるおそれがある。また、MFRが1.1g/10min未満となると、より分子間の絡み合いが強くなり、屈曲耐久性が増すと考えられるが、押出成形が困難となるため、生産性の観点から好ましくない。また、押出成形が困難となると、丸棒材の組成が不均一となり、屈曲耐久性が安定しないおそれもある。また、PFAの物性のばらつきを考慮すれば、PFAのMFRは、1.1g/10min以上、2.8g/10min以下の範囲内において、1.5g/10min以上、2.6g/10min以下の範囲がより好ましく、2.2g/10min以上、2.6g/10min以下の範囲がさらに好ましい。
【0072】
また、丸棒材130は押出成形により形成されるため、射出成型に比して、ウエルドラインが発生しにくいなど、材料の組成を均一に保ちやすい。このような丸棒材130を用いてダイヤフラム弁体122を形成することにより、ダイヤフラム弁体122の屈曲耐久性を確保しやすくなる。
【0073】
(4)(3)に記載のダイヤフラム弁体122において、丸棒材130の押出方向Dと、ダイヤフラム弁体122の、弁座(環状弁座121d)に当接離間する方向と、が平行であること、弁体部123の中心軸A11の近傍(例えば範囲127)よりもダイヤフラム部124のメルトフローレートが小さいこと、を特徴とする。
【0074】
(4)に記載のダイヤフラム弁体122によれば、丸棒材130の押出方向Dと、ダイヤフラム弁体122の、弁座(環状弁座121d)に当接離間する方向と、が平行であるため、ダイヤフラム弁体122の屈曲耐久性を確保することができる。押出成形による丸棒材130の物性の異方性から、ダイヤフラム部124の屈曲耐久性を確保するために、丸棒材130の押出方向Dと、ダイヤフラム弁体122の、環状弁座121dに当接離間する方向と、が平行であることが望ましいことを、本発明者は実験により確認した。
【0075】
また、(4)に記載のダイヤフラム弁体の製造方法によれば、弁体部123の中心軸A11の近傍(例えば範囲127)よりもダイヤフラム部124のメルトフローレートが、小さくなるように切削加工を行うため、ダイヤフラム弁体122の屈曲耐久性を確保することができる。丸棒材130は、押出成形機の金型から吐出されると、外周面から冷却されていくため、外周から中心部に向かうほど、熱劣化によりMFRが高くなる。ダイヤフラム部124の屈曲耐久性を向上させるためには、MFRが低い方が望ましい。よって、弁体部123の中心軸A11の近傍(範囲127)を、丸棒材130外周部よりもMFRの高い中心部(中心軸A12付近)で形成し、中心部(中心軸A12付近)よりもMFRの低い部分でダイヤフラム部124を形成することで、ダイヤフラム部124の屈曲耐久性を確保することが可能となる。
【0076】
また、本実施形態の流体制御機器(ダイヤフラムバルブ1)によれば、(3)または(4)に記載のダイヤフラム弁体122を備えることを特徴とするので、ダイヤフラム弁体122の屈曲耐久性を確保することができる。
【0077】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。例えば、本実施形態におけるダイヤフラム弁体122は、釣り鐘状に形成された弁体部123がダイヤフラム部124に支持された形状を有しているが、ダイヤフラム弁体122の形状は必ずしもこれに限定されず、例えば、ニードル弁体がダイヤフラム部に支持された形状としても良い。本実施形態においては、丸棒材130の押出方向Dと、ダイヤフラム弁体122の、環状弁座121dに当接離間する方向と、が平行としているが、必ずしも平行でなくとも良い。また、流体制御機器としては、ダイヤフラムバルブ1に限定されず、圧力制御機器、流量制御機器、定圧弁などでも良い。また、丸棒材130は、押出成形の他に、圧縮成形によって得ることも可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 ダイヤフラムバルブ(流体制御機器の一例)
121a 入力流路(流路の一例)
121b 出力流路(流路の一例)
121d 環状弁座(弁座の一例)
122 ダイヤフラム弁体
123 弁体部
124 ダイヤフラム部