IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱瓦斯化学株式会社の特許一覧 ▶ 学校法人東邦大学の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164495
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】ポリイミド及びポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
C08G73/10
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023143330
(22)【出願日】2023-09-05
(62)【分割の表示】P 2019144772の分割
【原出願日】2019-08-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和元年5月14日に発行された第68回高分子学会年次大会予稿集 (2)令和元年5月29日に第68回高分子学会年次大会で発表したポスター
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 匡俊
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】松丸 晃久
(72)【発明者】
【氏名】末永 修也
(72)【発明者】
【氏名】大石 實雄
(57)【要約】
【課題】無色透明性、耐熱性(物理的耐熱性)、寸法安定性、熱安定性(化学的耐熱性)、機械的特性及び靱性に優れるフィルムの形成が可能であるポリイミド、並びに該ポリイミドを含むポリイミドワニス及びポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】下記一般式(3)で表される繰り返し単位を有し、式(3)中、2価の有機基Arが下式(6)で表される構造単位であるポリイミド。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(3):
【化1】

で表される繰り返し単位を有し、式(3)中、2価の有機基Arが下式(6)で表される構造単位であるポリイミド。
【化2】
【請求項2】
請求項1に記載のポリイミドが有機溶媒に溶解してなるワニス。
【請求項3】
請求項1に記載のポリイミドを含む耐熱性フィルム。
【請求項4】
ガラス転移温度が320℃以上であり、線熱膨張係数が40ppm/K以下であり、かつ波長400nmにおける光透過率が70%以上である、請求項3に記載の耐熱性フィルム。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の耐熱性フィルムを含む、画像表示装置用プラスチック基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ(LCD)、有機発光ダイオードディスプレイ(OLED)、電子ペーパー(EP)等の画像表示装置における現行のガラス基板の代替材料すなわち、透明耐熱プラスチック基板材料として好適な、高い透明性、高いガラス転移温度、低い線熱膨張係数及び十分な膜靱性を有するポリイミドと当該ポリイミドからなる耐熱性フィルム、当該ポリイミドフィルム形成用ワニスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在LCD等の画像表示装置には無機のガラス基板(例えば無アルカリガラス基板、以下単に「ガラス基板」という)が用いられているが、ガラス基板の代わりにプラスチック基板を適用することで、画像表示装置の軽量化、薄型化及び柔軟化を実現しようとする検討が活発になされている。
【0003】
ポリエーテルスルホン(以下「PES」と称する)は、透明性に加え、靱性、難燃性及び加工性に優れ、現行のスーパーエンジニアリングプラスチックの中で最も高い物理的耐熱性(すなわちガラス転移温度:Tg=225℃)を有しているが、PESでさえも、画像表示デバイス製造工程における透明電極や薄膜トランジスタ(TFT)形成等の様々な高温プロセスに対する物理的耐熱性(短期耐熱性ともいう)の観点では必ずしもが十分ではない。
【0004】
画像表示デバイス製造工程では、上記高温プロセスと室温への冷却を繰り返す複数の温度サイクルがあるが、最近プラスチック基板材料には、温度サイクルに対する優れた寸法安定性も強く求められている。寸法安定性を高める最も有効な方法の1つは、プラスチック基板材料のフィルム面方向(XY方向)の熱膨張特性、具体的にはガラス転移温度以下(ガラス領域)でのXY方向線熱膨張係数(以下「CTE」と称する)をできるだけ下げることである。CTEが低いほど、温度サイクルに追従するフィルムの可逆的熱膨張-収縮そのものを低減することができる。これにより素子層のひび割れ、層間接着不良あるいは素子の位置ずれ等の深刻な問題を回避することができる。
【0005】
また、熱膨張-収縮に伴う可逆的寸法変化が大きい場合、熱膨張-収縮を繰り返す間に不可逆的な寸法変化が蓄積される恐れが高まる。これらの観点から、透明プラスチック基板のCTEをできるだけ下げることが好ましい。
【0006】
しかしながら、PESを含む殆どの有機高分子フィルムは、60~100ppm/Kと高いCTE値を有しており、上記寸法安定性の要求に合致する透明樹脂材材料がないのが実情である。
【0007】
一方、全芳香族ポリイミドは、物理的及び化学的耐熱性、電気絶縁性、機械的特性、難燃性及び製造工程の簡便さの観点から現在最も信頼性の高い耐熱絶縁樹脂材料としてエレクトロニクス分野を中心に広く用いられている。しかしながら、下式(14)で表される東レ・デュポン株式会社製「KAPTON-H」(商品名)や下式(15)で表される宇部興産株式会社製「UPILEX-S」(商品名)に代表される現行の全芳香族ポリイミドフィルムは、電子供与体(ジアミン由来の芳香族基)と電子受容体(ビスイミド構造単位)が交互に連結した連鎖に由来する電荷移動相互作用により強く着色しており(例えば非特許文献1参照)、本目的には適合しない。
【化1】
【0008】
このような状況から、電荷移動相互作用を妨害する分子設計に基づいて、無色透明ポリイミドが検討されている。全芳香族ポリイミドのうち、下式(16):
【化2】

で表されるポリイミドは、全芳香族ポリイミドの中でも無着色透明なフィルムを与える限られたケースである(例えば非特許文献2参照)。このポリイミドフィルムの透明性は、電子吸引基として作用し、高分子鎖間の凝集力を弱める働きを持つトリフルオロメチル基(CF3)の効果によるものであり、この効果によりこのポリイミドは優れた溶媒溶解性すなわち溶液加工性も有している。しかしながら、このポリイミドフィルムは低熱膨張特性を示さない(例えば非特許文献2参照)。
【0009】
一般に、ポリイミドフィルムが低CTEを示すためには、ポリイミド主鎖がXY方向へ高度に分子配向(「面内配向」と称する)する必要があり、そのためにはポリイミド主鎖の直線性及び剛直性が不可欠であることが報告されている(例えば非特許文献3参照)。式(16)で表されるポリイミド中、トリフルオロイソプロピリデン基部位における折れ曲がった構造によりポリイミド主鎖が非直線状構造となり、主鎖の面内配向が妨害されたことが、このポリイミドフィルムが低熱膨張特性を示さない要因である。
【0010】
ポリイミドを無色透明化する有効な方法は、モノマー成分であるテトラカルボン酸二無水物かあるいはもう1つのモノマー成分であるジアミンのいずれか一方又は両方に非芳香族すなわち脂肪族モノマーを使用することである。耐熱性の観点から、脂肪族モノマーとして線状ではなく環状のもの(「脂環式ジアミン」と称する)が通常選択される。
【0011】
例えば下式(17):
【化3】

で表される汎用の脂環式ジアミンと下式(18):
【化4】

で表される汎用の芳香族テトラカルボン酸二無水物すなわちピロメリット酸二無水物(以下「PMDA」と称する)より得られる下式(19):
【化5】

で表されるポリイミドは無色透明なフィルムを与える。しかしながら、脂肪族ジアミンの塩基性が芳香族ジアミンのそれよりもはるかに高いことに起因して、脂肪族ジアミンを使用して等モル重付加反応(以下単に「重合反応」という)を行った際、重合反応の初期段階で塩が形成される(例えば非特許文献4参照)。この塩は架橋した構造をとり、無水の重合溶媒(通常、アミド系溶媒)に溶けにくいため、塩が沈殿として析出し、重合反応が全く進行しなくなる場合がある。生成した塩が重合溶媒に僅かでも溶解する場合は、一旦析出後室温で撹拌することで徐々に重合が進行する場合があり、塩が完全に溶解して均一なワニスとなるまで、非常に長時間の重合時間が必要となる。また均一化までに要する重合反応時間の再現性や、生成するポリイミド前駆体の分子量の再現性が低い。
【0012】
また、上記式(19)で表されるポリイミドのフィルムは低熱膨張特性を示さない。これは、メチレン結合部位における主鎖の折れ曲がりと、シクロヘキシル基部位においてトランス-シス異性体が混合していることにより、ポリイミド主鎖の直線性が低下し、面内配向が妨害されるためである。
【0013】
ポリイミドフィルムの低熱膨張化に有利な唯一の脂環式ジアミンとして下式(20):
【化6】

で表されるトランス-1,4-シクロヘキサンジアミン(以下「t-CHDA」と称する)が知られているが、PMDAと通常の重合方法で反応を行おうとすると、初期段階で形成される塩が極めて強固なため、如何なる反応条件でも析出した塩が全く溶解せず、ポリイミド前駆体は得られない(例えば非特許文献4参照)。
【0014】
上記t-CHDAは下式(21):
【化7】

で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物すなわち3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下「s-BPDA」と称する)とは反応するので、最終的に均一で高粘度のポリイミド前駆体ワニスを得ることは可能であるが、重合初期に一旦析出した塩を溶解させるのに短時間の加熱操作が必要であるため、このプロセスは大規模生産にとって不都合である。得られたポリイミド前駆体を基板上に塗布乾燥後、300℃以上に加熱して脱水閉環反応(イミド化反応)させると下式(22):
【化8】

で表されるポリイミドが得られ、そのフィルムは比較的透明で低熱膨張性を示す(例えば非特許文献5参照)。しかしながら、このポリイミドフィルムは実用的な膜靱性を有していない。また、このポリイミドは溶媒に全く不溶であり、溶液加工性に乏しい。
【0015】
一方、脂環式テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの組み合わせでは、上記のような塩形成は起こらず、通常の方法でポリイミド前駆体ワニスを得ることができる。重合反応の際に用いるモノマーすなわち脂環式テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン共に直線的かつ平面的で剛直な構造のものを選択することで、低熱膨張性の透明ポリイミドを得ることが可能である。直線的かつ平面的で剛直な構造を有する、入手可能な脂環式テトラカルボン酸二無水物は非常に限られており、例えば下式(23):
【化9】

で表される剛直構造の脂環式テトラカルボン酸二無水物すなわち1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(以下「CBDA」と称する)が知られているのみである。これと、例えば下式(24):
【化10】

で表される剛直で直線的な構造を有する芳香族ジアミンすなわち2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下「TFMB」と称する)との重合反応により、容易に高分子量のポリイミド前駆体が得られ、これをキャスト製膜し熱イミド化して得られる下式(25):
【化11】

で表されるポリイミドのフィルムは無着色透明で低いCTEを示す(例えば非特許文献5参照)。しかしながら、このポリイミドフィルムは自立膜とはなるものの可撓性が十分でなく、ポリイミド自身の溶液加工性も有していない(例えば非特許文献6参照)。
【0016】
CBDAは紫外線照射装置を用いて無水マレイン酸の光二量化反応によって製造される(例えば非特許文献7参照)。このため、大型加熱反応釜による大規模生産方式を適用できず、低コスト化は容易ではない。
【0017】
これに対して、下式(26):
【化12】

(式(26)中、中央のシクロヘキサン部位は舟型構造である。)
で表されるシス,シス,シス-1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(以下「H-PMDA」又は「(1S,2R,4S,5R)-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物」と称する)は安価なPMDAを接触還元して得られ、大規模生産が可能であるため、現在入手可能な脂環式テトラカルボン酸二無水物の中で最も低コストで実用的である。
【0018】
H-PMDAは屈曲性の連結基であるエーテル結合を含む芳香族ジアミンと室温で重合反応させてポリイミド前駆体を得る場合、その固有粘度から推測される重合度は必ずしも高くはならないものの、透明で優れた靱性を有するポリイミドフィルムを与えることが知られている(例えば非特許文献8参照)。例えば下式(27)及び(28):
【化13】

で表されるポリイミドはその代表的なものであるが、これらのポリイミドフィルムは主鎖の非直線状構造に起因して、主鎖の面内配向が妨害されて低熱膨張特性を示さない。
【0019】
一方、低熱膨張化を期待して剛直で直線性の高い構造のジアミン例えば式(24)で表されるTFMBを用いた場合、重合度の低さに加え、ポリマー鎖同士の絡み合いに不利な剛直な主鎖構造の影響で、ポリイミドフィルムは非常に脆弱になり、製膜困難になる(例えば非特許文献8参照)。
【0020】
ジアミン成分として、低CTE化に有利な極めて剛直で直線性の高い構造を持ち、且つ極めて反応性が高いものが入手可能になれば、H-PMDAと組み合わせることで、低コストで実用的な低熱膨張性透明ポリイミドが得られる可能性があるが、そのようなジアミンは知られていない。
【0021】
H-PMDAとジアミンとの重合反応性を高めるために、重合反応を高温下で行うこと(「ワンポット重合」と称することがある)もしばしば有効である。この重合方法では、ポリイミド前駆体で止まることなく、イミド化反応も同時に進行して溶液中でポリイミドが生成する。もし、ワンポット重合により安定なポリイミドワニスが得られるならば、そのワニスを基板に塗布及び乾燥するだけで(すなわち、より高温の熱イミド化反応なしで)、ポリイミドフィルムを作製できるため、工程短縮の観点で大きなメリットがある。
【0022】
しかしながら、低CTE化に有利な剛直で直線状のジアミンを使用してワンポット重合を行うと、生成したポリイミドが溶解性を失い、しばしばゲル化や沈殿析出等、反応溶液が不均一になり、後工程すなわちポリイミドの単離、再溶解及び製膜して良質なフィルムを作製することはもはや不可となる。そのため、本目的に適合するジアミンは、ポリイミドフィルムのCTEをできるだけ下げるために剛直で直線状の構造であるのと同時に、生成したポリイミドの重合溶媒に対する溶解性も悪化させてはならないという制約があるため、現行の技術ではこれらの問題を解決することは容易ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Prog. Polym. Sci., 26, 259-335 (2001).
【非特許文献2】Eur. Polym. J., 49, 3657-3672 (2013).
【非特許文献3】Macromolecules, 29, 7897-7909 (1996).
【非特許文献4】High Perform. Polym., 19, 175-193 (2007).
【非特許文献5】High Perform. Polym., 15, 47-64 (2003).
【非特許文献6】Polymer, 74, 1-15 (2015).
【非特許文献7】J. Polym. Sci., Part A, 38, 108-116 (2000).
【非特許文献8】J. Polym. Sci., Part A, 51, 575-592 (2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、画像表示デバイスの軽量化や脆弱性改善に寄与し得る透明耐熱性樹脂材料を提供することを目的とする。
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、無色透明性、耐熱性(物理的耐熱性)、寸法安定性、熱安定性(化学的耐熱性)、機械的特性及び靱性に優れるフィルムの形成が可能であるポリイミド、並びに該ポリイミドを含むポリイミドワニス及びポリイミドフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、前記式(26)で表されるH-PMDAと、脂環構造及びアミド基あるいはイミド基を含有する新規なジアミンより得られるポリイミドが、画像表示装置のプラスチック基板材料に好適に用いられるための優れた特性すなわち、優れた溶液加工性、高い透明性、非常に高いガラス転移温度、比較的低い線熱膨張係数及び十分な膜靱性を同時に有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0026】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
<1> 下式(1):
【化14】

又は下式(2):
【化15】

で表されるジアミン。
<2> 下記一般式(3):
【化16】

で表される繰り返し単位を有し、式(3)中、2価の有機基Arが下式(4)~(7)のいずれか1つで表される構造単位であるポリイミド。
【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

<3> 上記<2>に記載のポリイミドが有機溶媒に溶解してなるワニス。
<4> 上記<2>に記載のポリイミドを含む耐熱性フィルム。
<5> ガラス転移温度が320℃以上であり、線熱膨張係数が40ppm/K以下であり、かつ波長400nmにおける光透過率が70%以上である、上記<4>に記載の耐熱性フィルム。
<6> 上記<4>又は<5>に記載の耐熱性フィルムを含む、画像表示装置用プラスチック基板。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、無色透明性、耐熱性(物理的耐熱性)、寸法安定性、熱安定性(化学的耐熱性)、機械的特性及び靱性に優れるフィルムを形成することができる。
本発明のジアミンは、テトラカルボン酸二無水物と従来にない極めて高い重合反応性を有し、且つ嵩高い置換基を有するため、H-PMDAと反応させた場合においても、反応溶液のゲル化や沈殿析出を抑制しながら十分高い分子量のポリイミドを得ることができる。また、本発明のポリイミドは既存の製膜工程に適合するため、容易に高品質なポリイミドを作製することができ、更に得られたポリイミドフィルムは、優れた特性すなわち高い透明性、高いガラス転移温度、低熱膨張係数及び十分な可撓性を有しているため、現行の画像表示装置に使用されているガラス基板の代わりに、本発明のポリイミドをプラスチック基板材料として適用することが可能となり、ディスプレイデバイスの軽量化及び柔軟化を実現するための有用な材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<ジアミン>
本発明のジアミンは、下式(1):
【化21】

又は下式(2):
【化22】

で表されるジアミンである。以下、式(1)で表されるジアミンを「AMB-mTOL」と称する場合があり、式(2)で表されるジアミンを「AB-MP-HPMDI」と称する場合がある。
以下に本発明のジアミンの製造方法の一例としてアミド化反応について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0029】
(式(1)で表されるジアミン「AMB-mTOL」の製造)
m-トリジンを溶媒に溶解し、セプタムキャップで密栓し、A液とする。次に3-メチル-4-ニトロベンゾイルクロリド(以下「3M4NBC」と称する)を同一溶媒に溶解し、これに適当量の塩基(脱酸剤)を添加し同様に密封してB液とする。A液を氷浴中で冷却し、撹拌子で撹拌しながら、A液にB液をシリンジにてゆっくり滴下し、数時間反応させ、続いて室温で12時間撹拌する。反応後、析出した沈殿物を濾別し、少量の反応溶媒で洗浄、続いて水で洗浄して副生成物である水溶性の塩酸塩を除去し、50~120℃の温度範囲で5~12時間真空乾燥してジニトロ体を得る。これを適当な溶媒から再結晶して精製してから、次の水素還元工程に用いることもできるが、上記洗浄及び乾燥工程のみで十分高純度のジニトロ体が得られるため、精製工程を省略してもよい。
得られたジニトロ体の末端ニトロ基の還元反応は、一例として以下のようにして行うことができる。まずジニトロ体を溶媒に溶解し、これに適当量のパラジウム/カーボン(Pd/C)触媒を添加する。この反応溶液を使用した溶媒の沸点以下の温度すなわち、水素雰囲気中、室温~150℃の範囲で一定温度に加熱しながら2~24時間反応させる。反応の終点は薄層クロマトグラフィーにより、上記ジニトロ体の完全な消失と新たなスポットが1つのみ出現することをもって確認することができる。反応終了後、触媒残渣を濾過して除去する。濾液は適宜エバポレータで濃縮してもよい。濃縮により沈殿が析出する場合は濾別して、少量の反応溶媒続いて水及びメタノールでよく洗浄し、最後に生成物の融点以下の温度すなわち50~120℃の温度範囲で5~12時間真空乾燥することで、式(1)で表されるジアミンを得ることができる。これをそのまま次の重合工程に用いてもよいが、適当な溶媒から再結晶して更に精製してもよい。
【0030】
(式(2)で表されるジアミン「AB-MP-HPMDI」の製造)
上記のAMB-mTOLの製造において、3M4NBCの代わりに、メチル置換基を含まない4-ニトロベンゾイルクロリド(以下「4-NBC」と称する)を使用し、これと下式(8)で表されるジアミンとを上記と同様な方法でアミド化反応させることでジニトロ体が得られ、続いて上記と同様な方法で接触還元を行ってニトロ基を還元することで、式(2)で表されるジアミンを得ることができる。
【0031】
【化23】
【0032】
上記式(8)で表されるジアミンは、一例として以下のようにして合成することができる。2-メトキシ-4-ニトロアニリン(以下「2MeO-4NA」と称する、Xmmol)をN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解する。この溶液にH-PMDA粉末(0.5Xmmol)を添加し、窒素雰囲気中、150~180℃で1~12時間還流する。反応後、反応溶液をエバポレータで濃縮するか、又はDMAcに混和する沈殿剤(貧溶媒)を添加して沈殿を析出させて沈殿物を濾別及び洗浄し、50~120℃の温度範囲で5~12時間真空乾燥してジニトロ体を得る。ジニトロ体は再結晶により精製してから次の水素還元工程に用いることもできるが、上記洗浄及び乾燥工程のみで十分高純度のジニトロ体が得られるため、精製工程を省略してもよい。ジニトロ体のニトロ基の還元は上記と同様な方法によって行うことができる。
【0033】
上記アミド化反応の際、酸クロリド(3M4NBC又は4-NBC)の仕込み量(mol)は、ジアミン(m-トリジン又は式(8)で表される化合物)の物質量(mol)の2倍(当量)でもよいが、収率を上げるために場合によっては2~5倍にしてもよい。
【0034】
また、アミド化反応の際に使用可能な溶媒としては反応原料が溶解すればよく、特に限定されないが、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸エチル等のエステル系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒、アセトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、ジメチルスルホオキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の塩素系溶媒、トルエン、キシレン等が挙げられる。またこれらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応原料の溶解性や除去のしやすさの観点から、THF、DMF及びDMAcから選ばれる少なくとも1種が好適に用いられる。
【0035】
アミド化反応の反応温度は、好ましくは-10~50℃、より好ましくは0~30℃である。反応温度が50℃以下であれば、副反応が起こりにくく、収率が低下するおそれがない。
【0036】
アミド化反応は、副反応の制御、沈殿の濾過工程を考慮して、溶質濃度が好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%の範囲で行われる。
【0037】
アミド化反応に用いる脱酸剤としては特に限定されず、ピリジン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルアニリン等の有機3級アミン類、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基を用いることができる。塩酸塩の除去のしやすさの観点からは、ピリジンが好適に用いられる。
【0038】
アミド化反応により生成した沈殿物は、ジニトロ体だけでなく、脱酸剤としてピリジンを使用した場合、水溶性のピリジン塩酸塩を含んでいる。ジニトロ体は水に不溶であるので、沈殿物を水でよく洗浄するだけで、塩酸塩を除去することができる。塩酸塩除去の完結は、洗液として1%硝酸銀水溶液を用いて、塩化銀の白色沈殿の生成の有無から容易に確認することができる。
【0039】
アミド化反応は公知の方法を適用でき、上述した塩基(酸受容剤)存在下、ジカルボン酸ジクロリドとアミンとの反応以外の方法を適用することができる。例えば、トランス-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(以下「t-CHDCA」と称する)と2MeO-4NAより、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(以下「DCC」と称する)、亜リン酸トリフェニル/ピリジン、ジフェニル(2,3-ジヒドロ-2-チオキソ-3-ベンゾオキサゾリル)ホスホネート/トリエチルアミン、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール/DCC、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール、N-ヒドロキシスクシンイミド/DCC等の縮合剤を用いて行うこともできる。
【0040】
上記ニトロ基のアミノ基への還元反応の方法は特に限定されず、公知の方法を適用できる。水素とPd/Cを用いる前述の方法の他にも、塩酸酸性中、スズ、亜鉛、鉄等の金属粉末を用いる接触還元法や塩化スズ二水和物のエタノール溶液を用いる方法も適用可能である。水素雰囲気中、Pd/Cを触媒として行う上記接触還元反応の際に使用可能な溶媒としてはジニトロ体が溶解すればよく、特に限定されないが、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸エチル等のエステル系溶媒、トルエン、キシレン等が挙げられる。またこれらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応原料の溶解性や除去のしやすさの観点からがDMF及びDMAc好適に用いられる。また、溶媒は生成物であるジアミンに対しても高い溶解性を持つことが好ましい。もし溶解性が著しく悪い場合、モノアミン体の段階で一部析出し、還元反応の完全な進行が妨げられる恐れがある。
【0041】
<ポリイミド>
本発明のポリイミドは、下記一般式(3):
【化24】

で表される繰り返し単位を有し、式(3)中、2価の有機基Arが下式(4)~(7)のいずれか1つで表される構造単位であるポリイミドである。すなわち、本発明のポリイミドは、H-PMDAに由来する構造単位を有し、かつ、下式(4)~(7)のいずれか1つで表される構造単位を有する。
【化25】

【化26】

【化27】

【化28】
【0042】
本発明のポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重合反応により得られる。
【0043】
(テトラカルボン酸二無水物)
テトラカルボン酸二無水物としては、H-PMDAが用いられる。
上記重合反応の際、ジアミンとの重合反応性及びポリイミドの要求特性を損なわない範囲で、H-PMDAと共に、H-PMDA以外の脂環式テトラカルボン酸二無水物を共重合成分として使用することができる。
その際に使用可能な脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えば(1S,2S,4R,5R)-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(以下「H’-PMDA」と称する)、(1R,2S,4S,5R)-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(以下、「H”-PMDA」と称する)、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物(以下「BTA」と称する)、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]ヘプタンテトラカルボン酸二無水物、5-(ジオキソテトラヒドロフリル-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-テトラリン-1,2-ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、3c-カルボキシメチルシクロペンタン-1r,2c,4c-トリカルボン酸1,4:2,3-二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
共重合成分としてこれらの脂環式テトラカルボン酸二無水物を使用する場合、その使用量は、H-PMDAを含めた脂環式テトラカルボン酸二無水物総量のうち、好ましくは1~70mol%、より好ましくは10~50mol%の範囲である。
【0044】
また、ジアミンとの重合反応性及びポリイミドの要求特性を損なわない範囲で、H-PMDAと共に、芳香族テトラカルボン酸二無水物を共重合成分として使用することができる。
その際に使用可能な芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えばピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタリックアンハイドライド、3,4’-オキシジフタリックアンハイドライド、3,3’-オキシジフタリックアンハイドライド、ハイドロキノン-ジフタリックアンハイドライド、4,4’-ビフェノール-ジフタリックアンハイドライド、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
共重合成分としてこれらの芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用する場合、その使用量は、H-PMDAも含めたテトラカルボン酸二無水物総量のうち、好ましくは1~30mol%、より好ましくは1~20mol%の範囲である。
【0045】
(ジアミン)
ジアミンとしては、上記式(4)~(7)のいずれか1つで表される構造単位を与える化合物が用いられる。
上記式(4)で表される構造単位を与える化合物は、AMB-mTOL(上記式(1)で表されるジアミン)である。
上記式(5)で表される構造単位を与える化合物は、AB-MP-HPMDI(上記式(2)で表されるジアミン)である。
上記式(6)で表される構造単位を与える化合物は、下式(9):
【化29】

で表されるジアミン(以下「AB-mTOL」と称する)である。AB-mTOLの製造方法は特に限定されないが、例えば後述の合成例1の方法で得ることができる。
上記式(7)で表される構造単位を与える化合物は、下式(10):
【化30】

で表されるジアミン(以下「AB-44ODA」と称する)である。AB-44ODAの製造方法は特に限定されないが、例えば後述の合成例2の方法で得ることができる。
【0046】
テトラカルボン酸二無水物との重合反応性及びポリイミドの要求特性を損なわない範囲で、上記式(4)~(7)のいずれか1つで表される構造単位を与える化合物と共に、脂肪族ジアミンを共重合成分として使用することができる。
その際に使用可能な脂肪族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3-メチルシクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3-エチルシクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジメチルシクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジエチルシクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス-1,4-シクロヘキサンジアミン、シス-1,4-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0]デカン、1,3-ジアミノアダマンタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-プロパンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、1,5-ペンタメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
共重合成分としてこれらの脂肪族ジアミンを使用する場合、その使用量は、上記式(4)~(7)のいずれか1つで表される構造単位を与える化合物を含めたジアミン総量のうち、好ましくは1~50mol%、より好ましくは5~30mol%の範囲である。
【0047】
また、テトラカルボン酸二無水物との重合反応性及びポリイミドの要求特性を損なわない範囲で、上記式(4)~(7)のいずれか1つで表される構造単位を与える化合物と共に、上記式(4)~(7)のいずれか1つで表される構造単位を与える化合物以外の芳香族ジアミンを共重合成分として使用することができる。
その際に使用可能な芳香族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えばp-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノキシレン、2,4-ジアミノデュレン、4,4’-メチレンジアニリン、4,4’-メチレンビス(3-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(3-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジメチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジエチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、o-トリジン、m-トリジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、p-ターフェニレンジアミン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレンジアニリン、4,4’-メチレンビス(3-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(3-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジメチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(3,5-ジエチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)等を例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
共重合成分としてこれらの芳香族ジアミンを使用する場合、その使用量は、ジアミン総量のうち、好ましくは1~50mol%、より好ましくは5~30mol%の範囲である。
【0048】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させる方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
例えば、窒素導入管、撹拌装置、ディーン・スタークトラップ及びコンデンサーを備えた反応容器中、ジアミン、共沸剤及びイミド化触媒を室温で重合溶媒に溶かしておき、撹拌しながらテトラカルボン酸二無水物粉末を添加し、150~250℃で0.5~12時間還流することでポリイミドワニスが得られる。ワニスの着色を抑制するという観点から、重合反応は窒素等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましいが、不活性ガスの導入を省略することもできる。
【0049】
上記重合反応の際、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の仕込比(モル比)は、ジアミンの総量1に対して、0.8~1.1とすることができるが、好ましくは0.9~1.1であり、より好ましくは0.95~1.05である。分子量ができるだけ高いものを得るという観点から、モノマーは実質的に等モルで仕込まれる。
【0050】
上記重合反応の際の初期モノマー(溶質)濃度は、好ましくは5~60質量%、より好ましくは10~50質量%である。この範囲のモノマー濃度で重合を開始すれば、ポリイミドの分子量を十分に挙げることができ、かつ、モノマー及び生成するポリイミドの溶解性を十分確保することができ、ゲル化や沈殿析出等の反応溶液の不均一化を抑制することができる。なお、ポリイミドの分子量が増加しすぎて反応溶液が撹拌しにくくなった場合は、適宜適量の同一溶媒で希釈することもできる。
【0051】
ポリイミドを重合する際に使用される溶媒は、原料モノマーと生成するポリイミドが十分に溶解し、かつ、イミド化反応完結の観点から沸点が150℃以上のものであれば、特に限定されない。例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン等の環状エステル溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール等のフェノール系溶媒、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒が使用可能である。これらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応原料の溶解性や沸点の観点から、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン及びγ-ブチロラクトンが好適に用いられる。
使用する溶媒は場合によっては低吸湿性であることが好ましい。低吸湿性溶媒用いることで、塗工の際、吸湿によりポリイミドが部分的に析出して塗膜が白化するリスクが低減することに加え、塗工時の湿度管理が不要になるなど低コスト化にも有利である。この観点から使用する溶媒としてγ-ブチロラクトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジグライム、トリグライム等が好適である。
【0052】
イミド化反応時に生ずる水を除去するために用いられる共沸剤としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、クメン、シクロヘキサン、酢酸エチル、ピリジン等が挙げられる。沸点や除去のしやすさの観点からトルエンやキシレンが好適に用いられる。
【0053】
上記重合反応の際、適宜イミド化触媒を使用することができる。使用可能なものとして例えば、1-エチルピペリジン、ピリジン、ビピリジン、ピコリン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、アクリジン、フェナジン、ベンズイミダゾール、ベンゾオキサゾール及びこれらの異性体、誘導体等の有機塩基の他、安息香酸及びその類似体等の有機酸が挙げられる。これらの塩基性触媒及び酸性触媒はそれぞれ単独に使用してもよく、併用することもできる。これらの触媒の添加量は特に制限はないが、理論脱水量1に対して、好ましくはモル比0.1~10倍量の範囲である。ただし、上記イミド化触媒はポリイミドワニスを着色し、結果としてポリイミドフィルムの透明性を悪化させる場合があるため、着色に注意しながら使用することが好ましい。
【0054】
重合反応により得られたポリイミドのイミド化反応の完結は、ポリイミドを粉末として単離したものを重水素化溶媒に溶解して1H-NMRスペクトルを測定し、ポリイミド前駆体由来のNHCOプロトンやCOOHプロトンの完全な消失より確認することができる。また、4~5μm厚のポリイミド薄膜を作製するか、ポリイミド粉末を用いてKBr法によりFT-IRスペクトルを測定して、例えばポリイミド前駆体由来のアミドC=O伸縮振動バンドの完全な消失とイミド特性吸収バンドの出現からもイミド化の完結を確認できる。
【0055】
(ポリイミドの物性)
本発明のポリイミドの固有粘度は、0.2~5dL/gの範囲であることが好ましく、0.5~2dL/gの範囲であることがより好ましい。固有粘度が0.2dL/g以上であれば、ポリイミドの分子量が十分高いためにポリマー鎖同士の絡み合いが十分であり、製膜時にひび割れ等が発生するのを抑制することができる。一方、固有粘度が5dL/g以下であれば、ワニスの粘度が適切であり、脱泡に長時間を要することなく、塗工時のハンドリングも良好である。
【0056】
本発明のポリイミドを用いることで、無色透明性、耐熱性(物理的耐熱性)、寸法安定性、熱安定性(化学的耐熱性)、機械的特性及び靱性に優れるフィルムを形成することができ、当該フィルムの有する好適な物性値は以下の通りである。
【0057】
波長400nmにおける光透過率(T400)は、厚さ約20μmのフィルムとした際に、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは80%以上である。この範囲であると、透明性に優れる。
全光線透過率(Ttot)は、厚さ約20μmのフィルムとした際に、好ましくは85%以上、より好ましくは86%以上、更に好ましくは87%以上である。この範囲であると、透明性に優れる。
黄色度(YI)は、厚さ約20μmのフィルムとした際に、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下、更に好ましくは3.0以下である。この範囲であると、無色透明性に優れる。
ヘイズは、厚さ約20μmのフィルムとした際に、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.8以下、更に好ましくは1.5以下である。この範囲であると、透明性に優れる。
【0058】
ガラス転移温度(Tg)は、好ましくは320℃以上、より好ましくは340℃以上、更に好ましくは360℃以上である。この範囲であると、ポリイミド基板を利用して液晶ディスプレイやOLEDディスプレイ等の画像表示装置を製造するに際して適した耐熱性(物理的耐熱性)を有する。
【0059】
線熱膨張係数(CTE)は、厚さ約20μmのフィルムとした際に、好ましくは40ppm/K以下、より好ましくは35ppm/K以下、更に好ましくは30ppm/K以下である。この範囲であると、寸法安定性に優れる。
【0060】
5%質量減少温度(Td 5)は、窒素中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリイミドフィルム(20μm厚)の質量が初期質量の5%減少した時の温度が、好ましくは400℃以上、より好ましくは420℃以上、更に好ましくは440℃以上である。また、空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリイミドフィルム(20μm厚)の質量が初期質量の5%減少した時の温度が、好ましくは400℃以上、より好ましくは410℃以上、更に好ましくは420℃以上である。この範囲であると、熱安定性(化学的耐熱性)に優れる。
【0061】
引張弾性率(E)は、好ましくは2.7GPa以上、より好ましくは3.0GPa以上、更に好ましくは3.2GPa以上である。
破断強度(σb)は、好ましくは0.08GPa以上、より好ましくは0.10GPa以上、更に好ましくは0.12GPa以上である。
破断伸び(εb)は、平均値(av)が、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上、更に好ましくは10%以上であり、最大値(max)が、好ましくは10%以上、より好ましくは12%以上、更に好ましくは15%以上である。
これらの範囲であると、フィルムの機械的特性に優れ、特に靱性に優れる。
【0062】
鉛筆硬度は、好ましくは4H以上、より好ましくは5H以上である。この範囲であると、硬度に優れる。
【0063】
なお、本発明における上述の物性値は、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
【0064】
<ポリイミドワニス>
本発明のポリイミドは、溶媒溶解性が十分に高いため、室温で安定な高固形分濃度のワニスとすることができる。本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミドが有機溶媒に溶解してなるものである。即ち、本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミド及び有機溶媒を含み、当該ポリイミドは当該有機溶媒に溶解している。有機溶媒はポリイミドが溶解するものであればよく、特に限定されないが、ポリイミドの製造に用いられる反応溶剤として上述した化合物を、単独又は2種以上を混合して用いることが好ましい。
本発明のポリイミドワニスは、重合法により得られるポリイミドが反応溶剤に溶解したポリイミド溶液そのものであってもよいし、又は当該ポリイミド溶液に対して更に希釈溶剤を追加したものであってもよい。
【0065】
ポリイミドワニスの製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。
上記のように一段階で得られたポリイミドワニスをそのまま用いるか又はこれを同一溶媒で適宜希釈してから大量の貧溶媒中にゆっくりと滴下して析出させ、濾過、洗浄及び乾燥して、ポリイミド粉末として単離することができる。その際に使用可能な貧溶媒としては、重合溶媒とよく混和し、ポリイミドを溶解しない溶媒であれば特に制限はないが、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール等が用いられる。これらを2種類以上混合して使用してもよい。得られたポリイミド粉末を5~40質量%の固形分濃度で溶媒に再溶解してポリイミドワニスとしてもよい。この際に使用可能な溶媒として、ポリイミドの重合反応の際に使用可能な前述の溶媒と同一なものが用いられる。ポリイミド粉末を溶媒に再溶解する際に、ワニスが著しく着色しない範囲であれば40~200℃で1分~24時間加熱しても差し支えない。
【0066】
ポリイミドフィルムの要求特性を損なわない範囲で、上記のようにして得られたポリイミドワニスに、無機フィラー、接着促進剤、剥離剤、難燃剤、紫外線安定剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光増白剤、架橋剤、重合開始剤、感光剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0067】
<耐熱性フィルム>
本発明の耐熱性フィルムは、本発明のポリイミドを含む。したがって、本発明のポリイミドフィルムは、無色透明性、耐熱性(物理的耐熱性)、寸法安定性、熱安定性(化学的耐熱性)、機械的特性及び靱性に優れる。本発明のフィルムが有する好適な物性値は上述の通りである。
本発明のポリイミドフィルムの製造方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、本発明の耐熱性フィルムは、上記の方法で得られたポリイミドワニスを基板上に塗布及び乾燥することで得ることができる。また必要に応じて更に高温で熱処理してもよい。
具体的には、ポリイミドのワニスをガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に塗布し、好ましくは40~220℃、より好ましくは60~200℃で、好ましくは10分~4時間、より好ましくは0.5~2時間乾燥する。続いて更に昇温し、好ましくは200~350℃、より好ましくは250~330℃で、好ましくは10分~2時間、より好ましくは0.5~1時間熱処理することでポリイミドフィルムが得られる。ポリイミドフィルムの着色を抑制するという観点からは、熱処理温度は350℃以下で行うことが好ましく、更に真空中又は窒素等の不活性ガス中で熱処理を行うことが好ましい。また、ポリイミドフィルム表面の平滑性及び低熱膨張特性の観点からは、上記乾燥及び熱処理工程は緩やかな昇温となるようにできるだけ多段階で行うことが好ましく、更に200℃を超える乾燥及び熱処理工程は真空中又は窒素等の不活性ガス中で行うことが好ましい。
【0068】
本発明のポリイミドフィルムは、カラーフィルタ、フレキシブルディスプレイ、半導体部品、光学部材等の各種部材用のフィルムとして好適に用いられる。本発明のポリイミドフィルムは、液晶ディスプレイやOLEDディスプレイ等の画像表示装置の基板として、特に好適に用いられる。
【0069】
本発明のポリイミドフィルムの厚さは、特に限定されず、使用目的に応じて適宜調節することができる。LCD、OLED、EP等の画像表示装置におけるガラス基板代替プラスチック基板材料として用いる場合、フィルム厚は20~100μmが好適な範囲であり、フレキシブル回路基板として用いる場合であれば、30~200μmが好適な範囲である。
【実施例0070】
[物性の評価]
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
【0071】
<赤外線吸収(FT-IR)スペクトル>
ジアミンの赤外線吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計「FT/IR-4100」(日本分光株式会社製)を用い、KBrプレート法で測定した。
【0072】
1H-NMRスペクトル>
ジアミンの1H-NMRスペクトルは、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)を溶媒として、NMR分光光度計「ECP400」(日本電子株式会社製)を用いて測定した。
【0073】
<示差走査熱量分析(融点及び融解曲線)>
ジアミンの融点及び融解曲線は、示差走査熱量分析装置「DSC3100」(ネッチ・ジャパン株式会社製)を用い、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定した。
【0074】
<固有粘度(ηinh)>
ポリイミドの還元粘度は、固形分濃度0.5質量%、30℃においてオストワルド粘度計を用いて測定した。この値は固有粘度と見なすことができ、この値が高い程分子量が高いことを表す。
【0075】
<透明性:光透過率、カットオフ波長、黄色度、ヘイズ>
ポリイミドフィルムの透明性は以下の光学特性から評価した。紫外-可視分光光度計「V-530」(日本分光株式会社製)を用いて波長200~800nmの範囲でポリイミドフィルム(約20μm厚)の光透過率曲線を測定し、波長400nmにおける光透過率(T400)及び光透過率が事実上ゼロとなる波長(カットオフ波長、λcut)を求めた。またこのスペクトルを基に、色彩計算プログラム(日本分光株式会社製)を用い、ASTM E313規格に基づいて黄色度(YI)を求めた。更に、ヘイズメーター「NDH4000」(日本電色工業株式会社製)を用い、JIS K7361-1及びJIS K7136規格に基づき、全光線透過率(Ttot)及び濁度(ヘイズ)を求めた。
【0076】
<ガラス転移温度(Tg)>
ポリイミドフィルム(約20μm厚)のガラス転移温度(Tg)は、熱機械分析装置「TMA4000」(ネッチ・ジャパン株式会社製)を用い、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失エネルギー曲線のピーク温度からを求めた。Tgが高いほど、物理的耐熱性が高いことを表す。
【0077】
<線熱膨張係数(CTE)>
ポリイミドフィルム(約20μm厚)のCTEは、熱機械分析装置「TMA4000」(ネッチ・ジャパン株式会社製)を用い、荷重0.5g/膜厚1μm当たり、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100~200℃の範囲での平均値として求めた。CTE値が0に近いほど寸法安定性に優れていることを表す。
【0078】
<引張弾性率、破断伸び、破断強度>
ポリイミドフィルム(約20μm厚)の機械的特性は、引張試験機「テンシロンUTM-2」(株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて評価した。試験片(30mm長×3mm幅×約20μm厚)を作製し、引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施して、応力-歪曲線の初期の初期勾配から引張弾性率(E)、破断点応力から破断強度(σb)、判断時の伸び率から破断伸び(εb)を求めた。破断伸びが高いほどフィルムの靭性が高いことを表す。
【0079】
<5%質量減少温度(Td 5)>
ポリイミドフィルム(約20μm厚)の5%質量減少温度(Td 5)は、熱重量分析装置「TG-DTA2000」(ネッチ・ジャパン株式会社製)を用いて、窒素中及び空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリイミドフィルム(20μm厚)の質量が、初期質量の5%減少した時の温度から求めた。Td 5値が高いほど化学的耐熱性(熱安定性)が高いことを表す。
【0080】
<鉛筆硬度>
ポリイミドフィルムの表面硬度は、鉛筆硬度試験器「BEVS 1301/750」(BEVS社製、鉛筆先端負荷荷重:750g)を用い、ASTM D3363規格に準じて、ガラス基板上に形成したポリイミドフィルムに対して鉛筆引っかき試験(三菱鉛筆Uni、鉛筆硬度範囲:6B~6H)を行い、フィルム表面の傷跡の有無から評価した。
【0081】
[ジアミンの合成]
以下に本発明のジアミンの製造方法を具体的に示すが、これら実施例に限定されるものではない。
【0082】
実施例1
<AMB-mTOLの合成>
上記式(1)で表される本発明のジアミン(AMB-mTOL)は以下のようにして合成した。
まず、反応容器中、m-トリジン(25mmol)をよく脱水したDMAc(20mL)に溶解し、これに脱酸剤としてピリジン6.0mLを加え、セプタムキャップで密封してA液とした。次に別の容器中、3-メチル-4-ニトロベンゾイルクロリド(3M4NBC、60mmol)を脱水DMAc(10mL)に溶解し、同様に密封してB液とした。B液を氷浴で冷やして撹拌しながら、これにA液をシリンジで徐々に滴下し、数時間撹拌した後、更に室温で24時間撹拌を続けた。析出した黄色沈殿物を濾別し、トルエンで洗浄して過剰な3M4NBCを除去し、次いで水で十分に洗浄して副生成物のピリジン塩酸塩を除去し、120℃で12時間真空乾燥し、収率85%で黄色粉末を得た。この生成物の分析結果を以下に示す。
融点(DSC):251℃。
FT-IRスペクトル(KBrプレート法、cm-1):3274(アミド基、N-H伸縮振動)、3103/3033(芳香族C-H伸縮振動)、2984/2929/2857(脂肪族C-H伸縮振動)、1651/1588(アミド基、C=O伸縮振動)、1523/1343(ニトロ基、N-O伸縮振動)。
1H-NMRスペクトル(400MHz,DMSO-d6,δ,ppm):10.48〔s、2H(実測積分強度:2.00)NHCO〕、8.13〔d、2H(1.98H)、J=8.4Hz、末端ニトロベンゼン(NB)の6,6’-プロトン)、8.06〔sd、2H(2.00H)、J=1.4Hz、NBの3,3’-プロトン〕、7.99〔dd、2H(1.95H)、J=8.4、1.6Hz、NBの5,5’-プロトン〕、7.73〔sd、2H(2.05H)、J=1.8Hz、中央ビフェニル(BP)の3,3’-プロトン〕、7.68〔dd、2H(2.02H)、J=8.3、2.0Hz、BPの5,5’-プロトン〕、7.09〔d、2H(2.06H)、J=8.2Hz、BPの6,6’-プロトン〕、2.61〔s、6H(5.97H)、NBの2,2’-CH3〕。2.05〔s、6H(6.01H)、BPの2,2’-CH3〕。
【0083】
上記の分析結果より、この生成物は目的とする下式(11):
【化31】

で表されるジニトロ体であることが同定された。
【0084】
上記のジニトロ体の還元は次のようにして行った。まずこのジニトロ体(11.283gをDMAc(30mL)に溶解し、触媒としてPd/C(1.204g)を加え、水素雰囲気中80℃で6時間還流した。還元反応の完了は薄層クロマトグラフィーにて確認した。反応溶液を室温まで冷却した後、Pd/Cの残渣を濾過して分離除去した。濾液を大量の飽和食塩水中に滴下して沈殿を析出させ、沈殿を濾別して水及び少量のメタノールで洗浄し、120℃で12時間真空乾燥し、収率87%で白色粉末を得た。この生成物の分析結果を以下に示す。
融点(DSC):210℃。
FT-IRスペクトル(KBrプレート法、cm-1):3442(アミノ基、N-H伸縮振動)、3350/3291(アミノ基+アミド基、N-H伸縮振動)、3026(芳香族C-H伸縮振動)、2917/2859(脂肪族C-H伸縮振動)、1625/1578(アミド基、C=O伸縮振動)、1500(1,4-フェニレン基)。
1H-NMRスペクトル(400MHz,DMSO-d6,δ,ppm):9.76〔s、2H(2.00H)、NHCO〕、7.70-7.62〔m、8H(8.07H)、末端アニリン(AN)の3,3’,5,5’-プロトン+中央BPの3,3’,5,5’-プロトン〕、7.01〔d、2H(1.99H)、J=8.3Hz、BPの6,6’-プロトン〕、6.66〔d、2H(1.98H)、J=8.3Hz、ANの6,6’-プロトン〕、5.53〔s、4H(3.99H)、NH2〕、2.13〔s、6H(6.07H)、BPの2,2’-CH3〕。2.02〔s、6H(5.89H)、ANの2,2’-CH3〕。
元素分析(分子量478.59):推定値(%)C;75.29、H;6.32、N;11.71、分析値C;74.67、H;6.46、N;11.55。
【0085】
上記の分析結果より、この生成物は目的とする上記式(1)で表される本発明のジアミン(AMB-mTOL)であることが同定された。
【0086】
実施例2
<AB-MP-HPMDIの合成>
上記式(2)で表される本発明のジアミン(AB-MP-HPMDI)は以下のようにして合成した。
まず出発原料として、下式(12):
【化32】

で表されるジニトロ体を次のようにして合成した。三口フラスコ中、2-メトキシ-4-ニトロアニリン(2MeO-4NA)11.271g(67mmol)をDMAc(30mL)に溶解し、この溶液にH-PMDA粉末6.763g(30mmol)を加え、窒素雰囲気中、180℃で5時間還流した。反応後、室温まで冷却し、反応溶液をエバポレータで濃縮した後、エタノール(200mL)を加えて沈殿を析出させた。沈殿を濾別し、エタノールで洗浄後、120℃で12時間真空乾燥し、収率53%で薄黄色粉末を得た。
FT-IRスペクトル(KBrプレート法、cm-1):3088/3006(芳香族C-H伸縮振動)、2953/2879(脂肪族C-H伸縮振動)、1777/1718(イミド基、C=O伸縮振動)、1527/1350(ニトロ基、N-O伸縮振動)、1390(イミド基、N-Ar伸縮振動)、1255/1194(エーテル基、C-O伸縮振動)。
【0087】
上記のジニトロ体の還元は実施例1に記載した方法と同様にしてDMAc中、Pd/Cの存在下、水素雰囲気中80℃で3.5時間還流して行った。還元反応の完了は薄層クロマトグラフィーにて確認した。収率92%で白色粉末が得られた。
FT-IRスペクトル(KBrプレート法、cm-1):3463/3370/3234(アミノ基、N-H伸縮振動)、2943/2874(脂肪族C-H伸縮振動)、1774/1709(イミド基、C=O伸縮振動)、1398(イミド基、N-Ar伸縮振動)、1254/1193(エーテル基、C-O伸縮振動)。
【0088】
上記のようにして得られた下式(8):
【化33】

で表されるジアミンと4-NBCより、実施例1に記載した方法と同様にして、DMF中でアミド化反応を行い、収率69%で下式(13):
【化34】

で表される薄黄色粉末の生成物を得た。
FT-IRスペクトル(KBrプレート法、cm-1):3344(アミド基、N-H伸縮振動)、3111/3078(芳香族C-H伸縮振動)、2942/2867(脂肪族C-H伸縮振動)、1775/1718(イミド基、C=O伸縮振動)、1685(アミド基、C=O伸縮振動)、1516/1347(ニトロ基、N-O伸縮振動)、1389(イミド基、N-Ar伸縮振動)、1200(エーテル基、C-O伸縮振動)。
【0089】
上記のジニトロ体の還元は、実施例1に記載した方法と同様にして、DMAc中、Pd/C存在下、水素雰囲気中80℃で3.5時間還流して行った。還元反応の完了は薄層クロマトグラフィーにて確認した。収率76%で白色粉末が得られた。この生成物の分析結果を以下に示す。
FT-IRスペクトル(KBrプレート法、cm-1):3451(アミノ基、N-H伸縮振動)、3358/3227(アミノ基+アミド基、N-H伸縮振動)、3137/3033(芳香族C-H伸縮振動)、2938/2875(脂肪族C-H伸縮振動)、1775/1711(イミド基、C=O伸縮振動)、1656(アミド基、C=O伸縮振動)、1390(イミド基、N-Ar伸縮振動)、1254/1202(エーテル基、C-O伸縮振動)。
1H-NMRスペクトル(400MHz,DMSO-d6,δ,ppm):9.91〔s、2H(2.00H)、NHCO〕、7.75-7.64〔m、6H(6.03H)、末端ANの3,3’,5,5’-プロトン+N-(2-メトキシフェニル基の6,6’-プロトン〕、7.48-7.40〔m、2H(1.98H)、N-(2-メトキシフェニル基の3,3’-プロトン〕、7.24-7.01〔m、2H(1.99H)、N-(2-メトキシフェニル基の5,5’-プロトン〕、6.62〔d、4H(4.01H)、J=10.8Hz、末端ANの2,2’,6,6’-プロトン〕、5.80〔s、4H(3.95H)、NH2〕、3.74〔s、6H(5.84H)、CH3〕、3.40-1.80〔m、8H、中央シクロヘキシル基〕。
【0090】
上記の分析結果より、この生成物は目的とする式(2)で表される本発明のジアミン(AB-MP-HPMDI)であることが同定された。
【0091】
合成例1
<AB-mTOLの合成>
上記式(9)で表されるジアミン(AB-mTOL)は、実施例1に記載した方法と同様にして、m-トリジンと4-NBCとのアミド化反応、次いでニトロ基の還元反応を行って合成した。この生成物の分析結果を以下に示す。
融点(DSC):295℃。
FT-IRスペクトル(KBrプレート法、cm-1):3458(アミノ基、N-H伸縮振動)、3376/3305(アミノ基+アミド基、N-H伸縮振動)、3037(芳香族C-H伸縮振動)、2917(脂肪族C-H伸縮振動)、1650/1530(アミド基、C=O伸縮振動)、1508(1,4-フェニレン基)。
1H-NMRスペクトル(400MHz,DMSO-d6,δ,ppm):9.75〔s、2H(2.00H)、NHCO〕、7.74〔d、4H(4.03H)、J=8.6Hz、末端ANの3,3’,5,5’-プロトン〕、7.69〔sd、2H(1.93H)、J=1.9Hz、中央BPの3,3’-プロトン〕、7.61〔dd、2H(1.99H)、J=8.3、2.0Hz、中央BPの5,5’-プロトン〕、7.00〔d、2H(1.96H)、J=8.2Hz、BPの6,6’-プロトン〕、6.61〔d、4H(4.02H)、J=8.6Hz、末端ANの2,2’,6,6’-プロトン〕、5.75〔s、4H(4.10H)、NH2〕、2.01〔s、6H(6.03H)、CH3〕。
元素分析(分子量450.54):推定値(%)C;74.65、H;5.82、N;12.44、分析値C;74.44、H;5.99、N;12.38。
【0092】
上記の分析結果より、この生成物は目的とする式(9)で表されるジアミン(AB-mTOL)であることが同定された。
【0093】
合成例2
<AB-44ODAの合成>
上記式(10)で表されるジアミン(AB-44ODA)は、実施例1に記載した方法と同様にして、4,4’-オキシジアニリンと4-NBCとのアミド化反応、次いでニトロ基の還元反応を行って合成した。この生成物の分析結果を以下に示す。
融点(DSC):282℃。
FT-IRスペクトル(KBrプレート法、cm-1):3409(アミノ基、N-H伸縮振動)、3375/3322/3221(アミノ基+アミド基、N-H伸縮振動)、3036(芳香族C-H伸縮振動)、1658/1572(アミド基、C=O伸縮振動)、1509(1,4-フェニレン基)、1257(エーテル基、C-O伸縮振動)。
1H-NMRスペクトル(400MHz,DMSO-d6,δ,ppm):9.78〔s、2H(2.00H)、NHCO〕、7.76-7.71〔m、8H(8.04H)、末端ANの3,3’,5,5’-プロトン+中央ビフェニルエーテル(BE)基の3,3’,5,5’-プロトン〕、6.97〔d、4H(3.92H)、J=9.1Hz、中央BEの2,2’,6,6’-プロトン〕、6.61〔d、4H(4.08H)、J=8.6Hz、末端ANの2,2’,6,6’-プロトン〕、5.75〔s、4H(4.02H)、NH2〕。
元素分析(分子量438.49):推定値(%)C;71.22、H;5.06、N;12.78、分析値C;71.21、H;5.16、N;12.64。
【0094】
上記の分析結果より、この生成物は目的とする式(10)で表されるジアミン(AB-44ODA)であることが同定された。
【0095】
<重合、製膜及びポリイミドフィルムの特性評価>
実施例3
実施例1で得た前記式(1)で表される本発明のジアミン(5mmol)をセパラブルフラスコに入れ、モレキュラーシーブス4Aで十分に脱水したγ-ブチロラクトン(GBL)を加えて溶解した。この際、溶媒は全溶質濃度が40質量%になるように計算して加えた。このジアミン溶液に触媒として1-エチルピペリジン(1-EPD、10mmol)及び安息香酸(10mmol)を加え、次いでH-PMDA(三菱ガス化学株式会社製)粉末(5mmol)を添加し、撹拌しながら200℃まで昇温し、窒素雰囲気中4時間攪拌して均一で粘稠なポリイミドワニス(溶液)を得た。このポリイミドワニスを同一の溶媒で適度に希釈後、大量の貧溶媒(メタノール)にゆっくり滴下して白色、繊維状のポリイミドを析出させ、濾別及び洗浄後、120℃で12時間真空乾燥を行ってポリイミド粉末を得た。これを純粋なGBLに再溶解して固形分濃度10質量%の均一なポリイミドワニスとした。GBL中、30℃、0.5質量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリイミドの還元粘度は3.82dL/gであった。
このポリイミドワニスをガラス基板に塗布し、熱風乾燥器中80℃で2時間乾燥後、真空中150℃で30分、200℃で30分、250℃で1時間段階的に加熱した。残留応力を除去するためにこのフィルムを基板から剥がして更に真空中3250℃で1時間熱処理を行い、膜厚約20μmの透明で柔軟なポリイミドフィルムを得た。
【0096】
表1に膜物性を示す。動的粘弾性測定より、このポリイミドフィルムは367℃の非常に高いTgを有していた。また線熱膨張係数は24.3ppm/Kであり、低熱膨張特性も示した。これは実施例1に記載の本発明のジアミンを使用したためである。また5%質量減少温度(Td 5)は窒素中で448℃、空気中で428℃であり、熱安定性も良好であった。また、波長400nmにおける光透過率は80.3%、黄色度2.8、ヘイズ1.79%であり、高い透明性を有していた。更に機械的特性を評価したところ、引張弾性率が5.46GPaと高弾性率を示し、破断伸びは最大で13%であり可撓性を有していた。また、高い鉛筆硬度を有していた。その他の特性も併せて表1に示す。
【0097】
実施例4
上記式(1)で表されるジアミンの代わりに、実施例2で得た前記式(2)で表される本発明のジアミンを使用し、触媒として1-EPDを単独で用いた以外は実施例3に記載した方法と同様にして重合し、製膜を行って物性評価した。表1に膜物性を示す。このポリイミドフィルムは比較的低いCTEを示し、高い透明性と耐熱性も保持していた。これは実施例2に記載の本発明のジアミンを使用したためである。
【0098】
実施例5
上記式(1)で表されるジアミンの代わりに、合成例1で得た前記式(9)で表されるジアミン(AB-mTOL)を使用し、触媒として1-EPDを単独で用いた以外は実施例3に記載した方法と同様にして重合し、製膜を行って物性評価した。表1に膜物性を示す。このポリイミドフィルムは比較的低いCTEを示し、高い透明性と耐熱性も保持していた。これは、H-PMDAとAB-mTOLを組み合わせることで、初めて発現した効果である。
【0099】
実施例6
上記式(1)で表されるジアミンの代わりに、合成例2で得た前記式(10)で表されるジアミン(AB-44ODA)を使用し、触媒として1-EPDを単独で用いた以外は実施例3に記載した方法と同様にして重合し、製膜を行って物性評価した。表1に膜物性を示す。このポリイミドフィルムは比較的低いCTEを示し、高い透明性と耐熱性も保持していた。これは、H-PMDAとAB-44ODAを組み合わせて初めて発現した効果である。
【0100】
比較例1
上記式(1)で表されるジアミンの代わりに、4,4’-オキシジアニリン(4,4’-ODA)を使用し、触媒として1-EPDを単独で用いた以外は実施例3に記載した方法と同様にして重合し、製膜を行って物性評価した。表1に膜物性を示す。このポリイミドフィルムのCTEは46.6ppm/Kであり、低熱膨張特性を示さなかった。これはジアミンの分子構造中に、精密に分子設計された構造単位を含んでいないためである。
【0101】
比較例2
上記式(1)で表されるジアミンの代わりに、m-トリジンを使用し、触媒として1-EPDを単独で用いた以外は実施例3に記載した方法と同様にして重合し、製膜を行って物性評価した。表1に膜物性を示す。このポリイミドフィルムの非常に高いTgを有していたが、CTEは57.5ppm/Kであり、低熱膨張特性を示さなかった。これはm-トリジンの分子構造中に、精密に分子設計された構造単位を含んでいないためである。
【0102】
比較例3
上記式(1)で表されるジアミンの代わりに、4,4’-ジアミノベンズアニリド(DABA)を使用し、触媒として1-EPDを単独で用いた以外は実施例3に記載した方法と同様にして重合を行った。しかしながら重合反応中に析出物が生じ、均一なワニスが得られなかった。これは、DABAの分子構造中に、精密に分子設計された構造単位を含んでおらず、生成したポリイミドの溶解性が不十分であるためである。
【0103】
【表1】