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  • 特開-石英ガラスるつぼ 図1
  • 特開-石英ガラスるつぼ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016453
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】石英ガラスるつぼ
(51)【国際特許分類】
   C03B 20/00 20060101AFI20230126BHJP
   C30B 15/10 20060101ALI20230126BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
C03B20/00 H
C30B15/10
C30B29/06 502B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120775
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】石原 裕
(72)【発明者】
【氏名】馬場 裕二
(72)【発明者】
【氏名】上田 哲司
(72)【発明者】
【氏名】横澤 裕也
【テーマコード(参考)】
4G014
4G077
【Fターム(参考)】
4G014AH00
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EG02
4G077HA12
4G077PD01
(57)【要約】
【課題】 内層の表層における気泡の発生が全面で良好に抑制されている石英ガラスるつぼを提供する。
【解決手段】 底部、湾曲部及び直胴部からなる石英ガラスるつぼであって、気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層と、透明石英ガラスからなる内層とを有し、前記石英ガラスるつぼに対して紫外線を励起光として照射したときに、前記石英ガラスるつぼの前記外層と前記内層の境界領域において青色蛍光を生じ、前記青色蛍光が、前記石英ガラスるつぼの前記底部、前記湾曲部及び前記直胴部の全体において生じるものである石英ガラスるつぼ。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部、湾曲部及び直胴部からなる石英ガラスるつぼであって、
気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層と、透明石英ガラスからなる内層とを有し、
前記石英ガラスるつぼに対して紫外線を励起光として照射したときに、前記石英ガラスるつぼの前記外層と前記内層の境界領域において青色蛍光を生じ、
前記青色蛍光が、前記石英ガラスるつぼの前記底部、前記湾曲部及び前記直胴部の全体において生じるものであることを特徴とする石英ガラスるつぼ。
【請求項2】
前記外層が天然石英ガラスを含み、
前記内層が合成石英ガラスを含み、
前記青色蛍光は、前記天然石英ガラスが前記合成石英ガラスと接触する領域において発生するものであることを特徴とする請求項1に記載の石英ガラスるつぼ。
【請求項3】
前記内層が、水素ドープ石英ガラス、又は、水蒸気導入石英ガラスを含むものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の石英ガラスるつぼ。
【請求項4】
前記青色蛍光が波長395nm付近にピークを有する蛍光であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の石英ガラスるつぼ。
【請求項5】
前記照射する紫外線が波長254nm付近にピークを有する紫外線であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の石英ガラスるつぼ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスるつぼに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶(シリコン単結晶インゴット)の製造においては、いわゆるチョクラルスキー法(CZ法)が広く用いられている。このCZ法は、石英ガラスるつぼ内にシリコン融液を収容し、該シリコン融液の表面に種結晶を接触させ、石英ガラスるつぼを回転させるとともに、種結晶を反対方向に回転させながら上方へ引上げることにより、種結晶の下端にシリコン単結晶を育成していくものである。
【0003】
この石英ガラスるつぼは、以下のようなアーク回転溶融法と呼ばれる方法で製造されることが一般的である。まず、回転するモールド内に原料粉として二酸化珪素粉(シリカ粉、石英粉)を供給して、遠心力によりるつぼ形状の成型体に成型する。その後、アーク火炎により該成型体を内側から加熱溶融して半透明石英ガラス製るつぼ基体(外層)を形成する(基体形成工程)。さらに、該るつぼ基体の形成中又は形成後に、該るつぼ基体内の加熱雰囲気内に新たに二酸化珪素粉を供給し、るつぼ基体内面側に透明石英ガラス製内層を形成する(内層形成工程)。透明石英ガラスからなる内層を石英粉を散布しながら加熱することにより形成する方法は散布法とも呼ばれる。
【0004】
また、石英ガラスるつぼの外層は天然の二酸化珪素粉を用いて形成され、内層は合成された二酸化珪素粉を用いて形成されることが多い。
【0005】
ところで、石英ガラスるつぼの中に収容したシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる際、減圧、高温下等の状況下において、石英ガラスるつぼ内層に気泡があると膨張してシリコン融液に放出されることがあるが、その気泡や放出の際に生じた剥離片がシリコン単結晶に取り込まれることでシリコン単結晶の結晶性を低下させることが問題となっていた。このような問題に対処するため、石英ガラスるつぼの製造において、石英ガラスるつぼの内層に水素をドープすることが知られている。このような水素ドープにより、気泡の発生を抑制する効果がある。例えば、特許文献1には、石英原料粉をモールド内に供給してるつぼ形状を有するシリカ粉成型体を形成し、このシリカ粉成型体をアーク放電により加熱溶融してシリカガラスるつぼを得る製造方法において、アーク放電による加熱溶融の際に、シリカ粉成型体の内表面に水素ガスを供給することが記載されている。また、特許文献2には、アーク回転溶融法で製造された石英ガラスるつぼを、水素又は水素含有雰囲気中で、加熱保持することが記載されている。
【0006】
また、石英ガラスるつぼへの水素ドープの方法として、原料粉に水素をドープすることにより行うことも知られている(特許文献3、4)。このような水素ドープシリカ粉(合成石英粉であることが多い)は、上記の散布法を用いて、石英ガラスるつぼの内層である透明シリカガラス層の形成に用いられる。
【0007】
また、石英ガラスるつぼの製造においては、石英ガラスるつぼに水蒸気を導入することも知られている(特許文献5)。特許文献5には、このような水蒸気の導入によっても、石英ガラスるつぼ内表面近傍の泡膨張を抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014-65622号公報
【特許文献2】特開平05-208838号公報
【特許文献3】特開2003-335513号公報
【特許文献4】特開2017-031007号公報
【特許文献5】特開2001-348240号公報
【特許文献6】特開2013-014518号公報
【特許文献7】特開2018-35029号公報
【特許文献8】特開2006-89301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、典型的な石英ガラスるつぼは、気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層と、透明石英ガラスからなる内層からなる。しかしながら、透明石英ガラスからなる内層(透明層)の透明度は完璧ではなく、少なからず泡が内包されている。この泡を抑制するため、上記で例示したような先行技術文献が出されている。特に、石英ガラスるつぼの製造のための溶融中に行われる「散布法」において、特許文献3、4に記載されたような水素ドープシリカ粉を用いる事で、泡の少ない透明層(合成石英ガラス原料粉から形成される合成透明層)が形成される。ただし、散布法により形成された透明石英ガラス層(内層)では、水素ドープが十分に意図した箇所にされていない(すなわち、位置により水素ドープの状態にばらつきがある)場合があった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、内層の表層における気泡の発生が全面で良好に抑制されている石英ガラスるつぼを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、底部、湾曲部及び直胴部からなる石英ガラスるつぼであって、気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層と、透明石英ガラスからなる内層とを有し、前記石英ガラスるつぼに対して紫外線を励起光として照射したときに、前記石英ガラスるつぼの前記外層と前記内層の境界領域において青色蛍光を生じ、前記青色蛍光が、前記石英ガラスるつぼの前記底部、前記湾曲部及び前記直胴部の全体において生じるものであることを特徴とする石英ガラスるつぼを提供する。
【0012】
このような石英ガラスるつぼであれば、内層の表層における気泡の発生が全面で良好に抑制されている石英ガラスるつぼとすることができる。
【0013】
この場合、本発明の石英ガラスるつぼでは、前記外層が天然石英ガラスを含み、前記内層が合成石英ガラスを含み、前記青色蛍光は、前記天然石英ガラスが前記合成石英ガラスと接触する領域において発生するものとすることができる。
【0014】
本発明の全面青色蛍光は、このような天然石英ガラスを含む外層、合成石英ガラスを含む内層の構造を有する石英ガラスるつぼにおいても満たすことができる。本発明は、このような構造を有する石英ガラスるつぼにおいて、内層の表層における気泡の発生が全面で良好に抑制されている石英ガラスるつぼを提供することができる。
【0015】
また、本発明の石英ガラスるつぼでは、前記内層が、水素ドープ石英ガラス、又は、水蒸気導入石英ガラスを含むものとすることができる。
【0016】
このように、本発明の全面青色蛍光は、水素ドープ石英ガラス、又は、水蒸気導入石英ガラスを含む内層を有する石英ガラスるつぼにおいて特に好適に満たすことができる。水素ドープ石英ガラスや水蒸気導入石英ガラスは気泡発生を抑制するために用いられるが、本発明のように全面青色蛍光が観察される石英ガラスるつぼであれば、より確実に内層の表層における気泡の発生が全面で良好に抑制されている石英ガラスるつぼとすることができる。
【0017】
また、本発明の石英ガラスるつぼでは、前記青色蛍光が波長395nm付近にピークを有する蛍光とすることができる。
【0018】
また、本発明の石英ガラスるつぼでは、前記照射する紫外線を波長254nm付近にピークを有する紫外線とすることができる。
【0019】
このように、本発明の石英ガラスるつぼにおける青色蛍光は、波長254nm付近にピークを有する紫外線によって、波長395nm付近にピークを有する蛍光として生じる青色蛍光を検出することによって、判別することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の石英ガラスるつぼは、全面で青色蛍光が観察されることにより、内層の表層における気泡の発生が全面で良好に抑制されている石英ガラスるつぼとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一般的な石英ガラスるつぼの部位を示す概略断面図である。
図2】石英ガラスるつぼの青色蛍光の検出方法の概略を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
前述のように、従来、石英ガラスるつぼの内層において、水素ドープが十分にされていない場合、気泡膨張抑制効果が十分得られないことがあった。特に、石英ガラスるつぼの部位によって水素ドープの状態にばらつきがある場合があった。すなわち、石英ガラスるつぼの内層に内包される泡状態は一様ではなかった。また、本発明者らの研究によると、泡が内包されやすい部位があることがわかっていた。石英ガラスるつぼの各部位におけるその評価は、過去の実績からの推測により、切り出し加工、及び真空熱処理を行うことによって実施していた。例えば、特許文献6に記載された「VBT」によって、1650℃、2時間、10分保持、2×10-2Pa以下の条件で評価を行っていた。この合成透明層に内包される泡が何によって左右されているのか、これまで判明していなかった。
【0023】
本発明者らの調査によると、水素ドープシリカ粉から作製された内層(合成透明層であることが多い)が含有する「水素」は、外層(天然石英粉から作製された天然泡層であることが多い)に拡散しており、外層に多く存在している酸素と結合する事で泡が若干少ない天然層が薄く形成される(以下、「天然透明層」とする)。この天然透明層は酸素欠乏型欠陥を持ち、254nmの紫外線を照射すると天然透明層で青色蛍光が発せられる。
【0024】
本発明者らが研究を行う中で、石英ガラスるつぼには青色蛍光を発する部分と発しない部分があることに気付いた。そして、この青色蛍光を発する部分と発しない部分でVBTを行うと、蛍光を発する部分では合成透明層の表層における泡抑制が優れていることを発見した。
【0025】
本発明者らの調査によると、水素ドープが十分にされていない箇所は以下のメカニズムにより生じると考えられる。散布法を用いて、原料粉として水素ドープシリカ粉を散布し、石英ガラスるつぼ基体に付着させた場合、直接原料粉が付着して形成された部分と、溶融中の慣性により形成された部分(例えば、原料粉が付着した後にガラス状態で移動したりした部分)が存在する。この慣性により形成された部分は水素濃度が低下しており、十分な泡抑制効果が得られないことがわかった。
【0026】
この問題を解決するため、本発明者らは、石英ガラスるつぼ製造の原料粉として水素ドープシリカ粉を用いた場合に、石英ガラスるつぼ外層に発生する酸素欠乏欠陥に着目した。水素ドープシリカ粉を用いることで、水素が石英ガラスるつぼ内層(透明シリカガラス層)から外層(不透明シリカガラス層)に拡散し、外層中の泡の主要因であるシリカ中および溶融雰囲気から取り込まれる酸素と水素が結び付く事による酸素欠乏欠陥が生じる。その酸素欠乏欠陥の存在により紫外線を照射することで蛍光(青色蛍光)が生じ、石英ガラスるつぼの外層における酸素欠乏欠陥の状態を把握でき、ひいては、水素ドープの状態を把握できる。なお、ここで、青色蛍光が生じる、つまり、酸素欠乏欠陥が生じる部位は、内層と外層の境界部分のうち、外層側の浅い部分である。必ずしも外層の厚さ方向全体において青色蛍光が生じるわけではない。これらの知見に基づいて、本発明者らは、本発明に想到した。
【0027】
以下、本発明をより具体的に説明する。本発明の石英ガラスるつぼは、底部、湾曲部及び直胴部からなる石英ガラスるつぼであって、気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層と、透明石英ガラスからなる内層とを有し、前記石英ガラスるつぼに対して紫外線を励起光として照射したときに、前記石英ガラスるつぼの前記外層と前記内層の境界領域において青色蛍光を生じ、前記青色蛍光が、前記石英ガラスるつぼの前記底部、前記湾曲部及び前記直胴部の全体において生じるものであることを特徴とする石英ガラスるつぼである。
【0028】
まず、図1を参照して、本発明の石英ガラスるつぼの部位を説明する。図1の石英ガラスるつぼ10は、気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層21と、透明石英ガラスからなる内層22とを有する。また、図1に示したように、石英ガラスるつぼ10のるつぼ形状は、典型的には、底部12、湾曲部13、直胴部14からなる。底部12の中心には底中心11があり、底部12は大R部、湾曲部13は小R部とも呼ばれる。
【0029】
本発明の石英ガラスるつぼ10は、上記のように、紫外線を励起光として照射したときに、石英ガラスるつぼ10の外層21と内層22の境界領域において青色蛍光を生じるものであり、当該青色蛍光が、石英ガラスるつぼ10の底部12、湾曲部13及び直胴部14の全体において生じるものである。このような石英ガラスるつぼ10は、内層22の表層における気泡の発生が全面で良好に抑制されている石英ガラスるつぼとなる。
【0030】
本発明の石英ガラスるつぼ10は、外層21が天然石英ガラスを含み、内層22が合成石英ガラスを含むものとすることができる。このような構造を有する石英ガラスるつぼは、特にシリコン単結晶引き上げ用として一般的である。さらに、このような構造を有する石英ガラスるつぼ10では、青色蛍光は、一般に、天然石英ガラスが合成石英ガラスと接触する領域において発生する。
【0031】
さらに、本発明の石英ガラスるつぼ10は、内層22が、水素ドープ石英ガラス、又は、水蒸気導入石英ガラスを含むものであることが好ましい。本発明の全面青色蛍光は、水素ドープ石英ガラス、又は、水蒸気導入石英ガラスを含む内層を有する石英ガラスるつぼにおいて特に好適に満たすことができる。水素ドープ石英ガラスや水蒸気導入石英ガラスは気泡発生を抑制するために用いられるが、本発明のように全面青色蛍光が観察される石英ガラスるつぼであれば、より確実に内層の表層における気泡の発生が全面で良好に抑制されている石英ガラスるつぼとすることができる。
【0032】
[青色蛍光の検出方法]
本発明の石英ガラスるつぼにおいて、青色蛍光の検出は例えば以下のようにして行う。まず、図2の工程S1に示したように、石英ガラスるつぼを準備する。
【0033】
次に、図2の工程S2に示したように、石英ガラスるつぼに紫外線を励起光として照射する。次に、図2の工程S3に示したように、紫外線を照射した石英ガラスるつぼから発する青色蛍光の検出を行う。ここで照射する紫外線を波長254nm付近にピークを有する紫外線とすることが好ましい。また、その場合、検出する青色蛍光は波長395nm付近にピークを有する蛍光となる。波長254nm付近の紫外線は、水銀ランプから容易に得ることができる。このように、石英ガラスるつぼの青色蛍光の検出では、波長254nm付近にピークを有する紫外線によって、波長395nm付近にピークを有する蛍光として生じる青色蛍光を検出することで、不透明石英ガラスからなる外層における酸素欠乏欠陥の状態をより容易に評価することができる。なお、シリカガラスにおいて、波長395nm付近にピークを有する蛍光は、酸素欠乏欠陥(B2β)によることが知られている。また、波長395nm付近の蛍光とは、波長394~396nmにピークが存在することが多いが、測定装置によっても多少前後し、390nm~400nm付近にピークが存在することもある。
【0034】
工程S2、S3の操作によって青色蛍光が生じる場合、酸素欠乏欠陥が存在することを意味する。青色蛍光が生じない場合は酸素欠乏欠陥が存在しないかその密度が低いことを意味する。
【0035】
このような青色蛍光の検出方法は、石英ガラスるつぼを非破壊で容易に評価可能である。なお、上記のように、青色蛍光が生じる、つまり、酸素欠乏欠陥が生じる部位は、典型的には、内層22と外層21の境界部分のうち、外層21側の浅い部分である。例えば、外層21用の原料シリカ粉として天然石英粉を用い、内層22用の原料シリカ粉として合成石英粉を用いた場合、外層21は天然石英ガラス層となる。このとき、外層21(天然石英ガラス層)の酸素と、水素ドープや水蒸気の導入によって導入された水素が結合することで、泡が少なく酸素欠乏欠陥を有する天然透明層が生じる。この天然透明層が青色蛍光を発生させることになる。必ずしも外層21の厚さ方向全体において青色蛍光が生じるわけではない。
【0036】
また、青色蛍光は目視で確認可能である。具体的には、暗室で石英ガラスるつぼに紫外線を照射し、青色蛍光の発生を確認することができる。また、石英ガラスるつぼ外層の青色蛍光の分布も目視で確認することができる。
【0037】
また、青色蛍光の検出においては、数値に基づいて定量的に青色蛍光が検出されたと定義して行うこともできる。具体的には、以下の通りである。紫外線を励起光として照射したとき発生する青色蛍光のピーク強度(ピーク高さ)をピーク強度Aとして測定する。また、紫外線を照射した結果生じるレイリー散乱光のピーク強度(ピーク高さ)をピーク強度Bとして測定する。ここで、上記のAとBが、下記式(1)を満たす場合に青色蛍光が検出されたと定義することができる。
(A/B)×1000≧20 ・・・式(1)
【0038】
このようにして目視に頼らず青色蛍光の検出を行うこともできる。上記式(1)とした理由は以下の通りである。
【0039】
特許文献7、8には、石英ガラスるつぼの過剰酸素欠陥を検出するため、赤色蛍光を測定することが記載されている。赤色蛍光の場合、励起光として波長514nmのArレーザーを用いてラマン散乱光および蛍光を測定する。
【0040】
青色蛍光の場合、励起光に254nmの紫外線を用い、その蛍光波長は395nmとなるため、赤色蛍光と同じ測定方法を取ることはできない。蛍光強度は励起光強度により左右されるため、これらの比を以て規格化することが好ましい。規格化するには励起光強度を知る必要があるが、励起光強度は装置によって異なったり、経年劣化を伴うため、一定ではない。そのため、励起光により生じる同じ波長であるレイリー散乱光を基準として採用する。なお、レイリー散乱光は原理的には入射光と同じ波長であるが、測定装置によっても多少前後し、253nm~256nm付近にピークが存在することが多い。
【0041】
ただし、上記のように、レイリー散乱光を基準として採用しても、受光部には測定に不要な励起光の正反射光が混じってしまうことがある。そのため、紫外線の照射角度を、石英ガラスるつぼの内表面に対して垂直方向からずらした角度とするとともに、青色蛍光の検出を、紫外線の正反射光からずらした角度で行うことが好ましい。例えば、励起光の入射角が60度になるように石英ガラスるつぼの照射面を傾けて、分光蛍光強度計で測定を行うことができる。
【0042】
本発明の青色蛍光の検出と気泡密度の関係について、実験例を例示して説明する。
【0043】
[実験例1-1~1-8]
図1に示した通常の石英ガラスるつぼ10を、内層22用の原料粉として水素ドープした合成石英粉(特許文献3に記載された水素ドープ合成石英粉)を用いて製造した。この製造した石英ガラスるつぼ10の複数の各部位からサンプルを切り出した(実験例1-1~1-8)。
【0044】
(青色蛍光の測定)
各サンプルに対して波長254nm付近にピークを有する紫外線を照射し、波長395nm付近にピークを有する青色蛍光の検出を行った。その結果、青色蛍光の検出されたサンプルを実験例1-1~1-4、検出されなかったサンプルを実験例1-5~1-8とした。
【0045】
(気泡密度の測定)
上記の青色蛍光の測定を行った後、実験例1-1~1-8の石英ガラスるつぼ10の各サンプルについて、特許文献6の評価法に基づいて、VBT後の気泡密度を測定した。各サンプルに対して、真空度2×10-2Pa以下とし、1650℃で2時間10分保持することにより気泡を発生させた。その後、各サンプルの表面に露出した気泡の密度を目視で確認した。
【0046】
実験例1-1~1-8の結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1からわかるように、蛍光の具合に応じて内表面の露出気泡密度に差が見られた。すなわち、青色蛍光の検出がされた部分は、VBT後の気泡密度が大幅に抑制されていることがわかる。
【0049】
さらに、溶融実験を繰り返すと、その部分では散布した水素ドープシリカ粉が直接当該部分に供給されることが大事なことが推定された。つまり、散布した水素ドープシリカ粉が直接付着せず、重力で下方に流動したり、遠心力により周方向に流動したりした事で形成された合成透明層では水素の効果が消失しており、その下層にある天然透明層は蛍光を発しないと仮定すると、説明がつく。この仮説に基づき、石英ガラスるつぼの溶融中に、水素ドープシリカ粉を供給するための原料粉供給口を底部から直胴部に向かって移動させながら、水素ドープシリカ粉を供給した。それにより、全内面領域に水素ドープシリカ粉を直接付着させて水素を供給する事ができ、石英ガラスるつぼ全面の天然透明薄層で青色蛍光を発する石英ガラスるつぼが得られた。このようにして得られた石英ガラスるつぼの各部の合成透明層を評価すると、その泡抑制が優れている事が判った。同じ石英ガラスるつぼをシリコン単結晶の引き上げに使用したところ、シリコン単結晶引上げ成績(DF率)が向上した。このように、繰り返し溶融実験を行う事で、全面で青色蛍光を有する石英ガラスるつぼの溶融作製に成功した。このことを実験例2-1~2-8を参照して説明する。
【0050】
[実験例2-1]
実験例1-1~1-8と同様の方法で、ただし製造条件を変更して、図1に示した通常の石英ガラスるつぼ10を、内層22用の原料粉として水素ドープした合成石英粉を用いて製造した(実験例2-1)。
【0051】
(サンプル作製)
作製したそれぞれの石英ガラスるつぼ10について、底中心11から直胴部14にかけて100mmごとに約4cm×約8cmのサンプルを切り出した。このうち、底中心11からの距離0mm(底中心)は底中心11を含む部位である。底中心11からの距離が100mm、200mm、300mmは底部12(すなわち、大R部)に位置する。底中心11からの距離が400mmは湾曲部13(すなわち、小R部)に位置する。底中心11からの距離が500mm、600mm、700mmは直胴部14に位置する。そのうち、底中心11からの距離が500mmは直胴部14の下部付近に位置する。
【0052】
(青色蛍光の測定)
各サンプルに対して波長254nm付近にピークを有する紫外線を照射し、波長395nm付近にピークを有する青色蛍光の発生の有無を目視で確認した。
【0053】
(気泡密度の測定)
上記の青色蛍光の測定を行った後、実験例2-1の石英ガラスるつぼ10の各サンプルについて、特許文献6の評価法に基づいて、VBT後の気泡密度を測定した。各サンプルに対して、真空度2×10-2Pa以下とし、1650℃で2時間10分保持することにより気泡を発生させた。その後、各サンプルの表面に露出した気泡の密度を目視で確認した。
【0054】
[実験例2-2~2-8]
実験例1-1~1-8、実験例2-1と同様の方法で、ただし製造条件を変更して、図1に示した通常の石英ガラスるつぼ10を、内層22用の原料粉として水素ドープした合成石英粉を用いて作製した(実験例2-2~2-8)。
【0055】
実験例2-2~2-8で作製した石英ガラスるつぼ10に対して、サンプル作製、青色蛍光の測定、気泡密度の測定を実験例2-1と同様に行った。
【0056】
実験例2-2、2-3では、実験例2-1と同様に、全てのサンプルで青色蛍光が観察でき、全面で蛍光が検出された。また、VBT後気泡発生試験では、全てのサンプルにおいて気泡が抑制されていた。
【0057】
一方、実験例2-4~2-8では、一部でのみ青色蛍光が検出され、一部は青色蛍光が検出されなかった。
【0058】
実験例2-1~2-8の結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
これを単位面積(1cm)のVBT後の内表面に露出した気泡密度に換算すると表3の通りとなる。
【0061】
【表3】
【0062】
表2、3からわかるように、製造条件によっては、石英ガラスるつぼ10の全面で青色蛍光が検出されるようにできる。このような製造条件は、溶融実験を繰り返し、青色蛍光の検出を行って検証することにより、容易に設定することができる。製造条件としては、例えば、溶融雰囲気における気体の循環位置を変更したり、原料石英粉の供給位置を変更したりするなどである。
【実施例0063】
以下に、本発明の実施例をあげてさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0064】
[比較例]
青色蛍光と透明層の関係を発見していない時期の石英ガラスるつぼについて、底部、湾曲部及び直胴部の全体で青色蛍光を発する石英ガラスるつぼを調査したところ、その製造割合は0%だった。
【0065】
[実施例]
散布法を行う際、アーク放電で生じる気流を調整しつつ、内径16mm以下の合成石英製の原料粉供給管を用いて、石英ガラスるつぼの底部から直胴部に向かって、水素ドープシリカ粉を200g/min以上の割合で供給し、石英ガラスるつぼの全内面領域に合成透明層が1mm以上の厚さになるように溶融した。その石英ガラスるつぼの青色蛍光の発光状態を確認し、発光が無い、または発光が弱い部分に水素ドープシリカ粉が付着するように原料粉供給管の位置を調整し溶融した。このように石英ガラスるつぼ全面で青色蛍光が観察できるまで繰り返し溶融実験と条件調整を行い、全面青色蛍光を持つ石英ガラスるつぼの製造条件を設定した。この製造条件で石英ガラスるつぼを製造した結果、全面青色蛍光を発する石英ガラスるつぼの製造割合を93.8%(61個/65個)に上昇させ、安定的な供給が可能となった。
【0066】
【表4】
【0067】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0068】
10…石英ガラスるつぼ、
11…底中心、 12…底部、 13…湾曲部、 14…直胴部、
21…外層、 22…内層。
図1
図2