(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164555
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】細胞の分析方法、深層学習アルゴリズムの訓練方法、細胞分析装置、深層学習アルゴリズムの訓練装置、細胞の分析プログラム及び深層学習アルゴリズムの訓練プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20231102BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/483 C
G01N33/483 E
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023147139
(22)【出願日】2023-09-11
(62)【分割の表示】P 2019055385の分割
【原出願日】2019-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 考伸
(72)【発明者】
【氏名】田中 政道
(72)【発明者】
【氏名】朝田 祥一郎
(57)【要約】
【課題】
従来のスキャッタグラムでは判定できなかった細胞の種別を判定する。
【解決手段】
生体試料に含まれる細胞をニューラルネットワーク構造の深層学習アルゴリズムを用いて分析する細胞分析方法であって、流路に、前記細胞を流し、前記流路内を通過する個々の細胞に関する信号強度を取得し、取得された個々の細胞に関する信号強度に対応する数値データを深層学習アルゴリズムに入力し、深層学習アルゴリズムから出力された結果に基づいて、信号強度を取得した細胞の種別を細胞毎に判定する、ことを含む、前記細胞分析方法により、課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料に含まれる細胞をニューラルネットワーク構造の深層学習アルゴリズムを用いて分析する細胞分析方法であって、
電圧がかけられている流路に、前記細胞を流し、
前記流路内を通過する個々の細胞に関する電気信号強度を取得し、取得した個々の細胞に関する前記電気信号強度に対応する数値データを前記深層学習アルゴリズムに入力し、
前記深層学習アルゴリズムから出力された結果に基づいて、前記電気信号強度を取得した細胞の種別を細胞毎に判定する、
ことを含む、前記細胞分析方法。
【請求項2】
前記電気信号強度は、前記流路内の所定位置を通過する個々の細胞から、前記細胞毎に、前記細胞が前記所定位置を通過している間の複数の時点において取得され、
取得された前記電気信号強度は、信号強度を取得した時点に関する情報と対応付けて記憶される、
請求項1に記載の細胞分析方法。
【請求項3】
前記複数の時点における前記電気信号強度の取得が、前記個々の細胞における前記電気信号強度が所定の値に達した時点から開始され、前記電気信号強度の取得開始から所定時間後に終了する、
請求項2に記載の細胞分析方法。
【請求項4】
前記電気信号が、電気抵抗値に関する信号である、請求項1から3のいずれかに記載の分析方法。
【請求項5】
前記細胞が、シース液に包まれながら前記流路を通過する、請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞分析方法。
【請求項6】
前記深層学習アルゴリズムに入力される前記数値データは、波形データである、請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞分析方法。
【請求項7】
前記深層学習アルゴリズムが、前記深層学習アルゴリズムの出力層に紐付けられた複数の細胞の種別に、前記電気信号強度を取得した細胞が属する確率を細胞毎に算出する、請求項1から6に記載の細胞分析方法。
【請求項8】
深層学習アルゴリズムが、前記電気信号強度を取得した細胞が属する確率が最も高い細胞の種別のラベル値を出力する、請求項7に記載の細胞分析方法。
【請求項9】
前記電気信号強度を取得した細胞が属する確率が最も高い細胞の種別のラベル値に基づいて、複数の細胞の種別についてそれぞれに属する細胞数をカウントし、その結果を出力する、又は
前記電気信号強度を取得した細胞が属する確率が最も高い細胞の種別のラベル値に基づいて、複数の細胞の種別それぞれに属する細胞の割合を算出し、その結果を出力する、請求項8に記載の細胞分析方法。
【請求項10】
生体試料が、血液試料である、請求項1から9のいずれか一項に記載の細胞分析方法。
【請求項11】
細胞の種別が、少なくとも赤血球又は血小板を含む、請求項10に記載の細胞分析方法。
【請求項12】
ニューラルネットワーク構造を有する深層学習アルゴリズムを用いて、生体試料に含まれる細胞の種別を細胞毎に判定する細胞分析装置であって、
前記細胞分析装置は処理部を備え、
前記処理部は、
前記細胞が電圧がかけられている流路内を通過する際に、個々の細胞に関する電気信号強度を取得し、
取得された個々の細胞に関する前記電気信号強度に対応する数値データを前記深層学習アルゴリズムに入力し、
前記深層学習アルゴリズムから出力された結果に基づいて、前記電気信号強度を取得した細胞の種別を細胞毎に判定する、
前記細胞分析装置。
【請求項13】
さらに、前記細胞が前記流路内を通過する際に、個々の細胞に関する電気信号強度を取得する測定ユニットを備える、請求項12に記載の細胞分析装置。
【請求項14】
前記測定ユニットは、前記流路を有するシースフロー電気抵抗方式検出部を備える、請求項13に記載の細胞分析装置。
【請求項15】
生体試料に含まれる細胞をニューラルネットワーク構造の深層学習アルゴリズムを用いて分析するためのコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータプログラムは、処理部に、
電圧がかけられている流路に、前記細胞を流し、前記流路内を通過する個々の細胞に関する電気信号強度を取得するステップと、
取得された個々の細胞に関する前記電気信号強度に対応する数値データを前記深層学習アルゴリズムに入力するステップと、
前記深層学習アルゴリズムから出力された結果に基づいて、前記電気信号強度を取得した細胞の種別を細胞毎に判定するステップと、
を備える処理を実行させる、前記コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、細胞の分析方法、深層学習アルゴリズムの訓練方法、細胞分析装置、深層学習アルゴリズムの訓練装置、細胞の分析プログラム及び深層学習アルゴリズムの訓練プログラムが開示される。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、末梢血中に含まれる血球等の細胞の種別を分析する細胞分析装置が開示されている。このような細胞分析装置では、例えばフローセル内を流れる末梢血中の細胞に光を照射し、光が照射された細胞から得られる散乱光や蛍光の信号強度を取得する。複数の細胞から取得した信号強度のピーク値をそれぞれ抜き出し、スキャッタグラム上に展開する。スキャッタグラム上の複数の細胞をクラスター分析し、各クラスターに属する細胞の種別を特定している。
【0003】
特許文献2には、イメージングフローサイトメータにより細胞の種別を分類する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63-180836号公報
【特許文献2】国際公開第2018/203568号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、スキャッタグラムに基づいて細胞の種別を特定しようとする場合、例えば、芽球やリンパ腫細胞など健常人の末梢血中には通常出現しない細胞が検体中に存在していた場合、クラスター分析において、正常な細胞として分類されることがある。
【0006】
また、クラスター分析は統計的な解析手法であるため、スキャッタグラムに展開された細胞数が少ない場合、クラスター分析が困難になる場合がある。
【0007】
さらに、特許文献2に記載の方法では、より正確な細胞の種別の判定を行うため、フローセル内を流れる細胞を撮像したり、構造昭明を照射する方法を採用している。このため、従来スキャッタグラムを取得していた検出系を使用できないという課題がある。
【0008】
本発明の一実施形態は、同一クラスター内に出現する異なる種別の細胞についても判定できるようさらに精度を向上させることを課題とする。また、本発明の一実施形態は、従来スキャッタグラムを測定していた測定装置に応用可能な細胞の種別の判定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
図4を参照し、本実施形態のある実施形態は、生体試料に含まれる細胞をニューラルネットワーク構造の深層学習アルゴリズム(60)を用いて分析する細胞分析方法に関する。細胞分析方法は、流路に、細胞を流し、流路内を通過する個々の細胞に関する信号強度を取得し、取得した個々の細胞に関する信号強度に対応する数値データを深層学習アルゴリズム(60)に入力し、深層学習アルゴリズム(60)から出力された結果に基づいて
、信号強度を取得した細胞の種別を細胞毎に判定する、ことを含む。本実施形態によれば、従来の細胞分析装置では判定できない細胞の種別を判定できる。
【0010】
細胞分析方法において、好ましくは、信号強度は、流路内の所定位置を通過する個々の細胞から、細胞毎に、細胞が所定位置を通過している間の複数の時点において取得され、取得された信号強度は、信号強度を取得した時点に関する情報と対応付けて記憶する。このような実施形態とすることにより、従来の細胞分析装置では判定できない細胞の種別を判定できる。また、信号強度を取得した時点に関する情報を取得することにより、1つの細胞から複数の信号を受信した場合にデータを同期させることができる。
【0011】
細胞分析方法において、好ましくは、複数の時点における信号強度の取得が、個々の細胞における信号強度が所定の値に達した時点から開始され、信号強度の取得開始から所定時間後に終了する。このような実施形態とすることにより、より正確な判定を行うことができる。また、取得するデータの容量を減少させることができる。
【0012】
細胞分析方法において、好ましくは、信号は、光信号、又は電気信号である。
【0013】
より好ましくは光信号が、フローセルを通過する個々の細胞に光が照射されることで得られる信号である。また所定位置は、フローセル(4113、551)内で細胞に光が照射される位置である。さらに好ましくは、光が、レーザ光であり、光信号が、散乱光信号、及び蛍光信号から選択される少なくとも一種である。さらにより好ましくは、光信号が、側方散乱光信号、前方散乱光信号、及び蛍光信号である。このような実施形態とすることにより、フローサイトメータにおける細胞の種別の判定精度を向上させることができる。
【0014】
細胞分析方法において、深層学習アルゴリズム(60)に入力される信号強度に対応する数値データは、細胞毎に同時点で取得した側方散乱光信号、前方散乱光信号、及び蛍光信号の信号強度を組み合わせた情報を含む。このような実施形態とすることで、深層学習アルゴリズムによる判定精度をより向上させることができる。
【0015】
分析方法において、信号が電気信号であるとき、測定部がシースフロー電気抵抗方式検出部を備える。このような実施形態とすることで、シースフロー電気抵抗方式で測定されたデータに基づいて細胞の種別を判定することができる。
【0016】
細胞分析方法において、深層学習アルゴリズム(60)が、深層学習アルゴリズム(60)の出力層(60b)に紐付けられた複数の細胞の種別に、信号強度を取得した細胞が属する確率を細胞毎に算出する。好ましくは、深層学習アルゴリズム(60)が、信号強度を取得した細胞が属する確率が最も高い細胞の種別のラベル値82を出力する。このような実施形態とすることにより、判定結果をユーザに提示することができる。
【0017】
細胞分析方法において、信号強度を取得した細胞が属する確率が最も高い細胞の種別のラベル値に基づいて、複数の細胞の種別についてそれぞれに属する細胞数をカウントし、その結果を出力する。又は、信号強度を取得した細胞が属する確率が最も高い細胞の種別のラベル値に基づいて、複数の細胞の種別それぞれに属する細胞の割合を算出し、その結果を出力する。このような実施形態とすることで、生体試料に含まれる細胞の種別の割合を求めることができる。
【0018】
細胞分析方法において、生体試料は、好ましくは血液試料である。より好ましくは、細胞の種別が、好中球、リンパ球、単球、好酸球、及び好塩基球からなる群から選択される少なくとも一種を含む。さらに好ましくは、細胞の種別が、下記(a)及び(b)よりな
る群から選択される少なくとも一種を含む。ここで、(a)は幼若顆粒球であり、(b)は腫瘍細胞、リンパ芽球、形質細胞、異型リンパ球、前赤芽球、好塩基性赤芽球、多染性赤芽球、正染性赤芽球、前巨赤芽球、好塩基性巨赤芽球、多染性巨赤芽球、及び正染性巨赤芽球から選択される有核赤血球、及び巨核球よりなる群から選択される少なくとも一種の異常細胞である。このような実施形態とすることで、血液試料に含まれる幼若顆粒球、及び異常細胞について、種別を判定することが可能となる。
【0019】
また、細胞分析方法において、生体試料が血液試料であり、細胞の種別が、異常細胞を含む場合、深層学習アルゴリズム(60)によって、異常細胞と判定された細胞があった場合、処理部(20)は、生体試料中に異常細胞が含まれることを出力してもよい。
【0020】
細胞分析方法において、生体試料は、尿であってもよい。このような実施形態とすることにより、尿に含まれる細胞についても判定が可能となる。
【0021】
本実施形態のある実施形態は、生体試料に含まれる細胞の分析方法に関する。細胞の分析方法では、流路に、前記細胞を流し、前記流路内の所定位置を通過する個々の細胞から、前記細胞毎に、前記細胞が前記所定位置を通過している間の複数の時点において、散乱光及び蛍光に関する信号強度を取得し、取得した個々の細胞に関する複数の時点における信号強度をパターンとして認識した結果に基づいて細胞の種別を細胞毎に判定する。本実施形態によれば、従来の細胞分析装置では判定できない細胞の種別を判定できる。
【0022】
本実施形態のある実施形態は、生体試料中の細胞を分析するためのニューラルネットワーク構造の深層学習アルゴリズム(50)を訓練する方法に関する。細胞を個別に検出可能な測定部内の細胞検出用の流路に生体試料に含まれる細胞を流し、流路内を通過する個々の細胞に関し取得された信号強度に対応する数値データを、第1の訓練データとして深層学習アルゴリズムの入力層に入力し、信号強度を取得した細胞に対応する細胞の種別の情報を、第2の訓練データとして深層学習アルゴリズムに入力する。本実施形態によれば、従来の細胞分析装置では判定できない個々の細胞の種別を判定するための深層学習アルゴリズムを生成することができる。
【0023】
本実施形態のニューラルネットワーク構造を有する深層学習アルゴリズム(60)を用いて、細胞の種別を細胞毎に判定する細胞分析装置(4000、4000’)に関する。細胞分析装置(4000、4000’)は処理部(20)を備え、処理部(20)は、細胞を個別に検出可能な測定部の細胞検出用の流路に流された、生体試料に含まれる細胞が流路内を通過する際に、個々の細胞に関する信号強度を取得し、取得された個々の細胞に関する信号強度に対応する数値データを深層学習アルゴリズムに入力(60)し、深層学習アルゴリズムから出力された結果に基づいて、信号強度を取得した細胞の種別を細胞毎に判定する。本実施形態によれば、従来の細胞分析装置では判定できない細胞の種別を判定できる。
【0024】
さらに、細胞分析装置(4000、4000’)は、細胞を個別に検出可能な測定部の細胞検出用の流路に流された、生体試料に含まれる細胞が流路内を通過する際に、個々の細胞に関する信号強度を取得する測定部(400)を備える。本実施形態によれば、測定部を備えた細胞分析装置により、従来の細胞分析装置では判定できない細胞の種別を判定できる。
【0025】
本実施形態のある実施形態は、生体試料中の細胞を分析するためのニューラルネットワーク構造の深層学習アルゴリズム(50)を訓練する訓練装置(100)に関する。訓練装置は、処理部(100)を備え、処理部(10)は、細胞を個別に検出可能な測定部内の細胞検出用の流路に生体試料に含まれる細胞を流し、流路内を通過する個々の細胞に関
し取得された信号強度に対応する数値データを、第1の訓練データとして深層学習アルゴリズムの入力層に入力し、信号強度を取得した細胞に対応する細胞種別の情報を、第2の訓練データとして深層学習アルゴリズムに入力する。本実施形態によれば、従来の細胞分析装置では判定できない細胞の種別を判定するための深層学習アルゴリズムを生成することができる。
【0026】
本実施形態のある実施形態は、生体試料に含まれる細胞をニューラルネットワーク構造の深層学習アルゴリズム(60)を用いて分析するためのコンピュータプログラムに関する。コンピュータプログラムは、処理部(20)に、細胞を個別に検出可能な測定部内の細胞検出用の流路に、生体試料に含まれる細胞を流し、流路内を通過する個々の細胞に関する信号強度を取得するステップと、取得された個々の細胞に関する信号強度に対応する数値データを深層学習アルゴリズムに入力するステップと、深層学習アルゴリズムから出力された結果に基づいて、信号強度を取得した細胞の種別を細胞毎に判定するステップと、を備える処理を実行させる。本実施形態によれば、測定部を備えた細胞分析装置により、従来の細胞分析装置では判定できない細胞の種別を判定できる。
【0027】
本実施形態のある実施形態は、生体試料中の細胞を分析するためのニューラルネットワーク構造の深層学習アルゴリズム(50)を訓練するためのコンピュータプログラムに関する。コンピュータプログラムは、処理部(10)に、細胞を個別に検出可能な測定部内の細胞検出用の流路に生体試料に含まれる細胞を流し、流路内を通過する個々の細胞に関し取得された信号強度に対応する数値データを、第1の訓練データとして深層学習アルゴリズムの入力層に入力するステップと、信号強度を取得した細胞に対応する細胞種別の情報を、第2の訓練データとして深層学習アルゴリズムに入力するステップと、を備える処理を実行させる。本実施形態によれば、従来の細胞分析装置では判定できない細胞の種別を判定するための深層学習アルゴリズムを生成することができる。
【発明の効果】
【0028】
従来の細胞分析法では判定できない細胞の種別を判定することができる。このため、細胞の判定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】(a)健常者血液のスキャッタグラムの例を示す。(b)非健常血液のスキャッタグラムの例を示す。(c)従来のスキャッタグラムにおける表示例を示す。(d)波形データの例を示す。(f)深層学習アルゴリズムの模式図を示す。(g)細胞の判定例を示す。
【
図7】フローサイトメータの光学系の概略の例を示す。
【
図8】測定ユニットの試料調製部の概略の例を示す。
【
図9】(a)赤血球/血小板検出部の概略の例を示す。(b)シースフロー電気抵抗方式により検出された細胞のヒストグラムを示す。
【
図11】フローサイトメータの光学系の概略の例を示す。
【
図12】測定ユニットの試料調製部の概略の例を示す。
【
図13】波形データ分析システムの概略の例を示す。
【
図16】ベンダ側装置の機能ブロック図の例を示す。
【
図17】訓練データを生成するため処理部の動作のフローチャート例を示す。
【
図18】ニューラルネットワークを説明するための模式図を示す。(a)は、ニューラルネットワークの概要を示す模式図を示す。(b)は、各ノードにおける演算を示す模式図を示す。(c)は、ノード間の演算を示す模式図を示す。
【
図19】ユーザ側装置の機能ブロック図の例を示す。
【
図20】分析用データを生成するため処理部の動作のフローチャート例を示す。
【
図21】波形データ分析システムの概略の例を示す。
【
図22】波形データ分析システムの機能ブロック図を示す。
【
図23】波形データ分析システムの概略の例を示す。
【
図24】波形データ分析システムの機能ブロック図を示す。
【
図26】参照法による判定結果と深層学習アルゴリズムを用いた判定結果との混合マトリックスを示す。
【
図27】(a)は好中球のROC曲線を示す。(b)はリンパ球のROC曲線を示す。(c)は単球のROC曲線を示す。
【
図28】(a)は好酸球のROC曲線を示す。(b)は好塩基球のROC曲線を示す。(c)はコントロール血液(CONT)のROC曲線のROC曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の概要及び実施の形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面において、同じ符号は同じ又は類似の構成要素を示すこととし、よって、同じ又は類似の構成要素に関する説明を省略する。
【0031】
[1.細胞の分析方法]
本実施形態は、生体試料に含まれる細胞を分析する細胞の分析方法に関する。分析方法は、個々の細胞に関する信号強度に対応する数値データを、ニューラルネットワーク構造を有する深層学習アルゴリズムに入力する。そして、深層学習アルゴリズムから出力された結果に基づいて、信号強度を取得した細胞の種別を細胞毎に判定する。
【0032】
図1を用いて、本実施形態の概要の例を説明する。
図1において(a)は、健常血液を生体試料として、生体試料に含まれる個々の細胞の蛍光及び散乱光の信号強度をフローサイトメータで測定し、その結果をスキャッタグラムで示したものである。横軸は側方散乱光、縦軸は側方蛍光の信号強度を示す。また、(b)は、(a)と同様に、非健常血液を生体試料として、生体試料に含まれる個々の細胞の側方蛍光及び側方散乱光の信号強度をフローサイトメータで測定し、その結果をスキャッタグラムで示したものである。(a)及び(b)で表される図は、従来のフローサイトメータを使用した白血球分類に使用されている。しかし、一般的に血液内に非健常血球細胞が含まれる場合、健常血球細胞と混在するため、(c)に示すように、健常血球細胞のドットと非健常血球細胞のドットが重なることがあった。
【0033】
本実施形態においては、スキャッタグラムを作成する際に1つの細胞から取得される個々の細胞に由来する信号強度を示すデータに着目した。
図1(d)において、FSCは前方散乱光の信号強度を示すデータを示し、SSCは側方散乱光の波形データを示し、SFLで示される図は側方蛍光の信号強度を示すデータを示す。ここで、
図1(d)は便宜上描画した波形として示しているが、本実施形態において、波形で示されるデータは、信号強度を取得した時間を示す値とその時点における信号強度を示す値を要素とするデータ群を意図し、描画した波形の形状そのものを意図するものではない。なお、データ群は数列データあるいは行列データを指す。
図1(d)において、個々の細胞が所定位置を通過する際に信号強度の取得が開始され、所定時間後に測定が開始される。
【0034】
本実施形態では、細胞の種別毎の波形データを
図1(f)に示す深層学習アルゴリズム50、60に学習させ、学習させた深層学習アルゴリズムから出力される結果に基づいて、生体試料に含まれる個々の細胞種別の判定結果(
図1(g))を導くものである。以下、細胞の種別を判定する目的で分析に供される生体試料中の個々の細胞を「分析対象の細胞」ともいう。言い換えると、生体試料は、複数個の分析対象の細胞を含みうる。複数個の細胞は、分析対象となる複数種の細胞を含みうる。
【0035】
生体試料として、被検者から採取された生体試料を挙げることができる。例えば、生体試料は、例えば、末梢血、静脈血、動脈血等の血液、尿、血液及び尿以外の体液を含み得る。血液及び尿以外の体液として、骨髄、腹水、胸水、髄液等を含みうる。以下、血液及び尿以外の体液を単に「体液」という場合がある。血液試料は、細胞数の計数及び細胞の種別の判定ができる状態である限り、制限されない。血液は、好ましくは末梢血である。例えば、血液は、エチレンジアミン四酢酸塩ナトリウム塩又はカリウム塩)、ヘパリンナトリウム等の抗凝固剤を使用して採血された末梢血を挙げることができる。末梢血は、動脈から採取されても静脈から採取されてもよい。
【0036】
本実施形態において判定しようとする細胞の種別は、形態学的な分類に基づく細胞の種別を基準とするものであり、生体試料の種類に応じて異なる。生体試料が血液である場合であって、血液が健常者から採血されたものである場合、本実施形態において判定しようとする細胞の種別には、赤血球、白血球等の有核細胞、血小板等が含まれる。有核細胞には、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球が含まれる。好中球には、分葉核好中球及び桿状核好中球が含まれる。一方、血液が非健常者から採血されたものである場合、有核細胞には、幼若顆粒球及び異常細胞からなる群から選択される少なくとも一種が含まれる場合がある。このような細胞も本実施形態において判定しようとする細胞の種別に含まれる。幼若顆粒球には、後骨髄球、骨髄球、前骨髄球、骨髄芽球等の細胞が含まれ得る。
【0037】
また、有核細胞には、正常細胞の他、健常人の末梢血には含まれない異常細胞が含まれていてもよい。異常細胞の例は、所定の疾患に罹患した際に出現する細胞であり、例えば腫瘍細胞等である。造血系の場合、所定の疾患は、骨髄異型性症候群、急性骨髄芽球性白血病、急性骨髄芽球性白血病、急性前骨髄球性白血病、急性骨髄単球性白血病、急性単球性白血病、赤白血病、急性巨核芽球性白血病、急性骨髄性白血病、急性リンパ球性白血病、リンパ芽球性白血病、慢性骨髄性白血病、又は慢性リンパ球性白血病等の白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫等の悪性リンパ腫、及び多発性骨髄腫よりなる群から選択される疾患であり得る。
【0038】
さらに、異常細胞には、リンパ芽球、形質細胞、異型リンパ球、反応性リンパ球、前赤芽球、好塩基性赤芽球、多染性赤芽球、正染性赤芽球、前巨赤芽球、好塩基性巨赤芽球、多染性巨赤芽球、及び正染性巨赤芽球等の有核赤血球である赤芽球、及びミクロメガカリオサイトを含む巨核球等の健常人の末梢血では通常認められない細胞が含まれ得る。
【0039】
また、生体試料が尿である場合、本実施形態において判定しようとする細胞の種別には、赤血球、白血球、移行上皮、扁平上皮等の上皮細胞等が含まれ得る。異常細胞としては、細菌、糸状菌、酵母等の真菌、腫瘍細胞等が含まれ得る。
【0040】
生体試料が腹水、胸水、髄液等の通常血液成分を含まない体液である場合、細胞の種別には、赤血球、白血球、大型細胞を含みうる。ここでいう「大型細胞」とは、体腔内膜又は内臓の腹膜から剥がれた細胞で白血球より大きいものを指し、具体的には、中皮細胞、組織球、腫瘍細胞等が該当する。
【0041】
生体試料が骨髄である場合、本実施形態において判定しようとする細胞の種別には、正常な細胞として、成熟した血球細胞と幼若な血球系細胞を含みうる。成熟した血球細胞には、赤血球、白血球等の有核細胞、血小板等が含まれる。白血球等の有核細胞には、好中球、リンパ球、形質細胞、単球、好酸球、好塩基球が含まれる。好中球には、分葉核好中球及び桿状核好中球が含まれる。幼若な血球系細胞は、造血系幹細胞、幼若顆粒球系細胞、幼若リンパ球系細胞、幼若単球系細胞、幼若赤血球系細胞、巨核球系細胞、間葉系細胞等が含まれる。幼若顆粒球には、後骨髄球、骨髄球、前骨髄球、骨髄芽球等の細胞が含まれ得る。幼若リンパ球系細胞には、リンパ芽球等が含まれる。幼若単球系細胞には、単芽球等が含まれる。幼若赤血球系細胞には、前赤芽球、好塩基性赤芽球、多染性赤芽球、正染性赤芽球、前巨赤芽球、好塩基性巨赤芽球、多染性巨赤芽球、及び正染性巨赤芽球等の有核赤血球が含まれる。巨核球系細胞には、巨核芽球等が含まれる。
【0042】
骨髄に含まれ得る異常細胞としては、上述した骨髄異型性症候群、急性骨髄芽球性白血病、急性骨髄芽球性白血病、急性前骨髄球性白血病、急性骨髄単球性白血病、急性単球性白血病、赤白血病、急性巨核芽球性白血病、急性骨髄性白血病、急性リンパ球性白血病、リンパ芽球性白血病、慢性骨髄性白血病、又は慢性リンパ球性白血病等の白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫等の悪性リンパ腫、及び多発性骨髄腫よりなる群から選択される争血系腫瘍細胞、骨髄以外の器官に発生した悪性腫瘍の転移腫瘍細胞を挙げることができる。
【0043】
図1には、信号として光信号(前方散乱光信号、側方散乱光信号、側方蛍光信号)を使用する例を示している。しかし、信号は、例えば電気信号であってもよい。また、光信号は細胞に光を照射した際に細胞から発せられる光の信号である。光信号には、散乱光信号、及び蛍光信号から選択される少なくとも一種を含み得る。また、本明細書において、光は、例えば流路内の細胞の流れに対して直光するように照射することができる。「前方」は、光源から発せられた光の進行方向を意図する。「前方」には、照射光の角度を0度とした場合に受光角度が0から5度付近である前方低角、及び/又は受光角度5から20度付近である前方高角を含み得る。「側方」は、「前方」と重ならない限り制限されない。「側方」には、照射光の角度を0度とした場合、受光角度が25度から155度付近、好ましくは45度から135度付近、より好ましくは90度付近を含み得る。本実施形態において、信号の種類に限らず、信号強度を取得した時間を示す値とその時点における信号強度を示す値を要素とするデータ群(数列データあるいは行列データ、好ましくは一次元の数列データである)を波形データと総称する場合がある。
【0044】
本実施形態における、細胞の分析方法において、細胞の種別の判定は、深層学習アルゴリズムを使用する方法に限られない。流路内の所定位置を通過する個々の細胞から、前記細胞毎に、前記細胞が前記所定位置を通過している間の複数の時点において信号強度を取得し、取得した個々の細胞に関する複数の時点における信号強度をパターンとして認識した結果に基づいて細胞の種別を判定してもよい。パターンは、複数時点の信号強度の数値パターンとして認識してもよく、複数時点の信号強度をグラフとしてプロットした場合の形状パターンとして認識してもよい。数値パターンとして認識する場合には、分析対象である細胞の数値パターンと、既に細胞種別が既知である数値パターンとを比較することにより、細胞種別を判定することができる。分析対象である細胞の数値パターンと対照の数値パターンとの比較は、例えばスピアマンの順位相関、zスコア等を用いることができる。分析対象である細胞のグラフ形状のパターンと、既に細胞種別が既知であるグラフ形状のパターンとを比較することにより、細胞種別を判定することができる。分析対象である細胞のグラフ形状のパターンと、既に細胞種別が既知であるグラフ形状のパターンとの比較は、例えば、幾何学形状パターンマッチングを用いてもよいし、SIFT Descriptorに代表されるフィーチャーディスクリプターを用いてもよい。
<細胞の分析方法の概要>
【0045】
次に、
図2~
図4に示す例を用いて訓練データ75の生成方法及び波形データの分析方法を説明する。
【0046】
<訓練データの生成>
図2に示す例は、白血球、幼若顆粒球、異常細胞の種別を判定するための深層学習アルゴリズムを訓練するために使用される訓練用波形データの生成方法の一例である。前方散乱光の波形データ70a、側方散乱光の波形データ70b、及び側方蛍光の波形データ70cは、訓練対象の細胞に紐付けられている。訓練対象の細胞から取得される訓練用波形データ70a、70b、70cは、形態学的な分類に基づく細胞の種類が既知である細胞をフローサイトメトリーで測定した波形データであってもよい。あるいは、健常人のスキャッタグラムから既に細胞の種別が判定されている細胞の波形データを用いてもよい。また、健常人の細胞の種別が判定されている波形データとして、複数人から取得した細胞の波形データのプールを使用してもよい。訓練用波形データ70a、70b、70cを取得するための検体は、訓練対象の細胞と同種の細胞を含む試料から、訓練対象の細胞を含む検体と同様の検体処理方法で処理されることが好ましい。また、訓練用波形データ70a、70b、70cは、分析対象の細胞の取得条件と同様の条件で取得されることが好ましい。訓練用波形データ70a、70b、70cは、例えば公知のフローサイトメトリーやシースフロー電気抵抗法により、細胞毎に予め取得することができる。ここで、訓練対象の細胞が、赤血球又は血小板である場合には、訓練データは、シースフロー電気抵抗法によって取得される波形データとなり、波形データは、電気信号強度から得られる一種となる場合がある。
【0047】
図2に示す例では、Sysmex XN-1000を用いてフローサイトメトリーにより取得した訓練用波形データ70a、70b、70cを用いている。訓練用波形データ70a、70b、70cは、例えば、前方散乱光が所定の閾値に達してから、前方散乱光の信号強度、側方散乱光の信号強度、側方蛍光の信号強度の取得を開始し、所定時間後に取得を終了するまでの間、1つの訓練対象の細胞について一定の間隔で複数の時点で各波形データを取得した例である。一定の間隔で複数の時点の波形データを取得する例として、例えば、10ナノ秒間隔で1024ポイント、80ナノ秒間隔で128ポイント、又は160ナノ秒間隔で64ポイント等を挙げることができる。各波形データは、フローサイトメータ、及びシースフロー電気抵抗方式の測定装置等に備えられた細胞を個別に検出可能な測定部内の細胞検出用の流路に生体試料に含まれる細胞を流し、流路内を通過する個々の細胞について取得される。具体的には、流路内の所定位置を1つの訓練対象の細胞が通過する間の複数の時点において、信号強度を取得した時間を示す値とその時点における信号強度を示す値を要素とするデータ群が、信号毎に取得され、訓練用波形データ70a、70b、70cとして使用される。時点に関する情報は、信号強度の取得が開始されてからどのくらい経過したか、後述する処理部10、20が判定できるように記憶されうる限り制限されない。例えば、時点の情報は、測定開始からの時間であってもよく、何番のポイントであるかであってもよい。信号強度は、その信号強度が取得された時点の情報とともに後述する記憶部13、23又はメモリ12、22に記憶されることが好ましい。
【0048】
図2の訓練用波形データ70a、70b、70cはそれぞれを生データの値で示すと例えば前方散乱光の数列データ72a、側方散乱光の数列データ72b、側方蛍光の数列データ72cのようになる。数列データ72a、72b、72cは、訓練対象の細胞毎に、信号強度を取得した時点が同期され、前方散乱光の数列データ76a、側方散乱光の数列データ76b、側方蛍光の数列データ76cとなる。すなわち、76aの左から2番目の数値が計測を開始した時刻t=0における信号強度で10となっている。同様に76b及び76cの左から2番目の数値が計測を開始した時刻t=0における信号強度で、それぞれ50と100となっている。また、76a、76b、76cそれぞれの内部で隣り合う
セルは、10ナノ秒間隔で信号強度を格納している。数列データ76a、76b、76cは、訓練対象の細胞の種別を示すラベル値77と組み合わされて、同時点の3つの信号強度(前方散乱光の信号強度、側方散乱光の信号強度、及び側方蛍光の信号強度)がセットとなるように訓練データ75として深層学習アルゴリズム50に入力される。例えば、訓練対象の細胞が好中球である場合には、数列データ76a、76b、76cに好中球であることを示すラベル値77として「1」が付与され、訓練データ75が生成される。
図3にラベル値77の例を示す。訓練データ75は、細胞の種別毎に生成されるため、ラベル値は、細胞の種類に応じて異なるラベル値77が付与される。ここで、信号強度を取得した時点の同期とは、例えば測定開始からの時間が前方散乱光の数列データ72a、側方散乱光の数列データ72b、側方蛍光の数列データ72cにおいて同時点で組み合わせられるように測定ポイントを一致させることをいう。言い換えると、前方散乱光の数列データ72a、側方散乱光の数列データ72b、側方蛍光の数列データ72cのそれぞれがフローセル内を通過する一つの細胞において同じ時点での取得した信号強度となるように調整されることを意図する。測定開始の時間は、前方散乱光の信号強度が閾値等の所定の閾値を超えた時点としてもよいが、他の散乱光、又は蛍光の信号強度の閾値を使用してもよい。また、数列データ毎に閾値を設定してもよい。
【0049】
数列データ76a、76b、76cは、取得した信号強度値をそのまま使用してもよいが、必要に応じて、ノイズ除去、ベースライン補正、正規化等の処理を行ってもよい。本明細書において、「信号強度に対応する数値データ」には、取得した信号強度値そのもの、及び必要に応じてノイズ除去、ベースライン補正、正規化等を施した値を含み得る。
【0050】
<深層学習の概要>
図2を例として、ニューラルネットワークの訓練の概要を説明する。ニューラルネットワーク50は、畳み込みニューラルネットワークであることが好ましい。ニューラルネットワーク50における入力層50aのノード数は、入力される訓練データ75の波形データに含まれる配列数に対応している。訓練データ75は、数列データ76a、76b、76cが信号強度を取得した時点が同時点となるように組み合わされて、第1の訓練データとしてニューラルネットワーク50の入力層50aに入力される。訓練データ75の各波形データのラベル値77は、第2の訓練データとしてニューラルネットワークの出力層50bに入力され、ニューラルネットワーク50を訓練する。
図2の符号50cは、中間層を示す。
【0051】
<波形データの分析方法>
図4に分析対象である細胞の波形データを分析する方法の例を示す。波形データの分析方法では、分析対象の細胞から取得した前方散乱光の波形データ80a、側方散乱光の波形データ80b、及び側方蛍光の波形データ80cから分析データ85を生成する。分析用波形データ80a、80b、80cは、例えば公知のフローサイトメトリーを用いて取得することができる。
図4に示す例では、分析用波形データ80a、80b、80cは、Sysmex XN-1000を用いて訓練用波形データ70a、70b、70cと同様に取得する。分析用波形データ80a、80b、80cはそれぞれを生データの値で示すと例えば前方散乱光の数列データ82a、側方散乱光の波形データ82b、及び側方蛍光の波形データ82cのようになる。
【0052】
分析データ85の生成と訓練データ75の生成に関しては、少なくとも取得条件、及び各波形データ等からニューラルネットワークに入力するデータを生成する条件を同じにすることが好ましい。数列データ82a、82b、82cは、訓練対象の細胞毎に、信号強度を取得した時点が同期され、数列データ86a(前方散乱光)、数列データ86b(側方散乱光)、数列データ86c(側方蛍光)となる。数列データ86a、86b、86cは、同時点の3つの信号強度(前方散乱光の信号強度、側方散乱光の信号強度、及び側方
蛍光の信号強度)がセットとなるように組み合わされて、分析データ85として深層学習アルゴリズム60に入力される。
【0053】
分析データ85を訓練済みの深層学習アルゴリズム60を構成するニューラルネットワーク60の入力層60aに入力すると、出力層60bから、訓練データとして入力された細胞の種別のそれぞれに、分析データ85を取得した分析対象の細胞が属する確率が出力される。
図4の符号60cは、中間層を示す。さらに、この確率の中で、値が最も高い分類に、分析データ85を取得した分析対象の細胞が属すると判断し、その細胞の種別と紐付けられたラベル値82等が出力されてもよい。出力される細胞に関する分析結果83は、ラベル値そのものの他、ラベル値を細胞の種別を示す情報(例えば用語等)に置き換えたデータであってもよい。
図4では分析データ85に基づいて、深層学習アルゴリズム60が分析データ85を取得した分析対象の細胞が属する確率が最も高かったラベル値「1」を出力し、さらに、このラベル値に対応する「好中球」という文字データが、細胞に関する分析結果83として出力される例を示している。ラベル値の出力は、深層学習アルゴリズム60が行ってもよいが、他のコンピュータプログラムが、深層学習アルゴリズム60が算出した確率に基づいて、最も好ましいラベル値を出力してもよい。
【0054】
[2.細胞分析装置と細胞分析装置における生体試料の測定]
本実施形態の波形データは、第1の細胞分析装置4000又は第2の細胞分析装置4000’において取得され得る。
図5(a)には、細胞分析装置4000の外観を示す。
図5(b)には、細胞分析装置4000’の外観を示す。
図5(a)において、細胞分析装置4000は、測定ユニット(測定部ともいう)400と、測定ユニット400における試料の測定条件の設定や測定を制御するための処理ユニット300を備える。
図5(b)において、細胞分析装置4000’は、測定ユニット(測定部ともいう)500と、測定ユニット500における試料の測定条件の設定や測定を制御するための処理ユニット300を備える。測定ユニット400、500と処理ユニット300は相互に通信可能に有線、又は無線で接続されうる。以下に、測定ユニット400、500の構成例を示すが、本実施形態の実施形態は、以下の例示に限定されて解釈されるものではない。処理ユニット300は、後述するベンダ装置100又はユーザ装置200と共用されてもよい。処理ユニット300のブロック図は、ベンダ装置100又はユーザ装置200と同様である。
【0055】
<第1の細胞分析装置と測定試料の調製>
(第1の測定ユニットの構成)
図6から
図8を用いて、第1の測定ユニット400が血液試料の有核細胞を検出するためのフローサイトメータである場合の構成例(測定ユニット400)を説明する。
【0056】
図6は、測定ユニット400のブロック図の例を示す。この図に示されるように、測定ユニット400は、血球を検出する検出部410、検出部410の出力に対するアナログ処理部420、測定ユニット制御部480、表示・操作部450、試料調製部440、及び装置機構部430を備えている。アナログ処理部420は、検出部から入力されるアナログ信号としての電気信号に対してノイズ除去を含む処理を行い、処理した結果を電気信号としてA/D変換部482に対して出力する。
【0057】
検出部410は、少なくとも白血球等の有核細胞を検出する有核細胞検出部411、赤血球数及び血小板数を測定する赤血球/血小板検出部412、必要に応じて血液中の血色素量を測定するヘモグロビン検出部413を備える。なお、有核細胞検出部411は、光学式検出部から構成され、より具体的にはフローサイトメトリー法による検出を行うための構成を備える。
【0058】
図6に示されるように、測定ユニット制御部480は、A/D変換部482と、デジタ
ル値演算部483と、処理ユニット300と接続するインタフェース部489とを備えている。さらに、測定ユニット制御部480は、表示・操作部450との間に介在するインタフェース部486と、装置機構部430との間に介在するインタフェース部488とを備えている。
【0059】
なお、デジタル値演算部483は、インタフェース部484及びバス485を介してインタフェース部489と接続されている。また、インタフェース部489は、バス485及びインタフェース部486を介して表示・操作部450と接続され、バス485及びインタフェース部488を介して検出部410、装置機構部430及び試料調整部440と接続されている。
【0060】
A/D変換部482は、アナログ処理部420から出力されたアナログ信号である受光信号をデジタル信号に変換して、デジタル値演算部483に出力する。デジタル値演算部483は、A/D変換部482から出力されたデジタル信号に対して所定の演算処理を行う。所定の演算処理として、例えば、前方散乱光が所定の閾値に達してから、前方散乱光の信号強度、側方散乱光の信号強度、側方蛍光の信号強度の取得を開始し、所定時間後に取得を終了するまでの間、1つの訓練対象の細胞について一定の間隔で複数の時点で各波形データを取得する処理、波形データのピーク値を抽出する処理などが含まれ、これに限られない。そして、デジタル値演算部483は、演算結果(測定結果)をインタフェース部484、バス485及びインタフェース部489を介して処理ユニット300に出力する。
【0061】
処理ユニット300は、インタフェース部484、バス485、及びインタフェース部489を介してジタル値演算部483と接続されており、デジタル値演算部483から出力された演算結果を処理ユニット300が受信することができる。また、処理ユニット300は、試料容器を自動供給するサンプラ(図示省略)、試料の調製・測定のための流体系などからなる装置機構部430の制御及びその他の制御を行う。
【0062】
有核細胞検出部411は、細胞を含む測定試料を細胞検出用の流路に流し、細胞検出用の流路を流れる細胞に光を照射して、細胞から生じる散乱光及び蛍光を測定する。赤血球/血小板検出部412は、細胞を含む測定試料を細胞検出用の流路に流し、細胞検出用の流路を流れる細胞の電気抵抗を測定し、細胞の容積を検出する。
【0063】
本実施形態において、測定ユニット400は、フローサイトメータ及び/又はシースフロー電気抵抗方式検出部を備えることが好ましい。
図6において、有核細胞検出部411は、フローサイトメータでありうる。
図6において、赤血球/血小板検出部412は、シースフロー電気抵抗方式検出部でありうる。ここで、有核細胞を赤血球/血小板検出部412で測定してもよく、赤血球及び血小板を有核細胞検出部411で即手することも可能である。
【0064】
・フローサイトメータ
図7に示すように、フローサイトメータによる測定では、測定試料に含まれる細胞がフローサイトメータ内に備えられたフローセル(シースフローセル)4113を通過する際に、光源4111がフローセル4113に光を照射し、この光によってフローセル4113内の細胞から発せられる散乱光及び蛍光を検出する。
【0065】
本実施形態において、散乱光は、一般に流通しているフローサイトメータで測定できる散乱光であれば特に限定されない。例えば、散乱光としては、前方散乱光(例えば、受光角度0~20度付近)及び側方散乱光(受光角度90度付近)を挙げることができる。側方散乱光は細胞の核や顆粒などの細胞の内部情報を反映し、前方散乱光は細胞の大きさの
情報を反映することが知られている。本実施形態においては、散乱光強度として前方散乱光強度、及び側方散乱光強度を測定することが好ましい。
【0066】
蛍光は、細胞内の核酸などに結合した蛍光色素に対し、適当な波長の励起光を詳細した際に蛍光色素から発せられる光である。励起光波長及び受光波長は、用いた蛍光色素の種類に応じる。
【0067】
図7は、有核細胞検出部411の光学系の構成例を示している。この図において、光源4111であるレーザダイオードから出射された光は、照射レンズ系4112を介してフローセル4113内を通過する細胞に照射される。
【0068】
本実施形態において、フローサイトメータの光源4111は特に限定されず、蛍光色素の励起に好適な波長の光源201が選択される。そのような光源201としては、例えば赤色半導体レーザ及び/又は青色半導体レーザを含む半導体レーザ、アルゴンレーザ、ヘリウム-ネオンレーザ等の気体レーザ、水銀アークランプなどが使用される。特に半導体レーザは、気体レーザに比べて非常に安価であるので好適である。
【0069】
図7に示されるように、フローセル4113を通過する粒子から発せられる前方散乱光は、集光レンズ4114とピンホール部4115を介して前方散乱光受光素子4116によって受光される。前方散乱光受光素子4116はフォトダイオード等であり得る。側方散乱光は、集光レンズ4117、ダイクロイックミラー4118、バンドパスフィルタ4119、及びピンホール部4120を介して側方散乱光受光素子4121によって受光される。側方散乱光受光素子4121は、フォトダイオード、フォトマルチプライヤ等であり得る。側方蛍光は、集光レンズ4117及びダイクロイックミラー4118を介して側方蛍光受光素子4122によって受光される。側方蛍光受光素子4122は、アバランシェフォトダイオード、フォトマルチプライヤ等であり得る。
【0070】
各受光部4116、4121及び4122から出力された受光信号は、それぞれ、アンプ4151、4152及び4153を有する
図6に示すアナログ処理部420によって増幅・波形処理などのアナログ処理が施され、測定ユニット制御部480に送られる。
【0071】
図6に戻り、測定部400は、測定試料を調製する試料調製部440を備えていてもよい。試料調製部440は、インタフェース488及びバス485を介して測定ユニット情報処理部481によって制御される。
図8は、測定部400内に備えられた試料調製部440において、血液試料と染色試薬と溶血試薬とを混合して測定試料を調製し、得られた測定試料を有核細胞検出部で測定する様子を示している。
【0072】
図8において、試料容器00a内の血液試料は、吸引ピペット601から吸引される。吸引ピペット601で定量された血液試料は、所定量の希釈液と混合され反応チャンバ602に運ばれる。反応チャンバ602には、所定量の溶血試薬が添加される。反応チャンバ602には、所定量の染色試薬が供給され、上記の混合物と混合される。血液試料と染色試薬及び溶血試薬との混合物を反応チャンバ602にて所定の時間反応させることにより、血液試料中の赤血球が溶血され、有核細胞が蛍光色素で染色された測定試料が得られる。
【0073】
得られた測定試料は、シース液(例えば、セルパック(II)、シスメックス株式会社製)とともに有核細胞検出部411内のフローセル4113に送られ、有核細胞検出部411においてフローサイトメトリー法により測定される。
【0074】
・シースフロー式電気抵抗検出部
図9(a)に示すように、シースフロー式電気抵抗検出部である赤血球/血小板検出部412はチャンバ壁412aと、細胞の電気抵抗を測定するアパチャー部412bと、試料を供給する試料ノズル412cとアパチャー部412bを通過した細胞を回収する回収管412dを備える。チャンバ壁412a内の試料ノズル412cと回収管412dの周りはシース液で満たされている。符号412sで表される破線矢印はシース液が流れる方向を示している。試料ノズルから排出された赤血球412e及び血小板412fは、シース液の流れ412sに包まれながらアパチャー部412bを通過する。アパチャー部412bには一定電圧の直流電圧がかけられており、シース液のみが流れている間は、一定の電流が流れるように制御されている。細胞は、電気を通しにくい、すなわち電気抵抗が大きいため、細胞がアパチャー部412bを通過すると電気抵抗が変わるため、アパチャー部412bにおいて、細胞が通過した回数とその電気抵抗を検出することができる。電気抵抗は、細胞の体積に比例して大きくなるため、
図6に示す測定ユニット情報処理部481は、アパチャー部412bを通過した細胞の容積を算出し、容積毎の細胞のカウント数を
図9(b)に示すヒストグラムとして
図6に示す表示部・操作部450に表示するか、バス487及びインタフェース部489を介して、処理ユニット300に送ることができる。電気抵抗値に関する信号は、上述した光から得られる信号に対する処理と同様に、
図6に示すアナログ処理部420、A/D変換部482、デジタル値演算部483による処理を経て、信号強度として処理ユニット300に送られる。
【0075】
<第2の細胞分析装置と第2の細胞分析装置における生体試料の測定>
(測定装置2の構成)
第2の細胞分析装置4000’の構成例として、測定ユニット500が尿試料又は体液試料を測定するためのフローサイトメータである場合のブロック図の例を示す。
【0076】
図10は、測定ユニット500のブロック図の例である。
図10において、測定ユニット500は、検体分配部501、試料調製部502及び光学検出部505と、この光学検出部505の出力信号(プリアンプにより増幅された出力信号)を増幅する増幅回路550と、増幅回路550からの出力信号に対してフィルタ処理を行うフィルタ回路506と、フィルタ回路506の出力信号(アナログ信号)をデジタル値に変換するA/D変換部507と、デジタル値に対して所定の処理を行うデジタル値処理回路508と、デジタル値処理回路508に接続されたメモリ509と、検体分配部501、試料調製部502、増幅回路550、デジタル値処理回路508、及び記憶装置511aと接続されたマイクロコンピュータ511と、マイクロコンピュータ511に接続されたLANアダプタ12とを備えている。処理ユニット300は、このLANアダプタ12を介して測定ユニット500とLANケーブルにて接続されており、この処理ユニット300により、測定ユニット500で取得された測定データの分析が行われる。光学検出部505、増幅回路550、フィルタ回路506、A/Dコンバータ507、デジタル値処理回路508及びメモリ509は、測定試料を測定し、測定データを生成する光学測定部510を構成している。
【0077】
図11は、測定ユニット500の光学検出部505の構成を示す図である。
図11において、コンデンサレンズ552は、光源である半導体レーザ光源553から放射されたレーザ光をフローセル551に集光し、集光レンズ554は測定試料中の有形成分から発せられる前方散乱光を前方散乱光受光部555に集光する。また、他の集光レンズ556は有形成分から発せられる側方散乱光と蛍光とをダイクロイックミラー557に集光する。ダイクロイックミラー557は、側方散乱光を側方散乱光受光部558へ反射し、蛍光を蛍光受光部559の方へ透過させる。これらの光信号は、測定試料中の有形成分の特徴を反映する。そして、前方散乱光受光部555、側方散乱光受光部558及び蛍光受光部559は光信号を電気信号に変換し、それぞれ、前方散乱光信号、側方散乱光信号及び蛍光信号を出力する。これらの出力は、プリアンプにより増幅された後、次段の処理に供され
る。また、前方散乱光受光部555、側方散乱光受光部558及び蛍光受光部559のそれぞれは、駆動電圧を切り替えることにより、低感度出力と高感度出力との切り替えが可能である。この感度の切り替えは、後述のマイクロコンピュータ11により行われる。本実施形態では、前方散乱光受光部555としてフォトダイオードが用いられ、側方散乱光受光部558及び蛍光受部55としてフォトマルチプライヤチューブを用いてもよいし、側方散乱光受光部558及び蛍光受光部559としてフォトダイオードを用いてもよい。なお、蛍光受光部559から出力された蛍光信号は、プリアンプにより増幅された後、分岐する二つの信号チャンネルに与えられる。二つの信号チャンネルは、それぞれ
図10にて前述した増幅回路550に接続されている。一方の信号チャンネルに入力された蛍光は、増幅回路550により高感度に増幅される。
【0078】
(測定試料の調製)
図12は、
図10にて示した試料調製部502及び光学検出部505の概略機能構成を示す図である。
図10及び
図12に示した検体分配部501は、吸引管517とシリンジポンプとを備える。検体分配部501は、検体(尿又は体液)00bを、吸引管517を介して吸引し、試料調製部502へ分注する。試料調製部502は、反応槽512uと反応槽512bとを備えている。検体分配部501は、反応槽512u及び反応槽512bのそれぞれに定量された測定試料を分配する。
【0079】
反応槽512uにおいて、分配された生体試料は、希釈液としての第1試薬519u及び染料を含む第3試薬518uと混合される。第3試薬518uに含まれる色素により、検体中の有形成分が染色される。生体試料が尿の場合、この反応槽512uにおいて調製された試料は、赤血球、白血球、上皮細胞、腫瘍細胞等の比較的大きい尿中有形成分を分析するための第1測定試料として使用される。生体試料が体液の場合、反応槽512uにおいて調製された試料は、体液中の赤血球を分析するための第3測定試料として使用される。
【0080】
一方、反応槽512bにおいて、分配された生体試料は、希釈液としての第2試薬519b及び染料を含む第4試薬518bと混合される。後述するように、第2試薬519bは、溶血作用を有する。第4試薬518bに含まれる色素により、検体中の有形成分が染色される。生体試料が尿の場合、この反応槽512bにおいて調製された試料は、尿中の細菌を分析するための第2測定試料となる。生体試料が体液である場合において、反応槽512bにおいて調製された試料は、体液中の有核細胞(白血球及び大型細胞)及び細菌を分析するための第4測定試料となる。
【0081】
反応槽512uからは、光学検出部505のフローセル551へとチューブが延設されており、反応槽512uにおいて調製された測定試料がフローセル551へと供給可能となっている。また、反応槽512uの出口には、電磁弁521uが設けられている。反応槽512bからもチューブが延設されており、このチューブが反応槽2uから延びたチューブの途中に連結されている。これにより、反応槽512bにおいて調製された測定試料がフローセル551へと供給可能となっている。また、反応槽512uの出口には、電磁弁521bが設けられている。
【0082】
反応槽512u、512bからフローセル551まで延設されたチューブは、フローセル551の手前で分岐しており、その分岐先がシリンジポンプ520aに接続されている。また、シリンジポンプ520aと分岐点との間には、電磁弁521cが設けられている。
【0083】
反応槽512u、512bのそれぞれから延設されたチューブの接続点から、分岐点までの途中で、チューブはさらに分岐しており、その分岐先がシリンジポンプ520bに接
続されている。また、シリンジポンプ520bへ延びるチューブの分岐点と、接続点との間には、電磁弁521dが設けられている。
【0084】
また、試料調製部502には、シース液を収容するシース液収容部522が接続されており、このシース液収容部522がチューブによってフローセル551に接続されている。シース液収容部522にはコンプレッサ522aが接続されており、コンプレッサ522aが駆動されると、シース液収容部522に圧縮空気が供給され、シース液収容部522からフローセル551へとシース液が供給される。
【0085】
反応槽512u、512bのそれぞれにおいて調製された2種類の懸濁液(測定試料)は、先に反応槽512uの懸濁液(生体試料が尿のときは第1測定試料。生体試料が体液のときは第3測定試料。)が光学検出部505に導かれ、フローセル551においてシース液に包まれた細い流れを形成し、そこに、レーザ光が照射される。その後同様に、反応槽512bの懸濁液(生体試料が尿のときは第2測定試料。生体試料が体液のときは第4測定試料。)が光学検出部505に導かれ、フローセル551において細い流れを形成し、レーザ光が照射される。このような動作は、後述のマイクロコンピュータ511(制御部)の制御により、電磁弁521a、521b、521c、521d及び駆動部503等を動作させることで、自動的に行われる。
【0086】
第1試薬から第4試薬について詳細に説明する。第1試薬519uは、緩衝剤を主成分とする試薬であって、赤血球を溶血させずに安定した蛍光信号を得ることができるように浸透圧補償剤を含有しており、分類測定に適するような浸透圧となるよう100~600mOsm/kgに調整されている。第1試薬519uは、尿中の赤血球に対する溶血作用を有していないことが好ましい。
【0087】
第2試薬519bは、第1試薬519uと異なり、溶血作用を有している。これは、後述する第4試薬518bの細菌の細胞膜への通過性を高めて染色を早く進行させるためである。さらに、粘液糸、赤血球破片などの夾雑物を収縮させるためでもある。第2試薬519bは溶血作用を獲得するために界面活性剤を含む。界面活性剤は、アニオン、ノニオン、カチオンなど種々用いられるが、カチオン系界面活性剤が特に好適である。界面活性剤により細菌の細胞膜にダメージを与えることができるため、第4試薬518bが含有する色素により効率よく細菌の核酸を染色することができる。その結果、細菌の測定を短時間の染色処理で行うことができる。
【0088】
さらに他の実施形態として、第2試薬519bは、界面活性剤ではなく、酸性又は低pHに調整されることで溶血作用を獲得してもよい。低pHとは、第1試薬19uよりもpHが低いことをいう。第1試薬519uが中性若しくは弱酸性~弱アルカリ性の範囲内であるとき、第2試薬19bは酸性又は強酸性である。第1試薬519uのpHが6.0~8.0であるとき、第2試薬519bのpHは、それよりも低いpHであり、好ましくは2.0~6.0である。
【0089】
第2試薬519bは、界面活性剤を含み、かつ、低pHに調整されていてもよい。
【0090】
さらに他の実施形態として、第2試薬519bは、第1試薬19uよりも低い浸透圧にすることで、溶血作用を獲得してもよい。
【0091】
一方、第1試薬519uは界面活性剤を含んでいない。なお、他の実施形態としては、第1試薬519uは界面活性剤を含んでもよいが、赤血球を溶血させないように種類と濃度を調整する必要がある。よって、第1試薬519uは、第2試薬519bと同じ界面活性剤を含まないか、若しくは同じ界面活性剤を含んでいたとしても、第2試薬519bよ
りも低濃度であることが好ましい。
【0092】
第3試薬518uは、尿中有形成分(赤血球、白血球、上皮細胞、円柱等)の測定に用いられる染色試薬である。第3試薬518uが含む染料としては、核酸を有していない有形成分をも染色するために、膜染色をする染料が選ばれる。第3試薬518uは、好ましくは赤血球溶血を防ぐ目的及び安定した蛍光強度を得る目的のために浸透圧補償剤を含み、分類測定に適するような浸透圧となるよう100~600mOsm/kgに調整されている。第3試薬18uによって尿中有形成分の細胞膜、核(膜)が染色される。膜染色する色素を含有する染色試薬としては縮合ベンゼン誘導体が用いられ、例えば、シアニン系色素を用いることができる。なお、第3試薬18uは、細胞膜だけでなく核膜も染色するようになっている。第3試薬518uを用いると、白血球、上皮等の有核細胞では、細胞質(細胞膜)における染色強度と核(核膜)における染色強度とが合わさり、核酸を有しない尿中有形成分よりも染色強度が高くなる。これによって白血球及び上皮等の有核細胞を赤血球等の核酸のない尿中有形成分と弁別することができる。第3試薬として、米国5891733号公報に記載の試薬を用いることができる。米国5891733号公報は、参照により本明細書に組み込まれる。第3試薬518uは、第1試薬519uとともに尿又は体液と混合される。
【0093】
第4試薬518bは、細菌及び真菌と同等の大きさの夾雑物が含まれている検体であっても、細菌を精度良く測定しうる染色試薬である。第4試薬518bとしては、欧州出願公開1136563号公報に詳細な説明がある。第4試薬518bに含まれる染料としては核酸を染色する染料が好適に用いられる。核染色する色素を含有する染色試薬としては、例えば、米国特許7309581号のシアニン系色素を用いることができる。第4試薬518bは、第2試薬519bとともに尿又は検体と混合される。欧州出願公開1136563号公報及び米国特許7309581号は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0094】
したがって、第3試薬518uは細胞膜を染色する色素を含有し、一方、第4試薬518bは核酸を染色する色素を含有していることが好ましい。尿中有形成分には、赤血球のような核を有しないものが含まれているため、第3試薬518uが細胞膜を染色する色素を含有することにより、このような核を有しないものも含めて尿中有形成分を検出することができる。また、第2試薬は細菌の細胞膜にダメージを与えることができるため、第4試薬18bが含有する色素により効率よく細菌及び真菌の核酸を染色することができる。その結果、細菌の測定を短時間の染色処理で行うことができる。
【0095】
[3.波形データ分析システム1]
<波形データ分析システム1の構成>
本実施形態における第3の実施形態は、波形データ分析システムに関する。
図13を参照すると、第3の実施形態に係る波形データ分析システムは、深層学習装置100Aと、分析装置200Aとを備える。ベンダ側装置100は深層学習装置100Aとして動作し、ユーザ側装置200は分析装置200Aとして動作する。深層学習装置100Aは、ニューラルネットワーク50に訓練データを使って学習させ、訓練データによって訓練された深層学習アルゴリズム60をユーザに提供する。学習済みのニューラルネットワークから構成される深層学習アルゴリズム60は、記録媒体98又はネットワーク99を通じて、深層学習装置100Aから分析装置200Aに提供される。分析装置200Aは、学習済みのニューラルネットワークから構成される深層学習アルゴリズム60を用いて分析対象の細胞の波形データの分析を行う。
【0096】
深層学習装置100Aは、例えば汎用コンピュータで構成されており、後述するフローチャートに基づいて、深層学習処理を行う。分析装置200Aは、例えば汎用コンピュータで構成されており、後述するフローチャートに基づいて、波形データ分析処理を行う。
記録媒体98は、例えばDVD-ROMやUSBメモリ等の、コンピュータ読み取り可能であって非一時的な有形の記録媒体である。
【0097】
深層学習装置100Aは測定ユニット400a又は測定ユニット500aに接続されている。測定ユニット400a又は測定ユニット500aの構成は、それぞれ上述した測定ユニット400又は測定ユニット500と同様である。深層学習装置100Aは、測定ユニット400a又は測定ユニット500aによって取得された訓練用波形データ70を取得する。訓練用波形データ70の生成方法は、上述の通りである。分析装置200Aもまた、測定ユニット400b又は測定ユニット500bに接続されている。測定ユニット400b又は測定ユニット500bの構成は、それぞれ上述した測定ユニット400又は測定ユニット500と同様である。
【0098】
図7及び
図11に示すように、測定ユニット400又は測定ユニット500は、それぞれフローセル4113、551を備える。測定ユニット400又は測定ユニット500は、生体試料をフローセル4113、551に送液する。フローセル4113、551に供給された生体試料に、光源4112、553から光が照射され、生体試料中の細胞から発せられた前方散乱光、側方散乱光、及び側方蛍光を光検出部4116、4121、4122、555、558、559が検出する。光検出部4116、4121、4122、555、558、559からは、ベンダ側装置100又はユーザ側装置200に信号が送信される。ベンダ側装置100及びユーザ側装置200は、光検出部4116、4121、4122、555、558、559が検出した前方散乱光、側方散乱光、及び側方蛍光から、それぞれの波形データを取得する。
<深層学習装置のハードウェア構成>
【0099】
図14に、ベンダ側装置100(深層学習装置100A、深層学習装置100B)のブロック図を例示する。処理部10(10A、10B)と、入力部16と、出力部17とを備える。
【0100】
処理部10は、後述するデータ処理を行うCPU(Central Processing Unit)11と
、データ処理の作業領域に使用するメモリ12と、後述するプログラム及び処理データを記録する記憶部13と、各部の間でデータを伝送するバス14と、外部機器とのデータの入出力を行うインタフェース部15と、GPU(Graphics Processing Unit)19とを備えている。入力部16及び出力部17は、インタフェース部17を介して処理部10に接続されている。例示的には、入力部16はキーボード又はマウス等の入力装置であり、出力部17は液晶ディスプレイ等の表示装置である。GPU19は、CPU11が行う演算処理(例えば、並列演算処理)を補助するアクセラレータとして機能する。すなわち以下の説明においてCPU11が行う処理とは、CPU11がGPU19をアクセラレータとして用いて行う処理も含むことを意味する。ここで、GPU19に代えて、ニューラルネットワークの計算に好ましい、チップを搭載してもよい。このようなチップとして、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、ASIC(Application specific integrated circuit)、Myriad X(Intel)等を挙げることができる。
【0101】
また、処理部10は、以下の
図16で説明する各ステップの処理を行うために、本発明に係るプログラム及び訓練前のニューラルネットワーク50を、例えば実行形式で記憶部13に予め記録している。実行形式は、例えばプログラミング言語からコンパイラにより変換されて生成される形式である。処理部10は、記憶部13に記録したプログラムを使用して、訓練前のニューラルネットワーク50の訓練処理を行う。
【0102】
以下の説明においては、特に断らない限り、処理部10が行う処理は、記憶部13又は
メモリ12に格納されたプログラム及びニューラルネットワーク50に基づいて、CPU11が行う処理を意味する。CPU11はメモリ12を作業領域として必要なデータ(処理途中の中間データ等)を一時記憶し、記憶部13に演算結果等の長期保存するデータを適宜記録する。
【0103】
<分析装置のハードウェア構成>
図15を参照すると、ユーザ側装置200(分析装置200A、分析装置200B、分析装置200C)は、処理部20(20A、20B、20C)と、入力部26と、出力部27とを備える。
【0104】
処理部20は、後述するデータ処理を行うCPU(Central Processing Unit)21と
、データ処理の作業領域に使用するメモリ22と、後述するプログラム及び処理データを記録する記憶部23と、各部の間でデータを伝送するバス24と、外部機器とのデータの入出力を行うインタフェース部25と、GPU(Graphics Processing Unit)29とを備えている。入力部26及び出力部27は、インタフェース部25を介して処理部20に接続されている。例示的には、入力部26はキーボード又はマウス等の入力装置であり、出力部27は液晶ディスプレイ等の表示装置である。GPU29は、CPU21が行う演算処理(例えば、並列演算処理)を補助するアクセラレータとして機能する。すなわち以下の説明においてCPU21が行う処理とは、CPU21がGPU29をアクセラレータとして用いて行う処理も含むことを意味する。
【0105】
また、処理部20は、以下の波形データ分析処理で説明する各ステップの処理を行うために、本発明に係るプログラム及び訓練済みのニューラルネットワーク構造の深層学習アルゴリズム60を、例えば実行形式で記憶部23に予め記録している。実行形式は、例えばプログラミング言語からコンパイラにより変換されて生成される形式である。処理部20は、記憶部23に記録したプログラム及び深層学習アルゴリズム60を使用して処理を行う。
【0106】
以下の説明においては、特に断らない限り、処理部20が行う処理は、記憶部23又はメモリ22に格納されたプログラム及び深層学習アルゴリズム60に基づいて、実際には処理部20のCPU21が行う処理を意味する。CPU21はメモリ22を作業領域として必要なデータ(処理途中の中間データ等)を一時記憶し、記憶部23に演算結果等の長期保存するデータを適宜記録する。
【0107】
<機能ブロック及び処理手順>
(深層学習処理)
図16を参照すると、本実施形態に係る深層学習装置100Aの処理部10Aは、訓練データ生成部101と、訓練データ入力部102と、アルゴリズム更新部103とを備える。これらの機能ブロックは、コンピュータに深層学習処理を実行させるプログラムを、
図14に示す処理部10Aの記憶部13又はメモリ12にインストールし、このプログラムをCPU11が実行することにより実現される。訓練データデータベース(DB)104と、アルゴリズムデータベース(DB)105とは、処理部10Aの記憶部13又はメモリ12に記録される。
【0108】
訓練用波形データ70a、70b、70cは、測定ユニット400、500によって予め取得され、処理部10Aの記憶部13又はメモリ12に予め記憶されている。深層学習アルゴリズム50は、例えば分析対象の細胞が属する細胞の種類と対応付けられて、アルゴリズムデータベース105に予め格納されている。
【0109】
深層学習装置100Aの処理部10Aは、
図17に示す処理を行う。
図16に示す各機
能ブロックを用いて説明すると、
図17に示すステップS11、S14及びS16の処理は、訓練データ生成部101が行う。ステップS12の処理は、訓練データ入力部102が行う。ステップS13、及びS15の処理は、アルゴリズム更新部103が行う。
図17を用いて、処理部10Aが行う深層学習処理の例について説明する。
【0110】
はじめに、処理部10Aは、訓練用波形データ70a、70b、70cを取得する。訓練用波形データ70aは前方散乱光の波形データであり、訓練用波形データ70bは側方散乱光の波形データであり、訓練用波形データ70cは側方蛍光の波形データである。訓練用波形データ70a、70b、70cの取得は、オペレータの操作によって、測定ユニット400、500から取り込まれるか、記録媒体98から取り込まれるか、ネットワーク経由でI/F部15を介して行われる。訓練用波形データ70a、70b、70cを取得する際に、その訓練用波形データ70a、70b、70cが、いずれの細胞の種類を示すものであるかの情報も取得される。いずれの細胞の種類を示すものであるかの情報は、訓練用波形データ70a、70b、70cに紐付けられ、またオペレータが入力部16から入力してもよい。
【0111】
ステップS11において、処理部10Aは、訓練用波形データ70a、70b、70cに紐付けられている、細胞の種類のいずれを示すものであるかの情報と、メモリ12又は記憶部13に記憶されている細胞の種類に紐付けられたラベル値と、数列データ72a、72b、72cを、波形データを取得した時間で前方散乱光、側方散乱光、及び側方蛍光の波形データを同期させた数列データ76a、76b、76cに対応するラベル値77を付与する。斯くして、処理部10Aは、訓練データ75を生成する。
【0112】
図17に示すステップS12において、処理部10Aは、訓練データ75を用いて、ニューラルネットワーク50及を訓練する。ニューラルネットワーク50の訓練結果は複数の訓練データ75を用いて訓練する度に蓄積される。
【0113】
本実施形態に係る細胞種別の分析方法では、畳み込みニューラルネットワークを使用しており、確率的勾配降下法を用いるため、ステップS13において、処理部10Aは、予め定められた所定の試行回数分の訓練結果が蓄積されているか否かを判断する。訓練結果が所定の試行回数分蓄積されている場合(YES)、処理部10AはステップS14の処理に進み、訓練結果が所定の試行回数分蓄積されていない場合(NO)、処理部10AはステップS15の処理に進む。
【0114】
次に、訓練結果が所定の試行回数分蓄積されている場合、ステップS14において、処理部10Aは、ステップS12において蓄積しておいた訓練結果を用いて、ニューラルネットワーク50の結合重みwを更新する。本実施形態に係る細胞種別の分析方法では、確率的勾配降下法を用いるため、所定の試行回数分の学習結果が蓄積した段階で、ニューラルネットワーク50の結合重みwを更新する。結合重みwを更新する処理は、具体的には、後述の(式11)及び(式12)に示される、勾配降下法による計算を実施する処理である。
【0115】
ステップS15において、処理部10Aは、ニューラルネットワーク50を規定数の訓練用データ75で訓練したか否かを判断する。規定数の訓練用データ75で訓練した場合(YES)には、深層学習処理を終了する。
【0116】
ニューラルネットワーク50を規定数の訓練用データ75で訓練していない場合(NO)には、処理部10Aは、ステップS15からステップS16に進み、次の訓練用波形データ70についてステップS11からステップS15までの処理を行う。
【0117】
以上説明した処理にしたがって、ニューラルネットワーク50を訓練し深層学習アルゴリズム60を得る。
(ニューラルネットワークの構造)
【0118】
上述したように、本実施形態において、畳み込みニューラルネットワークを用いる。
図18(a)にニューラルネットワーク50の構造を例示する。ニューラルネットワーク50は、入力層50aと、出力層50bと、入力層50a及び出力層50bの間の中間層50cとを備え、中間層50cが複数の層で構成されている。中間層50cを構成する層の数は、例えば5層以上、好ましくは50層以上、より好ましくは100層以上とすることができる。
【0119】
ニューラルネットワーク50では、層状に配置された複数のノード89が、層間において結合されている。これにより、情報が入力側の層50aから出力側の層50bに、図中矢印Dに示す一方向のみに伝播する。
【0120】
(各ノードにおける演算)
図18(b)は、各ノードにおける演算を示す模式図である。各ノード89では、複数の入力を受け取り、1つの出力(z)を計算する。
図18(b)に示す例の場合、ノード89は4つの入力を受け取る。ノード89が受け取る総入力(u)は、例として以下の(式1)で表される。ここで、本実施形態においては、訓練データ75及び分析用データ85として一次元の数列データを用いるため、演算式の変数が二次元の行列データに対応する場合には、変数を一次元に変換する処理を行う。
【0121】
【0122】
各入力には、それぞれ異なる重みが掛けられる。(式1)中、bはバイアスと呼ばれる値である。ノードの出力(z)は、(式1)で表される総入力(u)に対する所定の関数fの出力となり、以下の(式2)で表される。関数fは活性化関数と呼ばれる。
【0123】
【0124】
図18(c)は、ノード間の演算を示す模式図である。ニューラルネットワーク50では、(式1)で表される総入力(u)に対して、(式2)で表される結果(z)を出力するノードが層状に並べられている。前の層のノードの出力が、次の層のノードの入力となる。
図18(c)に示す例では、図中左側の層のノード89aの出力が、図中右側の層のノード89bの入力となる。右側の層の各ノード89bは、それぞれ、左側の層のノード89aからの出力を受け取る。左側の層の各ノード89aと右側の層の各ノード89bとの間の各結合には、異なる重みが掛けられる。左側の層の複数のノード89aのそれぞれの出力をx
1~x
4とすると、右側の層の3つのノード89bのそれぞれに対する入力は、以下の(式3-1)~(式3-3)で表される。
【0125】
【数3】
これら(式3-1)~(式3-3)を一般化すると、(式3-4)となる。ここで、i=1、・・・I、j=1、・・・Jである。
【0126】
【数4】
(式3-4)を活性化関数に適用すると出力が得られる。出力は以下の(式4)で表される。
【0127】
【0128】
(活性化関数)
実施形態に係る細胞種別の分析方法では、活性化関数として、正規化線形関数(rectified linear unit function)を用いる。正規化線形関数は以下の(式5)で表される。
【0129】
【数6】
(式5)は、z=uの線形関数のうち、u<0の部分をu=0とする関数である。
図18(c)に示す例では、j=1のノードの出力は、(式5)により、以下の式で表される。
【0130】
【0131】
(ニューラルネットワークの学習)
ニューラルネットワークを用いて表現される関数をy(x:w)とおくと、関数y(x:w)は、ニューラルネットワークのパラメータwを変化させると変化する。入力xに対してニューラルネットワークがより好適なパラメータwを選択するように、関数y(x:w)を調整することを、ニューラルネットワークの学習と呼ぶ。ニューラルネットワークを用いて表現される関数の入力と出力との組が複数与えられているとする。ある入力xに対する望ましい出力をdとすると、入出力の組は、{(x
1、d
1)、(x
2、d
2)、・・・、(x
n、d
n)}と与えられる。(x、d)で表される各組の集合を、訓練データと呼ぶ。具体的には、
図2に示す、波形データ(前方散乱光波形データ、側方散乱光波形データ、蛍光波形データ)の集合が、
図2に示す訓練データである。
【0132】
ニューラルネットワークの学習とは、どのような入出力の組(xn、dn)に対しても、入力xnを与えたときのニューラルネットワークの出力y(xn:w)が、出力dnになるべく近づくように重みwを調整することを意味する。誤差関数(error function)と
は、ニューラルネットワークを用いて表現される関数と訓練データとの近さ
【0133】
【数8】
を測る尺度である。誤差関数は損失関数(loss function)とも呼ばれる。実施形態に係
る細胞種別の分析方法において用いる誤差関数E(w)は、以下の(式6)で表される。(式6)は交差エントロピー(cross entropy)と呼ばれる。
【0134】
【数9】
(式6)の交差エントロピーの算出方法を説明する。実施形態に係る細胞種別の分析方法において用いるニューラルネットワーク50の出力層50bでは、すなわちニューラルネットワークの最終層では、入力xを内容に応じて有限個のクラスに分類するための活性化関数を用いる。活性化関数はソフトマックス関数(softmax function)と呼ばれ、以下の(式7)で表される。なお、出力層50bには、クラス数kと同数のノードが並べられているとする。出力層Lの各ノードk(k=1、・・・K)の総入力uは、前層L-1の出力から、u
k
(L)で与えられるとする。これにより、出力層のk番目のノードの出力は以下の(式7)で表される。
【0135】
【数10】
(式7)がソフトマックス関数である。(式7)で決まる出力y
1、・・・、y
Kの総和は常に1となる。
各クラスをC
1、・・・、C
Kと表すと、出力層Lのノードkの出力y
K(すなわちu
k
(L))は、与えられた入力xがクラスC
Kに属する確率を表す。以下の(式8)を参照されたい。入力xは、(式8)で表される確率が最大になるクラスに分類される。
【0136】
【数11】
ニューラルネットワークの学習では、ニューラルネットワークで表される関数を、各クラスの事後確率(posterior probability)のモデルとみなし、そのような確率モデルの
下で、訓練データに対する重みwの尤度(likelihood)を評価し、尤度を最大化するような重みwを選択する。
【0137】
(式7)のソフトマックス関数による目標出力dnを、出力が正解のクラスである場合のみ1とし、出力がそれ以外の場合は0になるとする。目標出力をdn=[dn1、・・・、dnK]というベクトル形式で表すと、例えば入力xnの正解クラスがC3である場合、目標出力dn3のみが1となり、それ以外の目標出力は0となる。このように符号化すると、事後分布(posterior)は以下の(式9)で表される。
【0138】
【数12】
訓練データ{(x
n、d
n)}(n=1、・・・、N)に対する重みwの尤度L(w)は、以下の(式10)で表される。尤度L(w)の対数をとり符号を反転すると、(式6)の誤差関数が導出される。
【0139】
【数13】
学習は、訓練データを基に計算される誤差関数E(w)を、ニューラルネットワークのパラメータwについて最小化することを意味する。実施形態に係る細胞種別の分析方法では、誤差関数E(w)は(式6)で表される。
【0140】
誤差関数E(w)をパラメータwについて最小化することは、関数E(w)の局所的な極小点を求めることと同じ意味である。パラメータwはノード間の結合の重みである。重みwの極小点は、任意の初期値を出発点として、パラメータwを繰り返し更新する反復計算によって求められる。このような計算の一例には、勾配降下法(gradient descent method)がある。
【0141】
勾配降下法では、次の(式11)で表されるベクトルを用いる。
【数14】
勾配降下法では、現在のパラメータwの値を負の勾配方向(すなわち-∇E)に移動させる処理を何度も繰り返す。現在の重みをw
(t)とし、移動後の重みをw
(t+1)とすると、勾配降下法による演算は、以下の(式12)で表される。値tは、パラメータwを移動させた回数を意味する。
【0142】
【数15】
記号
【数16】
は、パラメータwの更新量の大きさを決める定数であり、学習係数と呼ばれる。(式12)で表される演算を繰り返すことにより、値tの増加に伴って誤差関数E(w
(t))が減少し、パラメータwは極小点に到達する。
【0143】
なお、(式12)による演算は、全ての訓練データ(n=1、・・・、N)に対して実施してもよく、一部の訓練データのみに対して実施してもよい。一部の訓練データのみに
対して行う勾配降下法は、確率的勾配降下法(stochastic gradient descent)と呼ばれ
る。実施形態に係る細胞種別の分析方法では、確率的勾配降下法を用いる。
【0144】
(波形データ分析処理)
図19に、分析用波形データ80a、80b、80cから、分析結果83を生成するまでの波形データ分析処理を行う分析装置200Aの機能ブロック図を示す。分析装置200Aの処理部20Aは、分析用データ生成部201と、分析用データ入力部202と、分析部203とを備える。これらの機能ブロックは、本発明に係るコンピュータに波形データ分析処理を実行させるプログラムを、
図15に示す処理部20Aの記憶部23又はメモリ22にインストールし、このプログラムをCPU21が実行することにより実現される。訓練データデータベース(DB)104に格納される訓練データと、アルゴリズムデータベース(DB)105に格納される訓練済み深層学習アルゴリズム60とは、記録媒体98又はネットワーク99を通じて深層学習装置100Aから提供され、処理部20Aの記憶部23又はメモリ22に記録される。
【0145】
分析用波形データ80a、80b、80cは、測定ユニット400、500によって取得され、処理部20Aの記憶部23又はメモリ22に記憶される。訓練済みの結合重みwを含む訓練済み深層学習アルゴリズム60は、例えば分析対象の細胞が属する細胞の種類と対応付けられて、アルゴリズムデータベース105に格納されており、コンピュータに波形データ分析処理を実行させるプログラムの一部であるプログラムモジュールとして機能する。すなわち、深層学習アルゴリズム60は、CPU及びメモリを備えるコンピュータにて用いられ、分析対象の細胞が、細胞の種類のいずれに該当するかの確率を算出し、細胞に関する分析結果83を生成するために使用される。
【0146】
また生成された分析結果83は、次のように出力される。また、処理部20AのCPU21は、使用目的に応じた特有の情報の演算又は加工を実行するよう、コンピュータを機能させる。具体的には、処理部20AのCPU21は、記憶部23又はメモリ22に記録された深層学習アルゴリズム60を用いて、細胞に関する分析結果83を生成する。処理部20AのCPU21は、分析データ85を入力層60aに入力し、分析対象の細胞が属する細胞の種別に関するラベル値を出力層61から分析用波形データに含まれる細胞が属すると識別された細胞の種類のラベル値を出力する。
【0147】
図20に示すフローチャートを用いて説明すると、ステップS21の処理は、分析用データ生成部201が行う。ステップS22、S23、S24及びS26の処理は、分析用データ入力部202が行う。ステップS25の処理は、分析部203が行う。
【0148】
図20を用いて、処理部20Aが行う分析用波形データ80a、80b、80cから、細胞に関する分析結果83を生成するまでの波形データ分析処理の例を説明する。
【0149】
はじめに、処理部20Aは、分析用波形データ80a、80b、80cを取得する。分析用波形データ80a、80b、80cの取得は、ユーザの操作によって、若しくは自動的に、測定ユニット400、500から取り込まれるか、記録媒体98から取り込まれるか、ネットワーク経由でI/F部25を介して行われる。
【0150】
ステップS21において、処理部20Aは、数列82a、82b、82cから、上記分析データの生成方法で説明した手順に従い細胞に関する分析結果83を生成する。
【0151】
次に、ステップS22において、処理部20Aは、アルゴリズムデータベース105に格納されている深層学習アルゴリズムを取得する。なお、ステップS21とS22の順序は問わない。
【0152】
次に、ステップS23において、処理部20Aは、細胞に関する分析結果83を深層学習アルゴリズムに入力する。処理部20Aは、上記波形データの分析方法で述べた手順に従い、深層学習アルゴリズムから、分析用波形データ80a、80b、80cを取得した分析対象の細胞が属すると判断したラベル値を出力する。処理部20Aは、このラベル値をメモリ22又は記憶部23に記憶する。
【0153】
ステップS24において、処理部20Aは、はじめに取得した分析用波形データ80a、80b、80cを全て識別したかを判断する。全ての分析用波形データ80a、80b、80cの識別が終わっている(YES)の場合には、ステップS25へ進み、細胞に関する情報83を含む分析結果を出力する。全ての分析用波形データ80a、80b、80cの識別が終わっていない(NO)の場合には、ステップS26に進み、まだ識別を行っていない分析用波形データ80a、80b、80cに対して、ステップS22からステップS24の処理を行う。
【0154】
本実施形態により、検査者のスキルを問わず細胞の種類の識別を行うことが可能となる。
【0155】
<コンピュータプログラム>
本実施形態には、ステップS11~S16及び/又はS21~S26の処理をコンピュータに実行させる、細胞の種別を分析する波形データ分析するためのコンピュータプログラムを含む。
【0156】
さらに、本実施形態のある実施形態は、コンピュータプログラムを記憶した、記憶媒体等のプログラム製品に関する。すなわち、コンピュータプログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記憶媒体に記憶される。記憶媒体へのプログラムの記憶形式は、ベンダ側装置100、及び/又はユーザ側装置200がプログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記記憶媒体への記録は、不揮発性であることが好ましい。
【0157】
[4.波形データ分析システム2]
<波形データ分析システム2の構成>
波形データ分析システムの別の態様について説明する。
図21に第2の波形データ分析システムの構成例を示す。第2の波形データ分析システムは、ユーザ側装置200を備え、ユーザ側装置200が、統合型の分析装置200Bとして動作する。分析装置200Bは、例えば汎用コンピュータで構成されており、上記波形データ分析システム1で説明した深層学習処理及び波形データ分析処理の両方の処理を行う。つまり、第2の波形データ分析システムは、ユーザ側で深層学習及び波形データ分析を行う、スタンドアロン型のシステムである。第2の波形データ分析システムは、ユーザ側に設置された統合型の分析装置200Bが、本実施形態に係る深層学習装置100A及び分析装置200Aの両方の機能を担う。
【0158】
図21において、分析装置200Bは測定ユニット400b、500bに接続されている。
図5(a)に例示する測定ユニット400、
図5(b)に例示する測定ユニット500は、深層学習処理時には、訓練用波形データ70a、70b、70cを取得し、波形データ分析処理時には、分析用波形データ80a、80b、80cを取得する。
【0159】
<ハードウェア構成>
分析装置200Bのハードウェア構成は、
図15に示すユーザ側装置200のハードウェア構成と同様である。
【0160】
<機能ブロック及び処理手順>
図22に、分析装置200Bの機能ブロック図を示す。分析装置200Bの処理部20Bは、訓練データ生成部101と、訓練データ入力部102と、アルゴリズム更新部103と、分析データ生成部201と、分析データ入力部202と、分析部203と、細胞の種別に関する分析結果83とを備える。これらの機能ブロックは、コンピュータに深層学習処理及び波形データ分析処理を実行させるプログラムを、
図15に例示する、処理部20Bの記憶部23又はメモリ22にインストールし、このプログラムをCPU21が実行することにより実現される。訓練データデータベース(DB)104と、アルゴリズムデータベース(DB)105とは、処理部20Bの記憶部23又はメモリ22に記憶され、どちらも深層学習時及び波形データ分析処理時に共通して使用される。訓練済みのニューラルネットワークを含む深層学習アルゴリズム60は、例えば分析対象の細胞が属する細胞の種類や細胞の種別と対応付けられて、アルゴリズムデータベース105に予め格納されている。深層学習処理により結合重みwが更新されて、新たな深層学習アルゴリズム60として、アルゴリズムデータベース105に格納される。なお、訓練用波形データ70a、70b、70cは、上述の通り測定ユニット400b、500bによって予め取得され、訓練データデータベース(DB)104又は処理部20Bの記憶部23若しくはメモリ22に予め記憶されていることとする。分析対象の検体の分析用波形データ80a、80b、80cは、測定ユニット400b、500bによって予め取得され、処理部20Bの記憶部23又はメモリ22に予め記憶されていることとする。
【0161】
分析装置200Bの処理部20Bは、深層学習処理時には、
図17に示す処理を行い、波形データ分析処理時には、
図20に示す処理を行う。
図22に示す各機能ブロックを用いて説明すると、深層学習処理時には、ステップS11、S15及びS16の処理は、訓練データ生成部101が行う。ステップS12の処理は、訓練データ入力部102が行う。ステップS13、及びS18の処理は、アルゴリズム更新部103が行う。波形データ分析処理時には、ステップS21の処理は、分析用データ生成部201が行う。ステップS22、S23、S24及びS26の処理は、分析用データ入力部202が行う。ステップS25の処理は、分析部203が行う。
【0162】
分析装置200Bが行う深層学習処理の手順及び波形データ分析処理の手順は、深層学習装置100A及び分析装置200Aがそれぞれ行う手順と同様である。但し、分析装置200Bは、訓練波形データ70a、70b、70cを測定ユニット400b、500bから取得する。
【0163】
分析装置200Bでは、ユーザが、訓練済み深層学習アルゴリズム60による識別精度を確認することができる。万が一深層学習アルゴリズム60の判定結果がユーザの波形データ観察による判定結果と異なる場合には、分析用波形データ80a、80b、80cを訓練用データ70a、70b、70cとして、ユーザの波形データ観察による判定結果をラベル値77として、深層学習アルゴリズムを訓練し直すことができる。このようにすることにより、深層学習アルゴリズム50の訓練効率をより向上することができる。
【0164】
[5.波形データ分析システム3]
<波形データ分析システム3の構成>
波形データ分析システムの別の態様について説明する。
図23に第3の波形データ分析システムの構成例を示す。第3の波形データ分析システムは、ベンダ側装置100と、ユーザ側装置200とを備える。ベンダ側装置100は統合型の分析装置100Bとして動作し、ユーザ側装置200は端末装置200Cとして動作する。分析装置100Bは、例えば汎用コンピュータで構成されており、上記波形データ分析システム1で説明した深層学習処理及び波形データ分析処理の両方の処理を行う、
クラウドサーバ側の装置である。端末装置200Cは、例えば汎用コンピュータで構成されており、ネットワーク99を通じて、分析対象の細胞の分析用波形データ80a、80b、80cを分析装置100Bに送信し、ネットワーク99を通じて、分析結果83を分析装置100Bから受信する、ユーザ側の端末装置である。
【0165】
第3の波形データ分析システムは、ベンダ側に設置された統合型の分析装置100Bが、深層学習装置100A及び分析装置200Aの両方の機能を担う。一方、第3の波形データ分析システムは、端末装置200Cを備え、分析用波形データ80a、80b、80cの入力インタフェースと、分析結果の波形データの出力インタフェースとをユーザ側の端末装置200Cに提供する。つまり、第3の波形データ分析システムは、深層学習処理及び波形データ分析処理を行うベンダ側が、分析用波形データ80a、80b、80cをユーザ側に提供する入力インタフェースと、細胞に関する情報83をユーザ側に提供する出力インタフェースとを備える、クラウドサービス型のシステムである。入力インタフェースと出力インタフェースは一体化されていてもよい。
【0166】
分析装置100Bは測定ユニット400a、500aに接続されており、測定ユニット400a、500aによって取得される、訓練用波形データ70a、70b、70cを取得する。
【0167】
端末装置200Cは測定ユニット400b、500bに接続されており、測定ユニット400b、500bによって取得される、分析用波形データ80a、80b、80cを取得する。
【0168】
<ハードウェア構成>
分析装置100Bのハードウェア構成は、
図14に示すベンダ側装置100のハードウェア構成と同様である。端末装置200Cのハードウェア構成は、
図15に示すユーザ側装置200のハードウェア構成と同様である。
<機能ブロック及び処理手順>
図24に、分析装置100Bの機能ブロック図を示す。分析装置100Bの処理部10Bは、訓練データ生成部101と、訓練データ入力部102と、アルゴリズム更新部103と、分析用データ生成部201と、分析用データ入力部202と、分析部203とを備える。これらの機能ブロックは、コンピュータに深層学習処理及び波形データ分析処理を実行させるプログラムを、
図14に示す処理部10Bの記憶部13又はメモリ12にインストールし、このプログラムをCPU11が実行することにより実現される。訓練データデータベース(DB)104と、アルゴリズムデータベース(DB)105とは、処理部10Bの記憶部13又はメモリ12に記憶され、どちらも深層学習時及び波形データ分析処理時に共通して使用される。ニューラルネットワーク50は、例えば分析対象の細胞が属する細胞の種類や種別と対応付けられて、アルゴリズムデータベース105に予め格納されており、深層学習処理により結合重みwが更新されて、深層学習アルゴリズム60として、アルゴリズムデータベース105に格納される。
【0169】
訓練用波形データ70a、70b、70cは、上述の通り測定ユニット400a、500aによって予め取得され、訓練データデータベース(DB)104又は処理部10Bの記憶部13若しくはメモリ12に予め記載されている。分析用波形データ80a、80b、80cは、測定ユニット400b、500bによって取得され、端末装置200Cの処理部20Cの記憶部23又はメモリ22に予め記録されていることとする。
【0170】
分析装置100Bの処理部10Bは、深層学習処理時には、
図17に示す処理を行い、波形データ分析処理時には、
図20に示す処理を行う。
図24に示す各機能ブロックを用いて説明すると、深層学習処理時には、ステップS11、S15及びS16の処理は、訓
練データ生成部101が行う。ステップS12の処理は、訓練データ入力部102が行う。ステップS13、及びS18の処理は、アルゴリズム更新部103が行う。波形データ分析処理時には、ステップS21の処理は、分析用データ生成部201が行う。ステップS22、S23、S24及びS26の処理は、分析用データ入力部202が行う。ステップS25の処理は、分析部203が行う。
【0171】
分析装置100Bが行う深層学習処理の手順及び波形データ分析処理の手順は、本実施形態に係る深層学習装置100A及び分析装置200Aがそれぞれ行う手順と同様である。
【0172】
処理部10Bは、訓練用波形データ70a、70b、70cを、ユーザ側の端末装置200Cから受信し、
図17に示すステップS11からS16にしたがって訓練データ75を生成する。
【0173】
図20に示すステップS25において、処理部10Bは、細胞に関する情報83を含む分析結果を、ユーザ側の端末装置200Cに送信する。ユーザ側の端末装置200Cでは、処理部20Cが、受信した分析結果を出力部27に出力する。
【0174】
以上、端末装置200Cのユーザは、分析用波形データ80a、80b、80cを分析装置100Bに送信することにより、分析結果として、細胞の種別に関する分析結果83を取得することができる。
【0175】
第3の実施形態に係る分析装置100Bによると、ユーザは、訓練データデータベース104及びアルゴリズムデータベース105を深層学習装置100Aから取得することなく、識別器を使用することができる。これにより、細胞の種類を識別するサービスを、クラウドサービスとして提供することができる。
【0176】
[6.その他の形態]
以上、本発明を概要及び特定の実施形態によって説明したが、本発明は上記した概要及び各実施形態に限定されるものではない。
【0177】
各場像分析システムにおいて、処理部10A、10Bは一体の装置として実現されているが、処理部10A、10Bは一体の装置である必要はなく、CPU11、メモリ12、記憶部13、GPU19等が別所に配置され、これらがネットワークで接続されていてもよい。処理部10A、10Bと、入力部16と、出力部17とについても、一ヶ所に配置される必要は必ずしもなく、それぞれ別所に配置されて互いにネットワークで通信可能に接続されていてもよい。処理部20A、20B、20Cについても処理部10A、10Bと同様である。
【0178】
上記第1から第3の実施形態では、訓練データ生成部101、訓練データ入力部102、アルゴリズム更新部103、分析用データ生成部201、分析用データ入力部202、及び分析部203の各機能ブロックは、単一のCPU11又は単一のCPU21において実行されているが、これら各機能ブロックは単一のCPUにおいて実行される必要は必ずしもなく、複数のCPUで分散して実行されてもよい。また、これら各機能ブロックは、複数のGPUで分散して実行されてもよいし、複数のCPUと複数のGPUとで分散して実行されてもよい。
【0179】
上記第2及び第3の実施形態では、
図17及び
図20で説明する各ステップの処理を行うためのプログラムを記憶部13、23に予め記録している。これに代えて、プログラムは、例えばDVD-ROMやUSBメモリ等の、コンピュータ読み取り可能であって非一
時的な有形の記録媒体98から処理部10B、20Bにインストールしてもよい。又は、処理部10B、20Bをネットワーク99と接続し、ネットワーク99を介して例えば外部のサーバ(図示せず)からプログラムをダウンロードしてインストールしてもよい。
【0180】
各波形データ分析システムにおいて、入力部16、26はキーボード又はマウス等の入力装置であり、出力部17、27は液晶ディスプレイ等の表示装置として実現されている。これに代えて、入力部16、26と出力部17、27とを一体化してタッチパネル式の表示装置として実現してもよい。又は、出力部17、27をプリンター等で構成してもよい。
【0181】
上記各波形データ分析システムでは、測定ユニット400a、500aは、深層学習装置100A又は分析装置100Bと直接接続されているが、フローサイトメトリー300は、ネットワーク99を介して深層学習装置100A又は分析装置100Bと接続されていてもよい。フローサイトメトリー400についても同様に、フローサイトメトリー400は、分析装置200A又は分析装置200Bと直接接続されているが、測定ユニット400b、500bは、ネットワーク99を介して分析装置200A又は分析装置200Bと接続されていてもよい。
【0182】
図25に出力部27に出力される、分析結果の一実施形態を示す。
図25では、フローサイトメトリーで測定された生体試料中に含まれる、
図3で示したラベル値を付与した細胞の種別とそれぞれの細胞数の種別の細胞数が示されている。細胞数の表示に代えて、あるいは細胞数の表示とともに、カウントした細胞数全体における各細胞種別の割合(例えば%)を出力してもよい。細胞数のカウントは、出力された各細胞種別に対応するラベル値の数(同じラベル値の数)を係数することにより求めることができる。また、出力結果には、生体試料中に異常細胞が含まれることを示す警告が出力されてもよい。
図25では異常細胞の項に警告として感嘆符が付されている例を示しているがこれに限られない。さらに、各細胞腫の分布をスキャッタグラムそして出力してもよい。スキャッタグラムとして出力する際には、例えば信号強度を取得した際の最も高い値を、例えば、側方蛍光強度を縦軸とし、側方散乱光強度を横軸としてプロットすることができる。
【実施例0183】
1.ディープラーニングモデルの構築
健常血液試料として健常人から採血した血液を測定し、非健常血液試料としてXN CHECK
Lv2(ストレック社のコントロール血液(固定などの処理が行われている))をSysmex XN-1000でそれぞれ測定した。蛍光染色試薬にはシスメックス株式会社製のフルオロセルWDFを
用いた。また溶血剤にはシスメックス株式会社製のライザセルWDFを用いた。それぞれの
検体に含まれる細胞毎に、前方散乱光の測定開始から10ナノ秒間隔で前方散乱光、側方散乱光、及び側方蛍光の波形データを1024ポイントについて取得した。健常血液試料に関しては、8名の健常者から採血した血液中の細胞の波形データをデジタルデータとし
てプールした。それぞれの細胞の波形データに対して好中球(NEUT)、リンパ球(LYMPH
)、単球(MONO)、好酸球(EO)、好塩基球(BASO)、幼若顆粒球(IG)の分類を手動に
て実施し、それぞれの波形データに細胞の種別のアノテーション(ラベル付け)を付した。前方散乱光の信号強度が閾値を超えた時点を測定開始時点とし、前方散乱光、側方散乱光、側方蛍光の波形データの取得時点を同期させ、訓練データを生成した。またコントロール血液についてもコントロール血液由来細胞(CONT)とアノテーションを行った。深層学習アルゴリズムに訓練データを入力し、学習させた。
【0184】
学習した細胞データとは別の健常人の血液細胞についてSysmex XN-1000により訓練データと同様に分析用波形データを取得した。コントロール血液由来の波形データを混合し分析用データを作成した。この分析用データは、スキャッタグラム上では健常人由来の血球
とコントロール血液由来の血球がオーバーラップして従来法では全く鑑別できなかった。この分析用データを構築した深層学習アルゴリズムに入力し、個々の細胞の種別のデータを取得した。
【0185】
その結果を混合マトリックスとして
図26に示す。横軸に構築した深層学習アルゴリズムによる判定結果を示し、縦軸にヒトによる手動(参照法)の判定結果を示す。構築した深層学習アルゴリズムによる判定結果は、好塩基球とリンパ球間、好塩基球とゴースト間で若干の混同を生じたものの、参照法による判手結果と98.8%の一致率を示した。
【0186】
次に各細胞種別について、ROC解析を行い、感度特異度を評価した。
図27(a)は好
中球、
図27(b)はリンパ球、
図27(c)は単球、
図28(a)は好中球、
図28(b)は好塩基球、
図28(c)はコントロール血液(CONT)のROC曲線を示す。感度と特
異度は、好中球はそれぞれ99.5%、99.6%、リンパ球はそれぞれ99.4%、99.5%、単球はそれぞれ98.5%、99.9%、好酸球はそれぞれ97.9%、99.8%、好塩基球はそれぞれ71.0%、81.4%、コントロール血液(CONT)は、99.8%、99.6%となり、いずれも良好な成績を示した。
【0187】
以上の結果から、波形データに基づいて生体試料に含まれる細胞から取得される信号に基づいて、深層学習アルゴリズムを用いることにより、細胞の種別を判定することが可能であることが明らかとなった。
【0188】
さらに、コントロール血液のような非健常血液細胞が健常血液細胞と混じっている場合、従来のスキャッタグラム法では、判定困難な場合があった。しかし、本実施形態の深層学習アルゴリズムを使用することにより、非健常血液細胞が健常血液細胞と混じっている場合であってもこれらの細胞の判定が可能であることが示された。