(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164574
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】眼用レンズの付加的な製造方法、及び眼用レンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 13/00 20060101AFI20231102BHJP
G02C 7/00 20060101ALI20231102BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20231102BHJP
G02C 7/12 20060101ALI20231102BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20231102BHJP
G02B 1/11 20150101ALI20231102BHJP
【FI】
G02C13/00
G02C7/00
G02C7/10
G02C7/12
G02B1/14
G02B1/11
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023150311
(22)【出願日】2023-09-15
(62)【分割の表示】P 2020530997の分割
【原出願日】2018-12-05
(31)【優先権主張番号】17306712.5
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】518007555
【氏名又は名称】エシロール・アンテルナシオナル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-マーク・パデュウ
(72)【発明者】
【氏名】マテュー・フィヤード
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル・グロー
(72)【発明者】
【氏名】ロイク・クエール
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・ルセル
(57)【要約】
【課題】付加製造による眼用レンズの製造方法であって、眼用レンズに付加価値を提供することがより簡単になる方法を提供する。
【解決手段】本願は、少なくとも1つの光学関数を有する眼用レンズ(40)の製造方法であって、-予め決められた構築用支持体(10)に複数の予め決められた体積要素を堆積することによって、相補的な光学素子(12)を付加的に製造するステップであって、相補的な光学素子(12)は、眼用レンズ(40)の光学関数の少なくとも一部をもたらすように適合されているステップを含み、構築用支持体(10)は、眼用レンズ(40)に少なくとも1つの付加機能をもたらすように適合された少なくとも1つの付加価値を含む、製造方法に関する。本願はまた、構築用支持体(10)及び相補的な光学素子(12)を含む眼用レンズ(40)、並びにそのような製造方法によって得られた眼用レンズ(40)に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの光学関数を有する眼用レンズ(40)の製造方法であって、
- 予め決められた構築用支持体(10)に複数の予め決められた体積要素を堆積することによって、相補的な光学素子(12)を付加的に製造するステップであって、前記相補的な光学素子(12)は、前記眼用レンズ(40)の前記光学関数の少なくとも一部を提供するように適合されており、前記予め決められた構築用支持体(10)は可撓性フィルム又はパッチである、ステップと、
- 前記相補的な光学素子(12)を組み立てるステップであって、前記組み立てるステップ中、前記構築用支持体(10)を前記相補的な光学素子(12)に残した状態で前記出発光学系(30)に前記相補的な光学素子(12)を組み立て、前記構築用支持体(10)は、前記構築用支持体(10)と前記出発光学系(30)との間に配置された前記相補的な光学素子(12)を備えた前記眼用レンズ(40)の外層として配置される、ステップと、
を含み、
前記構築用支持体(10)は、前記眼用レンズ(40)に少なくとも1つの付加機能をもたらすように適合された少なくとも1つの付加価値を含む、方法。
【請求項2】
前記相補的な光学素子(12)の形状及び屈折力は、前記眼用レンズ(40)の前記所望の光学関数に応じて予め決められている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は糊付けステップを含み、そこで、接着性を有する糊付け要素が、前記相補的な光学素子(12)、前記出発光学系(30)及び前記構築用支持体(10)のうちの少なくとも1つにもたらされる又は含まされる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記組み立てステップの前に、前記相補的な光学素子(12)を受け入れることを目的とした前記構築用支持体(10)の外表面に前記少なくとも1つの付加価値を加えるステップであって、前記構築用支持体(10)が前記相補的な光学素子(12)から除去される場合、前記少なくとも1つの付加価値は、前記相補的な光学素子(12)に残るように適合されているステップを、更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの付加機能は、前記組み立てステップの後にもたらされる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記構築用支持体(10)は、前記相補的な光学素子(12)が前記構築用支持体(10)に接触するときに、前記少なくとも1つの付加価値を前記相補的な光学素子(12)へ転写するように適合されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの付加機能は、偏光又は着色フィルター、ハードコート機能、反射防止機能、保護膜、及び表面品質機能の中の1つである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの光学関数を有する眼用レンズ(40)であって、
-構築用支持体(10)と、
-複数の予め決められた体積要素(14)を前記予め決められた構築用支持体(10)に堆積させることによって付加製造することで得られた相補的な光学素子(12)であって、前記眼用レンズ(40)の前記光学関数の少なくとも一部を提供する相補的な光学素子(12)と、
を含み、
前記構築用支持体(10)は、前記眼用レンズ(40)に少なくとも1つの付加機能をもたらすように適合された少なくとも1つの付加価値を含み、
前記予め決められた構築用支持体(10)は可撓性フィルム又はパッチであり、前記構築用支持体(10)は、前記構築用支持体(10)と前記出発光学系(30)との間に配置された前記相補的な光学素子(12)を備えた前記眼用レンズ(40)の外層として配置される、眼用レンズ(40)。
【請求項9】
少なくとも1つの光学関数を有する眼用レンズ(40)であって、前記眼用レンズ(40)は、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法によって得られており、
前記眼用レンズ(40)は前記眼用レンズの前記光学関数の少なくとも一部をもたらす相補的な光学素子を含み、
前記相補的な光学素子(12)は、複数の予め決められた体積要素(14)を予め決められた構築用支持体(10)に堆積させることにより付加的に製造することによって得られており、
前記構築用支持体(10)は、柔軟性フィルム又はパッチであり、かつ、前記眼用レンズ(40)に少なくとも1つの付加機能をもたらすように適合された少なくとも1つの付加価値を含み、
前記構築用支持体(10)は、前記構築用支持体(10)と前記出発光学系(30)との間に配置された前記相補的な光学素子(12)を備えた前記眼用レンズ(40)の外層として配置される、眼用レンズ(40)。
【請求項10】
さらに、前記相補的な光学素子(12)の表面に組み立てられた出発光学系(30)を含む、請求項8又は9に記載の眼用レンズ(40)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの光学関数を有する眼用レンズの製造の分野に関する。より具体的には、本発明は、眼用レンズの製造方法に関する。本発明は、さらに、少なくとも部分的には付加製造(additive manufacturing)によって得られた眼用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造によって得られた相補的な光学素子を備える眼用レンズの製造方法が知られている。これらの方法は、複数の予め決められた量の材料を構築用支持体に堆積させることによって、相補的な光学素子を得るステップを含む。その後、前記相補的な光学素子を、構築用支持体有り又は無しに、出発光学系上へ転写して、眼用レンズを形成する。
【0003】
しかしながら、これらの方法によって眼用レンズに付加価値を加えることは困難である。実際、付加製造法によって相補的な光学素子を製造することによって、その外表面が波立ち、表面品質が不満足なものになることが認められている。さらに、眼用レンズが、付加製造によって得られた相補的な光学素子を含むとき、眼用レンズに付加機能を提供することは困難である。付加機能は、例えば偏光又は着色フィルター、ハードコート機能、反射防止機能、保護膜、及び表面品質機能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
それゆえ、本発明が解決を目指す問題は、付加製造による眼用レンズの製造方法であって、眼用レンズに付加価値を提供することがより簡単になる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この問題を解決するために、本発明は、少なくとも1つの光学関数を有する眼用レンズの製造方法であって、
複数の予め決められた体積要素を予め決められた構築用支持体に堆積させることにより相補的な光学素子を付加的に製造するステップであって、相補的な光学素子は、眼用レンズの光学関数の少なくとも一部をもたらすように適合されているステップを含み、
構築用支持体は、眼用レンズに少なくとも1つの付加機能をもたらすように適合された少なくとも1つの付加価値すなわち接着剤を含む、方法を提供する。
【0006】
少なくとも1つの付加価値すなわち接着剤を備えるそのような構築用支持体は、第1に、眼用レンズに一体化され得る付加製造用の支持体を提供可能にし、そのため、少なくとも1つの付加機能を眼用レンズに提供可能にする、複合作用を有する。この構築用支持体を使用することによって、眼用レンズの製造を容易にできる。なぜなら、付加機能の追加は、それに続く追加的なステップではなく、付加製造プロセスに組み込まれるためである。さらに、構築用支持体によって少なくとも1つの付加機能を提供することが、出発光学系上へ相補的な光学素子を転写するのに続く追加的なステップよりも、簡単且つ効率的であることが認められている。
【0007】
製造方法の実施形態によれば、構築用支持体は、接着剤以外の少なくとも1つの付加価値を含む。
【0008】
製造方法の実施形態によれば、相補的な光学素子の形状及び屈折力は、眼用レンズの所望の光学関数に応じて予め決められている。
【0009】
製造方法の実施形態によれば、相補的な光学素子は、相補的な光学素子の付加的な製造ステップ後に、出発光学系に固定され、接着され、及び/又は記録され(reported)て、眼用レンズを形成する。
【0010】
製造方法の実施形態によれば、構築用支持体を、組み立てステップ中、相補的な光学素子に残した状態で、相補的な光学素子は出発光学系に組み立てられる。
【0011】
製造方法の実施形態によれば、構築用支持体が、出発光学系と相補的な光学素子との間に配置されるように、相補的な光学素子は出発光学系に組み立てられている。
【0012】
製造方法の実施形態によれば、構築用支持体は、組み立てステップ中又はその後、相補的な光学素子から除去されて、構築用支持体のない眼用レンズを得る。
【0013】
製造方法の実施形態によれば、この方法は糊付けステップを含み、そこで、接着性を有する糊付け要素が、相補的な光学素子、出発光学系及び構築用支持体のうちの少なくとも1つにもたらされる又は含まされる。
【0014】
製造方法の実施形態によれば、さらに、組み立てステップの前に、相補的な光学素子を受け入れることを目的とした構築用支持体の外表面に少なくとも1つの付加価値すなわち接着剤を加えるステップを含み、前記少なくとも1つの付加価値すなわち接着剤は、構築用支持体が相補的な光学素子から除去される場合にも、相補的な光学素子に残るように適合されている。
【0015】
製造方法の実施形態によれば、前記少なくとも1つの付加機能は、組み立てステップ後にもたらされる。
【0016】
製造方法の実施形態によれば、構築用支持体はフィルムである。
【0017】
製造方法の実施形態によれば、構築用支持体は、相補的な光学素子が構築用支持体に接触するときに、前記少なくとも1つの付加価値すなわち接着剤を相補的な光学素子に転写するように適合されている。
【0018】
製造方法の実施形態によれば、少なくとも1つの付加機能は、偏光又は着色フィルター、ハードコート機能、反射防止機能、保護膜、及び表面品質機能のうちの1つである。
【0019】
本発明はまた、少なくとも1つの光学関数を有する眼用レンズであって、
-構築用支持体と、
-複数の予め決められた体積要素を予め決められた構築用支持体に堆積させることによって付加製造することで得られた相補的な光学素子であって、眼用レンズの光学関数の少なくとも一部を提供する相補的な光学素子と、
を含み、
構築用支持体は、眼用レンズに少なくとも1つの付加機能を提供するように適合された少なくとも1つの付加価値すなわち接着剤を含む、眼用レンズを提供する。
【0020】
本発明は、さらに、少なくとも1つの光学関数を有する眼用レンズであって、眼用レンズは、上述のような製造方法によって得られており、眼用レンズは眼用レンズの光学関数の少なくとも一部を提供する相補的な光学素子を含み、
相補的な光学素子は、複数の予め決められた体積要素を予め決められた構築用支持体に堆積させることによって付加的な製造することで得られ、
構築用支持体は、眼用レンズに少なくとも1つの付加機能をもたらすように適合された少なくとも1つの付加価値すなわち接着剤を含む、眼用レンズを提供する。
【0021】
眼用レンズの実施形態によれば、さらに、相補的な光学素子の表面に組み立てられた出発光学系を含む。
【0022】
眼用レンズの実施形態によれば、構築用支持体は、相補的な光学素子と出発光学系との間に配置されている。
【0023】
本発明は、図面によってより詳細に説明され、図面は、本発明の好ましい1つの実施形態を示すにすぎない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】構築用支持体への予め決められた体積部の堆積によって得られた眼用レンズを概略的に示す。
【
図2】相補的な光学素子と、構築用支持体と、出発光学系とを含む眼用レンズの製造方法の実施形態の様々なステップを概略的に示す。
【
図3】相補的な光学素子と、構築用支持体と、出発光学系とを含む眼用レンズの製造方法の実施形態の様々なステップを概略的に示す。
【
図4】相補的な光学素子と、構築用支持体と、出発光学系とを含む眼用レンズの製造方法の実施形態の様々なステップを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に示すように、少なくとも1つの光学関数を有する眼用レンズ40が提供されている。そのような眼用レンズ40の製造方法も提供される。眼用レンズ40は、構築用支持体10と、眼用レンズ40の光学関数の少なくとも一部を提供する相補的な光学素子12とを含む。
【0026】
レンズ、系又は光学素子の光学関数は、このレンズ又はこの系又はこの素子の光学応答、すなわち、入射光ビームの入射角がどんなものでも、及び入射光ビームによって照明される入力ジオプトリの幾何学的範囲がどんなものでも、関係するレンズ、系又は光学素子を通過する光ビームの伝搬及び透過における何らかの修正を規定する関数を意味することが、思い出されるであろう。前記少なくとも1つの光学関数は、単関数としても又は複合関数としてもよい。
【0027】
より具体的には、眼科分野では、光学関数は、このレンズ、この系又はこの素子の装用者の全ての注視方向に関して、装用者の屈折力(power)特性値及び乱視すなわち非点収差特性値の分布、及びレンズ、系又は光学素子に関連付けられたより高次の収差の分布として定義される。当然ながら、それは、装用者の眼に対するレンズ、系又は光学素子の幾何学的な位置決めが、予め決定されていたとみなす。
【0028】
相補的な光学素子12は、複数の予め決められた体積要素14を構築用支持体10上に堆積させることにより相補的な光学素子12を付加的に製造するステップによって、得られる。付加製造によって、伝統的な機械加工などの除去製造法(subtractive manufacturing methodologies)とは反対に、通常層毎に3次元モデルデータから物体を作製するために材料を接合するプロセスについて述べている、国際規格ASTM2792-12で定義されているような製造技術を意味する。付加製造法は、限定されるものではないが、光造形、マスク光造形又はマスク投影光造形(mask projection stereolithography)、ポリマージェッティング、走査型レーザ焼結すなわちSLS、走査型レーザ溶融すなわちSLM、熱溶解積層法すなわちFDMからなるリスト内で選択され得る。
【0029】
相補的な光学素子12は、並置され且つ重ね合わせられて、複数の重ね合わせられた材料層を形成する、複数の予め決められた体積要素14によって、形成される。重ね合わせられた層のそれぞれの寸法は、相補的な光学素子12の予め決められたプロファイル16(点線)に適合するように選択される。好ましくは、各層は、長さにわたって一定の厚さを有し、及び全て同じ厚さを有する。これらの層の厚さは、0.1μm~100μm、好ましくは0.5μm~10μmである。予め決められた体積要素14の最小厚さは、主に、相補的な光学素子30を得るために使用される付加製造法に依存する。厚さのこの均一さは、製造機のノズル又はスプレーラインを用いて、重ね合わせられた各材料層に対して決められた量の、予め決められた体積要素を、制御且つ指令して噴霧することによって、得られ得ることに留意されたい。相補的な光学素子12の材料は、付加製造に適合することにも留意されたい。好ましくは、材料は、アクリルポリマー、より具体的にはフォトポリマー、例えばOBJET Ltd.によって商品名VeroClearで販売されている製品などのフォトポリマーである。
【0030】
ここで、付加製造は、3次元印刷又は光造形法に、又はさらには溶融フィラメント製造(fused filament fabrication)法に対応することに留意されたい。好ましくは、付加製造は、ポリマージェッティング及び光造形のうちの1つである。
【0031】
図1では、相補的な光学素子12は、湾曲した、より具体的には凸状の前側面及び平面的な後側面を有する。眼用レンズ40の所望の光学関数に依存して、相補的な光学素子12の前側面及び後側面は、それぞれ、平面的でも又は湾曲していてもよい。相補的な光学素子12、又は予め決められたプロファイル16の形状は、眼用レンズ40の所望の光学関数に依存して決定される。この例では、「平面的な」は、必ずしも「滑らか」を意味せず、及び必ずしも、粗さが存在することを除外しない。さらに、「平面的な」面は、この面がゼロに近い曲率を有することを意味する。
【0032】
相補的な光学素子12の付加製造は、複数の連続的な重ね合わせられた層の堆積に加えて、1つ以上の光重合ステップを含み得ることに留意されたい。相補的な光学素子12の重合は、この相補的な光学素子12の付加製造ステップの最後に完全に終わらなくてもよいことにも留意されたい。この後者の場合には、相補的な光学素子12の最後の重合は、相補的な光学系12の形状を、その光学系が後で転写される基材に適応させるために、組み立てステップの最中又はその後に、完全に完了してもよい。
【0033】
構築用支持体10は、眼用レンズ40に少なくとも1つの付加機能を提供するように適合された少なくとも1つの付加価値すなわち接着剤を含む。好ましくは、構築用支持体10は、眼用レンズ40に少なくとも1つの付加機能を提供するように適合された接着剤以外に、少なくとも1つの付加価値を含む。この少なくとも1つの付加機能は、偏光又は着色フィルター、ハードコート機能、反射防止機能、保護膜、及び表面品質機能の中の1つである。
【0034】
本発明の意味での付加価値は、眼用レンズの機械又は光学特性を、前記眼用レンズの屈折力に影響を及ぼすことなく、修正する層又は要素である。付加価値の包括的でないリストは、以下に見出され得る:ハードコート又は耐摩耗コーティングとも呼ばれる傷防止(anti-scratch)層、下塗層又は下塗りと呼ばれることもある耐衝撃層、着色層又は染料、フォトクロミック層又は染料、偏光層、帯電防止層、反射防止層又はスタック、ミラー又は部分ミラー層、近紫外、可視又は近赤外波長帯内の1つ以上の波長を選択的に吸収又は反射させるフィルタリング層、防汚(anti-smudge)層又は防曇層としても知られる疎水性、親水性又は疎油性層、及びまた、液晶又は電気信号によって活性化された他の要素を含む活性層。
【0035】
構築用支持体10は、相補的な光学素子12が構築用支持体10に接触するときに、前記少なくとも1つの付加価値すなわち接着剤を相補的な光学素子12へ転写するように適合され得る。製造方法は、組み立てステップ前に、少なくとも1つの付加価値すなわち接着剤を、相補的な光学素子12を受け入れることを目的とした構築用支持体10の外表面に加えるステップを含み得る。この場合、構築用支持体10が相補的な光学素子12から除去されるとき、前記少なくとも1つの付加価値すなわち接着剤は、相補的な光学素子12上に残るように適合されている。一例として、付加価値は、構築用支持体10の内側によって相補的な光学素子12にもたらされた特定の表面品質とし得る。或いは、前記少なくとも1つの付加機能は、組み立てステップ後にもたらされてもよい。
【0036】
好都合にも、接着剤は、構築用支持体10上での相補的な光学素子12の接着を簡単にするように適合された層であると定義される。変形例では、接着剤は、製造方法の後半のステップで使用されるように適合されている。
【0037】
眼用レンズ40の製造を簡単にするために、構築用支持体10はフィルムとし得る。換言すると、構築用支持体10は、薄いシート又は膜である。構築用支持体をフィルムとして形成することによって、眼用レンズの製造を簡単にするように構築用支持体を選択的に形作ることを可能にする。一例として、構築用支持体は、最初は平坦としてもよく、付加製造を容易にし、且つ単一の構築用支持体上でのいくつかの相補的な光学素子の製造を可能にする。その後、フィルムとして形成された構築用支持体は、構築用支持体が配置されるべき面に対応する湾曲形状を有するように曲げられ得る。さらに、相補的な光学素子は、出発光学系としての基材上での相補的な光学素子の取り扱い及び基材上への相補的な光学素子の位置決めを改善するように、構築用支持体と一緒に曲げられ得る。それゆえ、フィルムとしての構築用支持体は、相補的な光学素子の製造から相補的な光学素子を基材上へ将来転写するまでの製造方法を、最適にして容易にすることができる。
【0038】
構築用支持体10は、好ましくは可撓性である。このようにして、構築用支持体10は、選択的に形作られ得る。特に、構築用支持体10の可撓性は、相補的な光学素子40を構築用支持体10と一緒に形作る又は曲げることを可能にするため、相補的な光学素子40の取り扱いを容易にする。この形作る又は曲げるステップは、構築用支持体10が熱硬化性材料であるとき、熱成形ステップとし得る。相補的な光学素子12の湾曲形状は、最終形状としても又は中間形状としてもよい。或いは、フィルムは硬質としてもよい。
【0039】
構築用支持体10は、パッチの形態にあってもよい。パッチは、構築用支持体10が予め決められた位置又は形状に留まるようにそれ自体の重量を支持できるようにする機械的振る舞いを有する点で、パッチはフィルムとは異なることに留意されたい。好ましくは、パッチは、予め決められた可撓性を有して、予め決められた応力下で構築用支持体10を簡単に形作る又は曲げることができるようにする。
【0040】
構築用支持体10は、この例では平面的な全体的形状である構築面15を備える本体を含む。構築用支持体10は、付加製造ステップ前に湾曲されるすなわち曲げられて、例えば相補的な光学素子12が後で配置されることを目的とした基材の曲率すなわち湾曲に近い形状の、最終形状の相補的な光学素子12を得てもよい。
【0041】
構築用支持体10は、好ましくは、三酢酸セルロース(TAC)又はポリカーボネート又はポリエチレンテレフタレート(PET)で作製される。構築用支持体10の厚さは、好ましくは50μm~500μm、最も好ましくは100μm~300μmである。
【0042】
構築用支持体10は、構築用支持体10上に連続的に製造された複数の相補的な光学素子12と一緒に使用されるように適合され得る。換言すると、異なる眼用レンズ40の一部であることを目的とした複数の相補的な光学素子12が、単一の構築用支持体10上に付加的に製造され得る。その後、前記複数の相補的な光学素子12は、相補的な光学素子12のそれぞれの間で構築用支持体10を切断する追加的なステップによって、分離され得る。そうすることで、相補的な光学素子12の付加製造は自動化され得る。好ましくは、構築用支持体10はロール形態であり、これは、付加的に製造された相補的な光学素子12を受け入れるように広げられる。
【0043】
好ましい実施形態では、構築用支持体10は眼用レンズ40の一部である。換言すると、構築用支持体10は、眼用レンズ40を形成するために相補的な光学素子12と接触したままである。構築用支持体10は、使用者によって装用されるフレームに眼用レンズ40が装着されるときに使用者の眼に対面することを目的とした相補的な光学素子12の第1の面、又は第1の面に対向する第2の面のいずれかに配置され得る。
【0044】
図2~
図4に示すように、眼用レンズ40は、さらに、相補的な光学素子12の表面に組み立てられる出発光学系30を含み得る。出発光学系30は初期光学関数を有し得る。出発光学系30が既に単光学関数又は複合光学関数を有している場合であっても、眼用レンズ40に光学関数を授けるのは主に相補的な光学素子12であることに留意されたい。換言すると、この相補的な光学素子12がなければ、眼用レンズ40は、それに処方された光学関数を示すことができない。それゆえ、この相補的な光学素子12は、反射防止コーティング、防曇コーティング、傷防止(scratchproof)コーティング又はさらには防汚(dirt-resistant)コーティングなどの単純な表面コーティングとは無関係である。
【0045】
この出発光学系30は、好ましくは、一般的に、名称CR39で知られているアリルポリマー(allylic polymer)などの眼用レンズの製造に使用される材料で作製される。出発光学系30はまた、ポリカーボネート又はMR7ポリマーで作製されてもよい。出発光学系30は、キャスティング、射出、表面仕上げによって、又は付加製造によって、製造され得る。
【0046】
出発光学系30は、好ましくは、屈折力がほぼ計画されたRxである薄いレンズである。特に、出発光学系30の局所的な厚さは、0.3mmを上回り、好ましくは0.5mmを上回る。出発光学系30は、球面、円環状(torical)又は累進とし得る。
図2~
図4では、出発光学系は、平面的な前側面、及び湾曲した後側面を有する。所望の光学関数に依存して、出発光学系30の前側面及び後側面は、それぞれ、平面的でも又は湾曲していてもよい。
【0047】
相補的な光学素子12は、相補的な光学素子12の付加的な製造ステップ後に、出発光学系30に固定、接着、及び/又は記録されて、眼用レンズを形成し得る。
【0048】
好ましい実施形態では、相補的な光学素子12は、好ましくはラミネーションプロセスを使用して、出発光学系30の表面上へ転写される。この転写は、フィルムアプリケータ法、パッド印刷法、膜アプリケータ又はそれらの組み合わせによって、実施され得る。
【0049】
フィルムアプリケータ法では、構築用支持体10はその縁によって維持され、及び出発光学系10は相補的な光学素子12に押し付けられる。この方法は、異なる層の接着を完了するために、真空下で実施され得る。
【0050】
パッド印刷法では、変形可能なスタンプが、相補的な光学素子12を構築用支持体10と一緒に、出発光学系30上へ押圧する。スタンプは、好ましくはゴム製である。このパッド印刷法は、好ましくは、相補的な光学素子12が凹状面上へ転写される必要があるときに、実施される。膜アプリケータ法はパッド印刷法に非常に近いが、この後者の方法とは、ゴムスタンプが、膨張した膜で置き換えられている点で、異なる。
【0051】
相補的な光学素子12の形状及び屈折力は、好ましくは、眼用レンズ40の所望の光学関数に応じて予め決められている。特に、幾何学的な転写法則(geometric transfer law)が使用されて、出発光学系30上へ転写されるときの相補的な光学素子12の変形特性を決定する。そのような幾何学的な転写法則は、例えば、米国特許出願公開第2015/0241714A1号明細書に定義されている。
【0052】
構築用支持体10は、相補的な光学素子12が構築用支持体10に接触するときに、前記少なくとも1つの付加価値すなわち接着剤を相補的な光学素子12へ転写するように適合され得る。製造方法は、組み立てステップ前に、相補的な光学素子12を受け入れることを目的とした構築用支持体10の外表面に少なくとも1つの付加価値すなわち接着剤を加えるステップを含み得る。この場合、前記少なくとも1つの付加価値すなわち接着剤は、構築用支持体10が相補的な光学素子12から除去される場合に、相補的な光学素子12上に残るように適合されている。一例として、付加価値は、構築用支持体10の内側によって相補的な光学素子12へもたらされた特定の表面品質とし得る。或いは、前記少なくとも1つの付加機能は、組み立てステップ後に提供されてもよい。
【0053】
相補的な光学素子12は、構築用支持体10有り又は無しに、出発光学系30の前側面又は後側面に選択的に組み立てられ得る。換言すると、相補的な光学素子12は、装用者の眼に対面することを目的とした出発光学系30の面上に、又は対向する面上に、選択的に組み立てられ得る。さらに、構築用支持体10は、相補的な光学素子12の第1又は第2の面に配置され得る。
【0054】
さらに、上述の通り、構築用支持体10は、眼用レンズ40の一部としても、又は組み立てステップ中に又はその後に除去されてもよい。
【0055】
図2及び
図4に示すように構築用支持体10が眼用レンズ40の一部であるとき、組み立てステップ中、構築用支持体10を相補的な光学素子12に残した状態で、相補的な光学素子12は出発光学系30に組み立てられる。
【0056】
構築用支持体10は、相補的な光学素子12と出発光学系30との間に、又は眼用レンズ40の外層として、配置され得る。
図2に示すように、構築用支持体10が相補的な光学素子12と出発光学系30との間に配置されるとき、相補的な光学素子12は出発光学系30に組み立てられるため、構築用支持体10は、出発光学系30と相補的な光学素子12との間に配置される。
【0057】
図4に示すように、構築用支持体10が眼用レンズ40の外層であるとき、相補的な光学素子12は構築用支持体10と出発光学系30との間に配置される。構築用支持体10を縁取りする任意選択的なステップが、構築用支持体10の周辺縁を相補的な光学素子12及び出発光学系30の外縁に対応させるために、実施され得る。
【0058】
図3に示すように、組み立てステップ後に、眼用レンズ40には構築用支持体10がない状態である必要があるとき、構築用支持体10は、組み立てステップ中又はその後、相補的な光学素子12から除去される。この場合、付加価値は、フッ素化ポリマーとしての、相補的な光学素子12からの構築用支持体10の除去を簡単にする機能とし得る。相補的な光学素子12から構築用支持体10を除去することによって、追加的な平滑化ステップが全くなくても、相補的な光学素子12の外表面の光学的品質を改善することが可能になる。それゆえ、相補的な光学素子12の外表面の光学的品質は、構築用支持体10によって提供される。
【0059】
図2~
図4は、眼用レンズ40の製造方法の3つの実施形態の様々なステップを概略的に示す。最初に、相補的な光学素子12は、構築用支持体10上に付加的に製造される。その後、相補的な光学素子12及び構築用支持体10は出発光学系30上へ転写されて、眼用レンズ40を形成する。
図2及び
図4に示す実施形態では、構築用支持体10は、眼用レンズ40の一部であるため、転写ステップ後も相補的な光学素子12と接触したままである。特に、
図2の実施形態では、構築用支持体10は出発光学系30と相補的な光学素子12との間に配置されるが、
図4の実施形態では、構築用支持体10は眼用レンズ40の外層として配置される。その後、構築用支持体10を縁取りする任意選択的なステップが実施されて、構築用支持体10の周辺縁を相補的な光学素子12及び出発光学系30の外縁に対応させる。反対に、
図3の実施形態では、構築用支持体10は、出発光学系30上へ転写された後、相補的な光学素子12から除去される。
【0060】
好ましい実施形態では、製造方法は糊付けステップを含み、ここで、接着性を有する糊付け要素又は接着剤が、相補的な光学素子12、出発光学系30及び構築用支持体10のうちの少なくとも1つにもたらされるか又は含まれる。最初の場合には、この糊付け要素は、眼用レンズ40の2つの層の間に配置される糊付け層とし得る。糊層を選択した領域に堆積させるためには、ポリマージェッティング技術が好ましい。最も好ましくは、同じ機器が、糊層及び相補的な光学素子12の製造に使用される。ポリマージェッティング技術の別の利点は、付加製造機が、様々な材料を備える複数の印刷ヘッドを有し得ることである。糊層はまた、スピン又はスプレーコーティングによって堆積され得る。特に、スピンコーティングは、出発光学系30上に堆積するときに好ましく、及びスプレーコーティングは、構築用支持体10上に堆積するときに好ましい。これらのスピンコーティング及びスプレーコーティングは、感圧接着剤を堆積するのに特に興味深い。
【0061】
糊付け要素は、光を用いて、熱硬化によって、又は圧力によって、活性化されるように選択され得る。
【0062】
活性化が紫外線光によって行われるとき、構築用支持体10、相補的な光学素子12及び出発光学系30のうちの少なくとも1つが、活性化波長を少なくとも部分的に透過する。
【0063】
活性化が熱硬化によって行われるとき、硬化温度は、好ましくは、構築用支持体10、相補的な光学素子12及び出発光学系30のガラス転移温度を下回り、レンズ歪みを回避する。熱活性化は、好ましくは、構築用支持体10、相補的な光学素子12及び出発光学系30の熱膨張が互いに近いときに、使用される。
【0064】
活性化が圧力によって行われるとき、糊付け要素は、好ましくは構築用支持体10の材料のうちの少なくとも1つである感圧接着剤(PSA)である。
【0065】
光又は熱硬化の活性化の場合、糊付け要素は、相補的な光学素子12の製造に使用されるポリマー樹脂とし得る。
【符号の説明】
【0066】
10 出発光学系
12 光学系
14 体積要素
15 構築面
16 プロファイル
30 出発光学系
40 眼用レンズ
【外国語明細書】