(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164661
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】ナノエレクトロポレーション及び他の非エンドサイトーシスの細胞トランスフェクションから、治療用の細胞外小胞を生産する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/87 20060101AFI20231102BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231102BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20231102BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
C12N15/87 Z
C12N5/10
C12N1/00 U
C12M1/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023152497
(22)【出願日】2023-09-20
(62)【分割の表示】P 2020505790の分割
【原出願日】2018-08-06
(31)【優先権主張番号】62/541,157
(32)【優先日】2017-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514137997
【氏名又は名称】オハイオ・ステイト・イノベーション・ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー、レイ、ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】シー、ジュンフェン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ザオギャン
(57)【要約】
【課題】多数の治療用の細胞外小胞(EV)を生産する方法の提供。
【解決手段】機能性核酸及び他の生体分子のハイコピーを含む、多数の治療用の細胞外小胞(EV)を生産する方法であって、チップの表面であって、その上に形成された三次元(3D)のナノチャネルエレクトロポレーション(NEP)バイオチップを有する該表面にドナー細胞を置くステップ、チップ上の緩衝液に様々なプラスミド、他のトランスフェクションベクター及びそれらの組み合わせを添加するステップ、チップの表面に置かれた細胞及びチップの表面下のプラスミド/ベクター緩衝溶液の全体にパルス電界を印加することにより、結果として細胞を強く刺激して非エンドサイトーシスでプラスミド/ベクターを細胞内に送達するステップ、及びトランスフェクトされた細胞によって分泌されたEVを採取するステップを含む、方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性核酸及び他の生体分子のハイコピーを含む、多数の治療用の細胞外小胞(EV)を生産する方法であって、
チップの表面であって、その上に形成された三次元(3D)のナノチャネルエレクトロポレーション(NEP)バイオチップを有する該表面にドナー細胞を置くステップ、
チップ上の緩衝液に様々なプラスミド、他のトランスフェクションベクター及びそれらの組み合わせを添加するステップ、
チップの表面に置かれた細胞及びチップの表面下のプラスミド/ベクター緩衝溶液の全体にパルス電界を印加することにより、結果として細胞を強く刺激して非エンドサイトーシスでプラスミド/ベクターを細胞内に送達するステップ、及び
トランスフェクトされた細胞によって分泌されたEVを採取するステップを含む、方法。
【請求項2】
ナノチャネルの直径は50~900nmである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プラスミド及びベクターはmRNA、マイクロRNA、shRNA及び他のRNAを転写し、トランスフェクトされた細胞内でのタンパク質及び他の生体分子の翻訳をもたらす、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
トランスフェクトされた細胞によって分泌されたEVが、転写されたmRNA、マイクロRNA、shRNA、及び他のRNA、並びに翻訳されたタンパク質及び他の生体分子を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
トランスフェクトされた細胞内での小胞形成及びエキソサイトーシスを促進する、熱ショックタンパク質及び他のタンパク質の発現を増加させる手段が手順に追加され、該手段は細胞の熱ショック処理、又は培養細胞への熱ショックタンパク質の添加を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
トランスフェクトされた細胞内でのエクソソーム形成を促進するタンパク質の発現を増加させる手段が手順に追加され、該手段はCD63、CD9及び他のDNAプラスミドのコトランスフェクションを含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
RNA/タンパク質標的の共局在化及びEV分泌を促進するために、多種のDNAプラスミド及び他のベクターが、トランスフェクトされた細胞に逐次的に送達される、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
DNAプラスミド、他のトランスフェクションベクター、RNA、タンパク質/ペプチド、小分子薬等の外因性生体分子が、NEPによるドナー細胞の逐次的なトランスフェクションによって細胞内の小胞内でカプセル化され、治療用のEVとして分泌される、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
NEPに加えて、ドナー細胞に強い刺激を与え、高速RNA転写及びタンパク質翻訳のためのEV分泌及び非エンドサイトーシスでのプラスミド/ベクター送達を促進する、他の細胞トランスフェクション法が、同様の効力を有する治療用のEVを産生する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
他の細胞トランスフェクション法が、遺伝子銃、及びマイクロ又はナノインジェクションを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
プラスミド及び/又は他のベクターはナノ又はミクロンサイズの金又は他の固体の粒子に係留され、それらの粒子は遺伝子銃を使用して空気圧力下でドナー細胞に注入され、強い細胞刺激及び非エンドサイトーシスのプラスミド/ベクター送達を引き起こす、請求項8から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
プラスミド及び/又は他のベクターはナノ又はミクロンサイズのチップアレイに係留され、ドナー細胞はそれらのチップによって引き抜かれ、強い細胞刺激及びドナー細胞への非エンドサイトーシスのプラスミド/ベクター送達を引き起こす、請求項8から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
三次元(3D)のナノチャネルエレクトロポレーション(NEP)バイオチップ、及びその上に形成された受容用の緩衝液であって、プラスミド及び他のトランスフェクションベクターを受容するのに適した緩衝液、を有するチップを含む、機能性核酸及び他の生体分子のハイコピーを含む多数の治療用の細胞外小胞(EV)を生産するためのデバイス。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか1項に記載の方法でトランスフェクトされた細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドナー細胞へDNAプラスミド及び他のベクターを非エンドサイトーシス送達することによる、機能性メッセンジャーRNA(mRNA)、マイクロRNA(miR)、ショートヘアピンRNA(shRNA)、タンパク質、及び他の生体分子を含む治療用の細胞外小胞(EV)、特にエクソソームを生産する方法であって、DNAプラスミド/ベクターの非エンドサイトーシス送達が細胞質内でのRNAの高速転写とタンパク質の翻訳をもたらす間に、送達によって引き起こされる強い刺激によってドナー細胞に細胞内で多数の小胞を生産し、EVとしてドナー細胞から分泌される前に、それらの機能性生体分子を内因的に小胞にカプセル化させることによる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソーム、マイクロベシクル及び他の小胞を含む細胞外小胞(EV)は、多数の細胞型によって分泌される。人体において、1mLの血液中に>10E12個のEVがあり、またそれらはさまざまな体液中にも存在する。エクソソームはナノベシクル(40~150nm)である一方、マイクロベシクルのサイズは<100nmから>1μmまで様々である。それらには、コーディングRNA及び非コーディングRNAの両方及びそれらの断片、DNA断片、タンパク質、並びにその他の細胞関連生体分子が含まれる。EV及びその生体分子含有量は、疾患診断のバイオマーカーとして提案されている。さらに、それらは腫瘍の微小環境及び循環における細胞間コミュニケーションにおいて、主要な役割を果たす。
【0003】
機能性RNA及びタンパク質を搭載したEVは、治療用途の薬物及び薬物担体としても提案されている。特定の核酸及び/又はタンパク質をin vivo又はin vitroで標的の組織又は細胞型に送達するには、内因性又は外因性のいずれかの治療用のカーゴと共にEVを生産し得る方法が必要である。
【0004】
近年、従来のバルクエレクトロポレーション(BEP)による外因性の低干渉RNA(siRNA)及びshRNAのプラスミドの既存のエクソソームへの後挿入が開発された。それらの治療機能は、癌及び非癌疾患のいくつかのマウスモデルで成功裏に実証されているが、このアプローチは多くの制限に直面している。第一に、DNAプラスミド、mRNA、タンパク質等の大きな生体分子をナノサイズのエクソソームに後挿入することは非効率的である。第二に、BEPによって発生した強い電場は、多くのエクソソームを破壊し、治療用のエクソソームの収率の低下をもたらすだろう。さらに、mRNAやタンパク質等の多くの大きな生体分子は、体外で合成するのが難しく、高価である。
【0005】
ドナー細胞にDNAプラスミド又は他のベクターをトランスフェクトして、治療用のRNA及びタンパク質標的を内在的に含む、多数のエクソソーム又は他のEVを産生する新しい方法を開発することができれば、非常に望ましいだろう。
【0006】
先行の米国特許出願第14/282630号では、我々はDNAプラスミド又はその他の荷電粒子及び分子を非エンドサイトーシスに、良好な投与量制御で個々の細胞に送達できるナノチャネルエレクトロポレーション(NEP)バイオチップを開発した。上記特許ではNEPが、前述の後挿入の方法では達成できない、機能的mRNA及びマイクロRNA標的のハイコピーを含む、多数の治療用のエクソソームを生成できることを示す。適切な細胞刺激及び高速のプラスミド/ベクター送達を提供することができれば、NEPに加えて、遺伝子銃、マイクロ/ナノインジェクション等の他の非エンドサイトーシス送達法でも、同様のパフォーマンスを達成できる可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、多数の小胞及び転写されたRNA、並びに翻訳されたタンパク質等がトランスフェクトされた細胞内で形成されるように、DNAプラスミド及び他のベクターを強力な細胞刺激によって非エンドサイトーシスでドナー細胞に送達し得る新規の概念及び方法の開発に関する。細胞は、治療機能を備えた特定のRNA及びタンパク質標的を含む多くの細胞外小胞(EV)を分泌するだろう。
【0008】
上記の設計概念を実証するために、多くのドナー細胞を事前に指定されたDNAプラスミドでトランスフェクトして、非トランスフェクトドナー細胞から分泌されるEVよりも最大で数千倍多い、無傷のmRNA及びmiRのターゲットのハイコピーを含むエクソソームを含む10~100倍以上のEVを分泌し得る三次元(3D)NEPバイオチップを作製する。
【0009】
本発明のいくつかの態様は、機能性核酸及び他の生体分子のハイコピーを含む、多数の治療用の細胞外小胞(EV)を生成する方法によって達成される。このような方法は、
チップの表面であって、その上に形成された三次元(3D)のナノチャネルエレクトロポレーション(NEP)バイオチップを有する該表面にドナー細胞を置くステップ;
チップ上の緩衝液に様々なプラスミド、他のトランスフェクションベクター及びそれらの組み合わせを添加するステップ;
チップ表面上に置かれた細胞及びチップの表面下のプラスミド/ベクター緩衝液の全体にパルス電界を印加することにより、結果として細胞を強く刺激して非エンドサイトーシスでプラスミド/ベクターを細胞に送達するステップ;及び
トランスフェクトされた細胞によって分泌されたEVを採取するステップを含む。
【0010】
これらの方法のいくつかでは、ナノチャネルの直径は50~900nmの間である。
【0011】
これらの方法のいくつかでは、プラスミド及びベクターはmRNA、マイクロRNA、shRNA及び他のRNAを転写し、トランスフェクトされた細胞内でのタンパク質及び他の生体分子の翻訳をもたらす。
【0012】
本発明の方法におけるいくつかの実施形態において、トランスフェクトされた細胞によって分泌されたEVが、転写されたmRNA、マイクロRNA、shRNA、及び他のRNA、並びに翻訳されたタンパク質及び他の生体分子を含む。
【0013】
本発明の方法におけるいくつかの実施形態において、トランスフェクトされた細胞内での小胞形成及びエキソサイトーシスを促進し得るように、熱ショックタンパク質及び他のタンパク質の発現を増加させる手段が手順に追加され、該手段は細胞の熱ショック処理、又は培養細胞への熱ショックタンパク質の添加を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、トランスフェクトされた細胞内でのエクソソーム形成を促進するタンパク質の発現を増加させる手段が手順に追加され、該手段はCD63、CD9及び他のDNAプラスミドのコトランスフェクションを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、RNA/タンパク質標的の共局在化及びEV分泌を促進するために、多種のDNAプラスミド及び他のベクターがトランスフェクトされた細胞に逐次的に送達される。
【0016】
いくつかの実施形態では、DNAプラスミド、他のトランスフェクションベクター、RNA、タンパク質/ペプチド、小分子薬等の外因性生体分子は、NEPによるドナー細胞の逐次的なトランスフェクションによって細胞内の小胞内でカプセル化され、治療用のEVとして分泌される。これらの形態の一部では、NEPに加えて、ドナー細胞に強い刺激を与え、高速RNA転写及びタンパク質翻訳のためのEV分泌及び非エンドサイトーシスでのプラスミド/ベクター送達を促進する、他の細胞トランスフェクション法を使用して、同様の効果を持つ治療用のEVを生成する。さらにこれらの形態では、他の細胞トランスフェクション法に、遺伝子銃、及びマイクロ又はナノインジェクションが含まれる。
【0017】
いくつかの実施形態では、プラスミド及び/又は他のベクターはナノ又はミクロンサイズの金又は他の固体の粒子に係留され、それらの粒子は遺伝子銃を使用して空気圧力下でドナー細胞に注入され、強い細胞刺激及び非エンドサイトーシスのプラスミド/ベクター送達を引き起こす。
【0018】
いくつかの実施形態では、プラスミド及び/又は他のベクターは、ナノサイズ又はミクロンサイズのチップアレイに係留され、ドナー細胞はこれらのチップによって引き抜かれ、強い細胞刺激及びドナー細胞内への非エンドサイトーシスのプラスミド/ベクター送達を引き起こす。
【0019】
本発明の他の態様は、三次元(3D)のナノチャネルエレクトロポレーション(NEP)バイオチップ、及びその上に形成された受容用の緩衝液であって、プラスミド及び他のトランスフェクションベクターを受容するのに適した緩衝液、を有するチップを含む、機能性核酸及び他の生体分子のハイコピーを含む多数の治療用の細胞外小胞(EV)を生産するためのデバイスによって達成される。
【0020】
本発明の他の態様は、上述の方法のいずれかによりトランスフェクトされた細胞を含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本開示の多くの態様は、以下の図面を参照してより理解することができる。図面の構成要素は必ずしも縮尺通りではなく、代わりに本開示の原理を明確に描写することに重点が置かれている。
【
図1】ドナー細胞トランスフェクション用の3Dナノチャネルエレクトロポレーション(NEP)バイオチップの概略図である。
【
図2A】YOYO-1で蛍光標識した、神経関連遺伝子であるAchaete-Scute Complex Like-1(Ascl1)のDNAプラスミドを使用した、トランスフェクション後1時間のBEP及びNEPベースの細胞トランスフェクションの比較を示す。
【
図2B】YOYO-1で蛍光標識した、神経関連遺伝子であるAchaete-Scute Complex Like-1(Ascl1)のDNAプラスミドを使用した、トランスフェクション後1時間のBEP及びNEPベースの細胞トランスフェクションの比較を示す。
【
図3】DNAプラスミドを含む又は含まないNEP細胞トランスフェクションが、トランスフェクトされたマウス胚線維芽細胞(MEF)細胞からのEV分泌を著しく刺激し、リポフェクタミン(Lipo)及びBEPベースの細胞トランスフェクションよりもはるかに優れた性能を有することを示す。Ctrlは、トランスフェクトされていないMEF細胞を表す。NEPは、DNAプラスミドによるNEP細胞トランスフェクションを表す。NEP-PBSは、PBSバッファー(緩衝液)のみによるNEP細胞トランスフェクションを表す。使用するDNAプラスミドは、重量比2/1/1のAchaete-Scute Complex Like-1(Ascl1)、Pou Domain Class 3 Transcription factor 2(Pou3f2又はBrn2)及びMyelin Transcription Factor 1 Like(Myt1l)である。これらのDNAプラスミドの混合物は、ドナー細胞を誘導ニューロン(iN)に再プログラムすることが知られている。
【
図4】NEPでトランスフェクトされたMEF細胞からのEV分泌における、ヒートショックプロテイン70(HSP70)の阻害剤及びヒートショックプロテイン90(HSP90)の阻害剤の効果を示す。NEPトランスフェクション後、細胞培養物をHSP70阻害剤(VER 155008、50μM)、HSP90阻害剤(NVP-HSP90、1μM)、又はそれらの混合物を含む新鮮な培地に交換した。トランスフェクション後24時間で培地を採取し、動的光散乱(DLS)ゴニオメトリーによりEVの数を検出した。
【
図5】MEF細胞からのEV分泌における、CD63のDNAプラスミドのNEPトランスフェクションの効果を示す。NEPによってCD63プラスミドの有無にかかわらず細胞をトランスフェクトした。細胞培養培地を採取し、4時間毎に新鮮な培地と交換した。EVの数はDLSゴニオメトリーによって検出した。
【
図6】細胞トランスフェクションの24時間後に採取されたNEP有り又は無しのEVの、DLSによって測定されたサイズ分布を示す。
【
図7】諸手法を用いてAscl1/Brn2/Myt1lのDNAプラスミドを2/1/1の比率でトランスフェクトしたMEF細胞からの、qRT-PCRによって測定された、トランスフェクション後24時間のEVのAscl1のmRNA発現を示す。
【
図8】諸手法を用いてAscl1/Brn2/Myt1lのDNAプラスミドを2/1/1の比率でトランスフェクトしたMEF細胞からの、qRT-PCRによって測定された、トランスフェクション後24時間のEVのBrn2のmRNA発現を示す。
【
図9】諸手法を用いてAscl1/Brn2/Myt1lのDNAプラスミドを2/1/1の比率でトランスフェクトしたMEF細胞から、qRT-PCRによって測定された、トランスフェクション後24時間のEVのMyt1lのmRNA発現を示す。
【
図10】NEPによって得たEVのみが、in vitro翻訳によって測定された機能的mRNAを含むことを示す。
【
図11】NEPからのEV-mRNAが、マイクロベシクル内ではなくエクソソーム内に存在することを示す。
【
図12】NEP細胞トランスフェクションからの、マイクロベシクル-RNAではなくエクソソーム-mRNAがタンパク質を翻訳し得ることを示す。
【
図13】NEPでトランスフェクトしたMEF細胞からのEV-mRNAの分泌プロファイルを示す。
【
図14】パッチクランプによる活動電位検出が、Ascl1/Brn2/Myt1lのmRNAを含むNEPから得たEVを1日おきにトランスフェクトしたMEF細胞は、24日後に機能的な誘導ニューロン(iN)に再プログラミングされ得ることを示す。
【
図15】諸手法を用いて、miR-128のDNAプラスミドをトランスフェクトしたMEF細胞から、qRT-PCRによって測定された、トランスフェクション後24時間のEVとしてのmiR-128発現を示す。
【
図16A】MEF細胞へのDNAプラスミドのNEPトランスフェクションによるmiR-128を含む分泌されたEVと、事前採取されたmiR-128をBEP後挿入によって装填した既存のEVとの比較である。
【
図16B】MEF細胞へのDNAプラスミドのNEPトランスフェクションによるmiR-128を含む分泌されたEVと、事前採取されたmiR-128をBEP後挿入によって装填した既存のEVとの比較である。
【
図16C】MEF細胞へのDNAプラスミドのNEPトランスフェクションによるmiR-128を含む分泌されたEVと、事前採取されたmiR-128をBEP後挿入によって装填した既存のEVとの比較である。
【
図16D】MEF細胞へのDNAプラスミドのNEPトランスフェクションによるmiR-128を含む分泌されたEVと、事前採取されたmiR-128をBEP後挿入によって装填した既存のEVとの比較である。
【
図16E】MEF細胞へのDNAプラスミドのNEPトランスフェクションによるmiR-128を含む分泌されたEVと、事前採取されたmiR-128をBEP後挿入によって装填した既存のEVとの比較である。
【
図17A】MEF細胞へのDNAプラスミドのNEPトランスフェクションによるBrn2のmRNAを含む分泌されたEVと、事前採取されたBrn2のmRNAをBEP後挿入によって装填した既存のEVとの比較である。
【
図17B】MEF細胞へのDNAプラスミドのNEPトランスフェクションによるBrn2のmRNAを含む分泌されたEVと、事前採取されたBrn2のmRNAをBEP後挿入によって装填した既存のEVとの比較である。
【
図17C】MEF細胞へのDNAプラスミドのNEPトランスフェクションによるBrn2のmRNAを含む分泌されたEVと、事前採取されたBrn2のmRNAをBEP後挿入によって装填した既存のEVとの比較である。
【
図18】逐次的なNEPによる同じEV内でのmRNAの共局在の増加を示す。NEPトランスフェクションの場合、Ascl1、Brn2、及びMyt1lプラスミドを前述のように同時にトランスフェクトした。逐次的なNEPでは、Myt1lプラスミドを最初にトランスフェクトし、Brn2プラスミドを4時間後にトランスフェクトし、Ascl1プラスミドをBrn2のトランスフェクションの4時間後にトランスフェクトした。Myt1lトランスフェクションの24時間後、TLNアッセイのために培地を採取した。等量のFAM-Ascl1、Cy3-Brn2、及びCy5-Myt1lそれぞれのMBが、EV-mRNA検出用の係留されたリポプレックスナノ粒子内にカプセル化された。黄色の矢印:3つのmRNAを含むEV。青い矢印:2つのmRNAを含むEV。ピンクの矢印:1つのmRNAを含むEV。
【発明を実施するための形態】
【0022】
実施例1:3D NEPバイオチップの概略図と、異なるトランスフェクション法を用いたEV分泌及びEVのmRNA含有量の比較。
図1は、チップ表面にドナー細胞の単一層が置かれた3D NEPバイオチップの概略図を示す。細胞を一晩インキュベートした後、PBSバッファー中に事前に装填したDNAプラスミドを、ナノチャネル全体に220Vの電界を用いて、ナノチャネルを介して個々のドナー細胞に注入した。電圧レベル、パルス数、パルス長等の様々なエレクトロポレーションの条件を選択し得る。
【0023】
YOYO-1で蛍光標識された、Achaete-Scute Complex Like-1(Ascl1)のDNAプラスミドを用い、
図2A及び
図2Bは蛍光顕微鏡を使用して画像化した、488nmの波長下でのBEP又はNEPによるトランスフェクションの1時間後のトランスフェクトされた細胞を示す。蛍光強度は、NISソフトウェアによって算出した。これら2つのグループの蛍光強度の比較は、棒グラフで示す。結果として、メーカーが推奨する最良の条件でのBEPは、MEF細胞への5回の10ミリ秒パルスで220VのNEPよりも、ほぼ3倍多くのプラスミドを送達できることを示している。しかし、ほとんどのプラスミドはBEPトランスフェクションの1時間後もまだ細胞表面近くにあったが、それに対し同時刻にNEPによって注入されたプラスミドはすでに細胞質内に均一に拡散していた。これは、BEPベースの細胞トランスフェクションが主にエレクトロポレーションを介したエンドサイトーシスに依存しているのに対し、NEPベースの細胞トランスフェクションは非エンドサイトーシスであることを意味する。
【0024】
図3では、リポフェクタミン(Lipo)、BEP、又はNEPのいずれかによって、同じAscl1、Brn2、及びMyt1lのDNAプラスミドを2/1/1の重量比でトランスフェクトした、同じ数のMEF細胞(5E6個の細胞)から分泌されたEVの数を比較する。全てのEVは、トランスフェクション後24時間で細胞培養培地から採取され、合計のEV数はNanoSight(登録商標)によって測定した。BEPの場合、トランスフェクション電圧は1回の30ミリ秒パルスで1250Vであった。NEPの場合、トランスフェクション電圧は5回の10ミリ秒パルスで220Vであった。使用したプラスミドの濃度は、Ascl1/Brn2/Myt1l=200/100/100ng/μlであった。リポフェクタミンのトランスフェクションでは、5μgのプラスミド混合物(Ascl1/Brn2/Myt1l=2/1/1)をメーカーの説明書に従って使用した。EVは、1500gで10分間の単純な遠心分離により、細胞培養培地から採取した。結果は、リポフェクタミン(Lipo)ベースの細胞トランスフェクションはEV分泌を変化させなかったことを示す。EV濃度は、トランスフェクションの有無に関わらず約2E9/mlであった。おそらくは、ナノ粒子キャリアによる遅いプラスミドのエンドサイトーシスプロセスは、トランスフェクトされた細胞をあまり刺激しなかったらしく、その結果、EV分泌にほとんど変化はなかった。それに比べて、BEPベースの細胞トランスフェクションでは、EV分泌が6E9/ml近くまで増加した。NEP細胞のトランスフェクションによっては、プラスミドの添加の有無にかかわらず、EV分泌が1.3E11/mlを超える大幅な増加が観察された。これは、トランスフェクトされた細胞が、BEPによっては多少刺激されたが、NEPによっては非常に刺激され、後者の場合でEVの非常に有意な増加をもたらすことを意味する。
【0025】
エレクトロポレーション中、印加された電場によって引き起こされるジュール加熱は、細胞温度を一時的に上昇させ、トランスフェクトされた細胞に熱ショックを引き起こす可能性がある。熱ショックは、細胞内の熱ショックタンパク質(ヒートショックプロテイン)の増加によって引き起こされるシャペロン媒介オートファジーにより、EVの細胞分泌を増加させる可能性があることが知られている(8-10)。実際に、NEPは実質上、トランスフェクトしたMEF細胞において非トランスフェクトしたMEF細胞(Ctrl)よりも、ヒートショックプロテイン70(HSP70)の発現を13.8倍、ヒートショックプロテイン90(HSP)の発現を4.2倍双方とも増加させることがわかった。エレクトロポレーション後に細胞培養培地にHSP阻害剤を添加すると、EV分泌が抑制される可能性がある。
図4は、HSP70阻害剤(VER 155008、50μM)、HSP90阻害剤(NVP-HSP990、1μM)、及びそれらの混合物を含む、NEPでトランスフェクトしたMEF細胞のEV分泌の50%、40%、70%の減少をそれぞれ示す。ここでは、NEPトランスフェクションの直後に、細胞培養をHSP70阻害剤(VER 155008)、HSP90阻害剤(NVP-HSP990)、又はそれらの混合物を含む新鮮な培地に置き換えた。トランスフェクション後24時間で培地を採取し、動的光散乱(DLS)ゴニオメトリーによりEV数を検出した。これらの結果は、熱ショックタンパク質の発現を増加し得る細胞刺激がEV分泌を促進するであろうことを意味する。
【0026】
同様に、細胞における後期エンドソーム多胞体(MVB)形成に必要なタンパク質の増加は、エクソソーム分泌を促進する可能性もある。
図5は、MEF細胞からのEV分泌に対するCD63のDNAプラスミドのNEPトランスフェクションの効果を示す。NEPにより、CD63のDNAプラスミドの有無にかかわらず細胞をトランスフェクトした。細胞培養培地を採取し、4時間ごとに新鮮な培地と交換した。EV数はDLSゴニオメトリーによって検出した。結果は、いずれの場合もNEPトランスフェクション後の最初の16時間においては同様のEV分泌プロファイルを示す。しかしながら、CD63のDNAプラスミドによるNEPトランスフェクションでは16~44時間後に、より多くのEVが分泌された。CD63のタンパク質は、エクソソーム分泌の前駆体である、エンドソーム膜のテトラスパニン濃縮マイクロドメインへの再編成に不可欠である。
【0027】
図6は、MEF細胞(ctrl)及びNEPトランスフェクトされたMEF細胞について、DLSゴニオメトリーにより測定したEVのサイズ分布を示している。NEP刺激は、より大きなEV(主にマイクロベシクル)の分布をあまり変化させなかったが、大きさが40~110nmの範囲内のエクソソームの分泌を大幅に増加させた。
【0028】
図8~9は、Ascl1、Brn2、及びMyt1lのDNAプラスミドのNEP細胞トランスフェクションから分泌されたEVには、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)を使用して測定された、大量の対応するAscl1、Brn2、及びMyt1lのmRNA又はそれらの断片を含むことを示す。EVの数と同様に、リポフェクタミン(Lipo)ベースの細胞トランスフェクションはmRNA発現をあまり変化させなかったが、それに対してBEPベースの細胞トランスフェクションはmRNA発現を数倍増加させることができた。これに対して、NEPベースの細胞トランスフェクションでは、結果として標的のmRNAが数千倍に増加した。ここでは、同量の全RNAを得た後に、メーカーの説明書に従ってqRT-PCRにより逆転写を行った。
【0029】
図10は、いくつかのEVのmRNAがAscl1、Brn2、及びMytl1タンパク質を翻訳し得るものであったため、それらが無傷かつ機能的であることを示す。ここでは、各トランスフェクション法からの同量の全RNA(1μg)を、ウサギ網状赤血球ライセートシステム(プロメガ株式会社)を使用して、メーカーの説明書に従ってin vitroタンパク質翻訳に適用した。サンプルをSDS-PAGEで分離し、ウェスタンブロッティングのプロットに示すように、タンパク質を種々の抗体で検出した。
【0030】
採取された全EVについて、より大きなマイクロベシクルは、10,000gで30分間の超遠心分離により選別した。上清をさらに100,000gで2時間遠心分離して、より小さいエクソソームを採取した。上述したこれら2つの部分から全RNAを採取した。全mRNA濃度はNanodrop(登録商標)で測定すると共に、Ascl1、Brn2、及びMyt1lのmRNAのABM発現はqRT-PCRで測定した。
図11は、エクソソーム内の方がマイクロベシクル内よりも2倍以上のRNAがあったことを示すが、ほとんどのAscl1、Brn2、及びMyt1lのmRNAはエクソソーム内に存在した。
図12は、機能的なAscl1、Brn2、及びMyt1lのmRNAがエクソソーム内にも存在し、それらのエクソソームは典型的なエクソソームタンパク質マーカーである、CD9、CD63、及びTsg101を持っていることを示す。それに比べて、より大きなマイクロベシクルは、典型的なタンパク質マーカーであるArf6を持っている。
【0031】
図13は、Ascl1、Brn2、及びMytl1のDNAプラスミドによるNEPトランスフェクション後の時間の関数としてのEV分泌量及び含有量プロファイルを示す。Ascl1プラスミドは3つの中で最小(7kbp)であり、Myt1lプラスミドは最大(9kbp)で、Brn2プラスミドは中間(8kbp)であった。指示された時点で細胞培養培地中のEVを採取し、培養培地を新鮮な培地と交換した。EV数はDLSゴニオメトリーによって検出し、EVのmRNA発現は前述のようにqRT-PCRによって検出した。結果として、トランスフェクション後4時間以内にEV分泌の急速な増加を示し、8時間でピークに達すると共に、24時間以上の継続的なEV分泌をもたらした。Ascl1及びBrn2のmRNAを含むEVも、EV分泌のプロファイルとよく一致するプロファイルであり、トランスフェクション後4時間以内に現れた。Myt1lのmRNAを含むEVは後に現れたが、24時間以内に現れた。これは、EV分泌時間とmRNA転写時間を細胞内で一致させる必要があることを意味し、NEPベースの細胞トランスフェクションによって達成し得るものである。
【0032】
内因性mRNAを含むNEP産生EVが治療機能を有することを実証するために、MEF細胞をそれらのEVで1日おきに、100,000細胞あたり1μgの全EV RNA濃度で処理した。数日後、処理したMEF細胞はニューロン様の形態を明らかにし始め、24日目に、処理した細胞は
図14に示すように、誘導活動電位を受ける能力によって示される電気生理学的活性を示した。それに比べて、NEPトランスフェクトしたMEF細胞も21日目に同様の電気生理学的活性を示した。セルは、活動電位に発火させるために必要な電位依存性の電流を提示した。脱分極電圧シミュレーションに応答して、過渡的な内向き電流と持続的な外向き電流の両方が観察された。20pAの電流注入に対する一般的な応答を
図14に示すが、これは、細胞が脱分極電流に応答して活動電位に発火したことを示す。
【0033】
全細胞パッチクランプ記録を使用して、興奮性を測定した。115mMのNaCl、2mMのKCl、1.5mMのMgCl2、3mMのCaCl2、10mMのHEPES、及び10mMのグルコース(pH7.4)を含む細胞浴溶液で細胞を連続的に灌流した。ガラス電極(3~4MΩ)に、115mMのグルコン酸K、10mMのN-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸(HEPES)、4mMのNaCl、0.5mMのエチレングリコール四酢酸(EGTA)、1.5mMのMgCl2(pH7.3)を含むピペット溶液を充填した。全細胞にアクセスした後、セルのパッチ抵抗は100MOhmを超え、直列抵抗は40~50%補正された。データは、Axopatch 200B増幅器、Digidata 1322Aデジタイザー、及びClampex 9ソフトウェア(モレキュラーデバイス株式会社,サニーベール,カリフォルニア州)を使用して採取した。電位依存性電流の分析では、基底保持電位は-70mVで、細胞は-120mVから80mVまで10mV刻みで400ミリ秒介入した。電位依存性ナトリウムチャネルの活動による過渡的な内向き電流は、測定したピーク振幅から分離した。電圧依存性カリウム電流を反映した持続的なプラトー電流は、電流のプラトー相における電圧ステップの最後の50ミリ秒の平均として測定した。活動電位誘導は、電流クランプを使用して測定した。電流は0pAに保持し、その後20pA間隔で1秒間介入した。
【0034】
実施例2:異なるトランスフェクション法を用いたEVのマイクロRNAの含有量。
より広範な治療適用性を実証するために、我々は細胞内のマイクロRNA標的を転写するDNAプラスミドでMEF細胞をトランスフェクトした。
図15は、諸手法で(miR-128プラスミドを)トランスフェクションした後、24時間で細胞培養培地から採取したEVにおけるEVのmiR-128発現を示す。メーカーの説明書に従って全RNAを取得した。前述の手順を使用したqRT-PCRによるmiR-128検出には、同量の全RNA(30ng)を使用した。ここでも、NEFベースのトランスフェクションは、BEP又はリポフェクタミンベースの細胞トランスフェクションでは達成できない、多量のmiR-128(4,500倍以上の増加)を含むEVを生成することができた。
【0035】
実施例3:MEF細胞へのDNAプラスミドのNEPトランスフェクションによる内因性RNAを含むEVと、事前に採取されたRNAをBEP後挿入により装填した既存のEVとの比較。
ここで我々は、NEPベースの細胞トランスフェクション及び、いくつかの研究者によって使用されたBEPの後挿入アプローチを使用して、治療用のEVの生産効果を比較した。前者については、前述の手順に従って、miR-128プラスミドをNEPによってMEF細胞にCD63-GFPプラスミドと共にコトランスフェクトして、miR-128を含むEVを生成した。後者については、NEPの24時間後にCD63-GFPプラスミドをトランスフェクトしたMEF細胞からブランクEVを最初に回収した。並行して、NEPによるトランスフェクションの24時間後にmiR-128プラスミドをトランスフェクトしたMEF細胞からmiR-128を採取した。採取したmiR-128(1μg)をブランクEV(10E6個)と混合し、他の研究者が用いた条件に従ってBEP(1250V、30ミリ秒)でエレクトロポレーションした。2つのアプローチからのEVは、全反射照明蛍光(TIRF)顕微鏡で係留リポプレックスナノ粒子(TLN)バイオチップを使用してテストした。
図16Aは、TLN-TIRFアッセイの概略図を示す(2、11)。簡潔に説明すると、RNA標的のモレキュラービーコン(MB)が設計され、カチオン性リポソームナノ粒子にカプセル化される。これらのカチオン性リポプレックスナノ粒子は、スライドガラス上に係留され、電気的静的相互作用により負に帯電したEVを捕捉して、より大きなナノスケール複合体を形成することができる。このリポプレックスとEVの融合により、バイオチップのインターフェース近くのナノスケール制限内でRNAとMBが混合される。TIRF顕微鏡は、単一の生体分子を検出することができ、係留されたリポソームナノ粒子が位置する界面付近で300nm未満の信号を測定する。
【0036】
図16Bは、捕捉されたEVの代表的なTLN-TIRF画像を示す。緑色の蛍光はCD63-GFPを含むEVからのもので、赤色の蛍光は捕捉されたEV内のmiR-128分子とCy5-miR-128のMBの混成からのものである。NEPの手法は、BEP後挿入の手法よりもmiR-128のハイコピーを含むEVをより多く生成できることは明らかである。
図16C~Eは、これら2つの手法の定量的比較を示す。どちらの手法もmiR-128を含むEVを生成できるが(捕捉されたEV全体の約80%)、EV中のEV miR-128の濃度(約3倍のMB蛍光強度)は、BEPベースのマイクロRNA後挿入よりもNEPベースの直接的な細胞トランスフェクションの方がはるかに高くなる。さらに、BEPの後挿入は、ブランクEVのほぼ半分を破壊する傾向があり、治療用のEVの極めて低い収率に繋がる。
【0037】
同様の比較を、miR-128と同じ手法を使用して、はるかに大きなRNAである、Brn2のmRNA(Brn2のmRNAが6272塩基に対してmiR-128が21塩基)についても実施した。
図17A~Cは、NEPの手法がBrn2のmRNAを含む、70%を超えるEVを生成することができたことを示しているが、一方でごくわずかな既存のEVのみがBEPの後挿入の手法によって同じmRNAを装填することができた。NEPで生成されたEV中のBrn2のmRNAの濃度は高く、一方でBEPの後挿入で生成されたEV中のBrn2のmRNAの濃度は非常に低い。
【0038】
実施例4:DNAプラスミドのMEF細胞への逐次的なNEPトランスフェクションによって分泌された同じEV中に共局在する多種のmRNAの改良。
図13は、プラスミドのサイズの違い又は他の理由により、多種のDNAプラスミドが同時に細胞に送達されたとしても、異なるmRNA標的が、トランスフェクトされた細胞において異なる時間及び速度で転写され得るものであったことを示す。これは、1つ又は少数のmRNA標的のみを含む個々のEVをもたらす可能性がある。より良い治療効果を得るには、より多く又は全てのmRNAターゲットを同じ分泌EV内にカプセル化できると役立つであろう。転写時間に基づいてNEPを用いて各DNAプラスミドをMEF細胞に逐次的に送達することにより、
図18は、iNの再プログラミングに必要な、Ascl1、Brn2、及びMyt1lの3つのmRNA全てを含む分泌EVを大幅に増加することができた(>50%対<25%)ことを示す。NEPトランスフェクションの場合、Ascl1、Brn2、及びMyt1lプラスミドを前述のように同時にトランスフェクションした。逐次的なNEPの場合、Myt1lプラスミドを最初にトランスフェクションし、Brn2プラスミドを4時間後にトランスフェクションし、Ascl1プラスミドをBrn2トランスフェクションの4時間後にトランスフェクションした。Myt1lのトランスフェクションの24時間後、TLNアッセイのために培地を採取した。等量のMBであるFAM-Ascl1、Cy3-Brn2、及びCy5-Myt1lが、EVのmRNA検出用の係留されたリポプレックスナノ粒子にカプセル化された。図では、黄色の矢印は3つ全てのmRNAを含むEV、青い矢印は2つのmRNAを含むEV、ピンクの矢印は1つのmRNAのみを含むEVを意味する。
【0039】
本発明をその好ましい実施形態に関連して説明したが、本明細書を読めば、それの様々な改良が当業者にとって明らかであろうことを理解されたい。したがって、本明細書に開示された本発明は、添付の特許請求の範囲内にあるこのような改良を網羅することを意図していることを理解されたい。
【0040】
図面の補足説明
図1:ドナー細胞トランスフェクション用の3Dナノチャネルエレクトロポレーション(NEP)バイオチップの概略図。
図2:トランスフェクション後1時間の、YOYO-1で蛍光標識したDNAプラスミド送達の効果における、BEP及びNEPの比較。A.BEP及びNEPの代表的な細胞画像。B.これら2つの場合の蛍光強度の比較。
図3:DNAプラスミドを含む又は含まないNEP細胞トランスフェクションが、トランスフェクトされたマウス胚線維芽細胞(MEF)細胞からのEV分泌を著しく刺激し、リポフェクタミン(Lipo)及びBEPベースの細胞トランスフェクションよりもはるかに優れた性能を有する。Ctrlは、トランスフェクトされていないMEF細胞を表す。NEPは、DNAプラスミドによるNEP細胞トランスフェクションを表す。NEP-PBSは、PBSバッファー(緩衝液)のみによるNEP細胞トランスフェクションを表す。使用するDNAプラスミドは、重量比2/1/1のAchaete-Scute Complex Like-1(Ascl1)、Pou Domain Class 3 Transcription factor 2(Pou3f2又はBrn2)及びMyelin Transcription Factor 1 Like(Myt1l)である。これらのDNAプラスミドの混合物は、ドナー細胞を誘導ニューロン(iN)に再プログラムすることが知られている。同数のMEF細胞を諸手法によりDNAプラスミドでトランスフェクトし、トランスフェクション後24時間で細胞培養培地を採取した。EV数はNanoSight(登録商標)によって測定した。BEPの場合、トランスフェクション電圧は1250Vであった。NEPの場合、トランスフェクション電圧は5回の10ミリ秒パルスで220Vであった。
【0041】
図4:NEPでトランスフェクトしたMEF細胞からのEV分泌における、ヒートショックプロテイン70(HSP70)及びヒートショックプロテイン90(HSP90)の阻害剤の効果。NEPトランスフェクション後、細胞培養物をHSP70阻害剤(VER 155008、50μM)、HSP90阻害剤(NVP-HSP90、1μM)、又はそれらの混合物を含む新鮮な培地に交換した。トランスフェクション後24時間で培地を採取し、動的光散乱(DLS)ゴニオメトリーによりEVの数を検出した。
図5:MEF細胞からのEV分泌における、CD63のDNAプラスミドのNEPトランスフェクションの効果。NEPによってCD63プラスミドの有無にかかわらず細胞をトランスフェクトした。細胞培養培地を採取し、4時間毎に新鮮な培地と交換した。EVの数はDLSゴニオメトリーによって検出した。
図6:細胞トランスフェクションの24時間後に採取されたNEP有り又は無しのEVの、DLSによって測定されたサイズ分布。細胞培養培地はNEPトランスフェクション後24時間で採取し、細胞破片は1500gで10分間の遠心分離によって除去した。上清中のEVはDLSによって検出した。
図7:諸手法を用いてAscl1/Brn2/Myt1lのDNAプラスミドを2/1/1の比率でトランスフェクトしたMEF細胞からの、qRT-PCRによって測定した、トランスフェクション後24時間のEVのAscl1のmRNA発現。全RNAを得た後、メーカーの説明書に従って逆転写を行った。qRT-PCRによるAscl1の検出には同量の全RNA(20ng)を用いた。
【0042】
図8:諸手法を用いてAscl1/Brn2/Myt1lのDNAプラスミドを2/1/1の比率でトランスフェクトしたMEF細胞からの、qRT-PCRによって測定した、トランスフェクション後24時間のEVのBrn2のmRNA発現。全RNAを得た後、メーカーの説明書に従って逆転写を行った。qRT-PCRによるBrn2の検出には同量の全RNA(20ng)を用いた。
図9:諸手法を用いてAscl1/Brn2/Myt1lのDNAプラスミドを2/1/1の比率でトランスフェクトしたMEF細胞からの、qRT-PCRによって測定した、トランスフェクション後24時間のEVのMyt1lのmRNA発現。全RNAを得た後、メーカーの説明書に従って逆転写を行った。qRT-PCRによるMyt1lの検出には同量の全RNA(20ng)を用いた。
図10:NEPによって得たEVのみが、in vitro翻訳によって測定された機能的mRNAを含んでいた。各トランスフェクション法からの同量の全RNA(1μg)を、メーカーの説明書に従ってin vitroタンパク質翻訳に用いた。サンプルをSDS-PAGEで分離し、タンパク質を抗体で検出した。
図11:NEPからのEV-mRNAが、マイクロベシクル内ではなくエクソソーム内に存在する。EVは、1500gで10分間の単純な遠心分離により、細胞培養培地から採取した。マイクロベシクルは、10,000gで30分間の超遠心分離により採取した。上清をさらに100,000gで2時間遠心分離して、エクソソームを採取した。これら2つの部分から全RNAを採取し、全mRNA濃度はNanodrop(登録商標)で測定した。EVのmRNA発現はqRT-PCRで測定した。
図12:NEP細胞トランスフェクションからの、マイクロベシクル-RNAではなくエクソソーム-mRNAがタンパク質を翻訳し得る。EVは、1500gで10分間の単純な遠心分離により、細胞培養培地から採取した。マイクロベシクルは、10,000gで30分間の超遠心分離により採取した。上清をさらに100,000gで2時間遠心分離して、エクソソームを採取した。上述したこれら2つの部分から全RNAを採取し、1μgの全RNAをin vitroタンパク質翻訳に用いた。サンプルをSDS-PAGEで分離し、タンパク質、エクソソーム及びマイクロベシクルのマーカーをウェスタンブロッティングで検出した。
図13:NEPでトランスフェクトしたMEF細胞からのEV-mRNAの分泌プロファイル。NEPによりMEF細胞をDNAプラスミドでトランスフェクトした。指示された時点で細胞培養培地中のEVを採取し、培養培地を新鮮な培地と交換した。EVの数はDLSゴニオメトリーによって検出した。mRNA発現はqRT-PCRで測定した。
【0043】
図14:パッチクランプによる活動電位検出が、Ascl1/Brn2/Myt1lのmRNAを含むNEPから得たEVを1日おきにトランスフェクトしたMEF細胞は、24日後に機能的な誘導ニューロン(iN)にリプログラミングされ得ることを示す。NEPトランスフェクトしたMEF細胞は21日後にiNにリプログラミングされた。
図15:諸手法を用いて、miR-128のDNAプラスミドをトランスフェクトしたMEF細胞から、qRT-PCRによって測定した、トランスフェクション後24時間のEVとしてのmiR-128発現。諸手法で(miR-128プラスミドを)トランスフェクションした後、24時間で細胞培養培地からEVを採取した。メーカーの説明書に従って全RNAを得た。qRT-PCRによるmiR-128検出には、同量の全RNA(30ng)を使用した。
図16:MEF細胞へのDNAプラスミドのNEPトランスフェクションによるmiR-128を含む分泌されたEVと、事前採取したmiR-128をBEP後挿入によって装填した既存のEVとの比較。
図17:MEF細胞へのDNAプラスミドのNEPトランスフェクションによるBrn2のmRNAを含む分泌されたEVと、事前採取したBrn2のmRNAをBEP後挿入によって装填した既存のEVとの比較。
図18:逐次的なNEPによる同じEV内でのmRNAの共局在の増加。NEPトランスフェクションの場合、Ascl1、Brn2、及びMyt1lプラスミドを前述のように同時にトランスフェクトした。逐次的なNEPでは、Myt1lプラスミドを最初にトランスフェクトし、Brn2プラスミドを4時間後にトランスフェクトし、Ascl1プラスミドをBrn2のトランスフェクションの4時間後にトランスフェクトした。Myt1lトランスフェクションの24時間後、TLNアッセイのために培地を採取した。等量のFAM-Ascl1、Cy3-Brn2、及びCy5-Myt1lそれぞれのMBを、EV-mRNA検出用の係留されたリポプレックスナノ粒子内にカプセルした。黄色の矢印:3つのmRNAを含むEV。青い矢印:2つのmRNAを含むEV。ピンクの矢印:1つのmRNAを含むEV。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性核酸及び他の生体分子のハイコピーを含む、多数の治療用の細胞外小胞(EV)を生産する方法であって、
チップの表面であって、その上に形成された三次元(3D)のナノチャネルエレクトロポレーション(NEP)バイオチップを有する該表面にドナー細胞を置くステップ、
チップ上の緩衝液に様々なプラスミド、他のトランスフェクションベクター及びそれらの組み合わせを添加するステップ、
チップの表面に置かれた細胞及びチップの表面下のプラスミド/ベクター緩衝溶液の全体にパルス電界を印加することにより、結果として細胞を強く刺激して非エンドサイトーシスでプラスミド/ベクターを細胞内に送達するステップ、及び
トランスフェクトされた細胞によって分泌されたEVを採取するステップを含む、方法。