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特開2023-16470カーボンブラックのアグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなるフィルムまたは被膜を形成する方法
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  • 特開-カーボンブラックのアグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなるフィルムまたは被膜を形成する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016470
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】カーボンブラックのアグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなるフィルムまたは被膜を形成する方法
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/58 20060101AFI20230126BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20230126BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20230126BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20230126BHJP
   C09C 1/62 20060101ALI20230126BHJP
   B32B 5/16 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
C09C1/58
C01B32/05
C09C3/08
C09C3/06
C09C1/62
B32B5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120806
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【テーマコード(参考)】
4F100
4G146
4J037
【Fターム(参考)】
4F100AA37A
4F100AB01A
4F100AD11A
4F100AK01B
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100DE00A
4F100EC01
4F100EH17A
4F100EH46A
4F100JA11A
4F100JD12
4F100JN02
4G146AA01
4G146AB01
4G146BA03
4G146BB04
4G146CB10
4G146CB17
4G146CB23
4G146CB34
4J037AA02
4J037AA04
4J037AA08
4J037DD02
4J037DD08
4J037EE08
4J037EE43
4J037FF02
4J037FF09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】カーボンブラックのアグロメレートにおけるアグリゲート同士の凝集を解離させ、さらに、アグリゲートのアルコール分散性を向上させた混合物を製造する方法を提供する。また、ガスバリアー性を持たせ、さらに、金属の光沢を持たせたアグリゲートの集まりからなるフィルムまたは被膜を形成する方法を提供する。
【解決手段】アグリゲート同士がアルコールを介して絡み合い、該絡み合ったアグリゲートの集まりの間隙を、金属化合物の微細結晶の集まりが前記アルコールに分散した懸濁液が埋め尽くすとともに、前記絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に、前記懸濁液が吸着した構成からなる混合物を製造する。該混合物を原料として用い、フィルムまたは被膜を形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックのアグリゲート同士がアルコールを介して絡み合い、該絡み合ったアグリゲートの集まりの間隙に、金属化合物の微細結晶の集まりが前記アルコールに分散した懸濁液が入り込むとともに、前記絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に、前記懸濁液が吸着した構成からなる混合物を製造する方法は、
カーボンブラックの集まりについて、該カーボンブラックのアグリゲート同士がメタノールを介して絡み合い、該絡み合ったアグリゲートの集まりが前記メタノールに分散した第一の懸濁液を予め作成する、
次に、メタノールに溶解せず分子分散する第一の性質と、熱分解で金属を析出する第二の性質とを兼備する金属化合物の微細結晶であり、該微細結晶の大きさが前記アグリゲートの大きさより1桁小さい該金属化合物の微細結晶の集まりについて、前記第一の懸濁液を構成するカーボンブラックの嵩密度に対する前記カーボンブラックの重量の比率と、前記第一の懸濁液を構成するカーボンブラックの粒子密度に対する前記カーボンブラックの重量の比率を加算し、該加算した値に前記金属化合物の真密度を掛け合わせて求めた重量よりさらに多い重量として、前記金属化合物の微細結晶の集まりを秤量する、
さらに、メタノールに溶解または混和する第一の性質と、前記金属化合物が溶解および分子分散しない第二の性質と、沸点が前記金属化合物の熱分解温度より低い第三の性質と、20℃における粘度が4-5mPa・秒である第四の性質と、20℃における表面張力が23-26dyn/cmである第五の性質を兼備する第二のアルコールを、前記秤量した金属化合物の微細結晶の集まりの重量よりさらに多い重量として秤量する、
この後、前記秤量した金属化合物の微細結晶の集まりと、前記秤量した第二のアルコールとを混合し、前記金属化合物の微細結晶の集まりが、前記第二のアルコールに分散した第二の懸濁液を予め作成する、
この後、前記作成した第一の懸濁液と前記作成した第二の懸濁液を撹拌機に投入し、該撹拌機を作動させ、該2種類の懸濁液を混合する、
これによって、
前記メタノールと前記第二のアルコールとからなる該2種類のアルコールの溶解液または混和液を介して、前記アグリゲート同士が絡み合い、該絡み合ったアグリゲートの集まりの間隙に、前記2種類のアルコールの溶解液または混和液に、前記金属化合物の微細結晶の集まりが分散した懸濁液が入り込むとともに、該絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に、前記懸濁液が吸着した構成からなる混合物が製造される、該混合物を製造する方法。
【請求項2】
前記第一の懸濁液を作成する方法は、
カーボンブラックの集まりと、該カーボンブラックの集まりの重量よりさらに重量が多いメタノールとを撹拌機に投入し、該撹拌機を作動させ、前記メタノール中で前記カーボンブラックの集まりを攪拌し、前記カーボンブラックの集まりを前記メタノール中に浸漬させる、
この後、前記撹拌機内にホモジナイザー装置を配置し、該ホモジナイザー装置を前記メタノール中で稼働させ、該メタノールを介して、前記カーボンブラックの集まりに衝撃波を繰り返し加え、アグロメレートにおけるアグリゲートの凝集を解離させ、さらに、アグリゲート同士が直接絡み合った部位を分離させ、該分離した部位に前記メタノールを吸着させる、さらに、前記撹拌機を再び作動させ、前記メタノール中で前記カーボンブラックの集まりを攪拌する、
これによって、
前記アグリゲート同士が前記メタノールを介して絡み合い、該絡み合ったアグリゲートの集まりが前記メタノールに分散した前記第一の懸濁液が作成される、前記第一の懸濁液を作成する方法。
【請求項3】
前記第二の懸濁液を作成する方法は、
請求項1に記載した金属化合物をメタノールに混合し、該金属化合物を前記メタノールに分子分散させ、該金属化合物のメタノール分散液を作成し、さらに、該金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化させ、前記金属化合物の微細結晶の集まりを析出させる、
この後、前記金属化合物の微細結晶の集まりを容器に充填し、該金属化合物の微細結晶の集まりの表面全体を覆う板材を、該金属化合物の微細結晶の集まりの上に被せる、さらに、該板材の表面全体に圧縮応力を加え、前記金属化合物の微細結晶の集まりを破砕する、さらに、前記容器の側面と底面とに、前後、左右、上下の3方向の衝撃加速度を繰り返し加え、前記破砕された金属化合物の微細結晶の集まりを前記容器内で移動させ、該破砕された金属化合物の微細結晶の集まりを前記容器内で再配列させる、この後、前記板材の表面全体に再度前記圧縮応力を加え、さらに、前記容器の側面と底面とに、前記3方向の衝撃加速度を再度繰り返し加える、
こうした前記圧縮応力を加える処理と前記衝撃加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、前記板材に前記圧縮応力を加えた際に、該板材の動きが無くなった時点で前記一対の処理を停止し、前記容器内に、前記第一の懸濁液を構成するカーボンブラックのアグリゲートの大きさより1桁小さい前記金属化合物の微細結晶の集まりを作成する、この後、前記板材を前記容器から取り出す、
この後、前記第一の懸濁液を構成するカーボンブラックの嵩密度に対する前記カーボンブラックの重量の比率と、前記第一の懸濁液を構成するカーボンブラックの粒子密度に対する前記カーボンブラックの重量の比率とを加算し、該加算した値に前記金属化合物の真密度を掛け合わせて求めた重量よりさらに多い重量として、前記容器内の前記金属化合物の微細結晶の集まりを秤量する、
さらに、請求項1に記載した前記第二のアルコールを、前記秤量した金属化合物の微細結晶の集まりの重量よりさらに多い重量として秤量する、
この後、前記秤量した金属化合物の微細結晶の集まりと、前記秤量した第二のアルコールとを新たな容器に充填し、該新たな容器内の前記金属化合物の微細結晶の集まりと前記第二のアルコールとを攪拌し、該新たな容器内に、前記金属化合物の微細結晶の集まりを、前記第二のアルコールに分散した前記第二の懸濁液を作成する、前記第二の懸濁液を作成する方法。
【請求項4】
前記第一の懸濁液を作成する方法は、
請求項2に記載したカーボンブラックとして、ケッチェンブラックを用い、請求項2に記載した方法に従って前記第一の懸濁液を作成する、前記第一の懸濁液を作成する方法。
【請求項5】
前記第二の懸濁液を作成する方法は、
請求項3に記載した第二のアルコールとして、2-ブタノール、イソブチルアルコール、2-メチル―2-ブタノール、2-メチル―1-ブタノール、3-メチル―1-ブタノール、2-ペンタノール、または、1-ヘキサノールからなるいずれか一種類のアルコールを用い、請求項3に記載した方法に従って前記第二の懸濁液を作成する、前記第二の懸濁液を作成する方法。
【請求項6】
前記第二の懸濁液を作成する方法は、
請求項3に記載した金属化合物として、無機物の分子ないしは無機物のイオンが金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物を用い、請求項3に記載した方法に従って前記第二の懸濁液を作成する、第二の懸濁液を作成する方法。
【請求項7】
前記第二の懸濁液を作成する方法は、
請求項3に記載した金属化合物として、オクチル酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合するオクチル酸金属化合物を用い、請求項3に記載した方法に従って前記第二の懸濁液を作成する、第二の懸濁液を作成する方法。
【請求項8】
前記混合物を用い、フィルムを形成する方法は、
請求項1に記載した方法で製造した前記混合物を押出機に充填し、さらに、該押出機から前記混合物をTダイに押出し、さらに、作成するフィルムの幅からなる幅を有し、かつ、作成するフィルムの厚みからなる間隙を有する前記Tダイのリップから、前記混合物をフィルムとして押し出す、
この後、該押し出されたフィルムを、前記混合物を構成する前記金属化合物が熱分解を完了する温度まで昇温された熱処理炉を通過させ、さらに、該押し出されたフィルムを巻き取り機で巻き取る、
これによって、
アグリゲートの集まりと金属のナノ粒子の集まりとからなるフィルムが連続して形成される、前記混合物を用い、フィルムを形成する方法。
【請求項9】
前記フィルムを、同一形状の2枚のフィルムに切断し、該2枚のフィルム同士を圧着する方法は、
請求項8に記載した方法で形成した前記フィルムを、同一形状の2枚のフィルムに切断し、該2枚のフィルム同士を圧着する部位で重ね合わせ、さらに、既存の2枚のフィルムを、前記2枚のフィルム同士を圧着する部位の形状に切断し、該2枚の既存のフィルムを、前記2枚のフィルム同士を圧着する部位の表側と裏側との各々の部位に重ね合わせ、該重ね合わされた前記4枚のフィルムの一方の表面に圧縮応力を加える、これによって、請求項8に記載した方法で形成した前記2枚のフィルムの表面に形成された金属のナノ粒子の集まり同士が接触して接触部が形成され、また、請求項8に記載した方法で形成した前記2枚のフィルムの表面に形成された金属のナノ粒子の集まりが、前記既存の2枚のフィルムの表面と接触して接触部が形成され、さらに、該接触部に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって前記金属のナノ粒子の集まり同士が接合し、また、該摩擦熱によって前記金属のナノ粒子の集まりが前記既存の2枚のフィルムの表面に接合し、前記金属のナノ粒子の集まり同士の接合と、前記金属のナノ粒子の集まりと前記既存の2枚のフィルムとの接合によって、前記重ね合わされた前記4枚のフィルム同士が圧着される、請求項8に記載した方法で形成した2枚のフィルム同士を圧着する方法。
【請求項10】
前記フィルムを、既存のフィルムまたは薄膜に圧着させる方法は、
請求項8に記載した方法で形成したフィルムを、圧着させる既存のフィルムと同一の形状に切断し、該切断したフィルムを、同一形状からなる2枚の既存のフィルムで挟み、この後、前記2枚の既存のフィルムの一方の表面を圧縮する、これによって、前記切断したフィルムの表面に形成された金属のナノ粒子の集まりが、前記2枚の既存のフィルムの双方の表面と接触して接触部が形成され、さらに、該接触部に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって前記金属のナノ粒子の集まりが、前記2枚の既存のフィルムの双方の表面に接合し、前記フィルムが前記2枚の既存のフィルムの双方の表面に圧着される、前記フィルムを、既存のフィルムに圧着させる方法、
または、
請求項8に記載した方法で形成したフィルムを、圧着させる薄膜と同一の形状に切断し、該切断したフィルムを、同一形状からなる2枚の薄膜で挟み、この後、前記2枚の薄膜の一方の表面を圧縮する、これによって、前記切断したフィルムの表面に形成された金属のナノ粒子の集まりが、前記2枚の薄膜の双方の表面と接触して接触部が形成され、さらに、該接触部に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって前記金属のナノ粒子の集まりが、前記2枚の薄膜の双方の表面に接合し、前記フィルムが前記2枚の薄膜の双方の表面に圧着される、前記フィルムを、薄膜に圧着させる方法。
【請求項11】
前記混合物を用い、基材の表面に、アグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなる被膜を形成する方法は、
請求項1に記載した方法で製造した前記混合物を、基材の表面に塗布または印刷し、該基材を、前記混合物を構成する金属化合物が熱分解を完了する温度まで昇温させ、前記基材の表面に、アグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなる被膜を形成する、前記混合物を用い、基材の表面に、アグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなる被膜を形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下の5つの技術に係る。
第一に、絡み合ったカーボンブラックのアグリゲートの集まりの全ての間隙に、金属化合物の微細結晶の集まりがアルコールに分散した懸濁液を入り込ませ、絡み合ったカーボンブラックのアグリゲートの集まりの表面に、前記懸濁液が吸着した混合物を作成する。
第二に、前記混合物を用い、Tダイ法によって、アグリゲートの集まりと金属のナノ粒子の集まりとからなるフィルムを形成する。
第三に、前記フィルム同士を圧着させる。
第四に、前記フィルムを、基材に圧着させる。
第五に、前記混合物を、基材に塗布または印刷し、基材にアグリゲートの集まりと金属のナノ粒子の集まりとからなる被膜を形成する。
なお、JISの包装用語によれば、フィルムとは「厚さが250μm未満のプラスチックからなる膜状のもの」と規定されている。本発明においても、JISに則り、幅が広く厚みが薄い膜状体について、厚さ250μm未満のものをフィルムとする。
本発明に先行して、次の発明を出願した。
すなわち、特願2021-086572号において、第一のアルコールにアグリゲートの集まりを分散した第一の懸濁液と、第二のアルコールに金属化合物の微細結晶を分散した第二の懸濁液とを、真空チャンバー内に充填する。この後、真空チャンバーを第一のアルコールの飽和蒸気圧の1/5の圧力まで減圧させ、第一のアルコールの一部と第二のアルコールの一部とを気化させる。これによって、アグリゲートの集まりと金属化合物の微細結晶の集まりとが、2種類のアルコールに分散した新たな懸濁液となり、該新たな懸濁液が、絡み合ったアグリゲートの集まりの間隙に入り込み、また、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に吸着する。この新たな懸濁液とアグリゲートの集まりとからなる混合体を、フィルムまたは被膜を形成する原料として用いる発明を出願している。
本出願は、メタノールにアグリゲートの集まりを分散した第一の懸濁液と、第二のアルコールに金属化合物の微細結晶を分散した第二の懸濁液とを混合して新たな懸濁液とし、アグリゲート同士を2種類のアルコールを介して絡み合わせ、該絡み合ったアグリゲートの集まりが形成する全ての間隙に、新たな懸濁液が入り込み、該絡み合ったアグリゲートの集まりに新たな懸濁液が吸着した混合物を、フィルムまたは被膜を形成する原料として用いる点で、先願と異なる。つまり、先願は2種類の懸濁液を真空チャンバーで処理するのに対し、本願は2種類の懸濁液を混合する処理である。
【背景技術】
【0002】
本発明に近い従来技術に、遮光性薄膜および遮光性フィルムと、放熱薄膜および放熱フィルムとがある。つまり、カーボンブラックは遮光性と熱放射性との双方にすぐれるため、アグリゲートの集まりからなるフィルムまたは被膜は、遮光性フィルムまたは遮光性被膜と、放熱フィルムまたは放熱被膜とになる。
例えば、遮光性フィルムの従来技術として特許文献1がある。つまり、液体飲料の容器の外側を遮光性シュリンクフィルムで覆い、液体飲料に対する光線の入射を防ぎ、光線の照射による液体飲料の機能性成分の劣化を抑制する。しかしながら、遮光性シュリンクフィルムの全光線透過率は、最も高いフィルムであっても92%台であり、紫外線が継続してフィルムに照射すると、液体飲料の劣化が緩やかに進む。
【0003】
また、放熱フィルムの従来技術として特許文献2がある。つまり、赤外線放射による放熱性に優れる熱放射層を、水不溶性無機化合物と耐熱性合成樹脂とを、伝熱性に優れる金属フィルム上に積層した。しかしながら、水不溶性無機化合物と耐熱性合成樹脂とからなる熱放射層の放射率は、0.8-0.9と低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-201569号公報
【特許文献2】特開2014-193529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カーボンブラックは、全光線透過率が0%と低く、全ての素材の中で、最も遮光性に優れる。また、カーボンブラックは、熱放射率は0.95-0.97と高く、全ての素材の中で、最も放射性に優れる。さらに、カーボンブラックは、酸素が多い状態で、大量の油やガスを炉で燃やして生成する、極めて安価な工業用素材である。従って、カーボンブラックの集まりで、フィルムまたは被膜が形成できれば、優れた遮光性と優れた熱放射性とを兼備した安価なフィルムまたは安価な被膜が実現する。しかし、カーボンブラックの集まりで、フィルムまたは被膜を形成する際に、以下に説明する2つの課題が存在する。さらに、カーボンブラックの集まりからなるフィルムまたは被膜に、全く新たな性質が付与できれば、フィルムまたは被膜は、全く新たな用途に用いることができる。しかし、こうしたフィルムまたは被膜を実現するには、以下に説明する4つの課題が存在する。
すなわち、カーボンブラックの分解できない最小単位は、炭素粒子の1次凝集体であるアグリゲートであり、アグリゲートは、炭素粒子同士が不規則で複雑な形状で数珠つなぎした構造(これをストラクチャーと呼ぶ)で結合した炭素粒子の集まりである。このアグリゲートは、ストラクチャーによって容易に絡み合い、炭素粒子の2次凝集体であり、アグリゲートの凝集塊であるアグロメレートを形成する。従って、カーボンブラックは、その多くがアグロメレートで構成され、大きなものは1mm近くまで及ぶ。このため、アグロメレートを溶媒中に分散できないため、フィルムまたは被膜を形成する懸濁液またはペーストが作成できない。いっぽう、カーボンブラックは遮光性と熱放射性とにすぐれるが、ガスバリアー性を持たない。また、カーボンブラックは黒色で見栄えが良くない。さらに、フィルムまたは被膜が、従来のプラスチックからなるフィルムまたは被膜より、機械的強度が高ければ、フィルムまたは被膜の用途が広がる。また、フィルムまたは被膜に、金属に準じる導電性と熱伝導性とが付与できれば、フィルムまたは被膜の用途がさらに広がる。従って、本発明が解決すべき課題として、次の6つの課題が存在する。
第一に、アグロメレートにおけるアグリゲートの凝集を解離させる。すなわち、前記したように、フィルムまたは被膜を形成する懸濁液またはペーストを作成するうえで、アグロメレートにおけるアグリゲートの凝集を解離させる必要がある。
第二に、アグリゲートの溶媒への分散性を向上させる。つまり、アグリゲート同士が直接絡み合ったアグリゲートの数が多くなるほど、絡み合ったアグリゲートは、溶媒に分散しにくくなる。このため、アグリゲート同士が直接絡み合った部位を一旦分離させ、その部位に溶媒を吸着させる。これによって、アグリゲートの全体に溶媒が吸着し、アグリゲートの溶媒への分散性が向上する。この後、アグリゲートの集まりを攪拌すれば、アグリゲートの質量が極めて小さいため、溶媒を介して絡み合ったアグリゲートの集まりは溶媒に分散し、溶媒に分散したアグリゲートの集まりが、フィルムまたは被膜の原料になる。
第三に、カーボンブラックのアグリゲートの集まりからなるフィルムまたは被膜に、ガスバリアー性を持たせる。いっぽう、ガスバリアー性を持つプラスチック材料は極めて少ないため、極めて軽量なフィルムまたは被膜が、ガスバリアー性を持てば、フィルムまたは被膜の用途が著しく広がる。
第四に、カーボンブラックのアグリゲートの集まりからなる黒色に近いフィルムまたは被膜に、金属の光沢を持たせる。これによって、フィルムまたは被膜の見栄えが良くなり、極めて軽量なフィルムまたは被膜の用途が広がる。
第五に、フィルムまたは被膜の機械的強度が、プラスチックのフィルムまたは被膜より高い。これによって、極めて軽量なフィルムまたは被膜の用途が広がる。
第六に、フィルムまたは被膜に、金属に準じる導電性と熱伝導性とを付与させる。これによって、極めて軽量なフィルムまたは被膜の用途が広がる。
本発明が解決すべき課題として、上記した6つの課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
カーボンブラックのアグリゲート同士がアルコールを介して絡み合い、該絡み合ったアグリゲートの集まりの間隙を、金属化合物の微細結晶の集まりが前記アルコールに分散した懸濁液が埋め尽くすとともに、前記絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に、前記懸濁液が吸着した構成からなる混合物を製造する方法は、
カーボンブラックの集まりについて、該カーボンブラックのアグリゲート同士がメタノールを介して絡み合い、該絡み合ったアグリゲートの集まりがメタノールに分散した第一の懸濁液を予め作成する、
次に、メタノールに溶解せず分子分散する第一の性質と、熱分解で金属を析出する第二の性質とを兼備する金属化合物の微細結晶であり、該微細結晶の大きさが前記アグリゲートの大きさより1桁小さい該金属化合物の微細結晶の集まりについて、前記第一の懸濁液を構成するカーボンブラックの嵩密度に対する前記カーボンブラックの重量の比率と、前記第一の懸濁液を構成するカーボンブラックの粒子密度に対する前記カーボンブラックの重量の比率とを加算し、該加算した値に前記金属化合物の真密度を掛け合わせて求めた重量よりさらに多い重量として、前記金属化合物の微細結晶の集まりを秤量する、
さらに、メタノールに溶解または混和する第一の性質と、前記金属化合物が溶解および分子分散しない第二の性質と、沸点が前記金属化合物の熱分解温度より低い第三の性質と、20℃における粘度が4-5mPa・秒である第四の性質と、20℃における表面張力が23-26dyn/cmである第五の性質を兼備する第二のアルコールについて、前記秤量した金属化合物の微細結晶の集まりの重量よりさらに多い重量として秤量する、
この後、前記秤量した金属化合物の微細結晶の集まりと、前記秤量した第二のアルコールとを混合し、前記金属化合物の微細結晶の集まりが、前記第二のアルコールに分散した第二の懸濁液を予め作成する、
この後、前記作成した第一の懸濁液と前記作成した第二の懸濁液を撹拌機に投入し、該撹拌機を作動させ、該2種類の懸濁液を混合する、
これによって、
前記メタノールと前記第二のアルコールとからなる該2種類のアルコールの溶解液または混和液を介して、前記アグリゲート同士が絡み合い、該絡み合ったアグリゲートの集まりの間隙を、前記2種類のアルコールの溶解液または混和液に、前記金属化合物の微細結晶の集まりが分散した懸濁液が埋め尽くすとともに、該絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に、前記懸濁液が吸着した構成からなる混合物が製造される、該混合物を製造する方法。
【0007】
つまり、第一の懸濁液と第二の懸濁液とを予め作成し、作成した第一の懸濁液と作成した第二の懸濁液とを容器に充填し、2種類の懸濁液を攪拌するだけで、フィルムまたは被膜を形成する際に用いる原料が作成される。
すなわち、熱分解で金属を析出する金属化合物は、第一の懸濁液を構成するメタノールに溶解しないが分子分散し、第二の懸濁液を構成する第二のアルコールに溶解および分子分散しない。いっぽう、第二のアルコールは、メタノールに溶解または混和する。また、第二のアルコールの重量を、秤量した金属化合物の微細結晶の集まりの重量より多い重量として秤量し、第二の懸濁液を作成する。この後、2種類の懸濁液を混合する。これによって、第二のアルコールの性質が優勢である2種類のアルコールの溶解液または混和液に、金属化合物のナノサイズからなる微細結晶の集まりが分散した第三の懸濁液になる。
ここで、分子分散とは、金属化合物が分子状態となってアルコールに分散する分散系である。これに対し、金属化合物の微細結晶がアルコールに分散する分散系は、固体の微粒子がアルコールに分散する分散系である。両者を区別するため、金属化合物が分子状態となってアルコールに分散する分散系を分子分散と記述した。従って、金属化合物が分子状態となってアルコールに分子分散した分散液から、アルコールを気化させると、金属化合物の微細結晶が析出する。この微細結晶は、金属化合物の単分子からなる結晶が集積した結晶の集まりである。このため、微細結晶は容易に破砕する。従って、第二の懸濁液を作成するにあたり、金属化合物の微細結晶を、破砕の限界である20nm前後の大きさまで破砕する。
なお、後で詳細に説明するが、絡み合ったアグリゲートの集まりが形成する全ての間隙を、第三の懸濁液で埋め尽くすために、カーボンブラックの嵩密度に対するカーボンブラックの重量の比率に、金属化合物の真密度を掛け合わせて求めた重量として、金属化合物の微細結晶の集まりを秤量する。さらに、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に、第三の懸濁液を吸着させるため、カーボンブラックの粒子密度に対するカーボンブラックの重量の比率に、金属化合物の真密度を掛け合わせて求めた重量として、金属化合物の微細結晶の集まりを秤量する。いっぽう、カーボンブラックの嵩密度は、カーボンブラックの粒子密度に比べ、1-2桁小さい。このため、カーボンブラックの嵩密度に対するカーボンブラックの重量の比率に、金属化合物の真密度を掛け合わせて求めた重量は、カーボンブラックの嵩密度の大きさに応じて、カーボンブラックの重量に対し、1-2桁多くなる。従って、第二のアルコールの重量は、カーボンブラックの嵩密度の大きさに応じて、メタノールの重量に対し、1-2桁多くなる。このため、第三の懸濁液においては、第二のアルコールの性質が優勢になる。
ところで、カーボンブラックのアグリゲートは、10-100nmの大きさからなる炭素粒子同士が、不規則で複雑な形状で数珠つなぎした構造(これをストラクチャーと呼ぶ)で結合した炭素粒子の集まりである。さらに、アグリゲートの大きさは100-500nmからなり、炭素粒子の数は100-1000個からなる。これに対し、金属化合物の微細結晶は、20nm前後の大きさであり、アグリゲートの大きさより1桁小さい。
いっぽう、カーボンブラックは、粒子密度が1.7-1.9g/cmであるのに対し、粉体の嵩密度は0.02-0.18g/cmである。つまり、カーボンブラックは、ストラクチャーによってアグリゲート同士が絡み合い、絡み合ったアグリゲートの集まりに、間隙が形成される。この間隙の広さに応じて、カーボンブラックの粉体の嵩密度が小さい。なお、炭素粒子の大きさと、ストラクチャーの違いと、アグリゲートの大きさとによって、絡み合ったアグリゲートに形成される間隙の広さが大きく変わる。このため、カーボンブラックの嵩密度の大きさは、カーボンブラックの製法と製造条件によって大きく変わり、0.02-0.18g/cmの幅を持つ。
ところで、前記混合物を用いて形成したフィルムまたは被膜に、プラスチックのフィルムまたは被膜より高い機械的強度を持たせ、さらに、金属に準ずる導電性と熱伝導性とをもたらすには、絡み合ったアグリゲートの集まりが形成する全ての間隙を、アグリゲートの大きさより1桁小さい金属化合物の微細結晶の集まりで埋め尽くすとともに、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に、金属化合物の微細結晶の集まりを吸着させる必要がある。つまり、金属化合物の微細結晶が熱分解すると、10nm前後の大きさからなる金属のナノ粒子の集まりが一斉に析出し、金属のナノ粒子は不純物を持たないため、隣接する金属のナノ粒子同士が接触部で金属結合する。従って、絡み合ったアグリゲートの集まりが形成する全ての間隙を、埋め尽くした金属化合物の微細結晶の集まりは、金属化合物の微細結晶が熱分解することで、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、絡み合ったアグリゲートが形成する間隙を埋め尽くす。また、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に吸着した金属化合物の微細結晶の集まりは、金属化合物の微細結晶が熱分解することで、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面を覆う。この金属結合した金属のナノ粒子の集まりの存在によって、フィルムまたは被膜に、プラスチックのフィルムまたは被膜より高い機械的強度と、金属に準ずる導電性と熱伝導性とがもたらされる。
ここで、絡み合ったアグリゲートの集まりが形成する全ての間隙を、アグリゲートの大きさより1桁小さい金属化合物の微細結晶の集まりで埋め尽くすとともに、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に、金属化合物の微細結晶の集まりを吸着させるのに必要な金属化合物の量を求める。
第一の懸濁液を構成するカーボンブラックの重量を、カーボンブラックの嵩密度で割った値は、絡み合ったアグリゲートの集まりが形成する全ての間隙の体積に相当する。いっぽう、カーボンブラックの重量を、カーボンブラックの粒子密度で割った値は、絡み合ったアグリゲートの集まりが形成する体積から、絡み合ったアグリゲートの集まりが形成する全ての間隙の体積を除いた体積に相当する。なお、カーボンブラックの嵩密度は、カーボンブラックの粒子密度に比べ、1-2桁小さい。従って、絡み合ったアグリゲートの集まりにおいては、前者の体積は、後者の体積より1-2桁大きい。この2種類の体積を加算した値、つまり、絡み合ったアグリゲートの集まりが形成する体積に、金属化合物の真密度を掛け合わせると、絡み合ったアグリゲートの集まりが形成する体積を、金属化合物の微細結晶の集まりが占有するために必要な金属化合物の重量が算出される。なお、金属化合物の微細結晶の粒子密度は、金属化合物の真密度より若干小さい。このため、算出された金属化合物の重量は、粒子密度と真密度の違いで、若干多めに算出される。多めに算出された金属化合物は、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に吸着する金属化合物の微細結晶になり、金属のナノ粒子の集まりが積層して、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面を覆う。
この考えに基づき、絡み合ったアグリゲートの集まりが形成する全ての間隙を、アグリゲートの大きさより1桁小さい金属化合物の微細結晶の集まりで埋め尽くすとともに、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に、金属化合物の微細結晶の集まりを吸着させるのに必要な金属化合物の微細結晶の量を、前記した金属化合物の微細結晶の集まりから秤量する。なお、絡み合ったアグリゲートの集まりが形成する全ての間隙の体積が、絡み合ったアグリゲートの集まりが形成する体積から、絡み合ったアグリゲートの集まりが形成する全ての間隙の体積を除いた体積より1-2桁大きいため、金属化合物の微細結晶の集まりの重量は、カーボンブラックの集まりの重量より1-2桁多い重量になる。
また、金属化合物の微細結晶の集まりを第二のアルコールに分散させ、第二の懸濁液を作成するため、第二のアルコールを、金属化合物の微細結晶の集まりより多い重量として秤量する。前記したように、金属化合物の微細結晶の集まりの重量は、カーボンブラックの集まりの重量より1-2桁多い重量になる。このため、第二のアルコールは、メタノールの重量に比べ、1-2桁多い重量になる。従って、前記混合物において、2種類のアルコールの溶解液または混和液は、第二のアルコールの性質が優勢になり、2種類のアルコールの溶解液または混和液に、金属化合物の微細結晶の集まりが分子分散しない。
この後、秤量した金属化合物の微細結晶の集まりと、秤量した第二のアルコールとを混合し、第二のアルコールに金属化合物の微細結晶の集まりが分散した第二の懸濁液を予め作成する。また、カーボンブラックのアグリゲート同士がメタノールを介して絡み合い、絡み合ったアグリゲートの集まりがメタノールに分散した第一の懸濁液を予め作成する。
さらに、2種類の懸濁液を攪拌して前記混合物を作成する。混合物においては、第三の懸濁液が、絡み合ったアグリゲートの集まりの間隙を埋め尽くし、かつ、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に吸着する。
ところで、第三の懸濁液においては、第二のアルコールの重量が、メタノールの重量より1-2桁多い。このため、第三の懸濁液を構成する2種類のアルコールの溶解液または混和液は、第二のアルコールの性質が優勢になる。また、メタノールに分子分散する金属化合物の重量割合が10%程度と僅かである。このため、第三の懸濁液を構成する2種類のアルコールの溶解液または混和液に、金属化合物は分子分散および溶解しない。
金属化合物が2種類のアルコールの溶解液または混和液に、分子分散および溶解しないため、第一の懸濁液と第二の懸濁液を混合した第三の懸濁液における金属化合物の微細結晶の大きさは、第二の懸濁液における微細結晶と同様の大きさであり、アグリゲートの大きさより1桁小さい。また、第三の懸濁液の粘度は、第二のアルコールの粘度に近い粘度を持つ。従って、前記混合物においては、金属化合物の微細結晶に、2種類のアルコールの溶解液または混和液が吸着するとともに、該金属化合物の微細結晶の集まりが、該金属化合物の微細結晶の集まりより多量の2種類のアルコールの溶解液または混和液に分散する。このため、前記混合物において、20nm前後の大きさからなる金属化合物の微細結晶同士が、第二のアルコールを介して吸着しているため、前記混合物はハンドリングが可能になる。
以上に説明したように、カーボンブラックの集まりの重量より1-2桁多い重量からなる金属化合物の微細結晶の集まりを、メタノールの重量より1-2桁多い重量からなる第二のアルコールに混合した第二の懸濁液を、第一の懸濁液に混合し、攪拌して前記混合物を作成する。この際、第一の懸濁液において、メタノールを介して絡み合ったアグリゲート同士が、前記混合物においては、メタノールに代わって、2種類のアルコールの溶解液または混和液を介して、アグリゲート同士が絡み合う。さらに、第一の懸濁液において、絡み合ったアグリゲートの間隙をメタノールが占めていたが、前記混合物においては、メタノールに代わって、絡み合ったアグリゲートの間隙を第三の懸濁液が埋め尽くす。さらに、第一の懸濁液において、絡み合ったアグリゲートの集まりがメタノールに分散したが、混合物においては、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に第三の懸濁液が吸着する。こうした構成からなる前記混合物を、フィルムまたは被膜を形成する際に用いる原料として用いる。
なお、前記混合物を用いてフィルムまたは被膜を形成する際に、前記混合物に応力が加わる。これによって、混合物が変形し、該混合物の変形によって、絡み合ったアグリゲートの集まりが変形する。この際、絡み合ったアグリゲートの間隙を埋め尽くした固体の金属化合物の微細結晶は、絡み合ったアグリゲートの間隙に留まる。これに対し、液体の2種類のアルコールの溶解液または混和液は、絡み合ったアグリゲートの間隙から一部が滲み出て、混合物の表面に移動する。また、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に吸着した第三の懸濁液は、絡み合ったアグリゲートの集まりの変形に追従して、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に継続して吸着する。
さらに、前記混合物は、第二のアルコールが20℃で4-5mPa・秒の粘度を持つことで、フィルムを形成することが可能になる。このことは、前記混合物を用いてフィルムを形成する方法を論じる際に説明する。また、前記混合物は、第二のアルコールが20℃で23-26dyn/cmの表面張力を持つことで、全ての固体の基材の表面に塗膜または印刷膜が形成できる。このことは、前記混合物を用いて基材の表面に被膜を形成する方法を論じる際に説明する。
ところで、本発明で用いるカーボンブラックは、酸素が多い状態で、大量の油やガスを燃やして生成する安価な工業用素材である。アルコールは、最も汎用的な有機溶剤である。また、金属化合物も汎用的な工業用の薬品である。このため、安価な原料を用いて安価な加工費用で、フィルムまたは被膜を形成する際に用いる原料が製造できる。
【0008】
前記第一の懸濁液を作成する方法は、
カーボンブラックの集まりと、該カーボンブラックの集まりの重量よりさらに重量が多いメタノールとを撹拌機に投入し、該撹拌機を作動させ、前記メタノール中で前記カーボンブラックの集まりを攪拌し、前記カーボンブラックの集まりを前記メタノール中に浸漬させる、
この後、前記撹拌機内にホモジナイザー装置を配置し、該ホモジナイザー装置を前記メタノール中で稼働させ、該メタノールを介して、前記カーボンブラックの集まりに衝撃波を繰り返し加え、アグロメレートにおけるアグリゲートの凝集を解離させ、さらに、アグリゲート同士が直接絡み合った部位を分離させ、該分離した部位に前記メタノールを吸着させる、さらに、前記撹拌機を作動させ、前記メタノール中で前記カーボンブラックの集まりを攪拌する、
これによって、
前記アグリゲート同士が前記メタノールを介して絡み合い、該絡み合ったアグリゲートの集まりが前記メタノールに分散した前記第一の懸濁液が作成される、前記第一の懸濁液を作成する方法。
【0009】
つまり、7段落で記載したように、カーボンブラックの分解できない最小単位は、炭素粒子の1次凝集体であるアグリゲートである。このアグリゲートは、10-100nmの大きさからなる炭素粒子同士が、不規則で複雑な形状で数珠つなぎした構造(これをストラクチャーと呼ぶ)で結合した炭素粒子の集まりである。アグリゲートの大きさは100-500nmからなり、炭素粒子の数は100-1000個からなる。従って、1つのアグリゲートは、殆ど質量を持たない。このアグリゲートは、ストラクチャーによって容易に絡み合い、炭素粒子の2次凝集体であり、アグリゲートの凝集塊であるアグロメレートを形成する。このため、カーボンブラックは、その多くがアグロメレートで構成され、大きなものは1mm近くまで及ぶ粉体になる。このアグロメレートの集まりは、溶媒に分散しない。従って、カーボンブラックは優れた遮光性と熱放射性とを持つ安価な素材であるが、アグロメレートで構成されるカーボンブラックは溶媒に分散しない。このため、カーボンブラックの集まりからなるフィルムまたは被膜が形成できない。
これに対し、カーボンブラックの集まりがメタノールに浸漬した混合物中で、ホモジナイザー装置を連続して稼働させると、次の画期的な現象が起こる。すなわち、カーボンブラックの集まりが、メタノール中に浸漬した混合物中で、ホモジナイザー装置を稼働させると、莫大な数の衝撃波が連続して発生する。メタノールは、有機溶剤の中で最も分子量が少なく、かつ、粘度が最も低い。このため、メタノール中で発生した衝撃波は、僅かにメタノールの分子振動に消費されるだけである。従って、衝撃波のエネルギーが殆ど減少することなく、アグロメレートの集まりに衝撃波が連続して加わる。最初に、アグロメレートにおけるアグリゲートの凝集の解離が進み、絡み合ったアグリゲートの数が連続して減少する。次に、絡み合ったアグリゲートの数が減少したアグリゲートの集まりは、アグリゲート同士が直接絡み合った部位が分離し、該分離した部位にメタノールが吸着する現象が進む。この結果、アグリゲートはメタノールを介して絡み合い、アグリゲートの全体にメタノールが吸着する。これによって、アグリゲートのメタノールへの分散性が向上する。この後、撹拌機を作動させ、メタノール中でアグリゲートの集まりを攪拌すると、絡み合ったアグリゲートの質量が僅かであるため、メタノールを介して絡み合ったアグリゲートが、メタノールに分散する。従って、ホモジナイザー装置を一定時間連続稼働させ、衝撃波をカーボンブラックの集まりに一定時間連続して加えると、メタノールを介して絡み合ったアグリゲートの集まりがメタノールに分散した第一の懸濁液が作成される。
これによって、5段落に記載した第一と第二の課題が解決される。
なお、アグリゲートが、不規則で複雑な形状で炭素粒子同士が数珠つなぎしたストラクチャーを持ち、かつ、個々のアグリゲートの大きさと個々のアグリゲートのストラクチャーの形状が異なる。このため、ホモジナイザー装置が発する衝撃波をアグロメレートに繰り返し照射しても、アグリゲートの集まりが1つ1つのアグリゲートに分離し、1つ1つに分離されたアグリゲートをメタノールに分散させることはできない。従って、ホモジナイザー装置によるアグリゲート同士の絡み合いの分離は、アグリゲート同士が直接絡み合った部位にメタノールを吸着させる処理である。この処理によって、絡み合ったアグリゲートの数が減少した該アグリゲートの集まりは、メタノールに分散しやすくなり、メタノールを介してアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりが、メタノールに分散する。
いっぽう、ホモジナイザー装置として、超音波方式のホモジナイザー装置を用いると、アグリゲートの大きさに近い気泡が、莫大な数からなる気泡として同時に発生し、この後、気泡が殆ど同時に消滅する。この気泡の発生と消滅とが、超音波の発生周期に応じて起こり、アルコール中で、気泡の発生と消滅とが繰り返される(この現象をキャビテーションという)。この気泡がはじける際の衝撃波が、メタノール中で継続して発生し、莫大な数の衝撃波が全てのアグロメレートの細部に継続して加えられる。この結果、最初に、アグロメレートにおけるアグリゲートの凝集が解離し、次に、アグリゲート同士の絡み合いが分離し、該分離した部位にメタノールが吸着し、メタノールを介してアグリゲートが絡み合う現象が進む。従って、超音波方式のホモジナイザー装置は、超音波の発生周期に応じて、気泡の発生と消滅とを繰り返すため、短時間でメタノールを介してアグリゲートが絡み合う。これによって、メタノールを介して絡み合ったアグリゲートの集まりがメタノールに分散した第一の懸濁液が短時間で作成できる。
【0010】
前記第二の懸濁液を作成する方法は、
6段落に記載した金属化合物をメタノールに混合し、該金属化合物を前記メタノールに分子分散させ、該金属化合物のメタノール分散液を作成し、さらに、該金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化させ、前記金属化合物の微細結晶の集まりを析出させる、
この後、前記金属化合物の微細結晶の集まりを容器に充填し、該金属化合物の微細結晶の集まりの表面全体を覆う板材を、該金属化合物の微細結晶の集まりの上に被せる、さらに、該板材の表面全体に圧縮応力を加え、前記金属化合物の微細結晶の集まりを破砕する、さらに、前記容器の側面と底面とに、前後、左右、上下の3方向の衝撃加速度を繰り返し加え、前記破砕された金属化合物の微細結晶の集まりを前記容器内で移動させ、該破砕された金属化合物の微細結晶の集まりを前記容器内で再配列させる、この後、前記板材の表面全体に再度前記圧縮応力を加え、さらに、前記容器の側面と底面とに、前記3方向の衝撃加速度を再度繰り返し加える、
こうした前記圧縮応力を加える処理と前記衝撃加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、前記板材に前記圧縮応力を加えた際に、該板材の動きが無くなった時点で前記一対の処理を停止し、前記容器内に、前記第一の懸濁液を構成するカーボンブラックのアグリゲートの大きさより1桁小さい金属化合物の微細結晶の集まりを作成する、この後、前記板材を前記容器から取り出す、
この後、前記第一の懸濁液を構成するカーボンブラックの嵩密度に対する前記カーボンブラックの重量の比率と、前記第一の懸濁液を構成するカーボンブラックの粒子密度に対する前記カーボンブラックの重量の比率とを加算し、該加算した値に前記金属化合物の真密度を掛け合わせて求めた重量よりさらに多い重量として、前記容器内の前記金属化合物の微細結晶の集まりを秤量する、
さらに、6段落に記載した前記第二のアルコールを、前記秤量した金属化合物の微細結晶の集まりの重量よりさらに多い重量として秤量する、
この後、前記秤量した金属化合物の微細結晶の集まりと、前記秤量した第二のアルコールとを新たな容器に充填し、該新たな容器内の前記金属化合物の微細結晶の集まりと前記第二のアルコールとを攪拌し、該新たな容器内に、前記金属化合物の微細結晶の集まりを、前記第二のアルコールに分散した前記第二の懸濁液を作成する、前記第二の懸濁液を作成する方法。
【0011】
つまり、次の4つの極めて簡単な処理を連続して実施すると、容器内に、金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶の集まりが、第二のアルコールに分散した第二の懸濁液が作成される。
第一に、熱分解で金属を析出する金属化合物をメタノールに混合させ、金属化合物が分子状態となってメタノールに分子分散する。なお、金属化合物がメタノールに溶解すると、金属化合物を構成する金属が金属イオンとなってメタノール中に溶出し、溶解した金属化合物は、溶解前の金属化合物に戻ることができない。このため、メタノール溶解液からメタノールを気化させると、溶解前の金属化合物の結晶が析出しない。従って、メタノールに溶解せず分子分散する金属化合物を用いる。
第二に、金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化し、100nmより小さい金属化合物の微細結晶の集まりを析出させる。つまり、金属化合物のメタノール分散液において、金属化合物が分子状態となってメタノールに均一に分子分散しため、メタノールを気化させると、分散前の金属化合物が、100nmより小さい粒状の微細結晶の集まりとして析出する。この微細結晶は、分子状態でメタノール中に分子分散した金属化合物が、微細結晶として析出したため、金属化合物の単分子が形成する結晶が集積した結晶の集まりからなる。従って、微細結晶に応力を加えると容易に破砕し、さらに微細な結晶になる。しかし、結晶が微細になるほど、結晶に応力を加えることが難しくなり、結晶の微細化には限界がある。なお、気化したメタノールは回収機で回収し、再利用する。
第三に、析出した金属化合物の微細結晶を、アグリゲートの大きさより1桁小さい20nm前後の大きさからなる微細結晶に破砕する。このため、容器内に、第二の処理で作成した粒状の微細結晶の集まりを充填し、板材を容器内の粒状の微細結晶の集まりに被せ、板材を介して圧縮応力を微細結晶の集まりに加える。この際、微細結晶の大きさが相対的に大きい微細結晶ほど破砕されやすい。このため、相対的に大きい微細結晶が優先して破砕され、微細結晶の破砕が進む。いっぽう、微細結晶の破砕によって空隙が形成され、空隙の存在によって、微細結晶のさらなる微細化が抑制される。従って、容器内で微細結晶の集まりを移動させ、空隙を埋めることが必要になる。このため、印加する圧縮荷重を停止し、容器に前後、左右、上下の3方向の衝撃加速度を繰り返し加える。この際、微細結晶の集まりは、板材で容器内に拘束されているため飛散しない。また、3方向の衝撃力が容器に継続して加わると、微細結晶が移動し、空隙を埋めて、微細結晶の集まりが再配列する。この後、微細結晶をさらに微細化する。このため、印加する衝撃加速度を停止した後に、再度、板材を介して微細結晶の集まりに圧縮荷重を加える。これによって、微細結晶の微細化が進む。この後、再度、容器に3方向の衝撃加速度を繰り返し加え、微細になった結晶の集まりを容器内で移動させ、容器内の空隙を埋め、微細になった結晶の集まりの再配列を容器内で進める。こうした圧縮荷重を加える処理と、3方向の衝撃加速度を繰り返し加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、微細結晶の均一な微細化を進める。いっぽう、結晶が微細になるほど、微細結晶の集まりに圧縮応力を加えも、結晶に応力を加えることが難しくなり、結晶の微細化には限界がある。結晶の微細化が限界になると、板材に圧縮荷重を加えても、結晶の破砕が行われず、板材の動きが無くなる。この時点で、一対の処理を停止する。この結果、微細結晶の大きさは、析出した時点の大きさに比べ、1/5に近い20nm前後まで小さくなる。なお、板材に加える圧縮荷重は、容器の大きさに応じて、2-10kg重に相当する圧縮荷重を加える。また、容器に加える衝撃加速度は、容器の大きさに応じて、0.3-0.5Gの衝撃加速度を加える。
第四に、前記第一の懸濁液を構成するカーボンブラックの嵩密度に対する前記カーボンブラックの重量の比率と、前記第一の懸濁液を構成するカーボンブラックの粒子密度に対する前記カーボンブラックの重量の比率とを加算し、該加算した値に前記金属化合物の真密度を掛け合わせて求めた重量よりさらに多い重量として、前記容器内の金属化合物の微細結晶の集まりを秤量する。また、第二のアルコールを、前記秤量した金属化合物の微細結晶の集まりよりさらに多い重量として秤量する。さらに、前記秤量した金属化合物の微細結晶の集まりを、前記秤量した第二のアルコールに混合し、金属化合物の微細結晶の集まりが、第二のアルコールに分散した第二の懸濁液を作成する。
つまり、7段落に記載したように、カーボンブラックは、粒子密度が1.7-1.9g/cmであるのに対し、嵩密度は0.02-0.18g/cmである。つまり、カーボンブラックは、ストラクチャーによってアグリゲート同士が絡み合うため、絡み合ったアグリゲートの集まりに、間隙が形成される。この間隙の存在によって、カーボンブラックの粉体の嵩密度が小さくなる。なお、炭素粒子の大きさと、ストラクチャーの違いと、アグリゲートの大きさとによって、絡み合ったアグリゲートに形成される間隙の広さが大きく変わる。このため、カーボンブラックの嵩密度の大きさは、カーボンブラックの製法と製造条件によって大きく変わり、0.02-0.18g/cmの幅を持つ。
いっぽう、7段落に記載したように、本発明の原料を用いて形成したフィルムまたは被膜に、プラスチックのフィルムまたは被膜より高い機械的強度と、金属に準ずる導電性と熱伝導性とをもたらすために、絡み合ったアグリゲートの集まりが形成する全ての間隙を、アグリゲートの大きさより1桁小さい金属化合物の微細結晶の集まりで埋め尽くすとともに、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面を、金属化合物の微細結晶の集まりで覆う必要がある。つまり、金属化合物の微細結晶が熱分解すると、10nm前後の大きさからなる金属のナノ粒子の集まりが一斉に析出し、金属のナノ粒子は不純物を持たないため、隣接する金属のナノ粒子同士が接触部で金属結合する。この金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、絡み合ったアグリゲートの集まりが形成する全ての間隙を埋め尽くすとともに、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面を、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆えば、フィルムまたは被膜に、プラスチックのフィルムまたは被膜より高い機械的強度と、金属に準ずる導電性と熱伝導性とがもたらされる。このため、カーボンブラックの嵩密度に対するカーボンブラックの重量の比率と、カーボンブラックの粒子密度に対するカーボンブラックの重量の比率とを加算し、該加算した値に金属化合物の真密度を掛け合わせて求めた重量よりさらに多い重量として、金属化合物の微細結晶の集まりを秤量し、第二の懸濁液を作成する。こうして、カーボンブラックの集まりの重量より、1-2桁多い重量からなる金属化合物の微細結晶の集まりを用いることによって、絡み合ったアグリゲートが形成する間隙を、アグリゲートの大きさより1桁小さい金属化合物の微細結晶の集まりが埋め尽くすとともに、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面を、金属化合物の微細結晶の集まりで覆うことができる。
ところで、熱分解で金属を析出する金属化合物は、炭素原子数が1個のメタノールに、10重量%前後の割合で分子分散する。側鎖構造であるアルコールと2級アルコールとを構成するアルコールの炭素原子の数が増えると、金属化合物が分子分散する重量割合が減少し、炭素原子の数が3個を超える側鎖アルコールと2級アルコールとに、金属化合物は分子分散しない。また、炭素原子の数が増えると、側鎖アルコールと2級アルコールとの沸点と粘度が増大する。しかし、20℃の粘度の値が4-5mPa・秒を持つアルコールは限定される。このため、前記した5つの性質を兼備する第二のアルコールは、炭素原子の数が4-7個からなる側鎖アルコールと2級アルコールの一部である。
これに対し、炭素原子数が4個を超える直鎖アルコールに、金属化合物は分子分散しない。しかし、炭素原子数が5-7個からなる直鎖アルコールの中で唯一1-ヘキサノールだけが、20℃の粘度が4-5mPa・秒に該当し、前記した5つの性質を兼備する。すなわち、炭素原子の数が6個の直鎖アルコールである1-ヘキサノールは、20℃の粘度が5.3mPa・秒で、沸点が157℃である。これに対し、炭素原子の数が5個の直鎖アルコールである1-ペンタノールは、20℃の粘度が3.3mPa・秒で、沸点が138℃である。また、炭素原子の数が7個の直鎖アルコールである1-ヘプタノールは、20℃の粘度が7.4mPa・秒で、沸点が176℃である。従って、1-ペンタノールと1-ヘプタノールとは、沸点が金属化合物の熱分解温度より低いが、20℃の粘度の値が4-5mPa・秒から外れる。
第二の懸濁液を作成するにあたり、前記した第二のアルコールの重量が、前記秤量した金属化合物の微細結晶の集まりよりさらに多い重量として秤量する。さらに、前記秤量した金属化合物の微細結晶の集まりを、前記秤量した第二のアルコールに混合する。この結果、金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶の集まりが、第二のアルコールに分散した第二の懸濁液が作成される。
以上に説明したように、第二の懸濁液を作成するにあたり、次の4つの処理を行う。
第一に、金属化合物の微細結晶を、20nm前後の大きさまで微細化する。
第二に、カーボンブラックの嵩密度に対するカーボンブラックの重量の比率と、カーボンブラックの粒子密度に対するカーボンブラックの重量の比率とを加算し、該加算した値に金属化合物の真密度を掛け合わせて求めた重量よりさらに多い重量として、金属化合物の微細結晶の集まりを秤量する。
第三に、第二のアルコールの重量が、前記秤量した金属化合物の微細結晶の集まりよりさらに多い重量として秤量する。
第四に、秤量した金属化合物の微細結晶の集まりを、秤量した第二のアルコールに混合し、第二の懸濁液を作成する。
【0012】
前記第一の懸濁液を作成する方法は、
8段落に記載したカーボンブラックとして、ケッチェンブラックを用い、8段落に記載した方法に従って前記第一の懸濁液を作成する、前記第一の懸濁液を作成する方法。
【0013】
つまり、カーボンブラックは、カーボンブラックの製造方法によって、カーボンブラックの性質が大きく変わり、製造方法の名称でカーボンブラックが分類されている。
ファーネスブラックは、油やガスを高温ガス中で不完全燃焼させて製造したカーボンブラックであり、燃焼させる原料により、オイルファーネスとガスファーネスとに細分化される。ファーネスブラックの中で、ケッチェンブラックは、原料として炭化水素からなるオイルを用い、オイルの不完全燃焼で、カーボンブラックを生成する。
その他のカーボンブラックに、天然ガスを燃焼させ、チャンネル鋼に析出させたものを掻き集めたチャンネルブラックと、アセチレンガスを熱分解して得たアセチレンブラックと、蓄熱した炉の中でガスの燃焼と分解を繰り返して製造するサーマルブラックがある。
アセチレンブラックは、カーボンブラックの原料の中で、純度が最も高いアセチレンガスを使ってアセチレンブラックを生成するため、カーボンブラックの中で不純物が最も少なく、また、ストラクチャーと1次粒子とが最も発達している。
これに対し、ケッチェンブラックは、カーボンブラックの中で、一次粒子が最も小さく、単位質量当たりの一次粒子の数が最も多く、BET表面積(気体分子の吸着によって比表面積の大きさを表す指標)が最も大きいため、カーボンブラックの中で、最も優れた遮光性を持つ。このため、カーボンブラックとしてケッチェンブラックを用い、ケッチェンブラックのアグリゲートの集まりからなるフィルムまたは被膜は、紫外線劣化防止の優れたフィルムまたは被膜として作用する。さらに、ケッチェンブラックの熱放射率は0.97で、カーボンブラックの中で最も熱放射率が高い。このため、ケッチェンブラックのアグリゲートの集まりからなるフィルムまたは被膜は、優れた放熱フィルムまたは放熱被膜として作用する。
すなわち、ケッチェンブラックには、一次粒子径が34nmで、単位質量当たりの一次粒子の数は1×10個/gに及び、BET表面積が1270m/gに及び、多孔度が78%に及ぶ。このため、ケッチェンブラックの粒子密度と嵩密度とは、カーボンブラックの中で最も大きい。これに対し、アセチレンブラックは、一次粒子径が40nmで、BET表面積が76m/gと小さく、多孔度は22%と少ない。従って、ケッチェンブラックのアグリゲートの集まりからなるフィルムまたは被膜は、他のカーボンブラックのアグリゲートの集まりからなるフィルムまたは被膜より遮光性に優れる。
従って、6段落に記載したカーボンブラックとしてケッチェンブラックを用い、6段落に記載した方法に従って混合物を製造し、この混合物を用いて、フィルムまたは被膜を形成すると、他のカーボンブラックの集まりからなるフィルムまたは被膜より、遮光性と熱放射性に優れたフィルムまたは被膜が形成される。
これに対し、アセチレンブラックは、カーボンブラックの原料の中で、純度が最も高いアセチレンガスを使ってアセチレンブラックを生成するため、カーボンブラックの中で不純物が最も少なく、また、ストラクチャーと1次粒子とが最も発達している。このため、カーボンブラックの中で最も導電性が優れる。また、ストラクチャーと1次粒子とが最も発達しているため、アセチレンブラックのアグリゲートが絡まりやすく、一旦絡まったアグリゲートは分離しにくいため、アセチレンブラックが絡み合ったカーボンブラックの集まりは、カーボンブラックの中で最も機械的強度が高い。
いっぽう、6段落に記載した方法に従って混合物を製造し、この混合物を用いて、フィルムまたは被膜を形成すると、絡み合ったアグリゲートの間隙を、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが積層して埋め尽くし、また、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面を、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが積層して覆う。このため、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、電子が連続して移動する通路を、フィルムまたは被膜に形成する。これによって、フィルムまたは被膜は、金属に準じる導電性と熱伝導性を兼備する。また、フィルムまたは被膜は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりの結合力に基づき、プラスチックからなるフィルムまたは被膜より、高い引っ張り強度と高い圧縮強度と高いせん断強度とを併せ持つ。このため、アセチレンブラックの長所がフィルムまたは被膜に生かされない。従って、フィルムまたは被膜の優れた遮光性と優れた熱放射性の観点から、8段落に記載したカーボンブラックとして、ケッチェンブラックを用いるのが望ましい。
【0014】
前記第二の懸濁液を作成する方法は、
10段落に記載した第二のアルコールとして、2-ブタノール、イソブチルアルコール、2-メチル―2-ブタノール、2-メチル―1-ブタノール、3-メチル―1-ブタノール、2-ペンタノール、または、1-ヘキサノールからなるいずれか一種類のアルコールを用い、10段落に記載した方法に従って前記第二の懸濁液を作成する、前記第二の懸濁液を作成する方法。
【0015】
つまり、第二のアルコールは、6段落に記載したように、5つの性質を兼備する。いっぽう、6段落に記載した方法で製造した前記混合物を用いて、Tダイ法によってフィルムを形成する際に、第二のアルコールの粘度が重要になる。
すなわち、6段落に記載した混合物を作成する際に、第二のアルコールとして、20℃において、メタノールの粘度の6-9倍に相当する4-5mPa・秒の粘度を有するアルコールを用い、該第二のアルコールの重量より、1-2桁少ない重量のメタノールと該第二のアルコールを混合する。このため、6段落で作成した混合物において、2種類のアルコールの溶解液または混和液は、第二のアルコールに近い粘度を持つ。これによって、次の4つの作用効果がもたらされる。第一に、金属化合物の20nm前後の大きさの微細結晶に、2種類のアルコールの溶解液または混和液が吸着する。第二に、2種類のアルコールの溶解液または混和液が吸着した金属化合物の微細結晶の集まりは、2種類のアルコールの溶解液または混和液に分散した懸濁液になる。第三に、絡み合ったアグリゲートの間隙を前記懸濁液が埋め尽くす。第四に、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に前記懸濁液が吸着する。従って、6段落に記載した混合物は、質量をほとんど持たない金属化合物の微細結晶同士が、2種類のアルコールの溶解液または混和液を介して吸着することで、該混合物はハンドリングが可能になる。これによって、前記混合物を用いてフィルムを形成する際に、混合物が押出機に供給でき、さらに、Tダイに供給できる。さらに、マニホールドに押し出された混合物が切れることなく、フィルムの幅に引き延ばされ、また、フィルムの長さ方向に押し伸ばされる。この結果、膜厚が薄いフィルムが形成できる。
いっぽう、第二のアルコールの粘度が4mPa・秒より低くなると、金属化合物の微細結晶同士の吸着力が弱すぎるため、前記混合物がTダイのマニホールドに押し出され、フィルムの幅に引き延ばされた際に混合物が切れやすくなり、また、フィルムの長さ方向に押し伸ばされ際に混合物が切れやすくなる。これに対し、第二のアルコールの粘度が5mPa・秒より高くなると、金属化合物の微細結晶同士の吸着力が強すぎるため、混合物は、マニホールドでフィルム形状の幅に引き伸ばされにくくなり、また、フィルムの長さ方向に押し伸ばされにくくなり、膜厚が薄いフィルムの形成が困難になる。
また、第二のアルコールは、メタノールに溶解または混和する性質と、金属化合物が溶解および分子分散しない性質と、沸点が金属化合物の熱分解温度より低い性質とを兼備する。第二のアルコールが3つの性質を兼備することで、以下の作用効果を発揮する。
6段落に記載したように、第二の懸濁液を作成する際に、第二のアルコールより、1-2桁少ない重量のメタノールと第二のアルコールとを混合する。第二のアルコールが、メタノールに溶解または混和する性質を持つため、2種類のアルコールの溶解液または混和液は、第二のアルコールの性質が優勢になる。また、第二のアルコールに、金属化合物が溶解および分子分散しない性質を持ち、また、金属化合物はメタノールに僅か10重量%前後しか分子分散しない。このため、金属化合物は2種類のアルコールの溶解液または混和液に、分子分散および溶解しない。従って、前記混合物を構成する金属化合物の微細結晶の大きさは、第二の懸濁液と同様に、20nm前後である。さらに、第二のアルコールの沸点が、金属化合物の熱分解温度より低い。このため、前記混合物を昇温すると、最初にメタノールが気化し、次に第二のアルコールが気化し、20nm前後の大きさからなる金属化合物の微細結晶の集まりが一斉に析出する。さらに、金属化合物の微細結晶が熱分解すると、金属の10nm前後のナノ粒子が一斉に析出する。
さらに、第二のアルコールが、20℃で23-26dyn/cmの表面張力を持つことで、全ての固体の基材の表面に塗膜または印刷膜が形成できる。このことは、前記混合物を用いて基材の表面に被膜を形成する方法を論じる際に説明する。
こうした5つの性質を兼備する第二のアルコールは、11段落に記載したように、炭素原子の数が4-7個からなる側鎖アルコールと2級アルコールと、炭素原子の数が6個の直鎖アルコールである1-ヘキサノールが存在する。すなわち、沸点が99℃で、20℃の粘度が3.9mPa・秒で、20℃の表面張力が23.0dyn/cmである2-ブタノールと、沸点が103℃で、20℃の粘度が3.8mPa・秒で、20℃の表面張力が22.8dyn/cmである2-メチル―2-ブタノールと、沸点が108℃で、20℃の粘度が4.0mPa・秒で、20℃の表面張力が22.9dyn/cmであるイソブチルアルコールと、沸点が108℃で、20℃の粘度が4.0mPa・秒である2-メチル-1-ブタノールと、沸点が119℃で、20℃の粘度が3.5mPa・秒で、20℃の表面張力が25.7dyn/cmである2-ペンタノールと、沸点が131℃で、20℃の粘度が3.7mPa・秒で、20℃の表面張力が24.8dyn/cmである3-メチル―1-ブタノールと、沸点が157℃で、20℃の粘度が5.3mPa・秒で、20℃の表面張力が26.2dyn/cmである1-ヘキサノールなどがある。
【0016】
前記第二の懸濁液を作成する方法は、
10段落に記載した金属化合物として、無機物の分子ないしは無機物のイオンが金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物を用い、10段落に記載した方法に従って前記第二の懸濁液を作成する、第二の懸濁液を作成する方法。
【0017】
つまり、無機物からなる分子ないしは無機物からなるイオンが配位子となって、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物を、還元雰囲気で熱処理すると、最初に配位結合部が分断され、無機物と金属とに分解する。さらに昇温すると、無機物が気化熱を奪って気化し、180-220℃の温度範囲で無機物の気化が完了して金属が析出する。従って、15段落に記載した第二のアルコールの沸点より、無機金属化合物の熱分解温度が高い。このため、6段落に記載した前記金属化合物として、金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物を用い、6段落に記載した前記混合物を昇温すると、最初にメタノールが気化し、次に第二のアルコールが気化する。これによって、無機金属化合物の微細結晶の集まりが一斉に析出する。さらに、無機金属化合物の微細結晶が熱分解すると、金属の10nm前後のナノ粒子が一斉に析出する。
つまり、無機金属化合物を構成するイオンの中で、分子の中央に位置する金属イオンが最も大きく、金属イオンと配位子との距離が最も長い。この無機金属化合物を還元雰囲気で熱処理すると、金属イオンが配位子と結合する配位結合部が最初に分断され、金属と無機物とに分解する。さらに温度が上がると、無機物が気化熱を奪って気化し、無機物の気化が完了すると金属が析出し、熱分解を終える。金属が析出する温度は、金属化合物の熱分解で金属が析出する温度の中で最も低い。
また、金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物は、メタノールに10重量%近く分子分散し、メタノールに溶解しない。さらに、15段落に記載した、炭素原子の数が4-8個からなる側鎖アルコールと2級アルコールと、炭素原子の数が6個の直鎖アルコールである1-ヘキサノールに、金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物は分子分散しない。このため、金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物は、6段落および10段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用いることができる。
すなわち、無機物からなる分子ないしは無機物からなるイオンが配位子になって、金属イオンに配位結合する金属錯イオンは、他の金属錯イオンに比べて合成が容易である。このような金属錯イオンとして、アンモニアNHが配位子となって金属イオンに配位結合するアンミン金属錯イオン、水HOが配位子となって金属イオンに配位結合するアクア金属錯イオン、水酸基OHが配位子となって金属イオンに配位結合するヒドロキソ金属錯イオン、塩素イオンClが、ないしは塩素イオンClとアンモニアNHとが配位子となって金属イオンに配位結合するクロロ金属錯イオンなどがある。さらに、このような金属錯イオンを有する塩化物、硫酸塩、硝酸塩などの無機塩からなる無機金属化合物は、合成が容易で、無機塩の分子量が小さいため、180-220℃の温度範囲で無機物の気化が完了し金属を析出する。この金属が析出する温度は、金属化合物の熱分解で金属を析出する温度の中で最も低い。こうした無機金属化合物は、汎用的な工業用の薬品である。
【0018】
前記第二の懸濁液を作成する方法は、
10段落に記載した金属化合物として、オクチル酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合するオクチル酸金属化合物を用い、10段落に記載した方法に従って前記第二の懸濁液を作成する、第二の懸濁液を作成する方法。
【0019】
つまり、オクチル酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合するオクチル酸金属化合物は、金属イオンが最も大きいイオンであり、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの距離が、他のイオン同士の距離より長い。こうした分子構造上の特徴を持つオクチル酸金属化合物を、大気雰囲気で熱処理すると、オクチル酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの結合部が最初に分断され、オクチル酸と金属とに分離する。オクチル酸が飽和脂肪酸から構成され、炭素原子が水素原子に対して過剰となる不飽和構造を持たないため、オクチル酸が気化熱を奪って気化し、290℃で気化が完了し、金属が析出する。従って、15段落に記載した第二のアルコールの沸点より、オクチル酸金属化合物の熱分解温度が高い。このため、6段落に記載した前記金属化合物としてオクチル酸金属化合物を用い、6段落に記載した前記混合物を昇温すると、最初にメタノールが気化し、次に第二のアルコールが気化する。これによって、オクチル酸金属化合物の微細結晶の集まりが一斉に析出する。さらに、オクチル酸金属化合物の微細結晶が熱分解すると、金属の10nm前後のナノ粒子が一斉に析出する。
また、オクチル酸金属化合物は、メタノールに10重量%前後まで分散し、メタノールに溶解しない。さらに、15段落に記載した、炭素原子の数が4-8個からなる側鎖アルコールと2級アルコールと、炭素原子の数が6個の直鎖アルコールである1-ヘキサノールに、オクチル酸金属化合物は分子分散しない。このため、オクチル酸金属化合物は、6段落および10段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用いることができる。
ところで、オクチル酸金属化合物は、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物に属する有機金属化合物である。いっぽう、オクチル酸が分岐構造からなり、直鎖が短く、オクチル酸の沸点は228℃と最も低い。このため、大気雰囲気の290℃で熱分解が完了し、金属を析出する。いっぽう、2つの特徴を兼備するカルボン酸金属化合物として、オクチル酸金属化合物の他に、ラウリン酸金属化合物、ステアリン酸金属化合物などがある。ラウリン酸とステアリン酸とは何れも直鎖構造であるため、ラウリン酸の沸点は296℃で、ステアリン酸の沸点は376℃であり、オクチル酸の沸点より高い。このため、熱分解が完了して金属を析出する温度は、オクチル酸金属化合物より高い。従って、オクチル酸金属化合物は、有機金属化合物の中で最も低い熱分解温度で金属を析出する。
つまり、オクチル酸は、分岐構造の飽和脂肪酸であり、示性式がCH(CHCH(C)COOHで示され、CHでCH(CHとCとのアルカンに分岐され、CHにカルボキシル基COOHが結合する。分岐構造の飽和脂肪酸は、直鎖構造の飽和脂肪酸より鎖の長さが短く、沸点が228℃と低い。これに対し、ラウリン酸とステアリン酸は、直鎖構造の飽和脂肪酸であり、沸点が分岐構造の飽和脂肪酸より高い。
なお、オクチル酸とカプリル酸(オクタン酸とも言う)とは、同一の分子式C16であるが、分子構造が異なる異性体である。つまり、オクチル酸は前記したように分岐構造を持つ脂肪酸である。いっぽう、カプリル酸は直鎖構造を持つ脂肪酸で、示性式はCH(CHCOOHである。従って、オクチル酸金属化合物とカプリル酸金属化合物とは、同一の分子式であるが、オクチル酸とカプリル酸とが分子構造が異なる。すなわち、カプリル酸金属化合物は、カプリル酸が電離して生じるアニオンであるカルボキシラートアニオンに、金属イオンが配位結合する。このため、カプリル酸金属化合物は、大気雰囲気での熱分解で金属酸化物を析出する。つまり、カプリル酸金属化合物は、最も大きいイオンである金属イオンにカルボキシラートイオンが近づいて配位結合するため、金属イオンと、カルボキシラートイオンを構成する酸素イオンとの距離は短くなる。これによって、酸素イオンが金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの距離が最も長くなる。こうした分子構造を持つカプリル酸金属化合物は、カプリル酸の沸点を超えると、酸素イオンが金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの結合部が分断され、金属イオンと酸素イオンとの化合物である金属酸化物とカプリル酸とに分解する。さらに昇温すると、カプリル酸が気化熱を奪って気化し、気化が完了した直後に、金属酸化物が析出する。
また、オクチル酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、最も汎用的な有機酸であるオクチル酸を、強アルカリと反応させるとオクチル酸アルカリ金属化合物が生成され、オクチル酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、様々な金属からなるオクチル酸金属化合物が合成される。従って、オクチル酸金属化合物は、最も安価な有機金属化合物である。このため、14-15段落で説明した無機金属化合物より熱処理温度が高いが、無機金属化合物より安価な有機金属化合物である。
【0020】
前記混合物を用い、フィルムを形成する方法は、
6段落に記載した方法で製造した前記混合物を、押出機に充填し、さらに、該押出機から前記混合物をTダイに押出し、さらに、作成するフィルムの幅からなる幅を有し、かつ、作成するフィルムの厚みからなる間隙を有する前記Tダイのリップから、前記混合物をフィルムとして押し出す、
この後、該押し出されたフィルムを、前記混合物を構成する前記金属化合物が熱分解を完了する温度まで昇温された熱処理炉を通過させ、さらに、該押し出されたフィルムを巻き取り機で巻き取る、
これによって、
アグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなるフィルムが連続して形成される、前記混合物を用い、フィルムを形成する方法。
【0021】
つまり、次の5つの処理を連続して実施すると、ガスバリアー性と金属の光沢性と金属に準じる導電性と熱伝導性とが付与され、かつ、プラスチックのフィルムより引っ張り強度と圧縮強度とせん断強度とが高いフィルムが連続して形成される。
第一に、6段落に記載した方法に従って作成した前記混合物を押出機に継続して充填する。第二に、押出機のスクリューを継続して動かし、押出機に充填された前記混合物を、押出機からTダイに継続して押出す。第三に、Tダイに押出された前記混合物を、押出機からの圧力によって、Tダイのリップから、フィルムとして継続して押し出す。第四に、Tダイのリップから押し出されたフィルムを、熱処理炉を継続して通過させる。第五に、熱処理炉を通過したフィルムを、巻き取り機で連続して巻き取る。この結果、ガスバリアー性と金属の光沢性と金属に準じる導電性と熱伝導性とが付与され、プラスチックのフィルムより引っ張り強度と圧縮強度とせん断強度とが高いフィルムが連続して形成される。
次に、5つの処理で起こる現象と、5つの処理がもたらす作用効果とを説明する。
第一の処理において、6段落に記載した方法に従って作成した前記混合物は、第二のアルコールに近い粘度を持ち、前記混合物を押出機に充填できる。なお、前記混合物は、絡み合ったアグリゲートの間隙を、第三の懸濁液が埋め尽くすとともに、該懸濁液が、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に吸着する構成からなる。
第二の処理において、押出機に充填された前記混合物は、押出機のスクリューの動きで、Tダイに押し出される。この際も、前記混合物は第二のアルコールに近い粘度を持ち、前記混合物が切断することなく、Tダイに押し出される。なお、前記混合物が押出機のスクリューによってTダイに押し出される際に、混合物の全体に応力が加わり、混合物が押出機からTダイに移動する。この際、混合物を構成する絡み合ったアグリゲートの集まりが、応力によって変形する。この変形に際し、絡み合ったアグリゲートの間隙を埋め尽くした固体である金属化合物の微細結晶は、絡み合ったアグリゲートの変形に追従して、絡み合ったアグリゲートの間隙に留まる。これに対し、液体である2種類のアルコールの溶解液または混和液の一部が、絡み合ったアグリゲートの間隙から移動し、前記混合物の表面に滲み出る。また、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に吸着した懸濁液は、絡み合ったアグリゲートの変形に追従して、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に継続して吸着する。
第三の処理において、Tダイに押し出した前記混合物は、Tダイのリップから、フィルムとして継続して押し出される。
つまり、Tダイは、衣装用のハンガーに似た形状を持つ金型で、3つの部分から構成される。最初に、押出機から押し出された前記混合物は、押出機の出口より狭い間隙からなり、一定の長さを持つ導入部に押し出される。この際、前記混合物は、押出機からの圧縮応力を受けながら導入部を進む。この後、マニホールドと呼ばれる扇形に広がった領域に押し出される。マニホールドに押し出された前記混合物は、押出機からの圧縮応力を常時受けているため、前記混合物がマニホールドの空間を埋めるように、幅方向に引き伸ばされ、さらに、長さ方向に押し伸ばされ、前記混合物がフィルムに近い形状に形成される。この後、フィルムの厚みからなる間隙を有し、フィルムの幅を有するリップと呼ばれるマニホールドより狭い空間で、一定の長さを持つ領域に押し出される。最後に、リップに押し出されたフィルムは、圧縮応力を受けながらリップの出口からTダイの外に、フィルムとして押し出される。なお、フィルムの厚みは、予め設定したリップの間隙で決定され、また、予め設定したリップの幅でフィルムの幅が決まる。
次に、Tダイにおける前記混合物とフィルムの挙動を説明する。前記混合物がTダイに押し出されると、空間が狭くなったTダイの導入部で、前記混合物は継続して圧縮され、さらに、前記混合物が導入部の長さ方向に継続して引き延ばされる。前記混合物が圧縮されると、混合物を構成する絡み合ったアグリゲートの集まりが圧縮され、該絡み合ったアグリゲートの集まりが変形する。この際、絡み合ったアグリゲートの間隙を埋め尽くした固体である金属化合物の微細結晶は、絡み合ったアグリゲートの変形に追従して、絡み合ったアグリゲートの間隙に留まる。これに対し、液体である2種類のアルコールの溶解液または混和液の一部が、絡み合ったアグリゲートの間隙から移動し、前記混合物の表面に滲み出る。また、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に吸着した懸濁液は、絡み合ったアグリゲートの変形に追従して、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に継続して吸着する。次に、前記混合物が引き伸ばされると、混合物を構成する絡み合ったアグリゲートの集まりも引き伸ばされ、該絡み合ったアグリゲートの集まりが変形する。この際、絡み合ったアグリゲートの間隙を埋め尽くした固体である金属化合物の微細結晶は、絡み合ったアグリゲートの変形に追従して、絡み合ったアグリゲートの間隙に留まる。これに対し、液体である2種類のアルコールの溶解液または混和液の一部が、絡み合ったアグリゲートの間隙から移動し、前記混合物の表面に滲み出る。また、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に吸着した懸濁液は、絡み合ったアグリゲートの変形に追従して、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に継続して吸着する。いっぽう、液体である2種類のアルコールの溶解液または混和液は、前記混合物が継続して圧縮されるため、継続して前記混合物の表面に一部が滲み出る。さらに、前記混合物がTダイの導入部を移動する際に、前記混合物が導入部の壁面と接触し、滲み出た2種類のアルコールは、前記混合物の表面から徐々に解離される。また、絡み合ったアグリゲートの集まりが、圧縮され、また、引き伸ばされる際に、絡み合ったアグリゲートの集まりが継続して変形し、該アグリゲートの変形によって、アグリゲート同士の2種類のアルコールの溶解液または混和液を介した絡み合いが進む。
この後、前記混合物はマニホールドに入り込む。マニホールドに入り込んだ前記混合物は、フィルム形状の幅に引き伸ばされ、引き伸ばされた前記混合物は、押出機からの圧縮応力によって、マニホールドの下位の方向に継続して押し出される。いっぽう、マニホールドの空間が導入部の空間より広いため、マニホールドに入り込んだ前記混合物は一時的に負圧状態になり、前記混合物の体積が増大し、絡み合ったアグリゲートの集まりが変形する。また、前記混合物が引き伸ばされる際にも、該混合物の変形に追従して、絡み合ったアグリゲートの集まりが変形する。この際、再度、液体である2種類のアルコールの溶解液または混和液の一部が、前記混合物の表面に滲み出る。また、前記混合物がマニホールド内を移動する際に、マニホールドの壁面と接触し、滲み出た2種類のアルコールは、前記混合物の表面から徐々に解離される。いっぽう、絡み合ったアグリゲートの間隙を埋め尽くした固体の金属化合物の微細結晶の集まりは、絡み合ったアグリゲートの集まりが変形に追従して、絡み合ったアグリゲートの間隙に留まる。また、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に吸着した懸濁液は、絡み合ったアグリゲートの変形に追従して、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に継続して吸着する。さらに、絡み合ったアグリゲートの集まりが変形することで、アグリゲート同士の2種類のアルコールの溶解液または混和液を介した絡み合いが進む。こうして、前記混合物は、マニホールド内で、フィルムに近い形状に成形される。
次に、フィルムは、マニホールドより幅が狭いリップ部で継続して圧縮される。この際、液体の2種類のアルコールの溶解液または混和液の一部が、フィルムの表面に滲み出る。フィルムがリップ部を移動する際に、フィルムがリップ部の壁面と接触するため、滲み出た2種類のアルコールの溶解液または混和液は、フィルムの表面から解離される。いっぽう、絡み合ったアグリゲートの集まりも、継続して圧縮され、アグリゲートの集まりが変形し、アグリゲート同士の2種類のアルコールの溶解液または混和液を介した絡み合いが進む。また、固体の金属化合物の微細結晶の集まりは、絡み合ったアグリゲートの間隙で圧縮されるが、絡み合ったアグリゲートの変形に追従して、絡み合ったアグリゲートの間隙に留まる。また、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に吸着した懸濁液も、圧縮応力を継続して受け、絡み合ったアグリゲートの集まりの変形に追従し、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に、継続して吸着する。こうして、リップの出口から、フィルムとともに、前記混合物から解離された2種類のアルコールが押し出される。リップから押し出されたフィルムは、2種類のアルコールの溶解液または混和液の多くが前記混合物から排出され、絡み合ったアグリゲートの集まりと、該絡み合ったアグリゲートの集まりの間隙を埋め尽くした固体金属化合物の微細結晶の集まりと、該絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に吸着した懸濁液で構成される。いっぽう、リップから押し出されたフィルムに、2種類のアルコールの溶解液または混和液が残存し、金属化合物の微細結晶同士が第二のアルコールの粘度に基づいて吸着している。このため、互いに吸着した金属化合物の微細結晶の集まりが、絡み合ったアグリゲートの集まりの間隙を埋め尽くしている。また、互いに吸着した金属化合物の微細結晶の集まりが、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に吸着している。このため、リップから押し出されたフィルムは、切断せずに、押出機からの圧縮応力によって熱処理炉に水平移動する。
第四の処理において、Tダイのリップの出口から押し出されたフィルムは、熱処理炉を継続して通過し、金属化合物のナノサイズの微細結晶が熱分解し、10nm前後の大きさからなる金属の微粒子の集まりを一斉に析出する。なお、気化した2種類のアルコールは、回収機で回収する。
すなわち、フィルムが熱処理炉に入ると、最初に、残存した2種類のアルコールの溶解液または混和液がフィルムから気化し、金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶の集まりが積層して析出する。次に、金属化合物が熱分解を開始する温度に到達し、20nm前後の大きさからなる微細結晶が、無機物の分子ないしは有機物の分子と金属分子とに分解し、無機物または有機物の分子が気化熱を奪って気化する。さらに、無機物の分子ないしは有機物の分子の気化が完了すると、金属分子の集まりが10nm前後の大きさからなる金属のナノ粒子を形成し、金属のナノ粒子の集まりが一斉に析出し、金属のナノ粒子の集まりが積層する。金属のナノ粒子は不純物を含まず、活性状態で析出するため、隣接する金属のナノ粒子同士が接触部で金属結合する。この結果、絡み合ったアグリゲートの間隙を埋め尽くした金属化合物の微細結晶の集まりは、金属結合した金属のナノ粒子の集まりになり、絡み合ったアグリゲートの間隙を、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが積層して埋め尽くし、絡み合ったアグリゲート同士が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりを介して結合する。また、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に吸着した金属化合物の微細結晶の集まりも、金属結合した金属のナノ粒子の集まりになり、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面を、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが積層して覆う。
第五の処理において、熱処理炉を通過したフィルムを、巻き取り機で連続して巻き取る。この結果、ガスバリアー性と金属の光沢性と金属に準じる導電性と熱伝導性とが付与され、引っ張り強度と圧縮強度とせん断強度とを併せ持ったフィルムが連続して形成される。
こうした5つの処理によって形成されたフィルムは、次の作用効果を発揮する。
第一に、アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりが、フィルムを構成するため、カーボンブラックの全光線透過率が0%と低く、フィルムは優れた遮光性を持つ。従って、紫外線がフィルムに連続照射されても、フィルムは劣化しない。また、カーボンブラックの熱放射率が0.95―0.97と高く、フィルムは放熱膜として作用する。
第二に、絡み合ったアグリゲートの間隙を、金属結合した金属の10nm前後の大きさからなるナノ粒子の集まりが積層して埋め尽くし、また、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面を、金属結合した金属の10nm前後の大きさからなるナノ粒子の集まりが積層して覆う。このため、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、電子が連続して移動する通路を、フィルムに形成する。これによって、フィルムは、金属に準じる導電性と熱伝導性と電磁波シールド性と、帯電防止の機能を兼備する。
第三に、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面を、金属結合した金属の10nm前後の大きさからなるナノ粒子の集まりが20層以上積層して覆い、かつ、絡み合ったアグリゲートの間隙を、金属結合した金属の10nm前後の大きさからなるナノ粒子の集まりが積層して埋め尽くす。これによって、フィルムはガスバリアー性を持つ。すなわち、気体や水蒸気の分子の大きさが0.3-0.5nmであるのに対し、アグリゲートは、10-100nmの大きさからなる炭素粒子同士が、不規則で複雑な形状で数珠つなぎした構造からなる。従って、アグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりにおいては、大きさが0.3-0.5nm以上の孔が多数存在する。また、10nm前後の大きさからなる粒状の金属のナノ粒子の集まりが、互いに接触する部位で金属結合した金属のナノ粒子は、隣接する金属のナノ粒子に、1-2nmの空隙を形成する。このため、絡み合ったアグリゲートの間隙を埋め尽くした金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、大きさが0.3-0.5nm以上の孔が存在する。これに対し、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に、金属結合した金属のナノ粒子の集まりを積層させ、金属結合した金属のナノ粒子の集まりの積層数を増やすと、金属結合した金属のナノ粒子の集まりを貫通する空隙は、ランダムに積層した金属結合した金属のナノ粒子の集まりで塞がれる。実験によれば、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、20層近くまでランダムに積層すると、金属結合した金属のナノ粒子の集まりを、大気、窒素ガス、水蒸気が透過しないことが分かった。このため、10nm前後の大きさからなる粒状の金属のナノ粒子の集まりを、20層以上積層した金属のナノ粒子の集まりで、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面全体を覆った。なお、カーボンブラックの嵩密度に対するカーボンブラックの重量の比率と、カーボンブラックの粒子密度に対するカーボンブラックの重量の比率とを加算し、該加算した値に金属化合物の真密度を掛け合わせて求めた重量よりさらに多い重量として、金属化合物の微細結晶の集まりを秤量して、第二の懸濁液を形成した。また、金属化合物の微細結晶の粒子密度は、金属化合物の真密度より若干小さい。このため、過多な金属化合物の微細結晶が熱分解することで、アグリゲートの集まりの表面を、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが20層以上積層して覆う。従って、前記混合物における第二の懸濁液の重量をさらに増やすと、金属結合した金属のナノ粒子の集まりからなる積層数がさらに増える。
第四に、フィルムは液体を遮断する。すなわち、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面を、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが20層以上積層して覆うため、液体の表面張力によって、フィルムは液体を遮断する性質を持つ。
第五に、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面を、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが20層以上積層して覆うため、フィルムは金属の光沢を持つ。これによって、フィルムは、ガスバリアー性と金属の光沢とを兼備する。
第六に、絡み合ったアグリゲートの集まりの間隙を、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが積層して埋め尽くす。このため、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、アグリゲート同士を結合させる。また、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面を、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが積層して覆う。従って、フィルムは、金属結合した金属のナノ粒子の集まりの結合力に基づく機械的強度を持ち、プラスチックからなるフィルムより高い引っ張り強度と高い圧縮強度と高いせん断強度とを併せ持つ。
第七に、耐熱性と難燃性とが、プラスチックからなるフィルムより高い。すなわち、カーボンブラックの大気中での自然発火温度は500℃を超える。このため、金属のナノ粒子の集まりと、アグリゲートの集まりからなるフィルムは、プラスチックからなるフィルムより、耐熱性と難燃性とが高い。
第八に、フィルムの幅は、Tダイのマニホールドの形状とリップの形状で自在に変えられる。
第九に、フィルムの膜厚は、Tダイにおけるリップの間隙で自在に変えられる。
第十に、カーボンブラックは安価な工業用素材で、2種類のアルコールは最も汎用的な有機溶剤である。さらに、Tダイにおける処理は、押出成形の簡単な処理である。従って、安価な前記混合物を用い、安価な加工費で安価なフィルムが形成できる。
第十一に、アグリゲートの集まりと金属のナノ粒子の集まりとからなるフィルムを安全に作成できる。つまり、カーボンブラックを、メタノールに浸漬させ、さらに、懸濁液として処理し、フィルムを形成させるため、カーボンブラックが粉塵として飛散しない。また、金属化合物が熱分解する温度が、カーボンブラックの大気中での発火温度より200℃以上低いため、カーボンブラックは発火しない。
この結果、本発明のフィルムは、5段落に記載した第三から第六の課題を解決するのみでなく、様々な優れた性質を兼備し、様々な分野にフィルムが応用できる。
【0022】
前記フィルムを、同一形状の2枚のフィルムに切断し、該2枚のフィルム同士を圧着する方法は、
20段落に記載した方法で形成した前記フィルムを、同一形状の2枚のフィルムに切断し、該2枚のフィルム同士を圧着する部位で重ね合わせ、さらに、既存の2枚のフィルムを、前記2枚のフィルム同士を圧着する部位の形状に切断し、該2枚の既存のフィルムを、前記2枚のフィルム同士を圧着する部位の表側と裏側との各々の部位に重ね合わせ、該重ね合わされた前記4枚のフィルムの一方の表面に圧縮応力を加える、これによって、20段落に記載した方法で形成した前記2枚のフィルムの表面に形成された金属のナノ粒子の集まり同士が接触して接触部が形成され、また、20段落に記載した方法で形成した前記2枚のフィルムの表面に形成された金属のナノ粒子の集まりが、前記既存の2枚のフィルムの表面と接触して接触部が形成され、さらに、該接触部に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって前記金属のナノ粒子の集まり同士が接合し、また、該摩擦熱によって前記金属のナノ粒子の集まりが前記既存の2枚のフィルムの表面に接合し、前記金属のナノ粒子の集まり同士の接合と、前記金属のナノ粒子の集まりと前記既存の2枚のフィルムとの接合によって、前記重ね合わされた前記4枚のフィルム同士が圧着し、20段落に記載した方法で形成した2枚のフィルム同士を圧着する方法。
【0023】
つまり、20段落に記載した方法で形成したフィルムは、アグリゲートの集まりと、金属結合した金属のナノ粒子の集まりとからなる。いっぽう、アグリゲートにおける炭素の一次粒子は、炭素原子のπ電子の相互作用で炭素原子同士が結合しているため、炭素原子の結合力は小さい。このため、一次粒子は容易に切断できる。また、金属のナノ粒子が粒状の微粒子で、ナノ粒子同士が接触部で金属結合する結合部の体積は極わずかである。このため、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは容易に切断できる。従って、20段落に記載した方法で形成したフィルムは、様々な大きさと様々な形状に自在に切断できる。
いっぽう、20段落に記載した方法で形成したフィルムは、双方の表面に、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが20層以上積層している。従って、20段落に記載した方法で形成したフィルム同士を重ね合わせ、さらに、既存の2枚のフィルムを20段落に記載した方法で形成した各々のフィルムに重ね合わせ、重ね合わせた部位に圧縮応力を加える。この際、20段落に記載した方法で形成した2枚のフィルムの重ね合わせられた面において、表面の莫大な数からなる金属のナノ粒子の集まり同士が接触する。また、20段落に記載した方法で形成したフィルムの表面の金属のナノ粒子の集まりが、既存の各々のフィルムの表面に接触する。さらに、圧縮応力が加わり、金属のナノ粒子同士の接触部に過大な摩擦熱が瞬間的に発生し、また、金属のナノ粒子の集まりと既存のフィルムとの接触部に過大な摩擦熱が瞬間的に発生する。この摩擦熱で、接触部における双方の金属のナノ粒子同士の表層が、分子間結合によって接合する。また、摩擦熱で、接触部における金属のナノ粒子の表層と、既存のフィルムの表層とが、分子間結合によって接合する。この結果、4枚のフィルム同士が圧着する。
また、4枚のフィルムが重ね合わせられたフィルムの接合面において、20段落に記載した方法で形成したフィルムの表層を形成する20層以上積層した金属のナノ粒子の集まりは、圧縮応力を受けて塑性変形し、金属結合部におけるナノ粒子同士が接触する体積が増大し、体積が増大した接触部に瞬間的に摩擦熱が発生する。この摩擦熱で、接触部における金属のナノ粒子の表層同士が、分子間結合で接合する。この結果、積層した金属のナノ粒子の集まりの結合力が増える。
さらに、20段落に記載した方法で形成したフィルムの絡み合ったアグリゲートの集まりにおいて、アグリゲートを構成する炭素の一次粒子が、炭素原子のπ電子の相互作用で炭素原子同士が結合しているため、炭素原子同士の結合力は小さい。このため、重ね合わせたフィルムを圧縮すると、アグリゲートを構成する炭素粒子同士の結合が破壊される。さらに応力が加わると、炭素粒子がさらに微細な炭素粒子に破砕する。さらに応力が加わると、破砕された炭素粒子同士の接触部に摩擦熱が発生し、この摩擦熱で、接触部における炭素粒子の表層同士が、分子間結合によって接合する。また、炭素粒子と金属のナノ粒子についても、破砕された炭素粒子と金属のナノ粒子との接触部に摩擦熱が発生し、この摩擦熱で、接触部における破砕された炭素粒子と金属のナノ粒子との表層同士が、分子間結合によって接合する。
また、20段落に記載した方法で形成したフィルムの絡み合ったアグリゲートの間隙を埋めた金属結合した金属のナノ粒子の集まりも、圧縮応力を受ける。この際、金属のナノ粒子の集まりは、圧縮応力を受けて塑性変形し、金属結合部におけるナノ粒子同士が接触する体積が増大し、体積が増大した接触部に瞬間的に摩擦熱が発生する。この摩擦熱で、接触部における金属のナノ粒子の表層同士が、分子間結合によって接合する。これによって、金属結合した金属のナノ粒子の集まりの結合力が増える。
この結果、4枚のフィルムが重ね合わされた接合面は、第一に、20段落に記載した方法で形成した2枚のフィルムの表面に形成された金属のナノ粒子の集まり同士の結合力と、第二に、金属のナノ粒子の集まりと既存のフィルムとの接合力と、第三に、20段落に記載した方法で形成したフィルムの表層を形成する積層した金属のナノ粒子同士の結合力と、第四に、破砕された炭素粒子同士の結合力と、第五に、破砕された炭素粒子と金属のナノ粒子との結合力と、第六に、20段落に記載した方法で形成したフィルムの絡み合ったアグリゲートの間隙を埋めた金属のナノ粒子の集まりの結合力とからなる6種類の結合力で、質量が僅かである4枚のフィルム同士が強固に圧着する。
なお、破砕した炭素粒子の集まりは、アグリゲートがフィルムの内部を占める体積割合より、さらに多い体積割合でフィルムの内部を占有する。このため、アグリゲートの破壊によって、フィルムの遮光性と熱放射性とは失われない。
いっぽう、20段落に記載した方法で形成したフィルムと既存のフィルムとの圧着面においては、接合した金属のナノ粒子が20層以上積層している。また、20段落に記載した方法で形成したフィルム同士の圧着面においては、接合した金属のナノ粒子が40層以上積層している。また、20段落に記載した方法で形成したフィルムにおいては、圧着部を除くフィルム表面においても、金属結合した金属のナノ粒子が20層以上積層している。このため、圧着したフィルムによって容器を形成すると、表面張力によってすべての液体は、容器から漏れない。このため、液体を充填するフィルムの容器として用いることができる。また、この容器は、プラスチックの容器より機械的強度が高い。さらに、容器は、21段落に記載したフィルムの11項目からなる作用効果のうち、第八と第九の作用効果を除く、9項目の作用効果を同時に発揮する。
【0024】
前記フィルムを、既存のフィルムまたは薄膜に圧着させる方法は、
20段落に記載した方法で形成したフィルムを、圧着させる既存のフィルムと同一の形状に切断し、該切断したフィルムを、同一形状からなる2枚の既存のフィルムで挟み、この後、前記2枚の既存のフィルムの一方の表面を圧縮する、これによって、前記切断したフィルムの表面に形成された金属のナノ粒子の集まりが、前記2枚の既存のフィルムの双方の表面と接触して接触部が形成され、さらに、該接触部に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって前記金属のナノ粒子の集まりが、前記2枚の既存のフィルムの双方の表面に接合し、前記フィルムが前記2枚の既存のフィルムの双方の表面に圧着される、前記フィルムを、既存のフィルムに圧着させる方法、
または、
20段落に記載した方法で形成したフィルムを、圧着させる薄膜と同一の形状に切断し、該切断したフィルムを、同一形状からなる2枚の薄膜で挟み、この後、前記2枚の薄膜の一方の表面を圧縮する、これによって、前記切断したフィルムの表面に形成された金属のナノ粒子の集まりが、前記2枚の薄膜の双方の表面と接触して接触部が形成され、さらに、該接触部に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって前記金属のナノ粒子の集まりが、前記2枚の薄膜の双方の表面に接合し、前記フィルムが前記2枚の薄膜の双方の表面に圧着される、前記フィルムを、薄膜に圧着させる方法。
【0025】
つまり、20段落に記載した方法で形成したフィルムは、アグリゲートの集まりと、金属結合した金属のナノ粒子の集まりとからなる。いっぽう、アグリゲートにおける炭素の一次粒子は、炭素原子のπ電子の相互作用で炭素原子同士が結合しているため、炭素原子の結合力は小さい。このため、一次粒子は容易に切断できる。また、金属のナノ粒子が粒状の微粒子で、ナノ粒子同士が接触部で金属結合する結合部の体積は極わずかである。このため、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは容易に切断できる。従って、20段落に記載した方法で形成したフィルムは、様々な大きさと様々な形状に自在に切断できる。
従って、フィルムを、圧着させる既存のフィルムまたは薄膜の形状に切断し、切断したフィルムを、同一形状からなる2枚の既存のフィルム、または、同一形状からなる2枚の薄膜で挟む。いっぽう、20段落に記載した方法で形成したフィルムの表層は、20層以上積層した金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われている。従って、フィルムの表面を覆う金属のナノ粒子の集まりは、フィルムを既存のフィルムまたは薄膜に圧着させる手段として利用できる。これによって、既存のフィルムまたは薄膜の材質と形状とに関わらず、フィルムが2枚の既存のフィルム、または、2枚の薄膜に挟まれて一体となって圧着し、フィルムと一体になった既存のフィルムまたは薄膜に、21段落に記載したフィルムが有する様々な性質が付与される。すなわち、フィルムが有する性質のうち、2枚の既存のフィルム、または、2枚の薄膜で挟まれたフィルムが、遮光性と放熱性とガスバリアー性と液体を遮断する性質を発揮するため、フィルムと一体になった既存のフィルムまたは薄膜は、遮光性と放熱性とガスバリアー性と液体を遮断する性質を兼備する。いっぽう、既存のフィルムまたは薄膜が表面を構成するため、フィルムと一体になった既存のフィルムまたは薄膜は、フィルムが有する金属に準ずる導電性と熱伝導性と、金属の光沢を発揮できない。
なお、フィルムを2枚の既存のフィルム、または、2枚の薄膜の双方の表面に摩擦熱で圧着させるため、2枚の既存のフィルム、または、2枚の薄膜は、同一の材質である必要はない。
すなわち、既存のフィルムまたは薄膜の表面の凹凸の間隔は、サブミクロンと小さいが、莫大な数からなる。これに対し、切断したフィルムの表面には、既存のフィルムまたは薄膜の表面の凹凸の間隔より2桁近く大きさが小さい10nm前後の大きさの金属のナノ粒子が、莫大な数として存在する。また、切断したフィルムの厚みは薄い。こうした構成からなるフィルムを、同一形状からなる2枚の既存のフィルムまたは薄膜で挟み、一方の既存のフィルムまたは薄膜の表面を圧縮する。この際、フィルムの表面の莫大な数からなる金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、既存のフィルムまたは薄膜の双方の表面の莫大な数からなる凹凸の凸部と接触する。これによって、接触部に過大な摩擦熱が瞬間的に発生する。この摩擦熱で、接触部における金属のナノ粒子が、質量が僅かである既存のフィルムまたは薄膜の双方の表面の凹凸の凸部に接合する。
さらに、23段落に記載したように、第一に、莫大な数からなる積層した金属のナノ粒子同士の結合力と、第二に、破砕された炭素粒子同士の結合力と、第三に、破砕された炭素粒子と金属のナノ粒子との結合力と、第四に、絡み合ったアグリゲートの間隙を埋めた金属のナノ粒子同士の結合力とからなる4種類の結合力が、前記した金属のナノ粒子が、双方の既存のフィルムまたは薄膜の表面の凹凸の凸部に接合する接合力に加わる。これによって、質量が僅かであるフィルムが、質量が僅かである既存のフィルムまたは薄膜の表面に強固に圧着する。
なお、破砕した炭素粒子の集まりは、アグリゲートが占める体積割合より、さらに多い体積割合でフィルムの内部を占有するため、フィルムの遮光性と熱放射性とは失われない。
ところで、耐熱性が低いが、最も汎用的な素材として、様々な材質からなる合成樹脂のフィルムがある。合成樹脂フィルムの中で、塩化ビニル樹脂フィルムは熱分解が開始する温度が最も低く、大気雰囲気では、180℃を超えると、分子中の塩素、水素が脱離する脱塩化水素反応が始まる。これによって、塩化ビニル樹脂フィルムは不可逆変化する。
いっぽう、塩化ビニル樹脂フィルムの表面の凹凸の凸部と、金属のナノ粒子との接触部で発生する過大な摩擦熱は、接触から1秒より短い時間で発生し、また、接触部が極めて僅かな体積であるため、瞬間的に冷却する。さらに、過大な摩擦熱が発生する領域は、接触部における金属のナノ粒子のごく表層と、接触部における塩化ビニル樹脂フィルムの表面の凹凸の凸部のごく表層に限られる。従って、双方のごく表層同士の分子間結合によって、金属のナノ粒子と塩化ビニル樹脂フィルムとが結合する。このため、塩化ビニル樹脂フィルムが、20段落に記載した方法で形成したフィルムと接触する表面温度は殆ど上昇しない。従って、耐熱性の低い塩化ビニル樹脂フィルムであっても、20段落に記載した方法で形成したフィルムが、塩化ビニル樹脂フィルムに挟まれて圧着する。
このため、既存のフィルムまたは薄膜の材質と形状とに関わらず、2枚の既存のフィルム、または、2枚の薄膜で挟んだフィルムが、2枚の既存のフィルム、または、2枚の薄膜に圧着し、既存のフィルムまたは薄膜に、21段落に記載した様々なフィルムの性質が付与される。
【0026】
前記混合物を用い、基材の表面に、アグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなる被膜を形成する方法は、
6段落に記載した方法で製造した前記混合物を、基材の表面に塗布または印刷し、該基材を、前記混合物を構成する金属化合物が熱分解を完了する温度まで昇温させ、前記基材の表面に、アグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなる被膜を形成する、前記混合物を用い、基材の表面に、アグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなる被膜を形成する方法。
【0027】
つまり、次の2つの処理によって、基材の表面に、アグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなる被膜が形成される。
なお、前記混合物を用いて、基材の表面に被膜を形成する方法は、22段落に記載したフィルム同士を圧着させる方法に比べ、また、24段落に記載した切断したフィルムを、既存の2枚のフィルムまたは薄膜で挟んで圧着する方法に比べ、フィルムを製造する処理と、フィルムを切断する処理とがないため、22段落と24段落に記載した方法に比べ、被膜が容易に形成できる。しかし、金属化合物が熱分解する温度に昇温する熱処理を伴う。従って、基材が金属化合物の熱分解温度に昇温されても不可逆変化しなければ、基材の材質の制約がない。いっぽう、22段落に記載した方法では、フィルム同士を圧着し、フィルからなる容器が製造できる。
最初に、6段落に記載した方法で製造した前記混合物を、基材の表面に塗布または印刷し、次に、基材を前記金属化合物が熱分解を完了する温度に昇温する。この結果、基材の表面に、アグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなる被膜が形成される。
ところで、6段落に記載した第二のアルコールの表面張力は、20℃において23-26dyn/cmと極めて小さい。つまり、第二のアルコールは、低粘度で、低表面張力の性質を兼備する。なお、水の表面張力は20℃で73dyn/cmであり、第二のアルコールの表面張力の2.8倍より大きい。これに対し、金属の表面張力は大きく、鉄は1360dyn/cmで、シリコンは1240dyn/cmである。また、ガラスの表面張力は500-1200dyn/cmである。いっぽう、固体の中で合成樹脂の表面張力は最も小さく、24-47dyn/cmである。すなわち、合成樹脂の中でPTFE樹脂(ポリテトラフルオロエチレン樹脂)の表面張力は最も小さく、24dyn/cmである。ちなみに、他のフッ素樹脂の種類であるPVDF樹脂(ポリビニルデンフルオライド樹脂)の表面張力は33dyn/cmである。また、ポリエチレン樹脂は37dyn/cmで、ポリスチレン樹脂が40dyn/cmで、ポリ塩化ビニル樹脂が42dyn/cmで、PET樹脂が45dyn/cmで、ナイロン樹脂が47dyn/cmである。従って、第二のアルコールの表面張力は、殆どの固体の表面張力より小さい。いっぽう、前記混合物は、メタノールの重量が第二のアルコールの重量より1-2桁少ないため、第二のアルコールの性質に近い。このため、固体からなる基材に塗布ないしは印刷する際に、前記混合物の接触角は小さく、前記混合物は基材に濡れやすい。従って、前記混合物は、殆どの基材の表面に濡れる。このため、基材の材質の制約を受けずに、前記混合物からなる塗膜ないしは印刷膜が基材に形成される。
ちなみに、14-15段落に記載した第二のアルコールの中で、最も表面張力が小さい第二のアルコールはイソブチルアルコールで、表面張力は20℃で22.9dyn/cmである。これに対し、最も表面張力が大きい第二のアルコールは1-ヘキサノールで、表面張力は20℃で26.2dyn/cmである。
また、前記混合物の粘度は、第二のアルコールの粘度である4-5mPa・秒に近い。従って、被膜を形成させる基材の大きさや材質に応じて、また、被膜の用途に応じて、用いる第二のアルコールの種類を変え、塗膜または印刷膜の厚みを変える。
さらに、前記混合物を構成するアグリゲートの大きさは100-500nmからなり、金属化合物の微細結晶の大きさは20nm前後である。これに対し、基材の表面の凹凸の間隔はサブミクロンからなる。従って、低粘度で低表面張力からなる混合物が、基材の表面に塗布ないしは印刷されると、絡み合ったアグリゲートの集まりが、2種類のアルコールの溶解液または混和液を介して、基材の表面の凹凸の凸部と凹部との双方に接触する。
ところで、前記混合物は、絡み合ったアグリゲートの集まりの間隙を、2種類のアルコールの溶解液または混和液に、金属化合物の微細結晶の集まりが分散した懸濁液が埋め尽くすとともに、絡み合ったアグリゲートの集まりの表面に懸濁液が吸着した構成からなる。従って、前記混合物を塗布または印刷した塗膜または印刷膜も、同様の構成からなる。
この後、前記塗膜または前記印刷膜が形成された基材が、金属化合物の熱分解が完了する温度まで昇温される。最初に、残存した2種類のアルコールが気化し、金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶の集まりが積層して析出する。次に、金属化合物が熱分解を開始する温度に到達し、20nm前後の大きさからなる微細結晶が、無機物の分子ないしは有機物の分子と金属分子とに分解し、無機物または有機物の分子が気化熱を奪って気化する。さらに、無機物の分子ないしは有機物の分子の気化が完了すると、金属分子の集まりが10nm前後の大きさからなる金属のナノ粒子を形成し、該金属のナノ粒子の集まりが一斉に析出し、金属のナノ粒子の集まりが積層する。該金属のナノ粒子は不純物を含まず、活性状態で析出するため、隣接する金属のナノ粒子同士が接触部で金属結合する。この結果、絡み合ったアグリゲートの集まりの間隙を、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが積層して埋め尽くす。また、絡み合ったアグリゲートの集まりの表層を、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが積層して覆う。さらに、基材の表面の凹凸の凸部と凹部の双方と接触した懸濁液が熱分解すると、10nm前後の大きさからなる金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、基材の表面の凹凸を埋める。この結果、基材の表面の凹凸を埋めた金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、絡み合ったアグリゲートの集まりの表層を覆った金属結合した金属のナノ粒子の集まりと金属結合する。こうした構成からなる被膜が、基材の表面に形成される。いっぽう、基材の表面の凹凸を埋めた金属結合した金属のナノ粒子の集まりがアンカー効果をもたらし、被膜は、一定の強度で、基材の表面に接合する。
ところで、汎用性が高いが、耐熱性が低い基材として様々な材質の合成樹脂がある。合成樹脂の熱分解が開始する温度が、金属化合物の熱分解温度より高ければ、合成樹脂が不可逆変化せずに、合成樹脂の基材の表面に、アグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなる被膜が形成できる。いっぽう、16-17段落に記載した無機金属化合物の熱分解は、還元雰囲気の180-220℃である。多くの種類の合成樹脂は、還元雰囲気での熱分解が開始する温度は220℃より高い。これに対し、18-19段落に記載したオクチル酸金属化合物は、大気雰囲気では290℃で熱分解が完了する。このため、オクチル酸金属化合物を用いて、アグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなる被膜が圧着できる合成樹脂は限定される。しかし、合成樹脂の熱分解が開始する温度は、大気雰囲気と窒素雰囲気では異なる。また、オクチル酸金属化合物は、窒素雰囲気では340℃で熱分解が完了する。従って、合成樹脂が、窒素雰囲気での熱分解が340℃より高い温度で始まれば、オクチル酸金属化合物を用いて、合成樹脂の表面に、アグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなる被膜が形成できる。
つまり、合成樹脂の熱分解が始まる温度は、酸素ガスが存在する雰囲気と、窒素雰囲気とでは大きく異なる。すなわち、酸素ガスが存在する雰囲気での熱分解は、酸化反応に依る熱分解であるため発熱を伴う。この発熱現象が、酸化されやすい有機物質からなる高分子の熱分解を促進させ、また、熱分解の途上で生成される可燃性ガスが自己発火する。これに対し、窒素雰囲気での熱分解では酸化反応が起こらず、吸熱反応に依る熱分解が起こり、発熱現象が生じない。このため、高分子が熱分解を開始する温度は、酸素ガスが存在する雰囲気に比べて遅れ、高温側にシフトする。例えば、高密度ポリエチレン樹脂の熱分解は、大気雰囲気では250℃付近で開始するのに対し、窒素雰囲気では400℃付近と150℃も高温側にシフトする。また、ポリスチレン樹脂PSは350℃で始まり460℃付近で終了する。ポリエチレンテレフタレート樹脂PETが425℃で始まり480℃付近で終了する。ポリプロピレン樹脂PPが370℃で始まり500℃付近で終了する。高密度ポリエチレン樹脂HDPEが400℃で始まり520℃付近で終了する。ポリテトラフルオルエチレン樹脂PTFEは490℃で始まり640℃付近で終了する。従って、窒素雰囲気での熱分解が340℃より高い温度で始まる合成樹脂からなる基材の表面に、窒素雰囲気でのオクチル酸金属化合物の熱分解によって、アグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなる被膜が形成できる。
以上に説明したように、基材の表面に、アグリゲートの集まりと、金属のナノ粒子の集まりとからなる被膜が形成でき、該被膜に21段落に記載した様々なフィルムの性質が同時に付与される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】銀のナノ粒子が積層してフィルムの表面を覆い、ケッチェンブラックのアグリゲートが形成する間隙を、銀のナノ粒子の集まりが埋めたフィルムの断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
実施例1
実施例1は、8段落に記載した第一の懸濁液を作成する実施例である。
カーボンブラックとしてケッチェンブラック(ライオン株式会社の製品EC600JD)を用い、ケッチェンブラックの10gと、メタノールの15gを容器に充填し、攪拌して、ケッチェンブラックの集まりをメタノールに浸漬させた。なお、用いたケッチェンブラックは、平均粒子径が34.0nmと小さく、BET比表面積が1270m/gと大きく、優れた遮光性を示す。また、DBP吸着量が495cm/100gと大きく、ストラクチャーが成長している。さらに、嵩密度は0.12cm/gで、粒子密度は1.9g/cmで、いずれもカーボンブラックの中では最も高い値である。
この後、超音波ホモジナイザー(ヤマト科学株式会社の製品LUH150)を容器内のメタノール中で稼働し、20kHzの超音波信号を5分間加え、ケッチェンブラックのアグリゲートの集まりがメタノールに分散した第一の懸濁液を作成した。
【0030】
実施例2
実施例2は、10段落に記載した第二の懸濁液を作成する実施例である。金属化合物は、16段落に記載した無機金属化合物で、熱分解で銀を析出するジアンミン銀塩化物を用いる。また、第二のアルコールとして、14段落に記載した2-メチル-1-ブタノールを用いる。
ジアンミン銀塩化物(田中貴金属工業株式会社の製品)は、アンモニアが銀イオンに配位結合した銀錯イオンを有する無機金属化合物で、組成式は[Ag(NH]Clであり、水素雰囲気の180℃で熱分解する。また、2-メチル-1-ブタノール(富士フィルム和光純薬株式会社の製品)は、示性式はCHCHCH(CH)CHOHであり、沸点が128℃で、20℃での粘度が4.0mPa・秒で、20℃の表面張力が25.7dyn/cmである。
なお、実施例1のケッチェンブラックを用いることで、ケッチェンブラックの嵩密度に対するケッチェンブラックの重量の比率は、83cmになる。さらに、ケッチェンブラックの粒子密度に対するケッチェンブラックの重量の比率は、5cmになる。従って、ジアンミン銀塩化物の微細結晶を秤量する重量は、160gより多い重量になる。
最初に、ジアンミン銀塩化物の166g(0.72モルに相当する)と、1700gのメタノールを容器に充填し、メタノールを攪拌し、ジアンミン銀塩化物をメタノールに分散させた。この後、容器を65℃に昇温し、メタノールを気化させ、ジアンミン銀塩化物の結晶を析出させた。さらに、容器内のジアンミン銀塩化物の結晶の全体を覆う板材を、ジアンミン銀塩化物の結晶の集まりに被せ、板材に5kgの重りを載せた。重りを取り除いた後に、容器の底面と側面とに、上下、前後、左右の3方向の0.3Gからなる衝撃加速度を3回ずつ加えた。こうして、圧縮荷重と衝撃加速度とを、ジアンミン銀塩化物の結晶の集まりに各々5回ずつ加えた。この後、再度、板材に重りを載せたが、板材に動きが全く見られなかったため、ジアンミン銀塩化物の結晶の破砕が完了したと考えた。
この後、板材を取り出し、容器に180gの2-メチル-1-ブタノールを充填し、2-メチル-1-ブタノールを攪拌し、2-メチル-1-ブタノールに、ジアンミン銀塩化物の微細結晶の集まりを混合し、第二の懸濁液を作成した。
【0031】
実施例3
実施例1で作成した第一の懸濁液と、実施例2で作成した第二の懸濁液とを混合し、6段落に記載した混合物を作成した。
【0032】
実施例4
実施例1と同様に、ケッチェンブラックの10gが、メタノールの15gに分散した第一の懸濁液を作成した。
【0033】
実施例5
10段落に記載した第二の懸濁液を作成する実施例である。18段落に記載したオクチル酸金属化合物として、熱分解で銅を析出するオクチル酸銅を用いる。また、第二のアルコールとして、14段落に記載した2-オクタノールを用いる。
オクチル酸銅(三津和化学薬品株式会社の製品)は、大気雰囲気での熱分解温度が290℃で、示性式はCu[CH(CHCH(C)COO]である。また、1-ヘキサノール(富士フィルム和光純薬株式会社の製品)は、20℃の粘度が5.3mPa・秒で、20℃の表面張力が26.2dyn/cmであり、示性式はCH(CHOHである。
なお、実施例1の第一の懸濁液を用いることで、ケッチェンブラックの嵩密度に対するケッチェンブラックの重量の比率は、83cmになる。さらに、ケッチェンブラックの粒子密度に対するケッチェンブラックの重量の比率は、5cmになる。従って、オクチル酸銅の微細結晶を秤量する重量は、103gより多い重量になる。
最初に、オクチル酸銅の116g(0.33モルに相当する)と、1200gのメタノールを容器に充填し、メタノールを攪拌し、オクチル酸銅をメタノールに分散させた。この後、容器を65℃に昇温し、メタノールを気化させ、オクチル酸銅の結晶を析出させた。さらに、容器内のオクチル酸銅の結晶の全体を覆う板材を、オクチル酸銅の結晶の集まりに被せ、板材に4kgの重りを載せた。重りを取り除いた後に、容器の底面と側面とに、上下、前後、左右の3方向の0.3Gからなる衝撃加速度を3回ずつ加えた。こうして、圧縮荷重と衝撃加速度とを、オクチル酸銅の結晶の集まりに各々5回ずつ加えた。この後、再度、板材に重りを載せたが、板材に動きが全く見られなかったため、オクチル酸銅の結晶の破砕が完了したと考えた。
この後、板材を取り出し、容器に130gの1-ヘキサノールを充填し、1-ヘキサノールを攪拌し、1-ヘキサノールに、オクチル酸銅の微細結晶の集まりを混合し、第二の懸濁液を作成した。
【0034】
実施例6
実施例4で作成した第一の懸濁液と、実施例5で作成した第二の懸濁液とを混合し、6段落に記載した混合物を作成した。
【0035】
実施例7
実施例3で作成した混合物を用い、Tダイ(Bax株式会社が所有する設備)を用いて、20cmの幅で、20μmの厚みで、50cmの長さのフィルムを成形した。なお、フィルムの幅と厚みは、Tダイにおけるリップの設定幅と設定間隙で自在に変えられる。この後、作成したフィルムを、水素雰囲気の180℃に昇温した熱処理装置に5分間放置した。
最初に、作成したフィルムの遮光性を、JIS-L-1055A法に基づいて測定した。99.99%の遮光率であり、優れた遮光フィルムであることが分かった。
次に、作成したフィルムの熱放射率を、フーリエ変換赤外分光光度計と放射測定ユニットからなる分析器(株式会社コベルコ科研が所有する設備)で測定した。熱放射率が0.97と高く、優れた放熱フィルムであることが分かった。
これら優れた遮光性と熱放射性との結果は、ケチェンブラックの性質に基づく。
さらに、作成したフィルムのガスバリアー性を、JIS-K-7126-1に記載されたガス透過度試験方法に基づき、差圧式ガスクロマトグラフ法で測定した(株式会社DJKが所有する分析装置)。20℃、湿度が65%の環境下において、二酸化炭素ガスにかかわるガス透過度は110(ml/md・MPa)であり、酸素ガスにかかわるガス透過度は60(ml/md・MPa)であり、窒素ガスにかかわるガス透過度は10(ml/md・MPa)であった。また、水蒸気透過度は2-3(g/m・d)であった。
これらの結果は、プラスチックフィルとして最もガスの遮断性能が優れる、二軸延伸ポリプロピレンフィルムにポリ塩化ビニリデンをコーティングしたフィルムより、ガスの遮断性能が優れる。
次に、作成したフィルムの表面の複数個所の表面抵抗を、表面抵抗計によって測定した(シムコジャパン株式会社の表面抵抗計ST-4)。表面抵抗値は1×10Ω/□であったため、金属に近い表面抵抗を有した。このため、作成したフィルムは、金属の抵抗率に基づき、導電性、熱伝導性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備するフィルムとしても作用する。
さらに、作成したフィルムの引張強度を、JIS-K7127の規格に基づいて測定した。引張強度は400MPaであった。この引張強度は、PETフィルムの3倍で、銀箔の引張強度より大きい。
この後、作成したフィルムを切断し、フィルムの表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社が所有する極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100ボルトからの極低加速電圧による表面観察が可能で、導電性の被膜を形成せずに直接フィルムの表面が観察できる。
最初に、フィルムの表面からの反射電子線について、900-1000ボルトの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。フィルムの表面は、10nm前後の大きさからなる粒状の微粒子の集まりで覆われていた。さらに、フィルムの表面からの反射電子線の900-1000ボルトの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡で粒状微粒子の材質を分析した。濃淡が認められなかったので、単一原子から構成されていることが分かった。さらに、表面の複数個所からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒状微粒子を構成する元素の種類を分析した。粒状微粒子は銀原子のみで構成されていた。以上の結果から、フィルムは、10nm前後の大きさからなる銀のナノ粒子で覆われた。
さらに、フィルムの切断面を顕微鏡で観察した。炭素原子のみからなる物質の表面に、銀のナノ粒子が20層以上積み重なり、フィルムの表面を覆っていた。さらに、炭素原子のみからなる物質が形成する間隙を、銀のナノ粒子が埋めていた。
これらの結果から、フィルムは、銀のナノ粒子が20層以上積み重なってフィルムの表面を覆い、さらに、炭素原子のみからなる物質であるケッチェンブラックのアグリゲートが形成する間隙を、銀のナノ粒子の集まりが埋めた。図1にフィルムの切断面を模式的に示す。1はケチェンブラックの炭素1次粒子の切断面で、2は10nm前後の大きさからなる銀のナノ粒子である。
前記した優れたガスバリアー性と、金属に近い表面抵抗とは、銀のナノ粒子が20層以上積み重なって、フィルムの表面を覆うことによる。また、フィルムの表面は銀の光沢をもった。さらに、ケッチェンブラックのアグリゲートが形成する間隙を、銀のナノ粒子の集まりが埋めることで、銀箔より大きい引張強度をもたらした。
なお、金属のナノ粒子は、銀に限定されない。16-17段落で説明したように、様々な金属イオンからなる金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物を用いることで、様々な材質からなる金属のナノ粒子の集まりが、フィルムの表面を覆うとともに、アグリゲートが形成する間隙を埋め尽くす。
【0036】
実施例8
実施例6で作成した原料を用い、Tダイ(Bax株式会社が所有する設備)を用いて、20cmの幅で、20μmの厚みで、50cmの長さのフィルムを成形した。この後、作成したフィルムを、大気雰囲気の290℃に昇温した熱処理装置に1分間放置した。
最初に、実施例7と同様に、作成したフィルムの遮光性を測定した。99.99%の遮光率であり、優れた遮光フィルムであることが分かった。
次に、実施例7と同様に、作成したフィルムの熱放射率を測定した。熱放射率が0.97と高く、優れた放熱フィルムであることが分かった。
さらに、実施例7と同様に、作成したフィルムのガスバリアー性を測定した。フィルムは、実施例7に近いガスバリアー性を持った。
次に、実施例7と同様に、作成したフィルムの表面の複数個所の表面抵抗を、表面抵抗計によって測定した。表面抵抗値は1×10Ω/□であり、金属に近い表面抵抗を有した。作成したフィルムは、金属の抵抗率に基づき、導電性、熱伝導性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備するフィルムとしても作用する。
さらに、作成したフィルムの引張強度を、JIS-K7127の規格に基づいて測定した。引張強度は450MPaであった。この引張強度は、銅箔の引張強度より大きい。
この後、作成したフィルムを切断し、実施例7と同様に、フィルムの表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。
フィルムの表面は、10nm前後の大きさからなる銅のナノ粒子で覆われていた。さらに、フィルムは、銅のナノ粒子が20層以上積み重なってフィルムの表面を覆い、さらに、ケッチェンブラックのアグリゲートが形成する間隙を、銅のナノ粒子の集まりが埋めていた。
前記した優れたガスバリアー性と、金属に近い表面抵抗は、銅のナノ粒子が20層以上積み重なって、フィルムの表面を覆うことによる。また、フィルムの表面は銅の光沢をもった。さらに、ケッチェンブラックのアグリゲートが形成する間隙を、銅のナノ粒子の集まりが埋めることで、銅箔より大きい引張強度をもたらした。
なお、金属のナノ粒子は、銅に限定されない。18-19段落で説明したように、様々な金属からなるオクチル酸金属化合物を用いることで、様々な金属のナノ粒子の集まりが、フィルムの表面を覆うとともに、アグリゲートが形成する間隙を埋め尽くす。
【0037】
実施例9
実施例7で作成した2枚のフィルムを重ね合わせ、2枚のフィルムの下部を、ポリエチレンテレフタレートPET樹脂のフィルムを介して圧着させる実施例である。
最初に、実施例7で作成したフィルムを、10cm×10cmからなる2枚の小片に切断した。次に、厚みが25μmからなるポリエチレンテレフタレート樹脂からなるフィルム(東洋紡株式会社の製品でE5100)を、10cm×1cmからなる2枚の小片に切断した。この後、10cm×1cmからなる板材の上に、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの小片を被せ、さらに、実施例7で作成したフィルムの小片の下部が、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの小片と重なり合うように、2枚の小片を順番に重ね合わせ、さらに、2枚の小片の下部に重なり合うように、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの小片を被せ、さらに、10cm×1cmからなる板材を、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの小片に載せる。これによって、2枚の板材を介して、実施例7で作成したフィルムの2枚の小片同士が重なり合い、重なり合った2枚の小片が、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの2枚の小片で挟まれる。さらに、5kgの重り3個を等間隔に、板材の上に置く。この後、重りと板材を取り除いて試料を取り出した。
この後、実施例7で作成した重なり合った2枚のフィルムの上部を掴み、反対方向にフィルムを引き伸ばした結果、2枚のフィルムの重なり合った上端部でフィルムが切断したため、2枚のフィルム同士が、一定の接合強度で圧着している。
【0038】
実施例10
実施例8で作成した2枚のフィルムを重ね合わせ、2枚のフィルムの下部を、実施例9で用いたポリエチレンテレフタレートPET樹脂のフィルムを介して圧着させる実施例である。実施例9と同様に、2枚の板材を介して、実施例8で作成したフィルムの2枚の小片同士を重ね合わせ、重なり合った2枚の小片を、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの2枚の小片で挟む。さらに、5kgの重り3個を等間隔に、板材の上に置く。この後、重りと板材を取り除いて試料を取り出した。
この後、実施例8で作成した重なり合った2枚のフィルムの上部を掴み、反対方向にフィルムを引き伸ばした結果、2枚のフィルムの重なり合った上端部でフィルムが切断したため、2枚のフィルム同士が、一定の接合強度で圧着している。
【0039】
実施例11
実施例7で作成したフィルムを、2枚の硬質塩化ビニルフィルムで挟み、該2枚の硬質塩化ビニルフィルムに、実施例7で作成したフィルムを圧着させる実施例である。
最初に、実施例7で作成したフィルムを10cm×10cmに切断した。次に、厚みが30μmからなる硬質塩化ビニルフィルム(株式会社ハギテックの製品で型式07-167-01)を10cm×10cmに切断した。この後、12cm×12cmの板材の上に、硬質塩化ビニルフィルムの小片を配置し、さらに、実施例7で作成したフィルムの小片と、硬質塩化ビニルフィルムの小片を順番に重ね合わせ、重ね合わせた3枚の小片の上に、12cm×12cmの板材をさらに被せ、3kgの重りを板材の四隅と中央部とに合計5個を配置した。この後、重りと板材を取り除いて試料を取り出した。
この後、試料の上に、5kgの重りを、配置場所を変えながら繰り返し載せたが、重りを載せた部位に変化はなかった。さらに、10kgの重りを、配置場所を変えながら繰り返し載せたが、重りを載せた部位に変化はなかった。このため、実施例7で作成したフィルムは、2枚の硬質塩化ビニルフィルムの各々に強固に圧着されている。
なお、フィルムと圧着させる基材は、硬質塩化ビニルフィルムに限定されない。フィルムを2枚の基材で挟み、一方の基材の表面を圧縮させるだけで、フィルムが2枚の基材の各々に圧着する。このため、様々な材質からなる基材がフィルムに圧着する。
【0040】
実施例12
実施例8で作成したフィルムを、2枚の軟質ポリエチレンフィルムで挟み、該2枚の軟質ポリエチレンフィルムに、実施例8で作成したフィルムを圧着させる実施例である。
最初に、実施例8で作成したフィルムを10cm×10cmに切断した。次に、厚みが30μmからなる軟質ポリエチレンフィルム(株式会社ハギテックの製品で型式244-6423-01)を10cm×10cmに切断した。この後、12cm×12cmの板材の上に、軟質ポリエチレンフィルムの小片を配置し、さらに、実施例7で作成したフィルムの小片と、軟質ポリエチレンフィルムの小片を順番に重ね合わせ、重ね合わせた3枚の小片の上に、12cm×12cmの板材をさらに被せ、3kgの重りを板材の四隅と中央部とに合計5個を配置した。この後、重りと板材を取り除いて試料を取り出した。
この後、試料の上に、5kgの重りを、配置場所を変えながら繰り返し載せたが、重りを載せた部位に変化はなかった。さらに、10kgの重りを、配置場所を変えながら繰り返し載せたが、重りを載せた部位に変化はなかった。このため、実施例8で作成したフィルムは、2枚の軟質ポリエチレンフィルムの各々に強固に圧着されている。
なお、フィルムと圧着させる基材は、軟質ポリエチレンフィルムに限定されない。フィルムを2枚の基材で挟み、一方の基材の表面を圧縮させるだけで、フィルムが2枚の基材の各々に圧着する。このため、様々な材質からなる基材がフィルムに圧着する。
【0041】
実施例13
実施例3で作成した混合物を、ポリエチレンテレフタレートPET樹脂のフィルムに塗布し、180℃の水素雰囲気の熱処理温度を通過させて被膜を作成した。
最初に、厚みが25μmからなるポリエチレンテレフタレート樹脂からなるフィルム(東洋紡株式会社の製品でE5100)を10cm×10cmの小片に切断した。この小片の表面に、実施例3で作成した混合物を塗布した。この後、前記混合物を塗布した小片を、180℃に昇温された水素雰囲気の熱処理装置を通過させた。
試料の上に、2kgの重りを、配置場所を変えながら繰り返し載せたが、重りを載せた部位に変化はなかった。さらに、3kgの重りを、配置場所を変えながら繰り返し載せたが、重りを載せた部位に変化はなかった。いっぽう、5kgの重りを、配置場所を変えながら繰り返し載せたところ、重りを載せた部位に変化があった。このため、実施例13で作成した被膜とポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムとの接合強度は、実施例11と実施例12に比べると弱い。
さらに、作成した試料の一部を切り出し、実施例7と同様に、試料の遮光性を測定した。99.99%の遮光率であり、優れた遮光フィルムであることが分かった。
次に、切り出した試料を、実施例7と同様に、試料の熱放射率を測定した。熱放射率が0.97と高く、優れた放熱フィルムであることが分かった。
さらに、切り出した試料を、実施例7と同様に、試料表面のガスバリアー性を測定した。フィルムは、実施例7に近いガスバリアー性を持った。
次に、切り出した試料を、実施例7と同様に、試料表面の複数個所の表面抵抗を、表面抵抗計によって測定した。表面抵抗値は1×10Ω/□であり、金属に近い表面抵抗を有した。作成した試料表面は、金属の抵抗率に基づき、導電性、熱伝導性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備するフィルムとしても作用する。
この後、切り出した試料を、実施例7で用いた電子顕微鏡によって、試料の表面と切断面とを観察した。試料は、有機物質の上に、銀の10nm前後の大きさからなるナノ粒子が、20層以上積み重なっていた。このため、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなるフィルムに、10nm前後の大きさからなる銀のナノ粒子が、20層以上積み重なってフィルムを覆った。
【0042】
実施例14
実施例6で作成した混合物を、実施例13で用いたポリエチレンテレフタレートPET樹脂のフィルムに塗布し、340℃の窒素雰囲気の熱処理温度を通過させて試料を作成した。なお、ポリエチレンテレフタレート樹脂の熱分解は、窒素雰囲気では、425℃で始まり480℃付近で終了する。また、18段落に記載したオクチル酸金属化合物は、窒素雰囲気では340℃で熱分解が完了する。
最初に、厚みが25μmからなるポリエチレンテレフタレート樹脂からなるフィルム(東洋紡株式会社の製品でE5100)を10cm×10cmの小片に切断した。この小片の表面に、実施例6で作成した混合物を塗布した。この後、前記混合物を塗布した小片を、340℃に昇温された窒素雰囲気の熱処理装置を通過させた。
試料の上に、2kgの重りを、配置場所を変えながら繰り返し載せたが、重りを載せた部位に変化はなかった。さらに、3kgの重りを、配置場所を変えながら繰り返し載せたが、重りを載せた部位に変化はなかった。いっぽう、5kgの重りを、配置場所を変えながら繰り返し載せたところ、重りを載せた部位に変化があった。このため、実施例14で作成した被膜とポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムとの接合強度は、実施例11と実施例12に比べると弱い。
次に、作成した試料の一部を切り出し、実施例7と同様に、試料表面の遮光性を測定した。99.99%の遮光率であり、優れた遮光フィルムであることが分かった。
さらに、切り出した試料を、実施例7と同様に、試料表面の熱放射率を測定した。熱放射率が0.97と高く、優れた放熱フィルムであることが分かった。
さらに、切り出した試料を、実施例7と同様に、試料表面のガスバリアー性を測定した。フィルムは、実施例7に近いガスバリアー性を持った。
次に、切り出した試料を、実施例7と同様に、試料表面の複数個所の表面抵抗を、表面抵抗計によって測定した。表面抵抗値は1×10Ω/□であり、金属に近い表面抵抗を有した。作成した試料表面は、金属の抵抗率に基づき、導電性、熱伝導性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備するフィルムとしても作用する。
この後、切り出した試料を、実施例7で用いた電子顕微鏡によって、試料の表面と切断面とを観察した。試料は、有機物質の上に、銅の10nm前後の大きさからなるナノ粒子が、20層以上積み重なっていた。このため、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなるフィルムに、10nm前後の大きさからなる銀のナノ粒子が、20層以上積み重なってフィルムを覆った。
【符号の説明】
【0043】
1 ケチェンブラックの炭素1次粒子の切断面 2 銀のナノ粒子
図1