(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164769
(43)【公開日】2023-11-13
(54)【発明の名称】水性多液型ポリウレタン塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 175/04 20060101AFI20231106BHJP
【FI】
C09D175/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023150947
(22)【出願日】2023-09-19
(62)【分割の表示】P 2023539940の分割
【原出願日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2022055727
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】西澤 安明
(57)【要約】
【課題】磨き作業性、耐擦り傷性、耐汚染性に優れた水性多液型ポリウレタン塗料組成物を提供すること。
【解決手段】水酸基含有樹脂エマルション(a1)及び水を含む第1成分(A)、並びにポリイソシアネート化合物(b1)及び有機溶剤(b2)を含む第2成分(B)を含有する水性多液型ポリウレタン塗料組成物であって、
該塗料組成物をブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で40分硬化して得られる塗膜のマルテンス硬度が20N/mm2以上60N/mm2以下であり、
該塗料組成物をブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で180分硬化して得られる塗膜のマルテンス硬度が80N/mm2以上130N/mm2以下であり、
該塗料組成物を60℃で180分硬化して得られる塗膜の架橋間分子量が800以下である、水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基含有樹脂エマルション(a1)及び水を含む第1成分(A)、並びにポリイソシアネート化合物(b1)及び有機溶剤(b2)を含む第2成分(B)を含有する水性多液型ポリウレタン塗料組成物であって、
該塗料組成物をブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で40分硬化して得られる塗膜のマルテンス硬度が20N/mm2以上60N/mm2以下であり、
該塗料組成物をブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で180分硬化して得られる塗膜のマルテンス硬度が80N/mm2以上130N/mm2以下であり、
該塗料組成物を60℃で180分硬化して得られる塗膜の架橋間分子量が800以下である、水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項2】
前記水酸基含有樹脂エマルション(a1)中の水酸基含有樹脂が、水酸基価110~250mgKOH/g、及び酸価5~50mgKOH/gの範囲内にある、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項3】
水酸基含有樹脂エマルション(a1)が、ガラス転移温度40℃以上の水酸基含有樹脂を有する水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)、及びガラス転移温度15℃以下の水酸基含有樹脂を有する水酸基含有樹脂エマルション(a1-2)を含有する、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項4】
水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)の固形分含有量が、第1成分(A)内に含まれる樹脂の総固形分100質量部を基準として5~60質量部であり、水酸基含有樹脂エマルション(a1-2)の固形分含有量が、第1成分(A)内に含まれる樹脂の総固形分100質量部を基準として40~95質量部である、請求項3に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項5】
水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)及び/又は水酸基含有樹脂エマルション(a1-2)が自己乳化型エマルションである、請求項3に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項6】
水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)の水酸基含有樹脂及び/又は水酸基含有樹脂エマルション(a1-2)の水酸基含有樹脂が、共重合成分として、水酸基含有重合性不飽和化合物、カルボキシル基含有重合性不飽和化合物、及びエポキシ基含有重合性不飽和化合物を含む水酸基含有アクリル樹脂を含む、請求項3に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項7】
第1成分(A)が、第1成分(A)内に含まれる樹脂の総固形分100質量部を基準として0.0001~0.1質量部のモリブデン化合物を含有する、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項8】
ポリイソシアネート化合物(b1)が、少なくとも1種の親水性官能基を有するポリイソシアネート化合物を含む、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項9】
有機溶剤(b2)が、沸点が140℃以上180℃以下、かつ20℃における水溶解度が1.0g/100g H2O以上、20g/100g H2O以下である化合物を含有する、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項10】
有機溶剤(b2)の含有量が、第1成分(A)及び第2成分(B)の樹脂固形分の総量100質量部を基準として40質量部以上70質量部以下である、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項11】
透明塗料組成物である、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
【請求項12】
被塗物に、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物を塗装することを含む、被塗物の塗装方法。
【請求項13】
前記被塗物が、自動車、産業機械、建設機械、鉄道車両、大型車両、船体、建築物若しくは建造物、又は、それらの部品である、請求項12に記載の塗装方法。
【請求項14】
塗装体の被塗面にすでに形成されている塗膜上或いは塗装体の損傷部にプライマーサーフェイサー及び/又はベース塗料を塗装した下地処理塗膜上に、請求項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物を塗装することを含む、塗装体の補修塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性多液型ポリウレタン塗料組成物、及び水性多液型ポリウレタン塗料組成物を塗装する塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン塗料は、ウレタン結合によって強靭性と柔軟性を併せもつ物性に優れる塗膜が形成できることから塗料用途に幅広く使用されている。
【0003】
ウレタン塗料には、(1)低温硬化型2液ウレタン塗料、(2)加熱硬化型1液ウレタン塗料がある。
【0004】
(1)は、主剤と硬化剤の2液型の塗料形態であり、ポリオール化合物等の主剤と、ポリイソシアネート化合物を含む硬化剤とを塗装直前に一定の割合にて計量混合させる塗料である。この塗料では、ポリイソシアネート化合物の反応性が高く、水酸基とイソシアネート基による架橋反応が容易に進行するので、常温でも塗膜を硬化させることができる。(2)は、塗料形態は1液型であり、ブロック剤でイソシアネート基をマスクすることによって反応性を抑えたブロックポリイソシアネートとポリオール化合物等を含む塗料である。この塗料では、ブロックポリイソシアネートのブロック剤を解離させることによってイソシアネート基を再生させる必要があるので、通常は、塗装後に塗膜を高温で加熱させる必要が生じる。
【0005】
従って、塗装対象が建築構造物等大きい場合、プラスチック等加熱により変形が懸念される場合等は通常、(1)低温硬化型2液ウレタン塗料が適用されている。
【0006】
また、自動車車体は、ガソリンタンク、電装品、コンピューター等高温に弱い部品を装着していることから、完成された自動車車体を補修塗装する際には補修塗膜を高温焼付けすることが困難である。このため、自動車を補修塗装するための補修用塗料組成物にも2液型ウレタン塗料がよく用いられている。
【0007】
近年、環境汚染、人体への影響等が考慮されるようになり、有機溶剤型塗料に替わり水を主たる溶媒とした水性塗料の使用が著しく増加しており、低温硬化型2液ウレタン塗料においても水性の組成物の開発が必要とされている。一方で、有機溶剤型塗料と比べて水性塗料は耐擦り傷性及び耐汚染性が低いという問題があった。また、水性塗料は乾燥に時間がかかることから、塗着後の乾燥性及び仕上がり性が不十分となる場合があり、さらには形成された硬化塗膜を研磨する必要がある場合でも塗膜硬度が低く研磨ができず、磨き作業性に劣るという課題があった。
【0008】
特許文献1には、(A)任意のエチレン性不飽和単量体を共重合させてなる水酸基価100~250mgKOH/g、重量平均分子量4,000~30,000、ガラス転移温度-10~40℃の水酸基含有共重合体、(B)任意のエチレン性不飽和単量体を共重合させてなる水酸基価85~140mgKOH/gの共重合体を分散安定剤樹脂として用い、該分散安定剤の存在下に有機溶媒中で少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体を重合せしめてなる非水分散型重合体で、0.05~0.5μmの範囲内の粒度分布を有し、かつ低粘度の粒子分散体、及び(C)ブロックされているか、又はブロックされていないイソシアネート基を有する無黄変型ポリイソシアネート化合物を必須成分としてなり、該(B)成分が、(A)及び(B)成分の合計固形分重量の5~60重量%となり、該(C)成分が〔(C)成分中のイソシアネート基〕/〔(A)及び(B)成分中の水酸基〕=0.5~2.0となる当量比で配合され、且つ該(B)成分中の分散安定剤樹脂のガラス転移温度(TB)が、水酸基含有共重合体(A)のガラス転移温度(TA)との関係において、5<TB-TA<30なる関係を満足するように調整されたものであることを特徴とする上塗用塗料組成物が開示されている。特許文献1に記載の上塗用塗料組成物は、仕上り性、初期乾燥性、乾燥初期の磨き作業性に優れた耐スリ傷性塗膜を形成できるものである。一方で、特許文献1に記載の上塗用塗料組成物は有機溶剤型塗料組成物であり、有機溶剤型塗料と水性塗料は技術的な課題に大きな差があることから、特許文献1に記載の条件をそのまま水性塗料に適用しても目的の効果は得られなかった。
【0009】
特許文献2には、酸価が50mgKOH/g以下であり、かつTgが50℃未満であるアクリル系ポリマーAを含むエマルジョンと、酸価が60mgKOH/g以上であるアクリル系ポリマー及びウレタン系ポリマーから選ばれる1種以上を含むポリマーBと、界面活性剤と、造膜助剤とを含む、水性塗装剤であって、前記アクリル系ポリマーAとポリマーBとの質量比率[A/B]が、35/65以上65/35以下である水性塗装剤が開示されている。特許文献2に記載の水性塗装剤は耐擦過性に優れるが、塗膜硬度が低く、塗膜の磨き作業性及び耐汚染性に劣るという課題があった。
【0010】
特許文献3には、水酸基含有樹脂エマルション成分、モリブデン化合物及び水を含む第1成分、並びに、ポリイソシアネート成分及び有機溶剤を含む第2成分を含んでなる、水性2液型ポリウレタン塗料組成物が開示されている。特許文献3に記載の水性2液型ポリウレタン塗料組成物は、磨き作業性に優れた塗膜が得られる反面、耐擦り傷性には劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】日本国特開平7-118605号公報
【特許文献2】日本国特開2019-218488号公報
【特許文献3】日本国特開2019-142999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、磨き作業性、耐擦り傷性、耐汚染性に優れた水性多液型ポリウレタン塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水酸基含有樹脂エマルション(a1)及び水を含む第1成分(A)、並びにポリイソシアネート化合物(b1)及び有機溶剤(b2)を含む第2成分(B)を含有する水性多液型ポリウレタン塗料組成物であって、該塗料組成物をブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で40分硬化(加熱硬化)して得られる塗膜のマルテンス硬度が20N/mm2以上60N/mm2以下であり、該塗料組成物をブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で180分硬化(加熱硬化)して得られる塗膜のマルテンス硬度が80N/mm2以上130N/mm2以下であり、該塗料組成物を60℃で180分硬化して得られる塗膜の架橋間分子量が800以下である、水性多液型ポリウレタン塗料組成物によって、前記課題の解決が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下の水性多液型ポリウレタン塗料組成物、及び水性多液型ポリウレタン塗料組成物を塗装する塗装方法を提供するものである。
項1.水酸基含有樹脂エマルション(a1)及び水を含む第1成分(A)、並びにポリイソシアネート化合物(b1)及び有機溶剤(b2)を含む第2成分(B)を含有する水性多液型ポリウレタン塗料組成物であって、
該塗料組成物をブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で40分硬化して得られる塗膜のマルテンス硬度が20N/mm2以上60N/mm2以下であり、
該塗料組成物をブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で180分硬化して得られる塗膜のマルテンス硬度が80N/mm2以上130N/mm2以下であり、
該塗料組成物を60℃で180分硬化して得られる塗膜の架橋間分子量が800以下である、水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
項2.前記水酸基含有樹脂エマルション(a1)中の水酸基含有樹脂が、水酸基価110~250mgKOH/g、及び酸価5~50mgKOH/gの範囲内にある、前記項1に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
項3.水酸基含有樹脂エマルション(a1)が、ガラス転移温度40℃以上の水酸基含有樹脂を有する水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)、及びガラス転移温度15℃以下の水酸基含有樹脂を有する水酸基含有樹脂エマルション(a1-2)を含有する、前記項1又は2に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
項4.水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)の固形分含有量が、第1成分(A)内に含まれる樹脂の総固形分100質量部を基準として5~60質量部であり、水酸基含有樹脂エマルション(a1-2)の固形分含有量が、第1成分(A)内に含まれる樹脂の総固形分100質量部を基準として40~95質量部である、前記項3に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
項5.水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)及び/又は水酸基含有樹脂エマルション(a1-2)が自己乳化型エマルションである、前記項3又は4に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
項6.水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)の水酸基含有樹脂及び/又は水酸基含有樹脂エマルション(a1-2)の水酸基含有樹脂が、共重合成分として、水酸基含有重合性不飽和化合物、カルボキシル基含有重合性不飽和化合物、及びエポキシ基含有重合性不飽和化合物を含む水酸基含有アクリル樹脂を含む、前記項3~5のいずれか1項に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
項7.第1成分(A)が、第1成分(A)内に含まれる樹脂の総固形分100質量部を基準として0.0001~0.1質量部のモリブデン化合物を含有する、前記項1~6のいずれか1項に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
項8.ポリイソシアネート化合物(b1)が、少なくとも1種の親水性官能基を有するポリイソシアネート化合物を含む、前記項1~7のいずれか1項に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
項9.有機溶剤(b2)が、沸点が140℃以上180℃以下、かつ20℃における水溶解度が1.0g/100g H2O以上、20g/100g H2O以下である化合物を含有する、前記項1~8のいずれか1項に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
項10.有機溶剤(b2)の含有量が、第1成分(A)及び第2成分(B)の樹脂固形分の総量100質量部を基準として40質量部以上70質量部以下である、前記項1~9のいずれか1項に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
項11.透明塗料組成物である、前記項1~10のいずれか1項に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物。
項12.被塗物に、前記項1~11のいずれか1項に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物を塗装することを含む、被塗物の塗装方法。
項13. 前記被塗物が、自動車、産業機械、建設機械、鉄道車両、大型車両、船体、建築物若しくは建造物、又は、それらの部品である、前記項12に記載の塗装方法。
項14. 塗装体の被塗面にすでに形成されている塗膜上或いは塗装体の損傷部にプライマーサーフェイサー及び/又はベース塗料を塗装した下地処理塗膜上に、前記項1~11のいずれか1項に記載の水性多液型ポリウレタン塗料組成物を塗装することを含む、塗装体の補修塗装方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水性多液型ポリウレタン塗料組成物は、水性塗料でありながら優れた磨き作業性を有し、有機溶剤型塗料と同等レベルの乾燥時間で研磨が可能である。さらに、本発明の塗料を用いて形成された塗膜は、耐擦り傷性、耐汚染性に優れ、透明感のある仕上がり性も有するため、種々の用途に幅広く適用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、単数形(a, an, the等)は、本明細書で別途明示がある場合又は文脈上明らかに矛盾する場合を除き、単数と複数を含むものとする。
【0016】
本明細書において、「含有する(comprise)」は、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」も包含する概念である。
【0017】
本発明は、水酸基含有樹脂エマルション(a1)及び水を含む第1成分(A)、並びにポリイソシアネート化合物(b1)及び有機溶剤(b2)を含む第2成分(B)を含有する水性多液型ポリウレタン塗料組成物であって、該塗料組成物をブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で40分硬化して得られる塗膜のマルテンス硬度が20N/mm2以上60N/mm2以下であって、該塗料組成物をブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で180分硬化して得られる塗膜のマルテンス硬度が80N/mm2以上130N/mm2以下であり、該塗料組成物を60℃で180分硬化して得られる塗膜の架橋間分子量が800以下である、水性多液型ポリウレタン塗料組成物である。
【0018】
また、本発明の水性多液型ポリウレタン塗料組成物は、任意選択で第1成分(A)及び第2成分(B)以外の成分(第3成分)を用いることもできるが、第1成分(A)及び第2成分(B)の2液であることが好ましい。
【0019】
以下、本発明に用いられる各成分等について説明する。
【0020】
<第1成分(A)>
本発明において、第1成分(A)は、水酸基含有樹脂エマルション(a1)及び水を含む。
【0021】
第1成分(A)に占める水酸基含有樹脂エマルション(a1)の含有量は、第1成分(A)全体の質量100質量部中に、水酸基含有樹脂エマルション(a1)が不揮発分量で、好ましくは20~55質量部、より好ましくは25~50質量部、特に好ましくは25~45質量部の範囲内である。
【0022】
本明細書において不揮発分又は樹脂固形分とは、揮発成分を除いた残存物を意味するものであり、残存物としては常温で固形状であっても液状であっても差し支えない。例えば試料を105℃、3時間処理して揮発成分を除去した時の残存成分をいう。
【0023】
本発明において、第1成分(A)の不揮発分濃度は、ポットライフ、形成塗膜の仕上がり性の点から、20~55質量%、特に25~50質量%の範囲内が適している。
【0024】
<水酸基含有樹脂エマルション(a1)>
本発明における水酸基含有樹脂エマルション(a1)は、水酸基含有樹脂が水等の溶媒に分散されてなる樹脂エマルションを含む成分であり、塗膜形成能を有するものであれば、従来公知のものを制限なく使用することができる。その具体例としては、アクリル樹脂エマルション、アクリルシリコン樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルション、エポキシ樹脂エマルション、ポリエステル樹脂エマルション、アルキド樹脂エマルション、メラミン樹脂エマルション、酢酸ビニルエマルション、シリコーン樹脂エマルション、酢酸ビニル・ベオバ樹脂エマルション等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。また、これらは単独で使用しても2種以上を併用しても良い。
【0025】
本発明において、水酸基含有樹脂エマルション(a1)中に含まれる水酸基含有樹脂の重量平均分子量は、5,000~50,000、特に10,000~40,000の範囲内であることが好適である。
【0026】
本明細書における数平均分子量又は重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した数平均分子量又は重量平均分子量を、標準ポリスチレンの分子量を基準にして換算した値である。具体的には、ゲルパーミュエーションクロマトグラフとして、「HLC8120GPC」(商品名、東ソー株式会社製)を使用し、カラムとして、「TSKgel G-4000HXL」「TSKgel G-3000HXL」「TSKgel G-2500HXL」及び「TSKgel G-2000HXL」(商品名、いずれも東ソー株式会社製)の4本を使用し、移動相テトラヒドロフラン、測定温度40℃、流速1mL/min及び検出器RIの条件下で測定することができる。
【0027】
水酸基含有樹脂エマルション(a1)に含まれる樹脂粒子の平均粒子径は、50~300nm、特に100~200nmの範囲内にあることが第1成分(A)の貯蔵安定性と塗膜の仕上がり性の観点から適している。
【0028】
本明細書において、エマルションの平均粒子径は、測定温度20℃において、コールターカウンター法によって測定された体積平均粒子径の値である。コールターカウンター法による測定は、例えば、「COULTER N4型」(ベックマン・コールター社製、商品名)を用いて行うことができる。
【0029】
水酸基含有樹脂エマルション(a1)中に含まれる水酸基含有樹脂の溶解性パラメータ(SP値)は、乾燥塗膜の吸水率を下げる点、耐水付着性の点から8.7~9.3の範囲内であることが好ましく、8.8~9.2の範囲内であることが特に好ましい。
【0030】
溶解性パラメータ(Solubility Parameter、「SP値」は略号)は、液体分子の分子間相互作用の尺度を表すものである。重合性モノマーのホモポリマーのSP値は、J.Paint Technology,vol.42,176(1970)に記載されている。重合性モノマー混合物の共重合体ポリマーのSP値は、下記式により計算して求めることができる。
SP値=SP1×fw1+SP2×fw2+………+SPn×fwn
上記式中、SP1、SP2、………SPnは、各重合性モノマーのホモポリマーのSP値を表し、fw1、fw2、………fwnは、各重合性不飽和モノマーのモノマー総量に対する質量分率を表す。
【0031】
水酸基含有樹脂エマルション(a1)中に含まれる水酸基含有樹脂の溶解性パラメータを上記範囲内とするために、水酸基含有樹脂の構成モノマーである共重合成分の内、モノマーのSP値が9.3未満のモノマーを少なくとも10質量%含むことが好ましく、15~60質量%の範囲内で含むことがより好ましく、20~55質量%の範囲内で含むことが特に好ましい。
【0032】
本発明において、水酸基含有樹脂エマルション(a1)は、磨き作業性、耐汚染性、耐擦り傷性の観点から、2種以上の水酸基含有樹脂エマルションを含有することが好ましく、具体的には、ガラス転移温度40℃以上の水酸基含有樹脂を有する水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)、及びガラス転移温度15℃以下の水酸基含有樹脂を有する水酸基含有樹脂エマルション(a1-2)を含有することが好ましい。
【0033】
ガラス転移温度40℃以上の水酸基含有樹脂を有する水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)は、磨き作業性及び耐汚染性の観点で有効である。水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)中の水酸基含有樹脂のガラス転移温度は、磨き作業性、耐汚染性、付着性の観点から、50~75℃の範囲内であることがさらに好ましく、60~70℃の範囲内であることが特に好ましい。
【0034】
ガラス転移温度15℃以下の水酸基含有樹脂を有する水酸基含有樹脂エマルション(a1-2)は、耐擦り傷性に有効であり、-50~15℃の範囲内であることがさらに好ましく、-30~5℃の範囲内であることが特に好ましい。
【0035】
本明細書において、ガラス転移温度(Tg)は、下記式により算出される値である。
1/Tg(K)=W1/T1+W2/T2+・・・Wn/Tn
Tg(℃)=Tg(K)-273
式中、W1、W2、・・・Wnは各モノマーの質量分率であり、T1、T2・・・Tnは各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tg(K)である。尚、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度は、POLYMER HANDBOOK Fourth Edition,J.Brandrup,E.h.Immergut,E.A.Grulke編(1999年)による値であり、該文献に記載されていないモノマーのガラス転移温度は、該モノマーのホモポリマーを重量平均分子量が50,000程度になるようにして合成したときの静的ガラス転移温度とする。
【0036】
本明細書において、樹脂の静的ガラス転移温度は、例えば、試料を測定カップにとり、真空吸引して完全に溶剤を除去した後、示差走査熱量計「DSC-50Q型」(株式会社島津製作所製、商品名)を用いて、3℃/分の昇温速度で-100℃~150℃の範囲で熱量変化を測定し、低温側における最初のベースラインの変化点を静的ガラス転移温度とすることによって、測定することができる。
【0037】
本発明において、水酸基含有樹脂エマルション(a1)は、塗膜物性、研磨性及び乾燥性の観点から、水酸基含有樹脂の水酸基価が50~250mgKOH/g、特に100~250mgKOH/gの範囲内であることが好ましく、酸価が5~50mgKOH/g、特に5~40mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。また、塗膜の架橋密度を上げて耐汚染性を向上させるには高水酸基価の樹脂エマルションを用いることが好ましく、具体的には、水酸基価が110~250mgKOH/g、特に140~200mgKOH/gの範囲内の水酸基含有樹脂を含有することがより好適である。
【0038】
水酸基含有樹脂エマルション(a1)がガラス転移温度40℃以上の水酸基含有樹脂を有する水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)及びガラス転移温度15℃以下の水酸基含有樹脂を有する水酸基含有樹脂エマルション(a1-2)を含有する場合には、少なくとも一方のエマルションの水酸基含有樹脂が、水酸基価が110~250mgKOH/g、特に140~200mgKOH/gの範囲内、酸価が5~50mgKOH/gの範囲内、特に5~40mgKOH/gの範囲内であることが好ましく、水酸基含有樹脂エマルション(a1-2)の水酸基含有樹脂が上記範囲内であることが特に好ましい。
【0039】
本発明の水酸基含有樹脂エマルション(a1)は、自己乳化型エマルションを含有することが好ましい。本明細書において、自己乳化型エマルションとは、無溶媒又は好適な有機溶媒の存在下において合成されたカルボキシル基等のイオン性官能基を有する樹脂を水中に滴下、混合し、任意選択で過剰な有機溶媒を除去することによって分散せしめるか、重合反応後に任意選択で過剰な有機溶媒を除去した後に水を添加して分散せしめることで得られるエマルションである。乳化剤を使用しないことから、耐水性と耐候性に優れる。また、水媒体から製造されていないことから、比較的低分子量、かつ、小粒径で均衡のとれた微粒子が得られやすく、水性塗料として塗装した際、手攪拌性等の塗料の取扱作業性に極めて優れ、かつ、乾燥性及びツヤ感に優れる。水性塗料でありながら極めて優れた塗膜外観を得ることができ、ポリイソシアネート化合物(b1)との反応性も優れることから、耐候性に極めて優れる塗膜を得ることができる。
【0040】
水酸基含有樹脂エマルション(a1)がガラス転移温度40℃以上の水酸基含有樹脂を有する水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)及びガラス転移温度15℃以下の水酸基含有樹脂を有する水酸基含有樹脂エマルション(a1-2)を含有する場合には、少なくとも一方が自己乳化型エマルションであることが好ましく、どちらも自己乳化型エマルションであることがより好ましい。
【0041】
本発明においては形成塗膜の硬度が優れること等から、水酸基含有樹脂エマルション(a1)はアクリル樹脂エマルションを含むことが適しており、また、水酸基含有樹脂エマルション(a1)の水酸基含有樹脂として水酸基含有のアクリル樹脂を含有することが適している。
【0042】
アクリル樹脂の水分散方法、あるいはアクリル樹脂エマルションの製造方法に制限はないが、例えば、有機溶剤の存在下で、(メタ)アクリロイル化合物を必須とし、その他の重合性不飽和化合物を含む重合性不飽和化合物成分を1段階で又は多段階で重合させて得られたアクリル樹脂を水分散する方法、水及び分散安定剤の存在で、(メタ)アクリロイル化合物を必須とし、その他の重合性不飽和化合物を含む重合性不飽和化合物成分を1段階で又は多段階で乳化重合する方法、等を挙げることができる。
【0043】
アクリル樹脂エマルションの共重合成分である(メタ)アクリロイル化合物及びその他の重合性不飽和化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、iso-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレート)、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等のアルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、β-カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基含有重合性不飽和化合物;2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スルホエチルメタクリレート及びそのナトリウム塩、アンモニウム塩等のスルホン酸基含有重合性不飽和化合物;2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2-メタクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート等のリン酸基含有重合性不飽和化合物等の酸基含有重合性不飽和化合物;2ーヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2ーヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の炭素数2~8個のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;Nーメチロールアクリルアミド;アリルアルコール;炭素数2~8個のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン変性アクリル化合物;ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレンポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等の水酸基含有重合性不飽和化合物;ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族環含有重合性不飽和化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基を有する重合性不飽和化合物;N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメトキシ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノアルコキシ(メタ)アクリレート等のアルコキシ基含有重合性不飽和化合物;パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;フルオロオレフィン等のフッ素化アルキル基を有する重合性不飽和化合物;マレイミド基等の光重合性官能基を有する重合性不飽和化合物;N-ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル等のビニル化合物;アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルテレフタレート、ジビニルベンゼン等の重合性不飽和基を1分子中に少なくとも2個有する重合性不飽和化合物;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン化合物との付加物等の含窒素重合性不飽和化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性不飽和化合物;2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、m-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート等のイソシアナト基含有重合性不飽和化合物;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート;アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4~7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等のカルボニル基含有重合性不飽和化合物等が挙げられる。これらの重合性不飽和化合物はそれぞれ単独でもしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
上記のガラス転移温度40℃以上の水酸基含有樹脂を有する水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)、及びガラス転移温度15℃以下の水酸基含有樹脂を有する水酸基含有樹脂エマルション(a1-2)は、水酸基含有重合性不飽和化合物、カルボキシル基含有重合性不飽和化合物及びエポキシ基含有重合性不飽和化合物を共重合成分として合成される水酸基含有アクリル樹脂を有する水酸基含有アクリル樹脂エマルションを含有することが好ましい。
【0045】
より好ましくは、水酸基含有アクリル樹脂エマルションは、エポキシ基含有重合性不飽和化合物を含む重合性不飽和化合物成分(1)と、カルボキシル基含有重合性不飽和化合物を含む重合性不飽和化合物成分(2)とを、有機溶剤の存在下で多段階にて重合して得られる水酸基含有アクリル樹脂を水分散して得られるものであることが好ましい。なお、この場合、水酸基含有重合性不飽和化合物が、(1)と(2)のどちらか一方、又は(1)と(2)の両方に含まれる。
【0046】
上記水酸基含有アクリル樹脂エマルションにおいて、樹脂の水分散の手法としては、上記アクリル樹脂に含まれるカルボキシル基等のアニオン性基の一部又は全部を塩基性化合物で中和して水中に分散するか、又は、塩基性化合物を含有する水性媒体中に該アクリル樹脂を添加して分散させることも可能である。
【0047】
本発明において、水酸基含有樹脂エマルション(a1)は、市販の樹脂エマルションを含むことも可能である。具体的な市販品名としては、コベストロ社製の「バイヒドロールA145」、「バイヒドロールA2290」、「バイヒドロールA2427」、「バイヒドロールA2470」、「バイヒドロールA2542」、「バイヒドロールA2546」、「バイヒドロールA2601」、「バイヒドロールA242」、DIC株式会社製の「バーノックWE-303」、「バーノックWE-304」、「バーノックWE-306」、「バーノックWE-308」、「バーノックWE-313」、旭硝子株式会社製の「ルミフロンFE-4200」、「ルミフロンFE-4300」、「ルミフロンFE-4400」、「ルミフロンFE-4500」等が挙げられる。
【0048】
水酸基含有樹脂エマルション(a1)が、ガラス転移温度40℃以上の水酸基含有樹脂を有する水酸基含有樹脂エマルション(a1-1)を含有する場合、その樹脂固形分の含有量としては、第1成分(A)内に含まれる樹脂の総固形分100質量部を基準として5~60質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましく、15~40質量部であることが特に好ましい。
【0049】
水酸基含有樹脂エマルション(a1)が、ガラス転移温度15℃以下の水酸基含有樹脂を有する水酸基含有樹脂エマルション(a1-2)を含有する場合、その樹脂固形分の含有量としては、第1成分(A)内に含まれる樹脂の総固形分100質量部を基準として40~95質量部であることが好ましく、50~90質量部であることがより好ましく、60~85質量部であることが特に好ましい。
【0050】
<モリブデン化合物>
本発明の水性多液型ポリウレタン塗料組成物は、硬化性の観点から、第1成分(A)がモリブデン化合物を含有することが好ましい。
【0051】
モリブデン化合物としては、具体的には、例えば、モリブデン酸、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸六アンモニウム四水和物、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸ルビジウム、モリブデン酸セシウム、モリブデン酸コバルト(II)、モリブデン酸マンガン(II)、モリブデン酸亜鉛等のモリブデン酸化合物又はモリブデン酸塩;酸化モリブデン;リンモリブデン酸n水和物、リンモリブデン酸ナトリウムn水和物、リンモリブデン酸アンモニウム三水和物等のリンモリブデン酸化合物又はリンモリブデン酸塩;モリブデニム(IV)オキサイドビスアセチルアセトネート、ビス(アセチルアセトナト)酸化モリブデン(IV)、二酸化モリブデンテトラメチルヘプタジオネート、モリブデン酸テトラエチルアンモニウム、モリブデン酸トリメチルスタンニル・テトラブチルアンモニウム、モリブデンアルコキシド、2-エチルヘキサン酸モリブデン、ヘキサカルボニルモリブデン等の有機モリブデン化合物;等が挙げられ、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
上記した中でも無機系化合物、中でも水酸基含有樹脂エマルション(a1)との混合安定性の点から、リンモリブデン酸化合物、リンモリブデン酸塩、モリブデン酸化合物及びモリブデン酸塩から選ばれる少なくとも1種を使用することが適している。
【0053】
モリブデン化合物の含有量は、第1成分(A)内に含まれる樹脂の総固形分100質量部を基準として0.0001~0.1質量部の範囲内であることが好ましく、0.0005~0.05質量部の範囲内であることがより好ましい。0.0001質量部以上であると硬化性が向上し、0.1質量部以下であると塗膜の耐水性が良好である。
【0054】
<第2成分(B)>
本発明において、上記第2成分(B)は、ポリイソシアネート成分(b1)及び有機溶
剤(b2)を含むものである。
【0055】
第2成分(B)に占めるポリイソシアネート成分(b1)の樹脂固形分量は、第2成分(B)全体の質量100質量部中にポリイソシアネート成分(b1)が20~100質量部、特に30~80質量部の範囲内が適している。
【0056】
また、有機溶剤(b2)の量は、ポリイソシアネート成分(b1)100質量部を基準として有機溶剤(b2)の質量が10~300質量部、特に30~250質量部の範囲内にあることが好ましい。
【0057】
本発明において、第2成分(B)の不揮発分濃度は、ポットライフ、形成塗膜の仕上がり性の点から20~90質量%、特に30~80質量%の範囲内にすることが適している。
【0058】
<ポリイソシアネート成分(b1)>
ポリイソシアネート化合物(b1)は、1分子中に遊離のイソシアネート基を2個以上有する化合物であり、従来からポリウレタンの製造に使用されているものを使用することができる。具体的には、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニルメタンジイソシアネート(以下ポリメリックMDI)等の芳香族ジイソシアネート;1,8-ジイソシアナト-4-イソシアナトメチルオクタン、(2S)-2,6-ジイソシアナトヘキサン酸2-イソシアナトエチル(慣用名:リジントリイソシアネート)、2,6-ジイソシアナトヘキサン酸2-イソシアナトエチル、1,6,11-トリイソシアナトウンデカン等の脂肪族トリイソシアネート;1,3,5-トリイソシアナトシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルイソシアナトシクロヘキサン等の脂環族トリイソシアネート;1,3,5-トリイソシアナトベンゼン、2,4,6-トリイソシアナトトルエン等の芳香族トリイソシアネート;及びこれらのイソシアヌレート体、ビュウレット体等の類似の化合物が挙げられ、これらは一種又は二種以上混合して使用できる。特にイソシアネート基含有率が特定の範囲内のものであることが好ましく、具体的には、耐水付着性の点から、イソシアネート基含有率が10質量%以上、さらに12質量%以上、特に18質量%以上であることが好ましく、60質量%以下、さらに55質量%以下であることが好ましい。
【0059】
ここで、本明細書において、イソシアネート基含有率は、ポリイソシアネート化合物(b1)中に含まれるイソシアネート基の量を質量分率で表したものである。該イソシアネート基の量の測定は、JIS K 1603-1(2007)に準拠して行うことができる。
【0060】
ポリイソシアネート化合物(b1)としては、親水性官能基をポリイソシアネート化合物に導入した、親水化ポリイソシアネート化合物、界面活性剤を用いてポリイソシアネート化合物を水中で分散状態とすることができる水分散性ポリイソシアネート化合物等の水性塗料用のポリイソシアネート化合物を使用することが好ましい。親水性基としては、酸基等のアニオン性基、ポリオキシアルキレン(ポリエーテル鎖)単位を含むノニオン性基等を挙げることができる。酸基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等を挙げることができる。
【0061】
さらに、硬化剤として、上記水性塗料用のポリイソシアネート化合物に加えて、疎水性ポリイソシアネート化合物を併用して含むことも可能である。かかる疎水性ポリイソシアネート化合物としては、通常溶剤系塗料組成物において使用されるものを使用することができる。
【0062】
ポリイソシアネート化合物(b1)は、一種又は二種以上組み合わせて用いることができる。第2成分(B)中に、ポリイソシアネート化合物(b1)を二種以上使用する場合、貯蔵性、耐候性の点から、第2成分(B)中に占めるポリイソシアネート化合物のイソシアネート基含有率が、平均して5質量%以上、さらに8質量%以上、55質量%以下、さらに50質量%以下となるよう配合量が調整されることがより好ましい。
【0063】
本発明の水性多液型ポリウレタン塗料組成物におけるポリイソシアネート化合物(b1)の含有量は、ポリイソシアネート化合物が有するイソシアネート基と、水酸基含有樹脂エマルション(a1)が有する水酸基との当量比(NCO/OH)が、一般的には、0.5以上5.0以下となる量で適宜調整されうるが、硬化性及び耐候性の観点から、1.1以上3.0以下が好ましく、さらに1.2以上2.0以下となる量であるのがより好ましい。当量比(NCO/OH)が上記好ましい範囲内となる量であることによって、水性多液型ポリウレタン塗料組成物の硬化反応性を良好な範囲で確保することができる利点がある。
【0064】
<有機溶媒(b2)>
本発明において、上記ポリイソシアネート成分(b1)と共に第2成分(B)に含まれる有機溶剤(b2)としては、水酸基を有さない化合物であることが好ましく、その具体例としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールジイソプロピルエーテル、プロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールジイソブチルエーテル、プロピレングリコールジアリルエーテル、プロピレングリコールジフェニルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールアリルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールジアリルエーテル、ブチレングリコールジメチルエーテル、ブチレングリコールジエチルエーテル、ブチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、2-ブトキシエチルジエトキシエチルエーテル、2-ブトキシエチルトリエトキシエーテル、2-ブトキシエチルテトラエトキシエチルエーテル等のグリコールエーテル系有機溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアセテート系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、安息香酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル等のエステル系有機溶剤;等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0065】
有機溶剤(b2)は、形成される塗膜の仕上がり性の観点から、水より沸点の高い有機溶剤を含むことが好ましく、特に沸点が140~180℃の化合物を含むことが好ましい。
【0066】
有機溶剤(b2)は、形成される塗膜の仕上がり性の観点から、20℃における水溶解度が1.0g/100g H2O以上、20g/100g H2O以下である化合物を含有することが好ましい。
【0067】
沸点及び20℃における水溶解度が上記範囲となる化合物としては、具体的には、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エトキシプロピオン酸エチル等が挙げられる。
【0068】
有機溶剤(b2)の含有量は、第1成分(A)及び第2成分(B)の樹脂固形分の総量100質量部を基準として40質量部以上70質量部以下であることが好ましく、45質量部以上65質量部以下であることが特に好ましい。
【0069】
<水性多液型ポリウレタン塗料組成物>
本発明の水性多液型ポリウレタン塗料組成物は、水酸基含有樹脂エマルション(a1)以外の樹脂エマルション又は水溶性樹脂、顔料分、中和剤、レオロジーコントロール剤、表面調整剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、脱水剤、有機溶剤、触媒化合物、アルコキシシラン等を第1成分(A)及び/又は第2成分(B)に任意選択で配合することができる。
【0070】
上記レオロジーコントロール剤としては、例えば、脂肪酸アマイド、ポリアマイド、アクリルアマイド、長鎖ポリアミノアマイド、アミノアマイド及びこれらの塩(例えばリン酸塩)等のポリアマイド系レオロジーコントロール剤;ポリエーテルポリオール系ウレタンプレポリマー、ウレタン変性ポリエーテル型粘性調整剤等のウレタン系レオロジーコントロール剤;高分子量ポリカルボン酸、高分子量不飽和酸ポリカルボン酸及びこれらの部分アミド化物等のポリカルボン酸系レオロジーコントロール剤;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系レオロジーコントロール剤;モンモリロナイト、ベントナイト、クレイ等の無機層状化合物系レオロジーコントロール剤;疎水変性エトキシレートアミノプラスト等のアミノプラスト系レオロジーコントロール剤等を挙げることができ、1種のみを用いてもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0071】
レオロジーコントロール剤の市販品としては、「ディスパロンAQ-600」(商品名、楠本化成株式会社製)、「Anti-Terra-U」、「Disperbyk-101」、「Disperbyk-130」、「Anti-Terra-203/204」、「Disperbyk-107」、「BYK-P104」、「BYK-P105」、「Optiflo H600VF」(以上BYK Chemie社製)、「ACRYSOL ASE60」(ダウ・ケミカル社製)、「ビスカレックスHV-30」(クラリアントジャパン株式会社製)、「SNシックナー617」、「SNシックナー618」、「SNシックナー630」、「SNシックナー634」、「SNシックナー636」(以上商品名、サンノプコ株式会社製);「アデカノールUH-814N」、「UH-752」、「UH-750」、「UH-462」(以上商品名、株式会社ADEKA製)、「SNシックナー621N」、「SNシックナー623N」(以上、商品名、サンノプコ株式会社製)、「レオレート244」、「レオレート278」(以上商品名、エレメンティス・ジャパン株式会社製);「HECダイセルSP600N」(商品名、ダイセル化学工業株式会社製);「BENTONE HD」(商品名、エレメンティス・ジャパン株式会社製)等が挙げられ、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0072】
本発明では、形成塗膜の耐タレ性の点から上記レオロジーコントロール剤として、ポリカルボン酸系レオロジーコントロール剤及び/又は非イオン性のレオロジーコントロール剤の使用が適している。
【0073】
非イオン性レオロジーコントロール剤としては上記例示物のうち、ウレタン系レオロジーコントロール剤、セルロース系レオロジーコントロール剤、層状化合物系レオロジーコントロール剤及びアミノプラスト系レオロジーコントロール剤を挙げることができる。
【0074】
上記レオロジーコントロール剤は第1成分(A)、第2成分(B)のいずれにも配合され得るが、配合量は、水酸基含有樹脂エマルション(a1)の不揮発分質量100質量部を基準としてレオロジーコントロール剤の有効成分の質量が0.01~1.0質量部、特に0.1~0.5質量部の範囲内が適している。
【0075】
触媒化合物としては、従来公知のウレタン化触媒化合物を使用できる。具体的には、例えば、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、脂肪酸亜鉛等の亜鉛化合物;オクチル酸錫、ジブチル錫ジ(2-エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジ(2-エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジネオデカネート、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫脂肪酸塩等の錫化合物;ジルコニウムテトラ(モノメチルエトキシド)、ジルコニウムテトラ(モノエチルエトキシド)、ジルコニウムテトラ(モノブチルエトキシド)、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)等のジルコニウム化合物;オクタン酸ビスマス、2-エチルヘキサン酸ビスマス、オレイン酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマス、バーサチック酸ビスマス、ナフテン酸ビスマス、硝酸ビスマス等のビスマス化合物;オレイン酸鉛、2-エチルヘキサン酸鉛、脂肪酸鉛等の鉛化合物;オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト等のコバルト化合物;マンガン(II)アセテート、マンガン(II)アセチルアセテート、マンガン(II)-2-エチルヘキサネート等のマンガン化合物;四塩化チタン、二塩化ジブチルチタン、チタニウムテトラ(モノエチルエトキシド)、チタニウムテトラ(モノエチルエトキシド)、チタニウムテトラ(モノブチルエトキシド)、チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、テトラノルマルブチルチタネート等のチタン化合物;アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリ-n-ブトキシド、アルミニウムトリス(アセトアセテートエチル)、アルミニウムジイソプロポキシ(アセトアセテートエチル)、アルミニウムアセチルアセトナート等のアルミニウム化合物が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0076】
また、アルコキシシランは耐汚染性に効果があり、後述の架橋間分子量を下げるためにも有効である。アルコキシシランの配合量は、第1成分(A)内に含まれる樹脂の総固形分100質量部を基準として、0.5~20質量部が好ましく、1~15質量部が好ましく、2~12質量部がより好ましい。
上記アルコキシシランは、第1成分(A)、第2成分(B)、又はそれ以外の成分(第3成分)に含有させて水性多液型ポリウレタン塗料組成物に適用できるが、第2成分(B)又は第3成分に含有させることが好ましい。
【0077】
本発明の水性多液型ポリウレタン塗料組成物は、前記水酸基含有樹脂エマルション(a1)及び水を含む第1成分(A)と、前記ポリイソシアネート成分(b1)及び有機溶剤(b2)を含む第2成分(B)とを、使用直前に混合して、得られた混合物を適宜希釈して塗装することができる。第1成分(A)と第2成分(B)の使用割合は、第1成分(A)100質量部を基準として第2成分(B)が20~100質量部、特に30~70質量部となるような割合が適している。
【0078】
本発明の水性多液型ウレタン塗料組成物は、透明塗料としても不透明塗料としても使用することができるが、透明感のある仕上がり外観と硬度に優れた塗膜が形成できることから、クリヤー塗膜を形成する透明塗料組成物である場合にその効果を最大限に発揮することができる。
【0079】
尚、本発明塗料組成物を不透明塗料として使用する場合において、用いられる顔料としては特に制限なく、着色顔料、体質顔料、防錆顔料等塗料分野で公知の顔料を例示することができ、目的、用途等によってその種類と配合量を調整することができる。
【0080】
<マルテンス硬度と架橋間分子量>
本発明の水性多液型ポリウレタン塗料組成物は、ブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で40分硬化して得られる塗膜のマルテンス硬度が20N/mm2以上60N/mm2以下であって、ブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で180分硬化して得られる塗膜のマルテンス硬度が80N/mm2以上130N/mm2以下であり、該塗料組成物を60℃で180分硬化して得られる塗膜の架橋間分子量が800以下(好ましくは400以上800以下)である。
【0081】
本明細書におけるマルテンス硬度は、フィッシャースコープ(登録商標)HM2000S(商品名、(株)フィッシャー・インストルメンツ製)を用いて測定することができる。23℃、50%相対湿度の雰囲気下、4.0μm/20秒の速度で圧子を押し込み、測定を行う。圧子はビッカース四角錐(材質:ダイヤモンド)を用い、プリズム部1山の中央付近が圧子作用点となるようにサンプルの位置を調節する。
【0082】
本明細書におけるマルテンス硬度の測定手順は、次の(1)~(4)である。
(1)4.0μm/20秒の速度で圧子を押し込む。
(2)同速度で除荷する。
(3)測定位置を変えながら、(1)及び(2)の手順を繰り返し行い、1サンプルにつき3点データを取る。
(4)試験力と圧子の押込み深さとの関係よりマルテンス硬度を算出し、3点の平均値をとる。
【0083】
マルテンス硬度を測定するための塗板は、ブリキ板に乾燥膜厚が40μmとなるように塗膜を形成し、25℃、相対湿度40%の条件下で20分間静置した後、60℃で40分硬化したものと、60℃で180分硬化したものを用いる。
【0084】
本発明の水性多液型ポリウレタン塗料組成物は、ブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で40分硬化して得られる塗膜のマルテンス硬度が20N/mm2以上60N/mm2以下であって、25N/mm2以上60N/mm2以下であることが好ましい。マルテンス硬度が20N/mm2より小さい場合には磨き作業性に劣り、60N/mm2より大きい場合には磨き性が劣る。また、ブリキ板に乾燥後の膜厚が40μmになるよう塗装し60℃で180分硬化して得られる塗膜のマルテンス硬度が80N/mm2以上130N/mm2以下であって、特に90N/mm2以上110N/mm2以下であることが好ましい。マルテンス硬度が80N/mm2より小さい場合には耐汚染性に劣り、130N/mm2より大きい場合には耐擦り傷性に劣る。
【0085】
塗料組成物は、ブリキ板上に塗装した場合とベース塗膜上に塗装した場合とでは、60℃で40分硬化した際のマルテンス硬度が大きく異なることが大半である。本発明の水性多液型ポリウレタン塗料組成物をベース塗膜上に乾燥膜厚が40μmとなるよう塗装し、60℃で40分硬化した場合の塗膜のマルテンス硬度は、磨き作業性の観点から、3N/mm2以上であることが好ましく、4N/mm2以上であることがより好ましく、5N/mm2以上であることが特に好ましい。また、磨き性の観点から55N/mm2以下であることが好ましく、50N/mm2以下であることがより好ましい。
【0086】
本発明の水性多液型ポリウレタン塗料組成物は、60℃で180分硬化して得られる塗膜の架橋間分子量が800以下であって、800以下400以上が好ましく、特に650以下500以上であることが好ましい。架橋間分子量が800より大きいと耐汚染性、耐水性に劣る。
【0087】
本発明において、架橋間分子量は、試料をFTレオロジースペクトラー「Rheogel E-400」(UBM株式会社製)を用いて、周波数11ヘルツ、昇温速度4℃/分、温度範囲-25~200℃の条件下でtanδ値を測定した時において測定される動的粘弾性測定において、貯蔵弾性率の極小値を下記ゴム粘弾性理論式にあてはめて求めた理論計算値である。
Mc=3ρRT/Emin
ここで、
Mc:架橋間分子量(g/mol)、
ρ:試料塗膜の密度(g/cm3)
R:気体定数(8.314J/K/mol)、
T:貯蔵弾性率がEminの時の絶対温度(K)、
Emin:貯蔵弾性率の極小値(MPa)。
【0088】
上記試料は以下のように調製する。まず、塗料組成物をポリプロピレン板上に硬化膜厚が40μmになるように塗布し、60℃で180分乾燥を行うことにより硬化塗膜を形成する。その後、該硬化塗膜を長さ20mm、幅5mmの短冊状に裁断し、ポリプロピレン板から剥離し得られた短冊状のフリー塗膜を試料とする。
【0089】
本発明において、マルテンス硬度及び架橋間分子量は、主に水酸基含有樹脂エマルション(a1)、ポリイソシアネート化合物(b1)の種類及び量に応じて変動するほか、任意選択でモリブデン化合物、及びアルコキシシランを添加することで架橋間分子量を下げることもできる。マルテンス硬度及び架橋間分子量が上記数値範囲となるよう調整することで、磨き作業性、耐擦り傷性、耐汚染性を兼ね備えた塗膜を得ることができる。
【0090】
<被塗物>
本発明の水性多液型ポリウレタン塗料組成物が適用される基材としては、特に限定されず、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス、亜鉛、銅、ブリキ等の金属;ガラス、コンクリート、スレート板等の無機材;プラスチック、塩化ビニル等の有機材;木材等が挙げられる。これらの被塗面に、水性又は溶剤型の塗料を塗布したもの、損傷した塗装体等であってもよい。中でも、自動車の旧塗膜或いは塗装体の損傷部にプライマーサーフェイサー及び/又はベース塗料を塗装した下地処理塗膜上に好適に用いることができる。
【0091】
被塗物の具体例としては、自動車、産業機械、建設機械、鉄道車両、大型車両、船体、建築物若しくは建造物、又は、それらの部品;建築物、鋼構造物等の屋外構造物;等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
なかでも被塗物として、自動車の旧塗膜或いは塗装体の損傷部にプライマーサーフェイサー及び/又はベース塗料を塗装した下地処理塗膜であることが好適である。
【0092】
本発明の水性多液型ウレタン塗料組成物を塗装する方法としては、例えば、エアスプレー、エアレススプレー、回転霧化、ハケ、ローラー、ハンドガン、万能ガン、浸漬、ロールコーター、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーター等が挙げられ、被塗物の用途等に応じて適宜選択することができ、複数回塗り重ねてもよい。
【0093】
<塗装及び乾燥>
本発明の水性多液型ウレタン塗料組成物は、温度5℃~40℃の常温乾燥においても仕上がり性に優れた塗膜を形成することができるが、強制乾燥又は焼付け乾燥を行なっても良い。
【0094】
強制乾燥の場合は40~120℃で10~180分間加熱することができ、強制乾燥前に常温で放置して溶剤を揮散させる工程(セッティングタイム)を任意選択で設けてもよい。
【0095】
乾燥膜厚は、用途に応じて適宜選択できるが、一般に5~500μm、さらに10~100μm、さらに特に15~80μmの範囲内とすることが好適である。
【0096】
本発明の塗料組成物は乾燥性に優れた塗膜が得られるので、自動車等の補修塗装に用いる場合等においては、塗膜形成後、早い段階で表面を研磨する作業を行うことができる。
【0097】
研磨方法としては、補修クリヤー塗膜を、耐水研磨紙を用いて水研ぎした後、該研ぎ面を粗磨き用コンパウンド、仕上げ磨き用コンパウンドと順次ポリッシングする方法を挙げることができる。
【実施例0098】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。ここで、『部』及び『%』はそれぞれ『質量部』及び『質量%』を意味する。
【0099】
<アクリル樹脂エマルションの製造>
製造例1
温度計、撹拌機、還流冷却管、窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコにプロピレングリコールモノプロピルエーテルを50部入れ、撹拌しながら窒素気流下120℃まで昇温した。120℃に達したところで、表1の第1段階欄に記載のモノマー配合と重合開始剤にt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1.5部を予め混合した混合溶液を4時間かけて滴下し、さらに滴下終了後120℃の温度に1時間保持した。引き続き120℃の温度を保持したまま、上記フラスコ中に、同表1の第2段階の欄に記載のモノマー配合とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.3部を予め混合した混合溶液を1時間かけて滴下し、さらに滴下終了後120℃で1.5時間保持してアクリルポリオール溶液を得た。続いて、得られたアクリルポリオール溶液から不揮発分が85%になるまでプロピレングリコールモノプロピルエーテルを減圧下で留去した。これを95℃まで冷却し、ジメチルエタノールアミンでpHを8.0に調整して30分間撹拌した。さらに、撹拌しながら不揮発分が50%となるように脱イオン水を2時間かけて滴下してアクリル樹脂エマルション(水分散体)(a1-1)を得た。
【0100】
製造例2~6
各共重合成分のモノマー組成及び配合量を下記表1に示す内容とする以外は製造例1と同様にして、アクリル樹脂エマルション(a1-2)~(a1-6)を得た。
【0101】
製造例7
温度計、撹拌機、還流冷却管、窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコにプロピレングリコールモノプロピルエーテルを50部入れ、撹拌しながら窒素気流下120℃まで昇温した。120℃に達したところで、下記表1の第1段階欄に記載のモノマー配合と重合開始剤t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1.5部とを予め混合した混合溶液を4時間かけて滴下し、さらに滴下終了後120℃の温度に1時間保持した。引き続き120℃の温度を保持したまま、上記フラスコ中に、同表1の第2段階の欄に記載のモノマー配合とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.3部とを予め混合した混合溶液を1時間かけて滴下し、さらに滴下終了後120℃で1.5時間保持してアクリルポリオール溶液を得た。続いて、得られたアクリルポリオール溶液から不揮発分が85%になるまでプロピレングリコールモノプロピルエーテルを減圧下で留去した。これを95℃まで冷却し、「ニューコール707SF」(注1)を5部加えて30分間撹拌した。
さらに、撹拌しながら不揮発分が50%となるように脱イオン水を2時間かけて滴下してアクリル樹脂エマルション(a1-7)を得た。
【0102】
製造例1~7で得られたアクリル樹脂エマルションの重量平均分子量、酸価、水酸基価平均粒子径、及びガラス転移温度を下記表1に示す。
【0103】
【0104】
注1)「ニューコール707SF」:商品名、日本乳化剤株式会社製、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩。
【0105】
<水性多液型ポリウレタン塗料組成物の製造>
実施例1
容器に、製造例1で得られた不揮発分50%のアクリル樹脂エマルション(a1-1)40部、不揮発分50%のアクリル樹脂エマルション(a1-6)30部、「BYK-348」(注2)0.5部、「BYK-015」(注3)0.5部、「TINUVIN384-2」(注4)1部、「TINUVIN292」(注5)0.5部、リンモリブデン酸ナトリウムn水和物0.001部、脱イオン水27.5部を配合し、室温で攪拌下、ジメチルエタノールアミンをpH7.6となるまで滴下して第1液(A)〔第1成分〕を作製した。
【0106】
別の容器に、「バイヒジュールXP2655」(注7)27部、エトキシプロピオン酸エチル27部、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート6部を配合し、均一になるまで混合して第2液(B)〔第2成分〕を作製した。
【0107】
上記第1液(A)及び第2液(B)を混合し、不揮発分含有率が40%となるように脱イオン水を加えて攪拌して水性多液型ポリウレタン塗料組成物(X-1)を得た。
【0108】
実施例2~21、及び比較例1~8
各塗料組成物の配合量を下記表2~表5に示すものとする以外は実施例1と同様にして、水性多液型ポリウレタン塗料組成物(X-2)~(X-21)及び(X-24)~(X-31)を得た。
【0109】
実施例22及び23
各塗料組成物の配合量を下記表4に示すものとする以外は実施例1と同様にし、さらに、第2液(B)にKBE-403(商品名、信越化学株式会社製、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)を表3に示す通り配合して、水性多液型ポリウレタン塗料組成物(X-22)及び(X-23)を得た。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
注2)「BYK-348」:商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製、ポリエーテル変性シロキサン、重量平均分子量1,500、不揮発分100%
注3)「BYK-015」:商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製、ポリエーテル変性シロキサン、重量平均分子量2,200、不揮発分100%
注4)「TINUVIN 384-2」:商品名、BASF社製、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、不揮発分95%、1-メトキシ-2-プロピルアセテート5%、
注5)「TINUVIN 292」:商品名、BASF社製、ヒンダードアミン系光安定剤、不揮発分100%
注6)「K-KAT XK-614」:商品名、KING INDUSTRIES社製、亜鉛化合物
注7)「バイヒジュール XP2655」:商品名、住化コベストロウレタン株式会社製、スルホン酸基を有するヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネート、NCO含量21%、不揮発分100%
注8)「デスモジュール N3900」:商品名、住化コベストロウレタン株式会社製、疎水性ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートの環化重合体、NCO含量23.5%、不揮発分100%
【0115】
<評価試験>
上記表2~5に、後述する評価試験の結果を記載する。本発明においては、全ての性能に優れていることが重要であり、いずれか1つに不合格「C」の評価がある場合は不合格である。
【0116】
<被塗物及び評価用塗板の作成>
自動車車体用クリヤー塗料が塗装された塗装板を、#800耐水ペーパーで研磨、脱脂した。これを水平に置いて25℃、相対湿度40%の条件下で市販の水性着色ベース塗料組成物「レタンWBエコベース(#400ディープブラック)」(商品名、関西ペイント株式会社製自動車補修用水性黒塗料)を均一になるように3段階に分けて塗り重ね塗装をして全体膜厚が15μmの着色ベース塗膜を得た。各段階の塗装後は溶媒が揮発して光沢が低くなるまで(具体的には光沢度25程度となるように)エアブローをした。この着色ベース塗膜が形成された板を被塗物(V)とした。
【0117】
被塗物(V)に、実施例及び比較例で得られた各塗料組成物を乾燥膜厚が40μmになるようにエアスプレー塗装し、その後塗装板を水平に25℃20分間、相対湿度40%の条件下で保った後、電気熱風乾燥器を用いて60℃で20分乾燥して室温まで冷却して、各塗料組成物がトップコートとして塗装された評価用試験塗板(耐水性、耐擦り傷性評価用)を作製した。
【0118】
また、上記水性着色ベース塗料組成物「レタンWBエコベース(#400ディープブラック)」(商品名、関西ペイント株式会社製自動車補修用水性黒塗料)を白色の「レタンWBエコベース(#539ホワイトHS)」(商品名、関西ペイント株式会社製自動車補修用水性白色塗料)に変更して、同様に実施例及び比較例で得られた各塗料組成物を塗装して評価用試験塗板(耐汚染性評価用)を作製した。
【0119】
また、ブリキ板2枚に、実施例及び比較例で得られた各塗料組成物を乾燥膜厚が40μmになるようにエアスプレー塗装し、その後塗装板を水平に25℃20分間、相対湿度40%の条件下で保った後、電気熱風乾燥器を用いて60℃で40分乾燥した塗板と60℃180分乾燥し、次いでそれぞれ室温まで冷却して、マルテンス硬度評価用試験塗板2枚を作製した。
【0120】
マルテンス硬度(60℃40分、60℃180分)
上記各マルテンス硬度評価用試験塗板の表面に圧子を押し込み、その際の押し込み深さと押し込み力から得られるマルテンス硬さ値を測定した。具体的な測定手順は明細書に記載の通りである。
【0121】
架橋間分子量
実施例及び比較例で得られた塗料組成物を用いて硬化塗膜を作製して架橋間分子量を測定した。具体的な測定手順は明細書に記載の通りである。
【0122】
磨き可能時間
被塗物(V)に、実施例及び比較例で得られた塗料組成物を乾燥膜厚が40μmになるようにエアスプレー塗装し、その後25℃、相対湿度40%の条件下で20分間静置し、電気熱風乾燥器を用いて60℃で乾燥時間を40分、50分、60分と変動させ、同一塗料サンプルについて60℃の乾燥時間が異なる乾燥性評価用塗板を複数作製した。次いでそれぞれの乾燥性評価用塗板について、下記磨き補修方法(*)を実施し、その中からペーパーキズ残り及び光沢低下のない、良好な塗膜状態の乾燥性評価用塗板を選定した。
S:乾燥時間40分の試験塗板で磨き補修が可能である、
A:乾燥時間50分の試験塗板で磨き補修が可能である、
B:乾燥時間60分の試験塗板で磨き補修が可能である、
C:乾燥時間60分の試験塗板で磨き補修が不可能である。
(*磨き補修方法)
各試乾燥性評価用塗板を#2000の耐水研磨紙を用いて水研ぎした後、粗磨き用バフで粗磨き用コンパウンドを使って、60秒間ポリッシングし、耐水研磨紙によるペーパーキズを除去し、さらに、仕上げ用バフで仕上げ用コンパウンドを使って60秒間ポリッシングし、バフ磨きキズの除去を行った。
【0123】
仕上がり性
上記評価用試験塗板(耐水性、耐擦り傷性評価用)を目視で評価した。
S:平滑性、ツヤ感が非常に良好、
A:平滑性、ツヤ感が良好、
B:わずかにツヤビケが認められる、
C:ツヤビケが著しく認められる。
【0124】
<塗膜性能>
上記評価用試験塗板を用いて、下記基準に基づいて塗膜性能評価を行った。
【0125】
耐水性
上記評価用試験塗板(耐水性、耐擦り傷性評価用)を40℃の恒温水槽に10日間浸漬し取り出した後、1時間放置後の塗膜の状態を目視で評価した。
S:異常なし。
A:ツヤビケ・ワレ・ブリスター(又はフクレと呼ばれることがある)の少なくとも1つの異常がわずかに認められる。
B:ツヤビケ・ワレ・ブリスター(又はフクレ)の少なくとも1つの異常が部分的に認められる。
C:ツヤビケ・ワレ・ブリスター(又はフクレ)の少なくとも1つの異常が、塗膜の全面に顕著に認められる。
【0126】
耐擦り傷性
上記評価用試験塗板(耐水性、耐擦り傷性評価用)において、20℃雰囲気下で洗車試験機(Amtec株式会社製、Car-wash Lab Apparatus)の試験台に固定し、試験板の上にSikron SH200(商品名、粒径24μmのシリカ微粒子、Quarzwerke社製)を水1リットルに対して1.5g混合させた試験液を噴霧しながら、洗車ブラシを127rpmで回転させて試験台を10往復させた。その後、水洗及び乾燥を行い、イソプロピルアルコールでワイプした。次いで、試験前後の20°光沢を光沢計(Byk-Gardner社製、装置名:Micro Tri Gross)を用いて測定し、下式より光沢保持率を算出した。
光沢保持率(%)=試験後の光沢/初期光沢×100
S:光沢保持率が90%以上、
A:光沢保持率が80%以上90%未満、
B:光沢保持率が70%以上80%未満、
C:光沢保持率が70%未満。
【0127】
耐汚染性
上記評価用試験塗板(耐汚染性評価用)を室温まで冷却後、下記の(1)~(3)を行った。
(1)温度50℃相対湿度95%の条件で24時間静置
(2)カーボンブラックFW-200(商品名、オリオン・エンジニアドカーボンズ株式会社製)の水懸濁液(5質量%)を試験板上に隠蔽するまでスプレー塗装して、60℃1時間で乾燥
(3)流水下でウエスを用いて洗浄、外観を確認
次いで、以下の基準で評価した。
S:汚染無し、
A:汚染(色)はないが、痕跡がわずかに見られる、
B:汚染(色)がわずかに残っている、
C:汚染が著しく残っている。