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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164773
(43)【公開日】2023-11-14
(54)【発明の名称】フッ化アルカリ金属塩の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/44 20060101AFI20231107BHJP
【FI】
C22B3/44 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020157333
(22)【出願日】2020-09-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 薫
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA27
4K001BA21
4K001CA08
4K001DB22
(57)【要約】
【課題】 含チタン鉄鉱石又はその類似物から鉄分とシリカ成分等の不純物を除去して、高TiO品位のチタン濃縮物を製造する際に、シリカ成分の除去に使用されるフッ素系添加剤を製造工程から回収する方法を提供する。
【解決手段】 含チタン鉄鉱石又はその類似物を鉱酸浸出するスラリー及び/又は該鉱酸浸出して得られた浸出物を含むスラリーに、フッ素系添加剤を混合して脱シリカ処理し、次いで、固液分離して得た分離液からフッ化アルカリ金属塩を回収する方法であって、
(1)前記分離液に含まれるヘキサフルオロ珪酸をアルカリ金属水酸化物と反応させて、ヘキサフルオロ珪酸アルカリ金属塩を析出させる第一段階の反応と、
(2)該析出物をさらにアルカリ金属水酸化物と反応させて、フッ化アルカリ金属塩を生成させる第二段階の反応を含むことを特徴とする。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含チタン鉄鉱石又はその類似物を鉱酸浸出するスラリー及び/又は該鉱酸浸出して得られた浸出物を含むスラリーに、フッ素系添加剤を混合して脱シリカ処理し、次いで、固液分離して得た分離液からフッ化アルカリ金属塩を回収する方法であって、
(1)前記分離液に含まれるヘキサフルオロ珪酸をアルカリ金属水酸化物と反応させて、ヘキサフルオロ珪酸アルカリ金属塩を析出させる第一段階の反応と、
(2)該析出物をさらにアルカリ金属水酸化物と反応させて、フッ化アルカリ金属塩を生成させる第二段階の反応を含むことを特徴とする前記フッ化アルカリ金属塩の回収方法。
【請求項2】
含チタン鉄鉱石又はその類似物を鉱酸浸出して得られた浸出物を含むスラリーに、フッ素系添加剤を混合して脱シリカ処理する、請求項1に記載のフッ化アルカリ金属塩の回収方法。
【請求項3】
含チタン鉄鉱石又はその類似物を鉱酸浸出するスラリー及び該鉱酸浸出して得られた浸出物を含むスラリーの両方に、フッ素系添加剤を混合して脱シリカ処理する、請求項1に記載のフッ化アルカリ金属塩の回収方法。
【請求項4】
前記のフッ素系添加剤が、フッ化アルカリ金属塩、フッ化アルカリ土類金属塩、フッ化アンモニウム及びフッ化水素酸から成る群から選択される少なくとも一種である請求項1~3のいずれか一項に記載のフッ化アルカリ金属塩の回収方法。
【請求項5】
前記(1)及び(2)に用いるアルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムである請求項1~4の何れか一項に記載のフッ化アルカリ金属塩の回収方法。
【請求項6】
前記のヘキサフルオロ珪酸アルカリ金属塩がヘキサフルオロ珪酸ナトリウムである請求項1~5の何れか一項に記載のフッ化アルカリ金属塩の回収方法。
【請求項7】
回収するフッ化アルカリ金属塩がフッ化ナトリウムである請求項1~6の何れか一項に記載のフッ化アルカリ金属塩の回収方法。
【請求項8】
前記のスラリーにフッ素系添加剤を混合する際に、塩酸、硫酸及び硝酸から成る群から選択される少なくとも一種の酸の存在下にて行う請求項1~7の何れか一項に記載のフッ化アルカリ金属塩の回収方法。
【請求項9】
前記の鉱酸浸出に用いられる鉱酸が塩酸又は硫酸である請求項1~8の何れか一項に記載のフッ化アルカリ金属塩の回収方法。
【請求項10】
請求項1~9の何れか一項に記載の方法で回収したフッ化アルカリ金属塩を、含チタン鉄鉱石又はその類似物を鉱酸浸出するスラリー及び/又は該鉱酸浸出して得られた浸出物を含むスラリーに混合して脱シリカ処理するために用いる、回収したフッ化アルカリ金属塩の利用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含チタン鉄鉱石又はその類似物から鉄分とシリカ成分等の不純物を除去して、高TiO品位のチタン濃縮物を製造する際に、シリカ成分の除去に使用されるフッ素系添加剤を製造工程から回収する方法に関する。また、回収したフッ化アルカリ金属塩の再利用に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン濃縮物は、塩素法による二酸化チタン顔料の製造及び金属チタンの製造等に用いられる四塩化チタンの製造用原料であり、含チタン鉄鉱石又はその類似物を出発原料として製造する。例えば、含チタン鉄鉱石等に含まれる第二鉄を還元して第一鉄の状態とし、チタン塩加水分解促進用シードやチタン(III)塩の存在下で、硫酸にて第一鉄を浸出後、焼成して製造する(特許文献1及び特許文献2)。これらの方法は、含チタン鉄鉱石等が採掘される以前に受けた圧力及び温度によって決まる変成作用の程度(変成度)が高い鉱石を用いる場合には、第一鉄等の不純物が溶出され易いために、チタン成分が容易に濃縮され易く、高TiO品位のチタン濃縮物を製造することができる。しかしながら、シリカ成分等の不純物を多量に含有している塊状鉱床から産出されるような変成度の低い含チタン鉄鉱石等を出発原料とした場合には、十分にシリカ成分が除去できず、高TiO品位のチタン濃縮物を製造し難い。
【0003】
そこで、当社の特許出願である特許文献3には、含チタン鉄鉱石又はその類似物を330メッシュの篩を通過する粒度に粉砕して得た粉砕物を、1~20質量%の塩酸初期濃度で80℃以下の反応温度にて予備浸出を行った後、可溶性還元性物質の存在下、15~20質量%の塩酸初期濃度で90℃以上の反応温度にて本浸出を行うことを含むチタン濃縮物の製造方法において、本浸出後の浸出物のスラリーにフッ素系添加剤を添加すると、残存したシリカ成分を除去できることを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭49-18330号公報
【特許文献2】特公昭49-37484号公報
【特許文献3】PCT/JP2020/025551
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリカ成分を多量に含有した変成度の低い含チタン鉄鉱石を出発原料としてチタン濃縮物を製造する場合、鉱酸浸出のみでは、十分にシリカ成分が除去できない。そこで、特許文献3の記載に基づいて、含チタン鉄鉱石又はその類似物の鉱酸浸出により得られた浸出物にフッ素系添加剤を混合して、脱シリカ処理を行ったところ、シリカ成分の含有量が低い高TiO品位のチタン濃縮物が得られた。しかしながら、フッ素系添加剤を用いると、製造コストが大幅にアップするという課題がある。また、フッ素系化合物を含む排水を処理する必要があるため、その費用が増大し、設備管理の負担にも課題がある。そのため、使用したフッ素系添加剤をチタン濃縮物の製造工程から回収し、循環使用する方法が希求されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意工夫した結果、含チタン鉄鉱石又はその類似物を鉱酸浸出した浸出物からフッ素系添加物を用いて溶出したヘキサフルオロ珪酸を含む溶液に、アルカリ金属水酸化物を混合して、ヘキサフルオロ珪酸アルカリ金属塩を析出させ、該析出物にアルカリ金属水酸化物を混合して、フッ化アルカリ金属塩を析出させ、固液分離することにより、フッ化アルカリ金属塩を回収することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、上記課題を解決するための本発明は、以下の通りである。
[1] 含チタン鉄鉱石又はその類似物を鉱酸浸出するスラリー及び/又は該鉱酸浸出して得られた浸出物を含むスラリーに、フッ素系添加剤を混合して脱シリカ処理し、次いで、固液分離して得た分離液からフッ化アルカリ金属塩を回収する方法であって、
(1)前記分離液に含まれるヘキサフルオロ珪酸をアルカリ金属水酸化物と反応させて、ヘキサフルオロ珪酸アルカリ金属塩を析出させる第一段階の反応と、
(2)該析出物をさらにアルカリ金属水酸化物と反応させて、フッ化アルカリ金属塩を生成させる第二段階の反応を含むことを特徴とする前記フッ化アルカリ金属塩の回収方法。
[2] 含チタン鉄鉱石又はその類似物を鉱酸浸出して得られた浸出物を含むスラリーに、フッ素系添加剤を混合して脱シリカ処理する、[1]に記載のフッ化アルカリ金属塩の回収方法。
[3] 含チタン鉄鉱石又はその類似物を鉱酸浸出するスラリー及び該鉱酸浸出して得られた浸出物を含むスラリーの両方に、フッ素系添加剤を混合して脱シリカ処理する、[1]に記載のフッ化アルカリ金属塩の回収方法。
[4] 前記のフッ素系添加剤が、フッ化アルカリ金属塩、フッ化アルカリ土類金属塩、フッ化アンモニウム及びフッ化水素酸から成る群から選択される少なくとも一種である[1]~[3]のいずれか一項に記載のフッ化アルカリ金属塩の回収方法。
[5] 前記(1)及び(2)に用いるアルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムである[1]~[4]の何れか一項に記載のフッ化アルカリ金属塩の回収方法。
[6] 前記のヘキサフルオロ珪酸アルカリ金属塩がヘキサフルオロ珪酸ナトリウムである[1]~[5]の何れか一項に記載のフッ化アルカリ金属塩の回収方法。
[7] 回収するフッ化アルカリ金属塩がフッ化ナトリウムである[1]~[6]の何れか一項に記載のフッ化アルカリ金属塩の回収方法。
[8] 前記のスラリーにフッ素系添加剤を混合する際に、塩酸、硫酸及び硝酸から成る群から選択される少なくとも一種の酸の存在下にて行う[1]~[7]の何れか一項に記載のフッ化アルカリ金属塩の回収方法。
[9] 前記の鉱酸浸出に用いられる鉱酸が塩酸又は硫酸である[1]~[8]の何れか一項に記載のフッ化アルカリ金属塩の回収方法。
[10] [1]~[9]の何れか一項に記載の方法で回収したフッ化アルカリ金属塩を、含チタン鉄鉱石又はその類似物を鉱酸浸出するスラリー及び/又は該鉱酸浸出して得られた浸出物を含むスラリーに混合して脱シリカ処理するために用いる、回収したフッ化アルカリ金属塩の利用。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、鉄分やシリカ成分等の不純物を大量に含有している変成度の低い含チタン鉄鉱石又はその類似物の鉱酸浸出により得られた浸出物を含むスラリーにフッ素系添加剤を混合して脱シリカ処理した後、フッ素系添加剤に由来するフッ素分をフッ化アルカリ金属塩として効率的に回収できる。また、回収したフッ化アルカリ金属塩を再び、フッ素系添加剤として循環使用できるため、コストアップを抑えられ、高TiO品位のチタン濃縮物を効率的に製造できる。また、フッ素系化合物を含む排水を処理する必要が軽減できるなど、処理費用の負担、設備管理の負担も大幅に削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】原料イルメナイト鉱石の粒度分布図である。
図2】参考例に用いた粉砕後のイルメナイト鉱石の粒度分布図である。
図3】実施例におけるフッ化アルカリ金属塩回収スキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のフッ化アルカリ金属塩の回収方法の実施形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0011】
本発明は、含チタン鉄鉱石又はその類似物を鉱酸浸出するスラリー及び/又は該鉱酸浸出して得られた浸出物を含むスラリーに、フッ素系添加剤を混合して脱シリカ処理し、次いで、固液分離して得た分離液からフッ化アルカリ金属塩を回収する方法であって、
(1)前記分離液に含まれるヘキサフルオロ珪酸をアルカリ金属水酸化物と反応させて、ヘキサフルオロ珪酸アルカリ金属塩を析出させる第一段階の反応と、
(2)該析出物を更にアルカリ金属水酸化物と反応させて、フッ化アルカリ金属塩を生成させる第二段階の反応を含むことを特徴とする前記フッ化アルカリ金属塩の回収方法である。
前記の鉱酸浸出、脱シリカ処理、並びにそれに引き続く固液分離して分離液を得るまでの処理は公知の方法又は公知の方法に準じて実施可能である。これら処理も含めて、
(a)含チタン鉄鉱石又はその類似物を鉱酸浸出するスラリー及び/又は該鉱酸浸出して得られた浸出物を含むスラリーを得る工程、並びに、(b)該スラリーにフッ素系添加剤を混合して、浸出物に含まれるシリカ成分を溶出させ、固液分離してフルオロ珪酸を含む溶液を得る工程に分けて説明する。
【0012】
(a)含チタン鉄鉱石又はその類似物を鉱酸浸出するスラリー及び/又は該鉱酸浸出して得られた浸出物を含むスラリーを得る工程
本発明の製造方法に適用できる含チタン鉄鉱石又はその類似物とは、イルメナイト、イルメナイトの変成物、例えばイルメナイト・ヘマタイト鉱等の含チタン鉄鉱石、これらの鉱石に予備処理を施したもの又はこれらと類似の組成、性質を有する類似物等である。変成度の高い含チタン鉄鉱石でも、変成度の低いものでも適用することができ、シリカ成分等の不純物を多く含有している変成度の低い含チタン鉄鉱石又はその類似物にも好適に適用できる。また、鉄製錬における副生物であるいわゆるチタンスラグを使用することもできる。これらの含チタン鉄鉱石又はその類似物の粒度は通常50~500μmであり、これ以上のものは適宜予備粉砕して使用することができる。そのような含チタン鉄鉱石又はその類似物中には、鉄分、シリカ成分の他に、Al、Ca、Co、Cr、Cu、Ga、Ge、Mg、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Ru、Sn、Ta、V、W及びZrからなる群から選択される少なくとも一種の元素の酸化物から成る不純物が含有されていてもよい。含チタン鉄鉱石又はその類似物中のシリカ成分の含有量は、SiO換算で通常、0.5~35質量%である。
【0013】
含チタン鉄鉱石又はその類似物を鉱酸浸出するスラリーは、含チタン鉄鉱石又はその類似物に鉱酸を混合して浸出しているスラリー、又は鉱酸を混合する前のスラリーを含める。鉱酸浸出が予備浸出、本浸出等複数にわたる場合は、各浸出の際のスラリーであればよく、予備浸出のスラリーであっても、本浸出のスラリーのいずれであってもよい。含チタン鉄鉱石又はその類似物に鉱酸を混合して浸出すると、浸出物を含むスラリーが得られる。この鉱酸浸出により、含チタン鉄鉱石又はその類似物に含まれる上記の不純物を鉱酸で溶出させる。鉱酸としては、塩酸、硫酸及び硝酸から成る群から選択される少なくとも一種の酸が好ましく、塩酸又は硫酸がより好ましい。鉱酸の濃度、使用量等は不純物の量、不純物の種類、変成度等に応じて適宜設定することができ、鉱酸浸出の時間、温度、多段階の浸出等も不純物の量、不純物の種類、変成度等に応じて同様に適宜設定することができる。特に特許文献3に記載の方法(塩酸による2段階浸出)が好ましい。スラリーは、水系スラリーが好ましい。
【0014】
特許文献3のチタン濃縮物の製造方法は、含チタン鉄鉱石又はその類似物を330メッシュ(目開き45μm)の篩が通過できる粒度に粉砕して用いる。粉砕は、乾式粉砕であっても溶媒中で粉砕を行う湿式粉砕であってもよく、普通に用いる粉砕手段、例えばボールミル、チューブミル、振動ボールミル、サンドミル、ディスクミル、メディアミル、メディアレスミル、ローラーミル等を用いて行うことができる。粉砕は乾式粉砕を行った後、湿式粉砕を行うのが好ましい。湿式粉砕を行った場合には、粉砕後、溶媒と粉砕物を固液分離する。固液分離は、デカンテーション、沈降分離、遠心分離、濾過、膜分離等により行うことができるが、デカンテーションやろ過にて行うのが好ましい。得られた粉砕物が粉砕されていなかったり、粉砕が不十分で所定の粒度まで粉砕されていなかったりする場合は、チタン濃縮物中のシリカ成分等の不純物が十分に除去できなくなり、高TiO品位のチタン濃縮物が得られなくなる。また、予備浸出や本浸出の工程が効率的に行われないという欠点も生じる。このため、330メッシュ(目開き45μm)の篩が通過できる粒度に粉砕するのが重要であり、好ましくは440メッシュ(目開き32μm)の篩が通過できる粒度であり、更に好ましくは635メッシュ(目開き20μm)の篩が通過できる粒度である。粉砕後、整粒を行うのが好ましく、粒子の沈降速度の差を利用して極微細粉を除去することができる。
【0015】
得られた粉砕物は、1~20質量%の塩酸初期濃度で80℃以下の反応温度にて予備浸出を行った後、可溶性還元性物質の存在下、15~20質量%の塩酸初期濃度で90℃以上の反応温度にて本浸出し、鉄分とシリカ成分等の不純物を除去する。使用する塩酸は初期濃度で表しており、浸出開始の際の塩酸濃度である。予備浸出において、シリカ成分をより効率的に除去するには塩酸初期濃度を1~15質量%とするのが望ましい。一方、塩酸初期濃度を15~20質量%とすると、鉄分のより効率的な除去が可能になる。予備浸出を行う浸出用容器も、本浸出を行う浸出用容器も、共に塩酸によって腐蝕されない材質の浸出用容器を用いるが、開放型容器であっても、オートクレーブのような密閉型容器であってもよい。なお、鉄分とシリカ成分を十分除去するためには、前記の予備浸出を複数回行ってもよく、本浸出を複数回行ってもよい。
【0016】
予備浸出における塩酸の使用量(V)は、粉砕物の質量(W)に対してV/Wが1.5~20とするのが好ましく、5~15とするのがより好ましく、7~12とするのが更に好ましい。また、予備浸出は80℃以下の温度で行うのが好ましく、60℃以下の温度がより好ましい。時間は適宜設定することができ、1~15時間行うのが好ましい。更に、予備浸出はフッ素系添加剤の存在下で行うと、シリカ成分を溶解できるので、効率的である。フッ素系添加剤としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウムのようなフッ化アルカリ金属塩;フッ化カルシウムのようなフッ化アルカリ土類金属塩;フッ化アンモニウム、フッ化水素酸等が使用できる。フッ素系添加剤の添加量は適宜設定することができる。ここで用いたフッ素系添加剤は、(b)の工程で用いたフッ素系添加剤と同様に、後記の第一段階と、第二段階の反応を行うことにより、フッ化アルカリ金属塩として回収することができる。予備浸出においても本浸出と同様に、鉄分の溶出速度、溶出量を高めるために後述の可溶性還元性物質を存在させてもよい。予備浸出後の浸出物は、そのまま次の本浸出工程に供してもよく、予備浸出後の容器に塩酸と可溶性還元性物質を添加して連続的に本浸出を行うことができる。一方、予備浸出した後デカンテーション、沈降分離、遠心分離、濾過、膜分離等により予備浸出の浸出物を固液分離した後、湿ケーキ又はスラリーの形で濃縮した後、次の本浸出工程に供してもよい。更に、浸出物を固液分離した後、水で洗浄して、浸出物に残存する共存イオンの脱塩処理を行ってもよい。この場合、浸出物を湿ケーキの形で分離し、次の本浸出工程に供する。
【0017】
本浸出における塩酸の使用量(V)は、予備浸出後の浸出物の質量(W)に対してV/Wで1~10とするのが好ましく、2~8とするのがより好ましい。本浸出は90℃以上の反応温度にて行うが、浸出液の沸点以下の温度で行うのが好ましく、時間は適宜設定することができ、2~20時間行うのが好ましい。開放型浸出容器を使用する場合には、90~110℃(沸点以下)で5~20時間浸出を行うのが好ましく、密閉型浸出容器を使用する場合には、加圧条件によって温度、時間を適宜設定することができ、110~160℃で、2~18時間浸出するのが好ましい。
【0018】
予備浸出又は本浸出にあたっては、浸出液中に可溶性還元性物質を存在させることで、鉄分の溶出速度、溶出量を高めることができるとともに、チタン収率を高めることができる。可溶性還元性物質としては、金属鉄及び/又は可溶性チタン塩が挙げられる。金属鉄は浸出液に入れると溶解して鉄イオンとなる。可溶性チタン塩としては、チタン(III)塩、チタン(IV)塩等が挙げられるが、チタン(III)塩が好ましい。また、チタン(III)塩を系内に存在させる方法としては、チタン(III)塩溶液を添加する方法の他、金属鉄粉等を浸出液に加えて系内のチタン(IV)塩をチタン(III)塩に還元することもできるので、可溶性還元性物質としては、金属鉄と可溶性チタン塩を組み合わせるのが好ましい。可溶性チタン塩の添加量は、適宜設定することができ、3価の鉄分を2価に還元する量(還元当量)に対して0.8~1.5倍量が好ましく、0.9~1.2倍量がより好ましい。
【0019】
また、本浸出においては、チタン塩加水分解促進用シードを併用してもよい。このものは、一般の硫酸法による二酸化チタン顔料の製造方法において、チタン塩類溶液を加水分解してチタン分を沈殿させる時に用いる種晶のことであり、これは、例えばチタニル硫酸等のチタン塩の酸性溶液を中和し、析出したコロイド状のチタン化合物を熟成したものである。チタン塩加水分解促進用シードを併用する場合、その添加量は、予備浸出後の浸出物に対するチタン塩加水分解促進用シード中のチタン分をTiOとして約0.05~2質量%が好ましく、通常0.1~1質量%がより好ましい。
【0020】
このようにして得られた浸出物のスラリーは、デカンテーション、沈降分離、遠心分離、濾過、膜分離等により固液分離して、浸出物(チタン濃縮物)と溶液に分離するのが好ましい。その後、洗浄して、浸出物に残存する共存イオンの脱塩処理を行うのが好ましい。脱塩処理は電気伝導度が0.1S/m以下となるまで洗浄するのが好ましい。その後、浸出物は、通常、粉体とするために乾燥することができる。乾燥温度は適宜設定することができる。また、乾燥後、必要に応じて粉砕、造粒してもよい。以上のようにして製造されたチタン濃縮物はTiO品位が極めて高く、好ましくは95質量%以上のものとなる。
【0021】
前記の乾燥の際に造粒を同時に行うと、流動塩素化に適した粒度と硬度を持たせることができるため好ましい。このような造粒乾燥は、通常の造粒乾燥機を用いることができ、流動層造粒乾燥機、スプレードライがより好ましい。スプレードライヤーにより造粒乾燥するには、前記の湿ケーキをスラリーにし、必要に応じて湿式粉砕した後、噴霧乾燥するのが好ましい。造粒乾燥によりチタン濃縮物を30~500μmの粒度に整粒することができ、また、適切な硬度を有することができる。
【0022】
前記の乾燥、特に造粒乾燥すると、ルチル構造を有する酸化チタンを含むチタン濃縮物を製造することができる。この方法では高温で焼成しなくても、乾燥を行うとルチル型構造を有する酸化チタンのみを含有するチタン濃縮物が製造できる。ルチル型構造を有する酸化チタンは、塩素ガスとの反応性がよいため塩素化が効率よく行われる。得られたルチル構造を有する酸化チタンを含むチタン濃縮物は、必要に応じて硬度と純度を高めるために、600~1200℃の温度で焼成することができる。
【0023】
上記のように浸出物(チタン濃縮物)のスラリーを固液分離した浸出物、乾燥した物、造粒した物、焼成した物等は、水にレパルプしてスラリー状態に戻すことができる。
【0024】
(b)前記スラリーにフッ素系添加剤を混合して、浸出物に含まれるシリカ成分を溶出させ、固液分離してフルオロ珪酸を含む溶液を得る工程
前記の(a)の工程で得られた含チタン鉄鉱石又はその類似物を鉱酸浸出するスラリー及び/又は該鉱酸浸出して得られた浸出物を含むスラリーに、フッ素系添加剤を混合すると、浸出物に含まれるシリカ成分を溶出することができ、この処理を脱シリカ処理という。この脱シリカ処理は、鉱酸浸出して得られた浸出物に対して行うと多くのシリカの除去できるため好ましく、含チタン鉄鉱石又はその類似物を鉱酸浸出するスラリー及び該鉱酸浸出して得られた浸出物を含むスラリーの両方にフッ素系添加剤を混合して脱シリカ処理を行うのがより好ましい。フッ素系添加剤としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウムのようなフッ化アルカリ金属塩;フッ化カルシウムのようなフッ化アルカリ土類金属塩;フッ化アンモニウム、フッ化水素酸等が使用できる。フッ素系添加剤の添加量は適宜設定することができる。また、脱シリカ処理はpH2~4程度の酸性条件下で行うのが好ましく、そのためには塩酸、硫酸、硝酸等にてpH調整を行うのが好ましいが、塩酸を使用するのが工業的に有利である。また、脱シリカ処理の温度はスラリーの沸点以下で行うのが好ましく、30~90℃の温度がより好ましい。脱シリカ処理の時間は適宜設定することができ、0.5~10時間行うのが好ましい。鉱酸浸出するスラリーにフッ素系添加剤を混合して脱シリカ処理を行う場合は、鉱酸浸出の温度、時間で行うことができる。
【0025】
フッ素系添加剤によって脱シリカ処理した後のスラリー中には、浸出物とヘキサフルオロ珪酸が含まれる。該スラリーは、デカンテーション、沈降分離、遠心分離、濾過、膜分離等の固液分離により浸出物と、分離液とに分離する。浸出物(チタン濃縮物)は、その後、適宜、洗浄、脱塩、乾燥、粉砕、造粒等の処理を行った後、四塩化チタン等の製造用原料として回収される。一方、固液分離により得られたヘキサフルオロ珪酸を含む分離液は、後記の第一段階と、第二段階の反応に用いられる。
【0026】
(1)前記分離液に含まれるヘキサフルオロ珪酸をアルカリ金属水酸化物と反応させて、ヘキサフルオロ珪酸アルカリ金属塩を析出させる第一段階の反応
前記(b)の工程で得られたフルオロ珪酸を含む分離液にアルカリ金属水酸化物を混合して反応させると、ヘキサフルオロ珪酸アルカリ金属塩を析出させることができる(第一段階の反応)。第一段階の反応は沸点以下で行うのが好ましく、30~90℃の温度がより好ましい。第一段階の反応は生成したヘキサフルオロ珪酸アルカリ金属塩は、析出物として得られる。該析出物は固液分離して回収することもできるが、固液分離せず、そのまま第二段階の反応に供してもよい。固液分離の方法は、前記の方法を用いることができる。
【0027】
(2)前記析出物を更にアルカリ金属水酸化物と反応させて、フッ化アルカリ金属塩を生成させる第二段階の反応
第一段階の反応で得られた析出物に、更にアルカリ金属水酸化物を混合して反応させると、フッ化アルカリ金属塩と珪酸のアルカリ金属塩を生成させ、析出したフッ化アルカリ金属塩を固液分離して回収することができる(第二段階の反応)。第二段階の反応は沸点以下で行うのが好ましく、30~90℃の温度がより好ましい。固液分離の方法は、前記の方法を用いることができる。以上のように、本発明においては、第一段階と第二段階の2段階反応により、ヘキサフルオロ珪酸のアルカリ金属塩を経てから、フッ化アルカリ金属塩を生成させることができる。このような2段階反応を行うことにより、より高い収率にてフッ化アルカリ金属塩を回収することが可能になる。
【0028】
2段階反応の各々で使用されるアルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが挙げられるが、水酸化ナトリウムが好ましく、水溶液として混合するのがより好ましい。また、第一段階の反応で、生成するヘキサフルオロ珪酸アルカリ金属塩としては例えば、ヘキサフルオロ珪酸ナトリウムやヘキサフルオロ珪酸カリウム等が挙げられる。
【0029】
本発明の方法で回収したフッ化アルカリ金属塩は、前記した脱シリカ処理用のフッ素系添加剤として使用することができる。その際には、前記したように、pH2~4程度の酸性条件下で行うのが好ましく、そのためには塩酸にてpH調整を行うのが好ましい。本発明においては、フッ素系添加剤を循環使用できるので、フッ素系化合物を含む排水を処理する費用の負担、設備管理の負担も大幅に削減できる。また、ヘキサフルオロ珪酸のアルカリ金属塩回収後の第一段階の反応液やフッ化アルカリ金属塩回収後の第二段階の反応液中には鉱酸が含まれており、これら回収鉱酸をチタン濃縮物製造時の浸出用鉱酸として使用することも可能である。
【0030】
なお、本発明の第一段階と第二段階の反応を含むフッ化アルカリ金属塩の回収方法は、各種鉱石から有用金属成分を鉱酸浸出する際の脱シリカ処理に用いられるフッ素系添加剤の回収にも適用でき、更には、各種鉱石(含チタン鉄鉱石又はその類似物を含む)に直接フッ素添加剤を混合し有用金属成分を浸出する際に産出した廃フッ素系添加剤の回収にも適用できる。
【実施例0031】
次に、本発明を参考例及び実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の参考例及び実施例によって何ら限定されるものではない。なお、参考例は、上記の特許文献3に記載の2段階の浸出から成るチタン濃縮物の製造方法に関するものである。
【0032】
参考例において用いた原料イルメナイト鉱石の組成を表1に示し、粒度分布を図1に示す。なお、各表中の総TiOは組成物中のTi含有率をTiO換算で表した値である。組成は、容量分析(Ti成分及びFe成分)とICP発光分光分析で分析した。粒度分布はレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA-950(株式会社堀場製作所製)で測定した。
【0033】
【表1】
【0034】
参考例
前記のイルメナイト鉱石をボールミルにて粉砕し330メッシュ(44μm)の篩を通過することを確認した。この粉砕物の粒度分布を図2に示す。
得られた粉砕物と19質量%塩酸をV/W=3.25となるように、撹拌機付きの反応容器に入れて混合し、60℃で2時間循環撹拌しながら、1還元当量倍TiCl相当のFe(0)存在下のもと予備浸出させた。その後、コンデンサー付き反応槽に移し、V/W=3.50となるように、19質量%塩酸を追加混合し、108℃(沸点)で10時間本浸出させた。反応終了後、ろ過水洗によって固液分離して、次いで、固形物をスラリーにした後、フッ素系添加剤である3%フッ酸(フッ化水素酸)溶液と混合して70℃で2時間撹拌して脱シリカ処理を行った。脱シリカ処理終了後、ろ過水洗によって固液分離して、次いで、固形物をスラリーにした後、スプレードライヤーにて噴霧乾燥してチタン濃縮物を得た。チタン濃縮物としてはスプレードライヤーのノズル交換により、平均粒度40μmの粒状乾燥物を得た。また、前記のスラリーを別条件でスプレードライヤーにて噴霧乾燥して平均粒度200μmの粒状乾燥物を得た。チタン濃縮物の組成を表2に示した。総TiOの全量は、ルチル構造を有する酸化チタンであり、アナタース型構造の酸化チタンやアモルファスの酸化チタンは含まれていなかった。表中の総Feは、分析したFeOとFeの合計量をFe換算で表したものである。
【0035】
【表2】
【0036】
実施例1
参考例に準じて本浸出させた後、ろ過水洗によって固液分離して、次いで、固形物をスラリーにした後、フッ素系添加剤である3%フッ酸(フッ化水素酸)溶液と混合して70℃で2時間撹拌して脱シリカ処理を行った。次いで、脱シリカ処理終了後、ろ過水洗によって固液分離して得た0.001mol/L濃度のヘキサフルオロ珪酸を含む分離液を60℃に加温し、pHをモニターしながら水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、中性域で白色のヘキサフルオロ珪酸ナトリウムの沈殿を析出させた後、ろ過水洗によって固液分離して析出物を得た(第一段階の反応)。更に、析出物のヘキサフルオロ珪酸ナトリウムと反応当量分の水酸化ナトリウム水溶液を添加して反応を行った(第二段階の反応)。その後、反応液をろ過水洗によって固液分離を行い、得られた固形分を乾燥し生成物の分析を行ったところ、0.19gのフッ化ナトリウムが生成していることが判った。この時の収率は約75%であった。また、本実施例におけるフッ化ナトリウムの回収スキームを図3に示した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、鉄分とシリカ成分等の不純物を大量に含有している変成度の低い含チタン鉄鉱石等を鉱酸浸出した後、フッ素系添加剤による脱シリカ処理によって、高TiO品位のチタン濃縮物を製造する際に、使用したフッ素系添加剤を効率的に回収する方法であり、回収したフッ化アルカリ金属塩を含チタン鉄鉱石等の鉱酸浸出する際のフッ素系添加剤として循環使用できることにより、経済的有利になるばかりでなく、フッ素系化合物を含む排水を処理する費用の負担、設備管理の負担を大幅に削減でき、産業上有用な技術となる。
図1
図2
図3