(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164864
(43)【公開日】2023-11-14
(54)【発明の名称】光学部材、該光学部材を含むレーザーモジュール及びレーザーデバイス
(51)【国際特許分類】
H01S 5/02 20060101AFI20231107BHJP
H01S 5/02255 20210101ALI20231107BHJP
H01S 5/183 20060101ALI20231107BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20231107BHJP
G02B 5/00 20060101ALI20231107BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
H01S5/02
H01S5/02255
H01S5/183
G02B3/00 A
G02B5/00 Z
G02B5/18
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023135760
(22)【出願日】2023-08-23
(62)【分割の表示】P 2022123551の分割
【原出願日】2019-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2018213241
(32)【優先日】2018-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】岩浜 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】藤川 武
(72)【発明者】
【氏名】福井 貞之
(57)【要約】
【課題】面発光レーザーを有するレーザーモジュールに用いられる光学部材において、損傷(クラック、剥離など)を検出可能な光学部材、及びその製造方法、該光学部材を含むレーザーモジュール、レーザーデバイスを提供すること。
【解決手段】面発光レーザー光源を有するレーザーモジュールに用いるための光学部材10であって、導電性物質を含む配線13を有することを特徴とする光学部材10。光学部材10は、好ましくは、回折光学素子及びマイクロレンズアレイからなる群から選択される少なくとも1種の光学素子を有する光学素子領域11を含んでいる。光学部材10は、印刷方式により導電性物質を含むインクを光学部材に塗布して配線13を形成する工程を含む方法により好適に製造される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面発光レーザー光源を有するレーザーモジュールに用いるための光学部材であって、
導電性物質を含む配線を有し、
前記光学部材は、基板状であり、
前記光学部材は、光学素子を有し、
前記光学素子は、前記光学部材の片面に形成され、
前記配線は、前記光学素子が形成されている前記片面の反対側の面に形成されていることを特徴とする光学部材。
【請求項2】
前記導電性物質が金属を含む、請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
前記導電性物質が銀を含む、請求項1又は2に記載の光学部材。
【請求項4】
前記光学素子が、回折光学素子及びマイクロレンズアレイからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学部材。
【請求項5】
前記光学部材が、プラスチック、又はプラスチックと無機ガラスの積層体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学部材。
【請求項6】
前記プラスチックが、硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物である、請求項5に記載の光学部材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の光学部材と、面発光レーザー光源とを有するレーザーモジュール。
【請求項8】
さらに、前記光学部材が有する導電性物質を含む配線の通電状態を検出する通電検出機構を有する、請求項7に記載のレーザーモジュール。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のレーザーモジュールを有する、レーザーデバイス。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載の光学部材の製造方法であって、
印刷方式により導電性物質を含むインクを光学部材に塗布して配線を形成する工程を含むことを特徴とする、前記光学部材の製造方法。
【請求項11】
前記印刷方式が、インクジェット印刷法又はスクリーン印刷法を含む、請求項10に記載の光学部材の製造方法。
【請求項12】
前記光学部材が、2個以上の光学素子が2次元的に配列した光学素子アレイである、請求項10又は11に記載の光学部材の製造方法。
【請求項13】
前記光学素子アレイを、ダイシングにより2個以上の光学素子を個片化する工程をさらに含む、請求項12に記載の光学部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザー光源を有するレーザーモジュールに用いられる光学部材、及びその製造方法、並びに該光学部材を含むレーザーモジュール、レーザーデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンの普及に伴うセキュリティリスク回避のための顔認証、3Dマッピングの認識用カメラ、ゲーム機のジェスチャー認識コントローラー、自動車の自動運転、工場のマシンビジョンなど、物体の立体形状を認識する3Dセンシングの需要が近年急速に増大している。このような3Dセンシングとしては、TOF(Time Of Flight)方式、ストラクチャードライト方式などが採用されており、これらは、垂直共振器面発光レーザー(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:VCSEL)などのレーザー光源から対象物に対してレーザー光を照射し、反射してきた光から情報を得るものである。
【0003】
これらの3Dセンシングにおいては、その用途・目的に応じて、拡散板、回折光学素子、レンズ、プリズム、偏光板等の光学素子を有する光学部材を用いてレーザー光が制御・整形される。例えば、TOF方式では、均一なレーザー光とするための光学素子として拡散板が用いられ、ストラクチャードライト方式では、回折光学素子を用いてレーザー光がドットパターンなどの構造光(ストラクチャードライト)に制御・整形される(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-26662号公報
【特許文献2】特表2018-511034公報
【特許文献3】特表2006-500621公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
3Dセンシングでは、レーザー光として850nmや940nmの比較的安全性が高い近赤外線が用いられることが多い。しかしながら、スマートフォンの顔認証の場合はレーザー光のような高出力の光が目に直接照射されるため、失明などの害をもたらす可能性がある。拡散板や回折光学素子等を有する光学部材はレーザー光を拡散するため、そのような害を軽減する役割も果たしているが、落下や衝撃などによって、光学部材にクラックや剥離などの損傷が発生した場合には、拡散されていないレーザー光が直接目に照射されることが考えられる。また、自動車の自動運転など屋外で使用され、太陽光、振動などの過酷な環境で使用される3Dセンシングシステムにおいて光学部材が劣化・損傷した場合、誤作動により事故が発生する恐れがあり、そのような不具合は早急に検出する必要がある。しかしながら、従来の3Dセンシングシステムでは、光学部材の損傷を検出する手段は知られておらず、気が付かずに継続使用されているのが現状である。
【0006】
従って、本発明の目的は、面発光レーザーを有するレーザーモジュールに用いられる光学部材において、損傷(クラック、剥離など)を検出可能な光学部材、及びその製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、前記光学部材を有するレーザーモジュールを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、前記レーザーモジュールを有するレーザーデバイスを提供することにある。
【0007】
なお、レーザーモジュールは、はんだ付けにより電極を配線基板に接合するためのリフロー工程を経るのが一般的である。近年、接合材としてのはんだとして、融点の高い無鉛はんだが使用されるようになってきており、リフロー工程での加熱処理がより高温(例えば、ピーク温度が240~260℃)になってきている。このような状況下、従来のレーザーモジュールにおいては、リフロー工程での加熱処理によりマイクロレンズアレイ、回折光学素子などの光学素子を有する光学部材にクラックが生じたりする等の劣化の問題が生じていた。従って、レーザーモジュールに用いる光学部材は優れた耐熱性、特に、リフロー工程において加熱処理された際にもクラックや剥離が生じにくい特性も求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、レーザーモジュールに用いられる光学部材に導電性物質を含む配線を施し、当該配線の通電状態をモニターすることにより、光学部材の損傷を検出できることを見出した。また、該配線は、印刷方式により導電性物質を含むインクを光学部材に塗布することにより、簡便かつ効率的に形成できることも見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、面発光レーザー光源を有するレーザーモジュールに用いるための光学部材であって、
導電性物質を含む配線を有することを特徴とする光学部材を提供する。
【0010】
前記光学部材において、前記導電性物質は金属を含んでいてもよい。
【0011】
前記光学部材において、前記導電性物質は銀を含んでいてもよい。
【0012】
前記光学部材は、回折光学素子及びマイクロレンズアレイからなる群から選択される少なくとも1種の光学素子を有していてもよい。
【0013】
前記光学部材は、プラスチック、又はプラスチックと無機ガラスの積層体であってもよい。
【0014】
前記プラスチックは、硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物であってもよい。
【0015】
また、本発明は、前記光学部材と、面発光レーザー光源とを有するレーザーモジュールを提供する。
【0016】
前記レーザーモジュールは、さらに、前記光学部材が有する導電性物質を含む配線の通電状態を検出する通電検出機構を有していてもよい。
【0017】
また、本発明は、前記レーザーモジュールを有する、レーザーデバイスを提供する。
【0018】
また、本発明は、前記光学部材の製造方法であって、
印刷方式により導電性物質を含むインクを光学部材に塗布して配線を形成する工程を含むことを特徴とする、前記光学部材の製造方法を提供する。
【0019】
前記光学部材の製造方法において、前記印刷方式は、インクジェット印刷法又はスクリーン印刷法を含んでいてもよい。
【0020】
前記光学部材の製造方法において、前記光学部材は、2個以上の光学素子が2次元的に配列した光学素子アレイであってもよい。
【0021】
前記光学部材の製造方法は、前記光学素子アレイを、ダイシングにより2個以上の光学素子を個片化する工程をさらに含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の光学部材は、上記構成を有するため、レーザーモジュールに用いられる光学部材のクラック、剥離などの損傷を簡便に検出することができるので、光学部材の損傷に起因するレーザーモジュールの不具合、誤作動による被害を未然に防止することができる。例えば、スマートフォンの顔認証においては、使用者にエラーメッセージを送ることにより注意喚起を行ったり、レーザー光自体が照射されないようにすることにより、使用者の目に直接レーザー光が照射されることを防止して、失明などのリスクを低減することができる。また、自動車の自動運転においても、レーザーモジュールが搭載された3Dセンシングシステムの不具合を検出して、運転者にエラーメッセージなどを送ることなどにより、誤作動による事故を未然に防ぐことができる。また、本発明の光学部材は、既存の印刷方式により、簡便かつ効率的に導電性物質を含む配線を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の光学部材の好ましい実施形態の一例を表した概略図であり、(a)は斜視図、(b)は上面図、(c)は側面図である。
【
図2】本発明の光学部材の好ましい実施形態の他の一例を表した概略図であり、(a)は上面図、(b)はX-X'における断面図である。
【
図3】本発明のレーザーモジュールの好ましい実施形態の一例を示す概略図であり、(a)は斜視図であり、(b)はY-Y'、Z-Z'における断面図である。
【
図4】本発明のレーザーモジュールの好ましい実施形態の他の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[光学部材]
本発明の光学部材は、面発光レーザー光源を有するレーザーモジュールに用いるための光学部材であって、導電性物質を含む配線を有することを特徴とする。
【0025】
本発明の光学部材を構成する材料としては、光学分野に使用可能なものを特に限定なく採用でき、例えば、プラスチック、又はBK7、SF2等の光学ガラス、合成石英等の石英ガラス、フッ化カルシウム結晶などの無機ガラスを使用することができる。なかでも、成形・加工が容易なプラスチックから構成される光学部材が好ましい。
【0026】
また、光学部材としては、リフロー工程において加熱処理された際にもクラックや剥離が生じにくい耐熱性に優れるという観点から、プラスチックと無機ガラスの積層体であるハイブリッド材料からなる光学部材(以下、「ハイブリッド光学部材」と称する)も好ましい。ハイブリッド光学部材は、プラスチックと無機ガラスの積層構造であれば特に限定されず、例えば、光学素子が形成された無機ガラスからなる基板の片面又は両面にプラスチック層が積層されたもの、光学素子が形成されてない平坦な無機ガラスからなる基板の片面又は両面に、光学素子が形成されたプラスチック層が積層されたものなどが挙げられる。ハイブリッド光学部材としては、光学素子の形成が簡便なことから、平坦な無機ガラスからなる基板の片面に、光学素子が形成されたプラスチック層が積層されたものが好ましい。
【0027】
本発明の光学部材を構成するプラスチックとしては、光学分野に使用可能なものを特に限定なく採用でき、例えば、熱可塑性樹脂組成物、硬化性樹脂組成物を使用することができるが、量産性や成形性に優れる硬化性樹脂組成物が好ましい。
【0028】
本発明の光学部材を構成する熱可塑性樹脂組成物としては、光学分野に使用可能なものを特に限定なく採用でき、例えば、(メタ)アクリル樹脂、脂環構造含有樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ウレタン樹脂、チオウレタン樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、公知の成形法、例えば、プレス成形、押し出し成形、射出成形等により、本発明の光学部材に成形することができるが、成形性及び生産性の観点から射出成形が好ましい。
【0029】
本発明の光学部材を構成する硬化性樹脂組成物としては、光学分野に使用可能なものを特に限定なく採用でき、例えば、エポキシ系カチオン硬化性樹脂組成物、アクリル系ラジカル硬化性樹脂組成物、硬化性シリコーン樹脂組成物等が挙げられ、このうち、短時間に硬化し、成形型へのキャスト時間が短く、硬化収縮率が小さく寸法安定性に優れ、硬化時に酸素阻害を受けないエポキシ系カチオン硬化性樹脂組成物(硬化性エポキシ樹脂組成物)が好ましい。
【0030】
エポキシ樹脂としては、分子内に1以上のエポキシ基(オキシラン環)を有する公知乃至慣用の化合物を使用することができ、例えば、脂環式エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物等が挙げられる。本発明においては、なかでも、耐熱性、及び透明性に優れた硬化物を形成することができ、特に、リフロー工程において加熱処理された際にもクラックや剥離が生じにくい優れた硬化物を形成することができる点で、1分子内に脂環構造と、官能基としてのエポキシ基を2個以上有する、多官能脂環式エポキシ化合物が好ましい。
【0031】
前記多官能脂環式エポキシ化合物としては、具体的には、
(i)脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(すなわち、脂環エポキシ基)を有する化合物
(ii)脂環に直接単結合で結合したエポキシ基を有する化合物
(iii)脂環とグリシジル基とを有する化合物
等が挙げられる。
【0032】
上述の脂環エポキシ基を有する化合物(i)としては、例えば、下記式(i)で表される化合物を挙げられる。
【化1】
【0033】
上記式(i)中、Xは単結合又は連結基(1以上の原子を有する二価の基)を示す。上記連結基としては、例えば、二価の炭化水素基、炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート基、アミド基、これらが複数個連結した基等が挙げられる。尚、式(i)中のシクロヘキセンオキシド基には、置換基(例えば、アルキル基等)が結合していてもよい。
【0034】
上記二価の炭化水素基としては、炭素数が1~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、二価の脂環式炭化水素基等が挙げられる。炭素数が1~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等が挙げられる。上記二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基等のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)等が挙げられる。
【0035】
上記炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基(「エポキシ化アルケニレン基」と称する場合がある)におけるアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、ブタジエニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基等の炭素数2~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニレン基等が挙げられる。特に、上記エポキシ化アルケニレン基としては、炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化されたアルケニレン基が好ましく、より好ましくは炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化された炭素数2~4のアルケニレン基である。
【0036】
上記Xにおける連結基としては、特に、酸素原子を含有する連結基が好ましく、具体的には、-CO-、-O-CO-O-、-COO-、-O-、-CONH-、エポキシ化アルケニレン基;これらの基が複数個連結した基;これらの基の1又は2以上と上記二価の炭化水素基の1又は2以上とが連結した基等が挙げられる。
【0037】
上記式(i)で表される化合物の代表的な例としては、(3,4,3',4'-ジエポキシ)ビシクロヘキシル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、1,2-エポキシ-1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)プロパン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタンや、下記式(i-1)~(i-10)で表される化合物等が挙げられる。下記式(i-5)中のLは炭素数1~8のアルキレン基であり、中でも、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基等の炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基が好ましい。下記式(i-5)、(i-7)、(i-9)、(i-10)中のn1~n8は、それぞれ1~30の整数を示す。
【0038】
【0039】
上述の脂環エポキシ基を有する化合物(i)には、エポキシ変性シロキサンも含まれる。
【0040】
エポキシ変性シロキサンとしては、例えば、下記式(i')で表される構成単位を有する、鎖状又は環状のポリオルガノシロキサンが挙げられる。
【化4】
【0041】
上記式(i')中、R
1は下記式(1a)又は(1b)で表されるエポキシ基を含む置換基を示し、R
2はアルキル基又はアルコキシ基を示す。
【化5】
【0042】
式中、R1a、R1bは、同一又は異なって、直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基を示し、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、デカメチレン基等の炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基が挙げられる。
【0043】
エポキシ変性シロキサンのエポキシ当量(JIS K7236に準拠)は、例えば100~400、好ましくは150~300である。
【0044】
エポキシ変性シロキサンとしては、例えば、下記式(i'-1)で表されるエポキシ変性環状ポリオルガノシロキサン(商品名「X-40-2670」、信越化学工業(株)製)等の市販品を用いることができる。
【化6】
【0045】
上述の脂環に直接単結合で結合したエポキシ基を有する化合物(ii)としては、例えば、下記式(ii)で表される化合物等が挙げられる。
【化7】
【0046】
式(ii)中、R'は、p価のアルコールの構造式からp個の水酸基(-OH)を除いた基(p価の有機基)であり、p、n9はそれぞれ自然数を表す。p価のアルコール[R'-(OH)p]としては、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノール等の多価アルコール(炭素数1~15のアルコール等)等が挙げられる。pは1~6が好ましく、n9は1~30が好ましい。pが2以上の場合、それぞれの角括弧(外側の括弧)内の基におけるn9は同一でもよく異なっていてもよい。上記式(ii)で表される化合物としては、具体的には、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物[例えば、商品名「EHPE3150」((株)ダイセル製)等]等が挙げられる。
【0047】
上述の脂環とグリシジル基とを有する化合物(iii)としては、例えば、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビフェノール型エポキシ化合物、水添フェノールノボラック型エポキシ化合物、水添クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールAの水添クレゾールノボラック型エポキシ化合物、水添ナフタレン型エポキシ化合物、トリスフェノールメタン型エポキシ化合物の水添物等の水素化芳香族グリシジルエーテル系エポキシ化合物等が挙げられる。
【0048】
多官能脂環式エポキシ化合物としては、表面硬度が高く、透明性に優れた硬化物が得られる点で、脂環エポキシ基を有する化合物(i)が好ましく、上記式(i)で表される化合物(特に、(3,4,3',4'-ジエポキシ)ビシクロヘキシル)が特に好ましい。
【0049】
本発明における硬化性樹脂組成物は、硬化性化合物としてエポキシ樹脂以外にも他の硬化性化合物を含有していても良く、例えば、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物等のカチオン硬化性化合物を1種又は2種以上含有することができる。
【0050】
前記硬化性樹脂組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量%)に占めるエポキシ樹脂の割合は、例えば50重量%以上、好ましくは60重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、最も好ましくは80重量%以上である。尚、上限は、例えば100重量%、好ましくは90重量%である。
【0051】
また、前記硬化性樹脂組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量%)に占める脂環エポキシ基を有する化合物(i)の割合は、例えば20重量%以上、好ましくは30重量%以上、特に好ましくは40重量%以上である。尚、上限は、例えば70重量%、好ましくは60重量%である。
【0052】
また、前記硬化性樹脂組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量%)に占める式(i)で表される化合物の割合は、例えば10重量%以上、好ましくは15重量%以上、特に好ましくは20重量%以上である。尚、上限は、例えば50重量%、好ましくは40重量%である。
【0053】
前記硬化性樹脂組成物は、上記硬化性化合物と共に重合開始剤を含有することが好ましく、なかでも光又は熱重合開始剤(特に、光又は熱カチオン重合開始剤)を1種又は2種以上含有することが好ましい。
【0054】
光カチオン重合開始剤は、光の照射によって酸を発生して、硬化性樹脂組成物に含まれる硬化性化合物(特に、カチオン硬化性化合物)の硬化反応を開始させる化合物であり、光を吸収するカチオン部と酸の発生源となるアニオン部からなる。
【0055】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、ジアゾニウム塩系化合物、ヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、ホスホニウム塩系化合物、セレニウム塩系化合物、オキソニウム塩系化合物、アンモニウム塩系化合物、臭素塩系化合物等を挙げられる。
【0056】
本発明においては、なかでも、スルホニウム塩系化合物を使用することが、硬化性に優れた硬化物を形成することができる点で好ましい。スルホニウム塩系化合物のカチオン部としては、例えば、(4-ヒドロキシフェニル)メチルベンジルスルホニウムイオン、トリフェニルスルホニウムイオン、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムイオン、4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル-4-ビフェニリルフェニルスルホニウムイオン、トリ-p-トリルスルホニウムイオン等のアリールスルホニウムイオン(特に、トリアリールスルホニウムイオン)を挙げられる。
【0057】
光カチオン重合開始剤のアニオン部としては、例えば、[(Y)sB(Phf)4-s]-(式中、Yはフェニル基又はビフェニリル基を示す。Phfは水素原子の少なくとも1つが、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、及びハロゲン原子から選択される少なくとも1種で置換されたフェニル基を示す。sは0~3の整数である)、BF4
-、[(Rf)tPF6-t]-(式中、Rfは水素原子の80%以上がフッ素原子で置換されたアルキル基を示す。tは0~5の整数を示す)、AsF6
-、SbF6
-、SbF5OH-等を挙げられる。
【0058】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、(4-ヒドロキシフェニル)メチルベンジルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル-4-ビフェニリルフェニルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、[4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル]-4-ビフェニリルフェニルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム ヘキサフルオロホスフェート、4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル-4-ビフェニリルフェニルスルホニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、ビス[4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、[4-(2-チオキサントニルチオ)フェニル]フェニル-2-チオキサントニルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム ヘキサフルオロアンチモネート、商品名「サイラキュアUVI-6970」、「サイラキュアUVI-6974」、「サイラキュアUVI-6990」、「サイラキュアUVI-950」(以上、米国ユニオンカーバイド社製)、「Irgacure250」、「Irgacure261」、「Irgacure264」、「CG-24-61」(以上、BASF社製)、「オプトマーSP-150」、「オプトマーSP-151」、「オプトマーSP-170」、「オプトマーSP-171」(以上、(株)ADEKA製)、「DAICAT II」((株)ダイセル製)、「UVAC1590」、「UVAC1591」(以上、ダイセル・サイテック(株)製)、「CI-2064」、「CI-2639」、「CI-2624」、「CI-2481」、「CI-2734」、「CI-2855」、「CI-2823」、「CI-2758」、「CIT-1682」(以上、日本曹達(株)製)、「PI-2074」(ローディア社製、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート トリルクミルヨードニウム塩)、「FFC509」(3M社製)、「BBI-102」、「BBI-101」、「BBI-103」、「MPI-103」、「TPS-103」、「MDS-103」、「DTS-103」、「NAT-103」、「NDS-103」(以上、ミドリ化学(株)製)、「CD-1010」、「CD-1011」、「CD-1012」(以上、米国、Sartomer社製)、「CPI-100P」、「CPI-101A」(以上、サンアプロ(株)製)等の市販品を使用できる。
【0059】
熱カチオン重合開始剤は、加熱処理を施すことによって酸を発生して、硬化性樹脂組成物に含まれるカチオン硬化性化合物の硬化反応を開始させる化合物であり、熱を吸収するカチオン部と酸の発生源となるアニオン部からなる。熱カチオン重合開始剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0060】
熱カチオン重合開始剤としては、例えば、ヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物等を挙げることができる。
【0061】
熱カチオン重合開始剤のカチオン部としては、例えば、4-ヒドロキシフェニル-メチル-ベンジルスルホニウムイオン、4-ヒドロキシフェニル-メチル-(2-メチルベンジル)スルホニウムイオン、4-ヒドロキシフェニル-メチル-1-ナフチルメチルスルホニウムイオン、p-メトキシカルボニルオキシフェニル-ベンジル-メチルスルホニウムイオン等を挙げることができる。
【0062】
熱カチオン重合開始剤のアニオン部としては、上記光カチオン重合開始剤のアニオン部と同様の例を挙げることができる。
【0063】
熱カチオン重合開始剤としては、例えば、4-ヒドロキシフェニル-メチル-ベンジルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-ヒドロキシフェニル-メチル-(2-メチルベンジル)スルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-ヒドロキシフェニル-メチル-1-ナフチルメチルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、p-メトキシカルボニルオキシフェニル-ベンジル-メチルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等を挙げることができる。
【0064】
重合開始剤の含有量は、硬化性樹脂組成物に含まれる硬化性化合物(特に、カチオン硬化性化合物)100重量部に対して、例えば0.1~5.0重量部となる範囲である。重合開始剤の含有量が上記範囲を下回ると、硬化不良を引き起こすおそれがある。一方、重合開始剤の含有量が上記範囲を上回ると、硬化物が着色しやすくなる傾向がある。
【0065】
本発明における硬化性樹脂組成物は、上記硬化性化合物と重合開始剤と、必要に応じて他の成分(例えば、溶剤、酸化防止剤、表面調整剤、光増感剤、消泡剤、レベリング剤、カップリング剤、界面活性剤、難燃剤、紫外線吸収剤、着色剤等)を混合することによって製造することができる。他の成分の配合量は、硬化性樹脂組成物全量の、例えば20重量%以下、好ましくは10重量%以下、特に好ましくは5重量%以下である。
【0066】
本発明の硬化性樹脂組成物の25℃における粘度としては、特に限定されないが、5000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは2500mPa・s以下である。本発明の硬化性樹脂組成物の粘度を上記範囲に調整することにより、流動性が向上し、気泡が残存しにくくなり、注入圧の上昇を抑制しつつ、成形型への充填を行うことができる。即ち、塗布性及び充填性を向上することができ、本発明の硬化性樹脂組成物の成形作業全体に亘り、作業性を向上させることができる。尚、本明細書における粘度とは、レオメーター(Paar Physica社製「PHYSICA UDS200」)を使用して、温度25℃、回転速度20/秒の条件下で測定した値である。
【0067】
本発明における硬化性樹脂組成物としては、例えば、商品名「CELVENUS OUH106」、「CELVENUS OTM107」(以上、(株)ダイセル製)等の市販品を使用することができる。
【0068】
本発明の光学部材は、硬化性樹脂組成物を成形型を用いて成形し、その後、硬化させて前記硬化性樹脂組成物の硬化物から成る光学部材を得ることができる。
【0069】
金型を用いて硬化性樹脂組成物を成形する方法としては、例えば、下記(1)~(2)の方法が挙げられる。
(1)成形型に硬化性樹脂組成物を塗布し、その上から基板を押し付け、硬化性樹脂組成物を硬化させた後、成形型を剥離する方法
(2)成形型の上型と下型の少なくとも一方(好ましくは、下型)に硬化性樹脂組成物を塗布し、上型と下型とを合わせた上で硬化性樹脂組成物を硬化させ、その後、上型と下型を剥離する方法
【0070】
例えば硬化樹脂性組成物として光硬化性樹脂組成物を使用する場合は、前記基板として400nmの波長の光線透過率が90%以上である基板を使用することが好ましく、石英ガラスや光学ガラスなどの無機ガラスからなる基板を好適に使用することができる。上記(1)の方法において、無機ガラスからなる基板を使用した場合は、硬化性樹脂組成物の硬化物と無機ガラスの積層体であるハイブリッド光学部材を得ることができる。尚、前記波長の光線透過率は、基板(厚み:1mm)を試験片として使用し、当該試験片に照射した前記波長の光線透過率を分光光度計を用いて測定することで求められる。
【0071】
硬化性樹脂組成物の塗布方法としては、特に制限が無く、例えば、ディスペンサーやシリンジ等を使用する方法等が挙げられる。また、硬化性樹脂組成物は、成形型の中心部に塗布することが好ましい。
【0072】
硬化性樹脂組成物の硬化は、例えば硬化性樹脂組成物として光硬化性樹脂組成物を使用する場合は、紫外線を照射することによって行うことができる。紫外線照射を行う時の光源としては、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、キセノン灯、メタルハライド灯等が用いられる。照射時間は、光源の種類、光源と塗布面との距離、その他の条件により異なるが、長くとも数十秒である。照度は、5~200mW程度である。紫外線照射後は、必要に応じて加熱(ポストキュア)を行って硬化の促進を図ってもよい。
【0073】
例えば硬化性樹脂組成物として熱硬化性樹脂組成物を使用する場合は、加熱処理を施すことによって硬化性樹脂組成物を硬化させることができる。加熱温度は、例えば60~150℃程度である。加熱時間は、例えば0.2~20時間程度である。
【0074】
本発明の光学部材の形状は、光学分野に使用可能なものである限り特に限定されず、例えば、目的・用途に応じて、板状、シート状、フィルム状、レンズ状、プリズム状、柱状、錐状等から選択できるが、後述の光学素子を有する場合は、レーザー光線を制御しやいという観点から、板状、シート状、フィルム状などの基板状が好ましい。本発明の光学部材が、基板状である場合、その厚みも用途・目的に応じて適宜設定可能であり、例えば、100~2000μm、好ましくは100~1000μmの範囲から適宜選択することができる。
【0075】
本発明の光学部材は、透明性が高いことが好ましい。本発明の光学部材の全光線透過率は、特に限定されないが、70%以上が好ましく、より好ましくは80%以上である。なお、全光線透過率の上限は、特に限定されないが、例えば、99%である。本発明の光学部材の全光線透過率は、例えば、材料として上述の硬化性樹脂組成物の硬化物を使用することによって容易に上記範囲に制御することができる。なお、全光線透過率は、JIS K7361-1に準拠して測定することができる。
【0076】
本発明の光学部材のヘイズは、特に限定されないが、10%以下が好ましく、より好ましくは5%以下である。なお、ヘイズの下限は、特に限定されないが、例えば、0.1%である。本発明の光学部材のヘイズは、例えば、材料として上述の硬化性樹脂組成物の硬化物を使用することによって容易に上記範囲に制御することができる。なお、ヘイズは、JIS K7136に準拠して測定することができる。
【0077】
本発明の光学部材は、光学素子を有することが好ましい。本発明の光学部材が有する光学素子は、光学分野に使用可能なものを特に限定なく採用でき、例えば、回折光学素子、マイクロレンズアレイ、プリズム、偏光板などが挙げられるが、レーザー光を制御することに適する回折光学素子、マイクロレンズアレイ、が好ましい。
【0078】
回折光学素子(Diffractive Optical Element:DOE)は、グレーティング・ホログラム等の光の回折現象を利用して光の進行方向を変えるものであり、光学部材に形成される周期的な構造(回折溝)によって光を回折して任意の構造光に成形する光学素子である。本発明の光学部材が有する回折光学素子により制御されるレーザー光の構造光は、特に限定されないが、例えば、ドットパターン、均一な面照射光などが挙げられ、用途・目的により適宜選択することができる。
【0079】
マイクロレンズアレイは、数十μm程度の大きさのマイクロレンズが複数配置された構造を有するものであり、面発光レーザー光源から照射されるレーザー光を拡散させ、均一化させる「拡散板(Diffuser)」として機能する。マイクロレンズアレイを構成する各マイクロレンズは同一形状であってもよく、異なる形状のマイクロレンズが配列したランダム構造であってもよく、用途・目的により適宜選択することができる。
【0080】
本発明の光学部材が有する光学素子は公知の方法により形成することができ、例えば、上述の硬化性樹脂組成物を成形する成形型として、所望の光学素子と反転形状の成形面を有する成形型を用いることにより、光学部材の当該反転形状に相当する領域に光学素子を形成することができる。また、電子線リソグラフィー等により、光学部材に所望の光学パターンを形成する方法も採用することもできる。
【0081】
また、光学素子を有しない光学部材に、光学素子を有する部材を別途積層させてもよい。光学素子を有する部材を構成する材料としては、本発明の光学部材を構成する材料と同様のものを用いることができる。光学素子を有する部材を構成する材料は、本発明の光学部材を構成する材料と同じ材料であっても、異なる材料であってもよい。光学素子を有する部材は、光学素子を有する本発明の光学部材と同様の方法により製造することができる。
【0082】
本発明の光学部材が有する光学素子は、光学部材の全面に形成されていてもよく、一部に形成されていてもよい。具体的には、光学部材が基板状である場合は、少なくとも片面の全面に光学素子が形成されていてもよく、一部に光学素子が形成されていてもよい。また、基板状の光学部材の片面のみに光学素子が形成されていてもよく、両面に光学素子が形成されていてもよい。
【0083】
光学素子を有する基板状の光学部材は、光学素子が形成された領域(以下、「光学素子領域」と称する場合がある)と光学素子が形成されていない領域(以下、「非光学素子領域」と称する場合がある)を有する態様が好ましい。特に、光学部材の基板の中心部に光学素子領域が形成され、光学素子領域の周囲(光学部材の基板の外周)に非光学素子領域を有する態様が好ましい。なお、基板状の光学部材の片面のみに光学素子が形成されている場合であっても、光学素子が形成されていない他方の面において、光学素子領域と非光学素子領域に相当する領域も、それぞれ光学素子領域、非光学素子領域であると解釈するものとする。
【0084】
[導電性物質を含む配線]
本発明の光学部材は、導電性物質を含む配線を有することを特徴とする。
導電性物質としては、導電性を有するものである限り特に限定されず、例えば、金属、金属酸化物、導電性ポリマー、導電性炭素系物質などを使用することができる。
【0085】
前記金属としては、金、銀、銅、クロム、ニッケル、パラジウム、アルミニウム、鉄、白金、モリブデン、タングステン、亜鉛、鉛、コバルト、チタン、ジルコニウム、インジウム、ロジウム、ルテニウム、及びこれらの合金等が挙げられる。前記金属酸化物としては、、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化銅、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、又は、これらの複合酸化物、例えば、酸化インジウムと酸化スズとの複合酸化物(ITO)、酸化スズと酸化リンとの複合酸化物子(PTO)等が挙げられる。導電性ポリマーとしては、ポリアセチレンポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等が挙げられる。導電性炭素系物質としては、カーボンブラック、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MT、熱分解カーボン、天然グラファイト、人造グラファイト等が挙げられる。これら導電性物質は、単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0086】
導電性物質としては、導電性に優れ、配線を形成しやすい、金属又は金属酸化物が好ましく、金属がより好ましく、金、銀、銅、インジウム等が好ましく、100℃程度の温度で相互に融着し、プラスチック製の光学部材上でも導電性に優れた配線を形成することができる点で銀が特に好ましい。
【0087】
導電性物質を含む配線は、導電性物質以外に、導電性や光学部材との密着性等の改善の観点から、ドーピング剤、還元剤、酸化防止剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)等の添加剤を含んでいてもよい。
【0088】
導電性物質を含む配線を光学部材に形成する方法は、公知の方法、例えば、印刷方式、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法(chemical vapor deposition:化学蒸着)、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属化学気相蒸着)法、レーザーアブレーション法(PLAD:Pulsed Laser Ablation Deposition)などを制限なく使用することができる。光学部材の目的の位置に所望の幅の配線を形成しやすいと観点から、印刷方式、スパッタリング法が好ましく、印刷方式が特に好ましい。
【0089】
前記の印刷方式としては、公知の印刷方式を特に制限なく採用することができ、例えば、インクジェット印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法などが挙げられ、光学部材の目的の位置に所望の幅の配線を形成しやすいと観点から、インクジェット印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法が好ましく、インクジェット印刷法又はスクリーン印刷法が特に好ましい。
【0090】
本発明における前記インクジェット印刷法は、ノズルから導電性物質を含むインクを光学部材に塗布して配線を形成する工程を含む方法である。
【0091】
本発明におけるインクジェット印刷法に用いられる導電性物質を含むインクは、インクジェット印刷に使用可能である限り特に限定されないが、光学部材の目的の位置に所望の幅の配線を形成しやすいと観点から、「金属ナノ粒子の表面が有機保護剤で被覆された構成を有する表面修飾金属ナノ粒子(以下、単に「表面修飾金属ナノ粒子」と称する場合がある)を含むインクが好ましい。
【0092】
前記表面修飾金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子の表面が、有機保護剤で被覆された構成を有する。そのため、表面修飾金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子間の間隔が確保され、凝集が抑制されるため、分散性に優れる。
【0093】
前記表面修飾金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子部と、これを被覆する表面修飾部(すなわち、金属ナノ粒子を被覆している部分であって、有機保護剤により形成されている部分)から成り、前記表面修飾部の割合は、金属ナノ粒子部の重量の例えば1~20重量%程度(好ましくは、1~10重量%)である。尚、表面修飾金属ナノ粒子における金属ナノ粒子部と表面修飾部の各重量は、例えば、表面修飾金属ナノ粒子を熱重量測定に付し、特定温度範囲における減量率から求めることができる。
【0094】
前記表面修飾金属ナノ粒子における、金属ナノ粒子部の平均一次粒子径は、例えば0.5~100nm、好ましくは0.5~80nm、より好ましくは1~70nm、さらに好ましくは1~60nmである。
【0095】
前記表面修飾金属ナノ粒子における金属ナノ粒子部を構成する金属としては、前述の導電性を有する金属であれば良く、例えば、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、ロジウム、コバルト、ルテニウム等を挙げることができる。本発明における金属ナノ粒子としては、なかでも、100℃程度の温度で相互に融着し、光学部材上に導電性に優れた配線を形成することができる点で銀ナノ粒子が好ましい。従って、前記表面修飾金属ナノ粒子としては、表面修飾銀ナノ粒子が好ましく、インクジェット印刷用のインクとしては、銀インクが好ましい。
【0096】
前記表面修飾金属ナノ粒子における表面修飾部を構成する有機保護剤としては、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、スルホ基、及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する化合物が好ましく、特に、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、スルホ基、及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する炭素数4~18の化合物が好ましく、最も好ましくはアミノ基を有する化合物であり、とりわけ好ましくはアミノ基を有する炭素数4~18の化合物(すなわち、炭素数4~18のアミン)である。
【0097】
前記表面修飾金属ナノ粒子は、例えば、金属化合物と有機保護剤とを混合して、前記金属化合物と有機保護剤を含む錯体を生成させる工程(錯体生成工程)、前記錯体を熱分解させる工程(熱分解工程)、及び、必要に応じて反応生成物を洗浄する工程(洗浄工程)を経て製造することができる。
【0098】
(錯体生成工程)
錯体生成工程は、金属化合物と有機保護剤とを混合して、金属化合物と有機保護剤を含む錯体を生成する工程である。前記金属化合物として銀化合物を使用することが好ましく、ナノサイズの銀粒子は100℃程度の温度で相互に融着するため、光学部材上に導電性に優れた配線を形成することができる点で好ましく、特に、加熱により容易に分解して、金属銀を生成する銀化合物を使用することが好ましい。このような銀化合物としては、例えば、ギ酸銀、酢酸銀、シュウ酸銀、マロン酸銀、安息香酸銀、フタル酸銀等のカルボン酸銀;フッ化銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀等のハロゲン化銀;硫酸銀、硝酸銀、炭酸銀等を挙げることができる。なかでも、銀含有率が高く、且つ、還元剤を使用することなく熱分解することができ、インクに還元剤由来の不純物が混入しにくい点で、シュウ酸銀が好ましい。
【0099】
有機保護剤としては、ヘテロ原子中の非共有電子対が金属ナノ粒子に配位することで、金属ナノ粒子間の凝集を強力に抑制する効果を発揮することができる点で、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、スルホ基、及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する化合物が好ましく、特に、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、スルホ基、及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する炭素数4~18の化合物が好ましい。
【0100】
有機保護剤としては、特にアミノ基を有する化合物が好ましく、最も好ましくはアミノ基を有する炭素数4~18の化合物、すなわち炭素数4~18のアミンである。
【0101】
前記アミンはアンモニアの少なくとも1つの水素原子が炭化水素基で置換された化合物であり、第一級アミン、第二級アミン、及び第三級アミンが含まれる。また、前記アミンはモノアミンであっても、ジアミン等の多価アミンであってもよい。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0102】
前記アミンとしては、なかでも、下記式(a-1)で表され、式中のR1、R2、R3が同一又は異なって、水素原子又は1価の炭化水素基(R1、R2、R3が共に水素原子である場合は除く)であり、総炭素数が6以上であるモノアミン(1)、下記式(a-1)で表され、式中のR1、R2、R3が同一又は異なって、水素原子又は1価の炭化水素基(R1、R2、R3が共に水素原子である場合は除く)であり、総炭素数が5以下であるモノアミン(2)、及び下記式(a-2)で表され、式中のR4~R7は同一又は異なって、水素原子又は1価の炭化水素基であり、R8は2価の炭化水素基であり、総炭素数が8以下であるジアミン(3)から選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、特に、前記モノアミン(1)と、モノアミン(2)及び/又はジアミン(3)とを併せて含有することが好ましい。
【0103】
【0104】
前記炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基が含まれるが、なかでも脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基が好ましく、特に脂肪族炭化水素基が好ましい。従って、上記モノアミン(1)、モノアミン(2)、ジアミン(3)としては、脂肪族モノアミン(1)、脂肪族モノアミン(2)、脂肪族ジアミン(3)が好ましい。
【0105】
また、1価の脂肪族炭化水素基には、アルキル基及びアルケニル基が含まれる。1価の脂環式炭化水素基には、シクロアルキル基及びシクロアルケニル基が含まれる。更に、2価の脂肪族炭化水素基には、アルキレン基及びアルケニレン基が含まれ、2価の脂環式炭化水素基には、シクロアルキレン基及びシクロアルケニレン基が含まれる。
【0106】
R1、R2、R3における1価の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基等の炭素数1~18程度のアルキル基;ビニル基、アリル基、メタリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基等の炭素数2~18程度のアルケニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の炭素数3~18程度のシクロアルキル基;シクロペンテニル基、シクロへキセニル基等の炭素数3~18程度のシクロアルケニル基等を挙げることができる。
【0107】
R4~R7における1価の炭化水素基としては、例えば、上記例示のうち、炭素数1~7程度のアルキル基、炭素数2~7程度のアルケニル基、炭素数3~7程度のシクロアルキル基、炭素数3~7程度のシクロアルケニル基等を挙げることができる。
【0108】
R8における2価の炭化水素基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘプタメチレン基等の炭素数1~8のアルキレン基;ビニレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、ブタジエニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基等の炭素数2~8のアルケニレン基等を挙げることができる。
【0109】
上記R1~R8における炭化水素基は、種々の置換基[例えば、ハロゲン原子、オキソ基、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、C1-4アルコキシ基、C6-10アリールオキシ基、C7-16アラルキルオキシ基、C1-4アシルオキシ基等)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(例えば、C1-4アルコキシカルボニル基、C6-10アリールオキシカルボニル基、C7-16アラルキルオキシカルボニル基等)、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、複素環式基等]を有していてもよい。また、前記ヒドロキシル基やカルボキシル基は有機合成の分野で慣用の保護基で保護されていてもよい。
【0110】
モノアミン(1)は、金属ナノ粒子の表面に吸着することにより、金属ナノ粒子が凝集して肥大化することを抑制する、すなわち、金属ナノ粒子に高分散性を付与する機能を有する化合物であり、例えば、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン等の直鎖状アルキル基を有する第一級アミン;イソヘキシルアミン、2-エチルヘキシルアミン、tert-オクチルアミン等の分岐鎖状アルキル基を有する第一級アミン;シクロヘキシルアミン等のシクロアルキル基を有する第一級アミン;オレイルアミン等のアルケニル基を有する第一級アミン等;N,N-ジプロピルアミン、N,N-ジブチルアミン、N,N-ジペンチルアミン、N,N-ジヘキシルアミン、N,N-ジペプチルアミン、N,N-ジオクチルアミン、N,N-ジノニルアミン、N,N-ジデシルアミン、N,N-ジウンデシルアミン、N,N-ジドデシルアミン、N-プロピル-N-ブチルアミン等の直鎖状アルキル基を有する第二級アミン;N,N-ジイソヘキシルアミン、N,N-ジ(2-エチルヘキシル)アミン等の分岐鎖状アルキル基を有する第二級アミン;トリブチルアミン、トリヘキシルアミン等の直鎖状アルキル基を有する第三級アミン;トリイソヘキシルアミン、トリ(2-エチルヘキシル)アミン等の分岐鎖状アルキル基を有する第三級アミン等が挙げられる。
【0111】
上記モノアミン(1)のなかでも、アミノ基が金属ナノ粒子表面に吸着した際に他の金属ナノ粒子との間隔を確保できるため、金属ナノ粒子同士の凝集を防ぐ効果が得られ、且つ焼結時には容易に除去できる点で、総炭素数6~18(総炭素数の上限は、より好ましくは16、特に好ましくは12である)の直鎖状アルキル基を有するアミン(特に、第一級アミン)が好ましく、とりわけ、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン等が好ましい。
【0112】
モノアミン(2)は、モノアミン(1)に比べると炭化水素鎖が短いので、それ自体は金属ナノ粒子に高分散性を付与する機能は低いが、前記モノアミン(1)より極性が高く金属原子への配位能が高いため、錯体形成促進効果を有する。また、炭化水素鎖が短いため、低温焼結においても、短時間(例えば30分間以下、好ましくは20分間以下)で金属ナノ粒子表面から除去することができ、導電性に優れた焼結体が得られる。
【0113】
モノアミン(2)としては、例えば、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、tert-ペンチルアミン等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を有する総炭素数2~5(好ましくは総炭素数4~5)の第一級アミンや、N,N-ジエチルアミン等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を有する総炭素数2~5(好ましくは総炭素数4~5)の第二級アミンを挙げることができる。本発明においては、なかでも、直鎖状アルキル基を有する総炭素数2~5(好ましくは総炭素数4~5)の第一級アミンが好ましい。
【0114】
ジアミン(3)の総炭素数は8以下であり、前記モノアミン(1)より極性が高く金属原子への配位能が高いため、錯体形成促進効果を有する。また、前記ジアミン(3)は、錯体の熱分解工程において、より低温且つ短時間での熱分解を促進する効果があり、ジアミン(3)を使用すると表面修飾金属ナノ粒子の製造をより効率的に行うことができる。さらに、ジアミン(3)を含む保護剤で被覆された構成を有する表面修飾金属ナノ粒子は、極性の高い分散媒中において優れた分散安定性を発揮する。さらに、前記ジアミン(3)は、炭化水素鎖が短いため、低温焼結でも、短時間(例えば30分間以下、好ましくは20分間以下)で金属ナノ粒子表面から除去することができ、導電性に優れた焼結体が得られる。
【0115】
前記ジアミン(3)としては、例えば、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,5-ジアミノ-2-メチルペンタン等の、式(a-2)中のR4~R7が水素原子であり、R8が直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基であるジアミン;N,N'-ジメチルエチレンジアミン、N,N'-ジエチルエチレンジアミン、N,N'-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N'-ジエチル-1,3-プロパンジアミン、N,N'-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、N,N'-ジエチル-1,4-ブタンジアミン、N,N'-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン等の式(a-2)中のR4、R6が同一又は異なって直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であり、R5、R7が水素原子であり、R8が直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基であるジアミン;N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジエチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、N,N-ジエチル-1,4-ブタンジアミン、N,N-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン等の式(a-2)中のR4、R5が同一又は異なって直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であり、R6、R7が水素原子であり、R8が直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基であるジアミン等を挙げることができる。
【0116】
これらのなかでも、前記式(a-2)中のR4、R5が同一又は異なって直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であり、R6、R7が水素原子であり、R8が直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基であるジアミン[特に、式(a-2)中のR4、R5が直鎖状アルキル基であり、R6、R7が水素原子であり、R8が直鎖状アルキレン基であるジアミン]が好ましい。
【0117】
式(a-2)中のR4、R5が同一又は異なって直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であり、R6、R7が水素原子であるジアミン、すなわち第一級アミノ基と第三級アミノ基を有するジアミンは、前記第一級アミノ基は金属原子に対して高い配位能を有するが、前記第三級アミノ基は金属原子に対する配位能が乏しいため、形成される錯体が過剰に複雑化することが防止され、それにより、錯体の熱分解工程において、より低温且つ短時間での熱分解が可能となる。これらのなかでも、低温焼結において短時間で金属ナノ粒子表面から除去できる点から、総炭素数6以下(例えば1~6、好ましくは4~6)のジアミンが好ましく、総炭素数5以下(例えば1~5、好ましくは4~5)のジアミンがより好ましい。
【0118】
本発明の導電性インクに含まれる有機保護剤全量におけるモノアミン(1)の含有量の占める割合、及びモノアミン(2)とジアミン(3)の合計含有量の占める割合としては、下記範囲であることが好ましい。
モノアミン(1)の含有量:例えば5~65モル%(下限は、好ましくは10モル%、特に好ましくは20モル%、最も好ましくは30モル%である。また、上限は、好ましくは60モル%、特に好ましくは50モル%である)
モノアミン(2)とジアミン(3)の合計含有量:例えば35~95モル%(下限は、好ましくは40モル%、特に好ましくは50モル%である。また、上限は、好ましくは90モル%、特に好ましくは80モル%、最も好ましくは70モル%である)
【0119】
本発明の導電性インクに含まれる有機保護剤全量におけるモノアミン(2)の含有量の占める割合、及びジアミン(3)の含有量の占める割合としては、下記範囲であることが好ましい。
モノアミン(2)の含有量:例えば5~65モル%(下限は、好ましくは10モル%、特に好ましくは20モル%、最も好ましくは30モル%である。また、上限は、好ましくは60モル%、特に好ましくは50モル%である)
ジアミン(3)の含有量:例えば5~50モル%(下限は、好ましくは10モル%である。また、上限は、好ましくは40モル%、特に好ましくは30モル%である)
【0120】
モノアミン(1)を上記範囲で含有することにより、金属ナノ粒子の分散安定性が得られる。モノアミン(1)の含有量が上記範囲を下回ると、金属ナノ粒子が凝集し易くなる傾向がある。一方、モノアミン(1)の含有量が上記範囲を上回ると、焼結温度が低い場合は短時間で金属ナノ粒子表面から有機保護剤を除去することが困難となり、得られる焼結体の導電性が低下する傾向がある。
【0121】
前記モノアミン(2)を上記範囲で含有することにより、錯体形成促進効果が得られる。また、焼結温度が低くても短時間で有機保護剤を金属ナノ粒子表面から除去することが可能となり、導電性に優れた焼結体が得られる。
【0122】
前記ジアミン(3)を上記範囲で含有することにより、錯体形成促進効果及び錯体の熱分解促進効果が得られやすい。また、ジアミン(3)を含む保護剤で被覆された構成を有する表面修飾金属ナノ粒子は、極性の高い分散媒中において優れた分散安定性を発揮する。
【0123】
本発明においては、金属化合物の金属原子への配位能が高いモノアミン(2)及び/又はジアミン(3)を用いると、それらの使用割合に応じて、モノアミン(1)の使用量を減量することができ、焼結温度が低くても短時間で金属ナノ粒子表面から有機保護剤を除去することが可能となり、導電性に優れた焼結体が得られる点で好ましい。
【0124】
本発明において有機保護剤として使用するアミンには上記モノアミン(1)、モノアミン(2)、及びジアミン(3)以外にも他のアミンを含有していても良いが、保護剤に含まれる全アミンに占める上記モノアミン(1)、モノアミン(2)、及びジアミン(3)の合計含有量の割合は、例えば60重量%以上が好ましく、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。尚、上限は100重量%である。すなわち、他のアミンの含有量は、40重量%以下が好ましく、特に好ましくは20重量%以下、最も好ましくは10重量%以下である。
【0125】
有機保護剤[特に、モノアミン(1)+モノアミン(2)+ジアミン(3)]の使用量は特に限定されないが、原料の前記金属化合物の金属原子1モルに対して、1~50モル程度が好ましく、特に好ましくは2~50モル、最も好ましくは6~50モルである。有機保護剤の使用量が上記範囲を下回ると、錯体の生成工程において、錯体に変換されない金属化合物が残存しやすくなり、金属ナノ粒子に十分な分散性を付与することが困難となる傾向がある。
【0126】
金属ナノ粒子の分散性をさらに向上させることを目的に、有機保護剤として、アミノ基を有する化合物と共に、カルボキシル基を有する化合物(例えばカルボキシル基を有する炭素数4~18の化合物、好ましくは炭素数4~18の脂肪族モノカルボン酸)を1種又は2種以上含有しても良い。
【0127】
前記脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸等の炭素数4以上の飽和脂肪族モノカルボン酸;オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、パルミトレイン酸、エイコセン酸等の炭素数8以上の不飽和脂肪族モノカルボン酸を挙げることができる。
【0128】
これらのなかでも、炭素数8~18の飽和又は不飽和脂肪族モノカルボン(特に、オクタン酸、オレイン酸等)が好ましい。前記脂肪族モノカルボン酸のカルボキシル基が金属ナノ粒子表面に吸着した際に、炭素数8~18の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素鎖が立体障害となることにより他の金属ナノ粒子との間隔を確保することができ、金属ナノ粒子同士の凝集を防ぐ作用が向上する。
【0129】
前記カルボキシル基を有する化合物の使用量としては、金属化合物の金属原子1モルに対して、例えば0.05~10モル程度、好ましくは0.1~5モル、特に好ましくは0.5~2モルである。前記カルボキシル基を有する化合物の使用量が、上記範囲を下回ると、分散安定性向上効果が得られにくい。一方、前記カルボキシル基を有する化合物を過剰に使用しても分散安定性向上効果は飽和する一方で、低温焼結で除去することが困難となる傾向がある。
【0130】
有機保護剤と金属化合物との反応は、分散媒の存在下又は不存在下で行われる。前記分散媒としては、例えば、炭素数3以上のアルコールを使用することができる。
【0131】
前記炭素数3以上のアルコールとしては、例えば、n-プロパノール(沸点:97℃)、イソプロパノール(沸点:82℃)、n-ブタノール(沸点:117℃)、イソブタノール(沸点:107.89℃)、sec-ブタノール(沸点:99.5℃)、tert-ブタノール(沸点:82.45℃)、n-ペンタノール(沸点:136℃)、n-ヘキサノール(沸点:156℃)、n-オクタノール(沸点:194℃)、2-オクタノール(沸点:174℃)等が挙げられる。これらのなかでも、後に行われる錯体の熱分解工程の温度を高く設定できること、得られる表面修飾金属ナノ粒子の後処理での利便性の点で、炭素数4~6のアルコールが好ましく、特に、n-ブタノール、n-ヘキサノールが好ましい。
【0132】
また、分散媒の使用量は、金属化合物100重量部に対して、例えば120重量部以上、好ましくは130重量部以上、より好ましくは150重量部以上である。尚、分散媒の使用量の上限は、例えば1000重量部、好ましくは800重量部、特に好ましくは500重量部である。
【0133】
有機保護剤と金属化合物との反応は、常温(5~40℃)で行うことが好ましい。前記反応には、金属化合物への有機保護剤の配位反応による発熱を伴うため、上記温度範囲となるように、適宜冷却しつつ行ってもよい。
【0134】
有機保護剤と金属化合物との反応時間は、例えば30分~3時間程度である。これにより、金属-有機保護剤の錯体(有機保護剤としてアミンを使用した場合は、金属-アミン錯体)が得られる。
【0135】
(熱分解工程)
熱分解工程は、錯体生成工程を経て得られた金属-有機保護剤の錯体を熱分解させて、表面修飾金属ナノ粒子を形成する工程である。金属-有機保護剤の錯体を加熱することにより、金属原子に対する有機保護剤の配位結合を維持したままで金属化合物が熱分解して金属原子を生成し、次に、有機保護剤が配位した金属原子が凝集して、有機保護膜で被覆された金属ナノ粒子が形成されると考えられる。
【0136】
前記熱分解は、分散媒の存在下で行うことが好ましく、分散媒としては上述のアルコールを好適に使用することができる。また、熱分解温度は、表面修飾金属ナノ粒子が生成する温度であればよく、金属-有機保護剤の錯体がシュウ酸銀-有機保護剤の錯体である場合には、例えば80~120℃程度、好ましくは95~115℃、特に好ましくは100~110℃である。表面修飾金属ナノ粒子の表面修飾部の脱離を防止する観点から、前記温度範囲内のなるべく低温で行うことが好ましい。熱分解時間は、例えば10分~5時間程度である。
【0137】
また、金属-有機保護剤の錯体の熱分解は、空気雰囲気下や、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0138】
(洗浄工程)
金属-有機保護剤の錯体の熱分解反応終了後、過剰の有機保護剤が存在する場合は、これを除去するために、デカンテーションを1回、又は2回以上繰り返して行うことが好ましい。また、デカンテーション終了後の表面修飾金属ナノ粒子は、乾燥・固化することなく、湿潤状態のままで後述の導電性インクの調製工程へ供することが、表面修飾金属ナノ粒子の再凝集を抑制することができ、高分散性を維持することができる点で好ましい。
【0139】
デカンテーションは、例えば、懸濁状態の表面修飾金属ナノ粒子を洗浄剤で洗浄し、遠心分離により表面修飾金属ナノ粒子を沈降させ、上澄み液を除去する方法により行われる。前記洗浄剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等の、炭素数1~4(好ましくは1~2)の直鎖状又は分岐鎖状アルコールを1種又は2種以上使用することが、表面修飾金属ナノ粒子の沈降性が良好であり、洗浄後、遠心分離により効率よく洗浄剤を分離・除去することができる点で好ましい。
【0140】
本発明において、インクジェット印刷法に使用されるインク(以下、「インクジェット印刷用インク」と称する場合がある)は、上記工程を経て得られた表面修飾金属ナノ粒子(好ましくは、湿潤状態の表面修飾金属ナノ粒子)と分散媒と、必要に応じて添加剤とを混合することにより調製することができる。前記混合には、例えば、自公転式撹拌脱泡装置、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、3本ロールミル、ビーズミル等の一般的に知られる混合用機器を使用することができる。また、各成分は、同時に混合してもよいし、逐次混合してもよい。各成分の配合割合は、下記範囲において、適宜調整することができる。
【0141】
前記のインクジェット印刷用インク全量(100重量%)における、表面修飾金属ナノ粒子の含有量(金属元素換算)は、例えば35~70重量%程度である。下限は、より高膜厚の塗膜若しくは焼結体が得られる観点から、好ましくは40重量%、特に好ましくは45重量%、最も好ましくは50重量%、とりわけ好ましくは55重量%である。上限は、塗布性(インクジェット印刷法で塗布する場合にヘッドノズルからの射出安定性)の観点から、好ましくは65重量%、特に好ましくは60重量%である。
【0142】
前記のインクジェット印刷用インクに含まれる分散媒としては、常用の有機溶剤を特に限定なく使用することができ、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素溶剤;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、テルピネオール等のアルコール溶剤等が挙げられ、所望の濃度や粘性に応じて、有機溶剤の種類や量を適宜選択することができる。分散媒に使用される有機溶剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0143】
前記インクジェット印刷用インクにおける、分散媒の含有量(金属元素換算)は、表面修飾金属ナノ粒子100重量部に対して、20~100重量部、好ましくは30~90重量部、より好ましくは40~80重量部、更に好ましくは50~75重量部、特に好ましくは55~75重量部、最も好ましくは60~75重量部である。
【0144】
前記のインクジェット印刷用インク全量(100重量%)における、分散媒の含有量は、例えば20~65重量%、好ましくは25~60重量%、更に好ましくは30~55重量%、最も好ましくは30~50重量%である。前記インクジェット印刷用インクは、分散媒を前記範囲で含有するため塗布性に優れ、インクジェット印刷法で塗布する場合に、ヘッドのノズルからの射出安定性を良好に維持することが可能となる。
【0145】
前記インクジェット印刷用インクの粘度(25℃、せん断速度10(1/s)における)は、例えば1~100mPa・sである。粘度の上限は好ましくは50mPa・s、特に好ましくは20mPa・s、最も好ましくは15mPa・sである。粘度の下限は、好ましくは2mPa・s、特に好ましくは3mPa・s、最も好ましくは5mPa・sである。
【0146】
上記得られるインクジェット印刷用インクは、インクジェット印刷法以外の印刷方式、例えば、グラビア印刷法、フレキソ印刷法などにも使用することができる。
【0147】
本発明における前記スクリーン印刷法は、導電性物質を含むインクをスキージング(スキージでインクを押し出すこと)により、配線パターンに対応する開口部を有するスクリーンを通過させて光学部材に配線パターンを転写する工程を含む方法である。
【0148】
本発明におけるスクリーン印刷法に用いられる導電性物質を含むインク(以下、「スクリーン印刷用インク」と称する場合がある)は、スクリーン印刷に使用可能である限り特に限定されないが、光学部材の目的の位置に所望の幅の配線を形成しやすいと観点から、表面修飾金属ナノ粒子を含むインクが好ましく、特に銀インクが好ましい。
【0149】
前記のスクリーン印刷用インクに含まれる「表面修飾金属ナノ粒子」は、上述のインクジェット印刷用インクに用いられる「表面修飾金属ナノ粒子」と同じものを使用することができ、同様の方法で製造することができる。
【0150】
前記のスクリーン印刷用インクは、上記の表面修飾金属ナノ粒子(好ましくは、湿潤状態の表面修飾金属ナノ粒子)と、溶剤と、必要に応じて添加剤とを混合することにより調製することができる。前記混合には、例えば、自公転式撹拌脱泡装置、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、3本ロールミル、ビーズミル等の一般的に知られる混合用機器を使用することができる。また、各成分は、同時に混合してもよいし、逐次混合してもよい。各成分の配合割合は、下記範囲において、適宜調整することができる。
【0151】
前記のスクリーン印刷用インク全量(100重量%)における、表面修飾金属ナノ粒子の含有量は、例えば60~85重量%であり、下限は、光学部材に対する密着性を向上する効果が得られる点で、好ましくは70重量%である。上限は、好ましくは80重量%、特に好ましくは75重量%である。
【0152】
前記のスクリーン印刷用インクに含まれる溶剤としては、常用の有機溶剤を特に限定なく使用することができ、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素溶剤;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、テルピネオール等のアルコール溶剤等が挙げられるが、溶剤が揮発することによるスクリーン版の目詰まりが抑制され、それにより連続印刷が可能となる観点から、テルペン系溶剤を少なくとも含むことが好ましい。
【0153】
前記テルペン系溶剤としては、沸点が130℃以上(例えば130~300℃、好ましくは200~300℃)であるものが好ましい。
【0154】
また、前記テルペン系溶剤としては、粘度(20℃における)が例えば50~250mPa・s(特に好ましくは100~250mPa・s、最も好ましくは150~250mPa・s)であるものを使用することが、得られるスクリーン印刷用インクの粘度を適度に高めることができ、細線を優れた精度で描画することが可能となる点で好ましい。尚、溶剤の粘度は、レオメーター(商品名「Physica MCR301」、Anton Paar社製)を使用して測定した、20℃、せん断速度が20(1/s)の時の値である。
【0155】
前記テルペン系溶剤としては、例えば、4-(1'-アセトキシ-1'-メチルエステル)-シクロヘキサノールアセテート、1,2,5,6-テトラヒドロベンジルアルコール、1,2,5,6-テトラヒドロベンジルアセテート、シクロヘキシルアセテート、2-メチルシクロヘキシルアセテート、4-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、α-ターピネオール、β-ターピネオール、γ-ターピネオール、L-α-ターピネオール、ジヒドロターピニルオキシエタノール、ターピニルメチルエーテル、ジヒドロターピニルメチルエーテル等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明においては、例えば、商品名「テルソルブMTPH」、「テルソルブIPG」、「テルソルブIPG-Ac」、「テルソルブIPG-2Ac」、「ターピネオールC」(α-ターピネオール、β-ターピネオール、及びγ-ターピネオールの混合物、沸点:218℃、粘度:54mPa・s)、「テルソルブDTO-210」、「テルソルブTHA-90」、「テルソルブTHA-70」(沸点:223℃、粘度:198mPa・s)、「テルソルブTOE-100」(以上、日本テルペン化学(株)製)等の市販品を使用することができる。
【0156】
前記のスクリーン印刷用インクに使用される溶剤は、前記テルペン系溶剤以外にも他の溶剤を1種又は2種以上含有していても良い。他の溶剤としては、例えば、沸点が130℃以上のグリコールエーテル系溶剤等を挙げることができる。
【0157】
前記グリコールエーテル系溶剤には、例えば、下記式(b)
R11-(O-R13)m-OR12 (b)
(式中、R11、R12は、同一又は異なって、アルキル基又はアシル基を示し、R13は炭素数1~6のアルキレン基を示す。mは1以上の整数を示す)
で表される化合物を挙げることができる。
【0158】
前記R11、R12におけるアルキル基としては、炭素数1~10(好ましくは1~5)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を挙げることができる。
【0159】
前記R11、R12におけるアシル基(RCO-基)としては、前記Rが炭素数1~10(好ましくは1~5)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であるアシル基(例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基等)を挙げることができる。
【0160】
なかでも、式(b)中のR11、R12が、互いに異なる基(互いに異なるアルキル基、互いに異なるアシル基、若しくはアルキル基とアシル基)である化合物が好ましく、式(b)中のR11、R12が、互いに異なるアルキル基である化合物が特に好ましく、炭素数4~10(好ましくは4~6)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基と、炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基の組み合わせである化合物が最も好ましい。
【0161】
前記R13におけるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、炭素数1~4のアルキレン基が好ましく、特に好ましくは炭素数1~3のアルキレン基、最も好ましくは炭素数2~3のアルキレン基である。
【0162】
mは1以上の整数であり、例えば1~8の整数、好ましくは1~3の整数、特に好ましくは2~3の整数である。
【0163】
前記式(b)で表される化合物の沸点は、例えば130℃以上(例えば、130~300℃)であり、好ましくは170℃以上、特に好ましくは200℃以上である。
【0164】
前記式(b)で表される化合物としては、例えば、エチレングリコールメチルエーテルアセテート(沸点:145℃)、エチレングリコール-n-ブチルエーテルアセテート(沸点:188℃)、プロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル(沸点:131℃)、プロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル(沸点:155℃)、プロピレングリコールメチルイソアミルエーテル(沸点:176℃)、プロピレングリコールジアセテート(沸点:190℃)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(沸点:146℃)、3-メトキシブチルアセテート(沸点:171℃)、1,3-ブチレングリコールジアセテート(沸点:232℃)、1,4-ブタンジオールジアセテート(沸点:232℃)、1,6-ヘキサンジオールジアセテート(沸点:260℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点:162℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点:189℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(沸点:256℃)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(沸点:176℃)、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル(沸点:179℃)、ジエチレングリコールメチル-n-ブチルエーテル(沸点:212℃)、ジエチレングリコール-n-ブチルエーテルアセテート(沸点:247℃)、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート(沸点:218℃)、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート(沸点:246.8℃)、ジプロピレングリコールメチル-イソペンチルエーテル(沸点:227℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点:175℃)、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル(沸点:203℃)、ジプロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル(沸点:216℃)、ジプロピレングリコールメチルシクロペンチルエーテル(沸点:286℃)、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(沸点:195℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点:216℃)、トリエチレングリコールメチル-n-ブチルエーテル(沸点:261℃)、トリプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル(沸点:258℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点:215℃)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(沸点:275℃)等のグリコールジエーテル、グリコールエーテルアセテート、及びグリコールジアセテートを挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0165】
また、前記グリコールエーテル系溶剤には、更に、例えば、下記式(b')
R14-(O-R15)n-OH (b')
(式中、R14はアルキル基又はアリール基を示し、R15は炭素数1~6のアルキレン基を示す。nは1以上の整数を示す)
で表される化合物(グリコールモノエーテル)を含有していても良い。
【0166】
前記R14におけるアルキル基としては、例えば、炭素数1~10(好ましくは1~5)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を挙げることができる。アリール基としては、例えば、炭素数6~10のアリール基(例えば、フェニル基等)を挙げることができる。
【0167】
前記R15におけるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を挙げることができる。なかでも、炭素数1~4のアルキレン基が好ましく、特に好ましくは炭素数1~3のアルキレン基、最も好ましくは炭素数2~3のアルキレン基である。
【0168】
nは1以上の整数であり、例えば1~8の整数、好ましくは1~3の整数、特に好ましくは2~3の整数である。
【0169】
前記式(b')で表される化合物の沸点は、例えば130℃以上(例えば、130~310℃)であり、好ましくは130~250℃、特に好ましくは130~200℃、最も好ましくは130~180℃、とりわけ好ましくは140~180℃である。
【0170】
前記式(b')で表される化合物としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:124℃)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点:141.8℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:171.2℃)、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点:160.5℃)、エチレングリコールモノt-ブチルエーテル(沸点:152℃)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点:208℃)、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル(沸点:229℃)、エチレングリコールモノフェニルエーテル(沸点:244.7℃)、エチレングリコールモノベンジルエーテル(沸点:256℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:194℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(=ブチルカルビトール、沸点:230℃)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点:220℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点:207℃)、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル(沸点:162℃)、ジエチレングリコールモノイソペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(=ヘキシルカルビトール、沸点:259.1℃)、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル(沸点:272℃)、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(沸点:283℃)、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル(沸点:302℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:249℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:271.2℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点:132.8℃)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点:149℃)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点:170℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:188℃)、3-メトキシ-1-ブタノール(沸点:158℃)等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0171】
スクリーン印刷用インク全量(100重量%)における、テルペン系溶剤の含有量は、例えば5~30重量%であり、下限は、好ましくは10重量%、特に好ましくは14重量%である。上限は、好ましくは25重量%、特に好ましくは18重量%である。テルペン系溶剤を前記範囲で含有することにより、にじみを抑制し、細線の描画精度を向上する効果、及び連続印刷性を向上する効果が得られる。
【0172】
スクリーン印刷用インク全量(100重量%)における、式(b)で表される化合物の含有量は、例えば0.5~5重量%であり、下限は、好ましくは1.6重量%である。上限は、好ましくは3重量%、特に好ましくは2重量%である。式(b)で表される化合物を上記範囲で含有することにより、チキソトロピー性が付与され、描画部のエッジをよりシャープにすることができ、印字精度を向上することができる。また、連続印刷性を向上する効果も得られる。
【0173】
また、前記のスクリーン印刷用インクは、式(b')で表される化合物を、インク全量の、例えば10重量%以下(5~10重量%)、好ましくは8.5重量%以下の範囲で含有することができる。
【0174】
前記のスクリーン印刷用インクには、沸点が130℃以上の溶剤として、上記式(b)で表される化合物、及び上記式(b')で表される化合物以外にも他の溶剤[例えば、乳酸エチルアセテート(沸点:181℃)、テトラヒドロフルフリルアセテート(沸点:195℃)、テトラヒドロフルフリルアルコール(沸点:176℃)、エチレングリコール(沸点:197℃)等]を1種又は2種以上含有していても良いが、沸点が130℃以上の他の溶剤の含有量は、スクリーン印刷用インクに含まれる溶剤全量の30重量%以下、好ましくは20重量%以下、特に好ましくは15重量%以下、最も好ましくは10重量%以下、更にこのましくは5重量%以下、とりわけ好ましくは1重量%以下である。
【0175】
さらに、前記のスクリーン印刷用インクは、沸点が130℃未満の溶剤[例えば、エチレングリコールジメチルエーテル(沸点:85℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:120℃)、プロピレングリコールジメチルエーテル(沸点:97℃)等]も含んでいても良いが、スクリーン印刷用インク全量(100重量%)における沸点が130℃未満の溶剤の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は20重量%以下であることが好ましく、より「好ましくは10重量%以下、特に好ましくは5重量%以下、最も好ましくは1重量%以下である。前記のスクリーン印刷用インクでは、沸点が130℃未満の溶剤の含有量が上記範囲に抑えられている場合、前記溶剤が揮発することにより引き起こされるスクリーン版の目詰まりを抑制することができ、連続印刷が可能となりやすい。
【0176】
前記スクリーン印刷用インクに使用される溶剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0177】
前記のスクリーン印刷用インクは、上記成分以外にも、例えば、バインダー樹脂、表面エネルギー調整剤、可塑剤、レベリング剤、消泡剤、密着性付与剤等の添加剤を必要に応じて含有することができる。なかでも、スクリーン印刷用インクを光学部材上に塗布(あるいは印刷)し、その後、焼結して得られる焼結体の前記光学部材に対する密着性や可とう性を向上する効果が得られる点で、バインダー樹脂を含有することが好ましい。
【0178】
前記バインダー樹脂としては、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでもセルロース系樹脂を使用することが好ましく、例えば、商品名「エトセルstd.200」、「エトセルstd.300」(以上、ダウケミカル社製)等の市販品を使用することができる。
【0179】
前記バインダー樹脂(例えば、セルロース系樹脂)の含有量は、スクリーン印刷用インク全量の、例えば0.5~5.0重量%程度、好ましくは1.0~3.0重量%である。
【0180】
前記のスクリーン印刷用インクの粘度(25℃、せん断速度10(1/s)における)は、例えば60Pa・s以上であり、好ましくは70Pa・s以上、より好ましくは80Pa・s以上、更に好ましくは90Pa・s以上、更に好ましくは100Pa・s以上、特に好ましくは150Pa・s以上である。粘度の上限は、例えば500Pa・s程度、好ましくは450Pa・s、特に好ましくは400Pa・s、最も好ましくは350Pa・sである。
【0181】
また、前記のスクリーン印刷用インクの粘度(25℃、せん断速度100(1/s))は、例えば10~100Pa・sの範囲であり、上限は、好ましくは80Pa・s、特に好ましくは60Pa・s、最も好ましくは50Pa・s、とりわけ好ましくは40Pa・sである。下限は、好ましくは15Pa・s、特に好ましくは20Pa・s、最も好ましくは25Pa・s、とりわけ好ましくは30Pa・sである。
【0182】
前記のスクリーン印刷用インクはチキソトロピー性を有することが好ましく、25℃におけるTI値(せん断速度10(1/s)時の粘度/せん断速度100(1/s)時の粘度)は、例えば3.0~10.0、好ましくは3.5~7.0、特に好ましくは4.0~6.5、最も好ましくは4.5~6.3、とりわけ好ましくは4.8~6.2の範囲であることが好ましい。
【0183】
スクリーン印刷用インクとしては、市販品、例えば、株式会社ノリタケリミテド製の銀ぺーストインク(製品名:NP-2910D1)などを使用することもできる。
【0184】
本発明の光学部材に配線を形成する方法は、印刷方式により上記インクを光学部材に塗布する工程、及び焼結する工程を含む。
【0185】
本発明の光学部材において、配線を形成する面は、粗化処理、易接着処理、静電気防止処理、サンドブラスト処理(サンドマット処理)、コロナ放電処理、プラズマ処理、エキシマ処理、ケミカルエッチング処理、ウォーターマット処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、紫外線照射処理、シランカップリング剤処理等の公知乃至慣用の表面処理が施されていてもよい。表面処理される面としては、前記の非光学素子領域が好ましい。一方、光学素子領域は、表面処理されていてもよく、表面処理されていなくてもよい。
【0186】
上記のインクを塗布して得られる塗膜の厚みとしては、当該塗膜を焼結して得られる焼結体の厚みが例えば0.1~5μm(好ましくは、0.5~2μm)となる範囲であることが好ましい。
【0187】
上記のインクを塗布して得られる塗膜の幅は、特に限定されず、光学部材の形状・大きさなどにより適宜選択することができ、当該塗膜を焼結して得られる焼結体の幅が例えば200μm以下(例えば、1~200μm)、好ましくは10~100μmとなる範囲である。
【0188】
上記で形成された塗膜は焼結することにより、導電性を有する配線(焼結体)にすることができる。焼結温度は、例えば150℃以下(焼結温度の下限は、例えば60℃であり、短時間で焼結可能な点で100℃がより好ましい)、特に好ましくは130℃以下、最も好ましくは120℃以下である。焼結時間は、例えば0.5~3時間、好ましくは0.5~2時間、特に好ましくは0.5~1時間である。
【0189】
本発明の光学部材に形成される配線の幅は、特に限定されず、光学部材の形状・大きさなどにより適宜選択することができ、例えば200μm以下(例えば、1~200μm)、好ましくは10~100μmとなる範囲である。配線の幅をこの範囲にすることにより、通電を確保しやすくなる。
【0190】
本発明の光学部材において、導電性物質を含む配線が形成され位置は特に限定されないが、光学部材が上述の光学素子領域と非光学素子領域を有する場合、面発光レーザー光源から照射され、光学素子により制御されるレーザー光の照度や構造光を損なわないために、非光学素子領域に形成されることが好ましい。
【0191】
本発明の光学部材が基板状である場合、導電性物質を含む配線は、片面にのみ形成されていてもよく、また、両面に形成されていてもよい。
【0192】
印刷方式により導電性物質を含むインクを光学部材に塗布して配線を形成する際、光学部材は、2個以上の光学素子が2次元的に配列した光学素子アレイであることが好ましい。具体的には、2個以上の光学素子領域が2次元的に配列し、これらの光学素子領域が非光学素子領域を介して連結した構成を有することが好ましい。光学素子アレイを採用することにより、導電性物質を含む配線をそれぞれの光学素子に対して一括して形成することができるため、生産効率が格段に向上する。
【0193】
上記光学素子アレイは、上述の光学部材を製造する際の成形型として、光学素子アレイ上に2次元的に配列される2以上の光学素子に対応する反転形状が2次元的に配列された成形面を有する成形型を用いることにより、容易に製造することができる。
【0194】
光学素子アレイ上に配列する光学素子のそれぞれに配線が施された後、それぞれの光学素子を個片化することにより、本発明の光学部材を得ることができる。具体的には、2個以上の光学素子領域を連結している非光学素子領域を切断することにより、個片化された光学素子領域を有する本発明の光学部材を得ることができる。
【0195】
光学素子アレイの個片化手段としては特に制限されることがなく周知慣用の手段を採用することができるが、なかでも高速回転するブレードを用いることが好ましい。
【0196】
高速回転するブレードを使用して切断する場合、ブレードの回転速度は例えば10000~50000回転/分程度である。また、光学素子アレイを高速回転するブレード等を用いて切断する際には摩擦熱が生じるため、光学素子アレイを冷却しながら切断することが、摩擦熱によって光学素子が変形したり光学特性が低下するのを抑制することができる点で好ましい。光学素子アレイを、非光学素子領域において切断して得られる光学素子は、光学素子領域とその周辺部の非光学素子領域を含む。
【0197】
図1は、本発明の光学部材の好ましい実施形態の一例を表した概略図であり、(a)は斜視図、(b)は上面図、(c)は側面図である。
図1の光学部材10は、光学素子が形成された光学素子領域11が光学部材10の下面中央部に形成されており、光学素子領域11の周囲には、光学素子が形成されていない非光学素子領域12を有している。なお、光学部材10の上面には光学素子が形成されていないが、上面から見て光学素子領域11、非光学素子領域12に相当する領域は、それぞれ光学素子領域11、非光学素子領域12とするものとする。配線13は、光学部材10の上面の非光学素子領域12に、光学素子領域11の周囲を囲むように形成されている。配線13をこのように配置することにより、光学部材10の光学素子領域11にクラック等の損傷が生じた場合に、配線13が断線して通電できなくなる。従って、配線13の通電状態をモニターすることにより、光学部材10の特に光学素子領域11に及ぶクラック等の損傷を検出することができる。配線13の両端には、後述の通電検出機構に接続する通電検出機構接続部位14が形成されている。
【0198】
図1において、光学部材10(上面の正方形)の1辺は2mm程度、光学素子領域(正方形)の1辺は1mm程度、厚みは300μm程度、全光線透過率は90%程度、ヘイズは0.5%程度である。
【0199】
図2は、本発明の光学部材の好ましい実施形態の他の一例を表した概略図であり、(a)は上面図、(b)はX-X'における断面図である。
図2の光学部材20は、光学素子が形成された光学素子領域11が光学部材20の下面中央部に形成されており、光学素子領域11の周囲には、光学素子が形成されていない非光学素子領域12を有している。配線13は、光学部材20の下面の非光学素子領域12に、光学素子領域11の周囲を囲むように形成されている。光学部材20の光学素子領域11にクラック等の損傷が生じた場合に、配線13が断線して通電できなくなるため、
図1と同様に、配線13の通電状態をモニターすることにより、光学部材10の特に光学素子領域11に及ぶクラック等の損傷を検出することができる。配線13の両端には、後述の通電検出機構に接続する通電検出機構接続部位14が形成されている。また、通電検出機構接続部位14は、光学部材20の下面から突き出た凸部15の先端部に形成されている。通電検出機構接続部位14を凸部15の先端部に形成することにより、後述の
図4に示すように、通電検出機構と接続しやすくなる。
【0200】
[面発光レーザー光源]
本発明の光学部材を有するレーザーモジュールは、光源として面発光レーザー光源を有している。本発明に用いられる面発光レーザー光源としては、特に限定されず、垂直共振器面発光レーザー(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:VCSEL)、共振器を外部に持つ外部共振器型垂直面発光レーザー(Vertical External Cavity Surface Emitting Laser:VECSEL)等が挙げられ、3Dセンシングに汎用され、低コストなVCSELが好ましい。
【0201】
前記面発光レーザー光源が照射するレーザー光は、可視光線でも、紫外線でも、赤外線であってもよいが、安全性が高く、3Dセンシングで多用される750~2500nmに波長を持つ近赤外線が好ましく、特に、太陽光などの環境光の影響を受けにくい800~1000nmの波長を有する近赤外線が好ましい。出力光強度も特に限定されず、用途、目的に従い適宜選択することができる。
【0202】
[レーザーモジュール]
本発明のレーザーモジュールは、本発明の光学部材と、上述の面発光レーザー光源とを有している。本発明のレーザーモジュールの実施形態は、面発光レーザー光源から照射されるレーザー光が光学部材(好ましくは、光学部材に形成された光学素子領域)を通過するように配置されている限り、特に限定されない。光学部材が光学素子を有する場合、光学素子領域を通過したレーザー光は、均一光や構造光などに制御・整形される。
【0203】
図3は、本発明のレーザーモジュールの好ましい実施形態の一例を示す概略図であり、(a)は斜視図であり、(b)はY-Y'、Z-Z'における断面図である。
図3のレーザーモジュール30では、基板31の中央上部にVCSELなどの面発光レーザー光源33が配置されており、さらにその上部にスペーサー32を介して、光学部材10が配置されている。光学部材10の下面中央部には光学素子領域11が配置されており、下面の非光学素子領域12の外縁部にてスペーサー32と当接している。光学部材10の上面外周部の非光学素子領域12に配線13が形成されており、配線13の両端には後述の通電検出機構に接続する通電検出機構接続部位14が形成されている。面発光レーザー光源33で発光したレーザー光34は、光学素子領域11のマイクロレンズアレイや光学回折格子等の光学素子を通過して均一光や構造光に制御・整形されたレーザー光35としてレーザーモジュール30から照射される。
【0204】
光学部材10の光学素子領域11に及ぶクラックなどの損傷が発生した場合、光学素子領域11の光学素子が正常に機能できなくなり、レーザー光34が光学素子領域11で十分に拡散されずに、レーザーモジュール30から放射され、レーザーモジュール30が搭載されたレーザーデバイスに不具合や誤作動を起こす恐れがある。光学部材10の光学素子領域11にクラックなどの損傷が発生した場合、光学素子領域11を囲むように形成された配線13が断線し、通電できなくなる。従って、配線13に通電状態をモニターすることにより、光学部材10の損傷を検出することができる。
【0205】
本発明のレーザーモジュールは、光学部材、面発光レーザーに加えて、さらに、光学部材が有する導電性物質を含む配線の通電状態を検出する通電検出機構を有することが好ましい。通電検出機構は、配線の通電状態を検知できる限り、その形態は特に限定されないが、配線の両端に接続する電極を有する態様が好ましい。
【0206】
図4は、本発明のレーザーモジュールの好ましい実施形態の他の一例を示す概略断面図である。
図4のレーザーモジュール40は、
図2の光学部材20が通電検出機構41に装着され、さらに下部に基板31と面発光レーザー光源33が配置された構成を有する。通電検出機構41は、光学部材20を保持するための保持具43と保持具43に積層された電極42を有している。電極42は、通電する限り特に限定されないが、好ましくは銅で構成される。保持具43は上部外周部に凸部43aを有しており、その内側に光学部材20が収納される。電極42は、保持具43の内面及び上面に積層されており、電極42の上部端部は、光学部材20の通電検出機構接続部位14と当接して、下から光学部材20を保持している。電極42の下部端部は、他方の電極と共に通電検出器(図示せず)と接続されて、配線13の通電状態をモニターする。光学部材20にクラックなどの損傷が発生した場合、配線13が断線して通電できないことを検出することにより、光学部材20の損傷を検出することができる。
【0207】
本発明のレーザーモジュールは、3Dセンシングにおける奥行き情報を生成するためのレーザーモジュールとして好適に使用することができる。奥行き情報を生成する方法としては、例えば、TOF(Time Of Flight)方式、ストラクチャードライト方式、ステレオマッチング方式、SfM(Structure from Motion)方式等が挙げられる。TOF方式は、対象空間に近赤外線を照射し、その対象空間に存在する物体における反射光を受光し、近赤外線を照射してから反射光を受光するまでの時間を計測し、その時間に基づいて対象空間の物体までの距離を求める方式である。また、ストラクチャードライト方式は、対象空間に存在する物体に近赤外線の所定の投影パターンを投影し、その投影パターンの変形の様子に基づいて対象空間に存在する物体の形状(奥行き)を検出する方式である。さらに、ステレオマッチング方式は、被写体を互いに異なる位置から撮像した2つの撮像画像間の視差に基づいてその被写体までの距離を求める方式である。また、SfM方式は、互いに異なる角度から撮像された複数の撮像画像を用いて特徴点の位置合わせ等、画像間の関係を計算し、最適化を行うことで、奥行き検出を行う方式である。
【0208】
[レーザーデバイス]
本発明のレーザーデバイスは、本発明のレーザーモジュールを含むことを特徴とする。
本発明のレーザーデバイスは本発明のレーザーモジュールを含むため、レーザーモジュールに用いられる光学部材のクラック、剥離などの損傷を簡便に検出することができるので、光学部材の損傷に起因するレーザーモジュールの不具合、誤作動による被害を未然に防止することができる。従って、本発明のレーザーデバイスはそのような特徴に適する3Dセンシングの用途に好適に使用することができ、例えば、スマートフォンの顔認証においては、使用者にエラーメッセージを送ることにより注意喚起を行ったり、レーザー光自体が照射されないようにすることにより、使用者の目に直接レーザー光が照射されることを防止して、失明などのリスクを低減することができる。また、自動車の自動運転においても、レーザーモジュールが搭載された3Dセンシングシステムの不具合を検出して、運転者にエラーメッセージなどを送ることなどにより、誤作動による事故を未然に防ぐことができる。また、3Dマッピングの認識用カメラ、ゲーム機のジェスチャー認識コントローラー、工場のマシンビジョンなどの3Dセンシングを使用するあらゆる用途にも好適に使用することができる。
【実施例0209】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0210】
製造例1(配線が施されていない光学部材の製造)
直径100mmに一区画(縦2.5mm×横2.5mm)に回折光学素子の反転パターンが9×9個配列した円盤状のシリコーン樹脂製基板にエポキシ樹脂(CELVENUS106、(株)ダイセル製)を5g滴下し、同じ大きさの平坦なシリコーン樹脂製基板を厚みが約0.3mmになるように型を閉じ、100mW/cm2×30秒でUV照射を行った。上下のシリコーン樹脂製基板を取り除くと、エポキシ樹脂の硬化物として、円盤状の一区画(縦2.5mm×横2.5mm)に回折光学素子が9×9個配列した光学部材が得られた。
【0211】
製造例2(配線が施されていない光学部材の製造)
直径100mmに一区画(縦2.5mm×横2.5mm)に回折光学素子の反転パターンが9×9個配列した円盤状のシリコーン樹脂製基板にエポキシ樹脂(CELVENUS106、(株)ダイセル製)を5g滴下し、同じ大きさの平坦なガラス基板を厚みが約0.3mmになるように型を閉じ、100mW/cm2×30秒でUV照射を行った。下型のシリコーン樹脂製基板を取り除くと、ガラス基板上に一区画(縦2.5mm×横2.5mm)に回折光学素子が9×9個配列したエポキシ樹脂の硬化物層が積層した光学部材が得られた。
【0212】
製造例3(表面修飾銀ナノ粒子の調製)
錯体生成工程
硝酸銀(和光純薬工業(株)製)とシュウ酸二水和物(和光純薬工業(株)製)から、シュウ酸銀(分子量:303.78)を得た。
500mLフラスコに前記シュウ酸銀20.0g(65.8mmol)を仕込み、これに、n-ブタノール30.0gを添加し、シュウ酸銀のn-ブタノールスラリーを調製した。
このスラリーに、30℃で、n-ブチルアミン(分子量:73.14、(株)ダイセル製)57.8g(790.1mmol)、n-ヘキシルアミン(分子量:101.19、東京化成工業(株)製)40.0g(395.0mmol)、n-オクチルアミン(分子量:129.25、商品名「ファーミン08D」、花王(株)製)38.3g(296.3mmol)、n-ドデシルアミン(分子量:185.35、商品名「ファーミン20D」、花王(株)製)18.3g(98.8mmol)、及びN,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン(分子量:102.18、広栄化学工業(株)製)40.4g(395.0mmol)のアミン混合液を滴下した。
滴下後、30℃で2時間撹拌して、シュウ酸銀とアミンの錯形成反応を進行させ、白色物質(シュウ酸銀-アミン錯体)を得た。
【0213】
熱分解工程
シュウ酸銀-アミン錯体の形成後に、反応液温度を30℃から105℃程度(103~108℃)まで昇温し、その後、前記温度を保持した状態で1時間加熱して、シュウ酸銀-アミン錯体を熱分解させて、濃青色の表面修飾銀ナノ粒子がアミン混合液中に懸濁した懸濁液を得た。
【0214】
洗浄工程
冷却後、得られた懸濁液にメタノール200gを加えて撹拌し、その後、遠心分離により表面修飾銀ナノ粒子を沈降させ、上澄み液を除去し、再度、メタノール60gを加えて撹拌し、その後、遠心分離により表面修飾銀ナノ粒子を沈降させ、上澄み液を除去した。このようにして、湿潤状態の表面修飾銀ナノ粒子を得た。
【0215】
製造例4(インクジェット印刷用銀インクの調製)
製造例3で得られた表面修飾銀ナノ粒子に、分散媒を混合して、黒茶色のインクジェット印刷用銀インクを得た。
【0216】
実施例1(インクジェット印刷)
製造例4で得られたインクジェット印刷用銀インクをインクジェットプリンターに充填し、製造例1で得られた円盤状の光学部材の片面に、一区画(縦2.5mm×横2.5mm)が9×9個配列した各回折光学素子の周囲を囲むように配線を印刷した。配線が印刷された光学部材を、ホットプレートを使用して焼結し、およそ1μmの厚み、およそ50μmの幅の配線がアレイ状に配列した光学部材を得た。
得られた配線がアレイ状に配列した光学部材を、厚さ0.1μmのダイシングブレード(DISCO社製)を装着したダイシング装置(DAD3350、DICSO社製)を用いて、各配線を有する光学部材に個片化した。
【0217】
実施例2(インクジェット印刷)
製造例4で得られたインクジェット印刷用銀インクをインクジェットプリンターに充填し、製造例2で得られた円盤状の光学部材のガラス基板面に、一区画(縦2.5mm×横2.5mm)が9×9個配列した各回折光学素子の周囲を囲むように配線を印刷した。配線が印刷された光学部材を、ホットプレートを使用して焼結し、およそ1μmの厚み、およそ50μmの幅の配線がアレイ状に配列した光学部材を得た。
得られた配線がアレイ状に配列した光学部材を、厚さ0.1μmのダイシングブレード(DISCO社製)を装着したダイシング装置(DAD3350、DICSO社製)を用いて、各配線を有する光学部材に個片化した。
【0218】
実施例3(スクリーン印刷)
株式会社ノリタケリミテド製の銀ぺーストインク(製品名:NP-2910D1)を、25℃において、スクリーン印刷装置(ニューロング精密工業(株)製、LS-150TV)を用いて、製造例2で得られた円盤状の光学部材のガラス面に、一区画(縦2.5mm×横2.5mm)が9×9個配列した各回折光学素子の周囲を囲むように配線を印刷した。配線が印刷された光学部材を、ホットプレートを使用して焼結し、およそ1μmの厚み、およそ50μmの幅の配線がアレイ状に配列した光学部材を得た。
得られた配線がアレイ状に配列した光学部材を、厚さ0.1μmのダイシングブレード(DISCO社製)を装着したダイシング装置(DAD3350、DICSO社製)を用いて、各配線を有する光学部材に個片化した。
【0219】
実施例4(スクリーン印刷)
株式会社ノリタケリミテド製の銀ぺーストインク(製品名:NP-2910D1)を、25℃において、スクリーン印刷装置(ニューロング精密工業(株)製、LS-150TV)を用いて、製造例1で得られた円盤状の光学部材の片面に、一区画(縦2.5mm×横2.5mm)が9×9個配列した各回折光学素子の周囲を囲むように配線を印刷した。配線が印刷された光学部材を、ホットプレートを使用して焼結し、およそ1μmの厚み、およそ50μmの幅の配線がアレイ状に配列した光学部材を得た。
得られた配線がアレイ状に配列した光学部材を、厚さ0.1μmのダイシングブレード(DISCO社製)を装着したダイシング装置(DAD3350、DICSO社製)を用いて、各配線を有する光学部材に個片化した。
【0220】
評価試験(リフロー耐熱性試験)
実施例1で得られた個片化した光学部材の配線の両端にテスターを接続して通電していることを確認した。抵抗値は4.4Ωであった。その後、光学部材を簡易リフロー炉(シンアペック社製)に入れ、JEDEC規格記載のリフロー温度プロファイル(最高温度260℃)に基づく耐熱試験を連続して3回付与した後リフロー炉による加熱処理後の光学部材の配線について、通電していることを確認した。抵抗値は2.0Ωであった。その結果、実施例1の光学部材は、リフロー炉による加熱処理後においても、クラックなどの損傷が発生していないことが確認された。