(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164920
(43)【公開日】2023-11-14
(54)【発明の名称】ミオスタチン阻害剤の使用および併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20231107BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231107BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20231107BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231107BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20231107BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231107BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20231107BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231107BHJP
C07K 16/24 20060101ALN20231107BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20231107BHJP
C07K 14/495 20060101ALN20231107BHJP
C07K 14/715 20060101ALN20231107BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61P21/00
A61P21/04
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K45/06
A61K48/00
A61K31/7088
A61K39/395 D
A61K39/395 N
C07K16/24
C12N15/113 Z
C07K14/495
C07K14/715
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023142275
(22)【出願日】2023-09-01
(62)【分割の表示】P 2022064360の分割
【原出願日】2017-06-13
(31)【優先権主張番号】62/512,254
(32)【優先日】2017-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/349,596
(32)【優先日】2016-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/486,934
(32)【優先日】2017-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/511,702
(32)【優先日】2017-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/470,157
(32)【優先日】2017-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ジップロック
(71)【出願人】
【識別番号】515120006
【氏名又は名称】スカラー ロック インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SCHOLAR ROCK,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】ロング, キンバリー
(72)【発明者】
【氏名】ドノヴァン, アドリアナ
(72)【発明者】
【氏名】チョン, ユン
(72)【発明者】
【氏名】ストラウブ, ミッシェル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ミオスタチンシグナル伝達を阻害する作用剤を使用することにより、SMAなどの筋肉状態を治療する方法を提供する。
【解決手段】本開示は、ミオスタチン阻害剤およびニューロン修正因子を含む併用療法を含む。一態様において、本発明は、対象の脊髄性筋萎縮症(SMA)を治療するための方法であって、前記対象に、SMAの治療に有効な量のミオスタチン阻害剤を投与するステップであって、前記対象が、SMN修正因子療法を受けているか、またはSMN修正因子療法を受けることが予想される、ステップ、それにより前記対象の脊髄性筋萎縮症を治療するステップを含む、方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の脊髄性筋萎縮症(SMA)を治療するための方法であって、
前記対象に、SMAの治療に有効な量のミオスタチン阻害剤を投与するステップであって、前記対象が、SMN修正因子療法を受けているか、またはSMN修正因子療法を受けることが予想される、ステップ、
それにより前記対象の脊髄性筋萎縮症を治療するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記対象が、前記ミオスタチン阻害剤の投与の6カ月以内に前記SMN修正因子療法を受けることが予想される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ミオスタチン阻害剤が、
プロ型のミオスタチンと結合することによってミオスタチンの活性化を阻害する抗体またはその抗原結合性部分、
成熟ミオスタチンと結合することによってミオスタチン活性を中和する抗体またはその抗原結合性部分、
ミオスタチン受容体と結合する抗体またはその抗原結合性部分、
成熟ミオスタチンと結合するプロドメインまたはその断片、
成熟ミオスタチンと結合する可溶性ミオスタチン受容体断片、および
ミオスタチンの低分子アンタゴニスト
からなる群から選択される、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体またはその抗原結合性部分が、前記プロ型のミオスタチンのプロドメインと結合する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体またはその抗原結合性部分が、プロ型/潜在型ミオスタチンと結合する、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記抗体またはその抗原結合性部分が、前記プロ型のミオスタチンに関連していない成熟ミオスタチンには結合しない、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記対象が、SMN修正因子の応答個体である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記対象が、SMN修正因子の非応答個体または低応答個体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記SMN修正因子が、
a)スプライス修飾因子、
b)SMN遺伝子置換もしくは遺伝子療法剤、
c)SMN転写エンハンサー、
d)SMNタンパク質翻訳エンハンサー、または
e)SMNタンパク質安定化剤
を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記SMN修正因子が、アンチセンスRNAまたは低分子である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記対象が、歩行不可能なSMAまたは歩行可能なSMAを有する、前記請求項のいず
れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記対象が、I型SMA、II型SMA、またはIII型SMAと診断されている、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
対象の歩行可能なSMAを治療するための方法であって、歩行可能なSMAを有する対象に、有効量のミオスタチン阻害剤を投与するステップを含み、前記対象がSMN修正因子療法を受けていない、方法。
【請求項14】
対象のSMAを治療するための方法であって、Smn突然変異のキャリアであると遺伝学的に同定されている対象に、筋肉萎縮の予防に有効な量のミオスタチン阻害剤を投与するステップを含み、前記対象がSMN修正因子療法を受けていない、方法。
【請求項15】
前記対象が、前記ミオスタチン阻害剤の投与前に、≦65のベースラインの拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを有する、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
SMAの治療に有効な量が、
a)筋萎縮を遅延または緩和すること、
b)α-運動ニューロンの喪失を遅延させること、
c)未熟筋肉マーカーの発現を予防または遅延させること、
d)筋組織の脂肪置換を特徴とする筋肉内脂肪沈着を予防、緩和、または遅延させること、
e)拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを、未治療対照群と比較して≧1ポイント、または治療前に測定されたベースラインから≧1ポイント増加させること、
f)12カ月、24カ月、または36カ月間にわたって拡大ハマースミス運動機能評価スケールの漸進的減少を遅延させること、
g)CHOP INTENDスコアを、未治療対照と比較して≧1ポイント増加させること、および/または
h)MFM-32スコアを、未治療対照と比較して少なくとも1ポイント増加させること
に有効な量である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体またはその抗原結合性断片が、静脈内注射または注入により投与される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体またはその抗原結合性断片が、皮下注射により投与される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
筋肥大を促進するための方法であって、
筋肉成長から利益を得る可能性があり、ミオスタチン阻害剤の低応答個体である対象に、前記ミオスタチン阻害剤の効果がブーストされるように有効量の同化刺激因子を投与するステップ
を含む方法。
【請求項20】
前記同化刺激因子および前記ミオスタチン阻害剤が、併用療法として投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記対象が、筋肉減少症、悪液質、慢性SCI、慢性または頻発感染症、骨粗鬆症、および高頻度の転倒/骨折からなる群から選択される状態を罹患している、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記対象が、65歳またはそれよりも年長である、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記対象が、ニューロン療法でさらに治療される、請求項19~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記対象が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)またはSMAを有する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ミオスタチン阻害剤が、ミオスタチンの低分子アンタゴニストまたはミオスタチンの生物学的アンタゴニストである、請求項19~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記ミオスタチンの生物学的アンタゴニストが、抗体またはその抗原結合性部分である、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、「脊髄性筋萎縮症を治療するための方法および組成物」とういタイトルで2016年6月13日に出願された米国仮出願62/349,596号、「ミオスタチン阻害剤の使用」というタイトルで2017年3月10日に出願された62/470,157号、「ミオスタチン阻害剤の使用」というタイトルで2017年4月18日に出願された62/486,934号、「ミオスタチン阻害剤の使用」というタイトルで2017年5月26日に出願された62/511,702号、および「ミオスタチン阻害剤の使用」というタイトルで2017年5月30日に出願された62/512,254号に対する優先権を主張し、それらのそれぞれの内容は、その全体が参照によって参照によって本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
ミオスタチンは、増殖分化因子8としても公知であり、GDF-8またはGDF8と略されるが、筋肉恒常性の重要な制御因子である。ミオスタチンの喪失に加えて、ミオスタチン活性の薬理学的阻害を引き起こす突然変異は、ヒトを含む多数の種で筋肉成長を増加させることが示されている。それが確認されたことにより、過去20年にわたって、非活動性萎縮、筋肉減少症、および悪液質などの筋肉状態を治療するための治療剤として、多数のグループによるミオスタチン経路のアンタゴニストの開発が促されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、低分子および生物製剤を含む少なくとも6つのミオスタチン阻害剤薬物候補が臨床段階に入っているが、望ましくない副作用(例えば、毒性のリスク)、有意義な効力の欠如、またはそれらの両方のために失敗に終わっている。筋肉成長の制御におけるミオスタチンの生物学的役割には議論の余地がないにもかかわらず、多くの場合、前臨床結果が十分であっても、安全で有効な薬物への転換は成功していない。筋ジストロフィー、悪液質、筋肉減少症、孤発性封入体筋炎(SIBM)、および非活動性を含む多数の筋肉状態におけるミオスタチン阻害剤の臨床開発の転換がうまくいかないことは、当技術分野において難題を提示している。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、ミオスタチン阻害のin vivo効果が、生物学的な状況に依存するという認識を包含する。本発明によると、ミオスタチン阻害療法に対して標的筋肉の応答性を付与する要因としては、i)標的筋肉の同化状態、ii)運動ニューロンによる機能的神経支配の度合い、および任意選択でiii)標的筋肉に含まれる筋線維の型が挙げられる。したがって、本明細書にさらに詳細に記載されているように、こうした要因は、ミオスタチン阻害の利益を最大化または向上させるために考慮されるべきである。
【0005】
本開示の発明者らは、ミオスタチン阻害が筋肉に至適効果を及ぼすことができる生物学的な状況(例えば、臨床状態)を決定するための有用な指針を提供することができる一式の基準を特定した:
i)肥大を促進するために治療しようとする筋肉が、十分な同化能力を保持または回復していること、
ii)肥大を促進するためにおよび/または萎縮を予防するために治療しようとする筋肉が、運動ニューロンの少なくとも部分的な機能的神経支配を保持するかまたは取り戻していること、およびさらに一部の場合では、
iii)治療しようとする筋肉が、速筋(例えば、II型)線維に依存する運動機能に
必要であること。
【0006】
したがって、本明細書で特定された好適な臨床属性のプロファイルは、筋肉におけるミオスタチン阻害の応答性の可能性を決定することができ、好適な臨床徴候を選択するための、およびそのような療法から利益を得る可能性が高い患者集団を特定するための指針を提供する。属性の1つまたは複数が患者に欠如しているかまたは不十分である一部の例では、効力を増強または最適化するために、さらなる作用剤(例えば、治療剤)を併用投与して、欠損を補償してもよい。したがって、ミオスタチンの阻害剤と併用されるそのような作用剤が組み込まれている併用療法が、本発明により包含される。
【0007】
したがって、本発明は、対象の筋肉状態を治療するための方法の種々の実施形態を提供する。そのような方法は、筋肉/運動機能を増強するために、治療有効量のミオスタチン阻害剤を対象に投与するステップを含み、ただし、i)標的筋肉は、完全な同化能力を保持または回復しており、意図されている臨床転帰が、筋肥大を促進することを含み、ii)標的筋肉は、機能的運動ニューロンの少なくとも部分的な神経支配を保持または取り戻しており、意図されている臨床転帰が、筋肥大を促進することおよび/または筋萎縮を予防することを含み、および/または、iii)筋肉状態で影響を受ける標的筋肉は、主にII型線維である速筋線維を含むかまたはそれを豊富に含む。
【0008】
一部の実施形態では、対象は、標的筋肉の同化能力(成長する能力)を保持している。そのような対象は、小児科患者であってもよい。他の実施形態では、対象は、標的筋肉の同化能力が弱体化または損なわれたが、十分な同化能力を回復している。限定的な同化能力は、年齢、医学的状態(傷害、疾患など)、薬物治療の副作用、全体的な健康状態、またはそれらの任意の組合せによるものであってもよい。一部の実施形態では、対象は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋肉減少症、悪液質、SIBM、免疫不全、筋ジストロフィー、またはそれらの任意の組合せを有する。一部の実施形態では、対象は、同化刺激因子、例えば、細胞性同化経路をブーストする作用剤で治療されている。一部の実施形態では、対象は、ミオスタチン阻害剤および同化刺激因子を含む併用療法を受ける。
【0009】
一部の実施形態では、対象は、運動ニューロン、例えば機能的神経筋接合部による標的筋肉の少なくとも部分的な機能的神経支配を保持している。一部の実施形態では、対象は、運動ニューロンの部分的除神経に関連する状態を有する。一部の実施形態では、対象は、神経伝達障害に関連する状態を有する。一部の実施形態では、神経伝達障害は、ニューロンの過興奮性、シナプス小胞の輸送もしくは放出障害、および/またはミトコンドリアが神経筋シグナル伝達を支援する機能もしくは利用能の障害を含む。一部の実施形態では、対象は、標的筋肉の少なくとも部分的な機能的運動ニューロン神経支配および/または運動ニューロンと標的筋肉との間の少なくとも部分的に正常な神経伝達が取り戻されまたは強化されている。一部の実施形態では、対象は、運動ニューロンの機能を促進する作用剤(つまり、ニューロン療法剤)で治療されている。一部の実施形態では、そのような作用剤は、神経伝達および/または膜興奮性を少なくとも部分的に修正する。一部の実施形態では、作用剤は、遺伝子欠損の修正因子(corrector)である。一部の実施形態では、対象は、運動ニューロンの機能を促進して、少なくとも部分的な神経支配または機能を持続または回復させる(取り戻す)ことができることを目標とした、遺伝子欠損を修正する作用剤で治療される。
【0010】
一部の実施形態では、対象は、脊髄性筋萎縮症(SMA)を有する。一部の実施形態では、遺伝子欠損は、生存運動ニューロン1(SMN1)の突然変異である。一部の実施形態では、作用剤(例えば、修正因子作用剤)は、スプライス修飾因子または遺伝子療法剤である。一部の実施形態では、スプライス修飾因子は、低分子剤であり、他の実施形態では、スプライス修飾因子は、RNAに基づく作用剤などの核酸作用剤である。一部の実施
形態では、修正因子療法は、運動ニューロンの機能および/または生存を促進する。一部の実施形態では、修正因子療法は、SMAの進行を遅延させる。
【0011】
一部の実施形態では、対象は、修正因子作用剤で治療されており、および/または修正因子作用剤で治療される可能性が高い。例えば、対象は、ミオスタチン阻害剤療法の約6カ月以内に、例えば、ミオスタチン阻害剤の投与前または投与後の約6カ月以内に、修正因子作用剤で治療される。一部の実施形態では、そのような対象は、歩行不可能なSMAを有するかまたは診断されている。一部の実施形態では、そのような対象は、I型SMA、II型SMA、または歩行不可能なIII型SMAを有する。
【0012】
本発明によると、筋肉状態を治療するためのミオスタチン阻害剤の有効量は、臨床的有効性および安全性の両方を達成する量である。一部の実施形態では、有効量は、力の発生および運動機能などの筋肉機能を増強する量である。一部の実施形態では、有効量は、速筋線維(例えば、II型線維)を必要とする運動機能を増強する量である。一部の実施形態では、運動機能は、筋肉の伸張性収縮を含む。一部の実施形態では、ミオスタチン療法の有効量は、疾患(例えば、筋萎縮)の進行を遅延または緩和すること、疾患ステータス(例えば、好適な運動機能試験、血漿タンパク質マーカー、代謝マーカーなどにより測定される/モニターされる)を維持すること、α-運動ニューロンの喪失を遅延させること、未熟筋肉マーカーの発現を予防または遅延させること、筋肉内脂肪沈着(例えば、筋組織の脂肪置換)を予防、緩和、または遅延させること、代謝調節異常を予防すること、骨喪失または骨折の頻度を予防または低減すること、拡大ハマースミス運動機能評価スケール(Expanded Hammersmith Functional Motor Scale)スコアを、ミオスタチン阻害剤を受容しない対照と比較して≧1ポイント増加させること、悪化速度を緩徐すること、12カ月、24カ月、または36カ月間にわたって拡大ハマースミス運動機能評価スケールの退行(例えば、漸進的減少)を遅延させること、および/またはCHOP INTENDスコアを、ミオスタチン阻害剤を受容しない対照と比較して≧1ポイント増加させること、および/またはMFM-32スコアを、ミオスタチン阻害剤を受容しない対照と比較して≧1ポイント増加させることに十分な量である。
【0013】
一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤で治療される筋肉状態は、これらに限定されないが、以下のものを含む神経筋疾患に関連する:筋萎縮性側索硬化症(ALS)、先天性筋無力症候群、先天性ミオパシー、けいれん性線維束形成症候群、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、糖原病II型、遺伝性痙性対麻痺、封入体筋炎(IBM)、アイザック症候群、カーンズ-セイヤ症候群、ランバート-イートン筋無力症症候群、ミトコンドリアミオパシー、筋ジストロフィー、重症筋無力症、筋緊張性ジストロフィー、末梢神経障害、球脊髄性筋萎縮症、脊髄性筋萎縮症(SMA)、呼吸窮迫1型を伴う脊髄性筋萎縮症、全身硬直症候群、トロイアー症候群、およびギラン-バレー症候群。
【0014】
一部の実施形態では、本発明によるミオスタチン阻害剤で治療される筋肉状態は、脊髄性筋萎縮症(SMA)である。
【0015】
神経筋疾患がSMAである実施形態では、遺伝子欠損は、SMN1遺伝子の突然変異を含んでいてもよい。突然変異により影響を受ける運動ニューロンの機能を促進するために、対象を、遺伝子欠損を修正することを目標とした修正因子作用剤で治療してもよい。一部の実施形態では、作用剤は、核酸に基づく(例えば、RNAに基づく)作用剤であってもよく、または低分子剤であってもよいスプライス修飾因子である。一部の実施形態では、対象は、ミオスタチン阻害剤を受容した約6カ月以内に、例えば、ミオスタチン阻害剤の投与前の約6カ月以内にまたは投与後の約6カ月以内に、修正因子作用剤で治療される。
【0016】
本発明は、ミオスタチンシグナル伝達の好適な阻害剤を、患者が歩行能力を保持している、より低重症型のSMAを治療するために、単独療法として(SMN修正因子を用いずに)使用してもよいことをさらに企図する。そのような療法に好適な患者としては、歩行可能なIII型SMAおよびIV型SMAを有する患者が挙げられる。一部の実施形態では、そのような治療は、病理が歩行不可能な型に移行する前に、患者が対照よりも長い期間にわたって歩行能力を保持するように、SMAの進行を遅延させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、ミオスタチン活性化の概略を提供する。二量体の各前駆体ポリペプチドは、プロドメインおよび増殖因子ドメインを含む。プロタンパク質転換酵素による最初のタンパク質分解性ステップでは、プロドメインと増殖因子ドメインとの間でプロミオスタチンが切断され、潜在型のミオスタチンが産生される。この形態では、プロドメインは、依然として増殖因子ドメインと物理的に関連している。その後、潜在型ミオスタチンはトロイドプロテアーゼにより切断され、その後活性成熟ミオスタチンが、潜在型複合体から放出される。
【0018】
【
図2】
図2Aおよび
図2Bは、マウスにおけるデキサメタゾン誘導性萎縮症の概要を提供する。
図2Aは、健常マウスおよび萎縮症誘導マウスにおける単一用量SRK-015治療の実験モデルを示す。
図2Bは、表示されている時点で測定した腓腹筋重量の変化を提供する。
【0019】
【
図3】
図3A~3Eは、健常動物へのmuSRK-015Pの投与が、筋肉機能を増強することを示す5つのグラフを提供する。(
図3A)muSRK-015P治療マウスおよび対照マウスにおける、刺激周波数の関数としての、腓腹筋により生じた最大の力(四肢の長さで正規化した)、(
図3B)muSRK-015P治療マウスおよび対照マウスにおける、刺激周波数の関数としての、筋肉の長さ当たりのEDLの最大の力、(
図3C&
図3D)それぞれ、muSRK-015P治療マウスおよび対照マウスにおけるGAおよびEDL筋肉重量、ならびに(
図3E)muSRK-015P治療マウスおよび対照マウスにおけるIIB型平均線維面積。
【0020】
【
図4】
図4は、SMN修正因子で治療したΔ7 SMAマウスおよび野生型マウスにおける、足底屈筋群(腓腹筋、ヒラメ筋、および足底筋)の最大の力に対するmuSRK-015Pの効果を示すグラフを提供する。
【0021】
【
図5】
図5A~5Cは、SMN修正因子およびmuSRK-015Pまたは媒体で治療したΔ7 SMAマウスにおける、(
図5A)筋肉重量、(
図5B)平均筋線維断面積、および(
図5C)筋線維断面積度数分布に対するmuSRK-015Pの効果を示す3つのグラフを提供する。
【0022】
【
図6】
図6A~6Bは、急性挫傷脊髄傷害モデルにおける、(
図6A)GA筋肉質量および(
図6B)後肢握力に対するmuSRK-015Pの効果を示す2つのグラフを提供する。
【0023】
【
図7】
図7A~7Dは、SMNΔ7マウスに由来する血清および筋肉の標的結合分析を示す。
図7Aには、muSRK-015Pによる4週間の治療後の循環中の潜在型ミオスタチンを測定した免疫ブロットが示されている。
図7Bの免疫ブロットは、筋肉での標的結合を示す。
図7Cは、UV画像化時に正規化を行うために、総レーンタンパク質含有量の視覚化および定量化を可能にするTGX無染色ゲルを示す。
図7Dには、WTマウスに存在する潜在型ミオスタチンと比較した、muSRK-015Pで治療したマウスの筋肉における潜在型ミオスタチンシグナルの定量化が示されている。
【0024】
【
図8】
図8A~8Cは、scidマウスにおけるSRK-015のPKおよびPDデータを提供する。
図8Aには、SRK-015のPK分析が示されている。用量投与後の表示されている時点でqNMRにより除脂肪質量を測定した。
図8Bには、IgG対照と比べた除脂肪質量の増加が示されている。SRK-015の血清および筋肉での標的結合を、
図8Cに示されているようなウェスタンブロットを使用して、血清および筋肉中の潜在型ミオスタチンのレベルを分析することにより評価した。
【0025】
【
図9】
図9A~9Bは、カニクイザルにおけるSRK-015 PKデータを提供する。SRK-015濃度を、ELISAにより評価した。
図9Aは、最初の抗体用量後の週中の血清SRK-015濃度を示す。
図9Bは、8回の週1回抗体用量の最後の1回以降の研究の最終5週間中の血清SRK-015濃度を示す。
【0026】
【
図10-1】
図10A~10Dは、SRK-015がカニクイザルでは複数用量で薬理学的に効果的であることを示すデータを提供する。筋肉重量は、カニクイザルでのSRK-015の最後の用量の5週間後に決定した。
図10Aは、SRK-015治療後の腓腹筋質量の増加を示す。
図10Bは、SRK-015治療後の上腕二頭筋質量の増加を示す。サルの血清における標的結合の時間的経過を、半定量的ウェスタンブロット分析により分析した。
図10Cには、3mg/kgまたは30mg/kgのSRK-015を週1回投与したサルの標的結合データが示されている。
図10Dに示されているように、SRK-015は、試験した両用量で、潜在型ミオスタチンと結合した。
【
図10-2】
図10A~10Dは、SRK-015がカニクイザルでは複数用量で薬理学的に効果的であることを示すデータを提供する。筋肉重量は、カニクイザルでのSRK-015の最後の用量の5週間後に決定した。
図10Aは、SRK-015治療後の腓腹筋質量の増加を示す。
図10Bは、SRK-015治療後の上腕二頭筋質量の増加を示す。サルの血清における標的結合の時間的経過を、半定量的ウェスタンブロット分析により分析した。
図10Cには、3mg/kgまたは30mg/kgのSRK-015を週1回投与したサルの標的結合データが示されている。
図10Dに示されているように、SRK-015は、試験した両用量で、潜在型ミオスタチンと結合した。
【0027】
【
図11-1】
図11A~11Bは、出生時から十分な治療用量のSMN-C1で治療したSMNΔ7マウスの筋肉性能を示すデータを提供する。muSRK-015Pによる4週間の治療後の、PBS対照動物に対する体重増加(
図11A)および腓腹筋質量の増加(
図11A)を測定した。足底屈筋および咀嚼筋の性能を、305C筋肉レバーシステムを使用して測定した(
図11B)。
【
図11-2】
図11A~11Bは、出生時から十分な治療用量のSMN-C1で治療したSMNΔ7マウスの筋肉性能を示すデータを提供する。muSRK-015Pによる4週間の治療後の、PBS対照動物に対する体重増加(
図11A)および腓腹筋質量の増加(
図11A)を測定した。足底屈筋および咀嚼筋の性能を、305C筋肉レバーシステムを使用して測定した(
図11B)。
【0028】
【
図12】
図12は、単独でまたはさらなる作用剤(例えば、同化刺激因子および/またはニューロンエンハンサー)との組合せのいずれかで、ミオスタチン阻害から利益を得る可能性が高いある特定の患者集団の選択を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、ミオスタチン阻害の有効性が、少なくとも部分的に標的筋肉のステータスに依存するという認識、および筋肉機能に対して利益を付与するためにはある特定の状態が満たされなければならないという認識に、少なくとも部分的に基づく。本発明によると、
ミオスタチン阻害は、以下の属性を有する臨床徴候を治療するために特に好適である:i)治療しようとする筋肉が、完全な/ロバストな同化能力を保持または回復していること(例えば、より若年の対象)、ii)治療しようとする筋肉(つまり、標的筋肉)が、運動ニューロンによる少なくとも部分的な機能的神経支配(例えば、標的筋肉と神経支配運動ニューロンとの間の十分な神経筋シグナル伝達)を保持または回復していること、および/またはiii)治療しようとする筋肉が、II型線維に依存する運動機能に必要であること、例えば、速筋(解糖系)筋線維の機能をブーストすることにより、満たされていない医学的必要性に対処し、運動転帰の評価が速筋線維活性により駆動されること。こうした属性に基づき、療法および併用療法の種々の実施形態が、本明細書で開示されている。
【0030】
本出願の状況では、用語「併用療法」は、互いと併用して使用される2つまたはそれよりも多くの生物学的に活性な作用剤(例えば、薬物)の併用投与を指す。併用療法は、単一製剤を含んでいてもよく、または複数の製剤を含んでいてもよい。併用投与は、同時投与または連続投与として実施してもよい。併用投与は、同じ投与経路で実施してもよく、または異なる投与経路で実施してもよい。補完的、相加的、または相乗効果的な臨床効果を達成するための2つ(またはそれよりも多くの)治療剤の効果が対象中で重複している限り、併用療法であると解釈される。
【0031】
上記の基準(i)は、標的筋肉が、細胞成分の分解を促進するのではなく、細胞成分を合成する能力(例えば、構成的代謝作用(つまり同化作用))を維持または取り戻しているという点で十分に活性であることを示す。したがって、同化能力を有する筋肉は、衰弱(「萎縮」)ではなく、成長(「肥大」)する能力を有する。ミオスタチンは、筋肉質量の負の制御因子であることが確認されてから久しく、実際、いくつかのグループが、様々な筋肉状態でミオスタチン阻害剤を試験しているが、臨床的に有意義な結果をもたらすことができておらず、現在まで、こうした研究は、ミオスタチン阻害が筋肉成長の促進に対してその効果を及ぼすことができるこの「同化」基礎環境の重要性を考慮に入れることを無視している。実際、現在までミオスタチン阻害剤が試験されている臨床徴候のほとんどは、その筋肉が異化状態の傾向にある患者集団に伴うものである。本出願の発明者らは、筋肉合成および筋肉分解を制御する因子は動的平衡にあるという概念を共に考慮し、ミオスタチンシグナル伝達の阻害は、標的筋肉がタンパク質合成を駆動することになる十分な同化活性も保持する限り、筋肉増強効果をもたらすことができることを認識した。
【0032】
上記の基準(i)を満たすには、2つのシナリオを考えることができる。第1のシナリオでは、この基準は、成長期にあるかまたは代謝がロバストであり、細胞性同化経路が既にロバストおよび活性である、より若年の個体(例えば、小児科患者および若年成人)では自然に満たされる場合がある。したがって、こうした患者集団は、ミオスタチン阻害が臨床効果をもたらす好ましい基礎環境を有しており、筋肉成長を促進することができるミオスタチン阻害療法に応答する可能性がより高い。第2のシナリオでは、ミオスタチン阻害剤で治療される患者集団が、典型的には、より年長の個体またはそうでなければ同化機構もしくはその機能の少なくとも一部が失われているとみなされるもの(例えば、筋肉減少症、悪液質、免疫不全、感染症などを罹患しているもの)である場合、ミオスタチン阻害は、十分な同化活性が欠如しているため、望ましい利益をもたらさない場合がある。しかしながら、そのような欠乏は、患者の同化能力をブーストすることを目標とした第2の作用剤の併用投与により克服または補償することができ、それにより、患者を、ミオスタチン阻害剤の同時投与に対して筋肥大の促進においてより応答性にすることができる。したがって、本発明は、異化状態にある対象の筋肉状態を治療するための併用療法であって、ミオスタチン阻害剤(つまり、ミオスタチン活性化、活性、および/またはシグナル伝達を阻害する作用剤)および同化刺激因子(つまり、同化機能をブーストするか、またはタンパク質合成を促進する作用剤)を含む併用療法を含む。こうした作用剤は、筋肉成長
を増強し(例えば、筋肉分解よりも筋肉合成を促進する)、対応する運動機能を改善するのに有効な量で対象に投与される。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「異化状態」は、標的組織/細胞での合成および分解(例えば、タンパク質合成およびタンパク質分解)のバランスを、標的に正味の異化効果が存在するように後者に向けて傾斜させることを意味する。同様に、本明細書で使用される場合、用語「同化状態」は、標的組織/細胞での合成および分解(例えば、タンパク質合成およびタンパク質分解)のバランスを、標的に正味の同化効果が存在するように前者に向けて傾斜させることを意味する。したがって、異化状態にある患者集団の場合、ミオスタチンの阻害剤および同化刺激剤の両方が統合されている療法は、単独療法と比較して、ミオスタチン阻害の臨床利益の向上を達成することができる。典型的には、標的組織(例えば、筋肉)の状態は、種々のホルモン(例えば、IGF-1、テストステロン)の循環レベルを決定することにより、および/または筋タンパク質合成のレベルを決定することにより測定される。ホルモンレベルの測定は、血清、唾液、または尿試料を使用して、競合イムノアッセイを含む当業者に公知の方法により実施することができる。筋タンパク質合成の測定は、筋生検を含む当業者に公知の方法により実施することができる。
【0034】
基準(ii)の重要性の認識は、筋肉および標的筋肉を神経支配する運動ニューロン(集合的に「運動単位」とも呼ばれる)の機能が、少なくとも部分的に相互依存性であり、2つの成分(つまり、ニューロン成分および筋肉成分)間にある度合いの掛け合い応答(つまり、双方向シグナル伝達)があることが、神経筋機能の維持に必要であるという知見に基づく。ミオスタチン阻害が標的筋肉の機能に対して有意義な効果をもたらすには、筋肉は、神経支配運動ニューロンから十分な神経入力を受け取らなければならないこと(つまり、機能的神経筋シグナル伝達の存在)が企図される。これは、所望の主要転帰が、筋肉成長を促進することおよび筋肉喪失を予防することである両臨床状況に関連する可能性が高い。下記の実施例で示されているように、多重筋傷害モデルでは、ミオスタチン阻害は、傷害誘導性筋萎縮ならびに代謝調節異常を予防および軽減することができる。こうした動物モデルでは、傷害筋肉は、神経支配運動神経が完全に切断されているのではなく、少なくとも部分的に神経入力を保持した。文献におけるこれまでの報告では、ミオスタチン阻害は、完全脊髄傷害モデルでは筋肉機能を増強しないことが示されている。したがって、特定の理論に束縛されることは望まないが、神経支配運動ニューロンからの十分なニューロン入力(例えば、神経伝達)は、少なくとも部分的に、標的筋肉におけるミオスタチン阻害の有益効果に寄与することが企図される。典型的には、神経伝達は、無傷動物では、神経(例えば、筋肉を神経支配する神経)を直接刺激し、神経支配された筋肉群の収縮を測定することにより測定される。そのような測定では、筋収縮の欠如は、神経伝達の非存在を示す。同様に、反復刺激後に標的筋肉で測定される応答の漸進的低下は、膜興奮性、シナプス小胞輸送、ミトコンドリア機能/利用能、および/またはグルコース調節の障害を反映する場合がある「疲労」を示す場合がある。SMAでは、十分に神経支配された神経筋接合部の進行性喪失があり、それは、免疫蛍光法により評価することができる。また、当業者に公知の他の電気生理学的な方法を使用して、神経伝達(例えば、神経筋伝達)を測定することができる。
【0035】
十分なニューロンシグナル伝達が必要であることは、神経筋肉掛け合い応答が、傷害またはある特定の疾患状況のいずれかで完全に喪失または破壊されている(つまり機能的神経筋シグナル伝達が存在しない)場合、ミオスタチン阻害剤は、至適利益をもたらさない場合があることを意味する。この概念により、本発明者らは、運動ニューロンを損なう遺伝子欠損を含む神経筋疾患では、標的筋肉それ自体は、疾患の初期段階中は依然として無傷である場合があるが、その機能は、運動ニューロンから筋肉への十分なニューロン入力ならびに筋肉から運動ニューロンへのフィードバックの欠如(つまり、機能的神経筋シグナル伝達の欠如)により、徐々に低下する場合があることを認識するに至った。したがっ
て、本明細書では、その根底にあるニューロン欠損を標的とし、修正または取り戻す、神経-筋肉シグナル伝達を促進する介入(例えば、薬理学的介入)であれば、ミオスタチン阻害の利益を増強するはずであることが起想される。
【0036】
したがって、本発明は、神経筋疾患を治療するための併用療法を含む。そのような併用療法は、i)ミオスタチンシグナル伝達の阻害剤(例えば、ミオスタチン活性化、活性、および/またはシグナル伝達を阻害する作用剤)、ならびにii)運動ニューロンを治療して、ニューロン欠損(疾患を引き起こす遺伝子突然変異など)を修正することを目標とした作用剤を含むニューロン療法剤(例えば、ニューロン修正因子、ニューロンエンハンサーなど)を含む。ミオスタチン阻害剤および運動ニューロンを治療するための作用剤は、併用療法として、運動機能を増強するのに有効な量で互いに併用して投与することができる。
【0037】
神経筋疾患を治療するためのミオスタチン阻害療法を受けるのに好適な患者集団としては、ニューロン療法剤を受けているもの(例えば、ニューロン修正因子/エンハンサーを受容したもの)が挙げられる。機能的運動単位は、標的筋肉と神経支配運動ニューロンとの間の双方向シグナル伝達を含むという概念に基づくと、一方の機能の増強は、他方の機能に肯定的な影響を及ぼすことができ、その逆も同様であることが企図される。したがって、ニューロン療法剤を受容したが、臨床的に有意義な様式でニューロン療法剤に応答しない患者の部分集団を、ミオスタチン阻害療法と併用したニューロン療法剤に対してより応答性にすることができる。同様に、ニューロン療法剤に応答性である患者の部分集団は、ミオスタチン阻害療法を受けると、さらなる臨床利益を得ることができる。
【0038】
一部の実施形態では、本発明の方法は、筋肉状態または障害および神経筋疾患の治療または予防に好適である。本明細書で使用される場合、用語「筋肉状態」または「筋肉障害」は、筋肉が正常に機能しない疾患、状態、もしくは障害、または筋肉の機能は正常だが、筋肉利用能の量の低減のため、筋肉により発生される力がより少なくなる疾患、状態、もしくは障害を指す。本明細書で使用される場合、用語「神経筋疾患」は、ニューロンと筋組織との間のシグナル伝達の乱れまたは情報伝達の崩壊により引き起こされるかまたは関連する任意の疾患を指す。一部の実施形態では、神経学的シグナル伝達障害は、ニューロンがそれらの標的に向かってシグナルを伝達することができないニューロン構造の損傷により生じる。他の実施形態では、ニューロンの構造は無傷のままであるが、ニューロンのシグナル伝達能力が影響を受けるように、神経筋接合部に機能的な乱れまたは欠損、例えば阻止が存在する。一部の実施形態では、シグナル伝達の乱れは、除神経、例えば、その標的筋肉への神経供給またはニューロン入力の部分的な喪失または不調に関連する。一部の実施形態では、除神経は、傷害により誘導される。本発明に従って治療することができる好適な神経筋疾患または状態としては、これらに限定されないが、以下のものが挙げられる:筋萎縮性側索硬化症(ALS)、先天性筋無力症候群、先天性ミオパシー、けいれん性線維束形成症候群、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、糖原病II型、遺伝性痙性対麻痺、封入体筋炎(IBM)、アイザック症候群、カーンズ-セイヤ症候群、ランバート-イートン筋無力症症候群、ミトコンドリアミオパシー、筋ジストロフィー、重症筋無力症、筋緊張性ジストロフィー、末梢神経障害、球脊髄性筋萎縮症、脊髄性筋萎縮症(SMA)、呼吸窮迫1型を伴う脊髄性筋萎縮症、全身硬直症候群、トロイアー症候群、およびギラン-バレー症候群。
【0039】
上記の実施形態のいずれでも、ニューロン機能を増強/促進することまたはその根底にあるニューロン欠損を修正/取り戻すことを目標とした作用剤(集合的に「ニューロン療法剤」と呼ぶ)およびミオスタチン阻害剤の併用投与が有用である。加えて、そのような併用療法は、その標的筋肉が異化状態にあってもよく、またはそのリスクがあってもよい患者のための同化刺激剤(つまり、同化刺激因子)をさらに含んでいてもよい。そのよう
な同化刺激因子は、組み合わせて使用すると、ミオスタチン阻害剤の利益を増大させることができる。したがって、本発明は、患者の神経筋疾患を治療するための方法であって、ミオスタチン阻害剤、ニューロンエンハンサー/修正因子(つまりニューロン療法剤)、および同化刺激因子を含む有効量の併用療法剤を患者に投与するステップを含む方法を含む。
【0040】
上記に記載のミオスタチン阻害剤療法の転帰に影響を及ぼす場合がある要因の認識は、
図12にさらに示されている。
【0041】
基準(iii)には、筋肉は、部分的にそれらの線維型に基づきミオスタチン阻害の影響が異なるという概念が取り入れられている。本明細書で提供された証拠は、解糖系速筋線維を含む速筋線維(II型線維など)を多く含む筋肉が、ミオスタチン阻害に特に感受性であり得ることを示唆する。したがって、ミオスタチン阻害剤療法は、速筋線維を多く含む筋肉(例えば、II型線維を含む筋肉)に対して優先的に利益を提供し、速筋線維を必要とするかまたは依存する運動機能を増強することができる。
図2に示されているように、腓腹筋は、ミオスタチン阻害療法に応答性であることが見出された。腓腹筋は、約75%の速筋解糖系線維を含むことが公知であることに留意すべきである。
【0042】
したがって、本発明は、運動機能を損なう神経障害を罹患している患者が、筋肉機能を標的とする作用剤(筋肉エンハンサーなど)ならびにスプライス調節因子および遺伝子修正因子などの神経機能を標的とする作用剤(一般的に「ニューロン療法剤」と呼ばれる場合がある)の両方の組合せから利益を得ることができるという認識に少なくとも部分的に基づく。本発明は、運動ニューロンとその標的筋肉との間のシグナル伝達障害(神経筋障害など)を含む状態の治療に特に有用である。本発明は、筋肉を神経支配するニューロンの部分的だが完全ではない喪失を含む状態の治療に特に有用である。
【0043】
本発明は、高度に代謝性の速筋線維を多く含む筋肉が特に影響を受けやすい状態の治療に、ミオスタチンシグナル伝達の阻害が有利であり得るという認識を含む。特に有用な実施形態では、そのような状態を治療するための治療レジメンは、速筋線維を多く含む筋肉を神経支配する運動ニューロンを治療する作用剤との組合せで、ミオスタチンシグナル伝達の阻害剤またはアンタゴニストを含む。
【0044】
そのような状態は、軸索輸送もしくはその制御の障害、小胞輸送もしくはその制御の障害、神経伝達もしくはその制御の障害、ミトコンドリア機能もしくは利用能の障害、またはそれらの任意の組合せをもたらす遺伝子突然変異に関連していてもよい。一部の実施形態では、そのような一般的突然変異は、エネルギー生産、エネルギー消費、グルコース利用の障害、またはそれらの制御の障害を引き起こす場合がある。
【0045】
一部の実施形態では、そのような状態は、脊髄性筋萎縮症(SMA)である。
定義
【0046】
冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は、本明細書では、冠詞の文法的対象物の1つまたは1つよりも多く(つまり、少なくとも1つ)を述べるために使用される。例として、「要素(an element)」は、1つの要素または1つよりも多くの要素を意味する。
【0047】
作業例または別様に示されている場合以外、本明細書で使用される成分の量または反応条件を表す数値はすべて、すべての例で用語「約」により修飾されていると理解されるべきである。パーセンテージに関して使用される場合、用語「約」は±1%を意味する場合がある。さらに、用語「約」は、値の±1%内を意味する場合がある。
【0048】
用語「投与する」、「投与すること」、または「投与」は、ミオスタチン阻害剤、ニューロン修正因子、例えばSMN修正因子、および/または同化刺激因子、例えば医薬組成物を、対象の系に、または対象内もしくは対象上の特定の領域に(それぞれ、全身投与および局所投与)送達する任意の方法を含む。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「応答個体」は、治療/生物学的薬物に対する予測応答が陽性である患者に関する。同様に、本明細書で使用される場合、用語「非応答個体患者」は、治療/生物学的薬物に対する予測応答が陰性または非存在である患者に関する。用語「低応答個体」は、本明細書で使用される場合、治療/生物学的薬物に対する予測応答が陽性であるが、疾患/障害の完全な治療を達成せず、さらなる療法から利益を得て、さらなるおよび/または向上された臨床応答を達成することになると考えられる患者を指す。
【0050】
用語「予測応答」または同様のものは、本明細書で使用される場合、患者が、所与の療法/生物学的薬物に対して有利にまたは不利のいずれかで応答することになる可能性を決定することを指す。特に、用語「予測」は、本明細書で使用される場合、患者の進展を決定するのに有用であり得る任意のパラメーターの個々の評価に関する。当業者であれば理解するように、生物学的薬物による治療に対する臨床応答の予測は、対象を100%正確に診断または評価することが好ましいが、そうである必要はない。しかしながら、この用語は、対象の統計的に有意な部分が、陽性応答を有する確率が高いと特定することができることを必要とする。対象が統計的に有意であるか否かは、当業者であれば、種々の周知の統計評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定などを使用して、特段の労力をかけずに決定することができる。詳細は、DowdyおよびWearden、Statistics for Research、John Wiley & Sons、New York、1983年に見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。p値は、好ましくは、0.2、0.1、または0.05である。
【0051】
用語「臨床応答」は、本明細書で使用される場合、生物学的薬物で治療可能な病理を罹患している対象の前記生物学的薬物に対する応答を指す。標準的基準は、疾患毎に様々であってもよく、本明細書でより詳細に考察されている。
【0052】
「筋肉成長から利益を得る」と考えられる患者は、健常患者、ならびに筋肉質量および/または筋力の減少を伴う疾患および/または障害を有する患者を両方とも含む。一実施形態では、筋肉成長から利益を得ると考えられる患者は、筋肉疾患または障害、例えば、SMAを有する対象である。
【0053】
本明細書で使用される場合、用語「含むこと」または「含む」は、本発明に不可欠な組成物、方法、およびそれらの対応する成分に関して使用されるが、不可欠であるか否かにかかわらず、指定されていない要素を含む可能性が残されている。
【0054】
用語「からなる」は、本明細書に記載の組成物、方法、およびそれらの対応する成分を指すが、実施形態のその説明で列挙されていないあらゆる要素が除外される。
【0055】
用語「対照」または「対照試料」は、本明細書で使用される場合、任意の臨床的にまたは科学的に関連する比較試料、集団、または対応物を指し、それらには、例えば、健常対象に由来する試料、ある特定の疾患または状態を引き起こすまたは対象をそれらに対して感受性にする場合がある欠損を有する対象に由来する試料、目的の疾患または状態を有する対象、医薬担体により治療された対象に由来する試料、治療前の対象に由来する試料、
偽薬または緩衝液で治療された対象または試料、および未治療の対象または試料などが含まれる。
【0056】
用語「対照レベル」は、生物学的マーカーの許容されるまたは所定のレベル、例えば、治療前もしくは疾患の発病前、または薬物、例えばミオスタチン阻害剤もしくはSMN修正因子の投与前に得られるマーカーのレベルを指す。1つまたは複数の特定の特徴を有する、例えば特定の疾患または状態、例えばSMAが存在または非存在の対象、または対象の集団に存在する生物学的マーカーのレベル。
【0057】
用語「減少」は、本明細書で使用される場合、疾患症状の状況では、そのようなレベルの統計的に有意な減少を指す。減少は、例えば、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、もしくは95%、または検出方法の検出レベル未満であってもよい。また減少は、例えば、検出方法の検出レベル未満の約1~10%、10~20%、1~30%、20~50%、30~60%、40~70%、50~80%、または60~90%であってもよい。ある特定の実施形態では、低減は、レベルの正常化とも呼ばれる場合がある、そのような障害を有していない個体の正常範囲内として許容されるレベルに低下する。
【0058】
例えば機能の喪失、または質量、例えば疾患に関連する筋肉質量の喪失などの、例えば疾患症状の状況における用語「増加」は、そのようなレベルの統計的に有意な増加を指す。増加は、例えば、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、もしくは95%、または検出方法の検出レベルよりも高くてもよい。また、増加は、例えば、検出方法の検出レベルよりも高い、約1~10%、10~20%、1~30%、20~50%、30~60%、40~70%、50~80%、または60~90%であってもよい。ある特定の実施形態では、増加は、レベルの正常化とも呼ばれる場合がある、そのような障害を有していない個体の正常範囲内として許容されるレベルまでである。ある特定の実施形態では、増加は、疾患の兆候または症状のレベルの正常化、疾患の兆候の対象レベルと疾患の兆候の正常レベルとの差の増加である。
【0059】
本明細書で使用される場合、用語「除神経」は、筋組織などの、その標的組織の神経供給またはニューロン入力の喪失または不調を指す。したがって、「部分的な除神経」は、標的筋肉と神経支配運動ニューロンとの間の神経筋シグナル伝達の部分的障害と関連する場合がある。除神経の原因としては、疾患(例えば、運動ニューロンの遺伝子障害)、化学的毒性、身体的傷害、または神経の意図的な外科的切断などが挙げられる。除神経は、部分的な除神経(不完全な除神経とも呼ばれる)であってもよく、または完全な除神経であってもよい。部分的な除神経は、例えば、その標的組織への神経供給またはニューロン入力の少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%喪失または不調であってもよい。一部の実施形態では、部分的な除神経は、その標的組織に対する神経供給またはニューロン入力の約1~10%、10~20%、1~30%、20~50%、30~60%、40~70%、50~80%、60~90%の喪失または不調を含む。本明細書により詳細に記載されているように、部分的な除神経および神経筋損傷は、例えば、複合筋活動電位および運動単位数推定法を使用して測定される。
【0060】
本明細書で使用される場合、「決定すること」は、アッセイを実施するかまたは方法を使用して、ある者またはある物の状態、例えば、ある特定の状態、バイオマーカー、疾患状態、または生理学的状態の存在、非存在、レベル、または度合いを確認することである
と理解される。
【0061】
疾患の「発症」または「進行」は、疾患の最初の顕在化および/またはその後の進行を意味する。疾患の発症は、標準的臨床技法を使用して検出可能であり、評価することができる。しかしながら、発症は、検出不能であってもよい進行も指す。本開示の目的では、発症または進行は、症状の生物学的経過を指す。「発症」は、発生、再発、および発病を含む。本明細書で使用される場合、ミオパシーに関連する疾患/障害の「発病」または「発生」は、最初の発病および/または再発を含む。
【0062】
本明細書に記載されているものと類似または等価である方法および材料を、本開示の実施または試験に使用することができるが、好適な方法および材料は下記に記載されている。略語「例えば(e.g.)」は、ラテン語のexempli gratiaに由来し、本明細書では、非限定的な例を示すために使用される。したがって、略語「例えば(e.g.)」は、用語「例えば(for example)」と同義である。
【0063】
本明細書で使用される場合、用語「有効量」および「有効用量」は、その意図されている目的、つまり、許容される利益/リスク比で、組織または対象における所望の生物学的または薬理的応答を満たすのに十分な、化合物または組成物の任意の量または用量を指す。例えば、本発明のある特定の実施形態では、意図されている目的は、ミオスタチンの活性化をin vivoで阻害して、ミオスタチン阻害に関連する臨床的に有意義な転帰を達成することであってもよい。
【0064】
関連する意図されている目的の測定は、客観的であってもよく(つまり、あるアッセイまたはマーカーにより測定可能)、または主観的であってもよい(つまり、効果の徴候または感じ方が対象により提供される)。一部の実施形態では、治療有効量は、疾患、障害、または状態(例えば、顕在化した症状、疾患進行/段階、遺伝子プロファイルなどにより決定される)のある特定の臨床基準を満たす患者集団に投与すると、その集団で統計的に有意な治療応答が得られる、量である。
【0065】
一部の実施形態では、有効量は、特定のレジメンに従って投与すると、有害効果がある場合、それが患者にとって治療レジメンを継続する程度に十分耐えられるものであり、療法の利益が毒性のリスクを上回るように、有害効果(例えば毒性)が合理的に許容可能なレベルの陽性臨床転帰をもたらす量である。当業者であれば、本発明の一部の実施形態では、単位投薬量は、陽性転帰と相関する投薬レジメンの状況において投与に適切な量を含んでいる場合、有効量を含むとみなすことができることを理解するだろう。
【0066】
治療有効量は、一般的に、複数の単位用量を含んでいてもよい用量投与レジメンで投与される。任意の特定の医薬作用剤では、治療有効量(および/または有効な用量投与レジメン内の適切な単位用量)は、例えば、投与経路、他の医薬作用剤との組合せに応じて様々であってもよい。一部の実施形態では、任意の特定の患者の特定の治療有効量(および/または単位用量)は、治療されている障害および障害の重症度、使用される特定の医薬作用剤の活性、使用される特定の組成物、患者の年齢、体重、全体的な健康、性別、および食事、投与の時間、投与の経路、ならびに/または使用される特定の医薬作用剤の排泄または代謝の速度、治療の期間、ならびに医学分野で周知の類似要因を含む様々な要因に依存する場合がある。
【0067】
疾患または障害を「治療すること」または「予防すること」とは、そのような疾患または障害の発病を遅延または予防すること、そのような疾患または障害に関連する状態の進行、激化、もしくは悪化、またはそのような状態の進行もしくは重症度を反転させること、緩和すること、寛解すること、阻害すること、緩徐すること、または停止することを意
味するが、疾患または障害の完全な治療または予防が必要とされるわけではない。一実施形態では、疾患または障害の症状は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%緩和される。
【0068】
本明細書で使用される場合、用語「ニューロン療法剤」は、ニューロン機能を向上させる(例えば、増強または取り戻す)ことを目標とする作用剤を指す。ニューロン療法剤は、運動ニューロンとその標的筋肉との間のシグナル伝達障害(神経筋障害など)を含む状態の治療に有用である。具体的には、ニューロン療法剤は、筋肉を神経支配するニューロンの部分的だが完全ではない喪失を含む状態の治療に特に有用である。一実施形態では、「ニューロン療法剤」は、本明細書により詳細に記載されるような、遺伝子療法剤、低分子、またはアンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよい。一実施形態では、「ニューロン療法剤」は、本明細書により詳細に記載されているような「SMN修正因子」である。一部の実施形態では、ニューロン療法剤は、細胞(例えば、対象内の細胞)の運動ニューロン機能を完全に取り戻すことが可能な作用剤である。一部の実施形態では、ニューロン療法剤は、細胞(例えば、対象内の細胞)の運動ニューロン機能を部分的に取り戻すことが可能な作用剤である。一部の実施形態では、ニューロン療法剤は、細胞(例えば、対象内の細胞)の運動ニューロン機能の少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれより多くを取り戻すことが可能な作用剤である。当業者であれば、運動ニューロン機能は、典型的には、膜興奮性、軸索輸送、小胞輸送、神経伝達物質放出、ミトコンドリア機能、および/またはミトコンドリア利用能を含み、そのような機能は、当業者に公知のアッセイを使用して測定されることを理解するだろう。
脊髄性筋萎縮症(SMA)
【0069】
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、衰弱性であり、致死性であることが多い神経筋疾患であり、幼児死亡率の最も一般的な遺伝学的原因である(1)。SMAは、最も一般的な希少疾患の1つであり、54人中およそ1人がキャリアであり、約11,000人の小児中1人が生まれつきSMAである。SMAは、生存運動ニューロン1(SMN1)遺伝子に突然変異または欠失を含む常染色体劣性遺伝障害である。具体的には、SMAは、SMNタンパク質レベルの低減により引き起こされ、脊髄の前角細胞の生存を促進するには、十分な量のSMNタンパク質が必要である。運動ニューロンの喪失は、呼吸機能不全により死亡に至ることが多い深刻な筋萎縮をもたらす(2)。
【0070】
SMA患者は、機能的SMN1遺伝子を欠如するが、パラロガス遺伝子SMN2は、転写物を短縮する選択的スプライシングにより、低レベルの機能的SMNタンパク質を産生する。筋萎縮の予防およびニューロン生存の促進に効果的な、SMA患者を治療するための好適な方法および組成物には、多大な関心が寄せられている。SMAは、臨床的に不均質であり、患者は、疾患の重症度に基づいて分類される。
【0071】
0型は、最も重症型のSMAであり、子宮内の胎動低減により出生前に診断される。患者は、出生時に人工呼吸装置支援を必要とする。1型SMAは、典型的には、出生から6カ月の間に診断され、患者は、自分で座るための十分な強さを獲得することはない。介入がない場合、ほとんどの1型患者は、呼吸支援なしでは2年間を過ぎて生存しない。II型およびIII型を有する人々は、より多くの量のSMNタンパク質を産生し、重症度はより低いが、依然として生活を変える形態のSMAを有する。II型患者は、6~18カ月の間の年齢で診断される。II型患者は、支援なしで座ることができるが、支援なしでは歩くことができない。III型SMAを有する場合、患者は、18カ月以降の年齢で診断され、支援なしで座ることおよび歩くことができるが、以後の人生では車椅子に依存することになる場合がある。IV型SMAは、成人発症性であり、表現型が軽度であり、非
常に希少である(1、3)。型によるSMA階層化は、有用な臨床パラダイムであるが、疾患表現型は、別個の(discreet)分類というよりより連続的な分類として存在する(4)。
【0072】
SMAの臨床的な不均質性は、部分的には、疾患が遺伝学的に複雑なためである。SMN1遺伝子の突然変異はSMAに至るが(5)、ヒトでは、ほとんど同一の遺伝子SMN2は、SMN1の極近傍に位置する(6)。こうした遺伝子間の主な差異は、エクソンスプライスサイレンサーを生成し、最終mRNA転写物からのエクソン7の除去をもたらすCからTへの移行である。短縮型SMNタンパク質は不安定であり、迅速に分解される。それにもかかわらず、SMN2から産生されるmRNAのおよそ10%は、正確にスプライスされ、全長SMNタンパク質を産生するが、この量は、SMN1の喪失を完全に補償するには不十分である。SMN2のコピー数は個体毎に様々であり、一般的には、より多くのコピー(3~4個)は、より軽症型のSMAと関連する(1~4)。
【0073】
運動ニューロンの生存および機能の制御におけるSMNの役割は、完全には解明されていないが、その最も特徴付けられている機能は、snRNPバイオジェネシスおよびプレmRNAスプライシングである(2)。また、運動ニューロンは、SMNタンパク質レベルの低減に特に感受性であると考えられるが、SMNは遍在的に発現されており、SMA患者では、肝臓、脾臓、消化器系、自律神経系、および骨を含む他の臓器系も影響を受ける(3)。上記に記載されているように、SMA患者では、重度の骨格筋萎縮が観察され、それは、主に運動ニューロン神経支配の喪失によるものであるが、筋肉はすべてが等しく影響を受けるわけではなく、体軸筋は、一般的には体肢筋よりも大きな萎縮および除神経を示す(2、7)。SMA患者では、隔膜は、横隔神経の保存により大部分が影響を免れる(8)。興味深いことには、速筋II型筋線維は、遅筋I型線維よりも著しく大きな萎縮を示す(9)。筋萎縮の度合いは、神経支配の度合いと直接関連し、神経により神経支配される筋肉は、SMNタンパク質の喪失による影響がより少なく、より少ない萎縮を示す(7、8、10)。それにもかかわらず、SMAのマウスモデルから単離された筋原細胞は、筋原遺伝子発現調節異常を示し、未成熟で分化し、不良な筋管形成に結び付くため(11、12)、SMNタンパク質は、骨格筋で直接的な役割を果たすと考えられる。加えて、筋肉病理の証拠は、発症前マウスで示されており、SMNエクソン7の筋肉特異的欠失は、重度筋ジストロフィーに結び付く(13、14)。
SMAの治療手法-SMN修正因子
【0074】
SMNタンパク質レベルを取り戻すための複数の治療手法:SMN1遺伝子置換療法、SMN2スプライシングを調節する低分子、およびSMN2イントロンスプライシングサイレンサーを阻止し、したがってエクソン7の包含を増加させるためのアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)の使用が研究中である。
【0075】
アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を使用するSMN1遺伝子置換療法は、SMAのマウスモデルにおいて有益性を示し、AVXS-101、AveXisに由来するAAV9-SMN1ベクターは、現在、第I相臨床試験中である(NCT02122952を参照)(15)。
【0076】
他の手法は、エクソン7が、より高いパーセンテージの転写物に保持され、全長SMNタンパク質の産生増加に結び付くように、SMN2スプライシングを調節することに着目している。NovartisおよびPTC Therapeutics/Rocheは両社とも、SMN2エクソン7の包含を選択的に増強し、SMAのマウスモデルにおいて全長SMNタンパク質レベルおよび治療効果の増加に結び付く低分子を開発した(16~19)。両社のこれら低分子は、現在、第2相臨床試験中である(治験NCT02913482、NCT03032172、NCT02908685、NCT022688552を
参照)。SMAの軽度および重度前臨床モデルにおけるRG7800、SMN-C2、およびSMN-C3の経口投与により、上記化合物が、治療したマウスの脳および筋組織のSMNタンパク質レベルを両方とも、媒体と比較して増加させたことが示された。また、上記分子は、血液脳関門(BBB)を効率的に通過した。重度SMAマウスモデルでは、両化合物は、運動挙動を正常化し、かつ媒体と比較して体重および生存率を増加させた。しかしながら、臨床プログラムは、安全性の懸念により保留された。
【0077】
また、別の臨床段階の低分子SMN2スプライス調節因子であるLMI070は、前臨床動物研究の結果が、末梢神経および脊髄、精巣、ならびに腎臓の血管に傷害を示したため中止された。
【0078】
現在まで、筋肉を対象とした1つの薬物であるCK-212107は、収縮性を変更するために骨格筋トロポニンを標的とする。
【0079】
低分子に基づくさらなるSMN2スプライス修正因子は、例えば、2009年1月29日に公開された米国特許出願公開第US2009/0031435号、および2013年3月19日に公開された米国特許第8,399,437号に記載されており、各々の内容は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。しかしながら、当技術分野で公知のSMN2スプライス修正因子を含む他の低分子スプライス修正因子は、当業者であれば明白であり、本開示の範囲内であることが理解されるべきである。
【0080】
第3の手法は、例えば、SMAのマウスモデルにおいて、SMN2イントロンスプライシングサイレンサーを阻止し、したがってエクソン7の包含を増加させ、この場合も疾患を救済するための、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)の使用である(20~22)。Biogen/Ionisは、ヌシネルセンを開発し、ヌシネルセンは、臨床有効性を示すASOスプライス修飾因子であり、FDAにより最近承認され、Spinraza(商標)として市販された(23~25)。しかしながら、ヌシネルセンの各投与は、全身麻酔下での髄腔内送達を必要とする。加えて、アンチセンス修正因子ヌシネルセンは、有望であることが証明されているが、臨床有効性は中程度であると考えられ、幼児発病性SMA(I型)の患者の60%が非応答個体であることが報告されており、ヌシネルセンで治療した患者の43%は、ハマースミス運動機能評価スケール(拡大版)(HFMSE)による≧3ポイントの増加を達成せず、治療患者群の平均増加は、プラセボと比較して6ポイント未満だった。したがって、ヌシネルセン治療による改善の達成は、部分的にすぎない。
【0081】
これら分子はすべて、前臨床的に、ヌシネルセンの場合は臨床的に、有意な有効性を示したが、いずれも疾患の完全な治癒を提供しない。マウスモデルでは、低分子およびASOスプライス修飾因子は両方とも、疾患重症度を有意に低減するにもかかわらず、治療動物は、健常動物と比較して、寿命、体重、筋肉質量、および筋肉機能の不足を示す(21、26)。幼児発病性SMAの二重盲検臨床試験では、ヌシネルセンは、中間分析時に臨床的に有意義な利益をもたらした(プラセボでは0%だったのに対して、治療群の41%が、ハマースミス乳幼児神経学的検査(Hammersmith Infant Neurological Examination)を使用した運動マイルストーンの改善を示した)。到達した運動機能マイルストーンは、I型患者で顕著であり、81人の治療患者のうち5人が、支援なしで座ることができた(これら患者では、マイルストーンはほとんどまったく達成されない)。それにもかかわらず、これら患者は、発育マイルストーンをすべての範囲で達成したわけではなく、正常な個体であれば、達成されたマイルストーンは期待外れとみなされるだろう(25)。II型SMAの第2のプラセボ対照試験では、ヌシネルセンは、この場合も臨床的に有意義な改善を示し、ハマースミス運動機能評価スケール-拡大版(HFMSE)のスコアが、プラセボ群と比べて5.9ポイント増加し
た。なお、HFMSEの最大スコアは66ポイントであり、ほとんどのII型患者は、スコアが20未満である(27、28)。それにもかかわらず、この治験では、患者の43%は、運動機能の少なくとも3ポイント改善を達成することができなかった(25)。こうした結果により、SMN2スプライス調節因子は、SMA疾患経過、患者の生活の質に有意な効果を示す可能性があるが、疾患負荷の低減をさらに改善するには、さらなる機能獲得が必要であることが示される。
【0082】
本明細書で使用される場合、用語「SMN修正因子」は、SMN遺伝子発現(例えば、SMN1遺伝子発現および/またはSMN2遺伝子発現)、SMNタンパク質産生、および/または機能的SMN活性を増加または改善するために使用することができる任意の療法剤または化合物を指す。SMN修正因子としては、例えば、SMN2転写物のスプライシングを変更するスプライス修正因子/修飾因子が挙げられる。全身性送達されるSMNスプライス修飾因子は、SMNが発現される他の(つまり非神経)組織でのSMNスプライシングにも影響を及ぼす場合があることが留意されるべきである。
【0083】
「SMN修正因子」は、中枢性修正因子または全身性修正因子であってもよい。中枢性修正因子は、髄腔内経路で中枢神経系(CNS)に直接投与される。対照的に、全身性修正因子は、任意の経路、例えば経口で投与することができ、CNSだけでなく、身体全体にわたって他の組織にも影響を及ぼす。
【0084】
一部の実施形態では、「機能的SMNタンパク質」は、運動ニューロン機能および/または生存を促進することが可能である。一部の実施形態では、「機能的SMNタンパク質」は、細胞(例えば、対象内の細胞)の運動ニューロン機能を完全に取り戻すことが可能である。一部の実施形態では、機能的SMNタンパク質は、細胞(例えば、対象内の細胞)の運動ニューロン機能を部分的に取り戻すことが可能である。一部の実施形態では、機能的SMNタンパク質は、細胞(例えば、対象内の細胞)の運動ニューロン機能の少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれよりも多くを取り戻すことが可能である。一部の実施形態では、全長SMNタンパク質は、正確にスプライスされたSMN mRNAのタンパク質翻訳(例えば、細胞での)の結果である。一部の実施形態では、機能的SMNタンパク質は、エクソン7を含むSMN2 mRNAからコードされる。
【0085】
一実施形態では、「SMN修正因子」は、本明細書でより詳細に記載されるような、遺伝子療法剤、低分子、またはアンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよい。一部の実施形態では、SMN修正因子は、オリゴヌクレオチド分子である。一部の実施形態では、SMN修正因子は、アンチセンス分子である。一部の実施形態では、SMN修正因子は、SMN2遺伝子の発現を増加させるアンチセンス分子であってもよい。一部の実施形態では、SMN修正因子は、エクソン7を含むSMN2 mRNAの発現を増加させるアンチセンス分子であってもよい。一部の実施形態では、SMN修正因子は、機能的SMNタンパク質、例えば、エクソン7を含むSMN2 mRNAによりコードされるSMNタンパク質の発現を増加させるアンチセンス分子であってもよい。例えば、SMN2遺伝子のイントロン7のイントロンスプライスサイレンサー部位(ISS)を阻害することを目的としたアンチセンスオリゴヌクレオチドは、プレmRNAプロセシングを調節し、SMN2の成熟mRNA転写物内のエクソン7の包含のより大きな可能性に結び付き、機能的SMNタンパク質の産生増加をもたらすことができる。
【0086】
用語「スプライス修正因子」、「スプライス調節因子」、および「スプライス修飾因子」は、本明細書で使用される場合、交換可能であり、SMN2遺伝子によりコードされるものなど、RNA転写物の異常スプライシングを修正し、および/またはSMNタンパク
質の発現を調節する作用剤を指す。一部の実施形態では、SMN2スプライス修正因子は、SMN2プレmRNAでのエクソン7の包含を増加させる。一部の実施形態では、SMN2プレmRNAでのエクソン7の包含の増加は、ニューロン機能および/または生存を促進することが可能なSMNタンパク質など、細胞または対象での機能的SMNタンパク質の発現増加(例えば、SMN2遺伝子からの)に結び付く。
【0087】
一実施形態では、SMN修正因子は、遺伝子療法であってもよい。本明細書で使用される場合、用語「遺伝子療法」は、対象の状態を、癒やす、治癒する、またはそうでなければ改善するために核酸を使用する任意の手順を指す。遺伝子療法では、核酸を特定の細胞内に送達する必要がある。送達方法としては、ウイルスまたは非ウイルス手段が挙げられ、それらは当技術分野で公知である。例えば、Patilら、AAPS J.、7巻(1号):E6
1~E77頁(2005年);Gasconら、Non-Viral Delivery Systems in Gene Therapy(2013年);Somiariら、Molecular Therapy、2巻(3号)、178~187頁(2000年);Herweijer, H.およびJ. A. Wolff、Gene therapy、10巻(6号):453~458頁(2003年);ならびにNayerossadatら、Advanced biomedical
research、1巻(2号):1~11頁(2012年)を参照されたい。遺伝子療法を送達するためのウイルス手段は、ウイルスベクターの使用を含む。ウイルスベクターは、治療的遺伝子ペイロードを搭載することができ、典型的に野生型ウイルス感染に伴う副作用を起こすことなく、特定の組織に感染し、引き続きそこに前記ペイロードを転送できるように再プログラムされた、遺伝子組換えウイルスである。レトロウイルス、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス、ポックスウイルス、およびエプスタインバーウイルスを含むいくつかのウイルスを、ウイルスベクターとして使用することができる。ウイルスベクターは、野生型ウイルスよりも安全であるが、免疫応答を誘導する場合があるため、非ウイルス送達方法の使用が必要とされることがある。一実施形態では、ウイルスベクターは、AAVウイルスベクターである。非ウイルス送達方法としては、これらに限定されないが、ネイキッドDNAの注射、エレクトロポレーション、遺伝子銃衝撃、および超音波などの物理的方法、ならびに生化学的方法が挙げられる。別の送達技法であるマグネトフェクションは、物理的および生化学的要素の組合せである。
【0088】
一部の実施形態では、SMN修正因子の「有効量」は、細胞(例えば、対象内の細胞)の運動ニューロン機能を完全に取り戻すことが可能な作用剤の量である。一部の実施形態では、SMN修正因子は、細胞(例えば、対象内の細胞)の運動ニューロン機能を部分的に取り戻すことが可能な作用剤である。一部の実施形態では、SMN修正因子の「有効量」は、細胞(例えば、対象内の細胞)の運動ニューロン機能の少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれよりも多くを取り戻すことが可能な作用剤の量である。当業者であれば、運動ニューロン機能は、典型的には、膜興奮性、軸索輸送、小胞輸送、神経伝達物質放出、ミトコンドリア機能、および/またはミトコンドリア利用能を含むことを理解するだろう。
【0089】
一部の実施形態では、SMN修正因子は、例えば、SMN2 mRNA転写物でのエクソン7の包含を促進することにより、機能的SMNタンパク質の発現を増加させる作用剤、例えば、低分子またはオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)である。一部の実施形態では、細胞は、対象、例えばSMN修正因子が投与される対象内の細胞である。一部の実施形態では、SMN修正因子は、細胞、例えば対象中の細胞にエクソン7を含まないSMN2 mRNAと比較して、エクソン7を含むSMN2 mRNAの相対量を増加させる。一部の実施形態では、「有効量」のSMN修正因子は、細胞(例えば、対象内の細胞)中の正確にスプライスされたSMN2 mRNAの量を、細胞内のSMN2 mRNAの少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%
、90%、95%、99%、またはそれよりも多くがエクソン7を含むように増加させる。一部の実施形態では、「有効量」のSMN修正因子は、対象中のエクソン7を含むSMN2 mRNAのレベルを、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%、またはそれより大きく増加させる。一部の実施形態では、「有効量」のSMN修正因子は、対象中の機能的SMNタンパク質のレベルを、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%、またはそれよりも大きく増加させる。
ミオスタチンを標的とした筋肉機能の改善-ミオスタチン阻害剤
【0090】
患者運動機能を改善する1つの治療手法は、骨格筋を直接標的として筋萎縮を低減し、したがって、SMAなどの筋肉状態を有する対象の筋力を改善することである。ミオスタチン(増殖分化因子8またはGDF-8としても公知である)の阻害は、SMA患者など筋肉状態を有する患者の筋肉質量および機能を増加させる有望な手法を提供する。ミオスタチンは、TGFβスーパーファミリーのメンバーであり、筋肉成長の重要な負の制御因子である。ミオスタチンの遺伝的喪失は、筋肉質量の著しい増加をもたらし、これは筋細胞肥大および過形成の両方に起因する(29)。また、ミオスタチン機能喪失突然変異と同様に、ミオスタチンの薬理学的阻害は、筋肉質量を増加させるが、これは、過形成ではなく筋肥大により媒介される(30)。加えて、動物モデルでの証拠は、ミオスタチンシグナル伝達の阻止により、四肢固定、がん悪液質、およびコルチコステロイド治療に関連する筋萎縮が予防されることを示唆している(31~34)。ノックアウトマウスで最初に報告されて以降、ミオスタチンの突然変異および関連する筋肥大が、ウシ、イヌ、およびヒトで特定されている。ミオスタチンの喪失は、いかなる有害効果も引き起こさないと考えられている(35~37)。
【0091】
ミオスタチン喪失が筋肉質量に対して非常に大きな効果を示すこと、ならびにミオスタチン突然変異による病理が観察されないことは、この増殖因子が、筋肉減少症、がん悪液質、筋ジストロフィー、および非活動性萎縮を含む、筋肉消耗が顕著な特徴である徴候の重要な治療標的であることを示唆する(38)。複数の企業が、ミオスタチンを阻害し、したがって筋肉質量および筋力を増加させるための様々な手法を追求している。ミオスタチン阻害の最も一般的な手法は、(1)成熟増殖因子と結合および阻害する抗体(一般的には「中和」抗体と呼ばれる)、(2)ミオスタチン受容体ActRIIBに対する抗体、(3)ActRIIB-Fcなどの可溶性リガンドトラップ、ならびに(4)フォリスタチンなどのミオスタチン阻害剤のウイルス媒介性発現である(39~43)。しかしながら、こうした療法の多くは、ミオスタチンを標的とすることに加えて、GDF11およびアクチビンなどの関連ファミリーメンバーも阻害する。成熟ミオスタチンおよびGDF11のアミノ酸配列は、90%同一であるため、ミオスタチンと特異的に結合するが、GDF11には結合しない抗体を生成することは、非常に困難である。ミオスタチン、GDF11、およびアクチビンはすべて、ActRIIBを介してシグナル伝達するため、ActRIIBを阻止する抗体または可溶性ActRIIBリガンドトラップは、3つすべての増殖因子の活性を阻害することになる(44)。フォリスタチンは、ミオスタチンの内因的阻害剤であるが、これも、GDF11およびアクチビンと結合および阻害する(45)。これら分子のいくつかは、親和性が低いとはいえ、BMP9およびBMP10などの、より関連性が低い増殖因子にも結合する。この特異性の欠如は、望ましくない副作用の可能性を有する。発生中のGDF11の明確な役割は解明されているが、出生後のその生物学的な役割およびGDF11阻害の影響は不明である。GDF11は、老化促進因子でもあり、老化防止因子でもあり、筋肉成長および再生に有益でもあり、有害でもあることが示唆されている(46~53)。アクチビンAは、卵胞刺激ホルモンの放出、卵胞発
育、および月経後の子宮内膜修復を含む複数の生殖機能に重要である(54)。BMP9は、脈管上皮完全性の維持に関与し、このリガンドの阻害は、ACE-031、ActRIIb-Fc融合体で治療された患者で観察された毛細管拡張症および歯肉出血に結び付いたと考えられている(41)。まとめると、こうした観察は、関連増殖因子の1つまたは複数のシグナル伝達経路の意図しない阻害により引き起こされる場合がある有害効果のリスクを最小限に抑えるために、ミオスタチンシグナル伝達の選択的阻害剤を開発することの重要性を指し示している。本開示の発明者らは、ミオスタチン阻害の特異性が、依然として成長期にあるより若年の患者、ならびに一部の場合では疾患の生涯にわたる管理を含む長期療法を受ける必要のある患者の治療の毒性リスクを最小限に抑えるために特に重要であることを認識した。
【0092】
上記に列挙されているものなど、発生中の種々のミオスタチン阻害剤はすべて、げっ歯動物では筋肉質量および筋力を著しく増加させたが、患者ではいずれも主要臨床エンドポイントの達成に成功していない(31、32、34、38、44、55~57)。PfizerのMYO-029、抗ミオスタチン抗体は、不良な薬理学的特性を有することが示され、それがその臨床失敗に寄与した可能性が高い(58)。AcceleronのACE-031は、BMP9阻害の結果、有害出血事象があったため中止された(41)。他の場合では、失敗の根本的な原因は、それほど明確ではない。例えば、複数の企業が、それら分子を、高齢患者(例えば、筋肉減少症のより高齢の虚弱な易転倒者)での治験に使用している。こうした治験の患者は筋肉質量の多少の増加を示したが(約2~3%)、筋力には相応の改善はなかった(38、40、59)。この非関連性の1つの可能性は、こうした治験の期間が十分ではなく、筋肉機能の改善を検出できなかったことである。中枢神経系がより大きな筋肉に適応するには、さらなる時間が必要である可能性がある。あるいは、高齢者の同化能力が低下していることにより(つまり、IGF-1およびテストステロンの発現低減、筋タンパク質合成低減)、この集団でのミオスタチン阻害の有効性が制限された可能性がある(60、61)。まとめると、こうした結果は、多少の筋肉成長が達成された場合さえ、必ずしも筋肉機能(例えば、筋力、力の発生)、したがってある特定の運動タスクを行う能力などの運動機能が改善されることにつながるとは限らないことを警告している。
【0093】
本明細書で使用される場合、用語「ミオスタチン阻害剤」は、ミオスタチンシグナル伝達を阻止またはアンタゴナイズすることが可能である任意の作用剤を指す。そのような作用剤としては、ミオスタチンの低分子アンタゴニスト、およびミオスタチンの生物学的アンタゴニスト(例えば、タンパク質断片および抗体)を挙げることができる。一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤は、抗体(例えば、米国特許第6,291,158号、第6,582,915号、第6,593,081号、第6,172,197号、および第6,696,245号に記載のようなドメイン抗体(dAb)などの、その断片を含む)、低分子阻害剤、アドネクチン(Adnectin)、アフィボディ、DARPin、アンチカリン(Anticalin)、アビマー(Avimer)、バーサボディ(Versabody)、または遺伝子療法剤であってもよい。現在まで当技術分野で公知であるミオスタチン阻害剤またはアンタゴニストとしては、これらに限定されないが、以下のものが挙げられる:PF06252616(Pfizer)、Trevogrumab(Regneron)、ACE-083(Acceleron)、BMS-986089(BMS)、フォリスタチン(Nationwide)、ACE-031(Acceleron)、Myo-029(Wyeth)、LY2495655(Eli Lilly)、Pinta-745(Atara)、Bimagrumab/BYM338(Novartis)、およびPCT/JP2015/006323(中外製薬)に記載の抗潜在型ミオスタチン抗体またはそれらに任意の誘導体(親和性成熟誘導体またはヒト化誘導体または断片など)、および本明細書に記載の抗ミオスタチン抗体、例えばSRK-015またはその抗原結合性断片。また、本発明により包含されるミオスタチン阻害剤の使用は、モノボ
ディおよび単一ドメイン抗体などの抗体模倣体を含む。モノボディは、典型的には分子スキャフォールドとしてフィブロネクチンIII型ドメイン(FN3)を使用した合成結合タンパク質である。モノボディとしては、第10フィブロネクチンIII型ドメインに基づくAdnectin(商標)が挙げられる。Adnectinの1つの例は、BMS-986089である。
【0094】
好ましくは、ミオスタチン阻害剤は、ミオスタチン選択的である。ミオスタチン活性を阻止すると文献に記載されている多くの作用剤は、ミオスタチン選択的でないことが見出されている。実際、多くのそのような作用剤は、他の関連増殖因子、特に、ミオスタチンと高い配列相同性(約90%同一性)を共有するGDF11にも影響を及ぼす。有害効果の可能性を低減するため、ミオスタチンシグナル伝達を特異的に(他の増殖因子シグナル伝達に影響を及ぼさずに)阻止する作用剤が好ましい。これは、依然として成長中であり、同化作用的に活性な小児集団および若年成人にとって、特に重要であり得る。例えば、GDF11は、初期発生中に重要な役割を果たす。したがって、個体成長時に完全なGDF11シグナル伝達を保存することは、正常な発生プロセスの不調を回避するのに重要であり得る。同様に、他の生物学的経路よりもミオスタチンシグナル伝達に高度に選択的な介入は、一部の場合では生涯にわたる治療を含む場合がある長期療法が正当化される状況で有利であり得る。このように、あらゆる望ましくない副作用および毒性が経時的に蓄積して長期的な有害効果を引き起こすことを最小限に抑えるかまたは予防することができる。
【0095】
ミオスタチンの好適な阻害剤としては、抗体(例えば、SRK-015)などの生物製剤が挙げられる。生物製剤としては、以下のものが挙げられる:i)その前駆体からのミオスタチンの活性化ステップを阻害する抗体またはそれらの抗原結合性断片のクラス、ii)成熟ミオスタチン活性を中和する抗体またはそれらの抗原結合性断片のクラス、およびiii)ミオスタチンとその受容体との相互作用を阻止する抗体またはそれらの抗原結合性断片のクラス。一部の実施形態では、上記の(i)の抗体が好ましい。そのような抗体の非限定的な例は、例えば、PCT/US2015/059468およびPCT/US2016/052014に開示されている。これら文献の各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。一部の実施形態では、本発明の実施に好適な抗体またはそれらの抗原結合性部分は、1つまたは複数のCDR配列、可変重鎖および軽鎖配列、または以下の表1、表2、もしくは表3に記載されているものから選択される重鎖および軽鎖配列を含む。
【表1】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0096】
一実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号10~11のいずれか1つに示されている配列を含む相補性決定領域3を含む重鎖可変ドメイン(CDRH3)を含む。一実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号22~23のいずれか1つに示されている配列を含む相補性決定領域3を含む軽鎖可変ドメイン(CDRL3)を含む。一実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、6つの相補性決定領域(CDR):CDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2、およびCDRL3を含み、CDRH1は、配列番号1~3のいずれか1つに示されている配列を含み
、CDRH2は、配列番号4~9のいずれか1つに示されている配列を含み、CDRH3は、配列番号10~11のいずれか1つに示されている配列を含み、CDRL1は、配列番号12~17のいずれか1つに示されている配列を含み、CDRL2は、配列番号18~21のいずれか1つに示されている配列を含み、CDRL3は、配列番号22~23のいずれか1つに示されている配列を含む。
【0097】
一実施形態では、CDRH1は、配列番号1または2に示されている配列を含み、CDRH2は、配列番号4または5に示されている配列を含み、CDRH3は、配列番号10に示されている配列を含み、CDRL1は、配列番号12または13に示されている配列を含み、CDRL2は、配列番号18または19に示されている配列を含み、CDRL3は、配列番号22に示されている配列を含む。
【0098】
一実施形態では、CDRH1は、配列番号1または3に示されている配列を含み、CDRH2は、配列番号6または7に示されている配列を含み、CDRH3は、配列番号11に示されている配列を含み、CDRL1は、配列番号14または15に示されている配列を含み、CDRL2は、配列番号20または21に示されている配列を含み、CDRL3は、配列番号23に示されている配列を含む。
【0099】
一実施形態では、CDRH1は、配列番号1または3に示されている配列を含み、CDRH2は、配列番号8または9に示されている配列を含み、CDRH3は、配列番号11に示されている配列を含み、CDRL1は、配列番号16または17に示されている配列を含み、CDRL2は、配列番号20または21に示されている配列を含み、CDRL3は、配列番号23に示されている配列を含む。
【0100】
好ましい実施形態では、本発明で使用される好適なモノクローナル抗体は、SRK-015である。SRK-015は、プロ型/潜在型ミオスタチン複合体のプロドメイン内の「アーム」領域に結合し、潜在型/不活性型複合体からの成熟増殖因子(つまり、GDF-8)の放出を阻害する。ミオスタチンのアーム領域は、本明細書では、配列番号116(RELIDQYDVQRDDSSDGSLEDDDYHATTETIITMPTESDFLMQVDGKPKCCFFKFSSKIQYNKVVKAQLWIYLRPVETPTTVFVQILRLIKPMKDGTRYTGIRSLKLDMNPGTGIWQSIDVKTVLQNWLKQPESNLGIEIKALDENGHDLAVTFPGPGEDGLNPFLEVKVTDTPKRSRR)として提供されている。ミオスタチンの他のドメインは、当業者に周知であり、例えば、2016年5月12日に公開されたWO16/073879の少なくとも表2に列挙されている。この文献の内容全体が、参照により明示的に本明細書に組み込まれる。
【0101】
SRK-015の結合は、プロ型/潜在型ミオスタチン特異的であり、したがってSRK-015は、成熟GDF-8またはGDF-11(またはTGFβスーパーファミリーの増殖因子の任意の他のメンバー)とは結合せず、そのため、他の生物学的経路に影響を及ぼさずに、ミオスタチンシグナル伝達の選択的な標的化が可能になる。この結合特異性に加えて、SRK-015は、マウスおよび非ヒト霊長類の両方において好ましい薬物動態学的(PK)および薬力学的(PD)特性を示した(実施例8および9を参照)。一部の実施形態では、SMAを治療するためにヒト患者に投与するためのSRK-015の好適な投薬量は、1~30mg/kgの間、例えば、1~5mg/kg、3~5mg/kg、3~10mg/kg、5~10mg/kg、5~15mg/kg、5~20mg/kg、10~20mg/kgなどの範囲である。一部の実施形態では、患者には、週1回、2週に1回、3週に1回、月1回、6週に1回などでSRK-015を投与する。
脊髄性筋萎縮症を治療するための併用療法
【0102】
驚くべきことに、標的筋肉は、神経入力が筋肉機能に寄与するという認識に基づき、運動ニューロン機能を促進または改善するように設計された修正因子が存在すると、ミオスタチン阻害に対してより大きな応答性をもたらすことができ、運動機能の改善に結び付くことを発見した。加えて、最も重症型のSMAは、典型的には、一般的にミオスタチン介入に好適であるロバストな同化能力を有する集団である非常に幼い子供で初期発病を示す。さらに、SMA患者は、速筋線維の機能が関与することが多い単純な運動活動およびタスクを完了することが困難である。まとめると、SMAは、基礎環境にSMN修正因子があると、ミオスタチン阻害から利益を得ることになる臨床徴候である。
【0103】
したがって、本発明は、各作用剤のみの単独療法と比較して患者の臨床利益の向上を達成する、SMAなどの神経筋障害を治療するための併用療法を提供する。具体的には、患者の運動ニューロン機能の改善を目標とした修正因子を併用して、筋肉機能の増強を目標としたミオスタチンシグナル伝達の特異的阻害剤で罹患筋肉を標的とすることは、後者のみの場合と比べて有益な臨床転帰をもたらす。そのような効果は、単独療法と比較して、補完的、相加的、または相乗効果的であってもよい。補完的効果をもたらす併用療法とは、併用療法によりもたらされる臨床利益の合計が、単独療法(例えば、ニューロン療法のみ、またはミオスタチン阻害療法のみのいずれか)の臨床利益よりも大きいことを意味する。相加効果をもたらす併用療法とは、組み合わせた作用剤の臨床利益が、単独療法の総計を反映することを意味する。相乗効果をもたらす併用療法とは、組合せで達成される利益全体が、各作用剤の相加効果よりも大きいことを意味する。さらに、一部の実施形態では、併用療法の相加効果または相乗効果により、単独療法剤のみの投与と比較して、療法剤の1つもしくは複数のより低頻度の用量投与、および/または1つもしくは複数の療法剤のより低い用量を使用することができる。他の実施形態では、併用療法の療法剤の1つまたは複数の投薬量がより低いことおよび/または用量投与の頻度が少ないことは、療法剤の1つまたは複数による副作用がより少なくなるため、毒性の低下をもたらすことができる。したがって、一部の実施形態では、対象の疾患(SMAなど)を治療するために併用療法の成分として使用される作用剤(SMN修正因子など)の有効量は、単独療法として使用される同じ作用剤の有効量よりも少ない。
【0104】
したがって、本発明の一態様は、特に、SMN修正因子などの運動ニューロン欠損に取り組むための療法を共に受ける患者のSMAを治療するためのミオスタチン阻害剤の使用を提供する。したがって、本発明は、SMN修正因子で治療されている対象の脊髄性筋萎縮症(SMA)を治療するための方法であって、ミオスタチン阻害剤を投与するステップを含む方法を包含する。
【0105】
一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤は、成熟ミオスタチン、プロ型のミオスタチン(例えば、プロおよび/または潜在型ミオスタチン)、またはミオスタチン受容体に結合する、SMAの治療に有効な量の抗体またはその抗原結合性断片を含む。一部の実施形態では、好適な抗体は、成熟ミオスタチンと結合するが、GDF11にも結合する。一部の実施形態では、好適な抗体は、成熟ミオスタチンと選択的に結合するが、GDF11には結合しない。一部の実施形態では、好適な抗体は、成熟ミオスタチンおよび潜在型ミオスタチンと結合するが、プロミオスタチンには結合しない。一部の実施形態では、好適な抗体は、プロおよび潜在型ミオスタチンと結合するが、成熟ミオスタチンには結合しない。一部の実施形態では、そのような抗体は、プロミオスタチン複合体を安定化することにより、ミオスタチン活性化のステップを阻害する。一部の実施形態では、そのような抗体は、タンパク質分解の1つまたは複数のステップを妨害することにより、ミオスタチン活性化のステップを阻害する。例えば、一部の実施形態では、そのような抗体は、ミオスタチンプロドメインのプロテアーゼ依存性切断を阻害する。一部の実施形態では、プロテアーゼは、フューリンもしくはフューリン様プロテアーゼ、またはトロイドもしくはトロイド様プロテアーゼである。一部の実施形態では、そのような抗体は、抗体が中性pHでそ
の抗原に結合し、酸性pHで解離するという点で、pH感受性であってもよい。
【0106】
本発明によると、ミオスタチン阻害剤は、SMN修正因子療法の応答個体、低応答個体、または非応答個体のいずれかであるSMA患者に投与することができる。低応答個体または非応答個体の場合、ミオスタチンシグナル伝達の同時阻害は、部分的には筋肉機能増強により神経筋シグナル伝達を改善し、それにより、非応答個体の神経支配運動ニューロンを、SMN修正因子に対してより応答性にすることができる。特定の理論に束縛されることは望まないが、筋肉成分の増強は、神経筋シグナル伝達の性質が双方向性であるため、正のフィードバックによりニューロン成分に影響を及ぼすことができ、その逆も同様であることが企図される。
【0107】
SMN修正因子の低応答個体および/または非応答個体は、ミオスタチン阻害から利益を得ることができるが、それにもかかわらず、より好ましい患者集団は、SMN修正因子の応答個体であるものを含む。SMN修正因子療法と組み合わせて使用されるミオスタチン阻害療法により、そうした個体の運動機能をさらに改善することができることが企図される。
【0108】
本発明の「併用療法」は、1つの薬物(SMN修正因子など)の薬理学的効果が、別の薬物(ミオスタチン阻害剤など)の薬理学的効果とin vivoで重複することを意味することが意図されている。したがって、2つの薬物を単一製剤として投与する必要はなく、同時に投与する必要もなく、同じ経路で投与する必要もない。例えば、各薬物のPK/PDに応じて、患者は、一般的には、最良の結果を得るために互いに6カ月以内にSMN修正因子およびミオスタチン阻害剤を受容することが企図される。
【0109】
上記で考察されているように、好適な「SMN修正因子」としては、スプライス修飾因子、SMN遺伝子置換または遺伝子療法剤、SMN転写エンハンサー、SMNタンパク質翻訳エンハンサー、およびSMNタンパク質安定化因子が挙げられる。一部の実施形態では、そのようなSMN修正因子は、低分子剤、生物製剤、または核酸であってもよい。一部の実施形態では、SMN修正因子は、Smn2の低分子スプライス修飾因子である。一部の実施形態では、SMN修正因子は、Smn2のアンチセンスRNAスプライス修飾因子である。一部の実施形態では、遺伝子療法は、1つまたは複数の導入遺伝子を患者に導入することを含む。一部の実施形態では、遺伝子移入は、ウイルスベクターおよび脂質に基づく担体などの好適なベクターを使用することにより達成される。ウイルスベクター媒介性遺伝子送達の場合、遺伝子療法は、対象における有害免疫応答を最小限に抑えるために、初期治療に特定の血清型を使用し、その後、後の治療には異なる血清型を使用することを含み得る。一部の実施形態では、遺伝子療法は、CRISPR/Cas9技術またはその変法などの標的ゲノム編集を含む。本開示によるミオスタチン阻害剤と組み合わせて使用されるSMN修正因子の非限定的な例としては、これらに限定されないが、以下のものが挙げられる:ヌシネルセン(Biogen)、AVXS-101(AveXis)、RG7916(Roche/PTC/SMAF)、RG7800(Roche/PTC)、olesoxime(Roche/Trophos)、VY-SMN101(Voyager/Genzyme)、LMI070(Novartis)、SMN遺伝子療法(Genzyme/Sanofi)、およびアンチセンスオリゴヌクレオチド(RaNA)。
患者集団
【0110】
本明細書に記載の併用療法は、対象の任意の型のSMA、例えばSMA I型、II型、III型、およびIV型の治療に好適であってもよい。「対象」、「個体」、または「患者」は、本明細書では同義的に使用され、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを指す。哺乳動物としては、これらに限定されないが、マウス、ラット、サル、ヒト、家畜動物、スポーツ動物、およびペットが挙げられる。実施形態では、対象は、ヒ
ト対象である。
【0111】
本明細書に記載の療法から利益を得ることができる患者集団としては、歩行不可能なSMAを有するもの、および歩行可能なSMAを有するものが挙げられる。それらには、SMA I型、SMA II型、SMA III型、またはSMA IV型を罹患する患者が含まれる。一部の実施形態では、対象は、II型SMAを有する。一部の実施形態では、対象は、歩行不可能なIII型SMAを有する。一部の実施形態では、対象は、I型SMAを有する。一部の実施形態では、対象は、歩行可能なIII型SMAを有する。
【0112】
本発明の一部の実施形態では、ミオスタチン阻害療法剤(例えば、ミオスタチン阻害剤)およびニューロン療法剤(例えば、SMN修正因子)を含む併用療法は、I型、II型、および歩行不可能なIII型SMAなどの歩行不可能な型のSMAのために考慮される。他の実施形態では、ミオスタチン阻害剤の単独療法は、歩行可能なIII型およびIV型SMAなどの、歩行可能な型のSMAのために考慮される。加えて、ミオスタチン阻害剤単独療法は、遺伝子スクリーニングによりSMN遺伝子突然変異のキャリアであると特定された対象を治療するのに好適であってもよい。そのような遺伝子スクリーニングは、新生児/幼児対象、ならびに子宮内(例えば、胎児)で実施することができる。疾患の重症度は、Smn2遺伝子のコピー数およびその発現に大きく依存するため、非常に若年の患者を、最終的に重症型のSMAを発症することになるものと、より軽症型のSMAを発症することになるものとに区別するには、遺伝子型特定だけでは不十分である場合がある。この理由でおよび他の理由で、SMN修正因子などのニューロン療法剤を開始するための決定は、時期尚早であると考えられる場合がある。それにもかかわらず、Smn1の突然変異を特定することにより、ミオスタチン阻害を含む早期薬理学的介入を正当化することができ、その間に臨床利益を提供することができる。
【0113】
一部の実施形態では、SMAを有する対象は、0~6カ月の間の年齢である。SMAを有する対象は、6~15カ月の間の年齢であってもよい。別の実施形態では、SMAを有する対象は、<3歳であってもよい。別の実施形態では、SMAを有する対象は、>3歳であってもよい
【0114】
一実施形態では、対象は、遺伝子スクリーニングを含む当業者に周知の様式で、SMN突然変異のキャリアであると特定されており、例えば、SMAに関連するSMN遺伝子の突然変異を有する。一実施形態では、対象は、例えば、子宮内または幼児のいずれかでの遺伝子スクリーニングにより、SMN突然変異のキャリアであると特定されている。
【0115】
本明細書で使用される場合、対象は、神経筋機能の部分的な損傷を被っていてもよい。神経筋機能および/または神経筋損傷は、当業者に一般的に公知であり、本明細書でより詳細に記載されている方法を使用して測定される。例えば、神経筋機能に対する損傷は、神経刺激に応答した筋肉収縮の良好性が測定される複合筋活動電位(CMAP)を使用して測定してもよい。また、神経筋機能に対する損傷は、所与の神経を形成する運動単位数が決定される運動単位数推定法(MUNE)を使用して測定してもよい。
【0116】
本明細書に記載の方法は、対象を選択することをさらに含んでいてもよい。一部の実施形態では、対象は、筋肉状態または障害、例えばSMAを罹患しているか、または発症するリスクがある。一部の実施形態では、対象は、神経学的シグナル伝達障害に関連する疾患または障害を罹患しているか、または発症するリスクがある。一実施形態では、対象は、遺伝子スクリーニング、例えば、疾患、例えばSMAに関連する遺伝子突然変異、例えばSMNの遺伝子突然変異を特定することに基づいて選択することができる。一実施形態では、対象は、出生の24時間以内の遺伝子スクリーニングに基づいて選択することができる。別の実施形態では、対象は、子宮内での遺伝子スクリーニングに基づいて選択する
ことができる。
投薬量および投与
【0117】
本明細書で開示された方法を実施するため、上記に記載されている有効量の医薬組成物を、静脈内投与などの好適な経路で、例えば、ボーラスとして、またはある期間にわたる連続注入により、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑液包内、髄腔内、経口、吸入、もしくは局所経路により、治療を必要とする対象(例えば、ヒト)に投与することができる。
【0118】
用語は「投与する」、「投与すること」、または「投与」は、抗体またはその抗原結合性断片、例えば、そのような抗体もしくは抗原結合性断片または作用剤を含む医薬組成物を、対象の系にまたは対象内もしくは対象上の特定の領域に(それぞれ、全身投与および局所投与)送達するための任意の方法を含む。
【0119】
一部の実施形態では、対象には、ミオスタチン阻害剤および/またはSMN修正因子が、ほぼ週1回、2週に1回、月1回などで投与される。典型的には、ミオスタチン阻害剤の好適な投薬量は、約0.1~30mg/kgの間を含む。一般的には、半減期などの実験的な考慮事項が、投薬量の決定に寄与するだろう。そのようなミオスタチン阻害剤は、静脈内注射/注入により投与することができる。一部の実施形態では、そのようなミオスタチン阻害剤は、皮下注射により、例えば皮膚下に投与してもよい。他の実施形態では、ミオスタチン阻害剤は、髄腔内に、例えば脊髄内に投与してもよい。同様に、SMN修正因子、例えばスプライス修飾因子は、経口で、例えば口から投与してもよい。
【0120】
一実施形態では、対象は、ミオスタチン阻害剤の投与前に、SMN修正因子を受容している。別の実施形態では、対象は、ミオスタチン阻害剤の投与と同時に、SMN修正因子を同時に受容している。別の実施形態では、対象は、ミオスタチン阻害剤の投与後に、SMN修正因子を受容することになる。
【0121】
一実施形態では、対象は、ミオスタチン阻害剤投与の6カ月以内に、SMN修正因子を受容している。一実施形態では、対象は、ミオスタチン阻害剤投与の3カ月以内に、SMN修正因子を受容している。一実施形態では、対象は、ミオスタチン阻害剤投与の6カ月、5カ月、4カ月、3カ月、2カ月、または1カ月以内に、SMN修正因子を受容している。一実施形態では、対象は、ミオスタチン阻害剤投与の4週間、3週間、2週間、または1週間以内に、SMN修正因子を受容している。一実施形態では、対象は、ミオスタチン阻害剤投与と同じ日に、SMN修正因子を受容している。
【0122】
一実施形態では、対象は、ミオスタチン阻害剤投与の6カ月以内に、SMN修正因子を受容する予定である。一実施形態では、対象は、ミオスタチン阻害剤投与の3カ月以内に、SMN修正因子を受容する予定である。一実施形態では、対象は、ミオスタチン阻害剤投与の6カ月、5カ月、4カ月、3カ月、2カ月、または1カ月以内に、SMN修正因子を受容する予定である。一実施形態では、対象は、ミオスタチン阻害剤投与の4週間、3週間、2週間、または1週間以内に、SMN修正因子を受容する予定である。
【0123】
一実施形態では、併用療法のSMN修正因子成分は、アンチセンスヌクレオチドであり、髄腔内注射により対象の中枢神経系に投与される。一実施形態では、アンチセンスヌクレオチドは、数カ月毎に、例えば、月1回、2カ月毎に、3カ月毎に、4カ月毎に、5カ月毎に、6カ月毎に、または12カ月毎に、対象に投与される。別の実施形態では、初期治療は、より高頻度の用量投与、次いで、その後のより低頻度の維持用量を含んでいてもよい。
【0124】
別の実施形態では、併用療法のSMN修正因子成分は、低分子であり、経口で対象に投与される。一実施形態では、低分子は、対象に1日1回投与される。別の実施形態では、低分子は、週1回、2週に1回、または月1回対象に投与される。
【0125】
一実施形態では、併用療法のSMN修正因子成分は、遺伝子療法剤であり、静脈内注射により投与される。一実施形態では、SMN修正因子は、遺伝子療法剤であり、髄腔内注射により投与される。一実施形態では、初期治療は、より高頻度の用量投与、次いで、その後のより低頻度の維持用量を含んでいてもよい。より低頻度の維持用量は、遺伝子療法剤に対する不適切な免疫応答を回避するために、好ましい場合がある。
【0126】
一実施形態では、併用療法のミオスタチン阻害剤成分は、静脈内投与により対象に投与される。一実施形態では、併用療法のミオスタチン阻害剤部分は、経口投与により対象に投与される。一実施形態では、併用療法のミオスタチン阻害剤成分は、皮下注射により対象に投与される。一実施形態では、ミオスタチン阻害剤は、1日1回、週1回、2週に1回、または月1回対象に投与される。一実施形態では、初期治療は、より高頻度の用量投与、次いで、その後のより低頻度の維持用量を含んでいてもよい。
【0127】
SMAを治療するための「有効量」は、本明細書で使用される場合、これらに限定されないが、以下のものを含む臨床有効性を達成する量であってもよい:筋萎縮を遅延または緩和すること、α-運動ニューロンの喪失を遅延させること、筋肉マーカーの発現を予防または低減すること、筋肉内脂肪沈着(筋組織の脂肪置換)を予防、緩和、または遅延させること、人工呼吸装置/レスピレータの使用を予防または遅延させること、患者が車椅子生活になるまでの時間を遅延させること、拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを、未治療対照群と比較して≧1ポイント、または修正因子治療前に測定されたベースラインから≧1ポイント増加させること、12カ月、24カ月、または36カ月間にわたって、拡大ハマースミス運動機能評価スケールの漸進的減少を遅延させること、CHOP
INTENDスコアを、未治療対照と比較して≧3ポイント増加させること、MFM-32スコアを、未治療対照と比較して少なくとも1ポイント増加させること、歩行可能なSMAから歩行不可能なSMAへの移行を遅延させること、入院回数の低減など。こうした測定の各々は、下記により詳細に記載されている。
【0128】
本明細書で使用される場合、用語「治療すること」は、障害、疾患の症状、または疾患/障害に対する素因を治癒する、癒やす、緩和する、軽減する、変更する、直す、寛解する、改善する、または影響を及ぼすことを目的として、1つまたは複数の活性作用剤を含む組成物を、ミオパシーに関連する疾患/障害、疾患/障害の症状、または疾患/障害に対する素因を有する対象に適用または投与することを指す。
【0129】
ミオスタチン阻害剤およびニューロン修正因子を含む併用療法が一般的には好ましいが、一部の場合では、ミオスタチン阻害剤の単独療法を考慮してもよい。そのような単独療法が考慮される好適な患者集団としては、歩行可能なIII型SMAおよびIV型(例えば、成人発病性)SMAなどの、より軽症型のSMAを有するものが挙げられる。上記で詳細に考察されている基準(ii)の要件に基づき、例えば、歩行能力を有する患者は、十分な神経筋機能を保持している。したがって、ミオスタチン阻害は、同時ニューロン修正因子療法の非存在下でさえ、こうした患者の筋肉機能を増強する利益を提供することができる。したがって、軽症型のSMA(例えば、歩行可能なSMA)を治療するためのミオスタチン阻害剤を含む単独療法は、本発明により包含される。
【0130】
一部の実施形態では、歩行可能なIII型SMAを有する患者を治療するためのミオスタチン阻害剤単独療法は、歩行不可能なSMAへの疾患進行の遅延を支援することができる。一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤単独療法を受ける患者は、対照群(同様の
診断だが、単独療法を受けない)と比較して、運動機能を保持またはさらに改善することができる場合がある。しかしながら、そのような患者は、ミオスタチン阻害の利益をブーストすることができるニューロン療法剤の非存在下でミオスタチン阻害剤に応答することが留意されるべきである。一部の実施形態では、歩行可能なSMAを有する患者を治療するためのミオスタチン阻害剤単独療法は、臨床的に有意義な転帰をもたらすのに有効な量のミオスタチン阻害剤を、対象に投与するステップを含む。こうした実施形態では、臨床的に有意義な臨床転帰は、未治療対照群よりも少なくとも1ポイント(≧1)高いか、またはミオスタチン阻害剤治療前に測定されたベースラインよりも少なくとも1ポイント(≧1)高い改善された拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアに相当する。一部の実施形態では、有意義な臨床転帰は、それぞれSMN修正因子療法またはミオスタチン阻害剤療法を受ける前に測定されたベースラインまたは修正値よりも少なくとも1ポイント(≧1)高い改善された拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアに相当してもよい。他の実施形態では、それぞれSMN修正因子療法またはミオスタチン阻害剤療法を受ける前に測定されたベースラインまたは修正値よりも、少なくとも2ポイント(≧2)、少なくとも3ポイント(≧3)、少なくとも4ポイント(≧4)、少なくとも5ポイント(≧5)、少なくとも6ポイント(≧6)、少なくとも7ポイント(≧7)、少なくとも8ポイント(≧8)、少なくとも9ポイント(≧9)、少なくとも10ポイント(≧10)、少なくとも12ポイント(≧12)、少なくとも15ポイント(≧15)、少なくとも20ポイント(≧20)、少なくとも25ポイント(≧25)、少なくとも30ポイント(≧30)、少なくとも35ポイント(≧35)、少なくとも40ポイント(≧40)、少なくとも45ポイント(≧45)、少なくとも50ポイント(≧50)、または少なくとも60ポイント(≧60)高い拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアである。一部の実施形態では、有意義な臨床転帰は、未治療対照群よりも少なくとも1ポイント(≧1)高い改善された拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアに相当してもよい。一部の実施形態では、有意義な臨床転帰は、未治療対照群よりも、少なくとも2ポイント(≧2)、少なくとも3ポイント(≧3)、少なくとも4ポイント(≧4)、少なくとも5ポイント(≧5)、少なくとも6ポイント(≧6)、少なくとも7ポイント(≧7)、少なくとも8ポイント(≧8)、少なくとも9ポイント(≧9)、または少なくとも10ポイント(≧10)、少なくとも12ポイント(≧12)、少なくとも15ポイント(≧15)、少なくとも20ポイント(≧20)、少なくとも25ポイント(≧25)、少なくとも30ポイント(≧30)、少なくとも35ポイント(≧35)、少なくとも40ポイント(≧40)、少なくとも45ポイント(≧45)、少なくとも50ポイント(≧50)、または少なくとも60ポイント(≧60)高い改善された拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアに相当してもよい。
【0131】
一部の実施形態では、本明細書で提供されたミオスタチン阻害剤療法は、ミオスタチン阻害剤を受容しない対照群と比較して、ミオスタチン阻害剤を受容した患者集団において疾患ステータスの維持を支援することができる。疾患ステータスの維持は、例えば、そうした患者の運動機能の経時的な変化により評価される、罹患筋肉のさらなる悪化を防止すること、または疾患進行速度を遅延もしくは緩徐することを指す。したがって、運動機能試験スコアの改善が示されない場合でさえ、ミオスタチン阻害剤療法は、疾患進行に対抗することにより臨床利益を提供することができる。したがって、そのような臨床利益は、対照群と比較して、ミオスタチン阻害剤で治療した患者集団が以前の試験スコアを維持するかまたは経時的なスコア低減速度の緩徐を示すまで、観察される期間がより長くなるにつれて現れ得る。
ミオスタチン阻害剤およびSMN修正因子の生物学的効果
【0132】
本明細書に記載されている単独のまたはSMN修正因子と組み合わせたミオスタチン阻害剤の臨床効果は、種々の手段によりモニターし、および/または有効性を評価することができる。例示的なそのような生物学的に有益な効果は、本明細書に提供されている。対
象における有益な生物学的効果は、SMN修正因子と組み合わせてミオスタチン阻害剤を投与することにより達成することができる。一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤および/またはSMN修正因子は、下記に記載の生物学的効果の1つまたは複数を引き起こすのに有効な量で投与される。
【0133】
SMA患者で確実に測定することができる機能スケールを評価する能力は、患者の疾患進行ならびに療法の効果を経時的に追跡するために重要である。筋肉機能は、筋力および力の発生などの生理学的な測定により評価することができるが、運動機能スケールは、日常生活における患者の機能性に関し、強度それ自体を定量化する尺度よりも多くの意味および関連性を伝える様式で、疾患進行をモニターする。限定することは意図されていないが、SMA患者を評価するために利用することができるいくつかの公知の運動機能評価試験のリストは、下記に提供されている。他の試験としては、これらに限定されないが、粗大運動機能尺度(GMFM)、6分間歩行試験、10メートル歩行/走行試験、床からの立ち上がり所要時間試験、タイムドアップアンドゴー試験(TUG、timed up and go test)、および階段昇段試験が挙げられ、これらの方法は、当業者に周知である。
拡大ハマースミス運動機能評価スケール
【0134】
本明細書に記載のミオスタチン阻害剤による治療前、治療中、および治療後のいずれでも、SMAを有する患者の疾患重症度は、当業者に周知の多数の試験およびアッセイを使用して分類することができる。ハマースミス運動機能評価スケール、拡大版(HFMSE)は、SMA II型および歩行不可能なIII型の検証されているエンドポイントであり、当業者に周知である。試験体系は、運動機能を評価する33項目(例えば、運動タスクまたは活動)を含む。II型速筋線維を必要とする主に筋力で駆動される短時間の運動活動である項目としては、以下のものが挙げられる:手の支えなしで3秒間座っていること、座位から横になること、仰向けからうつ伏せに回転すること、3秒間腕立ての姿勢をとること、膝位から立ち上がること、4段の階段を昇降すること、前方に12インチジャンプすることなど。
【0135】
一部の実施形態では、対象は、修正因子またはミオスタチン阻害剤療法剤を受容する前(「ベースライン」)に、<66の、例えば≦65、≦60、≦55、≦50、≦40、≦35、≦30、≦25、≦20などのベースラインの拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを有する。一実施形態では、対象は、修正因子またはミオスタチン阻害剤を受容する前に、≦50のベースラインの拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを有する。一実施形態では、対象は、修正因子またはミオスタチン阻害剤を受容する前に、≦40のベースラインの拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを有する。一実施形態では、対象は、修正因子またはミオスタチン阻害剤を受容する前に、≦35のベースラインの拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを有する。一実施形態では、対象は、修正因子またはミオスタチン阻害剤を受容する前に、≦30のベースラインの拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを有する。一実施形態では、対象は、修正因子またはミオスタチン阻害剤を受容する前に、≦25のベースラインの拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを有する。一実施形態では、対象は、修正因子またはミオスタチン阻害剤を受容する前に、≦20のベースラインの拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを有する。
【0136】
一部の実施形態では、対象は、SMN修正因子療法後に、増加した(または「修正後の」)拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを有する。一部の実施形態では、対象は、SMN修正因子の受容後、スコアを、ベースラインよりも少なくとも3ポイント、少なくとも4ポイント、少なくとも5ポイント、少なくとも6ポイント、少なくとも7ポイント、少なくとも8ポイント、少なくとも9ポイント、少なくとも10ポイント、少なく
とも11ポイント、少なくとも12ポイント、少なくとも13ポイント、少なくとも14ポイント、または少なくとも15ポイント改善する。一部の実施形態では、対象は、SMN修正因子療法後に、増加した拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを有する。一部の実施形態では、対象は、スコアを、少なくとも3ポイント、少なくとも4ポイント、少なくとも5ポイント、少なくとも6ポイント、少なくとも7ポイント、少なくとも8ポイント、少なくとも9ポイント、少なくとも10ポイント、少なくとも11ポイント、少なくとも12ポイント、少なくとも13ポイント、少なくとも14ポイント、または少なくとも15ポイント改善する。一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤でさらに治療すると(つまり併用療法)、対象は、SMN修正因子治療を受ける前に測定したベースラインよりも、または未治療対照群との比較のいずれかで、スコアを、少なくとも3ポイント、少なくとも4ポイント、少なくとも5ポイント、少なくとも6ポイント、少なくとも7ポイント、少なくとも8ポイント、少なくとも9ポイント、少なくとも10ポイントさらに改善する。
【0137】
例えば、多くの歩行不可能なSMA患者は、合計66ポイントのうち、15から30ポイントまでの範囲で、ベースラインのハマースミススコアを有する。SMN修正因子療法の結果、そのような患者は、スコアを、対応するベースラインよりも平均で4~10ポイント改善することができる。ミオスタチン阻害剤を含む併用療法では、そのような患者は、スコアをさらに改善することができる。一部の実施形態では、そのような患者は、拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを、対応するベースラインよりも1~20ポイント改善する。一部の実施形態では、そのような患者は、拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを、SMN修正因子療法後に測定された既に修正されたスコアよりも少なくとも1ポイントさらに改善する。
【0138】
SMA患者では、種々の運動試験スコア体系の差がわずか1ポイントであっても、臨床的に有意であることに留意すべきである。これを正しく理解するために、歩行不可能なSMA患者の標準HFMSE体系の試験項目に基づく説明のための例を下記に提供する。
【0139】
HFMSE試験のタスク1および2は、上体を起こして3+秒間座ること(背部の支持なしで)を含む。患者が、手の支えなしで3つまたはそれより多く数える間座っていることができれば、2ポイントが与えられ、一方の手を支えとして使用して3つ数える間バランスを維持できれば、1ポイントが与えられ、バランスをとるのに両手が必要であれば、ポイントは与えられない。実生活の設定では、手を支えとして使用せずに座る能力(2ポイント)と、バランスをとるのにさえ一方の手の使用を必要とすること(1ポイント)との差は、非常に大きい。それは、前者の場合、患者は、上体を起こして座ったまま活動を行う(物品を持つことなど)のに両手を使用することができるからである。試験のタスク3は、患者が、座ったままで、一方の手を上げて、耳レベルよりも上の頭部に触ることができるか否かを評価する。この一見単純なタスクを実施する能力は、助けを借りずに自分の毛髪をとかすことができることまたは帽子をかぶることができることに差がでる場合がある。
運動機能尺度(MFM)
【0140】
運動機能尺度(MFM)試験は、約6および62歳の歩行可能および歩行不可能な小児および成人を含む、様々な度合いの疾患重症度を有するSMA患者の運動機能の種々のパラメーターを評価するための遺伝的スケールを提供する。様々な患者集団に対して適用される複数のMFMの改訂版が存在する。例えば、MFM32は、6歳より年長の小児に好適であり、修正版であるMFM20は、6歳未満の小児で検証されている。MFMは、臨床試験で使用して、経時的な悪化を反映する患者の運動機能の変化をモニターまたは検出することに成功している(例えば、clinicaltrials.gov NCT02628743を参照)。
【0141】
一実施形態では、SMAを有し、本明細書に記載の療法剤または併用療法剤が投与されている対象は、療法剤または併用療法剤の投与後に少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、または少なくとも5倍のMFMスコアの増加を示す。
上肢モジュール(ULM)
【0142】
上肢モジュール(ULM)試験は、特にアドオン式のモジュールとして設計されており、腕機能の評価を提供する。ULMは、典型的には粗大運動機能の尺度には含まれていない日常生活の活動の成績を捕捉することが意図される。評価は、小児が確実に実施することができ、完了するのに約10分間かかる9項目の活動を含む。ULMは、多施設設定および臨床試験で使用されている。
【0143】
一実施形態では、SMAを有し、本明細書に記載の療法剤または併用療法剤が投与されている対象は、療法剤または併用療法剤の投与後に少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、または少なくとも5倍のULMスコアの増加を示す。
改訂版上肢モジュール
【0144】
改訂版上肢モジュール(RULM)は、SMAを有する患者の腕機能の評価を可能にするものであり、良好な妥当性および信頼性を示しており、臨床研究での使用に好適である。RULMは、30カ月と幼い小児が完了を成功させることができる20項目の活動を含んでいた。こうした項目としては、膝からテーブルまで手をのばすこと、小さな物品を拾い上げること、ボタンを押すこと、紙を裂くこと、ジップロック容器を開けること、手を肩よりも上に上げること、および様々な重量の物品を様々な高さに持ち上げることなどのタスクが挙げられる。結果尺度は、研究者らにより使用され、治験のある特定の治療が患者に任意の効果を示しているか否かを評価する試験である。正しい結果尺度を使用することは、治験が、治療の奏功を証明することができることを確認するために重要である。SMA News Todayによると、RULMは、疾患範囲の虚弱側で漸進的筋力低下を効果的に捕捉した。6分間歩行試験
【0145】
6分間歩行試験(6MWT)は、SMAを有する患者の信頼性が高く有効な機能評価であることが報告されており、疾患の疲労要素を捕捉することができる。例えば、SMA試験患者で観察された疲労は、6MWT中の最初の1分から最後の1分までに歩行速度が17%減少したことに反映されていた。
【0146】
一実施形態では、SMAを有し、本明細書に記載の療法剤または併用療法剤が投与されている対象は、療法剤または併用療法剤の投与後に少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、または少なくとも5倍のRULMスコアの増加を示す。
CHOP INTENDスコア
【0147】
CHOP INTENDは、脊髄性筋萎縮症I型の運動技能を評価するために開発された臨床医評価質問票である。16項目が0から4までのスコアで評価される。グローバルスコアは、0から64までの範囲であり、より高いスコアが、より良好な運動技能を示す。(Glanzman AM、Mazzone E、Main M、Pelliccioni M、Wood J、Swoboda KJ、Scott C、Pane M、Messina S、Bertini E、Mercuri E、Finkel RS.、The Children's
Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders (CHOP
INTEND): test development and reliability.、Neuromuscul Disord.、2010年3月;20巻(3号):155~61頁を参照)。CHOPS INTENDは、検証されており、SMA I型対象での信頼性が示されている。CHOPS INTENDは、部分的にはTIMP(幼児運動機能試験)から派生したものであり、神経筋疾患を有する虚弱幼児の運動機能を測定するように設計されている。この試験は、能動的運動(自発
的、目標指向的)および誘発反射運動を含むが、呼吸または吸乳評価は含まれていない。
【0148】
一実施形態では、SMAを有し、本明細書に記載の療法剤または併用療法剤が投与されている対象は、療法剤または併用療法剤の投与後に、16のCHOP項目の少なくとも1つが、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、または少なくとも5倍の増加を示す。
CMAP試験
【0149】
神経筋損傷は、神経の電気刺激を提供し、その神経により供給される筋肉を覆う表面電極からの複合筋活動電位を記録する複合筋活動電位(CMAP)試験を使用して評価することができる。この試験は、手首、肘、ならびに頻度はより少ないが腋窩および腕神経叢を刺激することを含んでいてもよい。
【0150】
CMAPは、個々の筋線維活動電位の合計電圧レスポンスを測定する。典型的には、対象の標的筋肉に電極を設置し、安定したベースラインの振幅が得られるまで30~60秒毎に2~3分間にわたって繰り返した超最大刺激(つまり、電極と接触している神経または筋線維をすべて活性化するのに必要なものよりも著しく大きな強度を有する刺激)を与えることによりCMAPを得た。その後、対象は、筋虚血を防止するために15秒毎に短時間(3~4秒)休止して、2~5分間にわたって標的筋肉を収縮させた。筋肉の運動時は毎分、30分間の運動後またはCMAP振幅のさらなる減少が観察されなくなるまでは、1~2分毎にCMAPを記録した。CMAP振幅は、典型的にはミリボルト(mV)で測定される。運動後の最大振幅から運動後の最小振幅を減算し、それを運動後の最大振幅で除算することにより、振幅減少のパーセンテージを算出した。筋肉疾患を有していない人々の群で実施したCMAP試験では、CMAP振幅減少は、5.4%から28.8%までの範囲だった(平均15%)。CMAP振幅の40%よりも大きな減少を、筋肉疾患の診断であるとみなした。
【0151】
一部の実施形態では、対象のCMAP振幅の減少は、少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、90%、またはそれよりも大きい。一部の実施形態では、筋肉疾患(例えばSMA)を有する対象の負のCMAPピークの振幅は、筋肉疾患を有していない対象(対照対象)の対応する負のCMAPピークの振幅と比較して、実質的により低い。一実施形態では、筋肉疾患を有する対象の負のCMAPピークの振幅は、対照対象の対応する負のCMAPピークの振幅よりも、少なくとも30%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、90%、またはそれを超えてより低い。CMAP試験は、本明細書に記載のように、治療前後のCMAP漸減を比較することにより、療法の有効性を決定するために使用することができる。
【0152】
一実施形態では、SMAを有し、本明細書に記載の療法剤または併用療法剤が投与されている対象は、療法剤または併用療法剤の投与後に少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、または少なくとも5倍のCMAPの増加を示す。
MUNE試験
【0153】
運動単位数推定法(MUNE)は、筋肉または筋肉群の運動ニューロンの概数を決定するために使用することができる試験である。MUNE試験は、試験されている筋肉または筋肉群に供給する運動ニューロンまたは軸索(運動制御入力)の推定数を表す計算値を提供する。加えて、MUNEは、運動単位サイズを測定するための手段を提供し、運動ニューロン喪失の追跡を可能にする。MUNE試験は、典型的には、筋萎縮性側索硬化症および脊髄性筋萎縮症などの神経筋障害で最も頻繁に使用される。
【0154】
典型的には、MUNE試験では、皮膚表面の双極電極は、電極を設置した部位のその運
動単位(つまり、運動ニューロンまたは軸索)および構成筋線維のすべてを活性化することに相当する、その中の運動軸索のすべてを活性化するのに十分な強度で神経を刺激し、完全な脱分極および筋肉収縮をもたらした。この筋肉活動により発生する電気インパルスを、皮膚表面の筋肉に設置された電極で記録する。健常筋肉では、運動単位すべておよびそれらのすべての筋線維が、この試験中に同時に活性化され、最大運動応答である複合運動活動電位(CMAP、compound motor action potential)が生成される。CMAPの振幅は、活性化された運動単位および筋線維の総数に対応する。各部位の第3の応答の振幅を合計し、その後9で除算して、平均単一運動単位活動電位(SMUP、average single motor unit action potential)振幅を得る。この振幅を、最大複合運動単位活動電位(CMAP、maximum compound motor unit action potential)振幅に除算して、MUNEを得る。
【0155】
正常健常対象の平均MUNEは、225(±87)であり、例えば、ベースラインで筋肉疾患(例えば、ALSまたはSMA)を有する対象では、41.9(±39)だった。筋肉状態または障害を有する対象は、明白な経時的漸減を示し、平均減退率は、1カ月当たりおよそ9%と高い。一実施形態では、筋肉疾患または障害を有する対象のMUNE値の1カ月の平均減退率は、筋肉疾患を有していない対照対象の対応するMUNE値と比べて、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、60%であるか、またはそれよりも大きい。筋肉疾患を有する対象は、正常なCMAP振幅測定値を有するが、対照対象の50%未満のMUNE値を有する場合があることも考えられる。一実施形態では、正常なCMAP振幅値を有する対象は、筋肉疾患を有していない対照対象の対応するMUNE値と比べて、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、60%、またはそれを超えてより低いMUNE値を有する。
【0156】
一実施形態では、SMAを有し、本明細書に記載の療法剤または併用療法剤が投与されている対象は、療法剤または併用療法剤の投与後に少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、または少なくとも5倍のMUNE値の増加を示す。
ヒト対象における筋肉の質量および/または機能に対する効果
【0157】
ヒト対象におけるミオスタチン阻害剤の投与および/または筋組織の機能。一部の実施形態では、筋組織は、平滑筋組織、骨格筋組織、および心筋組織からなる群から選択される。平滑筋組織は、長く先細りの細胞で構成されており、一般的に不髄意であり、アクチン/ミオシン比が非常により高く、目立ったサルコメアがなく、その静止長よりも非常に短く収縮することができることが横紋筋と異なる。平滑筋細胞は、腸周囲および子宮の、特に血管壁に見出される。心筋組織は、脊椎動物心臓のポンプ活動を担当する横紋筋だか不髄意の組織である。個々の心筋細胞は、横紋筋組織のように互いに融合して多核構造を形成することはない。骨格筋組織は、随意制御下にある。筋肉線維は、シンシチウムであり、筋原線維、縦列整列のサルコメアを含む。骨格筋線維には、それらの特定のミオシン重鎖(MHC)アイソフォームの発現に応じて2つの基本型が存在する:遅筋(例えば、I型線維)および速筋(例えば、II型線維)。遅筋は、典型的には、好気的である場合のほうが動作しやすいように構成されており、長距離走などの長期持久行動を可能にすることを支援し、速筋は、典型的には、より急速に疲労するが、嫌気的である場合のほうが動作しやすいように構成されており、短距離走などの強力な爆発的な動きに使用される。遅筋線維と速筋線維との区別は、ミオシンアデノシントリホスファターゼ(ATPase)の組織化学的染色およびミオシン重鎖の型に基づく。遅筋線維(主にI型線維)は、MHCアイソフォームIであり、3つの速筋アイソフォーム(主にII型線維)は、MHCアイソフォームIIa、MHCアイソフォームIId、およびMHCアイソフォームIIbである(S. Schiaffino、J. Muscle Res. Cell. Motil.、10巻(1989年)
、197~205頁)。一部の実施形態では、ヒト対象の速筋組織の質量および/または機能が増加される。他の実施形態では、ヒト対象の遅筋組織の質量および/または機能が増加される。
【0158】
一部の実施形態では、有効量のミオスタチン阻害剤、例えば、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性断片の対象への投与は、筋肉質量の増加を引き起こすことができる。好ましくは、筋肉質量のそのような増加は、対象の利益またはそうでなければ健康ステータスの改善に臨床的に有意義である。例えば、筋肉質量の臨床的に有意義な変化は、患者の易動度、自己ケア、代謝などを改善することができる。一部の実施形態では、筋肉質量の増加は、1つまたは複数の除脂肪筋肉の増加である。一部の実施形態では、身体全体または実質的に身体全体の筋肉が測定可能な効果が示されるように、筋肉質量のそのような増加は、全身的な効果である。他の実施形態では、効果は、筋肉のある特定の群/型に局在化されている。
【0159】
一部の実施形態では、筋組織、例えば除脂肪筋組織の質量は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%増加される。他の実施形態では、筋組織、例えば除脂肪筋組織の質量は、少なくとも約1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%、または50~100%増加される。筋肉質量のそのような増加は、MRIによる断面積(例えば、前腕断面)、外周、隔膜幅(例えば超音波による)などの測定を含む、任意の好適な公知の方法により推定または測定することができる。
【0160】
一部の実施形態では、本明細書に記載されている有効量の抗体またはその抗原結合性断片の対象への投与は、筋肉機能の増強を引き起こすことができる。筋肉機能は、限定ではないが、力の発生、握力(例えば、最大握力)、持久力、筋肉酸化能力、動的把持持久力などを含む、様々な尺度により評価することができる。一部の実施形態では、感度が限定的であるとはいえ、筋肉質量を示すことが検証されているバイオマーカーとして、血清クレアチニンレベルを使用する。
【0161】
一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤の投与は、ヒト対象の自発運動機能を増加させる。一部の実施形態では、ヒト対象の自発運動機能は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%増加される。他の実施形態では、ヒト対象の自発運動機能は、少なくとも約1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%、または50~100%増加される。
【0162】
別の実施形態では、ミオスタチン阻害剤の投与は、ヒト対象の筋力を増加させる。一部の実施形態では、ヒト対象の筋力は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%増加される。他の実施形態では、ヒト対象の筋力は、少なくとも約1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%、または50~100%増加される。
【0163】
一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤および/またはSMN修正因子の投与は、患者の機能性増強に対応する、筋肉機能の臨床的に有意義な変化を引き起こすことができる。一部の実施形態では、機能性増強は、患者の易動度、自己ケア、代謝などの改善を含む
。
筋肉内脂肪沈着のレベルに対する効果
【0164】
ミオスタチン阻害剤および/またはSMN修正因子の投与は、ヒト対象の筋肉内脂肪沈着のレベルに影響を及ぼす。一実施形態では、筋組織の脂肪置換が、予防、緩和、または遅延される。本明細書で使用される場合、用語「脂肪組織」は、脂肪を貯蔵する結合組織を含む脂肪を指す。脂肪組織は、前脂肪細胞に由来する。
【0165】
脂肪組織の質量は、当業者に公知の任意の方法により決定することができる。例えば、脂肪組織は、二重エネルギーX線吸収法(DXA)により測定することができる。また、筋肉内脂肪沈着の定量化は、磁気共鳴画像法(MRI)を使用して決定することができる。例えば、MRデュアルエコーデュアルフリップアングルスポイル勾配リコール(SPGR、spoiled gradient recalled)MRI技法、または三点ディクソンMRI技法を、対象の筋肉内脂肪沈着のレベルの評価に使用することができる。筋肉内脂肪沈着を定量化するための前述のMRI技法およびプロトコールは、例えば、Leroy-Willigら、Magnetic Resonance Imaging、15巻、7号、737~744頁、1997年、およびGaetaら、Skeletal Radiol、DOI 10.1007/s00256-011-1301-5に記載さ
れており、これら文献の内容は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。しかしながら、筋肉内脂肪沈着を決定および定量化する他の方法は、当技術分野で公知であり、当業者であれば明白であることが認識されるべきである。
【0166】
一部の実施形態では、筋肉内脂肪沈着の置換レベルは、対象への療法剤の投与後に、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%減少する
ヒト対象の生活の質に対する効果
【0167】
SMA患者など、重度または慢性状態を有する患者の生活の質の評価は、身体的、精神的、社会的、および他のパラメーターの種々の局面を評価するための統合的手法を含んでいてもよい。一般的には、より高い度合いの生活の質には、以下のものなどの要因が関連する:支援技術の利用し易さ、地域社会の再建、下肢の機能性ならび歩行および車椅子易動度、精神保健、神経学的障害および自律神経機能異常の重症度、疼痛管理、機能的独立性および自己ケア、上肢の強さ、ならびに痙性制御。本明細書に記載のミオスタチン阻害剤の投与は、ヒト対象の生活の質を増加させて、標準化された生活の質試験/体系により測定して臨床的に有意義な改善を達成する。
【0168】
患者の生活の質を評価するためのいくつかの好適な試験が当技術分野で公知であり、限定ではないが、以下のものが挙げられる:脊髄障害自立度評価法(SCIM、Spinal Cord Independence Measure)、機能的自立度評価法(FIM、Functional Independence Measure)、失禁生活の質質問票(I-QOL、Incontinence Quality of Life
Questionnaire)、生活満足度質問票(LISAT-9、LISAT-11)、生活の質インデックス(QLI)、身体障害を有する成人のための生活の質プロファイル(QOLP-PD、Quality of Life Profile for Adults with Physical Disabilities)、福祉の質(QWB、Quality of Well Being)および福祉-自己管理の質(QWB-SA、Quality of Well Being-Self-Administered)、Qualiveen、生活満足度スケール(SWLS、Satisfaction with Life Scale、Deiner Scale)、ショートフォーム36(SF-36、Short Form 36)、疾病影響プロファイル68(
SIP68)、ならびに世界保健機構生活の質-BREF(WHOQOL-BREF、World Health Organization Quality of Life-BREF)。
【0169】
一部の実施形態では、生活の質は、SF-36生活の質スコア体系に従って評価される。これは、検証されているスコア体系であり、8ポイントの変化が、臨床的に有意義であるとみなされる。一部の実施形態では、有効量のミオスタチン阻害剤の投与は、標準化された生活の質試験スコアで臨床的に有意義な改善をもたらす。
【0170】
本明細書で使用される場合、用語「臨床的に有意義な改善」は、標準レベルを超える有意な改善を指す。一部の実施形態では、患者のSF-36生活の質スコアは、本明細書に記載されている有効量の抗体またはその抗原結合性断片による治療後に、治療前の患者のスコアと比較して、少なくとも8ポイント増加する。一部の実施形態では、患者は、SF-36生活の質試験により評価してより高いスコア、例えば、SF-36生活の質スコア体系のスコアの少なくとも9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、または50ポイント増加を達成する。他の実施形態では、SF-36生活の質スコア体系のスコアは、少なくとも約8~10、10~15、15~20、20~30、30~40、40~50、8~20、8~30、8~40、または8~50増加する。
【0171】
一部の実施形態では、生活の質尺度の1つまたは複数を使用して、本明細書で開示されたミオスタチンシグナル伝達の阻害剤による治療前または治療後に、患者の生活の質を評価する。この試験の利点には、以下のものが挙げられる:i)実施が容易であること、ii)身体機能および精神保健が両方とも評価されること、ならびにiii)いくつかの臨床徴候で高度に検証されていること。
筋肉喪失または萎縮の予防に対する効果
【0172】
有効量のミオスタチン阻害剤および/またはSMN修正因子の投与は、筋肉喪失および/または萎縮を発症するリスクのあるヒト対象の筋肉喪失または萎縮を予防、遅延、または緩和する。一部の実施形態では、筋肉喪失または萎縮は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%減少または予防される。他の実施形態では、筋肉喪失または萎縮は、ミオスタチン阻害剤および/またはSMN修正因子を受容しない対照群と比較して、少なくとも約1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%、または50~100%減少または予防される。
【0173】
特定の実施形態では、上記で参照した対照群は、SMN修正因子で治療されているに過ぎない。異なる実施形態では、上記で参照した対照群は、SMN修正因子で治療されていない。
【0174】
有効量のミオスタチン阻害剤および/またはSMN修正因子の投与は、罹患筋肉のさらなる悪化の予防、またはこうした患者の疾患進行速度の遅延もしくは緩徐をもたらすことができる。一部の実施形態では、有効量のミオスタチン阻害剤および/またはSMN修正因子の投与は、ミオスタチン阻害剤および/またはSMN修正因子を受容しない対照群と比較して、筋肉喪失および/または萎縮を発症するリスクのあるヒト対象の筋肉喪失または萎縮を遅延させることができる。一部の実施形態では、筋肉喪失または萎縮は、ミオスタチン阻害剤および/またはSMN修正因子を受容しない対照群と比較して、ミオスタチン阻害剤および/またはSMN修正因子を受容するヒト対象では、少なくとも1カ月、2
カ月、3カ月、6カ月、8カ月、12カ月、2年、3年、5年、または10年間遅延される。特定の実施形態では、上記で参照した対照群は、SMN修正因子のみで治療されているに過ぎない。異なる実施形態では、上記で参照した対照群は、SMN修正因子で治療されていない。
【0175】
罹患筋肉のさらなる悪化の予防は、以下のものを含む疾患ステータスを維持することを指す:例えば、対照と比較して運動機能試験スコアをより長期間にわたって維持すること、運動機能試験により測定/モニターして疾患進行速度がより遅いこと、入院がより少ないこと、傷害(例えば骨折)がより少ないこと、人口呼吸装置を必要とするまでの時間が長いこと、車椅子生活になるまでの時間が長いことなど。
【0176】
本明細書に記載されているミオスタチン阻害剤および/またはSMN修正因子を使用することによる筋肉喪失または萎縮の予防は、罹患筋肉に関する運動機能を評価するための任意の好適な方法により容易にモニターまたは評価することができる。
骨恒常性に対する効果
【0177】
有効量のミオスタチン阻害剤の投与は、患者の骨に臨床的に有意義な保護を提供することができる。そのような効果としては、これらに限定されないが、患者の骨密度の増加、骨質量の増加、骨塩密度の増加、骨強度の増加、骨喪失の予防、および骨折頻度の低減が挙げられる。当業者であれば、骨恒常性の種々のパラメーターを測定するために使用することができる好適な技法に精通している。そのような技法としては、マイクロCT走査などの画像化技法、および中央二重エネルギーX線吸収法(central dual-energy x-ray absorptiometry)(中央DXA)試験が挙げられる。
代謝制御に対する効果
【0178】
有効量のミオスタチン阻害剤の投与は、代謝制御に対して臨床的に有意義な効果を提供することができる。こうした効果としては、これらに限定されないが、患者の代謝制御異常発症の予防、および患者の代謝制御異常の緩和が挙げられる。
i)ヒト対象のインスリン感受性に対する効果
【0179】
インスリン感受性を測定するための方法は、当技術分野で公知であり、例えば、グルコース負荷試験、および空腹時インスリンまたはグルコース試験である。グルコース負荷試験中、空腹患者は、75グラムの経口用量のグルコースを摂取してから、血中グルコースレベルを、その後2時間にわたって測定する。7.8mmol/L(140mg/dl)未満の血糖は、正常であるとみなされ、7.8~11.0mmol/Lの間(140~197mg/dl)の血糖は、耐糖能障害(IGT)とみなされ、11.1mmol/L(200mg/dl)よりも多いまたはそれと等しい血糖は糖尿病とみなされる。空腹時インスリン試験の場合、25mIU/Lまたは174pmol/Lよりも高い空腹時血清インスリンレベルは、インスリン抵抗性とみなされる。一部の実施形態では、代謝速度は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%増加される。他の実施形態では、代謝速度は、少なくとも約1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%、または50~100%増加される。
ii)ヒト対象の脂肪組織のレベルに対する効果
【0180】
ミオスタチン阻害剤、例えば、プロ型/潜在型ミオスタチンと特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片の投与は、ヒト対象の脂肪組織のレベルに影響を及ぼす。本明細
書で使用される場合、用語「脂肪組織」は、脂肪を貯蔵する結合組織を含む脂肪を指す。脂肪組織は、前脂肪細胞に由来する。その主な役割は、脂質の形態でエネルギーを貯蔵することであるが、身体のクッションまたは断熱としての役割もある。脂肪組織には、2つの型:エネルギーを貯蔵する白色脂肪組織(WAT)および体熱を発生させる褐色脂肪組織(BAT)がある。
【0181】
褐色脂肪組織(BAT)は、寒さまたは過剰摂食に応じた化学エネルギーの消散に関与することが公知であり、エネルギー収支を調節する能力も有する。褐色脂肪組織の活性化は、ヒトのグルコース恒常性およびインスリン感受性を改善することが示されており、インスリン機能障害を有するものは誰でも、BATの活性化から利益を得ることができることが示唆される(Stanfordら、J Clin Invest.、2013年、123巻(1号):215~223頁)。
【0182】
ベージュ脂肪組織は、ベージュ化としても公知のWATの褐色化の結果として生成される。これは、WAT貯蔵場所内の脂肪細胞がBATの特徴を発生する際に生じる。ベージュ脂肪細胞は、多胞性の外観(いくつかの脂質滴を含む)を呈し、脱共役タンパク質1(UCP1)の発現を増加させる。このようにして、このような通常はエネルギーを貯蔵する白色脂肪細胞は、エネルギーを放出する脂肪細胞になる(Harmsら、Nature Medicine.、2013年、19巻(10号):1252~63頁)。
【0183】
内臓脂肪または腹部脂肪(臓器脂肪または腹腔内脂肪としても公知である)は、腹腔内部に位置し、臓器(胃、肝臓、腸、腎臓など)間に詰め込まれている。内臓脂肪は、皮膚下の皮下脂肪、骨格筋に散在する筋肉内脂肪とは異なる。大腿および臀部などの下半身の脂肪は、皮下であり、一貫して離間されている組織ではないのに対して、腹部の脂肪は、ほとんど内臓性であり、半流動性である。過剰な内臓脂肪は、中心性肥満または「おなか太り」として公知であり、腹部が過度に突出し、ボディ体積指数(BVI)などの新たに開発されたものは、腹部体積および腹部脂肪を測定するように特に設計されている。また、過剰な内臓脂肪は、2型糖尿病、インスリン抵抗性、炎症性疾患、および他の肥満関連の疾患と関連付けられている(Mokdadら、JAMA: The Journal of the American Medical Association.、2001年、289巻(1号):76~9頁)。
【0184】
脂肪組織の質量は、当業者に公知の任意の方法により決定することができる。例えば、脂肪組織は、二重エネルギーX線吸収法(DXA)により測定することができる。
【0185】
ミオスタチン阻害剤、例えば、プロ型/潜在型ミオスタチンと特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片の投与は、ヒト対象の褐色脂肪組織のレベルおよび/またはベージュ脂肪組織のレベルを増加させる。その一方で、ミオスタチン阻害剤、例えば抗プロ型/潜在型ミオスタチン抗体またはその抗原結合性部分の投与は、ヒト対象の白色脂肪組織および内臓脂肪組織のレベルを減少させる。
【0186】
一部の実施形態では、褐色またはベージュ脂肪組織のレベルは、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%増加される。他の実施形態では、褐色またはベージュ脂肪組織のレベルは、少なくとも約1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%、または50~100%増加される。
【0187】
一部の実施形態では、白色または内臓脂肪組織のレベルは、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、
35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%減少される。他の実施形態では、白色または内臓脂肪組織のレベルは、少なくとも約1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%、または50~100%減少される。
iii)ヒト対象の脂肪対筋組織の比に対する効果
【0188】
ミオスタチン阻害剤、例えば、プロ型/潜在型ミオスタチンと特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片の投与は、ヒト対象の脂肪対筋組織の比を減少させる。一部の実施形態では、脂肪対筋組織の比は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%減少される。他の実施形態では、脂肪対筋組織の比は、少なくとも約1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%、または50~100%減少される。
iv)ヒト対象のグルコース取込みに対する効果
【0189】
ミオスタチン阻害剤、例えば、プロ型/潜在型ミオスタチンと特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片の投与は、ヒト対象の組織によるグルコース取込みに影響を及ぼす。一部の実施形態では、筋組織によるグルコース取込みが増加される。例えば、筋組織によるグルコース取込みは、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%増加される。一部の実施形態では、筋組織によるグルコース取込みは、少なくとも約1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%、または50~100%増加される。
【0190】
他の実施形態では、白色脂肪組織、肝臓組織、および血管組織によるグルコース取込みが低減される。一部の実施形態では、白色脂肪組織、肝臓組織、および血管組織によるグルコース取込みは、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%低減される。他の実施形態では、白色脂肪組織、肝臓組織、および血管組織によるグルコース取込みは、少なくとも約1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%、または50~100%低減される。
v)ヒト対象の筋肉内脂肪浸潤に対する効果
【0191】
ミオスタチン阻害剤、例えば、プロ型/潜在型ミオスタチンと特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片の投与は、ヒト対象の筋肉内脂肪浸潤を減少させる。一部の実施形態では、筋肉内脂肪浸潤は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%減少される。他の実施形態では、筋肉内脂肪浸潤は、少なくとも約1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%、または50~100%減少される。
α-運動ニューロン喪失遅延の効果
【0192】
有効量のミオスタチン阻害剤の投与は、α-運動ニューロンの喪失を遅延させることができる。当業者であれば、α-運動ニューロンの喪失を示す種々のパラメーターを測定するために使用することができる好適な技法に精通している。そうした技法としては、均一
系時間分解蛍光法(HTRF、Cisbio Bioassays)、マイクロCT走査法、ならびに光学および電子顕微鏡法などの、画像化技法を使用する免疫蛍光方法が挙げられる。
バイオマーカーの発現
【0193】
SMAのある特定のバイオマーカー(例えば、血漿バイオマーカー)のレベルの変化を測定して、病理の進行、ならびに治療に対する患者の応答性をモニターすることができる。患者試料に由来する好適なバイオマーカーのレベルの変化を測定するための好適な方法およびアッセイは、当技術分野で公知である。したがって、本発明の検出方法は、mRNA、タンパク質、cDNA、またはゲノムDNAを、例えば、in vitroならびにin vivoの生物学的試料で検出するために使用することができる。例えば、mRNAを検出するためのin vitro技法としては、ノーザンハイブリダイゼーションおよびin situハイブリダイゼーションが挙げられる。マーカータンパク質を検出するためのin vitro技法としては、酸素免疫測定アッセイ(ELISA)、ウェスタンブロット、免疫沈降法、および免疫蛍光法が挙げられる。ゲノムDNAを検出するためのin vitro技法としては、サザンハイブリダイゼーションが挙げられる。mRNAを検出するためのin vivo技法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、ノーザンハイブリダイゼーション、およびin situハイブリダイゼーションが挙げられる。さらに、マーカータンパク質を検出するためのin vivo技法としては、タンパク質に対する標識抗体またはその断片を対象に導入することが挙げられる。例えば、抗体は、対象におけるその存在および位置を標準的画像化技法により検出することができる放射性マーカーで標識されていてもよい。
【0194】
より詳しくは、マーカーの発現レベルに対する作用剤(例えば、ミオスタチン阻害剤および/またはSMN修正因子)の影響のモニタリングは、基本的薬物スクリーニングだけでなく、臨床試験、ならびに疾患維持および進行の評価、ならびに特定の療法に対する患者の応答性の評価にも適用することができる。例えば、マーカー発現に影響を及ぼす作用剤の有効性を、例えば、治療前、治療中、および/または治療後に、SMAの治療を受ける対象から収集される生物学的試料でモニターし、マーカーのレベルおよび/またはマーカーの発現レベルにおける変化を経時的に測定することによってなされ得る。好ましい実施形態では、本発明は、作用剤による対象の治療の有効性をモニターするための方法であって、(i)作用剤を投与する前に、対象から投与前試料を得るステップ、(ii)投与前試料中の、本発明の1つまたは複数の選択したマーカーの発現レベルを検出するステップ、(iii)対象から1つまたは複数の投与後試料を得るステップ、(iv)投与後試料中のマーカーの発現レベルを検出するステップ、(v)投与前試料中のマーカーの発現レベルを、1つまたは複数の投与後試料中のマーカーの発現レベルと比較するステップ、および(vi)治療レジメンの有効性を評価し、必要な場合、それに応じて治療を変更または調整するステップを含む方法を提供する。例えば、治療の経過中のマーカー遺伝子の発現増加は、投薬量が有効でないこと、および投薬量の増加が望ましいことを示す場合がある。反対に、マーカー遺伝子の発現減少は、治療が効果的であること、および投薬量を変更する必要性がないことを示す場合がある。
【0195】
好適なバイオマーカーとしては、Kobayashiら(2013年)PLOS ONE、8巻、4号、e60113頁に開示されている血漿タンパク質が挙げられる。試料収集が容易であるため、血清試料に存在する1つまたは複数のバイオマーカーが好ましいが、ある特定の場合では、例えば組織生検により収集される筋肉バイオマーカーを使用してもよい。
【0196】
一部の実施形態では、SMA血漿タンパク質マーカーは、下記のリストから選択される:CILP2(軟骨中間層タンパク質2)、TNXB(テネイシンXB)、CLEC3B(C型レクチンドメインファミリー3、メンバーB(テトラネクチン))、TNXB(テ
ネイシンXB)、ADAMTSL4(ADAMTS様4)、THBS4(トロンボスポンジン4)、COMP(軟骨オリゴマーマトリックススタンパク質)、CRTAC1(軟骨酸性タンパク質1)、F13B(凝固第XIII因子、Bポリペプチド)、PEPD(ペプチダーゼD)、LUM(ルミカン)、CD93(補体成分1、qサブコンポーネント、受容体1)、補体C2/B混合物、APCS(アミロイドP成分、血清)、VTN(ビトロネクチン)、DPP4(ジペプチジルペプチダーゼ4(CD26、アデノシンデアミナーゼ複合タンパク質2))、CRP(C反応性タンパク質、ペントラキシン関連)、HBB(ヘモグロビンベータ)、GSN(ゲルゾリン)、NCAM1(神経細胞接着分子1)、CFI第I因子(補体)、APOA4(アポリポタンパク質AIV)、VTN(ビトロネクチン)、F13A1(凝固第XIII因子、A1ポリペプチド)、INHBC(インヒビン、ベータC)、RPS27A(ユビキチンおよびリボソームタンパク質S27a前駆体)、CDH13(カドヘリン13、Hカドヘリン(心臓))、補体C2/B混合物、C2補体成分2、CP(セルロプラスミン(フェロキシダーゼ))、HBA(ヘモグロビンサブユニットアルファ)、QSOX1(Quiescin Q6)、LRG1(ロイシンリッチアルファ2-糖タンパク質1)、C9(補体成分9)、SERPINA10(セルピンペプチダーゼ阻害剤、クレードA(アルファ1抗プロテイナーゼ、抗トリプシン)、メンバー10)、ALP(アルカリホスファターゼ、肝臓/骨/腎臓)、fc-ガンマ受容体III-A/B混合物、PROC(プロテインC(凝固第Va因子および第VIIIa因子の失活因子))、VCAM1(血管細胞接着分子1)、GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)、OMD(オステオモジュリン)、IGKVD41(免疫グロブリンカッパ可変41)、IGFBP6(インスリン様増殖因子結合タンパク質6)、PTPRG(チロシンホスファターゼタンパク質、受容体タイプ、G)、S100A9(S100カルシウム結合タンパク質A9(カルグラニュリンB))、VNN1(Vanin 1)、SERPIND(セルピンペプチダーゼ阻害剤、クレードD(ヘパリンコファクター)、メンバー1)、CA1(炭酸脱水酵素I)、CTSD(カテプシンD(リソソームアスパルチルペプチダーゼ))、HP(ハプトグロビン)、SELENBP1(セレン結合タンパク質1)、ORM2(オロソムコイド2)、PRDX2(ペルオキシレドキシン2)、AOC3(アミンオキシダーゼ、銅含有3(血管接着タンパク質1))、COL6A3(コラーゲン、VI型、アルファ3)、PZP(妊娠性血漿タンパク質)、COL6A1(コラーゲン、VI型、アルファ1)、PARK7(パーキンソン病(常染色体劣性、早期発症型)7)、THBS1(トロンボスポンジン1)、CAT(カタラーゼ)、LCP1(リンパ球サイトゾルタンパク質1(Lプラスチン))、AFM(アファミン)、HPR(ハプトグロビン関連タンパク質)、SELL1(セレクチンL(リンパ球接着分子1))、ENG(エンドグリン)、PFN1(プロフィリン1)、PI16(ペプチダーゼ阻害剤16)、SERPINA6(セルピンペプチダーゼ阻害剤、クレードA(アルファ1抗プロテイナーゼ、抗トリプシン)、メンバー6)、F9(凝固第IX因子)、PROCR(プロテインC受容体、内皮)、ORM1(オロソムコイド1)、NEO1(ネオゲニン相同体1)、MMRN2(マルチメリン2)、LGB(ベータ-ラクトグロブリン)、CNTN4(コンタクチン4)、SHBG(性ホルモン結合グロブリン)、CA2(炭酸脱水酵素II)、IGFBP5(インスリン様増殖因子結合タンパク質5)、PLTP(リン脂質転移タンパク質)、FGA(フィブリノーゲンアルファ鎖)、TPM4(トロポミオシン4)、MB(ミオグロビン)、SPP1(オステオポンチン)、AXL(AXL受容体チロシンキナーゼ)、APSC(アミロイドP成分、血清)、CRP(C反応性タンパク質、ペントラキシン関連)、CCL22(ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド22(マクロファージ由来ケモカイン))、THBD(トロンボモジュリン)、CALCA(カルシトニン)、LEP(レプチン)、NPPB(脳性ナトリウム利尿ペプチドb)、MMP2(マトリックスメタロプロテイナーゼ2)、CK(クレアチンキナーゼ 筋肉/骨)、ACE(アンギオテンシン転換酵素)、FAPB3(脂肪酸結合タンパク質(心臓))、CD40(CD40リガンド)、MIF(マクロファージ遊走阻害因子)、ANGPT2(アンジオポエチン2)、AHSG(アルファ-2-H
S-糖タンパク質(フェチュインA))、CFH(補体因子H)、IL8(インターロイキン8)、C3(補体成分3)、PPY(膵臓ポリペプチド)、VEGFA(血管内皮増殖因子)、TF(トランスフェリン)、PGF(胎盤増殖因子)、EGF(上皮増殖因子)、GSTA1(グルタチオンSトランスフェラーゼアルファ)、SOD1(スーパーオキシドディスムターゼ1)、VCAM1(血管細胞接着分子1)、PAI1(プラスミノーゲン活性化因子阻害因子1)、CSF1(マクロファージコロニー刺激因子1)、S100A12(S100タンパク質A12)、VTN(ビトロネクチン)、FASLG(Fasリガンド)、A1M(アルファ-1-ミクログロブリン)、AST(アスパラギン酸(Astartate)トランスアミナーゼ)、ACCT(アルファ-1-抗キモトリプシン)、
CCL3(ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド3(マクロファージ炎症性タンパク質1ベータ))、SORT1(ソルチリン)、TBG(チロキシン結合グロブリン)、APOA1(アポリポタンパク質A1)、MPOミエロペルオキシダーゼ)、B2M(ベータ2ミクログロブリン)、EPO(エリスロポエチン)、MMP10(マトリックスメタロプロテイナーゼ10)、PROS1(ビタミンK依存性タンパク質S)、MMP7(マトリックスメタロプロテイナーゼ7)、AGER(終末糖化産物受容体)、IL18(インターロイキン18)、CCL11(ケモカインC-Cモチーフリガンド11)、IGA(免疫グロブリンA)、Cペプチド(プロインスリンCペプチド)、A2M(アルファ-2-マクログロブリン)、PDGF BB(血小板由来増殖因子)、CCL16(ケモカインC-Cモチーフリガンド16)、IL1A(インターロイキン1アルファ)、APOA4(アポリポタンパク質A4)、MMP9(マトリックスメタロプロテイナーゼ9)、SPP1(オステオポンチン)、CLEC3B(C型レクチンドメインファミリー3、メンバーB(テトラネクチン))、IGFBP6(インスリン様増殖因子結合タンパク質6)、FABP4(脂肪酸結合タンパク質(脂肪細胞))、CHI3L1(キチナーゼ3様1(YKL-40))、LEP(レプチン)、CTSD(カテプシンD)、MST1(マクロファージ刺激1(肝細胞増殖因子様))、MIF(マクロファージ遊走阻害因子)、S100A4(S100カルシウム結合タンパク質A4)、GLO1(グリオキサラーゼ1(ラクトイルグルタチオンリアーゼ))、ENG(エンドグリン)、FTL1(Fms関連チロシンキナーゼ1(血管内皮増殖因子受容体))、ERBB2(ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2))、NDKB(ヌクレオシドホスファターゼキナーゼアイソフォームB)、PRDX-4(ペルオキシレドキシン4)、PLAUR(プラスミノーゲン活性化因子、ウロキナーゼ受容体)、IL6R(インターロイキン6受容体)、CCL24(ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド24(エオタキシン2))、GSN(ゲルゾリン)、PSAT1(ホスホセリンアミノトランスフェラーゼ1)、およびTGFB1(形質転換増殖因子ベータ1)。
【0197】
一部の実施形態では、バイオマーカーは、2つのSMA集団の上位13個のSMA運動機能退行因子を示す下記のリストから選択される:COMP、AXL、CD93 PEPD、THBS4、LUM、MB、DPP4、SPP1、CHI3L1、CDH13、APCS、およびLEP。
【0198】
加えてまたはその代わりに、電気インピーダンスミオグラフィー(EIM)、定量的筋肉磁気共鳴画像法(qMRI)、二重エネルギーX線吸収法(DEXA)などを含む、当技術分野で公知の任意の好適な生理学的測定を実施して、筋肉機能を評価することができる。
筋肥大を促進するための療法
【0199】
別の態様では、本発明は、筋肥大を促進して、筋肉の同化能力を保持または回復している対象の筋肉機能を改善するためのミオスタチン阻害剤の使用であって、同化経路(タンパク質産生の細胞機構)が十分に保全されている(つまり、機能的および活性である)ことを特徴とする、使用を提供する。
【0200】
これは、典型的には若年/成長中の対象(例えば、小児科集団)に当てはまるが、より年長の対象の場合、筋肉は、ロバストな同化能力を失っている場合があり、言いかえれば、同化-異化バランスは、後者に向かって傾斜する傾向がある。ミオスタチン阻害がそうした対象において至適効果をもたらすため、同化経路を刺激する作用剤をミオスタチン阻害剤と併用して投与することが企図される。細胞経路の同化部門を同時にブーストすることにより、標的筋肉を、ミオスタチン阻害の効果に対してより応答性にすることができる。
【0201】
典型的には、同化能力を保持または回復した対象の筋肉機能は、テストステロンなどの同化ホルモンを対象に投与し、筋肉成長および筋力に対するその効果を測定することにより評価される。同化ホルモンに対するこうした対象の応答は、当業者に公知の方法により測定することができる。
【0202】
一部の実施形態では、筋肉質量増加から利益を得る対象には、本明細書に記載されているものなどのミオスタチン阻害剤が投与される。ミオスタチン阻害治療が、対象に有意な利益をもたらさない場合、同化刺激因子のさらなる投与を、本開示に従ってミオスタチン阻害剤の効果をブーストするために併用療法として行うことを考慮することができる。
【0203】
筋肉成長増強から利益を得ることができる対象は、ミオパシーの臨床症状を示していてもよく、または示していなくともよい。したがって、そのような使用は、それにもかかわらず筋肉機能改善から利益を得ることができる全体的に「健常」な個体に対して、筋肉質量の増加、ある特定の運動機能(タスク)を実施する能力の増強などを含んでいてもよい健康利益を提供することができる。
【0204】
本明細書に記載のミオスタチン阻害剤は、単独療法または併用療法のいずれでも、ミオパシーの1つまたは複数の臨床症状を示す患者の治療に好適である。本明細書で使用される場合、用語「ミオパシー」は、典型的には筋力低下をもたらす筋肉構造または機能の障害を特徴とする筋肉状態を指す。また、「ミオパシー」は、筋肉構造は正常だが、次いで筋肉機能に影響を及ぼすニューロン入力が正常に機能しないかまたは異常であることを特徴とする筋肉状態を含んでいてもよい。また、「ミオパシー」は、炎症性ミオパシーおよび/または自己免疫性ミオパシー、例えば重症筋無力症を含んでいてもよい。
【0205】
ミオパシーとしては、性質が神経筋性または筋骨格性である筋肉状態が挙げられる。一部の実施形態では、ミオパシーは、遺伝性ミオパシーである。遺伝性ミオパシーとしては、限定ではないが、ジストロフィー、筋緊張症、先天性ミオパシー(例えば、ネマリンミオパシー、マルチ/ミニコアミオパシー、および中心核ミオパシー)、ミトコンドリアミオパシー、家族性周期性ミオパシー、炎症性ミオパシー、および代謝性ミオパシー(例えば、糖原病および脂質蓄積障害)が挙げられる。一部の実施形態では、ミオパシーは、後天性ミオパシーである。後天性ミオパシーとしては、限定ではないが、外来物質誘導性ミオパシー(例えば、薬物誘導性ミオパシーおよびグルココルチコイドミオパシー、アルコール性ミオパシー、ならびに他の毒性作用剤によるミオパシー)、筋炎(例えば、皮膚筋炎、多発性筋炎(polymositis)、および封入体筋炎)、骨化性筋炎、横紋筋変性、およ
びミオグロビン尿症、および非活動性萎縮が挙げられる。一部の実施形態では、ミオパシーは、筋肉の長期不使用により引き起こされ、正常な筋肉機能の悪化に結び付く場合のある非活動性萎縮である。非活動性萎縮は、入院、骨折(例えば、股関節骨折)の結果であってもよく、または神経傷害によるものであってもよい。一部の実施形態では、ミオパシーは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、腎不全、AIDS、心臓状態、および/またはがんによる悪液質症候群などの疾患または障害と関連している。一部の実施形態では、ミオパシーは、加齢と関連している。一部の実施形態では、ミオ
パシーは、筋肉減少症と関連している。一部の実施形態では、ミオパシーは、傍脊柱筋萎縮(PMA)と関連している。
【0206】
一部の実施形態では、ミオパシーは、一次ミオパシーである。一実施形態では、一次ミオパシーは、非活動性萎縮を含む。一部の実施形態では、非活動性萎縮は、股関節骨折、人工関節置換、クリティカルケアミオパシー(critical care myopathy)、脊髄傷害、または卒中発作に関連している。一部の実施形態では、ミオパシーは、例えば、筋ジストロフィーに関連する遺伝的筋力低下である。
【0207】
一部の実施形態では、ミオパシーは、筋肉喪失または機能障害が疾患病理に対して二次的である二次ミオパシーである。一部の実施形態では、二次ミオパシーは、除神経または悪液質を含む。一部の実施形態では、二次ミオパシーは、モニターニューロン機能障害に関連する除神経により引き起こされる。一部の実施形態では、運動ニューロン機能障害は、運動ニューロンに影響を及ぼす遺伝子突然変異による。運動ニューロンの突然変異が関与することが公知の疾患としては、これらに限定されないが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)および脊髄性筋萎縮症(SMA)が挙げられる。一部の実施形態では、二次ミオパシーは、腎不全、AIDS、心臓状態、がん、または加齢に関連する悪液質である。一部の実施形態では、二次ミオパシーは、手術などの医療手技中に被った望ましくない神経傷害を含む神経傷害により引き起こされる。標的組織(例えば、標的筋肉)の機能に対するそのような傷害の有害効果は、本明細書に記載のミオスタチン阻害剤の投与により効果的に治療することができる。例えば、そのような投与は、ミオパシーを予防および/もしくは緩和することができ、ならびに/または回復を促進することができる。
【0208】
ミオパシー治療の意図されている臨床転帰が、主に筋肉成長(肥大)を促進することである場合、患者には、本明細書に記載されているものなどのミオスタチン阻害剤を、最初に単独療法として投与してもよい。療法に対する応答性は、臨床効果がモニターされるべきである。有意義な利益が、合理的な時間枠内に、例えばミオスタチン阻害療法を開始した1~6カ月内に単独療法から得られない場合、併用療法として同化刺激因子による補完を行うことを考慮してもよい。
【0209】
あるいは、異化基礎環境を有するミオパシー患者は、ミオスタチン阻害の十分な効果を実現して、有意義な筋肉成長を達成するために、同化を同時にブーストすることが必要とされる可能性が高く、したがって併用療法の候補とみなされる。こうした患者集団としては、これらに限定されないが、高齢(例えば65歳またはそれよりも年長)であるもの、筋肉減少症の臨床症状を示しているもの、悪液質の臨床症状を示しているもの、骨粗鬆症の症状を示しているもの、頻発または慢性感染症に罹患しているもの、全身性免疫不全を引き起こす状態を有するもの、長期不動状態を引き起こす重度傷害または疾患を有するものなどが挙げられる。
【0210】
したがって、本発明は、ミオスタチン阻害剤および同化刺激因子を含む併用療法を包含する。そのような併用療法は、患者が運動および/または代謝機能の改善から利益を得るが、その同化能力が損なわれている任意の状態を治療するために有利であり得る。
【0211】
ミオスタチン阻害および同化刺激を両方とも達成することを目標とした治療レジメンは、特に高齢集団に有利であってもよい。したがって、本開示は、ミオスタチンシグナル伝達の阻害剤、および同化経路をブーストまたは促進する作用剤、例えば同化刺激因子が両方とも組み込まれている併用療法を包含する。例えば、そのような併用療法は、筋肉減少症などの加齢関連の筋肉状態を治療するのに有用であってもよい。これは、同化活性が、タンパク質合成の減少、より緩徐された代謝などにより明らかなように、正常な加齢プロセスの一部として徐々に失われ、この背景では、ミオスタチン阻害は、その筋肉増強効果
を発揮する効果がより低い場合があるという観察に基づく。同様に、そのような併用療法は、悪液質、孤発性封入体筋炎(SIBM)、および非活動関連筋肉消耗などの状態の治療に有用であってもよい。細胞性同化機構の活性を取り戻すまたはブーストする作用剤の存在下で、ミオスタチン阻害の筋肉増強効果を完全に達成することができることが企図される。これは、非常に多くの臨床ミオスタチン阻害剤が、現在まで、臨床的に有意義な転帰の達成に限定的な成功しか示していない理由を、少なくとも部分的に説明することができる。こうした研究は、典型的には、その同化能力が、年齢、または平衡を同化状態よりも異化状態に向けて優先的に駆動する他の条件により弱体化されていた可能性の高いより年長の患者で行われた。この認識は、ミオスタチン阻害剤療法に応答する可能性が高い適切な患者集団の選択を解明し、本発明は、そのような認識を包含する。
【0212】
本明細書で使用される場合、細胞性同化経路をブーストする作用剤としては、タンパク質分解よりもタンパク質合成を刺激または促進する任意の作用剤が挙げられ、本明細書では集合的に「同化刺激因子」と呼ばれる場合がある。典型的には、組織/臓器での同化刺激は、組織/臓器でのタンパク質分解よりも多くの正味陽性タンパク質合成の結果として肥大を導くことができる。対照的に、異化経路が同化経路よりも優勢である場合、正味結果は、タンパク質合成よりもタンパク質分解が促進されることによる組織/臓器の萎縮を含む場合がある。したがって、正味転帰は、in vivoでのシグナル伝達のこうした相反する機能部門間のバランスである可能性が高い。
【0213】
多くの同化刺激因子が、当技術分野で公知である。同化刺激因子としては、限定ではないが、IGF1アゴニスト、同化ホルモン、テストステロン、ステロイド(例えば、アンドロゲン、オキシメトロン、エストロゲン、プロゲストーゲン(progestrogen)など)、GH/ソマトトロピン、副甲状腺ホルモン(PTH)、プロスタグランジン、レプチン、スタチン、およびそれらの任意の誘導体が挙げられる。タンパク質合成を促進もしくは刺激し、および/または一般的には代謝速度を増加させるあらゆる作用剤が、同化刺激因子として機能することができる。
【0214】
本発明によると、同化刺激因子は、ミオスタチン阻害剤療法の応答個体、低応答個体、または非応答個体のいずれかである患者に投与することができる。低応答個体または非応答個体では、同化経路の同時刺激は、対象の同化能力を改善することができ、それによりミオスタチン阻害剤が、運動および/または代謝機能の改善から利益を得ることを可能にする。
【0215】
それにもかかわらず、ミオスタチン阻害剤(inhibitior)の低応答個体および/または非応答個体は、同化刺激から利益を得ることができるが、代替的な患者集団は、ミオスタチン阻害剤の応答個体であるものを含む。同化刺激因子療法と組み合わせて使用されるミオスタチン阻害療法により、そうした個体の運動機能をさらに改善することができることが企図される。
筋萎縮を予防するための療法
【0216】
一部の実施形態では、本発明の方法は、筋肉喪失(萎縮)の予防に好適である。筋萎縮の予防は、一般的に健康が良好であるものを含む広範囲の患者集団にわたって望ましい場合がある。したがって、本発明は、意図されている臨床転帰が、筋肉喪失の予防を含むあらゆる状況で有用である。これは、筋肉分解および/または脂肪合成を促進することにより、身体のエネルギー消費(グルコースレベルなど)を感知して筋肉恒常性を制御する「代謝スイッチ」としてミオスタチンがより幅広い役割を果たすという概念に少なくとも部分に基づく。本明細書に記載のミオスタチン阻害療法を使用して、この作用に対抗することができる。
【0217】
したがって、ミオスタチン阻害療法に好適な患者としては、種々の遺伝子障害、筋肉状態、代謝障害、傷害などを被っているものが挙げられる。傷害としては、これらに限定されないが、筋肉、骨、腱、および神経に対する傷害または損傷を挙げることができる。長期不動状態を引き起こす重度傷害または疾病を有する患者も、ミオスタチン阻害療法から利益を得ることができる。
【0218】
一部の実施形態では、本発明の方法は、筋萎縮の予防に好適である。筋萎縮は、不使用期間中に生じる(例えば、非活動性萎縮)および/または傷害もしくは全身性炎症亢進に応答した(例えば悪液質)高度に制御された異化プロセスである。筋萎縮は、脊髄傷害などの全身性状態、ならびに声帯不全麻痺/声帯麻痺などのより局所的な状態を含む、広範囲の臨床状態を含んでいてもよい。本明細書で使用される場合、用語「声帯不全麻痺/声帯麻痺」は、喉頭筋肉(喉頭筋)への異常な神経入力に起因する状態を指す。麻痺は、神経インパルスが完全に遮断され、運動が生じないことを含んでいてもよく、不全麻痺は、神経インパルスが部分的に遮断され、喉頭筋の運動が弱くなるかまたは異常をきたすことを含んでいてもよい。一部の実施形態では、抗ミオスタチン抗体またはその抗原結合性断片は、例えば、罹患声帯筋肉への直接局所注射により、局所投与される。
【0219】
一部の実施形態では、本発明の方法は、傍脊柱筋萎縮(PMA)を含む、筋肉状態および障害の治療または予防に好適である。一実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性断片は、術後傍脊柱筋萎縮、つまり手術後の傍脊柱筋萎縮である傍脊柱筋萎縮を治療する方法で使用される。一実施形態では、治療方法は、神経傷害依存性筋萎縮を治療することを含む。一実施形態では、本明細書に記載の治療方法は、術後神経傷害依存性筋萎縮を治療することを含む。一実施形態では、治療方法は、術後筋萎縮を治療することを含み、手術が脊椎手術である。一実施形態では、治療方法は、術後筋萎縮を治療すること含み、脊椎手術が、腰椎手術または腰椎術、例えば、腰椎固定術、腰椎非固定術(lumbar nonfusion procedure)、後方腰椎固定術、前方腰椎固定術、低侵襲性(MIS)後方腰椎減圧術、低侵襲性(MIS)後方腰椎固定術、同様の非MIS術などである。一実施形態では、治療方法は、腰椎固定術後の傍脊柱筋萎縮を治療することを含む。一実施形態では、治療方法は、後方腰椎固定術後の傍脊柱筋萎縮を治療することを含む。一実施形態では、治療方法は、非MIS腰椎固定術後の傍脊柱筋萎縮を治療することを含む。一部の実施形態では、有効量の投与は、傷害、手術、および他の医療手技などの状態からの回復を促進または加速させる。好適なそのような状態は、神経損傷(傷害または外科もしくは他の臨床手技に起因するか否かにかかわらず)に関連する状態を含んでいてもよい。
【0220】
本開示の別の態様は、先天性ミオパシーに関連する疾患または状態を有する対象を治療する方法を含む。例示的な先天性ミオパシーとしては、限定ではないが、X連鎖性筋細管ミオパシー、常染色体優性中心核ミオパシー、常染色体劣性中心核ミオパシー、ネマリンミオパシー、および先天性線維型不均衡ミオパシーが挙げられる。
【0221】
本開示の別の態様は、筋ジストロフィーに関連する筋肉疾患または状態を有する対象を治療する方法を含む。例示的な筋ジストロフィーとしては、限定ではないが、デュシェンヌ型、ベッカー型、顔面肩甲上腕型(FSH)、および肢帯型筋ジストロフィーが挙げられる。
【0222】
本開示の別の態様は、泌尿婦人科関連疾患または状態、声門障害(狭窄)、外眼ミオパシー、手根管(carpel tunnel)、ギラン-バレー、または骨肉腫を有する対象を治療する方法を含む。
本発明を実施するための非限定的な実施形態としては、以下のものが挙げられる。
【0223】
一実施形態では、本発明は、SMN修正因子療法を受けているか、SMN修正因子療法を受けることが予想される対象の脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療に使用するためのミオスタチン阻害剤を提供する。
【0224】
上記で参照されている本発明の一部の実施形態では、対象は、歩行不可能なSMAを有する。特定の実施形態では、歩行不可能なSMAは、SMA I型、II型、またはIII型である。一実施形態では、対象は、歩行不可能なSMA III型を有する。
【0225】
本明細書に記載されているこうした実施形態のいずれかでは、対象は、≦65のベースラインの拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを有していてもよい。特定の実施形態では、対象は、≦60、≦55、≦50、≦45、≦40、≦35、≦30、≦25、または≦20のベースラインの拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを有する。ある特定の実施形態では、本発明は、SMN修正因子療法を受けているか、またはSMN修正因子療法を受けることが予想される対象の脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療に使用するためのミオスタチン阻害剤であって、対象が、SMN修正因子療法を受けた後、≦60、≦55、≦50、≦45、≦40、≦35、≦30、≦25、または≦20の修正後の拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを有する、ミオスタチン阻害剤を提供する。上記で参照されている本発明のある特定の実施形態では、対象は、SMN修正因子療法を受けた後、ベースラインの拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアよりも少なくとも1ポイント改善された、修正後の拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを有する。一実施形態では、ベースラインの拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアは、ミオスタチン阻害剤を対象に投与する前に決定される。一実施形態では、ベースラインの拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアは、SMN修正因子を対象に投与する前に決定される。一実施形態では、ベースラインの拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアは、ミオスタチン阻害剤およびSMN修正因子を対象に投与する前に決定される。上記で参照されている本発明のある特定の他の実施形態では、対象は、SMN修正因子療法を受けた後、修正後の拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアの改善を示さない。
【0226】
本明細書に記載されているこうした実施形態のいずれかでは、SMN修正因子療法は、a)スプライス修飾因子、b)SMN遺伝子置換もしくは遺伝子療法、c)SMN転写エンハンサー、d)SMNタンパク質翻訳エンハンサー、またはe)SMNタンパク質安定化剤を含む。
【0227】
特定の実施形態では、SMN修正因子は、中枢性修正因子または全身性修正因子である。用語「中枢性修正因子」は、本明細書で使用される場合、髄腔内経路でCNSに直接投与されるSMN修正因子を指す。用語「中枢性修正因子」は、本明細書で使用される場合、全身投与され(例えば、経口投与)、CNSだけでなく他の組織にも同様に影響を及ぼすSMN修正因子を指す。異なる実施形態では、(a)のスプライス修飾因子は、RNAに基づくスプライス修飾因子である。本明細書に記載されている特定の実施形態では、(a)のスプライス修飾因子は、対象に髄腔内投与される(つまり、脳脊髄液(CSF)に到達するように、脊柱管内に、またはくも膜下腔内に投与される)。異なる実施形態では、SMN修正因子療法は、ベクターで送達される(b)のSMN遺伝子置換または遺伝子療法を含み、ベクターが任意選択でウイルスベクターである。用語「ベクター」および「ウイルスベクター」は、それらの通常の意味を有するとし、生化学分野の当業者であれば明白であろう。
【0228】
一実施形態では、上記に記載の(a)のスプライス修飾因子は、低分子スプライス修飾因子である。特定の実施形態では、低分子スプライス修飾因子は、経口投与される(つまり、物質が口から摂取される投与)。特定の実施形態では、低分子スプライス修飾因子は
、1日2回、1日1回、2日に1回、週2回、または週1回で投与される。
【0229】
一実施形態では、本発明は、歩行可能なSMAを有し、SMN修正因子療法を受けていない対象のSMAの治療に使用するためのミオスタチン阻害剤を提供する。上記に記載される本発明の特定の実施形態では、歩行可能なSMAは、歩行可能なIII型またはIV型である。上記に記載される本発明のさらなる実施形態では、対象は、≧40、≧45、≧50、または≧55のベースラインの拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを有する。上記に記載される本発明の異なる実施形態では、対象は、48以上~58以下の範囲のベースラインの拡大ハマースミス運動機能評価スケールスコアを有する。
【0230】
一実施形態では、本発明は、SMN突然変異のキャリアであると特定されており、SMN修正因子療法を受けていない対象のSMAの治療に使用するためのミオスタチン阻害剤を提供する。用語「SMN突然変異のキャリア」は、それらの通常の意味を有するとし、この状況では、SMN劣性(つまり非優性)対立遺伝子を受け継いでいるが、その形質を示さないか、またはSMN優性対立遺伝子により引き起こされる疾患の症状を示さない個人または他の生物を指すものとする。上記に記載される本発明のさらなる実施形態では、対象は、子宮内での(つまり子宮の内部での)または幼児での遺伝子スクリーニングによりキャリアであると特定される。
【0231】
一実施形態では、本発明は、対象の筋肉質量の増加に使用するためのミオスタチン阻害剤であって、i)標的筋肉が同化状態にあり、および/またはii)対象が同化刺激因子で治療される、ミオスタチン阻害剤を提供する。
【0232】
上記に記載される本発明のさらなる実施形態では、対象は、筋肉減少症、悪液質、感染症、長期不動状態を罹患しているか、または対象は、≧65歳である。
【0233】
一実施形態では、本発明は、対象の筋肉喪失の予防に使用するためのミオスタチン阻害剤であって、対象が、神経筋機能の部分的な損傷を含む状態を罹患しており、対象が、運動ニューロンを治療または増強するためのニューロン療法を受けている、ミオスタチン阻害剤を提供する。上記に記載される本発明のさらなる実施形態では、状態は、ニューロン機能に影響を及ぼす遺伝子障害、または傷害である。
【0234】
本明細書に記載されているこうした実施形態のいずれかでは、ミオスタチン阻害剤は、a)ミオスタチンシグナル伝達の低分子アンタゴニスト、またはb)i)プロ型/潜在型ミオスタチン、ii)成熟ミオスタチン、もしくはiii)ミオスタチン受容体に結合する抗体もしくはその抗原結合性部分を含む。
上記に記載される本発明のさらなる実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、プロ型/潜在型ミオスタチンには結合するが、成熟ミオスタチンまたはGDF11とは結合しない。上記に記載される本発明の異なる実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、成熟ミオスタチンには結合するが、成熟GDF11とは結合しない。上記に記載される本発明の別の実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、1mg/kg~30mg/kgの間の範囲の投薬量で対象に投与される。上記に記載される本発明の異なる実施形態では、抗体またはその抗原結合性部分は、週2回、週1回、2週に1回、または月1回で対象に投与される。ミオスタチン阻害剤が記載されている上記の実施形態のいずれかでは、抗体またはその抗原結合性部分は、対象に静脈内投与(つまり、静脈に注射される)または皮下投与される(つまり、皮膚に注射される)。
【0235】
一実施形態では、本発明は、SMAの治療に使用するためのミオスタチン阻害剤の使用であって、ミオスタチン阻害剤が、単独療法または併用療法として投与される、使用を提供する。一実施形態では、本発明は、標的筋肉が同化状態にあり、および/または同化刺
激因子で治療される対象の筋肉成長を促進するためのミオスタチン阻害剤の使用を提供する。
【0236】
一実施形態では、本発明は、神経筋機能の部分的な損傷を含む状態を罹患し、ニューロン療法で治療される対象の筋萎縮を予防するためのミオスタチン阻害剤の使用を提供する。本明細書に記載されている本発明の特定の実施形態では、状態は、ALSである。一実施形態では、本発明は、SMAを治療するための医薬の製造におけるミオスタチン阻害剤の使用を提供する。異なる実施形態では、本発明は、実施形態C1のミオスタチン阻害剤および賦形剤を含む医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、上記に記載されている医薬組成物は、静脈内投与または皮下投与用に製剤化される。
【0237】
一実施形態では、筋肥大を促進するための方法であって、筋肉成長から利益を得る可能性があり、ミオスタチン阻害剤の低応答個体である対象に、ミオスタチン阻害剤の効果がブーストされるように有効量の同化刺激因子を投与するステップを含む方法が、本明細書で提供される。一実施形態では、同化刺激因子およびミオスタチン阻害剤は、併用療法として投与される。
【0238】
一実施形態では、対象は、筋肉減少症、悪液質、慢性SCI、慢性または頻発感染症、骨粗鬆症、および高頻度の転倒/骨折からなる群から選択される状態を罹患している。一実施形態では、対象は65歳またはそれよりも年長である。
【0239】
一実施形態では、対象は、ニューロン療法でさらに治療される。一実施形態では、対象は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)またはSMAを有する。
【0240】
一実施形態では、ミオスタチン阻害剤は、ミオスタチンの低分子アンタゴニストまたはミオスタチンの生物学的アンタゴニストである。別の実施形態では、ミオスタチンの生物学的アンタゴニストは、抗体またはその抗原結合性部分である。
【0241】
一実施形態では、ヒト対象の筋肉状態を治療するための方法であって、完全な同化能力を有する標的筋肉を有し、標的筋肉と神経支配運動ニューロンとの間の機能的神経筋シグナル伝達が部分的に損なわれているヒト対象を選択するステップ、およびヒト対象に、標的筋肉の機能を増強するのに有効な量のミオスタチン阻害剤を投与し、それによりヒト対象の筋肉状態を治療するステップを含む方法が、本明細書で開示される。一実施形態では、標的筋肉は、運動ニューロンの少なくとも部分的な神経支配を保持または回復している。一実施形態では、標的筋肉は、速筋II型線維を含む。一実施形態では、ヒト対象は、小児科対象である。
【0242】
一実施形態では、本方法は、対象に同化刺激因子を投与するステップをさらに含む。一実施形態では、同化刺激因子は、ミオスタチン阻害剤の投与前に、ミオスタチン阻害剤の投与と同時に、またはミオスタチン阻害剤の投与後に、対象に投与される。一実施形態では、筋肉状態は、運動ニューロンの欠陥に関連している。一実施形態では、欠陥は、遺伝子欠陥である。一実施形態では、遺伝子欠陥は、Smn1の突然変異である。
【0243】
一実施形態では、本方法は、遺伝子欠陥を修正する作用剤をヒト対象に投与するステップをさらに含む。一実施形態では、作用剤は、スプライス調節因子である。一実施形態では、作用剤は、低分子作用剤または核酸作用剤である。一実施形態では、作用剤は、運動ニューロン機能を増加させる。一実施形態では、運動ニューロン機能は、膜興奮性、軸索輸送、小胞輸送、神経伝達物質放出、ミトコンドリア機能、および/またはミトコンドリア利用能を含む。一実施形態では、作用剤は、SMN修正因子である。
【0244】
一実施形態では、筋肉状態は、神経筋疾患に関連している。一実施形態では、神経筋疾患は、脊髄性筋萎縮症(SMA)である。一実施形態では、SMAは、I型SMA、II型SMA、またはIII型SMAである。一実施形態では、III型SMAは、歩行可能なSMAまたは歩行不可能なSMAである。
【0245】
本発明によると、本明細書に記載のミオスタチン阻害剤はいずれも、ミオスタチン阻害剤および任意選択で賦形剤を含む医薬組成物に製剤化されていてもよい。そのような医薬組成物は、本開示に従って単独療法または併用療法のいずれかとして、ヒト対象の疾患または状態の治療に使用される。
【0246】
本発明は、本開示に従ってヒト対象に投与するために好適な医薬を製造するための、本明細書に記載の任意のミオスタチン阻害剤の使用を包含する。
【0247】
本発明は、以下の例によりさらに説明されるが、以下の例は、限定と解釈されるべきではない。
【実施例0248】
(実施例1)
SRK-015:ミオスタチン活性化の特異的阻害
他のTGFβファミリーメンバーと同様に、ミオスタチンは、プロドメインが存在することにより、その受容体への増殖因子の接近が遮断されている、プロミオスタチンと称される不活性前駆体として分泌される。ミオスタチン活性化は、2つの別個のタンパク質分解的切断ステップに起因する(
図1)。プロミオスタチンは、まず、プロドメインと成熟増殖因子との間のRXXR部位を認識する、フューリンなどのプロタンパク質転換酵素により切断される(30、62)。切断後、増殖因子およびプロドメインは、依然として一緒のままであり、その受容体に結合することができない潜在型複合体(潜在型ミオスタチン)を形成する。活性増殖因子は、BMP/トロイドファミリー(TLL-2、トロイド様タンパク質2など)のメンバーによる第2の切断後に放出される(63)。活性化後、ミオスタチンは、I型受容体(Alk4/5)およびII型受容体(ActRIIA/B)からなる受容体複合体に結合し、Smad2/3のリン酸化および活性化をもたらす。最終的に、このシグナル伝達経路の活性化は、タンパク質合成の低減およびタンパク質分解の増強を引き起こす(64)。ミオスタチンは、in vivoでは2つの区画:循環中および筋肉中で検出されている。循環中では潜在型が多く、筋肉中ではプロミオスタチンが多く、これは、パールカンなどの細胞外マトリックスタンパク質と結合している(65~68)。
【0249】
新規の手法を使って、固有の作用機序を有し、ほとんどの他の阻害剤よりも特異性が非常に向上されているミオスタチン阻害剤を発見および開発した。上記に記載されているように、成熟型のミオスタチンおよびGDF11は90%同一であるため、ミオスタチンに特異的な抗体を同定することは困難である。しかしながら、これら増殖因子のプロドメインの同一性は、わずか43%である。したがって、本発明者らは、前駆体型のミオスタチンを標的とし、特異的に結合して、潜在型からの成熟ミオスタチンの活性化を阻害する抗体を生成した。
【0250】
抗体SRK-015P(「P」は親分子であることを表す)を最適化して、完全ヒトモノクローナル抗体であるSRK-015を生成した。SRK-015は、相補性決定領域の外側の可変ドメインにある5つの残基がその親クローンと異なる。両抗体は、プロ型および潜在型ミオスタチンに高親和性で結合するが(1桁のナノモル範囲など、例えば2~9nM)、いかなる形態のGDF11もしくはアクチビンAとも、または成熟BMP9、BMP10、もしくはTGFβ1とも検出可能な結合を示さない。プロミオスタチン(社
内で哺乳動物発現系から発現および精製された)、フューリン、およびmTTL-2プロテアーゼと共にインキュベートすると、SRK-015は、Smad2/3リポーター細胞株でのルシフェラーゼ発現の活性化により測定して、成熟ミオスタチンの放出を阻害した。SRK-015は、プロGDF11を基質として使用した同様のプロテアーゼ活性アッセイにおいて効果を示さず、この場合も、プロ型および潜在型ミオスタチンに対するSRK-015の特異性が示された。SRK-015は、このアッセイでは、成熟ミオスタチンのシグナル伝達能力を阻害しなかった。SRK-015およびSRK-015Pは両方とも、リポーターアッセイでは、ヒトおよびマウスプロミオスタチンに対して同様の機能的活性を示しており、ヒトおよびマウスプロミオスタチンを使用したプロミオスタチン活性化アッセイでの2つの抗体のEC50値は類似している。mTLL-2による潜在型ミオスタチンの切断後に産生されたタンパク質断片を分析して、SRK-015が、ミオスタチン活性化に必要な第2の(トロイド媒介性)タンパク質分解ステップを阻害したことを示した。SRK-015は、ミオスタチンプロドメインと結合し、トロイド切断を阻害する能力があることが示された。精製した組換え潜在型ミオスタチンを、漸増濃度のSRK-015の存在下で、TLL-2トロイドプロテアーゼと共にインキュベートした。試料を、還元SDS-PAGEで分離し、ミオスタチンプロドメインを認識する抗体を用いたウェスタンブロットにより探索した。切断断片のプロテアーゼ依存性産生は、漸増量の抗体で阻害され、SRK-015の潜在型ミオスタチンへの結合が、第2のトロイド媒介性切断ステップを阻害したことが示された。
(実施例2)
ミオスタチンプロ型のin situ局在化
【0251】
SRK-015は、プロ型および潜在型ミオスタチンと結合するため、マウス骨格筋中のこうしたプロ型の局在化を調査して、こうした型のミオスタチンが筋肉の細胞外空間に存在し、SRK-015抗体により結合および阻害することができることを確認した。健常マウスに由来する前脛骨筋の凍結切片を、プロ型および潜在型ミオスタチンには結合するが、成熟増殖因子とは結合しない抗体GDF8_068で免疫染色した。組織を、筋肉細胞外マトリックスの成分であるラミニンに対する抗体でも免疫染色した。結果は、筋肉で検出された大多数のミオスタチン前駆体は、細胞外空間に存在し、細胞内で検出されたシグナルはほとんどないことを示した。間質細胞外空間および間質核周囲で著しい同時染色が生じた。抗体染色の特異性を確認するために、試料を、100倍モル過剰の精製プロミオスタチンまたはプロGDF11で事前にインキュベートしておいたGDF8-068で免疫染色した。プロミオスタチンとの事前インキュベーションは、シグナルを完全に消失させたが、プロGDF11との事前インキュベーションは染色に影響を及ぼさなかった。こうしたデータは、プロ型および潜在型ミオスタチンが、骨格筋の細胞外空間に存在し、したがってSRK-015により結合および阻害することができることを示す。
(実施例3)
SRK-015はデキサメタゾン誘導性筋萎縮を予防する
【0252】
SRK-015は、健常動物の筋肉質量を増加させ、デキサメタゾン誘導性萎縮モデルでの筋肉喪失を低減した。
図2に示されているように、健常雄マウス(媒体群)に単回20mg/kg用量のSRK-015を投与すると、15日後に筋肉質量の有意な増加がもたらされた(IgG対照に対して17.5%)。雌マウスでも同様の筋肉質量の増加が観察された(データは示されていない)。また、SRK-015は、デキサメタゾン処置時の筋肉喪失を予防するのに有効だった。デキサメタゾンの慢性投与は、8日目までに筋肉質量の有意な喪失をもたらした(16%減少、IgG媒体対IgG Dex)。デキサメタゾン処置マウスに対するSRK-015の単回20mg/kg投与は、研究の経過全体にわたって筋萎縮を予防し、治療群とIgG媒体対照群との間に有意差は観察されなかった(
図2)。
(実施例4)
SRK-015Pは、健常動物の筋肉重量および機能を増強する
【0253】
SRK-015による治療は、筋肉質量の増加に加えて、筋肉機能の獲得をもたらした。SRK-015媒介性の機能的効果を評価するために、ヒトIgG4定常領域をマウスIgG1の定常領域と置換して、4週間の研究にわたって抗体に対する免疫応答を制限させたマウス型のSRK-015P(muSRK-015P)を使用した。3つのすべての抗体、muSRK-015、muSRK-015P、およびSRK-015は、同様の親和性(それぞれ、2.57nM、2.88nM、および8.35nMのKd)でマウスプロミオスタチンと結合する。健常10週齢C57BL/6マウスを、4週間にわたって、媒体(PBS)または20mg/kgのmuSRK-015Pで週1回治療した。治療した後、足底屈筋筋肉群(腓腹筋、ヒラメ筋、および足底筋)の神経誘発機能を、生理学的に関連する活性化範囲にわたってin vivoで調査した。治療動物は、60Hzよりも高い周波数では等尺性トルク発生の19%増加を示した(P=0.003)(
図3A)。最大収縮率の31%増加が観察されたが、力-周波数応答には変化はなかった(データは示されていない)。神経機能および血液供給の影響を受けずに、筋肉に対するミオスタチン阻害の直接的効果を確認するために、単離EDL筋肉のin vitroでの力を測定した。EDL力発生のin vitro評価は、機能が同様に増加したことを示した。80Hzでは24%増加(P=0.024)、100Hzでは28%増加(P=0.010)、および150Hzでは27%増加(P=0.011)だった(
図3B)。治療後、EDLの収縮および緩和速度または力と周波数の関係性には、変化は観察されなかった(データは示されていない)。予想通り、muSRK-015Pによる4週間の治療も、筋肉質量に影響を及ぼし、腓腹筋は22%増加し(P=0.009、
図3C)、EDLは34%増加した(P=0.007、
図3D)。力を筋肉重量に対して正規化したところ、媒体と、腓腹筋またはEDL筋のいずれの治療群との間にも差異はなく、muSRK-015P治療により誘導された肥大は、筋肉品質または興奮性に否定的な影響を及ばさなかったことが示された(データは示されていない)。足底屈筋群の組織学的分析は、総断面積の27%増加(P=0.019、データは示されていない)、IIB型筋肉線維の断面積の29%増加の結果(P=0.009、
図3E)を示した。I、IIA、またはIIX型線維の断面積にも変化はなく、治療後の線維型分布にも変化はなかった(データは示されていない)。
(実施例5)
ミオスタチン阻害は、スプライス修正因子で治療したSMAマウスの筋肉機能を改善する
【0254】
SMAの筋肉機能を改善するSRK-015の能力を評価するために、変異型のSMAの薬理学的モデルを使用した。このモデルでは、様々な量の低分子SMN2スプライス調節因子SMN-C1を投与することにより、疾患の重症度を和らげることができる(17、26)。このモデルの土台は、重度SMAのΔ7マウスモデルである。このマウスは、唯一の内因性マウスSMN遺伝子を欠如しており、ヒトSMN2の2つのコピーならびにエクソン7を欠如するSMNの2つのコピーを発現する(Smn-/-、hSMN2、SMNΔ7)。このモデルでは疾患が重度であるため、このマウスの生存中央値は13日であり、潜在的治療剤の効力を評価するには時間が十分ではない(70)。低用量(0.1mg/kg/日)のSMN-C1を出生時からΔ7マウスに投与することにより生存期間が延長され、疾患重症度は依然として高いものの、治療マウスの70%が出生後日数(PND)52日目まで生存する。高用量3mg/kg/日のSMN-C1による治療は、軽症型のSMAをもたらし、マウスは、おおよそ健康そうであり、体重および機能のわずか欠損を示すに過ぎない。重症度の中間モデルは、Δ7マウスに、出生後の最初の24日間にわたって0.1mg/kg/日のSMN-C1を投与し、その後3mg/kg/日に移行すること(低-高治療)により達成することができる。こうした低-高治療マウスの表現型は、体重および筋肉機能の点では、低用量表現型と高用量表現型とのほぼ中間である(17、26、71)。また、低-高SMN-C1パラダイムは、診断後に、スプライス
修正因子(つまり、ヌシネルセン)による治療を出生数カ月または数年後に開始する重度SMA患者を模倣するため、SMN2スプライス調節因子との組合せ治療の治療可能性の評価に有用である。高用量SMN-C1と同時に第2の治療剤による治療を開始することにより、併用療法の効果の決定が可能になる。
【0255】
SMN2スプライス修正と組み合わせたミオスタチン活性化阻害の有効性を評価するため、Δ7マウスを、低-高SMN-C1レジメンに供し、媒体または週1回用量の20mg/kg muSRK-015Pを投与し、PND24には、高用量SMN-C1への切り替えを同時に開始した。マウスを、3mg/kg/日のSMN-C1およびmuSRK-015P、または媒体でさらに4週間治療した。対照として、未治療野生型マウスが含まれていた。研究終了時に、足底屈筋筋肉群および咬筋の筋肉重量、線維断面積、および神経誘発機能を評価した。Δ7マウスでは、咬筋は、重度に影響を受ける筋肉であるが、腓腹筋は、影響を比較的免れる(7)。
【0256】
muSRK-015Pは咬筋機能を改善しなかったが、muSRK-015P治療は、足底屈筋筋肉群による最大トルク発生の有意な60%増加をもたらした(
図4A、
図4B)。興味深いことには、腓腹筋の質量または足底屈筋群の平均断面積の有意な増加は観察されなかった(
図5A、
図5B)。しかしながら、筋線維断面積の度数分布には、muSRK-015Pで治療した動物は、より多くが1000~2000μm
2の間である筋線維を有し、媒体で処置したマウスは、より多数が1000μm
2よりも小さな筋線維を有しているという点で、変化が観察された(
図5C)。このモデルでは、治療により力の発生は有意に増加したが、筋肉重量は増加しなかった。その理由は不明である。現在まで、この分子で実施された動物研究はすべて、筋肉重量の有意な増加をもたらしており、ミオスタチン阻害が、質量増加の非存在下で筋肉機能を改善したという報告は発表されていない。1つの可能性は、muSRK-015Pによる治療が、筋肉の健康および/または品質を改善することができ、その結果、神経栄養因子の発現が増加し、運動ニューロン生存が改善されるということである。筋肉による複数の神経栄養因子(つまり、HGF、ニューロトロフィン-4、およびGDNF)の発現は、運動ニューロン生存および成長を支援することが示されている(73~75)。
(実施例6)
ミオスタチン阻害の利益は、十分な筋神経支配を必要とする
【0257】
腓腹筋(足底屈筋群の大部分を構成する)および咬筋に対するmuSRK-015Pの有効性の違いは、SMA疾患病理の2つの側面に起因する可能性がある。第1に、ミオスタチン阻害は、速筋解糖系筋肉線維(マウスではIIB型)の肥大を優先的にもたらすことが公知であり、ここでも示されている((76、77)および
図3E)。マウス腓腹筋は、主にIIB型線維からなり(約75%)、咬筋は、それよりも著しく少数であり、10~25%の間である(78、79)。第2に、重度に影響を受ける筋肉であるため、咬筋の除神経は、腓腹筋の除神経よりも広範である(7)。有効であるためには、ミオスタチン阻害は、十分な筋神経支配に依存し、ミオスタチン阻害剤による治療は、完全脊髄傷害のモデルにおける傷害のレベル未満の筋肉に対して効果を示さない(80)。対照的に、muSRK-015Pを使用した場合、脊髄傷害の挫傷モデルにおける傷害のレベル未満の筋肉質量および機能が有意に保存され、除神経は部分的なものに過ぎなかったことが観察された(
図6)。この研究では、雌8週齢C57BL/6(n=6~8)を、胸部レベル9(T9)で椎弓切除し、その後、インフィニットホライゾンコンパクター(infinite Horizon Compactor)デバイスを使用して、重度(65kDyne)の脊髄挫傷を加えた。偽薬対照動物は、椎弓切除のみを受けた。傷害後直ちに、媒体(PBS)、IgG対照、または40mg/kgのmuSRK-015Pをマウスに投与した。なお、PBSおよびIgG対照は、等価であることが複数のモデルで示されている(データは示されていない)。週1回の治療を施し、14日目に研究を終了した。
(
図6A)部分的に重度のSCIを受けたマウスは、後肢筋肉の有意な萎縮を示したが、muSRK-015Pを投与した動物は、この萎縮から保護された。P<0.05。(
図6B)SCIの7および14日後に筋肉機能試験を実施した。後肢握力を、デジタルフォースゲージを使用して評価した。媒体およびIgGで処置したマウスは、著しい握力喪失を示したが、muSRK-015Pを投与したマウスは、病変レベル未満の有意な度合いの四肢握力を保持した。P<0.001。データは、平均±SEMとして示されており、一元配置ANOVA、その後チューキーの事後比較で分析した。
【0258】
重要なことには、ヌシネルセンで治療したSMA患者は、複合筋活動電位(CMAP)振幅の改善を示した。この尺度は、こうした患者では通常は低下するのみであるはずであり、SMN2スプライス調節により、十分な筋神経支配が少なくとも一部の筋肉で維持され、ミオスタチン阻害が効果的であることを示す(25)。
【0259】
こうした前臨床結果、特に部分的除神経の2つのモデル(SMAおよび不完全脊髄傷害)における筋肉機能の改善に対するmuSRK-015Pの顕著な効果は、SRK-015がSMA患者の筋肉機能を有意に取り戻す可能性に対する支持を提供した。SRK-015による治療は、十分な神経支配が残存しているより軽症型の疾患(つまり、III型SMA)を有する患者では、スプライス修正因子との組合せであってもよく、または単独療法としてであってもよい。
(実施例7)
SMNΔ7マウスでの標的結合
【0260】
SMNΔ7マウスを、出生時から出生後日数(PND)24日目まで0.1mg/kg/日のSMN-C1、SMNスプライス調節因子で治療した。PND24には、マウスを、高用量のSMN-C1(3mg/kg/日)に切り替え、媒体または20mg/kg/週のmuSRK-015Pによる治療を開始した。マウスには、4週間にわたって抗体を週1回投与した。研究終了時に、血清およびTA筋肉を収集し、蛍光ウェスタンブロットにより標的結合を分析した。1群当たり3~5匹の動物に由来する試料を、こうした分析に使用した。
【0261】
muSRK-015Pで治療したSMNΔ7マウスで、標的結合が観察された。結合した標的は、抗体の半減期を有すると考えられ、循環中および標的組織に蓄積するため、muSRK-015Pとの結合は、潜在型ミオスタチンの蓄積をもたらす。本発明者らは、ミオスタチンプロドメインに対する抗体を使用して、抗体投与後の血清および筋肉中の潜在型ミオスタチンレベルを評価するウェスタンブロットアッセイを開発した。本発明者らは、以前に、ミオスタチンノックアウト動物に由来する試料を使用して、抗体の特異性を決定している。示されているように、抗体用量投与は、出生後日数24日目に開始し、同時にSMN-C1修正因子を低用量から高用量へと切り替えた。4週間の用量投与後、血清および前脛骨筋を収集し、標的結合を評価した。
図7に示されているように、結果は、muSRK-015Pによる4週間の治療後、循環中での潜在型ミオスタチンの結合(抗体結合時の標的蓄積により示される)を示した(
図7Aの免疫ブロットを参照)。レーン1は、少量の潜在型ミオスタチンを含む組換え精製プロミオスタチンである。同様に、
図7Bは、筋肉での標的結合を示す。4週間の治療後に、muSRK-015Pで治療したマウスの筋肉で、潜在型ミオスタチンの蓄積が観察され、抗体との結合が示されている。レーン1は、組換えプロ型/潜在型ミオスタチンである。レーンの正規化を可能にするため、試料をTGX無染色ゲルに流して、UV画像化時の総レーンタンパク質含有量の視覚化および定量化を可能にした(
図7C)。筋肉中の潜在型ミオスタチンシグナルの定量化は、muSRK-015P群では3倍の標的蓄積を示し、標的結合があったことが示される。各レーンの潜在型ミオスタチンシグナルを、そのレーンの総タンパク質含有量に対して正規化し、WTマウスに存在する潜在型ミオスタチンと比較した(
図7D)。
(実施例8)
scidマウスにおけるSRK-015の薬物動態および薬力学
【0262】
雄scidマウスに、単回5mg/kg IV用量のSRK-015を投与した。別々のコホートのマウスを、用量投与の4時間、2、8、15、22、29、および56日後に犠牲にし、PKおよび標的結合アッセイのために、血清およびTA筋肉を収集した。1群当たりN=4または8。
図8Aには、SRK-015のPK分析が示されている。用量投与後の表示されている時間で採取した血清試料から、SRK-015レベルを決定した。分析は、抗ヒトIgG ELISAを使用して実施した。scidマウスにおける5mg/kgのSRK-015の半減期は、約20.3日だった。
【0263】
同様に、
図8Bに示されているように、これら動物への単回5mg/kg用量の投与は、IgG対照と比べて、除脂肪質量の有意な増加をもたらした。除脂肪質量は、用量投与後の表示されている時点でqNMRを用いて測定した。加えて、SRK-015は、単回5mg/kg用量後の、血清および筋肉での長期標的結合を示す(
図8Cを参照)。用量投与56日後には、大部分のSRK-015がこの時点で除去されているため、標的結合はもはや観察されなかった(データは示されていない)。標的結合は、ウェスタンブロットを使用して、血清および筋肉中の潜在型ミオスタチンのレベルを分析することにより評価した。結合した標的は、抗体の半減期を有すると考えられ、循環中および標的組織に蓄積するため、SRK-015との結合は、潜在型ミオスタチンの蓄積をもたらす。ミオスタチンノックアウト動物に由来する試料を使用して、抗体の特異性を決定した後、ミオスタチンプロドメインに対する抗体を、このアッセイで使用した。有意な標的結合が、筋肉では2日以内に、循環中では4時間以内に生じ、用量投与29日後まで維持される。各コホートの3匹のマウスに由来する試料を分析した。
(実施例9)
カニクイザルにおけるSRK-015の薬物動態および薬力学
【0264】
また、カニクイザルにおいてSRK-015 PK特性を決定した。2~3歳の雄動物(平均年齢34カ月)に、3mg/kgまたは30mg/kgのSRK-015の週1回用量を8週間にわたって投与した。最後の用量後、薬物投与の非存在下でさらに5週間にわたって動物を追跡した。この用量投与後期間の試料を、PKパラメーターの算出に使用した。
図9Aは、最初の抗体用量後の週中のSRK-015濃度を示す。抗体レベルは、ELISAにより評価した。
図9Bは、8回の週1回抗体用量の最後の1回以降の研究の最終5週間中のSRK-015濃度を示し、高用量で飽和したことが示される。
【0265】
カニクイザルにおいてSRK-015について得られた薬物動態データは、下記に表4に要約されている。
【表4】
【0266】
研究終了時、動物を、最後の用量の5週間後に、上記に記載のように犠牲にし、筋肉重量を決定した。腓腹筋および上腕二頭筋(それぞれ
図10Aおよび
図10B)は、SRK
-015治療後に質量増加を示す。腓腹筋重量は、媒体対照と比べて、3mg/kg群では21%、30mg/kg群では23%増加した。
*は、媒体に対する一元配置ANOVAによる統計的有意差を示し、P<0.007である。上腕二頭筋重量は、媒体対照と比べて、3mg/kg群では18%、30mg/kg群では25%増加した。
*は、媒体に対する一元配置ANOVAによる統計的有意差を示し、P<0.002である。
図10Cおよび10Dに示されているように、SRK-015は、試験した両用量で、潜在型ミオスタチンと結合した。
図10Cには、3mg/kgまたは30mg/kgを週1回投与したサルの血清中での標的結合の時間的経過が示されている。表示されている研究日に血清試料を収集し、半定量的ウェスタンブロット分析により分析した。SRK-015結合を示す潜在型ミオスタチンの蓄積は、8日目までには明白である。標的は、さらなる用量の投与と共に蓄積を継続する。潜在型ミオスタチンレベルを、上記の実施例7に記載のように定量化した。筋肉重量に対するSRK-015の効果は、投薬量の下限値(例えば、3mg/kg/週)でさえ、SRK-015が、最大効力に必要な標的結合レベルであるか、またはそのレベル付近であることを示す。
(実施例10)
出生時から十分な治療用量のSMN-C1で治療したSMNΔ7マウスの筋肉性能
【0267】
SMNΔ7マウスに、出生後日数(PND)1日目から開始して3mg/kg/日のSMNスプライス調節因子SMN-C1を投与した。この用量のSMN-C1による治療は、疾患の有意な修正をもたらし、歩行可能なIII型またはIV型SMAなどのSMAの軽度症状を模倣することが意図されていた。PND24に、muSRK-015P(20mg/kg/週)によるマウスの治療を開始した。対照群には、PBSを投与した。PND52に、マウス筋肉機能を、足底屈筋筋肉群(腓腹筋、ヒラメ筋、および足底筋)および咬筋で評価した。安楽死させた後、個々の筋肉を単離し、計量した(
図11Aおよび11B)。遺伝的背景が同じである未治療野生型マウスを、対照として使用した。
【0268】
筋肉性能は、上記に記載のように、305C筋肉レバーシステム(Aurora Scientific Inc.、Aurora、CAN)を使用して測定した。
【0269】
muSRK-015Pによる4週間の治療後、SMNΔ7マウスは、PBSの対照動物と比べて、17.7%の体重増加を示した(P=0.0021)(
図11A)。また、muSRK-015Pによる治療は、腓腹筋を含む複数の後肢筋肉の質量増加をもたらした(26.5%増加、P=0.0071)(
図11A)。この質量増加は、機能的獲得を反映していた。muSRK-015Pで治療したマウスは、生理学的に関連する周波数の範囲にわたって(40~80Hz)、足底屈筋群の力発生の22~37%改善を示した(
図11B)。このモデルでは腓腹筋よりも重度に影響を受ける筋肉である咬筋では、抗体治療の効果は観察されなかった。
参考文献
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【0270】
上記の個々のセクションで参照されている本発明の種々の特徴および実施形態は、適切である場合、必要に応じて変更を加えれば他のセクションにも該当する。結果的に、1つのセクションで指定されている特徴は、適切である場合、他のセクションで指定された特徴と組み合わせることができる。
【0271】
当業者であれば、単なる日常的な実験作業を使用して、本明細書に記載されている本発明の特定の実施形態に対する多数の等価物を認識し、または確認することができるだろう。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲により包含されることが意図されている。