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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164936
(43)【公開日】2023-11-14
(54)【発明の名称】床材システム
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/18 20060101AFI20231107BHJP
【FI】
E04F15/18 602A
E04F15/18 602G
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023143356
(22)【出願日】2023-09-05
(62)【分割の表示】P 2021561587の分割
【原出願日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2019217550
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519428122
【氏名又は名称】株式会社Magic Shields
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下村 明司
(57)【要約】      (修正有)
【課題】歩行時は安定度性が高く歩きやすく、一方で転倒時には高い衝撃吸収能を発揮できる床材システムを提供する。
【解決手段】地面と略平行な面を持つ上部層と下部層と、複数の衝撃緩衝能を持つ脚部を有し、並べて使用する基礎材10と、基礎材10に掛かる力を分散する分散材20、21を持つ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃を吸収する基礎材であって、
衝撃を受ける上部層と、
前記上部層の下面に連結して、前記上部層から一軸方向に閾値以上の衝撃が加わると座屈して前記衝撃を吸収する少なくとも1つの脚部と、
を備える基礎材。
【請求項2】
前記少なくとも1つの脚部は、前記一軸方向に閾値未満の衝撃が加わると前記一軸方向に収縮する収縮モード及び前記閾値以上の衝撃が加わると前記一軸方向に交差する方向に屈曲する屈曲モードの2つの変形モードを有する、請求項1に記載の基礎材。
【請求項3】
前記少なくとも1つの脚部は、前記一軸方向に延伸する中実部材であり、前記一軸方向に交差する方向の厚さが小さい薄肉部及び/又は大きい厚肉部を部分的に含む、請求項1又は2に記載の基礎材。
【請求項4】
前記少なくとも1つの脚部は、NRゴム又はエラストマーを用いて形成され、ゴム硬度50-70を有する、請求項3に記載の基礎材。
【請求項5】
前記薄肉部は、前記交差する方向の一側の側面に略水平に延びる溝を備える、請求項3又は4に記載の基礎材。
【請求項6】
前記少なくとも1つの脚部は、前記基礎材の四隅に前記溝を外側に向けてそれぞれ配置される4つの脚部を含む、請求項5に記載の基礎材。
【請求項7】
前記4つの脚部は、前記溝をそれぞれ異なる方向に向ける、請求項6に記載の基礎材。
【請求項8】
前記上部層は、前記一軸方向に交差する方向に関する150mmから600mmの長さを有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の基礎材。
【請求項9】
前記上部層から前記一軸方向に離間して配置され、且つ、前記少なくとも1つの脚部の下端に連結する下部層をさらに備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の基礎材。
【請求項10】
前記上部層及び前記下部層の間の内部空間に配置される緩衝材をさらに備える、請求項9に記載の基礎材。
【請求項11】
衝撃を吸収する基礎材であって、
衝撃を受ける上部層と、
前記上部層の下面に連結し且つ前記上部層から一軸方向に延伸する中実部材であり、前記一軸方向に交差する方向の厚さが小さい薄肉部及び/又は大きい厚肉部を部分的に含む少なくとも1つの脚部と、
を備える基礎材。
【請求項12】
床材と、
前記床材を支持する、請求項1から11のいずれか一項に記載の基礎材と、
を備える床材システム。
【請求項13】
前記基礎材は、平面方向に沿って複数配列され、
複数の前記基礎材のうち、互いに隣接する少なくとも2つの基礎材上に跨いで設置されて、前記床材に加わる力を前記少なくとも2つの基礎材に分散する分散材をさらに備える、請求項12に記載の床材システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衝撃を吸収する床材システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、患者や高齢者等が転倒した際の怪我を防ぐため、衝撃を吸収するマットや床材が提案されている。
【0003】
特許文献1には、簡単な組成で、優れた衝撃吸収性とキャスター走行性を確保し、更に歩行性に優れる床材が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、かけられた力を減衰し衝撃エネルギーを吸収するためのシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-178519号公報
【特許文献2】特表2019-525783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される技術は、構造中にポリウレタンフォーム層が含まれ、これによって衝撃を吸収している。このようなフォーム材料は、かかった力に対して弾性率が線形的であり、安定した歩行が可能な硬さを保つと、転倒時に十分な衝撃を吸収できない。また安定した歩行が可能なクッション層の厚さは薄いため、転倒時、底打ち付きしやすい。
【0007】
特許文献2に開示される技術は、特許文献1に開示された技術の課題を解決しうるものであるが、抗疲労やレクリエーションなどの目的で開発されたものであり、患者や高齢者等が転倒した際の怪我を防ぐには、十分な衝撃吸収能を持っているとは言えない。
【0008】
本発明は、このような背景を鑑みてなされたものであり、歩行時は安定度が高く歩きやすく、一方で転倒時には高い衝撃吸収能を発揮できる床材システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
衝撃を吸収する床材システムであって、
地面と略平行な面を持つ上部層と下部層と、複数の衝撃緩衝能を持つ脚部を有し、並べて使用する基礎材と、
前記基礎材に掛かる力を分散する分散材と、
を持つことを特徴とする、床材システムが得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、衝撃を吸収する床材システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】床材システム1の全体像を示す図である。
図2】基礎材10を横から見た図である。
図3】基礎材10を上から見た図である。
図4】基礎材10を斜め上から見た図である。
図5】基礎材10における脚部102の構造を示す図である。
図6】基礎材10における脚部102の位置を示す図である。
図7】基礎材10における脚部102に上部から衝撃を加えた際の、脚部102の動きを示す図である。
図8】下層材40の上に基礎材10、更にその上に分散材21を乗せたものを4つ配置したものを上から見た図であり、力が加わる位置を示す図である。
図9】分散材201の構造を示す図である。
図10】分散材202の構造を示す図である。
図11】分散材203の構造を示す図である。
図12】分散材204の構造を示す図である。
図13】下層材40の上に基礎材10、更にその上に分散材21を乗せたものを4つ配置し、さらにその上に分散材201、分散材202、分散材203、分散材204を乗せたものを上から見た図であり、力が加わる位置を示す図である。
図14】下層材40の上に基礎材10、更にその上に分散材21を乗せたものを4つ配置し、さらにその上に分散材201、分散材202、分散材203、分散材204を乗せたものを上から見た図であり、力が加わる位置を示す別の図である。
図15】衝撃吸収能を検討した結果を示す図である。
図16】衝撃吸収能を検討した結果を示す別の図である。
図17】衝撃吸収能の程度を示す図である。
図18】下層材40の上に基礎材10、更にその上に分散材21を乗せたものを4つ配置したものを上から見た図であり、力が加わる位置を示す更に別の図である。
図19】下層材40の上に基礎材10、更にその上に分散材21を乗せたものを4つ配置し、さらにその上に分散材201、分散材202、分散材203、分散材204を乗せたものを上から見た図であり、力が加わる位置を示す更に別の図である。
図20】衝撃を受けた位置による衝撃吸収能を検討した結果を示す図である。
図21】衝撃を受けた位置による衝撃吸収能を検討した結果を示す別の図である。
図22】分散材201、分散材202、分散材203、分散材204の効果を検討した結果を示す図である。
図23】分散材201、分散材202、分散材203、分散材204の効果を検討した結果を示す別の図である。
図24】床材の沈み込み量を検討した結果を示す図である。
図25】床材の沈み込み量を検討した結果を示す別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態の内容を列記して説明する。本発明は、以下のような構成を備える。
[項目1]
衝撃を吸収する床材システムであって、
地面と略平行な面を持つ上部層と下部層と、複数の衝撃緩衝能を持つ脚部を有し、並べて使用する基礎材と、
前記基礎材に掛かる力を分散する分散材と、
を持つことを特徴とする、床材システム。
[項目2]
前記脚部は、前記基礎材の四隅に配置されること、
を特徴とする、項目1に記載の床材システム。
[項目3]
前記脚部は、垂直方向に一定以上の力が加わると座屈すること、
を特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の床材システム。
[項目4]
前記脚部は、一つの側面に溝を備えること、
を特徴とする、項目1から3のいずれかに記載の床材システム。
[項目5]
前記分散材は、隣接する二つの基礎材を跨いで設置する第1の分散材と、
隣接する4つの基礎材を跨いで配置する第2の分散材と、
を持つことを特徴とする、項目1から4のいずれかに記載の床材システム。
【0013】
(実施の形態の詳細)
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(概要)
本発明の実施の形態による床材システム1は、複数の機能の異なる層を備える。図1は床材システム1を横から見た図であり、床材システム1の1単位の構成を示す。
【0015】
床材システム1は、衝撃を吸収する主な機能を持つ基礎材10と、衝撃を幾つかの基礎材に分散する分散材20と分散材21、上部に位置して歩行性を高める表層材30と、基礎材10の下部に位置し、基礎材10を安定させる下層材40を備える。また、基礎材10の間にある空間に、緩衝材50を備えてもよい。
【0016】
基礎材10は、単体でも衝撃吸収能を持つ新規の構造体であり、複数並べて設置することで、設置した範囲において衝撃吸収能を発揮する。
【0017】
しかしながら、図20図21に示すように、基礎材10を単純に敷き詰めた場合、力が加わる場所によっては、期待する衝撃吸収能が得られないという問題が発生する。この課題を解決するのが分散材20と分散材21である。基礎材10を敷き詰めて、分散材20と分散材21をその上に、後述するように配置すれば、力が加わる場所がどこになったとしても、基礎材10が持つ衝撃吸収能を、一定の範囲で活かすことができる。その他の表層材30、下層材40は、基礎材10と分散材20および分散材21の機能を補助する役割を果たす。
【0018】
以下、本実施形態の基礎材10、分散材20および分散材21、表層材30、下層材40及び、緩衝材50の構造と機能について、それぞれ説明する。
【0019】
本実施形態の下層材40は、床材システム1の最下層を構成し、床などの構造物や地面の上などに設置する。下層材40は、設置した場所の凹凸を吸収することで、下層材40の上面は設置面に対して略平行になり、基礎材10が衝撃吸収能を十分に発揮する環境を作る機能を果たす。下層材40は、設置面の凹凸を吸収し、その上面に設置する基礎材10が下層材40の上を滑らなければ、その素材や表面構造、厚みは問わない。また、下層材40は、基礎材10の上部層101と同じく、L1の長さを持つ正方形で設置面に敷き詰めて使用してもよいし、基礎材10のサイズと合わせずにシートのように設置面に広げて使用してもよい。
【0020】
本実施形態の基礎材10の全体構造の一例を図2図3図4に示す。図2は基礎材10を横から見た図である。図3は基礎材10を上から見た図である。図4は基礎材10を斜め上から見た図である。基礎材10は、歩行者や設置物等からの圧力を受ける上部層101と、その下部に衝撃を吸収する機能を持つ複数の脚部102と、下層材40と接する下部層103を有することを特徴とする。図3において、実際は見えない脚部102を点線で記載し、下部層103は上部層101と同じサイズであるため、上部層101と重なって見えるため記載していないように見える。
【0021】
本実施形態の上部層101の構造の一例を図2図3図4に示す。上部層101は、1辺の長さL1の正方形と厚さt1からなる。L1は150mmから600mmの範囲で衝撃緩衝能を発揮しやすく、200mmから500mmの範囲であれば硬すぎず、また、上部層101の自重による弛みを抑えて衝撃緩衝能を発揮しやすい。更に、300mmから400mmであれば、更に衝撃緩衝能を発揮しやすく、サイズと重量により設置し易さが向上する。更に、t1は2mmから10mmの範囲で衝撃緩衝能を発揮しやすく、2mmから8mmであれば更に衝撃緩衝能を発揮しやすく、2mmから5mmであれば更に衝撃緩衝能を発揮しやすい。
【0022】
上部層101はNRゴムで構成される。ゴム硬度は10から100の範囲でよく、50-70の範囲で衝撃吸収能と歩行時の安定性のバランスが高まる。
【0023】
脚部102の構造の一例を図5に示す。脚部102は、高さh1、幅w1、奥行きd1の構造を持つ。また、脚部102の一つの側面には溝が存在する。h1は20mmから100mmの範囲で、長いほど衝撃吸収能が高く、短いほど建築物内への設置がしやすい。また、h1は20mmから50mmであれば、既に構築された建築物内への設置し易さは向上する。また、d1はh1に依存し、h1±20mmから2×h1±20mmの範囲でよく、具体的にはh1が100mmの時、d1は100mm±20mmでよく、h1が40mmの時、d1は80mm±20mmでよい。更に、w1はh1に依存し、5mmから20mmの範囲でよく、具体的にはh1が100mmの時、w1は15mm±5mmでよく、h1が40の時、w1は10mm±5mmでよい。
【0024】
脚部102が持つ前記溝は、脚部102の下部からh1/2の位置を中心に、深さx、幅yの構造を持つ。xはh1に依存し、1mmから10mmの範囲でよく、具体的にはh1が100mmの時、xは5mm±4mmでよく、h1が40mmの時、xは3mm±2mmでよい。また、yはh1に依存し、5mmから300mmでよく、具体的にはh1が100mmの時、yは20mm±10mmでよく、h1が40mmの時、yは10mm±5mmでよい。
【0025】
なお、本実施形態ではh1、w1、d1、x、yは体重60kgから70kgの人間が歩行することを前提として説明しており、対象とする体重別に変更してもよい。例えば、一例として、同施設で使用することを想定すれば、h1は固定し、対象者の体重が70kgよりも重くなるとw1を長く、xを短くし、また、対象者の体重が60kgより軽くなると、w1を短く、xを長くしてもよい。
【0026】
脚部102はNRゴムまたはエラストマーで構成される。ゴム硬度は10から100の範囲でよく、50-70の範囲で衝撃吸収能と歩行時の安定性のバランスが高まる。
【0027】
基礎材10における、脚部102の位置の一例を図6に示す。図6は、基礎材10の一つの角を、真上から見た図であり、本来、脚部102は見えないが、説明の都合上記載している。また、図6には基礎材10の全体は記載しておらず、点線で続いていることを表している。脚部102は、上部層101の四隅に配置される。前記溝が存在する側面を面1021、それ以外の側面のうち、上部層101の淵に近い側面を面1022とする。脚部102は、上部層101の淵と面1021、面1022との距離がそれぞれa、bの位置に配置される。このとき、aの長さは1mmから10mmでよく、2mmから5mmであれば、場所ごとの衝撃吸収性能のばらつきが減る。また、bの長さは1mmから10mmでよく、2mmから5mmであれば場所ごとの衝撃吸収性能のばらつきが減る。
【0028】
脚部102の向きは図2図4で明確になる。前記溝は上部層101の外側に向かう。
【0029】
本実施形態の下部層103の構造の一例を図2に示す。下部層103は、1辺の長さL2の正方形と厚さt2からなる。L2は150mmから600mmの範囲で衝撃緩衝能を発揮しやすく、200mmから500mmの範囲であれば衝撃緩衝能を発揮しやすい。更に、300mmから400mmであれば、更に衝撃緩衝能を発揮しやすく、サイズと重量により設置し易さが向上する。更に、t2は2mmから10mmの範囲で衝撃緩衝能を発揮しやすく、2mmから8mmであれば更に衝撃緩衝能を発揮しやすく、2mmから5mmであれば更に衝撃緩衝能を発揮しやすい。
【0030】
下部層101はNRゴムまたはエラストマーで構成される。ゴム硬度は10から100の範囲でよく、50-70の範囲で衝撃吸収能はより高まる。
【0031】
脚部102は上部層101、下部層103と一体となって結合していてもよいし、上部層101の下部と脚部102の上部とを、また下部層103の上部と脚部102の下部とを、結着、部品によって固定してもよいし、または上部層101の下部、脚部102の上部と下部、下部層103の上部にオス・メスの構造を作り、それぞれをはめることで固定してもよい。
【0032】
脚部102の特徴について図7を用いて説明する。脚部102は上部に垂直下の方向に衝撃が加わった際に、1000N前後で脚部102の溝の逆側の側面が突き出るように座屈する。1000N前後までは上下に縮むことで衝撃を吸収し、それ以上の力が加わった際には座屈することで衝撃を吸収する。2重に衝撃を吸収する機構を持つことで、通常歩行時には歩きやすく、転倒時などに強い力が加わった際には座屈することで衝撃を吸収できる。
【0033】
本実施形態の分散材21は、基礎材10と分散材20の間に設置する。基礎材10がある程度の変形性をもつゴム等を材料とすることから、一定の硬度を持つ分散材21を基礎材10の上に設置することで、上部層101の自重で基礎材10の中央部が弛むことを防ぎ、また、基礎材10の上部層101に力が掛かった際にも、その力を基礎材10の4本の脚部102に分散する機能を果たす。更に、分散材21は、力を広い面積で受ける機能を持つ。基礎材10の分散材21は、その厚みは2mmから12mmでよく、基礎材10の中央部に力が掛かった際に、その力を4本の足に分散することができる硬度を持つ素材であれば、その素材や表面構造は問わない。分散材21は、例えば、素材としては木材や樹脂、プラスチック、金属などでもよい。
【0034】
分散材20は、基礎材10の衝撃吸収能と歩行時の安定性のバランスを最大化させるために必要な部品である。まず、基礎材10は敷き詰めることで使用する。基礎材10を単純に並べただけでは、隣接する基礎材10との連結はなく、力が掛かった部位によって、力が加わる脚部102に偏りが出てしまい、結果、衝撃吸収能に差がでて、安定した機能を発揮できない。図8は、下層材40の上に基礎材10、更にその上に分散材21を乗せたものを4つ配置したものを上から見た図であり、説明の都合上、下層材40と分散材21の表記は省いている。例えば、図8の位置111に力が加わった場合、分散材21の効果により、4本の脚部102a、脚部102b、脚部102c、脚部102dに、およそ均一に力が加わり、期待する衝撃吸収能を得ることができる。しかし、例えば、図6の位置112に力が加わった場合、当該力はその真下にある脚部102eに偏って掛かるため、期待する衝撃吸収能を得ることができない。また、例えば、位置113においても、脚部102fと脚部102gの2本に偏って力がかかり、期待する衝撃吸収能を得ることができない。更に、例えば114のように複数の基礎材10にまたがった位置に力が加わった場合も、基礎材10Aと基礎材10Bは連結していないため、脚部102g、脚部102h、脚部102i、脚部102jに力がうまく分散できるとは限らない。なぜならば、例えば、歩行時には、図6に足跡で示すように、足で位置114を踏むことになり、その場合、踵部分、つまり基礎材10Dに大きな力が掛かることになり、結果的に脚部102i、脚部102jに偏って力が掛かるためである。分散材20はこの課題を解決し、隣接する2つまたは4つの基礎材10の、4本の脚部102に力を分散する機能を持つ。
【0035】
分散材20には、分散材201と分散材202と分散材203と分散材204の4種類がある。分散材201と分散材202と分散材203と分散材204は敷き詰めるため、それぞれが接触せず、また同じ厚みであることが求められる。なお、接続部分が折れ曲がりやすい構造になっていて、それぞれが分かれているときと同じ効果を得られるようであれば、分散材201と分散材202と分散材203と分散材204は一体になっていてもよい。
【0036】
分散材201の構造の一例を図9に示す。分散材201は、本実施形態では、1辺の長さがL3の正方形で、厚さt3の構造を持つ。L3は基礎材10におけるL1に依存し、(L1/2)±20mmの範囲で、分散材202と接触しなければよい。t3は2mmから5mmの範囲でよい。
【0037】
分散材202の構造の一例を図10に示す。分散材202は、本実施形態では、1辺の長さがL4の正方形で、厚さt4の構造を持つ。L4は基礎材10におけるL1に依存し、(L1/2)±20mmの範囲で、分散材201と接触しなければよい。t4は2mmから5mmの範囲でよい。
【0038】
分散材203の構造の一例を図11に示す。分散材203は、本実施形態では、1辺の長さがL5の正方形で、厚さt4の構造を持つ。L3は基礎材10におけるL1に依存し、(L1/4)×√2±10mmの範囲で、分散材202及び分散材204と接触しなければよい。t5は2mmから5mmの範囲でよい。
【0039】
分散材204の構造の一例を図12に示す。分散材204は、本実施形態では、1辺の長さがL6の直角二等辺三角形で、底辺の長さはL7であり、厚さt6の構造を持つ。L6は基礎材10におけるL1に依存し、(L1/4)±10mmの範囲で、分散材202及び分散材203と接触しなければよい。L7は基礎材10におけるL1に依存し、(L1/4)×√2±10mmの範囲で、分散材202と接触しなければよい。t6は2mmから5mmの範囲でよい。
【0040】
図13は下層材40の上に基礎材10、更にその上に分散材21を乗せたものを4つ配置し、その上に分散材201と分散材202と分散材203と分散材204を配置したものを上から見た図であり、説明の都合上、下層材40と分散材21の表記は省き、また、分散材201と分散材202と分散材203と分散材204は透明で表現している。一例として、図10を用いて、分散材201と分散材202と分散材203と分散材204の位置を説明する。分散材201は、基礎材10の中央部に位置する。分散材202は、隣接する2つの基礎材10を跨ぐように位置する。分散材203は、隣接する4つの基礎材10を跨ぐように位置する。分散材204は、分散材202と分散材203を前記の通り設置した際に生じる空間に配置する。なお、図10は一例として、基礎材10を4つ並べ、その接点を中心として各分散材の配置の仕方を示す図である。実際は基礎材10が4つ以上並べられることが想定され、その場合には、4つの隣接する基礎材10の設定を中心として、図10と同様に分散材201と分散材202と分散材203と分散材204を配置する。
【0041】
例えば、一例として、図13の位置121に力が加わった場合は、分散材201とその下の1枚の分散材21を通じて、基礎材10の上部層101に力が伝わり、さらに脚部102aa、脚部102bb、脚部102cc、脚部102ddに力が分散される。また、図13の位置122に力が加わった場合、分散材203とその下の4枚の分散材21を通じて、脚部102dd、脚部102ee、脚部102gg、脚部102iiに力が分散される。更に、図13の位置123に力が加わった場合、分散材202とその下の2枚の分散材21を通じて、脚部102bb、脚部102dd、脚部102ff、脚部102ggに力が分散される。このように、基礎材10を並べて置いたエリアのどの位置に力が加わったとしても、同一の基礎材10または隣接する複数の基礎材10の4本の脚部102に力が分散され、期待する衝撃吸収能を得ることができる。なお、分散材204は、分散材202と分散材203を配置することによって生じる空間を埋め、つまずきなどを防ぎ、歩きやすさを向上するために配置する。
【0042】
表層材30は、歩行面に塩化ビニル樹脂層と、その下部に発泡層と、が積層された構造を持つ。分散材201と分散材202と分散材203と分散材204同士には、可動性を持たせるためにわずかな隙間が設計されているため、当該隙間を覆い、歩行性を高める機能を持つ。また、分散材201と分散材202と分散材203と分散材204は、それぞれの間にわずかな隙間が設計されているため、使用中に当該隙間の空間分ずれてしまうことも考えられることから、表層材30に、分散材201と分散材202と分散材203と分散材204を接着または固定し、分散材21の上に設置してもよい。
【0043】
緩衝材50は、基礎材10の内部にある空間に設置する。素材は、ウレタンフォームなどの各種発泡剤、ゴムスポンジ、ポリウレタン、衝撃を吸収するゲルなどであってよく、床材システム1の機能発揮に必須のものではない。
【実施例0044】
基礎材10をL1が300mmm、t1が3mm、t2が3mm、また、h1が100mm、d1が100mm、w1が15mm、xが5mm、yが100mm、素材はNRゴムで構成し、当該基礎材10を4ユニット使用した。また、分散材21は1辺300mmの正方形、厚みが3mmの木板、下層材40も1辺300mm、厚みが3mmの木板を4セットずつ使用した。更に、分散材201はL3が149mm、t3が3mmの木板を、分散材202はL4が149mm、t4が3mmの木板を、分散材203はL5が140mm、t5が3mmの木板を、分散材204はL6が100mm、L7が140mm、t6が3mmの木板を使用した。なお、衝撃吸収能の測定のため、表層材30と緩衝材50は使用しなかった。
【0045】
段落0044に記載した、下層材40、基礎材10、分散材21、分散材201、分散材202、分散材203、分散材204を、図1図14に示すような順番、位置に配置(以下、試験床材ユニット1と記す)し、衝撃計測システムの上に設置した。試験床材ユニット1の中心部(図14の位置125)に対し、体重65kgの人間が転倒し、大腿骨を打撲する状態を再現する、7.5kgの治具を落下させる実験を行い、落下衝撃力(N)を測定した。なお、比較試験として、衝撃計測システムの上に、市販のフローリング、スポンジ、特許文献2で開示されている市販の衝撃吸収床材についても同様に試験を行った。
【0046】
図15は衝撃吸収能の試験結果を示す。それぞれの床材に対し、3回試験を行いその平均値と標準偏差を記載した。また、図16には当該結果のグラフを示す。フローリングは板材であり、衝撃はほとんど吸収されていないと考えられ、約7500Nの衝撃であった。また、スポンジは衝撃を吸収しそうであるが、柔らかく厚さが十分でないために底打ちし、フローリングとほぼ変わらない値となっていると考えられる。なお、特許文献2で開示されている市販の衝撃吸収床材では、3800N程度の衝撃が測定され、衝撃を半分程度吸収していることが分かった。更に、試験床材ユニット1においては2700N程度の衝撃が測定され、今回試験した床材の中では最も高い衝撃吸収能を示した。
【0047】
なお、非特許文献1(PLoS ONE 13(8): e0200952.)において、大腿骨表面に掛かる荷重は、体表面に掛かる荷重の約70%であるという報告がなされている。また、非特許文献2(The Journal of Bone and Joint Surgery, vol.,77-A. NO.3. MARCH 1995)において、73歳の男性の大腿骨が、およそ2000Nで骨折しうるという報告がある。図17において、前期試験の結果を、大腿骨に掛かる衝撃に換算したところ、大腿骨に掛かる衝撃が2000Nを下回ったのは試験床材ユニット1だけであり、高齢者の転倒時骨折を十分に防げる衝撃吸収能があることが証明された。
【0048】
また、別の試験として、分散材201、分散材202、分散材203、分散材204の効果を測定した。前記試験床材ユニット(図19に示す)と、前記試験床材ユニットから分散材201、分散材202、分散材203、分散材204を取り除いた、無分散材試験床材ユニット(図18に示す)を、それぞれ衝撃計測システムの上に設置した。当該試験床材ユニットと無分散材試験床材ユニットにおいて、図18の位置126(センター)と、位置127(サイド)と、位置128(コーナー)と、図19の位置129(センター)と、位置130(サイド)と、位置131(コーナー)に対し、7.5kgの治具を落下させる実験を行い、落下衝撃力(N)を測定した。
【0049】
図20には、無分散材試験床材ユニットの結果を示す。それぞれの位置に対し、3回試験を行いその平均値と標準偏差を記載した。また、図21には当該結果のグラフを示す。位置126に力を加えた場合、基礎材10の脚部102に均等に力が加わると考えられるため、最も衝撃吸収能と歩行時の安定性のバランスが良い。また、位置127及び位置128に力を加えた場合、位置126に加えた場合よりも40%ほど、衝撃が弱くなった。これは、脚部102によって衝撃が吸収されたことを意味しており、衝撃吸収能が発揮されたものの、歩行時に座屈してしまう状態になっており、また更に強い力が加わった際には脚部102の衝撃吸収能が底打ちをしやすい可能性がある。
【0050】
図22には、試験床材ユニットの結果を示す。それぞれの位置に対し、3回試験を行いその平均値と標準偏差を記載した。また、図23には当該結果のグラフを示す。位置129に力を加えた場合、基礎材10の脚部102に均等に力が加わると考えられるため、最も衝撃吸収能と歩行時の安定性のバランスが良い。また、位置130及び位置131に力を加えた場合、位置129に加えた場合よりも10%~20%ほど、衝撃が弱くなった。これは、分散材201、分散材202、分散材203、分散材204があることで、どの位置に力が加わったとしても、ある程度の力の分散がなされていることを示しており、歩行時の安定性も確保されている。
【0051】
さらに、別の実験として、歩行時の沈み込み量の試験を行った。高齢女性の踵で床材を踏んだことを想定し、50kgの荷重を、直径5cmの半球形状で、以下に示す床材に対してかけた。使用した床材は、ジョイントマット(発砲ポリウレタン)、特許文献2で開示されている市販の衝撃吸収床材、試験床材ユニットである。なお、試験床材ユニットは、図19の位置129に対して荷重をかけた。
【0052】
図24および図25に、歩行時の沈み込み量の試験結果を示す。ジョイントマットは10mm弱沈み込む。特許文献2に開示されている市販の衝撃吸収床材は、ジョイントマットの倍近く沈み込むことから、通常歩行している際にも、片足の踵に全体重がかかると沈み込んでしまう。前記床材ユニットは沈み込み量が2mm弱であることから、通常歩行している際には影響が少ない。
【0053】
上述した実施の形態は、本発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良することができると共に、本発明にはその均等物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0054】
1 床材ユニット(試験床材ユニット)
20 分散材
21 分散材
30 表面材(表層材)
40 下層材
101 上部層
102 脚部
103 下部層
1021 面
1022 面
201 分散材
202 分散材
203 分散材
204 分散材
図1
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