(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164978
(43)【公開日】2023-11-14
(54)【発明の名称】抗アレルギー剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/115 20160101AFI20231107BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20231107BHJP
A61K 31/202 20060101ALI20231107BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20231107BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20231107BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20231107BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20231107BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231107BHJP
A61K 31/232 20060101ALI20231107BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20231107BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
A23L33/115
A61P37/08
A61K31/202
A61P11/06
A61P11/02
A61P17/04
A61P27/02
A61P37/06
A61K31/232
A23L5/00 L
A23D9/00 516
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023145299
(22)【出願日】2023-09-07
(62)【分割の表示】P 2022163431の分割
【原出願日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2021168412
(32)【優先日】2021-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐山 慧門
(72)【発明者】
【氏名】深川 聡子
(72)【発明者】
【氏名】石川 准子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 綾
(57)【要約】
【課題】抗アレルギー剤の提供。
【解決手段】油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり
、ジアシルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とする抗アレル
ギー剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジアシル
グリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とする抗アレルギー剤。
【請求項2】
アレルギーがI型アレルギーである請求項1記載の抗アレルギー剤。
【請求項3】
アレルギーが花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、蕁麻疹、アレルギー性結膜炎、
食物アレルギー、アナフィラキシーショック又は薬物アレルギーである請求項1又は2記
載の抗アレルギー剤。
【請求項4】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上
である請求項1~3のいずれか1項記載の抗アレルギー剤。
【請求項5】
油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジアシル
グリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とするIgE産生抑制剤。
【請求項6】
IgE産生抑制がアレルゲン特異的IgE産生抑制である、請求項5記載のIgE産生
抑制剤。
【請求項7】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上
である請求項5又は6記載のIgE産生抑制剤。
【請求項8】
油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジアシル
グリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とするアレルゲン暴露によ
るTh2細胞応答抑制剤。
【請求項9】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上
である請求項8記載のアレルゲン暴露によるTh2細胞応答抑制剤。
【請求項10】
油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジアシル
グリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とする抗アレルギー用食品
。
【請求項11】
アレルギーがI型アレルギーである請求項10記載の抗アレルギー用食品。
【請求項12】
アレルギーが花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、蕁麻疹、アレルギー性結膜炎、
食物アレルギー、アナフィラキシーショック又は薬物アレルギーである請求項10又は1
1記載の抗アレルギー用食品。
【請求項13】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上
である請求項10~12のいずれか1項記載の抗アレルギー用食品。
【請求項14】
油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジアシル
グリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とするIgE産生抑制用食
品。
【請求項15】
IgE産生抑制が、アレルゲン特異的IgE産生抑制である、請求項14記載のIgE
産生抑制用食品。
【請求項16】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上
である請求項14又は15記載のIgE産生抑制用食品。
【請求項17】
油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジアシル
グリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とするアレルゲン暴露によ
るTh2細胞応答抑制用食品。
【請求項18】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上
である請求項17記載のアレルゲン暴露によるTh2細胞応答抑制用食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの体には、感染性微生物や異物等から身を守るための免疫という仕組みが備わって
いる。この免疫の働きが異常を起こし、くしゃみ、発疹、呼吸困難等の症状を起こしてし
まう状態がアレルギーである。
一般的に、アレルギーの発症機構はI型からIV型の4つの反応に分類される。これら
のうち、花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アレルギー性結膜炎、食物アレルギー
、アナフィラキシーショック等の主要なアレルギーを発症させる型はI型である。
I型反応では、提示された抗原(アレルゲン)によりヘルパーT細胞が活性化され、I
L-4(インターロイキン4)等のサイトカインの産生を増加させる。また、B細胞によ
り産生されたIgE抗体は、組織に存在するマスト細胞(肥満細胞)や血中の好塩基球上
の高親和性IgE受容体(FcεR1)に結合する。このような感作された状態にある体
内にふたたび抗原が入ってくると、抗原はマスト細胞や好塩基球上に結合したIgE抗体
と抗原抗体反応をおこし、この刺激により細胞内で一連の反応を生じてヒスタミン等の化
学伝達物質が細胞外に遊離され、平滑筋収縮、毛細血管透過性亢進、腺分泌亢進等をおこ
し、アレルギーの諸症状が発現する。
【0003】
アレルギーの発症・増悪因子としては、遺伝素因を含めた個体因子と、抗原等への暴露
を中心とした環境因子が挙げられるが、近年のアレルギー疾患の有病率の増加の原因とし
ては環境因子の影響が大きいとされている。アレルギー疾患に関する研究の進歩により徐
々に発症機序、悪化因子等の解明が進みつつあるが、いまだアレルギー疾患に対する完全
な予防法や根治的治療法がなく、治療の中心は抗原回避をはじめとした生活環境確保と、
ヒスタミンH1拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬等の薬物療法による長期的な対症療法
となっているのが現状である。しかし、花粉等の外来異物に対するアレルギーは該当する
アレルゲンとの接触を避けることが比較的可能であるが、食物アレルギーは該当アレルゲ
ンが非常に重要かつ広範囲に用いられる食物であることが多く、接触を避けることに非常
に困難が伴う。また、長期に亘る薬物の服用は、眠気、口渇、胃腸障害等の副作用が問題
とされる。
【0004】
そこで、安全性の観点から、抗アレルギー作用を有する食品成分や植物成分の探索が行
われている。その一つとして、亜麻仁油があり、亜麻仁油の摂取で食物アレルギー症状が
抑制されることが報告されている(非特許文献1)。亜麻仁油はアマの種子から搾油・精
製される油で、ω3系高度不飽和脂肪酸の一つであるα-リノレン酸(ALA)を豊富に
含むことが知られている。
【0005】
一方、ジアシルグリセロールを高濃度に含む油脂は、食後の血中トリグリセリド(中性
脂肪)の増加を抑制し、体内への蓄積性が少ない等の生理作用を有することが報告されて
いる。例えば、特許文献1では、構成脂肪酸の15~90重量%が炭素数20未満のω3
系不飽和脂肪酸であり、シス型ω3系不飽和脂肪酸/(シス型ω6系不飽和脂肪酸+飽和
脂肪酸+トランス型不飽和脂肪酸)の重量比が1~6であるジグリセリドを60~100
重量%含有する油脂組成物は、内臓脂肪燃焼性及び体脂肪燃焼性等に優れていることが報
告されている。
しかしながら、構成脂肪酸としてα-リノレン酸を多く含むジアシルグリセロール含有
油脂に抗アレルギー作用があることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kunisawa et al.,Sci Rep.2015、5、9750
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、抗アレルギー剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、経皮感作食物アレルギーモデルを用いて、α-リノレン酸を多く含むジア
シルグリセロール含有油脂のアレルギー抑制効果を評価した。その結果、食物アレルゲン
感作前にα-リノレン酸を多く含むジアシルグリセロール含有油脂を添加した餌で飼育し
たマウスでは血漿中のアレルゲン特異的IgE産生量が有意に減少し、また鼡径リンパ節
のIL-4発現が抑制され、当該油脂は抗アレルギー作用を有することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の1)~6)に係るものである。
1)油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジアシ
ルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とする抗アレルギー剤。
2)油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジアシ
ルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とするIgE産生抑制剤
。
3)油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジアシ
ルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とするアレルゲン暴露に
よるTh2細胞応答抑制剤。
4)油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジアシ
ルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とする抗アレルギー用食
品。
5)油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジアシ
ルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とするIgE産生抑制用
食品。
6)油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジアシ
ルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とするアレルゲン暴露に
よるTh2細胞応答抑制用食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗アレルギー剤によれば、IgEの産生及びIL-4の発現を抑制するため、
特にI型アレルギーの発症抑制又はアレルギー症状の緩和が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】鼡径リンパ節細胞のIL-4mRNA発現量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において「油脂」とは、脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物を指し、モノア
シルグリセロール、ジアシルグリセロール及びトリアシルグリセロールのいずれか1種以
上を含むものである。油脂の種類に特に制限はなく、食用油脂として使用できるものであ
れば何れでもよい。
【0014】
本発明に用いる油脂は、油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量
%以上であり、ジアシルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂である。以下
、本明細書において「油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以
上であり、ジアシルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂」を単に「本発明
の油脂」と記載することがある。
【0015】
本発明の油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量は40質量%以上であるが
、生理効果の点から、好ましくは45質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に
好ましくは52質量%以上であり、また、酸化安定性の点から、好ましくは80質量%以
下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量は、40質量%以上80質量%以下
、好ましくは45質量%以上80質量%以下、より好ましくは50質量%以上80質量%
以下、より好ましくは50質量%以上70質量%以下、更に好ましくは52質量%以上7
0質量%以下、更に好ましくは52質量%以上60質量%以下である。なお、本明細書に
おける脂肪酸量は遊離脂肪酸換算量である。
【0016】
本発明において、油脂を構成するα-リノレン酸以外の構成脂肪酸としては、特に限定
されず、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。
油脂の風味・工業的生産性の点からは、油脂を構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有
量は、好ましくは60質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上10
0質量%以下、更に好ましくは75質量%以上99質量%以下、更に好ましくは80質量
%以上98質量%以下である。不飽和脂肪酸の炭素数は、生理効果の点から、好ましくは
14~24、より好ましくは16~22である。
【0017】
油脂を構成する脂肪酸中のリノール酸(C18:2)の含有量は、工業的生産性の点か
ら、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、また、生理効果の
点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは2
0質量%以下である。
油脂を構成する脂肪酸中のリノール酸(C18:2)の含有量は、好ましくは5質量%
以上40質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上30質量%以下、更に好まし
くは10質量%以上20質量%以下である。
【0018】
また、油脂を構成する脂肪酸中のオレイン酸(C18:1)の含有量は、工業的生産性
の点から、好ましくは10質量%以上であり、また、生理効果の点から、好ましくは50
質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
油脂を構成する脂肪酸中のオレイン酸(C18:1)の含有量は、好ましくは10質量
%以上50質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上40質量%以下、更に好ま
しくは10質量%以上30質量%以下である。
【0019】
油脂を構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸の合計含有量は、外観、生理効果、油脂の工業的
生産性の点から、好ましくは6.0質量%以下、より好ましくは5.5質量%以下、更に
好ましくは5.0質量%以下である。また、工業的な生産性の点から、好ましくは0.5
質量%以上である。
油脂を構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸の合計含有量は、好ましくは0.5質量%以上6
.0質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以上5.5質量%以下、更に好ましくは0
.5質量%以上5.0質量%以下である。
飽和脂肪酸の種類は特に限定されないが、好ましくは炭素数14~24の飽和脂肪酸、
より好ましくは炭素数16~22の飽和脂肪酸、更に好ましくは炭素数16、18、20
の飽和脂肪酸である。
【0020】
本発明の油脂中のジアシルグリセロールの含有量は25質量%以上であるが、効果を有
効に発現する点、生理効果の点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質
量%以上、更に好ましくは55質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、更に好まし
くは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、
更に好ましくは83質量%以上、更に好ましくは84質量%以上であり、また、好ましく
は96質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは94質量%以下であ
る。
油脂中のジアシルグリセロールの含有量は、好ましくは25質量%以上96質量%以下
、より好ましくは30質量%以上96質量%以下、更に好ましくは50質量%以上96質
量%以下、更に好ましくは50質量%以上95質量%以下、更に好ましくは55質量%以
上95質量%以下、更に好ましくは60質量%以上95質量%以下、更に好ましくは65
質量%以上95質量%以下、更に好ましくは65質量%以上94質量%以下、更に好まし
くは70質量%以上94質量%以下、更に好ましくは80質量%以上94質量%以下、更
に好ましくは83質量%以上94質量%以下、更に好ましくは84質量%以上94質量%
以下である。
【0021】
本発明において、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸は飽和脂肪酸又は不飽和脂肪
酸のいずれであってもよいが、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のα-リノレン
酸の含有量が40質量%以上であることが効果を有効に発現する点から好ましい。
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量は、同様の点から
、好ましくは45質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは52質量
%以上であり、また、酸化安定性の点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは
70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量は、40質量%以
上80質量%以下、好ましくは45質量%以上80質量%以下、より好ましくは50質量
%以上80質量%以下、より好ましくは50質量%以上70質量%以下、更に好ましくは
52質量%以上70質量%以下、更に好ましくは52質量%以上60質量%以下である。
【0022】
本発明の油脂は、トリアシルグリセロールを含有していてもよく、その含有量は、油脂
の工業的生産性の点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に
好ましくは5質量%以上であり、また、好ましくは75質量%以下、より好ましくは72
質量%以下、より好ましくは50質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
油脂中のトリアシルグリセロールの含有量は、好ましくは1質量%以上75質量%以下
、より好ましくは2質量%以上75質量%以下、更に好ましくは2質量%以上72質量%
以下、更に好ましくは5質量%以上72質量%以下、更に好ましくは5質量%以上50質
量%以下、更に好ましくは5質量%以上25質量%以下である。
また、油脂中のモノアシルグリセロールの含有量は、風味、油脂の工業的生産性の点か
ら、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1.
5質量%以下であり、また、好ましくは0質量%超である。油脂中のモノアシルグリセロ
ールの含有量は、0質量%でもよい。
トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール及びモノアシルグリセロールの脂肪酸
組成は同じであることが、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0023】
本発明の油脂は、不純物として遊離脂肪酸又はその塩を含有していてもよい。油脂中の
遊離脂肪酸又はその塩の含有量は、風味の点から、好ましくは3質量%以下、より好まし
くは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下であり、また、好ましくは0質量%超で
ある。油脂中の遊離脂肪酸又はその塩の含有量は、0質量%でもよい。
【0024】
本発明の油脂は、常法に従って、油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応、
油脂とグリセリンとのエステル交換反応(グリセロリシス)等により得ることができる。
必要に応じて通常の食用油脂を混合してもよい。
エステル化反応とグリセロリシス反応は、アルカリ金属又はその合金、アルカリ金属又
はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコキ
シド等の化学触媒を用いる化学法と、リパーゼ等の酵素を用いる酵素法とに大別される。
なかでも、脂肪酸組成を制御する点から、後述する油脂を加水分解して得られる脂肪酸
(分別脂肪酸)とグリセリンとのエステル化反応が好ましい。
【0025】
本発明において、油脂の起源は、食用油脂として使用できるものであれば特に制限はな
く、植物性油脂、動物性油脂のいずれでもよい。例えば、大豆油、菜種油、サフラワー油
、米油、コーン油、ヒマワリ油、綿実油、オリーブ油、ゴマ油、落花生油、ハトムギ油、
小麦胚芽油、シソ油、アマニ油、エゴマ油、チアシード油、サチャインチ油、クルミ油、
キウイ種子油、サルビア種子油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油
、カボチャ種子油、椿油、茶実油、ボラージ油、パーム油、パームオレイン、パームステ
アリン、やし油、パーム核油、カカオ脂、サル脂、シア脂、藻油等の植物性油脂;魚油、
アザラシ油、ラード、牛脂、バター脂等の動物性油脂;あるいはこれらのエステル交換油
、水素添加油、分別油等の油脂類を挙げることができる。
これらの油は、それぞれ単独で用いてもよく、あるいは適宜混合して用いてもよい。な
かでも、使用性の点から、植物性油脂を用いるのが好ましく、更に低温耐性に優れた液状
油脂を用いるのが好ましく、更にシソ油、アマニ油及びエゴマ油からなる群より選ばれる
1種又は2種以上の油脂を用いるのが、α-リノレン酸を豊富に含むため好ましい。なお
、液状油脂とは、基準油脂分析試験法2.3.8-27による冷却試験を実施した場合、
20℃で液状である油脂をいう。また、食用油脂は、精製工程を経た精製油脂であるのが
好ましい。
【0026】
油脂由来の脂肪酸は、油脂を加水分解して得ることができる。油脂を加水分解する方法
としては、高温高圧分解法と酵素分解法が挙げられる。高温高圧分解法とは、油脂に水を
加えて、高温、高圧の条件で反応することにより、脂肪酸とグリセリンを得る方法である
。また、酵素分解法とは、油脂に水を加えて、油脂加水分解酵素を触媒として用い、低温
の条件で反応することにより、脂肪酸とグリセリンを得る方法である。
加水分解反応は、常法に従って行うことができる。
【0027】
油脂の加水分解後は、加水分解反応物を分別して固体を除去することが好ましい。分別
方法としては、溶剤分別法、自然分別法(ドライ分別法)、湿潤剤分別法が挙げられる。
析出した固体の除去手段としては、静置分離、濾過、遠心分離、脂肪酸に湿潤剤水溶液
を混合し分離する方法等が挙げられる。
【0028】
油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応は、酵素法により温和な条件で行う
のが風味等の点で優れており好ましい。
酵素の使用量は、酵素の活性を考慮して適宜決定することができるが、反応速度を向上
する点から、固定化酵素を使用する場合は、エステル化反応原料の合計質量に対して、好
ましくは1~30質量%、より好ましくは2~20質量%である。
エステル化反応の反応温度は、反応速度を向上する点、酵素の失活を抑制する点から、
好ましくは0~100℃、より好ましくは20~80℃、更に好ましくは30~60℃で
ある。また、反応時間は、工業的な生産性の点から、好ましくは15時間以内、より好ま
しくは1~12時間、更に好ましくは2~10時間である。
脂肪酸とグリセリンとの接触手段としては、浸漬、攪拌、固定化リパーゼを充填したカ
ラムにポンプ等で通液する方法等が挙げられる。
【0029】
エステル化反応の後は、通常油脂に対して用いられる精製工程を行ってもよい。具体的
には、蒸留処理、酸処理、水洗、脱色、脱臭等の工程を挙げることができる。
【0030】
後記実施例に示すとおり、本発明の油脂は、IgE産生を抑制し、また、鼡径リンパ節
のIL-4発現を抑制する。一般的に、生体内に侵入したアレルゲンは樹状細胞等の抗原
提示細胞に取り込まれ、抗原提示を経て2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)を誘導する。
そして、Th2細胞によって産生されたIL-4等のサイトカインがB細胞を活性化し、
IgEを産生する(Kucuksezer UC, Ozdemir C, Akdis M, Akdis CA. Mechanisms of immu
ne tolerance to allergens in children. Korean J Pediatr. 2013 Dec;56(12):505-13)
。以上から、本発明の油脂によれば、Th2細胞からのIL-4産生抑制に基づくIgE
産生抑制作用、特にアレルゲン特異的IgE産生抑制作用により、抗アレルギー作用が発
揮されると考えられる。
従って、本発明の油脂をヒトを含む動物に投与又は摂取することにより、当該ヒトを含
む動物におけるアレルギー反応、特に、I型アレルギー反応を抑制出来、アレルギーの発
症抑制又はアレルギー症状の緩和が可能となる。
よって、本発明の油脂は、抗アレルギー剤、IgE産生抑制剤、特にアレルゲン特異的
IgE産生抑制剤、アレルゲン暴露によるTh2細胞応答抑制剤(以下、「抗アレルギー
剤等」とも称す)となり得、抗アレルギーのため、IgE産生を抑制するため、特にアレ
ルゲン特異的IgE産生を抑制するため、アレルゲン暴露によるTh2細胞応答を抑制す
るために使用することができ、また抗アレルギー剤等を製造するために使用することがで
きる。
ここで、「使用」は、ヒト若しくは非ヒト動物への使用であり得、治療的使用であって
も非治療的使用であってもよい。「非治療的」とは、医療行為を含まない、すなわち人間
を手術、治療又は診断する方法を含まない、より具体的には医師、又は医療従事者もしく
は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概
念である。
【0031】
本明細書において、対象となるアレルギーの例としては、花粉症、アレルギー性鼻炎、
気管支喘息、蕁麻疹、アレルギー性結膜炎、食物アレルギー、アナフィラキシーショック
、薬物アレルギー等が挙げられる。なかでも、食物アレルギーに好適である。
アレルゲンを含む食物としては、例えば、卵、乳、食肉(牛肉、鶏肉、豚肉等)、穀物
(大豆、米、小麦、ソバ、ゴマ、落花生等)、やまいも、魚介類(あわび、いか、いくら
、えび、かに、さけ、さば等)、果物(オレンジ、キウイフルーツ、もも、りんご、いち
じく等)等が挙げられる。また、アレルゲンとしては、例えば、卵においては卵白アルブ
ミン(オボアルブミン)、オボムコイド等が、乳においてはカゼイン、βラクトグロブリ
ン等が、小麦においてはグリアジン、αアミラーゼインヒビター等が、落花生においては
2Sアルブミン等が挙げられる。
その他のアレルゲンを含むものとしては、例えば、カビ(アルテルナリア、ペニシリウ
ム、カンジダ、クラドシポリウム、アスペルギルス等)、ダニ、花粉(ブタクサ、カナム
グラ、スギ、ヒノキ、シラカバ、アカマツ、ススキ、ヒメガマ等)等が挙げられる。また
、アレルゲンとしては、例えば、カビのアルテルナリアにおいてはAlt a 1等が、
アスペルギルスにおいてはAsp f 1等が、ダニにおいてはDer f 1、Der
f 2等が、花粉のブタクサにおいてはAmb a 1等が、スギにおいてはCry
j 1、Cry j 2等が、シラカバにおいてはBet v 1等が挙げられる。
【0032】
本発明の抗アレルギー剤等は、それ自体、抗アレルギーのため、IgE産生を抑制する
ため、アレルゲン暴露によるTh2細胞応答を抑制するための医薬品、医薬部外品、化粧
品、食品又は飼料となり、また当該医薬品、医薬部外品、化粧品、食品又は飼料に配合し
て使用される素材又は製剤となり得る。
【0033】
当該医薬品(医薬部外品を含む、以下同じ)は、本発明の油脂を、抗アレルギーのため
、IgE産生を抑制するため、アレルゲン暴露によるTh2細胞応答を抑制するための有
効成分として含有する。更に、該医薬品は、該有効成分の機能が失われない限りにおいて
、必要に応じて薬学的に許容される担体、又は他の有効成分、薬理成分等を含有していて
もよい。
医薬品は任意の投与形態で投与され得る。投与形態としては、例えば、錠剤(チュアブ
ル錠等を含む)、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤等の経口固形製剤、内服液剤、
シロップ剤等の経口液状製剤、注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、外用剤等の非経口投
与製剤が挙げられる。好ましい投与形態は経口投与である。形態は使用目的に応じて大き
さを任意に調節することができる。
このような種々の剤形の製剤は、必要に応じて、薬学的に許容される担体、例えば、賦
形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、浸透圧調整剤、
pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、保存剤、増粘剤、流動性改善剤、嬌味剤、発泡剤
、香料、被膜剤、希釈剤等や、他の薬効成分等と適宜組み合わせて、定法に従って調製す
ることができる。
【0034】
当該化粧品は、本発明の油脂を、抗アレルギーのため、IgE産生を抑制するため、ア
レルゲン暴露によるTh2細胞応答を抑制するための有効成分として含有する。さらに、
該化粧品は、該有効成分の機能が失われない限りにおいて、必要に応じて化粧料に許容さ
れる担体、又は他の有効成分、薬効成分、化粧成分等を含有していてもよい。
本発明の油脂を含む化粧品の好ましい例としては、顔、ボディ用の化粧料(例えば、ロ
ーション、ゲル、クリーム、パック等)、メークアップ用化粧料、顔又はボディ用の洗浄
料等が挙げられる。
斯かる化粧品の各製剤は、常法に従って製造することができる。化粧料に許容される担
体としては、例えば、各種油剤、界面活性剤、ゲル化剤、緩衝剤、防腐剤、酸化防止剤、
溶剤、分散剤、キレート剤、増粘剤、紫外線吸収剤、乳化安定剤、pH調整剤、色素、香
料等が挙げられる。
他の有効成分、薬効成分、化粧成分としては、例えば、植物抽出物、殺菌剤、保湿剤、
抗炎症剤、抗菌剤、角質溶解剤、清涼剤、抗脂漏剤、洗浄剤、メークアップ成分等が挙げ
られる。
【0035】
当該食品は、本発明の油脂を、抗アレルギーのため、IgE産生を抑制するため、アレ
ルゲン暴露によるTh2細胞応答を抑制するための有効成分として含有する。
食品には、抗アレルギーを訴求とし、必要に応じてその旨の表示が許可又は届出された
食品(特定保健用食品、機能性表示食品)が含まれる。表示の例としては、「目や鼻の不
快感を緩和する」等がある。機能表示が許可又は届出された食品は、一般の食品と区別す
ることができる。
食品の形態は、固形、半固形又は液状(例えば飲料)であり得る。例としては、各種食
品組成物(パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、冷凍食品、アイスクリーム類、あめ類、ふ
りかけ類、スープ類、乳製品、シェイク、飲料、調味料等)、更には、上述した経口投与
製剤と同様の形態(顆粒剤、粉剤、錠剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、トローチ剤
等の固形製剤)の栄養補給用組成物が挙げられる。
種々の形態の食品は、本発明に油脂を、任意の食品材料、若しくは他の有効成分、又は
食品に許容される添加物(例えば、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、酸味料、甘味料
、苦味料、pH調整剤、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、
固着剤、分散剤、流動性改善剤、湿潤剤、香科、調味料、風味調整剤)等と適宜組み合わ
せて、定法に従って調製することができる。
【0036】
当該飼料は、本発明の油脂を、抗アレルギーのため、IgE産生を抑制するため、アレ
ルゲン暴露によるTh2細胞応答を抑制するための有効成分として含有する。
飼料の形態としては、好ましくはペレット状、フレーク状、マッシュ状又はリキッド状
であり、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等
に用いる小動物用飼料、犬、猫、小鳥等に用いるペットフード等が挙げられる。
飼料は、本発明の油脂を、他の飼料材料、例えば、肉類、蛋白質、穀物類、ぬか類、粕
類、糖類、野菜、ビタミン類、ミネラル類、ゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防
腐剤、栄養補強剤等と適宜組み合わせて、定法に従って調製することができる。
【0037】
製剤中の本発明の油脂の含有量は、製剤の形態に応じて異なるため一概には言えないが
、例えば製剤の総量を基準として、好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましく
は99.8質量%以下である。
【0038】
本発明の油脂の投与量又は使用量は、本発明の効果を達成できる量であり得る。当該投
与量又は使用量は、対象の種、体重、性別、年齢、状態、又はその他の要因に従って変動
し得るが、経口投与(摂取)の場合には、成人(60kg)1人当たり1回、本発明の油
脂として、例えば0.3~15gである。
上記製剤は、任意の投与計画に従って投与又は使用され得るが、1日に1回~複数回に
分けて、1日間以上、好ましくは7日間以上、より好ましくは14日間以上、よりさらに
好ましくは30日間以上、反復・継続して投与又は使用し得る。
【0039】
本発明の抗アレルギー剤等は、油脂組成物の形態として投与又は使用されることが好ま
しい。
抗アレルギー剤等が油脂組成物の形態である場合、油脂組成物中の本発明の油脂の含有
量は、使用性の点から、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であ
り、また、好ましくは100質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下である。
【0040】
油脂組成物は、風味、酸化安定性、着色抑制等の点から、抗酸化剤を含有するのが好ま
しい。油脂組成物中の抗酸化剤の含有量は、風味、酸化安定性、着色抑制等の点から、好
ましくは0.005質量%以上1.0質量%以下、より好ましくは0.04質量%以上0.
75質量%以下、更に好ましくは0.08質量%以上0.5質量%以下である。
抗酸化剤としては、食品に使用するものであれば特に制限はないが、天然抗酸化剤、レ
シチン、トコフェロール、アスコルビルパルミテート、アスコルビルステアレート、ジブ
チルヒドロキシトルエン(BHT)及びブチルヒドロキシアニソール(BHA)等から選
ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0041】
本発明の抗アレルギー剤等を投与又は使用する対象としては、アレルギーの発症の抑制
を所望するヒト、アレルギーの症状の緩和を所望するヒト等が挙げられる。好ましくは食
物アレルギーの発症の抑制を所望するヒト、食物アレルギーの症状の緩和を所望するヒト
等が挙げられる。非ヒト動物としては、類人猿、その他霊長類等の非ヒト哺乳動物等が挙
げられる。
【0042】
上述した実施形態に関し、本発明は以下の態様をさらに開示する。
【0043】
<1>油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジア
シルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とする抗アレルギー剤
。
【0044】
<2>油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジア
シルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とするIgE産生抑制
剤。
<3>IgE産生抑制が、アレルゲン特異的IgE産生抑制である、<2>記載のIgE
産生抑制剤。
【0045】
<4>油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジア
シルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とするアレルゲン暴露
によるTh2細胞応答抑制剤。
【0046】
<5>油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジア
シルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とする抗アレルギー用
食品。
【0047】
<6>油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジア
シルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とするIgE産生抑制
用食品。
<7>IgE産生抑制が、アレルゲン特異的IgE産生抑制である、<6>記載のIgE
産生抑制用食品。
【0048】
<8>油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジア
シルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を有効成分とするアレルゲン暴露
によるTh2細胞応答抑制用食品。
【0049】
<9>油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が、好ましくは45質量%以上
、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは52質量%以上であり、また、好まし
くは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下で
あり、また、40質量%以上80質量%以下、好ましくは45質量%以上80質量%以下
、より好ましくは50質量%以上80質量%以下、より好ましくは50質量%以上70質
量%以下、更に好ましくは52質量%以上70質量%以下、更に好ましくは52質量%以
上60質量%以下である<1>~<8>のいずれかに記載の剤又は食品。
<10>油脂を構成する脂肪酸中のリノール酸(C18:2)の含有量が、好ましくは5
質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下、
より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下であり、また、好ましく
は5質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上30質量%以下、
更に好ましくは10質量%以上20質量%以下である<1>~<9>のいずれかに記載の
剤又は食品。
<11>油脂を構成する脂肪酸中のオレイン酸(C18:1)の含有量が、好ましくは1
0質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下
、更に好ましくは30質量%以下であり、また、好ましくは10質量%以上50質量%以
下であり、より好ましくは10質量%以上40質量%以下、更に好ましくは10質量%以
上30質量%以下である<1>~<10>のいずれかに記載の剤又は食品。
<12>油脂中のジアシルグリセロールの含有量が、好ましくは30質量%以上、より好
ましくは50質量%以上、更に好ましくは55質量%以上、更に好ましくは60質量%以
上、更に好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、更に好ましくは8
0質量%以上、更に好ましくは83質量%以上、更に好ましくは84質量%以上であり、
また、好ましくは96質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは94
質量%以下であり、また、好ましくは25質量%以上96質量%以下、より好ましくは3
0質量%以上96質量%以下、更に好ましくは50質量%以上96質量%以下、更に好ま
しくは50質量%以上95質量%以下、更に好ましくは55質量%以上95質量%以下、
更に好ましくは60質量%以上95質量%以下、更に好ましくは65質量%以上95質量
%以下、更に好ましくは65質量%以上94質量%以下、更に好ましくは70質量%以上
94質量%以下、更に好ましくは80質量%以上94質量%以下、更に好ましくは83質
量%以上94質量%以下、更に好ましくは84質量%以上94質量%以下である<1>~
<11>のいずれかに記載の剤又は食品。
<13>ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が、好まし
くは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、
更に好ましくは52質量%以上であり、また、好ましくは80質量%以下、より好ましく
は70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下であり、また、好ましくは40質量%
以上80質量%以下、より好ましくは45質量%以上80質量%以下、更に好ましくは5
0質量%以上80質量%以下、より好ましくは50質量%以上70質量%以下、更に好ま
しくは52質量%以上70質量%以下、更に好ましくは52質量%以上60質量%以下で
ある<1>~<12>のいずれかに記載の剤又は食品。
<14>アレルギーが、好ましくはI型アレルギーであり、より好ましくは花粉症、アレ
ルギー性鼻炎、気管支喘息、蕁麻疹、アレルギー性結膜炎、食物アレルギー、アナフィラ
キシーショック、又は薬物アレルギーであり、更に好ましくは食物アレルギーである<1
>、<5>、<9>~<13>のいずれかに記載の剤又は食品。
<15>アレルゲンが、好ましくは卵、乳、食肉、穀物、やまいも、魚介類、果物、カビ
、ダニ、花粉である<3>、<4>、<7>~<13>のいずれかに記載の剤又は食品。
【0050】
<16>抗アレルギー剤を製造するための、油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の
含有量が40質量%以上であり、ジアシルグリセロールの含有量が25質量%以上である
油脂の使用。
<17>抗アレルギーに使用するための、油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含
有量が40質量%以上であり、ジアシルグリセロールの含有量が25質量%以上である油
脂。
<18>抗アレルギーのための、油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が4
0質量%以上であり、ジアシルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂の非治
療的使用。
<19>アレルギーが、好ましくはI型アレルギーであり、より好ましくは花粉症、アレ
ルギー性鼻炎、気管支喘息、蕁麻疹、アレルギー性結膜炎、食物アレルギー、アナフィラ
キシーショック、又は薬物アレルギーであり、更に好ましくは食物アレルギーである<1
6>~<18>のいずれかに記載の油脂又は使用。
【0051】
<20>IgE産生抑制剤を製造するための、油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸
の含有量が40質量%以上であり、ジアシルグリセロールの含有量が25質量%以上であ
る油脂の使用。
<21>アレルゲン特異的IgE産生抑制剤の製造である、<20>記載の油脂の使用。
<22>IgE産生抑制に使用するための、油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の
含有量が40質量%以上であり、ジアシルグリセロールの含有量が25質量%以上である
油脂。
<23>アレルゲン特異的IgE産生抑制に使用するための、<22>記載の油脂。
<24>IgE産生を抑制するための、油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有
量が40質量%以上であり、ジアシルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂
の非治療的使用。
<25>アレルゲン特異的IgE産生を抑制するための、<24>記載の油脂の非治療的
使用。
【0052】
<26>アレルゲン暴露によるTh2細胞応答抑制剤を製造するための、油脂を構成する
脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジアシルグリセロールの含
有量が25質量%以上である油脂の使用。
<27>アレルゲン暴露によるTh2細胞応答抑制に使用するための、油脂を構成する脂
肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジアシルグリセロールの含有
量が25質量%以上である油脂。
<28>アレルゲン暴露によるTh2細胞応答を抑制するための、油脂を構成する脂肪酸
中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジアシルグリセロールの含有量が
25質量%以上である油脂の非治療的使用。
<29>ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量
%以上である<16>~<28>のいずれかに記載の油脂又は使用。
<30>アレルゲンが、好ましくは卵、乳、食肉、穀物、やまいも、魚介類、果物、カビ
、ダニ、花粉である<21>、<23>、<25>~<29>のいずれかに記載の油脂又
は使用。
【0053】
<31>油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジ
アシルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を対象に投与又は適用する、ア
レルギーの予防、治療又は改善方法。
<32>アレルギーが、好ましくはI型アレルギーであり、より好ましくは花粉症、アレ
ルギー性鼻炎、気管支喘息、蕁麻疹、アレルギー性結膜炎、食物アレルギー、アナフィラ
キシーショック、又は薬物アレルギーであり、更に好ましくは食物アレルギーである<3
1>記載の方法。
【0054】
<33>油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジ
アシルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を対象に投与又は適用する、I
gE産生抑制方法。
<34>IgE産生抑制が、アレルゲン特異的IgE産生抑制である、<33>記載のI
gE産生抑制方法。
【0055】
<35>油脂を構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量%以上であり、ジ
アシルグリセロールの含有量が25質量%以上である油脂を対象に投与又は適用する、ア
レルゲン暴露によるTh2細胞応答抑制方法。
<36>ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のα-リノレン酸の含有量が40質量
%以上である<31>~<35>のいずれかに記載の方法。
<37>アレルゲンが、好ましくは卵、乳、食肉、穀物、やまいも、魚介類、果物、カビ
、ダニ、花粉である<34>~<36>のいずれかに記載の方法。
【実施例0056】
実施例1
〔油脂及び特殊飼料の調製〕
アマニ油(Archer Daniels Midland社製)を酵素により加水分
解して得られた脂肪酸を冷却及び遠心分離により分別して分別脂肪酸を得た。得られた分
別脂肪酸300質量部とグリセリン47質量部を混合し、市販の固定化1,3位選択リパ
ーゼ(ノボザイム社)を触媒としてエステル化反応を行った。固定化酵素を濾別した後、
反応終了品を分子蒸留し、酸処理及び水洗を行い、処理油を得た。処理油を脱臭後、抗酸
化剤を添加して、アマニ油由来ジアシルグリセロール(DAG)含有油脂(lin-DA
G)を調製した。
【0057】
上記方法にて調製したアマニ油由来DAG油脂(lin-DAG)、アマニ油(lin
-TAG、サミット製油製)、及びコントロールとして大豆油(soy-TAG、日清オ
イリオグループ(株)製)を用意した。なお、lin-TAG及びsoy-TAGにも、
lin-DAGと同じ抗酸化剤を同濃度添加した。マウス飼料として用いられるAIN-
93G(オリエンタル酵母工業株式会社)から元々含まれる大豆油(7質量%)及びコー
ンスターチ(3質量%)を除去したものに対して、上記いずれかの油脂を10質量%添加
することにより、3種類の特殊飼料を調製した。
lin-DAG、lin-TAG及びsoy-TAGのグリセリド組成及び脂肪酸組成
を表1に示す。なお、表1の脂肪酸組成におけるC18:3の不飽和脂肪酸は、α-リノ
レン酸である。
【0058】
【0059】
グリセリド組成及び脂肪酸組成の分析方法は以下のとおりである。
(i)油脂のグリセリド組成
ガラス製サンプル瓶に、油脂サンプル約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化
剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに
水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグ
ラフィー(GLC)に供して分析した。
<GLC分析条件>
(条件)
装置:アジレント6890シリーズ(アジレントテクノジー社製)
インテグレーター:ケミステーションB 02.01 SR2(アジレントテクノジー
社製)
カラム:DB-1ht 10m×0.25mm×0.2μm(Agilent J&W
社製)
キャリアガス:1.0mL He/min
インジェクター:Split(1:50)、T=340℃
インジェクション量:1μL
ディテクター:FID、T=350℃
オーブン温度:80℃から10℃/分で340℃まで昇温、15分間保持
【0060】
(ii)油脂の構成脂肪酸組成
日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4
.1.-1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られた油脂サンプルを
、American Oil Chemists. Society Official
Method Ce 1f-96(GLC法)に準拠して測定した。
<GLC分析条件>
カラム:CP-SIL88 50m×0.25mm×0.2μm (VARIAN)
キャリアガス:1.0mL He/min
インジェクター:Split(1:50)、T=300℃
インジェクション量:1μL
ディテクター:FID、T=300℃
オーブン温度:150℃5min保持→1℃/min昇温→160℃5min保持→2℃
/min昇温→200℃10min保持→10℃/min昇温→220℃5min保持
【0061】
lin-DAG、lin-TAG及びsoy-TAGのジアシルグリセロールの脂肪酸
組成を表2に示す。
【0062】
【0063】
ジアシルグリセロールの脂肪酸組成の分析方法は以下のとおりである。
各油脂試料からDAG画分を抽出し誘導体化した後、下記条件でガスクロマトグラフィ
ー(GLC法)に供して分析した。この時、測定方法はAmerican Oil Chemists' Society
(AOCS) Official Method Ce 1f-96に準拠した。なお、表2の脂肪酸組成におけるC18:3
の不飽和脂肪酸は、α-リノレン酸である。
<GLC分析条件>
装置:アジレント7890B(アジレントテクノジー社製)
カラム:CP-Sil 88 for FAME 50m x 0.25mm x 0.
2μm(アジレントテクノロジー社製)
キャリアガス:1.0mL He/min
インジェクター:Split(1:50)、T=300℃
インジェクション量:1μL
ディテクター:FID、T=300℃
オーブン温度:150℃5min保持→1℃/min昇温→160℃5min保持→2℃
/min昇温→200℃10min保持→10℃/min昇温→220℃5min保持
【0064】
〔試験概要〕
(1)4-6週齢のBALB/c雌性マウスを非感作群(soy-TAG(-)群)と、
経皮感作群(soy-TAG(+)群、lin-TAG(+)群及びlin-DAG(+
)群)に群分けし(N=8)、各群のマウスに対して前記の特殊飼料をそれぞれ自由摂取
させた。30日後、経皮感作群のマウス背部を剃毛し4質量%ドデシル硫酸ナトリウム(
SDS)水溶液を塗布した後、60μLのリン酸緩衝液(PBS溶液)に溶解させた30
0μgの卵白アルブミン(OVA)を塗布し経皮感作を行った。この経皮感作処理を週3
回の頻度で計2週間繰り返し行った。経皮感作開始から21日後、200μLのPBS溶
液に溶解させた10mgのOVAを経口投与し食物アレルギーを誘導した。翌日、血液を
採取した後、マウスを安楽死させ、鼡径リンパ節を採取した。非感作群のマウスには、O
VAの代わりにPBS溶液のみを経口投与した。
動物実験期間中、体重を週1回、摂餌量を2、3日に1回測定したが、各群で差は認め
られなかった。
【0065】
(2)OVA特異的IgE濃度の測定
採取した血液から血漿を分離した。レビスOVA-IgEマウスキット(富士フイルム
ワコーシバヤギ株式会社)を用いて、添付のプロトコルに準拠し血漿中のOVA特異的I
gE濃度を測定した。
【0066】
(3)IL-4のmRNA発現量の定量
採取した鼡径リンパ節をRLT bufferに含浸してペンシルミキサーで破砕した
後、RNeasy Mini kit (Qiagen)を用いて添付のプロトコルに従
い、total RNA抽出を行った。得られたtotal RNAからSuperSc
ript(登録商標) VILO(登録商標) cDNA Synthesis Kit
(invitrogen)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAを用いてR
T-qPCRを行い、IL-4のmRNA発現量を定量した。この時、RPLP0を内在
性コントロールとして用いた。
【0067】
(4)結果
結果を
図1及び
図2に示す。
図1に示すように、非感作群のsoy-TAG(-)群に比して、経皮感作群のsoy
-TAG及びlin-TAGを含有する特殊飼料を摂取させたsoy-TAG(+)群及
びlin-TAG(+)群においてはOVA特異的IgE産生量の増大が見られたが、l
in-DAGを含有する特殊飼料を摂取させたlin-DAG(+)群においてはOVA
特異的IgE産生量が有意に減少した。また、
図2に示すように、非感作群のsoy-T
AG(-)群に比して、経皮感作群のsoy-TAG(+)群及びlin-TAG(+)
群において鼡径リンパ節細胞のIL-4mRNA発現量の増大が見られたが、lin-D
AG群(+)においてはIL-4の発現が抑制された。