IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マードック チルドレンズ リサーチ インスティテュートの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165023
(43)【公開日】2023-11-14
(54)【発明の名称】組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20231107BHJP
   A61K 35/22 20150101ALI20231107BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20231107BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20231107BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20231107BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20231107BHJP
【FI】
C12N5/071
A61K35/22
A61P13/12
A61L27/38 100
A61L27/38 300
C12N5/10
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023149208
(22)【出願日】2023-09-14
(62)【分割の表示】P 2020543656の分割
【原出願日】2018-10-31
(31)【優先権主張番号】2017904424
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Triton
(71)【出願人】
【識別番号】505183417
【氏名又は名称】マードック チルドレンズ リサーチ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100170852
【弁理士】
【氏名又は名称】白樫 依子
(72)【発明者】
【氏名】メリッサ リトル
(72)【発明者】
【氏名】サントシュ ブイ.クマール
(57)【要約】
【課題】本開示は腎オルガノイドおよびその製造法に関する。これらのオルガノイドおよび方法は、疾病モデリング、薬物スクリーニング、再生医療、および腎細胞の5倍スケールアップ生産(5 scaling up production)など、様々な用途で使用できる。
【解決手段】50個未満のネフロンを含む、腎オルガノイドの提供。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
50個未満のネフロンを含む、腎オルガノイド。
【請求項2】
25個未満のネフロンを含む、請求項1に記載の腎オルガノイド。
【請求項3】
15個未満のネフロンを含む、請求項1に記載の腎オルガノイド。
【請求項4】
5~12個のネフロンを含む、請求項1に記載の腎オルガノイド。
【請求項5】
PAX2、SIX1、LHX1、OSR1、WNT11、GATA3、PAX8、EYA1、およびCITED1のうちのいずれか1つもしくは複数を高レベルで発現し、且つ/または、PDGFRA、MEIS2、WT1、および/もしくはC-RETのうちのいずれか1つもしくは複数を低レベルで発現する、細胞を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の腎オルガノイド。
【請求項6】
PAX2、SIX1、LHX1、OSR1、WNT11、およびGATA3を高レベルで発現する細胞を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の腎オルガノイド。
【請求項7】
NPHS+ポドサイト、LTL+近位尿細管セグメント、ECAD+遠位尿細管セグメント、ECAD+/GATA3+集合管、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の腎オルガノイド。
【請求項8】
H9、hES3、iPSC GAPTrap td-Tomato、CRL1502.C32、CLR1502.3、hES3 SOX17mCherry、またはH9 GAPTrap Luc2からなる群から選択される幹細胞由来である、請求項1~7のいずれか一項に記載の腎オルガノイド。
【請求項9】
1×104~5×104個程度の細胞を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の腎オルガノイド。
【請求項10】
1.5×104~2.5×104個程度の細胞を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の腎オルガノイド。
【請求項11】
250~500μm程度の直径を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の腎オルガノイド。
【請求項12】
旋回培養下で少なくとも3週間生存する、請求項1~11のいずれか一項に記載の腎オルガノイド。
【請求項13】
培養下で少なくとも4週間生存する、請求項1~11のいずれか一項に記載の腎オルガノイド。
【請求項14】
そのネフロンが、集合管(GATA3+;ECAD+)、初期遠位尿細管(GATA3-;LTL-;ECAD+)、初期近位尿細管(LTL+;ECAD-)、および糸球体(WT1+)を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の腎オルガノイド。
【請求項15】
腎オルガノイドの発生を促進するのに十分な条件下、細胞培地中で、中間中胚葉(IM)細胞集団を旋回することにより生じる、請求項1~14のいずれか一項に記載の腎オルガノイド。
【請求項16】
前記細胞培地が200ng/mlのFGF9を含有する、請求項15に記載の腎オルガノイド。
【請求項17】
0.5×106~1.5×106細胞/mlのIMを旋回することによって生じる、請求項15または請求項16に記載の腎オルガノイド。
【請求項18】
0.8×106~1.2×106細胞/mlのIMを旋回することにより生じる、請求項15または請求項16に記載の腎オルガノイド。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載の腎オルガノイドまたはその酵素消化物を含む、治療用組成物。
【請求項20】
治療を必要とする対象に請求項19に記載の組成物を投与することを含む、腎疾患の治療法。
【請求項21】
FGFを含有する細胞培地中で中間中胚葉(IM)細胞集団を旋回することを含む、腎オルガノイドのインビトロ製造法。
【請求項22】
前記IM細胞を培養液中で少なくとも5日間旋回し、最初の24時間はFGF、ヘパリン、CHIR、およびROCK阻害剤を含む細胞培地中で細胞を旋回することを含み、続く4日間はFGF、ヘパリン、およびCHIRを含む細胞培地中で細胞を培養することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
残り培養日数が、PVAおよびMCを含有する細胞培地中で細胞を培養することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞培地が100~300ng/mlのFGF9を含有する、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記最初の24時間がFGF、0.5~1.5μg/mlのヘパリン、0.5~1.5μΜのCHIR、および9~11μΜのROCK阻害剤を含有する細胞培地中で細胞を旋回することを含む、請求項21~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記続く4日間がFGF、0.5~1.5μg/mlのヘパリン、および0.5~1.5μΜのCHIRを含有する細胞培地中で細胞を旋回することを含む、請求項21~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記続く4日間がFGF9、ヘパリン、CHIR、MVA、およびPVCを含有する細胞培地中で細胞を培養することを含む、請求項21~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記FGFを含有する細胞培地が0.05~0.2%のMVAおよび0.05~0.2%のPVCを含有する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
残り培養日数が、0.05~0.2%のPVAおよび0.05~0.2%のMCを含有するが、FGF、ヘパリンCHIR、およびROCK阻害剤は含有しない細胞培地中で細胞を培養することを含む、請求項21~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記IM細胞が30~90rpmで旋回される、請求項21~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記IM細胞が18~24日間旋回される、請求項21~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記IM細胞が幹細胞集団を少なくとも7日間培養することによって製造され、最初の4~5日間が少なくとも6μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で幹細胞を培養することを含み、残り培養日数がFGFおよび少なくとも0.5μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で細胞を培養することを含む、請求項21~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記Wnt/βカテニン作動薬がCHIRであり、前記FGFがFGF9である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記FGFを含有する細胞培地が100~300ng/mlのFGF9を含有する、請求項32または請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記FGFを含有する細胞培地が0.5~1.5μΜのCHIRを含有する、請求項33~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記FGFを含有する細胞培地が0.5~1.5μg/mlのヘパリンをさらに含有する、請求項32~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記IM細胞がEDTAまたはトリプシンで解離され、旋回の前にメッシュスクリーンに通される、請求項21~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記幹細胞が多能性幹細胞、胚性幹細胞、または人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項32~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
0.5×106細胞/ml~1.5×106細胞/mlのIMを含むIM細胞集団を旋回することを含む、請求項21~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
請求項21~39のいずれか一項に記載の方法によって製造される腎オルガノイド。
【請求項41】
請求項1~18のいずれか一項または請求項40に記載の腎オルガノイドを候補化合物と接触させることで、前記候補化合物が腎毒性であるかどうかを判定することを含む、腎毒性について候補化合物をスクリーニングする方法。
【請求項42】
前記候補化合物が小分子である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
請求項1~18のいずれか一項もしくは請求項40に記載の腎オルガノイド、または請求項19に記載の組成物の、腎臓、または腎細胞もしくは腎組織の製造における使用。
【請求項44】
後方原始線条(PPS)細胞集団をFGFおよび4μΜ未満のWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で2~5日間培養することを含む、中間中胚葉(IM)細胞のインビトロ製造法。
【請求項45】
中間中胚葉(IM)細胞のインビトロ製造法であって、幹細胞集団を少なくとも7日間培養することを含み、最初の4~5日間が少なくとも6μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で幹細胞を培養することを含み、残り培養日数がFGF9および少なくとも0.5μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で細胞を培養することを含む、方法。
【請求項46】
前記FGFを含有する培地が0.5~3μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記培地が0.8~1.2μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記最初の4日間が少なくとも6μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で幹細胞を培養することを含む、請求項45~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記最初の4日間が7μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で幹細胞を培養することを含む、請求項45~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記FGFを含有する細胞培地が100~300ng/mlのFGF9を含有する、請求項44~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記FGFを含有する細胞培地がヘパリンをさらに含有する、請求項44~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記細胞培地が0.5~2μg/mlのヘパリンを含有する、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記幹細胞が多能性幹細胞、胚性幹細胞、または人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項45~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記組成物が静脈内投与される、請求項20に記載の方法。
【請求項55】
前記組成物が腎動脈内注射、腎実質内注射、移植(implantation)、または腎被膜下移植(subcapsular transplantation)で投与される、請求項20に記載の方法。
【請求項56】
腎臓をバイオプリントする方法であって、
請求項1~18のいずれか一項または請求項40に記載のオルガノイドからバイオインクを用意すること;
腎臓をバイオプリントすること、
を含む、方法。
【請求項57】
請求項1~18のいずれか一項もしくは請求項40に記載のオルガノイド、または請求項19に記載の組成物の、腎臓、または腎細胞もしくは腎組織の製造における使用。
【請求項58】
請求項21~39のいずれか一項に記載の方法を用いて腎オルガノイドを製造することを含む、または請求項44~53に記載の方法を用いてIM細胞を製造することを含む、細胞療法用のネフロン細胞型の生成法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は腎オルガノイドおよびその製造方法に関する。これらのオルガノイドおよび方法は、疾病モデリング、薬物スクリーニング、再生医療、および腎細胞のスケールアップ生産など、様々な用途で使用できる。
【背景技術】
【0002】
腎臓は老廃物の除去および体液量の維持において主要な役割を担っている。この機能の作動単位はネフロンとして知られている。ヒトの腎臓は、血液濾過に関与し、全て生後に生じる、2百万個に達する上皮ネフロン(epithelial nephron)を含有する。出生後のヒト腎臓にはネフロン前駆細胞は存在しない。このように前駆細胞集団が存在しないことは、ネフロンが自己複製できないということであるため、その後の傷害、加齢、および疾患が末期腎疾患(ESDR)に繋がるおそれがある。ESDR治療に用いられる治療法の選択肢の制限は、通常、既にダメージを受けた腎臓にさらなるストレスを及ぼす。腎疾患の末期において、利用可能ではあるが高額な治療法の選択肢は、透析および/または腎移植だけであり、これらは共に、不利点が大きく、患者の生活の質を害する。
【0003】
ヒト胚性幹細胞(hES)およびヒト人工多能性幹細胞(hiPS)の両方を含むヒト多能性幹細胞(hPSC)の分化を、別個の細胞エンドポイントへと方向付けることで、腎臓をはじめとする様々なヒト組織のオルガノイドモデルを得ることが可能となった。Takasato et al. (2015) Nature, Vol. 526:564-568で論じられているものなどの、以前のオルガノイドモデルは高額であり、また、複雑な三次元構造を有するオルガノイドを製造する場合があり、イメージング応用とスクリーニング応用に用途が制限されている。また、これらのオルガノイドは、3週間の培養後に拡散の制限を受け、細胞数を増やす能力と成熟する能力が制限される場合がある。このことは、現在の腎オルガノイド製造プロトコルを、再生医療または疾病モデリング用の細胞供給源としては最適とは言えないものにしている。そのため、腎オルガノイドおよびその製造法が現在求められている。
【発明の概要】
【0004】
驚くべきことに、本発明者らにより、三次元構造が単純化された腎オルガノイドが特定された。そのようなオルガノイドは、イメージングと長期培養がより簡単であるため有利である。従って、1つの例では、本開示は50個未満のネフロンを含む腎オルガノイドを包含する。別の例では、前記腎オルガノイドは25個未満のネフロンを含む。別の例では、前記腎オルガノイドは15個未満のネフロンを含む。別の例では、前記腎オルガノイドは5~12個のネフロンを含む。1つの例では、腎オルガノイドは、腎オルガノイドの発生を促進するのに十分な条件下、細胞培地中で、中間中胚葉(IM)細胞集団を旋回することにより製造される。この例では、前記IM細胞培地は180~220ng/ml程度のFGF9を含み得る。
【0005】
1つの例では、腎オルガノイドは0.5×106~1.5×106細胞/mlのIMを旋回することによって製造される。別の例では、腎オルガノイドは0.8×106~1.2×106細胞/ml程度のIMを旋回することによって製造される。別の例では、前記腎オルガノイドは、高レベルのネフロンマーカーを発現する細胞を含む。別の例では、前記腎オルガノイドは、PAX2、LHX1、SIX1、OSR1、WNT11、およびGATA3のうちのいずれか1つまたは複数を高レベルに発現する細胞を含む。別の例では、前記腎オルガノイドは、PAX2、LHX1、SIX1、OSR1、WNT11、およびGATA3を高レベルに発現する細胞を含む。別の例では、前記腎オルガノイドは、PAX2、SIX1、LHX1、OSR1、WNT11、GATA3、PAX8、EYA1、およびCITED1のうちのいずれか1つもしくは複数を高レベルで発現し、且つ/または、PDGFRA、MEIS2、WT1、および/もしくはC-RETのうちのいずれか1つもしくは複数を低レベルで発現する、細胞を含む。別の例では、前記腎オルガノイドは、PAX2、LHX1、SIX1、OSR1、WNT11、GATA3、PAX8、EYA1、およびCITED1を高レベルに発現する細胞を含む。
【0006】
別の例では、前記腎オルガノイドは、H9、hES3、iPSC GAPTrap td-Tomato、CRL1502.C32、CLR1502.3、hES3 SOX17mCherry、またはH9 GAPTrap Luc2からなる群から選択される幹細胞由来である。
【0007】
別の例では、前記腎オルガノイドは、低レベルの間質マーカーを発現する細胞を含む。別の例では、前記腎オルガノイドは、PDGFRA、MEIS2、WT1および/またはC-RETを低レベルに発現する細胞を含む。別の例では、前記腎オルガノイドは、NPHS+ポドサイト、LTL+近位尿細管セグメント、ECAD+遠位尿細管セグメント、ECAD+/GATA3+集合管、またはこれらの組み合わせを含む。別の例では、前記腎オルガノイドは、1×104~5×104個程度の細胞を含む。別の例では、前記腎オルガノイドは、1.5×104~2.5×104個程度の細胞を含む。別の例では、前記腎オルガノイドは、250~500μm程度の直径を有する。別の例では、前記腎オルガノイドは、旋回培養下で少なくとも18日間生存する。別の例では、前記腎オルガノイドは、旋回培養下で少なくとも3週間生存する。別の例では、前記腎オルガノイドは、旋回培養下で少なくとも4週間生存する。別の例では、前記腎オルガノイドのネフロンは、集合管(GATA3+;ECAD+)、初期遠位尿細管(GATA3-;LTL-;ECAD+)、初期遠位尿細管(LTL+;ECAD-)、および糸球体(WT1+)を含む。
【0008】
驚くべきことに、本発明者らは、本明細書で開示される腎オルガノイドの細胞が、旋回培養下で7日間経過後も(例えば7+7日目)分裂し続けることも確認した。いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、このことは、旋回培養を用いて製造されたオルガノイドが移植などの治療応用により適していることを示している可能性がある。
【0009】
別の例では、本開示は、本明細書に記載の腎オルガノイドを含む組成物を包含する。別の例では、本開示は、本明細書に記載の腎オルガノイドまたはその消化物を含む組成物を包含する。例えば、本開示は、本明細書に記載の腎オルガノイドまたはその酵素消化物を含む組成物を包含する。
【0010】
繰り返しになるが、いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、本明細書で開示される腎オルガノイドの複雑さの低さが、当該腎オルガノイドを、移植用組成物の生産により適したものとしている可能性があると考えられている。例えば、複雑さが低い腎オルガノイドから生産された組成物は、奇形腫や軟骨を形成するのではなく、正しい細胞型により分化しやすい可能性がある。別の例では、本開示は、本明細書に記載の腎オルガノイドの酵素消化物を含む組成物を包含する。
【0011】
別の例では、本開示は、治療を必要とする対象に本明細書に記載の組成物を投与することを含む、腎疾患の治療法を包含する。1つの例では、前記組成物はオルガノイド全体を含む。別の例では、前記組成物は本明細書で開示されるオルガノイドの消化物を含む。例えば、前記腎疾患は腎不全であり得る。1つの例では、前記組成物は静脈内投与される。別の例では、前記組成物は、腎動脈内注射、腎実質内注射、移植(implantation)、または腎被膜下移植(subcapsular transplantation)で投与される。
【0012】
別の例では、本開示は、FGFを含有する細胞培地中で中間中胚葉(IM)細胞集団を旋回することを含む、腎オルガノイドのインビトロ製造法を包含する。
【0013】
1つの例では、前記方法は、インビトロにおける、腎細胞型のスケールアップ生産のための対費用効果の高い手段を提供する。1つの例では、前記IM細胞は、FGF、CHIR、およびヘパリンを含有する培地中で旋回される。1つの例では、IM細胞が培養液中で少なくとも5日間旋回され、最初の24時間はFGF、ヘパリン、CHIR、およびROCK阻害剤を含有する細胞培地中で細胞を旋回することを含み、続く4日間はFGF、ヘパリン、およびCHIRを含有する細胞培地中で細胞を培養することを含む。この例では、ROCK阻害剤は前記細胞培地中に最初の24時間存在し、それ以後の日数は細胞培地中に存在しない。1つの例では、前記細胞培地は100~300ng/mlのFGF9を含有する。1つの例では、前記細胞培地は180~220ng/mlのFGF9を含有する。1つの例では、前記細胞培地はPVAおよびMCを含有する。1つの例では、前記最初の24時間は、FGF、0.5~1.5μg/mlのヘパリン、0.5~1.5μΜのCHIR、および9~11μΜのROCK阻害剤を含有する細胞培地中で細胞を旋回することを含む。別の例では、前記続く4日間は、FGF、0.5~1.5μg/mlのヘパリン、および0.5~1.5μΜのCHIRを含有する細胞培地中で細胞を旋回することを含む。この例では、前記続く4日間の間、ROCK阻害剤は細胞培地に存在しない。別の例では、前記続く4日間は、FGF9、ヘパリン、CHIR、MC、およびPVAを含有する細胞培地中で細胞を培養することを含む。別の例では、前記続く4日間は、FGF9、ヘパリン、CHIR、0.05~0.2%のMC、および0.05~0.2%のPVAを含有する細胞培地中で細胞を培養することを含む。別の例では、少なくとも5日間経過後の、前記残り培養日数、細胞は0.05~1.5%のPVAおよび0.05~1.5%のMCを含有する細胞培地中で培養される。この例では、前記細胞培地は、FGF9、ヘパリン、CHIR、およびROCK阻害剤のいずれも含有せずに、PVAおよびMCを含有し得る。別の例では、前記FGFを含有する細胞培地は少なくとも100ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記FGFを含有する細胞培地は少なくとも150ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記FGFを含有する細胞培地は150~250ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記FGFを含有する細胞培地は180~220ng/mlのFGF9を含有する。
【0014】
いくつかの例では、本明細書で開示される腎オルガノイドの製造法は、Takasato et al. (2015)に記載のものなど、旋回無しで製造されたオルガノイドから得られる細胞収率と比較して、細胞収率を向上させる。1つの例では、10日間の旋回培養後、旋回培養に加えられたIM細胞の開始数から30倍の細胞収率増加が確認され得る。別の例では、10日間の旋回培養後、旋回培養に加えられたIM細胞の開始数から35倍の細胞収率増加が確認され得る。別の例では、12日間の旋回培養後、旋回培養に加えられたIM細胞の開始数から40倍の細胞収率増加が確認され得る。別の例では、12日間の旋回培養後、旋回培養に加えられたIM細胞の開始数から45倍の細胞収率増加が確認され得る。別の例では、12日間の旋回培養後、旋回培養に加えられたIM細胞の開始数から30~40倍の細胞収率増加が確認され得る。別の例では、18日間の旋回培養後、旋回培養に加えられたIM細胞の開始数から30~40倍の細胞収率増加が確認され得る。
【0015】
1つの例では、前記IM細胞は30~90rpmで旋回される。別の例では、前記IM細胞は18~24日間旋回される。
【0016】
別の例では、前記IM細胞が幹細胞集団を少なくとも7日間培養することによって製造され、最初の4~5日間は少なくとも6μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で幹細胞を培養することを含み、残り培養日数はFGFおよび少なくとも0.5μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で細胞を培養することを含む。1つの例では、前記Wnt/βカテニン作動薬はCHIRである。これらの例では、前記FGFを含有する細胞培地は100~300ng/mlのFGF9を含有し得る。これらの例では、前記FGFを含有する細胞培地は0.5~1.5μΜのCHIRを含有し得る。これらの例では、前記FGFを含有する細胞培地は0.5~1.5μg/mlのヘパリンをさらに含有し得る。1つの例では、前記IM細胞は、EDTAまたはトリプシンもしくはTrypLE(商標)Selectで解離され、旋回の前にメッシュスクリーンに通される。1つの例では、前記幹細胞は多能性幹細胞、胚性幹細胞、または人工多能性幹(iPS)細胞である。1つの例では、前記幹細胞は、H9、hES3、iPSC、GAPTrap td-Tomato、CRL1502.C32、CLR1502.3、hES3 SOX17mCherry、またはH9 GAPTrap Luc2からなる群から選択される。
【0017】
本発明者らは、本開示の方法が比較的少ない開始細胞数しか必要としないことを確認した。これは、オルガノイドおよび細胞の培養の対費用効果の高いスケールアップを可能とするため、有利である。従って、別の例では、本開示の方法は、0.5×106細胞/ml~3×106細胞/mlのIM細胞集団を旋回することを含む。別の例では、本開示の方法は、0.8×106細胞/ml~1.2×106細胞/ml程度のIM細胞集団を旋回することを含む。従って、1つの例では、本開示は、IM細胞集団を旋回することにより製造される、本明細書で開示される腎オルガノイドを包含する。腎オルガノイドを製造するためにIM細胞集団の旋回に使用されるタイミングおよび培地の例が、本明細書で開示される。1つの例では、前記オルガノイドは、0.5×106細胞/ml~3×106細胞/mlのIM細胞を含むIM細胞集団を旋回することによって製造される。別の例では、前記オルガノイドは、2×106個未満のIM細胞を含むIM細胞集団を旋回することによって製造される。別の例では、前記オルガノイドは、0.5×106細胞/ml~1.5×106細胞/mlのIM細胞を含むIM細胞集団を旋回することによって製造される。別の例では、前記オルガノイドは、0.8×106細胞/ml~1.2×106細胞/ml程度のIM細胞を含むIM細胞集団を旋回することによって製造される。
【0018】
別の例では、本開示は本明細書に記載の方法によって製造された腎オルガノイドを包含する。
【0019】
別の例では、本開示は、本明細書に記載の腎オルガノイドを候補化合物と接触させることで、その候補化合物が腎毒性であるかどうかを判定することを含む、腎毒性について候補化合物をスクリーニングする方法を包含する。1つの例では、前記候補化合物は小分子である。
【0020】
別の例では、本開示は、本明細書に記載の腎オルガノイド、細胞集団または組成物の、腎臓、または腎細胞もしくは腎組織の製造における使用を包含する。別の例では、本開示は、本明細書に記載の腎オルガノイド、細胞集団または組成物の、腎疾患の治療における使用を包含する。いくつかの例では、細胞集団とは、腎オルガノイドの酵素消化から得られる細胞を指す。
【0021】
驚くべきことに、本発明者らはまた、低濃度のCHIRを含有する培地中で幹細胞を培養し、Wnt/β-カテニンシグナル伝達を長期間活性化することが、改善された中間中胚葉の製造において有益であることを確認した。
【0022】
1つの例では、本開示は、後方原始線条(posterior primitive streak)(PPS)細胞集団をFGFおよび4μΜ未満のWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で2~5日間培養することを含む、中間中胚葉(IM)細胞のインビトロ製造法を包含する。
【0023】
別の例では、幹細胞がまずCHIR中で7日間培養され、前記幹細胞は、高濃度のCHIRを含有する培地中で最初の4~5日間培養された後、低濃度のCHIRおよびFGFを含有する培地中で残り日数培養され得る。従って、別の例では、本開示は、中間中胚葉(IM)細胞のインビトロ製造法であって、幹細胞集団を少なくとも7日間培養することを含み、最初の4~5日間が少なくとも6μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で幹細胞を培養することを含み、残り培養日数がFGFおよび少なくとも0.5μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で細胞を培養することを含む、前記方法を包含する。1つの例では、前記残り培養日数は、0.5~3μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する、FGFを含有する細胞培地中で細胞を培養することを含む。別の例では、前記残り培養日数は、0.8~1.2μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する、FGFを含有する細胞培地中で細胞を培養することを含む。別の例では、前記最初の4日間は、少なくとも6μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で幹細胞を培養することを含む。別の例では、前記最初の4日間は、7μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で幹細胞を培養することを含む。1つの例では、前記FGFを含有する細胞培地は、100~300ng/mlのFGF9を含有する。1つの例では、前記FGFを含有する細胞培地は、180~220ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記FGF9を含有する細胞培地は、ヘパリンをさらに含有する。例えば、前記細胞培地は、少なくとも1.0μg/mlのヘパリンを含有し得る。1つの例では、前記幹細胞は多能性幹細胞、胚性幹細胞、または人工多能性幹(iPS)細胞である。別の例では、前記幹細胞は、H9、hES3、iPSC、GAPTrap td-Tomato、CRL1502.C32、CLR1502.3、hES3 SOX17mCherry、またはH9 GAPTrap Luc2からなる群から選択される。
【0024】
別の例では、本開示は、本明細書に記載のオルガノイドまたは細胞集団からバイオインクを準備し、腎臓をバイオプリントすることを含む、腎臓のバイオプリンティング法を包含する。いくつかの例では、細胞集団とは、腎オルガノイドの酵素消化から得られる細胞を指す。
【0025】
別の例では、本開示は、本明細書に記載の腎オルガノイド、組成物または細胞集団の、腎臓、または腎細胞もしくは腎組織の製造における使用を包含する。別の例では、本開示は、本明細書に記載の方法またはIM細胞集団を用いて腎オルガノイドを製造することを含む、細胞療法用のネフロン細胞型の生成法を包含する。
【0026】
特に記載のない限り、本明細書におけるあらゆる例が、他のあらゆる例に準用して適用されると見なされるものとする。
【0027】
本開示は、本明細書に記載の具体的な例によって範囲を限定されることはなく、これらの具体的な例は例示のみを目的にすることが意図されている。機能的に均等の生成物、組成物、および方法も、本明細書に記載される、本開示の範囲に明確に包含される。
【0028】
本明細書の全体を通じて、特に記載のない限り、または文脈上他の意味に解すべき場合を除き、1つの工程、組成物、工程群、または組成物群への言及は、1および複数(すなわち、1または複数)のその工程、組成物、工程群、または組成物群を包含すると見なされるものとする。
【0029】
以下、本開示を、添付の図面を参照しながら、下記の非限定的な実施例によって説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1-1】浮遊培養における腎マイクロオルガノイドの生成。(A)CRL1502.C32細胞を用いて実施された分化の画像による、腎マイクロオルガノイド分化プロトコルの概要。(B)7+18日目の均一な腎マイクロオルガノイドを示している明視野画像(100mmスケール)。(C、D1およびD2)血管構造の発達を含む、マイクロオルガノイドの大きさおよび形状に非依存的なネフロン分節の形成を示している、マイクロオルガノイドの免疫蛍光および共焦点像(100mmスケール)。(E)FGF9±1μΜ CHIR99021の場合の、7+0日目のqPCRによる、中間中胚葉の遺伝子発現プロファイリングの平均変化倍率を示す棒グラフ。データは平均値を示している。(F)FGF9 ±1μΜ CHIR99021処理の場合の、PAX2の免疫蛍光(50μmスケール)(7+11日目)。
図1-2】(G)腎マイクロオルガノイド内のネフロン区画の免疫蛍光および共焦点像;ポドサイト(NPHS1+且つMAFB+)、近位尿細管(LTL+、CUBN+、LRP2+、およびHNF4A+)、遠位尿細管(ECAD)、集合管(ECAD+、GATA3+)、および内皮細胞(SOX17+且つPECAM1+)(50μmスケール)。
図2】浮遊培養下の腎マイクロオルガノイドは機能的な近位尿細管を示しており、初期のWntシグナル伝達は腎オルガノイドの発生および成熟に重要である。(A)FITCアルブミン取り込みを示す、7+18日目の、腎マイクロオルガノイド尿細管の共焦点像(5μmスケール)。(B)異なるネフロン分節を標識する抗体を用いた、7+18日目の、hES(H9 GAP-Trap Luc2、hES3 SOX17mCheny)およびiPS(CRL1502.C32およびCRL1502.3)を含む4種の異なる細胞株を用いて生成された腎マイクロオルガノイドの共焦点像(50μmスケール)。(C、DおよびE)明視野(C、100μmスケール)、およびSOX17+脈管構造を示す免疫蛍光共焦点像(D)、およびMEIS1/2/3+間質(E)(100μmスケール)を示す、3日間、4日間、5日間、および6日間の異なる日数の初期7μΜ CHIR99021処理に暴露後に生成された、hES3 SOX17mCherry由来マイクロオルガノイド。
図3-1】マイクロオルガノイド内の腎臓分化の転写による確認。(A)11の異なるクラスターを示す、7+18日目のCRL1502-C32マイクロオルガノイドのシングルセルRNA-seqのSeuratクラスタリング後のt-SNEプロット。
図3-2】(B)クラスター内の重要なマーカー遺伝子のスケーリングされた遺伝子発現を示すヒートマップ。
図3-3】(C)選択されたネフロン細胞型の重要マーカー遺伝子の発現を示すt-SNEプロット。色の強さは遺伝子毎にスケーリングされており、青色はより高発現である。
図4-1】腎マイクロオルガノイドは効率的なhPSC由来腎細胞のスケールアップのためのより良好なプラットフォームを提供する。(A)7+11日目の標準的な腎オルガノイドの明視野画像(左、500μmスケール)、ネフロン構造がオルガノイドの縁に空間的に限定されていることを示す、標準的なオルガノイド全体の免疫蛍光および共焦点像(タイルスキャン)(中央、200μmスケール)、およびこのオルガノイド内のネフロンの拡大画像(右、200μmスケール)。(B)腎マイクロオルガノイドの明視野画像および単一の腎マイクロオルガノイドの拡大明視野画像、7+11日目の腎マイクロオルガノイドの共焦点像(200μmスケール)。
図4-2】(C)異なる発生段階におけるオルガノイドの大きさの変化。(D)標準的なオルガノイドと比較した、経時的な開始細胞数からの総細胞数の変化およびマイクロオルガノイドのスケールアップ性(scalable capacity)。(E~F)D7+18日目のC32マイクロオルガノイドの免疫蛍光法およびビットプレーン社製Imarisによる3次元再構成は、糸球体(NPHS1)、近位尿細管(LTL+)、遠位尿細管(ECAD+)、集合管(ECAD+、GATA3+)、および間質細胞(GATA3+)から始まる、分極化した、互いに接続された明確なネフロン分節を示した。
図5-1】標準腎オルガノイドおよびマイクロオルガノイドの比較シングルセル転写プロファイリングは等価な腎形成性パターンを示す。(A)7+18日目の腎マイクロオルガノイド(Micro-org)および標準オルガノイド(Stand-org)の10×scRNA-Seqデータの統合Seurat解析後のt-SNEプロット(CRL1502.32)。(B)オルガノイドの種類で色分けされた、各クラスターの細胞型に対する、マイクロオルガノイドおよび標準オルガノイドの寄与を表す、t-SNEプロット。
図5-2】(C)それぞれの転写クラスターおよび分化系統型に割り当てられた、Micro-orgデータセットまたはStand-orgデータセットのそれぞれの比率を表す棒グラフ。(D)腎マイクロオルガノイドおよび標準オルガノイド間の各クラスターにおける腎臓マーカーの遺伝子発現を示すスプリットドットプロット。(E)Micro-org内およびStand-org内の、ネフロン関連遺伝子(PAX2、SIX1、LHX1)および間質関連遺伝子(PDGFRA、MEIS2)の、対数正規化された細胞当たりの数を示す、バイオリン図および散布図。(F)腎Micro-orgおよびStand-orgの、PAX2およびMEIS1/2/3の発現を示す免疫蛍光(50μmスケール)。
図6】micro-org内およびstand-org内のネフロンマーカーおよび間質マーカーの比較。(AおよびB)標準オルガノイドおよびマイクロオルガノイドのscRNA-Seqデータにおける、ネフロン遺伝子および間質遺伝子についての、t-SNE特性プロット。
図7】オールトランスレチノイン酸は、腎マイクロオルガノイドにおける糸球体成熟の改善に役立つ。旋回浮遊培養によって生成されたC32旋回オルガノイドの免疫蛍光分析。(A)atRA添加無しで生成されたオルガノイド。(B)7+5日目~7+10日目にatRAを用いて生成されたオルガノイドは糸球体ポドサイトの成熟の改善を示す。(C)異なる時点(7+11日目および7+18日目)におけるatRA有り/無しで生成されたオルガノイドのqPCR分析。
図8】腎マイクロオルガノイドは薬物毒性スクリーニングのためのプラットフォームを提供する。アドリアマイシン処理(24時間)は、アポトーシスマーカーであるTUNELの発現を増加させることにより、腎マイクロオルガノイドに対する用量依存的な毒性を誘導する(A~C)。(D)アドリアマイシン処理はまた、マイクロオルガノイドにおける腎臓特異的遺伝子の発現を減少させる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
特に記載がない限り、本明細書で使用される全ての専門用語および科学用語は、当該技術分野(例えば、分子生物学、細胞培養、幹細胞分化、細胞治療、遺伝子組み換え、疾病モデリング、生化学、生理学、および臨床研究)の当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有すると見なされるものとする。
【0032】
特に記載がない限り、本開示で使用される分子的手法および統計的手法は標準的な手順であり、当業者に周知のものである。このような手法は、以下のような典拠の文献に報告および説明がなされている:J.Perbal、A Practical Guide to Molecular Cloning、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ社(John Wiley and Sons)(1984年)、J.Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbour Laboratory Press)(1989年)、T.A.Brown(編)、Essential Molecular Biology:A Practical Approach、第1巻および第2巻、IRLプレス社(IRL Press)(1991年)、D.M.GloverおよびB.D.Hames(編)、DNA Cloning:A Practical Approach、第1~4巻、IRLプレス社(1995年および1996年)、およびF.M.Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、グリーン・パブリケーション・アソシエーツ・アンド・ワイリー・インターサイエンス社(Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience)(1988年、現在までの全ての更新を含む)、Ed HarlowおよびDavid Lane(編) Antibodies:A Laboratory Manual、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー社(1988年)、J.E.Coliganら(編) Current Protocols in Immunology、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ社(現在までの全ての更新を含む)、Michos Odysse(編) Kidney Development:Methods and Protocols(シュプリンガー社(Springer))、Robert Lanza(編) Handbook of Stem Cells、第1巻、Embryonic Stem Cells(エルゼビア社(Elsevier))。
【0033】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形の用語、並びに単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈によって特に明示されない限り、複数の指示対象を所望により包含する。すなわち、例えば、「腎オルガノイド」という場合、1または複数の腎オルガノイドを所望により包含する。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「約」は、特に指定がない限り、指定された値の±10%、より好ましくは±5%、より好ましくは±1%、を指す。
【0035】
用語「および/または」、例えば、「Xおよび/またはY」は、「XおよびY」または「XまたはY」のいずれかを意味していると理解され、両方の意味またはどちらかの意味を明示的に支持していると見なされるものとする。
【0036】
本明細書の全体を通じて、語「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含むこと(comprising)」などの変形は、記載された要素、整数、もしくは工程、または要素群、整数群、もしくは工程群の包含を意味するが、他の要素、整数、もしくは工程、または要素群、整数群、もしくは工程群の排除は意味していないと理解される。
【0037】
様々な対象に、本開示の細胞組成物は投与され得る。1つの例では、前記対象は哺乳動物である。前記哺乳動物は、イヌもしくはネコなどのコンパニオンアニマル、またはウマもしくはウシなどの家畜動物であり得る。別の例では、前記対象はヒトである。「対象」、「患者」、または「個体」などの用語は、本開示においては文脈内で同義的に使用され得る用語である。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「治療」とは、臨床病理の経過中に治療を受けている個体または細胞の自然経過を変化させるように設計された臨床的介入を指す。好ましい治療効果には、疾患増悪速度の減少、病状の改善または軽減、および寛解または予後の改善が含まれる。例えば、疾患に関連する1または複数の症状が緩和または除去されたならば、個体を「治療」できたことになる。1つの例では、用語「治療」とは、標的障害を逆転、防止、または遅延(軽減)することを目的とした、腎疾患、貧血症、エリスロポエチン欠乏、尿細管輸送不全、または糸球体濾過不全に対する、治療的処置および予防的または防止的な処置の両方を指す。治療を必要とするものとしては、腎疾患、貧血症、エリスロポエチン欠乏、尿細管輸送不全、または糸球体濾過不全を既に患っているもの、そのような障害に罹り易いもの、またはそのような障害が予防されるべきものが含まれる。1つの例では、治療は腎機能の安定化および/または改善を包含する。
【0039】
「有効量」とは、目的の治療的成果または予防的成果を達成するために必要な用量および期間において、少なくとも有効な量を指す。有効量は、一回または複数回の投与で提供され得る。本開示のいくつかの例では、用語「有効量」は、本明細書で後述される腎臓の障害または異常の治療を達成するのに必要な量を指して用いられる。有効量は、治療対象の疾患または異常に応じて変化し、また、体重、年齢、人種的背景、性別、健康および/または体の状態、並びに治療対象の哺乳動物に関する他の要因によっても変化し得る。通例、有効量は、医療実施者による通例の治験および実験を通じて決定され得る、比較的広い範囲をとる(例えば「用量」範囲)。有効量は、単回用量で、または、治療期間に亘って1回もしくは数回反復される用量で、投与され得る。
【0040】
「治療有効量」は、特定の腎障害(例えば、腎炎、腎細胞癌)の測定可能な改善を達成するのに必要な、少なくとも最小限の濃度を指す。本明細書において、治療有効量はまた、患者の病状、年齢、性別、および体重、並びに、個体において所望の応答を引き出す細胞組成物の能力などの要因によっても変化し得る。また、治療有効量は、治療に有益な作用が組成物のあらゆる毒性作用または有害作用を上回る量でもある。腎細胞癌の場合では、治療有効量は、がん細胞の数を減少させ;原発腫瘍サイズを減少させ;末梢器官へのがん細胞の浸潤を抑制し(すなわち、ある程度遅延し、場合によっては阻止し);腫瘍の転移を抑制(すなわち、ある程度遅延し、場合によっては阻止し);腫瘍の成長もしくは腫瘍の進行をある程度抑制もしくは遅延し;且つ/または、腎細胞癌と関連した1もしくは複数の症状をある程度軽減し得る。腎細胞癌治療において、インビボでの有効性は、例えば、生存期間、無増悪期間(TTP)、奏功率(RR)、効果持続期間、および/または生活の質の評価によって測定され得る。
【0041】
「中間中胚葉(IM)」細胞とは、運命確定(definitive)中胚葉から生じた胚体中胚葉細胞であって、後方原始線条から派生して、最終的に尿管および腎臓、並びに生殖腺などの他の組織を含む泌尿生殖器系へと発生し得るものを意味する。中間中胚葉に特徴的または代表的なマーカーの例として、PAX2、OSR1および/またはLHX1が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0042】
また、IM細胞の製造が、そのIM細胞が、他の細胞型(運命確定中胚葉など)が存在しない純粋または均一なIM細胞集団であることを意味するものではないことを理解されたい。従って、「IM細胞」または「IM細胞集団」という場合、IM細胞を含む細胞または細胞集団を意味する。本発明によれば、IM細胞は、後方原始線条細胞を、より詳細に後述されるような、後方原始線条細胞のIM細胞への分化を促進する1または複数の薬剤と接触させることにより製造されることが適切である。IM細胞は、後方原始線条細胞を、後方原始線条細胞のIM細胞への分化を促進する1または複数の薬剤と接触させることにより製造されることが好ましい。
【0043】
「後方原始線条(PPS)」細胞とは、哺乳類の胚発生初期の胞胚に形成される原始線条構造体の後端の細胞、から得られる細胞、または前記後端の細胞に機能的且つ/もしくは表現型的に対応している細胞、を意味する。後方原始線条は、左右相称を確立し、原腸形成の部位を決定し、胚葉形成を開始する。通例、後方原始線条は中胚葉の前駆体(すなわち、予定中胚葉)であり、前方原始線条は内胚葉の前駆体(すなわち、予定内胚葉)である。後方原始線条に特徴的または代表的なマーカーの非限定的な例として、ブラキウリ(Brachyury)(T)が挙げられる。前方原始線条に特徴的または代表的なマーカーの非限定的な例としては、SOX17がある。MIXL1は後方原始線条および前方原始線条の両方によって発現され得る。
【0044】
また、後方原始線条細胞の製造が、その後方原始線条細胞が、他の細胞型が存在しない純粋または均一な後方原始線条細胞集団であることを意味するものではないことを理解されたい。従って、「後方原始線条細胞」または「後方原始線条細胞集団」という場合、後方原始線条細胞を含む細胞または細胞集団を意味する。後方原始線条細胞は、hPSC細胞を、より詳細に後述されるような、hPSC細胞の後方原始線条細胞への分化を促進する1または複数の薬剤と接触させることにより製造される。例えば、前記1または複数の薬剤には、骨形態形成タンパク質4(BMP4)、アクチビンA、および/またはWnt作動薬(CHIR99021など)が含まれ得る。
【0045】
腎オルガノイド
本開示は中間中胚葉(IM)細胞の製造を包含する。用語「中間中胚葉(IM)」は、本開示との関連においては、運命確定中胚葉から生じた胚体中胚葉細胞であって、後方原始線条から派生して、最終的に尿管および腎臓、並びに生殖腺などの他の組織を含む泌尿生殖器系へと発生し得るものを指して用いられる。中間中胚葉に特徴的または代表的なマーカーの例として、PAX2、OSR1および/またはLHX1が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0046】
1つの例では、これらのIM細胞に「自己組織化」させ、腎オルガノイドを形成させるための培養条件が提供される。用語「腎オルガノイド」は、本開示との関連においては、元々の腎臓に存在する細胞自己組織化、構築、およびシグナル伝達相互作用の各側面を反復する、不均一な三次元細胞凝集塊を指して用いられる。Takasato et al. (2015) Nature, Vol. 526:564-568、国際公開第2014/197934号、および同第2016/094948号には、腎オルガノイドの例が記載されている。本開示との関連において、用語「腎臓オルガノイド(renal organoid)」および「腎オルガノイド(kidney organoid)」は同義的に使用され得る。
【0047】
驚くべきことに、本発明者らにより、三次元構造が単純化された腎オルガノイドが特定された。そのようなオルガノイドは、イメージングと長期培養がより簡単であるため有利である。例えば、健常な成人は各腎臓に80万から200万個のネフロンを有し、典型的には100万個程度である。対照的に、本開示に包含されるオルガノイドは、はるかにより少ない数のネフロンを含む。従って、1つの例では、本開示は、ネフロンの数が減少した、元々の腎臓の構造的特徴を備える腎オルガノイドを包含する。1つの例では、本開示に包含される腎オルガノイドは1または複数のネフロンを含み得る。1つの例では、ネフロンは、遠位尿細管、近位尿細管、初期ヘンレループ、および糸球体に分節化される。別の例では、オルガノイドは、内皮細胞、血管周囲細胞、および腎間質に囲まれた分節化ネフロンを含む。別の例では、本開示のオルガノイドは脈管構造の存在を示さない。
【0048】
他の例では、本開示のオルガノイドは少なくとも部分的に血管新生が生じている。例えば、オルガノイドは、足突起を発達させ、血管新生を起こすポドサイトを含むネフロンから構成され得る。
【0049】
1つの例では、腎オルガノイドはネフロン率(%)、間質率(%)および/または脈管構造率(%)の面から特徴付けされる。この例では、腎オルガノイドはシングルセルRNAシーケンスを用いて特徴付けされ得る。シングルセルシーケンスの一例を以下に記載する。1つの例では、腎オルガノイドは少なくとも20%の成熟ネフロンを含む。別の例では、腎オルガノイドは少なくとも25%の成熟ネフロンを含む。別の例では、腎オルガノイドは少なくとも30%の成熟ネフロンを含む。別の例では、腎オルガノイドは少なくとも31%の成熟ネフロンを含む。別の例では、腎オルガノイドは少なくとも32%の成熟ネフロンを含む。これらの例では、前記腎オルガノイドは少なくとも15%の間質も含む。別の例では、前記腎オルガノイドは少なくとも20%の間質も含む。別の例では、前記腎オルガノイドは少なくとも25%の間質も含む。別の例では、前記腎オルガノイドは脈管構造を実質的に含まない。別の例では、前記腎オルガノイドは脈管構造を含まない。
【0050】
1つの例では、本開示の腎オルガノイドは100個未満のネフロンを含む。別の例では、本開示の腎オルガノイドは90個未満、80個未満、70個未満、60個未満のネフロンを含む。別の例では、本開示の腎オルガノイドは50個未満のネフロンを含む。別の例では、本開示の腎オルガノイドは40個未満、30個未満、20個未満、10個未満のネフロンを含む。別の例では、本開示の腎オルガノイドは5個未満のネフロンを含む。別の例では、本開示の腎オルガノイドは4個未満、3個未満のネフロンを含む。
【0051】
別の例では、本開示の腎オルガノイドは2~100個のネフロンを含む。別の例では、本開示の腎オルガノイドは2~50個のネフロンを含む。別の例では、本開示の腎オルガノイドは2~10個のネフロンを含む。別の例では、本開示の腎オルガノイドは5~12個のネフロンを含む。別の例では、本開示の腎オルガノイドは6~10個のネフロンを含む。別の例では、本開示の腎オルガノイドは2~6個のネフロンを含む。別の例では、本開示の腎オルガノイドは2~4個のネフロンを含む。
【0052】
「ネフロン」は、血液/血漿からの老廃物の除去および体液量の維持で主要な役割を担う、腎臓の機能的な作動単位である。当業者は様々な方法を用いて、本明細書で開示されるオルガノイド内のネフロンを同定および計数できる。例えば、ネフロンは共焦点顕微鏡法および免疫蛍光標識を用いて可視化および計数できる(例えば、WT1+糸球体;NPHS+ポドサイト、LTL+ECAD-近位尿細管、ECAD+遠位尿細管、およびECAD+GATA3+集合管)。
【0053】
通常、本開示に包含される腎オルガノイドの種の同定は、マウス、ヒトなどの哺乳類であるかどうかにかかわらず、当該腎オルガノイドの生成に用いられた細胞によって決定される。1つの例では、本開示は哺乳類腎オルガノイドを包含する。この例では、腎オルガノイドを生成するために哺乳類多能性幹細胞が使用される。哺乳類腎オルガノイドは、イヌもしくはネコなどのコンパニオンアニマル、またはウマもしくはウシなどの家畜動物由来の腎臓を代表するものであってもよい。すなわち、これらの例では、腎オルガノイドを生成するためにイヌ、ネコなどに由来する幹細胞が使用される。別の例では、前記哺乳類腎オルガノイドは、マウスまたはラット由来の腎臓を代表するものである。別の例では、前記腎オルガノイドは、カニクイザルまたはアカゲザルなどのより高次の霊長目由来の腎臓を代表するものである。別の例では、前記哺乳類腎オルガノイドは、ヒト由来の腎臓を代表するものである。腎オルガノイドを生成するために特定の種由来の多能性幹細胞が使用された場合、得られた腎オルガノイドはその種に基づいた同定がなされ得る。例えば、腎オルガノイドを生成するためにヒト幹細胞を使用した場合、得られた腎オルガノイドはヒト腎オルガノイドと同定され得る。すなわち、1つの例では、本開示に包含される腎オルガノイドは、ヒト幹細胞由来のヒト腎オルガノイドを包含する。腎オルガノイドを生成するのに好適な幹細胞の他の様々な例を以下に記載する。
【0054】
別の例では、分子マーカーの発現に基づいて、腎オルガノイドが特徴付けされ得る。マーカー発現は、免疫組織化学または蛍光標識細胞分取などの様々な手法を用いて特徴付けされ得る。免疫組織化学は通常、目的マーカーに特異的な一次抗体の使用を含む。マーカーへの一次抗体の結合は、様々な公知の方法で可視化することができる。例えば、一次抗体を認識する標識化二次抗体が使用され得る。この例では、標識は、西洋わさびペルオキシダーゼなどの酵素、放射性同位元素、蛍光性レポーター、電気化学発光性タグであり得る。一次抗体への標識化二次抗体の結合は、細胞学的評価によって、または自動プレートリーダーを介して、検出され得る。
【0055】
特定の例では、腎オルガノイドまたはその分節もしくは試料を特定の一次抗体と接触させる。次に、前記腎オルガノイドまたはその分節もしくは試料を洗浄することで未結合の一次抗体を除去し、その後、ペルオキシダーゼ酵素に連結した、前記一次抗体に特異的な二次抗体をこの試料に添加する。次に、前記腎オルガノイドまたはその分節もしくは試料を洗浄することで未結合の二次抗体を除去し、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)をこの試料に添加する。DABの有色産物への変換を通例の細胞学的評価で可視化し、ここで、有色産物の存在は、前記マーカーが前記試料中に存在することを表す。1つの例では、有色産物のレベルは、ImageJまたは、パーキンエルマー社およびライカ社などの供給業者から市販されている他の様々なソフトウェアパッケージを用いて定量化され得る。
【0056】
別の例では、代表的な腎オルガノイド、その集団、またはその分節もしくは試料から、細胞浮遊液が製造される。浮遊状態の細胞が、特定のマーカー(maker)に特異的な蛍光標識抗体と接触させられる。蛍光標識細胞分取(FACS)などの手法を用いて、特定のマーカーが陽性の細胞が同定される。
【0057】
所与のマーカーが「陽性」であるといわれる細胞は、そのマーカーが細胞表面上にどの程度存在しているかに依存して、そのマーカーを低レベル(loまたはdim)または高レベル(bright、bri)に発現し得る。ここで、これらの用語は、細胞の分取プロセスで用いられた蛍光または他のマーカーの強度に関するものである。lo(またはdimまたはdull)とbriの差異は、分取対象の特定の細胞集団上の使用されたマーカーと関連させて理解される。細胞が所与のマーカーについて「陰性」であるとされる場合、その細胞は必ずしも完全に不在でなくてもよい。この用語は、マーカーがその細胞または集団によって比較的低いまたは非常に低いレベルで発現されており、検出可能に標識されても非常に少ないシグナルしか生じないこと、または、バックグラウンドレベル(例えば、アイソタイプ対照抗体を用いて検出されるレベル)を超えるレベルが検出不可であること、を意味する。
【0058】
1つの例では、蛍光性レポーター遺伝子を用いて、本明細書に記載の腎オルガノイドのマーカーが検出され得る。例えば、特定のマーカーの発現をモニタリングすることにより、腎オルガノイドの発生またはそれを含む細胞をリアルタイムで追跡することができる。例えば、幹細胞が、所与の一連の条件下で、1または複数の蛍光性レポーターまたは化学発光性レポーターを発現するように、遺伝子改変され得る。レポーターを用いることで、細胞識別情報、細胞生存率、または細胞機能をリアルタイムで追跡することができる。
【0059】
好適なレポーター遺伝子の例が以下に示されるが、内在性MAFB遺伝子座の開始コドンに挿入されたmTagBFP2蛍光性レポーター遺伝子を有する(MAFBmTagBFP2/+)ノックインiPSC株が作製される。MAFBは発生中のポドサイトで高発現されるため、MAFBの発現をモニタリングすることで、腎オルガノイド内のポドサイトの発生をリアルタイムで追跡することができる。本明細書で開示される方法での使用に好適なレポーター細胞株の他の例としては、GATA3mCherry、RETtdTOMATO、またはSix2Creが挙げられる。
【0060】
別の例では、腎オルガノイドは、1または複数のネフロンマーカーを高レベルで発現する細胞を含む。別の例では、腎オルガノイドは、PAX2、SIX1、LHX1、OSR1、WNT11、GATA3、PAX8、EYA1、およびCITED1のうちの1または複数を高レベルで発現する細胞を含む。例えば、腎オルガノイドは高レベルのPAX2を発現し得る。別の例では、腎オルガノイドは高レベルのSIX1を発現し得る。別の例では、腎オルガノイドは高レベルのLHX1を発現し得る。別の例では、腎オルガノイドは高レベルのOSR1を発現し得る。別の例では、腎オルガノイドは高レベルのWNT11を発現し得る。別の例では、腎オルガノイドは高レベルのGATA3を発現し得る。別の例では、腎オルガノイドはPAX2、SIX1、LHX1、OSR1、WNT11、およびGATA3を高レベルで発現する細胞を含む。別の例では、腎オルガノイドは、PAX2、SIX1、LHX1、OSR1、WNT11、GATA3、PAX8、EYA1、およびCITED1を高レベルで発現する細胞を含む。これらの例では、腎オルガノイドは、少なくとも100個のネフロンを有する腎オルガノイドと比較して、PAX2、SIX1、LHX1、OSR1、WNT11、GATA3、PAX8、EYA1、およびCITED1のうちの1または複数などの参照マーカーを高レベルで発現し得る。別の例では、腎オルガノイドは、50個より多いネフロンを有する腎オルガノイドと比較して、PAX2、SIX1、LHX1、OSR1、WNT11、GATA3、PAX8、EYA1、およびCITED1のうちの1または複数などの参照マーカーを高レベルで発現し得る。別の例では、腎オルガノイドは、少なくとも1×105個の細胞を含む腎オルガノイドと比較して、PAX2、SIX1、LHX1、OSR1、WNT11、およびGATA3のうちの1または複数などの参照マーカーを高レベルで発現し得る。別の例では、腎オルガノイドは、少なくとも1×106個の細胞を含む腎オルガノイドと比較して、PAX2、SIX1、LHX1、OSR1、WNT11、およびGATA3のうちの1または複数などの参照マーカーを高レベルで発現し得る。別の例では、腎オルガノイドは、Takasato et al. (2015)に記載される腎オルガノイドなどの旋回無しで製造された腎オルガノイドと比較して、PAX2、SIX1、LHX1、OSR1、WNT11、およびGATA3のうちの1または複数などの参照マーカーを高レベルで発現し得る。
【0061】
別の例では、腎オルガノイドは低レベルのWT1を発現する細胞を含む。別の例では、腎オルガノイドは低レベルのC-RETを発現する細胞を含む。別の例では、腎オルガノイドは低レベルのFOXD1を発現する細胞を含む。別の例では、腎オルガノイドは低レベルのPDGFRAを発現する細胞を含む。別の例では、腎オルガノイドは低レベルのMEIS2を発現する細胞を含む。別の例では、腎オルガノイドはWT1およびC-RETを低レベルで発現する細胞を含む。別の例では、腎オルガノイドはWT1、C-RET、およびFOXD1を低レベルで発現する細胞を含む。これらの例では、腎オルガノイドは、少なくとも100個のネフロンを有する腎オルガノイドと比較して、WT1、C-RET、およびFOXD1のうちの1または複数などの参照マーカーを低レベルで発現し得る。別の例では、腎オルガノイドは、50個より多いネフロンを有する腎オルガノイドと比較して、WT1、C-RET、およびFOXD1のうちの1または複数などの参照マーカーを低レベルで発現し得る。
【0062】
別の例では、腎オルガノイドは、高レベルのPAX2、SIX1、LHX1、OSR1、WNT11、およびGATA3、並びに低レベルのWT1、C-RET、PDGFRA、MEIS2、およびFOXD1を発現する細胞を含む。別の例では、腎オルガノイドは、高レベルのPAX2、SIX1、LHX1、OSR1、WNT11、GATA3、PAX8、EYA1、およびCITED1、並びに低レベルのWT1、C-RET、PDGFRA、MEIS2、およびFOXD1を発現する細胞を含む。
【0063】
上記の例で、発現の高レベルおよび低レベルとは、Takasato et al. (2015) Nature, Vol. 526:564-568に記載される腎オルガノイドなどの旋回無しで培養された腎オルガノイドと比較してのものである。この例では、高発現は少なくとも1倍高い。別の例では、高発現は少なくとも1.5倍高い。別の例では、高発現は少なくとも2倍高い。1つの例では、低発現は少なくとも1/1倍低い。別の例では、低発現は少なくとも1/1.5倍低い。別の例では、低発現は少なくとも1/2倍低い。
【0064】
発現レベルは、目的のマーカーに適したプライマーを含むポリメラーゼ連鎖反応などの手法を用いて測定することができる。例えば、全RNAが、オルガノイドから抽出され、逆転写され、PCRにかけられて、分析され得る。
【0065】
1つの例では、腎オルガノイドは、WT1+糸球体、NPHS+ポドサイト、LTL+ECAD-近位尿細管、ECAD+遠位尿細管、およびECAD+GATA3+集合管のうちの1または複数を含むネフロンを含む。別の例では、腎オルガノイドは、NPHS+ポドサイト、LTL+近位尿細管セグメント、ECAD+遠位尿細管セグメント、およびECAD+GATA3+集合管を含むネフロンを含む。上記で例示された成分を含む腎オルガノイドは様々な方法で同定できる。1つの例では、腎オルガノイドは、固定され、ホールマウントされた後、共焦点顕微鏡法および免疫蛍光標識法を用いて視覚的に評価され得る。
【0066】
1つの例では、腎オルガノイドは、下記のスクリーニング法での使用後に、上記マーカーのうちの1または複数に基づいて特徴付けされ得る。別の例では、より広範な集団を示す腎オルガノイドが上記マーカーのうちの1または複数に基づいて特徴付けされた後、下記のスクリーニング法で用いるのに適したマーカーを発現する腎オルガノイドが選択され得る。例えば、腎オルガノイド集団が本明細書で開示される方法を用いて製造され得る。前記集団の腎オルガノイドにおいて上記マーカーのうちの1または複数の発現が確認された後、下記のスクリーニング法で用いるための腎オルガノイドが選択され得る。
【0067】
別の例では、本開示のオルガノイドは0.5×104~8×104個の細胞を含む。別の例では、腎オルガノイドは0.8×104~7×104個の細胞を含む。別の例では、オルガノイドは1×104~5×104個の細胞を含む。別の例では、オルガノイドは少なくとも1×104個の細胞を含む。別の例では、オルガノイドは3×104個未満の細胞を含む。別の例では、オルガノイドは2×104~2.5×104個の細胞を含む。
【0068】
別の例では、本開示のオルガノイドは2,500μm未満の直径を有する。別の例では、本開示のオルガノイドは2,000μm未満の直径を有する。別の例では、本開示のオルガノイドは1,000μm未満の直径を有する。別の例では、本開示のオルガノイドは500μm未満の直径を有する。別の例では、本開示のオルガノイドは400μm未満の直径を有する。別の例では、本開示のオルガノイドは300μm未満の直径を有する。別の例では、本開示のオルガノイドは150~600μmの直径を有する。別の例では、本開示のオルガノイドは200~500μmの直径を有する。例えば、本開示のオルガノイドは200μm~2,000μmの直径を有し得る。別の例では、本開示のオルガノイドは200μm~1,000μmの直径を有し得る。別の例では、本開示のオルガノイドは200μm~400μmの直径を有し得る。別の例では、本開示のオルガノイド200μm~300μmの直径を有し得る。別の例では、本開示のオルガノイドは250μm~300μmの直径を有し得る。
【0069】
当業者には理解されることであるが、オルガノイドの大きさは、例えば、光学顕微鏡法、およびImageJなどの付随のソフトウェアによって測定できる。例えば、当業者は、その三次元構造の最も幅が広いポイントで幅を測定することにより、上記で例示された大きさのオルガノイドを特定できる。
【0070】
別の例では、本開示のオルガノイドは培養下で少なくとも3週間生存する。別の例では、本開示のオルガノイドは培養下で少なくとも4週間生存する。別の例では、本開示のオルガノイドは培養下で少なくとも6週間生存する。別の例では、本開示のオルガノイドは培養下で少なくとも3~4週間生存する。例えば、本明細書で開示される腎オルガノイドは、培養下で3~6週間経過後にはじめて、拡散の制限(すなわち、オルガノイド構造を構成する細胞への栄養分の移動に影響を与える制限)を発達させ得る。これらの例では、前記期間は7+1日目から測定される。従って、言い換えると、本開示のオルガノイドは少なくとも7+21日目、7+28日目、または7+42日目まで培養下で生存する。1つの例では、細胞増殖速度が拡散制限の尺度として用いられ得る。これは、細胞が十分な栄養分の非存在下では通例は分裂し続けないからである。従って、本明細書で開示されるオルガノイドにおける細胞増殖を経時的に追跡することで、拡散の制限がいつ起こるかを決定することができる。1つの例では、3~6日間に亘る細胞増殖速度の減少が、拡散の制限を示す。別の例では、3~6日間に亘る細胞増殖の停滞が、拡散の制限を示す。
【0071】
本開示は、ヒト腎臓と比較して少数のネフロンを含む腎オルガノイドを包含する。当業者には理解されることであるが、腎オルガノイドは、人工産物であり、哺乳類の腎臓の生理学的特徴および生化学的特徴を多く共有しており、自然発生はしない。例えば、本明細書で開示される腎オルガノイドは、インタクトな脈管構造、および/または以下の特徴のうちの1もしくは複数、に関連していなくてもよい:
50個未満のネフロンを有する;
0.5×104~8×104個程度の細胞を含む;
1000μm未満(好ましくは250~350μm程度)の直径を有する;
組織や臓器の一部ではない独立した三次元構造である;および
インビトロで幹細胞の分化を含む方法によって製造される。
【0072】
細胞組成物および治療法
本開示のオルガノイドまたは細胞が、治療用組成物を製造するために使用され得る。1つの例では、本明細書で開示されるオルガノイド全体が治療用組成物として提供され得る。別の例では、本開示は、本明細書で開示される腎オルガノイドから製造された細胞組成物を包含する。例えば、本開示のオルガノイドを酵素消化することによって、細胞組成物が作製される。例えば、トリプシンなどのプロテアーゼを単独またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)と組み合わせて用いて、本明細書に記載のオルガノイドを消化することによって、細胞組成物が作製され得る。別の例では、コラゲナーゼIおよび/またはコラゲナーゼII(例えば市販のliberase(商標)(ロシュ社))などのコラゲナーゼで、本明細書に記載のオルガノイドを消化することによって、細胞組成物が作製され得る。1つの例では、1または複数の細胞型を枯渇させるために、前記酵素消化物が部分純化または純化される。例えば、血管細胞および/または内皮細胞が枯渇され得る。別の例では、1または複数の細胞型を濃縮するために、前記酵素消化物が部分純化または純化される。例えば、ネフロン前駆細胞および/または尿管上皮前駆細胞の濃縮組成物を得るために、前記酵素消化物が部分純化または純化される。
【0073】
別の例では、本開示に包含される組成物は、本明細書で開示される方法を用いて培養された細胞を含む。例えば、組成物は、高レベルのPAX2、LHX1、およびOSR1(キャップ状間葉)、並びにWnt11およびGATA3(尿管上皮)を発現する改善されたIM細胞を含み得る。上記の例のように、IM細胞が本明細書に記載の方法を用いて培養され、部分純化または純化されることで、ネフロン前駆細胞および/または尿管上皮前駆細胞などの1または複数の細胞型が濃縮され得る。
【0074】
従って、別の例では、本開示は、本明細書に記載の方法によって製造されたオルガノイドまたは細胞集団から純化されたネフロン前駆細胞および/または尿管上皮前駆細胞の集団を含む細胞組成物を包含する。
【0075】
1つの例では、本明細書で開示される治療用組成物は、薬剤的に許容できる担体および/または賦形剤を含む。用語「担体」および「賦形剤」とは、活性化合物の保存、投与、および/または生物活性を促進するための、当該技術分野において従来使用されている組成物を指す(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第16版、マック出版社(Mac Publishing Company)(1980年)を参照)。担体はまた、活性化合物の望ましくないあらゆる副作用を低減し得る。好適な担体は、例えば安定な担体であり、例えば、組成物中の他の成分と反応できない担体である。1つの例では、担体は、治療に使用される用量および濃度で、受容者に、重大な局所的有害作用も全身的有害作用も引き起こさない。
【0076】
本開示に好適な担体としては、従来使用されている担体が挙げられ、例えば、食塩水、ブドウ糖水溶液、ラクトース、リンゲル液、緩衝液、ヒアルロナン、およびグリコールが例示的な液体担体であり、特に(等張である場合)水剤用のものである。好適な医薬担体および賦形剤としては、デンプン、セルロース、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、白亜、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが挙げられる。
【0077】
別の例では、担体は培地組成物であり、例えばその中で、細胞またはオルガノイド全体が増殖または懸濁される。例えば、そのような培地組成物は、それが投与された対象にいかなる有害作用も引き起こさない。1つの例では、前記細胞培地は本明細書で開示される基本培地を含み得る。1つの例では、前記基本培地はPVAおよびMCを含有し得る。例えば、前記基本培地は0.05~0.5%のPVAおよび0.05~0.5%のMCを含有し得る。
【0078】
1つの例では、担体または賦形剤は、細胞を適切なpHに維持することによって生物活性を発揮する緩衝活性をもたらし、例えば、担体または賦形剤はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。PBSは、細胞および因子と最小限にしか相互作用せず、且つその細胞および因子の迅速な放出を可能とするため、担体または賦形剤として魅力的であり、そのような場合、本開示の組成物は、注射などによって、血流中に、または腎臓に、または腎臓を取り囲むもしくは隣接した領域に、直接適用するための液体として、製造され得る。従って、1つの例では、本明細書で開示される細胞組成物またはオルガノイド全体は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の状態で提供される。
【0079】
別の例では、細胞組成物またはオルガノイド全体は、受容者に適合性であり、受容者に有害でない産物に分解する足場に組み込みまたは埋め込みされ得る。これらの足場は、受容者である対象に移植される細胞に支持および保護を与える。天然および/または合成の生分解性足場がそのような足場の例である。様々な足場が本開示の実施で使用可能であり得る。例示的な足場としては、生物分解性足場が挙げられるが、これに限定はされない。天然の生分解性足場としては、コラーゲン足場、フィブロネクチン足場、およびラミニン足場が挙げられる。細胞移植用足場に好適な合成材料も、広範な細胞成長および細胞機能を支持できるはずである。そのような足場は再吸収可能な足場であってもよい。好適な足場としては、ポリグリコール酸足場が挙げられ、例えばVacanti, et al. J. Ped. Surg. 23 :3-9 1988; Cima, et al. Biotechnol. Bioeng. 38: 145 1991; Vacanti, et al. Plast. Reconstr. Surg. 88:753-9 1991で説明されており;あるいは、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの合成ポリマーが挙げられる。別の例では、細胞は、ゲル状足場(アップジョン社(Upjohn Company)製のGelfoamなど)に含まれた状態で投与され得る。別の例では、細胞は脱細胞化腎臓足場に含まれた状態で投与され得る。1つの例では、細胞は脱細胞化ヒト腎臓またはその細胞外マトリックス(ECM)成分に含まれた状態で投与され得る。
【0080】
1つの例では、前記組成物は有効量または治療有効量の細胞またはオルガノイド全体を含む。別の例では、細胞またはオルガノイド全体は、当該細胞またはオルガノイドを対象の血液循環へと脱出させないが、当該細胞またはオルガノイドによって分泌された因子は血液循環に進入させる、容器内に収容される。このように、細胞またはオルガノイドに因子を対象の血液循環中へと分泌させることで、可溶性因子は対象に投与され得る。同様に、このような容器は、可溶性因子の局所的なレベルを増加させるために対象内のある部位に移植されてもよく、例えば、腎臓内または腎臓付近に移植される。
【0081】
1つの例では、本明細書で開示される組成物は、例えば静脈内投与、動脈内投与、または腹腔内投与などにより、全身投与され得る。1つの例では、本明細書で開示される組成物は静脈内投与される。別の例では、組成物は動脈内投与される。別の例では、組成物は、正常腎臓または患部腎臓への、腎動脈内注射、腎実質内注射、または腎被膜下移植により投与される。別の例では、組成物は移植される。例えば、オルガノイド全体が対象の腎臓のすぐ傍に移植され得る。
【0082】
1つの例では、本開示の細胞組成物は凍結保存され得る。細胞またはオルガノイド全体の凍結保存は当該技術分野において公知の低速冷却法または「高速」凍結プロトコルを用いて実行され得る。好ましくは、凍結保存法は、未凍結の細胞またはオルガノイド全体と比較した場合に同様の、凍結保存された細胞またはオルガノイド全体の表現型、細胞表面マーカー、および成長速度を維持する。凍結保存組成物は凍結保存液を含み得る。凍結保存液のpHは通例6.5~8であり、好ましくは7.4である。
【0083】
凍結保存液の例としては、非発熱性等張液が含まれ、例えば、PlasmaLyte A(登録商標)などである。100mLのPlasmaLyte A(登録商標)は、526mgの塩化ナトリウム、USP(NaCl);502mgのグルコン酸ナトリウム(C611NaC7);368mgの酢酸ナトリウム三水和物、USP(C23NaO2・3H2O);37mgの塩化カリウム、USP(KC1);および30mgの塩化マグネシウム、USP(MgCl2・6H2O)を含有する。PlasmaLyte A(登録商標)は抗菌剤を含有しない。
【0084】
1つの例では、本開示は、治療を必要とする対象に本明細書で開示される組成物を投与することを含む、細胞療法を包含する。例えば、本開示は、治療を必要とする対象に本明細書で開示される組成物を投与することにより、腎疾患を治療する方法を包含する。用語「腎疾患」は、本開示との関連においては、過剰な体液、電解質、および老廃物の血液からの、血液濾過および除去の機能を発揮する、腎臓の能力の消失を引き起こす、あらゆるステージまたは程度の急性または慢性の腎不全と関連した障害を指して用いられる。腎疾患の例としては、貧血症(エリスロポエチン欠乏)、およびミネラル不均衡(ビタミンD欠乏)などの内分泌機能障害が挙げられる。腎疾患は腎臓由来の腎疾患であってもよいし、心不全、高血圧症、糖尿病、自己免疫疾患、もしくは肝疾患または薬剤誘発性毒性を含む(がこれらに限定はされない)種々の異常に続発する腎疾患であってもよい。1つの例では、腎疾患は腎臓への急性傷害後に発生する慢性腎不全の状態であり得る。例えば、虚血および/または毒物暴露による腎臓への傷害が急性腎不全を引き起こす場合があり;急性腎障害後の不完全な回復が慢性腎不全の発生に繋がる場合がある。腎疾患の他の例としては、先天性ネフローゼ症候群(CNS)(ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群およびフィンランド型腎症を含む)、巣状分節性糸球体腎炎(focal segmental glomerulonephritis)(FSGS)、アルポート症候群、およびピアソン症候群が挙げられる。
【0085】
1つの例では、本開示は、治療を必要とする対象に本明細書で開示されるオルガノイド全体を移植することにより、腎疾患を治療する方法を包含する。別の例では、本開示は、治療を必要とする対象に本明細書で開示される細胞組成物を投与することにより、腎疾患を治療する方法を包含する。
【0086】
他の例では、本明細書で開示される組成物または細胞は、脱細胞化された腎臓足場の再細胞化のために与えられ得る。別の例では、本開示は、本明細書で開示される組成物または細胞を含むバイオマテリアルまたは足場を包含する。
【0087】
幹細胞
本開示の各態様は幹細胞の培養を包含する。用語「幹細胞」は、本開示との関連においては、特定の状況下でより特殊化または分化した表現型に分化する能力または可能性を有し、特定の状況下で実質的に分化せずに増殖する能力を保持する、前駆細胞サブセットを指して用いられる。1つの例では、幹細胞という用語は、通常、自然発生的な母細胞であって、胎児性の細胞および組織の多様化の進行で起こるような、子孫がしばしば様々な方向に分化によって、例えば完全な個性を獲得することによって、特殊化するものを指す。細胞分化は通例多くの細胞分裂を介して起こる複雑なプロセスである。分化細胞は多分化能細胞に由来し得るが、その多分化能細胞はそれ自体が多分化能細胞などから派生したものである。これらの多分化能細胞は各々が幹細胞と見なされ得るが、各々が生じ得る細胞型の範囲はかなり幅があり得る。分化細胞の中には、発生能がより大きい細胞を生じる能力を有するものもある。そのような能力は天然のものであってもよいし、種々の因子による処置で人為的に誘導したものであってもよい。多くの生物例で、幹細胞は、2種以上の別々の細胞型の子孫を生み出すことができるため「多分化能」であるが、これは「幹細胞性(stem-ness)」に必要なものではない。自己複製が、古典的な幹細胞の定義の、他の一部である。原理的には、自己複製は2つの主要な機構のどちらからによって起こり得る。幹細胞は非対称に分裂し、一方の娘細胞は幹細胞性状態を保持し、他方の娘細胞は異なる他の特殊な機能および表現型をいくつか発現し得る。あるいは、集団内の幹細胞の一部が、2つの幹細胞に対称的に分裂することにより、全体として集団内にいくらかの幹細胞を維持し、一方で集団内の他の細胞は分化した子孫のみを生じ得る。
【0088】
1つの例では、前記幹細胞はヒト幹細胞である。1つの例では、前記幹細胞は培養により増殖したヒト幹細胞集団である。1つの例では、幹細胞はインビトロまたはエキソビボで培養増殖され得る。1つの例では、培養増殖された幹細胞は、少なくとも1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回継代されたものである。
【0089】
1つの例では、前記幹細胞は多能性幹細胞である。別の例では、幹細胞はヒト胚性幹細胞である。通常、多能性幹細胞は多能性状態の時にOCT4、NANOG、およびSSEA1の発現を示し、これらのマーカーの発現は分化に伴って通常は消失する。別の例では、幹細胞はヒト胚性幹細胞である。用語「ヒト胚性幹細胞」、並びに「hES」および「hESC」などのその略語は、ヒトの胚または胚盤胞から派生した、それから入手可能な、またはそれに由来する細胞であって、自己複製し、且つ多能性であるか、または成体動物に存在する全ての細胞型を生み出せる全能性であるものを指す。ヒト胚性幹細胞(hESC)は、例えば、ヒトインビボ着床前胚、インビトロ受精胚、または胚盤胞期へと増殖した一細胞ヒト胚、から得られたヒト胚盤胞から単離され得る。
【0090】
別の例では、前記幹細胞は人工多能性幹細胞である。例えば、前記幹細胞はヒト人工多能性幹細胞であり得る。用語「人工多能性幹細胞」およびその略語である「iPSC」は、OCT4、SOX2、KLF4、およびc-MYCの好ましい組み合わせを含む、転写因子などの、外来遺伝子の発現を通じて多能性状態に再プログラムされた、あらゆる種類のヒト成人体細胞から誘導可能、入手可能、または由来する細胞を指す。ヒトiPSCは、hESCと同等レベルの多能性を示すが、自家療法用に患者から入手することができ、並行して遺伝子修正(gene correction)を行って、または行わずに、その後分化させて細胞送達できる。人工多能性幹細胞の好適な生成法は、例えば、米国特許第7,615,374号および米国特許出願公開第2014273211号、Barberi et al; Plos medicine, Vol 2(6):0554-0559 (2005)、およびVodyanik et al. Cell Stem cell, Vol 7:718-728 (2010)に記載されている。1つの例では、iPSCは線維芽細胞に由来する。別の例では、iPSCは血液に由来する。例えば、iPSCは白血球に由来する。別の例では、iPSCは線維芽細胞に由来する。別の例では、iPSCは白血球または線維芽細胞に由来する。
【0091】
1つの例では、前記幹細胞はH9またはhES3である。従って、1つの例では、本開示は、H9幹細胞由来である、本明細書で開示される腎オルガノイドを包含する。別の例では、本開示は、hES3幹細胞由来である、本明細書で開示される腎オルガノイドを包含する(Kao et al., 2016; Ng et al., 2016; van den Berg et al., 2018)。例えば、前記腎オルガノイドはhES3-SOX17mCherry由来またはH9 GAPTrapLuc2由来であり得る。従って、1つの例では、本開示は、H9幹細胞またはhES3幹細胞由来である、50個未満のネフロンを含む腎オルガノイドを包含する。別の例では、前記腎オルガノイドは、15個未満のネフロンを含み、H9幹細胞またはhES3幹細胞由来である。これらの例では、前記幹細胞はレポーター遺伝子を発現し得る。
【0092】
別の例では、前記幹細胞はiPSC GAPTrap td-Tomato、CRL1502.C32、またはCLR1502.3である(Briggs et al., 2013; Takasato et al., 2015)。従って、1つの例では、本開示は、iPSC GAPTrap td-Tomato由来である、本明細書に記載の腎オルガノイドを包含する。
【0093】
従って、1つの例では、本開示は、iPSC GAPTrap td-Tomato由来、CRL1502.C32由来、またはCLR1502.3由来である、50個未満のネフロンを含む腎オルガノイドを包含する。別の例では、前記腎オルガノイドは、15個未満のネフロンを含み、iPSC GAPTrap td-Tomato、CRL1502.C32、またはCLR1502.3に由来する。同様に、これらの例でも、前記幹細胞はレポーター遺伝子を発現し得る。
【0094】
1つの例では、特定の対象および/または疾患を代表する腎オルガノイドを製造することが好ましい場合がある。この実施形態の様々な例を以下に記載する。このセクションは、腎オルガノイドの製造に使用され得るiPS細胞に関したものである。1つの例では、前記ヒトiPS細胞は遺伝的な腎疾患を有するヒト対象由来である。この例では、血液試料が遺伝的腎疾患を有する対象から単離され、iPS細胞が前記血液試料中の細胞(例えば白血球)から誘導され得る。前記対象は種々の例示的な遺伝的腎疾患のうちの1つを有し得る。例としては、先天性ネフローゼ症候群(CNS)(ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群およびフィンランド型腎症を含む)、巣状分節性糸球体腎炎(focal segmental glomerulonephritis)(FSGS)、アルポート症候群、およびピアソン症候群が挙げられる。従って、1つの例では、本開示は、先天性ネフローゼ症候群(CNS)(ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群およびフィンランド型腎症を含む)、巣状分節性糸球体腎炎(focal segmental glomerulonephritis)(FSGS)、アルポート症候群、およびピアソン症候群からなる群から選択される、腎疾患を代表する腎オルガノイドを包含する。従って、1つの例では、前記腎オルガノイドはCNSを代表するものである。別の例では、前記腎オルガノイドはステロイド抵抗性ネフローゼ症候群を代表するものである。
【0095】
1つの例では、発生中の腎臓および/または腎疾患をモデル化するために、腎オルガノイドが使用され得る。従って、1つの例では、本開示は、腎臓の発生をモデル化するために使用される、本明細書で開示される腎オルガノイドを包含する。別の例では、本開示は、腎疾患をモデル化するために使用される、本明細書で開示される腎オルガノイドを包含する。1つの例では、前記腎疾患はCNSまたは上記疾患のうちの別のものである。この例では、上記腎疾患を有する対象からiPS細胞を誘導し、それから腎オルガノイドを製造することによって、疾患はモデル化され得る。この例では、腎疾患の発達に重要であるか重要である可能性がある対象由来のiPS細胞の遺伝子に変異を導入するために、遺伝子編集が使用され得る(例えば、CRISPR/Cas9遺伝子編集)。他の例では、対象由来のiPS細胞の変異を修正するために、遺伝子編集が使用される。1つの例では、アイソジェニックな遺伝子編集iPS細胞が生成され得る(例えば、Forbes et al. (2018) Am J Hum Genet. 102:816-831)。腎臓の発生および疾患は、下記(例えば、7+15日目)のうちの1または複数などの様々な発生段階の腎オルガノイドを用いて、長い期間をかけて(例えば、2日間、5日間、10日間、またはそれより長い日数)、モデル化され得る。これらの例では、オルガノイド糸球体はグループで培養され、各グループは異なる発生段階(例えば、7+11日目、7+15日目、7+18日目、7+20日目)を代表しており、且つ/または一定の期間培養され得る(例えば2日間、5日間、および10日間の旋回培養)。腎オルガノイドは、発生または疾患のステージを決定するための、視覚的評価、免疫組織化学、遺伝子およびタンパク質の発現解析などを用いて評価され得る。1つの例では、腎オルガノイドはまた、これらの試験時には腎毒性物質、候補化合物および/または治療化合物と接触させられ、腎毒性および/または治療効果が測定され得る。上記で言及したように、上記の例で使用された腎オルガノイドは、レポーター遺伝子を発現するように遺伝子改変されたiPS細胞から生成することができる。
【0096】
細胞培養法
用語「培地(media)」または「培地(medium)」とは、細胞培養と関連して使用されている場合、細胞を取り囲んでいる環境の構成要素を含む。培地は、細胞分化およびオルガノイド形成に十分な条件に寄与し、且つ/またはそれを実現するものと想定される。培地は、固体、液体、気体、または相および物質の混合物であり得る。培地は、細胞成長を持続しない液体培地だけでなく、液体増殖培地も含み得る。培地には、寒天、アガロース、ゼラチン、およびコラーゲンマトリックスなどのゼラチン質の培地も含まれる。例示的な気体培地としては、ペトリ皿または他の固相もしくは半固相上で増殖している細胞が暴露される気相が挙げられる。用語「培地」は、細胞とまだ接触していなくとも、細胞培養での使用が意図される物質を指す。
【0097】
本開示の方法で用いられる培地は、幹細胞またはIM細胞の培養に用いられる培地を基本培地として用いて作製され得る。基本培地としては、例えば、イーグル最小必須(MEM)培地が挙げられ、幹細胞またはIM細胞の培養に使用できるものであれば特に制限はされない。さらに、本開示の培地は、脂肪酸または脂質、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、緩衝剤、無機塩などのあらゆる成分を含有し得る。本開示で用いられる細胞培地は、全ての必須アミノ酸を含有しており、可欠アミノ酸を含有する場合もある。通常、アミノ酸は必須アミノ酸(Thr、Met、Val、Leu、He、Phe、Trp、Lys、His)と可欠アミノ酸(Gly、Ala、Ser、Cys、Gin、Asn、Asp、Tyr、Arg、Pro)とに分類される。他の例では、基本培地は、例えば、既知組成培地であるAPEL、mTESR-E6、またはE8(ステムセル・テクノロジーズ社(StemCell technologies))を含む。基本培地は、タンパク質不含ハイブリドーマ培地(PFHM)(例えば3.5%)も添加され得る。1つの例では、基本培地は血清代替物を添加される。例えば、基本培地はKnockout Serum Replacement(サーモ・フィッシャー社)を添加され得る。
【0098】
当業者には理解されることであるが、本明細書で開示される培地は時間と共に交換する必要がある。培地交換の適切なタイミングを特定することは、当業者の技能の範囲に十分に含まれると考えられる。例えば、培地の交換が必要である時期を指示するための、細胞培地中に一般に使用される、様々な市販の変色指示薬が存在する。目安として、マルチウェル培養皿での細胞培養の場合は、培地は24時間または48時間毎に交換され得る。例えば、培地は2日毎に交換され得る。
【0099】
腎オルガノイド
本開示は腎オルガノイドの製造法を包含する。1つの例では、腎オルガノイドは、中間中胚葉(IM)細胞集団を含む培地を旋回することにより製造される。1つの例では、前記IM細胞は浮遊培養下で旋回される。誤解を避けるため、本開示との関連において、「浮遊培養」とは、単一細胞または小細胞塊が振盪液体培地中で浮遊しながら増殖する、細胞培養を指して用いられる。例えば、前記単一細胞または小細胞塊は浮遊培養下で増殖して腎オルガノイドを形成する。
【0100】
1つの例では、前記IM細胞培地はFGFを含有する。いくつかの例では、前記FGFは、FGF9、FGF16、およびFGF20を含むFGF9スーパーファミリーから選択され得る。いくつかの例では、前記FGFはFGF9である。例えば、前記IM細胞培地は7日目から少なくとも7+10日目までFGFを含有し得る。1つの例では、前記IM細胞培地は7日目から少なくとも7+15日目までFGFを含有し得る。FGF濃度の例を以下に記載する。例えば、前記細胞培地は少なくとも50ng/mlのFGFを含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも100ng/mlのFGFを含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも150ng/mlのFGFを含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも200ng/mlのFGFを含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも300ng/mlのFGFを含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも350ng/mlのFGFを含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも400ng/mlのFGFを含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも500ng/mlのFGFを含有する。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~400ng/mlのFGFを含有する。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~300ng/mlのFGFを含有する。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~250ng/mlのFGFを含有する。別の例では、前記細胞培地は100ng/ml~200ng/mlのFGFを含有する。別の例では、前記細胞培地は180ng/ml~220ng/mlのFGFを含有する。別の例では、前記細胞培地は190ng/ml~210ng/mlのFGFを含有する。
【0101】
1つの例では、前記IM細胞培地はFGF9を含有し得る。1つの例では、前記細胞培地は少なくとも50ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも100ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも150ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも200ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも300ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも350ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも400ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも500ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~400ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~300ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~250ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は100ng/ml~200ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は180ng/ml~220ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は190ng/ml~210ng/mlのFGF9を含有する。
【0102】
別の例では、上記レベルのFGF9はFGF2に置き換えられる。例えば、前記IM細胞培地は50ng/ml~400ng/mlのFGF2を含有し得る。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~300ng/mlのFGF2を含有する。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~250ng/mlのFGF2を含有する。別の例では、前記細胞培地は100ng/ml~200ng/mlのFGF2を含有する。別の例では、前記細胞培地は180ng/ml~220ng/mlのFGF2を含有する。別の例では、前記細胞培地は190ng/ml~210ng/mlのFGF2を含有する。
【0103】
別の例では、上記レベルのFGF9はFGF16に置き換えられる。例えば、前記IM細胞培地は50ng/ml~400ng/mlのFGF16を含み得る。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~300ng/mlのFGF16を含有する。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~250ng/mlのFGF16を含有する。別の例では、前記細胞培地は100ng/ml~200ng/mlのFGF16を含有する。別の例では、前記細胞培地は180ng/ml~220ng/mlのFGF16を含有する。別の例では、前記細胞培地は190ng/ml~210ng/mlのFGF16を含有する。
【0104】
別の例では、上記レベルのFGF9はFGF20に置き換えられる。例えば、前記IM細胞培地は50ng/ml~400ng/mlのFGF20を含有し得る。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~300ng/mlのFGF20を含有する。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~250ng/mlのFGF20を含有する。別の例では、前記細胞培地は100ng/ml~200ng/mlのFGF20を含有する。別の例では、前記細胞培地は180ng/ml~220ng/mlのFGF20を含有する。別の例では、前記細胞培地は190ng/ml~210ng/mlのFGF20を含有する。1つの例では、FGFは5日間の旋回培養後に培地から除去される。1つの例では、FGFは6日間の旋回培養後に培地から除去される。1つの例では、FGFは4~6日間の旋回培養後に培地から除去される。
【0105】
1つの例では、前記培地にWnt/βカテニン作動薬を添加することにより、腎形成がオルガノイドにおいて惹起される。用語「Wnt/βカテニン作動薬」とは、本開示との関連において、古典的Wntシグナル伝達経路との関連の中ではGSK3(例えば、GSK3-β)を阻害するが、他の非古典的Wntシグナル伝達経路との関連の中では阻害しないことが好ましい、分子を指すように用いられる。いくつかの例では、前記Wnt/βカテニン作動薬はGSK3β阻害剤である。Wnt/βカテニン作動薬の例としては、CHIR99021(CHIR)、LiCl、SB-216763、CAS853220-52-7、並びにサンタクルーズバイオテクノロジー社(Santa Cruz Biotechnology)およびR&Dシステムズ社(R&D Systems)などの供給業者から市販されている他のWnt/βカテニン作動薬が挙げられる。
【0106】
従って、1つの例では、前記IM細胞培地は上記レベルのFGFおよびWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。例えば、前記IM細胞培地は少なくとも0.5μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、前記細胞培地は少なくとも0.6μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、前記細胞培地は少なくとも0.7μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、前記細胞培地は少なくとも0.8μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、前記細胞培地は少なくとも0.9μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、前記細胞培地は約1μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、前記細胞培地は1.1μΜ以下のWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、前記細胞培地は1.2μΜ以下のWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、前記細胞培地は1.3μΜ以下のWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、前記細胞培地は1.4μΜ以下のWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、前記細胞培地は1.5μΜ以下のWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。前記培地が、Wnt/βカテニン作動薬の濃度に対するこれらの上限および下限をあらゆる組み合わせで含み得ることは理解されよう。別の例では、前記細胞培地は0.5μΜ~1.5μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、前記細胞培地は0.8μΜ~1.2μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。1つの例では、前記細胞培地は少なくとも0.5μΜのCHIRを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は少なくとも0.6μΜのCHIRを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は少なくとも0.7μΜのCHIRを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は少なくとも0.8μΜのCHIRを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は少なくとも0.9μΜのCHIRを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は約1μΜのCHIRを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は1.1μΜ以下のCHIRを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は1.2μΜ以下のCHIRを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は1.3μΜ以下のCHIRを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は1.4μΜ以下のCHIRを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は1.5μΜ以下のCHIRを含有し得る。前記培地が、CHIRの濃度に対するこれらの上限および下限をあらゆる組み合わせで含み得ることは理解されよう。別の例では、前記細胞培地は0.5μΜ~1.5μΜのCHIRを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は0.8μΜ~1.2μΜのCHIRを含有し得る。
【0107】
別の例では、前記IM細胞培地は、Y-27632(ステムセルテクノロジーズ社)などのRhoキナーゼ阻害剤(ROCKi)を含有し得る。1つの例では、前記細胞培地は少なくとも8μΜのROCKiを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は約10μΜのROCKiを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は12μΜ以下のROCKiを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は8μΜ~12μΜのROCKiを含有し得る。
【0108】
上記の例において、前記IM細胞培地は、FGF9と、CHIRなどのWnt/βカテニン作動薬と、ヘパリン、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、およびメチルセルロース(MC)のうちの1つまたは複数または全てと、を含有し得る。別の例では、前記細胞培地はROCKiも含有し得る。
【0109】
1つの例では、前記IM細胞培地は少なくとも0.5μg/mlのヘパリンを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は約1μg/mlのヘパリンを含有する。別の例では、前記細胞培地は1.5μg/ml以下のヘパリンを含有する。別の例では、前記細胞培地は2μg/ml以下のヘパリンを含有する。別の例では、前記細胞培地は0.2μg/ml~2μg/mlのヘパリンを含有する。別の例では、前記細胞培地は0.5μg/ml~1.5μg/mlのヘパリンを含有する。別の例では、前記細胞培地は0.8μg/ml~1.2μg/mlのヘパリンを含有する。
【0110】
1つの例では、前記IM細胞培地は少なくとも0.05%のPVAを含有する。別の例では、前記細胞培地は約0.1%のPVAを含有する。別の例では、前記細胞培地は0.15%以下のPVAを含有する。別の例では、前記細胞培地は0.1%~0.15%のPVAを含有する。
【0111】
1つの例では、前記IM細胞培地は少なくとも0.05%のMCを含有する。別の例では、前記細胞培地は約0.1%のMCを含有する。別の例では、前記細胞培地は0.15%未満のMCを含有する。別の例では、前記細胞培地は0.1%~0.15%のMCを含有する。
【0112】
本開示との関連において、「旋回する」、「旋回」、および「旋回すること」という用語は同義的に使用され、円形パターン、ねじれパターン、またはらせん形パターンの細胞培地の動きを指す。1つの例では、細胞培地は細胞培養物に円運動の十分な撹拌を加えることにより旋回される。例えば、細胞培養物はオービタルシェーカーを用いて旋回され得る。細胞培養を旋回するのに好適な装置の他の例としては、シェーカープラットフォーム、シェーカー恒温器、または回転フラスコが挙げられる。旋回のrpmが適切であると、IM細胞の凝集とオルガノイドの形成が可能となる。
【0113】
1つの例では、前記IM細胞培養は少なくとも30rpmで旋回される。別の例では、前記細胞培養は少なくとも40rpmで旋回される。別の例では、前記細胞培養は少なくとも50rpmで旋回される。別の例では、前記細胞培養は少なくとも60rpmで旋回される。別の例では、前記細胞培養は少なくとも70rpmで旋回される。別の例では、前記細胞培養は少なくとも80rpmで旋回される。別の例では、前記細胞培養は40~80rpmで旋回される。別の例では、前記細胞培養は50~70rpmで旋回される。別の例では、前記細胞培養は55~65rpmで旋回される。別の例では、前記細胞培養は30~150rpmで旋回される。別の例では、前記細胞培養は30~90rpmで旋回される。
【0114】
1つの例では、IM細胞は少なくとも5日間培養される。別の例では、IM細胞は少なくとも7日間培養される。別の例では、IM細胞は少なくとも10日間培養される。別の例では、IM細胞は少なくとも12日間培養される。別の例では、IM細胞は少なくとも14日間培養される。別の例では、IM細胞は少なくとも20日間培養される。別の例では、IM細胞は最長42日間培養される。別の例では、IM細胞は5~20日間培養される。別の例では、IM細胞は5~18日間培養される。別の例では、IM細胞は7~14日間培養される。例えば、IM細胞は旋回されながら少なくとも10日間培養される。例えば、IM細胞は少なくとも20日間旋回され得る。別の例では、IM細胞は少なくとも30日間旋回され得る。
【0115】
1つの例では、IM細胞は10~30日間旋回される。別の例では、IM細胞は15~30日間旋回される。
【0116】
1つの例では、IM細胞集団は解離され、上記培地中で旋回培養される。1つの例では、IM細胞はEDTAを用いて解離され得る。別の例では、IM細胞はトリプシンまたはTrypLEを用いて解離され得る。1つの例では、解離されたIM細胞は、メッシュスクリーンに通された後にさらに培養される。1つの例では、細胞は解離後に少なくとも12日間旋回培養される。別の例では、細胞は解離後に少なくとも13日間旋回培養される。別の例では、細胞は解離後に少なくとも14日間旋回培養される。別の例では、細胞は解離後に少なくとも15日間旋回培養される。別の例では、細胞は解離後に少なくとも20日間旋回培養される。別の例では、細胞は解離後に少なくとも25日間旋回培養される。別の例では、細胞は解離後に少なくとも35日間旋回培養される。別の例では、細胞は解離後に5~18日間旋回培養される。
【0117】
他の例では、本明細書に記載のIM細胞は様々な成分を含む様々な培地で培養され得る。例えば、細胞は、各段階が異なる培地と関連付けられた、段階的な培養にかけられ得る。1つの例では、IM細胞は2段階で旋回培養される。この例では、1段階目の培地は上記レベルのFGF(FGF9など)、CHIR、ROCKi、ヘパリン、PVA、およびMCを含み、2段階目の培地は上記レベルのFGF(FGF9など)、CHIR、ヘパリン、PVA、およびMCを含む。例えば、1段階目の培地は200ng/mlのFGF9、1μΜのCHIR、10μΜのROCKi、1μg/mlのヘパリン、0.1%のPVA、および0.1%のMCを含み、2段階目の培地はFGF9、1μΜのCHIR、1μg/mlのヘパリン、0.1%のPVA、および0.1%のMCを含み得る。
【0118】
別の例では、IM細胞は3段階で旋回培養される。この例では、1段階目および2段階目の培地は上記定義の通りであり、3段階目の培地は上記レベルのPVAおよびMCを含む。例えば、3段階目の培地は0.1%のPVAおよび0.1%のMCを含み得る。
【0119】
1つの例では、IM細胞は1段階目の培地中で1日間培養された後、2段階目の培地中で4日間培養される。1つの例では、細胞は1段階目の培地中で18~24時間培養された後、2段階目の培地中で4日間培養される。これらの例では、細胞は3段階目の培地中で7~20日間さらに培養され得る。別の例では、細胞は3段階目の培地中で少なくとも15日間さらに培養され得る。別の例では、細胞は3段階目の培地中で少なくとも30日間さらに培養され得る。
【0120】
また本発明者らは、約5~10日間の旋回培養後にIM細胞にレチノイン酸を添加することにより、オルガノイドの糸球体成熟が改善される(糸球体ポドサイト成熟の改善)ことも確認した。従って、1つの例では、レチノイン酸が5~10日間の旋回培養後に細胞培地に添加される。1つの例では、オールトランスレチノイン酸(atRA)が細胞培地に添加される。1つの例では、少なくとも0.07μΜのレチノイン酸が細胞培地に添加される。別の例では、少なくとも0.1μΜのレチノイン酸が細胞培地に添加される。別の例では、少なくとも0.2μΜのレチノイン酸が細胞培地に添加される。別の例では、少なくとも0.5μΜのレチノイン酸が細胞培地に添加される。
【0121】
別の例では、少なくとも1.5μΜのレチノイン酸が細胞培地に添加される。1つの例では、少なくとも1.8μΜのレチノイン酸が細胞培地に添加される。1つの例では、少なくとも2.0μΜのレチノイン酸が細胞培地に添加される。別の例では、少なくとも2.5μΜのレチノイン酸が細胞培地に添加される。別の例では、1.5μΜ~3μΜのレチノイン酸が細胞培地に添加される。別の例では、2.0μΜ~3μΜのレチノイン酸が細胞培地に添加される。
【0122】
別の例では、1段階目および2段階目の培地は上記定義の通りであり、3段階目の培地は上記レベルのPVA、MC、およびatRAを含む。例えば、3段階目の培地は0.1%のPVAおよび0.1%のMC、2.5μMのatRAを含み得る。
【0123】
本発明者らは、少数のIM細胞を適切な培地中で旋回培養にかけることにより、単純三次元構造を有する腎オルガノイドの発生が方向付けられ得ることを確認した。従って、1つの例では、本開示の方法は、5×105個未満のIM細胞を含むIM細胞集団を旋回することを包含する。別の例では、本開示の方法は、4×105個未満のIM細胞を含むIM細胞集団を旋回することを包含する。別の例では、本開示の方法は、3×105個未満のIM細胞を含むIM細胞集団を旋回することを包含する。別の例では、本開示の方法は、1×105個未満のIM細胞を含むIM細胞集団を旋回することを包含する。別の例では、本開示の方法は、5×104個のIM細胞を含むIM細胞集団を旋回することを包含する。別の例では、本開示の方法は、4×104個のIM細胞を含むIM細胞集団を旋回することを包含する。別の例では、本開示の方法は、1×104~1×105個のIM細胞を含むIM細胞集団を旋回することを包含する。別の例では、本開示の方法は、2×104~1×105個のIM細胞を含むIM細胞集団を旋回することを包含する。別の例では、本開示の方法は、5×103~3×105個のIM細胞を含むIM細胞集団を旋回することを包含する。
【0124】
別の例では、本開示の方法は1×105細胞/ml~5×106細胞/mlのIM細胞を旋回することを包含する。別の例では、本開示の方法は5×105~4×106細胞/mlのIM細胞を旋回することを包含する。別の例では、本開示の方法は5×105~3×106細胞/mlのIM細胞を旋回することを包含する。他の例では、本開示の方法は5×106細胞/ml未満のIM細胞集団を旋回することを包含する。別の例では、本開示の方法は4×106細胞/ml未満のIM細胞集団を旋回することを包含する。別の例では、本開示の方法は3×106細胞/ml未満のIM細胞集団を旋回することを包含する。別の例では、本開示の方法は2×106細胞/ml未満のIM細胞集団を旋回することを包含する。別の例では、本開示の方法は1×106細胞/ml以下のIM細胞集団を旋回することを包含する。別の例では、本開示の方法は5×105~2×106細胞/mlのIM細胞を旋回することを包含する。別の例では、本開示の方法は5×105~1.5×106細胞/mlのIM細胞を旋回することを包含する。これらの例では、5,000~15,000個程度のオルガノイドが製造され得る。別の例では、8,000~10,000個程度のオルガノイドが製造され得る。これらの例では、総細胞数は培養期間に亘って旋回培養開始時の細胞数から30~40倍に増加する。これらの例では、Takasato et al. (2015) Nature, Vol. 526:564-568に記載されるプロトコルを用いた総細胞数の増加と比較して、総細胞数は3~4倍増加する。この例では、総細胞数は1×105~5×106細胞/ml程度から3×106~2×108 細胞/ml程度まで増加する。
【0125】
1つの例では、前記IM細胞は本明細書で開示される方法によって得られる。
【0126】
1つの例では、本開示は、腎オルガノイドの製造法であって、
幹細胞集団を7日間培養することでIM細胞を製造する工程であって、最初の4~5日間は前記幹細胞を高濃度のWnt/βカテニン作動薬(CHIRなど)中で培養することを含み、残り日数は前記細胞をFGF9および低濃度のWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で培養することを含む、前記工程;
前記IM細胞を解離する工程;
IM細胞をFGF9を含有する細胞培地中で少なくとも5日間旋回することにより、腎オルガノイドを製造する工程であって、最初の24時間は前記細胞をFGF9、ヘパリン、低濃度のWnt/βカテニン作動薬、およびROCKiを含有する細胞培地中で培養することを含み、その後の3日間または4日間は前記細胞をFGF9、ヘパリン、低濃度のWnt/βカテニン作動薬、PVA、およびMCを含有する細胞培地中で培養することを含む、前記工程、
を含む、腎オルガノイドの製造法を包含する。
【0127】
上記の例では、幹細胞は7日間培養され、最初の4日間は前記幹細胞を高濃度のWnt/βカテニン作動薬(CHIRなど)中で培養することを含み、残り日数は前記細胞をFGF9および低濃度のWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で培養することを含み得る。1つの例では、前記Wnt/βカテニン作動薬はCHIRである。1つの例では、高濃度のCHIRは約3μΜ~約12μΜである。別の例では、高濃度のCHIRは約4μΜ~約10μΜ、約5μΜ~約9μΜ、約6μΜ~約8μΜ、約6.5μΜ~約8μΜ、または約6.5μΜ~約7μΜである。1つの例では、低濃度のCHIRは1μΜである。1つの例では、IM細胞はトリプシンを用いて解離される。別の例では、細胞はEDTAを用いて解離される。1つの例では、IM細胞は200ng/mlのFGF9を含有する細胞培地中で少なくとも4日間旋回され、最初の24時間は前記細胞を200ng/mlのFGF9、1μg/mlのヘパリン、1μΜのCHIR、および10μΜのROCKiを含有する細胞培地中で培養することを含み、その後の3日間または4日間は前記細胞を200ng/mlのFGF9、1μg/mlのヘパリン、1μΜ、0.1%のPVA、および0.1%のMCを含有する細胞培地中で培養することを含む。
【0128】
別の例では、前記方法は、PVAおよびMCを含有するが、CHIRもFGF9も含有しない細胞培地中で、細胞を旋回することをさらに含む。1つの例では、前記細胞培地は0.1%のPVAおよび0.1%のMCを含有する。1つの例では、細胞は、PVAおよびMCを含有するが、CHIRもFGF9も含有しない細胞培地中で5日間以上旋回される。
【0129】
中間中胚葉
驚くべきことに、本発明者らはまた、低濃度のCHIRを含有する培地中で幹細胞を培養し、Wnt/β-カテニンシグナル伝達をより長い期間活性化することが、改善された中間中胚葉の製造において有益であることを確認した。このインビトロ培養法は、腎オルガノイドを製造するために、後方原始線条(PPS)細胞および中間中胚葉(IM)細胞を経由して幹細胞を分化させるための系を提供する。
【0130】
従って、1つの例では、本開示は、後方原始線条(PPS)細胞集団をFGFおよび4μΜ未満のWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で2~5日間培養することを含む、中間中胚葉(IM)細胞のインビトロ製造法を包含する。
【0131】
FGFおよびWnt/βカテニン作動薬の好適な濃度、並びに好適な培養期間は、最初の3日間または4日間の培養後の期間の中間中胚葉(IM)細胞の製造法に関連して、以下に記載される通りである。
【0132】
従って、1つの例では、本開示は、幹細胞集団をCHIRを含有する細胞培地中で約7日間培養することを含み、最初の3日間または4日間の培養後にFGF9などのFGFが前記培地に添加される、中間中胚葉(IM)細胞の製造法を包含する。1つの例では、最初の3日間または4日間の培養後に、50ng/ml~400ng/mlのFGF9が前記培地に添加される。別の例では、最初の3日間または4日間の培養後に、50ng/ml~300ng/mlのFGF9が前記培地に添加される。別の例では、最初の3日間または4日間の培養後に、50ng/ml~250ng/mlのFGF9が前記培地に添加される。別の例では、最初の3日間または4日間の培養後に、100ng/ml~200ng/mlのFGF9が前記培地に添加される。別の例では、最初の3日間または4日間の培養後に、150ng/ml~250ng/mlのFGF9が前記培地に添加される。別の例では、最初の3日間または4日間の培養後に、175ng/ml~225ng/mlのFGF9が前記培地に添加される。別の例では、最初の3日間または4日間の培養後に、190ng/ml~210ng/mlのFGF9が前記培地に添加される。別の例では、最初の3日間または4日間の培養後に、195ng/ml~205ng/mlのFGF9が前記培地に添加される。別の例では、最初の3日間または4日間の培養後に、約200ng/mlのFGF9が前記培地に添加される。1つの例では、最初の3日間または4日間の培養後に、ヘパリンも前記培地に添加される。1つの例では、最初の3日間または4日間の培養後に0.5μg/ml~2μg/mlのヘパリンが前記培地に添加される。別の例では、最初の3日間または4日間の培養後に0.5μg/ml~1.5μg/mlのヘパリンが前記培地に添加される。別の例では、最初の3日間または4日間の培養後に0.8μg/ml~1.2μg/mlのヘパリンが前記培地に添加される。別の例では、最初の3日間または4日間の培養後に1μg/mlのヘパリンが前記培地に添加される。1つの例では、4日間の培養後に、上記レベルのFGFおよびヘパリンが前記培地に添加される。1つの例では、前記幹細胞はCHIRを含有する細胞培地中で7日間培養される。
【0133】
特に、本発明者らは、幹細胞を高濃度のWnt/βカテニン作動薬(CHIRなど)中で培養した後、前記幹細胞を低濃度のWnt/βカテニン作動薬およびFGF(FGF9など)中で培養することにより、改善されたIM細胞が製造されたことを確認した。例えば、改善されたIM細胞は、高レベルのPAX2、LHX1、およびOSR1(キャップ状間葉(cap mesenchyme))、並びにWnt11およびGATA3(尿管上皮)を発現する。従って、1つの例では、幹細胞は、高濃度のWnt/βカテニン作動薬(CHIRなど)を含有する培地中で培養された後、低濃度のWnt/βカテニン作動薬およびFGF(FGF9、FGF16、FGF20またはFGF2など)を含有する培地中で培養され得る。
【0134】
1つの例では、本開示は、幹細胞集団を高濃度のCHIRを含有する細胞培地中で培養した後、前記幹細胞集団を低濃度のCHIRおよびFGF(FGF9など)を含有する細胞培地中で培養することを含む、中間中胚葉(IM)細胞の製造法を包含する。この例では、「高濃度」のCHIRは少なくとも5μΜであり、「低濃度」のCHIRは3μΜ未満である。別の例では、「高濃度」のCHIRは少なくとも6μΜであり、「低濃度」のCHIRは2μΜ未満である。別の例では、「高濃度」のCHIRは7μΜであり、「低濃度」のCHIRは1μΜ以下である。
【0135】
従って、別の態様では、本開示の方法は、中間中胚葉(IM)細胞のインビトロ製造法を包含する。1つの例では、前記IM細胞製造法は、幹細胞集団を約7日間培養することを含み、最初の4~5日間は前記幹細胞を高濃度のWnt/βカテニン作動薬(CHIRなど)中で培養することを含み、残り日数は前記細胞をFGF9および低濃度のWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で培養することを含む。1つの態様では、前記IM細胞製造法は、最初の4~5日間の高濃度のWnt/βカテニン作動薬中の培養後に、幹細胞集団をFGF9および少なくとも0.5μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で培養することを含む。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のWnt/βカテニン作動薬中の培養後に、前記細胞培地は少なくとも0.6μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のWnt/βカテニン作動薬中の培養後に、前記細胞培地は少なくとも0.7μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のWnt/βカテニン作動薬中の培養後に、前記細胞培地は少なくとも0.8μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のWnt/βカテニン作動薬中の培養後に、前記細胞培地は少なくとも0.9μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のWnt/βカテニン作動薬中の培養後に、前記細胞培地は約1μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のWnt/βカテニン作動薬中の培養後に、前記細胞培地は1.1μΜ以下のWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のWnt/βカテニン作動薬中の培養後に、前記細胞培地は1.2μΜ以下のWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のWnt/βカテニン作動薬中の培養後に、前記細胞培地は1.3μΜ以下のWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のWnt/βカテニン作動薬中の培養後に、前記細胞培地は1.4μΜ以下のWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のWnt/βカテニン作動薬中の培養後に、前記細胞培地は1.5μΜ以下のWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。最初の4~5日間の高濃度のWnt/βカテニン作動薬中の培養後、前記培地が、Wnt/βカテニン作動薬の濃度に対するこれらの上限および下限をあらゆる組み合わせで含み得ることは理解されよう。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のWnt/βカテニン作動薬中の培養後に、前記細胞培地は0.5μΜ~1.5μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のWnt/βカテニン作動薬中の培養後に、前記細胞培地は0.8μΜ~1.2μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。従って、1つの例では、最初の4~5日間の高濃度のWnt/βカテニン作動薬中の培養後に、前記細胞培地は2μΜ未満のWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のWnt/βカテニン作動薬中の培養後に、前記細胞培地は1.5μΜ未満のWnt/βカテニン作動薬を含有し得る。
【0136】
1つの例では、前記Wnt/βカテニン作動薬はCHIRである。従って、1つの例では、最初の4~5日間の高濃度のCHIR中の培養後に、前記細胞培地は少なくとも0.5μΜのCHIRを含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のCHIR中の培養後に、前記細胞培地は少なくとも0.6μΜのCHIRを含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のCHIR中の培養後に、前記細胞培地は少なくとも0.7μΜのCHIRを含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のCHIR中の培養後に、前記細胞培地は少なくとも0.8μΜのCHIRを含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のCHIR中の培養後に、前記細胞培地は少なくとも0.9μΜのCHIRを含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のCHIR中の培養後に、前記細胞培地は約1μΜのCHIRを含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のCHIR中の培養後に、前記細胞培地は0.5μΜ~1.5μΜのCHIRを含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のCHIR中の培養後に、前記細胞培地は0.8μΜ~1.2μΜのCHIRを含有し得る。従って、1つの例では、最初の4~5日間の高濃度のCHIR中の培養後に、前記細胞培地は2μΜ未満のCHIRを含有し得る。別の例では、最初の4~5日間の高濃度のCHIR中の培養後に、前記細胞培地は1.5μΜ未満のCHIRを含有し得る。
【0137】
1つの例では、最初の4~5日間の高濃度のCHIR中の培養後に、前記培地は上記で例示されたような低濃度のCHIRおよびFGF9を含有し得る。1つの例では、前記細胞培地は少なくとも50ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも100ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも150ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも200ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも300ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも350ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも400ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は少なくとも500ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~400ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~300ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~250ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は100ng/ml~200ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は180ng/ml~220ng/mlのFGF9を含有する。別の例では、前記細胞培地は190ng/ml~210ng/mlのFGF9を含有する。
【0138】
別の例では、上記レベルのFGF9はFGF2に置き換えられる。
【0139】
例えば、前記細胞培地は50ng/ml~400ng/mlのFGF2を含有し得る。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~300ng/mlのFGF2を含有する。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~250ng/mlのFGF2を含有する。別の例では、前記細胞培地は100ng/ml~200ng/mlのFGF2を含有する。別の例では、前記細胞培地は180ng/ml~220ng/mlのFGF2を含有する。別の例では、前記細胞培地は190ng/ml~210ng/mlのFGF2を含有する。
【0140】
別の例では、上記レベルのFGF9はFGF16に置き換えられる。例えば、前記細胞培地は50ng/ml~400ng/mlのFGF16を含有し得る。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~300ng/mlのFGF16を含有する。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~250ng/mlのFGF16を含有する。別の例では、前記細胞培地は100ng/ml~200ng/mlのFGF16を含有する。別の例では、前記細胞培地は180ng/ml~220ng/mlのFGF16を含有する。別の例では、前記細胞培地は190ng/ml~210ng/mlのFGF16を含有する。
【0141】
別の例では、上記レベルのFGF9はFGF20に置き換えられる。例えば、前記細胞培地は50ng/ml~400ng/mlのFGF20を含有し得る。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~300ng/mlのFGF20を含有する。別の例では、前記細胞培地は50ng/ml~250ng/mlのFGF20を含有する。別の例では、前記細胞培地は100ng/ml~200ng/mlのFGF20を含有する。別の例では、前記細胞培地は180ng/ml~220ng/mlのFGF20を含有する。別の例では、前記細胞培地は190ng/ml~210ng/mlのFGF20を含有する。
【0142】
1つの例では、前記高濃度CHIRを含有する培地はFGFを含有しない。
【0143】
別の例では、最初の4~5日間の高濃度のCHIR中の培養後に、前記細胞培地は上記で例示されたような低濃度のCHIR、上記で例示されたレベルのFGFおよびヘパリンを含有し得る。1つの例では、前記低濃度のCHIRおよびFGFを含有する細胞培地はヘパリンも含有する。この例では、前記細胞培地は1μg/mlのヘパリンを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は1.5μg/mlのヘパリンを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は2μg/mlのヘパリンを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は0.5μg/ml~2μg/mlのヘパリンを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は0.5μg/ml~1.5μg/mlのヘパリンを含有し得る。別の例では、前記細胞培地は0.8μg/ml~1.2μg/mlのヘパリンを含有し得る。
【0144】
1つの例では、本開示の方法は、上記のIM細胞製造法と、上記で例示された腎オルガノイド製造法におけるこれらのIM細胞の使用と、を組みわせることを包含する。
【0145】
1つの例では、幹細胞を、上記のIM細胞製造法を用いて培養した後、解離し、上記の旋回培養下で培養することで、腎オルガノイドが製造され得る。この例では、IM細胞はEDTA、トリプシン、またはTrypLEを用いて解離され得る。別の例では、細胞を、EDTAを用いて解離した後、メッシュスクリーンに通し、上記の旋回培養下で培養することで、腎オルガノイドが製造され得る。別の例では、細胞を、トリプシンを用いて解離した後、遠心し、得られたペレットを再懸濁して上記の旋回培養下に置くことで、腎オルガノイドが製造され得る。
【0146】
本開示によって包含される腎オルガノイドは培養日数に基づいて説明することができる。この培養日数は、幹細胞からIM細胞を製造するための日数(X)およびIM細胞から腎オルガノイドを形成させるための日数(Y)を含む、2つの成分に分けることができる。1つの例では、幹細胞からのIM細胞の製造とIM細胞からの腎オルガノイドの製造とを区別する工程は、IM細胞の解離工程である。幹細胞からIM細胞を製造するための培養日数とIM細胞から腎オルガノイドを形成させるための日数とを表す1つの方法が、X+Y日目である(例えば、7+12日目は、7日間かけて幹細胞からIM細胞を製造した後、IM細胞を解離し、12日間かけてIM細胞からオルガノイドを形成することを説明している(すなわち、Y=オルガノイドとしての日数))。
【0147】
1つの例では、本開示に包含される腎オルガノイドは7+12日目の腎オルガノイドである。別の例では、本開示に包含される腎オルガノイドは7+14日目の腎オルガノイドである。別の例では、本開示に包含される腎オルガノイドは7+15日目以後の腎オルガノイドである。別の例では、本開示に包含される腎オルガノイドは7+17日目の腎オルガノイドである。
【0148】
別の例では、本開示に包含される腎オルガノイドは7+20日目の腎オルガノイドである。別の例では、本開示に包含される腎オルガノイドは7+22日目の腎オルガノイドである。別の例では、本開示に包含される腎オルガノイドは7+25日目の腎オルガノイドである。別の例では、本開示に包含される腎オルガノイドは7+30日目の腎オルガノイドである。別の例では、本開示に包含される腎オルガノイドは7+13日目~7+30日目のものである。別の例では、本開示に包含される腎オルガノイドは7+14日目~7+30日目のものである。別の例では、本開示に包含される腎オルガノイドは7+15日目~7+30日目のものである。別の例では、本開示に包含される腎オルガノイドは7+15日目~7+25日目のものである。上記の例で、IM細胞が8、9、または10日間培養されてもよい(すなわち、8+Y日目、9+Y日目、または10+Y日目)。
【0149】
別の例では、本明細書で開示される腎オルガノイドの細胞は7+7日目の後に増殖する。別の例では、本明細書で開示される腎オルガノイドの細胞は7+10日目の後に増殖する。別の例では、本明細書で開示される腎オルガノイドの細胞は7+12日目の後に増殖する。別の例では、本明細書で開示される腎オルガノイドの細胞は7+5日目~7+10日目に増殖する。別の例では、本明細書で開示される腎オルガノイドの細胞は7+5日目~7+12日目に増殖する。これらの例では、細胞増殖の検出は、本明細書で開示される方法を用いてオルガノイド集団を作製し、特定の時点(例えば、7+5日目、7+7日目、7+10日目など)で前記集団からオルガノイドを単離および解離し、例えば、自動セルカウンター(例えばライフテクノロジーズ社)におけるトリパンブルー色素排除試験を用いて各時点の細胞数を求めることにより、行うことができる。
【0150】
スクリーニング
本開示に包含される腎オルガノイドは様々なスクリーニング用途に使用され得る。1つの例では、腎オルガノイドは毒性のスクリーニングに使用され得る。例えば、腎オルガノイドは腎毒性のスクリーニングに使用され得る。
【0151】
従って、1つの例では、本開示は、本明細書で開示される腎オルガノイドを候補化合物と接触させることと、その候補化合物が腎毒性であるかどうかを判定することとを含む、腎毒性について候補化合物をスクリーニングする方法を包含する。
【0152】
1つの例では、本明細書に記載の腎オルガノイドを候補化合物と接触させた後、腎毒性副作用が評価される。例示的な腎毒性副作用としては、直接的な尿細管への作用、ポドサイト傷害、間質性腎炎、および糸球体腎炎が挙げられる。腎毒性はまた、市販ツールを用いたバイオマーカー発現分析をはじめとする、インビトロにおけるあらゆる適切な腎細胞機能検査で評価または測定することができ、市販ツールとしては、例えば、キアゲン社製のHuman Nephrotoxicity RT2 Profiler(商標)PCR Arrayまたはユーロフィン社(Eurofins)製High Content Analysis(HCA)Multiplexed Nephrotoxicity Assayが挙げられる。別の例では、候補化合物との接触後、本明細書で開示される腎オルガノイド内の糸球体細胞の急性アポトーシスを測定することにより、腎毒性が評価される。他の例では、腎毒性は、透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡などの電子顕微鏡法を用いて評価され得る。腎毒性を示す判定基準の他の例としては、ポドサイトマーカーの遺伝子発現またはタンパク質発現の消失、および足突起の消失(消去の消失(loss of effacement))が挙げられる。
【0153】
別の例では、本開示は、候補化合物が治療上有効であるかどうかを判定するための条件下で、本明細書で開示される腎オルガノイドを候補化合物と接触させることで、腎疾患の治療における治療効果について候補化合物をスクリーニングする方法を包含する。この例では、前記方法は、腎毒性化合物の存在下で、本明細書で開示される腎オルガノイドを候補化合物と接触させ、候補化合物が治療上有効であるかどうかを判定することを含み得る。
【0154】
治療効果のスクリーニングの他の例には、腎疾患を表す腎オルガノイドの評価が包含される。例えば、前記腎疾患は、先天性ネフローゼ症候群(CNS)(ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群およびフィンランド型腎症を含む)、巣状分節性糸球体腎炎(focal segmental glomerulonephritis)(FSGS)、アルポート症候群、およびピアソン症候群からなる群から選択され得る。1つの例では、前記腎疾患はCNSである。
【0155】
用語「治療効果」は、本開示との関連においては、候補化合物またはそれを含む組成物の、治療上有益な作用があらゆる毒性効果または有害効果を上回っている、応答を指して用いられる。治療効果は、腎細胞機能の改善;腎細胞機能の維持;腎細胞機能の低下の抑制(すなわち、ある程度の遅延、場合によっては阻止);腎細胞死の抑制(すなわち、ある程度の遅延、場合によっては阻止)に基づいて判定することができる。1つの例では、治療効果は、適切なポドサイトタンパク質の存在、およびポドサイトタンパク質が適切に極性化されているという証拠に基づいて判定される。一例として、ポドサイトの膜におけるNPHS1、NPHS2、およびNEPH-1の局在化が挙げられ、この場合、NPHS1、NPHS2、およびNEPH-1は免疫組織化学で判定される。
【0156】
腎疾患を代表する腎オルガノイドを用いた研究においては、腎毒性および治療効果が、無病腎オルガノイドにおける対応する腎細胞機能に基づいて確認される所定の基準と比較して判定され得る。別の例では、腎細胞機能の改善が、腎疾患を代表する腎オルガノイドと健常腎臓を代表する腎オルガノイドとの間での腎細胞機能の比較に基づいて判定され得る。
【0157】
腎オルガノイドを腎毒性化合物および候補化合物と接触させることを含む研究においては、腎細胞機能の改善が、腎毒性化合物と接触していない腎オルガノイドおよび/または腎毒性化合物単独と接触した腎オルガノイドとの比較に基づいて判定され得る。
【0158】
用語「候補化合物」は、本開示との関連においては、スクリーニング対象の薬剤を指して用いられる。候補化合物としては、例えば、低分子量有機化合物(例えば、約50~約2,500Daの分子量を有する有機分子)などの小分子、ペプチドまたはその模倣剤、ペプチドリガンドおよび非ペプチドリガンドを含むリガンド、ポリペプチド、アプタマーなどの核酸分子、ペプチド核酸分子、並びにこれらの成分、組み合わせ、および誘導体を挙げることができる。
【0159】
「接触」、「暴露」、または「適用」などの用語は、本開示においては文脈内で同義的に使用され得る用語と見なされる。接触という用語は、候補化合物が本明細書で開示される糸球体と接触させられることを必要とする。1つの例では、前記化合物は、水溶性または水非混和性である場合、細胞培地中に溶解され得る。あるいは、適切な基質が、前記化合物の中に浸され、培養下の腎オルガノイドに撒かれ得る。揮発性の候補化合物のスクリーニングにおいては、本明細書で開示される腎オルガノイドが、前記化合物を含む空気または他の気体混合物に暴露され得る。あるいは、腎オルガノイドが、細胞培地中の前記揮発性化合物の溶液または懸濁液に暴露され得る。同様に、可能であれば、揮発性の化合物は、溶解または安定化されたものであり得る。あるいは、適切な基質が、前記化合物の中に浸され、培養下の腎オルガノイドに撒かれ得る。
【0160】
本開示の方法の実施においては、複数の候補化合物が腎オルガノイドと接触させられ得る。例えば、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種、少なくとも6種、少なくとも7種、少なくとも8種、少なくとも9種、少なくとも10種、少なくとも11(least 11)、少なくとも12種、少なくとも13種、少なくとも14種、少なくとも15種、少なくとも16種、少なくとも17種、少なくとも18種、少なくとも19種、少なくとも20種、少なくとも25種、少なくとも30種、少なくとも35種、少なくとも40種、少なくとも45種、少なくとも50種、少なくとも55種、少なくとも60種、少なくとも70種、少なくとも80種、少なくとも90種、少なくとも100種、少なくとも200種、少なくとも300種、少なくとも400種、少なくとも500種、少なくとも600種、少なくとも700種、少なくとも800種、少なくとも900種、少なくとも1,000種、少なくとも2,000種、少なくとも3,000種、少なくとも5,000種、少なくとも10,000種、少なくとも20,000種、少なくとも40,000種、少なくとも50,000種、少なくとも100,000種、少なくとも200,000種、またはそれ以上の候補化合物が腎オルガノイドと接触させられ得る。1つの例では、候補化合物は同一または別個の腎オルガノイドと接触させられ得る。例えば、候補化合物の特定の組み合わせがスクリーニングされ得る。
【0161】
1つの例では、候補化合物は標識後にスクリーニングされる。1つの例では、前記候補化合物は組成物であり得る。例えば、前記候補化合物は、製剤中に存在するものであるか、または、化合物もしくは分子の混合物を含み得る。例えば、前記候補化合物は血清であり得る。例えば、前記候補化合物は腎疾患を患う対象から単離された血清であり得る。1つの例では、前記血清はCNSを患う対象から単離される。例えば、前記血清はステロイド抵抗性ネフローゼ症候群を患う対象から単離され得る。別の例では、前記血清は腎移植をしたことがある対象から単離される。別の例では、前記血清は、腎移植後に発症したネフローゼ症候群を患う対象から単離される。
【0162】
例示的な腎毒性物質としては、アミノグリコシド系抗生物質、βラクタム系抗生物質、シスプラチン、造影剤、NSAID、ACE阻害剤、リチウム、CsA、およびフェニトインなどの抗てんかん剤が挙げられる。
【0163】
様々な期間培養された腎オルガノイドが本明細書で開示されるスクリーニング用途に使用され得る。すなわち、一例として、7+15日目以後の腎オルガノイドがスクリーニングで使用され得る。別の例では、7+18日目~7+25日目の腎オルガノイドがスクリーニングで使用され得る。別の例では、未成熟腎オルガノイドがスクリーングで使用され得る。例えば、7+11日目~7+18日目のものがスクリーングで使用され得る。様々な例で、IM細胞はより長く培養されてもよく、すなわち、8+Y日目、9+Y日目、または10+Y日目の腎オルガノイドがスクリーングで使用され得る。
【0164】
1つの例では、前記スクリーニング法は、候補化合物を腎オルガノイドのライブラリーと接触させることを含む。例えば、様々な発生段階の腎オルガノイドを用いて候補化合物がスクリーニングされ得る。例えば、7+10日目、7+15日目、および7+25日目の腎オルガノイドが使用され得る。別の例では、種々の腎疾患を代表する腎オルガノイドを用いて候補化合物がスクリーニングされ得る。
【0165】
当業者には理解されることであるが、候補化合物をスクリーニングするように構成され得る種々のスクリーニング手順が存在する。例えば、本明細書で開示される腎オルガノイドが、シングルウェルフォーマットまたはマルチウェルフォーマットに準備され、候補化合物と一定期間接触させられ得る。1つの例では、腎オルガノイドはマルチウェルプレートに準備される。1つの例では、1個の腎オルガノイドが1ウェル当たりに準備される。別の例では、2個の腎オルガノイドが1ウェル当たりに準備される。別の例では、3個の腎オルガノイドが1ウェル当たりに準備される。別の例では、4個の腎オルガノイドが1ウェル当たりに準備される。別の例では、5個の腎オルガノイドが1ウェル当たりに準備される。別の例では、10個の腎オルガノイドが1ウェル当たりに準備される。別の例では、20個以上の腎オルガノイドが1ウェル当たりに準備される。1つの例では、腎オルガノイドは96ウェルプレートに準備される。
【0166】
ハイスループットスクリーニング法が本開示に包含される。この例では、ハイスループットスクリーニングは、多数の候補化合物を含有するライブラリーの準備を含む。次に、そのようなライブラリーは、所望のレベルの活性(例えば、治療効果)を示すライブラリーメンバー(例えば、特定の化学種またはサブクラス)を同定するための1または複数のアッセイにおいてスクリーニングされる。
【0167】
ハイスループットスクリーニングシステムは市販されており、通例は、全試料および全試薬のピペッティング、液体の分注、時限式のインキュベーション、およびアッセイに適した検出器での培養プレート(例えば、96ウェルフォーマット)の最終読み取りを含む、全ての手順を自動化している。これらの構成可能なシステムは、高度な柔軟性およびカスタム性だけでなく、高速スタートアップも実現する。そのようなシステムの製造業者(例えば、インビトロジェン社、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社など)は、詳細な使用プロトコルを提供している。
【0168】
1つの例では、上記方法は、治療効果を示す化合物のセレクションをさらに含む。例えば、腎毒性物質の存在下で、且つ/または腎疾患を代表する腎オルガノイドと接触させられた場合に、腎細胞機能を維持する;腎細胞機能の低下を抑制する(すなわち、ある程度遅延し、場合によっては、阻止する);腎細胞死を抑制する(すなわち、すなわち、ある程度遅延し、場合によっては、阻止する)、化合物である。別の例では、上記方法は、腎毒性を低減する化合物のセレクションをさらに含む。例えば、糸球体腎炎を抑制する化合物がセレクションされ得る。別の例では、腎細胞機能を改善する化合物がセレクションされ得る。これらの例では、腎細胞機能は、キアゲン社製のHuman Nephrotoxicity RT2 Profiler(商標)PCR ArrayまたはHigh Contentなどを含む市販のツールを用いて、バイオマーカー発現に基づいて測定され得る。
【0169】
オーダーメイド医療および層別化
対象における腎疾患を代表する腎オルガノイドにおいて治療効果を示す候補化合物は、前記対象においても治療効果を示す可能性が高い。従って、1つの例では、これらの腎オルガノイドは、対象における腎疾患の治療または予防に影響する可能性が高い薬剤のセレクションに使用され得る。
【0170】
別の例では、複数の対象における腎疾患を代表する腎オルガノイドが作製され得る。これらの腎オルガノイドは、複数の対象における腎疾患の治療もしくは予防に影響する可能性が高い薬剤のセレクション、または特定の薬剤による治療に応答する可能性が高い対象群の特定、に使用され得る。このような方法は、腎疾患の治療能について試験中の薬剤の臨床試験において対象を層別化するのに有用であり得る。腎オルガノイドスクリーニングに基づいて対象集団を分類することにより、遺伝的要因による治療成績のばらつきが排除または低減され、候補薬剤の有効性がより正確に評価され得る。従って、1つの例では、本開示は、治療薬の臨床試験の対象群を層別化するための方法であって、対象群からiPS細胞集団を入手すること、各対象のiPS細胞集団から腎オルガノイドまたは腎オルガノイド集団を生成すること、前記腎オルガノイドを治療薬と接触させること、前記治療薬に治療効果があるかどうかを判定すること、並びに、前記判定結果を利用して、前記治療法に応答する可能性が高い対象をセレクションすること、を含む前記方法を包含する。この例では、前記方法は、腎オルガノイドを治療薬および腎毒性物質と接触させた後、前記治療薬に治療効果があるかどうかを判定すること、を含んでもよい。治療薬の例としては、上記の候補化合物が挙げられ、例えば、1または複数の小分子、ポリヌクレオチド、ペプチド、タンパク質、抗体、抗体フラグメント、ウイルス、細菌、幹細胞、腎疾患患者由来血清を含む血清などである。誤解を避けるためであるが、血清は、特定の腎疾患を患う対象から単離され、本明細書で開示される腎オルガノイドと接触させられ得る。腎疾患の様々な例が本明細書に記載されるが、血清はこれらの疾患を代表する様々な対象から単離され得る。対象から血清を単離する方法は当該技術分野において公知のものである。1つの例では、血清は遠心分離を用いて全血試料から精製される。
【0171】
バイオプリンティング
1つの例では、本開示は、本明細書で開示される組成物または細胞を用いて製造された、腎臓もしくは他のネフロン含有臓器、オルガノイド、または臓器様構造体などの、「バイオプリントされた」腎構造体を包含する。「バイオプリントされた」または「バイオプリントする」などの用語は、本開示との関連においては、自動化された、コンピューター援用の、三次元プロトタイピング装置(例えば、バイオプリンター)と適合する方法による、正確な三次元細胞積層(例えば、細胞液、細胞含有ゲル、細胞浮遊液、細胞濃縮物、多細胞凝集体(multicellular aggregate)、多細胞体(multicellular body)、バイオインクなど)を利用する方法を指して使用されている。バイオプリンティングに好適な方法の例は国際公開第2012/054195号および国際公開第2013/040087号で開示されている。1つの例では、バイオプリンティングは、ヒドロゲル足場を用いて、ヒト細胞を所望の配置に設置し、ヒト臓器を再現する、臓器プリンティング装置(例えばOrganovo(インベテック社(Invetech))を用いて実施される。
【0172】
1つの例では、腎構造体はバイオインクからバイオプリントされる。用語「バイオインク」とは、本開示との関連においては、本明細書に記載の組成物または細胞を含む液状、半固体、または固体の配合物を指して使用されている。1つの例では、バイオインクは、細胞液、細胞凝集物、細胞を含むゲル、多細胞体、または組織を含む。別の例では、前記バイオインクは支持材をさらに含む。
【0173】
本開示に包含されるバイオプリントされた腎構造体は、腎臓またはその構成要素の1または複数の機能的特徴を有するか、あるいは、腎臓またはその構成要素の1または複数の機能的特徴を発達させることができる。例えば、バイオプリントされた腎構造体は、糸球体、傍糸球体装置、間質組織、集合管、ボーマン嚢、近位曲尿細管および/または遠位曲尿細管を含み得る。1つの例では、前記バイオプリントされた腎構造体は血管新生が生じていない。別の例では、前記バイオプリントされた腎構造体は、細動脈、動脈、静脈および/または毛細血管などの脈管構造を含む。
【0174】
1つの例では、バイオプリントされた腎構造体は、宿主に、植え込み可能であるかまたは養子移入可能である。
【0175】
組成物/キット
1つの例では、本開示は、スクリーニング用途に使用されるキットまたはアッセイに関する。例えば、本開示は、腎毒性および/または治療効果についての候補化合物のスクリーニングで使用されるキットまたはアッセイを包含する。1つの例では、本明細書に記載の腎オルガノイドが培養下で準備された後、候補化合物が腎オルガノイドと接触させられ、腎毒性および/または治療効果についてスクリーニングされ得る。従って、1つの例では、本開示は、スクリーニングに使用される場合、本明細書で開示される腎オルガノイドを培養下で含む、アッセイを包含する。1つの例では、前記アッセイは腎毒性スクリーニングに使用される。1つの例では、前記アッセイは治療効果スクリーニングに使用される。1つの例では、腎オルガノイドは、培地または培養下の腎オルガノイドを維持するための他の成分と共に提供される。1つの例では、腎オルガノイドは、本開示の方法を実施するための書面での指示書と共に提供される。1つの例では、前記アッセイは本明細書に記載の腎オルガノイドを含む。他の例では、前記アッセイは2個以上の腎オルガノイドを含む。例えば、前記アッセイは10個、20個、30個、またはそれ以上の腎オルガノイドを含み得る。腎オルガノイドは、シングルウェルフォーマットまたは96ウェルプレートなどのマルチウェルフォーマットで提供される。
【実施例0176】
実施例1:hPSCの培養および維持
ヒトES細胞(H9細胞)を、マウス胎仔線維芽細胞(MEF)フィーダー上、10%KOSR(ライフテクノロジーズ社)およびbFGFを添加したDMEM培地中で増殖させた。細胞を80%コンフルエントまで培養した後、TrypLE(ライフテクノロジーズ社)を用いて解離した。分化後、ES細胞をMEFフィーダーの非存在下、MEF馴化培地およびbFGF中で、マトリゲル(コーニング社)表面に馴染ませた。
【0177】
ヒトiPS細胞を、Geltrex(ライフテクノロジーズ社)被覆プレート上、E8培地(ライフテクノロジーズ社)中で、個々のコロニーとして増殖させた。iPS細胞の継代は、細胞が60~70%コンフルエントに達したら、または3日毎に、EDTAを用いて1回行った。
【0178】
TrypLEを用いてhPSCを単一細胞に解離し、細胞をマトリゲル被覆プレート(matrigel coated plated)上に15,000細胞/cm2で播種した。細胞数は血球計算盤を用いて測定した。マトリゲル順応hES細胞を、MEF馴化培地を用いて播種した。ヒトiPS細胞を、単一細胞として、E8培地中、RevitaCell(1:100希釈)を用いて、マトリゲル被覆プレート上に、一晩かけて播種した。
【0179】
実施例2:改善されたIMの製造
hPSCまたはhESを、最初の4日間、3.5%のタンパク質不含ハイブリドーマ培地(PFHM)(サーモ・フィッシャー社)を含んだAPEL2培地もしくはTeSR-E6培地(ステムセル・テクノロジーズ社)中、APEL培地(ステムセル・テクノロジーズ社)中、またはE6培地(ステムセル・テクノロジーズ社)中、高濃度のCHIR(7μΜ)に細胞に暴露することで、中間中胚葉に分化させた。2日目に培地を交換した。培養物を、追加で3日間(播種から5~7日目)、低濃度のCHIR(1μΜ)、並びにFGF9およびヘパリンに暴露した(図1A、実施例1~3)。これにより中間中胚葉(IM)細胞の混合物が誘導される。
【0180】
7+0日目の旋回浮遊培養物に対しqPCRで遺伝子発現プロファイルを行ったところ、低濃度且つ長期間のCHIR暴露を加えることで、短期間の暴露と比較して、キャップ状間葉細胞で増加が引き起されることが示された(図IE、左パネル)。PAX2、LHX1、およびOSR1細胞の発現は、短期間CHIR暴露群と比較して2倍超に高くなった(図IE、左パネル)。低濃度のCHIRへの細胞の暴露により、尿管上皮でも増加が引き起こされ、例えば、WNT11およびGATA3の発現が、短期間CHIR暴露群と比較して2倍超に増加した(図IE、右パネル)。低濃度のCHIRの添加によってWnt/β-カテニンシグナル伝達をより長期間活性化することが、改善された中間中胚葉の製造法であることが示された。
【0181】
実施例3:旋回浮遊培養
7日目、実施例2の方法を用いて製造したIM細胞を、1mlのEDTA溶液を用いて解離し、1mlのEDTA中、37℃で3分間さらにインキュベートし、IM細胞層を乱さないようにEDTA溶液を吸引除去した(図1A)。また、IM細胞を1.5mlのTrypLE(商標)Selectを用いて37℃で3分間解離し、余剰TrypLETMを15mlファルコンチューブ内で1500RPMの遠心分離で除去した。
【0182】
1段階目の培地(基礎培地、200ng/mlのFGF9、1μg/mlのヘパリン、1μΜのCHIR、0.1%のPVA、0.1%のMC)(2ml)を、10μΜのRhoキナーゼ阻害剤(ROCKi、1:1000希釈 10μΜ、ステムセル・テクノロジーズ社)と共に添加し、ギルソン社製ピペットを用いて細胞を細胞集塊として穏やかに剥離した。この細胞浮遊液を6cm2低接着ディッシュ(グライナー・バイオ社(Greiner bio))に移し、40μmセルストレーナー(BDバイオサイエンス社)に通した。
【0183】
1段階目の培地を5mlまで補充し、ディッシュを、37℃、5%CO2の標準的な細胞培養用恒温器内の、ラテック社製(Ratek)オービタルシェーカー内で、60rpmで旋回した。オービタルシェーカー上の培養ディッシュに配置してから24時間以内に、直径20~40μmのオルガノイドが自然に形成された。24時間の旋回培養後、1段階目の培地を2段階目の培地(基礎培地、200ng/mlのFGF9、1μg/mlのヘパリン、1μΜのCHIR、0.1%のPVA、0.1%のMC)と交換した。細胞を2段階目の培地中でさらに4日間培養した。7+5日目から、全てのオルガノイドは、1日置きに3段階目の培地(基礎培地、0.1%のPVA、0.1%のMC)で培地交換し、7+18日目まで培養した。
【0184】
凝集の18日後(7+18日目)、明視野の過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色によって、各腎オルガノイドが尿細管上皮構造を示していることが確認され、共焦点顕微分析によって、6~10個のネフロンの存在が確認された(図1および図2)。これらのネフロンは、初期のパターン形成および分節化の証拠を示している。NPHS1およびMAFBの陽性染色から、糸球体の形成が明らかとなった。近位ネフロン分節はEpCAM+であり、LTL陽性、CUBN陽性、LRP2陽性、且つHNF4A陽性に染色された(図1G)。LTL+分節は、前記培地添加の24時間以内に、FITC-アルブミンをエンドサイトーシスで取り込むことができ、これにより、機能的なアルブミン取り込み経路が示された。遠位ネフロン分節はECADおよびEpCAMで染色され、推定の集合管はECAD+/GATA3+であった。SOX17mCherryレポーター細胞株(Ng et al., 2016)を用いて腎オルガノイドを生成する場合は、内皮細胞(PECAM1+/SOX17+)の存在にも注目した(図ID図2C図2D、および図2E)。ヒト多能性幹細胞株間でプロトコルを交換可能であることを示すものとして、hESCレポーター株(H9 GAPTrapLuc2、hES3-SOX17mCherry)(Kao et al., 2016; Ng et al., 2016; van den Berg et al., 2018)およびヒトiPSC(CRL1502.C32、CRL1502.3)(Briggs et al., 2013; Takasato et al., 2015)を含む、4種類の異なる細胞株から腎オルガノイドを生成できたというデータが報告されている。全てのhPSC株は前記プロトコルに均一に応答し、腎オルガノイドへと同様にパターン形成した(図2B)。
【0185】
実施例4:腎オルガノイドパターン形成に対する、古典的Wntシグナル伝達の持続期間、濃度、およびタイミングの影響
腎オルガノイドプロトコル内の分化を最適化するため、hPSCの単層を、固定濃度のCHIR99021(7μΜ)を用いて、種々の期間(3、4、5、および6日間)刺激した後、低濃度のCHIR、並びにFGF9およびヘパリンの存在下で7日目まで培養を続けた(図2C図2D、および図2E)。18日後、共焦点顕微鏡を用いて、得られた腎オルガノイドの腎構造を評価した(図2C図2D、および図2E)。3日間だけの古典的Wnt活性化では、腎臓の形態を生じさせることができなかった(図2B、左パネル)。代わりに、存在する上皮性構造は、大きな包嚢性管腔を有する不明確な上皮を示し、ネフロン形成の証拠は示さなかった。7μΜのCHIR99021を用いた4日間または5日間の初期誘導により、内皮細胞および間質性間質細胞(interstitial stromal cell)をそれぞれ示す、周囲のSOX17+集団およびMEISl/2/3+集団の存在を含んで、パターン形成ネフロンを含有する腎オルガノイドが生成された(図2C図2D、および図2E、中央パネル)。しかし、6日間のWnt活性化では、より大きくNPHS1染色されたより大きな腎オルガノイドが生成されたが、上皮性構造が明らかに損なわれた、拡張されたMEIS1+間質集団が含まれた(図2C図2D、および図2E、右パネル)。7μΜのCHIR99021による4日間の初期誘導が最適であると確認されたため、さらなる研究ではこれを用いた。
【0186】
実施例5:腎オルガノイドの解離
腎オルガノイドは直径およそ250~300μmの不均一な上皮性構造である。刺激の強い酵素を用いると、細胞表面マーカーが破壊され、後の使用のための細胞識別情報が失われる場合がある。冷活性プロテアーゼ(LiberaseTM、ロシュ社)を用いて穏やかに解離を行うと、単一生細胞が最も多く得られる。5mlセロロジカルピペットを用いて腎オルガノイドを15mlファルコンチューブに移し、定着させた。培地上清を吸引除去した後、オルガノイドペレットを0.1M PBSで3回洗浄した。次に、オルガノイドを500μlの1μg/ml Liberase(商標)溶液で処理し、5分毎に粉砕し続けながら4℃で20分間インキュベートした。20分後、腎オルガノイドの単一細胞への解離が完了し、これを10%FCS含有DMEM培地で2回洗浄することでLiberase(商標)を不活性化し、最終的な細胞ペレットを10%FCS含有DMEM培地に懸濁した。
【0187】
実施例6:中間中胚葉細胞の旋回は浮遊培養で腎マイクロオルガノイドを生成する
既存の腎オルガノイド生成法は、手間が掛かり、高額であり、生成されるオルガノイドの品質が低い。本発明者らは、経済的で、簡便で、且つ高速の、浮遊培養下の腎オルガノイド生成法を編み出した。以前の方法とは異なり、最低限の解離および単層の低速旋回、その後の低付着培養プレートにける培養の結果、細胞凝集塊が中間中胚葉(IM)の分化段階(7日目)で形成される。これにより、以前の方法を用いて生成される腎オルガノイドよりもずっと少ない、8,000~10,000個の腎オルガノイドが形成される。18日間の浮遊培養後、それぞれの腎オルガノイドには、ポドサイトを含有する近位上皮、遠位上皮、および糸球体の形成を含む、初期のパターン形成および分節化の証拠を有する、6~10個程度のネフロンが含まれる。
【0188】
重要なこととして、シングルセル転写プロファイリングによって、これらの小型オルガノイドと従来方法を用いて製造された標準オルガノイドとが、細胞の多様性および成熟に関して等価であることが明らかとなった。この定方向分化アプローチを用いた結果、21日間の培養中に30~40倍の細胞増殖が引き起こされ、これは、Takasato et al. (2015) Nature, Vol. 526:564-568に基づいたアプローチなどの従来のアプローチと比較して、1×106個のオルガノイド由来腎細胞当たり3~4倍の収量改善および1/4倍のコスト減少となった。
【0189】
図1Aに例示され、実施例1~3で説明された本開示の方法は、0.1%のポリビニルアルコール(PVA)および0.1%のメチルセルロース(MC)を旋回培養の培地に添加することで、中間中胚葉(IM)細胞の凝集力を強化して、自発的に三次元球状オルガノイドへと凝集させることを含む。24時間の旋回培養後、このオルガノイドは外側ラミニン基底膜(outer laminin basement membrane)を形成した。
【0190】
追加で12~18日間培養したC32オルガノイドを収集し、ホールマウントし、共焦点顕微鏡分析用にNPHS染色、LTL染色、ECAD染色、およびGATA3染色を行った。脈管構造の存在を評価するために、このオルガノイドを、マウス抗ヒトCD31(1:300、BDバイオサイエンス社)で染色し、成熟近位尿細管についてはヤギ抗ヒトCUBNを用いた。7+12日目のオルガノイドの蛍光免疫染色分析によって、GATA3陽性の間質細胞を含む、ネフリン陽性の糸球体、LTL陽性の近位尿細管、ECAD陽性の遠位尿細管、およびECAD/GATA3二重陽性の集合管細胞という、特徴的な発現の形で、主要なネフロン分節化が示され(図1G図4E、および図4F)、これは、Transwellオルガノイドシステム(図4A)と同等のものであった。ネフロン数(各オルガノイドに5~10個のネフロン)および腎細胞以外の種類の存在に関して、旋回腎マイクロオルガノイドは、Transwellオルガノイドと比べて単純な形態を示す。
【0191】
まとめると、これらの結果は、浮遊液旋回法が、全てのネフロン分節を有する複雑な多細胞性腎オルガノイドを生じる能力を有する組織化されたオルガノイドを形成させることを示している。この方法を、ヒトiPS細胞株だけでなくヒトES細胞株も用いて試験したところ、オルガノイドが上手く形成された。APEL、APEL2、およびE6などの種々の基本培地条件が、本開示の方法に好適であることが示された。従って、本方法は、オーダーメイド医療、薬物スクリーニング、および再生細胞療法のための腎細胞培養のスケールアップに有用であり得る。
【0192】
実施例7:iPS由来腎細胞のスケールアップに好適な浮遊培養下の腎マイクロオルガノイド
スケールアップに対する浮遊培養の評価のために、実施例1および実施例2に記載の通りに、C32 iPS細胞を分化させてIMを生成した。7+0日目からサイズおよび培養下の総細胞数を測定することで、オルガノイドの成長をモニターした(図4Cおよび図4D)。
【0193】
旋回浮遊培養を用いて生成されたC32オルガノイドの明視野画像は、サイズの増加および上皮構造の維持を示した(図4Aおよび図4B)。オルガノイドのサイズは、NIS-Elements顕微鏡法用ソフトウェア(ニコン社)において、最大10個のランダムに抽出したオルガノイドの明視野画像で測定した。最大10個のオルガノイドのランダムサンプルを様々な成長速度間隔で採取し、オルガノイドの直径を測定した。サイズは小から大の範囲で報告した。時間の経過とともに一貫したオルガノイドサイズの増加が観察され、直径30μm~300μmのオルガノイドが検出された(図4C)。総細胞数は、TrypLE(商標)Selectを用いて解離後に評価し、血球計算盤を用いて手動で計数した。7+0日目の播種密度と比較して、7+12日目から7+18日目までに、40倍の細胞数増加が観察された(図4D)。
【0194】
実施例8:浮遊培養下の腎マイクロオルガノイドは組織化されたネフロン分節および明確な尿細管管腔を示す
従来のTranswellオルガノイドは複雑な形態を示し、これが個々のネフロンの3次元構造の研究を制限している。本明細書に記載の方法によって製造された旋回腎マイクロオルガノイドは、はるかに単純であり、且つ含まれるネフロンの数が少ない。
【0195】
このオルガノイドは、明確な3次元形態を示すため、3次元空間でのネフロンの研究が可能となる。C32由来の腎オルガノイドを、実施例1~3に記載の方法を用いて生成し、NPHS1、LTL、ECAD、およびGATA3に対する抗体を用いて免疫染色を行って、ハイスループット共焦点顕微鏡で各ネフロン分節を可視化し、Z方向の解像度はピンホールにマッチさせた。
【0196】
腎オルガノイドを15mlのファルコン(flacon)チューブに採取し、PBSで洗浄(2回)して余分な培地を除去し、新たに調製した2%PFAで4℃で20分間固定した。次に、オルガノイドを0.3% TritonX100含有PBS(PBST)で3回洗浄して余分なPFAを除去し、染色するまでPBST中で4℃で保存した。固定したオルガノイドを、10%ロバ血清含有PBST(ブロッキング用緩衝液)で少なくとも1時間ブロッキングした後、ブロッキング用緩衝液で希釈した一次抗体と共にインキュベートした。腎オルガノイドの分化能の評価は、主要なネフロンセグメントの染色によって確認したが、使用した一次抗体は以下の通りであった:ヒツジ抗ヒトNPHS1(1:300、R&Dシステムズ社)、ビオチン抗ヒトLTL(1:300、ベクター・ラボラトリーズ社)、マウス抗ヒトECAD(1:300、ライフテクノロジーズ社)、およびウサギ抗ヒトGATA3(1:300、セル・シグナリング・テクノロジーズ社)、マウス抗ヒトCD31(1:300、BDバイオサイエンス社)、およびヤギ高ヒトCUBN(1:300、サンタ・クルーズ社)、およびLRP2(1:300、サフィア・バイオサイエンス社(Sapphire Bioscience))。オルガノイドを一次抗体中で4℃で一晩インキュベートした後、PBSTで5回洗浄し、その後、種を一致させた、蛍光標識を有する二次抗体と共にインキュベートした。染色後、Dodt HU et al (Dodt et al., 2007)により以前に報告されたように、オルガノイドを、種々の濃度のメタノールを用いて脱水した後、BABB(ベンジルアルコールおよび安息香酸ベンジル、1:2の比率)を用いて清澄化した。清澄化したオルガノイドをMatTekガラス底ディッシュにマウントし、倒立ツァイス社製(Zeiss)LSM 780顕微鏡を用いて共焦点顕微鏡法を実施した。ZENソフトウェア(ツァイス社)を用いて画像を解析した。
【0197】
Imarisソフトウェアを使用して画像を解析し、取得した共焦点画像の3Dレンダリングを再構築した(図4Eおよび図4F)。3D画像は、糸球体(NPHS1)、近位尿細管(LTL+)、遠位尿細管(ECAD+)、集合管(ECAD+GATA3+)および間質細胞(GATA3+)から始まる、分極化した、互いに接続された明確なネフロン分節を示した(図5E)。スニッピングツールを用いて、尿細管細胞内に形成された内腔を可視化させた(図5F)。図5Eおよび図5Fの結果は、本明細書に記載の旋回法が、3D空間における、発生中の腎オルガノイドの形態研究を可能にする上で有用であることを示している。
【0198】
実施例9:シングルセルRNAシーケンス解析は有望な腎臓表現型を示す
旋回腎オルガノイドをさらに広範囲に特徴付けるために、7+18日目におけるC32由来腎マイクロオルガノイドのシングルセルRNAシーケンス解析を行った。40~50個程度の腎マイクロオルガノイドおよび1個の標準オルガノイド全体を、同じhPSC株(APEL培地中のCRL1502.C32)を用いて、7+18日目まで培養した。オルガノイドを回収し、PBSで3回洗浄して余分な培地を除去した。オルガノイドを、5分毎に1mlピペットで撹拌しながら、1μg/mlのLiberase(商標)(ロシュ社)液400μlで4℃で20分間処理した。20分以内にオルガノイドは単一細胞(singe cell)に解離した。細胞培地(cell culture medial)(2ml)を添加して、Liberase(商標)を不活性化した。細胞を1300~1500rpmで3~5分間遠心分離し、ペレットを形成させた。上清を除去し、ペレットを新鮮なDMEM F12培地に再懸濁し、20μmのセルストレーナーを通過させて塊を除去し、分析まで氷上で保存した。生存率および細胞数を、自動セルカウンター(ライフテクノロジーズ社)でのFACSおよびトリパンブルー色素排除試験によって分析した。細胞は分析まで氷上で保存した。大口径1mlピペットチップを用いて細胞を十分に混合し、約4000個の生細胞をRNAシーケンス解析に使用した。テンエックス・ゲノミクス社(10× Genomics)の技術で開発されたChromium Single Cell 3’ Solutionを使用した。試料の調製はテンエックス・ゲノミクス社のシングルセルプロトコルに従って実施した(詳細は、オンラインでアクセス可能なChromium Single Cell 3’ Reagent Kits v2 User Guideに掲載)。シングルセル浮遊液、ゲルビーズ、パーティショニングオイルを10x Chromium Chipの適切なウェルにロードする。10x Chromium Chipを10x Gasketで固定し、完全なアセンブリを10x Chromium Controllerにロードする。これにより、細胞毎に固有のUMIを含有する油滴でコーティングされたシングルセルの浮遊液が自動的に生成される。この浮遊液は、転写物を増幅するために従来のRT-PCTに採用される。
【0199】
ナノリットルスケールのGel Bead-In-EMulsions(GEMS)およびUMIを用いて、細胞をバーコーディングして各細胞のトランスクリプトームを個別にインデックス化した。磁気ビーズを用いて、バーコーディング後に残った試薬およびプライマーを除去する。完全長のバーコード付加cDNAを用いてトランスクリプトームをPCR増幅し、ライブラリー構築に十分な量を生成した。これらのライブラリーを、2つの異なるリードでUMIおよびcDNA断片について同時に配列決定した。シングルセル解像度での発現データの研究を可能にするCell Ranger(商標)を用いて、ライブラリー解析を実施した。Cell Rangerパイプライン(vl.3.1)を用いて、サンプルの逆多重化、バーコードのプロセシング、およびシングルセル遺伝子計数を行った(Zheng et al., 2017)。サンプルを逆多重化して、各サンプルについて一対のFASTQファイルを作成した。配列情報を含むリードをGRCh38参照ゲノムにアラインメントした。細胞バーコードをフィルタリングして空の液滴を除去し、PCR重複は細胞バーコード、UMIおよび遺伝子IDのユニークな組み合わせをセレクションすることによって除去したところ、最終的な結果は遺伝子発現マトリックスとなり、これがさらなる解析に用いられ、このようにして、シングルセル解像度での発現データの研究が可能となる。Seurat Rパッケージ(バージョン2.3.1)を用いて、細胞クラスタリング、細胞型分類、および遺伝子発現の差異を示すためのさらなる解析を行った。
【0200】
Cell Rangerで作成された遺伝子発現マトリックスを、品質管理およびさらなる解析のためにSeurat(Satija et al., 2015)にインポートした。全ての細胞を初期フィルタリングにかけて、3個未満の細胞で発現された遺伝子、および200個未満の遺伝子を発現した細胞を除去した。さらなるフィルタリングにより、15%を超えるミトコンドリア転写物を有する1つの細胞を除去した。Sscranのcyclone機能(Lun et al., 2016; Scialdone et al., 2015)を用いて、各細胞がG1期、S期またはG2M期のいずれにあるかの可能性に関連するスコアを割り当て、このスコアリングに基づいて細胞周期の期を割り当てた。
【0201】
発現データを正規化し、スケーリングし、UMIの数、ミトコンドリア発現の割合、リボソーム発現の割合、およびG2Mスコアに関連する変動性を、SeuratのScaleData機能を用いて回帰推測した。細胞は、Seuratに実装されている共有最近傍モジュラリティ最大化ベースのクラスタリングアルゴリズムを用いて、最初の15個の主成分および分解能値1.2を用いてクラスタリングした。対数変化倍率が0.25以上の、クラスター間で発現差がある遺伝子を見つけるために、SeuratのFindAllMarkers機能を用いてマーカー遺伝子リストを作成した。
【0202】
標準オルガノイドと腎オルガノイドのデータセットの複合解析のために、上記のようにCell Rangerで遺伝子-細胞マトリックスを作成した。3個未満の細胞で発現された遺伝子、および200個未満の遺伝子を有した細胞について、全ての細胞を初期フィルタリングにかけた。各データセットを正規化し、スケーリングし、UMIの数、ミトコンドリア発現の割合、リボソーム発現の割合、並びにS、G1、およびG2Mスコアに対する回帰をScranで作成した。クラスタリングは、RunCCA機能およびAlignSubspace機能を用いてSeuratで算出された、アライメントされた複合成分に基づかせた(Butler et al., 2018)。複合データセットについて、クラスタリングを解像度0.6で実行した(Butler et al., 2018)。
【0203】
本明細書に記載の方法および従来のTranswell法により製造されたオルガノイドのシングルセルRNA遺伝子発現プロファイリングを解析した。細胞内に存在する遺伝子に基づいて、UMI数をtSEプロットとしてプロットし、自動クラスタリングを行った(図6A図6B)。すべてのクラスターのGOエンリッチメント解析では、22.3%のネフロン、37.5%の全間質、9.8%の血管組織が示され(図6A)、旋回腎マイクロオルガノイドでは、32.5%の成熟ネフロン(キャップ状間葉およびネフロン前駆体を除く)、25.9%の間質が示されたが、旋回C32オルガノイドでは血管組織の存在は示されなかった(図6B)。すなわち、旋回腎マイクロオルガノイドは、Transwellオルガノイドと比較して、腎臓発生のより良好なマーカーを示した。腎マイクロオルガノイドはまた、Transwell培養オルガノイドと比較して、ネフロン構成の強化を示した(図4)。
【0204】
実施例10:腎オルガノイド内の腎臓分化の転写検証
腎オルガノイド内に存在する細胞型の特性評価を、シングルセルRNAシーケンス(scRNA-seq)を用いて実行した。20~30個の腎オルガノイドのプールを、冷活性プロテアーゼLiberase(商標)を用いて単一生細胞に解離した。その結果、89.4%の単一細胞が生成され、そのうち88.5%の細胞が生細胞であった(データ未記載)。Cell Ranger(テンエックス・ゲノムクス社)を用いて、細胞当たりのUMI数のマトリックスを作成し、これを、Seurat Rパッケージ(バージョン2.3.1)を使用するさらなる解析のために、インポートした(Satija et al., 2015)。フィルタリングされたデータは、細胞当たりの発現遺伝子の中央値が3759個である、1673個の細胞を示した。Seurat Rパッケージを用いたクラスタリングにより、解像度0.6で7つの異なる細胞クラスターが生成された(図3Aおよび図3B、表1)。差動発現試験を実施して各クラスターのマーカーを同定し、各クラスター内の上位の有意にアップレギュレーションされた遺伝子についての遺伝子オントロジーおよび機能的エンリッチメント解析を、PANTHER遺伝子オントロジー群を用いて実施した(Mi et al., 2013;表1)。
【0205】
【表1】
【0206】
ホールマウントオルガノイドの免疫蛍光法を用いると明白であるが、内皮(クラスター1のサブセット)およびポドサイト(クラスター6、18個の細胞)は、scRNA-seqデータの中のごく少数の個々の細胞によって表された。クラスター3(293個の細胞)およびクラスター5(122個の細胞)は、腎臓のネフロン上皮と一致する遺伝子の発現を示し、クラスター0は腎小胞(kidney vesicle)/S字体(S-shaped body)の遺伝子(初期ネフロン)の発現を示し、一方、上皮細胞クラスター5はGFRA1などの遠位尿細管/集合管マーカーの発現を示した(図3C)。クラスター2は、以前に筋原性ウィルムス腫瘍と関連付けられた(Hueber et al., 2009)、間質マーカーPAX3だけでなく、ネフロン前駆体マーカーSIX1、SIX2、およびCITED1の発現を示した。クラスター2の細胞は、MYF5およびMYF6などの筋原性運命のマーカーも発現しているが、PAX7、MYOD1、およびTBX6は発現していない。最大のクラスターを表すクラスター0(430個の細胞)は、初期腎小胞マーカーのPAX2、PAX8、LHX1、およびJAG1、並びにヒトPマーカーのLYPD1およびDAPL1の発現を有する、より運命決定されたネフロン前駆体の特徴を示した(Lindstrom et al., 2018)。クラスター1(337個の細胞)は、PDGFRBおよびMEIS2のような間葉系の特徴を示した。クラスター4は、初期ネフロンマーカーであるカドヘリンCDH6を発現しながら、以前に腎オルガノイドにおいて報告されていたような(Wu et al., 2017)、神経オフターゲット集団の存在を示唆する神経転写性の特徴を示した。この解析により、免疫蛍光レベルで腎オルガノイド内で観察された細胞型の識別情報が強く裏付けられた。
【0207】
実施例11:標準オルガノイドおよび腎オルガノイドの比較シングルセル転写プロファイリングは、腎形成のパターニングの等価性を示している。腎オルガノイド内の細胞成分を別の腎オルガノイド法と直接比較するために、腎オルガノイドのscRNA-seqデータを、同じiPSC細胞株(CRL1502.C32)およびTakasato et al, 2016の標準腎オルガノイドプロトコルを使用して生成された1421個の腎オルガノイド細胞からのデータと組み合わせた。この2つのデータセットを、相関成分解析後に動的時間伸縮法を使用するSeurat(Butler et al., 2018)に実装されたアライメントアルゴリズムを用いて組み合わせた。クラスタリングによって、運命決定されたネフロン前駆体(クラスター0)、ネフロン上皮(クラスター6)、ポドサイト(クラスター7)、間質(クラスター1および3)、内皮細胞(クラスター5)、PAX3+ve細胞(クラスター2)、および神経オフターゲット集団(クラスター4)を表す、組み合わされたデータセット内の8つの転写クラスターが同定された(図5Aおよび図5B)。各クラスターに帰属する細胞の割合は様々であったが、全てのクラスターは両方のデータセットに示された(図5B図5D)。各クラスターのキーマーカーの直接比較は、プロトコル間で各クラスターに寄与する割合に明らかな違いがあったが(図5B図5C)、両方のプロトコルの間で任意の所与のクラスターで同定された細胞間に強い転写一致があった(図5D)ことを示している。腎オルガノイドにおいて同定された神経オフターゲット集団は、標準オルガノイドでも明らかであった。全体的に、腎オルガノイドデータセットは、標準オルガノイドデータセットよりも、ネフロン細胞の割合が高く、間質細胞の割合が低かった(図5E)。標準オルガノイドと比較して、腎オルガノイドにおける、PAX2発現ネフロン細胞の増加およびMEIS1/2/3発現間質細胞の減少が、ホールマウントオルガノイドの免疫蛍光分析を用いて確認された(図5Fおよび図6)。
【0208】
実施例12:腎オルガノイドはhPSC由来腎臓細胞の効率的なスケールアップのためのより良好なプラットフォームを提供する
Transwell(商標)フィルター上で培養した標準的な腎オルガノイドは、生成されたオルガノイド組織のサイズのために、培養3週間後に拡散制限に直面する可能性がある(図4A)。この期間後のネフロン分節の免疫蛍光染色によって、ネフロン構造がオルガノイドの縁に空間的に制限されていることが示唆された。対照的に、腎オルガノイドは、構造全体に腎尿細管を含んでいる(図4B)。また、オービタルシェーカーを用いて腎オルガノイドを同時に大量に形成することができ、標準的なオルガノイドプロトコルに伴う手作業による面倒な工程を回避することがでる。その結果、標準的なオルガノイドプロトコルでは60分で30個程度のオルガノイドが生成されるのに対し、5~10分で8000~10000個程度の均一サイズの腎オルガノイドを生成することができる。腎オルガノイドは、標準オルガノイド(3000~5000μm)と比較して、はるかに小さい最終サイズ(250~300μm)を示す(図4C)。免疫蛍光法によって示されたように、標準オルガノイド内に形成されるネフロンは、腎オルガノイドと比較して、組織の周縁に存在する(図4A)。しかし、これらの構造は、腎オルガノイドよりもはるかに大きい。それぞれのアプローチの効率およびコストを直接比較するために、iPSCレポーター株およびhESCレポーター株を用いて各々生成した標準オルガノイドおよび腎オルガノイドを、総細胞数の定量化のために、7日目から分化プロトコルの複数の時点で、解離させてシングルセル浮遊液にした(図4D)。標準オルガノイドでは、7+7日目以降はオルガノイドあたりの総細胞数に重大変化は見られなかったが、腎オルガノイドでは7+12日目まで総細胞数の増加が続いた。全体として、細胞数は標準オルガノイド条件下では8~10倍に増加したが、腎オルガノイドの場合は30~40倍まで増加した。これは、この改変されたプロトコルを使用した場合、細胞収量が3~4倍に改善されることを表している。
【0209】
実施例13:オールトランスレチノイン酸の添加は糸球体ポドサイトの成熟を改善する
オールトランスレチノイン酸(atRA)の添加が、実施例1~3に記載の旋回培養法で製造されたオルガノイドの糸球体成熟を促進するかどうかを決定するために、7+0日目以後の培地にatRAを添加した。オールトランスレチノイン酸(2.5μΜ)をC32由来旋回オルガノイドに7+5日目から7+10日目まで添加した(図5)。7+18日目後、免疫蛍光分析によって、atRAの添加は対照群と比較してポドサイト表現型を改善することが示された(図7Aおよび図7B)。この結果を、7+11日目および7+18日目の試料のmRNA発現、qPCR分析で確認したところ、2.5μΜのatRAの添加は、対照と比較して、NPHS1などの糸球体マーカーおよびCUBNのような近位尿細管マーカーの発現を増加させることが示された(図7C)。
【0210】
実施例14:腎マイクロオルガノイドにおける薬物毒性試験
インビトロにおける腎臓の薬物毒性の試験に、本明細書に記載の浮遊培養法を使用することの適合性を評価するために、薬物毒性試験を実施した。7+18日目にこの方法で作製されたオルガノイドを回収し、24ウェル低付着プレート内の250μlの培地中、各処理群に無作為に割り付けた。オルガノイドを、様々な濃度の細胞傷害性薬剤アドリアマイシン(0、2.5および5μg/ml)で24時間刺激した。刺激後、培地を除去し、TUNEL染色を用いたアポトーシスの蛍光免疫染色分析用にオルガノイドを2%PFAで固定し、一部のオルガノイドはRNA解析用に溶解させた(図8A図8D)。
【0211】
実施例15:腎オルガノイド製造の改善のまとめ
上記の例示的な方法から得られた腎オルガノイドは、シングルセル転写レベルで、以前に報告された腎オルガノイドプロトコル(Takasato et al., 2016; Takasato et al., 2015)の中に存在するものと同等の、腎臓ネフロン上皮、間質、および内皮細胞成分の、信頼性の高い形成を示す。しかしながら、培養条件を変更することにより、相対的な細胞収量が3~4倍に改善され、100万個の腎臓細胞あたりの生成コストが1/4倍に少なった。hES3 SOX17mCherry、H9 GAPTrap Luc2、およびiPSC GAPTrap td-Tomato蛍光レポーター株を含む、2つの異なるhESC(H9およびhES3)および3つの異なるiPSC株(iPSC GAPTrap td- Tomato、CRL1502.C32、およびCLR1502.3)を用いて、腎オルガノイド生成の成功を反復できたことから、例示された方法のロバストネスは明らかである。
【0212】
当業者には理解されることであるが、特定の実施形態に示されたような本開示には、広く記述された本開示の要旨を逸脱しない範囲で、多数の変形および/または変更を実施することができる。従って、これらの実施形態は、あらゆる点で、例示的であって、限定するものではないと見なされるべきである。
【0213】
本願は、2017年10月31日に出願されたオーストラリア特許出願公開第2017904424号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願公開は参照によって本明細書に援用される。
【0214】
本明細書で説明および/または参照された全ての刊行物は、その全体が本明細書に援用される。
【0215】
本明細書に含まれている文書、行為、材料、装置、物品等の説明は、単に本発明の背景を提供することを目的とするものである。これらの事項のいずれかまたは全てが、先行技術の基礎の一部を形成していること、または本願の各請求の優先日以前に存在していた本発明に関連する分野における一般的な知識であったことを認めるものとは見なされない。
【0216】
参考文献
Barberi et al., (2005) Plos Medicine 2(6): 0554-0559.
Briggs et al., (2013) Stem Cells 31: 467-78.
Butler et al., (2018) Nat Biotechnol 36: 411-420.
Cima et al., (1991) Biotechnol. Bioeng. 38: 145 1991.
Dodt et al., (2007) Nat Methods 4: 331-6.
Forbes et al., (2018) Am J Hum Genet. 102:816-831
Hueber et al., (2009) Pathol. 12: 347-54.
Kao et al., (2016) Stem Cell Reports 7: 518-526.
Lindstrom et al., (2018) J Am Soc Nephrol. 29: 806-824.
Lun et al., (2016) FlOOORes 5: 2122.
Mi et al., (2013) Nat Protoc 8: 1551-1556.
Ng et al., (2016) Nat Biotechnol 34: 1168-1179.
Satija et al., (2015) Nat Biotechnol, 33: 495-502.
Scialdone et al., (2015) Methods 85: 54-61.
Takasato et al., (2015) Nature 526: 564-8.
Vacanti, et al., (1988) J. Ped. Surg. 23 :3-9.
Vacanti, et al., (1991) Plast. Reconstr. Surg. 88:753-9.
van den Berg et al., (2018) Stem Cell Reports 10: 751-765.
Vodyanik et al., (2010) Cell Stem cell 7:718-728.
Wu et al., (2017).
Zheng et al., (2017) Nat Commun 8: 14049.
図1-1】
図1-2】
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2023-10-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0216
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0216】
参考文献
Barberi et al., (2005) Plos Medicine 2(6): 0554-0559.
Briggs et al., (2013) Stem Cells 31: 467-78.
Butler et al., (2018) Nat Biotechnol 36: 411-420.
Cima et al., (1991) Biotechnol. Bioeng. 38: 145 1991.
Dodt et al., (2007) Nat Methods 4: 331-6.
Forbes et al., (2018) Am J Hum Genet. 102:816-831
Hueber et al., (2009) Pathol. 12: 347-54.
Kao et al., (2016) Stem Cell Reports 7: 518-526.
Lindstrom et al., (2018) J Am Soc Nephrol. 29: 806-824.
Lun et al., (2016) FlOOORes 5: 2122.
Mi et al., (2013) Nat Protoc 8: 1551-1556.
Ng et al., (2016) Nat Biotechnol 34: 1168-1179.
Satija et al., (2015) Nat Biotechnol, 33: 495-502.
Scialdone et al., (2015) Methods 85: 54-61.
Takasato et al., (2015) Nature 526: 564-8.
Vacanti, et al., (1988) J. Ped. Surg. 23 :3-9.
Vacanti, et al., (1991) Plast. Reconstr. Surg. 88:753-9.
van den Berg et al., (2018) Stem Cell Reports 10: 751-765.
Vodyanik et al., (2010) Cell Stem cell 7:718-728.
Wu et al., (2017).
Zheng et al., (2017) Nat Commun 8: 14049.
本発明の態様の一部を以下に記載する。
1.50個未満のネフロンを含む、腎オルガノイド。
2.25個未満のネフロンを含む、項目1に記載の腎オルガノイド。
3.15個未満のネフロンを含む、項目1に記載の腎オルガノイド。
4.5~12個のネフロンを含む、項目1に記載の腎オルガノイド。
5.PAX2、SIX1、LHX1、OSR1、WNT11、GATA3、PAX8、EYA1、およびCITED1のうちのいずれか1つもしくは複数を高レベルで発現し、且つ/または、PDGFRA、MEIS2、WT1、および/もしくはC-RETのうちのいずれか1つもしくは複数を低レベルで発現する、細胞を含む、項目1~4のいずれかに記載の腎オルガノイド。
6.PAX2、SIX1、LHX1、OSR1、WNT11、およびGATA3を高レベルで発現する細胞を含む、項目1~4のいずれかに記載の腎オルガノイド。
7.NPHS+ポドサイト、LTL+近位尿細管セグメント、ECAD+遠位尿細管セグメント、ECAD+/GATA3+集合管、またはこれらの組み合わせを含む、項目1~6のいずれかに記載の腎オルガノイド。
8.H9、hES3、iPSC GAPTrap td-Tomato、CRL1502.C32、CLR1502.3、hES3 SOX17mCherry、またはH9 GAPTrap Luc2からなる群から選択される幹細胞由来である、項目1~7のいずれかに記載の腎オルガノイド。
9.1×104~5×104個程度の細胞を含む、項目1~8のいずれかに記載の腎オルガノイド。
10.1.5×104~2.5×104個程度の細胞を含む、項目1~8のいずれかに記載の腎オルガノイド。
11.250~500μm程度の直径を有する、項目1~10のいずれかに記載の腎オルガノイド。
12.旋回培養下で少なくとも3週間生存する、項目1~11のいずれかに記載の腎オルガノイド。
13.培養下で少なくとも4週間生存する、項目1~11のいずれかに記載の腎オルガノイド。
14.そのネフロンが、集合管(GATA3+;ECAD+)、初期遠位尿細管(GATA3-;LTL-;ECAD+)、初期近位尿細管(LTL+;ECAD-)、および糸球体(WT1+)を含む、項目1~13のいずれかに記載の腎オルガノイド。
15.腎オルガノイドの発生を促進するのに十分な条件下、細胞培地中で、中間中胚葉(IM)細胞集団を旋回することにより生じる、項目1~14のいずれかに記載の腎オルガノイド。
16.前記細胞培地が200ng/mlのFGF9を含有する、項目15に記載の腎オルガノイド。
17.0.5×106~1.5×106細胞/mlのIMを旋回することによって生じる、項目15または項目16に記載の腎オルガノイド。
18.0.8×106~1.2×106細胞/mlのIMを旋回することにより生じる、項目15または項目16に記載の腎オルガノイド。
19.項目1~18のいずれかに記載の腎オルガノイドまたはその酵素消化物を含む、治療用組成物。
20.治療を必要とする対象に項目19に記載の組成物を投与することを含む、腎疾患の治療法。
21.FGFを含有する細胞培地中で中間中胚葉(IM)細胞集団を旋回することを含む、腎オルガノイドのインビトロ製造法。
22.前記IM細胞を培養液中で少なくとも5日間旋回し、最初の24時間はFGF、ヘパリン、CHIR、およびROCK阻害剤を含む細胞培地中で細胞を旋回することを含み、続く4日間はFGF、ヘパリン、およびCHIRを含む細胞培地中で細胞を培養することを含む、項目21に記載の方法。
23.残り培養日数が、PVAおよびMCを含有する細胞培地中で細胞を培養することを含む、項目22に記載の方法。
24.前記細胞培地が100~300ng/mlのFGF9を含有する、項目22に記載の方法。
25.前記最初の24時間がFGF、0.5~1.5μg/mlのヘパリン、0.5~1.5μΜのCHIR、および9~11μΜのROCK阻害剤を含有する細胞培地中で細胞を旋回することを含む、項目21~24のいずれかに記載の方法。
26.前記続く4日間がFGF、0.5~1.5μg/mlのヘパリン、および0.5~1.5μΜのCHIRを含有する細胞培地中で細胞を旋回することを含む、項目21~25のいずれかに記載の方法。
27.前記続く4日間がFGF9、ヘパリン、CHIR、MVA、およびPVCを含有する細胞培地中で細胞を培養することを含む、項目21~26のいずれかに記載の方法。
28.前記FGFを含有する細胞培地が0.05~0.2%のMVAおよび0.05~0.2%のPVCを含有する、項目27に記載の方法。
29.残り培養日数が、0.05~0.2%のPVAおよび0.05~0.2%のMCを含有するが、FGF、ヘパリンCHIR、およびROCK阻害剤は含有しない細胞培地中で細胞を培養することを含む、項目21~28のいずれかに記載の方法。
30.前記IM細胞が30~90rpmで旋回される、項目21~29のいずれかに記載の方法。
31.前記IM細胞が18~24日間旋回される、項目21~30のいずれかに記載の方法。
32.前記IM細胞が幹細胞集団を少なくとも7日間培養することによって製造され、最初の4~5日間が少なくとも6μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で幹細胞を培養することを含み、残り培養日数がFGFおよび少なくとも0.5μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で細胞を培養することを含む、項目21~31のいずれかに記載の方法。
33.前記Wnt/βカテニン作動薬がCHIRであり、前記FGFがFGF9である、項目32に記載の方法。
34.前記FGFを含有する細胞培地が100~300ng/mlのFGF9を含有する、項目32または項目33に記載の方法。
35.前記FGFを含有する細胞培地が0.5~1.5μΜのCHIRを含有する、項目33~34のいずれかに記載の方法。
36.前記FGFを含有する細胞培地が0.5~1.5μg/mlのヘパリンをさらに含有する、項目32~35のいずれかに記載の方法。
37.前記IM細胞がEDTAまたはトリプシンで解離され、旋回の前にメッシュスクリーンに通される、項目21~36のいずれかに記載の方法。
38.前記幹細胞が多能性幹細胞、胚性幹細胞、または人工多能性幹(iPS)細胞である、項目32~37のいずれかに記載の方法。
39.0.5×106細胞/ml~1.5×106細胞/mlのIMを含むIM細胞集団を旋回することを含む、項目21~38のいずれかに記載の方法。
40.項目21~39のいずれかに記載の方法によって製造される腎オルガノイド。
41.項目1~18のいずれか一項または項目40に記載の腎オルガノイドを候補化合物と接触させることで、前記候補化合物が腎毒性であるかどうかを判定することを含む、腎毒性について候補化合物をスクリーニングする方法。
42.前記候補化合物が小分子である、項目41に記載の方法。
43.項目1~18のいずれか一項もしくは項目40に記載の腎オルガノイド、または項目19に記載の組成物の、腎臓、または腎細胞もしくは腎組織の製造における使用。
44.後方原始線条(PPS)細胞集団をFGFおよび4μΜ未満のWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で2~5日間培養することを含む、中間中胚葉(IM)細胞のインビトロ製造法。
45.中間中胚葉(IM)細胞のインビトロ製造法であって、幹細胞集団を少なくとも7日間培養することを含み、最初の4~5日間が少なくとも6μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で幹細胞を培養することを含み、残り培養日数がFGF9および少なくとも0.5μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で細胞を培養することを含む、方法。
46.前記FGFを含有する培地が0.5~3μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する、項目45に記載の方法。
47.前記培地が0.8~1.2μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する、項目45に記載の方法。
48.前記最初の4日間が少なくとも6μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で幹細胞を培養することを含む、項目45~47のいずれかに記載の方法。
49.前記最初の4日間が7μΜのWnt/βカテニン作動薬を含有する細胞培地中で幹細胞を培養することを含む、項目45~47のいずれかに記載の方法。
50.前記FGFを含有する細胞培地が100~300ng/mlのFGF9を含有する、項目44~49のいずれかに記載の方法。
51.前記FGFを含有する細胞培地がヘパリンをさらに含有する、項目44~50のいずれかに記載の方法。
52.前記細胞培地が0.5~2μg/mlのヘパリンを含有する、項目51に記載の方法。
53.前記幹細胞が多能性幹細胞、胚性幹細胞、または人工多能性幹(iPS)細胞である、項目45~52のいずれかに記載の方法。
54.前記組成物が静脈内投与される、項目20に記載の方法。
55.前記組成物が腎動脈内注射、腎実質内注射、移植(implantation)、または腎被膜下移植(subcapsular transplantation)で投与される、項目20に記載の方法。
56.腎臓をバイオプリントする方法であって、
項目1~18のいずれか一項または項目40に記載のオルガノイドからバイオインクを用意すること;
腎臓をバイオプリントすること、
を含む、方法。
57.項目1~18のいずれか一項もしくは項目40に記載のオルガノイド、または項目19に記載の組成物の、腎臓、または腎細胞もしくは腎組織の製造における使用。
58.項目21~39のいずれかに記載の方法を用いて腎オルガノイドを製造することを含む、または項目44~53に記載の方法を用いてIM細胞を製造することを含む、細胞療法用のネフロン細胞型の生成法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
50個未満のネフロンを含む、腎オルガノイド。