(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165038
(43)【公開日】2023-11-14
(54)【発明の名称】薬剤を筋肉に送達するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/68 20170101AFI20231107BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231107BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231107BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231107BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20231107BHJP
C12N 9/24 20060101ALN20231107BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20231107BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231107BHJP
【FI】
A61K47/68
A61P21/00 ZNA
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K9/08
A61P9/00
C12N9/24
C07K16/28
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023150649
(22)【出願日】2023-09-19
(62)【分割の表示】P 2019019212の分割
【原出願日】2019-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2018018652
(32)【優先日】2018-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128897
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 佳希
(74)【代理人】
【識別番号】100225118
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 慧
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健一
(72)【発明者】
【氏名】薗田 啓之
(57)【要約】
【課題】筋組織で機能させるべき薬剤であって,生体内に投与したときに,そのままでは筋組織へ十分に取り込まれない薬剤を,筋組織,特に骨格筋又は心筋により構成される筋組織に,効率よく取り込ませるための技術を提供すること。
【解決手段】抗ヒトトランスフェリン受容体抗体と薬剤との結合体であって,該薬剤が筋組織で機能を発揮させるべき生理活性を有する薬剤,例えば,酸性α-グルコシダーゼ,α-ガラクトシダーゼA等のリソソーム酵素である,結合体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ヒトトランスフェリン受容体抗体とヒト酸性α-グルコシダーゼとの結合体を含有してなる,ポンペ病に伴う骨格筋細胞及び心筋細胞の機能障害を改善するための医薬組成物であって,
該抗体の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,配列番号22で示されるもの,又は配列番号22で示されるアミノ酸配列を構成する1~5個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたものであり,且つ,該軽鎖の可変領域が,CDR1として配列番号11又は12のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号15のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,
該抗体の重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,配列番号23で示されるもの,又は配列番号23で示されるアミノ酸配列を構成する1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたものであり,且つ,該重鎖の可変領域が,CDR1として配列番号16又は17のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号18又は19のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号20又は21のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,
静脈注射,皮下注射,又は筋肉注射によりポンペ病の患者に投与されるものである,医薬組成物。
【請求項2】
抗ヒトトランスフェリン受容体抗体とヒト酸性α-グルコシダーゼとの結合体を含有してなる,ポンペ病に伴う骨格筋細胞及び心筋細胞の機能障害を改善するための医薬組成物であって,
該軽鎖の可変領域に配列番号22で示されるアミノ酸配列,及び該重鎖の可変領域に配列番号23で示されるアミノ酸配列を含むものである,
静脈注射,皮下注射,又は筋肉注射によりポンペ病の患者に投与されるものである,医薬組成物。
【請求項3】
骨格筋侵襲による筋力低下,筋緊張低下を改善するものである,請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
水性液剤の形態で供給されるものである,請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
該結合体の濃度が1~4mg/mLである,請求項4に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,筋肉において生理活性を発揮させるべき薬剤の筋肉への輸送に関し,詳しくは,所望の薬剤を抗トランスフェリン抗体と結合させてなる結合体,及び,当該結合体を投与することにより,当該所望の薬剤の生理活性を筋肉において発揮させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,リソソーム酵素の機能欠損により発症するリソソーム病に対する酵素補充療法が確立され,患者の生命予後及び生活の質(QOL)が向上している。酵素補充療法に用いられるリソソーム酵素を有効成分として含む医薬品としては,ヒト酸性α-グルコシダーゼ(hGAA)を主剤とする糖原病2型(ポンぺ病)の治療薬,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hI2S)を主剤とするムコ多糖症2型(ハンター病)の治療薬,ヒトα-ガラクトシダーゼA(hα-GalA)を主剤とするファブリー病の治療薬,ヒトグルコセレブロシダーゼを主剤とするゴーシェ病の治療薬等が販売されている。
【0003】
酵素補充療法で患者に投与されたリソソーム酵素は,細胞内に取り込まれてその機能を発揮する。例えば,ヒト酸性α-グルコシダーゼ(hGAA),ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hI2S)及びヒトα-ガラクトシダーゼA(hα-GalA)は,マンノース-6-リン酸(M6P)を含むN型糖鎖により修飾されており,M6PとM6P受容体の結合を介して細胞内に取り込まれる。また,ゴーシェ病の治療薬であるヒトグルコセレブロシダーゼは,還元末端がマンノースであるN型糖鎖により修飾されており,マンノースとマンノース受容体を介して標的であるマクロファージなど細網内皮系の細胞に取り込まれる。M6PとM6P受容体の結合を介した細胞内への取り込みについてみると,2個のM6Pを含むbis-phosphate型糖鎖は,1個のM6Pを含むmono-phosphate型と比較して,M6P受容体に対する親和性が100倍以上高く,糖鎖に含まれるM6Pはリソソーム酵素の細胞内への取り込み効率に大きく影響を与える。
【0004】
酵素補充療法に用いられるヒトリソソーム酵素は,遺伝子組換え技術を用いてCHO細胞等のホスト細胞にヒトリソソーム酵素をコードする遺伝子を導入して発現させることにより製造された組換え蛋白質である。組換え蛋白質として製造された組換えヒトリソソーム酵素は,その薬効を発揮するため,適切に糖鎖修飾される必要がある。つまり,hGAA,hα-GalA及びhI2Sにあってはマンノース-6-リン酸を含む糖鎖により修飾されることが,ヒトグルコセレブロシダーゼにあっては還元末端がマンノースである糖鎖により適切に修飾されることが,薬効を発揮するうえで不可欠である。
【0005】
組換えヒト酸性α-グルコシダーゼ(rhGAA)の場合,薬効を発揮させるべき主要な標的臓器は筋肉,特に骨格筋である。しかし,酵素補充療法に用いられているrhGAAは,糖鎖に含まれるM6Pの数が,1分子あたり平均1個以下であり,よって糖鎖の多くはmono-phosphate型であり,M6Pによる糖鎖修飾が十分ではない(非特許文献1)。そのため,標的臓器におけるrhGAAの取り込み効率が低く,その1回当たりの投与量は20mg/kgと極めて多量である。患者の症状如何によっては,投与量は40mg/kgにまで増量されるが,それでもなお,投与された酵素の機能が十分に発揮されていないと考えられる。
【0006】
rhGAAを効率よく標的臓器に取り込ませる方法として,M6P-M6P受容体以外のリガンド-受容体系を利用する方法が開発されている。例えば,低密度リポ蛋白質受容体ファミリー(LDL受容体)のリガンドであるRAP(receptor-associated protein)とhGAAとを融合させた融合蛋白質は,培養細胞を用いた実験において,M6P非依存的に細胞内に取り込まれることが知られている(非特許文献2)。この方法によれば,M6Pを含む糖鎖による修飾が十分ではないrhGAAであっても,RAPとその受容体の結合を介して,細胞内に取り込ませることができるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Zhu Y. et al., Biochem J. 389, 619-28 (2005)
【非特許文献2】Prince WS. et al., J Biol. Chem. 279, 35037-46 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は,筋肉で機能させるべき薬剤を,生体内に投与したときに,筋肉に効率よく取り込ませる方法及びその関連技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に向けた研究において,本発明者らは,鋭意検討を重ねた結果,筋肉で薬効を発揮すべきであるが,そのままでは十分に筋肉に輸送されることのない組換えヒト酸性α-グルコシダーゼが,抗ヒトトランスフェリン受容体との結合体とすることにより筋肉に効率よく輸送されることを見出し,本発明を完成した。すなわち,本発明は以下を含むものである。
1.抗ヒトトランスフェリン受容体抗体と薬剤との結合体であって,該薬剤が筋肉において機能を発揮させるべき生理活性を有するものである,結合体。
2.該抗ヒトトランスフェリン受容体抗体が,Fab抗体,F(ab’)2抗体,又はF(ab’)抗体である,上記1に記載の結合体。
3.該抗ヒトトランスフェリン受容体抗体が,scFab,scF(ab’),scF(ab’)2及びscFvからなる群から選ばれる一本鎖抗体である,上記1に記載の結合体。
4.該一本鎖抗体が,該抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の軽鎖と重鎖とをリンカー配列を介して結合させたものである,上記3に記載の結合体。
5.該抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の軽鎖と重鎖とを,該軽鎖のC末端側において,該リンカー配列を介して結合させたものである,上記4に記載の結合体。
6.該抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の軽鎖と重鎖とを,該重鎖のC末端側において,該リンカー配列を介して結合させたものである,上記4に記載の結合体。
7.該リンカー配列が,8~50個のアミノ酸残基からなるものである,上記4~6の何れかに記載の結合体。
8.該リンカー配列が,アミノ酸配列(Gly Ser),アミノ酸配列(Gly Gly Ser),アミノ酸配列(Gly Gly Gly),配列番号3,及び配列番号4で示されるものからなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなるものである,上記7に記載の結合体。
9.該リンカー配列が,配列番号4で示されるアミノ酸配列が3回連続する15個のアミノ酸残基からなるものである,上記8に記載の結合体。
10.該抗ヒトトランスフェリン受容体抗体が,軽鎖の可変領域に配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むものであり,重鎖の可変領域に配列番号23で示されるアミノ酸配列を含むものである,上記1~9の何れかに記載の結合体。
11.該軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,配列番号22で示されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するものであり,該重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,配列番号23で示されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するものである,上記10に記載の結合体。
12.該軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,配列番号22で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するものであり,該重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,配列番号23で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するものである,上記10に記載の結合体。
13.該軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,配列番号22で示されるアミノ酸配列を構成する1~10個のアミノ酸が,他のアミノ酸に置換されたものである,上記10に記載の結合体。
14.該軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,配列番号22で示されるアミノ酸配列を構成する1~3個のアミノ酸が,他のアミノ酸に置換されたものである,上記10に記載の結合体。
15.該重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,配列番号23で示されるアミノ酸配列を構成する1~10個のアミノ酸が,他のアミノ酸に置換されたものである,上記10に記載の結合体。
16.該重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,配列番号23で示されるアミノ酸配列を構成する1~3個のアミノ酸が,他のアミノ酸に置換されたものである,上記10に記載の結合体。
17.該軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,配列番号22で示されるアミノ酸配列を構成する1~10個のアミノ酸が,他のアミノ酸に置換されたものであり,該重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,配列番号23で示されるアミノ酸配列を構成する1~10個のアミノ酸が,他のアミノ酸に置換されたものである,上記10に記載の結合体。
18.該軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,配列番号22で示されるアミノ酸配列を構成する1~3個のアミノ酸が,他のアミノ酸に置換されたものであり,該重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,配列番号23で示されるアミノ酸配列を構成する1~3個のアミノ酸が,他のアミノ酸に置換されたものである,上記10に記載の結合体。
19.該抗ヒトトランスフェリン受容体抗体が,軽鎖に配列番号24で示されるアミノ酸配列を含むものであり,重鎖に配列番号25で示されるアミノ酸配列を含むものである,上記10に記載の結合体。
20.該軽鎖のアミノ酸配列が,配列番号24で示されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するものであり,該重鎖のアミノ酸配列が,配列番号25で示されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するものである,上記19に記載の結合体。
21.該軽鎖のアミノ酸配列が,配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するものであり,該重鎖のアミノ酸配列が,配列番号25で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するものである,上記19に記載の結合体。
22.薬剤がペプチド又は蛋白質である,上記1~21の何れかに記載の結合体。
23.上記22の結合体であって,以下の(1)~(4)からなる群から選択されるもの,
(1)該蛋白質が,該抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の軽鎖のC末端側にペプチド結合により結合したもの,
(2)該蛋白質が,該抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の軽鎖のN末端側にペプチド結合により結合したもの,
(3)該蛋白質が,該抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の重鎖のC末端側にペプチド結合により結合したもの,及び
(4)該蛋白質が,該抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の重鎖のN末端側にペプチド結合により結合したもの。
24.該蛋白質が,該抗ヒトトランスフェリン受容体抗体に,リンカー配列を介して結合したものである,上記23に記載の結合体。
25.該リンカー配列が,1~50個のアミノ酸残基からなるものである,上記24に記載の結合体。
26.該リンカー配列が,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列(Gly Ser),アミノ酸配列(Gly Gly Ser),配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含んでなるものである,上記25に記載の結合体。
27.該抗ヒトトランスフェリン受容体抗体がヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体抗体である,上記1~28の何れかの結合体。
28.該蛋白質が,リソソーム酵素である,上記22~27の何れかに記載の結合体。
29.該リソソーム酵素が,ヒトα-ガラクトシダーゼAである,上記28に記載の結合体。
30.該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が配列番号24のアミノ酸配列を含むものであり,該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖がそのC末端側で,リンカー配列(Gly Ser)を介して,該ヒトα-ガラクトシダーゼAと結合しており,全体として配列番号29で示されるアミノ酸配列を含むものである,上記29に記載の結合体。
31.該リソソーム酵素がヒト酸性α-グルコシダーゼ,である,上記28に記載の結合体。
32.該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が配列番号24のアミノ酸配列を含むものであり,該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖がそのC末端側で,リンカー配列(Gly Ser)を介して,該ヒト酸性α-グルコシダーゼと結合しており,全体として配列番号27で示されるアミノ酸配列を含むものである,上記31に記載の結合体。
33.上記1~32の何れかに記載の結合体を含有してなる,筋肉の機能を改善するための医薬組成物。
34.上記28に記載の結合体を含有してなる,リソソーム病に伴う筋肉の機能障害を改善するための,医薬組成物。
35.上記29又は30に記載の結合体を含有してなる,ファブリー病に伴う筋肉の機能障害を改善するための,医薬組成物。
36.上記31又は32に記載の結合体を含有してなる,ポンペ病に伴う筋肉の機能障害を改善するための,医薬組成物。
37.該筋肉が,骨格筋,心筋,又は平滑筋の何れかである,上記33~36の何れかに記載の医薬組成物。
38.リソソーム病に伴う筋肉の機能障害を改善するための医薬組成物の製造のための,上記28~32の何れかに記載の結合体の使用。
39.ファブリー病に伴う筋肉の機能障害を改善するための医薬組成物の製造のための,上記29又は30に記載の結合体の使用。
40.ポンペ病に伴う筋肉の機能障害を改善するための医薬組成物の製造のための,上記31又は32に記載の結合体の使用。
41.上記1~32の何れかに記載の結合体の,筋肉の機能を改善するための医薬組成物としての使用。
42. 薬剤を筋肉に送達するための方法であって,該薬剤を抗ヒトトランスフェリン受容体抗体と結合させた結合体として製造するステップ,及び該結合体を個体に投与するステップことを含む,方法。
43.該結合体が,上記1~32の何れかに記載の結合体である,請求項42に記載の方法。
44.該結合体の投与により該個体の筋肉の機能が改善されるステップを更に含む,上記42又は43に記載の方法。
45.該個体が,筋肉の機能障害を有するものである,上記42~44の何れかに記載の方法。
46.該個体が,リソソーム病に伴う筋肉の機能障害を有するものである,上記42~44の何れかに記載の方法。
47.該リソソーム病が,ファブリー病又はポンペ病である,上記46に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば,筋肉において機能させようとする薬剤,特に生理活性を有するペプチド又は蛋白質を,抗ヒトトランスフェリン受容体との結合体とすることにより,生体内に投与したときに,筋肉に効率よく送達させることができる。つまり,薬剤をヒトトランスフェリン受容体との結合体とすることにより,筋肉の機能障害を伴う疾患のより効果的な治療剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】心臓に含まれるグリコーゲンの定量結果を示す図。(1)は野生型コントロール群,(2)はKOコントロール群,(3)はhGAA投与群,(4)はhGAA-抗hTfR抗体投与群の定量結果を示す。縦バーはSD値を示す。縦軸はグリコーゲン濃度(mg/g湿組織重量)を示す。
【
図2】横隔膜に含まれるグリコーゲンの定量結果を示す図。(1)~(4),縦バー及び縦軸については
図1と同様である。
【
図3】ヒラメ筋に含まれるグリコーゲンの定量結果を示す図。(1)~(4),縦バー及び縦軸については
図1と同様である。
【
図4】前脛骨筋に含まれるグリコーゲンの定量結果を示す図。(1)~(4),縦バー及び縦軸については
図1と同様である。
【
図5】大腿四頭筋に含まれるグリコーゲンの定量結果を示す図。(1)~(4),縦バー及び縦軸については
図1と同様である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で「筋肉」というときは,主に骨格筋,心筋,又は平滑筋の何れかにより構成される組織のことをいい,特に,主に骨格筋により構成される組織又は心筋により構成される組織のことをいう。また,「筋組織」との用語は,筋肉と同義と解される。
【0013】
本発明において,筋肉において生理活性を発揮させるべき薬剤は,その薬剤をそのまま血中に投与したときには,筋肉に効率よく輸送されないため,筋肉においてその生理活性を十分に発揮させることができない薬剤である。かかる薬剤は低分子化合物でもよく,ペプチド,又は蛋白質であってもよい。ここで,ペプチドは筋肉で生理活性を発揮し得るものであるが(生理活性ペプチド),それのみでは,生体内に投与したときに筋肉に効率よく輸送されないものであり,好ましくは2~100個のアミノ酸残基からなるものであり,例えば,2~50個,5~100個のアミノ酸残基からなるものである。またここで,蛋白質は筋肉で生理活性を発揮し得るものであるが(生理活性蛋白質),それのみでは,生体内に投与したときに筋肉に効率よく輸送されないものであり,例えば,酸性α-グルコシダーゼ(GAA),α-ガラクトシダーゼA(α-GalA)等のリソソーム酵素が含まれる。また,かかるペプチド及び蛋白質は,人工的なアミノ酸配列を有するものでもよく,また動物の遺伝子にコードされているアミノ酸配列を有するものでもよい。ここで,ペプチド又は蛋白質をコードする遺伝子の動物種に特に限定はないが,好ましくは哺乳動物であり,より好ましくは,ヒト,サル,ネズミ,家畜動物(ウマ,ブタ,羊等),愛玩動物(ネコ,イヌ等)であり,より好ましくはヒトである。
【0014】
リソソーム病に伴う筋肉の機能障害を改善させるための医薬として,その機能を発揮させるべきリソソーム酵素には,GAA,α-GalA以外に,α-L-イズロニダーゼ(IDUA),イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS),グルコセレブロシダーゼ(GBA),β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ(LAMAN),β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ(GALC),サポシンC,アリルスルファターゼA(ARSA),α-L-フコシダーゼ(FUCA1),アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM),β-グルクロニダーゼ(GUSB),ヘパランN-スルファターゼ(SGSH),α-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAGLU),アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ(AC),アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(PPT-1),トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP-1),ヒアルロニダーゼ-1,CLN1,CLN2等がある。これらの酵素は,抗ヒトトランスフェリン受容体抗体との結合体とすることにより,生体内に投与したときに,より効率よく筋肉に送達させることができる。従って,これらの結合体は,リソソーム病に伴う筋肉の機能障害を改善させるための医薬として用いることができる。
【0015】
抗hTfR抗体と融合させたイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)はハンター症候群における筋肉の機能障害治療剤として,α-ガラクトシダーゼAはファブリー病における筋肉の機能障害治療剤として,α-L-イズロニダーゼ(IDUA)はハーラー症候群又はハーラー・シャイエ症候群における筋肉の機能障害治療剤として,グルコセレブロシダーゼ(GBA)はゴーシェ病における筋肉の機能障害治療剤として,βガラクトシダーゼはGM1-ガングリオシドーシス1~3型における筋肉の機能障害治療剤として,GM2活性化蛋白質はGM2-ガングリオシドーシスAB異型における筋肉の機能障害治療剤として,β-ヘキソサミニダーゼAはサンドホフ病及びティサックス病における筋肉の機能障害治療剤として,β-ヘキソサミニダーゼBはサンドホフ病における筋肉の機能障害治療剤として,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼはI-細胞病における筋肉の機能障害治療剤として,α-マンノシダーゼ(LAMAN)はα-マンノシドーシスにおける筋肉の機能障害治療剤として,β-マンノシダーゼはβ-マンノシドーシスにおける筋肉の機能障害治療剤として,ガラクトシルセラミダーゼ(GALC)はクラッベ病における筋肉の機能障害治療剤として,サポシンCはゴーシェ病様蓄積症における筋肉の機能障害治療剤として,アリルスルファターゼA(ARSA)は異染性白質変性症(異染性白質ジストロフィー)における筋肉の機能障害治療剤として,α-L-フコシダーゼ(FUCA1)はフコシドーシスにおける筋肉の機能障害治療剤として,アスパルチルグルコサミニダーゼはアスパルチルグルコサミン尿症における筋肉の機能障害治療剤として,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼはシンドラー病及び川崎病における筋肉の機能障害治療剤として,酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)はニーマン・ピック病における筋肉の機能障害治療剤として,β-グルクロニダーゼ(GUSB)はスライ症候群における筋肉の機能障害治療剤として,ヘパランN-スルファターゼ(SGSH),α-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAGLU),アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ及びN-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼはサンフィリッポ症候群における筋肉の機能障害治療剤として,酸性セラミダーゼ(AC)はファーバー病における筋肉の機能障害治療剤として,アミロ-1,6-グルコシダーゼはコリ病(フォーブス・コリ病)における筋肉の機能障害治療剤として,シアリダーゼはシアリダーゼ欠損症における筋肉の機能障害治療剤として,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(PPT-1)は,神経セロイドリポフスチン症又はSantavuori-Haltia病における筋肉の機能障害治療剤として,トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP-1)は,神経セロイドリポフスチン症又はJansky-Bielschowsky病における筋肉の機能障害治療剤として,ヒアルロニダーゼ-1はヒアルロニダーゼ欠損症における筋肉の機能障害治療剤として,酸性α-グルコシダーゼ(GAA)はポンペ病における筋肉の機能障害治療剤として,CLN1及び2はバッテン病における筋肉の機能障害治療剤として使用できる。特に,本発明の抗hTfR抗体は,血液脳関門を通過した後に,大脳の脳実質,海馬の神経様細胞,小脳のプルキンエ細胞等に到達し,又大脳の線条体の神経様細胞及び中脳の黒質の神経様細胞にも到達すると予想されるので,これら組織又は細胞において薬効を機能させるべき蛋白質と融合させることにより,その蛋白質の薬効を強化し得る。但し,医薬用途はこれらの疾患に限られるものではない。
【0016】
なお,本発明において,「リソソーム酵素」の語,若しくは個々のリソソーム酵素を示す語は,特に天然型のアミノ酸配列を有するものを意味するが,これに限らず,リソソーム酵素を有するものである限り,天然型のリソソーム酵素のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもリソソーム酵素に含まれる。リソソーム酵素のアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。リソソーム酵素のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異をリソソーム酵素に加えることもできる。リソソーム酵素にアミノ酸を付加させる場合,リソソーム酵素のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異をリソソーム酵素に加えることもできる。変異を加えたリソソーム酵素のアミノ酸配列は,元のリソソーム酵素のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。リソソーム酵素以外の蛋白質,ペプチドについても同様である。
【0017】
なおここで,リソソーム酵素がリソソーム酵素活性を有するというときは,抗hTfR抗体と結合させたときに,天然型のリソソーム酵素が本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のリソソーム酵素が本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と結合させたリソソーム酵素が変異を加えたものである場合も同様である。また,リソソーム酵素以外の蛋白質,ペプチドについても同様である。
【0018】
なお,ペプチド又は蛋白質(リソソーム酵素,抗体を含む)のアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸による置換としては,例えば,芳香族アミノ酸(Phe,Trp,Tyr),脂肪族アミノ酸(Gly,Ala,Leu,Ile,Val),アミド型アミノ酸(Gln,Asn),塩基性アミノ酸(Lys,Arg,His),酸性アミノ酸(Glu,Asp),水酸基を有するアミノ酸(Ser,Thr),分枝アミノ酸(Val,Leu,Ile),側鎖の小さいアミノ酸(Gly,Ala,Ser,Thr,Met),非極性側鎖を有するアミノ酸(Ala,Val,Leu,Ile,Pro,Phe,Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸どうしの置換が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換は,蛋白質の表現型に変化をもたらさない(即ち,保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり,種々の文献に記載されている(例えば,Bowieら, Science, 247:1306-1310(1990)を参照)。
【0019】
また,本発明において「相同性」又は「同一性」とは,相同性計算アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列を比較した場合の,最適なアラインメントにおける,全アミノ酸残基に対する相同なアミノ酸残基の割合(%)を意味する。2つのアミノ酸配列をかかる割合で示される相同性(又は同一性)で比較することは,本発明の技術的分野において周知であり,当業者にとって容易に理解されるものである。本発明において,元の蛋白質(抗体を含む)のアミノ酸配列と変異を加えた蛋白質のアミノ酸配列との相同性を算出するための相同性計算アルゴリズムとして,BLAST(Altschul SF. J Mol. Biol. 215. 403-10, (1990)),Pearson及びLipmanの類似性検索法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85. 2444 (1988)),Smith及びWatermanの局所相同性アルゴリズム(Adv. Appl. Math. 2. 482-9(1981))等が周知である。また,アメリカ国立衛生研究所がインターネット上で提供するBLASTプログラムの一つであるblastpは,2つのアミノ酸配列の相同性を算出するための手段として周知である。
【0020】
以下,リソソーム酵素について,酸性α-グルコシダーゼとα-ガラクトシダーゼAを例に採り詳述する。
【0021】
酸性α-グルコシダーゼ(GAA)は,グリコーゲンを分解する活性を有するリソソーム酵素である。ポンぺ病(糖原病II型)は,遺伝的に酸性α-グルコシダーゼ活性のほとんど又は全部を欠損することにより,細胞のライソソームにグリコーゲンが大量に蓄積する疾患であり,心筋及び骨格筋の機能障害が症状の中心となる。ポンぺ病は,乳児型,幼児型,成人型に分類される。乳児型は,主に乳児期前半に発症し,心筋へのグリコーゲン蓄積等により,求心性心肥大による循環器症状,骨格筋侵襲による筋力低下,筋緊張低下を示し,先天性ミオパシー症状を特徴とする。幼児型は,骨格筋症状が主で,乳児期後半より,運動発達遅延,進行性の筋力低下を示す。成人型は筋力低下が主症状である。
【0022】
α-ガラクトシダーゼA(α-GalA)は,糖脂質及び糖蛋白質の末端α-ガラクトシル結合を加水分解する活性を有するライソソーム酵素である。トリヘキソシルセラミドは,α-ガラクトシダーゼAの基質の一つであり,その末端ヘキソース部分において当該酵素による加水分解を受ける。ファブリー病は,遺伝的にα-GalA活性のほとんど又は全部を欠損することにより引き起こされる疾患である。ファブリー病の臨床学的特徴は,腎不全,角化血管腫,及び心血管系異常,例えば心室肥大及び僧帽弁不全である。また,主に心臓が障害される非典型的なタイプのファブリー病は,特に心ファブリー病として区別されることがある。
【0023】
リソソーム酵素を欠損するリソソーム病患者の治療法として,遺伝子組換え技術を用いて作製したリソソーム酵素を医薬として患者に投与する酵素補充療法が行われている。例えば,ポンぺ病患者に対しては,遺伝子組換え技術により作製した組換えヒト酸性α-グルコシダーゼであるマイオザイム(登録商標)を用いた酵素補充療法が行われている。また,ファブリー病患者に対しては,遺伝子組換え技術により作製した組換えヒトα-ガラクトシダーゼAであるファブラザイム又はリプレガル(登録商標)を用いた酵素補充療法が行われている。これら酵素補充療法で医薬として用いられているリソソーム酵素が効果を発揮すべき組織の一つが筋肉である。従って,筋肉へのリソソーム酵素の供給量を増加させることにより,リソソーム病に伴う筋肉の機能障害をより改善させることができる可能性がある。
【0024】
なお,本発明において,「ヒト酸性α-グルコシダーゼ」又は「hGAA」の語は,特に天然型のhGAAと同一の配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するhGAAを意味するが,これに限らず,hGAA活性を有するものである限り,天然型のhGAAのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhGAAに含まれる。hGAAのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hGAAのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異をhGAAに加えることもできる。hGAAにアミノ酸を付加させる場合,hGAAのアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異をhGAAに加えることもできる。変異を加えたhGAAのアミノ酸配列は,元のhGAAのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0025】
なおここで,hGAAがhGAA活性を有するというときは,抗hTfR抗体と結合させたときに,天然型のhGAAが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhGAAが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と結合させたhGAAが変異を加えたものである場合も同様である。
【0026】
また,本発明において,「ヒトα-ガラクトシダーゼA」又は「hα-GalA」の語は,特に天然型のhα-GalAと同一の配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するhα-GalAのことを意味するが,これに限らず,hα-GalA活性を有するものである限り,天然型のhα-GalAのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhα-GalAに含まれる。hα-GalAのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hα-GalAのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異をhα-GalAに加えることもできる。hα-GalAにアミノ酸を付加させる場合,hα-GalAのアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異をhα-GalAに加えることもできる。変異を加えたhα-GalAのアミノ酸配列は,元のhα-GalAのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0027】
なおここで,hα-GalAがhα-GalA活性を有するというときは,これを抗hTfR抗体と結合させたときに,天然型のhα-GalAが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhα-GalAが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と結合させたhα-GalAが変異を加えたものである場合も同様である。
【0028】
本発明において,「抗体」の語は,主としてヒト抗体,マウス抗体,ヒト化抗体,ヒト抗体と他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体,及びマウス抗体と他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体のことをいうが,特定の抗原に特異的に結合する性質を有するものである限り,これらに限定されるものではなく,また,抗体の動物種にも特に制限はない。
【0029】
本発明において,「ヒト抗体」の語は,その蛋白質全体がヒト由来の遺伝子にコードされている抗体のことをいう。遺伝子の発現効率を上昇させる等の目的で,元のヒトの遺伝子に,元のアミノ酸配列に変化を与えることなく変異を加えた遺伝子にコードされる抗体も,「ヒト抗体」に含まれる。また,ヒト抗体をコードする2つ以上の遺伝子を組み合わせて,あるヒト抗体の一部を,他のヒト抗体の一部に置き換えた抗体も,「ヒト抗体」に含まれる。ヒト抗体は,免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR:complementary determining regionの略称)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を有する。免疫グロブリン軽鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。免疫グロブリン重鎖の3箇所のCDRも,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。あるヒト抗体のCDRを,他のヒト抗体のCDRに置き換えることにより,ヒト抗体の抗原特異性,親和性等を改変した抗体も,ヒト抗体に含まれる。
【0030】
本発明において,元のヒト抗体の遺伝子を改変することにより,元の抗体のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えた抗体も,「ヒト抗体」に含まれる。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,ヒト抗体である。アミノ酸を付加させる場合,元の抗体のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,ヒト抗体である。変異を加えた抗体のアミノ酸配列は,元の抗体のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示すものである。従って,本発明において「ヒト由来の遺伝子」というときは,ヒト由来の元の遺伝子に加えて,これに改変を加えることにより得られる遺伝子も含まれる。
【0031】
また,「マウス抗体」というときは,その蛋白質全体がマウス由来の遺伝子にコードされる抗体と同一のアミノ酸配列からなる抗体のことをいう。従って,遺伝子の発現効率を上昇させる等の目的で,元のマウスの遺伝子に,元のアミノ酸配列に変化を与えることなく変異を加えた遺伝子にコードされる抗体も,「マウス抗体」に含まれる。また,マウス抗体をコードする2つ以上の遺伝子を組み合わせて,あるマウス抗体の一部を,他のマウス抗体の一部に置き換えた抗体も,マウス抗体に含まれる。マウス抗体は,免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を有する。免疫グロブリン軽鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。免疫グロブリン重鎖の3箇所のCDRも,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。例えば,あるマウス抗体のCDRを,他のマウス抗体のCDRに置き換えることにより,マウス抗体の抗原特異性,親和性等を改変した抗体も,マウス抗体に含まれる。
【0032】
本発明において,元のマウス抗体の遺伝子を改変することにより,元の抗体のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えた抗体も,「マウス抗体」に含まれる。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,マウス抗体である。アミノ酸を付加する場合,元の抗体のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,マウス抗体である。変異を加えた抗体のアミノ酸配列は,元の抗体のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示すものである。従って,本発明において「マウス由来の遺伝子」というときは,マウス由来の元の遺伝子に加えて,これに改変を加えることにより得られる遺伝子も含まれる。
【0033】
本発明において,「ヒト化抗体」の語は,可変領域の一部(例えば,特にCDRの全部又は一部)のアミノ酸配列がヒト以外の哺乳動物由来であり,それ以外の領域がヒト由来である抗体のことをいう。例えば,ヒト化抗体として,ヒト抗体を構成する免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を,他の哺乳動物のCDRによって置き換えることにより作製された抗体が挙げられる。ヒト抗体の適切な位置に移植されるCDRの由来となる他の哺乳動物の生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,又はヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウス及びラットであり,例えばマウスである。
【0034】
本発明において,「キメラ抗体」の語は,2つ以上の異なる種に由来する,2つ以上の異なる抗体の断片が連結されてなる抗体のことをいう。
【0035】
ヒト抗体と他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体とは,ヒト抗体の一部がヒト以外の哺乳動物の抗体の一部によって置き換えられた抗体である。抗体は,Fc領域,Fab領域及びヒンジ部とからなる。このようなキメラ抗体の具体例として,Fc領域がヒト抗体に由来する一方でFab領域が他の哺乳動物の抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又は他の哺乳動物の抗体のいずれかに由来する。逆に,Fc領域が他の哺乳動物に由来する一方でFab領域がヒト抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。この場合もヒンジ部は,ヒト抗体又は他の哺乳動物の抗体のいずれに由来してもよい。
【0036】
また,抗体は,可変領域と定常領域とからなるということもできる。キメラ抗体の他の具体例として,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)がヒト抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)が他の哺乳動物の抗体に由来するもの,逆に,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)が他の哺乳動物の抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)がヒト抗体に由来するものも挙げられる。ここで,他の哺乳動物の生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,又はヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウスである。
【0037】
マウス抗体と他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体とは,マウス抗体の一部がマウス以外の哺乳動物の抗体の一部に置き換えられた抗体である。このようなキメラ抗体の具体例として,Fc領域がマウス抗体に由来する一方でFab領域が他の哺乳動物の抗体に由来するキメラ抗体や,逆に,Fc領域が他の哺乳動物に由来する一方でFab領域がマウス抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ここで,他の哺乳動物の生物種は,マウス以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,ラット,ウサギ,ウマ,ヒト以外の霊長類である。
【0038】
ヒト抗体とマウス抗体のキメラ抗体は,特に,「ヒト/マウスキメラ抗体」という。ヒト/マウスキメラ抗体には,Fc領域がヒト抗体に由来する一方でFab領域がマウス抗体に由来するキメラ抗体や,逆に,Fc領域がマウス抗体に由来する一方でFab領域がヒト抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又はマウス抗体のいずれかに由来する。ヒト/マウスキメラ抗体の他の具体例として,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)がヒト抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)がマウス抗体に由来するもの,逆に,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)がマウス抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)がヒト抗体に由来するものも挙げられる。
【0039】
抗体は,本来,2本の免疫グロブリン軽鎖と2本の免疫グロブリン重鎖の計4本のポリペプチド鎖からなる基本構造を有する。但し,本発明において,「抗体」というときは,この基本構造を有するものに加え,
(1)1本の免疫グロブリン軽鎖と1本の免疫グロブリン重鎖の計2本のポリペプチド鎖からなるものや,以下に詳述するように,
(2)免疫グロブリン軽鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン重鎖を結合させてなるものである一本鎖抗体,及び
(3)免疫グロブリン重鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン軽鎖を結合させてなるものである一本鎖抗体も含まれる。また,
(4)本来の意味での抗体の基本構造からFc領域が欠失したものであるFab領域からなるもの及びFab領域とヒンジ部の全部若しくは一部とからなるもの(Fab,F(ab’)及びF(ab’)2を含む)も,
本発明における「抗体」に含まれる。
【0040】
ここでFabとは,可変領域とCL領域(軽鎖の定常領域)を含む1本の軽鎖と,可変領域とCH1領域(重鎖の定常領域の部分1)を含む1本の重鎖が,それぞれに存在するシステイン残基同士でジスルフィド結合により結合した分子のことをいう。Fabにおいて,重鎖は,可変領域とCH1領域(重鎖の定常領域の部分1)に加えて,更にヒンジ部の一部を含んでもよいが,この場合のヒンジ部は,ヒンジ部に存在して抗体の重鎖どうしを結合するシステイン残基を欠くものである。Fabにおいて,軽鎖と重鎖とは,軽鎖の定常領域(CL領域)に存在するシステイン残基と,重鎖の定常領域(CH1領域)又はヒンジ部に存在するシステイン残基との間で形成されるジスルフィド結合により結合する。Fabは,ヒンジ部に存在して抗体の重鎖どうしを結合するシステイン残基を欠いているので,1本の軽鎖と1本の重鎖とからなる。Fabを構成する軽鎖は,可変領域とCL領域を含む。Fabを構成する重鎖は,可変領域とCH1領域からなるものであってもよく,可変領域,CH1領域に加えてヒンジ部の一部を含むものであってもよい。但しこの場合,ヒンジ部で2本の重鎖の間でジスルフィド結合が形成されないように,ヒンジ部は重鎖間を結合するシステイン残基を含まないように選択される。F(ab’)においては,その重鎖は可変領域とCH1領域に加えて,重鎖どうしを結合するシステイン残基を含むヒンジ部の全部又は一部を含む。F(ab’)2は2つのF(ab’)が互いのヒンジ部に存在するシステイン残基どうしでジスルフィド結合により結合した分子のことをいう。また,複数の抗体が直接又はリンカーを介して結合してなる二量体,三量体等の重合体も,抗体である。更に,これらに限らず,免疫グロブリン分子の一部を含み,且つ,抗原に特異的に結合する性質を有するものは何れも,本発明でいう「抗体」に含まれる。即ち,本発明において免疫グロブリン軽鎖というときは,免疫グロブリン軽鎖に由来し,その可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有するものが含まれる。また,免疫グロブリン重鎖というときは,免疫グロブリン重鎖に由来し,その可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有するものが含まれる。従って,可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有する限り,例えば,Fc領域が欠失したものも,免疫グロブリン重鎖である。
【0041】
また,ここでFc又はFc領域とは,抗体分子中の,CH2領域(重鎖の定常領域の部分2),及びCH3領域(重鎖の定常領域の部分3)からなる断片を含む領域のことをいう。
【0042】
更には,本発明において,「抗体」というときは,
(5)上記(4)で示したFab,F(ab’)又はF(ab’)2を構成する軽鎖と重鎖を,リンカー配列を介して結合させて,それぞれ一本鎖抗体としたscFab,scF(ab’),及びscF(ab’)2も含まれる。ここで,scFab,scF(ab’),及びscF(ab’)2にあっては,軽鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に重鎖を結合させてなるものでもよく,また,重鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に軽鎖を結合させてなるものでもよい。更には,軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域をリンカー配列を介して結合させて一本鎖抗体としたscFvも,本発明における抗体に含まれる。scFvにあっては,軽鎖の可変領域のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に重鎖の可変領域を結合させてなるものでもよく,また,重鎖の可変領域のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に軽鎖の可変領域を結合させてなるものでもよい。
【0043】
本発明において,「一本鎖抗体」というときは,免疫グロブリン軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列が結合し,更にそのC末端側に免疫グロブリン重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列が結合してなり,特定の抗原に特異的に結合することのできる蛋白質をいう。例えば,上記(2),(3)及び(5)に示されるものは一本鎖抗体に含まれる。また,免疫グロブリン重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列が結合し,更にそのC末端側に免疫グロブリン軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列が結合してなり,特定の抗原に特異的に結合することのできる蛋白質も,本発明における「一本鎖抗体」である。免疫グロブリン重鎖のC末端側にリンカー配列を介して免疫グロブリン軽鎖が結合した一本鎖抗体にあっては,通常,免疫グロブリン重鎖は,Fc領域が欠失している。免疫グロブリン軽鎖の可変領域は,抗体の抗原特異性に関与する相補性決定領域(CDR)を3つ有している。同様に,免疫グロブリン重鎖の可変領域も,CDRを3つ有している。これらのCDRは,抗体の抗原特異性を決定する主たる領域である。従って,一本鎖抗体には,免疫グロブリン重鎖の3つのCDRが全てと,免疫グロブリン軽鎖の3つのCDRの全てとが含まれることが好ましい。但し,抗体の抗原特異的な親和性が維持される限り,CDRの1個又は複数個を欠失させた一本鎖抗体とすることもできる。
【0044】
一本鎖抗体において,免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の間に配置されるリンカー配列は,好ましくは2~50個,より好ましくは8~50個,更に好ましくは10~30個,更により好ましくは12~18個又は15~25個,例えば15個若しくは25個のアミノ酸残基から構成されるペプチド鎖である。そのようなリンカー配列は,これにより両鎖が連結されてなる抗hTfR抗体がhTfRに対する親和性を保持する限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンのみ又はグリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号4),又はこれらのアミノ酸配列が2~10回,あるいは2~5回繰り返された配列を有するものである。例えば,免疫グロブリン重鎖の可変領域の全領域からなるアミノ酸配列のC末端側に,リンカー配列を介して免疫グロブリン軽鎖の可変領域を結合させる場合,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)の3個が連続したものに相当する計15個のアミノ酸からなるリンカー配列が好適である。
【0045】
本発明において,「ヒトトランスフェリン受容体」又は「hTfR」の語は,配列番号5に示されるアミノ酸配列を有する膜蛋白質をいう。本発明の抗hTfR抗体は,その一実施態様において,配列番号5で示されるアミノ酸配列中N末端側から89番目のシステイン残基からC末端のフェニルアラニンまでの部分(hTfRの細胞外領域)に対して特異的に結合するものであるが,これに限定されない。また,本発明において「サルトランスフェリン受容体」又は「サルTfR」の語は,特に,カニクイザル(Macaca fascicularis)由来の配列番号6に示されるアミノ酸配列を有する膜蛋白質である。本発明の抗hTfR抗体は,その一実施態様において,配列番号6で示されるアミノ酸配列中N末端側から89番目のシステイン残基からC末端のフェニルアラニンまでの部分(サルTfRの細胞外領域)に対しても結合するものであるが,これに限定されない。
【0046】
hTfRに対する抗体の作製方法としては,hTfR遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した細胞を用いて,組換えヒトトランスフェリン受容体(rhTfR)を作製し,このrhTfRを用いてマウス等の動物を免疫して得る方法が一般的である。免疫後の動物からhTfRに対する抗体産生細胞を取り出し,これとミエローマ細胞とを融合させることにより,抗体産生能を有するハイブリドーマ細胞を作製することができる。
【0047】
また,マウス等の動物より得た免疫系細胞を体外免疫法によりrhTfRで免疫することによっても,hTfRに対する抗体を産生する細胞を取得できる。体外免疫法を用いる場合,その免疫系細胞が由来する動物種に特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,モルモット,イヌ,ネコ,ウマ,及びヒトを含む霊長類であり,より好ましくは,マウス,ラット及びヒトであり,更に好ましくはマウス及びヒトである。マウスの免疫系細胞としては,例えば,マウスの脾臓から調製した脾細胞を用いることができる。ヒトの免疫系細胞としては,ヒトの末梢血,骨髄,脾臓等から調製した細胞を用いることができる。ヒトの免疫系細胞を体外免疫法により免疫した場合,hTfRに対するヒト抗体を得ることができる。
【0048】
体外免疫法により免疫系細胞を免疫した後,細胞をミエローマ細胞と融合させることにより,抗体産生能を有するハイブリドーマ細胞を作製することができる。また,免疫後の細胞からmRNAを抽出してcDNAを合成し,このcDNAを鋳型としてPCR反応により免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖をコードする遺伝子を含むDNA断片を増幅し,これらを用いて人工的に抗体遺伝子を再構築することもできる。
【0049】
上記方法により得られたままのハイブリドーマ細胞には,hTfR以外の蛋白質を抗原として認識する抗体を産生する細胞も含まれる。また,抗hTfR抗体を産生するハイブリドーマ細胞の全てが,hTfRに対して所望の親和性を示す抗hTfR抗体を産生するとも限らない。
【0050】
同様に,人工的に再構築した抗体遺伝子には,hTfR以外の蛋白質を抗原として認識する抗体をコードする遺伝子も含まれる。また,抗hTfR抗体をコードする遺伝子の全てが,hTfRに対して所望の親和性を示す抗hTfR抗体をコードする等の所望の特性を備えるとも限らない。
【0051】
従って,上記で得られたままのハイブリドーマ細胞から,所望の特性(hTfRに対する高親和性等)を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞を選択するステップが必要となる。また,人工的に再構築した抗体遺伝子にあっては,当該抗体遺伝子から,所望の特性(hTfRに対する高親和性等)を有する抗体をコードする遺伝子を選択するステップが必要となる。
【0052】
例えば,抗hTfR抗体に対して高親和性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞を選択する場合,組換えhTfRをプレートに添加してこれに保持させた後,ハイブリドーマ細胞の培養上清を添加し,次いで組換えhTfRと結合していない抗体をプレートから除去し,プレートに保持された抗体の量を測定する方法が用いられる。この方法によれば,プレートに添加したハイブリドーマ細胞の培養上清に含まれる抗体のhTfRに対する親和性が高いほど,プレートに保持される抗体の量が多くなる。従って,プレートに保持された抗体の量を測定し,より多くの抗体が保持されたプレートに対応するハイブリドーマ細胞を,hTfRに対して相対的に高い親和性を有する抗hTfR抗体を産生する細胞株として選択することができる。この様にして選択された細胞株から,mRNAを抽出してcDNAを合成し,このcDNAを鋳型として,抗hTfR抗体をコードする遺伝子を含むDNA断片を,PCR法を用いて増幅することにより,高親和性抗体をコードする遺伝子を単離することもできる。
【0053】
上記の人工的に再構築した抗体遺伝子から,高親和性を有する抗hTfR抗体をコードする遺伝子を選択する場合は,一旦,人工的に再構築した抗体遺伝子を発現ベクターに組み込み,この発現ベクターをホスト細胞に導入する。このとき,ホスト細胞として用いる細胞としては,人工的に再構築した抗体遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入することにより抗体遺伝子を発現させることのできる細胞であれば原核細胞,真核細胞を問わず特に限定はないが,ヒト,マウス,チャイニーズハムスター等の哺乳動物由来の細胞が好ましく,特にチャイニーズハムスター卵巣由来のCHO細胞,又はマウス骨髄腫に由来するNS/0細胞が好ましい。また,抗体遺伝子をコードする遺伝子を組み込んで発現させるために用いる発現ベクターは,哺乳動物細胞内に導入させたときに,該遺伝子を発現させることができるものであれば特に限定なく用いることができる。発現ベクターに組み込まれた該遺伝子は,哺乳動物細胞内で遺伝子の転写の頻度を調節することができるDNA配列(遺伝子発現制御部位)の下流に配置される。本発明において用いることのできる遺伝子発現制御部位としては,例えば,サイトメガロウイルス由来のプロモーター,SV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1アルファ(EF-1α)プロモーター,ヒトユビキチンCプロモーター等が挙げられる。
【0054】
このような発現ベクターが導入された哺乳動物細胞は,発現ベクターに組み込まれた上述の人工的に再構築した遺伝子にコードされる抗体を発現するようになる。このようにして得た,人工的に再構築した抗体を発現する細胞から,抗hTfR抗体に対して高親和性を有する抗体を産生する細胞を選択する場合,組換えhTfRをプレートに添加してこれに保持させた後,組換えhTfRに細胞の培養上清を接触させ,次いで,組換えhTfRと結合していない抗体をプレートから除去し,プレートに保持された抗体の量を測定する方法が用いられる。この方法によれば,細胞の培養上清に含まれる抗体のhTfRに対する親和性が高いほど,プレートに保持された抗体の量が多くなる。従って,プレートに保持された抗体の量を測定し,より多くの抗体が保持されたプレートに対応する細胞を,hTfRに対して相対的に高い親和性を有する抗hTfR抗体を産生する細胞株として選択することができ,ひいては,hTfRに対して高親和性を有する抗hTfR抗体をコードする遺伝子を選択できる。このようにして選択された細胞株から,抗hTfR抗体をコードする遺伝子を含むDNA断片を,PCR法を用いて増幅することにより,高親和性抗体をコードする遺伝子を単離することができる。
【0055】
上記の人工的に再構築した抗体遺伝子からの,高親和性を有する抗hTfR抗体をコードする遺伝子の選択は,人工的に再構築した抗体遺伝子を発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを大腸菌に導入し,この大腸菌を培養して得た培養上清又は大腸菌を溶解させて得た抗体を含む溶液を用いて,上述のハイブリドーマ細胞を選択する場合と同様の方法で,所望の遺伝子を有する大腸菌を選択することによってもできる。選択された大腸菌株は,hTfRに対して相対的に高い親和性を有する抗hTfR抗体をコードする遺伝子を発現するものである。この大腸菌株から,hTfRに対して相対的に高い親和性を有する抗hTfR抗体をコードする遺伝子を単離できる。大腸菌の培養上清中に抗体を分泌させる場合には,N末端側に分泌シグナル配列が結合するように抗体遺伝子を発現ベクターに組み込めばよい。
【0056】
高親和性を有する抗hTfR抗体をコードする遺伝子を選択する他の方法として,上述の人工的に再構築した抗体遺伝子にコードされた抗体をファージ粒子上に保持させて発現させる方法がある。このとき,抗体遺伝子は,一本鎖抗体をコードする遺伝子として再構築される。抗体をファージ粒子上に保持する方法は,国際公開公報(WO1997/09436,WO1995/11317)等に記載されており,周知である。人工的に再構築した抗体遺伝子にコードされた抗体を保持するファージから,抗hTfR抗体に対して高親和性を有する抗体を保持するファージを選択する場合,組換えhTfRを,プレートに添加して保持させた後,ファージと接触させ,次いでプレートから組換えhTfRと結合していないファージを除去し,プレートに保持されたファージの量を測定する方法が用いられる。この方法によれば,ファージ粒子上に保持された抗体のhTfRに対する親和性が高いほど,プレートに保持されたファージの量が多くなる。従って,プレートに保持されたファージの量を測定し,より多くのファージが保持されたプレートに対応するファージ粒子を,hTfRに対して相対的に高い親和性を有する抗hTfR抗体を産生するファージ粒子として選択することができ,ひいては,hTfRに対して高親和性を有する抗hTfR抗体をコードする遺伝子を選択できる。このようにして選択されたファージ粒子から,抗hTfR抗体をコードする遺伝子を含むDNA断片を,PCR法を用いて増幅することにより,高親和性抗体をコードする遺伝子を単離することができる。
【0057】
上記の抗hTfR抗体に対して高親和性を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞等の細胞,又は抗hTfR抗体に対して高親和性を有する抗体を有するファージ粒子から,cDNA又はファージDNAを調製し,これを鋳型として,抗hTfR抗体の軽鎖,抗hTfR抗体の重鎖,又は抗hTfR抗体である一本鎖抗体の,全て又はその一部をコードする遺伝子を含むDNA断片を,PCR法等により増幅して単離することができる。同様にして,抗hTfR抗体の軽鎖の可変領域の全て又はその一部をコードする遺伝子を含むDNA断片,抗hTfR抗体の重鎖の可変領域の全て又はその一部をコードする遺伝子を含むDNA断片を,PCR法等により増幅して単離することもできる。
【0058】
この高親和性を有する抗hTfR抗体の軽鎖及び重鎖をコードする遺伝子の全て又はその一部を発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを用いて哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換し,得られた形質転換細胞を培養することにより,高親和性を有する抗hTfR抗体を産生させることができる。単離された抗hTfR抗体をコードする遺伝子の塩基配列から抗hTfR抗体のアミノ酸配列を翻訳し,このアミノ酸配列をコードするDNA断片を人工的に合成することもできる。DNA断片を人工的に合成する場合,適切なコドンを選択することにより,ホスト細胞における抗hTfR抗体の発現量を増加させることができる。
【0059】
元の抗hTfR抗体のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えるために,単離されたDNA断片に含まれる抗hTfR抗体をコードする遺伝子に,適宜変異を加えることもできる。変異を加えた後の抗hTfR抗体をコードする遺伝子は,元の遺伝子と,好ましくは80%以上の相同性を有するものであり,より好ましくは90%以上の相同性を有するものであるが,hTfRに対する親和性が失われない限り,相同性に特に制限はない。アミノ酸配列に変異を加えることにより,抗hTfR抗体と結合する糖鎖の数,糖鎖の種類を改変し,生体内における抗hTfR抗体の安定性を増加させること等もできる。
【0060】
抗hTfR抗体の軽鎖の可変領域の全て又はその一部をコードする遺伝子に変異を加える場合にあっては,変異を加えた後の遺伝子は,元の遺伝子と,好ましくは80%以上の相同性を有するものであり,より好ましくは90%以上の相同性を有するものであるが,hTfRに対する親和性が失われない限り,相同性に特に制限はない。軽鎖の可変領域のアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。軽鎖の可変領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。軽鎖の可変領域にアミノ酸を付加させる場合,軽鎖の可変領域のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は,元の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。特に,CDRのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個であり,より好ましくは1~3個であり,更に好ましくは1~2個である。CDRのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個であり,より好ましくは1~3個であり,更に好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。アミノ酸を付加させる場合,当該アミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~5個,より好ましくは1~3個,更に好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた各CDRのそれぞれのアミノ酸配列は,元の各CDRのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0061】
抗hTfR抗体の重鎖の可変領域の全て又はその一部をコードする遺伝子に変異を加える場合にあっては,変異を加えた後の遺伝子は,元の遺伝子と,好ましくは80%以上の相同性を有するものであり,より好ましくは90%以上の相同性を有するものであるが,hTfRに対する親和性が失われない限り,相同性に特に制限はない。重鎖の可変領域のアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。重鎖の可変領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。重鎖の可変領域にアミノ酸を付加させる場合,重鎖の可変領域のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた重鎖の可変領域のアミノ酸配列は,元の重鎖の可変領域のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。特に,CDRのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個であり,より好ましくは1~3個であり,更に好ましくは1~2個である。CDRのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個であり,より好ましくは1~3個であり,更に好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。アミノ酸を付加させる場合,当該アミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~5個,より好ましくは1~3個,更に好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた各CDRのそれぞれのアミノ酸配列は,元の各CDRのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0062】
上記の抗hTfR抗体の軽鎖の可変領域への変異と,上記の抗hTfR抗体の重鎖の可変領域への変異とを組み合わせて,抗hTfR抗体の軽鎖と重鎖の可変領域の両方に変異を加えることもできる。
【0063】
上記の抗hTfR抗体の軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸への置換としては,例えば,芳香族アミノ酸(Phe,Trp,Tyr),脂肪族アミノ酸(Gly,Ala,Leu,Ile,Val),アミド型アミノ酸(Gln,Asn),塩基性アミノ酸(Lys,Arg,His),酸性アミノ酸(Glu,Asp),水酸基を有するアミノ酸(Ser,Thr),分枝アミノ酸(Val,Leu,Ile),側鎖の小さいアミノ酸(Gly,Ala,Ser,Thr,Met),非極性側鎖を有するアミノ酸(Ala,Val,Leu,Ile,Pro,Phe,Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸どうしの置換が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換は,蛋白質の表現型に変化をもたらさない(即ち,保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり,種々の文献に記載されている(例えば,Bowieら, Science, 247:1306-1310(1990)を参照)。
【0064】
なお,抗hTfR抗体に変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合において,当該アミノ酸を介して抗hTfR抗体と筋肉において機能させるべき薬剤(生理活性蛋白質を含む)とを結合させたときは,当該アミノ酸は,結合体において抗hTfR抗体の一部を構成するものとする。
【0065】
上記の方法等によって選択されたhTfRに対して比較的高い親和性を有する抗hTfR抗体を産生する細胞を培養して得られる抗hTfR抗体,及び,高親和性を有する抗hTfR抗体をコードする遺伝子を発現させて得られる抗hTfR抗体は,そのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を導入することにより所望の特性を有する抗体に改変させることもできる。抗hTfR抗体のアミノ酸配列への変異の導入は,そのアミノ酸配列に対応する遺伝子に変異を加えることによって行われる。
【0066】
抗hTfR抗体は,その抗体の可変領域のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えることにより,抗体のhTfRに対する親和性を適宜調整することができる。例えば,抗体と抗原との親和性が高く,水性液中での解離定数が著しく低い場合,これを生体内に投与したときに,抗体が抗原と解離せず,その結果,機能上の不都合が生じる可能性がある。このような場合に,抗体の可変領域に変異を導入することにより,解離定数を,元の抗体の2~5倍,5~10倍,10~100倍等と段階的に調整し,目的に合致した最も好ましい抗体を獲得し得る。逆に,当該変異の導入により,解離定数を,元の抗体の1/2~1/5倍,1/5~1/10倍,1/10~1/100倍等と段階的に調整することもできる。
【0067】
抗hTfR抗体のアミノ酸配列への置換,欠失,付加等の変異の導入は,例えば,抗hTfR抗体をコードする遺伝子を鋳型にして,PCR等の方法により,遺伝子の塩基配列の特定の部位に変異を導入するか,又はランダムに変異を導入することにより行うことができる。
【0068】
抗体とhTfRとの親和性の調整を目的とした,抗hTfR抗体のアミノ酸配列への変異の導入は,例えば,一本鎖抗体である抗hTfR抗体をコードする遺伝子をファージミドに組み込み,このファージミドを用いてカプシド表面上に一本鎖抗体を発現させたファージを作製し,変異原等を作用させることにより一本鎖抗体をコードする遺伝子上に変異を導入させながらファージを増殖させ,増殖させたファージから,所望の解離定数を有する一本鎖抗体を発現するファージを,上述の方法により選択するか,又は一定条件下で抗原カラムを用いて精製することにより,得ることができる。
【0069】
上記の高親和性抗体を産生する細胞を選択する方法により得られた,hTfRに対して相対的に高い親和性を有する抗体は,ヒト以外の動物の抗体である場合,ヒト化抗体とすることができる。ヒト化抗体とは,抗原に対する特異性を維持しつつ,ヒト以外の動物の抗体の可変領域の一部(例えば,特にCDRの全部又は一部)のアミノ酸配列によってヒト抗体の適切な領域を置き換えて(移植して)得られる抗体である。例えば,ヒト化抗体として,ヒト抗体を構成する免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を,他の哺乳動物のCDRで置き換えた抗体が挙げられる。ヒト抗体に組み込まれるCDRが由来する生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,ヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウス及びラットであり,更に好ましくはマウスである。ここで,非ヒト哺乳動物の抗体のCDRのみならず,CDRの構造保持あるいは抗原との結合に関与しているCDR外の領域のアミノ酸配列により,アクセプターとなるヒト抗体の対応する箇所を置き換えることが,ドナー抗体の持つ本来の活性を再現するために必要である場合があることも周知である。CDR外の領域は,フレームワーク領域(FR)ともいう。つまり,ヒト化抗体の作製は,ヒト抗体の可変領域のCDR(と場合によりその周辺のFR)に代えて,非ヒト哺乳動物の抗体のCDR(と場合によりその周辺のFR)を移植する作業を含む。
【0070】
以上のように,ヒト化抗体において,元のヒト抗体の可変領域に移植される非ヒト哺乳動物の抗体の領域は,一般に,CDRそれ自体,又はCDRとその周辺のFRを含む。但し,CDRとともに移植されるFRも,CDRの構造保持あるいは抗原との結合に関与しており,実質的に抗体の相補性を決定する機能を有すると考えられることから,本発明において「CDR」の語は,ヒト化抗体を作製する場合に,非ヒト哺乳動物の抗体からヒト化抗体に移植される,又は移植され得る領域をいう。即ち,一般にFRとされる領域であっても,それがCDRの構造保持あるいは抗原との結合に関与しており,実質的に抗体の相補性を決定する機能を有していると考えられるものである限り,本発明においてはCDRに含める。
【0071】
抗hTfR抗体が,ヒト化抗体又はヒト抗体である場合について,以下に更に詳しく説明する。ヒト抗体の軽鎖には,λ鎖とκ鎖がある。抗hTfR抗体を構成する軽鎖は,λ鎖とκ鎖のいずれであってもよい。また,ヒトの重鎖には,γ鎖,μ鎖,α鎖,σ鎖及びε鎖があり,それぞれ,IgG,IgM,IgA,IgD及びIgEに対応している。抗hTfR抗体を構成する重鎖は,γ鎖,μ鎖,α鎖,σ鎖及びε鎖のいずれであってもよいが,好ましくはγ鎖である。更に,ヒトの重鎖のγ鎖には,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖があり,それぞれ,IgG1,IgG2,IgG3及びIgG4に対応している。抗hTfR抗体を構成する重鎖がγ鎖である場合,そのγ鎖は,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖のいずれであってもよいが,好ましくは,γ1鎖又はγ4鎖である。抗hTfR抗体が,ヒト化抗体又はヒト抗体であり,且つIgGである場合,ヒト抗体の軽鎖はλ鎖とκ鎖のいずれでもあってもよく,ヒト抗体の重鎖は,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖のいずれであってもよいが,好ましくは,γ1鎖又はγ4鎖である。例えば,好ましい抗hTfR抗体の一つの態様として,軽鎖がλ鎖であり重鎖がγ4鎖であるもの,軽鎖がλ鎖であり重鎖がγ1鎖であるものが挙げられる。
【0072】
本発明において,抗hTfR抗体と結合させて結合体とすべき薬剤(生理活性蛋白質を含む)は,筋肉において機能させるべき薬剤である。抗hTfR抗体とそのような薬剤とを結合させる方法としては,非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーを介して結合させる方法がある。非ペプチドリンカーとしては,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体,ポリオキシエチル化ポリオール,ポリビニルアルコール,多糖類,デキストラン,ポリビニルエーテル,生分解性高分子,脂質重合体,キチン類,及びヒアルロン酸,又はこれらの誘導体,若しくはこれらを組み合わせたものを用いることができる。ペプチドリンカーは,ペプチド結合した1~50個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖若しくはその誘導体であって,そのN末端とC末端が,それぞれ抗hTfR抗体及び薬剤のいずれかと共有結合を形成することにより,抗hTfR抗体と薬剤とを結合させるものである。
【0073】
非ペプチドリンカーとしてPEGを用いて本発明の抗hTfR抗体と薬剤とを結合させたものは,特に,抗hTfR抗体-PEG-薬剤という。抗hTfR抗体-PEG-薬剤は,抗hTfR抗体とPEGを結合させて抗hTfR抗体-PEGを作製し,次いで抗hTfR抗体-PEGと薬剤とを結合させることにより製造することができる。又は,抗hTfR抗体-PEG-薬剤は,薬剤とPEGとを結合させて薬剤-PEGを作製し,次いで薬剤-PEGと抗hTfR抗体を結合させることによっても製造することができる。PEGを抗hTfR抗体及び薬剤と結合させる際には,カーボネート,カルボニルイミダゾール,カルボン酸の活性エステル,アズラクトン,環状イミドチオン,イソシアネート,イソチオシアネート,イミデート,又はアルデヒド等の官能基で修飾されたPEGが用いられる。これらPEGに導入された官能基が,主に抗hTfR抗体及び薬剤分子内のアミノ基と反応することにより,PEGとhTfR抗体及び薬剤が共有結合する。このとき用いられるPEGの分子量及び形状に特に限定はないが,その平均分子量(MW)は,好ましくはMW=500~60000であり,より好ましくはMW=500~20000である。例えば,平均分子量が約300,約500,約1000,約2000,約4000,約10000,約20000等であるPEGは,非ペプチドリンカーとして好適に使用することができる。
【0074】
例えば,抗hTfR抗体-PEGは,抗hTfR抗体とアルデヒド基を官能基として有するポリエチレングリコール(ALD-PEG-ALD)とを,該抗体に対するALD-PEG-ALDのモル比が11,12.5,15,110,120等になるように混合し,これにNaCNBH3等の還元剤を添加して反応させることにより得られる。次いで,抗hTfR抗体-PEGを,NaCNBH3等の還元剤の存在下で,薬剤と反応させることにより,抗hTfR抗体-PEG-薬剤が得られる。逆に,先に薬剤とALD-PEG-ALDとを結合させて薬剤-PEGを作製し,次いで薬剤-PEGと抗hTfR抗体を結合させることによっても,抗hTfR抗体-PEG-薬剤を得ることができる。
【0075】
薬剤が生理活性蛋白質(目的蛋白質)である場合にあっては,抗hTfR抗体と目的蛋白質とは,抗hTfR抗体の重鎖又は軽鎖のC末端側又はN末端側に,リンカー配列を介して又は直接に,それぞれ目的蛋白質のN末端又はC末端をペプチド結合により結合させることもできる。このように抗hTfR抗体と目的蛋白質とを結合させてなる融合蛋白質は,抗hTfR抗体の重鎖又は軽鎖をコードするcDNAの3’末端側又は5’末端側に,直接又はリンカー配列をコードするDNA配列を挟んで,目的蛋白質をコードするcDNAがインフレームで配置されたDNA断片を,哺乳動物細胞用の発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを導入した哺乳動物細胞を培養することにより,得ることができる。この哺乳動物細胞には,目的蛋白質をコードするDNA断片を重鎖と結合させる場合にあっては,抗hTfR抗体の軽鎖をコードするcDNA断片を組み込んだ哺乳動物細胞用の発現ベクターも,同じホスト細胞に導入され,また,目的蛋白質をコードするDNA断片を軽鎖と結合させる場合にあっては,抗hTfR抗体の重鎖をコードするcDNA断片を組み込んだ哺乳動物細胞用の発現ベクターも,同じホスト細胞に導入される。抗hTfR抗体が一本鎖抗体である場合,抗hTfR抗体と目的蛋白質とを結合させた融合蛋白質は,目的蛋白質をコードするcDNAの5’末端側又は3’末端側に,直接,又はリンカー配列をコードするDNA配列を挟んで,1本鎖抗hTfR抗体をコードするcDNAを連結したDNA断片を,(哺乳動物細胞,酵母等の真核生物又は大腸菌等の原核生物細胞用の)発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを導入したこれらの細胞中で発現させることにより,得ることができる。なお,融合蛋白質は結合体の一形態として理解されるべきものである。
【0076】
抗hTfR抗体の軽鎖のC末端側に目的蛋白質を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗ヒトトランスフェリン受容体抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,目的蛋白質が,この抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の軽鎖のC末端側に結合したものである。ここで抗hTfR抗体の軽鎖と目的蛋白質とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0077】
抗hTfR抗体の重鎖のC末端側に目的蛋白質を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗ヒトトランスフェリン受容体抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,目的蛋白質が,この抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の重鎖のC末端側に結合したものである。ここで抗hTfR抗体の重鎖と目的蛋白質とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0078】
抗hTfR抗体の軽鎖のN末端側に目的蛋白質を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗ヒトトランスフェリン受容体抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,目的蛋白質が,この抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の軽鎖のN末端側に結合したものである。ここで抗hTfR抗体の軽鎖と目的蛋白質とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0079】
抗hTfR抗体の重鎖のN末端側に目的蛋白質を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗ヒトトランスフェリン受容体抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,目的蛋白質が,この抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の重鎖のN末端側に結合したものである。ここで抗hTfR抗体の重鎖と目的蛋白質とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0080】
このとき抗hTfR抗体と目的蛋白質との間に配置されるリンカー配列は,好ましくは1~50個,より好ましくは1~17個,更に好ましくは1~10個,更により好ましくは1~5個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖であるが,抗hTfR抗体に結合させるべき目的蛋白質によって,リンカー配列を構成するアミノ酸の個数は,1個,2個,3個,1~17個,1~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個等と適宜調整できる。そのようなリンカー配列は,これにより連結された抗hTfR抗体がhTfRとの親和性を保持し,且つ当該リンカー配列により連結された目的蛋白質が,生理的条件下で当該蛋白質の生理活性を発揮できる限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,グリシン又はセリンのいずれか1個のアミノ酸からなるもの,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号4),又はこれらのアミノ酸配列が1~10個,あるいは2~5個連続してなる1~50個のアミノ酸からなる配列,2~17個,2~10個,10~40個,20~34個,23~31個,又は25~29個のアミノ酸からなる配列等を有するものである。例えば,アミノ酸配列Gly-Serを有するものはリンカー配列として好適に用いることができる。
【0081】
抗hTfR抗体がヒト化抗体又はヒト抗体である場合,抗hTfR抗体と目的蛋白質とは,抗hTfR抗体の重鎖又は軽鎖のN末端(又はC末端)に,リンカー配列を介して又は直接に,目的蛋白質のC末端(又はN末端)を,それぞれペプチド結合により結合させることができる。目的蛋白質を抗hTfR抗体の重鎖のN末端側(又はC末端側)に結合させる場合,抗hTfR抗体のγ鎖,μ鎖,α鎖,σ鎖又はε鎖のN末端(又はC末端)に,リンカー配列を介し又は直接に,目的蛋白質のC末端(又はN末端)が,ペプチド結合によりそれぞれ結合される。抗hTfR抗体の軽鎖のN末端側(又はC末端側)に目的蛋白質を結合させる場合,抗hTfR抗体のλ鎖又はκ鎖のN末端(又はC末端)に,リンカー配列を介し又は直接に,目的蛋白質のC末端(又はN末端)が,ペプチド結合によりそれぞれ結合される。但し,抗hTfR抗体が,Fab領域からなるもの又はFab領域とヒンジ部の全部若しくは一部とからなるもの(Fab,F(ab’)2及びF(ab’))の場合,目的蛋白質は,Fab,F(ab’)2及びF(ab’)を構成する重鎖又は軽鎖のN末端(又はC末端)に,リンカー配列を介して又は直接に,そのC末端(又はN末端)をペプチド結合によりそれぞれ結合させることができる。
【0082】
抗hTfR抗体と目的蛋白質との融合蛋白質において,抗hTfR抗体が一本鎖抗体である場合,免疫グロブリン軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と免疫グロブリン重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とは,一般にリンカー配列を介して,結合される。このとき,hTfRに対する抗hTfR抗体の親和性が保持される限り,軽鎖由来のアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列が結合し,更にそのC末端側に重鎖由来のアミノ酸配列が結合してもよく,またこれとは逆に,重鎖由来のアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列が結合し,更にそのC末端側に軽鎖由来のアミノ酸配列が結合してもよい。一本鎖抗体がscFvであっても同様である。
【0083】
ここで免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の間に配置されるリンカー配列は,好ましくは2~50個,より好ましくは8~50個,更に好ましくは10~30個,更により好ましくは12~18個又は15~25個,例えば15個若しくは25個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖である。そのようなリンカー配列は,これにより両鎖が連結されてなる抗hTfR抗体がhTfRと親和性を保持し且つ当該抗体に結合した目的蛋白質が,生理的条件下でその生理活性を発揮できる限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンのみ又はグリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号4),又はこれらのアミノ酸配列が2~10個,あるいは2~5個連続してなる配列を有するものである。リンカー配列の好ましい一態様として,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)が3個連続してなる15個のアミノ酸からなる配列が挙げられる。
【0084】
抗hTfR抗体が一本鎖抗体である場合におけるこのような融合蛋白質は,例えば,融合蛋白質をコードする塩基配列を有するDNA断片を組み込んだ発現ベクターで哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。
【0085】
なお,本発明において,1つのペプチド鎖に複数のリンカー配列が含まれる場合,便宜上,各リンカー配列はN末端側から順に,第1のリンカー配列,第2のリンカー配列というように命名する。
【0086】
抗hTfR抗体と融合させるべき目的蛋白質には,その蛋白質が筋肉において機能させるべきものである限り,特に制限はない。目的蛋白質として好ましいものとして,例えば,筋肉に機能障害を生じるリソソーム病の原因遺伝子にコードされるリソソーム酵素がある。このようなリソソーム酵素には,ヒト酸性α-グルコシダーゼ(hGAA),ヒトα-ガラクトシダーゼAがあるが,これに限らず,α-L-イズロニダーゼ(IDUA),イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS),グルコセレブロシダーゼ(GBA),β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ(LAMAN),β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ(GALC),サポシンC,アリルスルファターゼA(ARSA),α-L-フコシダーゼ(FUCA1),アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM),β-グルクロニダーゼ(GUSB),ヘパランN-スルファターゼ(SGSH),α-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAGLU),アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ(AC),アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(PPT-1),トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP-1),ヒアルロニダーゼ-1,CLN1,CLN2等も含まれる。
【0087】
以下,抗hTfR抗体とリソソーム酵素との融合蛋白質について,酸性α-グルコシダーゼとα-ガラクトシダーゼAを例に採り詳述する。
【0088】
抗hTfR抗体とヒト酸性α-グルコシダーゼ(hGAA)との融合蛋白質は,これをポンぺ病患者に投与したとき,該患者の筋細胞中に取り込まれ,リソソームまで運ばれる。そうして,ポンぺ病患者の筋細胞のリソソーム内に蓄積したグリコーゲンを分解する。ポンぺ病の場合,主に骨格筋細胞からなる筋肉及び主に心筋細胞からなる筋肉がターゲットとなる。ポンぺ病では心筋及び骨格筋の機能障害が症状の中心であるが,この融合蛋白質を投与することにより,骨格筋細胞及び心筋細胞に蓄積したグリコーゲンが分解されるので,求心性心肥大,骨格筋侵襲による筋力低下,筋緊張低下等の諸症状を改善することができる。つまり,抗hTfR抗体とヒト酸性α-グルコシダーゼの融合蛋白質は,ポンぺ病における,骨格筋の機能障害又は/及び心臓障害の治療剤として使用できる。
【0089】
抗hTfR抗体とヒト酸性α-グルコシダーゼの融合蛋白質の好適な具体例として,ヒト酸性α-グルコシダーゼと抗hTfR抗体の融合蛋白質であって,該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が配列番号24のアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖がそのC末端側で,リンカー配列Gly-Serを介して,ヒト酸性α-グルコシダーゼと結合しており,全体として配列番号27で示されるアミノ酸配列を有するものである,融合蛋白質が挙げられる。
【0090】
また,ヒト酸性α-グルコシダーゼと抗hTfR抗体の融合蛋白質であって,配列番号24のアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体の軽鎖と,配列番号25のアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体の重鎖のC末端に,リンカー配列Gly-Serを介して,配列番号1で示されるヒト酸性α-グルコシダーゼが結合したものとを含む,融合蛋白質がある。
【0091】
抗hTfR抗体とヒトα-ガラクトシダーゼA(hα-GalA)の融合蛋白質は,これをファブリー病患者に投与したとき,該患者の筋細胞中に取り込まれ,リソソームまで運ばれる。そうして,ファブリー病患者の筋細胞のリソソーム内に蓄積したトリヘキソシルセラミドを分解する。ファブリー病の場合,主に心筋細胞からなる筋肉がターゲットとなる。ファブリー病では心血管系の異常が認められるが,この融合蛋白質を投与することにより,心筋細胞に蓄積したトリヘキソシルセラミドが分解されるので,心室肥大等の心血管系異常の諸症状を改善することができる。この融合蛋白質は,主に心臓が障害される非典型的なタイプのファブリー病である心ファブリー病に,特に有効である。つまり,抗hTfR抗体とヒトα-ガラクトシダーゼAの融合蛋白質は,ファブリー病,特に心ファブリー病における,心臓障害の治療剤として使用できる。
【0092】
抗hTfR抗体とヒトα-ガラクトシダーゼAの融合蛋白質の好適な具体例として,ヒトα-ガラクトシダーゼAと抗hTfR抗体の融合蛋白質であって,該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が配列番号24のアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖がそのC末端側で,リンカー配列Gly-Serを介して,ヒトα-ガラクトシダーゼAと結合しており,全体として配列番号29で示されるアミノ酸配列を有するものである,融合蛋白質が挙げられる。
【0093】
また,ヒトα-ガラクトシダーゼAと抗hTfR抗体の融合蛋白質であって,配列番号24のアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体の軽鎖と,配列番号25のアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体の重鎖のC末端に,リンカー配列Gly-Serを介して,配列番号2で示されるヒトα-ガラクトシダーゼAが結合したものとを含む,融合蛋白質がある。
【0094】
本発明の抗hTfR抗体と薬剤とを結合させた結合体は,血中に投与して筋肉において薬効を発揮させるべき医薬組成物として使用することができる。かかる薬剤は,一般に点滴静脈注射等による静脈注射,皮下注射,筋肉注射により患者に投与されるが,投与経路には特に限定はない。
【0095】
本発明の抗hTfR抗体と薬剤とを結合させた結合体は,医薬組成物として,凍結乾燥品,又は水性液剤等の形態で医療機関に供給することができる。水性液剤の場合,医薬組成物を,安定化剤,緩衝剤,等張化剤を含有する溶液に予め溶解したものを,バイアル又は注射器に封入した製剤として供給できる。注射器に封入された製剤は,一般にプレフィルドシリンジ製剤と呼称される。プレフィルドシリンジ製剤とすることにより,患者自身による薬剤の投与を簡易にすることができる。
【0096】
水性液剤として供給される場合,水性液剤に含有される結合体の濃度は,用法用量によって適宜調整されるべきものであるが,例えば1~4mg/mLである。また,水性液剤に含有される安定化剤は,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,非イオン性界面活性剤が好適に使用できる。このような非イオン性界面活性剤としては,ポリソルベート,ポロキサマー等を単独で又はこれらを組合せて使用できる。ポリソルベートとしてはポリソルベート20,ポリソルベート80が,ポロキサマーとしてはポロキサマー188(ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール)が特に好適である。また,水性液剤に含有される非イオン性界面活性剤の濃度は,0.01~1mg/mLであることが好ましく,0.01~0.5mg/mLであることがより好ましく,0.1~0.5mg/mLであることが更に好ましい。安定化剤として,ヒスチジン,アルギニン,メチオニン,グリシン等のアミノ酸を使用することもできる。安定化剤として使用する場合の,水性液剤に含有されるアミノ酸の濃度は,0.1~40mg/mLであることが好ましく,0.2~5mg/mLであることがより好ましく,0.5~4mg/mLであることが更に好ましい。水性液剤に含有される緩衝剤は,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,リン酸塩緩衝剤が好ましく,特にリン酸ナトリウム緩衝剤が好ましい。緩衝剤としてリン酸ナトリウム緩衝剤を使用する場合の,リン酸ナトリウムの濃度は,好ましくは0.01~0.04Mである。また,緩衝剤によって調整される水性液剤のpHは,好ましくは5.5~7.2である。水性液剤に含有される等張化剤は,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,塩化ナトリウム,マンニトールを単独で又は組み合わせて等張化剤として好適に使用できる。
【実施例0097】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0098】
〔実施例1〕hTfR発現用ベクターの構築
ヒト脾臓Quick Clone cDNA(Clontech社)を鋳型として,プライマーhTfR5’(配列番号7)及びプライマーhTfR3’(配列番号8)を用いて,PCRによりヒトトランスフェリン受容体(hTfR)をコードする遺伝子断片を増幅させた。増幅させたhTfRをコードする遺伝子断片を,MluIとNotIで消化し,pCI-neoベクター(Promega社)のMluIとNotI間に挿入した。得られたベクターを,pCI-neo(hTfR)と名付けた。次いで,このベクターを,MluIとNotIで消化して,hTfRをコードする遺伝子断片を切り出し,国際公開公報(WO2012/063799)に記載された発現ベクターであるpE-mIRES-GS-puroのMluIとNotIの間に組み込むことにより,hTfR発現用ベクターであるpE-mIRES-GS-puro(hTfR)を構築した。
【0099】
〔実施例2〕組換えhTfRの作製
エレクトロポレーション法により,CHO-K1細胞にpE-mIRES-GS-puro(hTfR)を導入した後,メチオニンスルホキシミン(MSX)及びピューロマイシンを含むCD OptiCHOTM培地(Invitrogen社)を用いて細胞の選択培養を行い,組換えhTfR発現細胞を得た。この組換えhTfR発現細胞を培養して,組換えhTfRを調製した。
【0100】
〔実施例3〕組換えhTfRを用いたマウスの免疫
実施例2で調製した組換えhTfRを抗原として用いてマウスを免疫した。免疫は,マウスに抗原を静脈内投与又は腹腔内投与して行った。
【0101】
〔実施例4〕ハイブリドーマの作製
最後に抗原を投与した日の約1週間後にマウスの脾臓を摘出してホモジナイズし,脾細胞を分離した。得られた脾細胞をマウスミエローマ細胞株(P3.X63.Ag8.653)とポリエチレングリコール法を用いて細胞融合させた。細胞融合終了後,(1 X)HATサプリメント(Life Technologies社)及び10% Ultra low IgGウシ胎児血清(Life Technologies社)を含むRPMI1640培地に細胞を懸濁させ,細胞懸濁液を96ウェルプレート20枚に200 μL/ウェルずつ分注した。炭酸ガス培養器(37℃,5% CO2)で細胞を10日間培養した後,各ウェルを顕微鏡下で観察し,単一のコロニーが存在するウェルを選択した。各ウェルの細胞がほぼコンフルエントになった時点で培養上清を回収し,これをハイブリドーマの培養上清として,以下のスクリーニングに供した。
【0102】
〔実施例5〕高親和性抗体産生細胞株のスクリーニング
組換えhTfR溶液(Sino Biologics社)を50 mM炭酸ナトリウム緩衝液(pH 9.5~9.6)で希釈して5 μg/mLの濃度に調整し,これを固相溶液とした。固相溶液を,Nunc MaxiSorpTM flat-bottom 96ウェルプレート(基材:ポリスチレン, Nunc社)の各ウェルに50 μLずつ添加した後,プレートを室温で1時間静置し,組換えhTfRをプレートに吸着させて固定した。固相溶液を捨て,各ウェルを250 μLの洗浄液(PBS-T: 0.05% Tween20を含有するPBS)で3回洗浄した後,各ウェルにブロッキング液(1% BSAを含有するPBS)を200 μLずつ添加し,プレートを室温で1時間静置した。
【0103】
ブロッキング液を捨て,各ウェルを250 μLのPBS-Tで3回洗浄した後,各ウェルにハイブリドーマの培養上清を50 μLずつ添加し,プレートを室温で1時間静置し,培養上清に含まれるマウス抗hTfR抗体を組換えhTfRに結合させた。このとき,コントロールとして,マウス抗hTfR抗体を産生しないハイブリドーマの培養上清をウェルに50 μL添加したものを置いた。また,各培養上清を加えたウェルの横のウェルに,ハイブリドーマの培養用培地を50 μL添加したものを置き,これをモックウェルとした。測定はn=2で実施した。次いで,溶液を捨て,各ウェルを250 μLのPBS-Tで3回洗浄した。
【0104】
上記の各ウェルに100 μLのHRP標識ヤギ抗マウスイムノグロブリン抗体溶液(プロメガ社)を添加し,プレートを室温で1分間静置した。次いで,溶液を捨て,各ウェルを250 μLのPBS-Tで3回洗浄した。次いで,各ウェルに50 μLの発色用基質液TMB Stabilized Substrate for Horseradish Peroxidase(プロメガ社)を添加し,室温で10~20分間静置した。次いで,各ウェルに100 μLの停止液(2 N 硫酸)を添加した後,プレートリーダーを用いて各ウェルの450 nmにおける吸光度を測定した。各培養上清及びコントロールの2つのウェルの平均値をとり,これらの平均値から,各培養上清及びコントロール毎に置いた2つのモックウェルの平均値をそれぞれ減じたものを測定値とした。
【0105】
高い測定値を示したウェルに添加した培養上清に対応する14種類のハイブリドーマ細胞を,hTfRに対して高親和性を示す抗体(高親和性抗hTfR抗体)を産生する細胞株(高親和性抗体産生細胞株)として選択した。これら14種の細胞株を,クローン1株~クローン14株と番号付けた。また,クローン1株~クローン14株が産生する抗hTfR抗体を,それぞれ抗hTfR抗体番号1~抗hTfR抗体番号14とした。
【0106】
〔実施例6〕高親和性抗hTfR抗体の可変領域のアミノ酸配列の解析
実施例5で選択したクローン1株~クローン14株の中から更にクローン株3を選択した。クローン株3のcDNAを調製し,このcDNAを鋳型として抗体の軽鎖及び重鎖をコードする遺伝子を増幅させた。増幅させた遺伝子の塩基配列を翻訳し,この細胞株の産生する抗hTfR抗体番号3の軽鎖及び重鎖の可変領域のアミノ酸配列を決定した。
【0107】
抗hTfR抗体番号3は,軽鎖の可変領域に配列番号9で示されるアミノ酸配列と,重鎖の可変領域に配列番号10で示されるアミノ酸配列とを含むものであった。また,その軽鎖の可変領域は,CDR1に配列番号11又は12,CDR2に配列番号13又は14,及びCDR3に配列番号15で示されるアミノ酸配列を含んでなり,その重鎖の可変領域は,CDR1に配列番号16又は17,CDR2に配列番号18又は19,及びCDR3に配列番号20又は21で示されるアミノ酸配列を含んでなるものであった。但し,CDRは上記のアミノ酸配列に限られず,これらのアミノ酸配列を含む領域,これらのアミノ酸配列の一部を含む連続した3個以上のアミノ酸からなるアミノ酸配列もCDRとすることができると考えられた。
【0108】
〔実施例7〕抗hTfR抗体のヒトTfR及びサルTfRへの親和性の測定
抗hTfR抗体とヒトTfR及びサルTfRへの親和性の測定は,バイオレイヤー干渉法(BioLayer Interferometry:BLI)を用いた生体分子相互作用解析システムであるOctetRED96(ForteBio社, a division of Pall Corporation)を用いて実施した。バイオレイヤー干渉法の基本原理について,簡単に説明する。センサーチップ表面に固定された生体分子の層(レイヤー)に特定波長の光を投射したとき,生体分子のレイヤーと内部の参照となるレイヤーの二つの表面から光が反射され,光の干渉波が生じる。測定試料中の分子がセンサーチップ表面の生体分子に結合することにより,センサー先端のレイヤーの厚みが増加し,干渉波に波長シフトが生じる。この波長シフトの変化を測定することにより,センサーチップ表面に固定された生体分子に結合する分子数の定量及び速度論的解析をリアルタイムで行うことができる。測定は,概ねOctetRED96に添付の操作マニュアルに従って実施した。ヒトTfRとしては,N末端にヒスチジンタグが付加した,配列番号1に示されるアミノ酸配列の中でN末端側から89番目のシステイン残基からC末端のフェニルアラニンまでの,hTfRの細胞外領域のアミノ酸配列を有する組換えヒトTfR(rヒトTfR:Sino Biological社)を用いた。サルTfRとしては,N末端にヒスチジンタグが付加した,配列番号2に示されるアミノ酸配列の中でN末端側から89番目のシステイン残基からC末端のフェニルアラニンまでの,カニクイザルのTfRの細胞外領域のアミノ酸配列を有する組換えサルTfR(rサルTfR:Sino Biological社)を用いた。
【0109】
実施例6で選択したクローン3株を,細胞濃度が約2 X 105個/mLとなるように,(1X)HATサプリメント(Life Technologies社)及び10% Ultra low IgGウシ胎児血清(Life Technologies社)を含むRPMI1640培地で希釈し,1 Lの三角フラスコに200 mLの細胞懸濁液を加え,37℃で,5% CO2と95% 空気からなる湿潤環境で約70 rpmの撹拌速度で6~7日間培養した。培養上清を遠心操作により回収し,0.22 μmフィルター(Millipore社)でろ過して,培養上清とした。回収した培養上清を,予め150 mM NaClを含むカラム体積3倍容の20 mM Tris緩衝液(pH8.0)で平衡化しておいたProtein Gカラム(カラム体積:1 mL,GEヘルスケア社)に負荷した。次いで,カラム体積の5倍容の同緩衝液によりカラムを洗浄した後,150 mM NaClを含むカラム体積の4倍容の50 mMグリシン緩衝液(pH 2.8)で,吸着した抗体を溶出させ,溶出画分を採取した。溶出画分に1 M Tris緩衝液(pH 8.0)を添加してpH 7.0に調整した。これを抗hTfR抗体番号3の精製品としてとして以下の実験に用いた。
【0110】
精製した抗hTfR抗体番号3を,それぞれHBS-P+(150 mM NaCl,50 μM EDTA及び0.05% Surfactant P20を含む10mM HEPES)で2段階希釈し,0.78125~50 nM(0.117~7.5 μg/mL)の7段階の濃度の抗体溶液を調製した。この抗体溶液をサンプル溶液とした。rヒトTfRとrサルTfRとを,それぞれHBS-P+で希釈し,25 μg/mLの溶液を調製し,それぞれrヒトTfR-ECD(Histag)溶液及びrサルTfR-ECD(Histag)溶液とした。
【0111】
上記2段階希釈して調製したサンプル溶液を,96 well plate, black(greiner bio-one社)に200 μL/ウェルずつ添加した。また,上記調製したrヒトTfR-ECD(Histag)溶液及びrサルTfR-ECD(Histag)溶液を,所定のウェルにそれぞれ200 μL/ウェルずつ添加した。ベースライン,解離用及び洗浄用のウェルには,HBS-P+を200 μL/ウェルずつ添加した。再生用のウェルには,10 mM Glycine-HCl(pH 1.7)を200 μL/ウェルずつ添加した。活性化用のウェルには,0.5 mM NiCl2溶液を200 μL/ウェルずつ添加した。このプレートと,バイオセンサー(Biosensor/Ni-NTA:ForteBio社,a division of Pall Corporation)を,OctetRED96の所定の位置に設置した。
【0112】
OctetRED96を下記の表1に示す条件で作動させてデータを取得後,OctetRED96付属の解析ソフトウェアを用いて,結合反応曲線を1:1結合モデルあるいは2:1結合モデルにフィッティングし,抗hTfR抗体と,rヒトTfR及びrサルTfRに対する会合速度定数(kon)及び解離速度定数(koff)を測定し,解離定数(KD)を算出した。なお,測定は25~30℃の温度下で実施した。
【0113】
【0114】
抗hTfR抗体番号3のヒトTfRとの解離定数(KD)は1X10-12M以下であり,サルTfRとの解離定数(KD)は1X10-12M以下であった。これらの結果は,抗hTfR抗体番号3が,ヒトTfRのみならずサルTfRとも高い親和性を有する抗体であることを示すものである。
【0115】
〔実施例8〕ヒト化抗hTfR抗体の作製
抗hTfR抗体番号3の軽鎖及び重鎖の可変領域に含まれるアミノ酸配列のヒト化を試みた。そして,配列番号22に示されるアミノ酸配列を有するヒト化された軽鎖の可変領域と,配列番号23に示されるアミノ酸配列を有するヒト化された重鎖の可変領域を得た。更に,軽鎖については,可変領域に配列番号22に示されるアミノ酸配列を有する,配列番号24で示されるアミノ酸配列の軽鎖を得た。また,重鎖については,可変領域に配列番号23に示されるアミノ酸配列を有する,配列番号25で示されるアミノ酸配列の重鎖を得た。なお,配列番号25で示されるアミノ酸配列の重鎖はIgG4タイプのものである。こうして得られたヒト化抗hTfR抗体のヒトTfRとの解離定数(KD)を実施例7に記載の方法で測定した。その結果,ヒト化抗hTfR抗体のヒトTfRとの解離定数(KD)は1X10-12M以下であり,サルTfRとの解離定数(KD)は約1X10-9Mであった。これらの結果は,得られた抗hTfR抗体番号3のヒト化抗体が,ヒトTfRのみならずサルTfRとも高い親和性を有する抗体であることを示すものである。
【0116】
〔実施例9:抗TfR抗体とhGAAの融合蛋白質をコードする遺伝子の構築〕
配列番号24で示されるアミノ酸配列の軽鎖をコードするDNA断片(配列番号26)を合成した。このDNA断片は,5’側には,5’端から順にMluI配列と,分泌シグナルとして機能するリーダーペプチドをコードする配列とを有し,3’側にはNotI配列を有する。
【0117】
また,配列番号25で示されるアミノ酸配列の重鎖のC末端側に,Gly-Serからなるリンカー配列を介して,配列番号1で示されるアミノ酸配列のヒト酸性α-グルコシダーゼが結合した,全体として配列番号27で示されるアミノ酸配列の蛋白質をコードするDNA断片(配列番号28)を合成した。このDNA断片は,5’側には,5’端から順にMluI配列と,分泌シグナルとして機能するリーダーペプチドをコードする配列とを有し,3’側にはNotI配列を有する。
【0118】
〔実施例10:抗TfR抗体とhGAAとの融合蛋白質発現ベクターの構築〕
pEF/myc/nucベクター(インビトロジェン社)を,KpnIとNcoIで消化し,EF-1αプロモーター及びその第一イントロンを含む領域を切り出し,これをT4 DNAポリメラーゼで平滑末端化処理した。pCI-neo(インビトロジェン社)を,BglII及びEcoRIで消化して,CMVのエンハンサー/プロモーター及びイントロンを含む領域を切除した後に,T4 DNAポリメラーゼで平滑末端化処理した。これに,上記のEF-1αプロモーター及びその第一イントロンを含む領域を挿入して,pE-neoベクターを構築した。pE-neoベクターを,SfiI及びBstXIで消化し,ネオマイシン耐性遺伝子を含む約1 kbpの領域を切除した。pcDNA3.1/Hygro(+)(インビトロジェン社)を鋳型にしてプライマーHyg-Sfi5’(配列番号30)及びプライマーHyg-BstX3’(配列番号31)を用いて,PCR反応によりハイグロマイシン遺伝子を増幅した。増幅したハイグロマイシン遺伝子を,SfiI及びBstXIで消化し,上記のネオマイシン耐性遺伝子を切除したpE-neoベクターに挿入して,pE-hygrベクターを構築した。
【0119】
pE-hygrベクター及びpE-neoベクターをそれぞれMluIとNotIで消化した。実施例9で合成した抗hTfR抗体の軽鎖をコードするDNA断片(配列番号26)と,抗hTfR抗体の重鎖とヒト酸性α-グルコシダーゼとを結合させた蛋白質をコードするDNA断片(配列番号28)をMluIとNotIで消化し,それぞれpE-hygrベクターとpE-neoベクターのMluI-NotI間に挿入した。得られたベクターを,それぞれヒト化抗hTfR抗体の軽鎖発現用ベクターのpE-hygr(LC)と抗hTfR抗体の重鎖とヒト酸性α-グルコシダーゼとを結合させた蛋白質発現用ベクターのpE-neo(HC-hGAA)とした。
【0120】
〔実施例11:hGAA-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質発現用細胞の作製〕
CHO細胞(CHO-K1:American Type Culture Collectionから入手)を,下記の方法により,GenePulser(Bio-Rad社)を用いて,実施例10で構築したpE-hygr(LC)及びpE-neo(HC-hGAA)で形質転換した。細胞の形質転換は概ね以下の方法で行った。5 X 105個のCHO-K1細胞をCD OptiCHOTM培地(Life Technologies社)を添加した3.5 cm培養ディッシュに播種し,37℃, 5% CO2の条件下で一晩培養した。培地をOpti-MEMTM I培地(Life Technologies社)に交換し,細胞を5 X 106細胞/mLの密度となるように懸濁した。細胞懸濁液100 μLを採取し,これにOpti-MEMTM I培地で100 μg/mLに希釈したpE-hygr(LC1)及びpE-neo(HC1)プラスミドDNA溶液を5 μLずつ添加した。GenePulser(Bio-Rad社)を用いて,エレクトロポレーションを実施し,細胞にプラスミドを導入した。細胞を,37℃, 5% CO2の条件下で一晩培養した後,0.5 mg/mLのハイグロマイシン及び0.8 mg/mLのG418を添加したCD OptiCHOTM培地で選択培養した。
【0121】
次いで,限界希釈法により,1ウェルあたり1個以下の細胞が播種されるように,96ウェルプレート上に選択培養で選択された細胞を播種し,各細胞が単クローンコロニーを形成するように約10日間培養した。単クローンコロニーが形成されたウェルの培養上清を採取し,培養上清中のヒト化抗体含量をELISA法にて調べ,hGAA-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質高発現細胞株を選択した。
【0122】
このときのELISA法は概ね以下の方法で実施した。96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc社)の各ウェルに,ヤギ抗ヒトIgGポリクローナル抗体溶液を0.05 M炭酸水素塩緩衝液(pH 9.6)で4 μg/mLに希釈したものを100 μLずつ加え,室温で少なくとも1時間静置して抗体をプレートに吸着させた。次いで,PBS-Tで各ウェルを3回洗浄後,Starting Block (PBS) Blocking Buffer(Thermo Fisher Scientific社)を各ウェルに200 μLずつ加えてプレートを室温で30分静置した。各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した後,PBS-BT(PBSに0.5% BSA及び0.05% Tween20を添加したもの)で適当な濃度に希釈した培養上清又はヒトIgG標準品を,各ウェルに100 μLずつ加え,プレートを室温で少なくとも1時間静置した。プレートをPBS-Tで3回洗浄した後,PBS-BTで希釈したHRP標識抗ヒトIgGポリクロ-ナル抗体溶液を,各ウェルに100 μLずつ加え,プレートを室温で少なくとも1時間静置した。PBS-Tで各ウェルを3回洗浄後,リン酸-クエン酸緩衝液(pH 5.0)を含む0.4 mg/mL o-フェニレンジアミンを100 μLずつ各ウェルに加え,室温で8~20分間静置した。次いで,1 mol/L 硫酸を100 μLずつ各ウェルに加えて反応を停止させ,96ウェルプレートリーダーを用いて,各ウェルの490 nmにおける吸光度を測定した。高い測定値を示したウェルに対応する細胞を,hGAA-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質高発現細胞株とした。この細胞株が発現するhGAAとヒト化抗hTfR抗体の融合蛋白質を,hGAA-抗hTfR抗体とした。
【0123】
〔実施例12〕hGAA-抗hTfR抗体の製造
hGAA-抗hTfR抗体を,以下の方法で製造した。実施例11で得たhGAA-抗hTfR抗体高発現株を,細胞濃度が約2 X 105個/mLとなるように,CD OptiCHOTM培地で希釈し,1 Lの三角フラスコに200 mLの細胞懸濁液を加え,37℃で,5% CO2と95% 空気からなる湿潤環境で約70 rpmの撹拌速度で6~7日間培養した。培養上清を遠心操作により回収し,0.22 μmフィルター(Millipore社)でろ過して,培養上清とした。回収した培養上清に,カラム体積の5倍容の150 mL NaClを含む20 mM Tris緩衝液(pH 8.0)を添加し,カラム体積の3倍容の150 mM NaClを含む20 mM Tris緩衝液(pH 8.0)で予め平衡化しておいたProtein Aカラム(カラム体積:1 mL,Bio-Rad社)に負荷した。次いで,カラム体積の5倍容の同緩衝液を供給してカラムを洗浄した後,150 mM NaClを含むカラム体積の4倍容の50 mM グリシン緩衝液(pH 2.8)で,吸着したhGAA-抗hTfR抗体を溶出させた。このhGAA-抗hTfR抗体を含む溶出液のpHを1 M Tris緩衝液(pH 8.0)を添加してpH 7.0に調整し,次いでアミコンウルトラ30kDa膜(Millipore社)を用いてPBSにバッファー交換した。これをhGAA-抗hTfR抗体の精製品とした。
【0124】
〔実施例13〕ヒト骨格筋を用いた細胞内へのhGAAの取り込み量の測定
ヒト骨格筋細胞(PromoCell社)をSkeletal Muscle Cell Growth Medium(Ready-to-use) (PromoCell社)にて8.0 X 104個/mLに希釈し,250μLずつCellnestTM(富士フイルム)でコートした96穴プレートの各ウェルに播種する。37℃, 5% CO2下で3日間培養後,培地を骨格筋細胞分化誘導用の培地Skeletal Muscle Cell Differentiation Medium (Ready-to-use) (PromoCell社)に交換する。そして,2日毎に分化誘導用培地で培地交換を行い,6日間分化誘導する。培地を除去した後,分化誘導用培地を用いて調製したhGAA-抗hTfR抗体ならびにhGAAの段階希釈液(0.005~20.0 μg/mL)を,被検物質として,それぞれ100 μLずつ各ウェルに添加し,37℃,5% CO2下で更に20時間培養する。
【0125】
培養後,培地を除き,300 μLのPBSで各ウェルを3回洗浄する。M-PERTM(with 0.5% Protease Inhibitor Cocktail,Thermo Fisher Scientific社)を100 μLずつ各ウェルに添加し,プレートシェーカーにて室温で25分間振とうして細胞抽出液を調製する。各ウェルから20 μLの抽出液を分取し,BCA protein assay kit(Pierce社)を用いて抽出液中に含まれる蛋白質を定量する。また,20 μLの抽出液を分取後の各ウェルに,PBS-BTを80 μLずつ添加し,プレートシェーカーにて室温で10分間振とうし,ELISA測定に供する細胞抽出液を調製する。
【0126】
被検物質を無添加のウェルの細胞から同様にして細胞抽出液を調製し,これをプール抽出液とする。hGAA-抗hTfR抗体ならびに市販の医療用hGAAを,プール抽出液で段階希釈し,検量線試料を調製する。被検物質は以下のELISA法により定量できる。
【0127】
ウサギをhGAAで免疫して得たウサギ抗hGAAポリクローナル抗体を,20 mmol/L 炭酸ナトリウム緩衝液(pH 9.0)で5 μg/mLに希釈し,100 μLずつ96穴プレート(MaxisorpTM)の各ウェルに添加し,プレートシェーカーにて室温で1時間振とうする。抗体溶液を除き,ブロッキング緩衝液(1% BSAを含むPBS)を300 μLずつ各ウェルに添加し,室温で1時間静置する。次いで,300 μLのPBS-Tで各ウェルを3回洗浄する。次いで,検量線試料ならびに各細胞抽出液をそれぞれ100 μLずつ各ウェルに添加し,プレートシェーカーにて室温で1時間振とうする。300 μLの洗浄液で各ウェルを3回洗浄後,PBS-BTで調製したBiotin標識化ウサギ抗hGAA抗体(自社調製)を100 μLずつ各ウェルに添加し,プレートシェーカーにて室温で1時間振とうする。300 μLの洗浄液で各ウェルを3回洗浄後,0.5% BSA/PBS(with 0.05% Tween20)で希釈したNeutrAvidin-HRP conjugate(Pierce社)を100 μLずつ各ウェルに添加し,プレートシェーカーにて室温で15分間振とうし,次いで300 μLの洗浄液で各ウェルを3回洗浄する。TMB Microwell Peroxidase Substrate (2-Component System,KPL 社)のTMB Peroxidase Substrateと TMB Peroxidase Substrate Solution Bの等量混合液を100 μLずつ各ウェルに添加して室温で発色反応させる。十分な発色が得られた後,100 μLずつ1 mol/Lリン酸を各ウェルに添加し,反応を停止させる。マイクロプレートリーダーで波長450 nmにおける吸光度を測定し,SoftMax Pro(Molecular Device社)を用いて検量線を作製し,これに各被検物質の測定値を内挿して,各被検物質の濃度を算出する。各細胞抽出液の被検物質濃度を蛋白濃度で除し,被検物質の細胞内取り込み量(ng/mg 蛋白質)とする。
【0128】
〔実施例14〕CD71-KI/GAA-KOマウスの作製
酸性α-グルコシダーゼ遺伝子(GAA遺伝子)をノックアウトし,且つヒトトランスフェリン受容体遺伝子(CD71遺伝子)をノックインしたCD71-KI/GAA-KOマウスを,一般的な遺伝子工学的手法により作製した。作成方法は概ね以下のとおりである。マウスGAA遺伝子のエクソン6に存在するBamHI部位に終止コドンとネオマイシン耐性遺伝子を挿入することにより,マウスGAA遺伝子をノックアウトすることのできるターゲティングベクター(GAAノックアウトベクター)を構築した。このターゲティングベクターは,配列番号32で示される塩基配列を含む。ターゲティングベクターを線状化した後,C57BL/6系統のES細胞にエレクトロポレーション法により導入した。導入後,ネオマイシン薬剤耐性を指標とした選択培養を行い,薬剤耐性ESクローンを取得した。得られた薬剤耐性ESクローンをゲノムPCRおよびサザンブロットによってスクリーニングし,特異的な相同組換えが成立したクローン(相同組換えESクローン)を選別した。相同組換えESクローンとICR系統の8細胞期胚を用い,アグリゲーション法でキメラ胚を作製した。レシピエントマウスにキメラ胚を移植してキメラマウスを出産させた。
【0129】
キメラマウスを自然交配させてGAA-KOヘテロマウスを作製し,さらに交配を重ねてGAA-KOホモマウスを作製した。CD71-KIヘテロマウスとGAA-KOホモマウスを交配させ,得られたマウスをスクリーニングしてCD71-KI/GAA-KOマウスを作製した。なお,CD71-KIヘテロマウスは,Sonoda H., et al. Molecular Therapy 26. 1366-74 (2018)に記載の方法に準じて作製した。
【0130】
〔実施例15〕マウスを用いた細胞内へのhGAAの取り込み量の測定
実施例12で作製したhGAA-抗hTfR抗体の精製品及び市販の医療用hGAAを,それぞれ生理食塩水を用いて4 mg/mLの溶液とした。これらの溶液を用いて,CD71-KI/GAA-KOマウスに,hGAA-抗hTfR抗体とhGAAをそれぞれ尾静脈より投与した。hGAA-抗hTfR抗体とhGAAの何れも1回当たりの投与量を20mgとして,隔週で計4回投与した。最後の投与の2週間後に,マウスを放血死させて,心臓,横隔膜,ヒラメ筋,前脛骨筋,及び大腿四頭筋を採取した。採取した組織は生理食塩水で洗浄した。これら筋組織に含まれるグリコーゲン濃度(mg/g湿組織重量)を実施例16に記載の方法で測定した。hGAA-抗hTfR抗体を投与した群をhGAA-抗hTfR抗体投与群,市販の医療用hGAAを投与した群をhGAA投与群とした。また,等量の生理食塩水を投与したCD71-KI/GAA-KOマウスをKOコントロール群とした。更に,等量の生理食塩水を投与した野生型マウスを野生型コントロール群とした。各群ともマウス5匹とした。
【0131】
各筋組織に含まれるグリコーゲン量の測定結果を
図1~5に示す。
図1は心臓,
図2は横隔膜,
図3はヒラメ筋,
図4は前脛骨筋,
図5は大腿四頭筋の測定結果をそれぞれ示す。各筋組織に含まれるグリコーゲン量は,hGAA投与群の各組織に含まれるグリコーゲン量を100%としたとき,hGAA-抗hTfR抗体投与群では,心臓で約7.5%,横隔膜で約6.5%,ヒラメ筋で約13.5%,前脛骨筋で約13.5%,大腿四頭筋で約6%にまで低下した。これらの結果は,市販の医療用hGAAと比較してhGAA-抗hTfR抗体が筋組織に蓄積したグリコーゲン量を効率よく分解できることを示すものである。ポンぺ病(糖原病II型)は,遺伝的に酸性α-グルコシダーゼ活性のほとんど又は全部を欠損することにより,細胞のリソソームにグリコーゲンが大量に蓄積する疾患であり,心筋及び骨格筋の機能障害が症状の中心となる。すなわち,hGAA-抗hTfR抗体はhGAAと比較してポンぺ病患者の心筋及び骨格筋に蓄積したグリコーゲンを効率よく分解することができるので,ポンペ病患者の酵素補充量法における治療剤として有望である。
【0132】
〔実施例16〕組織中に含まれるグリコーゲン量の測定法
ビーズ破砕機(BEADS CRUSHER μT-12,タイテック社)にセットしたホルダーに,実施例15で得た組織と15個の直径0.5 mmのSUSビーズを入れ,更に注射用水を加えた。ビーズ破砕機を作動させて組織を破砕した。得られた組織破砕物を15,000 rpm,10分間,4℃で遠心し,上清を検体溶液として採取し,測定時まで凍結保存した。
【0133】
グリコーゲン濃度の測定は,Glycogen Colorimetric/Fluorometric Assay Kit(Biovision社)を用い,概ね以下の手順で測定した。検量線試料(Glycogen Standard)を純水で段階的に希釈し,この希釈液をF96 Black plate(Nunc社)のウェルに50 μLずつ添加した。また,検体溶液を同様にウェルに50 μLずつ添加した。このとき,各検量線試料希釈液及び検体溶液を,それぞれ2ウェルに添加した。Hydrolysis Enzyme Mixを検量線試料を添加した2ウェル及び検体を添加した1ウェルに1 μLずつ添加混合し,室温にて30分間反応させ,グリコ―ゲンをグルコースに分解させた。更に,全てのウェルに蛍光試薬を含有するReaction Mixを50 μLずつ添加し,遮光下室温で30分間反応させた。蛍光プレートリーダー(SPECTRA max GEMINI XPS,モレキュラーデバイス社)を用いて蛍光強度を測定し(Ex/Em = 535/587 nm) ,検量線試料の理論濃度 (X) とシグナル平均値 (Y) からLinear fit curveにより作成した検量線より,Hydrolysis Enzyme Mixを添加した検体溶液及び添加していない検体溶液のグルコース濃度を算出した。次いで,Hydrolysis Enzyme Mixを添加した検体溶液のグルコース濃度測定値から添加していない検体溶液のグルコース濃度を減じ,この値を検体溶液のグリコーゲン濃度とした。検体溶液の調製に用いた組織の重量と,求めたグリコーゲン濃度から,各組織のグリコーゲン濃度(mg/g湿組織重量)を求めた。
本発明によれば,筋肉で機能させるべき薬剤であって,そのままでは筋肉へ十分に取り込まれない薬剤を,抗トランスフェリン受容体抗体と結合させた結合体とすることにより,筋肉に効率よく取り込まれるようにすることができるので,筋肉の疾患の新たな治療薬の開発に応用できる。また,筋肉で機能させるために大量に投与する必要のある蛋白質,例えばhGAAを,本発明を応用した融合蛋白質とすることによって,その投与量を大幅に減ずることができるので,医療経済上のメリットもある。