(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165043
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】物理量測定装置
(51)【国際特許分類】
G01F 1/684 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
G01F1/684 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160314
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 博幸
(72)【発明者】
【氏名】余語 孝之
(72)【発明者】
【氏名】ファティン ファハナー ビンティ ハリダン
(72)【発明者】
【氏名】伊集院 瑞紀
【テーマコード(参考)】
2F035
【Fターム(参考)】
2F035AA02
2F035EA03
2F035EA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】部品点数の増加や装置の大型化を抑制し、外部からの音圧による空気流量の測定精度の低下を抑制する物理量測定装置。
【解決手段】物理量測定装置は、熱式流量センサ151とリードフレーム154との間に配置される減衰部材157を備える。熱式流量センサは、半導体基板151aと半導体基板の表面側に形成されて樹脂封止部155から露出した薄膜部151dと流量検出部151bと凹部151cとを有する。リードフレームは、凹部の開口に連通する貫通孔154aと貫通孔に連通して裏面に沿って形成された通気溝154bとを有する。通路形成部材156は、貫通孔および通気溝とともに凹部を外部に連通させる通気通路158を形成し、貫通孔を閉鎖する部分が樹脂封止部から露出されている。減衰部材、通気通路と凹部との間を流通する気体に対する抵抗係数Kが2.76未満となる開口比βに設定された複数の連通孔157aを有する。
【選択図】
図4E
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リードフレームと、該リードフレームを部分的に封止する樹脂封止部と、前記リードフレームの表面に実装される熱式流量センサと、前記リードフレームの裏面に配置される通路形成部材と、を備える物理量測定装置であって、
前記熱式流量センサと前記リードフレームとの間に配置される減衰部材をさらに備え、
前記熱式流量センサは、半導体基板と、該半導体基板の表面側に形成されて前記樹脂封止部から露出した薄膜部と、該薄膜部の表面側に設けられた流量検出部と、前記半導体基板の裏面側に形成されて前記薄膜部の裏面側に隣接する凹部と、を有し、
前記リードフレームは、前記凹部の開口に連通する貫通孔と、該貫通孔に連通して前記裏面に沿って形成された通気溝と、を有し、
前記通路形成部材は、前記貫通孔および前記通気溝とともに前記凹部を外部に連通させる通気通路を形成し、前記貫通孔を閉鎖する部分が前記樹脂封止部から露出されており、
前記減衰部材は、前記通気通路と前記凹部との間を流通する気体に対する抵抗係数が2.76未満となる開口比に設定された複数の連通孔を有することを特徴とする物理量測定装置。
【請求項2】
前記減衰部材は、前記熱式流量センサを前記リードフレームに接着する接着シートであることを特徴とする請求項1に記載の物理量測定装置。
【請求項3】
前記接着シートの弾性率は、1[MPa]以上であることを特徴とする請求項2に記載の物理量測定装置。
【請求項4】
前記減衰部材は、メッシュであることを特徴とする請求項1に記載の物理量測定装置。
【請求項5】
前記抵抗係数をK、前記開口比をβとして、
式:K=0.85(1-β)/β2
が成立することを特徴とする請求項1に記載の物理量測定装置。
【請求項6】
周波数が10[kHz]以上、20[kHz]以下の前記気体の振動に対する前記熱式流量センサの信号の誤差が150[db]以下であることを特徴とする請求項1に記載の物理量測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物理量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車エンジンの吸気系に設置してエンジンの吸入空気量を検出するのに適する熱式空気流量センサに関する発明が知られている(下記特許文献1)。特許文献1に記載された熱式流量センサは、流量検出素子と、支持部材と、を備えている(同請求項1、第0010段落)。
【0003】
上記流量検出素子は、半導体基板を加工して設けられるダイアフラムと、そのダイアフラム上に設けられる発熱抵抗体と、その発熱抵抗体の上流側と下流側にそれぞれ設けられる測温抵抗体と、を有する。上記支持部材は、上記流量検出素子を、シート接着剤を介して接着保持する。
【0004】
さらに、上記支持部材は、ダイアフラムの裏面側に設けられる空洞部に一方が開口する連通孔を有している。上記シート接着材は、換気孔を有しており、その換気孔は、上記空洞部と上記連通孔の一方の開口とを連通するように、上記支持部材の連通孔の開口領域に対応するシート接着剤の領域に設けられている。
【0005】
また、内燃機関の吸入空気量を計測する熱式空気流量計に関する発明が知られている(下記特許文献2)。特許文献2は、リードフレームと、流量検出素子と、保護テープと、封止樹脂と、を備える樹脂パッケージ(同請求項1、第0006段落)を開示している。上記流量検出素子は、上記リードフレームの一面側に実装される。上記保護テープは、リードフレームの他面側に設けられる。上記封止樹脂は、上記流量検出素子の検出部と上記保護テープの一部を少なくとも露出する様に封止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-010023号公報
【特許文献2】特開2020-079711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載された従来の熱式空気流量センサは、たとえば、上記支持部材がリードフレームである場合(同請求項6、第一実施例、
図1および
図2)、ダイアフラムの裏面側に設けられる空洞部がリードフレームの連通孔を介して外部と連通する。この場合、たとえば、ターボチャージャからの音圧による空気の振動がリードフレームの連通孔を介して空洞部へ伝播し、ダイアフラムが振動して空気流量の測定精度が低下するおそれがある。
【0008】
一方、上記特許文献1に記載された従来の熱式空気流量センサは、たとえば、前記支持部材がリードフレーム上に接着保持された基板支持部材(同請求項7、第二実施例、
図4および
図5)である場合、上記のようなダイアフラムの振動を防止することが可能である。しかし、熱式空気流量センサの部品点数の増加や、熱式空気流量センサが大型化することなどに課題がある。
【0009】
また、上記特許文献1に記載された従来の熱式空気流量計は、上記保護テープを用いることで、熱式空気流量センサの部品点数の増加や大型化を抑制することができる。しかし、上記保護テープがターボチャージャからの音圧によって振動することで、センサチップのダイアフラム部が振動して、空気流量の測定精度が低下するおそれがある。
【0010】
本開示は、部品点数の増加や装置の大型化を抑制しつつ、外部からの音圧の影響による空気流量の測定精度の低下を抑制することが可能な物理量測定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様は、リードフレームと、該リードフレームを部分的に封止する樹脂封止部と、前記リードフレームの表面に実装される熱式流量センサと、前記リードフレームの裏面に配置される通路形成部材と、を備える物理量測定装置であって、前記熱式流量センサと前記リードフレームとの間に配置される減衰部材をさらに備え、前記熱式流量センサは、半導体基板と、該半導体基板の表面側に形成されて前記樹脂封止部から露出した薄膜部と、該薄膜部の表面側に設けられた流量検出部と、前記半導体基板の裏面側に形成されて前記薄膜部の裏面側に隣接する凹部と、を有し、前記リードフレームは、前記凹部の開口に連通する貫通孔と、該貫通孔に連通して前記裏面に沿って形成された通気溝と、を有し、前記通路形成部材は、前記貫通孔および前記通気溝とともに前記凹部を外部に連通させる通気通路を形成し、前記貫通孔を閉鎖する部分が前記樹脂封止部から露出されており、前記減衰部材は、前記通気通路と前記凹部との間を流通する気体に対する抵抗係数が2.76未満となる開口比に設定された複数の連通孔を有することを特徴とする物理量測定装置である。
【発明の効果】
【0012】
本開示の上記一態様によれば、部品点数の増加や装置の大型化を抑制しつつ、外部からの音圧の影響による測定精度の低下を抑制することが可能な物理量測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示に係る流量検出装置の一実施形態を示すシステム図。
【
図3A】
図2Aの物理量測定装置の封止材を配置する前の正面図。
【
図3B】
図2Bの物理量測定装置のカバーを取り付ける前の背面図。
【
図3C】
図3BのIII(C)-III(C)線に沿う物理量測定装置の断面図。
【
図3D】
図2AのIII(D)-III(D)線に沿う物理量測定装置の断面図。
【
図4B】
図4AのIV(B)-IV(B)線に沿う回路基板の断面図。
【
図4C】
図4Aの回路基板に実装されるチップパッケージの底面図。
【
図4D】
図4Cに示すチップパッケージのリードフレームの平面図。
【
図4E】
図4Bの回路基板に実装されたチップパッケージのIV(E)部の拡大図。
【
図5A】抵抗係数Kと減衰率A∞との関係を示すグラフ。
【
図5B】連通孔の直径dおよびピッチlと減衰率A∞との関係を示すグラフ。
【
図5C】メッシュの線径dおよびピッチlと減衰率A∞との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の物理量測定装置の実施形態を説明する。
【0015】
図1は、本開示に係る物理量測定装置の一実施形態を示すシステム図である。本実施形態の物理量測定装置100は、たとえば、電子燃料噴射方式の内燃機関制御システム1に使用される。内燃機関制御システム1は、たとえば、内燃機関10と、物理量測定装置100と、スロットルバルブ25と、スロットル角度センサ26と、アイドルエアコントロールバルブ27と、酸素センサ28と、制御装置4とを備えている。
【0016】
物理量測定装置100は、たとえば、主通路22である吸気ボディの通路壁に設けられた取り付け孔から主通路22の内部に挿入され、主通路22の通路壁に固定された状態で使用される。物理量測定装置100は、エアクリーナ21を通して取り込まれて主通路22を流れる被計測気体2である吸入空気の物理量を検出して制御装置4へ出力する。物理量測定装置100は、主通路22の通路壁から主通路22を流れる被計測気体2の主流れ方向に沿う主通路22の中心線22aへ向けて主通路22の径方向に突出している。すなわち、主通路22における物理量測定装置100の突出方向は、たとえば、主通路22の中心線22aに直交する方向である。
【0017】
スロットルバルブ25は、たとえば、被計測気体2の流れ方向において、吸気マニホールド24の上流側に配置されたスロットルボディ23に内蔵されている。制御装置4は、たとえば、アクセルペダルの操作量に基づいてスロットルバルブ25の開度を変化させ、内燃機関10のシリンダ11内の燃焼室へ流入する被計測気体2としての吸入空気の流量を制御する。スロットル角度センサ26は、スロットルバルブ25の開度を計測して制御装置4へ出力する。アイドルエアコントロールバルブ27は、スロットルバルブ25をバイパスする空気量を制御する。
【0018】
内燃機関10は、たとえば、シリンダ11と、ピストン12と、点火プラグ13と、燃料噴射弁14と、吸気弁15と、排気弁16と、回転角度センサ17と、を備えている。内燃機関10のピストン12の動作に基づいてエアクリーナ21を通して取り込まれた吸入空気は、主通路22を流れ、スロットルボディ23においてスロットルバルブ25により流量が制御される。スロットルボディ23を通過した吸入空気は、吸気マニホールド24を通過し、さらに吸気ポートに設けられた燃料噴射弁14を通過して、吸気弁15を介してシリンダ11内の燃焼室へ流入する。
【0019】
制御装置4は、物理量測定装置100から入力された被計測気体2としての吸入空気の物理量に基づいて燃料噴射弁14を制御して、吸入空気へ燃料を噴射させる。これにより、吸気マニホールド24を通過した吸入空気は、燃料噴射弁14から噴射された燃料と混合され、混合気の状態で燃焼室へ導かれる。制御装置4は、点火プラグ13の火花着火により燃焼室内の混合気を爆発的に燃焼させ、内燃機関10に機械エネルギを発生させる。
【0020】
回転角度センサ17は、ピストン12、吸気弁15、および排気弁16の位置や状態、さらに内燃機関10の回転速度に関する情報を検出して制御装置4へ出力する。燃焼により発生したガスは、シリンダ11の燃焼室から排気弁16を介して排気管へ排出され、排気ガス3として排気管から車外へ排出される。酸素センサ28は、排気管に設けられ、排気管を流れる排気ガス3の酸素濃度を計測して制御装置4へ出力する。
【0021】
制御装置4は、物理量測定装置100によって検出された主通路22を流れる被計測気体2としての吸入空気の物理量、たとえば、流量、温度、湿度、圧力などに基づいて、内燃機関制御システム1の各部を制御する。具体的には、制御装置4がアクセルペダルの操作量に基づいてスロットルバルブ25の開度を制御すると、主通路22を流れる被計測気体2としての吸入空気の流量が変化する。制御装置4は、たとえば物理量測定装置100によって検出された被計測気体2の流量に基づいて、燃料噴射弁14から噴射する燃料の供給量を制御する。これにより、内燃機関10が発生する機械エネルギが制御される。
【0022】
制御装置4は、物理量測定装置100の出力である吸入空気の物理量と、回転角度センサ17の出力に基づいて計測された内燃機関10の回転速度とに基づいて、燃料噴射量や点火時期を演算する。これらの演算結果に基づいて、制御装置4は、燃料噴射弁14による燃料噴射量や、点火プラグ13の点火時期を制御する。
【0023】
制御装置4は、実際には、さらに被計測気体2の温度、スロットルバルブ25の開度の変化状態、内燃機関10の回転速度の変化状態、排気ガス3の空燃比の状態に基づいて、燃料供給量や点火時期をきめ細かく制御している。制御装置4は、さらに内燃機関10のアイドル運転状態において、スロットルバルブ25をバイパスする空気量をアイドルエアコントロールバルブ27により制御し、アイドル運転状態での内燃機関10の回転速度を制御する。
【0024】
内燃機関10の主要な制御量である燃料供給量や点火時期は、いずれも物理量測定装置100の出力を主パラメータとして演算される。したがって、物理量測定装置100の測定精度の向上や、経時変化の抑制、信頼性の向上が、車両の制御精度の向上や信頼性の確保に関して重要である。
【0025】
特に近年、車両の省燃費に関する要望が非常に高く、また排気ガス浄化に関する要望が非常に高い。これらの要望に応えるには、物理量測定装置100により検出される吸入空気の物理量の検出精度の向上が極めて重要である。また、物理量測定装置100が高い信頼性を維持していることも大切である。
【0026】
物理量測定装置100が搭載される車両は、温度や湿度の変化が大きい環境で使用される。物理量測定装置100は、その使用環境における温度や湿度の変化への対応や、塵埃や汚染物質などへの対応も、考慮されていることが望ましい。
【0027】
また、物理量測定装置100は、内燃機関からの発熱の影響を受ける吸気管に装着される。このため、内燃機関の発熱が吸気管を介して物理量測定装置100に伝わる。物理量測定装置100は、被計測気体2と熱伝達を行うことにより被計測気体2の流量を検出するので、外部からの熱の影響をできるだけ抑制することが重要である。
【0028】
以下、
図2Aから
図2E、
図3Aから
図3D、および
図4Aから
図4Eを参照して、本実施形態の物理量測定装置100について、より詳細に説明する。なお、これらの各図では、
図1に示す主通路22における物理量測定装置100の突出方向に平行なX軸、主通路22の中心線22aに平行なY軸、および物理量測定装置100の厚さ方向に平行なZ軸からなる直交座標系を示す。なお、以下の説明では、主通路22の中心線22a(Y軸)に沿って被計測気体2が流れるものとする。
【0029】
図2Aから
図2Eは、それぞれ、
図1の物理量測定装置100の正面図、背面図、左側面図、右側面図、および上面図である。物理量測定装置100は、たとえば、ハウジング110とカバー120とを備えている。
【0030】
ハウジング110は、たとえば、合成樹脂材料を射出成型することによって製造される。カバー120は、たとえば、金属や合成樹脂を素材とする板状の部材である。カバー120は、たとえば、合成樹脂材料の成形品を使用することができる。ハウジング110とカバー120は、主通路22内に配置される物理量測定装置100の筐体を構成する。
【0031】
ハウジング110は、たとえば、フランジ111と、コネクタ112と、計測部113とを有している。
【0032】
フランジ111は、
図2Eに示すように、おおむね矩形の板状の形状を有し、対角線上の角部に一対の固定部111aを有している。固定部111aは、中央部にフランジ111を貫通して、固定ねじを挿通させる円筒状の貫通孔111bを有している。物理量測定装置100を主通路22に固定するには、主通路22に設けられた取り付け孔に計測部113を挿入する。そして、フランジ111の貫通孔111bに挿通させた固定ねじを主通路22のねじ穴に螺入して、フランジ111を主通路22の通路壁に固定する。これにより、物理量測定装置100が吸気ボディである主通路22に固定される。
【0033】
コネクタ112は、フランジ111から突出し、吸気ボディである主通路22の外部に配置され、外部機器に接続される。
図2Dに示すように、コネクタ112の内部には、複数の外部端子112aと補正用端子112bが設けられている。外部端子112aは、たとえば、物理量測定装置100の計測結果である流量や温度などの物理量の出力端子と、物理量測定装置100を動作させる直流電力を供給するための電源端子とを含む。
【0034】
補正用端子112bは、物理量測定装置100の製造後に物理量の計測を行い、それぞれの物理量測定装置100に対する補正値を求め、物理量測定装置100の内部のメモリに補正値を記憶するのに使用する。その後の物理量測定装置100による物理量の計測では、上記メモリに記憶された補正値に基づく補正データが使用され、補正用端子112bは使用されない。
【0035】
計測部113は、主通路22の通路壁に固定されるフランジ111から主通路22の中心線22aに向けて、中心線22aに直交する主通路22の径方向に突出するように延びている。計測部113は、おおむね直方体形状の扁平な角形の形状を有している。計測部113は、主通路22における計測部113の突出方向(X軸方向)に長さを有し、主通路22における被計測気体2の主流れ方向(Y軸方向)に幅を有している。また、計測部113は、突出方向(X軸方向)および被計測気体2の主流れ方向(Y軸方向)に直交する方向(Z軸方向)に厚さを有している。このように、計測部113が被計測気体2の主流れ方向に沿う扁平な形状を有することで、被計測気体2に対する流体抵抗を低減することができる。
【0036】
計測部113は、正面113a、背面113b、上流側の側面113c、下流側の側面113d、および下面113eを有している。正面113aと背面113bは、計測部113の他の面よりも面積が大きく、計測部113の突出方向(X軸方向)および主通路22の中心線22a(Y軸方向)におおむね平行である。上流側の側面113cと下流側の側面113dは、正面113aと背面113bよりも面積が小さい細長い形状を有し、主通路22の中心線22a(Y軸方向)におおむね直交している。下面113eは、計測部113の他の面よりも面積が小さく、主通路22の中心線22a(Y軸方向)におおむね平行で計測部113の突出方向(X軸方向)におおむね直交している。
【0037】
計測部113は、上流側の側面113cに副通路入口114を有し、下流側の側面113dに第1出口115および第2出口116を有している。副通路入口114、第1出口115、および、第2出口116は、計測部113の突出方向(X軸方向)における中央よりも先端側の計測部113の先端部に設けられている。これにより、主通路22の内壁面から離れた主通路22の中央部付近の被計測気体2を副通路入口114から取り込むことができる。そのため、物理量測定装置100は、内燃機関10の熱の影響による計測精度の低下を抑制できる。
【0038】
図3Aは、
図2Aの物理量測定装置100の封止材119を配置する前の正面図である。
図3Bは、
図1の物理量測定装置100のカバー120を取り付ける前の背面図である。
図3Cは、
図3BのIII(C)-III(C)線に沿う物理量測定装置100の断面図である。
図3Dは、
図2AのIII(D)-III(D)線に沿う物理量測定装置100の断面図である。
【0039】
図2Dに示すコネクタ112の外部端子112aは、たとえば
図3Aに示すように、ボンディングワイヤ143を介して回路基板140のパッドに接続されている。回路基板140は、たとえば、ボンディングワイヤ143が接続される面に、保護回路144が実装されている。保護回路144は、回路内の電圧を安定させ、ノイズを除去する。これらボンディングワイヤ143および保護回路144は、
図2Aに示すように、封止材119によって覆われて封止される。封止材119としては、たとえば、シリコーンゲルや、シリコーン系封止材よりも剛性が高いエポキシ系封止材を使用することができる。
【0040】
ハウジング110は、
図3Bに示すように、計測部113の背面113b側に、凹状の副通路溝117と、凹状の回路室118とを有している。
図3Dに示すように、副通路溝117は、開口部がカバー120によって閉鎖されることで、カバー120とともに副通路130を形成する。副通路130は、主通路22を流れる被計測気体2を取り込んで迂回させる。主通路22を流れる被計測気体2は、たとえば
図3Bに示すように、計測部113の上流側の側面113cに開口する副通路入口114から副通路130に取り込まれる。
【0041】
副通路溝117は、たとえば、第1副通路溝117aと、第2副通路溝117bとを有している。第1副通路溝117aは、
図3Bに示すように、計測部113の上流側の側面113cに開口する副通路入口114から、計測部113の下流側の側面113dに開口する第1出口115まで、主通路22の中心線22a(Y軸方向)に沿って延びている。第1副通路溝117aは、たとえば
図3Dに示すように、カバー120との間に第1副通路131を形成する。第1副通路131は、副通路入口114から取り込んだ被計測気体2を、第1出口115から主通路22へ戻す。
【0042】
第2副通路溝117bは、
図3Bに示すように、第1副通路溝117aの途中から分岐して、計測部113の突出方向(X軸方向)に沿ってフランジ111へ向けて延びている。さらに、第2副通路溝117bは、反対方向へ折り返すようにU字状にカーブして計測部113の突出方向(X軸方向)に沿って計測部113の先端部へ向けて延びている。第2副通路溝117bは、計測部113の先端部で主通路22の中心線22a(Y軸方向)に沿う方向へカーブして、計測部113の下流側の側面113dに開口する第2出口116に接続されている。たとえば、
図3Cに示すように、第2副通路溝117bは、開口部がカバー120によって閉鎖されることで、カバー120との間に第2副通路132を形成する。副通路130は、第1副通路131と第2副通路132とを含む。
【0043】
回路室118は、ハウジング110の計測部113の背面113b側で、フランジ111に接続された計測部113の基端側に凹状に設けられ、回路基板140を収容している。回路室118は、副通路溝117の第1副通路溝117aよりも計測部113の基端側で、主通路22を流れる被計測気体2の主流れ方向(Y軸方向)における第2副通路溝117bの上流側に隣接して設けられている。
【0044】
図4Aは、
図3Bの物理量測定装置100の回路基板140の正面図である。
図4Bは、
図4AのIV(B)-IV(B)線に沿う回路基板140の断面図である。
図4Cは、
図4Aの回路基板140に実装されるチップパッケージ150の底面図である。
図4Dは、
図4Cに示すチップパッケージ150のリードフレーム154の平面図である。
図4Eは、
図4Bの回路基板140に実装されたチップパッケージ150のIV(E)部の拡大図である。
【0045】
チップパッケージ150は、
図4Bに示すように、リードフレーム154と、そのリードフレーム154を部分的に封止する樹脂封止部155と、リードフレーム154の表面に実装される熱式流量センサ151と、を備える。また、チップパッケージ150は、たとえば、リードフレーム154の裏面に配置される通路形成部材156と、熱式流量センサ151とリードフレーム154との間に配置される減衰部材157をさらに備える。
【0046】
チップパッケージ150は、熱式流量センサ151と電子部品152とが、たとえば熱硬化性樹脂のトランスファーモールドによって成形された樹脂封止部155によって一体的に封止された構成を有している。
図4Aに示すように、チップパッケージ150の接続端子153は、はんだなどの接合材を介して回路基板140に実装されている。接続端子153は、
図3Bに示すように、硬化性封止材141によって封止されている。
【0047】
チップパッケージ150の接続端子153は、たとえば、
図4Bおよび
図4Dに示す電子部品152に接続される。チップパッケージ150は、たとえば、電子部品152によって熱式流量センサ151を駆動させる。電子部品152は、たとえば、LSIであり、ボンディングワイヤを介して熱式流量センサ151に接続され、熱式流量センサ151を駆動させる。
【0048】
熱式流量センサ151は、
図4Eに示すように、半導体基板151aと、その半導体基板151aの表面側に形成されて樹脂封止部155から露出した薄膜部151dと、を有している。また、熱式流量センサ151は、薄膜部151dの表面側に設けられた流量検出部151bと、半導体基板151aの裏面側に形成されて薄膜部151dの裏面側に隣接する凹部151cと、を有している。
【0049】
図示を省略するが、流量検出部151bは、たとえば、被計測気体2の流れ方向の上流側と下流側に配置された一対の温度センサと、その一対の温度センサの間に配置されたヒータと備えている。熱式流量センサ151は、たとえば、流量検出部151bの一対の温度センサによって温度差を検出することで、被計測気体2の流量を測定する。凹部151cの開口は、たとえば、縦横が1[mm]×1[mm]程度の正方形の形状を有している。
【0050】
熱式流量センサ151は、たとえば、
図4Bおよび
図4Cに示すように、回路基板140とチップパッケージ150の凹溝150cとの間に形成された計測通路132aを流れる被計測気体2の流量を計測する。計測通路132aは、たとえば、
図3Bおよび
図3Dに示すように、副通路溝117の第2副通路溝117b内、すなわち副通路130の第2副通路132内に形成される。
【0051】
リードフレーム154は、
図4Dおよび
図4Eに示すように、半導体基板151aの凹部151cの開口に連通する貫通孔154aと、その貫通孔154aに連通してリードフレーム154の裏面に沿って形成された通気溝154bと、を有している。ここで、リードフレーム154の裏面は、熱式流量センサ151および電子部品152が実装されるリードフレーム154の表面と反対側の面である。貫通孔154aは、たとえば、凹部151cの開口とおおむね等しい形状および寸法に形成されている。
【0052】
また、リードフレーム154は、たとえば、リードフレーム154の貫通孔154aに連通する通気溝154bの一端とは反対側の通気溝154bの他端に連通する貫通孔154cを有している。この貫通孔154cは、
図4Bに示すように、樹脂封止部155から露出され、回路室118に連通している。
図4Dに示す例において、リードフレーム154の裏面に3本の通気溝154bが形成されている。なお、通気溝154bの数は、特に限定されず、単数もしくは2本または4本以上の複数でもよい。
【0053】
通路形成部材156は、
図4Bに示すように、リードフレーム154の裏面に配置されている。通路形成部材156は、たとえば、樹脂製の基材の表面に粘着層が設けられたフィルム状の粘着テープであり、リードフレーム154の裏面に粘着層を介して接着されている。基材としては、たとえばフィルム状のポリイミドを用いることができる。また、粘着層としては、たとえばアクリル系やシリコーン系の粘着剤を用いることができる。すなわち、通路形成部材156は、たとえば、ポリイミドテープである。
【0054】
通路形成部材156は、
図4Dおよび
図4Eに示すように、リードフレーム154の貫通孔154aおよび貫通孔154cならびに通気溝154bとともに、半導体基板151aの凹部151cを外部に連通させる通気通路158を形成している。また、通路形成部材156は、リードフレーム154の貫通孔154aおよび貫通孔154cを閉鎖する部分が樹脂封止部155から露出されている。
【0055】
減衰部材157は、
図4Eに示すように、熱式流量センサ151とリードフレーム154との間に配置される。減衰部材157は、たとえば、熱式流量センサ151をリードフレーム154に接着する接着シートである。この場合、減衰部材157を構成する接着シートの基材は、たとえば、フィルム状のポリオレフィンまたはフィルム状のポリオレフィンにエポキシの粉体を海島状の分散させた構造を用いることができる。また、減衰部材157を構成する接着シートの粘着層は、たとえば、シリコーン系またはポリウレタン系の粘着剤を用いることができる。
【0056】
より具体的には、減衰部材157として、たとえば、日立化成株式会社製のダイボンディングフィルム、HR-9004、HR-9050Gなどが好適である。減衰部材157を構成する接着シートの厚さは、たとえば、15[μm]または30[μm]程度である。また、減衰部材157を構成する接着シートの弾性率は、たとえば、高温のエージングにより、1[MPa]以上になっている。なお、減衰部材157は、全体が接着シートである構成に限定されない。
【0057】
より具体的には、減衰部材157は、少なくともリードフレーム154の貫通孔154aと熱式流量センサ151の半導体基板151aの凹部151cとの間に配置される部分が、メッシュであってもよい。この場合、減衰部材157として、金属製のメッシュを用いることができる。また、減衰部材157は、メッシュ以外の部分、すなわち、リードフレーム154の貫通孔154aの外側に位置して、熱式流量センサ151とリードフレーム154との間に配置される部分が、接着シートによって構成されていてもよい。
【0058】
減衰部材157は、通気通路158と熱式流量センサ151の凹部151cとの間を流通する気体に対する抵抗係数が2.76未満となる開口比に設定された複数の連通孔157aを有している。たとえば、通気通路158と熱式流量センサ151の凹部151cとの間を流通する気体に対する抵抗係数をK、複数の連通孔157aの開口比をβとすると、以下の式(1)が成立する。
【0059】
K=0.85(1-β)/β2 ・・・(1)
【0060】
なお、複数の連通孔157aの開口比βは、リードフレーム154の貫通孔154aと熱式流量センサ151の凹部151cとの間に配置された減衰部材157の面積に対する複数の連通孔157aの開口面積の比である。より具体的には、
図4Dに示すように、減衰部材157の複数の連通孔157aは、たとえば、リードフレーム154の貫通孔154aの開口領域に千鳥状に配置されている。この場合、複数の連通孔157aの開口比βは、連通孔157aの直径をd、ピッチをlとして、以下の式(2)で表すことができる。
【0061】
β={π/(2×31/2)}×(d/l)2 ・・・(2)
【0062】
また、減衰部材157において、少なくともリードフレーム154の貫通孔154aの開口領域に配置される部分がメッシュである場合、複数の連通孔157aの開口比βは、線径をd、ピッチをlとして、以下の式(3)で表すことができる。
【0063】
β=(1-d/l)2 ・・・(3)
【0064】
本実施形態の物理量測定装置100は、前述のように、減衰部材157の複数の連通孔157aの開口比βを設定することで、たとえば、所定の範囲の周波数における被計測気体2の振動による熱式流量センサ151の信号の誤差が所定値以下にされている。より具体的には、たとえば、内燃機関制御システム1に設けられるターボチャージャの音圧により、被計測気体2に周波数が10[kHz]以上、20[kHz]以下の振動が発生する。
【0065】
本実施形態の物理量測定装置100は、前述のように、減衰部材157の複数の連通孔157aの開口比βを、通気通路158と熱式流量センサ151の凹部151cとの間を流通する気体に対する抵抗係数Kが2.76未満となる開口比βに設定している。これにより、本実施形態の物理量測定装置100は、周波数が10[kHz]以上、20[kHz]以下の被計測気体2の振動に対する熱式流量センサ151の信号の誤差が150[db]以下になっている。
【0066】
以下、本実施形態の物理量測定装置100の作用を説明する。
【0067】
図1に示すような内燃機関制御システム1では、たとえば、車両に搭載されるターボチャージャが発生する音圧によって、物理量測定装置100の副通路130に取り込まれた被計測気体2が所定の周波数で振動する場合がある。この場合、たとえば、
図4Bに示すように、チップパッケージ150の樹脂封止部155から露出した通路形成部材156が、リードフレーム154の貫通孔154aに対向する部分において振動する。
【0068】
ここで、リードフレーム154の貫通孔154aと、熱式流量センサ151の半導体基板151aの凹部151cとの間に、減衰部材157が配置されていない場合、通路形成部材156の振動により貫通孔154aと凹部151cの間を流通する空気が振動する。その結果、半導体基板151aの薄膜部151dが振動して、熱式流量センサ151による被計測気体2の流量の測定精度が低下する。
【0069】
これに対し、本実施形態の物理量測定装置100は、前述のように、リードフレーム154と、そのリードフレーム154を部分的に封止する樹脂封止部155と、リードフレーム154の表面に実装される熱式流量センサ151と、リードフレーム154の裏面に配置される通路形成部材156と、を備える。また、本実施形態の物理量測定装置100は、熱式流量センサ151とリードフレーム154との間に配置される減衰部材157をさらに備えている。熱式流量センサ151は、半導体基板151aと、その半導体基板151aの表面側に形成されて樹脂封止部155から露出した薄膜部151dと、その薄膜部151dの表面側に設けられた流量検出部151bと、半導体基板151aの裏面側に形成されて薄膜部151dの裏面側に隣接する凹部151cと、を有している。リードフレーム154は、凹部151cの開口に連通する貫通孔154aと、その貫通孔154aに連通してリードフレーム154の裏面に沿って形成された通気溝154bと、を有している。通路形成部材156は、貫通孔154aおよび通気溝154bとともに凹部151cを外部に連通させる通気通路158を形成し、貫通孔154aを閉鎖する部分が樹脂封止部155から露出されている。減衰部材157は、通気通路158と凹部151cとの間を流通する気体に対する抵抗係数Kが2.76未満となる開口比βに設定された複数の連通孔157aを有している。
【0070】
この構成により、チップパッケージ150の樹脂封止部155から露出した通路形成部材156が振動すると、減衰部材157の複数の連通孔157aを通してリードフレーム154の貫通孔154aと半導体基板151aの凹部151cとの間を空気が流通する。ここで、減衰部材157の複数の連通孔157aの開口比βは、通気通路158を構成する貫通孔154aと凹部151cとの間を流通する気体に対する抵抗係数Kが2.76未満となるように設定されている。
【0071】
図5Aは、抵抗係数Kと減衰率A∞との関係を示すグラフである。
図5Aに示すように、抵抗係数Kが2.76未満の場合、減衰率A∞はゼロより大となり、通気通路158を構成する貫通孔154aと凹部151cとの間を流通する気体の振動が減衰する。したがって、前述のように、減衰部材157の複数の連通孔157aの開口比βを、抵抗係数Kが2.76未満となるように設定することで、通気通路158と凹部151cとの間を流通する気体の振動を減衰させることができる。なお、開口比βは、たとえば、前述の式(2)または(3)により求めることができ、減衰率A∞は、α、Cを比例定数として、以下の式(4)から(6)により求めることができる。
【0072】
A∞=(1+α-αK)/(1+α+K) ・・・(4)
α=1.1×(1+K)1/2 ・・・(5)
K=C(1-β)/β2 ・・・(6)
【0073】
図5Bは、連通孔157aの直径dおよびピッチlと、減衰率A∞との関係を示すグラフである。なお、
図5Bにおいて、減衰部材157の複数の連通孔157aの配置は、
図4Dに示すような千鳥状の配置である。減衰部材157の複数の連通孔157aの開口比βは、前述の式(2)に示すように、連通孔157aの直径dとピッチlによって決まる。たとえば、前述のように、熱式流量センサ151の凹部151cの開口と、リードフレーム154の貫通孔154aが、1[mm]×1[mm]の正方形であるとする。この場合、熱式流量センサ151の凹部151cの開口と、リードフレーム154の貫通孔154aとの間に配置される、減衰部材157の連通孔157aの直径dおよびピッチlと、減衰率A∞との間には、
図5Bに示すような関係が成立する。
【0074】
すなわち、連通孔157aの直径dが20[μm]である場合、ピッチlを約30[μm]から約50[μm]までの範囲とすることで、減衰率A∞を0より大とすることができる。また、連通孔157aの直径dが50[μm]である場合、ピッチlを約80[μm]から約110[μm]までの範囲とすることで、減衰率A∞を0より大とすることができる。また、連通孔157aの直径dが100[μm]である場合、ピッチlを約170[μm]から約230[μm]までの範囲とすることで、減衰率A∞を0より大とすることができる。また、連通孔157aの直径dが200[μm]である場合、ピッチlを約330[μm]から約460[μm]までの範囲とすることで、減衰率A∞を0より大とすることができる。なお、連通孔157aをレーザー加工によって形成する場合には、直径dを100[μm]程度にすることで、バリの発生を抑制することが可能になる。
【0075】
図5Cは、減衰部材157を構成するメッシュの線径dおよびピッチlと、減衰率A∞との関係を示すグラフである。減衰部材157の複数の連通孔157aの開口比βは、前述の式(3)に示すように、連通孔157aを構成するメッシュの線径dとピッチlによって決まる。たとえば、前述のように、熱式流量センサ151の凹部151cの開口と、リードフレーム154の貫通孔154aが、1[mm]×1[mm]の正方形であるとする。この場合、熱式流量センサ151の凹部151cの開口と、リードフレーム154の貫通孔154aとの間に配置される、メッシュの線径dおよびピッチlと、減衰率A∞との間には、
図5Cに示すような関係が成立する。
【0076】
すなわち、減衰部材157を構成するメッシュの線径dが20[μm]である場合、ピッチlを約70[μm]から約200[μm]までの範囲とすることで、減衰率A∞を0より大とすることができる。また、メッシュの線径dが50[μm]である場合、ピッチlを約180[μm]から約500[μm]までの範囲とすることで、減衰率A∞を0より大とすることができる。また、メッシュの線径dが100[μm]である場合、ピッチlを約360[μm]から約1000[μm]までの範囲とすることで、減衰率A∞を0より大とすることができる。なお、メッシュの線径dを20[μm]、ピッチlを約100[μm]から約200[μm]までの範囲とすることで、空気の振動の減衰効果が高く、かつ減衰部材157の製造を容易にすることができる。
【0077】
以上のように、本実施形態の物理量測定装置100によれば、通路形成部材156を用いることで、特許文献1の第二実施例に記載された従来の熱式空気流量センサのような基板支持部材を使用する必要がなく、部品点数の増加や装置の大型化を抑制することができる。また、本実施形態の物理量測定装置100によれば、減衰部材157の複数の連通孔157aによって、通気通路158と熱式流量センサ151の凹部151cとの間を流通する空気の振動を減衰させ、外部からの音圧の影響による空気流量の測定精度の低下を抑制することができる。
【0078】
また、本実施形態の物理量測定装置100において、減衰部材157は、たとえば、熱式流量センサ151をリードフレーム154に接着する接着シートである。この構成により、従来から熱式流量センサ151をリードフレーム154に接着するために使用されていた接着シートを減衰部材157として使用することができる。したがって、物理量測定装置100の部品点数の増加や装置の大型化を抑制することができる。また、減衰部材157の設置および加工を容易にすることができる。
【0079】
また、本実施形態の物理量測定装置100において、減衰部材157として用いる接着シートの弾性率は、たとえば、1[MPa]以上である。この構成により、通気通路158と熱式流量センサ151の凹部151cとの間を流通する空気による減衰部材157のたわみを防止して、連通孔157aを通過する空気の振動をより確実に減衰させることが可能になる。
【0080】
また、本実施形態の物理量測定装置100において、減衰部材157は、たとえば、メッシュである。この構成により、減衰部材157の強度および耐久性を向上させることができる。たとえば、減衰部材157を構成するメッシュの材質が、リードフレーム154の材質と同じである場合、減衰部材157を構成するメッシュとリードフレーム154の線膨張係数が等しくなり、熱応力の発生を抑制することができる。また、減衰部材157に対する孔開け加工を省略して、製造工程を簡略化することが可能になる。
【0081】
また、本実施形態の物理量測定装置100は、通気通路158と熱式流量センサ151の凹部151cとの間を流通する空気に対する抵抗係数をK、複数の連通孔157aの開口比をβとして、前述の式(1):K=0.85(1-β)/β2が成立する。これにより、抵抗係数Kに基づいて複数の連通孔157aの開口比βを決定することができる。
【0082】
また、本実施形態の物理量測定装置100は、周波数が10[kHz]以上、20[kHz]以下の気体の振動に対する熱式流量センサ151の信号の誤差が150[db]以下である。この構成により、熱式流量センサ151による被計測気体2の流量の測定精度を向上させることが可能になる。
【0083】
以上、図面を用いて本開示に係る物理量測定装置の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。なお、通路形成部材として、300[℃]から350[℃]程度で軟化点を迎える低融点のガラスシートを用いてもよい。この場合、ガラスシートに配合されたフラックス、Ni、Auなどの金属が化学結合することにより、ガラスシートがリードフレームに一体化する。この場合、熱式流量センサとリードフレームとを接着する接着シートに、リードフレームの貫通孔または熱式流量センサの凹部の開口と同一の形状および寸法の開口を形成して、複数の連通孔を有する減衰部材を省略してもよい。
【符号の説明】
【0084】
100 物理量測定装置
151 熱式流量センサ
151a 半導体基板
151b 流量検出部
151c 凹部
151d 薄膜部
154 リードフレーム
154a 貫通孔
154b 通気溝
155 樹脂封止部
156 通路形成部材
157 減衰部材(接着シート、メッシュ)
157a 連通孔
158 通気通路
K 抵抗係数
β 開口比