(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165048
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 3/43 20060101AFI20231108BHJP
E02F 9/22 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
E02F3/43 B
E02F9/22 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167317
(22)【出願日】2020-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】廻谷 修一
(72)【発明者】
【氏名】楢▲崎▼ 昭広
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 輝樹
【テーマコード(参考)】
2D003
【Fターム(参考)】
2D003DA04
2D003DB02
2D003DB04
(57)【要約】
【課題】マシンコントロールの精度の低下を抑制することができる作業機械を提供する。
【解決手段】油圧ショベルは、車体1と、ブーム7、アーム8、及びバケット9を有する多関節型の作業機2と、作業機2の動作の指示を行う作業用操作装置20a,20bと、作業機2の姿勢に係る状態量を検出するセンサ13~16と、センサ13~16の検出結果に基づいて作業機2の姿勢を演算し、バケット9が目標面より下方に侵入しないように作業機2の動作を制御する制御装置32とを備える。制御装置32は、補正モードに切り替えられたときに、予め設定された作業機2の基準動作を行わせると共にバケット9の移動実速度を取得し、予め設定されたバケット9の基準速度と移動実速度との差分に基づいて、作業機2の動作を制御する制御値に対する補正値を演算し、通常モードに復帰したときに、補正値を用いて制御値を補正する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体に回動可能に連結されたブーム、前記ブームの先端部に回動可能に連結されたアーム、及び前記アームの先端部に回動可能に連結された作業具を有する多関節型の作業機と、
前記作業機の動作の指示を行う操作装置と、
前記作業機の姿勢に係る状態量を検出する姿勢検出器と、
前記姿勢検出器の検出結果に基づいて前記作業機の姿勢を演算し、前記作業具が目標面より下方に侵入しないように前記作業機の動作を制御する制御装置とを備えた作業機械において、
通常モードと前記作業機の動作を補正する補正モードとを切り替え可能なモード切替装置を備え、
前記制御装置は、
前記補正モードに切り替えられたときに、予め設定された前記作業機の基準動作を行わせると共に前記作業具の移動実速度を取得し、予め設定された前記作業具の基準速度と移動実速度との差分に基づいて、前記作業機の動作を制御する制御値に対する補正値を演算し、
前記通常モードに復帰したときに、前記補正値を用いて前記制御値を補正することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
前記補正モードに切り替えられたときに、前記作業機の姿勢が前記基準動作を開始するための初期姿勢であるかどうかを判定し、
前記作業機の姿勢が前記初期姿勢であって、動作開始のトリガーとして前記操作装置からの指示が入力されたときに、予め設定された制御値を用いて前記作業機の基準動作を行わせることを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項2に記載の作業機械において、
表示装置を備え、
前記制御装置は、前記作業機が前記初期姿勢でないときに、その旨を前記表示装置に表示させることを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機械において、
前記制御装置は、前記姿勢検出器の検出結果に基づいて前記作業具の移動実速度を演算することを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1に記載の作業機械において、
前記制御装置は、前記作業具の基準速度と移動実速度との差分が正の値である場合に、前記差分の増加に応じて前記補正値を増加させ、前記作業具の基準速度と移動実速度との差分が負の値である場合に、前記差分の減少に応じて前記補正値を減少させることを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械の一つである油圧ショベルは、車体と、車体に連結された多関節型の作業機と、作業機の動作を指示する複数の操作装置とを備える。車体は、走行可能な下部走行体と、下部走行体の上側に旋回可能に設けられた上部旋回体とで構成されている。作業機は、上部旋回体の前部に回動可能に連結されたブームと、ブームの先端部に回動可能に連結されたアームと、アームの先端部に回動可能に連結されたバケット(作業具)とを備える。ブーム、アーム、及びバケットは、ブームシリンダ、アームシリンダ、及びバケットシリンダの駆動によって回動する。
【0003】
複数の操作装置は、例えば、オペレータが操作可能な操作レバーを有し、操作レバーの操作方向及び操作量に対応するパイロット圧を生成して出力することにより、ブーム用制御弁、アーム用制御弁、及びバケット用制御弁を操作する。ブーム用制御弁は、油圧ポンプからブームシリンダへの圧油の流れを制御して、ブームシリンダを駆動させる。アーム用制御弁は、油圧ポンプからアームシリンダへの圧油の流れを制御して、アームシリンダを駆動させる。バケット用制御弁は、油圧ポンプからバケットシリンダへの圧油の流れを制御して、バケットシリンダを駆動させる。
【0004】
油圧ショベルには、作業機を自動または半自動で動作させる機能(マシンコントロール)を有するものがある。詳しく説明すると、この機能を有する油圧ショベルは、例えば、複数の操作装置と複数の制御弁の間に設けられ、パイロット圧を調整可能な複数の電磁弁と、作業機の姿勢に係る状態量を検出する姿勢検出器と、姿勢検出器の検出結果に基づいて作業機の姿勢を演算し、バケットが目標面より下方に侵入しないように、複数の電磁弁を制御して作業機の動作を制御する制御装置とを備える。これにより、例えば、掘削作業の開始時にバケットの先端が目標面上で停止するように作業機を動作させ、アームのクラウド(引き込み)動作時にバケットが目標面に沿って移動するように作業機を動作させることが容易となる。
【0005】
特許文献1は、バケットが交換された場合にマシンコントロールの精度が低下するのを抑制する技術を開示する。特許文献1に記載の制御装置は、バケットの種別(詳細には、バケットの重量)に応じた、油圧シリンダの駆動速度と電磁弁を制御する制御値との関係を示す複数の相関データを記憶する。そして、オペレータが入力したバケットの種別に応じて相関データを選択し、選択した相関データに基づき、油圧アクチュエータを目標速度で駆動させるための制御値を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の従来技術では、次のような課題がある。オペレータがバケットの種別を入力するので、誤入力した場合にマシンコントロールの精度が低下する。また、油圧ショベルの特性が経年変化した場合に対応できず、マシンコントロールの精度が低下する。
【0008】
本発明は、上記の事柄に鑑みてなされたものであり、その目的は、マシンコントロールの精度の低下を抑制することができる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、車体と、前記車体に回動可能に連結されたブーム、前記ブームの先端部に回動可能に連結されたアーム、及び前記アームの先端部に回動可能に連結された作業具を有する多関節型の作業機と、前記作業機の動作の指示を行う操作装置と、前記作業機の姿勢に係る状態量を検出する姿勢検出器と、前記姿勢検出器の検出結果に基づいて前記作業機の姿勢を演算し、前記作業具が目標面より下方に侵入しないように前記作業機の動作を制御する制御装置とを備えた作業機械において、通常モードと前記作業機の動作を補正する補正モードとを切り替え可能なモード切替装置を備え、前記制御装置は、前記補正モードに切り替えられたときに、予め設定された前記作業機の基準動作を行わせると共に前記作業具の移動実速度を取得し、予め設定された前記作業具の基準速度と移動実速度との差分に基づいて、前記作業機の動作を制御する制御値に対する補正値を演算し、前記通常モードに復帰したときに、前記補正値を用いて前記制御値を補正する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マシンコントロールの精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態における油圧ショベルの構造を表す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態における油圧駆動装置の構成を表す図である。
【
図3】
図2で示されたパイロット圧制御ブロックの詳細を表す図である。
【
図4】本発明の一実施形態における制御装置の機能的構成を関連機器と共に表すブロック図である。
【
図5】本発明の一実施形態における作業機の基準動作を説明するための側面図である。
【
図6】本発明の一実施形態における補正値の演算方法を説明するための図である。
【
図7】本発明の一実施形態におけるパイロット圧と油圧シリンダの速度との関係の変化を表す図である。
【
図8】本発明の一実施形態における補正モードの制御手順を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の適用対象として油圧ショベルを例にとり、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は、本実施形態における油圧ショベルの構造を表す斜視図である。
【0014】
本実施形態の油圧ショベルは、車体1と、車体1に連結された多関節型の作業機2とを備える。車体1は、走行可能な下部走行体3と、下部走行体3の上側に旋回可能に設けられた上部旋回体4とで構成されている。下部走行体3は、左側走行モータ5及び右側走行モータ(図示せず)の駆動によって走行する。上部旋回体4は、旋回モータ6の駆動によって旋回する。
【0015】
作業機2は、上部旋回体4の前部に回動可能に連結されたブーム7と、ブーム7の先端部に回動可能に連結されたアーム8と、アーム8の先端部に回動可能に連結されたバケット9(作業具)とを備える。ブーム7、アーム8、及びバケット9は、ブームシリンダ10、アームシリンダ11、及びバケットシリンダ12(いずれも油圧シリンダ)の駆動によってそれぞれ回動する。
【0016】
ブーム7の基端側には、上部旋回体4に対するブーム7の回動角を検出するブーム角度センサ13(後述の
図4参照)が取り付けられている。アーム8の基端側には、ブーム7に対するアーム8の回動角を検出するアーム角度センサ14が取り付けられている。バケット9の基端側には、アーム8に対するバケット9の回動角を検出するバケット角度センサ15(作業具角度センサ)が取り付けられている。上部旋回体4には、水平面に対する上部旋回体4の前後方向の傾斜角を検出する傾斜角センサ16(後述の
図4参照)が取り付けられている。なお、ブーム角度センサ13、アーム角度センサ14、バケット角度センサ15、及び傾斜角センサ16は、作業機2の姿勢に係る状態量を検出する姿勢検出器を構成する。
【0017】
上部旋回体4の前部左側には、オペレータが搭乗する運転室17が設けられている。運転室17には、オペレータが着座する運転席18と、運転席18の前側に配置された走行用操作装置19a,19bと、運転席18の右側に配置された作業用操作装置20aと、運転席18の左側に配置された作業用操作装置20bとが設けられている。走行用操作装置19a,19bは、下部走行体3の走行を指示するものであり、作業用操作装置20a,20bは、作業機2の動作及び上部旋回体4の旋回を指示するものである。運転室17には、表示装置21(後述の
図4参照)と、表示装置21の表示と連動して、オペレータが情報の入力等を行える入力装置22(後述の
図4参照)が設けられている。
【0018】
油圧ショベルは、操作装置19a,19b,20a,20bの操作に応じて左側走行モータ5、右側走行モータ、ブームシリンダ10、アームシリンダ11、バケットシリンダ12、及び旋回モータ6を駆動する油圧駆動装置を備える。
【0019】
図2は、本実施形態における油圧駆動装置の構成を表す図である。
図3は、
図2で示されたパイロット圧制御ブロックの詳細を表す図である。なお、
図2においては、ブームシリンダ10、アームシリンダ11、バケットシリンダ12、及び旋回モータ6の駆動に係る部分を示し、左側走行モータ5及び右側走行モータの駆動に係る部分を省略している。
【0020】
本実施形態の油圧駆動装置は、原動機23(本実施形態では、エンジン)と、原動機23によって駆動される油圧ポンプ24及びパイロットポンプ25と、油圧ポンプ24からバケットシリンダ12への圧油の流れを制御するバケット用制御弁26と、油圧ポンプ24からブームシリンダ10への圧油の流れを制御するブーム用制御弁27と、油圧ポンプ24からアームシリンダ11への圧油の流れを制御するアーム用制御弁28と、油圧ポンプ24から旋回モータ6への圧油の流れを制御する旋回用制御弁29と、作業用操作装置20a,20bと、作業用操作装置20a,20bと制御弁26~29の間に設けられたパイロット圧制御ブロック30及びシャトル弁ユニット31と、パイロット圧制御ブロック30を制御する制御装置32とを備える。
【0021】
油圧ポンプ24は、斜板の傾斜角を調整するレギュレータ33を備える。シャトル弁ユニット31は、パイロット圧制御ブロック30から制御弁26~29へ出力されるパイロット圧(詳細は後述)のうちの最大パイロット圧を選択し、最大パイロット圧をレギュレータ33に出力する。レギュレータ33は、最大パイロット圧に応じて油圧ポンプ24の斜板の傾斜角を調整する。これにより、油圧ポンプ24の押しのけ容積を調整し、ひいては、油圧ポンプ24の流量を調整する。
【0022】
パイロットポンプ25の吐出側にはロック弁34が設けられている。制御装置32は、運転室17の乗降口に設けられたゲートロックレバー(図示せず)の操作位置に応じて、ロック弁34を制御する。詳細には、ゲートロックレバーが下降位置(乗降規制位置)にある場合に、ロック弁34を連通状態に制御し、ゲートロックレバーが上昇位置(乗降許可位置)にある場合に、ロック弁34を遮断状態に制御する。
【0023】
作業用操作装置20aは、オペレータが前後方向及び左右方向に操作可能な操作レバー35aと、操作レバー35aの操作によって作動するパイロット弁36a~36dとを有する。
【0024】
バケットダンプ用のパイロット弁36aは、ロック弁34を介しパイロットポンプ25から供給された圧油を用いて、操作レバー35aの右側操作量に対応するパイロット圧を生成する。パイロット圧制御ブロック30及びシャトル弁ユニット31を介しパイロット弁36aからバケット用制御弁26の一方側の受圧部にパイロット圧が出力された場合、バケット用制御弁26が図示の右側の切換位置に切換えられる。これにより、油圧ポンプ24からの圧油がバケットシリンダ12のロッド側に供給されて、バケットシリンダ12が縮短する。その結果、バケット9がダンプする。
【0025】
バケットクラウド用のパイロット弁36bは、ロック弁34を介しパイロットポンプ25から供給された圧油を用いて、操作レバー35aの左側操作量に対応するパイロット圧を生成する。パイロット圧制御ブロック30及びシャトル弁ユニット31を介しパイロット弁36bからバケット用制御弁26の他方側の受圧部にパイロット圧が出力された場合、バケット用制御弁26が図示の左側の切換位置に切換えられる。これにより、油圧ポンプ24からの圧油がバケットシリンダ12のボトム側に供給されて、バケットシリンダ12が伸長する。その結果、バケット9がクラウドする。
【0026】
ブーム上げ用のパイロット弁36cは、ロック弁34を介しパイロットポンプ25から供給された圧油を用いて、操作レバー35aの後側操作量に対応するパイロット圧を生成する。パイロット圧制御ブロック30及びシャトル弁ユニット31を介しパイロット弁36cからブーム用制御弁27の一方側の受圧部にパイロット圧が出力された場合、ブーム用制御弁27が図示の左側の切換位置に切換えられる。これにより、油圧ポンプ24からの圧油がブームシリンダ10のボトム側に供給されて、ブームシリンダ10が伸長する。その結果、ブーム7が上がる。
【0027】
ブーム下げ用のパイロット弁36dは、ロック弁34を介しパイロットポンプ25から供給された圧油を用いて、操作レバー35aの前側操作量に対応するパイロット圧を生成する。パイロット圧制御ブロック30及びシャトル弁ユニット31を介しパイロット弁36dからブーム用制御弁27の他方側の受圧部にパイロット圧が出力された場合、ブーム用制御弁27が図示の右側の切換位置に切換えられる。これにより、油圧ポンプ24からの圧油がブームシリンダ10のロッド側に供給されて、ブームシリンダ10が縮短する。その結果、ブーム7が下がる。
【0028】
作業用操作装置20bは、オペレータが前後方向及び左右方向に操作可能な操作レバー35bと、操作レバー35bの操作によって作動するパイロット弁36e~36hとを有する。
【0029】
アームクラウド(アーム引き込み)用のパイロット弁36eは、ロック弁34を介しパイロットポンプ25から供給された圧油を用いて、操作レバー35bの右側操作量に対応するパイロット圧を生成する。パイロット圧制御ブロック30及びシャトル弁ユニット31を介しパイロット弁36eからアーム用制御弁28の一方側の受圧部にパイロット圧が出力された場合、アーム用制御弁28が図示の左側の切換位置に切換えられる。これにより、油圧ポンプ24からの圧油がアームシリンダ11のボトム側に供給されて、アームシリンダ11が伸長する。その結果、アーム8がクラウドする。
【0030】
アームダンプ(アーム押し出し)用のパイロット弁36fは、ロック弁34を介しパイロットポンプ25から供給された圧油を用いて、操作レバー35bの左側操作量に対応するパイロット圧を生成する。パイロット圧制御ブロック30及びシャトル弁ユニット31を介しパイロット弁36fからアーム用制御弁28の他方側の受圧部にパイロット圧が出力された場合、アーム用制御弁28が図示の右側の切換位置に切換えられる。これにより、油圧ポンプ24からの圧油がアームシリンダ11のロッド側に供給されて、アームシリンダ11が縮短する。その結果、アーム8がダンプする。
【0031】
左旋回用のパイロット弁36gは、ロック弁34を介しパイロットポンプ25から供給された圧油を用いて、操作レバー35bの後側操作量に対応するパイロット圧を生成する。シャトル弁ユニット31を介してパイロット弁36gから旋回用制御弁29の一方側の受圧部にパイロット圧が出力された場合、旋回用制御弁29が図示の右側の切換位置に切換えられる。これにより、油圧ポンプ24からの圧油が旋回モータ6の一方側のポートに供給されて、旋回モータ6が一方向に回転する。その結果、上部旋回体4が左方向に旋回する。
【0032】
右旋回用のパイロット弁36hは、ロック弁34を介しパイロットポンプ25から供給された圧油を用いて、操作レバー35bの前側操作量に対応するパイロット圧を生成する。シャトル弁ユニット31を介しパイロット弁36hから旋回用制御弁29の他方側の受圧部にパイロット圧が出力された場合、旋回用制御弁29が図示の左側の切換位置に切換えられる。これにより、油圧ポンプ24からの圧油が旋回モータ6の他方側のポートに供給されて、旋回モータ6が反対方向に回転する。その結果、上部旋回体4が右方向に旋回する。
【0033】
パイロット圧制御ブロック30は、パイロット弁36a~36fから出力されたパイロット圧をそれぞれ検出するパイロット圧センサ37a~37fを有する。また、パイロット圧制御ブロック30は、電磁遮断弁38、バケットダンプ用の電磁比例弁39、バケットダンプ用の電磁減圧弁40、バケットダンプ用のシャトル弁47、バケットクラウド用の電磁比例弁41、バケットクラウド用の電磁減圧弁42、バケットクラウド用のシャトル弁48、ブーム上げ用の電磁比例弁43、ブーム上げ用のシャトル弁49、ブーム下げ用の電磁減圧弁44、アームクラウド用の電磁減圧弁45、及びアームダンプ用の電磁減圧弁46を有する。
【0034】
電磁遮断弁38は、制御装置32によって連通状態又は遮断状態に制御される。電磁遮断弁38(又はロック弁34)が遮断状態である場合、電磁比例弁39,41,43は、パイロットポンプ25からの圧油が供給されないようになっている。
【0035】
バケットダンプ用の電磁比例弁39は、電磁遮断弁38及びロック弁34を介しパイロットポンプ25から供給された圧油を用いて、制御装置32からの制御値(電流値)に対応するパイロット圧を生成する。バケットダンプ用の電磁減圧弁40は、パイロット弁36aからのパイロット圧を減圧して、制御装置32からの制御値(電流値)に対応するパイロット圧を生成する。バケットダンプ用のシャトル弁47は、電磁比例弁39からのパイロット圧と電磁減圧弁40からのパイロット圧のうちの大きい方を選択し、選択したパイロット圧をバケット用制御弁26の一方側の受圧部に出力する。
【0036】
バケットクラウド用の電磁比例弁41は、電磁遮断弁38及びロック弁34を介しパイロットポンプ25から供給された圧油を用いて、制御装置32からの制御値に対応するパイロット圧を生成する。バケットクラウド用の電磁減圧弁42は、パイロット弁36bからのパイロット圧を減圧して、制御装置32からの制御値に対応するパイロット圧を生成する。バケットクラウド用のシャトル弁48は、電磁比例弁41からのパイロット圧と電磁減圧弁42からのパイロット圧のうちの大きい方を選択し、選択したパイロット圧をバケット用制御弁26の他方側の受圧部に出力する。
【0037】
ブーム上げ用の電磁比例弁43は、電磁遮断弁38及びロック弁34を介しパイロットポンプ25から供給された圧油を用いて、制御装置32からの制御値に対応するパイロット圧を生成する。ブーム上げ用のシャトル弁49は、電磁比例弁43からのパイロット圧とパイロット弁36cからのパイロット圧のうちの大きい方を選択し、選択したパイロット圧をブーム用制御弁27の一方側の受圧部に出力する。
【0038】
ブーム下げ用の電磁減圧弁44は、パイロット弁36dからのパイロット圧を減圧して、制御装置32からの制御値に対応するパイロット圧を生成し、生成したパイロット圧をブーム用制御弁27の他方側の受圧部に出力する。
【0039】
アームクラウド用の電磁減圧弁45は、パイロット弁36eからのパイロット圧を減圧して、制御装置32からの制御値に対応するパイロット圧を生成し、生成したパイロット圧をアーム用制御弁28の一方側の受圧部に出力する。
【0040】
アームダンプ用の電磁減圧弁46は、パイロット弁36fからのパイロット圧を減圧して、制御装置32からの制御値に対応するパイロット圧を生成し、生成したパイロット圧をアーム用制御弁28の他方側の受圧部に出力する。
【0041】
制御装置32は、上述した電磁弁38~43を制御してパイロット圧を調整する。これにより、作業機2を自動または半自動で動作させることが可能である。具体的に説明すると、例えばオペレータが操作レバー35bを右側に操作してアーム8のクラウド動作を行う場合に、バケット9が目標面より下方に侵入しないように、電磁比例弁43を制御してブーム7の上げ動作を自動的に行わせる。また、例えばオペレータが操作レバー35aを前側に操作してブーム7の下げ動作を行う場合に、バケット9が目標面より下方に侵入しないように、電磁減圧弁44を制御してブーム7を減速又は停止させる。また、例えば水平掘削を行う場合に、バケット9の速度が一定となるように、電磁減圧弁45又は46を制御してもよいし、水平面に対するバケット9の姿勢角が一定となるように、電磁比例弁39又は41を制御してもよい。
【0042】
ここで、本実施形態の特徴として、入力装置22は、表示装置21の表示と連動して、通常モードから補正モードへの切り替えが行えるようになっている。制御装置32は、補正モードに切り替えられたときに、予め設定された作業機2の基準動作を行わせると共にバケット9の移動実速度(詳細には、作業機2の動作に伴うバケット9の移動時のバケット9の実速度)を取得し、予め設定されたバケット9の基準速度と移動実速度との差分に基づいて、作業機2の動作を制御する制御値(すなわち、電磁弁39~46へ出力する制御値)に対する補正値を演算する。
【0043】
制御装置32は、上述した補正値の演算が完了したときに、通常モードに自動的に復帰してもよい。あるいは、入力装置22は、表示装置21の表示と連動して、通常モードへの復帰が行えてもよい。制御装置32は、通常モードに復帰したときに、上述した補正値を用いて制御値を補正する。
【0044】
次に、本実施形態の制御装置32の詳細について説明する。
図4は、本実施形態における制御装置32の機能的構成を表すブロック図である。なお、制御装置32は、プログラムに基づいて演算処理や制御処理を実行する演算制御部(例えばCPU)と、プログラムや演算処理の結果を記憶する記憶部(例えばROM、RAM)等を有するものである。
【0045】
制御装置32は、機能的構成として、姿勢演算部50、目標面設定部51、目標動作演算部52、電磁弁制御部53、及び補正モード制御部54を有する。
【0046】
姿勢演算部50は、ブーム角度センサ13、アーム角度センサ14、バケット角度センサ15、及び傾斜角センサ16の検出結果に基づいて、作業機2の姿勢を演算する。目標面設定部51は、オペレータが表示装置21及び入力装置22を用いて入力するか、若しくは、ネットワーク等を介して取り込んだ目標面を設定する。
【0047】
通常モードでは、目標動作演算部52は、パイロット圧センサ37a~37fの検出結果、姿勢演算部50で演算された作業機2の姿勢、及び目標面設定部51で設定された目標面に基づいて、バケット9が目標面より下方に侵入することなく移動するための作業機2の目標動作(詳細には、ブーム7の目標動作、アーム8の目標動作、及びバケット9の目標動作)を演算する。電磁弁制御部53は、目標動作演算部52で演算された作業機2の目標動作に対応して電磁弁38~46を制御する。
【0048】
補正モード制御部54は、補正モードに切り替えられたときに、目標動作演算部52に指令を出し、作業機2の目標動作の演算を停止させる。また、電磁弁制御部53に指令を出し、予め設定された作業機2の基準動作に対応して電磁弁38~46を制御させる。本実施形態では、作業機2の基準動作として、例えば
図5で示すようにブーム7の上げ動作を行わせるため、電磁弁38,43を制御させる。
【0049】
補正モード制御部54は、作業機2の基準動作中、姿勢演算部50で演算された作業機2の姿勢(言い換えれば、姿勢検出器の検出結果)に基づいて、バケット9の移動実速度を演算する。そして、予め設定されたバケット9の基準速度と移動実速度との差分に基づいて、作業機2の動作を制御する制御値(すなわち、電磁弁39~46へ出力する制御値)に対する補正値を演算する。
【0050】
詳しく説明すると、例えば
図6で示すように、バケット9の基準速度と移動実速度との差分がゼロであるとき、制御値に対して乗算する補正値(補正係数)をH0=1とする。バケット9の基準速度が移動実速度より大きく、それらの差分が正の値である場合に、差分の増加に応じて補正値を増加させる。すなわち、差分ΔV1(但し、ΔV1>0)であるとき、補正値をH1(但し、H1>H0)とする。バケット9の基準速度が移動実速度より小さく、それらの差分が負の値である場合に、差分の減少に応じて補正値を減少させる。すなわち、差分ΔV2(但し、ΔV2<0)であるとき、補正値をH2(但し、H2<H0)とする。
【0051】
電磁弁制御部53は、通常モードでは、目標動作演算部52で演算された作業機2の目標動作に対応する制御値を演算し、この制御値に対して補正モード制御部54で演算された補正値を乗算し、補正後の制御値を電磁弁に出力する。その結果、
図7で示すように、パイロット圧と油圧シリンダの速度との関係は、補正値に応じて変化する。なお、各電磁弁の制御値に対する補正値は、互いに同じであるか、若しくは、予め設定された相関関係を用いて演算されて異なってもよい。
【0052】
次に、本実施形態の補正モードの詳細について説明する。
図8は、本実施形態における補正モードの制御手順を表すフローチャートである。
【0053】
まず、ステップS100にて、制御装置32の補正モード制御部54は、表示装置21及び入力装置22によって補正モードに切り替えられたかどうかを判定する。補正モードに切り替えられていない場合、ステップS100を繰り返す。一方、補正モードに切り替えられた場合は、ステップS101に進む。
【0054】
ステップS101にて、制御装置32の補正モード制御部54は、姿勢演算部50で演算された作業機2の姿勢が、基準動作を開始するための初期姿勢(
図5参照)であるかどうかを判定する。作業機2の姿勢が初期姿勢でない場合は、ステップS102に進み、作業機2の姿勢が初期姿勢でない旨を表示装置21に表示させる。なお、表示装置21は、ブーム角度センサ13、アーム角度センサ14、バケット角度センサ15、及び傾斜角センサ16の検出結果を表示して、オペレータが作業機2の姿勢を確認できるようにしてもよい。作業機2の姿勢が初期姿勢である場合は、ステップS103に進む。
【0055】
ステップS103にて、制御装置32の補正モード制御部54は、例えば、パイロット圧センサ37cの検出結果に基づいて、動作開始のトリガーとして作業用操作装置20aからの指示が入力されたかどうか(言い換えれば、操作レバー35aが後側に操作されたかどうか)を判定する。動作開始のトリガーとして作業用操作装置20aからの指示が入力された場合は、ステップS104及びS105に進む。
【0056】
ステップS104にて、制御装置32の電磁弁制御部53は、予め設定された時間のあいだ、予め設定された制御値(但し、この制御値に対応するパイロット圧が、操作レバー35aの後側操作量に対応するパイロット圧より大きくなるように設定されている)を電磁比例弁43に出力して、ブーム7の上げ動作(作業機2の基準動作)を行わせる。ステップS105にて、作業機2の基準動作中、制御装置32の補正モード制御部54は、姿勢演算部50で演算された作業機2の姿勢の変化に基づいて(言い換えれば、姿勢検出器の検出結果に基づいて)、バケット9の移動実速度を演算する。
【0057】
そして、ステップS105に進み、制御装置32の補正モード制御部54は、バケット9の基準速度と移動実速度との差分に基づいて、各電磁弁の制御値に対する補正値を演算する。そして、ステップS106に進み、制御装置32の電磁弁制御部53は、補正モード制御部54で演算された補正値を記憶する。
【0058】
本実施形態の動作及び作用効果を説明する。例えばバケット9を交換した場合に、オペレータは、表示装置21及び入力装置22を用いて補正モードに切り替える。そして、作業機2の姿勢が初期姿勢となるように作業用操作装置20a,20bを操作し、更に、動作開始のトリガーとして作業用操作装置20aを操作する。これにより、制御装置32は、作業機2の基準動作を行わせると共にバケット9の移動実速度を取得し、バケット9の基準速度と移動実速度との差分に基づいて、作業機2の動作を制御する制御値に対する補正値を演算する。そして、通常モードに復帰したときに、制御装置32は、補正値を用いて制御値を補正する。したがって、マシンコントロールの精度の低下を抑制することができる。特に、本実施形態では、オペレータが入力したバケットの種別に応じて相関データを選択する従来技術とは異なり、誤入力が生じないため、マシンコントロールの精度の低下を抑制することができる。また、油圧ショベルの特性が経年変化した場合にも対応できるため、マシンコントロールの精度の低下を抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態では、制御装置32によって作業機2の基準動作を行わせるため、オペレータが操作装置を操作して作業機2の基準動作を行わせる場合とは異なり、手間がかからない。また、複数の基準動作を行う必要がないので、手間がかからない。
【0060】
なお、上記一実施形態において、制御装置32は、姿勢検出器(詳細には、ブーム角度センサ13、アーム角度センサ14、バケット角度センサ15、及び傾斜角センサ16)の検出結果に基づいてバケット9の移動実速度を演算する場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で変形が可能である。例えば、油圧ショベルは、バケット9の移動実速度を検出する速度センサ(図示せず)を備え、制御装置32は、速度センサで検出されたバケット9の移動実速度を入力してもよい。
【0061】
また、上記一実施形態において、油圧ショベルは、姿勢検出器として、ブーム角度センサ13、アーム角度センサ14、バケット角度センサ15、及び傾斜角センサ16を備えた場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で変形が可能である。例えば、油圧ショベルは、ブーム角度センサ13に代えて、ブームシリンダ10のストロークを検出する変位センサを備えてもよい。また、油圧ショベルは、アーム角度センサ14に代えて、アームシリンダ11のストロークを検出する変位センサを備えてもよい。また、油圧ショベルは、バケット角度センサ15に代えて、バケットシリンダ12のストロークを検出する変位センサを備えてもよい。
【0062】
また、上記一実施形態において、通常モードから補正モードに切り替え可能なモード切替装置は、表示装置21及び入力装置22で構成された場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で変形が可能である。例えば、モード切替スイッチで構成されてもよい。
【0063】
また、上記一実施形態において、制御装置32は、
図6で示すように、バケット9の基準速度と移動実速度との差分に比例するように補正値を演算する場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で変形が可能である。例えば、制御装置32は、バケット9の基準速度と移動実速度との差分が正の値であっても、差分が所定の閾値(正の値)未満であれば補正値をH0=1とし(すなわち、制御値を補正せず)、差分が所定の閾値以上である場合に差分の増加に応じて補正値を増加させてもよい。同様に、バケット9の基準速度と移動実速度との差分が負の値であっても、差分が所定の閾値(負の値)を超えれば補正値をH0=1とし(すなわち、制御値を補正せず)、差分が所定の閾値以下である場合に差分の減少に応じて補正値を減少させてもよい。
【0064】
また、上記一実施形態において、制御装置32は、制御値に対して乗算する補正値を演算する場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で変形が可能である。例えば、制御装置32は、制御値に対して加算する補正値を演算してもよい。
【0065】
なお、以上においては、本発明の適用対象として油圧ショベルを例にとって説明したが、これに限られず、他の作業機械であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 車体
2 作業機
7 ブーム
8 アーム
9 バケット
13 ブーム角度センサ
14 アーム角度センサ
15 バケット角度センサ
16 傾斜角センサ
20a,20b 作業用操作装置
21 表示装置
22 入力装置
32 制御装置