(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165049
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】光回路素子
(51)【国際特許分類】
G02B 6/122 20060101AFI20231108BHJP
G02F 1/035 20060101ALN20231108BHJP
【FI】
G02B6/122
G02F1/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167655
(22)【出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】原 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】菊川 隆
(72)【発明者】
【氏名】志村 淳
【テーマコード(参考)】
2H147
2K102
【Fターム(参考)】
2H147AB02
2H147BA05
2H147BD01
2H147BD10
2H147BE01
2H147BG06
2H147CB03
2H147EA05A
2H147EA09B
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2H147FA03
2H147FA09
2H147FC08
2H147GA25
2K102AA21
2K102BA02
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA00
2K102DA04
2K102DB04
2K102DC03
2K102DD05
2K102EA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光回路素子の基板を含む部分を伝搬する迷光の外部への出射を防止することが可能な光回路素子を提供する。
【解決手段】基板と、基板の一面に形成された光導波層と、光導波層に重ねて形成された保護層と、を有する光回路素子であって、光導波層は、光を伝搬させる光導波路を有し、保護層の表面から、基板に向かって一面よりも深い位置まで達する溝部15が形成され、少なくとも溝部の底面15bおよび側面15aを覆う光吸収層を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の一面に形成された光導波層と、前記光導波層に重ねて形成された保護層と、を有する光回路素子であって、
前記光導波層は、光を伝搬させる光導波路を有し、
前記保護層の表面から前記基板に向かって前記一面よりも深い位置まで達する溝部が形成され、
少なくとも前記溝部の底面および側面を覆う光吸収層を備えることを特徴とする光回路素子。
【請求項2】
前記光吸収層は前記溝部全体を埋めるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光回路素子。
【請求項3】
前記溝部は、前記基板の一面に沿って、互いに離間して複数形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の光回路素子。
【請求項4】
前記溝部は、互いに略並行に延存するように3つ以上形成され、
任意の隣接する前記溝部どうしの間隔は、他の任意の隣接する前記溝部どうしの間隔と異なるように前記溝部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の光回路素子。
【請求項5】
前記溝部は、互いに略並行に延存するように4つ以上形成され、
任意の前記溝部どうしの間隔の和が、他の任意の前記溝部どうしの間隔の和と異なるように前記溝部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の光回路素子。
【請求項6】
任意の前記溝部の幅が、隣接する前記溝部の幅と異なるように、前記溝部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の光回路素子。
【請求項7】
前記溝部は、互いに略並行に延存するように3つ以上形成され、
任意の前記溝部の幅の和が、他の任意の前記溝部の幅の和と異なるように前記溝部が形成されていることを特徴とする請求項6に記載の光回路素子。
【請求項8】
前記光導波路は直線部から湾曲する湾曲部を有し、前記溝部は、前記直線部の仮想延長線と交差するように配置されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の光回路素子。
【請求項9】
前記光導波路は直線部から湾曲する湾曲部を有し、前記溝部は、前記湾曲部に沿うように湾曲して延びるように形成されることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の光回路素子。
【請求項10】
前記光導波層はニオブ酸リチウムを含むことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の光回路素子。
【請求項11】
前記光導波路はリッジ型であることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の光回路素子。
【請求項12】
前記光吸収層はSiからなることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の光回路素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光導波路を有する光回路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットの普及に伴い通信量は飛躍的に増大しており、光ファイバ通信の重要性が非常に高まっている。光ファイバ通信は、電気信号を光信号に変換し、光信号を光ファイバにより伝送するものであり、広帯域、低損失、ノイズに強いという特徴がある。
【0003】
電気信号を光信号に変換する方式としては、半導体レーザによる直接変調方式と光変調器を用いた外部変調方式が知られている。直接変調は光変調器が不要で低コストであるが、高速変調には限界があり、高速で長距離の用途では外部光変調方式が一般的に使われている。
【0004】
光変調器としては、ニオブ酸リチウム単結晶基板の表面付近にTi(チタン)拡散により光導波路を形成した光変調器が実用化されている。40Gb/s以上の高速の光変調器が商用化されているが、全長が10cm前後と長いことが大きな欠点になっている。
【0005】
これに対して、特許文献1では、断面がリッジ形状を有するリッジ部からなる導波路を有し、リッジ部が第1部分と第2部分との組み合わせからなり、第2部分の上面に第1部分が形成された2段のリッジ構造を有し、第2のリッジ幅を第1のリッジ幅の5倍以上にした光導波路素子が開示されている。
【0006】
こうした構成の光導波路素子は小型化が可能であるものの、光導波路素子の小型化によって、光導波路に光を導入する光出射器と光導波路の端部との間で光軸を合わせる調芯工程において、光導波路に結合されない光の成分が生じやすくなる。こうした光の成分は、光導波路素子内の光導波路以外の部分で伝搬し、端面で多重反射後、一部は光検出器に入力される、いわゆる、迷光が生じやすいという課題があった。光導波路素子内を伝搬する迷光は、光検出器の調芯を阻害し、接続損失増大や接続不良の原因となりうる。特に光源として可視光を用いる場合、光導波路が小さくなるため、迷光による影響が大きい。
【0007】
こうした光導波路素子内の迷光を光検出器に向かって出射させないために、例えば特許文献2では、光を導波している導波路部以外の位置に、光導波路層を貫く溝部を設け、この溝部の側面が、素子表面に垂直な面に対して傾斜している光集積回路素子が開示されている。この特許文献2に開示された光集積回路素子では、溝部の側面を少なくとも覆うように、光導波路層を伝搬する光を吸収する物質が形成されていることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6369147号公報
【特許文献2】特開平11-52154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に開示される技術では、迷光を阻止する溝部が基板の表面よりも上部に形成されているので、クラッド層を伝搬する迷光の遮断には効果があるものの、基板を伝搬する迷光を阻止することができないという課題があった。
【0010】
本開示に係る技術は、このような事情を考慮してなされたもので、光回路素子の基板を含む部分を伝搬する迷光の外部への出射を防止することが可能な光回路素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様では、基板と、前記基板の一面に形成された光導波層と、前記光導波層に重ねて形成された保護層と、を有する光回路素子であって、前記光導波層は、光を伝搬させる光導波路を有し、前記保護層の表面から前記基板に向かって前記一面よりも深い位置まで達する溝部が形成され、少なくとも前記溝部の底面および側面を覆う光吸収層を備えることを特徴とする光回路素子。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る技術によれば、光回路素子の基板を含む部分を伝搬する迷光の外部への出射を防止することが可能な光回路素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る光回路素子を上から見た時の平面図である。
【
図2】
図1のA-A’線に沿って破断した断面図である。
【
図3】
図1のB-B’線に沿って破断した断面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る光回路素子を上から見た時の平面図である。
【
図7】本発明の第3実施形態に係る光回路素子を上から見た時の平面図である。
【
図8】本発明の第4実施形態に係る光回路素子を上から見た時の平面図である。
【
図9】
図8のC-C’線に沿って破断した断面図である。
【
図10】本発明の第5実施形態に係る光回路素子を上から見た時の平面図である。
【
図11】本発明の第6実施形態に係るマッハツェンダ型の光変調器(光回路素子)を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示を適用した一実施形態である光回路素子について図面を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本開示を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本開示の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る光回路素子を上から見た時の平面図である。
図2は、
図1のA-A’線に沿って破断した断面図である。
図3は、
図1のB-B’線に沿って破断した断面図である。
【0016】
第1実施形態に係る光回路素子10は、光導波路14を有し、例えば、光導波路14の入力端部INから入射した光(入射光)は、光導波路14を伝搬した後、出力端部OUTから出射する(出射光)。光導波路14の入力端部INには、例えば、光源(光出射器)Sが近接して配されていればよい。
【0017】
光回路素子10は、基板11と、この基板11の一面11aに重ねて形成された導波層12と、この導波層12に重ねて形成された保護層13とを有している。導波層12には、断面がリッジ形状(凸形状)を有するリッジ部17を備えた光導波路14が形成されている。
【0018】
リッジ部17は、導波層12の表面12aから突出し、光導波路14に沿って延びる。こうしたリッジ部17は、導波層12と同一の材料、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO3)によって一体に形成されていればよい。
【0019】
リッジ部17の高さHは、例えば、光導波路14を伝搬する光の波長が520nmである場合、520nm程度以上、すなわち、光導波路14を伝搬する光の波長と同じ程度以上ならばよい。
【0020】
リッジ部17の断面形状は、光を導波できる形状であればその形状は限定されず、例えばドーム状、三角形状、矩形状でもよい。なお、本実施形態ではリッジ部17によって導波層12に光導波路14を形成しているが、特に導波層12の表面12aから突出するようなリッジ部17を形成せずに、導波層12に光導波路14を形成する構成であってもよい。例えば、ニオブ酸リチウムからなる導波層12に、チタン(Ti)等をドープすることによって、リッジ部の無い光導波路14を形成することもできる。
【0021】
導波層12は、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)の膜からなることが好ましい。ニオブ酸リチウムは大きな電気光学定数を有し、光変調器等の光学デバイスの構成材料として好適である。以下、導波層12をニオブ酸リチウム膜とした場合の本発明の構成について詳しく説明する。
【0022】
基板11としては、ニオブ酸リチウム膜より屈折率が低いものであれば特に限定されないが、ニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル膜として形成させることができる基板が好ましい。基板11の一例としては、サファイア単結晶基板もしくはシリコン単結晶基板が好ましい。単結晶基板の結晶方位は特に限定されない。
【0023】
導波層12を構成するニオブ酸リチウム膜は、さまざまな結晶方位の単結晶基板に対して、c軸配向のエピタキシャル膜として形成されやすいという性質を持っている。c軸配向のニオブ酸リチウム膜は3回対称の対称性を有しているので、下地の単結晶基板も同じ対称性を有していることが望ましく、サファイア単結晶基板の場合はc面、シリコン単結晶基板の場合は(111)面の基板が好ましい。
【0024】
ここで、エピタキシャル膜とは、下地の基板もしくは下地膜の結晶方位に対して、そろって配向している膜のことである。膜面内をX-Y面とし、膜厚方向をZ軸としたとき、結晶がX軸、Y軸およびZ軸方向にともにそろって配向しているものである。例えば、第1に2θ-θX線回折による配向位置でのピーク強度の確認と、第2に極点の確認を行うことで、エピタキシャル膜であることが確認できる。
【0025】
具体的には、第1に2θ-θX線回折による測定を行ったとき、目的とする面以外の全てのピーク強度が目的とする面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である必要がある。例えば、ニオブ酸リチウムのc軸配向エピタキシャル膜では、(00L)面以外のピーク強度が、(00L)面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である。(00L)は、(001)や(002)などの等価な面を総称する表示である。
【0026】
第2に、極点測定において、極点が見えることが必要である。前述の第1の配向位置でのピーク強度の確認の条件においては、一方向における配向性を示しているのみであり、前述の第1の条件を得たとしても、面内において結晶配向がそろっていない場合には、特定角度位置でX線の強度が高まることはなく、極点は見られない。ニオブ酸リチウムは三方晶系の結晶構造であるため、単結晶におけるLiNbO3(014)の極点は3つとなる。ニオブ酸リチウム膜の場合、c軸を中心に180°回転させた結晶が対称的に結合した、いわゆる双晶の状態にてエピタキシャル成長することが知られている。この場合、3つの極点が対称的に2つ結合した状態になるため、極点は6つとなる。また、(100)面のシリコン単結晶基板上にニオブ酸リチウム膜を形成した場合は、基板が4回対称となっているため、4×3=12個の極点が観測される。なお、本実施形態では、双晶の状態にてエピタキシャル成長したニオブ酸リチウム膜もエピタキシャル膜に含める。
【0027】
導波層12を構成するニオブ酸リチウム膜の組成はLixNbAyOzである。Aは、Li、Nb、O以外の元素を表している。xは0.5~1.2であり、好ましくは、0.9~1.05である。yは、0~0.5である。zは1.5~4であり、好ましくは2.5~3.5である。Aの元素としては、K、Na、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mo、W、Fe、Co、Ni、Zn、Sc、Ceなどがあり、2種類以上の組み合わせでも良い。
【0028】
導波層12を構成するニオブ酸リチウム膜の膜厚は2μm以下であることが望ましい。膜厚がこれ以上厚くなると、高品質な膜を形成するのが困難になる懸念がある。ニオブ酸リチウム膜の膜厚が薄すぎる場合は、ニオブ酸リチウム膜における光の閉じ込めが弱くなり、基板やバッファ層に光が漏れる、いわゆる迷光が増大する懸念がある。ニオブ酸リチウム膜に電界を印加しても、光導波路(1a、1b)の実効屈折率の変化が小さくなるおそれがある。そのため、ニオブ酸リチウム膜は、使用する光の波長の1/10程度以上の膜厚が望ましい。
【0029】
導波層12を構成するニオブ酸リチウム膜の形成方法としては、スパッタ法、CVD法、ゾルゲル法などの膜形成方法を利用するのが望ましい。c軸が基板11を構成する単結晶基板の主面に垂直に配向されており、c軸に平行に電界を印加することで、電界に比例して光学屈折率が変化する。基板11を構成する単結晶基板としてサファイアを用いる場合は、サファイア単結晶基板上に直接、ニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル成長できる。
【0030】
基板11を構成する単結晶基板としてシリコンを用いる場合は、クラッド層(図示せず)を介して、ニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル成長により形成する。クラッド層(図示せず)としては、ニオブ酸リチウム膜より屈折率が低く、エピタキシャル成長に適したものを用いる。例えば、クラッド層(図示せず)としてY2O3を用いると、高品質のニオブ酸リチウム膜を形成できる。
【0031】
なお、導波層12を構成するニオブ酸リチウム膜の形成方法として、ニオブ酸リチウム単結晶基板を薄く研磨する方法も知られている。この方法は、単結晶と同じ特性が得られるという利点があるものの、2μm以下の膜厚の薄膜を加工するのは困難である。上述のように、本発明では、成膜によりニオブ酸リチウム膜を形成しているので、量産性があり、大口径化も容易である。
【0032】
保護層13は、リッジ部17を含む導波層12の上面を覆っている。保護層13の材料は特に限定されないが、導波層12の屈折率より小さい屈折率を有する材質、例えば、酸化シリコン(SiO2)や酸化アルミニウム(Al2O3)などを用いることができる。また、これ以外にも、保護層13として、例えば、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化ランタン(La2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y2O3)、フッ化カルシウム(CaF2)、酸化インジウム(In2O3)など、またはこれらの混合物を用いることもできる。
【0033】
保護層13の厚さは、例えば、0.2~1μm程度であればよい。なお、本実施形態においては、保護層13は、導波層12の上面全体を覆っているが、導波層12に形成された光導波路14の上面付近だけを選択的に覆うようにパターニングされたものであってもよい。
【0034】
光回路素子10には、溝部15が形成されている。本実施形態では、溝部15は、導波層12に形成された光導波路14の両側の一部に形成されている。本実施形態の溝部15は、基板の一面を平面視した時に矩形、例えば長方形に形成されている。また、溝部15は、光回路素子10の厚み方向(積層方向)tの断面形状として、逆台形となるように形成され、溝部15の側面15aは、厚み方向tに対して傾斜した傾斜面となるように形成されている。
【0035】
溝部15は、保護層13の表面13aから基板11に向かって、基板11の一面11aよりも深い位置まで達するように形成されている。即ち、溝部15の底面15bは、基板11の一面11aから基板の内部に入った位置に形成され、基板11は、この溝部15の形成部分においては、厚み方向tに窪んだ形状となっている。
【0036】
なお、本実施形態では、溝部15の側面15aは、厚み方向tに対して所定の傾斜角度θで傾斜した傾斜面となっているが、例えば、
図4に示すように、溝部15を、光回路素子10の厚み方向tの断面形状として、矩形となるように形成して、溝部15の側面15aは、厚み方向tに沿った垂直面となるように形成することもできる。
【0037】
基板11の一面11aから厚み方向tに沿って掘り込まれる溝部15の基板11部分の深さ、即ち、基板11の一面11aと溝部15の底面とのギャップdは、光導波路14を伝搬する光の波長に応じて設定されればよい。すなわち、ギャップdは、光導波路14を伝搬する光の波長の半分以上に設定されればよい。例えば、光導波路14を伝搬する光の波長が520nmである場合、ギャップdが260nm以上になるように溝部15を形成すればよい。
【0038】
こうした2つの溝部15どうしの間には、溝部15の底面15bから基板11、リッジ部17に光導波路14が形成された導波層12、および保護層13が、狭い幅で堰堤状に延びるように形成されている。
【0039】
溝部15には、この溝部15の底面15bおよび側面15aを覆う光吸収層16が形成されている。本実施形態では、光吸収層16は、溝部15の底面15bおよび側面15aに加えて、更に保護層13の表面13aも覆うように形成されている。なお、光吸収層16は、保護層13の表面13aを覆わない構造であってもよい。
【0040】
光吸収層16は、光導波路14を伝搬する光を吸収する材料から構成されている。光吸収層16の構成材料は、光導波路14を伝搬する光の波長に応じて選択される。例えば、光導波路14を伝搬する光が可視光線である場合には、可視光波長域の光を吸収、遮断することが可能な材料、例えば、可視光吸収色素を含む樹脂材料、In、Ga等の半導体膜などを用いることができる。また、例えば、光導波路14を伝搬する光が赤外線である場合には、赤外光波長域の光を吸収、遮断することが可能な材料、例えば、シアニン化合物などの赤外線吸収色素を含む樹脂材料などを用いることができる。
【0041】
光吸収層16は、光吸収層16に入射する迷光Pの例えば50%以上を吸収できる厚みになるように形成されていればよく、これにより、迷光Pが溝部15の一方の側面15aに形成された光吸収層16と他方の側面15aに形成された光吸収層16とを通過する間に、吸収される。
【0042】
光吸収層16は、本実施形態のように、溝部15の底面15bおよび側面15aに所定の厚みで形成する以外にも、例えば、
図5に示すように形成することもできる。
図5においては、底面15bおよび側面15aを含む溝部15全体を埋めるように光吸収層16が形成されている。こうした構成にすることで、より一層確実に迷光Pを吸収することができる。
【0043】
以上の様な構成の第1実施形態の光回路素子10によれば、例えば、光導波路14に光を導入する光源(光出射器)Sと、光導波路14の入力端部INとの間で光軸を合わせる調芯工程において、光導波路14に結合されない光の成分が生じることがある。こうした光導波路14に結合されない光の成分は、光回路素子10内の光導波路14以外の部分、例えば、基板11の一面11a側付近、および保護層13を伝搬する迷光Pとなる。本実施形態の光回路素子10では、こうした迷光Pが溝部15の形成位置に達すると、光吸収層16によってこの迷光Pが吸収される。
【0044】
特に、基板11の一面11a側付近を伝搬する迷光Pは、溝部15が基板11の一面11aよりも厚み方向tに沿って深い位置まで形成されているため、ここに形成された光吸収層16によって確実に吸収される。
【0045】
こうした溝部15と、この溝部15に形成された光吸収層16によって、迷光Pが吸収、遮断されることにより、光導波路14の出力端部OUTに配された光検出器(図示略)に、迷光Pが入力されることがない。これにより、調芯工程において、光検出器の調芯を阻害し、接続損失増大や接続不良の発生を防止することができる。
【0046】
なお、迷光Pを遮断することは、溝部15の側面15aの傾斜角度θを適切に設定することによっても行うことができる。例えば、迷光Pが保護層13から溝部15の空間(空気層)に向かって入射する場合、空気の屈折率は1、保護層13の屈折率を約3.5とすると、この屈折率差により、保護層13と空気界面での迷光Pの入射角が15°程度以上の時には、界面で全反射が生じる。溝部15の側面15aへの迷光Pの入射角が15°以上になるのは、側面15aの傾斜角度θが±15°以上の場合であり、この時、迷光Pの反射率は100%となり、迷光Pは完全に光回路素子10の上側あるいは下側に放射され除去される。
【0047】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態の光回路素子について説明する。なお、以下の実施形態では、上述した第1実施形態と同様の構成には、同一の番号を付し、重複する説明を省略する。
図6は、本発明の第2実施形態に係る光回路素子を上から見た時の平面図である。
本実施形態の光回路素子20は、光導波路14の延長方向に沿って、光導波路14の両側に、それぞれ複数の溝部(本実施形態では5つ)25A,25B,25C,25D,25Eが互いに離間して形成されている。それぞれの溝部25A~25Eは、基板11の一面11a(
図2を参照)を平面視した時に、互いに同一形状の矩形(長方形)に形成されている。
【0048】
この実施形態では、溝部25Aと溝部25Bとの間隔G1、溝部25Bと溝部25Cとの間隔G2、溝部25Cと溝部25Dとの間隔G3、溝部25Dと溝部25Eとの間隔G4が全て異なるように、溝部25A~25Eが形成されている。
【0049】
加えて、任意の溝部25A~25Eどうしの間隔の和が、他の任意の溝部25A~25Eどうしの間隔の和と異なるように形成される。例えば、間隔G1+間隔G3は、間隔G2+間隔G4と和の値が異なっている。また、例えば、間隔G2+間隔G3+間隔G4は、間隔G1+間隔G3+間隔G4と和の値が異なっている。
【0050】
複数の溝部25A~25Eが互いに等間隔で規則的に配列されていると、規則的に反射された迷光が強められる懸念があるが、本実施形態のように互いに隣接する溝部25A~25Eどうしの間隔を異ならせることによって、迷光が規則的に反射されて強め合うことを防止し、複数の溝部25A~25Eとこれを覆う光吸収層16によって、迷光Pを確実に吸収、遮断することができる。
【0051】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態の光回路素子について説明する。なお、以下の実施形態では、上述した第1実施形態と同様の構成には、同一の番号を付し、重複する説明を省略する。
図7は、本発明の第3実施形態に係る光回路素子を上から見た時の平面図である。
本実施形態の光回路素子30は、光導波路14の延長方向に沿って、光導波路14の両側に、それぞれ複数の溝部(本実施形態では5つ)35A,35B,35C,35D,35Eが互いに等間隔で離間して形成されている。それぞれの溝部25A~25Eは、基板11の一面11a(
図2を参照)を平面視した時に、矩形(長方形)に形成されている。
【0052】
この実施形態では、溝部35A~溝部35Eの光導波路14の延長方向に沿ったそれぞれの幅W1~W5が全て異なるように、溝部35A~35Eが形成されている。
【0053】
加えて、任意の溝部35A~35Eの幅W1~W5どうしの和が、他の任意の溝部35A~35Eの幅W1~W5どうしの和と異なるように形成される。例えば、幅W1+幅W3は、幅W2+幅W4と和の値が異なっている。また、例えば、幅W1+幅W3+幅W5は、幅W1+幅W2+幅W4と和の値が異なっている。
【0054】
複数の溝部35A~35Eの幅が互いに等しいと、迷光が規則的に反射されて強められる懸念があるが、本実施形態のように、互いに隣接する溝部35A~35Eの幅を異ならせることによって、迷光が規則的に反射されて強め合うことを防止し、複数の溝部35A~35Eとこれを覆う光吸収層16によって、迷光Pを確実に吸収、遮断することができる。
【0055】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態の光回路素子について説明する。なお、以下の実施形態では、上述した第1実施形態と同様の構成には、同一の番号を付し、重複する説明を省略する。
図8は、本発明の第4実施形態に係る光回路素子を上から見た時の平面図である。
図9は、
図8のC-C’線に沿って破断した断面図である。
【0056】
本実施形態の光回路素子40では、光導波路14は、直線状に延びる直線部14Lと、この直線部14Lから湾曲する湾曲部14Rとから構成されている。
そして、2か所の直線部14Lにおいて、直線部14Lの両側にそれぞれ複数の溝部45,45…が形成され、この溝部45の内面(側面、底面)が光吸収層16によって覆われている。
【0057】
更に、光導波路14の直線部L1と湾曲部14Rとの接続部分で湾曲部14Rの湾曲方向と分かれる方向に延びる、直線部L1の仮想延長線Q1上にも、複数の溝部45,45…が形成され、この溝部45の内面(側面、底面)が光吸収層16によって覆われている。
【0058】
このような構成の光回路素子40によれば、光導波路14を伝搬する光が直線部L1から湾曲部14Rに入ると、この湾曲部14Rに沿って湾曲するのに対して、基板11や保護層13を伝搬する迷光Pは、湾曲部14Rの形成位置で湾曲することなくそのまま直進する。そして、この直進した迷光Pは、直線部L1の仮想延長線Q1上に形成された複数の溝部45,45…とこれを覆う光吸収層16によって吸収される。従って、本実施形態の光回路素子40によれば、光導波路14の湾曲部14Rの形成位置で直進する迷光Pが光回路素子40の外部に出射されることが無く、例えば、調芯工程において、光検出器の調芯を阻害し、接続損失増大や接続不良の発生を防止することができる。
【0059】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態の光回路素子について説明する。なお、以下の実施形態では、上述した第4実施形態と同様の構成には、同一の番号を付し、重複する説明を省略する。
図10は、本発明の第5実施形態に係る光回路素子を上から見た時の平面図である。
【0060】
本実施形態の光回路素子50では、光導波路14は、直線状に延びる直線部14Lと、この直線部14Lから湾曲する湾曲部14Rとから構成されている。
そして、2か所の直線部14Lにおいて、直線部14Lの両側にそれぞれ複数の溝部45,45…が形成され、この溝部45の内面(側面、底面)が光吸収層16によって覆われている。
【0061】
更に、光導波路14の湾曲部14Rの湾曲外周に沿って、湾曲した複数の溝部55,55…が形成され、この溝部55の内面(側面、底面)が光吸収層16によって覆われている。
【0062】
このような構成の光回路素子50によれば、光導波路14を伝搬する光が直線部L1から湾曲部14Rに入ると、この湾曲部14Rに沿って湾曲するのに対して、基板11や保護層13を伝搬する迷光Pは、湾曲部14Rの形成位置で湾曲することなくそのまま直進する。そして、この直進した迷光Pは、湾曲部14Rの湾曲外周に沿って形成された、湾曲した複数の溝部55,55…とこれを覆う光吸収層16によって吸収される。
【0063】
一例として、本実施形態の構成によれば、例えば、光導波路14に入射させる光の波長を520nm、光吸収層16をSi膜によって形成した場合、Siの光吸収係数は1.35×105cm-1であるので、光吸収層16の厚みが100nmであっても、溝部55を5つ配列することにより、この5つの溝部55にそれぞれ形成された光吸収層16の全てを迷光が透過する間に、迷光を入射前の強度の約26%程度まで減衰させることができる。
【0064】
従って、本実施形態の光回路素子50によれば、光導波路14の湾曲部14Rの形成位置で直進する迷光Pが光回路素子40の外部に出射されることが無く、例えば、調芯工程において、光検出器の調芯を阻害し、接続損失増大や接続不良の発生を防止することができる。
【0065】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態の光回路素子について説明する。なお、以下の実施形態では、上述した第1実施形態と同様の構成には、同一の番号を付し、重複する説明を省略する。本実施形態では、光回路素子の一例として、マッハツェンダ型の光変調器について説明する。
図11は、本発明の第6実施形態に係るマッハツェンダ型の光変調器(光回路素子)を示す平面図である。
【0066】
光変調器(光回路素子)60は、光導波路14で形成されたマッハツェンダ干渉計に、電圧を印加して光導波路14内を伝搬する光を変調するデバイスである。光導波路14は、分岐部E1、E2で2本の光導波路14S1、14S2に分岐され、光導波路14S1、14S2には、それぞれ1本ずつ、すなわち、2本の第1電極67a、67bが設けられているデュアル電極構造となっている。
【0067】
このような光変調器60は、2本の第1電極67a、67bと、第2電極68a、68b、68cを終端抵抗69で接続して、進行波電極として機能させる。第2電極68a、68b、68cを接地電極とし、2本の第1電極67a、67bに対して絶対値が同じで正負の異なる位相がずれていない、いわゆる相補信号を光変調器60の第1電極67a、67bの入力側64a、64bから入力する。基板を構成するニオブ酸リチウム膜は電気光学効果を有しているので、光導波路14S1、14S2に与えられる電界によって光導波路(14S1、14S2)の屈折率がそれぞれ+Δn、-Δnのように変化し、光導波路(14S1、14S2)間の位相差が変化する。この位相差の変化により光変調器60の出力側D2の光導波路14S4から強度変調された信号光が出力される。
【0068】
このような構成の光変調器60において、入力側D1の光導波路14S3の両側、出力側D2の光導波路14S4の両側、分岐部E1の内側、分岐部E2の外側、及び光導波路14S1の屈曲部E3,E4の外側、光導波路14S2の屈曲部E5,E6の外側に、それぞれ溝部65,65…が形成される。また、これら溝部65,65…の内面(側面、底面)が光吸収層(図示略)によって覆われている。
【0069】
このような構成によって、光変調器60の光導波路14S1~14S4の各部で生じる迷光が、溝部65,65…および光吸収層によって吸収、遮断される。よって、光変調器60の外部に迷光が出射することが無く、信号光以外の光(迷光)による誤動作を防止することができる。
【0070】
(構成例)
一構成例として、基板と、前記基板の一面に形成された光導波層と、前記光導波層に重ねて形成された保護層と、を有する光回路素子であって、前記光導波層は、光を伝搬させる光導波路を有し、前記保護層の表面から前記基板に向かって前記一面よりも深い位置まで達する溝部が形成され、少なくとも前記溝部の底面および側面を覆う光吸収層を備える。
【0071】
一構成例として、前記光吸収層は前記溝部全体を埋めるように形成されていてもよい。
【0072】
一構成例として、前記溝部は、前記基板の一面に沿って、互いに離間して複数形成されていてもよい。
【0073】
一構成例として、前記溝部は、互いに略並行に延存するように3つ以上形成され、任意の隣接する前記溝部どうしの間隔は、他の任意の隣接する前記溝部どうしの間隔と異なるように前記溝部が形成されていてもよい。
【0074】
一構成例として、前記溝部は、互いに略並行に延存するように4つ以上形成され、任意の前記溝部どうしの間隔の和が、他の任意の前記溝部どうしの間隔の和と異なるように前記溝部が形成されていてもよい。
【0075】
一構成例として、任意の前記溝部の幅が、隣接する前記溝部の幅と異なるように、前記溝部が形成されていてもよい。
【0076】
一構成例として、前記溝部は、互いに略並行に延存するように3つ以上形成され、任意の前記溝部の幅の和が、他の任意の前記溝部の幅の和と異なるように前記溝部が形成されていてもよい。
【0077】
一構成例として、前記光導波路は直線部から湾曲する湾曲部を有し、前記溝部は、前記直線部の仮想延長線と交差するように配置されていてもよい。
【0078】
一構成例として、前記光導波路は直線部から湾曲する湾曲部を有し、前記溝部は、前記湾曲部に沿うように湾曲して延びるように形成されていてもよい。
【0079】
一構成例として、前記光導波層はニオブ酸リチウムを含んでいてもよい。
【0080】
一構成例として、前記光導波路はリッジ型であってもよい。
【0081】
一構成例として、前記光吸収層はSiから形成されていてもよい。
【0082】
以上、本開示に係る技術の一実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0083】
10…光回路素子
11…基板
12…導波層
13…保護層
14…光導波路
15…溝部
15a…側面
15b…底面
16…光吸収層
17…リッジ部