(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165066
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】モータ駆動装置およびモータ装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/20 20160101AFI20231108BHJP
F02N 11/04 20060101ALI20231108BHJP
F02N 11/08 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
H02P6/20
F02N11/04 A
F02N11/08 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075667
(22)【出願日】2022-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯野 英介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 道夫
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560BB04
5H560BB07
5H560DC13
5H560EB01
5H560SS02
5H560UA05
(57)【要約】
【課題】システムを大型化、複雑化させることなく、エンジンを始動できるモータ駆動装置等を提供する。
【解決手段】エンジンを始動させるブラシレスモータを駆動するモータ駆動装置であって、電源の電圧を昇圧する昇圧回路と、ブラシレスモータを駆動する駆動回路と、駆動回路および昇圧回路を制御する制御部と、を備え、制御部は、エンジン始動時には、昇圧回路を動作させるとともに、昇圧回路により昇圧された電圧が印加された駆動回路によりブラシレスモータを始動させる。昇圧回路は、一端が電源に接続されたコイルと、コイルの他端とグランドとの間に接続された昇圧用スイッチング素子と、を有し、制御部は、昇圧用スイッチング素子をスイッチングさせてコイルに誘導起電力を発生させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを始動させるブラシレスモータを駆動するモータ駆動装置であって、
電源の電圧を昇圧する昇圧回路と、
前記ブラシレスモータを駆動する駆動回路と、
前記駆動回路および前記昇圧回路を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、エンジン始動時には、前記昇圧回路を動作させるとともに、前記昇圧回路により昇圧された電圧が印加された前記駆動回路により前記ブラシレスモータを始動させる、モータ駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動装置において、
前記昇圧回路は、一端が前記電源に接続されたコイルと、前記コイルの他端とグランドとの間に接続された昇圧用スイッチング素子と、を有し、
前記制御部は、前記昇圧用スイッチング素子をスイッチングさせて前記コイルに誘導起電力を発生させる、モータ駆動装置。
【請求項3】
発電時には、前記ブラシレスモータからの電流が前記コイルを介して前記電源に流れて前記電源を充電する、請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記昇圧回路を介さずに、前記電源と前記駆動回路とを接続するバイパス回路を備え、
発電時には、前記ブラシレスモータからの電流が前記バイパス回路を介して前記電源に流れて前記電源を充電する、請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記昇圧回路は複数設けられ、複数の前記昇圧回路が互いに並列接続された、請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記昇圧回路は、前記コイルの前記他端と前記駆動回路との間に接続されて前記制御部により制御される接続用スイッチング素子を備える、請求項2~請求項5のうちいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
エンジンを始動させるブラシレスモータと、前記ブラシレスモータを駆動するモータ駆動装置と、を備えるモータ装置であって、
前記モータ駆動装置は、
電源の電圧を昇圧する昇圧回路と、
前記ブラシレスモータを駆動する駆動回路と、
前記駆動回路および前記昇圧回路を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、エンジン始動時には、前記昇圧回路を動作させるとともに、前記昇圧回路により昇圧された電圧が印加された前記駆動回路により前記ブラシレスモータを始動させる、モータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置およびモータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バッテリの電圧を駆動回路を介してブラシレスモータに供給し、ブラシレスモータのトルクによりエンジンを始動させるモータ駆動装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、例えば、二輪車などの小型の車両に搭載できる電装品の数やサイズは限られ、エンジンを始動するためのモータも小型化を図る必要がある。このため、エンジン始動に必要なトルクを、制御用の低電圧(例えば、12V)のバッテリーで得ることが困難となるという問題がある。
【0005】
また、例えば、四輪のハイブリッド車では、制御用の低電圧(例えば、12V)のバッテリに加えて、モータ駆動用の高電圧(例えば、48V)のバッテリを使用しており、システムが複雑となり、実装コストも上昇してしまう。
【0006】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、システムを大型化、複雑化させることなく、エンジンを始動できるモータ駆動装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために、本発明の一態様は、
エンジンを始動させるブラシレスモータを駆動するモータ駆動装置であって、
電源の電圧を昇圧する昇圧回路と、
前記ブラシレスモータを駆動する駆動回路と、
前記駆動回路および前記昇圧回路を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、エンジン始動時には、前記昇圧回路を動作させるとともに、前記昇圧回路により昇圧された電圧が印加された前記駆動回路により前記ブラシレスモータを始動させる、モータ駆動装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、システムを大型化、複雑化させることなく、エンジンを始動できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施例のモータ装置の構成を示す図である。
【
図2】第1の実施例における、エンジン始動時の動作を示すフローチャートである。
【
図3】第2の実施例のモータ装置の構成を示す図である。
【
図4】第2の実施例における、エンジン始動時の動作を示すフローチャートである。
【
図5】第3の実施例のモータ装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施例)
図1は、第1の実施例のモータ装置の構成を示す図である。
【0012】
図1に示すように、本実施例のモータ装置は、車両のエンジンを始動させる3相(U相、V相、W相)のブラシレスモータMと、ブラシレスモータMを駆動するモータ駆動装置1とを備える。なお、本発明において車両の種類は限定されず、二輪車、四輪のハイブリッド車、その他、任意の車両に適用できる。
【0013】
モータ駆動装置1は、車載のECU(Electric Control Unit)により構成される制御部10と、ブラシレスモータMを駆動する駆動回路20と、バッテリBT(電源の一例)の電圧を昇圧する昇圧回路30と、を備える。駆動回路20および昇圧回路30は、制御部10により制御される。制御部10は、バッテリBTを電源(制御用電源)として作動する。なお、制御部10としての機能を、ECUではなく、他の制御装置に備えてもよい。
【0014】
制御部10は、エンジン始動時には、昇圧回路30を動作させるとともに、昇圧回路30により昇圧された電圧が印加された駆動回路20により、ブラシレスモータMを始動させる。
【0015】
図1に示すように、駆動回路20は、U相、V相およびW相にそれぞれ対応する、一対のスイッチング素子21u、22u、スイッチング素子21v、22vおよびスイッチング素子21w、22wを備える。一対のスイッチング素子21u、22u、スイッチング素子21v、22vおよびスイッチング素子21w、22wのそれぞれは、グランドと昇圧回路30との間で互いに直列に接続されている。また、一対のスイッチング素子21u、22u、スイッチング素子21v、22vおよびスイッチング素子21w、22wのそれぞれの中間点が、ブラシレスモータMの対応する相(U相、V相、W相)の端子に接続されている。
【0016】
スイッチング素子21u、22u、スイッチング素子21v、22v、およびスイッチング素子21w、22wは、制御部10によりオン、オフのタイミングが制御されて、ブラシレスモータMの力行動作および回生動作が行われる。
【0017】
図1に示すように、昇圧回路30は、イグニッションスイッチSWを介して一端がバッテリBTに接続されるコイル31と、コイル31の他端とグランドとの間に接続された昇圧用スイッチング素子32と、コイル31の他端と駆動回路20との間に接続された接続用スイッチング素子33と、接続用スイッチング素子33とグランドとの間に接続されたコンデンサ34と、を備える。
【0018】
図1に示すように、昇圧用スイッチング素子32および接続用スイッチング素子33は、FETであり、昇圧用スイッチング素子32のソースがグランドに接続され、昇圧用スイッチング素子32のドレインと接続用スイッチング素子33のソースがコイル31の上記他端に接続されている。また、接続用スイッチング素子33のドレインがコンデンサ34および駆動回路20に接続されている。昇圧用スイッチング素子32および接続用スイッチング素子33のゲートはいずれも制御部10に接続され、昇圧用スイッチング素子32および接続用スイッチング素子33のオン、オフは、制御部10により制御される。例えば、制御部10は、
図1に示す昇圧回路30の出力電圧V(コンデンサ34の端子間電圧)が所定の電圧になるように、昇圧用スイッチング素子32および接続用スイッチング素子33のオン、オフを制御する。
【0019】
図1における実線の矢印は、エンジン始動時における電流の方向を示している。
【0020】
エンジンの始動時には、昇圧回路30において、接続用スイッチング素子33をオフさせた状態で、昇圧用スイッチング素子32によるスイッチング動作(オン、オフの繰り返し動作)が行われる。これにより、オンされたイグニッションスイッチSWを介してバッテリBTからの電流がコイル31に断続的に流れ、コイル31に誘導起電力が生ずる。昇圧用スイッチング素子32がオフしているタイミングでは、バッテリBTの電圧に誘導起電力が上乗せされた電圧が接続用スイッチング素子33のソースに印加される。接続用スイッチング素子33(接続用スイッチング素子33の寄生ダイオード)とコンデンサ34は整流回路を構成し、バッテリBTの電圧に誘導起電力が上乗せされた電圧(接続用スイッチング素子33のソース電圧)に応じた電圧がコンデンサ34の両端間に発生する。
【0021】
このため、例えば、バッテリBTの電圧が12Vの場合であっても、昇圧回路30を動作させることにより、12Vを越える電圧、例えば24V、48Vなどの出力電圧Vを駆動回路20に与えることが可能となる。
【0022】
図1における点線の矢印は、ブラシレスモータMによる発電時における電流の方向を示している。
【0023】
発電時には、ブラシレスモータMでの発電により発生した電流が、駆動回路20を介して昇圧回路30に流れ込むように、制御部10は、スイッチング素子21u、22u、スイッチング素子21v、22vおよびスイッチング素子21w、22wを制御する。また、制御部10は、発電時には、昇圧回路30の接続用スイッチング素子33をオンさせる。これにより、ブラシレスモータMからの電流が、駆動回路20、接続用スイッチング素子33、コイル31を順次、経由し、さらに、オンされたイグニッションスイッチSWを介してバッテリBTに流れ込む。このように、ブラシレスモータMの発電電力は、コイル31を介する経路でバッテリBTに向けて流れる電流により、バッテリBTに回収される。
【0024】
図2は、第1の実施例における、エンジン始動時の動作を示すフローチャートである。
【0025】
図2のステップS102では、制御部10は、所定の信号に基づき、エンジンの始動が指示されたか否か判断し、判断が肯定されればステップS104へ処理を進め、判断が否定されればステップS112へ処理を進める。
【0026】
ステップS104では、制御部10は、昇圧用スイッチング素子32をスイッチングさせ、昇圧回路30の昇圧動作を実行させる。
【0027】
ステップS106では、制御部10は、昇圧回路30の出力電圧Vが所定の電圧に到達したか否か判断し、判断が肯定されれば処理をステップS108へ進め、判断が否定されれば処理をステップS104へ進める。
【0028】
ステップS108では、制御部10は、駆動回路20のスイッチング素子21u、22u、スイッチング素子21v、22vおよびスイッチング素子21w、22wを制御して、ブラシレスモータMを回転させる。
【0029】
ステップS110では、制御部10は、所定の信号等に基づいて、エンジンが始動したか否か判断し、判断が肯定されればステップS112へ処理を進め、判断が否定されればステップS108へ処理を進める。
【0030】
ステップS112では、制御部10は、昇圧用スイッチング素子32をオフし、昇圧回路30の昇圧動作を停止させ、ステップS102へ処理を進める。
【0031】
以上のように、第1の実施例では、エンジン始動時に昇圧回路30を動作させ、ブラシレスモータMをバッテリBTの電圧よりも高い電圧で駆動している。このため、ブラシレスモータMのトルクを高めることができ、バッテリBTの電圧では始動できないエンジンにも対応することができる。また、エンジン始動用の高電圧の電源(バッテリ)を、別途、車両に搭載する必要がないため、システムの大型化や複雑化を回避できるとともに、実装コストを軽減できる。
【0032】
第1の実施例において、エンジン始動時以外のタイミングで、昇圧回路30を動作させてもよい。例えば、バッテリBTの電圧が低下している場合には、低下分を昇圧回路30の動作により補うことで、十分なバッテリBTの電圧が得られている通常時と同様のモータ特性を得ることができる。
【0033】
また、第1の実施例において、エンジン始動時以外のタイミングでは、昇圧回路30を動作させずに、バッテリBTからの電流を駆動回路20(ブラシレスモータM)に供給することもできる。この場合、昇圧用スイッチング素子32をオフし、接続用スイッチング素子33をオンすることにより、バッテリBTからの電流を、コイル31を介して駆動回路20(ブラシレスモータM)に供給できる。
【0034】
(第2の実施例)
図3は、第2の実施例のモータ装置の構成を示す図である。以下、第1の実施例との相違点について説明する。
【0035】
図3に示すように、第2の実施例のモータ装置では、昇圧回路30を介さずに、バッテリBTと駆動回路20とを接続するバイパス回路40Aが設けられている。バイパス回路40Aには、バイパス用スイッチング素子40が挿入されている。バイパス用スイッチング素子40はFETであり、そのゲート電圧BGが制御部10により制御されることで、バイパス用スイッチング素子40のオン、オフが制御される。
【0036】
第2の実施例では、ブラシレスモータMによる発電時には、バイパス用スイッチング素子40が挿入されたバイパス回路40Aを介して、ブラシレスモータMからの電流がバッテリBTに流れ込む。
【0037】
図3における点線の矢印は、ブラシレスモータMによる発電時における電流の方向を示している。
【0038】
発電時には、ブラシレスモータMでの発電により発生した電流が、駆動回路20を介して取り込まれるように、制御部10は、スイッチング素子21u、22u、スイッチング素子21v、22vおよびスイッチング素子21w、22wのオン、オフを制御する。また、制御部10は、ゲート電圧BGをバイパス用スイッチング素子40をオンさせるように制御する。さらに、制御部10は、昇圧回路30の接続用スイッチング素子33をオフさせることにより、ブラシレスモータMからの電流が、コイル31に流れ込むことを防止する。このため、ブラシレスモータMからの電流は、駆動回路20、バイパス用スイッチング素子40(バイパス回路40A)を経由し、さらに、オンされているイグニッションスイッチSWを介してバッテリBTに流れ込む。このように、ブラシレスモータMからの電流は、コイル31を介する経路ではなく、バイパス用スイッチング素子40(バイパス回路40A)を介してバッテリBTに向けて流れ、バッテリBTを充電する。
【0039】
このように、第2の実施例では、発電時に、バイパス回路40Aを経由する電流によりバッテリBTを充電しているので、昇圧回路30、とくにコイル31に流れる電流に起因する電力損失および発熱の発生を避けることができる。
【0040】
また、第2の実施例では、バッテリBTの充電状態によっては、エンジン始動時に、バイパス回路40Aを介して、駆動回路20に電圧を供給することができる。
図3における実線の矢印は、エンジン始動時に、バイパス回路40Aを介して駆動回路20に電圧を供給する場合の電流の方向を示している。
【0041】
図4は、第2の実施例における、エンジン始動時の動作を示すフローチャートである。
【0042】
図4のステップS102では、制御部10は、所定の信号に基づき、エンジンの始動が指示されたか否か判断し、判断が肯定されればステップS103へ処理を進め、判断が否定されればステップS112へ処理を進める。
【0043】
ステップS103では、制御部10は、現在のバッテリBTの電圧に基づいて、バッテリBTの電圧のみによりエンジン始動が可能か否か判断し、判断が肯定されればステップS122へ処理を進め、判断が否定されればステップS104へ処理を進める。
【0044】
ステップS104では、制御部10は、昇圧用スイッチング素子32をスイッチングさせ、昇圧回路30の昇圧動作を実行させる。
【0045】
ステップS106では、制御部10は、昇圧回路30の出力電圧Vが所定の電圧に到達したか否か判断し、判断が肯定されれば処理をステップS108へ進め、判断が否定されれば処理をステップS104へ進める。
【0046】
ステップS108では、制御部10は、駆動回路20のスイッチング素子21u、22u、スイッチング素子21v、22vおよびスイッチング素子21w、22wを制御して、ブラシレスモータMを回転させる。
【0047】
ステップS110では、制御部10は、所定の信号等に基づいて、エンジンが始動したか否か判断し、判断が肯定されればステップS112へ処理を進め、判断が否定されればステップS108へ処理を進める。
【0048】
ステップS112では、制御部10は、昇圧用スイッチング素子32をオフし、昇圧回路30の昇圧動作を停止させ、ステップS102へ処理を進める。
【0049】
一方、ステップS122では、制御部10は、接続用スイッチング素子33をオフさせ、バイパス用スイッチング素子40をオンさせる。
【0050】
ステップS124では、制御部10は、駆動回路20のスイッチング素子21u、22u、スイッチング素子21v、22vおよびスイッチング素子21w、22wを制御して、ブラシレスモータMを回転させる。
【0051】
ステップS126では、制御部10は、所定の信号等に基づいて、エンジンが始動したか否か判断し、判断が肯定されればステップS102へ処理を進め、判断が否定されればステップS124へ処理を進める。
【0052】
以上のように、第2の実施例では、エンジン始動時に必要な場合(ステップS103の判断が否定される場合)、例えば、バッテリBTの電圧が低くなっている場合には、昇圧回路30を動作させ、ブラシレスモータMをバッテリBTの電圧よりも高い電圧で駆動している。このため、ブラシレスモータMのトルクを高めることができ、バッテリBTの電圧のみではエンジンを始動できないときでも、バッテリBTの電圧を昇圧することでエンジンの始動を可能としている。また、エンジン始動用の高電圧の電源(バッテリ)を、別途、車両に搭載する必要がないため、システムの大型化や複雑化を回避できるとともに、実装コストを軽減できる。
【0053】
また、第2の実施例では、バッテリBTの電圧のみでエンジン始動が可能な場合(ステップS103の判断が肯定される場合)には、昇圧回路30を動作させることなく、エンジンを始動できる。このため、無駄な電力消費を抑制できる。また、エンジン始動時に限らず、第2の実施例では、昇圧回路30のコイルを経由することなく、バッテリBTからの電流がバイパス回路40Aを介して駆動回路20(ブラシレスモータM)に供給できる。したがって、コイル31での電力損失および発熱の発生を回避できる。
【0054】
さらに、第2の実施例では、ブラシレスモータMの発電時に、発電電流を昇圧回路30のコイル31を経由させずに、バイパス回路40Aを介しバッテリBTに供給することで、バッテリBTを充電できる。このため、コイル31での電力損失および発熱の発生を回避できる。
【0055】
第2の実施例において、エンジン始動時以外のタイミングで、昇圧回路30を動作させてもよい。例えば、バッテリBTの電圧が低下している場合には、低下分を昇圧回路30の動作により補うことで、十分なバッテリBTの電圧が得られている通常時と同様のモータ特性を得ることができる。
【0056】
(第3の実施例)
図5は、第3の実施例のモータ装置の構成を示す図である。第3の実施例は、第1の実施例における昇圧回路30に相当する昇圧回路を並列接続したものであるが、第2の実施例においても、同様の変更を加えることができる。
【0057】
図5に示すように、第3の実施例では、モータ駆動装置1Aにおいて、第1の実施例の昇圧回路30の回路構成に相当する、同一の昇圧回路30Aおよび昇圧回路30Bを、互いに並列接続している。なお、便宜的に、
図5の昇圧回路30Aでは、昇圧回路30において対応する要素に同一符号を付している。しかし、符号が同一であることは、昇圧回路30Aおよび昇圧回路30Bにおいて昇圧回路30と同一部品が使用されていることを意味しない。
【0058】
昇圧回路30Aの昇圧用スイッチング素子32および接続用スイッチング素子33には、制御部10からのゲート信号G2、G1が与えられ、昇圧回路30Bの昇圧用スイッチング素子32および接続用スイッチング素子33(
図4では図示を省略)には、制御部10からのゲート信号G4、G3が与えられる。ゲート信号G2とゲート信号G4、およびゲート信号G1とゲート信号G3は、互いに180度位相が異なる信号とされる。
【0059】
このように、昇圧回路30Aと昇圧回路30Bを並列接続し、交互にスイッチング動作させることにより、電流を昇圧回路30Aと昇圧回路30Bに分担させることができる。この場合、昇圧回路30Aおよび昇圧回路30Bにおけるスイッチング周波数が第1の実施例と同じでも、出力側のコンデンサ(2つのコンデンサ34を並列接続したコンデンサに相当)に対して、2倍の周期で充電が繰り返されることになる。このため、駆動回路20に供給される電流が第1の実施例と同じであっても、1回のスイッチングで流れるピーク電流が減少する。このため、バッテリBTに対する負荷が軽減されるとともに、EMI(電磁障害)が減少する。また、コンデンサ34の容量も抑制できる。また、コイル31、昇圧用スイッチング素子32および接続用スイッチング素子33での損失が減るため、第1の実施例の昇圧回路30と比較して、これらの素子の小型化を図ることができる。すなわち、昇圧回路30Aおよび昇圧回路30Bの両者が必要となるものの、それぞれの回路の実装スペースは、昇圧回路30よりは縮小できる。なお、
図5では、出力側のコンデンサとして、昇圧回路30Aおよび昇圧回路30Bに設けられたそれぞれのコンデンサ34を並列接続した例を示しているが、単独のコンデンサを用いることもできる。
【0060】
並列化する昇圧回路の個数は任意である。例えば、3つの昇圧回路を並列接続する場合、互いに120度位相が異なるタイミングでスイッチングさせればよい。また、昇圧回路の回路規模(電流容量)も任意であり、例えば、第1の実施例の昇圧回路30を並列接続することにより、出力電流の容量を増加させることができる。なお、昇圧回路30において、スイッチング周波数を上昇させ、あるいはコイル31のインダクタンス値を増加させることで、電流容量を増やすことも考えられる。しかし、出力電流が増加すると、回路各部での損失が増大するなどの問題が発生する。とくに、スイッチング周波数を上昇させると昇圧用スイッチング素子32での損失が増加し、コイル31のインダクタンス値を増加させるとコイル31での損失が増加する。昇圧回路を並列化することにより、このような問題を回避できる。
【0061】
以上説明したように、第1の実施例~第3の実施例によれば、エンジン始動時には、昇圧回路30によりバッテリBTの電圧よりも高い出力電圧Vを得ることができる。このため、出力電圧Vを用いて駆動回路20を介してブラシレスモータMを回転させることができるので、エンジンの始動に必要なトルクを獲得できる。また、バッテリBT以外の電源を必要とせずにエンジンを始動できるため、システムを大型化、複雑化させることがない。
【0062】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0063】
なお、以上の本発明の実施例に関し、更に以下の付記を開示する。
【0064】
[付記1]
エンジンを始動させるブラシレスモータ(M)を駆動するモータ駆動装置(1)であって、
電源(BT)の電圧を昇圧する昇圧回路(30)と、
前記ブラシレスモータを駆動する駆動回路(20)と、
前記駆動回路および前記昇圧回路を制御する制御部(10)と、
を備え、
前記制御部は、エンジン始動時には、前記昇圧回路を動作させるとともに、前記昇圧回路により昇圧された電圧が印加された前記駆動回路により前記ブラシレスモータを始動させる、モータ駆動装置。
【0065】
付記1に記載の構成によれば、昇圧回路により昇圧された電圧が印加された駆動回路によりブラシレスモータを始動させるので、高電圧の別電源を用意することなく、エンジンの始動に必要なトルクを得ることができる。
【0066】
[付記2]
付記1に記載のモータ駆動装置において、
前記昇圧回路は、一端が前記電源に接続されたコイル(31)と、前記コイルの他端とグランドとの間に接続された昇圧用スイッチング素子(32)と、を有し、
前記制御部は、前記昇圧用スイッチング素子をスイッチングさせて前記コイルに誘導起電力を発生させる、モータ駆動装置。
【0067】
付記2に記載の構成によれば、昇圧用スイッチング素子をスイッチングさせたときにコイルに発生する誘導起電力を用いて、電源の電圧を昇圧することができる。
【0068】
[付記3]
発電時には、前記ブラシレスモータからの電流が前記コイルを介して前記電源に流れて前記電源を充電する、付記2に記載のモータ駆動装置。
【0069】
付記3に記載の構成によれば、ブラシレスモータからの電流を流す充電経路として昇圧回路のコイルを利用して、電源の充電を行うことができる。
【0070】
[付記4]
前記昇圧回路を介さずに、前記電源と前記駆動回路とを接続するバイパス回路(40A)を備え、
発電時には、前記ブラシレスモータからの電流が前記バイパス回路を介して前記電源に流れて前記電源を充電する、付記2に記載のモータ駆動装置。
【0071】
付記4に記載の構成によれば、ブラシレスモータからの電流を、昇圧回路を経由させずに、バイパス回路を介して電源に流すことができるので、昇圧回路における電力損失や発熱を回避できる。
【0072】
[付記5]
前記昇圧回路は複数設けられ、複数の前記昇圧回路が互いに並列接続された、請求項2に記載のモータ駆動装置。
【0073】
付記5に記載の構成によれば、複数の昇圧回路が互いに並列接続されているので、駆動回路に供給される電流を分担させることができる。
【0074】
[付記6]
前記昇圧回路は、前記コイルの前記他端と前記駆動回路との間に接続されて前記制御部により制御される接続用スイッチング素子を備える、付記2~付記5のうちいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【0075】
付記6に記載の構成によれば、接続用スイッチング素子をオフさせることにより、駆動回路からコイルに流れる方向の電流を遮断できる。
【0076】
[付記7]
エンジンを始動させるブラシレスモータと、前記ブラシレスモータを駆動するモータ駆動装置と、を備えるモータ装置であって、
前記モータ駆動装置は、
電源の電圧を昇圧する昇圧回路と、
前記ブラシレスモータを駆動する駆動回路と、
前記駆動回路および前記昇圧回路を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、エンジン始動時には、前記昇圧回路を動作させるとともに、前記昇圧回路により昇圧された電圧が印加された前記駆動回路により前記ブラシレスモータを始動させる、モータ装置。
【0077】
付記7に記載の構成によれば、昇圧回路により昇圧された電圧が印加された駆動回路によりブラシレスモータを始動させるので、高電圧の別電源を用意することなく、エンジンの始動に必要なトルクを得ることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 モータ駆動装置
10 制御部
20 駆動回路
30 昇圧回路
31 コイル
32 昇圧用スイッチング素子
33 接続用スイッチング素子
40 バイパス用スイッチング素子
40A バイパス回路
M ブラシレスモータ