(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165103
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】シークエンスオリゴマー及びポリマー並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/01 20060101AFI20231108BHJP
C08F 12/02 20060101ALI20231108BHJP
C08F 20/18 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C08F2/01
C08F12/02
C08F20/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075734
(22)【出願日】2022-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永木 愛一郎
(72)【発明者】
【氏名】芦刈 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】北山 健司
【テーマコード(参考)】
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011AC03
4J011BA04
4J011BA05
4J011BB03
4J011BB13
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4J011DB23
4J100AB02P
4J100AB03P
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4J100AL03Q
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4J100BA05P
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4J100CA25
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4J100FA03
4J100FA35
4J100JA00
(57)【要約】
【課題】シークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマー並びにその製造方法の提供。
【解決手段】シークエンスオリゴマーの製造方法は、少なくとも一つのマイクロミキサーを備えたマイクロリアクターにおいて、活性種と、この活性種と反応可能なモノマーと、を混合撹拌することを含む。シークエンスポリマーの製造方法は、マイクロミキサーを備えたマイクロリアクターが複数連結されてなるマイクロリアクターシステムにおいて、一のマイクロリアクター内で活性種とモノマーとを混合撹拌して反応生成物を得た後、このマイクロリアクターに連結された他のマイクロリアクター内で、この反応生成物と、同種又は異なる種類のモノマーとを混合撹拌すること、を繰り返す。このシークエンスオリゴマー及びポリマーは、分子鎖の一次構造が実質的に完全に制御されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのマイクロミキサーを備えたマイクロリアクターにおいて、
活性種と、この活性種と反応可能なモノマーと、を混合撹拌することを含む、一次構造が実質的に完全に制御されたシークエンスオリゴマーの製造方法。
【請求項2】
上記混合撹拌時において、上記活性種の流速と上記活性種と反応可能なモノマーの流速との合計流速が15ml/min以上である、請求項1に記載のシークエンスオリゴマーの製造方法。
【請求項3】
上記活性種が、開始剤又は開始剤とモノマーとの反応生成物である、請求項1に記載のシークエンスオリゴマーの製造方法。
【請求項4】
上記開始剤がアニオン重合開始剤である、請求項3に記載のシークエンスオリゴマーの製造方法。
【請求項5】
上記活性種と反応可能なモノマーが、スチレン類、ジフェニルエチレン類及びメタクリルエステル類からなる群から選択される、請求項1に記載のシークエンスオリゴマーの製造方法。
【請求項6】
上記マイクロリアクターにおいて、上記活性種の溶液と、上記活性種と反応可能なモノマーの溶液と、を混合撹拌する、請求項1に記載のシークエンスオリゴマーの製造方法。
【請求項7】
上記マイクロリアクターに連結した他のマイクロリアクターにおいて、
上記活性種と上記活性種と反応可能なモノマーとの反応生成物に、反応性官能基を導入することをさらに含む、請求項1に記載のシークエンスオリゴマーの製造方法。
【請求項8】
マイクロリアクターが複数連結されてなるマイクロリアクターシステムにおいて、各マイクロリアクターがマイクロミキサーを備えており、
上記マイクロリアクター内で、活性種と、この活性種と反応可能なモノマーとを混合撹拌した後、
上記マイクロリアクターに連結された他のマイクロリアクター内で、上記活性種と上記活性種と反応可能なモノマーとの反応生成物と、このモノマーと同種又は異なる種類のモノマーとを混合撹拌すること、を繰り返す、一次構造が実質的に完全に制御されたシークエンスポリマーの製造方法。
【請求項9】
種類の異なるモノマー単位が複数連結された分子鎖を有しており、この分子鎖がペプチド結合以外の結合様式を含んでおり、この分子鎖の一次構造が実質的に完全に制御されている、シークエンスオリゴマー。
【請求項10】
上記モノマー単位が、スチレン類、ジフェニルエチレン類及びメタクリルエステル類からなる群から選択されるモノマーに由来する、請求項9に記載のシークエンスオリゴマー。
【請求項11】
上記分子鎖において、種類の異なるモノマー単位が1ずつ配列している、請求項9に記載のシークエンスオリゴマー。
【請求項12】
分子量分布Mw/Mnが1.10未満である、請求項9に記載のシークエンスオリゴマー。
【請求項13】
種類の異なるモノマー単位が複数連結された分子鎖を有しており、この分子鎖がペプチド結合以外の結合様式を含んでおり、この分子鎖の一次構造が実質的に完全に制御されている、シークエンスポリマー。
【請求項14】
上記モノマー単位が、スチレン類、ジフェニルエチレン類及びメタクリルエステル類からなる群から選択されるモノマーに由来する、請求項13に記載のシークエンスポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シークエンスオリゴマー及びポリマーに関する。詳細には、本開示は、化学合成の手法を用いて一次構造を制御したオリゴマー及びポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モノマー単位の配列(一次構造)が制御されたシークエンスポリマー及びシークエンスオリゴマーの合成が注目されている。例えば、天然物に関しては、生合成によって、一次構造が完全に制御された高分子として、タンパク質等が得られている。また、ペプチド固相合成等によって、オリゴマーレベルでのシークエンス制御が一部達成されている。
【0003】
一方、合成ポリマーに関しては、リビング重合を利用した種々の試みがなされているが、限られたモノマー種による検討に留まっている。例えば、特開2005-60281号公報(特許文献1)では、マイクロリアクター中で、超音波振動を与えながら、ルイス酸の存在下、ビニル化合物又はビニリデン化合物を二量化する方法が提案されている。
【0004】
特許5216954号(特許文献2)には、リチウム化合物溶液と、アルケン化合物溶液とを、マイクロリアクターに導入してクロスカップリング反応させるジアリールエテン化合物の製造方法が開示されている。特許5629080号(特許文献3)では、芳香族ハロゲン化合物と有機リチウム試薬とを反応させて芳香族有機リチウム化合物を製造し、この芳香族有機リチウム化合物と、ハロゲン化環状化合物とを、パラジウム触媒の存在下、マイクロリアクターの流路中で反応させて、所定の多環式化合物を製造する方法が提案されている。
【0005】
非特許文献1では、フローマイクロリアクターを利用した1~3段階のフロー合成反応が提案されている。このフロー合成反応によれば、1段階目で得られる生成物の分子量分布Mw/Mnが1.10~1.08、2段階目で得られる生成物の分子量分布Mw/Mnが1.10~1.55、3段階目で得られる生成物の分子量分布Mw/Mnが1.12~1.35である。非特許文献1では、各ブロックの重合度が完全に均一なブロックコポリマーは製造されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-60281号公報
【特許文献2】特許5216954号
【特許文献3】特許5629080号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nagaki, A.; Miyazaki, A.; Yoshida, J. Macromolecules 2010, 43, 8424
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
タンパク質、DNA、RNA、糖等の生合成では、分子鎖におけるモノマー単位の配列(一次構造)が実質的に完全に制御された生体高分子が得られる。この制御された一次構造を有することにより、生体高分子では、固有の高次構造が形成され、生体反応における選択性等が発現される。
【0009】
合成高分子においても、生体高分子のように一次構造を制御することができれば、この一次構造により高分子の高次構造(二次構造、三次構造等)が制御されるので、その結果として、高分子の立体構造を制御することができる。しかし、化学合成の分野では、オリゴマーレベルで部分的に一次構造を制御するペプチド合成法が提案されているが、生体高分子のように、一次構造を実質的に完全に制御する方法は未だ提案されていない。
【0010】
なお、「実質的に完全」とは、生体高分子で得られる程度の完全さを意味する。これは、生体高分子の生合成においても全く完全に一次構造が制御されるわけではなく、例えば、DNAの複製ミスにより、分子鎖の一部に一次構造の乱れが生じることが知られているからである。即ち、「実質的に完全」とは、生体高分子に見られる一次構造の乱れを考慮しても、従来の化学合成の手法と比較すると、遙かに高度に一次構造が制御された状態を意味する。
【0011】
本開示の目的は、ポリマー及びオリゴマーの一次構造及び分子量分布を実質的に完全に制御する方法の提供であり、その方法を用いて得られるシークエンスオリゴマー及びポリマーの提供である。換言すれば、本開示の目的は、生体高分子と同程度に制御された一次構造を有するシークエンスオリゴマー及びポリマーの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
マイクロリアクター(microreactor)とは、一辺あたり1mm以下のサイズを有する空間内で化学反応をおこなう装置である。一般的には、マイクロリアクターは、直径1mm以下のマイクロチャンネル(流路)を複数連結して、連結したマイクロチャンネルが交差する空間で反応物を接触させて化学反応を開始及び進行させるように構成されている。狭義には、この空間部分が「マイクロリアクター」とされる。
【0013】
非特許文献1では、複数のマイクロリアクターを接続したフロー型反応装置が提案されているが、最終的に得られるブロックポリマーの分子量分布Mw/Mnは1.4程度であり、実質的に完全に一次構造が制御されたものではない。本開示者らは、マイクロチャンネル内での反応物(原料)の混合効率を大きくすることで、反応選択性が向上して、モノマー単位一単位毎に配列を制御できることを見出し、本開示を完成した。
【0014】
即ち、本開示は、一次構造が実質的に完全に制御されたシークエンスオリゴマーの製造方法である。この製造方法は、少なくとも一つのマイクロミキサーを備えたマイクロリアクターにおいて、活性種と、この活性種と反応可能なモノマーと、を混合撹拌することを含む。
【0015】
他の観点から、本開示に係るシークエンスオリゴマーは、種類の異なるモノマー単位が複数連結された分子鎖を有している。この分子鎖は、ペプチド結合以外の結合様式を含む。この分子鎖の一次構造は、実質的に完全に制御されている。
【発明の効果】
【0016】
一次構造が実質的に完全に制御された本開示のシークエンスオリゴマー及びポリマーによれば、モノマーの種類及び配列の選択により、所望の物性を発現させることができる。また、本開示に係る製造方法は、このシークエンスオリゴマー及びポリマーにおけるモノマー単位の配列を高い精度で制御することができるため、高分子設計の自由度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る製造方法が示された概念図である。
【
図2】
図2は、シークエンスオリゴマーに反応性官能基を導入する一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好ましい実施形態の一例を具体的に説明する。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。また、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【0019】
なお、本開示において、「シークエンス」とは、オリゴマー又はポリマーをなす分子鎖において、単量体単位(monomeric unit)(以下、「モノマー単位」とも称し、重合反応によりモノマー1分子から形成される構成単位のうち最大のものを意味する)の配列(一次構造)を意味する。「シークエンスオリゴマー」及び「シークエンスポリマー」とは、この配列(一次構造)が、実質的に完全に制御されたオリゴマー及びポリマーを意味する。詳細には、本開示の「シークエンスオリゴマー」及び「シークエンスポリマー」は、モノマー単位が複数連結された分子鎖において、その連結順序及び数が実質的に完全に制御されていることを意味する。この「実質的に完全」とは前述した通りであり、生体高分子で得られる程度の完全さを意味する。なお、本開示においては、重量平均分子量5000未満を「オリゴマー」、重量平均分子量5000以上を「ポリマー」と定義する。また、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」の意味である。特に注釈のない限り、試験温度は全て室温(20℃±5℃)である。
【0020】
また、本開示における「マイクロリアクター」は、特に説明がない場合には、マイクロチャンネル(流路)の交差部に形成された空間であって、反応物が交錯して化学反応を生じさせる部分を意味する。この「マイクロリアクター」を複数連結して、「マイクロリアクターシステム」とすることもできる。
【0021】
[シークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマーの製造方法]
本開示に係るシークエンスオリゴマーは、マイクロリアクターを用いたフロー合成(フローマイクロリアクター)により製造される。「フロー合成」とは、原料である反応物を連続的に送液しながら化学合成することを意味する。詳細には、この製造方法は、活性種と、この活性種と反応可能なモノマーと、をそれぞれ異なるマイクロチャンネル(流路)からマイクロリアクターに供給して接触して反応させる。ここで、「活性種」とは、反応開始点を有する化合物であり、好ましくは、リビング鎖末端を有する化合物である。
【0022】
通常、フローマイクロリアクターでは、複数の反応物を含む流体が接触する過程で化学反応が進行する。本開示のマイクロリアクターは、少なくとも一つのマイクロミキサーを備えている。好ましくは、マイクロミキサーは、複数のマイクロチャンネルが交差する部分に設置される。マイクロミキサーは、マイクロリアクターに供給された活性種と、この活性種と反応可能なモノマーとを混合撹拌する。このマイクロミキサーによる混合撹拌により、反応物同士の混合効率が向上して、速やかに均一な反応混合物が得られる。その結果として、活性種を起点とする開始反応が一斉に進行し、かつ、成長反応が抑制されるため、活性種に所定の数のモノマーが結合した生成物を高い収率で得ることができる。例えば、本開示において、活性種1分子に対して、1分子のモノマーが結合した化合物(モノ付加体)が得られてもよい。本開示の製造方法によれば、活性種1分子に対し2分子以上のモノマーが結合した化合物の生成がかなり抑制されるため、モノ付加体の収率が向上する。即ち、本開示によれば、反応生成物の一次構造及び分子量分布を、実質的に完全に制御することができる。
【0023】
本開示の製造方法において、活性種1分子に対して結合するモノマーの数は、マイクロミキサーの種類、反応物の流速、反応温度等により調整することができる。また、反応物を溶液としてフローマイクロリアクターに導入する場合、その溶液濃度によっても調整することができる。例えば、得られる反応生成物の分子量をガスクロマトグラフィー等既知の手段で測定して、所望の分子量(モノマー結合数)となるように、前述の反応条件を設定してもよい。
【0024】
また、本開示の製造方法では、マイクロチャンネルの設計により、マイクロリアクターを複数連結して、マイクロリアクターシステムを構成してもよい。通常、活性種とモノマーとの反応生成物も、反応開始点を有する活性種である。従って、このマイクロリアクターシステムを用いて、活性種と、同種又は異種のモノマーとの反応を連続しておこなうことも可能である。複数のマイクロリアクターにそれぞれマイクロミキサーを設置して反応させることにより、モノマー単位の配列及び結合数を所望のものとし、一次構造が実質的に完全に制御され、さらには分子量分布が極めて狭いシークエンスオリゴマーを得ることができる。
【0025】
さらにまた、所望の数のマイクロリアクターを連結して、所望の種類の活性種とモノマーとを選択して、その反応を繰り返しおこなうことにより、所望の分子量を有し、かつ、一次構造が実質的に完全に制御され、さらには分子量分布が極めて狭いシークエンスポリマーを得ることができる。換言すれば、本開示は、マイクロミキサーを備えたマイクロリアクターが複数連結されてなるマイクロリアクターシステムにおいて、マイクロリアクター内で、活性種と、この活性種と反応可能なモノマーとを混合撹拌して反応生成物を得た後、このマイクロリアクターに連結された他のマイクロリアクター内で、得られた反応生成物と、先に反応させたモノマーと同種又は異なる種類のモノマーとを混合撹拌すること、を繰り返して、一次構造が実質的に完全に制御されたシークエンスポリマーの製造方法である。
【0026】
このように一次構造を実質的に完全に制御しうる本開示の製造方法は、従来のペプチド合成に代わる新たな合成方法として、例えば、創薬等に利用することもできる。なお、最終段階では、必要に応じて反応停止剤をマイクロリアクターに供給して、反応開始点を失活させてもよい。また、最初のマイクロリアクターに開始剤とモノマーとを供給して、反応開始点を有する活性種を得てもよい。
【0027】
以下、本開示の一実施形態に係る製造方法の概要を、
図1を用いて説明する。
図1に示された実施形態では、マイクロチャンネル(以下、「チャンネル」と称される)1-7が接続されることにより、その交差部に3つのマイクロリアクターが形成されている。
図1中、このマイクロリアクターが、符号M1、M2及びM3として示されている。マイクロリアクターM1、M2及びM3には、それぞれ、マイクロミキサーが設置されている。複数のチャンネル1~7は、それぞれ、原料又は生成物の流路として用いられる。
図1中、原料又は生成物の移動方向が、それぞれ矢印で示されている。
【0028】
所望の反応生成物が得られる限り、マイクロリアクター及びマイクロミキサーの種類及び数は特に限定されない。例えば、直径1000μm以下のマイクロチャンネル(流路)を用いてマイクロリアクターが形成されてもよい。本開示の効果が得られる限り、複数のチャンネル1-7の直径は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0029】
また、マイクロミキサーとしては、必要な撹拌効率が得られるものであればよい。例えば、スタックミキサータイプであってもよく、流路の一部に振動を与える形式であってもよく、流路に微小な変形(流路の縮径等)を加える形式であってもよい。反応効率の観点から、T字型、アンカー型(V字型)等の平板静止スタティックミキサーが好適に用いられる。本開示の効果が得られる限り、複数のマイクロミキサーの種類は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0030】
詳細には、この実施形態では、はじめに、開始剤Iと第一のモノマーR1とが、それぞれチャンネル1及び2を通って、マイクロリアクターM1に供給される。供給された開始剤IとモノマーR1とは、マイクロリアクターM1に設置されたマイクロミキサーにより混合撹拌される。これにより、マイクロリアクターM1において、開始剤IとモノマーR1との反応が開始される。この反応生成物として、モノマーR1に由来するモノマー単位Aを少なくとも1つ有し、かつ、開始剤に由来する反応開始点を有する活性種P1が生成され、チャンネル3を通って、マイクロリアクターM1から排出される。換言すれば、この製造方法は、マイクロミキサーを備えたマイクロリアクターM1において、開始剤Iと、この開始剤Iと反応可能なモノマーR1と、を混合撹拌することを含む。
【0031】
次に、マイクロリアクターM1から排出された活性種P1は、チャンネル3を通って、マイクロリアクターM2に供給される。さらに、マイクロリアクターM2には、チャンネル4を通って、第二のモノマーR2が供給される。マイクロリアクターM2に供給された活性種P1とモノマーR2とは、マイクロリアクターM2に設置されたマイクロミキサーにより混合撹拌される。これにより、マイクロリアクターM2において、活性種P1とモノマーR2との反応が開始される。この反応生成物として、モノマーR2に由来するモノマー単位Bを少なくとも1つ有し、かつ、活性種P1に由来する反応開始点を有する活性種P2が生成され、チャンネル5を通って、マイクロリアクターM2から排出される。換言すれば、この製造方法は、マイクロミキサーを備えたマイクロリアクターM2において、活性種P1と、この活性種P1と反応可能なモノマーR2と、を混合撹拌することを含む。
【0032】
次に、マイクロリアクターM2から排出された活性種P2は、チャンネル5を通って、マイクロリアクターM3に供給される。さらに、マイクロリアクターM3には、チャンネル6を通って、第三のモノマーR3が供給される。マイクロリアクターM3に供給された活性種P2とモノマーR3とは、マイクロリアクターM3に設置されたマイクロミキサーにより混合撹拌される。これにより、マイクロリアクターM3において、活性種P2とモノマーR3との反応が開始される。この反応生成として、モノマーR3に由来するモノマー単位Cを少なくとも1つ有し、かつ、活性種P2に由来する反応開始点を有する活性種P3が生成され、チャンネル7を通って、マイクロリアクターM3から排出される。換言すれば、この製造方法は、マイクロミキサーを備えたマイクロリアクターM3において、活性種P2と、この活性種P2と反応可能なモノマーR3と、を混合撹拌することを含む。
【0033】
この実施形態によれば、分子鎖(主鎖)に、モノマーR1に由来するx個のモノマー単位A、モノマーR2に由来するy個のモノマー単位B、及び、モノマーR3に由来するz個のモノマー単位Cが順に配置された活性種P3が得られうる。活性種P3における各モノマー単位の数は、各マイクロリアクターに供給する活性種(開始剤又は開始剤とモノマーとの反応生成物)及びモノマーの組成及び流速、マイクロミキサーによる混合効率、反応温度等により調整することができる。また、活性種及びモノマーを溶液として供給する場合には、その溶液濃度によっても調整することができる。特に、各マイクロリアクターにおいて、マイクロミキサーを用いて活性種又は開始剤とモノマーとを混合撹拌する本開示の製造方法によれば、開始反応が極めて大きく、生長反応が極めて抑制されることにより、マイクロミキサーに供給した活性種又は開始剤とモノマーとの当量比に近似した組成の反応生成物を得ることができる。
【0034】
具体的には、開始剤Iと、この開始剤Iに対してx当量のモノマーR1と、をマイクロリアクターM1に供給する場合、開始剤Iに由来する一つの反応開始点に対し、x個のモノマー単位Aを有する活性種P1を、高い収率で得ることができる。この活性種P1と、活性種P1に対してy当量のモノマーR2と、をマイクロリアクターM2に供給する場合、活性種P1に由来する一つの反応開始点に対し、y個のモノマー単位Bを有する活性種P2を、高い収率で得ることができる。この活性種P2と、活性種P2に対してz当量のモノマーR3と、をマイクロリアクターM3に供給する場合、活性種P2に由来する一つの反応開始点に対し、z個のモノマー単位Cを有する活性種P3を、高い収率で得ることができる。例えば、開始剤Iに対して、モノマーR1、R2及びR3を各1当量ずつ用いれば、分子鎖(主鎖)に、モノマー単位A、B及びCが1つずつ順に配列されたシークエンスオリゴマーを、活性種P3として得ることも可能である。
【0035】
また、本開示の製造方法によれば、活性種の反応開始点を失活させない限り、種々のモノマーを配列することができる。この製造方法では、従来のペプチド合成法とは異なり、ペプチド結合以外の種々の結合様式を用いてモノマー単位を配列させることができるので、分子設計の自由度がさらに向上する。
【0036】
本開示の製造方法では、必要とするシークエンスオリゴマーの物性に応じて、分子鎖に導入するモノマー単位の種類及びその数(即ち、一次構造)を適宜選択することができる。例えば、各マイクロリアクターに供給する活性種に対するモノマーの量は、1当量以上であってよく、2当量以上であってよく、3当量以上であってよく、5当量以上であってよい。活性種に対するモノマー当量の上限値は特に限定されないが、生長反応を抑制して分子量分布が制御しやすいとの観点から、活性種に対するモノマーの量は、50当量以下であってよく、40当量以下であってよい。
【0037】
活性種とモノマーとの混合効率向上の観点から、マイクロリアクターに供給する活性種の流速とこの活性種と反応可能なモノマーの流速との合計流速は、その混合時において、15ml/min以上であってよく、18ml/min以上であってよく、20ml/min以上であってよい。剪断による分解反応を抑制する観点から、この合計流速は100ml/min以下であってよい。
【0038】
マイクロリアクターが複数連結されてなるマイクロリアクターシステムにおいて、それぞれのマイクロリアクターにおける活性種及びモノマーの流速並びにその合計流速は、同じであってもよく、異なっていてもよいが、反応制御がしやすいとの観点から、各マイクロリアクターにおいて、活性種及びモノマーの流速並びにその合計流速が近似していることが好ましい。なお、各マイクロリアクターに供給する活性種及びモノマーの流速は、特に限定されず、マイクロリアクター内の混合撹拌時において、前述した合計流速が達成されるよう、適宜調整することができる。
【0039】
本開示の製造方法において、マイクロリアクターには、活性種及びモノマーをそれぞれ溶液として供給してもよい。換言すれば、この製造方法が、マイクロリアクターにおいて、活性種の溶液と、この活性種と反応可能なモノマーの溶液と、を混合撹拌してもよい。マイクロリアクターに活性種及びモノマーを溶液として供給する場合、活性種溶液及びモノマー溶液の流速が、前述の合計流速を満たすように調整される。また、活性種溶液として開始剤溶液を供給する場合には、開始剤溶液及びモノマー溶液の流速が、前述の合計流速を満たすように調整される。
【0040】
活性種及びモノマーを溶液として供給する場合、各溶液を調製するための溶媒は、活性種及びモノマーの種類に応じて適宜選択することができる。活性種の反応開始点を失活させない溶媒が選択して用いられる。例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。これら溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上の混合溶媒として用いてもよい。
【0041】
本開示の効果が得られる限り、モノマー溶液の濃度は特に限定されない。一例を挙げれば、モノマー溶液の濃度は、0.1モル/L以上であってよく、0.2モル/L以上であってよく、0.3モル/以上であってよい。また、モノマー溶液の濃度は、0.8モル/L以下であってよい。
【0042】
活性種として開始剤を供給する場合、開始剤溶液の濃度も特に限定されないが、例えば、0.05モル/L以上であってよく、0.06モル/L以上であってよく、0.08モル/L以上であってよい。また、開始剤溶液の濃度は、0.40モル/L以下であってよい。活性種として、開始剤とモノマーとの反応生成物を供給する場合、その活性種溶液の濃度は、原料となるモノマー溶液及び開始剤溶液に準じて設定される。
【0043】
この製造方法において、活性種とモノマーとの反応温度は、マイクロリアクター内における混合時の温度として定義される。本開示の効果が得られる限り、反応温度は特に限定されず、使用するモノマー及び開始剤の種類に応じて設定することができる。例えば、マイクロリアクター内における混合温度(反応温度)は、0℃以上であってよく、5℃以上であってよく、10℃以上であってよく、また50℃以下であってよい。
【0044】
図1示された実施形態において、マイクロリアクターM3から活性種P3を排出するチャンネル7を、さらに他のマイクロリアクターに接続してもよい。この他のマイクロリアクターにおいて、活性種P3と、さらに他のモノマーとを混合して反応させてもよい。この操作を繰り返すことにより、分子鎖の所望の位置に所望のモノマー単位が配置され、かつ、所望の分子量及び分子量分布を有する活性種を高収率で得ることができる。
【0045】
また、このようにして得た活性種を、さらに他のマイクロリアクターに供給して、反応停止剤と混合することにより、反応開始点を失活させることもできる。これにより、化学的に安定なシークエンスオリゴマー又はポリマーを得ることができる。反応停止剤は、活性種の種類、特には開始剤の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類を反応停止剤として用いてもよい。
【0046】
必要に応じて、マイクロリアクターから排出された所望の活性種を、このマイクロリアクターに連結した他のマイクロリアクターに供給して、この活性種にビニル基等の反応性官能基を導入してもよい。換言すれば、本開示の製造方法は、マイクロリアクターに連結した他のマイクロリアクターにおいて、活性種とこの活性種と反応可能なモノマーとの反応生成物に、反応性官能基を導入することをさらに含む。反応性官能基の導入には、既知の化学的手法を適宜用いることができる。例えば、活性種がリビング鎖末端を有する場合、この活性種と、ハロゲン化メチルスチレンのような化合物とを、マイクロリアクターに供給して混合することにより、ビニル基が導入されたシークエンスオリゴマー又はポリマーを得ることができる。反応性官能基としてビニル基を導入して得られるシークエンスオリゴマーは、種々のビニルモノマーとの共重合に用いることができる。
【0047】
本開示の製造方法において、使用するモノマーの種類は特に限定されず、活性種、特には、リビング鎖末端を有する活性種との反応性を有するモノマーが適宜選択されて用いられる。このようなモノマーとして、スチレン類、ジフェニルエチレン類及びメタクリルエステル類からなる群から選択されるモノマーが好ましく、少なくともジフェニルエチレン類を含んで選択されることがより好ましい。
【0048】
スチレン類としては、スチレン骨格を有する化合物であればよく、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、t-ブチルスチレン、クロロスチレン等が挙げられる。ジフェニルエチレン類としては、1,1-ジフェニルエチレン、及び、フェニル基がアルキル基、アルコキシ基等で置換された1,1-ジフェニルエチレン誘導体が挙げられる。メタクリルエステル類としては、メタクリル酸のアルキルエステルであればよく、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソノニル、メタクリル酸ドデシル等が挙げられる。例えば、
図1に示される実施形態において、いずれをモノマーR1、R2及びR3として使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本開示の効果が得られる限り、スチレン類、ジフェニルエチレン類及びメタクリルエステル類以外に、他のモノマーを併用することもできる。他のモノマーとして、例えば、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等のビニルピリジン類;メタクリロニトリル;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン等のビニルケトン類が挙げられる。
【0050】
前述のモノマーと反応して反応開始点を有する活性種が得られる限り、開始剤の種類は特に限定されない。例えば、アニオン重合開始剤であれば、種々のビニルモノマーと反応して、リビング鎖末端を反応開始点とする活性種を得ることができる。このようなアニオン重合開始剤としては、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、イソブチルリチウム、t-ブチルリチウム、ペンチルリチウム、ヘキシルリチウム等のアルキルリチウム;メチルナトリウム、エチルナトリウム、n-プロピルナトリウム、イソプロピルナトリウム、n-ブチルナトリウム、sec-ブチルナトリウム、tert-ブチルナトリウム、イソブチルナトリウム等のアルキルナトリウムが例示される。2種以上を併用してもよい。
【0051】
[シークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマー]
前述した製造方法により、一次構造が実質的に完全に制御されたシークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマーを得ることができる。詳細には、本開示のシークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマーは、種類の異なるモノマー単位が複数連結された分子鎖を有しうる。この分子鎖は、ペプチド結合以外の結合様式を含んでいる。好ましくは、この分子鎖は、ペプチド結合以外の、複数の結合様式を含む。この分子鎖の一次構造は、実質的に完全に制御されている。換言すれば、本開示のシークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマーの分子鎖は、生体高分子が有する程度に一次構造が制御されている。
【0052】
詳細には、本開示の「シークエンスオリゴマー」及び「シークエンスポリマー」は、モノマー単位が複数連結された分子鎖において、1又は2以上のモノマー単位を有するユニットが複数結合した構成を有しており、このユニット毎の分子量分布が精密に制御されている。その結果として、本開示のシークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマーは、極めて狭い分子量分布を有しうる。
【0053】
また、異なるモノマー単位が交互に配列している「交互共重合体」が知られているが、従来の化学合成の手法で得られる交互共重合体では、複数の分子鎖の長さを均一に制御することは困難である。本開示のシークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマーは、モノマー単位の連結順序及び数が実質的に完全に制御されている点において交互共重合体とは本質的に相違する。本開示のシークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマーの概念には、所謂交互共重合体を含まない。
【0054】
シークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマーの分子量分布は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnとして表される。前述したフローマイクロリアクターにより得られるシークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマーの分子量分布Mw/Mnは、1.10未満であってよく、1.09以下であってよく、1.08以下であってよく、その下限値は1.0である。好ましくは、このシークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマーは、1又は2以上のモノマー単位を有するユニットが複数結合した構成を有しており、このユニットの分子量分布Mw/Mnが、それぞれ、1.20以下であってよく、1.15以下であってよく、1.10以下であってよく、1.05以下であってよく、その下限値は1.0である。各ユニットの分子量分布Mw/Mnが1.20以下であるシークエンスオリゴマー及びポリマーは、換言すれば、実質的に均一な分子鎖を有している。このシークエンスオリゴマー及びポリマーの分子鎖は、実質的に完全に制御されているといえる。
【0055】
本開示のシークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマーは、種類の異なるモノマー単位が1ずつ配列された分子鎖を有してもよい。また、本開示のシークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマーは、所望の種類のモノマー単位が所望の数で結合したブロック鎖を、所望の順序で配列させたブロック共重合体であってよい。
【0056】
シークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマーの分子鎖を形成するモノマー単位としては、特に限定されないが、例えば、スチレン類、ジフェニルエチレン類及びメタクリルエステル類からなる群から選択されるモノマーに由来するモノマー単位であってよい。好ましくは、このシークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマーは、モノマー単位として、少なくともジフェニルエチレン類を含む。ジフェニルエチレン類をモノマー単位として含むシークエンスオリゴマー及びポリマーでは、ジフェニルエチレン類に由来するユニットを介して、結合様式の異なるモノマー単位からなるユニットを連結することができる。例えば、スチレン類に由来するユニットと、メタクリルエステル類に由来するユニットとが、ジフェニルエチレン類に由来するユニットを介して結合した構造を有するシークエンスオリゴマー及びポリマーが例示される。好ましくは、このシークエンスオリゴマー及びポリマーでは、各ユニットの分子量分布Mw/Mnが1.20以下、より好ましくは1.15以下、さらに好ましくは1.10以下、よりさらに好ましくは1.05以下に制御されている。その結果として、このシークエンスオリゴマー及びポリマーは、極めて狭い分子量分布を有している。本開示の効果が得られる限り、スチレン類、ジフェニルエチレン類及びメタクリルエステル類以外の、他のモノマーに由来するモノマー単位をさらに含んでもよい。この他のモノマーとして、例えば、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等のビニルピリジン類;メタクリロニトリル;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン等のビニルケトン類が挙げられる。
【0057】
また、本開示のシークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマーは、反応開始点を有していてもよく、有していなくてもよい。例えば、シークエンスオリゴマーの反応開始点を失活させることなく、さらに他のモノマーと反応させて所望の分子量とすることにより、本開示のシークエンスポリマーが得られてもよい。
【0058】
本開示のシークエンスオリゴマー及びシークエンスポリマーには、ビニル基等の反応性官能基が導入されていてもよい。例えばビニル基を有するシークエンスオリゴマーを、他のビニルポリマーと共重合することにより、本開示のシークエンスポリマーが得られてもよい。
【実施例0059】
以下、実施例によって本開示の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本開示が限定的に解釈されるべきではない。
【0060】
(試験1)
[実験例1-1:フロー反応]
はじめに、スチレン(東京化成工業社製)をテトラヒドロフラン(関東化学社製)に溶解して、濃度0.20mol/Lのモノマー溶液を調製した。続いて、sec-ブチルリチウム(関東化学社製、1.3mol/L)をヘキサン(富士フィルム和光純薬社製)に溶解して、濃度0.40mol/Lの開始剤溶液を調製した。続いて、メタノール(富士フィルム和光純薬社製)をテトラヒドロフランに溶解して、濃度2.0mol/Lの停止剤溶液を調製した。次に、モノマー溶液及び開始剤溶液を、開始剤に対し、モノマー1当量となる量でフローマイクロリアクター(三幸精機工業社製)に供給し、温度0℃にて混合した。マイクロリアクター内の混合時、モノマー溶液と開始剤溶液との合計流速は、1.5mL/minであった。得られた混合物を排出し、他のマイクロリアクター中で停止剤溶液(流速1.5mL/min)と混合して、末端活性基を失活させることにより、実験例1-1の反応物を得た。
【0061】
[実験例1-2~1-6:フロー反応]
マイクロリアクターに供給するモノマー溶液及び開始剤溶液の合計流速並びに停止剤溶液の流速を、下表1に示されるものに変更した以外は同様にして、実験例1-2~1-6の反応物を得た。
【0062】
[参考例1-1:バッチ反応]
はじめに、スチレン(東京化成工業社製)をテトラヒドロフラン(関東化学社製)に溶解して、濃度0.20mol/Lのモノマー溶液を調製した。続いて、sec-ブチルリチウム(関東化学社製、1.3mol/L)をヘキサン(富士フィルム和光純薬社製)に溶解して、濃度0.40mol/Lの開始剤溶液を調製した。次に、シュレンク管に開始剤溶液1mLを添加し、そこにモノマー溶液を2mL添加して、温度0℃にて5分間反応させた。その後、1mLのメタノールを添加して反応を停止することにより、参考例1-1の反応物を得た。
【0063】
[実験例1-7:フロー反応]
はじめに、1,1-ジフェニルエチレン(東京化成工業社製)をテトラヒドロフラン(関東化学社製)に溶解して溶液(1)を調製した。この溶液(1)にn-ブチルリチウム(関東化学社製、1.58mol/L)を、n-ブチルリチウムに対して1,1―ジフェニルエチレンが1.05当量となる量で、温度0℃にて混合し、1時間反応させることで濃度0.05mol/Lの開始剤溶液を調製した。続いて、メチルメタクリレート(東京化成工業社製)をテトラヒドロフランに溶解して、濃度0.15mol/Lのモノマー溶液を調製した。続いて、メタノール(富士フィルム和光純薬社製)をテトラヒドロフランに溶解して0.33mol/Lの停止剤溶液を調製した。
【0064】
次に、モノマー溶液及び開始剤溶液を、開始剤に対し、モノマーが1当量となる量で、フローマイクロリアクターに供給し、温度0℃にて混合した。マイクロリアクター内の混合時、モノマー溶液と開始剤溶液との合計流速は、1.33mL/minであった。続いて、得られた混合物をこのマイクロリアクターから排出し、他のマイクロリアクター中で停止剤溶液(流速0.5mL/min)と混合して、末端活性基を失活させることにより、実験例1-7の反応物を得た。
【0065】
[実験例1-8~1-12:フロー反応]
マイクロリアクターに供給するモノマー溶液及び開始剤溶液の合計流速並びに停止剤溶液の流速を、下表2に示されるものに変更した以外は同様にして、実験例1-8~1-12の反応物を得た。
【0066】
[参考例1-2:バッチ反応]
はじめに、1,1-ジフェニルエチレン(東京化成工業社製)をテトラヒドロフラン(関東化学社製)に溶解して、溶液(1)を調製した。この溶液(1)にn-ブチルリチウム(関東化学社製、1.58mol/L)を、n-ブチルリチウムに対して1,1―ジフェニルエチレンが1.05当量となる量で、温度0℃にて混合し、1時間反応させることで濃度0.05mol/Lの開始剤溶液を調製した。続いて、メチルメタクリレート(東京化成工業社製)をテトラヒドロフランに溶解して、濃度0.15mol/Lのモノマー溶液を調製した。このモノマー溶液1mLに開始剤溶液3mLを添加して、温度0℃にて5分間反応させた。その後、1.5mLのメタノールを添加して反応を停止することにより、参考例1-2の反応物を得た。
【0067】
[ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)]
実験例1-1~1-12、参考例1-1及び参考例1-2の反応物をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析して、モノ付加体(開始剤とモノマーとの1:1反応物)、ジ付加体(開始剤とモノマーとの1:2反応物)及びトリ付加体(開始剤とモノマーとの1:3反応物)の収率(%)を求めた。GPCの測定条件は、以下の通りである。得られた結果が、下表1及び2に示されている。
測定装置:Shodex RI-504(昭和電工社製)、Prominence(島津製作所製)及びμ7DataStation(システム・インスツルメント社製)
カラム:Shodex KF-401HQ及びKF-402HQ(昭和電工社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(富士フィルム和光純薬社製)
温度:40℃
流速:0.3mL/min
【0068】
【0069】
【0070】
表1及び2中、「trace」は定量限界以下を意味し、「n.d.」は検出限界以下を意味する。表1及び2に示される通り、フロー反応による実験例では、合計流速の増加に伴って、モノ付加体の収率が増加した。この結果は、モノマー溶液と開始剤溶液との混合効率が向上したために、モノマー及び開始剤が速やかに均一混合され、開始反応が一斉に進行してモノ付加体が生成され、かつ、生長反応が抑制されてジ付加体、トリ付加体等の生成が回避されたことを示す。
【0071】
(試験2)
[実験例2-1]
開始剤に対して、15当量のモノマーを供給したこと以外は実験例1-1と同様にして、実験例2-1の反応物を得た。
【0072】
[実験例2-2及び2-3]
スチレンに替えて、p-メトキシスチレン(東京化成工業社製)及びp-tert-ブチルスチレン(東京化成工業社製)をモノマーとして使用した以外は、実験例2-1と同様にして、実験例2-2及び2-3の反応物を得た。
【0073】
[実験例2-4]
モノマー溶液及び開始剤溶液を、開始剤に対し、モノマーであるメチルメタクリレートが15当量となる量で、フローマイクロリアクターに供給したこと以外は実験例1-7と同様にして、実験例2-4の反応物を得た。
【0074】
[実験例2-5~2-7]
メチルメタクリレートに替えて、n-ブチルメタクリレート(東京化成工業社製)、イソプロピルメタクリレート(東京化成工業社製)及びtert-ブチルメタクリレート(東京化成工業社製)をモノマーとして使用した以外は、実験例2-4と同様にして、実験例2-5~2-7の反応物を得た。
【0075】
[分子量及び分子量分布測定]
実験例2-1~2-7の反応物のGPC測定をおこなって、数平均分子量Mn及び分子量分布PDI(Mw/Mn)を測定した。GPC測定条件は、試験1にて前述した通りである。得られた結果が、下表3に示されている。
【0076】
【0077】
表3に示される通り、スチレン類及びメタクリルエステル類をモノマーとして、分子量分布が狭く一次構造が実質的に完全に制御されたオリゴマーが得られることを確認した。
【0078】
(試験3)
はじめに、sec-ブチルリチウム(関東化学社製)をヘキサン(富士フィルム和光純薬社製)に溶解して、濃度0.40mol/Lの開始剤溶液を調製した。続いて、スチレン(東京化成工業社製)及び1,1-ジフェニルエチレン(東京化成工業社製)を、それぞれ、テトラヒドロフラン(関東化学社製)に溶解して、濃度0.20mol/Lのモノマー溶液(1)及びモノマー溶液(2)を調製した。また、tert-ブチルメタクリレート(東京化成工業社製)をテトラヒドロフランに溶解して、濃度0.15mol/Lのモノマー溶液(3)を調製した。同様に、濃度0.90mol/Lとなるように、4-ビニルベンジルアイオダイドをテトラヒドロフランに溶解した。また、メタノール(富士フィルム和光純薬社製)をテトラヒドロフランに溶解し、濃度2.0mol/L及び4.0mol/Lの停止剤溶液を調製した。なお、4-ビニルベンジルアイオダイドは、Lenoble V.ら(J.Fluoresc 2019,29,933)に記載された方法に従って合成した。
【0079】
試験3では、4つのマイクロリアクター(M1~M4)を使用した。先ず、モノマー溶液(1)及び開始剤溶液を、開始剤に対し、スチレンが1当量となる量で、マイクロリアクターM1に供給し、温度0℃にて混合した。マイクロリアクターM1内の混合時、モノマー溶液(1)は流速6mL/min、開始剤溶液は流速3mL/minであり、合計流速は9mL/minであった。マイクロリアクターM1から排出された混合物(活性種1)と停止剤溶液(2.0mol/L、流速15mL/min)とをマイクロリアクターM2で混合し失活させた後、GPC測定した結果、開始剤とスチレンとが一分子導入された化合物(モノ付加体)を93%の収率で含むことを確認した。
【0080】
続いて、マイクロリアクターM1で得た混合物(活性種1)及びモノマー溶液(2)を、開始剤に対し、1,1-ジフェニルエチレンが1当量となる量で、マイクロリアクターM2に供給し、温度0℃にて混合した。マイクロリアクターM2内の混合時、活性種1は流速9mL/min、モノマー溶液(2)は流速6mL/minであり、合計流速は15mL/minであった。マイクロリアクターM2から排出された混合物(活性種2)と停止剤溶液(2.0mol/L、流速9mL/min)とをマイクロリアクターM3で混合して失活させた後、GPC測定した結果、開始剤、スチレン及び1,1-ジフェニルエチレンが一分子ずつ導入された化合物を90%の収率で含むことを確認した。
【0081】
次に、マイクロリアクターM2で得た混合物(活性種2)及びモノマー溶液(3)を、開始剤に対し、tert-ブチルメタクリレートが1当量となる量で、マイクロリアクターM3に供給し、温度0℃にて混合した。マイクロリアクターM3内の混合時、活性種2は流速15mL/min、モノマー溶液(3)は流速8mL/minであり、合計流速は23mL/minであった。マイクロリアクターM3から排出された混合物(活性種3)と停止剤溶液(4.0mol/L、流速4mL/min)とをマイクロリアクターM4で混合し失活させた後、GPC測定した結果、開始剤、スチレン、1,1-ジフェニルエチレン及びtert-ブチルメタクリレートが一分子ずつ導入された化合物を82%の収率で含むことを確認した。
【0082】
その後、マイクロリアクターM3で得た混合物(活性種3)及び4-ビニルベンジルアイオダイド溶液を、マイクロリアクターM4に供給し、温度0℃にて混合した。マイクロリアクターM4内の混合時、活性種3は流速23mL/min、4-ビニルベンジルアイオダイド溶液は流速6.67mL/minであった。マイクロリアクターM4から排出された反応物をメタノールで失活させた後、GPC測定した結果、開始剤、スチレン、1,1-ジフェニルエチレン、tert-ブチルメタクリレート及び4-ビニルベンジルアイオダイドが1分子ずつ導入された化合物を収率65%で含むことを確認した。
【0083】
図2は、マイクロリアクターM3から排出された活性種3と、4-ビニルベンジルアイオダイドとの反応式である。この活性種3は、スチレン、1,1-ジフェニルエチレン及びtert-ブチルメタクリレートに由来するモノマー単位をそれぞれ一分子ずつ含み、活性末端基を有するシークエンスオリゴマーであり、
図2中、化合物Aとして示されている。この化合物Aの活性末端基に、4-ビニルベンジルアイオダイドが付加したシークエンスオリゴマーが、
図2中、化合物Bとして示されている。図示される通り、化合物Bは、反応性官能基としてビニル基を有している。
【0084】
[応用例1]
活性末端基を有するシークエンスオリゴマー(化合物A)を用いて、所望の分子量まで生長反応させることにより、スチレン、1,1-ジフェニルエチレン及びtert-ブチルメタクリレートに由来するモノマー単位が順に一分子ずつ配列した構造を繰り返し含むシークエンスポリマーを得ることができる。
【0085】
[応用例2]
反応性官能基を有するシークエンスオリゴマー(化合物B)を用いて、ビニル基を有する他のモノマーと共重合させることにより、スチレン、1,1-ジフェニルエチレン及びtert-ブチルメタクリレートに由来するモノマー単位が一分子ずつ配列した構造の側鎖を含むシークエンスポリマーを得ることができる。
【0086】
以上説明した通り、本開示によれば、所望のモノマー単位を1分子単位で精密に配列した分子鎖を有するシークエンスオリゴマー及びポリマーを得ることができる。この評価結果から、従来技術と比較して、本開示の優位性は明らかである。
【0087】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態を開示する。
【0088】
第1の態様は、一次構造が実質的に完全に制御されたシークエンスオリゴマーの製造方法である。この製造方法は、少なくとも一つのマイクロミキサーを備えたマイクロリアクターにおいて、活性種と、この活性種と反応可能なモノマーと、を混合撹拌することを含む。
【0089】
第2の態様では、第1の態様の製造方法の混合撹拌時において、活性種の流速と、活性種と反応可能なモノマーの流速との、合計流速が15ml/min以上であってよい。
【0090】
第3の態様では、第1又は第2の態様の製造方法において、活性種が、開始剤又は開始剤とモノマーとの反応生成物であってよい。
【0091】
第4の態様では、第3の態様の製造方法において、開始剤がアニオン重合開始剤であってよい。
【0092】
第5の態様では、第1から第4の態様のいずれかの製造方法において、活性種と反応可能なモノマーが、スチレン類、ジフェニルエチレン類及びメタクリルエステル類からなる群から選択されてよい。
【0093】
第6の態様では、第1から第5の態様のいずれかの製造方法において、活性種の溶液と、この活性種と反応可能なモノマーの溶液とを、マイクロリアクター内で混合撹拌してもよい。
【0094】
第7の態様では、第1から第6の態様のいずれかの製造方法において、マイクロリアクターに連結した他のマイクロリアクターで、活性種とこの活性種と反応可能なモノマーとの反応生成物に、反応性官能基を導入することをさらに含んでもよい。
【0095】
第8の態様は、一次構造が実質的に完全に制御されたシークエンスポリマーの製造方法である。この製造方法は、マイクロリアクターが複数連結されてなるマイクロリアクターシステムを使用する。各マイクロリアクターは、マイクロミキサーを備えている。この態様の製造方法では、マイクロリアクターシステムにおいて、マイクロリアクター内で、活性種と、この活性種と反応可能なモノマーとを混合撹拌した後、このマイクロリアクターに連結された他のマイクロリアクター内で、活性種と、この活性種と反応可能なモノマーとの反応生成物と、このモノマーと同種又は異なる種類のモノマーとを混合撹拌すること、を繰り返す。
【0096】
第9の態様は、第1から第7のいずれかの製造方法により得られるシークエンスオリゴマーに関する。このシークエンスオリゴマーは、種類の異なるモノマー単位が複数連結された分子鎖を有している。この分子鎖は、ペプチド結合以外の結合様式を含む。この分子鎖の一次構造は、実質的に完全に制御されている。
【0097】
第10の態様では、第9の態様のシークエンスオリゴマーにおいて、モノマー単位が、スチレン類、ジフェニルエチレン類及びメタクリルエステル類からなる群から選択されるモノマーに由来するものであってよい。
【0098】
第11の態様では、第9又は第10の態様のシークエンスオリゴマーにおいて、種類の異なるモノマー単位が1ずつ配列した分子鎖を有してもよい。
【0099】
第12の態様では、第9から第11の態様のいずれかのシークエンスオリゴマーにおいて、分子量分布Mw/Mnが1.10未満であってよい。
【0100】
第13の態様は、第8の製造方法により得られるシークエンスポリマーに関する。このシークエンスポリマーは、種類の異なるモノマー単位が複数連結された分子鎖を有している。この分子鎖は、ペプチド結合以外の結合様式を含む。この分子鎖の一次構造は、実質的に完全に制御されている。
【0101】
第14の態様では、第13の態様のシークエンスポリマーにおいて、モノマー単位が、スチレン類、ジフェニルエチレン類及びメタクリルエステル類からなる群から選択されるモノマーに由来するものであってよい。