(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165109
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】構造物改修方法および構造物
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
E04G23/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075751
(22)【出願日】2022-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三輪 隆治
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA04
2E176BB27
2E176BB31
(57)【要約】
【課題】既設柱の上方に追加柱を接合する構造物改修方法として、従来よりも施工効率が良い方法を提供する。
【解決手段】既設の柱である既設柱を備える既設構造物を改修する構造物改修方法であって、追加の柱である追加柱を用意する追加柱用意工程と、既設柱の上方に追加柱を設置する追加柱設置工程であって、既設柱の水平方向の一方向側の表面である既設特定表面と、追加柱の一方向側の表面である追加特定表面と、に接合される部材である接合部材を設置する追加柱設置工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の柱である既設柱を備える既設構造物を改修する構造物改修方法であって、
追加の柱である追加柱を用意する追加柱用意工程と、
前記既設柱に上方に前記追加柱を設置する追加柱設置工程であって、前記既設柱の水平方向の一方向側の表面である既設特定表面と、前記追加柱の前記一方向側の表面である追加特定表面と、に接合される部材である接合部材を設置する追加柱設置工程と、を備える、
構造物改修方法。
【請求項2】
請求項1に記載の構造物改修方法であって、
前記追加柱設置工程は、前記接合部材を、ボルトにより、前記既設特定表面と前記追加特定表面とに接合する工程である、
構造物改修方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の構造物改修方法であって、
前記接合部材を支持する方杖を設置する追加補強工程を更に備える、
構造物改修方法。
【請求項4】
請求項3に記載の構造物改修方法であって、
前記既設構造物は、前記既設柱を支持する基礎である既設基礎を備え、
前記追加補強工程は、前記既設基礎に接合された基礎である追加基礎を設置し、前記追加基礎により前記方杖を支持する工程である、
構造物改修方法。
【請求項5】
既設の柱である既設柱と、
前記既設柱の上方に位置する追加の柱である追加柱と、
前記既設柱の水平方向の一方向側の表面である既設特定表面と、前記追加柱の前記一方向側の表面である追加特定表面と、に接合された部材である接合部材と、を備える、
構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、構造物改修方法および構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既設の柱(以下、「既設柱」という。)を備える既設構造物を改修する構造物改修方法として、既設柱の上方に追加の柱(以下、「追加柱」という。)を設置することにより柱を嵩上げする方法が用いられている。例えば、既設構造物は、既設柱により支持される既設壁(コンクリートや鋼材等よりなる境界壁、防音壁材等よりなる防音壁等)を備える構造物であり、既設構造物全体を嵩上げするために、柱を嵩上げする方法が用いられる。
【0003】
柱を嵩上げする方法として、既設柱の上方に追加柱を直接的に接合(例えば、溶接、ボルト接合)する方法が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既設柱の上方に追加柱を直接的に接合する従来の方法では、既設柱の上方に追加柱を直接接合することが容易ではないことから、施工効率が悪くなる。例えば、既設柱と追加柱との接合部に、既設構造物を構成する他の部材(例えば、既設壁の表面に形成された既設仕上げ材)が干渉することがあり、当該部材を撤去または復旧する工程等が必要となることにより施工効率が悪くなることがある。また、既設柱の上面(換言すれば、追加柱が接合される部分)が損傷している等、既設柱が追加柱を直接接合する上で不適切な状態であることあり、既設柱を修復する工程等が必要となることにより施工効率が悪くなることもある。
【0006】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示される構造物改修方法は、既設の柱である既設柱を備える既設構造物を改修する構造物改修方法であって、追加の柱である追加柱を用意する追加柱用意工程と、前記既設柱の上方に前記追加柱を設置する追加柱設置工程であって、前記既設柱の水平方向の一方向側の表面である既設特定表面と、前記追加柱の前記一方向側の表面である追加特定表面と、に接合される部材である接合部材を設置する追加柱設置工程と、を備える。
【0009】
本構造物改修方法によれば、既設柱の上方に追加柱を直接接合する従来の方法よりも効率的に、既設柱の上方に追加柱が接合された構成を実現する(造る)ことができる。
【0010】
(2)上記構造物改修方法において、前記追加柱設置工程は、前記接合部材を、ボルトにより、前記既設特定表面と前記追加特定表面とに接合する、としてもよい。この方法においては、既設柱および追加柱において同一方向(上記一方向)側の表面同士を接合するので、ボルトにより容易に接合することができる。そのため、本構造物改修方法によれば、特に効率的に、既設柱の上方に追加柱が接合された構成を実現する(造る)ことができる。
【0011】
(3)上記構造物改修方法において、前記接合部材を支持する方杖を設置する追加補強工程を更に備えるとしてもよい。本構造物改修方法によれば、改修後構造物の強度を更に向上させることができる。
【0012】
(4)上記構造物改修方法において、前記既設構造物は、前記既設柱を支持する基礎である既設基礎を備え、前記追加補強工程は、前記既設基礎に接合された基礎である追加基礎を設置し、前記追加基礎により前記方杖を支持するとしてもよい。本構造物改修方法によれば、特に効果的に、改修後構造物の強度を向上させることができる。
【0013】
(5)本明細書に開示される構造物は、既設の柱である既設柱と、前記既設柱の上方に位置する追加の柱である追加柱と、前記既設柱の水平方向の一方向側の表面である既設特定表面と、前記追加柱の前記一方向側の表面である追加特定表面と、に接合された部材である接合部材と、を備える。本構造物によれば、上述したように効率良く改修を実現する(造る)ことできるものでありながら、既設基礎を利用することにより、効率的かつ強固に既設柱と追加柱とが接合された構成とすることができる。
【0014】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、構造物改修方法、当該構造物改修方法により造られる構造物等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態の構造物改修方法を示すフローチャート
【
図2】本実施形態の構造物改修方法の概要を示す説明図
【
図3】本実施形態の構造物改修方法の概要を示す説明図
【
図4】本実施形態の構造物改修方法の概要を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.実施形態:
A-1.本実施形態の構造物改修方法:
図1は、本実施形態の構造物改修方法を示すフローチャートである。
図2から
図4までは、本実施形態の構造物改修方法の概要を示す説明図である。
図2から
図4までには、方向を特定するための互いに直交するXZ軸が示されている。X軸方向は水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向(Z軸正方向は上方向、Z軸負方向は下方向)である。
【0017】
本実施形態の構造物改修方法は、既設の柱(以下、「既設柱」という。)10を備える既設構造物100を改修する方法であり、具体的には、既設柱10を嵩上げする(ひいては、既設構造物100全体を嵩上げする)方法である。本構造物改修方法の詳細についての説明に先立ち、その施工対象である既設構造物100の構成について説明する。
【0018】
(既設構造物100の構成)
図2のA欄に示すように、既設構造物100は、既設の壁(以下、「既設壁」という。)1と、既設壁1を支持する既設柱10と、既設柱10を補強するための方杖(以下、「既設方杖」という。)20と、これら1,10,20を支持する基礎(以下、「既設基礎」という。)30と、を備える。
【0019】
既設壁1は、例えば、コンクリートや鋼材等よりなる境界壁、防音壁材等よりなる防音壁等の壁体である。既設柱10および既設方杖20は、例えば、コンクリートや鋼材等よりなる。
【0020】
なお、既設構造物100が備える既設柱10や既設方杖20の個数は特に限定されるものでは無く、例えば、一対の既設柱10および一対の既設方杖20を備えるとしてもよい(後述する追加柱40や追加方杖70や接合部材50の個数についても同様)。
【0021】
既設基礎30は、例えば、鉄筋コンクリート等よりなる。既設壁1と既設柱10と既設方杖20とはそれぞれ、既設基礎30上に設置されている。既設柱10は、既設壁1と既設方杖20とに、溶接やボルト接合等により接合されている。
【0022】
引き続き、本実施形態の構造物改修方法の詳細について、
図1から
図4までを参照しながら説明する。
【0023】
(本実施形態の構造物改修方法の詳細)
はじめに、追加の柱(以下、「追加柱」という。)40を用意する(
図1のST1)。追加柱40は、例えば、既設柱10と同種の柱である。なお、本構造物改修方法において用いる他の部材(後述する接合部材50や追加方杖70等)についても、基本的にはこのときに用意する。以下、ST1の工程を「追加柱用意工程」という。追加柱40を用意する時期は、本構造物改修方法において追加柱40を用いる時期(後述する追加柱設置工程ST3等)よりも前であれば、特に限定されるものではない(追加柱40以外の部材を用意する時期についても同様)。
【0024】
次に、既設基礎30に接合された基礎(以下、「追加基礎」という。)80を設置する(
図1のST2、
図2のB欄)。追加基礎80は、例えば、既設基礎30と同種の基礎であり、例えば、鉄筋コンクリート等よりなる。以下、ST2の工程を「追加基礎設置工程」という。
【0025】
次に、既設柱10の上方に追加柱40を設置する。このときに、併せて、既設柱10の水平方向の一方向(X軸正方向)側の表面(以下、「既設特定表面」という。)12と、追加柱40の一方向(X軸正方向)側の表面(以下、「追加特定表面」という。)42と、に接合される部材(以下、「接合部材」という。)50を設置する(
図1のST3、
図3のC欄)。接合部材50は、コンクリートや鋼材等よりなる板状部材である。接合部材50として、既設柱10や追加柱40と同種の柱を用いてもよい。以下、ST3の工程を「追加柱設置工程」という。
【0026】
追加柱設置工程ST3の具体的手順は、以下の通りである。まず、接合部材50を、ボルト60により、既設柱10の既設特定表面12(の上端)に接合する。このとき、接合部材50の上端が既設柱10よりも上方に位置するようにする。次に、追加柱40の追加特定表面42(の下端)を、接合部材50(の上端)に接合する。以上のように、追加柱40および接合部材50を設置する。なお、追加柱設置工程ST3の具体的手順は、この手順に限られるものではなく、例えば、既設柱10の上方に追加柱40を配置させつつ、接合部材50を、既設特定表面12と追加特定表面42とに同時に接合する、という手順であってもよい。
【0027】
なお、本実施形態では一例として、
図3のC欄に示すように、板状である追加柱40の側面41と、板状である既設柱10の側面11とが対向するように、追加柱40を配置する。
【0028】
次に、追加の壁(以下、「追加壁」という。)2を設置する(
図1のST4、
図3のD欄)。追加壁2は、例えば、既設壁1と同種の壁体(境界壁、防音壁等)である。本実施形態では、追加壁2を、既設柱10および追加柱40に、溶接やボルト接合等により接合する。
【0029】
次に、接合部材50を支持する方杖(以下、「追加方杖」という。)70を設置する(
図1のST5、
図4のE欄)。本実施形態では、追加基礎80により追加方杖70を支持する、としている。なお、追加方杖70は、特許請求の範囲における方杖の一例である。以下、ST5の工程を「追加補強工程」という。
【0030】
以上の工程ST1,…,ST5を経て、本実施形態の構造物改修方法は完了し、既設柱10の上方に追加柱40が接合された改修後構造物200が完成する。すなわち、既設柱10の嵩上げ(ひいては既設構造物100全体の嵩上げ)が完了する。
【0031】
A-2.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の構造物改修方法は、既設の柱である既設柱10を備える既設構造物100を改修する方法であって、追加柱用意工程ST1と追加柱設置工程ST3とを備える。追加柱用意工程ST1は、追加の柱である追加柱40を用意する工程である。追加柱設置工程ST3は、既設柱10の上方に追加柱40を設置する工程であって、既設柱10の水平方向の一方向(X軸正方向)側の表面である既設特定表面12と、追加柱40の一方向(X軸正方向)側の表面である追加特定表面42と、に接合される部材である接合部材50を設置する工程である。
【0032】
本実施形態の構造物改修方法によれば、既設柱10の上方に追加柱40を直接接合する従来の方法よりも効率的に、既設柱10の上方に追加柱40が接合された構成を実現する(造る)ことができる。
【0033】
また、本実施形態の構造物改修方法では、追加柱設置工程ST3は、接合部材50を、ボルト60により、既設特定表面12と追加特定表面42とに接合する工程である。この方法においては、既設柱10および追加柱40において同一方向(上記一方向(X軸正方向))側の表面12,42同士を接合するので、ボルト60により、容易に接合することができる。そのため、本実施形態の構造物改修方法によれば、特に効率的に、既設柱10の上方に追加柱40が接合された構成を実現する(造る)ことができる。
【0034】
また、本実施形態の構造物改修方法は、接合部材50を支持する追加方杖70を設置する追加補強工程ST5を更に備える。これにより、改修後構造物200の強度を更に向上させることができる。
【0035】
また、本実施形態の構造物改修方法では、既設構造物100は、既設柱10を支持する基礎である既設基礎30を備え、追加補強工程ST5は、既設基礎30に接合された基礎である追加基礎80を設置し、追加基礎80により追加方杖70を支持する工程である。本実施形態の構造物改修方法によれば、特に効果的に、改修後構造物200の強度を向上させることができる。
【0036】
本実施形態の改修後構造物200は、既設の柱である既設柱10と、既設柱10の上方に位置する追加の柱である追加柱40と、既設柱10の水平方向の一方向(X軸正方向)側の表面である既設特定表面12と、追加柱40の一方向(X軸正方向)側の表面である追加特定表面42と、に接合された接合部材50と、を備える。本実施形態の改修後構造物200によれば、上述したように効率良く改修を実現する(造る)ことできるものでありながら、既設基礎30を利用することにより、効率的かつ強固に既設柱10と追加柱40とが接合された構成とすることができる。
【0037】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0038】
上記実施形態の構造物改修方法の施工対象である既設構造物100,改修後構造物200の構成(材質、形状等)は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では既設柱10と追加柱40と接合部材50とのいずれもが板状であるが、これらの一部または全部が板状以外の形状であってもよい。また、既設構造物100は、既設方杖20や既設基礎30を備えていなくてもよい。また、改修後構造物200は、追加方杖70や追加基礎80を備えていなくてもよい。また、追加柱40は、既設柱10とは異なる種類の柱であってもよい。また、接合部材50は、既設柱10等とは異なる種類の部材であってもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、板状である追加柱40の側面41と、板状である既設柱10の側面11とが対向するとしているが、これとは異なる配置関係としてもよい。
【0040】
また、上記実施形態では、ボルト60により、接合部材50を既設特定表面12と追加特定表面42とに接合するとしているが、ボルト接合以外の接合方法(例えば溶接)により、接合部材50を既設特定表面12と追加特定表面42とに接合するとしてもよい。
【0041】
また、上記実施形態では、追加柱40の側面41と既設柱10の側面11とを直接接合するとはしていないが、上述したように接合部材50を介して追加柱40と既設柱10とを接合した上で、更に追加柱40の側面41と既設柱10の側面11とを直接接合(例えば、溶接、ボルト接合)するとしてもよい。
【0042】
また、複数の接合部材50を、既設特定表面12と追加特定表面42とに接合するとしてもよい。
【0043】
また、追加補強工程ST5を省略するとしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
10:既設柱 11:(既設柱の)側面 12:既設特定表面 20:既設方杖 30:既設基礎 40:追加柱 41:(追加柱の)側面 42:追加特定表面 50:接合部材 60:ボルト 70:追加方杖 80:追加基礎 100:既設構造物 200:改修後構造物 ST1:追加柱用意工程 ST2:追加基礎設置工程 ST3:追加柱設置工程 ST4:追加壁を設置する工程 ST5:追加補強工程