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特開2023-165111三次元造形装置、情報処理装置、及び情報処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165111
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】三次元造形装置、情報処理装置、及び情報処理方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/393 20170101AFI20231108BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20231108BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20231108BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20231108BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231108BHJP
【FI】
B29C64/393
B33Y50/02
B29C64/106
B33Y30/00
B33Y10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075753
(22)【出願日】2022-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(72)【発明者】
【氏名】宮下 武
(72)【発明者】
【氏名】千葉 晶彦
(72)【発明者】
【氏名】青柳 健大
(72)【発明者】
【氏名】衡 威丞
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AR06
4F213AR07
4F213AR08
4F213AR12
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL44
4F213WL85
4F213WL92
(57)【要約】
【課題】造形材料にバインダーが含まれている場合において、利便性を低下させることなく、三次元造形物の造形精度を向上させることができる三次元造形装置を提供すること。
【解決手段】ステージと、造形材料を吐出する吐出部と、レーザー照射部と、移動部と、制御部を備え、制御部は、吐出部によってステージ上に吐出された造形材料を加熱することによって三次元造形物を造形する造形制御を行い、造形制御は、対象領域に含まれる造形材料へレーザーを照射させる場合におけるレーザー照射部についての第1制御を含み、第1制御は、レーザーの出力、速度、幅の3つのパラメーターのうちの第1パラメーターを変化させる場合、当該速度と当該幅との積で当該出力を除した値が、所定値を基準として80%以上120%以下の範囲内の値となるように、第1パラメーター以外の2つのパラメーターのいずれか一方又は両方を変化させる制御である、三次元造形装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージと、
無機材料の粒子とバインダーとを含む造形材料を前記ステージ上に吐出する吐出部と、
前記吐出部により前記ステージ上に吐出された前記造形材料にレーザーを照射し、前記造形材料を加熱するレーザー照射部と、
前記ステージと前記吐出部とを相対的に移動させる移動部と、
前記吐出部と前記レーザー照射部と前記移動部とを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記吐出部によって前記ステージ上に吐出された前記造形材料を加熱することによって予め決められた形状の三次元造形物を造形する造形制御を行い、
前記造形制御は、前記吐出部によって前記ステージ上に吐出された前記造形材料のうち予め決められた対象領域に含まれる前記造形材料へ前記レーザーを照射させる場合における前記レーザー照射部についての第1制御を含み、
前記第1制御は、前記レーザーの出力、前記レーザーを移動させる速度、前記レーザーの幅の3つのパラメーターのうちの第1パラメーターを変化させる場合、前記速度と前記幅との積で前記出力を除した値が、所定値を基準として80%以上120%以下の範囲内の値となるように、前記3つのパラメーターのうち前記第1パラメーター以外の2つのパラメーターのいずれか一方又は両方を前記第1パラメーターとともに変化させる制御である、
三次元造形装置。
【請求項2】
前記レーザー照射部は、前記レーザー照射部に対して動かないように予め決められた照射領域へ前記レーザーを照射し、
前記制御部は、前記造形制御において前記造形材料に対する前記レーザーの照射位置を変える場合、前記ステージに対して前記照射領域を相対的に移動させる、
請求項1に記載の三次元造形装置。
【請求項3】
前記造形材料における前記バインダーの濃度は、前記バインダーに含まれる炭素の濃度に応じて決まる濃度、又は、前記バインダーの熱伝導率に応じて決まる濃度である、
請求項1又は2に記載の三次元造形装置。
【請求項4】
前記対象領域には、第1領域と第2領域とが含まれており、
前記第1パラメーターは、前記出力又は前記速度であり、
前記第1制御は、前記第1パラメーターを変化させる場合、前記幅を変化させず、前記出力と前記速度とのうち前記第1パラメーター以外のパラメーターを前記第1パラメーターとともに変化させる制御であり、且つ、前記第1領域において、前記出力として予め決められた第1出力を前記レーザー照射部に設定し、前記第2領域において、前記出力として前記第1出力よりも高い第2出力を前記レーザー照射部に設定する制御である、
請求項1又は2に記載の三次元造形装置。
【請求項5】
前記第1領域において前記レーザー照射部から前記造形材料に照射された前記レーザーが前記造形材料に単位時間あたりに与えるエネルギーは、前記第2領域において前記レーザー照射部から前記造形材料に照射された前記レーザーが前記造形材料に単位時間あたりに与えるエネルギーより大きい、
請求項4に記載の三次元造形装置。
【請求項6】
前記第1領域において前記レーザー照射部から前記造形材料に照射された前記レーザーが前記造形材料に単位面積あたりに与えるエネルギーは、前記第2領域において前記レーザー照射部から前記造形材料に照射された前記レーザーが前記造形材料に単位面積あたりに与えるエネルギーに対して80%以上120%以下の範囲に含まれる、
請求項4に記載の三次元造形装置。
【請求項7】
前記造形制御は、前記対象領域に含まれる前記造形材料へ前記レーザーを照射させる場合、前記第1領域の前記造形材料に前記レーザーを照射させた後、前記第2領域への前記造形材料へ前記レーザーを照射させる第2制御を含む、
請求項4に記載の三次元造形装置。
【請求項8】
前記第2領域において前記レーザーが照射される対象となる前記造形材料の直下に位置する材料の融点は、前記無機材料の融点以上である、
請求項4に記載の三次元造形装置。
【請求項9】
前記第1領域において前記レーザーが照射される対象となる前記造形材料の直下に位置する材料の融点は、前記無機材料の融点未満である、
請求項4に記載の三次元造形装置。
【請求項10】
ステージと、無機材料の粒子とバインダーとを含む造形材料を前記ステージ上に吐出する吐出部と、前記吐出部により前記ステージ上に吐出された前記造形材料にレーザーを照射し、前記造形材料を加熱するレーザー照射部と、前記ステージと前記吐出部とを相対的に移動させる移動部と、を備える三次元造形装置を制御する情報処理装置であって、
前記情報処理装置は、前記吐出部と前記レーザー照射部と前記移動部とを制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記吐出部によって前記ステージ上に吐出された前記造形材料を加熱することによって予め決められた形状の三次元造形物を造形する造形制御を行い、
前記造形制御は、前記吐出部によって前記ステージ上に吐出された前記造形材料のうち予め決められた対象領域に含まれる前記造形材料へ前記レーザーを照射させる場合における前記レーザー照射部についての第1制御を含み、
前記第1制御は、前記レーザーの出力、前記レーザーを移動させる速度、前記レーザーの幅の3つのパラメーターのうちの第1パラメーターを変化させる場合、前記速度と前記幅との積で前記出力を除した値が、所定値を基準として80%以上120%以下の範囲の値となるように、前記3つのパラメーターのうち前記第1パラメーター以外の2つのパラメーターのいずれか一方又は両方を前記第1パラメーターとともに変化させる制御である、
情報処理装置。
【請求項11】
ステージと、無機材料の粒子とバインダーとを含む造形材料を前記ステージ上に吐出する吐出部と、前記吐出部により前記ステージ上に吐出された前記造形材料にレーザーを照射し、前記造形材料を加熱するレーザー照射部と、前記ステージと前記吐出部とを相対的に移動させる移動部と、を備える三次元造形装置を制御する情報処理方法であって、
前記情報処理方法は、前記吐出部と前記レーザー照射部と前記移動部とを制御する制御ステップを有し、
前記制御ステップは、前記吐出部によって前記ステージ上に吐出された前記造形材料を加熱することによって予め決められた形状の三次元造形物を造形する造形制御を行い、
前記造形制御は、前記吐出部によって前記ステージ上に吐出された前記造形材料のうち予め決められた対象領域に含まれる前記造形材料へ前記レーザーを照射させる場合における前記レーザー照射部についての第1制御を含み、
前記第1制御は、前記レーザーの出力、前記レーザーを移動させる速度、前記レーザーの幅の3つのパラメーターのうちの第1パラメーターを変化させる場合、前記速度と前記幅との積で前記出力を除した値が、所定値を基準として80%以上120%以下の範囲の値となるように、前記3つのパラメーターのうち前記第1パラメーター以外の2つのパラメーターのいずれか一方又は両方を前記第1パラメーターとともに変化させる制御である、
情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、三次元造形装置、情報処理装置、及び情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも一部を溶融した造形材料を積層して三次元造形物を造形する三次元造形装置についての研究、開発が行われている。
【0003】
これに関し、三次元造形用の金属材料の粒子と溶媒とバインダーとを含む造形材料へレーザーを照射して三次元造形物の造形を行う三次元造形装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-157177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたような三次元造形装置は、造形材料をステージ上に吐出し、吐出された造形材料によって構成された複数の造形層を1個ずつステージ上に積層させる。また、当該三次元造形装置は、造形層を積層させる毎に、積層させた造形層をレーザーの照射によって溶融し、焼結層として焼結させることを繰り返す。すなわち、当該三次元造形装置は、レーザーの照射によって造形層が焼結された後の焼結層が複数積層された1個の造形物として、三次元造形物を造形する。ここで、本明細書において、ある物体へのレーザーの照射は、レーザーの照射位置によって当該物体の上面を走査しながらレーザーを照射することを意味する。このようにして造形される三次元造形物の造形精度は、焼結層の厚みが均一であるほど、高くなる。ここで、造形材料にバインダーが含まれる場合、焼結層の厚みを一定に保つためには、焼結させる対象となる造形層へのレーザーの照射によって造形材料に付与されるエネルギーを一定に保つ必要がある。しかしながら、レーザーの照射の仕方、すなわち、レーザーの出力、レーザーを移動させる速度、レーザーの幅等のレーザーの照射条件は、レーザーを照射する対象となる造形層の形状等によって変化させたいことも少なくない。このため、当該三次元造形装置では、一般的には、焼結させる対象となる造形層へのレーザーの照射により造形材料に付与されるエネルギーを一定に保ったまま造形が行われるわけではない。これはすなわち、当該三次元造形装置において、単純に当該照射条件を一定に保つことによって当該エネルギーを一定に保とうとすると、レーザーの出力、レーザーを移動させる速度、レーザーの幅等を変化させることができなくなるため、利便性を低下させてしまうことを意味する。すなわち、当該三次元造形装置では、利便性を低下させることなく、三次元造形物の造形精度を向上させることが困難な場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の一態様は、ステージと、無機材料の粒子とバインダーとを含む造形材料を前記ステージ上に吐出する吐出部と、前記吐出部により前記ステージ上に吐出された前記造形材料にレーザーを照射し、前記造形材料を加熱するレーザー照射部と、前記ステージと前記吐出部とを相対的に移動させる移動部と、前記吐出部と前記レーザー照射部と前記移動部とを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記吐出部によって前記ステージ上に吐出された前記造形材料を加熱することによって予め決められた形状の三次元造形物を造形する造形制御を行い、前記造形制御は、前記吐出部によって前記ステージ上に吐出された前記造形材料のうち予め決められた対象領域に含まれる前記造形材料へ前記レーザーを照射させる場合における前記レーザー照射部についての第1制御を含み、前記第1制御は、前記レーザーの出力、前記レーザーを移動させる速度、前記レーザーの幅の3つのパラメーターのうちの第1パラメーターを変化させる場合、前記速度と前記幅との積で前記出力を除した値が、所定値を基準として80%以上120%以下の範囲内の値となるように、前記3つのパラメーターのうち前記第1パラメーター以外の2つのパラメーターのいずれか一方又は両方を前記第1パラメーターとともに変化させる制御である、三次元造形装置である。
【0007】
また、本発明の一態様は、ステージと、無機材料の粒子とバインダーとを含む造形材料を前記ステージ上に吐出する吐出部と、前記吐出部により前記ステージ上に吐出された前記造形材料にレーザーを照射し、前記造形材料を加熱するレーザー照射部と、前記ステージと前記吐出部とを相対的に移動させる移動部と、を備える三次元造形装置を制御する情報処理装置であって、前記情報処理装置は、前記吐出部と前記レーザー照射部と前記移動部とを制御する制御部を備え、前記制御部は、前記吐出部によって前記ステージ上に吐出された前記造形材料を加熱することによって予め決められた形状の三次元造形物を造形する造形制御を行い、前記造形制御は、前記吐出部によって前記ステージ上に吐出された前記造形材料のうち予め決められた対象領域に含まれる前記造形材料へ前記レーザーを照射させる場合における前記レーザー照射部についての第1制御を含み、前記第1制御は、前記レーザーの出力、前記レーザーを移動させる速度、前記レーザーの幅の3つのパラメーターのうちの第1パラメーターを変化させる場合、前記速度と前記幅との積で前記出力を除した値が、所定値を基準として80%以上120%以下の範囲内の値となるように、前記3つのパラメーターのうち前記第1パラメーター以外の2つのパラメーターのいずれか一方又は両方を前記第1パラメーターとともに変化させる制御である、情報処理装置である。
【0008】
また、本発明の一態様は、ステージと、無機材料の粒子とバインダーとを含む造形材料を前記ステージ上に吐出する吐出部と、前記吐出部により前記ステージ上に吐出された前記造形材料にレーザーを照射し、前記造形材料を加熱するレーザー照射部と、前記ステージと前記吐出部とを相対的に移動させる移動部と、を備える三次元造形装置を制御する情報処理方法であって、前記情報処理方法は、前記吐出部と前記レーザー照射部と前記移動部とを制御する制御ステップを有し、前記制御ステップは、前記吐出部によって前記ステージ上に吐出された前記造形材料を加熱することによって予め決められた形状の三次元造形物を造形する造形制御を行い、前記造形制御は、前記吐出部によって前記ステージ上に吐出された前記造形材料のうち予め決められた対象領域に含まれる前記造形材料へ前記レーザーを照射させる場合における前記レーザー照射部についての第1制御を含み、前記第1制御は、前記レーザーの出力、前記レーザーを移動させる速度、前記レーザーの幅の3つのパラメーターのうちの第1パラメーターを変化させる場合、前記速度と前記幅との積で前記出力を除した値が、所定値を基準として80%以上120%以下の範囲内の値となるように、前記3つのパラメーターのうち前記第1パラメーター以外の2つのパラメーターのいずれか一方又は両方を前記第1パラメーターとともに変化させる制御である、情報処理方法である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】三次元造形装置1の構成の一例を示す図である。
図2】制御部50の構成の一例を示す図である。
図3】ノズルNzから造形面31上に吐出されたグリーン体と、そのグリーン体をレーザーで加熱した後のバルク体とのそれぞれの一例を示す図である。
図4】入熱量Esと膜残存率との関係の一例を示す図である。
図5】第1制御によってレーザー出力Wを変化させながら造形材料Xへレーザーを照射した場合における膜残存率の変化の一例を示す図である。
図6】第1制御領域においてレーザーの照射条件を制御部50がレーザー照射部121へ設定する処理の流れの一例を示す図である。
図7】第1制御によってレーザー出力Wを変化させながら造形材料Xにレーザーを照射した場合におけるレーザー出力Wと炭素濃度との関係の一例を示す図である。
図8】レーザーが照射された造形材料Xの温度の時間的な変化の一例を示す図である。
図9】レーザーが照射された造形材料Xの温度の時間的な変化の他の例を示す図である。
図10】レーザーが照射された造形材料Xの温度の時間的な変化の更に他の例を示す図である。
図11】溶融深さを説明するための図である。
図12】造形層L1へ照射するレーザーのレーザー出力Wを第1制御によって変化させた場合における溶融層厚の変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態>
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
<三次元造形装置の概要>
まず、実施形態に係る三次元造形装置の概要について説明する。
【0012】
実施形態に係る三次元造形装置は、ステージと、吐出部と、レーザー照射部と、移動部と、制御部を備える。吐出部は、無機材料の粒子とバインダーとを含む造形材料をステージ上に吐出する。レーザー照射部は、吐出部によりステージ上に吐出された造形材料にレーザーを照射し、造形材料を加熱する。移動部は、ステージと吐出部とを相対的に移動させる。制御部は、吐出部とレーザー照射部と移動部とを制御する。そして、制御部は、吐出部によってステージ上に吐出された造形材料を加熱することによって予め決められた形状の三次元造形物を造形する造形制御を行う。造形制御は、吐出部によってステージ上に吐出された造形材料のうち予め決められた対象領域に含まれる造形材料へレーザーを照射させる場合におけるレーザー照射部についての第1制御を含む。第1制御は、レーザーの出力、レーザーを移動させる速度、レーザーの幅の3つのパラメーターのうちの第1パラメーターを変化させる場合、当該速度と当該幅との積で当該出力を除した値が、所定値を基準として80%以上120%以下の範囲内の値となるように、3つのパラメーターのうち第1パラメーター以外の2つのパラメーターのいずれか一方又は両方を第1パラメーターとともに変化させる制御である。これにより、当該三次元造形装置は、対象領域においてレーザーにより焼結された層の厚みを一定に保つことができる。その結果、当該三次元造形装置は、造形材料にバインダーが含まれている場合において、利便性を低下させることなく、三次元造形物の造形精度を向上させることができる。
【0013】
以下では、実施形態に係る三次元造形装置の構成と、当該三次元造形装置が行う処理とについて詳しく説明する。
【0014】
<三次元造形装置の構成>
以下、実施形態に係る三次元造形装置の構成について、三次元造形装置1を例に挙げて説明する。
【0015】
図1は、三次元造形装置1の構成の一例を示す図である。
【0016】
ここで、三次元座標系TCは、三次元座標系TCが描かれた図における方向を示す三次元直交座標系である。以下では、説明の便宜上、三次元座標系TCにおけるX軸を、単にX軸と称して説明する。また、以下では、説明の便宜上、三次元座標系TCにおけるY軸を、単にY軸と称して説明する。また、以下では、説明の便宜上、三次元座標系TCにおけるZ軸を、単にZ軸と称して説明する。また、以下では、一例として、Z軸の負方向が重力方向と一致している場合について説明する。このため、以下では、説明の便宜上、Z軸の正方向を上方向又は単に上と称し、Z軸の負方向を下方向又は単に下と称して説明する。
【0017】
三次元造形装置1は、吐出ユニット10と、切削ユニット20と、ステージ30と、移動部40と、制御部50を備える。
【0018】
三次元造形装置1は、ステージ30上の造形面31に向かって吐出ユニット10から図示しない造形材料Xを吐出させつつ、吐出ユニット10とステージ30との相対的な位置を変化させる。これにより、三次元造形装置1は、ステージ30上に造形材料Xを積層する。
【0019】
ここで、造形材料Xは、例えば、無機材料の粒子とバインダーとを含む固形状の材料のことである。例えば、造形材料Xは、無機材料の粒子とバインダーとを含むペレットであるが、これに限られるわけではない。なお、造形材料Xは、無機材料の粒子とバインダーとに加えて、無機材料の粒子を分散させる溶剤を含む構成であってもよい。この場合、造形材料Xは、ペースト状の材料である。また、以下では、一例として、無機材料は、ステンレス等の金属材料が挙げられるが、これに限られるわけではない。また、ステンレス等の金属材料としては、SUS630等が挙げられるが、これに限られるわけではない。また、無機材料には、不純物として炭素、有機物等が含まれる構成であってもよく、炭素、有機物等が含まれない構成であってもよい。また、造形材料Xに含まれるバインダーは、PVA(Polyvinyl Alcohol)、BVOH(ブテンジオールビニルアルコールコポリマー)等の有機材料を含むバインダーである。
【0020】
また、三次元造形装置1は、切削ユニット20に取り付けられた切削工具21を回転させつつ、切削工具21とステージ30との相対的な位置を変化させる。これにより、三次元造形装置1は、ステージ30上に積層された造形材料Xを切削する。すなわち、三次元造形装置1は、造形材料Xの積層と造形材料Xの切削とを行うことにより、所望の形状の三次元造形物を造形面31上に造形する。図1に示した三次元造形物OBは、このようにして三次元造形装置1により造形された三次元造形物の一例である。なお、三次元造形装置1は、切削ユニット20を備えない構成であってもよい。
【0021】
吐出ユニット10は、造形材料Xを造形面31上に吐出する吐出装置である。より具体的には、吐出ユニット10は、吐出部11と、加熱部12を備える。
【0022】
吐出部11は、ノズルNzを有する。そして、吐出部11は、供給された固形状の造形材料Xの少なくとも一部を溶融してペースト状に変化させ、ペースト状に変化した造形材料XをノズルNzから造形面31上に吐出する。従って、前述の吐出ユニット10とステージ30との相対的な位置は、吐出部11とステージ30との相対的な位置によって表される。なお、吐出ユニット10とステージ30との相対的な位置は、吐出ユニット10が備える他の部材とステージ30との相対的な位置によって表されてもよい。
【0023】
ここで、吐出部11には、造形材料Xを収納するカートリッジが取り付けられることにより、造形材料Xが供給される。カートリッジには、造形材料Xの組成を示す材料組成情報が記録されている。例えば、カートリッジには、材料組成情報が記録されたIC(Integrated Circuit)チップが取り付けられている。この場合、吐出部11は、カートリッジに取り付けられたICチップから材料組成情報を読み出す読出装置を備える。そして、吐出部11は、制御部50からの要求に応じて、この読出装置により材料組成情報を読み出し、読み出した材料組成情報を制御部50に出力する。
【0024】
材料組成情報には、バインダー組成情報X1と、バインダー濃度情報X2とが含まれている。バインダー組成情報X1は、造形材料Xに含まれるバインダーの組成を示す情報のことである。バインダー濃度情報X2は、造形材料Xに含まれるバインダーについてのバインダー濃度を示す情報のことである。なお、材料組成情報には、バインダー組成情報X1と、バインダー濃度情報X2とに加えて、他の情報が含まれる構成であってもよい。また、材料組成情報には、バインダー組成情報X1と、バインダー濃度情報X2とに代えて、カートリッジの種類を識別するカートリッジ種類識別情報が含まれる構成であってもよい。この場合、制御部50は、カートリッジ種類識別情報により識別されるカートリッジの種類に対応付けられるバインダー組成情報X1及びバインダー濃度情報X2が予め記憶される。
【0025】
なお、造形材料Xが、無機材料の粒子とバインダーとに加えて、無機材料の粒子を分散させる溶剤を含む場合、吐出部11は、ノズルNzに代えて、ジェットディスペンサーを備える。これは、この場合における造形材料Xの流動性が高く、ノズルNzからの押し出しでは、造形材料Xを造形面31上に積層させることが困難であるためである。
【0026】
加熱部12は、吐出部11により造形面31上に吐出された造形材料Xを加熱する。換言すると、加熱部12は、吐出部11により造形面31上に積層された造形材料Xを加熱する。加熱部12は、レーザー照射部121を備える。
【0027】
レーザー照射部121は、制御部50により制御され、造形材料Xを加熱するレーザーを照射する。レーザー照射部121は、制御部50により設定されたレーザーの照射条件に応じたレーザーを照射する。レーザーの照射条件については、後述する。
【0028】
レーザー照射部121には、レーザー照射部121によるレーザーの照射位置を含む仮想的な領域として、レーザー照射部121に対して動かないように予め決められた照射領域が対応付けられている。レーザー照射部121は、吐出ユニット10とステージ30との相対的な位置の変化に応じて、照射領域とともにステージ30に対して相対的に移動する。すなわち、レーザー照射部121の照射領域は、吐出ユニット10とステージ30との相対的な位置の変化に応じて、造形材料Xに対して相対的に移動する。
なお、本実施形態において、レーザー照射部121は、ステージ30との相対的な位置を変化させることで造形材料Xに対してエネルギーを付与する構成としたが、レーザー照射部121から照射されたレーザーを走査することで造形材料Xに対してエネルギーを付与する構成であってもかまわない。
【0029】
切削ユニット20は、ヘッド先端の軸に取り付けられた切削工具21を回転させて、造形面31上に積層された造形材料Xの切削を行う切削装置である。切削工具21は、例えば、フラットエンドミル、ボールエンドミル等であるが、これらに限られるわけではない。切削ユニット20は、例えば、位置を検出するセンサーによって切削工具21の先端の位置を検出し、検出した結果を制御部50に出力する。制御部50は、この結果を用いて移動部40を制御し、切削工具21と積層された造形材料Xとの相対的な位置関係を制御して切削を行う。なお、切削ユニット20は、イオナイザー等の除電器を備える構成であってもよい。
【0030】
移動部40は、吐出ユニット10とステージ30との相対的な位置を変化させる。より具体的には、移動部40は、吐出ユニット10とステージ30とのいずれか一方又は両方を移動させることにより、吐出ユニット10とステージ30との相対的な位置を変化させる。以下では、一例として、移動部40が、ステージ30を移動させることにより、吐出ユニット10とステージ30との相対的な位置を変化させる場合について説明する。また、移動部40は、切削ユニット20とステージ30との相対的な位置を変化させる。より具体的には、移動部40は、切削ユニット20とステージ30とのいずれか一方又は両方を移動させることにより、切削ユニット20とステージ30との相対的な位置を変化させる。以下では、一例として、移動部40が、ステージ30を移動させることにより、切削ユニット20とステージ30との相対的な位置を変化させる場合について説明する。例えば、移動部40は、3つのモーターの駆動力によって、ステージ30をX軸、Y軸、Z軸のそれぞれと平行な方向に移動させる3軸ポジショナーによって構成される。この場合、これら3つのモーターは、制御部50により制御される。
【0031】
制御部50は、三次元造形装置1の全体を制御する制御装置である。図2は、制御部50の構成の一例を示す図である。制御部50は、プロセッサー51と、記憶部52と、入力受付部53と、通信部54と、表示部55を備える。なお、制御部50は、三次元造形装置1と別体に構成された情報処理装置であってもよい。この場合、三次元造形装置1は、この情報処理装置と通信可能に接続され、この情報処理装置により制御される。
【0032】
プロセッサー51は、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。なお、プロセッサー51は、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の他のプロセッサーであってもよい。また、プロセッサー51は、複数のプロセッサーにより構成されてもよい。プロセッサー51は、記憶部52に記憶された各種のプログラム、各種の命令等を実行することにより、三次元造形装置1が有する各種の機能を実現する。
【0033】
記憶部52は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を含む。なお、記憶部52は、三次元造形装置1に内蔵されるものに代えて、USB(Universal Serial Bus)等のデジタル入出力ポート等によって接続された外付け型の記憶装置であってもよい。記憶部52は、三次元造形装置1が処理する各種のプログラム、各種の命令、各種の情報等を記憶する。
【0034】
入力受付部53は、表示部55に表示された画像を見ながら行われるユーザーからの操作を受け付ける。入力受付部53は、例えば、キーボード、マウス、タッチパッド等を含む入力装置である。なお、入力受付部53は、表示部55と一体に構成されたタッチパネルであってもよい。
【0035】
通信部54は、例えば、USB等のデジタル入出力ポート、イーサネット(登録商標)ポート等を含んで構成される。
【0036】
表示部55は、画像を表示する。表示部55は、三次元造形装置1が備えるディスプレイとして、例えば、液晶ディスプレイパネル、有機EL(ElectroLuminescence)ディスプレイパネル等を含む表示装置である。
【0037】
<レーザーの照射による造形材料への入熱量とレーザーの照射条件との関係>
以下、三次元造形装置1におけるレーザーの照射による造形材料Xへの入熱量Esと、三次元造形装置1におけるレーザーの照射条件との関係について説明する。入熱量Esは、レーザーの照射によって造形材料Xに付与される単位面積あたりの熱量のことである。換言すると、入熱量Esは、レーザーの照射によって造形材料Xに付与される単位面積あたりのエネルギーのことである。なお、実施形態において、単位面積は、1平方ミリメートルであるが、これに代えて、単位面積として利用可能な他の面積であってもよい。
【0038】
三次元造形装置1では、入熱量Esは、以下の式(1)によって、レーザー出力W、レーザー走査速度V、レーザー幅Wdのそれぞれと関係付けることができる。
【0039】
Es=k×W/(V×Wd) ・・・(1)
【0040】
ここで、レーザー出力Wは、レーザーの出力のことである。また、レーザー走査速度Vは、レーザーを移動させる速度のことである。また、レーザー幅Wdは、レーザーの幅、すなわち、レーザーの直径のことである。そして、kは、造形材料Xの光吸収率であり、三次元造形装置1による三次元造形物の造形において、近似的に一定と見做すことができる値である。そこで、以下では、説明を簡略化するため、k=1である場合について説明する。すなわち、以下では、一例として、上記の式(1)が、以下の式(2)である場合について説明する。
【0041】
Es=W/(V×D) ・・・(2)
【0042】
上記の式(1)及び式(2)は、kが定数であることからも分かる通り、入熱量Esが、レーザー走査速度Vとレーザー幅Wdとの積でレーザー出力Wを除した値として得られることを示している。このため、三次元造形装置1では、レーザーの照射条件は、レーザー出力W、レーザー走査速度V、レーザー幅Wdの3つのパラメーターにより表される。
【0043】
ここで、三次元造形装置1において、レーザーの照射条件を指定する方法は、2つ存在する。三次元造形装置1においてレーザーの照射条件を指定する2つの方法のうちの一方は、入熱量Esとともに、上記の3つのパラメーターのうちの2つのパラメーターを指定する方法である。以下では、説明の便宜上、この方法を、照射条件間接指定方法と称して説明する。照射条件間接指定方法では、指定した入熱量Esと当該2つのパラメーターと上記の式(2)とに基づいて、3つのパラメーターのうちの残りの1つのパラメーターを算出し、算出した1つパラメーターと、指定した2つのパラメーターとを、レーザーの照射条件として指定する。一方、三次元造形装置1においてレーザーの照射条件を指定する2つの方法のうちの他方は、入熱量Esを指定せず、上記の3つのパラメーターをレーザーの照射条件として指定する方法である。以下では、説明の便宜上、この方法を、照射条件直接指定方法と称して説明する。
【0044】
なお、入熱量Esは、レーザーの照射によって造形材料Xに付与される単位体積あたりの熱量のことであってもよい。この場合、上記の式(1)及び式(2)の右辺の分母には、造形材料Xの厚みを示すパラメーターが1つ増えることになる。
【0045】
<制御部による三次元造形装置の造形制御>
制御部50は、三次元造形装置1の造形制御を行う。造形制御は、造形材料Xを加熱することによって、予め決められた形状の三次元造形物を造形する制御のことである。以下では、この造形制御について、詳しく説明する。なお、以下では、説明の便宜上、レーザーの照射により加熱される前の造形材料Xを、グリーン体と称して説明する。また、以下では、説明の便宜上、レーザーの照射により加熱された後の造形材料Xを、バルク体と称して説明する。
【0046】
造形制御は、吐出部11、切削ユニット20、移動部40、レーザー照射部121についての制御のことである。具体的には、造形制御は、造形面31上にN個の焼結層を1個の三次元造形物として積層させる制御のことである。すなわち、三次元造形装置1により造形される三次元造形物は、造形面31上に積層されたN個の焼結層の塊のことである。ここで、Nは、1以上の整数であれば、如何なる整数であってもよい。また、N個の焼結層のそれぞれは、レーザーによって焼結された後の造形層のことである。すなわち、N個の焼結層のそれぞれは、バルク体により構成される。また、造形層は、造形面31と平行な造形パスに沿って吐出された造形材料Xのことである。すなわち、造形層は、グリーン体により構成される。なお、造形層は、単一の層によって構成されてもよく、積層された複数の層によって構成されてもよい。また、造形パスは、造形材料Xを吐出しながら移動するノズルNzのステージ30に対する走査経路のことである。ここで、N個の焼結層のうちのn番目の焼結層は、レーザーによって焼結される際に溶けてn-1番目の焼結層と接合される。その結果、造形面31上において、N個の焼結層は、1個の三次元造形物として積層される。なお、実施形態では、nは、1以上N以下のいずれかの整数を示す。このため、実施形態では、0番目の焼結層は、造形面31のことを意味する。すなわち、実施形態において、1番目の造形層は、0番目の焼結層、すなわち、造形面31の上に積層される。
【0047】
ここで、n番目の焼結層として焼結される造形層は、n番目の造形層領域に含まれる。n番目の造形層領域は、三次元造形装置1のユーザーにより造形面31上に指定される仮想的な領域のことである。すなわち、n番目の焼結層として焼結される造形層は、n番目の造形層領域内に予め決められた造形パスに沿って吐出された造形材料Xのことである。また、n番目の造形層領域は、M個の領域により構成される。n番目の造形層領域を構成するM個の領域は、三次元造形装置1のユーザーによりn番目の造形層領域へ指定される仮想的な領域である。Mは、1以上の整数であれば、如何なる整数であってもよい。例えば、n番目の造形層領域が1個の領域により構成されることは、n番目の造形層領域が当該1個の領域そのものであることを意味する。また、例えば、n番目の造形層領域が2個以上の領域により構成されることは、n番目の造形層領域が当該2個以上の領域を組み合わせた領域であることを意味する。なお、N個の造形層領域のそれぞれを構成する領域の数Mは、互いに異なる構成であってもよく、互いに同じ構成であってもよい。そこで、n番目の造形層領域を構成する領域の数Mを、Mnによって表す。この場合、例えば、1番目の造形層領域を構成する領域の数Mは、M1である。また、この場合、2番目の造形層領域を構成する領域の数Mは、M2である。そして、M1とM2は、互いに異なる整数であってもよく、互いに同じ整数であってもよい。また、n番目の造形層領域内に予め決められた造形パスは、n番目の造形層領域を構成するMn個の領域毎の領域内に予め決められた造形パスを組み合わせた造形パスである。
【0048】
n番目の焼結層をn-1番目の焼結層の上に積層させる場合、制御部50は、吐出部11、移動部40を制御し、n番目の造形層領域を構成するMn個の領域のそれぞれ毎に、吐出部11による造形材料Xの吐出を繰り返し行う。これにより、制御部50は、n番目の造形層をn-1番目の焼結層の上に積層させることができる。Mn個の領域のうちのある領域における吐出部11による造形材料Xの吐出は、当該領域内に予め決められた造形パスに沿った造形材料Xの吐出のことである。n番目の造形層をn-1番目の焼結層の上に積層させた後、制御部50は、レーザー照射部121、移動部40を制御し、n番目の造形層領域内に形成されたn番目の造形層へのレーザー照射部121によるレーザーの照射を行う。n番目の造形層へのレーザー照射部121によるレーザーの照射は、n番目の造形層領域内に予め決められた造形パスに沿ったレーザーの照射である。n番目の造形層へレーザーが照射された場合、n番目の造形層は、焼結されてn番目の焼結層に変化する。レーザーの照射によってn番目の造形層をn番目の焼結層へ変化させた後、制御部50は、切削ユニット20、移動部40を制御し、切削ユニット20によるn番目の焼結層の切削を行う。切削ユニット20によるn番目の焼結層の切削は、n番目の造形層領域内に予め決められた切削パスに沿った切削ユニット20による切削である。切削パスは、焼結された後の造形材料X、すなわち、バルク体を切削しながら移動する切削工具21のステージ30に対する走査経路のことである。以上のような制御を造形制御として行うことにより、制御部50は、造形材料Xの吐出、レーザーの照射、切削ユニット20による切削を順に行い、n番目の焼結層をn-1番目の焼結層の上に積層させる。
【0049】
ここで、n番目の造形層領域を構成するMn個の領域の一部又は全部には、レーザー照射部121についての制御として、第1制御と第2制御との2つの制御のいずれかが対応付けられている。なお、n番目の造形層領域を構成するMn個の領域の一部又は全部には、3つ以上の制御のいずれかが対応付けられている構成であってもよい。ただし、この場合であっても、これら3つ以上の制御の中には、第1制御が含まれている。そして、この場合、これら3つ以上の制御のうち第1制御以外の2つ以上の制御は、第1制御と異なる制御であれば、レーザー照射部121を制御可能な如何なる制御であってもよい。以下では、説明の便宜上、n番目の造形層領域を構成するMn個の領域のうち第1制御が対応付けられた領域を、第1制御領域と称して説明する。また、以下では、説明の便宜上、n番目の造形層領域を構成するMn個の領域のうち第2制御が対応付けられた領域を、第2制御領域と称して説明する。
【0050】
第1制御は、照射条件間接指定方法により指定されたレーザーの照射条件を、レーザー照射部121に設定する制御である。具体的には、第1制御は、レーザー出力W、レーザー走査速度V、レーザー幅Wdの3つのパラメーターのうちの1つを第1パラメーターとして第1パラメーターを変化させる場合、レーザー走査速度Vとレーザー幅Wdとの積でレーザー出力Wを除した値が所定の範囲内となるように、当該3つのパラメーターのうち第1パラメーター以外の2つのパラメーターのいずれか一方又は両方を第1パラメーターとともに変化させる制御である。換言すると、第1制御は、第1パラメーターを変化させる場合、照射条件間接指定方法によって予め指定された入熱量Esが略変化しないように、当該2つのパラメーターのいずれか一方又は両方を第1パラメーターとともに変化させる制御である。ここで、所定の範囲は、所定値を基準として80%以上120%以下の範囲のことである。換言すると、所定の範囲とは、レーザー出力W、レーザー走査速度V、レーザー幅Wdの3つのパラメーターのうちの1つを第1パラメーターとして第1パラメーターを変化させる場合、レーザー走査速度Vとレーザー幅Wdとの積でレーザー出力Wを除した値が所定値を基準として80%以上120%以下の範囲に収まっていることを指す。さらに、第1制御は、90%以上110%以下の範囲に収まるようにレーザー照射部121を制御することが好ましい。なお、ここで、所定値とは、焼結層を形成する無機材料の質量が、造形層に含まれる無機粒子の質量の90%以上となるレーザーの照射条件において、レーザー走査速度Vとレーザー幅Wdとの積でレーザー出力Wを除した値である。所定値は、造形材料毎に設定される。
【0051】
一方、第2制御は、照射条件直接指定方法により指定されたレーザーの照射条件を、レーザー照射部121に設定する制御である。具体的には、第2制御は、照射条件直接指定方法により予め指定されたレーザー出力W、レーザー走査速度V、レーザー幅Wdの3つのパラメーターを、レーザー照射部121に設定する制御である。このため、第2制御では、入熱量Esは、変化することがある。以下では、説明の便宜上、第1制御と第2制御とを区別する必要が無い限り、まとめて照射制御と称して説明する。
【0052】
制御部50は、n番目の造形層領域を構成するMn個の領域のうちのある領域内に、造形面31に対するレーザー照射部121の相対的な移動によりレーザー照射部121の照射領域が入った場合、当該領域に対応付けられた照射条件情報と、当該領域に対応付けられた種類の照射制御とにより、レーザー照射部121に設定するレーザーの照射条件を決定する。そして、制御部50は、決定したレーザーの照射条件をレーザー照射部121に設定する。これにより、制御部50は、当該領域内の造形材料Xへ、ユーザーにより指定されたレーザーの照射条件に応じたレーザーを照射させることができる。ここで、照射条件情報は、入熱量Esを示す入熱量情報、レーザー出力Wを示す出力情報、レーザー走査速度Vを示す速度情報、レーザー幅Wdを示す幅情報の4つの情報を含む情報である。ここで、入熱量情報は、入熱量Esが指定されていない場合、例えば、ヌル情報である。また、出力情報は、レーザー出力Wが指定されていない場合、例えば、ヌル情報である。また、速度情報は、レーザー走査速度Vが指定されていない場合、例えば、ヌル情報である。また、幅情報は、レーザー幅Wdが指定されていない場合、例えば、ヌル情報である。ここで、n番目の造形層領域を構成するMn個の領域のうちのある領域に対応付けられた照射制御が第1制御であった場合、当該領域に対応付けられた照射条件情報に含まれる入熱量情報、出力情報、速度情報、幅情報の4つの情報のうちヌル情報とすることができる情報は、出力情報、速度情報、幅情報の3つの情報のうちのいずれか1つである。一方、n番目の造形層領域を構成するMn個の領域のうちのある領域に対応付けられた照射制御が第2制御であった場合、当該領域に対応付けられた照射条件情報に含まれる入熱量情報、出力情報、速度情報、幅情報の4つの情報のうちヌル情報とすることができる情報は、入熱量情報である。
【0053】
例えば、制御部50は、n番目の造形層領域を構成するMn個の領域のうちのある領域内に、造形面31に対するレーザー照射部121の相対的な移動によりレーザー照射部121の照射領域が入った場合、且つ、当該領域が第1制御領域であった場合、当該領域に対応付けられた照射条件情報と上記の式(2)とに基づいて、出力情報、速度情報、幅情報の3つの情報のうちヌル情報となっている情報が示すパラメーターの値を算出する。そして、制御部50は、算出した値と、これら3つの情報のうちヌル情報となっていない2つの情報のそれぞれが示すパラメーターとを、レーザー照射部121に設定する。この場合、レーザー照射部121から照射されるレーザーが造形材料Xへ付与する入熱量Esは、当該領域に対応付けられた照射条件情報に含まれる入熱量情報が示す入熱量Esとなる。
【0054】
このため、n番目の造形層領域を構成するMn個の領域に第1制御領域が2つ含まれており、且つ、これら2つの第1制御領域のそれぞれに対応付けられた照射条件情報が、ある共通の入熱量Esを示す入熱量情報を含む場合、制御部50は、これら2つの第1制御領域に対して、当該入熱量Esのレーザーを照射することになる。しかし、これら2つの第1制御領域のそれぞれに対応付けられた照射条件情報は、出力情報、速度情報、幅情報の3つの情報の組み合わせについても共通であるとは限らない。従って、制御部50は、一般的には、これら2つの第1制御領域に対して、入熱量Esが同じレーザーであり、且つ、レーザー出力W、レーザー走査速度V、レーザー幅Wdのうちの少なくとも2つのパラメーターが異なるレーザーを照射する。そこで、以下では、説明の便宜上、n番目の造形層領域を構成するMn個の領域に含まれる複数の第1制御領域のうち、互いに共通の入熱量Esを示す入熱量情報を含む照射条件情報が対応付けられている1個以上の領域を、n番目の造形層領域の対象領域と称して説明する。この場合、対象領域には、当該共通の入熱量Esのレーザーが照射される。すなわち、対象領域では、三次元造形装置1は、対象領域に含まれる複数の領域のそれぞれに互いに異なる当該照射条件情報を対応付けることにより、レーザー出力W、レーザー走査速度V、レーザー幅Wdのうちの少なくとも1つを変化させつつ、造形層領域における入熱量Esのばらつきを抑制することができる。ただし、対象領域では、三次元造形装置1は、レーザー出力W、レーザー走査速度V、レーザー幅Wdの3つのパラメーターのそれぞれを自由に変化させることができず、上記の式(2)に基づいて造形層領域における入熱量Esのばらつきが小さくなるようにこれら3つのパラメーターを変化させることができる。これにより、三次元造形装置1は、少なくとも対象領域に含まれる焼結層の厚みを均一にすることができる。その結果、三次元造形装置1は、造形材料Xにバインダーが含まれている場合において、利便性を低下させることなく、三次元造形物の造形精度を向上させることができる。また、三次元造形装置1は、すべての造形層領域が対象領域である場合、N個の焼結層それぞれの厚みを均一にすることができる。この場合、三次元造形装置1は、造形材料Xにバインダーが含まれている場合において、利便性を低下させることなく、三次元造形物の造形精度を、より確実に向上させることができる。
【0055】
また、例えば、制御部50は、n番目の造形層領域を構成するMn個の領域のうちのある領域内に、造形面31に対するレーザー照射部121の相対的な移動によりレーザー照射部121の照射領域が入った場合、且つ、当該領域が第2制御領域であった場合、当該領域に対応付けられた照射条件情報に含まれる出力情報、速度情報、幅情報の3つの情報のそれぞれが示すパラメーターを、レーザー照射部121に設定する。この場合、レーザー照射部121から照射されるレーザーが造形材料Xへ付与する入熱量Esは、当該3つの情報のそれぞれが示すパラメーターと上記の式(2)とによって算出される入熱量Esとなる。
【0056】
制御部50は、上記のような造形制御を、記憶部52に予め記憶された造形用データ及び切削用データに基づいて行う。
【0057】
造形用データは、N個の造形層を積層させるために用いられるデータである。具体的には、造形用データは、N個の造形層毎の造形層領域を構成するM個の領域のそれぞれを示す領域情報と、当該M個の領域のそれぞれに対応付けられた造形パスを示す造形パス情報と、当該M個の領域のそれぞれに対応付けられた照射制御の種類を示す照射制御情報と、当該M個の領域のそれぞれに対応付けられた照射条件情報との4つの情報を含むデータである。
【0058】
また、造形用データには、更に、当該4つの情報に加えて、ノズルNzから吐出される造形材料Xの流量である吐出量の目標値を示す情報、固形状の造形材料Xをペースト状に変化させるために必要な各種の条件を示す情報等が含まれている。なお、これらの情報は、各造形層領域を構成するM個の領域毎の情報であってもよい。
【0059】
切削用データは、N個の造形層のそれぞれを切削するために用いられるデータである。具体的には、切削用データは、N個の造形層毎の造形層領域における切削パスを示す切削パス情報を含むデータである。また、切削用データは、切削パス情報に加えて、切削工具21による切削の実行に必要な各種の条件を示す情報等が含まれている。
【0060】
<膜残存率の定義>
以下、実施形態の説明において用いる用語である膜残存率の定義について説明する。ここで、膜残存率は、ノズルNzから造形面31上に吐出されたグリーン体の厚さをDとし、そのグリーン体をレーザーで加熱した後のバルク体の厚さをdとした場合におけるDに対するdの比、すなわち、d/Dのことである。換言すると、膜残存率は、加熱の前後における造形材料Xの厚みの比のことであり、バルク体の厚み、すなわち、造形層が焼結された後の焼結層の厚みを示す量である。グリーン体は、加熱されると、グリーン体に含まれるバインダーが気化して蒸散し、中に含まれる無機材料の粒子が溶融してバルク化すると体積が小さくなる。このため、膜残存率は、1より小さくなる。なお、図3は、ノズルNzから造形面31上に吐出されたグリーン体と、そのグリーン体をレーザーで加熱した後のバルク体とのそれぞれの一例を示す図である。
【0061】
<対象領域と対象領域以外の領域との違い>
以下、前述の対象領域と対象領域以外の領域との違いについて説明する。
【0062】
ある領域に含まれるグリーン体へ、当該領域における造形パス情報が示す造形パスに沿って照射されるレーザーによって付与される入熱量Esのばらつきが小さい場合、当該領域内において形成されるバルク体の厚みのばらつきは、低減する。すなわち、三次元造形装置1において、造形層が焼結された後の焼結層の厚みのばらつきを小さくするためには、レーザーの照射によって造形層に付与される造形領域における入熱量Esのばらつきを小さくする必要がある。これは、三次元造形装置1では、造形層が焼結された後の焼結層の厚みは、造形領域におけるレーザーの照射によって造形材料Xに付与される入熱量Esのばらつきが大きい場合、図4に示したように、不均一になることを意味する。図4は、入熱量Esと膜残存率との関係の一例を示す図である。
【0063】
図4に示したグラフの横軸は、入熱量Esを示す。また、当該グラフの縦軸は、膜残存率を示す。そして、当該グラフにプロットされた曲線のうちの曲線F1は、造形材料Xのバインダーがビニルアルコール系バインダーであり、且つ、レーザーが照射された造形材料Xのバインダー濃度が0.2[wt%]である場合において、入熱量Esを変えながらレーザーを造形材料Xに照射した場合の膜残存率の変化を示す。また、当該グラフにプロットされた曲線のうちの曲線F2は、造形材料Xのバインダーがビニルアルコール系バインダーであり、且つ、レーザーが照射された造形材料Xのバインダー濃度が1.0[wt%]である場合において、入熱量Esを変えながらレーザーを造形材料Xに照射した場合の膜残存率の変化を示す。また、当該グラフにプロットされた曲線のうちの曲線F3は、造形材料Xのバインダーがビニルアルコール系バインダーであり、且つ、レーザーが照射された造形材料Xのバインダー濃度が1.6[wt%]である場合において、入熱量Esを変えながらレーザーを造形材料Xに照射した場合の膜残存率の変化を示す。また、当該グラフにプロットされた曲線のうちの曲線F4は、造形材料Xのバインダーがビニルアルコール系バインダーあり、且つ、レーザーが照射された造形材料Xのバインダー濃度が4.9[wt%]である場合において、入熱量Esを変えながらレーザーを造形材料Xに照射した場合の膜残存率の変化を示す。当該グラフにおいて、曲線F1~曲線F4の4本の曲線は、バインダーを含む造形材料Xへレーザーを照射した場合の膜残存率が、入熱量Esの変化に応じて変化してしまうことを示している。そして、当該グラフにおいて、当該4本の曲線は、更に、バインダー濃度が高くなるほど、当該膜残存率が、入熱量Esの変化に応じて変化し易くなることを示している。
【0064】
ここで、n番目の造形層領域を構成するMn個の領域に対象領域以外の複数の領域が含まれており、且つ、これら複数の領域のそれぞれに対応付けられた照射条件情報が、互いに異なる照射条件情報であった場合、制御部50は、一般的に、これら複数の領域に対して、互いに異なる入熱量Esのレーザーを照射することになる。すなわち、図4に示したグラフは、n番目の造形層領域を構成するMn個の領域に、対象領域以外の領域として、互いに異なる照射条件情報が対応付けられた複数の領域が含まれている場合、n番目の焼結層の厚みが、不均一になることを示している。これは、三次元造形装置1により造形される三次元造形物の造形精度を低下させることに繋がるため、望ましくない。
【0065】
一方、造形材料Xの焼結により造形される三次元造形物の造形精度は、造形層が焼結された後の焼結層の厚みが均一であるほど、高くなる。そこで、三次元造形装置1では、造形制御は、前述した第1制御を含んでいる。
【0066】
図5は、第1制御によってレーザー出力Wを変化させながら造形材料Xへレーザーを照射した場合における膜残存率の変化の一例を示す図である。図5に示したグラフの横軸は、レーザー出力Wを示す。また、当該グラフの縦軸は、膜残存率を示す。そして、当該グラフにプロットされた曲線F5は、造形材料Xのバインダーがビニルアルコール系バインダーである場合において、第1制御によってレーザー出力Wを変えながらレーザーを造形材料Xに照射した場合の膜残存率の変化を示す。当該グラフにおいて、曲線F5は、バインダーを含む造形材料Xへ第1制御によってレーザー出力Wを変えながらレーザーを照射しても、膜残存率のばらつきを抑制できることを示している。これはすなわち、n番目の造形層領域を構成するMn個の領域がすべて対象領域である場合、n番目の焼結層の厚みが、均一になることを示している。
【0067】
以上のように、三次元造形装置1は、第1制御を含む造形制御を行うため、造形材料Xにバインダーが含まれている場合における三次元造形物の造形精度の低下を抑制しつつ、利便性を向上させることができる。
【0068】
<第1制御領域においてレーザーの照射条件を制御部がレーザー照射部へ設定する処理>
以下、図6を参照し、第1制御領域においてレーザーの照射条件を制御部50がレーザー照射部121へ設定する処理について説明する。図6は、第1制御領域においてレーザーの照射条件を制御部50がレーザー照射部121へ設定する処理の流れの一例を示す図である。制御部50は、レーザーの照射領域が第1制御領域に入る毎に、図6に示したフローチャートの処理を繰り返し行う。なお、以下では、一例として、前述の第1パラメーターがレーザー出力Wである場合について説明する。また、以下では、一例として、制御部50が第1制御において第1パラメーターを変化させる場合、制御部50が第1パラメーターとともにレーザー走査速度Vを変化させ、且つ、レーザー幅Wdを変化させない場合について説明する。この場合、すべての第1制御領域に対応付けられた照射条件情報に含まれる速度情報は、ヌル情報である。また、この場合、すべての第1制御領域に対応付けられた照射条件情報に含まれる入熱量情報、出力情報、幅情報のそれぞれは、ヌル情報ではない。
【0069】
レーザーの照射領域が第1制御領域に入った後、制御部50は、記憶部52に予め記憶された造形用データを参照し、レーザーの照射領域が入った第1制御領域に対応付けられた照射条件情報を記憶部52から読み出す(ステップS110)。
【0070】
次に、制御部50は、ステップS110において読み出した照射条件情報と、上記の式(2)とに基づいて、レーザー走査速度Vを算出する(ステップS120)。この際、制御部50は、上記の式(2)により算出される入熱量Esが、ステップS110において読み出した照射条件情報に含まれる入熱量情報が示す入熱量Esと一致するように、レーザー走査速度Vを算出する。
【0071】
次に、制御部50は、ステップS120において算出したレーザー走査速度Vと、ステップS110において読み出した照射条件情報に含まれる出力情報が示すレーザー出力Wと、当該照射条件情報に含まれる幅情報が示すレーザー幅Wdとを、レーザーの照射条件としてレーザー照射部121に設定し(ステップS130)、図6に示したフローチャートの処理を終了する。
【0072】
ここで、例えば、第1領域R1と第2領域R2との2つの領域が第1制御領域であり、且つ、第1領域R1及び第2領域R2のそれぞれに対応付けられた照射条件情報に含まれる入熱量情報が共通であった場合、これら2つの領域は、対象領域である。以下では、一例として、第1領域R1に対応付けられた照射条件情報が、入熱量Esとして予め決められた第1入熱量を示す入熱量情報と、レーザー出力Wとして予め決められた第1出力を示す出力情報と、ヌル情報である速度情報と、レーザー幅Wdとして予め決められた第1幅を示す幅情報とを含む場合について説明する。また、以下では、一例として、第2領域R2に対応付けられた照射条件情報が、第1入熱量を示す入熱量情報と、レーザー出力Wとして第1出力よりも高い第2出力を示す出力情報と、ヌル情報である速度情報と、第1幅を示す幅情報とを含む場合について説明する。この場合、第1領域R1においてレーザーの照射により造形材料Xに付与される入熱量Esは、第2領域R2においてレーザーの照射により造形材料Xに付与される入熱量Esに対して80%以上120%以下の範囲に含まれる。このため、三次元造形装置1は、対象領域に対する第1制御によって、第1領域R1における焼結層の厚みと、第2領域R2における焼結層の厚みとの差を小さくすることができる。しかしながら、第2領域R2におけるレーザー走査速度Vは、第1領域R1におけるレーザー走査速度Vよりも速い。また、第2領域R2におけるレーザー出力Wは、第1領域R1におけるレーザー出力Wよりも高い。これにより、第1領域R1においてレーザー照射部121から造形材料Xに照射されたレーザーによる造形材料Xへの単位時間あたりの入熱量Esは、第2領域R2においてレーザー照射部121から造形材料Xに照射されたレーザーによる造形材料Xへの単位時間あたりの入熱量Esより大きい。このため、三次元造形装置1は、対象領域に対する第1制御によって、第2領域R2において造形材料Xを焼結させる時間を、第2領域R2において造形材料Xを焼結させる時間よりも短くすることができる。換言すると、三次元造形装置1は、対象領域に対する第1制御によって、第1領域R1における焼結層の厚みと第2領域R2における焼結層の厚みとの差を低減しつつ、第1領域R1におけるレーザー走査速度Vと、第2領域R2におけるレーザー走査速度Vとを異なる速度にすることができるとともに、第1領域R1におけるレーザー出力Wと、第2領域R2におけるレーザー出力Wとを異なる出力にすることができる。従って、三次元造形装置1は、対象領域において、焼結層の厚みのばらつきを抑制しつつ、造形材料Xの形状に応じてレーザー出力W及びレーザー走査速度Vを変えることができる。すなわち、三次元造形装置1は、造形材料にバインダーが含まれている場合において、利便性を低下させることなく、三次元造形物の造形精度を向上させることができる。なお、本実施形態において、単位時間は、1秒であるが、単位時間として使用可能な他の時間であってもよい。
【0073】
なお、例えば、第1領域R1に対応付けられた照射条件情報が、第1入熱量を示す入熱量情報と、ヌル情報である出力情報と、レーザー走査速度Vとして予め決められた第1速度を示す速度情報と、第1幅を示す幅情報とを含み、且つ、第2領域R2に対応付けられた照射条件情報が、第1入熱量を示す入熱量情報と、ヌル情報である出力情報と、レーザー走査速度Vとして第1速度よりも速い第2速度を示す速度情報と、第1幅を示す幅情報とを含む場合も、三次元造形装置1は、第1領域R1における焼結層の厚みと第2領域R2における焼結層の厚みとの差を低減しつつ、第1領域R1におけるレーザー走査速度Vと、第2領域R2におけるレーザー走査速度Vとを異なる速度にすることができるとともに、第1領域R1におけるレーザー出力Wと、第2領域R2におけるレーザー出力Wとを異なる出力にすることができる。従って、三次元造形装置1は、この場合も、対象領域において、焼結層の厚みのばらつきを低減しつつ、造形材料Xの形状に応じてレーザー出力W及びレーザー走査速度Vを変えることができる。
【0074】
また、例えば、第1領域R1に対応付けられた照射条件情報が、第1入熱量を示す入熱量情報と、第1出力を示す出力情報と、第1速度を示す速度情報と、ヌル情報である幅情報とを含み、且つ、第2領域R2に対応付けられた照射条件情報が、第1入熱量を示す入熱量情報と、第2出力を示す出力情報と、第1速度を示す速度情報と、ヌル情報である幅情報とを含む場合、三次元造形装置1は、第1領域R1における焼結層の厚みと第2領域R2における焼結層の厚みとの差を低減しつつ、第1領域R1におけるレーザー出力Wと、第2領域R2におけるレーザー出力Wとを異なる出力にすることができるとともに、第1領域R1におけるレーザー幅Wdと、第2領域R2におけるレーザー幅Wdとを異なる幅にすることができる。従って、三次元造形装置1は、この場合、対象領域において、焼結層の厚みのばらつきを低減しつつ、造形材料Xの形状に応じてレーザー出力W及びレーザー幅Wdを変えることができる。
【0075】
また、例えば、第1領域R1に対応付けられた照射条件情報が、第1入熱量を示す入熱量情報と、ヌル情報である出力情報と、第1速度を示す速度情報と、第1幅を示す幅情報とを含み、且つ、第2領域R2に対応付けられた照射条件情報が、第1入熱量を示す入熱量情報と、ヌル情報である出力情報と、第1速度を示す速度情報と、第2幅を示す幅情報とを含む場合、三次元造形装置1は、第1領域R1における焼結層の厚みと第2領域R2における焼結層の厚みとの差を低減しつつ、第1領域R1におけるレーザー出力Wと、第2領域R2におけるレーザー出力Wとを異なる出力にすることができるとともに、第1領域R1におけるレーザー幅Wdと、第2領域R2におけるレーザー幅Wdとを異なる幅にすることができる。従って、三次元造形装置1は、この場合も、対象領域において、焼結層の厚みのばらつきを低減しつつ、造形材料Xの形状に応じてレーザー出力W及びレーザー幅Wdを変えることができる。
【0076】
また、例えば、第1領域R1に対応付けられた照射条件情報が、第1入熱量を示す入熱量情報と、第1出力を示す出力情報と、第1速度を示す速度情報と、ヌル情報である幅情報とを含み、且つ、第2領域R2に対応付けられた照射条件情報が、第1入熱量を示す入熱量情報と、第1出力を示す出力情報と、第2速度を示す速度情報と、ヌル情報である幅情報とを含む場合、三次元造形装置1は、第1領域R1における焼結層の厚みと第2領域R2における焼結層の厚みとの差を低減しつつ、第1領域R1におけるレーザー走査速度Vと、第2領域R2におけるレーザー走査速度Vとを異なる出力にすることができるとともに、第1領域R1におけるレーザー幅Wdと、第2領域R2におけるレーザー幅Wdとを異なる幅にすることができる。従って、三次元造形装置1は、この場合、対象領域において、焼結層の厚みのばらつきを低減しつつ、造形材料Xの形状に応じてレーザー走査速度V及びレーザー幅Wdを変えることができる。
【0077】
また、例えば、第1領域R1に対応付けられた照射条件情報が、第1入熱量を示す入熱量情報と、第1出力を示す出力情報と、ヌル情報である速度情報と、第1幅を示す幅情報とを含み、且つ、第2領域R2に対応付けられた照射条件情報が、第1入熱量を示す入熱量情報と、第1出力を示す出力情報と、ヌル情報である速度情報と、第2幅を示す幅情報とを含む場合、三次元造形装置1は、第1領域R1における焼結層の厚みと第2領域R2における焼結層の厚みとの差を低減しつつ、第1領域R1におけるレーザー走査速度Vと、第2領域R2におけるレーザー走査速度Vとを異なる出力にすることができるとともに、第1領域R1におけるレーザー幅Wdと、第2領域R2におけるレーザー幅Wdとを異なる幅にすることができる。従って、三次元造形装置1は、この場合も、対象領域において、焼結層の厚みのばらつきを低減しつつ、造形材料Xの形状に応じてレーザー走査速度V及びレーザー幅Wdを変えることができる。
【0078】
以上のように、三次元造形装置1は、ステージ30と、無機材料の粒子とバインダーとを含む造形材料Xをステージ30上に吐出する吐出部11と、吐出部11によりステージ30上に吐出された造形材料Xにレーザーを照射し、造形材料Xを加熱するレーザー照射部121と、ステージ30と吐出部11とを相対的に移動させる移動部40と、吐出部11とレーザー照射部121と移動部40とを制御する制御部50と、を備え、制御部50は、吐出部11によってステージ30上に吐出された造形材料Xを加熱することによって予め決められた形状の三次元造形物を造形する造形制御を行い、造形制御は、吐出部11によってステージ30上に吐出された造形材料Xのうち予め決められた対象領域に含まれる造形材料Xへレーザーを照射させる場合におけるレーザー照射部121についての第1制御を含み、第1制御は、レーザー出力W、レーザー走査速度V、レーザー幅Wdの3つのパラメーターのうちの第1パラメーターを変化させる場合、レーザー走査速度Vとレーザー幅Wdとの積でレーザー出力Wを除した値が所定値を基準として80%以上120%以下の範囲となるように、3つのパラメーターのうち第1パラメーター以外の2つのパラメーターのいずれか一方又は両方を第1パラメーターとともに変化させる制御である。これにより、三次元造形装置1は、造形材料Xにバインダーが含まれている場合において、利便性を低下させることなく、三次元造形物の造形精度を向上させることができる。
【0079】
<実施形態の応用例1>
上記において説明した三次元造形装置1は、第1領域R1及び第2領域R2において、焼結層の厚みのばらつきを低減しつつ、レーザー出力Wを変えることができた。この場合、三次元造形装置1は、焼結層の厚みのばらつきを低減しつつ、第1領域R1における焼結層の炭素濃度と、第2領域における焼結層の炭素濃度とを変えることができる。そして、三次元造形装置1は、このような炭素濃度の変化を、第1領域R1及び第2領域R2のそれぞれに異なる炭素濃度の造形材料Xを吐出することなく、第1領域R1及び第2領域R2のそれぞれに共通の造形材料Xを吐出することにより実現することができる。例えば、三次元造形装置1は、第1領域R1の炭素濃度を、第2領域R2の炭素濃度よりも高くすることができる。
【0080】
ここで、図7は、第1制御によってレーザー出力Wを変化させながら造形材料Xにレーザーを照射した場合におけるレーザー出力Wと炭素濃度との関係の一例を示す図である。図7に示したグラフの横軸は、レーザー出力Wを示す。また、当該グラフの縦軸は、レーザーが照射された後の造形材料X、すなわち、バルク体の炭素濃度を示す。当該グラフが示すように、レーザーが照射された後の造形材料Xの炭素濃度は、レーザー出力Wが高いほど低くなり、レーザー出力Wが低いほど高くなる。これはすなわち、造形層へ照射するレーザーのレーザー出力Wを変えることにより、焼結層の炭素濃度を変えることができることを意味している。そして、三次元造形装置1は、前述した通り、対象領域において、入熱量Esを変えることなく、レーザー出力Wを変えることができる。すなわち、三次元造形装置1は、焼結層の厚みのばらつきを低減しつつ、所望の領域の焼結層の炭素濃度を所望の炭素濃度にすることができる。これは、1個の三次元造形物の中に炭素濃度の濃淡を生じさせることができることを意味する。そして、このように炭素濃度の濃淡を生じさせることは、三次元造形物の強度、靱性等の特性を向上させることに繋がり、有用である。つまり、三次元造形装置1は、三次元造形物の特性を向上させることができる。ここで、レーザーを照射した後の焼結層の炭素濃度は、レーザー出力Wと、造形材料Xにおけるバインダー濃度とに応じて決まる。これは、バインダーに有機材料、すなわち、炭素が含まれているからである。このため、三次元造形装置1のユーザーは、例えば、焼結層の炭素濃度を所望の炭素濃度にしたい場合、造形材料Xのバインダー濃度と、造形材料Xのバインダーの炭素の濃度と、レーザー出力Wとの関係を示すグラフを生成し、生成したグラフに応じて、造形材料Xのバインダー濃度を決定することができる。従って、この一例において、造形材料Xにおけるバインダーの濃度は、バインダーに含まれる炭素の濃度に応じて決まる濃度である。なお、事前に行った実験の結果によると、造形材料Xのバインダー濃度を4[wt%]以上とした場合、焼結層の炭素濃度は、制御し易くなることが分かっている。
【0081】
このような焼結層の炭素濃度の変化が起きる理由は、図8図10に示したグラフにより理解されると考えられる。
【0082】
図8は、レーザーが照射された造形材料Xの温度の時間的な変化の一例を示す図である。より具体的には、図8は、造形材料X上の位置のうちレーザーが通過した経路上のある位置LPにおける造形材料Xの温度の時間的な変化をシミュレーションした結果の一例を示す図である。図8に示したグラフの横軸は、経過時間を示す。当該グラフの縦軸は、レーザーが照射された造形材料Xの温度を示す。当該グラフにプロットされた曲線F6は、レーザー出力Wが250[W]、レーザー走査速度Vが100[mm/s]のレーザーにより造形材料Xを照射した場合の造形材料Xの温度の時間的な変化を示す曲線である。当該グラフにプロットされた曲線F7は、レーザー出力Wが200[W]、レーザー走査速度Vが80[mm/s]のレーザーにより造形材料Xを照射した場合の造形材料Xの温度の時間的な変化を示す曲線である。当該グラフにプロットされた曲線F8は、レーザー出力Wが125[W]、レーザー走査速度Vが50[mm/s]のレーザーにより造形材料Xを照射した場合の造形材料Xの温度の時間的な変化を示す曲線である。そして、図8に示した例では、これら3つのレーザーのそれぞれから造形材料Xに付与される入熱量Esは、同じである。すなわち、曲線F6~曲線F8は、入熱量Esを一定にしたままレーザー出力Wを変えた場合の造形材料Xの温度の時間的な変化を比較する曲線である。図8に示したように、入熱量Esを一定にしたままレーザー出力Wを高くすると、レーザーの照射によって上昇する造形材料Xの温度のピークは、高くなる。
【0083】
一方、図9は、レーザーが照射された造形材料Xの温度の時間的な変化の他の例を示す図である。より具体的には、図9は、造形材料X上の位置のうちレーザーが通過した経路上のある位置LPにおける造形材料Xの温度の時間的な変化の他の例を示す図である。図9に示したグラフの横軸は、経過時間を示す。当該グラフの縦軸は、レーザーが照射された造形材料Xの温度を示す。当該グラフにプロットされた曲線F9は、レーザー出力Wが300[W]のレーザーにより造形材料Xを照射した場合の造形材料Xの温度の時間的な変化を示す曲線である。当該グラフにプロットされた曲線F10は、レーザー出力Wが200[W]のレーザーにより造形材料Xを照射した場合の造形材料Xの温度の時間的な変化を示す曲線である。当該グラフにプロットされた曲線F11は、レーザー出力Wが100[W]のレーザーにより造形材料Xを照射した場合の造形材料Xの温度の時間的な変化を示す曲線である。そして、図9に示した例では、これら3つのレーザーのレーザー走査速度Vは、同じである。このため、当該例では、これら3つのレーザーのそれぞれから造形材料Xに付与される入熱量Esは、同じではない。すなわち、曲線F9~曲線F11は、レーザー走査速度Vを一定にしたままレーザー出力Wを変えた場合の造形材料Xの温度の時間的な変化を比較する曲線である。図9に示したように、レーザー走査速度Vを一定にしたままレーザー出力Wを高くしても、レーザーの照射によって上昇する造形材料Xの温度のピークは、高くなる。
【0084】
これに対し、図10は、レーザーが照射された造形材料Xの温度の時間的な変化の更に他の例を示す図である。より具体的には、図10は、造形材料X上の位置のうちレーザーが通過した経路上のある位置LPにおける造形材料Xの温度の時間的な変化の更に他の例を示す図である。図10に示したグラフの横軸は、経過時間を示す。当該グラフの縦軸は、レーザーが照射された造形材料Xの温度を示す。当該グラフにプロットされた曲線F12は、レーザー走査速度Vが40[mm/s]のレーザーにより造形材料Xを照射した場合の造形材料Xの温度の時間的な変化を示す曲線である。当該グラフにプロットされた曲線F13は、レーザー走査速度Vが80[mm/s]のレーザーにより造形材料Xを照射した場合の造形材料Xの温度の時間的な変化を示す曲線である。当該グラフにプロットされた曲線F14は、レーザー走査速度Vが160[mm/s]のレーザーにより造形材料Xを照射した場合の造形材料Xの温度の時間的な変化を示す曲線である。そして、図10に示した例では、これら3つのレーザーのレーザー出力Wは、同じである。このため、当該例では、これら3つのレーザーのそれぞれから造形材料Xに付与される入熱量Esは、同じではない。すなわち、曲線F12~曲線F14は、レーザー出力Wを一定にしたままレーザー走査速度Vを変えた場合の造形材料Xの温度の時間的な変化を比較する曲線である。図10に示したように、レーザー出力Wを一定にしたままレーザー走査速度Vを速くしても、レーザーの照射によって上昇する造形材料Xの温度のピークは、変化しない。
【0085】
図8図10を比較すると、レーザーの照射による造形材料Xの温度のピークは、レーザー出力Wによって変化し、レーザー走査速度Vによって変化しないことが分かる。このことから、この温度のピークの違いが、焼結層の炭素濃度に違いを生じさせる一因なのではないかと考えられる。
【0086】
焼結層の炭素濃度を変化させる従来の方法としては、複数種類の金属材料の粉末を圧縮されたガスにより噴射することで造形層として供給するダイレクトメタルディポジション法(DMD法)を用いた方法が挙げられる(例えば、特開2021-021119号公報等に記載されている方法)。以下では、説明の便宜上、この方法を、第1方法と称して説明する。第1方法では、造形層として複数種類の金属材料の粉末を供給する工程において、これら複数種類の金属材料の組成比を変化させることにより、焼結層の炭素濃度を変化させる。しかしながら、第1方法では、供給された複数種類の金属材料の粉末のうちの少なくとも1つが、所望の位置以外の位置に着弾する場合がある。この場合、造形層として供給された複数種類の金属材料の組成比が、所望の組成比と異なる組成比になってしまう。また、第1方法では、複数種類の金属材料の粉末の供給量、及びその供給流路の流速を制御することで、水平方向に炭素濃度を傾斜させることも理屈上できるかもしれない。しかしながら、この方法により1つの造形層内に異なる組成比の金属材料の粉末を共存させる速度は、金属材料の粉末の供給量の制御及び造形速度に比べて遅い。このため、第1方法によって焼結層の炭素濃度を変化させることは、実際には困難である。なお、第1方法と組み合わせることにより焼結層の炭素濃度を変化させることができる方法として、炭素鋼によって造形層を形成し、形成した造形層をレーザーによって焼結する方法を挙げられることもできる(例えば、特開2021-042420号公報等に記載の方法)。以下では、説明の便宜上、この方法を、第2方法と称して説明する。第1方法と第2方法とを組み合わせた方法では、炭素濃度の異なる複数種類の炭素鋼を用意し、これら複数種類の炭素鋼それぞれによって形成される領域を造形層内に形成させることにより、焼結層内における炭素濃度を変化させる。しかしながら、前述した通り、そもそも第1方法を用いること自体が現実的ではない。これは、複数の材料を異なるノズルから吐出することと、各ノズルからの吐出量を制御することとの組み合わせによって造形層を形成することが、少なくとも現段階において現実的ではないことを意味している。これに対し、実施形態に係る三次元造形装置1は、第1制御によってレーザー出力Wを変化させることにより、単一の造形材料Xを用いて焼結層内における炭素濃度を容易に変化させることができる。
【0087】
また、焼結層の炭素濃度を変化させる他の従来の方法としては、バインダージェット方式によって造形物を造形する三次元造形装置において、インクジェットヘッドにより炭素粒子を含む結着剤を吐出する方法が挙げられる。以下では、説明の便宜上、この方法を、第3方法と称して説明する。しかしながら、第3方法では、炭素濃度を制御するためにバインダー濃度を高くすると、インクジェットヘッドからの吐出が困難になってしまう。また、第3方法では、炭素濃度を制御するために炭素濃度を高くしても、同様に、インクジェットからの吐出が困難になってしまう。そして、第3方法では、炭素濃度を高くしたい領域へ当該結着剤を多く吐出しようとすると、その領域だけ結着剤の液量が多くなってしまう。結着剤の液量が多くなることは、結着剤の液が広がってしまうことに繋がるため、三次元造形物の造形精度が低下してしまう虞があり、望ましくない。すなわち、第3方法では、三次元造形物の造形精度を低下させずに、焼結層の炭素濃度を変化させることは、困難である。これに対し、三次元造形装置1は、第1制御によって入熱量Esを変化させずにレーザー出力Wを変化させることができるため、三次元造形物の造形精度を低下させることなく、焼結層の炭素濃度を変化させることができる。
【0088】
以上のように、三次元造形装置1は、N個の焼結層のうちの所望の焼結層の厚みを均一にしたまま、当該焼結層内における所望の領域の炭素濃度を所望の炭素濃度にすることができる。その結果、三次元造形装置1は、造形材料にバインダーが含まれている場合において、利便性を低下させることなく、三次元造形物の造形精度を向上させることができることに加えて、三次元造形物の特性を所望の特性にすることができる。
【0089】
<実施形態の応用例2>
上記において説明した三次元造形装置1は、第1領域R1及び第2領域R2において、焼結層の厚みのばらつきを低減しつつ、レーザー出力Wを変えることができた。この場合、三次元造形装置1は、焼結層の厚みのばらつきを低減しつつ、第1領域R1における溶融深さと、第2領域R2における溶融深さとを変えることができる。ここで、溶融深さは、n番目の造形層へのレーザーの照射によって、n-1番目の焼結層が溶ける度合いを示す量である。前述した通り、n番目の造形層にレーザーを照射すると、溶けてn-1番目の焼結層と接合される。この接合の際、n番目の造形層とともにn-1番目の焼結層の一部も溶ける。このn-1番目の焼結層の溶け方の度合いを示す量が、溶融深さである。この溶融深さが深くなるほど、n-1番目の焼結層は、変形してしまう可能性が高くなる。これは、最終的な完成品としての三次元造形物の造形精度を低下させてしまうことに繋がるため、望ましくない。三次元造形装置1は、第1制御によって、第1領域R1における溶融深さと、第2領域R2における溶融深さとを変えることができるため、このような問題も解決することができる。
【0090】
ここで、図11を参照し、より具体的に溶融深さについて説明する。図11は、溶融深さを説明するための図である。図11に示した断面図SFは、X軸の負方向に向かってn番目の造形層L1へ直線状にレーザーを照射した場合においてレーザーが照射された部位の断面図である。また、断面図SFは、YZ平面と平行な面に沿って当該部位を切断した場合の断面図である。図11に示したように、n番目の造形層L1は、n-1番目の焼結層L2の上に積層されている。図11に示した部位L3は、n番目の造形層L1が有する部位のうちレーザーによって焼結された部位、すなわち、n番目の造形層L1が有する部位のうちレーザーによってバルク体に変化した部位を示す。
【0091】
以下では、説明の便宜上、レーザーが照射される前の造形層L1と焼結層L2との境界面のZ軸方向における位置を基準の高さと称して説明する。また、以下では、説明の便宜上、基準の高さから、レーザーが照射される前の造形層L1の上面までのZ軸方向における距離を、層厚と称して説明する。また、以下では、説明の便宜上、基準の高さから、造形層L1にレーザーが照射されることによって形成された部位L3の最上面、すなわち、造形層L1にレーザーが照射された後のバルク体の最上面までの高さを、溶融高さと称して説明する。また、以下では、説明の便宜上、基準となる高さから、焼結層L2が有する部位のうち造形層L1へのレーザーの照射によって熔解された部位の最下面までの距離を、溶融深さと称して説明する。また、以下では、説明の便宜上、溶融高さと溶融深さとの総和を、溶融層厚と称して説明する。
【0092】
図12は、造形層L1へ照射するレーザーのレーザー出力Wを第1制御によって変化させた場合における溶融層厚の変化の一例を示す図である。すなわち、図12に示した例でも、レーザーの照射による造形層L1への入熱量Esは、一定であり、12.5[J/mm]である。図12に示したグラフの横軸は、レーザー出力Wを示す。当該グラフの縦軸は、溶融層厚を示す。当該グラフにプロットされた曲線F15は、バインダー濃度が0[wt%]の造形層L1に対してレーザーを照射した場合におけるレーザー出力Wと溶融層厚との関係を示す。また、当該グラフにプロットされた曲線F16は、バインダー濃度が4.9[wt%]の造形層L1に対してレーザーを照射した場合におけるレーザー出力Wと溶融層厚との関係を示す。当該グラフは、レーザー出力Wを高くするほど、溶融層厚が厚くなることを示している。図5および図12の結果から、第1制御によってレーザー出力Wを高くすると、膜残存率のばらつきを低減しつつ、溶融深さが深くすることができることが分かる。換言すると、これは、入熱量Esを一定にしたままレーザー出力Wを制御することで、焼結層の厚みを一定に保ちつつ溶融深さを制御することができることを示している。
【0093】
そして、三次元造形装置1は、前述した通り、対象領域において、入熱量Esを変えることなく、レーザー出力Wを変えることができる。すなわち、三次元造形装置1は、焼結層の厚みのばらつきを低減しつつ、所望の領域における溶融深さを所望の深さにすることができる。これは、1個の三次元造形物の中において、焼結層同士の結合の強さを変化させることができることを意味する。そして、このように溶融深さを変化させることは、三次元造形物の強度、靱性等の特性を向上させることに繋がり、有用である。つまり、三次元造形装置1は、三次元造形物の特性を向上させることができる。
【0094】
ここで、溶融深さは、図12に示したように、造形材料Xのバインダー濃度に応じて変化する。これの一因は、造形材料Xのバインダーへ熱が拡散されてしまうことである。このため、溶融深さは、造形材料Xに含めるバインダーの熱伝導率に応じて変わる。
【0095】
以上のようにして、三次元造形装置1は、焼結層の厚みのばらつきを低減しつつ、第1領域R1における溶融深さと、第2領域R2における溶融深さとを変えることができる。すなわち、三次元造形装置1は、例えば、第2領域R2における溶融深さを、第1領域R1における溶融深さよりも深くすることができる。この場合、三次元造形装置1は、造形材料Xに含まれる無機材料の融点未満の融点を有する材料の直上に位置する領域を、第1領域R1としてレーザーを照射することができる。この場合、第1領域R1においてレーザーが照射される対象となる造形材料Xの直下に位置する材料の融点は、当該無機材料の融点未満である。これにより、三次元造形装置1は、第1領域R1の直下に位置する材料が溶け過ぎて変形してしまうことを抑制することができる。これは、例えば、樹脂等の上に位置する造形層を焼結させる場合等に有用である。一方、この場合、三次元造形装置1は、造形材料Xに含まれる無機材料の融点以上の融点を有する材料の直上に位置する領域を、第2領域R2としてレーザーを照射することができる。この場合、第2領域R2においてレーザーが照射される対象となる造形材料Xの直下に位置する材料の融点は、当該無機材料の融点以上である。これにより、三次元造形装置1は、第2領域R2に含まれる造形材料Xと、第2領域R2の直下に位置する材料との積層界面での接合強度を強くし、層間剥離を抑制することができる。これは、例えば、同種金属の焼結層同士を接合させる場合等に有用である。
【0096】
なお、三次元造形装置1は、このような第1領域R1及び第2領域R2が隣り合っている場合、例えば、第2領域R2の造形材料Xにレーザーを照射させた後、第1領域R1への造形材料Xへレーザーを照射させる。これにより、三次元造形装置1は、第1出力よりも高い第2出力のレーザーによって第2領域R2内に含まれる造形材料Xを焼結させた後、第1出力のレーザーによって第1領域R1を焼結させることになるため、第2領域R2の熱収縮に伴う焼結層のクラックの発生を抑制することができる。
【0097】
以上説明したように、実施形態に係る三次元造形装置は、ステージと、無機材料の粒子とバインダーとを含む造形材料をステージ上に吐出する吐出部と、吐出部によりステージ上に吐出された造形材料にレーザーを照射し、造形材料を加熱するレーザー照射部と、ステージと吐出部とを相対的に移動させる移動部と、吐出部とレーザー照射部と移動部とを制御する制御部と、を備え、制御部は、吐出部によってステージ上に吐出された造形材料を加熱することによって予め決められた形状の三次元造形物を造形する造形制御を行い、造形制御は、吐出部によってステージ上に吐出された造形材料のうち予め決められた対象領域に含まれる造形材料へレーザーを照射させる場合におけるレーザー照射部についての第1制御を含み、第1制御は、レーザーの出力、レーザーを移動させる速度、レーザーの幅の3つのパラメーターのうちの第1パラメーターを変化させる場合、当該速度と当該幅との積で当該出力を除した値が、所定値を基準として80%以上120%以下の範囲内の値となるように、3つのパラメーターのうち第1パラメーター以外の2つのパラメーターのいずれか一方又は両方を第1パラメーターとともに変化させる制御である。これにより、三次元造形装置は、造形材料にバインダーが含まれている場合において、利便性を低下させることなく、三次元造形物の造形精度を向上させることができる。ここで、上記において説明した例では、三次元造形装置1は、当該三次元造形装置の一例である。また、上記において説明した例では、ステージ30は、当該ステージの一例である。また、上記において説明した例では、造形材料Xは、当該造形材料の一例である。また、上記において説明した例では、吐出部11は、当該吐出部の一例である。また、上記において説明した例では、レーザー照射部121は、当該レーザー照射部の一例である。また、上記において説明した例では、移動部40は、当該移動部の一例である。また、上記において説明した例では、制御部50は、当該制御部の一例である。
【0098】
また、三次元造形装置では、レーザー照射部は、レーザー照射部に対して動かないように予め決められた照射領域へレーザーを照射し、制御部は、造形制御において造形材料に対するレーザーの照射位置を変える場合、ステージに対して照射領域を相対的に移動させる、構成が用いられてもよい。
【0099】
また、三次元造形装置では、造形材料におけるバインダーの濃度は、吐出ユニットの吐出特性に依存して決定される濃度であり、バインダーに含まれる炭素の濃度に応じて決まる濃度、又は、バインダーの熱伝導率に応じて決まる濃度である、構成が用いられてもよい。
【0100】
また、三次元造形装置では、対象領域には、第1領域と第2領域とが含まれており、第1パラメーターは、レーザーの出力又はレーザーの速度であり、第1制御は、第1パラメーターを変化させる場合、レーザーの幅を変化させず、当該出力と当該速度とのうち第1パラメーター以外のパラメーターを第1パラメーターとともに変化させる制御であり、且つ、第1領域において、当該出力として予め決められた第1出力をレーザー照射部に設定し、第2領域において、当該出力として第1出力よりも高い第2出力をレーザー照射部に設定する制御である、構成が用いられてもよい。
【0101】
また、三次元造形装置では、第1領域においてレーザー照射部から造形材料に照射されたレーザーが造形材料に単位時間あたりに与えるエネルギーは、第2領域においてレーザー照射部から造形材料に照射されたレーザーが造形材料に単位時間あたりに与えるエネルギーより大きい、構成が用いられてもよい。
【0102】
また、三次元造形装置では、第1領域においてレーザー照射部から造形材料に照射されたレーザーが造形材料に単位面積あたりに与えるエネルギーは、第2領域においてレーザー照射部から造形材料に照射されたレーザーが造形材料に単位面積あたりに与えるエネルギーに対して80%以上120%以下の範囲に含まれる、構成が用いられてもよい。換言すると、三次元造形装置では、第1領域においてレーザー照射部から造形材料に照射されたレーザーが造形材料に単位面積あたりに与えるエネルギーは、第2領域においてレーザー照射部から造形材料に照射されたレーザーが造形材料に単位面積あたりに与えるエネルギーを基準として80%以上120%以下の範囲内の値である、構成が用いられてもよい。
【0103】
また、三次元造形装置では、造形制御は、対象領域に含まれる造形材料へレーザーを照射させる場合、第1領域の造形材料にレーザーを照射させた後、第2領域への造形材料へレーザーを照射させる第2制御を含む、構成が用いられてもよい。
【0104】
また、三次元造形装置では、第2領域においてレーザーが照射される対象となる造形材料の直下に位置する材料の融点は、無機材料の融点以上である、構成が用いられてもよい。
【0105】
また、三次元造形装置では、第1領域においてレーザーが照射される対象となる造形材料の直下に位置する材料の融点は、無機材料の融点未満である、構成が用いられてもよい。
【0106】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない限り、変更、置換、削除等されてもよい。
【0107】
また、以上に説明した装置における任意の構成部の機能を実現するためのプログラムを、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録し、そのプログラムをコンピューターシステムに読み込ませて実行するようにしてもよい。ここで、当該装置は、例えば、三次元造形装置1等である。なお、ここでいう「コンピューターシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD(Compact Disk)-ROM等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバーやクライアントとなるコンピューターシステム内部の揮発性メモリーのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0108】
また、上記のプログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピューターシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピューターシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上記のプログラムは、前述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル又は差分プログラムであってもよい。
【符号の説明】
【0109】
1…三次元造形装置、10…吐出ユニット、11…吐出部、12…加熱部、20…切削ユニット、21…切削工具、30…ステージ、31…造形面、40…移動部、50…制御部、51…プロセッサー、52…記憶部、53…入力受付部、54…通信部、55…表示部、121…レーザー照射部、Es…入熱量、Nz…ノズル、OB…三次元造形物、R1…第1領域、R2…第2領域、TC…三次元座標系、V…レーザー走査速度、W…レーザー出力、Wd…レーザー幅、X…造形材料
図1
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