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特開2023-165172モータ制御装置、モータ装置、及び掃除機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165172
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】モータ制御装置、モータ装置、及び掃除機
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20231108BHJP
【FI】
H02P21/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075879
(22)【出願日】2022-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】上 和正
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA08
5H505BB02
5H505CC04
5H505DD01
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE30
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505LL22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電圧飽和状態の発生中にモータ制御できるモータ制御装置、モータ装置、および掃除機を提供する。
【解決手段】モータ制御装置は、モータを制御する。モータ制御装置は、指令値生成部と、変調信号生成部と、駆動回路とを備える。指令値生成部は、モータに印加する駆動電圧を制御する電圧指令値を生成する。変調信号生成部は、電圧指令値に基づいてパルス幅変調信号を生成する。駆動回路は、パルス幅変調信号に基づいて駆動電圧を生成する。指令値生成部は、パルス幅変調信号のパルス幅の制限に起因する電圧飽和状態が発生する際に、駆動電圧と電圧指令値との不一致率に基づいて電圧指令値を補正する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを制御するモータ制御装置であって、
前記モータに印加する駆動電圧を制御する電圧指令値を生成する指令値生成部と、
前記電圧指令値に基づいてパルス幅変調信号を生成する変調信号生成部と、
前記パルス幅変調信号に基づいて前記駆動電圧を生成する駆動回路と
を備え、
前記指令値生成部は、前記パルス幅変調信号のパルス幅の制限に起因する電圧飽和状態が発生する際に、前記駆動電圧と前記電圧指令値との不一致率に基づいて前記電圧指令値を補正する、モータ制御装置。
【請求項2】
前記駆動電圧は、前記モータの各相の巻き線に相電圧を印加し、
前記電圧指令値は、正弦波を含み、
前記不一致率は、前記電圧指令値の前記正弦波と前記相電圧の基本波成分との不一致率を示す、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記駆動電圧によって前記モータに流れる電流を示す電流応答値を検出する電流検出部を更に備え、
前記指令値生成部は、前記電圧指令値と前記電流応答値とに基づいて電力応答値を取得し、前記電力応答値と電力指令値とに基づいて前記電圧指令値を生成し、
前記指令値生成部は、前記電圧飽和状態が発生する際に、前記不一致率に基づいて前記電力応答値を補正し、補正後の前記電力応答値と前記電力指令値とに基づいて前記電圧指令値を生成する、請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記電流検出部は、前記電流応答値として、回転座標系又は固定座標系の電流値を検出し、
前記指令値生成部は、前記電圧指令値として、前記回転座標系又は前記固定座標系の電圧指令値を生成する、請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記不一致率の大きさごとに既定された補正係数を示すテーブルを記憶する記憶部を更に備え、
前記指令値生成部は、前記電圧飽和状態が発生する際に、前記不一致率に対応する前記補正係数を前記テーブルから取得し、前記補正係数を用いて前記電圧指令値を補正する、請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置により制御されるモータと
を備える、モータ装置。
【請求項7】
請求項6に記載のモータ装置と、
前記モータ装置が駆動することにより吸引力が発生する吸引ノズルと
を備える、掃除機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置、モータ装置、及び掃除機に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス幅変調(Pulse Width Modulation;PWM)方式でモータをフィードバック制御するモータ制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
パルス幅変調方式のモータ制御装置は、例えば、モータに供給された電力であるモータ電力を示す電力応答値を算出し、算出した電力応答値と電力指令値との偏差に基づいて、インバータを駆動するパルス幅変調信号のパルス幅を変化させる。その結果、モータの回転速度又は実トルクを目標値に追従させる駆動電圧であるモータ電圧がインバータからモータの巻き線に印加される。
【0004】
しかし、パルス幅変調信号のパルス幅の可変範囲には制限がある。例えば、パルス幅変調信号のデューティ比の可変範囲は、0%から100%までの範囲や、5%から95%までの範囲に制限される。したがって、パルス幅変調信号のデューティ比の可変範囲を超える電力指令値がモータ制御装置に入力された場合、パルス幅変調信号のパルス幅が制限されてモータ電圧が飽和状態となる。その結果、モータの回転速度又は実トルクを目標値に追従させることができなくなる。
【0005】
特許文献1のモータ制御装置は、電圧指令値を駆動回路に印加可能な最大電圧以下に制限するd軸電流指令値を演算するとともに、d軸電流指令値の制限により電圧指令値が駆動回路に印加可能な最大電圧を超えないようにq軸電流指令値を制限して、電圧飽和状態の発生を回避する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/095479号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電圧飽和状態の発生中は、モータの各相の巻き線に印加される相電圧の基本波成分が大きくなり、電圧の利用効率が向上する。これに対し、d軸電流指令値及びq軸電流指令値を制限して電圧飽和状態の発生を回避する構成では、電圧飽和状態の発生を回避しない構成と比べて電圧の利用効率が低下する。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、電圧飽和状態の発生中にモータを制御できるモータ制御装置、モータ装置、及び掃除機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の例示的なモータ制御装置は、モータを制御する。モータ制御装置は、指令値生成部と、変調信号生成部と、駆動回路とを備える。前記指令値生成部は、前記モータに印加する駆動電圧を制御する電圧指令値を生成する。前記変調信号生成部は、前記電圧指令値に基づいてパルス幅変調信号を生成する。前記駆動回路は、前記パルス幅変調信号に基づいて前記駆動電圧を生成する。前記指令値生成部は、前記パルス幅変調信号のパルス幅の制限に起因する電圧飽和状態が発生する際に、前記駆動電圧と前記電圧指令値との不一致率に基づいて前記電圧指令値を補正する。
【0010】
本発明の例示的なモータ装置は、上記のモータ制御装置と、モータとを備える。前記モータは、前記モータ制御装置により制御される。
【0011】
本発明の例示的な掃除機は、上記のモータ装置と、吸引ノズルとを備える。前記モータ装置が駆動することにより前記吸引ノズルに吸引力が発生する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の例示的なモータ制御装置、モータ装置、及び掃除機によれば、電圧飽和状態の発生中にモータを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の例示的な実施形態に係るモータ装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の例示的な実施形態に係るモータ装置の構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の例示的な実施形態に係る掃除機を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面(図1図3)を参照して本発明のモータ制御装置、モータ装置、及び掃除機に係る例示的な実施形態を説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合がある。また、図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0015】
まず、図1を参照して、本実施形態のモータ装置100及びモータ制御装置300を説明する。図1は、本実施形態のモータ装置100の構成を示すブロック図である。図1に示すように、モータ装置100は、モータ200と、モータ制御装置300とを備える。モータ200は、モータ制御装置300によって制御される。
【0016】
モータ200の種類は、パルス幅変調(Pulse Width Modulation;PWM)方式でフィードバック制御可能である限り、特に限定されない。例えば、モータ200は、DCモータ、ブラシレスDCモータ、ACモータ、又はステッピングモーターであってもよい。また、モータ200は、単相モータであってもよく、三相モータであってもよく、多相モータであってもよい。なお、多相モータは、三相以外の多相電源を利用するモータである。例えば、多相モータは、二相電源、五相電源、又は七相電源を利用する。以下、パルス幅変調方式を、「PWM方式」と記載する場合がある。
【0017】
モータ制御装置300は、モータ200を制御する。詳しくは、モータ制御装置300は、外部から入力される指令値CMに基づいて、モータ200の各相の巻き線(不図示)に印加する駆動電圧MVを生成する。その結果、駆動電圧MVがモータ200の各相の巻き線に印加されて、各相の巻き線に相電圧が発生する。換言すると、駆動電圧MVは、モータ200の各相の巻き線に相電圧を印加する。モータ200は、各相の巻き線に印加された駆動電圧MVに基づいて動作するため、指令値CMによってモータ200が制御される。
【0018】
指令値CMは、例えば、上位制御装置からモータ制御装置300に入力される。上位制御装置は、例えば、モータ装置100が搭載される機器の制御装置であり得る。指令値CMの種類は、特に限定されない。例えば、指令値CMは、電力指令値CMP(図2)、速度指令値、又はトルク指令値であってもよい。電力指令値CMPは、モータ200に供給される電力であるモータ電力の目標値を示す。速度指令値は、モータ200の回転速度の目標値を示す。トルク指令値は、モータ200の実トルクの目標値を示す。
【0019】
指令値CMが電力指令値CMPである場合、モータ制御装置300は、モータ電力を電力指令値CMPに追従させる駆動電圧MVを生成する。つまり、モータ制御装置300は、モータ電力を制御する。同様に、指令値CMが速度指令値である場合、モータ制御装置300は、モータ200の回転速度を速度指令値に追従させる駆動電圧MVを生成して、モータ200の回転速度を制御する。また、指令値CMがトルク指令値である場合、モータ制御装置300は、モータ200の実トルクをトルク指令値に追従させる駆動電圧MVを生成して、モータ200の実トルクを制御する。
【0020】
続いて、図1を参照して、モータ制御装置300を説明する。図1に示すように、モータ制御装置300は、駆動回路500を備える。駆動回路500は、パルス幅変調信号MSに基づいて駆動電圧MVを生成する。駆動回路500は、例えばインバータである。駆動電圧MVは、例えばパルス信号である。以下、パルス幅変調信号MSを、「PWM信号MS」と記載する場合がある。PWM信号MSは、パルス信号である。
【0021】
図1に示すように、モータ制御装置300は、制御装置400を更に備える。制御装置400には、モータ200に供給される電流であるモータ電流MIと、指令値CMとが入力される。制御装置400は、モータ電流MIと指令値CMとに基づいて、駆動回路500に入力するPWM信号MSを生成する。つまり、制御装置400は、PWM方式によりモータ200をフィードバック制御する。
【0022】
詳しくは、制御装置400は、モータ電流MIと指令値CMとに基づいて、PWM信号MSのパルス幅を変化させる。換言すると、制御装置400は、モータ電流MIと指令値CMとに基づいて、PWM信号MSのデューティ比を変化させる。駆動回路500は、PWM信号MSのデューティ比に基づいて駆動電圧MVを生成する。
【0023】
本実施形態において、モータ制御装置300は、記憶部402を更に備える。詳しくは、制御装置400が、処理部401と、記憶部402とを有する。処理部401は、各種の演算処理を実行してPWM信号MSを生成する。記憶部402は、各種のデータと、各種の制御プログラムとを記憶する。制御プログラムは、コンピュータプログラムを含む。処理部401は、記憶部402に記憶されている制御プログラムに基づいて各種の演算処理を実行する。
【0024】
処理部401は、例えば、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)のようなプロセッサを有する。記憶部402は、例えば、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)のような半導体メモリを有する。記憶部402は、データの書き込み、及びデータの消去が可能な不揮発性の半導体メモリを有してもよい。プロセッサは、半導体メモリに記憶された制御プログラムを実行して、PWM信号MSを生成する。制御装置400は、例えば、マイクロコンピュータであってもよい。
【0025】
続いて、図2を参照して、本実施形態のモータ装置100及びモータ制御装置300を説明する。図2は、本実施形態のモータ装置100の構成を示すブロック図である。詳しくは、図2は、制御装置400の機能ブロックを示す。図2に示すように、モータ制御装置300は、指令値生成部2と、変調信号生成部4とを更に備える。詳しくは、図1を参照して説明した処理部401が、記憶部402に記憶されている制御プログラムを実行することにより、指令値生成部2、及び変調信号生成部4として機能する。
【0026】
指令値生成部2は、駆動電圧MVを制御する電圧指令値VCを生成する。変調信号生成部4は、電圧指令値VCに基づいてPWM信号MSを生成する。より具体的には、指令値生成部2は、指令値CMに基づいて電圧指令値VCを生成する。変調信号生成部4は、電圧指令値VCに基づいてPWM信号MSのデューティ比を制御して、電圧指令値VCに相当する駆動電圧MVを駆動回路500に生成させる。この結果、指令値CMによってモータ200が制御される。例えば、変調信号生成部4は、三相変調方式又は二相変調方式によりPWM信号MSを生成する。
【0027】
但し、PWM信号MSのパルス幅の可変範囲には制限がある。例えば、PWM信号MSのデューティ比の可変範囲は、0%から100%までの範囲や、5%から95%までの範囲に制限される。したがって、PWM信号MSのデューティ比の可変範囲を超える指令値CMが指令値生成部2に入力された場合、PWM信号MSのパルス幅が制限されて駆動電圧MVが飽和状態となる。つまり、電圧飽和状態が発生する。より詳しくは、駆動電圧MVの各周期の平均値が飽和状態となる。ここで、1周期は、PWM信号MSの1周期に相当する。電圧飽和状態が発生すると、駆動電圧MVが電圧指令値VCに相当しない電圧となる。具体的には、駆動電圧MVが電圧指令値VCよりも小さくなる。その結果、指令値CMによって示される目標値にモータ200の動作が追従できなくなる。例えば、モータ電力、モータ200の回転速度、又はモータ200の実トルクを目標値に追従させることができなくなる。
【0028】
本実施形態において、指令値生成部2は、PWM信号MSのパルス幅の制限に起因する電圧飽和状態が発生する際に、駆動電圧MVと電圧指令値VCとの不一致率に基づいて電圧指令値VCを補正する。より具体的には、指令値生成部2は、駆動電圧MVと電圧指令値VCとの不一致率を算出する。指令値生成部2は、電圧飽和状態が発生する際に、算出した不一致率に基づいて電圧指令値VCの振幅を駆動電圧MVに相当する振幅に補正する。以下、駆動電圧MVと電圧指令値VCとの不一致率を、「電圧不一致率」と記載する場合がある。
【0029】
本実施形態によれば、電圧飽和状態が発生する際に電圧指令値VCの振幅を駆動電圧MVに相当する振幅に補正するため、電圧指令値VCによる駆動電圧MVの再現性の劣化を抑制することができる。その結果、電圧飽和状態の発生中であってもモータ200の制御が可能となり、モータ200の効率を高めることができる。
【0030】
ここで、電圧不一致率の演算処理について説明する。指令値生成部2は、電圧指令値VCと飽和電圧VLとの関係から電圧不一致率を算出してもよい。飽和電圧VLは、PWM信号MSのパルス幅が制限された際の相電圧の振幅を示す。つまり、飽和電圧VLは、電圧飽和状態が発生している際の相電圧の振幅を示す。例えば、指令値生成部2は、電圧指令値VCと飽和電圧VLとの比率に基づいて電圧不一致率を算出してもよい。あるいは、指令値生成部2は、相電圧の制限量と飽和電圧VLとの関係から電圧不一致率を算出してもよい。相電圧の制限量は、PWM信号MSのパルス幅が制限されない状態における相電圧の振幅と、PWM信号MSのパルス幅が制限される状態における相電圧の振幅との差分を示す。なお、飽和電圧VLは、予め記憶部402に記憶されている。
【0031】
続いて、図2を参照して、本実施形態のモータ装置100及びモータ制御装置300を更に説明する。本実施形態において、電圧指令値VCは正弦波を含む。また、モータ200の各相の巻き線に印加される相電圧の基本波成分は正弦波を含む。電圧飽和状態の発生中、相電圧の基本波成分は大きくなる。
【0032】
本実施形態において、電圧不一致率は、電圧指令値VCの正弦波と相電圧の基本波成分との不一致率を示す。指令値生成部2は、電圧指令値VCの正弦波の振幅と、相電圧の基本波成分の振幅との関係に基づいて電圧不一致率を算出する。本実施形態によれば、正弦波の振幅同士を比較して不一致率を演算すればよいため、正弦波の振幅と歪んだ波形の振幅とを比較して不一致率を演算する構成と比べて演算処理の負荷を軽減することができる。
【0033】
本実施形態では、図1を参照して説明した記憶部402が、電圧不一致率の大きさごとに既定された補正係数Kを示すテーブルを記憶する。指令値生成部2は、電圧飽和状態の発生中に、電圧不一致率に対応する補正係数Kをテーブルから取得し、取得した補正係数Kを用いて電圧指令値VCを補正する。補正係数Kは、電圧指令値VCの振幅を駆動電圧MVに相当する振幅に補正するための係数である。詳しくは、テーブルは、電圧指令値VCと飽和電圧VLとの比率ごとに既定された補正係数Kを示してもよい。あるいは、テーブルは、相電圧の制限量と飽和電圧VLとの比率ごとに既定された補正係数Kを示してもよい。
【0034】
本実施形態によれば、予め用意したテーブルから補正係数Kを取得すればよいため、演算処理の負荷を軽減させることができる。なお、指令値生成部2は、電圧飽和状態の発生中に補正係数Kを算出してもよい。
【0035】
続いて、図2を参照して、本実施形態のモータ装置100及びモータ制御装置300を更に説明する。図2に示すように、モータ制御装置300は、電流検出部6を更に備える。詳しくは、図1を参照して説明した処理部401が、記憶部402に記憶されている制御プログラムを実行することにより、電流検出部6として機能する。
【0036】
電流検出部6は、駆動電圧MVによってモータ200に流れる電流を示す電流応答値RIを検出する。つまり、電流検出部6は、モータ電流MIの電流値を検出する。具体的には、電流検出部6は、電流応答値RIとして、固定座標系又は回転座標系の電流値を検出してもよい。例えば、電流検出部6は、相電流を検出してもよい。あるいは、電流検出部6は、α軸電流及びβ軸電流、又は、d軸電流及びq軸電流を検出してもよい。
【0037】
詳しくは、モータ200が三相モータである場合、電流検出部6は、相電流として、U相電流、V相電流、及びW相電流を検出してもよい。U相電流、V相電流及びW相電流はそれぞれ三相モータのU相、V相及びW相を流れる電流である。相電流は、固定座標系の電流である。
【0038】
あるいは、電流検出部6は、クラーク変換を実行して、U相電流、V相電流、及びW相電流からα軸電流及びβ軸電流を検出してもよい。α軸電流及びβ軸電流は、αβ座標系の電流である。αβ座標系は固定座標系である。αβ座標系では、モータ200のステータを基準にU相方向をα軸とし、α軸に対して90度進んだ方向をβ軸とする。α軸電流は、モータ200に流れる電流のα軸成分である。β軸電流は、モータ200に流れる電流のβ軸成分である。
【0039】
あるいは、電流検出部6は更にパーク変換を実行して、α軸電流及びβ軸電流からd軸電流及びq軸電流を検出してもよい。d軸電流及びq軸電流は、dq座標系の電流である。dq座標系は回転座標系である。dq座標系では、モータ200のロータを基準に磁極方向をd軸とし、d軸に対して90度進んだ方向をq軸とする。d軸電流は、モータ200に流れる電流のd軸成分である。d軸電流は、回転磁界を発生させる励磁電流である。q軸電流は、モータ200に流れる電流のq軸成分である。q軸電流は、トルクを発生させるトルク電流である。
【0040】
図2に示すように、本実施形態では、指令値CMは電力指令値CMPであり、電流応答値RIと電力指令値CMPとが指令値生成部2に入力される。指令値生成部2は、電圧指令値VCと電流応答値RIとに基づいて電力応答値RPを取得し、電力応答値RPと電力指令値CMPとに基づいて電圧指令値VCを生成する。詳しくは、指令値生成部2は、電力応答値RPと電力指令値CMPとの偏差に基づいて電圧指令値VCを生成する。ここで、電力応答値RPは、モータ電力を示す。つまり、指令値生成部2は、モータ電力を算出する。
【0041】
指令値生成部2は、電圧飽和状態が発生する際に、電圧不一致率に基づいて電力応答値RPを補正し、補正後の電力応答値RPと電力指令値CMPとに基づいて電圧指令値VCを生成する。換言すると、指令値生成部2は、電圧不一致率に基づいて電力応答値RPを補正することにより電圧指令値VCを補正する。より具体的には、指令値生成部2は、電圧指令値VCと電流応答値RIとに基づいて取得した電力応答値RPに補正係数Kを乗じて、電力応答値RPを補正する。
【0042】
モータ電力を制御する構成において電圧飽和状態が発生すると、電力応答値RPの演算結果が実際のモータ電力よりも大きくなる。その結果、モータ電力が目標値よりも小さくなるおそれがある。これに対し、本実施形態によれば、電圧飽和状態の発生中に電力応答値RPを補正して、電力応答値RPと実際のモータ電力とのずれ率を減少させることができる。その結果、電圧飽和状態の発生中であってもモータ200を制御することができる。よって、モータ200の効率を高めることができる。
【0043】
なお、指令値生成部2は、電圧指令値VCとして、回転座標系又は固定座標系の電圧指令値を生成してもよい。具体的には、指令値生成部2は、電流検出部6が固定座標系の電流値を検出する構成において、固定座標系の電圧指令値を生成する。また、指令値生成部2は、電流検出部6が回転座標系の電流値を検出する構成において、回転座標系の電圧指令値を生成する。
【0044】
詳しくは、電流検出部6が相電流を検出する構成において、指令値生成部2は相電圧指令値を生成する。例えば、電流検出部6がU相電流、V相電流及びW相電流を検出する構成において、指令値生成部2は、U相電圧指令値、V相電圧指令値、及びW相電圧指令値を生成する。また、電流検出部6がα軸電流及びβ軸電流を検出する構成において、指令値生成部2はα軸電圧指令値及びβ軸電圧指令値を生成する。電流検出部6がd軸電流及びq軸電流を検出する構成において、指令値生成部2はd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を生成する。
【0045】
本実施形態によれば、回転座標系の電圧指令値を生成してモータ200を制御することができる。つまり、モータ200をベクトル制御することができる。よって、モータ200をベクトル制御する構成において、電圧飽和状態の発生中にモータ200を制御することができる。したがって、モータ200をベクトル制御する構成においてモータ200の効率を高めることができる。なお、モータ200が三相モータであり、電圧指令値VCとしてd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値が生成される構成において、変調信号生成部4は、逆パーク変換及び逆クラーク変換を実行して、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値からU相電圧指令値、V相電圧指令値、及びW相電圧指令値を生成し、U相電圧指令値、V相電圧指令値、及びW相電圧指令値に基づいてPWM信号MSを生成する。同様に、電圧指令値VCとしてα軸電圧指令値及びβ軸電圧指令値が生成される構成において、変調信号生成部4は、逆クラーク変換を実行して、α軸電圧指令値及びβ軸電圧指令値からU相電圧指令値、V相電圧指令値、及びW相電圧指令値を生成する。
【0046】
続いて、図2を参照して、本実施形態のモータ装置100及びモータ制御装置300を更に説明する。図2に示すように、本実施形態のモータ制御装置300において、指令値生成部2は、電力制御器21、電圧指令生成器22、及び電力応答生成器23を含む。詳しくは、図1を参照して説明した処理部401が、記憶部402に記憶されている制御プログラムを実行することにより、電力制御器21、電圧指令生成器22、及び電力応答生成器23として機能する。
【0047】
電力応答生成器23には、電圧指令値VCと、電流応答値RIとが入力される。電力応答生成器23は、電圧指令値VCと電流応答値RIとに基づいて、電力応答値RPを生成する。
【0048】
電力制御器21には、電力応答値RPと電力指令値CMPとが入力される。電力制御器21は、電力応答値RPと電力指令値CMPとの偏差に基づいて制御信号CSを生成する。例えば、電力制御器21は、比例積分制御器を含む。電力制御器21は、比例積分制御により、電力応答値RPと電力指令値CMPとの偏差を演算してもよい。
【0049】
制御信号CSは、電圧指令生成器22に入力される。電圧指令生成器22は、制御信号CSに基づいて電圧指令値VCを生成する。詳しくは、制御信号CSは、電力応答値RPと電力指令値CMPとの偏差を減少させる電圧指令値VCを電圧指令生成器22に生成させる。
【0050】
電力制御器21は更に、電圧指令生成器22が生成した電圧指令値VCと飽和電圧VLとの関係に基づいて、電圧不一致率を算出する。電力制御器21は、電圧飽和状態の発生中に、電圧不一致率に基づいて補正係数Kを取得し、補正係数Kに基づいて電力応答値RPを補正する。そして、電力制御器21は、電力指令値CMPと補正後の電力応答値RPとの偏差に基づいて制御信号CSを生成する。その結果、電圧指令値VCが補正され、補正された電圧指令値VCによってモータ200が制御される。
【0051】
より具体的には、電力制御器21は、以下の式(1)に基づいて電力応答値RPを補正してもよい。つまり、電力制御器21は、電力応答生成器23によって演算された電力応答値RPに補正係数Kを乗じて、電力応答値RPを補正してもよい。なお、式(1)において、ARPは、補正後の電力応答値RPを示す。
ARP=K×RP (1)
【0052】
本実施形態によれば、電圧不一致率に基づいて電力応答値RPが補正される。補正された電力応答値RPは、モータ電力を精度よく再現する。したがって、電圧飽和状態の発生中であってもモータ電力を安定して制御することができる。また、電力応答値RPによるモータ電力の再現性が低い場合、モータ電力が目標値よりも小さくなるおそれがある。具体的には、電力応答値RPの演算結果が実際のモータ電力よりも大きくなる場合、モータ電力が目標値よりも小さくなるおそれがある。本実施形態によれば、電力応答値RPによるモータ電力の再現性の劣化を抑制できるため、電圧飽和状態の発生中にモータ電力が目標値より小さくなり難い。
【0053】
以上、図1及び図2を参照して、本実施形態のモータ装置100及びモータ制御装置300を説明した。本実施形態によれば、電圧飽和状態の発生中であってもモータ200を制御することができる。したがって、モータ200の効率を高めることができる。具体的には、電圧指令値VCを補正して、電圧指令値VCによる駆動電圧MVの再現性の劣化を抑制することにより、モータ200の制御を安定させることができる。例えば、電力応答値RPを補正して、電力応答値RPによるモータ電力の再現性の劣化を抑制することにより、電圧指令値VCによる駆動電圧MVの再現性の劣化を抑制してもよい。更に、本実施形態によれば、モータ電力を制御する構成において、電圧飽和状態の発生中にモータ電力が低下し難くなる。
【0054】
続いて、図1図3を参照して、本実施形態の掃除機600を説明する。図3は、本実施形態の掃除機600を示す斜視図である。図3に示すように、掃除機600は、モータ装置100と、吸引ノズル607とを備える。モータ装置100が駆動することにより、吸引ノズル607に吸引力が発生する。
【0055】
詳しくは、図3に示すように、掃除機600はいわゆるスティック型の電気掃除機である。なお、掃除機600は、いわゆるロボット型、キャニスター型又はハンディ型等の他のタイプの電気掃除機でもよい。
【0056】
掃除機600は、充電式のバッテリ(不図示)を有し、当該バッテリから供給される電力によって作動する。ただし、掃除機600は、電源コードを有し、居室の壁面に設けられた電源コンセントに接続された電源コードを介して供給される電力によって作動してもよい。
【0057】
図3に示すように、掃除機600は、筐体601と、把持部604と、操作部605と、棒状の吸引管606とを更に備える。筐体601は、モータ装置100を収容する。筐体601の下面及び上面にはそれぞれ吸気部602及び排気部603が設けられる。筐体601の上部に把持部604及び操作部605が設けられる。吸気部602に吸引管606が接続される。吸引管606の上流端には吸引ノズル607が吸引管606に対して着脱可能に取り付けられる。なお、吸引管606の上流端は、図3において吸引管606の下端である。
【0058】
筐体601内には吸気部602と排気部603とを連結する空気通路(不図示)が形成される。空気通路内には、吸気部602(上流)から排気部603(下流)に向かって、集塵部(不図示)、フィルタ(不図示)及びモータ装置100が順に配置される。空気通路内を流通する空気に含まれる塵埃等のゴミはフィルタにより捕集され、集塵部内に集塵される。集塵部及びフィルタは筐体601に対して着脱可能に設けられる。
【0059】
使用者は把持部604を把持して掃除機600を移動させることができる。操作部605は複数のボタン605aを有する。使用者は、ボタン605aの操作によって掃除機600の動作設定を行う。例えば、ボタン605aの操作により、モータ装置100の駆動開始、駆動停止、及び回転数の変更等が指示される。
【0060】
掃除機600は、モータ装置100に取り付けられたインペラ(不図示)を更に備える。モータ装置100が駆動すると、インペラが回転する。その結果、吸引ノズル607に吸引力が発生して、吸引ノズル607から吸引管606内に空気が流入する。吸引ノズル607から吸引された空気は、吸引管606を流通して、吸気部602から筐体601内の空気通路内に流入する。
【0061】
本実施形態によれば、図1及び図2を参照して説明したように、電圧飽和状態の発生中であってもモータ200を安定して制御することができる。したがって、掃除機600を安定して作動させることができる。また、本実施形態によれば、図1及び図2を参照して説明したように、電圧飽和状態の発生中にモータ電力が低下し難くなる。したがって、電圧飽和状態の発生中に吸引力が低下し難くなる。
【0062】
以上、図面(図1図3)を参照して本発明の例示的な実施形態について説明した。ただし、本発明は、上記の実施形態に限られず、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施できる。また、上記の実施形態に開示される複数の構成要素は適宜改変可能である。例えば、ある実施形態に示される全構成要素のうちのある構成要素を別の実施形態の構成要素に追加してもよく、又は、ある実施形態に示される全構成要素のうちのいくつかの構成要素を実施形態から削除してもよい。
【0063】
図面は、発明の理解を容易にするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の厚さ、長さ、個数、間隔等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合もある。また、上記の実施形態で示す各構成要素の構成は一例であって、特に限定されず、本発明の効果から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【0064】
例えば、図1図3を参照して説明した実施形態において、制御装置400は、処理部401と、記憶部402とを備えたが、制御装置400の構成は、モータ電流MIと指令値CMとに基づいてPWM信号MSを生成できる限り、特に限定されない。例えば、制御装置400は、専用の論理回路又は汎用の論理回路を有してもよい。論理回路は、論理演算を実行する回路である。具体的には、制御装置400は、例えばロジックIC(Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)のような集積回路を有してもよい。
【0065】
また、図1図3を参照して説明した実施形態では、処理部401が記憶部402に記憶されている制御プログラムを実行することにより、変調信号生成部4、電流検出部6、電力制御器21、電圧指令生成器22、及び電力応答生成器23として機能したが、変調信号生成部4、電流検出部6、電力制御器21、電圧指令生成器22、及び電力応答生成器23の全部又は一部は、別々の処理回路で構成されてもよいし、別々のハードウェアで構成されてもよい。
【0066】
本願は、更に以下の付記を開示する。
【0067】
(付記1)
モータを制御するモータ制御装置であって、
前記モータに印加する駆動電圧を制御する電圧指令値を生成する指令値生成部と、
前記電圧指令値に基づいてパルス幅変調信号を生成する変調信号生成部と、
前記パルス幅変調信号に基づいて前記駆動電圧を生成する駆動回路と
を備え、
前記指令値生成部は、前記パルス幅変調信号のパルス幅の制限に起因する電圧飽和状態が発生する際に、前記駆動電圧と前記電圧指令値との不一致率に基づいて前記電圧指令値を補正する、モータ制御装置。
【0068】
(付記2)
前記駆動電圧は、前記モータの各相の巻き線に相電圧を印加し、
前記電圧指令値は、正弦波を含み、
前記不一致率は、前記電圧指令値の前記正弦波と前記相電圧の基本波成分との不一致率を示す、付記1に記載のモータ制御装置。
【0069】
(付記3)
前記駆動電圧によって前記モータに流れる電流を示す電流応答値を検出する電流検出部を更に備え、
前記指令値生成部は、前記電圧指令値と前記電流応答値とに基づいて電力応答値を取得し、前記電力応答値と電力指令値とに基づいて前記電圧指令値を生成し、
前記指令値生成部は、前記電圧飽和状態が発生する際に、前記不一致率に基づいて前記電力応答値を補正し、補正後の前記電力応答値と前記電力指令値とに基づいて前記電圧指令値を生成する、付記1又は付記2に記載のモータ制御装置。
【0070】
(付記4)
前記電流検出部は、前記電流応答値として、回転座標系又は固定座標系の電流値を検出し、
前記指令値生成部は、前記電圧指令値として、前記回転座標系又は前記固定座標系の電圧指令値を生成する、付記3に記載のモータ制御装置。
【0071】
(付記5)
前記不一致率の大きさごとに既定された補正係数を示すテーブルを記憶する記憶部を更に備え、
前記指令値生成部は、前記電圧飽和状態が発生する際に、前記不一致率に対応する前記補正係数を前記テーブルから取得し、前記補正係数を用いて前記電圧指令値を補正する、付記1から付記4のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【0072】
(付記6)
付記1から付記5のいずれか1項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置により制御されるモータと
を備える、モータ装置。
【0073】
(付記7)
付記6に記載のモータ装置と、
前記モータ装置が駆動することにより吸引力が発生する吸引ノズルと
を備える、掃除機。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、モータ制御装置、モータ装置、及び掃除機に有用であり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0075】
2 :指令値生成部
4 :変調信号生成部
6 :電流検出部
100 :モータ装置
200 :モータ
300 :モータ制御装置
402 :記憶部
500 :駆動回路
600 :掃除機
607 :吸引ノズル
CM :指令値
CMP :電力指令値
K :補正係数
MI :モータ電流
MS :パルス幅変調信号(PWM信号)
MV :駆動電圧
RI :電流応答値
RP :電力応答値
VC :電圧指令値
VL :飽和電圧
図1
図2
図3