(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165179
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物、積層体、及び合成擬革
(51)【国際特許分類】
C08G 18/66 20060101AFI20231108BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20231108BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20231108BHJP
C09J 175/04 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C08G18/66
B32B27/40
D06N3/14 101
C09J175/04
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075901
(22)【出願日】2022-05-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】奥泉 寛女
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一弥
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
4J034
4J040
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA12
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4J034BA08
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4J040EF111
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4J040JB01
4J040JB04
4J040LA01
4J040MA10
4J040MB02
(57)【要約】
【課題】初期接着性、耐熱性、耐加水分解性、耐アルコール性、及び耐摩耗性が良好な硬化物層を形成することが可能な湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリオール成分とポリイソシアネート成分との反応物である、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含有する湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物である。ポリオール成分は、高分子ポリオール成分及び低分子ポリオール成分を含む。高分子ポリオール成分は、SA系ポリエステルポリオール(A1);数平均分子量(Mn)が8,000以上の1,4-BD/AA系ポリエステルポリオール(A2);並びにMnが6,000以上の1,6-HD/AA系ポリエステルポリオール(A3);からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリオール(A)と、ポリオール(A)以外のポリエステルポリオール(B1);及びポリエーテルポリオール(B2);からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリオール(B)と、を含む。低分子ポリオール成分は、1分子中に水酸基を3つ有する分子量300以下の3官能ポリオール(D)を含む。ポリオール(A)と3官能ポリオール(D)の割合が、3官能ポリオール(D)(mmol)/ポリオール(A)(g)=0.14~55mmol/gを満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール成分とポリイソシアネート成分との反応物である、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含有し、
前記ポリオール成分は、高分子ポリオール成分及び低分子ポリオール成分を含み、
前記高分子ポリオール成分は、
セバシン酸に由来する構成単位を有するポリエステルポリオール(A1);1,4-ブタンジオールに由来する構成単位及びアジピン酸に由来する構成単位を有する数平均分子量が8,000以上のポリエステルポリオール(A2);並びに1,6-ヘキサンジオールに由来する構成単位及びアジピン酸に由来する構成単位を有する数平均分子量が6,000以上のポリエステルポリオール(A3);からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリオール(A)と、
前記ポリオール(A)以外のポリエステルポリオール(B1);及びポリエーテルポリオール(B2);からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリオール(B)と、を含み、
前記低分子ポリオール成分は、1分子中に水酸基を3つ有する分子量300以下の3官能ポリオール(D)を含み、
前記ポリオール(A)と前記3官能ポリオール(D)の割合が、前記3官能ポリオール(D)(mmol)/前記ポリオール(A)(g)=0.14~55mmol/gを満たす湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリオール(B)は、植物由来原料を使用したポリオール(Bb)を含む請求項1に記載の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物。
【請求項3】
前記高分子ポリオール成分は、さらに、ポリカーボネートポリオール(C)を含む請求項1に記載の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリカーボネートポリオール(C)は、植物由来原料を使用したポリカーボネートポリオール(Cb)を含む請求項3に記載の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリオール(B)と前記ポリカーボネートポリオール(C)の合計量は、前記ポリオール(A)の量よりも多く、
前記ポリオール成分の総量に対する、前記ポリオール(A)、前記ポリオール(B)、及び前記ポリカーボネートポリオール(C)の合計の割合は、90質量%以上である請求項3に記載の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物。
【請求項6】
基材と、
前記基材上に設けられた、請求項1~5のいずれか1項に記載の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物の硬化物層と、を備える積層体。
【請求項7】
基材層と、表皮層と、それらの間に設けられてそれらを接着している接着剤層と、を備え、
前記接着剤層が、請求項1~5のいずれか1項に記載の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物の硬化物層である合成擬革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物、積層体、及び合成擬革に関する。
【背景技術】
【0002】
湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物は、常温固体の無溶剤で調製しうる組成物であり、加熱溶融して塗工した後、湿気により硬化する樹脂組成物である。このため、湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物は、溶剤を用いないことで環境に配慮した各種接着剤として広く利用されている。このような湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物は、空気中や塗布される基材中に存在する水(湿気)と反応して架橋構造を形成しうるイソシアネート基(NCO基)等の官能基を分子内に有するウレタンプレポリマーを含有する。
【0003】
湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物は、各種接着剤として利用される場合、湿気硬化により接着強度を発現するため、優れた初期強度を発現することが困難であることから、優れた初期接着性を発現するための技術が提案されている。例えば、特許文献1には、有機ポリイソシアネート化合物(a)および所定のポリオール(b1)から誘導され、NCO基を有する「ウレタンプレポリマー(1)」と、活性水素を持たず、且つ粘着付与性を有する「低分子量キシレン樹脂(d1)」を含有する反応性ホットメルト接着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
湿気硬化型ウレタン樹脂組成物に用いられるウレタンプレポリマーは、人工皮革や合成皮革等の合成擬革を製造する際の接着剤としても用いられている。合成擬革は、靴、衣料、鞄、家具、及び車両内装材(例えば、インパネ、ドア、コンソール、座席シート)等の多様な製品を製造するための材料として用いられている。従来の合成擬革は、一般に、表皮層、接着剤層(硬化物層)、及び基材層がこの順で積層された積層体であり、種々のウレタンプレポリマーによって硬化物層が形成されている。上記の多様な製品に用いられる合成擬革を構成する硬化物層に対しては、良好な柔軟性を有することの他、製造加工時の熱に耐えうる耐熱性を有することが要求される。
【0006】
上述した特許文献1に開示された反応性ホットメルト接着剤は、所定の湿度環境下で硬化させた硬化後の初期接着力については一定の効果が得られる。しかし、そのような従来の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物は、硬化後の熱軟化点が低く、かつ、2液硬化型のポリウレタン樹脂組成物と比較して硬化後の網目構造が少ないことから、例えば上記合成擬革等のような、耐熱性や高温での加工を要求される用途への適用に制限がある。また、従来の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物が衣料用に用いられる場合、洗濯に耐え得る程度の耐加水分解性が不十分であることに加え、耐摩耗性が不十分であり、揉み等の摩擦により基材との剥離が起きるおそれがある。加えて、昨今のコロナ禍では、アルコール消毒に対する耐性も必要とされる。
【0007】
そこで本発明は、初期接着性、耐熱性、柔軟性、耐加水分解性、耐アルコール性、及び耐摩耗性が良好な硬化物層を形成することが可能な湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリオール成分とポリイソシアネート成分との反応物である、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含有し、前記ポリオール成分は、高分子ポリオール成分及び低分子ポリオール成分を含み、前記高分子ポリオール成分は、セバシン酸に由来する構成単位を有するポリエステルポリオール(A1);1,4-ブタンジオールに由来する構成単位及びアジピン酸に由来する構成単位を有する数平均分子量が8,000以上のポリエステルポリオール(A2);並びに1,6-ヘキサンジオールに由来する構成単位及びアジピン酸に由来する構成単位を有する数平均分子量が6,000以上のポリエステルポリオール(A3);からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリオール(A)と、前記ポリオール(A)以外のポリエステルポリオール(B1);及びポリエーテルポリオール(B2);からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリオール(B)と、を含み、前記低分子ポリオール成分は、1分子中に水酸基を3つ有する分子量300以下の3官能ポリオール(D)を含み、前記ポリオール(A)と前記3官能ポリオール(D)の割合が、前記3官能ポリオール(D)(mmol)/前記ポリオール(A)(g)=0.14~55mmol/gを満たす湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、初期接着性、耐熱性、柔軟性、耐加水分解性、耐アルコール性、及び耐摩耗性が良好な硬化物層を形成することが可能な湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例の評価で使用した試料の形態を説明する模式的な説明図である。
【
図2】実施例の評価で使用したギアオーブンの形態を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
<湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物>
本発明の一実施形態の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」と記載することがある。)は、ポリオール成分とポリイソシアネート成分との反応物であるウレタンプレポリマーを含有する。このウレタンプレポリマーはイソシアネート基を有する。イソシアネート基により、ウレタンプレポリマーは、空気中や、樹脂組成物が塗布される基材中に存在する水(湿気)と反応して架橋構造を形成しうるため、このウレタンプレポリマーを主成分とする樹脂組成物は湿気硬化性を有する。
【0013】
ウレタンプレポリマーに用いられるポリオール成分は、高分子ポリオール成分及び低分子ポリオール成分を含む。高分子ポリオール成分は、以下に述べるポリオール(A)及びポリオール(B)を含む。ポリオール(A)は、セバシン酸に由来する構成単位を有するポリエステルポリオール(A1);1,4-ブタンジオールに由来する構成単位及びアジピン酸に由来する構成単位を有する数平均分子量が8,000以上のポリエステルポリオール(A2);並びに1,6-ヘキサンジオールに由来する構成単位及びアジピン酸に由来する構成単位を有する数平均分子量が6,000以上のポリエステルポリオール(A3);からなる群より選ばれる少なくとも1種である。ポリオール(B)は、上記ポリオール(A)以外のポリエステルポリオール(B1);及びポリエーテルポリオール(B2);からなる群より選ばれる少なくとも1種である。また、低分子ポリオール成分は、1分子中に水酸基を3つ有する分子量300以下の3官能ポリオール(D)を含む。そして、この樹脂組成物では、ポリオール(A)と3官能ポリオール(D)の割合が、3官能ポリオール(D)(mmol)/ポリオール(A)(g)=0.14~55mmol/gを満たす。
【0014】
上記構成により、本実施形態の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物は、初期接着性、耐熱性、柔軟性、耐加水分解性、耐アルコール性、及び耐摩耗性が良好な硬化物層を形成することが可能である。また、この樹脂組成物は、その一態様において、溶融状態での経時安定性が良好である。さらに、この樹脂組成物は、その一態様において、耐寒屈曲性、耐加水分解性、柔軟性、耐摩耗性、及び耐熱性が良好な合成擬革の提供に貢献することができる。
【0015】
上述の効果が得られやすい観点等から、本実施形態の樹脂組成物の好ましい構成等について、以下に詳細に説明する。なお、以下の化合物(各ポリオール成分及びポリイソシアネート成分等)の説明においては、特に断りのない限り、説明文中の化合物はいずれも1種又は2種以上を用いることができるものである。
【0016】
[ウレタンプレポリマー]
ウレタンプレポリマーは、ポリオール成分とポリイソシアネート成分との反応物であって、イソシアネート基を有する。ウレタンプレポリマーは、好ましくはポリオール成分とポリイソシアネート成分とを重付加反応させることで得られ、より好ましくはポリオール成分と過剰なポリイソシアネート成分とを重付加させて得られる、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーである。
【0017】
ウレタンプレポリマーを構成する、ポリオール成分の水酸基(OH基)に対するポリイソシアネート成分のイソシアネート基(NCO基)の当量比(モル比;NCO基/OH基)は、1.1~2.2であることが好ましく、1.4~2.0であることがより好ましく、1.5~1.9であることがさらに好ましい。NCO基/OH基を上記の範囲内とすることで、衣料用に用いた際などに高温での加工性が向上するとともに、より風合いの良好な合成擬革を製造することが可能になる。
【0018】
ウレタンプレポリマーは、樹脂組成物に湿気硬化性を発現させる観点から、樹脂組成物の主成分であることが好ましい。ウレタンプレポリマーの含有量は、樹脂組成物の固形分の質量を基準として、100質量%でもよく、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0019】
〔ポリオール成分〕
ウレタンプレポリマーに用いられるポリオール成分は、高分子ポリオール成分及び低分子ポリオール成分を含む。高分子ポリオール成分は、低分子ポリオール成分に比べて分子量が高いポリオール群であり、好ましくはポリマーが用いられる。低分子ポリオール成分は、高分子ポリオール成分に比べて分子量が低いポリオール群である。
【0020】
(高分子ポリオール成分)
ウレタンプレポリマーに用いられる高分子ポリオール成分は、以下に述べるポリオール(A)、及びポリオール(A)以外のポリオール(B)を含む。ポリオール成分において、高分子ポリオール成分は、ポリオール成分の主成分であることが好ましく、低分子ポリオール成分よりも多い量で使用することが好ましい。ポリオール成分中の高分子ポリオール成分の割合は、ポリオール成分の総量を基準として、60~99.8質量%であることが好ましく、80~99.5質量%であることがより好ましく、90~99質量%であることがさらに好ましい。
【0021】
(ポリオール(A))
ポリオール(A)は、次のポリエステルポリオール(A1)~(A3)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
(A1):セバシン酸に由来する構成単位を有するポリエステルポリオール(A1)
(A2):1,4-ブタンジオールに由来する構成単位及びアジピン酸に由来する構成単位を有する数平均分子量が8,000以上のポリエステルポリオール(A2)
(A3):1,6-ヘキサンジオールに由来する構成単位及びアジピン酸に由来する構成単位を有する数平均分子量が6,000以上のポリエステルポリオール(A3)
【0022】
上記のポリエステルポリオール(A1)~(A3)は、結晶性を有するポリオールであり、60℃において固体の状態をとりうる。ポリオール(A)を用いることで、樹脂組成物は、初期接着性及び柔軟性が良好な硬化物層を形成することが可能であり、また、耐寒屈曲性、柔軟性、及び耐熱性のさらに良好な合成擬革を得やすくなる。これらの観点から、ポリオール(A)のなかでも、少なくともポリエステルポリオール(A1)を用いることが好ましい。
【0023】
ポリエステルポリオール(A1)は、セバシン酸(SA)に由来する構成単位を有する。以下、セバシン酸に由来する構成単位を有するポリエステルポリオールを「SA系ポリエステルポリオール」と記載することがある。SA系ポリエステルポリオール(A1)は、セバシン酸と、ジオール類との反応物であって、2官能(水酸基数2)のポリオール(ジオール)である。好ましくはセバシン酸とジオール類とを重縮合させることで得られるSA系ポリエステルポリオール(A1)である。
【0024】
SA系ポリエステルポリオール(A1)に用いられるジオール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、へキシレングリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、及びネオペンチルグリコール等を挙げることができる。これらのなかでも、1,6-ヘキサンジオールが好ましい。すなわち、ポリエステルポリオール(A1)は、セバシン酸に由来する構成単位とともに、1,6-ヘキサンジオールに由来する構成単位を有するポリエステルポリオール(以下、「1,6-HD/SA系ポリエステルポリオール」と記載することがある。)が好ましい。
【0025】
SA系ポリエステルポリオール(A1)の数平均分子量(Mn)は、2,000以上であることが好ましく、3,000以上であることがより好ましく、5,000以上であることがさらに好ましく、また、20,000以下であることが好ましい。本明細書における「数平均分子量(Mn)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、標準ポリスチレン換算の値である。具体的には、ジメチルホルムアミド(DMF)を移動相とした、以下の条件のGPC分析(以下の実施例も同様)により測定される。
・測定装置:高速GPC装置(商品名「HLC-8220GPC」、東ソー社製)
・カラム:TSK gel Super HM-N×2本、
TSK guardcolumn Super H-H×1本
・検出器:RI(示差屈折計)
・カラム温度:40℃
・流速:0.5mL/分
・注入量:50μL
【0026】
ポリエステルポリオール(A2)は、1,4-ブタンジオールに由来する構成単位及びアジピン酸に由来する構成単位を有する。以下、1,4-ブタンジオールに由来する構成単位及びアジピン酸に由来する構成単位を有するポリエステルポリオールを「1,4-BD/AA系ポリエステルポリオール」と記載することがある。1,4-BD/AA系ポリエステルポリオール(A2)は、1,4-ブタンジオールとアジピン酸との反応物であって、2官能(水酸基数2)のポリオール(ジオール)である。好ましくは1,4-ブタンジオールとアジピン酸とを重縮合させることで得られるポリエステルポリオール(A2)である。
【0027】
1,4-BD/AA系ポリエステルポリオール(A2)の数平均分子量(Mn)は、8,000以上である。Mnが8,000以上の1,4-BD/AA系ポリエステルポリオール(A2)を用いることにより、樹脂組成物は初期接着性が良好な硬化物層を形成することが可能であり、また、耐寒屈曲性及び柔軟性のさらに良好な合成擬革を得やすくなる。1,4-BD/AA系ポリエステルポリオール(A2)のMnは、20,000以下であることが好ましい。
【0028】
ポリエステルポリオール(A3)は、1,6-ヘキサンジオールに由来する構成単位及びアジピン酸に由来する構成単位を有する。以下、1,6-ヘキサンジオールに由来する構成単位及びアジピン酸に由来する構成単位を有するポリエステルポリオールを「1,6-HD/AA系ポリエステルポリオール」と記載することがある。1,6-HD/AA系ポリエステルポリオール(A3)は、1,6-ヘキサンジオールとアジピン酸との反応物であって、2官能(水酸基数2)のポリオール(ジオール)である。好ましくは1,6-ヘキサンジオールとアジピン酸とを重縮合させることで得られるポリエステルポリオール(A3)である。
【0029】
1,6-HD/AA系ポリエステルポリオール(A3)の数平均分子量(Mn)は、6,000以上である。Mnが6,000以上の1,6-HD/AA系ポリエステルポリオール(A3)を用いることにより、樹脂組成物は初期接着性が良好な硬化物層を形成することが可能であり、また、耐寒屈曲性及び柔軟性のさらに良好な合成擬革を得やすくなる。1,6-HD/AA系ポリエステルポリオール(A3)のMnは、20,000以下であることが好ましい。
【0030】
ポリオール(A)による上述の効果が後述する他のポリオールによる効果とバランスよく発現しやすい観点から、高分子ポリオール成分中のポリオール(A)の割合は、高分子ポリオール成分の総量を基準として、0.5~30質量%であることが好ましく、1~20質量%であることがより好ましく、2~15質量%であることがさらに好ましい。
【0031】
(ポリオール(B))
ポリオール(B)は、上記のポリオール(A)以外のポリエステルポリオール(B1);及びポリエーテルポリオール(B2);からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0032】
ポリオール(A)以外のポリエステルポリオール(B1)及びポリエーテルポリオール(B2)は、ポリオール(A)に比べて結晶性の低いポリオールであり、60℃において液体の状態をとりうる。ポリエステルポリオール(B1)及びポリエーテルポリオール(B2)のうちの少なくとも1種を用いることで、樹脂組成物は柔軟性が良好な硬化物層を形成することが可能であり、また、耐寒屈曲性及び柔軟性等が良好な合成擬革を得やすくなる。
【0033】
ポリエステルポリオール(B1)は、上記のSA系ポリエステルポリオール(A1)、Mnが8,000以上の1,4-BD/AA系ポリエステルポリオール(A2)、及びMnが6,000以上の1,6-HD/AA系ポリエステルポリオール(A3)以外のポリエステルポリオールである。ポリエステルポリオール(B1)は、ジカルボン酸類と、ジオール類との反応物であって、2官能(水酸基数2)のポリオール(ジオール)である。好ましくはジカルボン酸類とジオール類とを重縮合させることで得られるポリエステルポリオール(B1)である。
【0034】
ポリエステルポリオール(B1)に用いられるジカルボン酸類としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、及びアゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸類;並びにフタル酸、イソフタル酸、及びテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸類;を挙げることができる。ポリエステルポリオール(B1)に用いられるジオール類としては、SA系ポリエステルポリオール(A1)の説明で述べたジオール類と同様のものを挙げることができる。
【0035】
ポリエステルポリオール(B1)の具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリエチレン/ブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペートジオール、ポリ-3-メチルペンタンアジペートジオール、及びポリブチレンイソフタレートジオール等を挙げることができる。
【0036】
ポリエステルポリオール(B1)のなかでも、1,4-ブタンジオールに由来する構成単位及びアジピン酸に由来する構成単位を有するとともに、数平均分子量(Mn)が1,000~5,000の1,4-BD/AA系ポリエステルポリオール(B1)が好ましい。なかでも、Mnが1,200~4,000のポリブチレンアジペートジオールがより好ましく、Mnが1,500~3,000のポリブチレンアジペートジオールがさらに好ましい。
【0037】
ポリエーテルポリオール(B2)は、2官能(水酸基数2)のポリオール(ジオール)である。ポリエーテルポリオール(B2)は、例えば、アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、及びブチレンオキサイド等)及び複素環式エーテル(テトラヒドロフラン、及び2-メチルテトラヒドロフラン等)のいずれかを重合又は共重合して得られる。また、ポリエーテルポリオール(B2)は、1,3-プロパンジオール等のジオールの脱水縮合反応によっても得られる。
【0038】
ポリエーテルポリオール(B2)としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリテトラメチレングリコール(ブロック又はランダム)、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、及びポリヘキサメチレンエーテルグリコール等を挙げることができる。なかでも、柔軟性の観点から、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、及びポリテトラメチレンエーテルグリコールが好ましい。
【0039】
湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物の一態様において、さらに環境配慮型の組成物とする観点から、ポリオール(B)(上記のポリエステルポリオール(B1)及び/又はポリエーテルポリオール(B2))は、植物由来原料を使用したポリオール(Bb)を含むことが好ましい。植物由来原料を使用したポリオール(Bb)はバイオマスポリオール(Bb)と称してもよい。植物由来原料を使用したポリオール(Bb)としては、例えば、原料として、植物由来のジオール類(好ましくは炭素数2~4のジオール類)の1種又は2種以上が使用された、ポリエステルポリオール(Bb1)及びポリエーテルポリオール(Bb2)、並びに植物由来のテトラヒドロフラン等が使用されたポリエーテルポリオール(Bb2)等を挙げることができる。植物由来の炭素数2~4のジオール類としては、例えば、植物由来の、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、及び1,4-ブタンジオール等が挙げられる。
【0040】
ポリオール(B)による上述の効果が他のポリオールによる効果とバランスよく発現しやすい観点から、高分子ポリオール成分中のポリオール(B)の割合は、高分子ポリオール成分の総量を基準として、10~98質量%であることが好ましく、50~95質量%であることがより好ましく、60~90質量%であることがさらに好ましい。
【0041】
(ポリカーボネートポリオール(C))
高分子ポリオール成分は、上述したポリオール(A)及びポリオール(B)とともに、さらにポリカーボネートポリオール(C)を含むことが好ましい。ポリカーボネートポリオール(C)を用いることで、耐加水分解性及び耐摩耗性がさらに良好な硬化物層及び合成擬革を得やすくなる。
【0042】
ポリカーボネートポリオール(C)は、例えば、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオール等のジオール類を、ジアルキルカーボネートと脱アルコール反応させながら縮合させて得られる。ポリカーボネートポリオール(C)は、2官能(水酸基数2)のポリオール(ジオール)であり、また、結晶性及び非晶性のいずれのものでも用いることができる。
【0043】
ポリカーボネートポリオール(C)としては、例えば、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリネオペンチルカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンカーボネート)ジオール、及びこれらのランダム/ブロック共重合体等を挙げることができる。これらのなかでも、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(1,6-ヘキサンジオールベースのポリカーボネートジオール)、ポリ(テトラメチレン/デカメチレン)カーボネートジオール(1,4-ブタンジオール及び1,10-デカンジオールベースのポリカーボネートジオール)、及びポリ(ペンタメチレン/ヘキサメチレン)カーボネートジオール(1,5-ペンタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールベースのカーボネートジオール)が好ましい。
【0044】
湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物の一態様において、さらに環境配慮型の組成物とする観点から、ポリカーボネートポリオール(C)は、植物由来原料を使用したポリカーボネートポリオール(Cb)を含むことが好ましい。植物由来原料を使用したポリカーボネートポリオール(Cb)はバイオマスポリカーボネートポリオール(Cb)と称してもよい。植物由来原料を使用したポリカーボネートポリオール(Cb)としては、例えば、原料として、植物由来のジオール類(好ましくは炭素数2~10のジオール類)の1種又は2種以上が使用されたポリカーボネートポリオール(Cb)等を挙げることができる。植物由来のジオール類としては、例えば、植物由来の、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、及び1,10-デカンジオール等が挙げられる。
【0045】
ポリカーボネートポリオール(C)による上述の効果がポリオール(A)及び(B)による効果とバランスよく発現しやすい観点から、高分子ポリオール成分中のポリカーボネートポリオール(C)の割合は、高分子ポリオール成分の総量を基準として、0~80質量%であることが好ましく、4~40質量%であることがより好ましく、8~30質量%であることがさらに好ましい。
【0046】
高分子ポリオール成分がポリカーボネートポリオール(C)を含む場合、本開示で目的とする湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物が得られやすい観点から、ポリオール(B)とポリカーボネートポリオール(C)の合計量は、ポリオール(A)の量よりも多いことが好ましい。なおかつ、この場合、ポリオール成分の総量(総質量)に対する、ポリオール(A)、ポリオール(B)、及びポリカーボネートポリオール(C)の合計(合計質量)の割合は、90質量%以上であることが好ましい。ポリオール(A)、ポリオール(B)、及びポリカーボネートポリオール(C)の合計が高分子ポリオール成分の総量であってもよい。そのため、ポリオール成分中の高分子ポリオール成分の割合について前述した通り、ポリオール成分の総量に対する、ポリオール(A)、ポリオール(B)、及びポリカーボネートポリオール(C)の合計の割合は、99.8質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましく、99質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
(低分子ポリオール成分)
ウレタンプレポリマーに用いられる低分子ポリオール成分は、ポリオール成分において、上述した高分子ポリオール成分よりも少ない量で使用することが好ましい。ポリオール成分中の低分子ポリオール成分の割合は、ポリオール成分の総量を基準として、0.2~40質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがより好ましく、1~10質量%であることがさらに好ましい。
【0048】
(3官能ポリオール(D))
ウレタンプレポリマーに用いられる低分子ポリオール成分は、1分子中に水酸基を3つ有する分子量(化学式量)300以下の3官能ポリオール(D)を含む。低分子ポリオール成分は、3官能ポリオール(D)に加えて、必要に応じて、その他の低分子ポリオール(E)を含んでもよい。
【0049】
3官能ポリオール(D)は、1分子中に水酸基を3つ有するため、トリオール(D)と称してもよい。この特定の低分子の3官能ポリオール(D)を用いることで、本開示で目的とする湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物を得ることができる。
【0050】
分子量300以下の3官能ポリオール(D)としては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール、ヘプタントリオール、及びオクタントリオール等を挙げることができる。これらのなかでも、グリセリン及びトリメチロールプロパンが好ましい。
【0051】
3官能ポリオール(D)の使用量は、前述のポリオール(A)との関係で次の範囲である。すなわち、ポリオール(A)と3官能ポリオール(D)の割合は、3官能ポリオール(D)(mmol)/ポリオール(A)(g)=0.14~55mmol/gを満たす。ポリオール(A)の単位質量(1g)に対して、3官能ポリオール(D)が0.14mmol以上55mmol以下であることにより、本開示で目的とする湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物を得ることができる。目的とする樹脂組成物が得られやすい観点から、3官能ポリオール(D)(mmol)/ポリオール(A)(g)は、0.3mmol/g以上であることが好ましく、0.5mmol/g以上であることがより好ましく、1mmol/g以上であることがさらに好ましい。また、3官能ポリオール(D)(mmol)/ポリオール(A)(g)は、30mmol/g以下であることが好ましく、20mmol/g以下であることがより好ましく、10mmol/g以上であることがさらに好ましい。
【0052】
3官能ポリオール(D)による上述の効果が発現しやすい観点から、低分子ポリオール成分中の3官能ポリオール(D)の割合は、低分子ポリオール成分の総量を基準として、50~100質量%であることが好ましく、70~100質量%であることがより好ましく、90~100質量%であることがさらに好ましい。
【0053】
その他の低分子ポリオール(E)としては、例えば、低分子ジオール類、及び4官能以上の低分子ポリオール類等が挙げられる。低分子ジオール類としては、例えば、SA系ポリエステルポリオール(A1)の説明で述べたジオール類と同様のものが挙げられる。4官能以上の低分子ポリオール類としては、例えば、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、及びジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0054】
〔ポリイソシアネート成分〕
ウレタンプレポリマーに用いられるポリイソシアネート成分は、特に限定されず、1分子中にイソシアネート基を2以上有する化合物(ポリイソシアネート)を用いることができる。ポリイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、及び脂肪族ジイソシアネート変性体等を挙げることができる。これらのなかでも、芳香族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、及び脂肪族ジイソシアネート変性体が好ましく、芳香族ジイソシアネート、及び脂肪族ジイソシアネート変性体がより好ましく、芳香族ジイソシアネートがさらに好ましい。
【0055】
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,2’-MDI、2,4’-MDI、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6-TDI、m-キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,4-フェニレンジイソシアネート、4-メトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-イソプロピル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-ブトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、2,4-ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,5-ナフタレンジイソシアネート、及びベンジジンジイソシアネート等を挙げることができる。これらのなかでも、MDIが好ましい。
【0056】
脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(水添XDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)、及び1-メチルシクロヘキサン-2,4-ジイソシアナート(水添TDI)等を挙げることができる。
【0057】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、及び1,10-デカメチレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0058】
脂肪族ジイソシアネート変性体としては、例えば、脂肪族ジイソシアネートのイソシアヌレート体、アロファネート体、ビウレット体、及びポリオール(トリメチロールプロパン等)とのアダクト体等を挙げることができる。これらのなかでも、脂肪族ジイソシアネートのアロファネート体が好ましく、HDIのアロファネート体がより好ましい。
【0059】
[ウレタンプレポリマーの製造方法]
ウレタンプレポリマーは、例えば、ポリオール成分とポリイソシアネート成分を、ワンショット法又は多段法により、好ましくは60~150℃、さらに好ましくは60~110℃で、生成物が理論NCO基含有率(質量%)となるまで反応させることによって製造することができる。ポリオール成分とポリイソシアネート成分の反応時には、必要に応じて触媒を併用してもよい。触媒としては、ジブチルチンラウレート、ジオクチルチンラウレート、スタナスオクトエート、オクチル酸鉛、テトラn-ブチルチタネート等の金属塩や有機金属誘導体;トリエチルアミン等の有機アミン;ジアザビシクロウンデセン系触媒;等を挙げることができる。
【0060】
ポリオール成分とポリイソシアネート成分は、有機溶媒等の溶媒の非存在下、すなわち、無溶剤で反応させることが好ましい。有機溶媒等の溶媒の非存在下でポリオール成分とポリイソシアネート成分を反応させることで、無溶剤ウレタンプレポリマーを得ることができる。
【0061】
ウレタンプレポリマーを製造する際のポリオール成分の使用量は、ポリオール成分に関する上述した割合の範囲内となるように、各種ポリオールを使用することが好ましい。例えば、高分子ポリオール成分については、ポリオール(A)及びポリオール(B)、並びに必要に応じて用いられるポリカーボネートポリオール(C)をそれぞれ、高分子ポリオール成分中の上述した割合の範囲内となる量で使用することが好ましい。また、低分子ポリオール成分として使用する3官能ポリオール(D)については、上述したポリオール成分中の低分子ポリオール成分の割合の範囲となる量で使用することが好ましい。好適な例としては、3官能ポリオール(D)の使用量は、ポリオール(A)、ポリオール(B)、及びポリカーボネートポリオール(C)の合計100質量部に対して、0.5~30質量部であることが好ましく、0.5~20質量部であることがより好ましく、0.5~10質量部であることがさらに好ましい。
【0062】
湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物には、必要に応じて、熱可塑性樹脂、粘着付与樹脂、触媒、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、難燃剤、充填剤、及び発泡剤等の各種添加剤を適量配合してもよい。但し、湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物は、実質的に前述のウレタンプレポリマーのみで構成されてもよい。樹脂組成物が実質的にウレタンプレポリマーのみで構成される場合でも、当該組成物中にウレタンプレポリマーの製造に起因して不可避的に存在し得る成分が含まれていてもよい。
【0063】
以上詳述した通り、湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物は、その一態様において、溶融状態での経時安定性が良好であるとともに、初期接着性、耐熱性、耐アルコール性、柔軟性、耐加水分解性、及び耐摩耗性が良好な硬化物層を形成することが可能である。そのため、例えば合成擬革等のような耐熱性や高温加工を要求される用途や、衣料用等のような耐洗濯性や耐摩耗性が要求される用途においても、この樹脂組成物を好適に利用でき、加工性及び用途の拡張が期待できる。
【0064】
また、この湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物を用いることで、耐寒屈曲性、耐加水分解性、柔軟性、耐摩耗性、及び耐熱性が良好な合成擬革等の積層体を提供することも可能である。例えば、合成擬革を構成する基布等の基材層と、表皮層とを接着させるホットメルト接着剤として、上記樹脂組成物を用いることができる。また、この樹脂組成物は、初期接着性及び耐摩耗性が良好な硬化物層を形成可能であるため、基布等の基材層に対して良好に接着し得る性能を維持しつつ、耐摩耗性等の表皮層としての性能を兼ね備えた硬化物層を形成することもできる。
【0065】
<積層体>
本発明の一実施形態の積層体は、基材と、基材上に設けられた前述の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物の硬化物層とを備える。上記樹脂組成物をホットメルト接着剤として用いる場合、上記基材を一方の被着体とし、別の基材を他方の被着体として、それらを接着させることができる。基材(被着体)としては、後述する合成擬革用の表皮層や基材層の他、光学フィルム、光学板、フレキシブルプリント基板、ガラス基板、及びこれらの基板にITOを蒸着した基板等のフィルム状又はシート状等の基材、並びに金属、非金属(プラスチック、ガラス等)の基材等を挙げることができる。
【0066】
積層体は、好ましくは80~130℃で溶融させた湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物を基材に塗工し、湿気により硬化させて硬化物層を形成させることで、製造することができる。上記樹脂組成物をホットメルト接着剤として用いる場合、溶融させた上記樹脂組成物を一方の基材に塗工した後、その上に他方の基材を貼り合わせて湿気硬化させればよい。
【0067】
基材への湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物の塗工方法は特に限定されず、従来からホットメルト接着剤で採用されている塗工方法を適宜とり得る。塗工方法としては、例えば、コンマコート法、ナイフコート法、ロールコート法、スクリーンコート法、T-ダイコート法、ファイバーコート法、ロールに彫刻を施したグラビア転写コート法、ギアポンプを有するダイコーター法等が挙げられる。
【0068】
本実施形態の積層体は後述する合成擬革として構成することもできる。また、積層体に用いられる湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物の硬化物層は、上述の通り、初期接着性及び耐摩耗性が良好であるため、合成擬革を構成する基布等の基材に直接接着した表皮層を形成しうる。したがって、基布等の基材と、その基材上に設けられた上記硬化物層からなる表皮層との2層構成の合成擬革を提供することができる。
【0069】
湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物の硬化物層を表皮層とする合成擬革は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、上述の塗工方法によって、表皮層を形成する湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物を溶融させて離型紙上に塗工し、その上に基布等の基材を貼り合わせ、湿気により上記樹脂組成物を硬化させて硬化物層(表皮層)を形成する。次いで、離型紙から剥離することで、基材と、基材上に設けられた硬化物層からなる表皮層との2層構成の合成擬革を得ることができる。なお、基布等の基材を貼り合わせる際には、例えばロール等を備えたラミネーターを用いて圧着することができる。また、湿気により上記樹脂組成物を硬化させる際には、所定の温度及び湿度条件下で熟成させることができる。
【0070】
<合成擬革>
本発明の一実施形態の合成擬革は、基材層と、表皮層と、それらの間に設けられてそれらを接着している接着剤層とを備える。そして、この合成擬革では、接着剤層が前述の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物の硬化物層で形成されている。
【0071】
基材層を構成する基布としては、例えば、綾織り、平織り等からなる織物、当該織物の綿生地を機械的に起毛して得られる起毛布、レーヨン布、ナイロン布、ポリエステル布、ケブラー布、不織布(ポリエステル、ナイロン、各種ラテックス)、各種フィルム、シート等を挙げることができる。また、表皮層としては、溶液型ウレタン樹脂組成物、水系ポリウレタン、及び熱可塑性ポリウレタン(TPU)等の表皮層形成用塗料で形成されたものを挙げることができる。
【0072】
合成擬革は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、コンマコート、ナイフコート、ロールコート、グラビアコート、ダイコート、スプレーコート等の公知の方法によって、表皮層を形成する表皮層形成用の塗料を離型紙上に塗布する。塗布した塗料を適宜乾燥して表皮層を形成した後、前述の塗工方法によって、表皮層上に溶融させた前述の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物を塗工し、その上に基布等の基材層を貼り合わせ、ラミネーター等で圧着させる。その後、必要に応じて所定の温度及び湿度条件下で熟成させ、硬化物層(接着剤層)を形成する。次いで、離型紙から剥離することで、目的とする合成擬革を得ることができる。
【0073】
合成擬革を構成する表皮層(上記積層体の説明で述べた硬化物層からなる表皮層も含む。)の表面には表面処理剤を塗布してもよい。表面処理剤で表皮層を表面処理することで、製品化にさらに適した品質の合成擬革を得ることが可能となる。本実施形態の合成擬革は、靴、衣料、鞄、家具、車両内装材(例えば、インパネ、ドア、コンソール、座席シート)等を構成する材料として好適である。
【0074】
なお、上述した通り、本発明の一実施形態では、以下の構成をとり得る。
[1]ポリオール成分とポリイソシアネート成分との反応物である、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含有し、
前記ポリオール成分は、高分子ポリオール成分及び低分子ポリオール成分を含み、
前記高分子ポリオール成分は、
セバシン酸に由来する構成単位を有するポリエステルポリオール(A1);1,4-ブタンジオールに由来する構成単位及びアジピン酸に由来する構成単位を有する数平均分子量が8,000以上のポリエステルポリオール(A2);並びに1,6-ヘキサンジオールに由来する構成単位及びアジピン酸に由来する構成単位を有する数平均分子量が6,000以上のポリエステルポリオール(A3);からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリオール(A)と、
前記ポリオール(A)以外のポリエステルポリオール(B1);及びポリエーテルポリオール(B2);からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリオール(B)と、を含み、
前記低分子ポリオール成分は、1分子中に水酸基を3つ有する分子量300以下の3官能ポリオール(D)を含み、
前記ポリオール(A)と前記3官能ポリオール(D)の割合が、前記3官能ポリオール(D)(mmol)/前記ポリオール(A)(g)=0.14~55mmol/gを満たす湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物。
[2]前記ポリオール(B)は、植物由来原料を使用したポリオール(Bb)を含む上記[1]に記載の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物。
[3]前記高分子ポリオール成分は、さらに、ポリカーボネートポリオール(C)を含む上記[1]又は[2]に記載の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物。
[4]前記ポリカーボネートポリオール(C)は、植物由来原料を使用したポリカーボネートポリオール(Cb)を含む上記[3]に記載の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物。
[5]前記ポリオール(B)と前記ポリカーボネートポリオール(C)の合計量は、前記ポリオール(A)の量よりも多く、
前記ポリオール成分の総量に対する、前記ポリオール(A)、前記ポリオール(B)、及び前記ポリカーボネートポリオール(C)の合計の割合は、90質量%以上である上記[3]又は[4]に記載の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物。
[6]基材と、前記基材上に設けられた、上記[1]~[5]のいずれかに記載の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物の硬化物層と、を備える積層体。
[7]基材層と、表皮層と、それらの間に設けられてそれらを接着している接着剤層と、を備え、前記接着剤層が、上記[1]~[5]のいずれかに記載の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物の硬化物層である合成擬革。
【実施例0075】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
<使用材料>
使用した高分子ポリオール材料を下記表1に示す。
【0077】
【0078】
<湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物の製造>
(実施例1)
撹拌機、温度計、及びガス導入口を装着したガラス製の反応容器に、ポリオール成分とポリイソシアネート成分を入れて混合し、反応容器内を加熱減圧して脱水処理を行い、さらに窒素ガスを封入して内温を100℃とした状態で120分間撹拌しながら反応させた。上記ポリオール成分には、ポリエステルポリオール(A1)10質量部、ポリエステルポリオール(B1-1)45質量部、及びポリエーテルポリオール(B2-1)45質量部からなる高分子ポリオール成分(合計100質量部)、並びに分子量300以下の3官能ポリオール(D)成分であるトリメチロールプロパン0.5質量部を用いた。ポリオール(A)と3官能ポリオール(D)の割合は、3官能ポリオール(D)(mmol)/ポリオール(A)(g)=0.37mmol/gとした。上記ポリイソシアネート成分には、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)22.35質量部を用い、ポリオール成分のOH基に対する、MDIのNCO基のモル比(NCO基/OH基)を1.7とした。このようにして、実施例1のウレタンプレポリマーを得た。
【0079】
(実施例2~17及び比較例1~10)
ポリオール成分の種類及び使用量、並びにポリイソシアネート成分(MDI)の使用量を、下記表2(表2-1~2-6)の上段に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、各例のウレタンプレポリマーを得た。ポリオール成分及びポリイソシアネート成分の使用量の変更に伴い、表2の中段には、「3官能ポリオール(D)/ポリオール(A)[mmol/g]」の値、及び「NCO基/OH基(モル比)」の値を併せて示した。なお、3官能ポリオール(D)(mmol)/ポリオール(A)(g)=56.0mmol/gの比較例10については、撹拌反応中にゲル化してしまい、後述の評価を行うことができなかった。
【0080】
<評価>
各例で得られたウレタンプレポリマーを、各例の湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物(以下、単に「ホットメルト樹脂組成物」と記載することがある。)として、以下に述べる各項目の評価を行った。各項目の評価基準において、AA、A、及びBは許容できる良好なレベルであり、Cは許容できないレベルである。評価結果を表2の下段に示す。
【0081】
(溶融状態での経時安定性)
各例のホットメルト樹脂組成物を100℃に加熱して溶融し、100℃、24時間の条件下で粘度の経時変化と、目視による沈降物の確認を行った。ホットメルト樹脂組成物の粘度については、BM型粘度計(東京計器製造所)を用いて、ローターNo.4、30rpm、及び100℃の条件で測定した。上記の粘度の経時変化と、沈降物の有無により、以下の評価基準にしたがって、ホットメルト樹脂組成物の溶融状態での経時安定性を評価した。
AA:沈降物なしで、粘度変化率が20%未満である。
A:沈降物なしで、粘度変化率が20%以上50%未満である。
B:沈降物ありで、粘度変化率が100%未満である。
C:沈降物ありで、粘度変化率が100%以上である。
【0082】
(評価用フィルムの作製)
各例のホットメルト樹脂組成物を100℃で溶融し、塗工後の膜厚が50~70μmとなるように離型紙上に塗工した。その後、温度25℃、相対湿度60%(60%RH)の環境下で72時間熟成させ、さらに室温(20℃)で1日保管し、離型紙付き評価用フィルムを得た。
【0083】
(熱軟化点)
離型紙付き評価用フィルムから離型紙を剥がして得られた評価用フィルム(幅1.5cm、長さ6cm)を用いて熱軟化点を測定した。具体的には、まず
図1に示すように、評価用フィルム10の上下にクリップ12を取り付け、セロテープ(登録商標)でさらにクリップ12を固定し、一方のクリップ12に吊り下げたときに450g/cm
2の荷重がかかるような重り14を取り付けて試料16を作製した。なお、評価用フィルム10の中央部長手方向2cmはセロテープ(登録商標)で覆われていない。次に、
図2に示すように、試料16の重り14が取り付けられていないクリップ12をギアオーブン20の回転盤22に取り付けた。その後、回転盤22を5rpmで回転させながら、室温から3℃/minの速度でギアオーブン20内を昇温した。評価用フィルム10が切断したとき、もしくは2倍に伸長したときの温度(℃)を熱軟化点とした。その熱軟化点(℃)の値に基づいて、以下の評価基準にしたがって、熱軟化点による耐熱性を評価した。熱軟化点が高いほど、フィルムとしての耐熱性が高いことを表す。
A:熱軟化点が185℃以上である。
B:熱軟化点が170℃以上185℃未満である。
C:熱軟化点が170℃未満である。
【0084】
(耐アルコール性)
離型紙付き評価用フィルムから離型紙を剥がして得られた評価用フィルムを50mm×50mmに切り取り、予めシャーレに入れておいた25℃のエタノール中に10分間浸漬させた。10分後、エタノール中から評価用フィルムを取り出し、評価用フィルムの状態を目視にて確認し、以下の評価基準にしたがって、耐アルコール性を評価した。
AA:評価用フィルムの一辺の線膨潤率が120%未満である。
A:評価用フィルムの一辺の線膨潤率が120%以上150%未満である。
B:評価用フィルムの一辺の線膨潤率が150%以上である。
C:評価用フィルムが溶解している。
【0085】
(初期接着性)
各例のホットメルト樹脂組成物を100℃に加熱して溶融し、PETフィルム(幅3cm)上に厚さ100μm/wetの塗布量で均一に塗工し、ホットメルト樹脂組成物の塗工層を形成した。塗工後、直ちに基布(織物)を、ロール温度30℃、ラミネートクリアランスを基布、塗工層、及びPETフィルムの総厚みに対して70%に設定したラミネーターにて圧着した。貼り合わせ10分後に、デジタルフォースゲージ(日本電産シンポ株式会社製)にて接着強度を測定し、以下の評価基準にしたがって、初期接着性を評価した。なお、貼り合わせ10分後の接着強度が0.2kg/3cm未満の場合、その後の加工工程にて基布とホットメルト樹脂組成物による樹脂層との再剥離やよれが発生し、不具合発生リスクが高まる知見より、貼り合わせ10分後の接着強度が0.2kg/3cm以上を合格とした。
A:接着強度が0.4kg/3cm以上である。
B:接着強度が0.2kg/3cm以上0.4kg/3cm未満である。
C:接着強度が0.2kg/3cm未満である。
【0086】
<評価用合成擬革の作製>
(1)表皮層の作製
以下の通り、合成擬革における表皮層を作製した。まず、溶液型ウレタン樹脂(商品名「レザミンNE-8875-30M」、大日精化工業社製)100質量部、着色剤(商品名「セイカセブンBS-780(S)ブラック」、大日精化工業社製)10質量部、希釈溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)25質量部及びジメチルホルムアミド(DMF)25質量部とを混合し、表皮層用のウレタン樹脂組成物を調製した。次に、調製したウレタン樹脂組成物を離型紙上にバーコーターにて250μm/wetの塗布量で均一に塗工した。その後、120℃で5分乾燥させ、離型紙に形成した膜厚30~50μmの表皮層を得た。
【0087】
(2)柔軟性評価のための標準合成擬革の作製
上記「(1)表皮層の作製」で得た表皮層と接着剤を用いて、以下の通り、柔軟性評価のための標準合成擬革を作製した。まず、溶液型ウレタン樹脂(商品名「レザミンUD-8373BL」、大日精化工業社製)100質量部、イソシアネート系架橋剤(商品名「レザミンNE」、大日精化工業社製)12質量部、並びに希釈溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)30質量部及びジメチルホルムアミド(DMF)30質量部を混合して接着剤を調製した。次に、調製した接着剤を、上記「(1)表皮層の作製」で得た離型紙上の表皮層に、100μm程度の乾燥膜厚になるように塗工し、接着剤の塗工層を形成した。接着剤の塗工層中の溶剤を加温により除去後、直ちに基布(織物)を、ロール温度40℃、ラミネートクリアランスを基布、塗工層(接着剤層)、表皮層、及び離型紙の総厚みに対して70%に設定したラミネーターにて圧着した。その後、50℃で48時間熟成して塗工層を硬化させて接着剤層を形成した後、表皮層に接した離型紙を剥離して標準合成擬革を得た。
【0088】
(3)各例の合成擬革の作製
上記「(1)表皮層の作製」で得た表皮層と、各例のホットメルト樹脂組成物を用いて、以下の通り、各例の合成擬革を作製した。まず、ホットメルト樹脂組成物を100℃に加熱して溶融し、溶融したホットメルト樹脂組成物を上記「(1)表皮層の作製」で得た離型紙上の表皮層に、100μm程度の乾燥膜厚になるように塗工し、ホットメルト樹脂組成物の塗工層を形成した。塗工後、直ちに基布(織物)を、ロール温度30℃、ラミネートクリアランスを基布、塗工層(ホットメルト樹脂組成物層)、表皮層、及び離型紙の総厚みに対して70%に設定したラミネーターにて圧着した。その後、25℃及び60%RHにて48時間熟成してホットメルト樹脂組成物の硬化物層を形成した後、表皮層に接した離型紙を剥離した。このようにして、基材層としての基布(織物)と表皮層とが、接着剤層としてのホットメルト樹脂組成物の硬化物層を介して接着した合成擬革を得た。
【0089】
(耐寒屈曲性)
各例の合成擬革について、幅50mm、長さ150mm(評価範囲100mm)の試験シートを作製した。作製した試験シートを用いてデマッチャ屈曲試験機(型番「No.119-L DEMATTIA FLEXING TESTER」、安田精機製作所社製)により、-10℃環境下、伸縮屈曲範囲72~108%、-10℃低温下にて屈曲試験を行った。そして、以下の評価基準にしたがって、耐寒屈曲性を評価した。
AA:60000回後で割れなし。
A:30000回後で割れなし、60000回までに割れあり。
B:10000回後で割れなし、30000回までに割れあり。
C:10000回後で割れあり。
【0090】
(耐加水分解性)
各例の合成擬革について、耐加水分解性試験前の接着強度と、耐加水分解性試験後の接着強度を測定し、それらを比較することで耐加水分解性を評価した。具体的には、合成擬革の表皮層の上面に、140℃のアイロンにて1分間ホットメルトテープを圧着し、1時間室温(20℃)で冷却した後、合成擬革における基布と、ホットメルトテープに密着した表皮層とを、180°方向に引き剥がし速度200mm/minにて剥離させ、その強度を引張試験装置(型名「オートグラフ AGS-100A」、島津製作所社製)にて測定することで接着強度とした。
一方、各例の合成擬革を、70℃及び95%RHの恒温槽内に所定期間入れた後、上記と同様にして、耐加水分解性試験後の接着強度を測定した。試験前の接着強度と試験後の接着強度とを比較し、以下の評価基準にしたがって、耐加水分解性を評価した。なお、接着強度の保持率とは、槽内に入れる前の接着強度に対する、槽内で所定期間保管した後の接着強度の割合を意味する。
AA:8週間保管後の接着強度の保持率が70%以上である。
A:5週間保管後の接着強度の保持率が70%以上である。
B:5週間保管後の接着強度の保持率が50%以上70%未満である。
C:5週間保管後の接着強度の保持率が50%未満である。
【0091】
(柔軟性)
各合成擬革、及び上記「(2)柔軟性評価のための標準合成擬革の作製」で得た標準合成擬革を手で触った感覚で比較し、標準合成擬革を基準とした以下の評価基準にしたがって、柔軟性を評価した。
AA:標準合成擬革よりも大幅に柔らかい。
A:標準合成擬革よりも柔らかい。
B:標準合成擬革と同程度に柔らかい。
C:標準合成擬革よりも大幅に硬い。
【0092】
(耐摩耗性)
各例のホットメルト樹脂組成物を100℃に熱して溶融し、溶融したホットメルト樹脂組成物を離型紙上に100μm程度の乾燥膜厚になるように塗工し、ホットメルト樹脂組成物の塗工層を形成した。塗工後、直ちに基布(織物)を、ロール温度30℃、ラミネートクリアランスを基布、塗工層(ホットメルト樹脂組成物層)、及び離型紙の総厚みに対して70%に設定したラミネーターにて圧着した。その後、25℃及び60%RHにて48時間熟成してホットメルト樹脂組成物の硬化物層を形成した後、硬化物層に接した離型紙を剥離した。このようにして、2層構成の積層体として、基布(織物)と、その基布上に設けられたホットメルト樹脂組成物の硬化物層からなる表皮層とを備える合成擬革を作製した。これを以下に述べる耐摩耗性試験用合成擬革として用いた。
【0093】
各例の耐摩耗性試験用合成擬革について、直径11.5cmの円形試験片を作製した。この試験片とテーバー摩耗試験機(安田精機製作所社製)を用いて、荷重500g、回転速度60±2rpm、摩耗輪CS-10の条件にて、耐摩耗性試験を行った。そして、以下の評価基準にしたがって、耐摩耗性を評価した。
AA:1500回で傷等の外観の変化なし。
A:1000回で傷等の外観の変化なしで、1500回までに傷等の外観変化有り。
B:500回で傷等の外観の変化なしで、1000回までに傷等の外観変化有り。
C:500回未満で傷等の外観変化あり
【0094】
<耐熱性(耐熱クリープ試験)>
クリープ試験として、高温状態で試験片に一定の荷重を長時間加え、変形量や破断するまでの時間を測定する試験を行った。具体的には下記1)~8)のようにして行った。
1)試験対象である各例のホットメルト樹脂組成物とコーティング棒を100℃のオーブンに入れて予熱した。
2)湿式成膜布(A)のポリウレタン(PU)樹脂層面にホットメルト樹脂組成物を200μGap(厚さ200μm)にて塗工し、直ちに湿式成膜布(B)のPU樹脂層面と貼り合わせを行った。
なお、湿式成膜布(A)及び湿式成膜布(B)としては、基材として用いる不織布上に、DMFを媒体としたポリウレタン樹脂溶液(商品名「レザミンCU-4340NS」(樹脂固形分30質量%、大日精化工業社製)をDMFで固形分15質量%に希釈した溶液)を塗工し、水槽中で凝固・脱DMFを行った後、乾燥を行うことでPU樹脂層を形成したもので、基材上に乾燥後の厚みが800~1000μmのポーラス層が形成されている合成擬革を用いた。
3)上記貼り合わせ品を25℃/60%RHで24時間硬化させた後、下記手順で耐熱性を測定した。
4)オーブンを170℃に設定した。また、貼り合わせ品を幅3cm、長さ12cm以上で切り取り、試験片とした。
5)試験片端部を貼り合わせ面で剥離させ、湿式成膜布(A)側と湿式成膜布(B)側にそれぞれクランプを取り付け固定し、片側に3kgの重りを吊るした。
6)170℃のオーブンに入れ試験試料を吊るした後、素早くオーブンのドアを閉めた。
7)ドアを閉めた後、5分間放置した。
8)5分間経過後、直ちに試験片を取り出し、170℃/5分間放置にて剥離した長さ及び剥離状態を観察し、以下の評価基準にしたがって、耐熱性を評価した。
A:剥離した長さが2cm未満で、剥離状態が基材破壊である。
B:剥離した長さが2cm以上5cm未満で、剥離状態が基材破壊である。
C:剥離した長さが5cm以上、又は剥離状態がPU樹脂面の剥離である。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】