IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-芽胞形成細菌の検出方法 図1
  • 特開-芽胞形成細菌の検出方法 図2
  • 特開-芽胞形成細菌の検出方法 図3
  • 特開-芽胞形成細菌の検出方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165198
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】芽胞形成細菌の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6844 20180101AFI20231108BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20231108BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20231108BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20231108BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z
C12Q1/04 ZNA
C12Q1/689 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075948
(22)【出願日】2022-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 遥介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 惇
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】簡便かつ迅速に、また低コストに、高い耐熱性を有する芽胞を形成する芽胞形成細菌を検出できる芽胞形成細菌の検出方法、芽胞形成細菌の芽胞耐熱性を評価する芽胞形成細菌の芽胞耐熱性の評価方法、芽胞形成細菌の加熱処理条件を決定することを特徴とする、芽胞形成細菌の加熱処理条件の決定方法、及び当該方法に用いるDUF421-DUF1657遺伝子を有する芽胞形成細菌検出用のキット、を提供する。
【解決手段】特定配列を有するオリゴヌクレオチド対を核酸プライマーとして用いて、DUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列で表される核酸を増幅し、増幅産物の有無により中性条件で増殖可能な芽胞形成細菌を検出する、バチルス属に属する芽胞形成細菌の検出方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記オリゴヌクレオチド(a)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(b)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(d)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(e)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(f)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(g)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(h)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(i)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、並びに
下記オリゴヌクレオチド(k)及び(l)からなるオリゴヌクレオチド対
からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド対を核酸プライマーとして用いて、DUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列で表される核酸を増幅し、
増幅産物の有無により中性条件で増殖可能なバチルス(Bacillus)属に属する芽胞形成細菌を検出する、
バチルス属に属する芽胞形成細菌の検出方法。

(a)配列番号1で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号2で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(c)配列番号3で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号3で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(d)配列番号4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(e)配列番号5で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号5で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(f)配列番号6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号6で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(g)配列番号7で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号7で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(h)配列番号8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号8で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(i)配列番号9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号9で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(j)配列番号10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号10で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(k)配列番号11で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号11で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(l)配列番号12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号12で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
前記増幅産物により前記芽胞形成細菌の同定を行う、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記増幅産物の有無により前記芽胞形成細菌の芽胞耐熱性を評価する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
下記オリゴヌクレオチド(a)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(b)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(d)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(e)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(f)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(g)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(h)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(i)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、並びに
下記オリゴヌクレオチド(k)及び(l)からなるオリゴヌクレオチド対
からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド対を核酸プライマーとして用いて、DUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列で表される核酸を増幅し、
増幅産物の有無により中性条件で増殖可能なバチルス(Bacillus)属に属する芽胞形成細菌の芽胞耐熱性を評価する、
バチルス属に属する芽胞形成細菌の芽胞耐熱性の評価方法。

(a)配列番号1で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号2で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(c)配列番号3で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号3で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(d)配列番号4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(e)配列番号5で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号5で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(f)配列番号6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号6で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(g)配列番号7で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号7で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(h)配列番号8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号8で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(i)配列番号9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号9で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(j)配列番号10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号10で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(k)配列番号11で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号11で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(l)配列番号12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号12で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
【請求項5】
請求項3又は4の方法によって評価した芽胞耐熱性に基づいて、前記芽胞形成細菌の加熱処理条件を決定することを特徴とする、バチルス属に属する芽胞形成細菌の加熱処理条件の決定方法。
【請求項6】
前記中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌が、バチルス・サブチルス群(Bacillus subtilis group)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、及びバチルス・セレウス(Bacillus cereus)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記オリゴヌクレオチド(a)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(b)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(d)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(e)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(f)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(g)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(h)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、及び前記オリゴヌクレオチド(i)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド対をプライマー対として用いてポリメラーゼ連鎖反応法によりゲノム上のDUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列で表される核酸を増幅し、
前記オリゴヌクレオチド(k)及び(l)からなるオリゴヌクレオチド対をプライマー対として用いてポリメラーゼ連鎖反応法によりプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列で表される核酸を増幅する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記オリゴヌクレオチド(a)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対、
前記オリゴヌクレオチド(d)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(e)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(f)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(g)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(h)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、並びに前記オリゴヌクレオチド(i)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対からなる群より選ばれる1対のオリゴヌクレオチド対、並びに
前記オリゴヌクレオチド(k)及び(l)からなるオリゴヌクレオチド対、
を、混合して混合プライマー対として用いる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記オリゴヌクレオチド(a)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対、並びに前記オリゴヌクレオチド(b)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド対を用いて増幅産物が確認されたときは、前記芽胞形成細菌をバチルス・サブチルス群と同定し、
前記オリゴヌクレオチド(d)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(e)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(f)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(g)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(h)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、並びに前記オリゴヌクレオチド(i)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド対を用いて増幅産物が確認されたときは、前記芽胞形成細菌をバチルス・コアグランスと同定し、
前記オリゴヌクレオチド(k)及び(l)からなるオリゴヌクレオチド対を用いて増幅産物が確認されたときは、前記芽胞形成細菌をバチルス・セレウスと同定する、
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
下記オリゴヌクレオチド(a)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(b)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(d)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(e)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(f)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(g)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(h)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(i)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、並びに
下記オリゴヌクレオチド(k)及び(l)からなるオリゴヌクレオチド対
からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド対を有する、DNAキット。

(a)配列番号1で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス(Bacillus)属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号2で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(c)配列番号3で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号3で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(d)配列番号4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(e)配列番号5で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号5で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(f)配列番号6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号6で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(g)配列番号7で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号7で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(h)配列番号8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号8で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(i)配列番号9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号9で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(j)配列番号10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号10で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(k)配列番号11で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号11で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(l)配列番号12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号12で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
【請求項11】
前記バチルス属属に属する菌が、バチルス・サブチルス群(Bacillus subtilis group)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)及びバチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)である、
請求項10に記載のDNAキット。
【請求項12】
前記オリゴヌクレオチド(a)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対、並びに前記オリゴヌクレオチド(b)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対がバチルス・サブチルス群の検出に使用できるオリゴヌクレオチド対であり、
前記オリゴヌクレオチド(d)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(e)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(f)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(g)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、前記オリゴヌクレオチド(h)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、並びに前記オリゴヌクレオチド(i)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対がバチルス・コアグランスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド対であり、
前記オリゴヌクレオチド(k)及び(l)からなるオリゴヌクレオチド対がバチルス・セレウスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド対である、
請求項9~11のいずれか1項に記載のDNAキット。
【請求項13】
下記オリゴヌクレオチド(a)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(b)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(d)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(e)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(f)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(g)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(h)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、
下記オリゴヌクレオチド(i)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、並びに
下記オリゴヌクレオチド(k)及び(l)からなるオリゴヌクレオチド対。

(a)配列番号1で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス(Bacillus)属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号2で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(c)配列番号3で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号3で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(d)配列番号4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(e)配列番号5で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号5で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(f)配列番号6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号6で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(g)配列番号7で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号7で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(h)配列番号8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号8で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(i)配列番号9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号9で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(j)配列番号10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号10で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(k)配列番号11で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号11で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(l)配列番号12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号12で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芽胞形成細菌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芽胞形成細菌(spore-forming bacteria)は、熱、乾燥、紫外線等の物理的処理に対し高い耐久性を示す芽胞を形成する。芽胞形成細菌としては、例えばバチルス(Bacillus)属細菌やクロストリジウム(Clostridium)属細菌を代表とした多くの菌種が知られており、このような菌種は特に栄養飢餓状態や乾燥、高温条件下などの生育に適さない環境に晒されることで芽胞を形成する。
バチルス属に属する細菌等の芽胞形成細菌は水中や土壌等に広く生育しているため、食品原料との接触や飲食品の製造工程において飲食品(製品)内に混入する危険性が高い。通常、多くの菌は例えば75℃で30分間の加熱処理を行うことで死滅する。しかし、芽胞形成細菌の中には100℃付近の高温環境にも耐えうる芽胞を形成するものがあり、このような菌は75℃で30分間の加熱処理条件では十分に殺菌できない場合がある。芽胞形成細菌の殺菌が不十分である場合、芽胞形成細菌が製品内で増殖し、製品の腐敗や変敗を引き起こす原因となり得る。他方、このような高い耐熱性を示す芽胞形成細菌であっても、加熱処理温度をより高く設定することで殺菌することは可能であるが、高温処理による原料や製品の劣化、加熱処理コスト等を考慮すると、混入した芽胞形成細菌の耐熱性を判断、考慮して加熱処理条件を適宜決定することが好ましい。
【0003】
これまで芽胞形成細菌の同定方法は、芽胞形成細菌を単離して培地で培養した後に、顕微鏡でその形態を観察し同定することにより行われてきた。しかし、この方法は、判定の指標となる各菌種の特徴的な形態が形成されるまでに2週間程度の期間が必要であり、また、正確な判定には熟練を要する等の問題があり、迅速かつ正確な検出を行うことが難しかった。
また、例えば同一菌種の芽胞形成細菌であっても、その芽胞耐熱性は株ごとに異なることが明らかとなっている。例えば非特許文献1には、芽胞形成細菌の1種である枯草菌(バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis))の芽胞が、多様な耐熱性を示すことが開示されている。また、非特許文献2には、バチルス・サブチルスの比較ゲノム解析により見出されたトランスポゾン由来spoVA2mobオペロンの中の、DUF421ドメイン及びDUF1657ドメインを有する機能未知のタンパク質をコードする遺伝子が、芽胞耐熱性の向上に寄与することが報告されている。
【0004】
芽胞形成細菌の芽胞耐熱性の評価方法としては、例えば従来より、上記のように芽胞形成細菌の単離・同定を行い、さらにその菌種に適した生育培地、温度、時間を考慮した上で芽胞を形成させ、種々の加熱処理条件に晒した際の生存率を測定することにより芽胞耐熱性を評価する方法が用いられている。
また、例えば特許文献1には、芽胞の硬度をカンチレバーが装備された原子間力顕微鏡等により、リアルタイムで迅速かつ正確な芽胞の耐久性評価・測定を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-183207号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Berendsen et al., Food Microbiol., 2015, Vol. 45, 18-25
【非特許文献2】Berendsen et al., ISME J., 2016, Vol. 10, 2633-2642
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような従来法により芽胞形成細菌の芽胞耐熱性を評価する場合、芽胞形成細菌を培養して芽胞を形成させた後に芽胞耐熱性を測定する必要があるため、芽胞耐熱性の評価には長時間を要する。さらに、原料中に存在する芽胞の芽胞耐熱性を直接評価することができないため、別途原料中から芽胞形成細菌を単離する必要があり、手間とコストがかかるといった問題もある。
また特許文献1のような方法で芽胞耐熱性を測定する場合には、測定用の大がかりな設備が必要となり、設備コストが高くなるというデメリットがある。
【0008】
本発明は、簡便かつ迅速に、また低コストに、高い耐熱性を有する芽胞を形成する芽胞形成細菌を検出できる、芽胞形成細菌の検出方法の提供を課題とする。
また本発明は、簡便かつ迅速に、また低コストに、芽胞形成細菌の芽胞耐熱性を評価する、芽胞形成細菌の芽胞耐熱性の評価方法の提供を課題とする。
また本発明は、芽胞耐熱性を評価することにより商業的無菌性が確保される芽胞形成細菌の加熱処理条件を決定する、芽胞形成細菌の加熱処理条件の決定方法の提供を課題とする。
さらに本発明は、上記方法に好適に用いることができる高い耐熱性を有する芽胞を形成する芽胞形成細菌検出用のキットないしオリゴヌクレオチド対の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。本発明者らは、バチルス・サブチルスの比較ゲノム解析により芽胞耐熱性の向上に寄与するとして見出されたトランスポゾン由来spoVA2mobオペロンの中のDUF421ドメイン及びDUF1657ドメインを有する機能未知のタンパク質をコードする遺伝子(以下、「DUF421-DUF1657遺伝子」ともいう。)に着目し、当該遺伝子をDNAマーカーとして用いる芽胞耐熱性の評価方法の開発を試みた。その結果、DUF421-DUF1657遺伝子の特定の領域(以下、「特異的な領域」ともいう)の塩基配列とアニールできるオリゴヌクレオチド対をプライマー対として用いて、DUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列を増幅することで、芽胞耐熱性に関与するDUF421-DUF1657遺伝子の有無を判別できるだけでなく、増幅した核酸のサイズ情報から菌種を同定できることを明らかにした。また、DUF421-DUF1657遺伝子の増幅産物の有無と芽胞耐熱性に相関が見られ、芽胞形成細菌について上記のプライマーを用いてDUF421-DUF1657遺伝子の増幅産物を得ることができる場合、当該芽胞形成細菌が形成する芽胞は高い耐熱性を有することを見出した。また、当該遺伝子を検出することにより、原料中に存在する芽胞形成細菌の芽胞耐熱性を評価・判断することができ、これによって原料の適切な加熱処理条件を決定できることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0010】
本発明は、下記オリゴヌクレオチド(a)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対、下記オリゴヌクレオチド(b)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対、下記オリゴヌクレオチド(d)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、下記オリゴヌクレオチド(e)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、下記オリゴヌクレオチド(f)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、下記オリゴヌクレオチド(g)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、下記オリゴヌクレオチド(h)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、下記オリゴヌクレオチド(i)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、並びに下記オリゴヌクレオチド(k)及び(l)からなるオリゴヌクレオチド対、からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド対を核酸プライマーとして用いて、DUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列で表される核酸を増幅し、増幅産物の有無により中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌を検出する、バチルス属に属する芽胞形成細菌の検出方法に関する。

(a)配列番号1で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号2で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(c)配列番号3で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号3で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(d)配列番号4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(e)配列番号5で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号5で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(f)配列番号6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号6で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(g)配列番号7で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号7で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(h)配列番号8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号8で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(i)配列番号9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号9で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(j)配列番号10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号10で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(k)配列番号11で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号11で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(l)配列番号12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号12で表される塩基配列との同一性が80%以上であり、かつプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
【0011】
また本発明は、前記増幅産物により中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の芽胞耐熱性を評価する、バチルス属に属する芽胞形成細菌の芽胞耐熱性の評価方法に関する。
また本発明は、前記方法により評価した芽胞耐熱性に基づいて、バチルス属に属する芽胞形成細菌の加熱処理条件を決定する、バチルス属に属する芽胞形成細菌の加熱処理条件の決定方法に関する。
さらに本発明は、上記方法に用いる芽胞形成細菌検出用のキット及びオリゴヌクレオチド対に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の芽胞形成細菌の検出方法によれば、高耐熱性の芽胞形成能を有するバチルス属に属する芽胞形成細菌を、簡便かつ迅速に、また低コストに検出することができる。また、本発明の芽胞形成細菌の芽胞耐熱性の評価方法によれば、簡便かつ迅速に、また低コストにバチルス属に属する芽胞形成細菌の形成する芽胞の耐熱性を評価することができる。さらに本発明の芽胞形成細菌の加熱処理条件の決定方法によれば、芽胞形成細菌を殺菌するための適切な加熱処理条件を決定することができる。さらに、本発明の芽胞形成細菌検出用のキット及びオリゴヌクレオチド対は、上記方法に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】オリゴヌクレオチド(a)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対、オリゴヌクレオチド(e)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、並びにオリゴヌクレオチド(k)及び(l)からなるオリゴヌクレオチド対を用いて増幅したPCR産物の電気泳動の結果を示した図面代用写真である。
図2】オリゴヌクレオチド(a)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対と、オリゴヌクレオチド(d)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、オリゴヌクレオチド(e)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、オリゴヌクレオチド(f)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、オリゴヌクレオチド(g)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、オリゴヌクレオチド(h)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、並びにオリゴヌクレオチド(i)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対からなる群より選ばれる1対のヌクレオチド対と、オリゴヌクレオチド(k)及び(l)からなるオリゴヌクレオチド対とを、それぞれ組み合わせて用いて増幅したPCR産物の電気泳動の結果を示した図面代用写真である。
図3】オリゴヌクレオチド(b)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対と、オリゴヌクレオチド(d)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、オリゴヌクレオチド(e)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、オリゴヌクレオチド(f)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、オリゴヌクレオチド(g)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、オリゴヌクレオチド(h)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対、並びにオリゴヌクレオチド(i)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対からなる群より選ばれる1対のヌクレオチド対と、オリゴヌクレオチド(k)及び(l)からなるオリゴヌクレオチド対とを、それぞれ組み合わせて用いて増幅したPCR産物の電気泳動の結果を示した図面代用写真である。
図4】Multiplex PCRによって陰性又は陽性と判定されたバチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)の菌株群におけるD105℃値を示した箱ひげ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の芽胞形成細菌の検出方法は、DUF421-DUF1657遺伝子の特定の部分塩基配列、すなわちバチルス属に属する芽胞形成細菌のうちDUF421-DUF1657遺伝子を有するバチルス属に属する芽胞形成細菌の各菌種にそれぞれ特異的な領域(可変領域)にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド対を用いてDUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列を増幅させて増幅産物の有無を確認することにより、DUF421-DUF1657遺伝子を有する芽胞形成細菌を種レベルで特異的に識別・検出する方法である。ここで、「可変領域」とは、DUF421-DUF1657遺伝子中で塩基変異が蓄積しやすい領域であり、この領域の塩基配列は種間で大きく異なる。なお、本明細書において「ストリンジェントな条件」としては、例えばMolecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook, David W. Russell., Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられ、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8~16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。
また本発明の芽胞形成細菌の芽胞耐熱性の評価方法は、DUF421-DUF1657遺伝子を有するバチルス属に属する芽胞形成細菌がDUF421-DUF1657遺伝子を有しない芽胞形成細菌と比較して芽胞耐熱性が向上していることから、DUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列の増幅産物の有無を確認することで、芽胞耐熱性を評価する方法である。また、本発明の芽胞形成細菌の加熱処理条件の決定方法は、芽胞耐熱性の結果に基づき、その芽胞形成細菌に適した加熱処理条件を決定する方法である。
以下、上記本発明の各方法をまとめて、「本発明の方法」ともいう。
【0015】
本発明ないし本明細書において、「DUF421-DUF1657遺伝子」とは、spoVA2mobオペロン上に存在する、DUF421ドメイン及びDUF1657ドメインを有するタンパク質をコードする遺伝子である。目的のタンパク質がDUF421ドメイン及びDUF1657ドメインを有しているかは、目的のタンパク質についてNCBI BLASTp解析を行い、query配列にはバチルス・サブチルス B4146株由来のDUF421-DUF1657遺伝子がコードするアミノ酸配列(GenBank: KIN50158.1)を入力し、Algorithmにはblastp(protein-protein BLAST)を用いて解析を実行し、90%以上のcoverageを有するか否かにより決定することができる。本発明ないし本明細書では、上記の方法により90%以上のcoverageを示すアミノ酸配列をコードする遺伝子を、「DUF421-DUF1657遺伝子」とする。
【0016】
本発明において、「中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌」とは、芽胞を形成するバチルス属に属する細菌であって、pH4.6以上、8.0未満の好気的条件下で増殖可能な芽胞形成細菌であれば特に制限されない。このようなバチルス属に属する芽胞形成細菌としては、中性飲食品において腐敗、変敗の原因となり得るバチルス属に属する菌が挙げられ、例えばバチルス・サブチルス等が含まれるバチルス・サブチルス群(Bacillus subtilis group)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・ピュミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・シンプレックス(Bacillus simplex)、バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis)、バチルス・ブレヴィス(Bacillus brevis)、バチルス・レンタス(Bacillus lentus)、バチルス・ミコイデス(Bacillus mycoides)、等が挙げられる。中でも、前記芽胞形成細菌はバチルス・サブチルス群、バチルス・コアグランス及びバチルス・セレウスであることが好ましい。
【0017】
<バチルス・サブチルス群>
本発明ないし本明細書において、前記「バチルス・サブチルス群」とは、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のデータベースにおいて規定(Taxonomy ID:653685)される細菌群である。本発明の方法において、前記バチルス・サブチルス群は、バチルス・サブチルス、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・シアメンシス(Bacillus siamensis)、バチルス・ベレゼンシス(Bacillus velezensis)、バチルス・パラリケニフォルミス(Bacillus paralicheniformis)、及びバチルス・ソノレンシス(Bacillus sonorensis)からなる群であることが好ましく、バチルス・サブチルス、バチルス・リケニフォルミス、バチルス・アミロリケファシエンス、バチルス・シアメンシス、及びバチルス・ベレゼンシスからなる群であることがより好ましく、バチルス・サブチルスであることがさらに好ましい。
【0018】
バチルス・サブチルス、バチルス・リケニフォルミス、バチルス・アミロリケファシエンスの3種については、非特許文献2にあるように、DUF421-DUF1657遺伝子の有無と芽胞耐熱性は相関関係にある。すなわち上記3種の菌において、ゲノム上にDUF421-DUF1657遺伝子を有する菌株は、ゲノム上にDUF421-DUF1657遺伝子を有しない菌株と比較して、高い耐熱性を有する芽胞を形成する。
また、本発明者らはバチルス・サブチルスB4146株由来のDUF421-DUF1657遺伝子がコードするアミノ酸配列を用いてBLASTp解析を行い、バチルス・シアメンシス、バチルス・ベレゼンシス、バチルス・パラリケニフォルミス、及びバチルス・ソノレンシスの4種についても、多くの菌株でゲノム上にDUF421-DUF1657遺伝子が保存されていることを明らかにした。なお、バチルス・シアメンシスSCSIO05746株、及びバチルス・ベレゼンシス9912D株由来の2種のDUF421-DUF1657遺伝子の塩基配列(当該遺伝子がコードするタンパク質、GenBank: AUJ76361.1、及びGenBank: APA02936.1)と、バチルス・サブチルスB4146株、バチルス・リケニフォルミスATCC9789株、及びバチルス・アミロリケファシエンスSRCM101267株由来のDUF421-DUF1657遺伝子の塩基配列との同一性は、いずれも99%以上である。よって、バチルス・シアメンシス、バチルス・ベレゼンシス、バチルス・パラリケニフォルミス、及びバチルス・ソノレンシスの4種においても、バチルス・サブチルス、バチルス・リケニフォルミス、バチルス・アミロリケファシエンスの3種と同様に、DUF421-DUF1657遺伝子の有無と芽胞耐熱性は相関関係にあると推測することができる。すなわち、上記の4種においても、DUF421-DUF1657遺伝子を有する菌株は、DUF421-DUF1657遺伝子を有しない菌株と比較して、高い耐熱性を有する芽胞を形成すると考えられる。
【0019】
本発明の方法により、供試菌株としてバチルス・サブチルス群の菌株を用いた際にDUF421-DUF1657遺伝子が検出される場合(後述の核酸プライマーを用いてDUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列で表される核酸の増幅したとき、増幅産物の存在が確認され、「陽性」と判断される場合)、当該DUF421-DUF1657遺伝子を有するバチルス・サブチルス群の菌株は、形成される芽胞が高い耐熱性を有する。一方、後述の核酸プライマーを用いて増幅反応を行っても増幅産物が確認できず「陰性」と判断される場合、供試菌株はDUF421-DUF1657遺伝子を有しておらず、形成される芽胞の耐熱性は、当該DUF421-DUF1657遺伝子を有するバチルス・サブチルス群の菌株の芽胞耐熱性よりも相対的に低い。
前記DUF421-DUF1657遺伝子を有するバチルス・サブチルス群の菌株のD値(Decimal Reduction Value)は、公知の情報を参照して適宜決定することができる。例えば、Berendsen et al., The ISME Journal (2016) 10, 2633-2642には、トランスポゾン由来spoVA2mobオペロンを少なくとも1コピー以上有するバチルス・サブチルスの112.5℃におけるD値(D112.5℃値)が1分間以上であることが示されている。当該トランスポゾン由来spoVA2mobオペロンにはDUF421-DUF1657遺伝子が含まれていることから、例えば本発明の方法により陽性と判断されたバチルス・サブチルス群のD112.5℃値を1分間以上と評価・決定することができる。
なお、本明細書において、例えば「D100℃値」とあるのは、100℃の加熱処理により、対象菌数を加熱処理前から1/10にまで減少させるのに要する時間を意味する。
【0020】
<バチルス・コアグランス>
また本発明者らはバチルス・サブチルスB4146株由来のDUF421-DUF1657遺伝子がコードするアミノ酸配列を用いてBLASTp解析を行い、バチルス・コアグランスについても、多くの菌株でゲノム上にDUF421-DUF1657遺伝子を保存していることを明らかにした。なお、バチルス・サブチルスB4146株由来のDUF421-DUF1657遺伝子の塩基配列と、バチルス・コアグランスDSM1=ATCC7050株(NBRC12583株と同一株)由来のDUF421-DUF1657遺伝子の塩基配列との同一性は、約74.0%である。
【0021】
本発明の方法により、供試菌株としてバチルス・コアグランスの菌株を用いた際にDUF421-DUF1657遺伝子が検出される場合(後述の核酸プライマーを用いてDUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列で表される核酸の増幅したとき、増幅産物の存在が確認され、「陽性」と判断される場合)、当該DUF421-DUF1657遺伝子を有するバチルス・コアグランスの菌株は、形成される芽胞が高い耐熱性を有する。一方、後述の核酸プライマーを用いて増幅反応を行っても増幅産物が確認できず「陰性」と判断される場合、供試菌株はDUF421-DUF1657遺伝子を有しておらず、形成される芽胞の耐熱性は、当該DUF421-DUF1657遺伝子を有するバチルス・コアグランスの菌株の芽胞耐熱性よりも相対的に低い。
前記DUF421-DUF1657遺伝子を有するバチルス・コアグランスの菌株のD値は、下記に示す実施例の結果を参照して適宜決定することもできる。すなわち、例えば実施例の結果より、バチルス・コアグランスのD105℃値を10分以上とすることができる。また、例えば上記のようにバチルス・サブチルスの112.5℃におけるD値(D112.5℃値)を1分間以上とできることから、本発明の方法により陽性と判断されたバチルス・コアグランスのD112.5℃値も、同様に1分間以上と評価・決定することもできる。
【0022】
<バチルス・セレウス>
また本発明者らはバチルス・サブチルスB4146株由来のDUF421-DUF1657遺伝子がコードするアミノ酸配列を用いてBLASTp解析を行い、バチルス・セレウスについては、ほぼすべての菌株のゲノムにDUF421-DUF1657遺伝子が保存されており、さらにバチルス・セレウスの菌株のうち嘔吐毒産生株特異的に付加的にDUF421-DUF1657遺伝子が保存されていることを明らかにした。これは嘔吐毒産生遺伝子とDUF421-DUF1657遺伝子が同一プラスミド上にコードされていることが理由であると考えられる。以下、当該嘔吐毒産生株特異的に付加的なDUF421-DUF1657遺伝子を「プラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子」とも称す。なお、バチルス・サブチルスB4146株由来のDUF421-DUF1657遺伝子の塩基配列と、バチルス・セレウスAH187株由来のプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子の塩基配列との同一性は、約66.9%である。
なお、本発明ないし本明細書において、特段の断りがない場合、「DUF421-DUF1657遺伝子」とは、バチルス・セレウスについては、バチルス・セレウス由来のプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子のことを意味する。
【0023】
本発明の方法により、供試菌株としてバチルス・セレウスの菌株を用いた際にプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子が検出される場合(後述の核酸プライマーを用いてプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列で表される核酸の増幅したとき、増幅産物の存在が確認され、「陽性」と判断される場合)、プラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有するバチルス・セレウスの菌株は、形成される芽胞が高い耐熱性を有する。一方、後述の核酸プライマーを用いて増幅反応を行っても増幅産物が確認できず「陰性」と判断される場合、供試菌株はプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有しておらず、形成される芽胞の耐熱性は、当該プラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有するバチルス・セレウスの菌株の芽胞耐熱性よりも相対的に低い。
前記プラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有するバチルス・セレウスの菌株のD値は、公知の情報を参照して適宜決定することができる。例えば、Carlin et al., Food Microbiology (2006) 109, 132-138、には、非嘔吐毒産生株は全てD90℃値が300分以下であることが示されている。上記の通り、本発明者らの解析により、非嘔吐毒産生株はプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を持たないと考えられるため、本発明の方法により陰性と判断されたバチルス・セレウスのD90℃値を300分間以下と評価・決定することができる。また、事前にバチルス・セレウスのD値を測定し(例えば下記実施例に記載の方法等によりD値を測定し)、測定結果に従って本発明の方法により陰性と判断されたバチルス・セレウスのD値を特定の値以下として評価・決定することもできる。
【0024】
本発明の方法によって検出するDUF421-DUF1657遺伝子は、高い耐熱性を有する芽胞を形成する芽胞形成細菌のゲノム又はプラスミドに保存されている。一方で、DUF421-DUF1657遺伝子の上流部分(5’-末端側)に存在するDUF421ドメインをコードする塩基配列は、高耐熱性を有しない芽胞を形成する芽胞形成細菌のゲノムにも保存されている場合がある。そのため、本発明の方法に用いるオリゴヌクレオチドは、下記の条件の全てを満たすオリゴヌクレオチドである。
すなわち、本発明の方法に用いるオリゴヌクレオチドは、GC含有率が30%~80%であり、自己アニールせず、Tm値が約55~65℃であり、検出するDUF421-DUF1657遺伝子の由来となる菌種に特異的な領域(バチルス・セレウスの場合は、さらにゲノムにコードされたDUF421-DUF1657遺伝子の配列を検出しないような、プラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子のみに特異的な領域)で、かつ菌種内では保存性の高い領域にアニールするオリゴヌクレオチドであり、本発明の方法に用いるオリゴヌクレオチド対によって増幅されるDNA断片の長さが1000bp以下であり、オリゴヌクレオチド対がDUF421領域(DUF421ドメインをコードする塩基配列)とDUF1657領域(DUF1657ドメインをコードする塩基配列)を跨ぐような位置に設計されているオリゴヌクレオチドである。
なお、前記DUF421領域とDUF1657領域の範囲は、例えば各タンパク質について、NCBIのデータベースに記載の情報を参照して決定することができる。
【0025】
前記オリゴヌクレオチド(a)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対(以下、「オリゴヌクレオチド対(1)」ともいう)、並びに前記オリゴヌクレオチド(b)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対(以下、「オリゴヌクレオチド対(2)」ともいう)は、バチルス・サブチルス群由来のDUF421-DUF1657遺伝子の検出に使用できる。なお、本明細書において、「DUF421-DUF1657遺伝子の検出に使用できる」とは、DUF421-DUF1657遺伝子の特定領域にハイブリダイズでき、オリゴヌクレオチド対をプライマー対として使用した際にDUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列からなる核酸を増幅できることを意味する。
前記オリゴヌクレオチド(a)において、アニーリングの観点から、配列番号1で表される塩基配列との同一性は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。また前記オリゴヌクレオチド(a)として、配列番号1で表される塩基配列において1個ないし数個(例えば、1個以上4個以下、好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個)、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌(好ましくはバチルス・サブチルス群)の検出に使用できるオリゴヌクレオチドも好ましい。なお、前記オリゴヌクレオチド(a)において、配列番号1で表される塩基配列中の「R」とは、アデニン(A)とグアニン(G)の混合塩基を意味する。
前記オリゴヌクレオチド(b)において、アニーリングの観点から、配列番号2で表される塩基配列との同一性は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。また前記オリゴヌクレオチド(b)として、配列番号2で表される塩基配列において1個ないし数個(例えば、1個以上4個以下、好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個)、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌(好ましくはバチルス・サブチルス群)の検出に使用できるオリゴヌクレオチドも好ましい。
前記オリゴヌクレオチド(c)において、アニーリングの観点から、配列番号3で表される塩基配列との同一性は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。また前記オリゴヌクレオチド(c)として、配列番号3で表される塩基配列において1個ないし数個(例えば、1個以上4個以下、好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個)、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌(好ましくはバチルス・サブチルス群)の検出に使用できるオリゴヌクレオチドも好ましい。
なお本明細書において、塩基配列の同一性は、NCBI Blastn解析によって計算されたIdentitiesの値を用いている。解析の際、Program selectionにはSomewhat similar sequences(blastn)を用いている。
【0026】
前記オリゴヌクレオチド対(1)及び前記オリゴヌクレオチド対(2)をそれぞれ用いてバチルス・サブチルス群由来のゲノム上のDUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列を増幅して得られる増幅産物について、バチルス・サブチルスB4146株、及びバチルス・サブチルスATCC11774株由来のDUF421-DUF1657遺伝子の塩基配列を参照して説明する。
バチルス・サブチルスB4146株のDUF421-DUF1657遺伝子の塩基配列を配列番号13に、バチルス・サブチルスATCC11774株のDUF421-DUF1657遺伝子の塩基配列を配列番号14にそれぞれ示す。前記オリゴヌクレオチド(a)及び(c)は、配列番号13及び配列番号14に記載の塩基配列のうち、いずれもそれぞれ364位~381位まで、及び695位~712位までの領域に対応する。よって、例えば前記オリゴヌクレオチド対(1)、及びテンプレートとしてバチルス・サブチルス群由来のDUF421-DUF1657遺伝子を有するDNAを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った場合、増幅DNA断片の長さは約350bpとなる。
また前記オリゴヌクレオチド(b)及び(c)は、配列番号13及び配列番号14に記載の塩基配列のうち、いずれもそれぞれ658位~675位まで、及び695位~712位までの領域に対応する。よって、例えば前記オリゴヌクレオチド対(2)、及びテンプレートとしてバチルス・サブチルス群由来のDUF421-DUF1657遺伝子を有するDNAを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った場合、増幅DNA断片の長さは約55bpとなる。
【0027】
前記オリゴヌクレオチド(d)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(以下、「オリゴヌクレオチド対(3)」ともいう)、前記オリゴヌクレオチド(e)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(以下、「オリゴヌクレオチド対(4)」ともいう)、前記オリゴヌクレオチド(f)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(以下、「オリゴヌクレオチド対(5)」ともいう)、前記オリゴヌクレオチド(g)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(以下、「オリゴヌクレオチド対(6)」ともいう)、前記オリゴヌクレオチド(h)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(以下、「オリゴヌクレオチド対(7)」ともいう)、並びに前記オリゴヌクレオチド(i)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(以下、「オリゴヌクレオチド対(8)」ともいう)は、バチルス・コアグランス由来のDUF421-DUF1657遺伝子の検出に使用することができる。
前記オリゴヌクレオチド(d)において、アニーリングの観点から、配列番号4で表される塩基配列との同一性は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。また前記オリゴヌクレオチド(d)として、配列番号4で表される塩基配列において1個ないし数個(例えば、1個以上4個以下、好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個)、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌(好ましくはバチルス・コアグランス)の検出に使用できるオリゴヌクレオチドも好ましい。
前記オリゴヌクレオチド(e)において、アニーリングの観点から、配列番号5で表される塩基配列との同一性は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。また前記オリゴヌクレオチド(e)として、配列番号5で表される塩基配列において1個ないし数個(例えば、1個以上4個以下、好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個)、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌(好ましくはバチルス・コアグランス)の検出に使用できるオリゴヌクレオチドも好ましい。
前記オリゴヌクレオチド(f)において、アニーリングの観点から、配列番号6で表される塩基配列との同一性は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。また前記オリゴヌクレオチド(f)として、配列番号6で表される塩基配列において1個ないし数個(例えば、1個以上4個以下、好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個)、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌(好ましくはバチルス・コアグランス)の検出に使用できるオリゴヌクレオチドも好ましい。
前記オリゴヌクレオチド(g)において、アニーリングの観点から、配列番号7で表される塩基配列との同一性は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。また前記オリゴヌクレオチド(g)として、配列番号7で表される塩基配列において1個ないし数個(例えば、1個以上4個以下、好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個)、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌(好ましくはバチルス・コアグランス)の検出に使用できるオリゴヌクレオチドも好ましい。
前記オリゴヌクレオチド(h)において、アニーリングの観点から、配列番号8で表される塩基配列との同一性は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。また前記オリゴヌクレオチド(h)として、配列番号8で表される塩基配列において1個ないし数個(例えば、1個以上4個以下、好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個)、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌(好ましくはバチルス・コアグランス)の検出に使用できるオリゴヌクレオチドも好ましい。
前記オリゴヌクレオチド(i)において、アニーリングの観点から、配列番号9で表される塩基配列との同一性は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。また前記オリゴヌクレオチド(i)として、配列番号9で表される塩基配列において1個ないし数個(例えば、1個以上4個以下、好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個)、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌(好ましくはバチルス・コアグランス)の検出に使用できるオリゴヌクレオチドも好ましい。
前記オリゴヌクレオチド(j)において、アニーリングの観点から、配列番号10で表される塩基配列との同一性は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。また前記オリゴヌクレオチド(j)として、配列番号10で表される塩基配列において1個ないし数個(例えば、1個以上4個以下、好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個)、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌(好ましくはバチルス・コアグランス)の検出に使用できるオリゴヌクレオチドも好ましい。
【0028】
前記オリゴヌクレオチド対(3)、前記オリゴヌクレオチド対(4)、前記オリゴヌクレオチド対(5)、前記オリゴヌクレオチド対(6)、前記オリゴヌクレオチド対(7)、及び前記オリゴヌクレオチド対(8)をそれぞれ用いてバチルス・コアグランス由来のゲノム上のDUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列を増幅して得られる増幅産物について、バチルス・コアグランスDSM1=ATCC7050株由来のDUF421-DUF1657遺伝子の塩基配列を参照して説明する。
バチルス・コアグランスDSM1=ATCC7050株由来のDUF421-DUF1657遺伝子の塩基配列を配列番号15に示す。前記オリゴヌクレオチド(d)及び(j)は、配列番号15に記載の塩基配列のうち、それぞれ223位~240位まで、及び695位~712位までの領域に対応する。よって、例えば前記オリゴヌクレオチド対(3)、及びテンプレートとしてバチルス・コアグランス由来のDUF421-DUF1657遺伝子を有するDNAを用いてPCRを行った場合、増幅DNA断片の長さは約490bpとなる。
また前記オリゴヌクレオチド(e)及び(j)は、配列番号15に記載の塩基配列のうち、それぞれ246位~263位まで、及び695位~712位までの領域に対応する。よって、例えば前記オリゴヌクレオチド対(4)、及びテンプレートとしてバチルス・コアグランス由来のDUF421-DUF1657遺伝子を有するDNAを用いてPCRを行った場合、増幅DNA断片の長さは約465bpとなる。
また前記オリゴヌクレオチド(f)及び(j)は、配列番号15に記載の塩基配列のうち、それぞれ558位~575位まで、及び695位~712位までの領域に対応する。よって、例えば前記オリゴヌクレオチド対(5)、及びテンプレートとしてバチルス・コアグランス由来のDUF421-DUF1657遺伝子を有するDNAを用いてPCRを行った場合、増幅DNA断片の長さは約155bpとなる。
また前記オリゴヌクレオチド(g)及び(j)は、配列番号15に記載の塩基配列のうち、それぞれ577位~594位まで、及び695位~712位までの領域に対応する。よって、例えば前記オリゴヌクレオチド対(6)、及びテンプレートとしてバチルス・コアグランス由来のDUF421-DUF1657遺伝子を有するDNAを用いてPCRを行った場合、増幅DNA断片の長さは約135bpとなる。
また前記オリゴヌクレオチド(h)及び(j)は、配列番号15に記載の塩基配列のうち、それぞれ592位~609位まで、及び695位~712位までの領域に対応する。よって、例えば前記オリゴヌクレオチド対(7)、及びテンプレートとしてバチルス・コアグランス由来のDUF421-DUF1657遺伝子を有するDNAを用いてPCRを行った場合、増幅DNA断片の長さは約120bpとなる。
また前記オリゴヌクレオチド(i)及び(j)は、配列番号15に記載の塩基配列のうち、それぞれ634位~651位まで、及び695位~712位までの領域に対応する。よって、例えば前記オリゴヌクレオチド対(8)、及びテンプレートとしてバチルス・コアグランス由来のDUF421-DUF1657遺伝子を有するDNAを用いてPCRを行った場合、増幅DNA断片の長さは約80bpとなる。
【0029】
前記オリゴヌクレオチド(k)及び(l)からなるオリゴヌクレオチド対(以下、「オリゴヌクレオチド対(9)」ともいう)は、バチルス・セレウス由来のプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子の検出に使用することができる。
前記オリゴヌクレオチド(k)において、アニーリングの観点から、配列番号11で表される塩基配列との同一性は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。また前記オリゴヌクレオチド(k)として、配列番号11で表される塩基配列において1個ないし数個(例えば、1個以上4個以下、好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個)、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌(好ましくはバチルス・セレウス)の検出に使用できるオリゴヌクレオチドも好ましい。
前記オリゴヌクレオチド(l)において、アニーリングの観点から、配列番号12で表される塩基配列との同一性は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。また前記オリゴヌクレオチド(l)として、配列番号12で表される塩基配列において1個ないし数個(例えば、1個以上4個以下、好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個)、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌(好ましくはバチルス・セレウス)の検出に使用できるオリゴヌクレオチドも好ましい。
【0030】
前記オリゴヌクレオチド対(9)を用いてバチルス・セレウスのプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列を増幅して得られる増幅産物について、バチルス・セレウスAH187株由来のプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子の塩基配列を参照して説明する。
バチルス・セレウスAH187株由来のプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子の塩基配列を配列番号16に示す。前記オリゴヌクレオチド(k)及び(l)は、配列番号16に記載の塩基配列のうち、それぞれ457位~474位まで、及び699位~721位までの領域に対応する。よって、例えばオリゴヌクレオチド対(9)、及びテンプレートとしてバチルス・セレウス由来のプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有するDNAを用いてPCRを行った場合、増幅DNA断片の長さは約265bpとなる。
【0031】
核酸を増幅する方法として特に制限はなく、PCR法、リアルタイムPCR法、LCR(Ligase Chain Reaction)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-based Amplification)法、RCA(Rolling-circle amplification)法、LAMP(Loop mediated isothermal amplification)法など、通常の核酸増幅法を用いることができる。本発明においては、迅速性の点からPCR法を用いるのが好ましい。
PCRの条件は、目的の核酸(増幅DNA断片)を検出可能な程度に増幅することができれば特に制限されない。PCRの反応条件の好ましい一例としては、例えば、前記オリゴヌクレオチド対(1)、前記オリゴヌクレオチド対(2)、前記オリゴヌクレオチド対(3)、前記オリゴヌクレオチド対(4)、前記オリゴヌクレオチド対(5)、前記オリゴヌクレオチド対(6)、前記オリゴヌクレオチド対(7)、前記オリゴヌクレオチド対(8)、及び前記オリゴヌクレオチド対(9)からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド対を核酸プライマーとして用いてPCR法を行う場合、2本鎖DNAを1本鎖にする熱変性反応を94~98℃、好ましくは94℃で10~60秒間行い、プライマー対を1本鎖DNAにハイブリダイズさせるアニーリング反応を50~62℃、好ましくは58~60℃で30~60秒間行い、DNAポリメラーゼを作用させる伸長反応を約72℃で30~60秒間行い、これらを1サイクルとしたものを約30~35サイクル行う。
被検体にDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌が含まれる場合、本発明のオリゴヌクレオチド対をプライマー対として使用してPCRを行い、得られたPCR産物について電気泳動を行うことで、特定のサイズを有するDNA断片の増幅が認められる。このような操作を行うことにより、被検体にDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌が含まれているかを確認することができ、さらに増幅産物の長さから菌種を同定することができる。
【0032】
本発明の方法では、上記のオリゴヌクレオチド対を単独でプライマー対として用いてPCRを行っても良いし、複数種のオリゴヌクレオチド対を混合したものをプライマー対として用いてPCR(Multiplex PCR)を行っても良い。Multiplex PCR用のオリゴヌクレオチド対としても使用できるよう、本発明の方法に用いる各オリゴヌクレオチド対では、各菌種における増幅産物長が異なるように設計されている。
なお、前記オリゴヌクレオチド対(1)、及び前記オリゴヌクレオチド対(2)は、バチルス・サブチルス群由来のDUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列を特異的に増幅できるオリゴヌクレオチド対であり、バチルス・コアグランス及びバチルス・セレウス由来のDUF421-DUF1657遺伝子(バチルス・セレウスについては、バチルス・セレウス由来のゲノム上にコードされるDUF421-DUF1657遺伝子、及びプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子)の部分塩基配列は増幅しない。また、前記オリゴヌクレオチド対(3)、前記オリゴヌクレオチド対(4)、前記オリゴヌクレオチド対(5)、前記オリゴヌクレオチド対(6)、前記オリゴヌクレオチド対(7)、及び前記オリゴヌクレオチド対(8)は、バチルス・コアグランス由来のDUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列を特異的に増幅できるオリゴヌクレオチド対であり、バチルス・サブチルス群及びバチルス・セレウス由来のDUF421-DUF1657遺伝子(バチルス・セレウスについては、バチルス・セレウス由来のゲノム上にコードされるDUF421-DUF1657遺伝子、及びプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子)の部分塩基配列は増幅しない。さらに、前記オリゴヌクレオチド対(9)は、バチルス・セレウス由来のプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列を特異的に増幅できるオリゴヌクレオチド対であり、バチルス・セレウス由来のゲノム上にコードされるDUF421-DUF1657遺伝子、並びにバチルス・サブチルス群及びバチルス・コアグランス由来のDUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列は増幅しない。
【0033】
前記各オリゴヌクレオチド対を複数対組み合わせて用いてMultiplex PCRを行う場合(前記各オリゴヌクレオチド対を複数対組み合わせて混合プライマー対として用いてMultiplex PCRを行う場合)、好ましい各オリゴヌクレオチド対の組み合わせは、前記オリゴヌクレオチド対(1)及び前記オリゴヌクレオチド対(2)からなる群より選ばれる1対のオリゴヌクレオチド対(好ましくは前記オリゴヌクレオチド対(1))と、前記オリゴヌクレオチド対(3)、前記オリゴヌクレオチド対(4)、前記オリゴヌクレオチド対(5)、前記オリゴヌクレオチド対(6)、前記オリゴヌクレオチド対(7)、及び前記オリゴヌクレオチド対(8)からなる群より選ばれる少なくとも1対のオリゴヌクレオチド対と、前記オリゴヌクレオチド対(9)との組み合わせである。
【0034】
本発明において、DNA断片の増幅の確認は通常の方法で行うことができる。例えば増幅産物について電気泳動を行い増幅した遺伝子の大きさに対応するバンドの有無を確認する方法、増幅産物量を経時的に計測する方法、増幅産物の塩基配列を解読する方法等が挙げられるが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。本発明においては、DNA断片の増幅処理後に電気泳動を行い、増幅したDNA断片の大きさに対応するバンドの有無を確認する方法が好ましい。また、本発明において、増幅産物の検出は通常の方法で行うことができる。例えば増幅反応時に放射性物質などで標識されたヌクレオチドを取り込ませる方法、蛍光物質などで標識されたプライマーを用いる方法、増幅したDNA2本鎖の間にエチジウムブロマイドなどのDNAと結合することにより蛍光強度が強くなる蛍光物質を入り込ませる方法等が挙げられるが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。本発明においては、増幅したDNA2本鎖の間にDNAと結合することにより蛍光強度が強くなる蛍光物質を入り込ませる方法が好ましい。
【0035】
本発明の方法に用いる上記オリゴヌクレオチド(a)~(l)の調製方法は特に限定されない。例えば、設計した配列を基にして化学合成したり、試薬メーカーから購入することができる。設計した配列を基にして化学合成する場合には、オリゴヌクレオチド合成装置等を用いて合成することができる。また、合成後、吸着カラム、高速液体クロマトグラフィーや電気泳動法を用いて精製したものを用いることもできる。また、1個ないし数個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加された塩基配列を有するオリゴヌクレオチドについても、通常の方法を使用して合成できる。
また、試薬メーカーから購入する場合は、例えばFASMAC社のDNA/RNA受託合成サービスや、Thermo Fisher Scientific社のGeneArt人工遺伝子合成サービスを利用することができる。
【0036】
本発明において使用される被検体としては特に制限はなく、飲食品自体、飲食品の原材料、単離菌体、培養菌体等を用いることができ、中でも中性飲食品及びそれに用いられる原料を被検体として用いることが好ましい。このような中性飲食品の具体例としては、例えば緑茶飲料・紅茶飲料・麦茶飲料等の中性茶系飲料、コーヒー飲料、乳飲料、レトルト食品、及びそれらに用いられる原料等が挙げられる。
前記被検体からDNAを調製する方法としては、芽胞形成細菌の検出を行うのに十分な精製度及び量のDNAが得られるのであれば特に制限されず、未精製の状態でも使用できるが、さらに分離、抽出、濃縮、精製等の前処理をして使用することもできる。例えば、フェノール及びクロロホルム抽出を行って精製したり、市販の抽出キットを用いて精製して、核酸の純度を高めて使用することができる。また、被検体中のRNAを逆転写して得られるDNAを用いることもできる。また食品や原料中から菌を分離する方法は特に限定されず、例えば後述の実施例に記載の方法によって菌を分離することもできる。
【0037】
本発明の方法により原料又は製品中にDUF421-DUF1657遺伝子を有する芽胞形成細菌が検出される場合、当該芽胞形成細菌は高耐熱性の芽胞を形成する。そのため、このような芽胞形成細菌が検出された原料又は製品に対しては、加熱処理温度を当該芽胞形成細菌が十分に殺菌できるような条件(加熱処理食品の商業的無菌性が確保される条件)に設定することができる。なお、本明細書において加熱処理食品の「商業的無菌性」とは、熱を加えることで、通常の貯蔵、流通等の際の非冷蔵状態において食品中で繁殖しうる微生物や公衆衛生上有害な生存微生物(胞子を含む)を除去すること、又は水分活性管理と熱を加えて、貯蔵、流通等の際の通常の非冷蔵状態において食品中で繁殖しうる微生物を食品から除去すること、により達成される状態を意味する。
【0038】
本発明ないし本明細書において、加熱処理条件は、芽胞耐熱性(DUF421-DUF1657遺伝子の有無)の評価結果や、同定される菌種及び菌株に応じて適宜設定することができる。例えば、中性飲食品の各種原料から検出されるバチルス属に属する芽胞形成細菌の全てでDUF421-DUF1657遺伝子を持っていないことが確認された場合、あるいは原料から抽出されたバチルス属に属する芽胞形成細菌由来のDNAに対してDUF421-DUF1657遺伝子を検出するためのPCRの結果が陰性である場合は、当該原料中に高耐熱性の芽胞が含まれている可能性が極めて低いことを示しており、殺菌工程においてD112.5℃値=1分以下のように菌を十分に殺滅できる加熱条件を設定可能である。また、特定の殺菌工程を経た製品または製造中間品において、「中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌」が検出され、さらに本発明の方法により当該芽胞形成細菌がDUF421-DUF1657遺伝子を有することが認められた場合、当該殺菌条件が不十分であったと判断することができる。
また、予め各菌種、菌株の芽胞耐熱性を評価し、加熱処理条件を決定しておくことで、同一の菌種、菌株が検出された場合に当該条件をそのまま、或いは適宜変更して適用することもできる。各菌種、菌株を殺菌するのに十分な加熱処理条件(温度、時間、圧力等)は、例えば本技術分野における通常の方法に基づいて決定することもでき、また実施例に記載の方法によっても決定することができる。
【0039】
本発明の方法によれば、被検体の調製工程から高耐熱性の芽胞を形成する芽胞形成細菌の検出工程までを短時間で行うことができる。例えば下記の実施例6のように、各菌株のコロニーを植菌した懸濁液を被検体とする場合であれば半日程度、実施例7のように、原料を被検体として原料中に含まれる前記芽胞形成細菌を検出する場合であれば2日程度という短時間で行うことができる。
【0040】
本発明のDUF421-DUF1657遺伝子を有する芽胞形成細菌検出用のキット(以下、「本発明のキット」とも称す。)は、前記本発明の検出用オリゴヌクレオチド対をプライマー対として含有するものである。このキットは、本発明の方法に用いることができる。本発明のキットは、前記プライマー対の他に、目的に応じ、標識検出物質、緩衝液、核酸合成酵素(DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等)、酵素基質(dNTP,rNTP等)等、菌類の検出に通常用いられる物質を含有する。本発明のキットには、本発明の検出用オリゴヌクレオチドによって検出反応が可能であることを確認するための陽性対照(ポジティブコントロール)を含んでいてもよい。陽性対照としては、例えば、本発明の方法により増幅される領域を含んだDNAが挙げられる。
【0041】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の検出方法、芽胞耐熱性の評価方法、加熱処理条件の決定方法、芽胞形成細菌検出用のキット、及びオリゴヌクレオチド対を開示する。
【0042】
<1>
下記オリゴヌクレオチド(a)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対(1)、
下記オリゴヌクレオチド(b)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対(2)、
下記オリゴヌクレオチド(d)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(3)、
下記オリゴヌクレオチド(e)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(4)、
下記オリゴヌクレオチド(f)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(5)、
下記オリゴヌクレオチド(g)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(6)、
下記オリゴヌクレオチド(h)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(7)、
下記オリゴヌクレオチド(i)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(8)、並びに
下記オリゴヌクレオチド(k)及び(l)からなるオリゴヌクレオチド対(9)
からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド対を核酸プライマーとして用いて、DUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列で表される核酸を増幅し、
増幅産物の有無により中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌を検出する、
バチルス属に属する芽胞形成細菌の検出方法。

(a)配列番号1で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号1で表される塩基配列との同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・サブチルス群、の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号2で表される塩基配列との同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・サブチルス群、の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(c)配列番号3で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号3で表される塩基配列との同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・サブチルス群、の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(d)配列番号4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4で表される塩基配列との同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・コアグランス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(e)配列番号5で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号5で表される塩基配列との同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・コアグランス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(f)配列番号6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号6で表される塩基配列との同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・コアグランス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(g)配列番号7で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号7で表される塩基配列との同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・コアグランス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(h)配列番号8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号8で表される塩基配列との同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・コアグランス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(i)配列番号9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号9で表される塩基配列との同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・コアグランス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(j)配列番号10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号10で表される塩基配列との同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・コアグランス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(k)配列番号11で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号11で表される塩基配列との同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、かつプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・セレウス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
(l)配列番号12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は配列番号12で表される塩基配列との同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、かつプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・セレウス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチド。
【0043】
<2>
前記増幅産物により前記芽胞形成細菌の同定を行う、前記<1>に記載の方法。
<3>
前記増幅産物の有無により前記芽胞形成細菌の芽胞耐熱性を評価する、前記<1>又は<2>に記載の方法。
【0044】
<4>
前記オリゴヌクレオチド対(1)、前記オリゴヌクレオチド対(2)、前記オリゴヌクレオチド対(3)、前記オリゴヌクレオチド対(4)、前記オリゴヌクレオチド対(5)、前記オリゴヌクレオチド対(6)、前記オリゴヌクレオチド対(7)、前記オリゴヌクレオチド対(8)、及び前記オリゴヌクレオチド対(9)からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド対を核酸プライマーとして用いて、DUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列で表される核酸を増幅し、
増幅産物の有無により中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌の芽胞耐熱性を評価する、
バチルス属に属する芽胞形成細菌の芽胞耐熱性の評価方法。
<5>前記<3>又は<4>の方法によって評価した芽胞耐熱性に基づいて、前記芽胞形成細菌の加熱処理条件を決定することを特徴とする、バチルス属に属する芽胞形成細菌の加熱処理条件の決定方法。
【0045】
<6>
前記中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌が、pH4.6以上8.0未満の好気的条件下で増殖可能な芽胞形成細菌である、前記<1>~<5>のいずれか1項に記載の方法。
<7>前記中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌が、バチルス・サブチルス群、バチルス・コアグランス、バチルス・セレウス、バチルス・メガテリウム、バチルス・ピュミルス、バチルス・シンプレックス、バチルス・アンスラシス、バチルス・ブレヴィス、バチルス・レンタス、及びバチルス・ミコイデスからなる群より選ばれる少なくとも1種、好ましくはバチルス・サブチルス群、バチルス・コアグランス、及びバチルス・セレウスからなる群より選ばれる少なくとも1種、である、前記<1>~<6>のいずれか1項に記載の方法。
<8>前記バチルス・サブチルス群が、バチルス・サブチルス、バチルス・リケニフォルミス、バチルス・アミロリケファシエンス、バチルス・シアメンシス、バチルス・ベレゼンシス、バチルス・パラリケニフォルミス、及びバチルス・ソノレンシスからなる群より選ばれる少なくとも1種、好ましくはバチルス・サブチルス、バチルス・リケニフォルミス、バチルス・アミロリケファシエンス、バチルス・シアメンシス、及びバチルス・ベレゼンシスからなる群より選ばれる少なくとも1種、より好ましくはバチルス・サブチルス、である、前記<7>に記載の方法。
【0046】
<9>
前記オリゴヌクレオチド(a)が、配列番号1で表される塩基配列において1個ないし数個、好ましくは1個以上4個以下、より好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・サブチルス群、の検出に使用できるオリゴヌクレオチドである、前記<1>~<8>のいずれか1項に記載の方法。
<10>
前記オリゴヌクレオチド(b)が、配列番号2で表される塩基配列において1個ないし数個、好ましくは1個以上4個以下、より好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・サブチルス群、の検出に使用できるオリゴヌクレオチドである、前記<1>~<9>のいずれか1項に記載の方法。
<11>
前記オリゴヌクレオチド(c)が、配列番号3で表される塩基配列において1個ないし数個、好ましくは1個以上4個以下、より好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・サブチルス群、の検出に使用できるオリゴヌクレオチドである、前記<1>~<10>のいずれか1項に記載の方法。
<12>
前記オリゴヌクレオチド(d)が、配列番号4で表される塩基配列において1個ないし数個、好ましくは1個以上4個以下、より好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・コアグランス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチドである、前記<1>~<11>のいずれか1項に記載の方法。
<13>
前記オリゴヌクレオチド(e)が、配列番号5で表される塩基配列において1個ないし数個、好ましくは1個以上4個以下、より好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・コアグランス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチドである、前記<1>~<12>のいずれか1項に記載の方法。
<14>
前記オリゴヌクレオチド(f)が、配列番号6で表される塩基配列において1個ないし数個、好ましくは1個以上4個以下、より好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・コアグランス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチドである、前記<1>~<13>のいずれか1項に記載の方法。
<15>
前記オリゴヌクレオチド(g)が、配列番号7で表される塩基配列において1個ないし数個、好ましくは1個以上4個以下、より好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・コアグランス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチドである、前記<1>~<14>のいずれか1項に記載の方法。
<16>
前記オリゴヌクレオチド(h)が、配列番号8で表される塩基配列において1個ないし数個、好ましくは1個以上4個以下、より好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・コアグランス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチドである、前記<1>~<15>のいずれか1項に記載の方法。
<17>
前記オリゴヌクレオチド(i)が、配列番号9で表される塩基配列において1個ないし数個、好ましくは1個以上4個以下、より好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・コアグランス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチドである、前記<1>~<16>のいずれか1項に記載の方法。
<18>
前記オリゴヌクレオチド(j)が、配列番号10で表される塩基配列において1個ないし数個、好ましくは1個以上4個以下、より好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつDUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・コアグランス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチドである、前記<1>~<17>のいずれか1項に記載の方法。
<19>
前記オリゴヌクレオチド(k)が、配列番号11で表される塩基配列において1個ないし数個、好ましくは1個以上4個以下、より好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・セレウス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチドである、前記<1>~<18>のいずれか1項に記載の方法。
<20>
前記オリゴヌクレオチド(l)が、配列番号12で表される塩基配列において1個ないし数個、好ましくは1個以上4個以下、より好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個、の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加されており、かつプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子を有する中性条件で増殖可能なバチルス属に属する芽胞形成細菌、好ましくはバチルス・セレウス、の検出に使用できるオリゴヌクレオチドである、前記<1>~<19>のいずれか1項に記載の方法。
【0047】
<21>
前記オリゴヌクレオチド対(1)、前記オリゴヌクレオチド対(2)、前記オリゴヌクレオチド対(3)、前記オリゴヌクレオチド対(4)、前記オリゴヌクレオチド対(5)、前記オリゴヌクレオチド対(6)、前記オリゴヌクレオチド対(7)、及び前記オリゴヌクレオチド対(8)からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド対をプライマー対として用いてポリメラーゼ連鎖反応法によりゲノム上のDUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列で表される核酸を増幅し、
前記オリゴヌクレオチド対(9)をプライマー対として用いてポリメラーゼ連鎖反応法によりプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子の部分塩基配列で表される核酸を増幅する、
前記<1>~<20>のいずれか1項に記載の方法。
<22>
前記オリゴヌクレオチド対(1)及び前記オリゴヌクレオチド対(2)からなる群より選ばれる1対のオリゴヌクレオチド対、好ましくは前記オリゴヌクレオチド対(1)、
前記オリゴヌクレオチド対(3)、前記オリゴヌクレオチド対(4)、前記オリゴヌクレオチド対(5)、前記オリゴヌクレオチド対(6)、前記オリゴヌクレオチド対(7)、及び前記オリゴヌクレオチド対(8)からなる群より選ばれる少なくとも1対のオリゴヌクレオチド対、並びに
前記オリゴヌクレオチド対(9)、
を混合して混合プライマー対として用いる、前記<21>に記載の方法。
<23>
前記オリゴヌクレオチド対(1)、及び前記オリゴヌクレオチド対(2)からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド対を用いて増幅産物が確認されたときは、被検体に含まれる芽胞形成細菌をバチルス・サブチルス群と同定し、
前記オリゴヌクレオチド対(3)対、前記オリゴヌクレオチド対(4)、前記オリゴヌクレオチド対(5)、前記オリゴヌクレオチド対(6)、前記オリゴヌクレオチド対(7)、及び前記オリゴヌクレオチド対(8)からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド対を用いて増幅産物が確認されたときは、被検体に含まれる芽胞形成細菌をバチルス・コアグランスと同定し、
前記オリゴヌクレオチド対(9)を用いて増幅産物が確認されたときは、被検体に含まれる芽胞形成細菌をバチルス・セレウスと同定する、
前記<1>~<22>のいずれか1項に記載の方法。
<24>
被検体を中性飲食品及びそれに用いられる原料とする、前記<1>~<23>のいずれか1項に記載の方法。
【0048】
<25>
前記オリゴヌクレオチド(a)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対(1)、前記オリゴヌクレオチド(b)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対(2)、前記オリゴヌクレオチド(d)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(3)、前記オリゴヌクレオチド(e)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(4)、前記オリゴヌクレオチド(f)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(5)、前記オリゴヌクレオチド(g)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(6)、前記オリゴヌクレオチド(h)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(7)、前記オリゴヌクレオチド(i)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(8)、並びに前記オリゴヌクレオチド(k)及び(l)からなるオリゴヌクレオチド対(9)からなる群より選ばれる少なくとも1種のオリゴヌクレオチド対を有する、DNAキット。
<26>
前記オリゴヌクレオチド(a)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対(1)、前記オリゴヌクレオチド(b)及び(c)からなるオリゴヌクレオチド対(2)、前記オリゴヌクレオチド(d)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(3)、前記オリゴヌクレオチド(e)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(4)、前記オリゴヌクレオチド(f)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(5)、前記オリゴヌクレオチド(g)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(6)、前記オリゴヌクレオチド(h)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(7)、前記オリゴヌクレオチド(i)及び(j)からなるオリゴヌクレオチド対(8)、並びに前記オリゴヌクレオチド(k)及び(l)からなるオリゴヌクレオチド対(9)。
<27>
前記オリゴヌクレオチド(a)が、前記<9>に記載のオリゴヌクレオチドであり、
前記オリゴヌクレオチド(b)が、前記<10>に記載のオリゴヌクレオチドであり、
前記オリゴヌクレオチド(c)が、前記<11>に記載のオリゴヌクレオチドであり、
前記オリゴヌクレオチド(d)が、前記<12>に記載のオリゴヌクレオチドであり、
前記オリゴヌクレオチド(e)が、前記<13>に記載のオリゴヌクレオチドであり、
前記オリゴヌクレオチド(f)が、前記<14>に記載のオリゴヌクレオチドであり、
前記オリゴヌクレオチド(g)が、前記<15>に記載のオリゴヌクレオチドであり、
前記オリゴヌクレオチド(h)が、前記<16>に記載のオリゴヌクレオチドであり、
前記オリゴヌクレオチド(i)が、前記<17>に記載のオリゴヌクレオチドであり、
前記オリゴヌクレオチド(j)が、前記<18>に記載のオリゴヌクレオチドであり、
前記オリゴヌクレオチド(k)が、前記<19>に記載のオリゴヌクレオチドであり、
前記オリゴヌクレオチド(l)が、前記<20>に記載のオリゴヌクレオチドである、
前記<25>又は<26>に記載のDNAキット又はオリゴヌクレオチド対。
<28>
前記オリゴヌクレオチド対(1)、及び前記オリゴヌクレオチド対(2)がバチルス・サブチルス群の検出に使用できるオリゴヌクレオチド対であり、
前記オリゴヌクレオチド対(3)、前記オリゴヌクレオチド対(4)、前記オリゴヌクレオチド対(5)、前記オリゴヌクレオチド対(6)、前記オリゴヌクレオチド対(7)、及び前記オリゴヌクレオチド対(8)がバチルス・コアグランスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド対であり、
前記オリゴヌクレオチド対(9)がバチルス・セレウスの検出に使用できるオリゴヌクレオチド対である、
前記<25>~<27>のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド対。
【実施例0049】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
実施例1 3菌種群のMultiplex PCR
(1)プライマーの設計
バチルス・サブチルスB4146株由来のDUF421-DUF1657遺伝子(配列番号13)の塩基配列情報を基に、配列番号1の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(プライマー1)、及び配列番号3の塩基配列で表されるプライマー(プライマー3)を設計した。また、バチルス・コアグランスDSM1=ATCC7050株由来のDUF421-DUF1657遺伝子(配列番号15)の塩基配列を基に、配列番号5の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(プライマー5)、及び配列番号10の塩基配列で表されるプライマー(プライマー10)を設計した。さらに、バチルス・セレウスAH187株由来のDUF421-DUF1657遺伝子(配列番号16)の塩基配列を基に、配列番号11の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(プライマー11)、及び配列番号12の塩基配列で表されるプライマー(プライマー12)を設計した。設計した各プライマー情報を基に、FASMAC社のDNA/RNA受託合成サービスより、逆相カラム精製品のプライマーを得た。
なお、各菌種のDUF421-DUF1657遺伝子の塩基配列情報は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)より入手した。
各菌種の菌株がDUF421-DUF1657遺伝子を有している場合、上記プライマー1及びプライマー3のプライマー対によって増幅されるDNA断片の長さは約350bp、上記プライマー5及びプライマー10のプライマー対によって増幅されるDNA断片の長さは約465bp、上記プライマー11及びプライマー12のプライマー対によって増幅されるDNA断片の長さは約265bpである。
(2)被検体の調製
上記で作製した各プライマーの評価には、下記表1に記載のバチルス・サブチルスJCA1402株、JCA1403株及びJCM1465株、バチルス・コアグランスNBRC12583株、JCA1108株及びDSM2314株、並びにバチルス・セレウスJCM2152株及びJCM17690株を用いた。なお、JCA株は日本缶詰びん詰レトルト食品協会、JCM株は国立研究開発法人理化学研究所微生物材料開発室、NBRC株は独立行政法人製品評価技術基盤機構、DSM株はライプニッツ研究所ドイツ微生物株保存機関、よりそれぞれ入手した。なお、バチルス・サブチルスJCA1403株、バチルス・コアグランスNBRC12583株及びJCA1108株はそれぞれゲノム上に、バチルス・セレウスJCM17690株はプラスミド上に、芽胞耐熱性向上にかかわるDUF421-DUF1657遺伝子を有している。
各菌株をSCD寒天培地(商品名:SCD培地「ダイゴ」、一般細菌検査用、富士フイルム和光純薬株式会社製)に播種し、バチルス・サブチルス、バチルス・セレウスは30℃で、バチルス・コアグランスは45℃の温度条件でプレートを静置させて1~2日間培養した。寒天培地で培養後、各コロニーを白金耳でかき取り、SCD液体培地(商品名:SCD液体培地「ダイゴ」、一般細菌検査用、富士フイルム和光純薬株式会社製)に植菌して同様の温度条件下で2~3日間培養した。
【0051】
(3)ゲノムDNAの調製
培養後の各SCD液体培地から懸濁液を1.0mL回収し、ゲノムDNA調製用キット(商品名:NucleoSpin Tissue、タカラバイオ株式会社製)を用い、菌体溶解時にリゾチームによる溶解法を採用した以外は当該キットに付属のプロトコルに準拠して菌体からDNAを抽出した。なお、当該キットではプラスミドを含めたDNAが抽出可能であるため、以下抽出したDNAを「抽出DNA」と記載する。得られた抽出DNA溶液の濃度は50ng/μLに調整した。
【0052】
(4)Multiplex PCR反応
上記で得られた抽出DNA溶液をDNAテンプレートとして、Multiplex PCR Assay Kit Ver.2 (商品名、タカラバイオ株式会社社製)を用いてMultiplex PCR溶液を調製した。Multiplex PCR Enzyme Mixを0.25μL、2x Multiplex PCR Buffer (Mg2+、dNTP plus)を25μL、抽出DNA溶液を1μL(抽出DNA50ng分)、プライマー1、3、5、10、11及び12をそれぞれ終濃度が0.2μMとなるように加え、無菌蒸留水をMultiplex PCR溶液の容量が50μLとなるように加えた。なお、抽出DNA溶液としてバシルス・サブチリスJCA1402株、バチルス・コアグランスNBRC12583株、及びバシルス・セレウスJCM17690株の抽出DNA溶液の混合液も使用した。
サーマルサイクラーとしてProflex PCR system(Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。反応サイクルは、(i)94℃、60秒間の熱変性反応、(ii)94℃、30秒間の熱変性反応、(iii)60℃、30秒間のアニーリング反応、(iv)72℃、30秒間の伸長反応、(v)72℃、300秒間の伸長反応、とし、(ii)~(iv)を1サイクルとして30サイクル繰り返した。
【0053】
(5)電気泳動及び撮影
PCR後、PCR溶液から2μLを分取してローディングバッファーと十分に混和し、2%アガロースゲルを用いてMupid-exU (タカラバイオ株式会社製)により電気泳動(100V、30分間)を行った。DNAマーカーには100bp DNA Step Ladder(Promega社製)を使用した。電気泳動終了後、アガロースゲルをSYBR Safe (Thermo Fisher Scientific社製)で30分間染色し、BioDoc-It Imaging Systems(UVP社製)を使用して254 nmの紫外線を照射し、3~5秒の露光時間で撮影し、増幅されたDNA断片の有無を確認した。アガロースゲルの撮影画像を図1に示す。
なお、図1中の番号1~10は、下記表1記載の対応する試料番号の試料から抽出したDNAを用いて反応を行ったサンプルであることを示している。図1の各レーン番号と、アプライしたサンプルとの対応は下記表1の通りである。
【0054】
【表1】
【0055】
図1より、DUF421-DUF1657遺伝子を有するバチルス・サブチルスJCA1403株、バチルス・コアグランスNBRC12583株及びJCA1108株、並びにバチルス・セレウスJCM17690株を被検体としてPCRを行った場合は、それぞれ各菌種に特有のサイズのDNA断片が検出された。また、バチルス・サブチルスJCA1403株、バチルス・コアグランスNBRC12583株及びバチルス・セレウスJCM17690株の抽出DNA溶液の混合物をテンプレートとして用いた場合であっても、それぞれ各菌種に特有のサイズのDNA断片が検出された。
これに対し、バチルス・サブチルスJCA1402株、JCM1465株、バチルス・コアグランスDSM2314株、バチルス・セレウスJCM2152株を被検体としてPCRを行った場合は、これらの菌株はDUF421-DUF1657遺伝子を有していないため、DNA断片が検出されなかった。
以上より、本発明の方法により、被検体が異なる菌種の混合である場合であっても、DUF421-DUF1657遺伝子を菌種特異的に検出できることが示された。
【0056】
実施例2 3菌種群のMultiplex PCR
(1)プライマーの設計
バチルス・サブチルスB4146株由来のDUF421-DUF1657遺伝子(配列番号13)の塩基配列情報を基に、配列番号2の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(プライマー2)を設計した。
バチルス・サブチルスB4146株がDUF421-DUF1657遺伝子を有している場合、上記プライマー2及び実施例1で用いたプライマー3のプライマー対によって増幅されるDNA断片の長さは約55bpである。
【0057】
さらに、バチルス・コアグランスDSM1=ATCC7050株由来のDUF421-DUF1657遺伝子(配列番号15)の塩基配列を基に、配列番号10の塩基配列で表されるプライマー(プライマー10)と対をなすプライマーとして、配列番号4の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(プライマー4)、配列番号6の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(プライマー6)、配列番号7の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(プライマー7)、配列番号8の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(プライマー8)、及び配列番号9の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(プライマー9)をそれぞれ設計した。設計した各プライマー情報を基に、FASMAC社のDNA/RNA受託合成サービスより、逆相カラム精製品のプライマーを得た。
バチルス・コアグランスDSM1=ATCC7050株がDUF421-DUF1657遺伝子を有している場合、上記プライマー4及びプライマー10のプライマー対によって増幅されるDNA断片の長さは約490bp、上記プライマー6及びプライマー10のプライマー対によって増幅されるDNA断片の長さは約155bp、上記プライマー7及びプライマー10のプライマー対によって増幅されるDNA断片の長さは約135bp、上記プライマー8及びプライマー10のプライマー対によって増幅されるDNA断片の長さは約120bp、上記プライマー9及びプライマー10のプライマー対によって増幅されるDNA断片の長さは約80bpである。
【0058】
(2)Multiplex PCR反応、電気泳動及び撮影
Multiplex PCRに用いるテンプレートとしては、実施例1で得られたバチルス・サブチルスJCA1403株由来の抽出DNA溶液、バチルス・コアグランスNBRC12583株由来の抽出DNA溶液、及びバチルス・セレウスJCM17690株由来の抽出DNA溶液をそれぞれ用いた。
用いるプライマー対の組合せを下記表2の組合せとして、実施例1に記載の条件でMultiplex PCRを行い、電気泳動後にアガロースゲルの撮影画像を得た。画像を図2及び図3に示す。
なお、レーン番号11及び18は、マーカー 100bp DNA Step Ladder (Promega)である。
【0059】
【表2】
【0060】
図2及び図3中、バチルス・サブチルス群由来のDUF421-DUF1657遺伝子特異的な増幅産物を左向き黒三角、バチルス・コアグランス由来のDUF421-DUF1657遺伝子特異的な増幅産物をアスタリスク、バチルス・セレウス由来のプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子特異的な増幅産物を左向き矢頭でそれぞれ示す。
図2及び図3より明らかなように、いずれのプライマー対の組合せであっても、異なる菌種由来の混合DNAである被検体について、DUF421-DUF1657遺伝子を菌種特異的に検出できることが示された。
【0061】
実施例3 芽胞耐熱性評価試験1
(1)検体の調製、PCR
バチルス・サブチルス群の菌株として、JCA株(日本缶詰びん詰レトルト食品協会)(JCA1402株、JCA1403株、JCA1404株、JCA1405株、JCA1407株、JCA1408株、JCA1409株、JCA1410株、JCA1411株)、JCM株(国立研究開発法人理化学研究所微生物材料開発室)(JCM1465株)、KM株(環境分離株)(KM166株、KM167株)、及び168株を用いた。
上記各菌株を、実施例1と同様の方法で培養して抽出DNA溶液を調製した。さらに、実施例1と同様の方法でPCRを行い、電気泳動によりDNAのバンドの有無を確認した。目的の位置にDNA断片が検出できた場合を「陽性」、目的の位置にDNA断片が検出できなかった場合を「陰性」とした。結果を、各菌株におけるDUF421-DUF1657遺伝子の有無と併せて下記表3に示す。
【0062】
(2)簡易耐熱性試験
上記の菌株を、DSM寒天培地1L(0.8%Nutrient Broth (Difco)、0.1%KCl、0.012%MgSO・7HO及び5%Agarを400mLで作製し、1N NaOHを200μL加え、pH7.0に調整をした。オートクレーブ後に1M Ca(NOを0.4mL、0.01M MnClを0.4mL、及び1mM FeSOを0.4mL加えた)にて適温で1週間培養し、位相差顕微鏡にて芽胞形成を確認した後、氷冷滅菌水にて芽胞を回収した。回収物を8000×g、4℃、20分の条件で遠心分離を行い、上澄みを除去して再び氷冷滅菌水を加える洗浄を計5回行った。洗浄後の回収物(沈殿物)に対し、培養プレート1枚あたり約3mL分となるように氷冷滅菌水を加えて懸濁し、小分けに分注して使用まで-20℃で冷凍保存させた。芽胞数(懸濁液1mLあたりの芽胞数)は80℃で10分間の加熱処理を行い、段階希釈した芽胞液をSCD寒天培地(商品名:SCD寒天培地「ダイゴ」、一般細菌検査用、富士フイルム和光純薬株式会社製)に塗抹することにより測定した。
得られた芽胞をSCD液体培地(商品名:SCD液体培地「ダイゴ」、一般細菌検査用、富士フイルム和光純薬株式会社製)10mL中に10~10 spores/mLとなるように添加し、90℃、95℃、100℃で30分間、又は105℃で10分間加熱後、30℃で7日間静置培養を行った。静置培養後の菌株の生育を確認することで、耐熱性を下記評価基準を基に判定した。本試験は菌株ごとに3回の反復試験を行い、1回の試験でも死滅が認められた場合に「加熱で死滅した」と判定した。なお、菌株が死滅したか否かは、静置培養後に目視による濁りが観察できなかった場合を「加熱で死滅した」と判断し、目視による濁りが観察できた場合を「加熱では死滅しなかった」と判断した。結果を下記表3に示す。

-評価基準-
レベル1:90℃30分の加熱で死滅した
レベル2:90℃30分の加熱では死滅せず、95℃30分の加熱で死滅した
レベル3:95℃30分の加熱では死滅せず、100℃30分の加熱で死滅した
レベル4:100℃30分の加熱では死滅せず、105℃10分の加熱で死滅した
レベル5:105℃10分の加熱でも死滅しなかった
【0063】
(3)耐熱性試験(D値)
上記バチルス・サブチルス群の菌株について、日本缶詰びん詰レトルト食品協会に委託し、以下の方法にてD値(112.5℃)を測定した。
各供試菌株芽胞のM/15リン酸緩衝液(PH7.0)中の耐熱性を測定した。試験方法は、供試菌株の芽胞液を滅菌0.1%ペプトン水で段階希釈し、M/15リン酸緩衝液および各試験液中に約10 CFU/mLになるように懸濁し、混和後、TDTチューブに分注および溶封した。このTDTチューブを所定の条件で加熱処理した。加熱後のTDTチューブを開管し、芽胞数を測定してD値を算出した。結果を下記表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
表3より明らかなように、DUF421-DUF1657遺伝子を有しており、Multiplex PCRによって「陽性」と判定されたバチルス・サブチルス群の菌株では、簡易耐熱性試験における耐熱性レベルがいずれもレベル5であり、また「陽性」と判定されたバチルス・サブチルスJCA1403株のD112.5℃値は1.18分であった。これに対し、DUF421-DUF1657遺伝子を有しておらず、Multiplex PCRによって「陰性」と判定されたバチルス・サブチルス群の菌株では、簡易耐熱性試験における耐熱性レベルがいずれもレベル2であり、また「陰性」と判定されたバチルス・サブチルスJCA1402株及びJCM1465株のD112.5℃値も、それぞれ0.09分及び0.08分であった。以上より、Multiplex PCRの結果と耐熱性に相関が見られることが明らかになった。
また上記結果より、Multiplex PCRの結果が陽性であれば、105℃で10分間の加熱であっても十分量(10~10 spores/mL)の芽胞は死滅せず、Multiplex PCRの結果が陰性であれば、95℃で30分間の加熱で十分量(10~10 spores/mL)の芽胞を死滅できることが示された。
【0066】
実施例4 芽胞耐熱性評価試験2
(1)検体の調製、PCR
バチルス・コアグランスの菌株として、NBRC株(独立行政法人製品評価技術基盤機構)(NBRC12583株)、JCA株(日本缶詰びん詰レトルト食品協会)(JCA1108株、JCA1109株、JCA1116株、JCA1117株、JCA1120株、JCA1122株、JCA1158株、JCA1174株、JCA1180株、JCA1182株)、DSM株(ライプニッツ研究所ドイツ微生物株保存機関)(DSM2308株、DSM2311株、DSM2312株、DSM2314株、DSM2350株、DSM2356株、DSM2383株、DSM2384株、DSM2385)を用いた。
上記各菌株を、実施例1と同様の方法で培養して抽出DNA溶液を調製した。さらに、実施例1と同様の方法でPCRを行い、電気泳動によりDNAのバンドの有無を確認した。目的の位置にDNA断片が検出できた場合を「陽性」、目的の位置にDNA断片が検出できなかった場合を「陰性」とした。結果を、各菌株におけるDUF421-DUF1657遺伝子の有無と併せて下記表4に示す。
【0067】
(2)耐熱性試験(D値)
上記バチルス・コアグランスの菌株について、日本缶詰びん詰レトルト食品協会に委託し、上位実施例3と同様の方法にてD値を測定した。結果を下記表4に示す。さらに、下記表4の結果を箱ひげ図で示した図を、図4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
上記表4及び図4より、DUF421-DUF1657遺伝子を有しており、Multiplex PCRによって「陽性」と判定されたバチルス・コアグランスの菌株では、いずれもD105℃値が10分以上であった。また、DUF421-DUF1657遺伝子を有しておらず、Multiplex PCRによって「陰性」と判定されたバチルス・コアグランスの菌株では、いずれもD105℃値が10分未満であった。
このように、Multiplex PCRの結果と耐熱性(D値)に相関が見られ、Multiplex PCRの結果が陽性であればD105℃値が10分以上、陰性であればD105℃値が10分未満と評価できることが示された。
【0070】
実施例5 芽胞耐熱性評価試験3
(1)検体の調製、PCR
バチルス・セレウスの菌株として、JCM株(国立研究開発法人理化学研究所微生物材料開発室)(JCM2152株、JCM17690株)を用いた。
上記各菌株を、実施例1と同様の方法で培養して抽出DNA溶液を調製した。さらに、実施例1と同様の方法でPCRを行い、電気泳動によりDNAのバンドの有無を確認した。目的の位置にDNA断片が検出できた場合を「陽性」、目的の位置にDNA断片が検出できなかった場合を「陰性」とした。結果を、各菌株におけるプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子の有無と併せて下記表5に示す。
【0071】
(2)耐熱性試験(D値)
上記バチルス・セレウスの菌株について、日本缶詰びん詰レトルト食品協会に委託し、上位実施例3と同様の方法にてD値を測定した。結果を、各菌株におけるプラスミド特異的DUF421-DUF1657遺伝子の有無と併せて下記表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
上記表5より、Multiplex PCRによって陽性と判定されたバチルス・セレウスの菌株では、D90℃値が82.9分であった。また、Multiplex PCRによって陰性と判定されたバチルス・セレウスの菌株では、D90℃値が24.3分であった。
このように、Multiplex PCRの結果と耐熱性(D値)に相関が見られた。
【0074】
実施例6 原料分離株のハイスループット解析
検体の調製
市販及び原料メーカーから購入した原料(ID:1~30)から単離した各種菌種に対してMicroSEQ 500 16S rDNA Sequencing Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いた菌種同定を行った。バチルス・サブチルス群、バチルス・コアグランス、バチルス・セレウスと同定された菌株を解析対象とした。
同定された各菌種を、実施例1と同様の方法で培養して抽出DNA溶液を調製した。さらに、実施例1と同様の方法でPCRを行い、電気泳動によりDNAのバンドの有無を確認した。目的の位置にDNA断片が検出できた場合を「陽性」、目的の位置にDNA断片が検出できなかった場合を「陰性」とした。Multiplex PCRの結果を下記表6に示す。
【0075】
【表6】
【0076】
表6より明らかなように、原料ID:1~29のバチルス・サブチルス群、バチルス・コアグランス、又はバチルス・セレウスの各菌株では、いずれもMultiplex PCR法による目的のDNAのバンドが検出されなかった。一方で、原料ID:30のバチルス・サブチルス群の菌株からは、Multiplex PCR法による目的のDNAバンドが検出された。よって、原料ID:30の原料には高耐熱性を有する芽胞を形成するバチルス・サブチルス群の菌株が含まれていることが示された。
このように本発明の方法によれば、多量のサンプルから高耐熱性を有する芽胞を形成する芽胞形成細菌を迅速に同定できることが示された。
【0077】
実施例7 原料の耐熱性芽胞菌包括検査の感度と加熱処理条件の提案
(1)高耐熱性芽胞付着原料の作製
実施例6で用いた原料ID:28の原料10gに、80℃10分間の加熱処理により栄養細胞を死滅させたバチルス・サブチルスJCA1403株(高耐熱性の芽胞を形成する菌株)の芽胞を、原料1gあたり5.0×107、5.0×105、5.0×103、5.0×101、5.0×10-1 sporesとなるように付着させた。対照試験として、芽胞を付着させていない原料を用いた。その後原料が十分乾燥するまで静置し、疑似的に高耐熱性芽胞が付着した原料を調製した。
【0078】
(2)菌体回収工程
上記原料中に生理食塩水90gを加え、ストマッカーを用いて粉砕・均質化処理をし、懸濁液30mLを回収した。その後100×g、5分間の遠心分離を行って原料残渣を廃棄し、さらに8000×g、20分間の遠心分離を行い沈殿した菌体を回収した。回収した菌体を、3mLの生理食塩水で再懸濁した。
【0079】
(3)加熱工程及び腐敗観察
上記回収した菌懸濁液10μL又は1μLを、バチルス・サブチルスJCA1403が増殖可能な中性茶系飲料(pH:6.35)10mL中に接種し、100℃、5分間の加熱処理を行った。加熱処理後、30℃で7日間静置培養し、目視で飲料が腐敗したかどうかを観察した。3回の反復試験を行い、1つでも非増殖(飲料が腐敗しない)が認められれば死滅と判定した。なお、本加熱条件は通常の中性茶系飲料を製造する際に行う加熱処理よりも極めて緩い条件であり、食品衛生法の基準以下であるためあくまでモデル実験上の条件である。
なお、本試験において「製品の腐敗」とは、具体的に目視による濁りが確認できる状態若しくは芽胞形成細菌の増殖が認められる状態、又は飲料100μLをSCD寒天培地(商品名:SCD液体培地「ダイゴ」、一般細菌検査用、富士フイルム和光純薬株式会社製)に添加し30℃2日間の培養で目視による濁りが確認できる状態又は芽胞形成細菌の増殖が認められる状態であることを意味する。
【0080】
(4)Multiplex PCR試験
また、上記(2)で回収した菌懸濁液10μL又は1μLを、SCD液体培地(富士フイルム和光純薬株式会社製)10mlに植菌し、30℃で48時間培養した。培養後、菌体液を1mL回収し、実施例1と同様の方法で抽出DNA溶液を調製した。その後実施例1と同様の方法でMultiplex PCRによりDUF421-DUF1657遺伝子の検出を行った。
【0081】
(5)結果
Multiplex PCRによる結果、及び加熱処理後の飲料腐敗の結果を下記表7に示す。なお、表中の「推定芽胞数(spores/ml)」は、上記加熱工程及び上記Multiplex PCR試験において、中性茶系飲料及びSCD液体培地における推定の芽胞数を示す。
【0082】
【表7】
【0083】
表7より明らかなように、原料1gあたりの芽胞数が多いサンプルでのMultiplex PCR試験で陽性と判定された場合、100℃5分間の加熱処理を行った後に30℃で7日間静置培養させた各対応する中性茶系飲料では、製品の腐敗が観察された。これに対し、原料1gあたりの芽胞数が少ないサンプルでのMultiplex PCR試験で陰性と判定された場合には、対応する中性茶系飲料では製品の腐敗が観察されなかった。
また、原料1gあたりの芽胞数がやや多いサンプルでのMultiplex PCR試験で陽性と判定された場合であっても、対応する中性茶系飲料では製品の腐敗が観察されなかった。これは、100℃5分間の加熱処理を行った後に30℃で7日間静置培養させるという、本条件ではまだ製品が腐敗しないようなわずかな芽胞の混入であっても、本発明の方法により高感度に検出できることを示している。
【0084】
上記結果より、本発明の方法により、飲食品を被検体として高耐熱性を有する芽胞を形成する芽胞形成細菌の検出を行うことで、飲食品の腐敗を高感度に予測することができることが示された。また、本発明の方法により飲食品を被検体として高耐熱性を有する芽胞を形成する芽胞形成細菌の検出を行うことで、当該飲食品の適切な加熱処理条件を迅速かつ簡便に決定できることが示された。
【0085】
上記の結果から、本発明の方法を用いることによって、中性条件で増殖可能な芽胞形成細菌におけるDUF421-DUF1657遺伝子の有無を確認することができ、また増幅産物により芽胞形成細菌を検出できる。さらに、DUF421-DUF1657遺伝子の有無を確認することで、芽胞形成細菌の芽胞耐熱性を評価することができ、芽胞形成菌が検出される原料に対し適切な加熱処理条件を決定することができる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2023165198000001.app