(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165213
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
F01N 3/24 20060101AFI20231108BHJP
F01N 13/08 20100101ALI20231108BHJP
B62M 7/02 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
F01N3/24 K
F01N3/24 L
F01N3/24 B
F01N13/08 G
B62M7/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075990
(22)【出願日】2022-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】松本 明男
【テーマコード(参考)】
3G004
3G091
【Fターム(参考)】
3G004AA02
3G004EA05
3G091AA03
3G091AB03
3G091GA06
3G091HA08
3G091HA36
3G091HA37
(57)【要約】
【課題】排気管がエンジンの側方を通る構造を有する鞍乗型車両において、排気管の前部の内部に触媒装置を適切に設ける。
【解決手段】鞍乗型車両1において、エンジン31の排気口は左側に傾きつつ前方に開口し、排気管60は、エンジン31の排気口からエンジン31の前方かつダウンフレーム5の左方の領域を下方に伸長した第1部分61と、第1部分61の下流側端部からダウンフレーム5の下前方の領域を通ってダウンフレーム5の右側へ伸長した後、エンジン31の前方かつダウンフレーム5の右方の領域を上方へ伸長した第2部分62と、第2部分62の下流側端部からエンジン31の右方の領域を後方に伸長した第3部分63と、第3部分63の下流側端部から消音器に至る第4部分64とを有し、第1触媒装置71は、排気管60の第2部分62において、エンジン31の前方かつダウンフレーム5の右方に位置する部分の内部に配置されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドパイプと、
前記ヘッドパイプから後方に伸長したメインフレームと、
前記ヘッドパイプから下方に伸長したダウンフレームと、
クランクケース、前記クランクケースの上方に設けられたシリンダ、および前記シリンダの上方に設けられたシリンダヘッドを有し、前記メインフレームの下方かつ前記ダウンフレームの後方に配置されたエンジンと、
前記エンジンの後方に配置され、前記シリンダヘッドに設けられた排気口から排出された排気ガスの排気音を低減する消音器と、
前記排気口と前記消音器との間を接続し、前記排気口から排出された排気ガスを前記消音器へ送る排気管と、
前記排気管の途中に設けられ、前記排気管内を流れる前記排気ガスを浄化する触媒装置とを備えた鞍乗型車両であって、
前記排気口は、前記シリンダヘッドの前部に配置され、左右方向一側に傾きつつ前方に開口し、
前記排気管は、前記排気口から前記エンジンの前方かつ前記ダウンフレームの左右方向一側側方の領域を下方に伸長した第1部分と、前記第1部分の下流側端部から前記ダウンフレームの前方または下前方の領域を通って前記ダウンフレームの左右方向他側へ伸長した後、前記エンジンの前方かつ前記ダウンフレームの左右方向他側側方の領域を上方へ伸長した第2部分と、前記第2部分の下流側端部から前記エンジンの左右方向他側側方の領域を後方に伸長した第3部分と、前記第3部分の下流側端部から伸長して前記消音器に至る第4部分とを有し、
前記触媒装置は、前記排気管の前記第2部分において、前記エンジンの前方かつ前記ダウンフレームの左右方向他側側方に位置する部分の内部に配置されていることを特徴とする鞍乗型車両。
【請求項2】
前記触媒装置は、前記ダウンフレームの下端よりも高くかつ前記排気口よりも低い部分に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗型車両。
【請求項3】
前記排気管の前記第2部分には触媒装置収容部が設けられ、
前記触媒装置収容部は、
前記第2部分の上流側から下流側に向かって拡径した筒状の拡径部と、
前記拡径部の下流側端部に接続された筒状の大径部と、
前記大径部の下流側端部に接続され、前記第2部分の上流側から下流側に向かって縮径した筒状の縮径部とを有し、
前記触媒装置は前記大径部の内部に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗型車両。
【請求項4】
前記触媒装置収容部は、前記触媒装置収容部の下流側端部が前記触媒装置収容部の上流側端部よりも上側かつ後ろ側に位置するように傾斜していることを特徴とする請求項3に記載の鞍乗型車両。
【請求項5】
前記触媒装置収容部は、前記触媒装置収容部の下流側端部が前記触媒装置収容部の上流側端部よりも上側かつ左右方向他側に位置するように傾斜していることを特徴とする請求項4に記載の鞍乗型車両。
【請求項6】
前記拡径部は、前記クランクケースの前方、かつ前記ダウンフレームの前方または下前方の領域から、前記クランクケースの前方かつ前記ダウンフレームの左右方向他側側方の領域にかけて、上後方に向かって曲がりつつ、かつ拡径しつつ伸長していることを特徴とする請求項4または5に記載の鞍乗型車両。
【請求項7】
前記縮径部は、前記クランクケースの前方かつ前記ダウンフレームの左右方向他側側方の領域から前記シリンダまたは前記シリンダヘッドの左右方向他側側方の領域に向かって水平に近づくように後方に曲がりつつ、かつ縮径しつつ伸長していることを特徴とする請求項4または5に記載の鞍乗型車両。
【請求項8】
前記ダウンフレームの上部の左右方向他側側方に設けられた熱交換器を備え、
前記触媒装置収容部は、前記触媒装置収容部の上流側端部が前記熱交換器の前面よりも前側となり、かつ前記触媒装置収容部の下流側端部が前記熱交換器の後面よりも後側となるように前後方向に傾斜した状態で、前記熱交換器の下方に配置されていることを特徴とする請求項4または5に記載の鞍乗型車両。
【請求項9】
前記排気管において前記触媒装置よりも上流側部分の内部における前記排気ガスの状態を検出する排気ガスセンサを備え、
前記排気ガスセンサは、前記排気管において、前記ダウンフレームの前方の領域を通っている部分に設けられ、前記鞍乗型車両の側面視において、前記排気ガスセンサの全体が前記触媒装置収容部と重なり合うように配置されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとして内燃機関を備えた鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鞍乗型車両には、オンロード、すなわち舗装路および整地路の走行に適するように設計されたものと、オンロードの走行だけでなく、オフロード、すなわち未舗装路または不整地路の走行にも適するように設計されたものがある。オンロードの走行に適するように設計された鞍乗型車両には、ネイキッド、スーパースポーツ、クルーザー等がある。オンロードの走行およびオフロードの走行の双方に適するように設計された鞍乗型車両には、デュアルパーパス、アドベンチャー、オン・オフモデル、スクランブラー等がある。また、鞍乗型車両には、モトクロス、トライアル、エンデューロ等のオフロード競技用に設計されたものもある。
【0003】
以下、オンロードの走行に適するように設計された鞍乗型車両を「オンロード車両」ということとする。また、オンロードの走行およびオフロードの走行の双方に適するように設計された鞍乗型車両、およびオフロード競技用に設計された鞍乗型車両を「オフロード車両」ということとする。
【0004】
オフロード車両は、オンロード車両と比較して、最低地上高が高く、また、サスペンションのストロークが長い。また、オフロード車両においては、排気管および消音器が車両において地上から離れた高い位置に配置されているものが多い。
【0005】
ここで、排気管の配置について、オンロード車両とオフロード車両とを詳細に比較する。オンロード車両の排気管は、通常、エンジンのシリンダヘッドの前面に開口している排気口から、エンジンのシリンダヘッド、シリンダおよびクランクケースのそれぞれの前方を下方に伸長した後、後方に曲がり、その後、クランクケースの下方(クランクケースの底面と地面との間)を、少なくともクランクケースを超える位置までは後方に略水平方向に伸長している。これに対し、オフロード車両(特にオフロード競技用の鞍乗型車両)の排気管は、シリンダヘッドの前面に開口している排気口から、一旦はシリンダヘッドの前方を下向きに伸長するも、直ぐに側方に曲がり、その後、後方に曲がり、その後、シリンダヘッドまたはシリンダの側方を、少なくともシリンダまたはシリンダヘッドを超える位置までは後方に略水平方向に伸長している。オンロード車両とオフロード車両との間において、排気管の配置についての顕著な相違は、オンロード車両の排気管はクランクケースの下方を通っているのに対し、オフロード車両の排気管はシリンダヘッドまたはシリンダの側方を通っている点にある。オフロードを走行するときには、地面の石等が車輪により巻き上げられて飛散することが頻繁に起こる。排気管を、地面から離れた高い位置に配置することにより、このような飛石が排気管に当たり難くすることができ、よって排気管を保護することができる。このような観点から、多くのオフロード車両において、排気管は、クランクケースの下方を通らずに、シリンダヘッドまたはシリンダの側方を通るように配管されている。
【0006】
一方、地球環境保全のために、エンジンからの窒素酸化物等の大気汚染物質の排出を抑制することが要請されている。これに応じ、鞍乗型車両は、例えばハニカム構造を有するモノリス担体に触媒を担持した触媒装置を備え、触媒装置により排気ガス中の大気汚染物質の低減を図っている。
【0007】
従来の鞍乗型車両においては、多くの場合、触媒装置は、消音器の内部、または排気管の後部(下流側)の消音器に近い部分の内部に設けられている。しかしながら、近時は、触媒装置を排気管の前部(上流側)の内部に設ける鞍乗型車両が増えてきている。
【0008】
触媒装置の触媒は、エンジンから排出された排気ガスが触媒装置内を流通することによって温度が上昇し、活性化する。触媒装置が消音器の内部等、エンジンの排気口から大きく離れた位置に設けられている場合には、排気ガスが、エンジンの排気口から排出されて、排気管内を流通して触媒装置に到達するまでの間に、排気ガスの温度が低下し、その結果、低い温度の排気ガスが触媒装置内を流通することとなる。そのため、触媒の温度の上昇が緩やかとなり、それゆえ、エンジンが始動してから触媒が活性化するまでにかかる時間が長くなる。その結果、エンジン始動時に、触媒によって大気汚染物質を十分に低減することができないことがある。これに対し、触媒装置を排気管の前部の内部に設けた場合には、触媒装置とエンジンの排気口との距離が短くなる。それゆえ、排気口から排出された直後の高温の排気ガスが触媒装置内を流通するため、触媒の温度を短時間のうちに上昇させることができ、エンジン始動時に触媒を早期に活性化することができる。その結果、エンジン始動時においても、触媒によって大気汚染物質を十分に低減することが可能になる。近時は、地球環境保全の要請の高まりに応じ、エンジン始動時における触媒による排気ガスの浄化能力を高めるために、触媒装置を排気管の前部の内部に設ける鞍乗型車両の普及が拡大している。
【0009】
特開2008-64068号公報(特許文献1)には、オフロード車両である鞍乗型車両が記載されている。当該鞍乗型車両において、排気管は、エンジンの排気口から前方に伸長し、その後、後方に屈曲し、その後、エンジンの右方であって、エンジンのクランクケースの上方の位置を通過して後方へ伸長している。また、当該鞍乗型車両は、メイン触媒およびプリ触媒を有し、メイン触媒は消音器の内側に配置され、プリ触媒は、排気管において、クランクケースの上方を通り過ぎた直後の部分の内部に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記オフロード車両のように、排気管が、エンジンの下方を通らずに、エンジンのシリンダまたはシリンダヘッドの側方等、エンジンの側方を通る構造を有する鞍乗型車両において、排気管の前部の内部に触媒装置を適切に設けることは、次に述べるように、容易ではない。
【0012】
排気管がエンジンの側方を通る構造を有する鞍乗型車両において、排気管の前部とは、排気管においてエンジンの排気口からエンジンの側方に至る前までの間の部分、および排気管においてエンジンの側方を通る部分である。
【0013】
まず、排気管において、エンジンの排気口からエンジンの側方に至る前までの間の部分の内部に触媒装置を設ける場合には、次のような問題がある。
【0014】
上記オフロード車両のように、排気管が、エンジンの下方を通らずに、エンジンの側方を通る構造を有する鞍乗型車両において、排気管は、シリンダヘッドの前面に開口している排気口から、一旦はシリンダヘッドの前方を下向きに伸長するも、直ぐに側方に曲がり、その後、後方に曲がり、エンジンの側方に至っている。そのため、排気管において、エンジンの排気口からエンジンの側方に至る前までの間の部分は管長が短い。そのため、その部分の内部に触媒装置を設けることは難しい。
【0015】
次に、排気管においてエンジンの側方を通る部分の内部に触媒装置を設ける場合には、以下の問題がある。
【0016】
排気管がエンジンの側方を通る構造を有する鞍乗型車両において、排気管は、エンジンの側方を通った後、シートに着座した運転者の脚の内側側方であって当該脚に極めて近い位置を通る。例えば、排気管がエンジンの右方を通る場合には、排気管は、エンジンの右方を通った後、シートに着座した運転者の右脚の膝または脹ら脛の左方であって膝または脹ら脛に極めて近い位置を通る。排気管がエンジンの側方を通る構造を有する鞍乗型車両には、通常、排気管からの熱から運転者の脚を保護するための遮熱板が設けられている。遮熱板は、排気管においてエンジンの側方を通る部分およびその直後の部分と、運転者の脚との間の領域に、排気管と運転者の脚との間を遮るように設けられている。
【0017】
触媒装置の直径が排気管の通常の直径よりも大きい場合には、排気管において触媒装置が設けられた部分の直径は、排気管の通常の直径(排気管において触媒装置が設けられていない部分の直径)と比較して大きくなる。したがって、排気管においてエンジンの側方を通る部分の内部に、このような触媒装置を設けた場合には、排気管において、運転者の脚の内側側方を通る部分が大径になるおそれがある。その場合には、鞍乗型車両において、シートに着座した運転者の右脚と左脚との間の部分が幅広になるため、運転者は脚を広げるような姿勢で鞍乗型車両に乗車しなければならなくなり、運転者の運転姿勢を悪化させてしまう。運転姿勢の悪化は鞍乗型車両の操縦性の低下を招く。
【0018】
また、直径が排気管の通常の直径よりも小さい触媒装置を排気管の内部に設けた場合には、排気管において触媒装置が設けられた部分の直径が、排気管の通常の直径よりも大きくならない場合がある。しかしながら、排気管の内部に触媒装置を設けることにより、排気管において触媒装置が設けられた部分は、触媒装置が設けられていない部分と比較して高温になる傾向がある。そのため、排気管においてエンジンの側方を通る部分の内部に、直径が排気管の通常の直径よりも小さい触媒装置を設けた場合でも、排気管からの熱から運転者の脚を保護するために排気管と遮蔽板との距離を大きくする必要が生じ、その結果、直径が排気管の通常の直径よりも大きい触媒装置を排気管においてエンジンの側方を通る部分の内部に設けた場合と同様に、運転者の運転姿勢を悪化させてしまうおそれがある。また、直径が排気管の通常の直径よりも小さい触媒装置は、直径が排気管の通常の直径よりも大きい触媒装置と比較して排気ガスの浄化能力が低いため、排気ガスを十分に浄化することができないおそれがある。
【0019】
また、特開2008-64068号公報(特許文献1)に記載された鞍乗型車両においては、排気管が、エンジンのシリンダまたはシリンダヘッドの側方を通り過ぎた後に、エンジンのシリンダまたはシリンダヘッドよりも鞍乗型車両の左右方向中央側を通って後方に伸長している。そして、排気管において、エンジンのシリンダまたはシリンダヘッドよりも鞍乗型車両の左右方向中央側を通って後方に伸長している部分の内部に、排気管の通常の直径よりも大きい直径を有する触媒装置が設けられている(同公報の
図3を参照)。この構成によれば、排気管の内部に触媒装置を設けることによって、排気管において運転者の脚の内側側方を通る部分が大径になった場合でも、鞍乗型車両において、シートに着座した運転者の右脚と左脚との間の部分が幅広になることを、ある程度抑制することができる可能性がある。しかしながら、この構成の場合には、触媒装置を設けたことによって大径となった排気管を鞍乗型車両の左右方向中央側に通すために、メインフレーム、リヤクッションおよびエンジンのシリンダ等に囲まれた空間を拡張する必要があり、その結果、鞍乗型車両が大型化するおそれがある。
【0020】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の課題は、排気管がエンジンの下方を通らずにエンジンの側方を通る構造を有する鞍乗型車両において、排気管の前部の内部に触媒装置を適切に設けることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、本発明は、ヘッドパイプと、前記ヘッドパイプから後方に伸長したメインフレームと、前記ヘッドパイプから下方に伸長したダウンフレームと、クランクケース、前記クランクケースの上方に設けられたシリンダ、および前記シリンダの上方に設けられたシリンダヘッドを有し、前記メインフレームの下方かつ前記ダウンフレームの後方に配置されたエンジンと、前記エンジンの後方に配置され、前記シリンダヘッドに設けられた排気口から排出された排気ガスの排気音を低減する消音器と、前記排気口と前記消音器との間を接続し、前記排気口から排出された排気ガスを前記消音器へ送る排気管と、前記排気管の途中に設けられ、前記排気管内を流れる前記排気ガスを浄化する触媒装置とを備えた鞍乗型車両であって、前記排気口は、前記シリンダヘッドの前部に配置され、左右方向一側に傾きつつ前方に開口し、前記排気管は、前記排気口から前記エンジンの前方かつ前記ダウンフレームの左右方向一側側方の領域を下方に伸長した第1部分と、前記第1部分の下流側端部から前記ダウンフレームの前方または下前方の領域を通って前記ダウンフレームの左右方向他側へ伸長した後、前記エンジンの前方かつ前記ダウンフレームの左右方向他側側方の領域を上方へ伸長した第2部分と、前記第2部分の下流側端部から前記エンジンの左右方向他側側方の領域を後方に伸長した第3部分と、前記第3部分の下流側端部から伸長して前記消音器に至る第4部分とを有し、前記触媒装置は、前記排気管の前記第2部分において、前記エンジンの前方かつ前記ダウンフレームの左右方向他側側方に位置する部分の内部に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、排気管がエンジンの下方を通らずにエンジンの側方を通る構造を有する鞍乗型車両において、排気管の前部の内部に触媒装置を適切に設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施例の鞍乗型車両の全体を右方から見た状態を示す外観図である。
【
図2】本発明の実施例の鞍乗型車両においてエンジンが設けられた部分を右方から見た状態を示す外観図である。
【
図3】本発明の実施例の鞍乗型車両においてエンジンが設けられた部分を前方から見た状態を示す外観図である。
【
図4】本発明の実施例の鞍乗型車両においてエンジンが設けられた部分を左方から見た状態を示す外観図である。
【
図5】本発明の実施例の鞍乗型車両においてエンジンが設けられた部分を上方から見た状態を示す外観図である。
【
図6】本発明の実施例の鞍乗型車両においてエンジンが設けられた部分を下方から見た状態を示す外観図である。
【
図7】本発明の実施例の鞍乗型車両のエンジンを前方から見た状態を示す外観図である。
【
図8】本発明の実施例の鞍乗型車両の排気管、第1触媒装置収容部および消音器等を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態の鞍乗型車両は、ヘッドパイプと、ヘッドパイプから後方に伸長したメインフレームと、ヘッドパイプから下方に伸長したダウンフレームと、メインフレームの下方かつダウンフレームの後方に配置されたエンジンとを備えている。エンジンは、クランクケース、クランクケースの上方に設けられたシリンダ、およびシリンダの上方に設けられたシリンダヘッドを有している。さらに、本発明の実施形態の鞍乗型車両は、エンジンの排気口から排出された排気ガスの排気音を低減する消音器と、エンジンの排気口から排出された排気ガスを消音器へ送る排気管と、排気管内を流れる排気ガスを浄化する触媒装置とを備えている。
【0025】
本発明の実施形態の鞍乗型車両において、エンジンの排気口は、シリンダヘッドの前部に配置され、左右方向一側に傾きつつ前方に開口している。また、消音器はエンジンの後方に配置されている。また、排気管はエンジンの排気口と消音器との間を接続している。排気管は、エンジンの排気口からエンジンの前方かつダウンフレームの左右方向一側側方の領域を下方に伸長した第1部分と、第1部分の下流側端部からダウンフレームの前方または下前方の領域を通ってダウンフレームの左右方向他側へ伸長した後、エンジンの前方かつダウンフレームの左右方向他側側方の領域を上方へ伸長した第2部分と、第2部分の下流側端部からエンジンの左右方向他側側方の領域を後方に伸長した第3部分と、第3部分の下流側端部から伸長して消音器に至る第4部分とを有している。また、触媒装置は排気管の途中に設けられている。具体的には、触媒装置は、排気管の第2部分において、エンジンの前方かつダウンフレームの左右方向他側側方に位置する部分の内部に配置されている。
【0026】
本発明の実施形態の鞍乗型車両によれば、排気管の前部(上流側)の内部に触媒装置を適切に設けることができる。
【0027】
すなわち、上述したように、排気管がエンジンの側方を通る構造を有する従来の鞍乗型車両においては、排気管においてエンジンの排気口からエンジンの側方に至る前までの間の部分の管長が短いため、この部分に触媒装置を設けることが困難であるという問題がある。しかしながら、本実施形態の鞍乗型車両の排気管は、エンジンの排気口からエンジンの前方かつダウンフレームの左右方向一側側方の領域を下方に伸長した第1部分と、第1部分の下流側端部からダウンフレームの前方または下前方の領域を通ってダウンフレームの左右方向他側へ伸長した後、エンジンの前方かつダウンフレームの左右方向他側側方の領域を上方へ伸長した第2部分とを有している。この構成により、排気管においてエンジンの前方かつダウンフレームの左右方向他側側方に位置する部分に、触媒装置を設けるのに十分な管長を確保することができ、その部分に触媒装置を容易に設けることができる。特に、排気管の通常の直径よりも大きい直径を有し、排気ガスの浄化能力が高い大型の触媒装置を、排気管においてエンジンの前方かつダウンフレームの左右方向他側側方に位置する部分に容易に設けることができる。
【0028】
また、上述したように、排気管がエンジンの側方を通る構造を有する従来の鞍乗型車両においては、排気管においてエンジンの側方を通る部分の内部に、排気管の通常の直径よりも大きい直径を有する触媒装置を設けた場合には、鞍乗型車両において、シートに着座した運転者の右脚と左脚との間の部分が幅広になるため、運転者の運転姿勢を悪化させてしまうという問題がある。また、排気管においてエンジンの側方を通る部分の内部に、排気管の通常の直径よりも小さい直径を有する触媒装置を設けた場合でも、排気管からの熱から運転者の脚を保護するために排気管と遮蔽板との距離を大きくする必要が生じ、それゆえ、運転者の運転姿勢を悪化させてしまうおそれがあるという問題がある。しかしながら、本実施形態の鞍乗型車両においては、触媒装置が、排気管の第2部分において、エンジンの前方かつダウンフレームの左右方向他側側方に位置する部分の内部に設けられているので、このような問題は生じない。すなわち、本実施形態の鞍乗型車両によれば、排気管の前部の内部に触媒装置を設けることに起因して運転者の運転姿勢が悪化することを防ぐことができる。
【0029】
また、上述したように、特開2008-64068号公報(特許文献1)に記載された鞍乗型車両においては、排気管において、エンジンのシリンダまたはシリンダヘッドよりも鞍乗型車両の左右方向中央側を通って後方に伸長している部分の内部に、排気管の通常の直径よりも大きい直径を有する触媒装置を設けることによって、メインフレーム、リヤクッションおよびエンジンのシリンダ等に囲まれた空間を拡張する必要が生じ、その結果、鞍乗型車両が大型化するおそれがあるという問題がある。しかしながら、本実施形態の鞍乗型車両の触媒装置は、排気管の第2部分において、エンジンの前方かつダウンフレームの左右方向他側側方に位置する部分の内部に配置されているので、このような問題は生じない。
【0030】
また、本実施形態の鞍乗型車両においては、エンジンの排気口が、シリンダヘッドの前部に配置され、左右方向一側に傾きつつ前方に開口している。これにより、排気管の上流端側部分(第1部分)に大きな曲率で局所的に曲がる部分を設けることなく、排気管を排気口に容易に接続することができる。また、排気管の上流端側部分(第1部分)に、S字状またはクランク状に曲がる部分など、複雑に曲がる部分を設けることなく、排気管を排気口からダウンフレームの前方または下前方の位置へ伸ばすことができる。
【実施例0031】
本発明の鞍乗型車両の実施例につき、図面を参照しつつ説明する。以下の実施例において、前(Fd)、後(Bd)、上(Ud)、下(Dd)、左(Ld)、右(Rd)、の方向を説明する際には、各図中の右下に描いた矢印に基づく。
【0032】
(鞍乗型車両)
図1は本発明の実施例の鞍乗型車両1の全体を右方から見た状態を示している。
図1においては、シートおよびカウルについてはそれらの外形のみを二点鎖線で示し、また、燃料タンク、ブレーキキャリパ、リヤクッション、ドライブチェーン等、鞍乗型車両1に設けられる一部の部品の図示を省略している。
図2~6は、鞍乗型車両1においてエンジン31が設けられた部分を示し、詳しくは、
図2は当該部分を右方から見た状態を示し、
図3は当該部分を前方から見た状態を示し、
図4は当該部分を左方から見た状態を示し、
図5は当該部分を上方から見た状態を示し、
図6は当該部分を下方から見た状態を示している。
図2~6においては、ステアリングシャフト、フロントフォーク15、ハンドル18およびスイングアーム19等が取り外されている。また、
図5および6においては、さらに、ラジエータ42、43が取り外されている。
【0033】
図1において、鞍乗型車両1は、オフロード車両であり、具体的には、オフロード競技用の鞍乗型車両である。鞍乗型車両1は、その骨格を形成する車体フレーム2を備え、車体フレーム2は、ヘッドパイプ3、一対のメインフレーム4、ダウンフレーム5、一対のアンダーフレーム6、および一対のシートレール7を有している。
【0034】
ヘッドパイプ3は、
図2および3に示すように、鞍乗型車両1の前上部の左右方向中央に配置されている。
【0035】
一対のメインフレーム4のうち、一方のメインフレーム4は、鞍乗型車両1の右部を、鞍乗型車両1の前上部から鞍乗型車両1の前後方向中間部の下部に至るまで伸長している。具体的には、一方のメインフレーム4の前部4Aは、
図5に示すように、ヘッドパイプ3から右後方に伸長した後、緩やかに曲がり、その後、後方に伸長している。また、一方のメインフレーム4の前部4Aは、
図2に示すように、鞍乗型車両1の右上部を下方に傾斜しつつ後方に伸長している。また、一方のメインフレーム4の後部4Bは、
図2に示すように、鞍乗型車両1の前後方向中間部の右部を、若干後方に傾斜しつつ下方に伸長している。他方のメインフレーム4は、鞍乗型車両1の左部を、鞍乗型車両1の前上部から鞍乗型車両1の前後方向中間部の下部に至るまで伸長している。他方のメインフレーム4の形状および配置は、
図4および
図5に示すように、上記一方のメインフレーム4の形状および配置と左右対称である。また、各メインフレーム4の前端部はヘッドパイプ3に結合されている。
【0036】
ダウンフレーム5は、
図2および
図3に示すように、鞍乗型車両1の左右方向中央を、鞍乗型車両1の前上部から鞍乗型車両1の前下部に至るまで、若干後方に傾斜しつつ下方に伸長している。ダウンフレーム5の上端部はヘッドパイプ3に結合されている。また、ダウンフレーム5の下端の位置はメインフレーム4の後部4Bの下端の位置よりも高い。
【0037】
一対のアンダーフレーム6のうち、一方のアンダーフレーム6は、鞍乗型車両1の右部を、鞍乗型車両1の前下部から鞍乗型車両1の前後方向中間部の下部に至るまで伸長している。具体的には、一方のアンダーフレーム6は、
図3および
図6に示すように、ダウンフレーム5の下端部から右下後方に伸長した後、緩やかに曲がり、その後、
図2に示すように、鞍乗型車両1の右下部を略水平に後方に伸長している。他方のアンダーフレーム6は、鞍乗型車両1の左部を、鞍乗型車両1の前下部から鞍乗型車両1の前後方向中間部の下部に至るまで伸長している。他方のアンダーフレーム6の形状および配置は、
図3、4および6に示すように、上記一方のアンダーフレーム6の形状および配置と左右対称である。また、各アンダーフレーム6の前端部はダウンフレーム5の下端部に結合されている。また、各アンダーフレーム6の後端部は、
図6に示すように、一対のメインフレーム4の後部4Bの下端部の間に架設されたブリッジフレーム8に結合されている。
【0038】
一対のシートレール7は、
図1、2および4に示すように、鞍乗型車両1の左部および右部を、鞍乗型車両1の前後方向中間部の上部から鞍乗型車両1の後端上部に至るまで伸長している。また、ダウンフレーム5とメインフレーム4との間には、車体フレーム2の前部を補強する補強フレーム9が設けられ(
図2および
図4を参照)、メインフレーム4の後部4Bの下部とシートレール7との間には、車体フレーム2の後部を補強する補強フレーム10(
図1を参照)が設けられている。
【0039】
また、
図1に示すように、ヘッドパイプ3内にはステアリングシャフトが回転可能に設けられ、ステアリングシャフトにはブラケットを介してフロントフォーク15が取り付けられている。また、フロントフォーク15の下端部には前輪16が回転可能に取り付けられている。また、前輪16の上方にはフロントフェンダ17が設けられている。また、ヘッドパイプ3の上方にはハンドル18が設けられ、ハンドル18はステアリングシャフトにブラケットを介して取り付けられている。また、一対のメインフレーム4の後部4Bの下側部分にはスイングアーム19が揺動可能に取り付けられ、スイングアーム19の後端部には後輪20が回転可能に取り付けられている。
【0040】
また、鞍乗型車両1は、走行の動力源であるエンジン31を備えている。エンジン31には内燃機関が用いられている。本実施例のエンジン31は4サイクル・水冷・単気筒のガソリンエンジンである。エンジン31は、鞍乗型車両の前後方向略中央部かつ左右方向略中央部に配置されている。エンジン31は、一対のメインフレーム4、ダウンフレーム5および一対のアンダーフレーム6に囲まれるように設けられている。具体的には、エンジン31は、一対のメインフレーム4の前部4Aの下方、一対のメインフレーム4の後部4Bの前方、ダウンフレーム5の後方、および一対のアンダーフレーム6の上方に配置されている。また、エンジン31は、これらのフレームにエンジンマウントを介して支持されている。
【0041】
エンジン31は、
図4に示すように、クランクケース32、シリンダ33、シリンダヘッド34、およびシリンダヘッドカバー35を有している。クランクケース32はエンジン31の下部に配置され、クランクケース32内にはクランクシャフトが設けられている。また、エンジン31は、変速機と一体化した、いわゆるパワーユニットであり、クランクケース32内の後部には変速装置が設けられている。シリンダ33はクランクケース32の上方に設けられ、シリンダ33内にはピストンが設けられている。シリンダヘッド34はシリンダ33の上方に設けられている。シリンダヘッド34の後部には、混合気をシリンダ33内へ送る吸気口(図示を省略)が形成されている。また、シリンダヘッド34の前部には、燃焼ガス(排気ガス)をシリンダ33外へ排出する排気口36が形成されている(
図7を参照)。また、シリンダヘッド34内には吸気弁、排気弁およびカムシャフト等が設けられ、また、シリンダヘッド34には点火プラグ(図示を省略)等が取り付けられている。シリンダヘッドカバー35はシリンダヘッド34の上部を覆っている。
【0042】
図7はエンジン31を前方から見た状態を示している。
図7に示すように、エンジン31の排気口36は、シリンダヘッド34の前面において、その左右方向中央よりも左寄りの位置に配置されている。鞍乗型車両1の前面視において、排気口36は、その右端側の一部のみがダウンフレーム5と重なり合っている。また、排気口36は、シリンダヘッド34の前面において、左方向(左右方向一側)に傾きつつ前方に開口しており、すなわち、排気口36の開口方向は左前方である。また、
図5中の一点鎖線Lは、鞍乗型車両1の左右方向中央を通って前後方向に伸長する直線である。
図5中の一点鎖線Mは、排気口36の中心を通って排気口36の開口方向に伸長する直線である。一点鎖線Lと一点鎖線Mとのなす角αは、排気口36の左方向における傾き角度を示している。本実施例において、排気口36は、
図5に示すように、左方向に約36度傾いている。なお、排気口36の左方向の傾き角度は36度に限定されないが、約20度以上かつ約70度以下であることが好ましい。排気管60の上流側端部をダウンフレーム5の左方から排気口36に容易に接続することができる排気口36の傾き角度の最小値が約20度であり、排気管60の第1部分61をエンジン31の最左の部分(マグネトカバー39の左面)から左方にはみ出ないように容易に配管することができる角度の最大値が約70度である。
【0043】
また、
図2に示すように、クランクケース32の右前部の外面側には、主にエンジン31を冷却するための冷却水の循環を作り出すためのウォータポンプ37が設けられている。また、クランクケース32内の右後部にはクラッチが設けられ、クランクケース32の右後部の外面側には、クラッチを覆うクラッチカバー38が設けられている。また、
図4に示すように、クランクケース32内の左前部には、クランクシャフトの回転を利用して発電を行う発電装置が設けられ、クランクケース32の左前部の外面側には発電装置を覆うマグネトカバー39が設けられている。
【0044】
また、鞍乗型車両1において、エンジン31の後ろ上方には、
図1に示すように、エアクリーナ40が設けられ、エアクリーナ40とエンジン31の吸気口との間には、
図4に示すように、吸気管41が設けられている。また、詳しい図示を省略しているが、エンジン31の吸気口の周辺には、スロットル装置、フューエルインジェクタ等が設けられている。
【0045】
また、鞍乗型車両1において、エンジン31のシリンダヘッド34の前方には、主にエンジン31を冷却するための冷却水を走行風により冷却する熱交換器としての2機のラジエータ42、43が設けられている。
図3に示すように、一方のラジエータ42は、ダウンフレーム5の上部の右方に配置され、他方のラジエータ43は、ダウンフレーム5の上部の左方に配置されている。各ラジエータ42、43はダウンフレーム5の上部にラジエータマウントを介して取り付けられている。
【0046】
また、右側のメインフレーム4の後部4Bの下部には、右足用のステップ44およびブレーキペダル45が設けられている(
図2を参照)。また、左側のメインフレーム4の後部4Bの下部には、左足用のステップ44およびシフトペダル46が設けられている(
図4を参照)。また、鞍乗型車両1の前後方向中間部の上部には、運転者が座るシート47が設けられ、シート47の前方および後方にはカウル48が設けられている(
図1を参照)。
【0047】
(排気管・消音器)
鞍乗型車両1は、エンジン31の排気口36から排出された排気ガスの排気音を低減する消音器51と、排気口36から排出された排気ガスを消音器51へ送る排気管60とを備えている。
【0048】
消音器51は、エンジン31の後方、具体的には、
図1に示すように、エンジン31の後方に配置されたエアクリーナ40の後方に配置されている。また、消音器51は、右側のシートレール7と後輪20との間に、排気ガスを外気に放出する放出口が後ろを向くように配置されている。また、消音器51は右側のシートレール7にステーを介して支持されている。
【0049】
排気管60は、エンジン31のシリンダヘッド34に形成された排気口36と消音器51との間を接続する管であり、例えば鉄鋼等の金属材料により形成されている。排気管60は、
図4に示すように、排気口36からエンジン31の前方かつダウンフレーム5の左方(左右方向一側側方)の領域を下方に伸長した第1部分61と、
図3に示すように、第1部分61の下流側端部からダウンフレーム5の下前方の領域を通ってダウンフレーム5の右側(左右方向他側)へ伸長した後、エンジン31の前方かつダウンフレーム5の右方(左右方向他側側方)の領域を上方へ伸長した第2部分62と、
図2に示すように、第2部分62の下流側端部からエンジン31の右方の領域を後方に伸長した第3部分63と、
図1に示すように、第3部分63の下流側端部から伸長して消音器51に至る第4部分64とを有している。
【0050】
図8は、鞍乗型車両1から、排気管60、消音器51、および排気管60に設けられた部品を抜き出して示した図である。
図8中の一点鎖線Kは、排気管60の中心を通った線である。
図8中の排気管60において、位置aから位置bまでの部分が第1部分61であり、位置bから位置cまでの部分が第2部分62であり、位置cから位置dまでの部分が第3部分63であり、位置cから位置dまでの部分が第4部分である。
【0051】
排気管60の各部についてさらに詳しく説明する。排気管60の第1部分61の上流側端部は、シリンダヘッド34の前面の左寄りの位置において左前方に開口した排気口36に接続されている。また、
図3に示すように、排気管60の第1部分61はダウンフレーム5よりも左側に位置している。また、鞍乗型車両1の前面視において、排気管60の第1部分61は、排気口36から左下方に伸長した後、右下方に伸長している。また、鞍乗型車両1の前面視において、排気管60の第1部分61は、全体的に見て、ダウンフレーム5の下部を直径として左方に膨らむ円弧状の軌跡を描くように緩やかに湾曲しており、排気管60の第1部分61の上流側端部および下流側端部はダウンフレーム5に接近しているのに対し、排気管60の第1部分61の中間部はダウンフレーム5から離れている。また、排気管60の第1部分61の下流側端部は、クランクケース32の前方、かつダウンフレーム5の左下前方に位置している。具体的には、排気管60の第1部分61の下流側端部は、ダウンフレーム5の下端よりも左下側に位置し、鞍乗型車両1の前面視において、左側のアンダーフレーム6の上端側部分の前方に位置している。また、
図4に示すように、鞍乗型車両1の左面視において、排気管60の第1部分61は、排気口36から前方に傾斜しつつ下方に伸長しており、排気管60の第1部分61の上流側端部はダウンフレーム5よりも後ろ側に位置しているが、排気管60の第1部分61の下流側端部はダウンフレーム5よりも前側に位置している。また、
図5に示すように、排気管60の第1部分61の中間部は、左側のメインフレーム4よりも左側(左右方向外側)にはみ出しているが、エンジン31の最左の部分(マグネトカバー39の左面)よりも右側(左右方向内側)に位置している。また、排気管60の第1部分61は、その全長に亘って一定の直径を有している。また、排気管60の第1部分61は、パイプを曲げることにより形成されている。
【0052】
図3に示すように、鞍乗型車両1の前面視において、排気管60の第2部分62は、ダウンフレーム5よりも左側に位置している排気管60の第1部分61の下流側端部から、ダウンフレーム5の下前方を右方に伸長した後、ダウンフレーム5の下部の右方を右上方に伸長している。また、排気管60の第2部分62の上流側部分は、弧を描くように緩やかに湾曲しており、その湾曲により、排気管60の第2部分62の伸長方向が右方から右上方に徐々に変化している。また、排気管60の第2部分62の上流側部分は、右側のアンダーフレーム6の上端側部分の前方を通っている。また、
図2に示すように、鞍乗型車両1の右面視において、排気管60の第2部分62の中間部は、ダウンフレーム5の下部の右方を上後方に伸長し、排気管60の第2部分62の下流側部分は、水平に近づくように湾曲している。また、排気管60の第2部分62の中間部分から下流側部分にかけての部分は、上下方向において、クランクケース32の略中間の位置から、クランクケース32とシリンダ33との境界の位置を越え、シリンダ33とシリンダヘッド34の境界の位置まで伸長している。また、排気管60の第2部分62の中間部分から下流側部分にかけての部分は、前後方向において、ダウンフレーム5のよりも前側の位置から、ダウンフレーム5よりも後ろ側の位置まで伸長している。また、
図5に示すように、鞍乗型車両1の上面視において、排気管60の第2部分62の中間部から下流側部分にかけての部分は、右側のメインフレーム4の前部4Aよりも右前側(外側)に位置し、右側のメインフレーム4の前部4Aに沿うように伸長している。また、排気管60の第2部分62の下流側端部の上下方向における位置は、
図2に示すように、シリンダ33とシリンダヘッド34との境界の位置と略等しい。また、排気管60の第2部分62の下流側端部の前後方向における位置は、シリンダ33の前面の位置と略等しい。また、排気管60の第2部分62の下流側端部の左右方向における位置は、
図3に示すように、シリンダ33の右面よりも右側(左右方向外側)であり、シリンダヘッド34の右面よりも右側であり、また、
図5に示すように、右側のメインフレーム4よりも右側であるが、エンジン31の最右の部分(ウォータポンプ37の最右部)よりも左側(左右方向内側)である。また、排気管60の第2部分62には、後述するように、第1触媒装置収容部73が設けられている。
【0053】
また、排気管60の第3部分63は、
図2に示すように、排気管60の第2部分62の下流側端部からシリンダ33とシリンダヘッド34の境界部分の右方を、略水平に後方に伸長している。また、
図5に示すように、排気管60の第3部分63の上流側部分は、右側のメインフレーム4の前部4Aよりも右側に位置しているが、排気管60の第3部分63の下流側部分は、シリンダ33を越えた辺りから、右方(左右方向内側)に僅かに曲がり、右側のメインフレーム4の後部4Bの左方(左右方向内側)を通って後方に伸長している。また、排気管60の第3部分63は、その全長に亘って一定の直径を有している。また、排気管60の第3部分63の直径は、排気管60の第1部分61の直径と略等しい。また、排気管60の第3部分63は、パイプにより形成されている。また、排気管60の第3部分63の右方には、排気管60の熱が運転者の右脚に伝わることを抑制するための遮熱板65が設けられている。遮熱板65は、第3部分63の右部の外面を広範囲に亘って覆っている。遮熱板65は第3部分63にスペーサ等を介して取り付けられている。
【0054】
また、排気管60の第4部分64は、排気管60の第3部分63の下流側端部から、エアクリーナ40の右部の下方を後方に伸長している。また、排気管60の第4部分64の上流側部分は排気管60の第3部分63と一体形成されており、排気管60において、第3部分63の上流側端部から第4部分64の略中間部にかけての部分は1本のパイプにより形成されている。また、排気管60の第4部分64の下流側部分には、後述するように、第2触媒装置収容部85が設けられている。また、排気管60の第4部分64の下流側端部は、消音器51において排気ガスを流入させる流入口に接続されている。
【0055】
(触媒装置・触媒装置収容部)
鞍乗型車両1は、エンジン31の排気口36から排出され、排気管60内を流れる排気ガスを浄化する2つの触媒装置、すなわち第1触媒装置71および第2触媒装置72を備えている。第1触媒装置71および第2触媒装置72はそれぞれ、三元触媒であり、例えばハニカム構造を有するモノリス担体に触媒を担持させることにより形成されている。また、第1触媒装置71は円柱状の外形を有し、その直径は、排気管60の第1部分61の直径よりも大きく、排気管60の第3部分63の直径よりも大きい。また、第2触媒装置72は円柱状の外形を有し、その直径は、排気管60の第4部分64の上流側部分の直径よりも大きい。
【0056】
第1触媒装置71および第2触媒装置72はいずれも排気管60の途中に設けられている。具体的には、
図2および
図3に示すように、第1触媒装置71は排気管60の第2部分62の内部に設けられている。より具体的には、第1触媒装置71は、排気管60の第2部分62において、エンジン31の前方、かつダウンフレーム5の右方に位置する部分の内部に設けられている。また、第1触媒装置71は、ダウンフレーム5の下端よりも高く、かつエンジン31の排気口36よりも低い位置に配置されている。また、第1触媒装置71はアンダーフレーム6よりも上側に配置されている。一方、第2触媒装置72は、
図1に示すように、排気管60の第4部分64の下流側部分の内部に設けられている。なお、第1触媒装置71は、特許請求の範囲の記載における「触媒装置」の具体例である。
【0057】
排気管60の第2部分62には、第1触媒装置71を収容する第1触媒装置収容部73が設けられている。第1触媒装置収容部73は、
図2および
図3に示すように、排気管60の第2部分62の上流側から下流側に向かって拡径した円筒状の拡径部74と、拡径部74の下流側端部に接続された円筒状の大径部75と、大径部75の下流側端部に接続され、排気管60の第2部分62の上流側から下流側に向かって縮径した円筒状の縮径部76とを有している。本実施例においては、第2部分62の全体が第1触媒装置収容部73となっている。すなわち、排気管60の第2部分62の上流側部分が拡径部74であり、排気管60の第2部分62の中間部分が大径部75であり、排気管60の第2部分62の下流側部分が縮径部76である。なお、第1触媒装置収容部73は、特許請求の範囲の記載における「触媒装置収容部」の具体例である。
【0058】
拡径部74の上流側端部は排気管60の第1部分61の下流側端部に接続されている。また、縮径部76の下流側端部には排気管60の第3部分63が接続されている。第1触媒装置71は、その軸線が大径部75の軸線と一致するように、大径部75の内部に配置されている。
【0059】
また、大径部75の直径はその上流側端部から下流側端部に亘って一定である。大径部75の直径は第1触媒装置71の直径よりも大きい。また、大径部75の直径は、排気管60の第1部分61の直径よりも大きく、また排気管60の第3部分63の直径よりも大きい。例えば、大径部75の直径は、大径部75内に第1触媒装置71を収容して固定することができるように、第1触媒装置71の直径よりも僅かに大きい値に設定されている。また、拡径部74の上流側端部の直径は排気管60の第1部分61の直径と等しく、拡径部74の下流側端部の直径は大径部75の直径と等しい。また、縮径部76の上流側端部の直径は大径部75の直径と等しく、縮径部76の下流側端部の直径は排気管60の第3部分63の直径と等しい。
【0060】
拡径部74は、クランクケース32の前方かつダウンフレーム5の下前方の領域から、クランクケース32の前方かつダウンフレーム5の右方の領域にかけて、右上後方に向かって曲がりつつ、かつ拡径しつつ伸長している。すなわち、拡径部74の上流側端部は、
図3に示すように、クランクケース32の前方、かつダウンフレーム5の左下前方に位置している。具体的には、拡径部74の上流側端部は、ダウンフレーム5の下端よりも左下側に位置し、鞍乗型車両1の前面視において、左側のアンダーフレーム6の上端側部分の前方に位置している。また、拡径部74は、弧を描くように緩やかに湾曲しながら漸次拡径している。また、拡径部74は、右側のアンダーフレーム6の上端側部分の前方を通っている。また、拡径部74の下流側端部は、クランクケース32の前方、かつダウンフレーム5の右下前方に位置している。
【0061】
大径部75は、クランクケース32の前方かつダウンフレーム5の右方の領域を右上後方に直線状に伸長している。大径部75、および大径部75内の第1触媒装置71は、ダウンフレーム5の下端部の右側の略真横に位置している。また、大径部75、および大径部75内の第1触媒装置71は、右側のラジエータ42の略真下に位置している。
【0062】
縮径部76は、クランクケース32の前方かつダウンフレーム5の右方の領域からシリンダ33またはシリンダヘッド34の右方の領域に向かって水平に近づくように後方に曲がりつつ、かつ縮径しつつ伸長している。また、縮径部76は、弧を描くように緩やかに湾曲しながら漸次縮径している。また、
図2に示すように、縮径部76の下流側端部の上下方向における位置は、シリンダ33とシリンダヘッド34との境界の位置と略等しく、縮径部76の下流側端部の前後方向における位置は、シリンダ33の前面の位置と略等しい。また、縮径部76の下流側端部の左右方向における位置は、
図3に示すように、シリンダ33の右面よりも右側(左右方向外側)であり、シリンダヘッド34の右面よりも右側であり、また、
図5に示すように、右側のメインフレーム4よりも右側である。
【0063】
第1触媒装置収容部73を全体的に見ると、第1触媒装置収容部73は、縮径部76の下流側端部(第1触媒装置収容部73の下流側端部)が拡径部74の上流側端部(第1触媒装置収容部73の上流側端部)よりも上側かつ後ろ側に位置するように傾斜している。また、第1触媒装置収容部73は、縮径部76の下流側端部が拡径部74の上流側端部よりも上側かつ右側に位置するように傾斜している。すなわち、第1触媒装置収容部73は、
図2に示すように、鞍乗型車両1の右面視において、ダウンフレーム5のよりも前側の位置から、ダウンフレーム5よりも後ろ側の位置まで伸長している。また、第1触媒装置収容部73は、鞍乗型車両1の右面視において、クランクケース32の略中間の位置から、クランクケース32とシリンダ33との境界の位置を越え、シリンダ33とシリンダヘッド34の境界の位置まで伸長している。また、第1触媒装置収容部73は、
図3に示すように、鞍乗型車両1の前面視において、ダウンフレーム5よりも左側の位置から、ダウンフレーム5よりも右側の位置まで伸長している。また、第1触媒装置収容部73は、
図5に示すように、鞍乗型車両1の上面視において、右側のメインフレーム4の前部4Aよりも外側を、右側のメインフレーム4の前部4Aに沿うように伸長している。
【0064】
また、第1触媒装置収容部73における最右部分は、本実施例においては、縮径部76の上流側部分の右面である。第1触媒装置収容部73における最右部分の位置は、
図3または6を見るとわかる通り、エンジン31の最右の部分(ウォータポンプ37の最右部)よりも左側であり、クラッチカバー38の右面よりも左側である。また、第1触媒装置収容部73における最下部分は、本実施例においては、拡径部74の中間部の下面である。第1触媒装置収容部73における最下部分の上下方向における位置は、
図2を見るとわかる通り、ブレーキペダル45の前端部またはステップ44の上下方向における位置と略等しい。
【0065】
また、第1触媒装置収容部73は、拡径部74の上流側端部が右側のラジエータ42の前面よりも前側となり、かつ縮径部76の下流側端部が右側のラジエータ42の後面よりも後側となるように、前後方向に傾斜した状態で、右側のラジエータ42の下方に配置されている。また、第1触媒装置収容部73における最右部分は、右側のラジエータ42の右面よりも左側である。
【0066】
図8中の左下部には、第1触媒装置収容部73を分解した状態が描かれている。第1触媒装置収容部73は、モナカ構造を有しており、
図8中の左下部に示すように、例えば4枚の金属板77~80を結合することにより形成されている。本実施例においては、プレス成形された2枚の金属板77、78を互いに溶接することにより、拡径部74が形成され、プレス成形された2枚の金属板79、80を互いに溶接することにより、大径部75および縮径部76が一体化した構造物が形成され、拡径部74と、大径部75および縮径部76が一体化した構造物とを互いに溶接することにより、第1触媒装置収容部73が形成される。第1触媒装置71は、2枚の金属板79、80間に挟み込まれる。また、例えば、第1触媒装置収容部73の拡径部74の上流側端部は、排気管60の第1部分61の下流側端部に溶接され、第1触媒装置収容部73の縮径部76の下流側端部は、排気管60の第3部分63の上流側端部に溶接される。
【0067】
また、排気管60の第4部分64の下流側部分には第2触媒装置収容部85が設けられている。第2触媒装置収容部85は、第2触媒装置72の直径および排気管60の第4部分64の上流側部分の直径よりも大きい直径を有する円筒状に形成されている。第2触媒装置72は第2触媒装置収容部85内に設けられている。
【0068】
また、排気管60において、第1触媒装置71の上流側には第1排気ガスセンサ91が設けられ、第1触媒装置71の下流側には第2排気ガスセンサ92が設けられている。第1排気ガスセンサ91は、排気管60において第1触媒装置71よりも上流側部分の内部における排気ガスの状態を検出するセンサであり、例えば酸素センサである。第2排気ガスセンサ92は、排気管60において第1触媒装置71よりも下流側部分の内部における排気ガスの状態を検出するセンサであり、例えば酸素センサである。鞍乗型車両1は、第1触媒装置71による排気ガスの浄化率を高めるために、第1排気ガスセンサ91および第2排気ガスセンサ92からそれぞれ出力される検出信号に基づいて、燃料噴射制御等を行う。なお、第1排気ガスセンサ91は、特許請求の範囲の記載における「排気ガスセンサ」の具体例である。
【0069】
第1排気ガスセンサ91は、排気管60において、ダウンフレーム5の前方の領域を通っている部分に設けられている。具体的には、第1排気ガスセンサ91は、
図3に示すように、排気管60の第1部分61の下流側部分に設けられ、第1部分61の下流側部分の上面から右上後方に突出するように設けられている。また、第1排気ガスセンサ91は、鞍乗型車両1の側面視において、第1排気ガスセンサ91の全体が第1触媒装置収容部73と重なり合うように配置されている。
図2に示すように、鞍乗型車両1の右面視において、第1排気ガスセンサ91は、第1触媒装置収容部73に完全に隠れている。また、第1排気ガスセンサ91は、鞍乗型車両1の側面視において、第1排気ガスセンサ91の全体が排気管60の第1部分61と重なり合うように配置されている。
図4に示すように、鞍乗型車両1の左面視において、第1排気ガスセンサ91は、排気管60の第1部分61に完全に隠れている。また、第1排気ガスセンサ91は、
図3に示すように、鞍乗型車両1の前面視において、左側のアンダーフレーム6の上端側部分と重なり合うように配置されている。
【0070】
第2排気ガスセンサ92は、排気管60の第3部分63の上流側部分に設けられ、第3部分63の上流側部分の上面から上方に突出するように設けられている。第2排気ガスセンサ92はシリンダヘッド34の右方に位置し、鞍乗型車両1の側面視において、第2排気ガスセンサ92の全体はシリンダヘッド34と重なり合っている。
【0071】
以上説明した通り、本発明の実施例の鞍乗型車両1において、排気管60は、エンジン31の排気口36からエンジン31の前方かつダウンフレーム5の左方の領域を下方に伸長した第1部分61と、第1部分61の下流側端部からダウンフレーム5の下前方の領域を通ってダウンフレーム5の右側へ伸長した後、エンジン31の前方かつダウンフレーム5の右方の領域を上方へ伸長した第2部分62と、第2部分62の下流側端部からエンジン31の右方の領域を後方に伸長した第3部分63と、第3部分63の下流側端部から伸長して消音器51に至る第4部分64とを有し、第1触媒装置71は、排気管60の第2部分62において、エンジン31の前方かつダウンフレーム5の右方に位置する部分の内部に配置されている。これにより、排気管60の前部の内部に第1触媒装置71を適切に設けることができる。
【0072】
すなわち、排気管がエンジンの側方を通る構造を有する従来の鞍乗型車両においては、排気管においてエンジンの排気口からエンジンの側方に至る前までの間の部分の管長が短いため、この部分に触媒装置を設けることが困難であるという問題がある。しかしながら、本実施例の鞍乗型車両1の排気管60は、排気口36からエンジン31の前方かつダウンフレーム5の左方の領域を下方に伸長した第1部分61と、第1部分61の下流側端部からダウンフレーム5の下前方の領域を通ってダウンフレーム5の右側へ伸長した後、エンジン31の前方かつダウンフレーム5の右方の領域を上方へ伸長した第2部分62とを有している。この構成により、排気管60においてエンジン31の前方かつダウンフレーム5の右方に位置する部分に、第1触媒装置71を設けるのに十分な管長を確保することができ、その部分に第1触媒装置71を容易に設けることができる。特に、排気管60の第1部分61および第3部分63のいずれの直径よりも大きい直径を有し、排気ガスの浄化能力が高い大型の第1触媒装置71を、排気管60においてエンジン31の前方かつダウンフレーム5の右方に位置する部分に容易に設けることができる。
【0073】
さらに詳しく説明すると、排気管60の経路をダウンフレーム5の左方からダウンフレーム5の下前方を通ってダウンフレーム5の右方に至る経路としたことにより、排気管60の第2部分62の上流側部分の湾曲の曲率を大きくすることなく、ダウンフレーム5の右下方において排気管60の第2部分62の向きを、鞍乗型車両1の前面視において垂直上向きに近づけることができる。これにより、ダウンフレーム5の右下方からエンジン31のシリンダ33の右前方にかけて排気管60の第2部分62を直線状に長い距離伸長させることができ、かつ、排気管60の第2部分62の下流側端部がエンジン31の最右部から右方に張り出すことを防止することができる。その結果、排気管60の第2部分62において、ダウンフレーム5の右下方からシリンダ33の右前方にかけて直線状に伸長する部分に、直線状に伸長する大径部75を設け、その大径部75の内部に、直径が大きく、かつ軸方向にある程度長い大型の第1触媒装置71を収容することが可能になり、かつ、そのような大型の第1触媒装置71が収容された第1触媒装置収容部73を鞍乗型車両1の前面視においてエンジン31の最右部からはみ出さないように配置することが可能になる。
【0074】
また、排気管がエンジンの側方を通る構造を有する従来の鞍乗型車両においては、排気管においてエンジンの側方を通る部分の内部に、排気管の通常の直径よりも大きい直径を有する触媒装置を設けた場合には、鞍乗型車両において、シートに着座した運転者の右脚と左脚との間の部分が幅広になるため、運転者の運転姿勢を悪化させてしまうという問題がある。また、排気管においてエンジンの側方を通る部分の内部に、排気管の通常の直径よりも小さい直径を有する触媒装置を設けた場合でも、排気管からの熱から運転者の脚を保護するために排気管と遮蔽板との距離を大きくする必要が生じ、それゆえ、運転者の運転姿勢を悪化させてしまうおそれがあるという問題がある。しかしながら、本実施例の鞍乗型車両1においては、第1触媒装置71が、排気管60の第2部分62において、エンジン31の前方かつダウンフレーム5の右方に位置する部分の内部に設けられているので、このような問題は生じない。すなわち、本実施例の鞍乗型車両1によれば、排気管60の前部の内部に第1触媒装置71を設けることに起因して運転者の運転姿勢が悪化することを防ぐことができる。
【0075】
また、上述したように、特開2008-64068号公報(特許文献1)に記載された鞍乗型車両においては、排気管において、エンジンのシリンダまたはシリンダヘッドよりも鞍乗型車両の左右方向中央側を通って後方に伸長している部分の内部に、排気管の通常の直径よりも大きい直径を有する触媒装置を設けることによって、メインフレーム、リヤクッションおよびエンジンのシリンダ等に囲まれた空間を拡張する必要が生じ、その結果、鞍乗型車両が大型化するおそれがあるという問題がある。しかしながら、本実施例の鞍乗型車両1の第1触媒装置71は、排気管60の第2部分62において、エンジン31の前方かつダウンフレーム5の右方に位置する部分の内部に配置されているので、このような問題は生じない。
【0076】
また、本実施例の鞍乗型車両1においては、エンジン31の排気口36が、シリンダヘッド34の前部に配置され、左側に傾きつつ前方に開口している。これにより、排気管60の上流端側部分(第1部分61)に大きな曲率で局所的に曲がる部分を設けることなく、排気管60を排気口36に容易に接続することができる。また、排気管60の上流端側部分(第1部分61)に、S字状またはクランク状に曲がる部分など、複雑に曲がる部分を設けることなく、排気管60を排気口36からダウンフレーム5の下前方の位置へ伸ばすことができる。また、仮にエンジン31の排気口36が左右に傾くことなく前方に開口しており、排気口36の開口方向の先にダウンフレーム5が通っている場合には、エンジン31の前部とダウンフレーム5との間に、排気管60の上流端側部分を配置するための間隔を確保しなければならない。しかしながら、本実施例においては、エンジン31の排気口36が左側に傾きつつ前方に開口しているので、排気口36の開口方向をダウンフレーム5から逸らすことができ、それゆえ、そのような間隔を確保しなくても排気管60の上流端側部分を配置することができる。したがって、エンジン31の前部とダウンフレーム5との間隔を小さくすることができ、鞍乗型車両1を小型化することができる。また、エンジン31の排気口36が左側に傾きつつ前方に開口しているので、排気管60の第1部分61がエンジン31の最左部よりも左方に張り出すことを防止することができる。
【0077】
また、本実施例の鞍乗型車両1において、第1触媒装置71は、エンジン31の前方かつダウンフレーム5の右方において、ダウンフレーム5の下端よりも高く、かつエンジン31の排気口36よりも低い位置に配置されている。第1触媒装置71が、ダウンフレーム5の下端よりも高い位置に配置されているので、排気管60の第2部分62の最下面が低くなることを抑制することができる。したがって、前輪16が不整地の地面上にある大きな石や、路上の段差等を乗り越えたために、フロントフォーク15が収縮し、前輪16がフロントフェンダ17に接近する方向に移動した場合でも、排気管60の第2部分62に前輪16が接触することを防ぐことができる。また、第1触媒装置71が、エンジン31の排気口36よりも低い位置に配置されているので、排気管60の第2部分62の最上面が高くなることを抑制することができ、排気管60の第2部分62を、シート47に着座した運転者の身体の各部から十分に離すことができる。
【0078】
また、本実施例の鞍乗型車両1において、排気管60の第2部分62には、拡径部74、大径部75および縮径部76を有する第1触媒装置収容部73が設けられている。これにより、直径が排気管60の第1部分61および第3部分63のいずれの直径よりも大きく、排気ガスの浄化能力が高い大型の第1触媒装置71を、排気管60の第2部分62に設けることができる。
【0079】
また、本実施例の鞍乗型車両1において、第1触媒装置収容部73は、縮径部76の下流側端部が拡径部74の上流側端部よりも上側かつ後ろ側に位置するように傾斜している。これにより、縮径部76の曲率を小さくすることができる。また、第1触媒装置収容部73は、縮径部76の下流側端部が拡径部74の上流側端部よりも上側かつ右側に位置するように傾斜している。これにより、拡径部74の曲率を小さくすることができる。また、第1触媒装置収容部73を、縮径部76の下流側端部が拡径部74の上流側端部よりも上側、後ろ側かつ右側に位置するように傾斜させることにより、大型の第1触媒装置71を収容し得る第1触媒装置収容部73を、当該第1触媒装置収容部73に大きな曲率で局所的に曲がる部分を形成することなく、ダウンフレーム5の下前方からダウンフレーム5の右方にかけての領域に配置することができる。また、このように第1触媒装置収容部73を傾斜させることにより、第1触媒装置収容部73をエンジン31の前方かつダウンフレーム5の右方に設けつつも、鞍乗型車両1の大型化を抑制することができる。
【0080】
また、本実施例の鞍乗型車両1において、拡径部74は、クランクケース32の前方、かつダウンフレーム5の下前方の領域から、クランクケース32の前方かつダウンフレーム5の右方の領域にかけて、上後方に向かって曲がりつつ、かつ拡径しつつ伸長している。この構成により、ダウンフレーム5の下端よりも左下側に位置する排気管60の第1部分61の下流側端部と、ダウンフレーム5よりも右側であり、ダウンフレーム5の下端よりも高く、かつエンジン31の排気口36よりも低い位置に配置され、かつ排気管60の第1部分61の下流側端部よりも大径である第1触媒装置収容部73の大径部75との間を、拡径部74を介して容易に接続することができる。また、第1触媒装置収容部73をモナカ構造としたことにより、曲がりつつ拡径した拡径部74を容易に製造することができる。
【0081】
また、本実施例の鞍乗型車両1において、縮径部76は、クランクケース32の前方かつダウンフレーム5の右方の領域からシリンダ33とシリンダヘッド34との境界部分の右方の領域に向かって水平に近づくように後方に曲がりつつ、かつ縮径しつつ伸長している。この構成により、ダウンフレーム5よりも右側であり、ダウンフレーム5の下端よりも高く、かつエンジン31の排気口36よりも低い位置に配置され、かつ排気管60の第3部分63の上流側端部よりも大径である第1触媒装置収容部73の大径部75と、シリンダ33とシリンダヘッド34の境界部分の右方に位置する排気管60の第3部分63の上流側端部との間を、縮径部76を介して容易に接続することができる。また、第1触媒装置収容部73をモナカ構造としたことにより、曲がりつつ縮径した縮径部76を容易に製造することができる。
【0082】
また、本実施例の鞍乗型車両1において、第1触媒装置収容部73は、拡径部74の上流側端部が右側のラジエータ42の前面よりも前側となり、かつ縮径部76の下流側端部が右側のラジエータ42の後面よりも後側となるように、前後方向に傾斜した状態で、右側のラジエータ42の下方に配置されている。これにより、右側のラジエータ42として、上下方向の寸法が大きく、それゆえコア面積が大きいラジエータを採用することができる。よって、ラジエータ42による冷却水の冷却能力を高めることができる。すなわち、仮に、第1触媒装置収容部73が、右側のラジエータ42の下方に、垂直方向に直立するように配置されている場合には、第1触媒装置収容部73の上部に設けられた縮径部76の下流側端部と右側のラジエータ42の下端部との接触を回避するために、右側のラジエータ42として、上下方向の寸法が小さく、それゆえコア面積が小さいラジエータを採用しなければならない。これに対し、本実施例の鞍乗型車両1においては、第1触媒装置収容部73が、右側のラジエータ42の後面よりも縮径部76の下流側端部が後側となるように傾斜しているので、右側のラジエータ42の下端部が第1触媒装置収容部73の縮径部76よりも下側に位置する場合であっても、右側のラジエータ42の下端部と第1触媒装置収容部73との接触を回避することができる(例えば、右側のラジエータ42の下端部を、傾斜した第1触媒装置収容部73の大径部75の直前まで下方に伸ばすことができる)。したがって、右側のラジエータ42として、上下方向の寸法が大きく、それゆえコア面積が大きいラジエータを採用することができる。また、右側のラジエータ42として上下方向の寸法が小さいラジエータを採用した場合には、右側のラジエータ42を第1触媒装置収容部73から離すことができ、第1触媒装置収容部73からの輻射熱が右側のラジエータ42に伝わり難くすることができる。
【0083】
また、本実施例の鞍乗型車両1において、第1排気ガスセンサ91は、排気管60において、ダウンフレーム5の前方の領域を通っている部分に設けられ、鞍乗型車両1の側面視において、第1排気ガスセンサ91の全体が第1触媒装置収容部73と重なり合うように配置されている。第1排気ガスセンサ91が、排気管60においてダウンフレーム5の前方の領域を通っている部分に設けられているので、第1排気ガスセンサ91の排気管60に対する着脱を容易に行うことができる。また、第1排気ガスセンサ91が、鞍乗型車両1の側面視において、第1排気ガスセンサ91の全体が第1触媒装置収容部73と重なり合うように配置されているので、第1触媒装置収容部73を、右方向から飛んできた飛石が第1排気ガスセンサ91に当たることを阻止する隔壁として機能させることができ、第1触媒装置収容部73により第1排気ガスセンサ91を保護することができる。また、本実施例の鞍乗型車両1においては、第1排気ガスセンサ91が、鞍乗型車両1の側面視において、第1排気ガスセンサ91の全体が排気管60の第1部分61と重なり合うように配置されている。これにより、排気管60の第1部分61を、左方向から飛んできた飛石が第1排気ガスセンサ91に当たることを阻止する隔壁として機能させることができ、排気管60の第1部分61により第1排気ガスセンサ91を保護することができる。
【0084】
また、本実施例の鞍乗型車両1においては、第1触媒装置収容部73がエンジン31の最右部よりも左側に位置し、また、排気管60の第1部分61がエンジン31の最左部よりも右側に位置しているので、鞍乗型車両1の大型化を抑制することができる。
【0085】
なお、上記実施例において、排気管60の第2部分62(第1触媒装置収容部73の拡径部74)は、排気管60の第1部分61の下流側端部からダウンフレーム5の下前方の領域を通ってダウンフレーム5の右側へ伸長している。しかしながら、長いダウンフレーム5を有する鞍乗型車両に本発明を適用する場合には、排気管60の第2部分62(第1触媒装置収容部73の拡径部74)が、排気管60の第1部分61の下流側端部からダウンフレーム5の前方の領域を通ってダウンフレーム5の右側へ伸長するようにしてもよい。
【0086】
また、上記実施例では、排気管60の第2部分62の全体が第1触媒装置収容部73となっている。しかしながら、本発明はこれに限らず、排気管60の第2部分62の一部が第1触媒装置収容部73となるようにしてもよい。例えば、第1触媒装置収容部73の拡径部74の上流側端部が排気管60の第2部分62においてダウンフレーム5の下端部の右前方または右下前方に位置する部分に配置されるように、第1触媒装置収容部73を設けてもよい。
【0087】
また、上記実施例において、第1触媒装置71は、ダウンフレーム5の下端よりも高い位置に配置されている。しかしながら、短いダウンフレーム5を有する鞍乗型車両に本発明を適用する場合には、第1触媒装置71の下端がダウンフレーム5の下端よりも低くなるように第1触媒装置71を配置してもよい。
【0088】
また、本発明は、第2触媒装置72を備えていない鞍乗型車両にも適用することができる。また、本発明は、第1排気ガスセンサ91または第2排気ガスセンサ92を備えていない鞍乗型車両にも適用することができる。また、本発明は、左側または右側のラジエータ42を備えていない鞍乗型車両にも適用することができる。
【0089】
また、本発明の鞍乗型車両は、エンジンの排気口が右側に傾きつつ前方に開口し、排気管が、エンジンの排気口からエンジンの前方かつダウンフレームの右方の領域を下方に伸長した第1部分と、第1部分の下流側端部からダウンフレームの前方または下前方の領域を通ってダウンフレームの左側へ伸長した後、エンジンの前方かつダウンフレームの左方の領域を上方へ伸長した第2部分と、第2部分の下流側端部からエンジンの左方の領域を後方に伸長した第3部分と、第3部分の下流側端部から伸長して消音器に至る第4部分とを有し、触媒装置が、排気管の第2部分において、エンジンの前方かつダウンフレームの左方に位置する部分の内部に配置されている構成を有していてもよい。
【0090】
また、上記実施例では、直径が排気管60の第1部分61および第3部分63のいずれの直径よりも大きい第1触媒装置71が排気管60の第2部分62に設けられている。しかしながら、本発明はこれに限らず、直径が排気管60の第1部分61または第3部分63の直径と等しい触媒装置、または直径が排気管60の第1部分61および第3部分63のいずれの直径よりも小さい触媒装置を排気管60の第2部分62に設けてもよい。直径が排気管60の第1部分61および第3部分63のいずれの直径よりも小さい触媒装置を排気管60の第2部分62に設ける場合には、排気管60の第1部分61、第2部分62および第3部分63の直径をそれぞれ等しくすることができ、この場合には、拡径部74、大径部75および縮径部76を有する第1触媒装置収容部73を排気管60の第2部分62に設けなくてもよい。
【0091】
また、上記実施例では、排気管がエンジンの下方を通らずにエンジンの側方を通る構造を有する鞍乗型車両として、排気管60の第3部分63がエンジン31のシリンダ33とシリンダヘッド34の境界部分の右方を通る鞍乗型車両1を例にあげたが、本発明はこれに限らない。本発明は、排気管がエンジンのクランクケースの上部の側方、シリンダの側方またはシリンダヘッドの側方を通る鞍乗型車両にも適用することができる。
【0092】
また、本発明は、オフロード競技用の鞍乗型車両に限らず、オンロードの走行およびオフロードの走行の双方に適するように設計された鞍乗型車両に適用することができる。また、専らオンロードの走行に適するように設計された鞍乗型車両でありながら、排気管がエンジンの側方を通る構造を有するものがある場合には、そのような鞍乗型車両にも本発明を適用することができる。
【0093】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う鞍乗型車両もまた本発明の技術思想に含まれる。