(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165221
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】卵殻粉末含有樹脂組成物、及び、卵殻粉末含有樹脂成形物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/04 20060101AFI20231108BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20231108BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C08L23/04
C08K3/26
C08J5/18 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076003
(22)【出願日】2022-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000106715
【氏名又は名称】ザ・パック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100110733
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥野 正司
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(72)【発明者】
【氏名】山本 祥平
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA19
4F071AA88
4F071AB21
4F071AE17
4F071AF15
4F071AF16
4F071AH04
4F071BB09
4F071BC01
4F071BC12
4J002BB021
4J002BB022
4J002BB031
4J002BB032
4J002BB051
4J002BB052
4J002DE236
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】シート状やフィルム状等薄膜に成形し得るとともに、引張強度に優れたフィルム状またはシート状の卵殻粉末含有樹脂成形物を得ることができる卵殻粉末含有樹脂組成物、及び、これを用いた卵殻粉末含有樹脂成形物を提供すること。
【解決手段】本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物は、50質量%以上の無機物質粉末と、樹脂成分と、を含有する卵殻粉末含有樹脂組成物において、前記無機物質粉末として、卵殻粉末を含み、前記樹脂成分として、190℃/2.16kgにおけるメルトマスフローレイト(MFR)が1.0g/10min以下の低密度ポリエチレン(LDPE)を含む。また、本発明の卵殻粉末含有樹脂成形物は、上記本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物を用いて、フィルム状またはシート状に成形してなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
50質量%以上の無機物質粉末と、樹脂成分と、を含有する卵殻粉末含有樹脂組成物において、
前記無機物質粉末として、卵殻粉末を含み、
前記樹脂成分として、190℃/2.16kgにおけるメルトマスフローレイト(MFR)が1.0g/10min以下の低密度ポリエチレンを含む、卵殻粉末含有樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂成分として、190℃/2.16kgにおけるメルトマスフローレイト(MFR)が1.0g/10minを超える低密度ポリエチレンをさらに含む、請求項1に記載の卵殻粉末含有樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂成分において、190℃/2.16kgにおけるメルトマスフローレイト(MFR)が1.0g/10min以下の低密度ポリエチレンが50質量%以上で、残りが、190℃/2.16kgにおけるメルトマスフローレイト(MFR)が1.0g/10minを超える低密度ポリエチレンである、請求項2に記載の卵殻粉末含有樹脂組成物。
【請求項4】
190℃/2.16kgにおけるメルトマスフローレイト(MFR)が1.0g/10min以下の前記低密度ポリエチレンが、直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)である、請求項1に記載の卵殻粉末含有樹脂組成物。
【請求項5】
前記直鎖状低密度ポリエチレンが、エチレン・1-オクテン共重合体である、請求項4に記載の卵殻粉末含有樹脂組成物。
【請求項6】
前記直鎖状低密度ポリエチレンが、メタロセンポリエチレンである、請求項4に記載の卵殻粉末含有樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の卵殻粉末含有樹脂組成物を用いて、フィルム状またはシート状に成形してなる、卵殻粉末含有樹脂成形物。
【請求項8】
厚みが100μm以下である、請求項7に記載の卵殻粉末含有樹脂成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵殻粉末を含有する卵殻粉末含有樹脂組成物、及び、これを用いた卵殻粉末含有樹脂成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、各種成形物、各種包装等の材料として、紙に代えて、あるいは紙と共に、広く用いられている。環境保護が叫ばれる昨今、熱可塑性樹脂の消費量低減が検討されている。熱可塑性樹脂の消費量低減の観点より、例えば、炭酸カルシウムを始めとする無機物質粉末を熱可塑性樹脂中に高充填してなる、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
一方、食品廃棄物として廃棄される卵殻は、炭酸カルシウムを豊富を含んでいる。また、卵殻は、バイオマス材料であり、カルシウム源として有用である他、リン等の不純物が少ないといったメリットも有している。そのため、この卵殻を粉末にし、鉱物由来等の炭酸カルシウムに代えて、樹脂の充填剤に利用することが検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、卵殻由来の炭酸カルシウム粉末は多孔質であり、細孔構造に拠る有害ガス吸収作用を活かして、卵殻粉末含有樹脂組成物を食品用包装材として使用することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。卵殻粉末は、多孔質であることから比表面積が大きく、これを充填剤として樹脂組成物に充填した場合には、より優れた補強作用も期待できる。
【0005】
しかしながら、卵殻の充填量が大きくなると、シート状やフィルム状等薄膜にした場合に成膜性に劣る問題点がある。また、シート状やフィルム状等薄膜に成膜できたとしても、成形物は裂けやすく、強度的に満足できるフィルム状またはシート状の卵殻粉末含有樹脂成形物を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-10931号公報
【特許文献2】特開2020-084033号公報
【特許文献3】特開平2-142840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的とする。即ち、本発明は、シート状やフィルム状等薄膜に成形(成膜)し得るとともに、引張(引き裂き)強度に優れたフィルム状またはシート状の卵殻粉末含有樹脂成形物を得ることができる卵殻粉末含有樹脂組成物、及び、これを用いた卵殻粉末含有樹脂成形物を提供することを課題の一例とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の本発明の一態様により解決される。即ち、本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物の一態様は、50質量%以上の無機物質粉末と、樹脂成分と、を含有する卵殻粉末含有樹脂組成物において、
前記無機物質粉末として、卵殻粉末を含み、
前記樹脂成分として、190℃/2.16kgにおけるメルトマスフローレイト(MFR)が1.0g/10min以下の低密度ポリエチレン(LDPE)を含む。
【0009】
本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物の一態様においては、前記樹脂成分として、190℃/2.16kgにおけるメルトマスフローレイト(MFR)が1.0g/10minを超える低密度ポリエチレンをさらに含んでもよい。
【0010】
このとき、前記樹脂成分において、190℃/2.16kgにおけるメルトマスフローレイト(MFR)が1.0g/10min以下の低密度ポリエチレンが50質量%以上で、残りが、190℃/2.16kgにおけるメルトマスフローレイト(MFR)が1.0g/10minを超える低密度ポリエチレンであってもよい。
【0011】
本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物の一態様においては、190℃/2.16kgにおけるメルトマスフローレイト(MFR)が1.0g/10min以下の前記低密度ポリエチレンが、直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)であることが好ましい。
【0012】
本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物の一態様においては、前記直鎖状低密度ポリエチレンが、エチレン・1-オクテン共重合体であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物の一態様においては、前記直鎖状低密度ポリエチレンが、メタロセンポリエチレンであることが好ましい。
【0014】
一方、本発明の卵殻粉末含有樹脂成形物の一態様は、上記本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物の一態様を用いて、フィルム状またはシート状に成形してなるものである。
【0015】
本発明の卵殻粉末含有樹脂成形物の一態様においては、厚みが120μm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シート状やフィルム状等薄膜に成形(成膜)し得るとともに、引張(引き裂き)強度に優れたフィルム状またはシート状の卵殻粉末含有樹脂成形物を得ることができる卵殻粉末含有樹脂組成物、及び、これを用いた卵殻粉末含有樹脂成形物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、卵殻粉末含有樹脂組成物と、卵殻粉末含有樹脂成形物とに分けて詳細に説明する。
【0018】
[卵殻粉末含有樹脂組成物]
本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物は、無機物質粉末と、樹脂成分と、を必須成分として含有している。また、本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物には、任意成分として、その他の成分を添加しても構わない。
【0019】
(A)無機物質粉末
本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物に含有される無機物質粉末には、卵殻粉末が含まれる。また、本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物に含有される無機物質粉末には、卵殻粉末以外のその他の無機物質粉末が含まれていても構わない。
(A-1)卵殻粉末
本発明に用いる卵殻粉末は、先ず卵液採取後の卵殻を洗浄し、卵殻膜を除去し、乾燥し、粉砕する一連の工程によって得られる。洗浄や卵殻膜の除去の際に、タンパク質等の不純物の除去のために、アルカリ処理等を行うこともできる。乾燥の後に、例えば800℃以上の高温で焼成してから粉砕に供しても構わない。
【0020】
卵殻粉末を得るための粉砕方法には乾式法と湿式法とがあり、何れを採用しても構わないし、乾式法と湿式法とを組み合わせても構わない。例えば、粗粉砕を乾式法で行った後、湿式法で微粉砕することもでき、その逆の組み合わせとすることも可能である。粉砕に用いる粉砕機は、特に限定されるものではなく、衝撃式粉砕機、ボールミル等の粉砕メディアを用いた粉砕機、ローラーミル等を使用することができる。粉砕後、市販の異物除去装置等を用いて、異物を除去しても構わない。
【0021】
卵殻を得るために供される卵は、どのような動物の卵であってもよいが、入手容易性や品質、さらには価格の安定性等の観点から、飼養されているニワトリ、ウズラ等の卵が好ましく、特に鶏卵が好ましい。卵殻膜は、完全に除去してから乾燥する必要は無いが、含有する硫黄分による臭気発生を抑制するために、適度に(例えば30%以上)除去しておくことが望ましい。
【0022】
粉砕後の卵殻粉末は、必要に応じて分級し、目標とする平均粒径及び粒度分布となるように適切に調整する。この際の分級方法としては、所定のメッシュのフルイを用いる方法や、空気分級、湿式サイクロン、デカンターなど、従来公知の何れの方法を採用しても構わない。
【0023】
本発明で用いられる卵殻粉末としては、平均粒子径が、例えば、0.1μm以上100μm以下の範囲内であり、10μm以上60μm以下の範囲内であることが好ましく、20μm以上50μm以下の範囲内にあることがより好ましい。平均粒子径が微細に過ぎたり、あるいは極端に粗大であると、卵殻粉末の偏在が生じたり、最終的な成形物の外観への影響が懸念される。
【0024】
なお、本明細書における卵殻粉末の平均粒子径は、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値を用いている。測定機器としては、例えば、島津製作所社製の比表面積測定装置SS-100型を好ましいものとして挙げることができる。
【0025】
用いられる卵殻粉末においては、粒子径が50μmを超える粒子を実質的に含まないことが好ましい。一方、粒子が細かくなり過ぎると、後述する樹脂成分と混練した際に粘度が著しく上昇し、成形物の製造が困難になる虞れがあるため、粒子径が0.5μm未満の粒子も実質的に含有しないことが好ましい。ここで「実質的に含有しない」とは、当該粒子径の粒子の割合が、例えば、全粒子質量の0.1質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満であることを意味する。コスト面を考えると、粉砕しすぎは高コストにつながるため、既述の通り、平均粒子径20μm以上50μmの範囲での卵殻粉末を用いることが、コスト面と成形性とを両立させることができる点でより好ましい。
【0026】
卵殻粉末は、卵殻から卵殻粉末まで加工された状態でも市販されている。具体的には、例えば、キューピー株式会社製のカルホープ(登録商標)、三州食品株式会社製の卵殻カルシウム等を挙げることができる。これら市販品をそのまま用いても構わないし、さらに微粉砕して所望の粒子径に調整してから用いても構わない。
【0027】
なお、卵殻粉末の樹脂中への分散性を高めるために、常法に従って、予め卵殻粉末を表面改質してもよい。表面改質法としては、プラズマ処理等の物理的な方法や、カップリング剤や界面活性剤で表面を化学的に表面処理する方法等を例示することができる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等を挙げることができる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性の何れの界面活性剤であってもよく、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩等が挙げることができる。
【0028】
(A-2)その他の無機物質粉末
本発明において卵殻粉末以外に配合可能なその他の無機物質粉末としては、特に限定されるものではないが、例えば、重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、クレー、タルク、ドロマイト、カオリン、ワラストナイト等を挙げることができる。
【0029】
廃棄資源とされる卵殻を資源として利用するといった卵殻使用の趣旨からすれば、その他の無機物質粉末の配合量は少ない方がこのましく、全ての無機物質粉末が卵殻粉末であることが最も好ましい。なお、その他の無機物質粉末を配合する場合には、本願発明の作用乃至効果を損なわない範囲で適宜設定することが好ましく、無機物質粉末の種類にもよるため一概には言えないが、全無機物質粉末中の10質量%以下程度とすることが好ましい。
【0030】
(A-3)無機物質粉末の配合量
無機物質粉末(卵殻粉末及びその他の無機物質粉末の合計)の配合量としては、卵殻粉末含有樹脂組成物全100質量%に対して50質量%以上である。無機物質粉末の配合量が50質量%より低いと、成形物の所定の質感、耐衝撃性等の物性を得ることが困難になる場合がある。
【0031】
一方、無機物質粉末の配合量の上限としては、配合量が多ければ多いほど、卵殻配合による効果を期待できるものの、シートやフィルムの成膜性が劣ってくる。そのため、成膜性を見ながら無機物質粉末の配合量を適宜設計すればよく、実際には、90質量%以下とすることが好ましい。
【0032】
無機物質粉末の配合量として、より具体的には、プラスチックマークの対象外となる配合量である50質量%を超え、かつ、成膜性に優れた51質量%前後とすることが合理的である。
【0033】
(B)樹脂成分
本発明に用いる樹脂成分は、主として低密度ポリエチレン(LDPE=Low Density Polyethylene)である。また、本発明においては、190℃/2.16kgにおけるメルトマスフローレイト(Melt flow rate…以下、「MFR」と略す。)が1.0g/10min(以降の説明において、1.0g/10min(190℃/2.16kg)と表記する。)以下の低密度ポリエチレン(以下、「高粘度LDPE」と称する場合がある。)を含むことが特徴となっている。また、本発明に用いる樹脂成分は、MFRが1.0g/10min(190℃/2.16kg)を超える低密度ポリエチレン(以下、「低粘度LDPE」と称する場合がある。)をさらに含んでいてもよい。
【0034】
なお、本発明にいうMFRは、日本産業規格JIS K6760で定められた押出し形プラストメータを用い、日本産業規格JIS K7210で規定された測定方法に基づいて得られた所定温度における粘度である。
【0035】
低密度ポリエチレン(LDPE)とは、繰り返し単位のエチレンがランダムに分岐を持って結合した、結晶性の熱可塑性樹脂である。卵殻粉末の配合が50質量%以上になる本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物では、成膜性が低下しやすく、薄膜のシートやフィルムを得ることが難しいが、樹脂成分の一部または全部を高温時の粘度が高い、高粘度LDPEに置き換えることで、成膜性が確保され、薄膜のシートやフィルムを得ることができるようになる。
【0036】
置き換える高粘度LDPEとしては、MFRが0.95g/10min(190℃/2.16kg)以下であることが好ましく、0.9g/10min(190℃/2.16kg)以下であることがより好ましい。MFRの値が小さい高粘度の低密度ポリエチレンを用いた方が成膜性に有利である。なお、低密度ポリエチレンであることを条件に、本発明に好ましいMFRの下限値は無い。
【0037】
高粘度LDPEは、JIS Z1702で規定された測定方法に基づく、フィルム方向MDにおける引張強度が、好ましくは35N/mm2以上、より好ましくは50N/mm2以上であることが好ましい。引張強度が当該値以上の高粘度LDPEで置き換えることで、卵殻粉末含有樹脂組成物の成膜性が安定するとともに、得られるフィルム状またはシート状の卵殻粉末含有樹脂成形物が引張強度に優れたものになりやすい点で、より好ましい。
【0038】
本発明に用いる樹脂成分において、高粘度LDPEとしては、50質量%以上であることが好ましい。高粘度LDPEの比率が低すぎると、高粘度LDPEを配合したことによる成膜性向上効果が不十分になる可能性がある。一方、高粘度LDPEの比率が高すぎても特に不具合は無いが、55~70質量%の範囲内であれば成膜性が安定するとともに、得られるフィルム状またはシート状の卵殻粉末含有樹脂成形物が引き裂き強度に優れたものになりやすい点で、当該範囲内であることがより好ましい。
【0039】
高粘度LDPEとしては、MFRが所定の値の低密度ポリエチレンであれば制限は無いが、直鎖状低密度ポリエチレン(以下、「L-LDPE」と表記する。)であることが好ましい。本発明に使用可能な具体的なL-LDPEとしては、例えば、エチレン・1-オクテン共重合体やエチレン・ブテン共重合体を挙げることができ、エチレン・1-オクテン共重合体が特に好ましい。
【0040】
また、製造方法的な観点で好ましいL-LDPEとしては、メタロセンポリエチレンを挙げることができる。メタロセンポリエチレンとは、メタロセン触媒(カミンスキー触媒)を使用して重合したポリマーのことであり、L-LDPEの一種である。メタロセンポリエチレンは、側鎖の分岐が少なく、分子量やコモノマーの分布範囲が狭いという特徴を有している。メタロセンポリエチレンを用いた成形物には、透明性、柔軟性、強度、クリーン性といった各種性能の向上が期待できる。
【0041】
(C)その他の成分
本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物には、必要に応じて、その他の成分として、各種添加剤を配合することも可能である。配合可能な添加剤としては、例えば、色剤、滑剤、流動性改良材、カップリング剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、消臭成分(例えば、活性炭、シリカゲル及びゼオライト等)、安定剤、分散剤、発泡剤、可塑剤等を挙げることができる。これらの添加剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物において、これら添加剤の配合量としては、本発明の作用乃至効果を阻害しない限り特に制限はないが、例えば、卵殻粉末含有樹脂組成物全体に対して10質量%以下程度であることが好ましい。
【0043】
(D)卵殻粉末含有樹脂組成物の製造方法
本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物の製造方法は、特に制限はなく、通常の方法用いることができる。例えば、成形物を成形するための成形機にホッパーから投入する前に樹脂成分と無機物質粉末とを混練しておいてもよいし、成形機と一体で成形と同時に樹脂成分と無機物質粉末とを混練してもよい。既述のその他の成分を添加する場合には、樹脂成分及び無機物質粉末と同時に添加してもよいし、これらと添加時期が異なっていてもよい。
【0044】
樹脂成分と無機物質粉末の混練は、樹脂成分に無機物質粉末を均一に分散させるとともに、高い剪断応力を作用させる混練方法であることが好ましく、例えば、二軸混練機を用いて混練する方法が好ましい方法として例示することができる。混練の温度としては、樹脂成分が溶融または軟化する温度以上であり、後述する成形温度と同程度の温度であってもよい。
【0045】
なお、高濃度の卵殻粉末が低粘度LDPE中に予め配合されたマスターバッチを市場から入手することができる。そのため、本発明においては、当該マスターバッチを用い、これを高粘度LDPEで希釈することで、本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物の製造することもできる。この場合には、卵殻粉末と高粘度LDPEとがそれぞれ所望とする配合量になるように、希釈する高粘度LDPEの配合量を調整すればよい。
【0046】
この場合の本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物の製造方法としては、上記の樹脂成分と無機物質粉末との混練に代えて、マスターバッチと希釈用の高粘度LDPEとを混練すればよい。
【0047】
[卵殻粉末含有樹脂成形物]
本発明の卵殻粉末含有樹脂成形物は、本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物を用いて、フィルム状またはシート状に成形してなるものである。本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物は、従来の卵殻粉末含有樹脂組成物に比して成膜性に優れるため、薄膜状に成形できるフィルム状またはシート状の成形物を得るのに適している。
【0048】
なお、本発明において、フィルム状とシート状との間に明確な線引きがあるわけではないし、線引きをすることに何ら意味を有しない。したがって、本発明においては、比較的薄膜状の板状体を全て包括して、「フィルム状またはシート状」と表現することにする。また、以下の説明においては、代表して「フィルム状」あるいは「フィルム」とだけ表記する場合がある。
【0049】
本発明の卵殻粉末含有樹脂成形物の成形方法としては、特に制限はなく、薄膜状のフィルムを成形し得る従来公知の各種製造方法を適用することができる。具体的には、例えば、インフレーション法やTダイキャスト法などの押出成形や、カレンダー成形、圧縮成形、射出成形等を挙げることができる。これらのなかでも、インフレーション法による成形は、薄膜状のフィルムを容易かつ連続的に製造できる点で好ましい。インフレーション法により成形する際、各種条件に制限は無いが、例えば成形温度として165~180℃程度とすることが好ましく、170~175℃程度とすることがより好ましい。
【0050】
成形後の卵殻粉末含有樹脂成形物の表面には、粉が生じることがあるが、その場合には、表面にニスを塗布することで表面状態を改善することができる。
【0051】
本発明の卵殻粉末含有樹脂成形物の厚みとしては、従来からの150μm前後のシート状の物も勿論問題なく製造できるが、本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物は成膜性に優れるため、120μm以下のフィルム状の物も容易に製造することができる。本発明によれば、100μm以下、さらには50μm以下のフィルム状の卵殻粉末含有樹脂成形物の製造も実現することができる。
【0052】
得られた本発明の卵殻粉末含有樹脂成形物は、和紙のような質感を有する。また、本発明の卵殻粉末含有樹脂成形物は、卵殻粉末が充填されていることによる防湿性及びガスバリア性を備えている。そのため、卵殻粉末含有樹脂成形物による袋や密閉容器は、鮮度保持性を備えたものになる。
【0053】
本発明の卵殻粉末含有樹脂成形物の用途としては、鮮度保持袋は勿論、ギフト袋、ポリ袋、掃除用フィルム、包紙等、従来より、紙、プラスチックフィルム、プラスチックシートが用いられていた各種の分野において、これらの材料に代えて用いることができる。
【0054】
以上、本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物、及び、卵殻粉末含有樹脂成形物について、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物、及び、卵殻粉末含有樹脂成形物は、上記の実施形態の構成に限定されるものではない。
【0055】
当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物、及び、卵殻粉末含有樹脂成形物を適宜改変することができる。かかる改変によってもなお本発明の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例0056】
以下に、本発明の卵殻粉末含有樹脂組成物、及び、卵殻粉末含有樹脂成形物について、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0057】
[マスターバッチの用意]
株式会社ネクアス製「NEQAS BIO EG70L」をマスターバッチとして用意した。当該マスターバッチは、卵殻粉末が70質量%配合され、樹脂として低密度ポリエチレン(LDPE)を用いている。当該マスターバッチ自体のMFRは、5.3g/10min(190℃/2.16kg)である。
【0058】
[実施例及び比較例の卵殻粉末含有樹脂組成物の製造]
用意したマスターバッチ100質量部に対して、下記表1に示す各希釈樹脂成分を37.25質量部配合し、二軸混練機を用いて170~175℃で混練して、実施例1~2及び比較例1の卵殻粉末含有樹脂組成物をそれぞれ製造した。得られた各卵殻粉末含有樹脂組成物における卵殻粉末の配合割合は、51質量%になっている。
【0059】
なお、下記表1には、用いた希釈樹脂の引張強度(フィルム方向MD JIS Z1702)も併せて示す。当該引張強度の評価基準は以下のとおりである。
A:50N/mm2以上
B:35N/mm2以上50N/mm2未満
C:35N/mm2未満
【0060】
【0061】
注)※メタロセンポリエチレン
【0062】
[成形性の評価]
得られた実施例1~2及び比較例1の卵殻粉末含有樹脂組成物を用い、インフレーション法によって、50μm、100μm及び150μmの3種の膜厚のフィルムの製造を試みた。インフレーション法による成形は、170~175℃の温度条件で行った。結果を下記表2に示す。
【0063】
【0064】
なお、成形性の評価基準は、以下のとおりである。
〇:均一に成形することができた
△:偏肉が生じながらも成形することができた
×:成形できなかった
【0065】
[引張強度、引裂強度の評価]
成形性の評価の項で得られた成形物のうち、実施例1の100μmの膜厚のフィルムについて、日本産業規格JIS Z1702で規定された測定方法に基づいて、フィルム方向MD(machine direction、フィルム成形時における流れ方向)と、その直角方向TD(transverse dirrection)における引張強度を測定した。その結果、MD:5.8N/mm2、TD:3.2N/mm2であった。
【0066】
また、実施例1の100μmの膜厚のフィルムについて、JIS Z7128で規定された測定方法に基づいて、75×63mmのフィルムを安田精機製エルメンドルフ試験機にて引裂強度を測定したところ、MD:1.3N、TD:3.0Nであった。
【0067】
[結果の考察]
表2に示す結果の通り、MFRが1.0g/10min(190℃/2.16kg)以下の低密度ポリエチレを含む実施例1及び2の卵殻粉末含有樹脂組成物によれば、50μmや100μmといった薄膜のフィルムであっても成形することができた。
【0068】
特に、MFRが0.9g/10min(190℃/2.16kg)以下であり、メタロセンポリエチレンでもある低密度ポリエチレンを含む実施例1の卵殻粉末含有樹脂組成物によれば、50μmのごく薄膜であっても偏肉が生じない均質なフィルムを成形することができた。また、膜厚100μmのフィルムであっても、十分な引張強度、引裂強度を実現することができている。