(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165229
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】自走式バキューム装置および同装置のノズル位置制御方法
(51)【国際特許分類】
B65G 53/24 20060101AFI20231108BHJP
B60P 3/00 20060101ALI20231108BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20231108BHJP
E01H 1/08 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B65G53/24
B60P3/00 Q
C02F11/00 A ZAB
E01H1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076033
(22)【出願日】2022-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000236311
【氏名又は名称】品川フアーネス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】矢野 賢一
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】福井 茂
(72)【発明者】
【氏名】有馬 利彦
【テーマコード(参考)】
3F047
4D059
【Fターム(参考)】
3F047BA07
3F047DA00
4D059AA15
4D059CB01
4D059CB22
4D059EA20
4D059EB20
(57)【要約】
【課題】自走式バキューム装置のノズル位置を自動制御して堆積物をより確実に吸引する。
【解決手段】自走式バキューム装置10は、パワーシリンダ20を用いて車両本体12に設けられた回転軸24(A点)周りにバキューム用のノズル16を回動可能である。車両本体12の傾斜角θを検出する傾斜角センサを設ける。傾斜角θとノズル16の先端の目標高さy
refとに基づき回転軸24(A点)周りの目標ノズル角度φ
refを算出する。目標ノズル角度φ
refを目標値として回転軸24周りのノズル16の回動をフィードバック制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バキューム用のノズルと、
車両本体に設けられた回転軸周りに前記ノズルを回動するノズル回動手段と、
前記車両本体の傾斜角θを検出する傾斜角センサとを備え、
前記ノズル回動手段は、前記傾斜角θと予め設定された前記ノズルの先端の目標高さyrefとに基づき前記回転軸周りの目標ノズル角度φrefを算出し、前記目標ノズル角度φrefを目標値として前記回転軸周りの前記ノズルの回動をフィードバック制御する
ことを特徴とする自走式バキューム装置。
【請求項2】
車両本体に設けられた回転軸周りに回動可能なバキューム用のノズルを備える自走式バキューム装置のノズル位置制御方法であって、
前記車両本体の傾斜角θを検出するステップと、
順運動学に基づき前記傾斜角θと前記ノズルの先端の目標高さyrefとに基づき前記回転軸周りの目標ノズル角度φrefを算出するステップと、
前記目標ノズル角度φrefを目標値として前記回転軸周りの前記ノズルの回動をフィードバック制御するステップと
を備えることを特徴とする自走式バキューム装置のノズル位置制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルを用いて堆積物を吸引する自走式バキューム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば製鉄所などで発生するスラグは、粉砕された後、搬送コンベヤによりヤードまで搬送され、搬送コンベヤ下のヤードに一時的に保管される。ヤードに堆積された粉体状のスラグは、定期的にトラックなどに積み込まれヤードから搬出される。スラグのトラックへの積み込みは、搬送コンベヤを停止した状態でショベルカーなどを用いて行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、ショベルカーに替えて遠隔操作可能な自走式バキューム装置を用いてスラグなどの粉体堆積物を回収することも考えられる。しかし、粉体堆積物の回収において自走式バキューム装置が堆積物の上に乗り上げる場合、吸引用ノズルの位置が固定されていると堆積物の吸引を行うことが困難な場合が発生する。
【0004】
本発明は、自走式バキューム装置のノズル位置を自動制御して堆積物をより確実に吸引することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の自走式バキューム装置は、バキューム用のノズルと、車両本体に設けられた回転軸周りに前記ノズルを回動するノズル回動手段と、前記車両本体の傾斜角θを検出する傾斜角センサとを備え、前記ノズル回動手段は、前記傾斜角θと予め設定された前記ノズルの先端の目標高さyrefとに基づき前記回転軸周りの目標ノズル角度φrefを算出し、前記目標ノズル角度φrefを目標値として前記回転軸周りの前記ノズルの回動をフィードバック制御することを特徴としている。
【0006】
本発明のノズル位置制御方法は、車両本体に設けられた回転軸周りに回動可能なバキューム用のノズルを備える自走式バキューム装置のノズル位置制御方法であって、前記車両本体の傾斜角θを検出するステップと、順運動学に基づき前記傾斜角θと前記ノズルの先端の目標高さyrefとに基づき前記回転軸周りの目標ノズル角度φrefを算出するステップと、前記目標ノズル角度φrefを目標値として前記回転軸周りの前記ノズルの回動をフィードバック制御するステップとを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、自走式バキューム装置のノズル位置を自動制御して堆積物をより確実に吸引することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】ノズル駆動部のリンク機構の構成を示す模式図である。
【
図3】制約条件となる動作角度θ
refの算出方法を示す模式図である。
【
図4】制約条件となるノズルの上下運動に必要なトルクτ
refの算出方法を示す模式図である。
【
図5】本実施形態の自走式バキューム装置に搭載されたノズル位置制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図6】ノズル目標高さy
aの算出方法を説明する模式図である。
【
図7】目標ノズル角度φ
refの算出方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態である自走式バキューム装置の外観を示す側面図である。なお、
図1においては、後述するノズル位置の自動制御に用いられる各変数の定義を示すため傾けた状態で示されている。
【0010】
本実施形態の自走式バキューム装置10は、車両本体12と、車両本体の左右に取り付けられた自走用のクローラ14と、スラグなどの粉体堆積物を吸引するためのノズル16と、ノズル16を保持し、車両本体12に軸支される保持部材18と、保持部材18を回動させる左右一対のパワーシリンダ(直動アクチュエータ)20と、車両が前傾してノズル16が地面に吸い付くことを防止する(自走式バキューム装置10の重心バランスを改善する)ためのカウンターウェイト22を備える。保持部材18に保持されるのノズル16の基端部には、可撓性のバキュームホースの一端を連結するホース取付部16Aが設けられ、バキュームホースの他端は遠隔のバキューム装置に連結される。
【0011】
車両本体12内にはクローラ14を駆動する原動部と、原動部およびパワーシリンダ20の駆動を制御する制御部と、車両本体12の前後方向の傾きを検出する傾斜角センサと、基準線Hに対するノズル角度φを検出する角度センサと、遠隔の操作卓との間で通信を行う通信モジュールとが備えられる。クローラ14を駆動する原動部は、通信モジュールを通して遠隔の操作卓により制御され、自走式バキューム装置10の移動は操作卓により操作される。また、バキューム装置も遠隔で操作される。
【0012】
ノズル16は、くの字状に屈曲されており、その先端部側は車両本体12の前方に延出し、下方に向けられている。ノズル16の基端部側は保持部材18により概ねクローラ14に沿って保持される。保持部材18は、車両本体12のフロント側に設けられた回転軸24により車両本体12に軸支される(A点)。ノズル16の先端部は、保持部材18が回転軸24を周りに回動されることにより、車両本体12の前方において上下動する。なお、回転軸24は車両本体12の幅方向に沿って配置される。
【0013】
パワーシリンダ20の一端は、回転軸24の上方において保持部材18のに軸支され(C点)、他端は車両本体12のリア部に軸支される(B点)。すなわち、パワーシリンダ20が伸縮することにより保持部材18が回転軸24周りに回動される。なお、カウンターウェイト22は、車両本体12の後方においてクローラ14の走行面よりも僅かに高い位置に配置される。
【0014】
次に、
図2、
図3、
図4を参照して、パワーシリンダ20を用いたノズル駆動部の構成について説明する。
図2はノズル駆動部のリンク機構の構成を示す模式図である。リンク機構は、A点とB点を結ぶ車両本体12の一部を構成する固定節L
abと、A点とC点を結ぶ保持部材18の一部を構成する回転節L
caと、固定節L
abの一端と回転節L
caの一端を連絡するパワーシリンダ20(L
bc)とから構成される。本実施形態では、保持部材18(ノズル16)に要求される動作角度θ
refと、保持部材18(ノズル16)の回転に必要なトルクτ
refを制約条件として、ノズル16の動作速度(回転軸24周りの回転速度ω)が最大になるリンク比L
ca:L
abが反復計算により求められる。
【0015】
図3は、制約条件となる動作角度θ
refの算出方法を示す模式図である。動作角度θ
refには、傾斜面から車両本体12が滑り落ちない最大傾斜角θに安全率αを掛けたものが用いられる。すなわち、自走式バキューム装置10の車両重量をm、重力加速度をg、静止摩擦係数をμ、車両傾斜角をθとするとき、μ・m・g・cosθ-m・g・sinθ=0となるθ(=tan
-1μ)が最大傾斜角となるので、これに安全率αを掛けたα・tan
-1μが動作角度θ
refとされる。
【0016】
図4は、制約条件となるノズル16の上下運動に必要なトルクτ
refの算出方法を示す模式図である。上下運動に必要なトルクτ
refには、ホース取付部16Aに取り付けられるバキュームホースの自重により保持部材18に掛かるトルクに安全率を掛けたものが用いられる。ここで、ホース線密度をρ、ホース長さをL、ホース取付部16Aにおけるホースによる負荷をF、ホース取付位置までの回転軸24(A点)からのレバーをLvとすると、ホースにより保持部材18に掛かるトルクMは、M=F・Lvとなり(F=ρ・L・g/2)、ノズル16の上下運動に必要なトルクτ
ref=α・Mとされる。
【0017】
反復計算では、パワーシリンダ20の最小/最大長さを条件としてLca、Labの長さを順次変更し、パワーシリンダ20の推力f、動作速度vLは一定として、上記制約条件(トルク>τref、動作角度>θref)の下、保持部材18(ノズル16)が最大の動作速度(回転軸24周りの回転速度ω)で動作するリンク比、Lca:Labが求められる。
【0018】
なお、パワーシリンダ20動作時における各Lca、Labに対する各時点[i]での動作速度ω[i]、トルクτ[i]、およびLca、Labにおける動作角度θAの算出には以下の式が用いられる。
Lbc[i]=Lbc[i-1]+vL・dt
A[i]=(Lbc[i]
2-Lca
2-Lab
2)/(2・Lca・Lab)
B[i]=(Lca
2-Lab
2-Lbc[i]
2)/(2・Lbc[i]・Lab)
ω[i]=dA[i]/dt
τ[i]=f・cosB[i]・Lca・sinA[i]
+f・sinB[i]・Lca・cosA[i]
θA=A|Lbc max-A|Lbc min
【0019】
図2に示されるように、A
[i]は、回転軸24における固定節L
abと回転節L
caの成す角度、B
[i]は、固定節L
abとパワーシリンダ20に対応するL
bcの成す角度である。また、L
bc maxは、パワーシリンダ20の最大長さ、L
bc minは、パワーシリンダ20の最小長さを表し、A|
Lbc maxは、L
bc maxにおけるA
[i]の値であり、A|
Lbc minは、L
bc minにおけるA
[i]の値である。
【0020】
実施例では、α=2、μ=0.5、ρ=2.46[kg/m]、L=10[m]、Lv=0.06[m]、vL=15[mm/s]、f=400×2[N]、Lbc min=270[mm]、Lbc max=370[mm]として、固定節Lca=63[mm]、回転接Lab=322[mm]とされた。すなわち、リンク比Lca:Lab=63:322であった。
【0021】
図5は、本実施形態の自走式バキューム装置10に搭載されたノズル位置制御システムの構成を示すブロック図である。
【0022】
本実施形態のノズル位置制御システムでは、まず、傾斜角センサにより検出された車両の傾斜角θから順運動学に基づき、クローラ14の接地面に対する回転軸24(A点)の高さy
aが、下記(1)式で算出される(順運動学ブロック26)。
y
a=r+L
c・sin(θ+ε) (1)
ここで、
図6に示されるように、rはクローラ14の車輪半径、L
cはクローラ14の後方車輪の中心と回転軸24(A点)の距離、εはクローラ14の車軸間を結ぶ直線とL
cの成す角度である。
【0023】
次に、傾斜角θおよび順運動学に基づき算出された回転軸24の高さy
aと、予め設定されたノズル16の先端の目標高さy
refから逆運動学に基づき、ノズル角度φの目標値である目標ノズル角度φ
refが算出される(逆運動学ブロック28)。なお、ノズル角度φは、固定節L
abの延長線を基準線Hとして、基準線Hに対してL
nが成す角度である(
図7において反時計回りを正とする)。
【0024】
本実施形態においてノズル16の先端の目標高さy
refはクローラ14の接地面高さ(y
ref=0)に設定される。このことから目標ノズル角度φ
refとノズル16の先端の目標高さy
refとの間には、
図7に示されるように(2)式が成立する。
y
ref=L
n・sin(θ+φ
ref)+y
a (2)
したがって、(2)式を目標ノズル角度φ
refについて解くことにより、目標ノズル角度φ
refは以下の(3)式で算出される。
φ
ref=sin
-1[(y
ref-y
a)/L
n]-θ (3)
なお、L
nは回転軸24(A点)からノズル16先端の下側位置までの距離である。
【0025】
目標ノズル角度φrefは、比較部30において角度センサ36において検出される現在のノズル角度φとの偏差(φref-φ)が算出された後、偏差(φref-φ)はコントローラ32に入力される。コントローラ32では例えばP制御などを通してパワーシリンダ20を駆動するための電圧Vinが偏差(φref-φ)から算出される。本実施形態では、Kp・(φref-φ)>5のときにVin=5、Kp・(φref-φ)<-5のときにVin=-5とされ、それ以外のときにはVin=Kp・(φref-φ)とされる。なお、Kpは比例ゲインである。
【0026】
Vinはノズル上下機構34に入力される。ノズル上下機構34のパワーシリンダ20は印可電圧Vinに応じて伸縮され、これによりノズル角度φが変更される。実際のノズル角度φは、角度センサ36により検知され、比較部30へとフィードバックされる。なお、ノズル角度φは、角度センサ36の代わりにパワーシリンダ20(Lbc)の長さなどを検出することでも算出できる。
【0027】
以上のように本実施形態の自走式バキューム装置によれば、車両本体の傾斜角θと予め設定された目標高さyrefに基づき目標ノズル角度φrefを算出し、傾斜角θに合わせてノズルを自動的に堆積物の吸引に適したノズル角度まで回動させることができる。これにより、車両が堆積物に乗り上げるような場合にも、より確実に堆積物を吸引することができる。
【符号の説明】
【0028】
10 自走式バキューム装置
12 車両本体
14 クローラ
16 ノズル
18 保持部材
20 パワーシリンダ(直動アクチュエータ)
24 回転軸(A点)
H 基準線
yref ノズル目標高さ
θ 傾斜角
φ ノズル角度
φref 目標ノズル角度