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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165239
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】複合体、その製造方法及びフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/14 20060101AFI20231108BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231108BHJP
   C08F 220/36 20060101ALI20231108BHJP
   C08F 220/34 20060101ALI20231108BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C08L33/14
C08K3/013
C08F220/36
C08F220/34
C08F290/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076056
(22)【出願日】2022-05-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、チーム型研究(CREST)、「力学的安定性と選択的分解性を兼備した循環型高分子微粒子材料の創成」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願 令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)、「不純物を含まない環境配慮型水系合成ラテックスフィルムの創製」受託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】上西 和也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 駿道
(72)【発明者】
【氏名】中薗 和子
(72)【発明者】
【氏名】高田 十志和
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大介
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
4J127
【Fターム(参考)】
4J002BG071
4J002DA036
4J002DJ016
4J002FD016
4J002GH00
4J002HA06
4J002HA09
4J100AL03R
4J100AL03S
4J100AL08P
4J100AL08Q
4J100BA08P
4J100BA37Q
4J100BA38P
4J100BA38Q
4J100BC43P
4J100BC43Q
4J100BC52P
4J100CA05
4J100CA06
4J100CA23
4J100DA39
4J100DA47
4J100EA05
4J100FA03
4J100FA20
4J100FA21
4J100JA01
4J127AA04
4J127BA031
4J127BB021
4J127BB091
4J127BB221
4J127BC021
4J127BD211
4J127BE511
4J127BE51Y
4J127BF161
4J127BF16X
4J127BF481
4J127BF48X
4J127BG051
4J127BG05X
4J127BG131
4J127BG13X
4J127BG271
4J127BG27Z
4J127CB142
4J127CB143
4J127CB151
4J127CC031
4J127CC271
4J127DA02
4J127DA12
4J127EA04
4J127EA22
4J127FA07
(57)【要約】
【課題】強靭性に優れた材料を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリレートと、環状分子と上記環状分子を貫通する軸分子とを有し、上記環状分子及び上記軸分子のうち少なくとも一方が重合性不飽和基含有基を有する、ロタキサンとの共重合体からなる、高分子微粒子と、無機フィラーとの、複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレートと、環状分子と前記環状分子を貫通する軸分子とを有し、前記環状分子及び前記軸分子のうち少なくとも一方が重合性不飽和基含有基を有する、ロタキサンとの共重合体からなる、高分子微粒子と、
無機フィラーとの、複合体。
【請求項2】
前記高分子微粒子における、前記(メタ)アクリレートに対する前記ロタキサンの割合が、0.001モル%以上0.1モル%未満である、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記環状分子及び前記軸分子の両方が、重合性不飽和基含有基を有する、請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項4】
前記無機フィラーが、カーボンブラック及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記カーボンブラックの含有量が前記高分子微粒子100質量部に対して1~50質量部である、又は、前記シリカの含有量が前記高分子微粒子100質量部に対して1~100質量部である、請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項5】
前記高分子微粒子の調和平均径が、2000nm以下である、請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項6】
前記(メタ)アクリレートが、下記式(1)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の複合体。
【化1】
式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数1~10のアルキル基、又は、芳香族環を有するアルキル基を表す。
【請求項7】
(メタ)アクリレートと、環状分子と前記環状分子を貫通する軸分子とを有し、前記環状分子及び前記軸分子のうち少なくとも一方が重合性不飽和基含有基を有する、ロタキサンとを、水中でラジカル重合させることで、前記(メタ)アクリレートと前記ロタキサンとの共重合体からなる高分子微粒子の水分散液を得る、重合工程と、
前記高分子微粒子の水分散液に無機フィラーを添加し、混合することで、前記高分子微粒子と前記無機フィラーとの複合体を得る、複合化工程とを備える、複合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の複合体を用いて形成された、フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子微粒子と無機フィラーとの複合体、その製造方法及びフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、(メタ)アクリル樹脂とシリカとを含有するフィルムが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-162719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようななか、本発明者らが特許文献1を参考にフィルムを作製し、その強靭性を評価したところ、昨今求められる要求を必ずしも満たすものではないことが明らかになった。
【0005】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、強靭性に優れた材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、(メタ)アクリレートとロタキサンとの共重合体からなる高分子微粒子と、無機フィラーとの複合体が優れた強靭性を示すことを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
(1) (メタ)アクリレートと、環状分子と上記環状分子を貫通する軸分子とを有し、上記環状分子及び上記軸分子のうち少なくとも一方が重合性不飽和基含有基を有する、ロタキサンとの共重合体からなる、高分子微粒子と、
無機フィラーとの、複合体。
(2) 上記高分子微粒子における、上記(メタ)アクリレートに対する上記ロタキサンの割合が、0.001モル%以上0.1モル%未満である、上記(1)に記載の複合体。
(3) 上記環状分子及び上記軸分子の両方が、重合性不飽和基含有基を有する、上記(1)又は(2)に記載の複合体。
(4) 上記無機フィラーが、カーボンブラック及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種であり、
上記カーボンブラックの含有量が上記高分子微粒子100質量部に対して1~50質量部である、又は、上記シリカの含有量が上記高分子微粒子100質量部に対して1~100質量部である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の複合体。
(5) 上記高分子微粒子の調和平均径が、2000nm以下である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の複合体。
(6) 上記(メタ)アクリレートが、後述する式(1)で表される化合物である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の複合体。
(7) (メタ)アクリレートと、環状分子と上記環状分子を貫通する軸分子とを有し、上記環状分子及び上記軸分子のうち少なくとも一方が重合性不飽和基含有基を有する、ロタキサンとを、水中でラジカル重合させることで、上記(メタ)アクリレートと上記ロタキサンとの共重合体からなる高分子微粒子の水分散液を得る、重合工程と、
上記高分子微粒子の水分散液に無機フィラーを添加し、混合することで、上記高分子微粒子と上記無機フィラーとの複合体を得る、複合化工程とを備える、複合体の製造方法。
(8) 上記(1)~(6)のいずれかに記載の複合体を用いて形成された、フィルム。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、強靭性に優れた材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の複合体、その製造方法、及び、本発明のフィルムについて説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、各成分は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上を併用する場合、その成分について量とは、特段の断りが無い限り、合計の量を指す。
また、本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル又はメタクリロイルを意味する。
また、本明細書において、脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基であっても、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよく、また、鎖状であっても、分岐状であっても、環状であってもよい。
また、本発明の複合体について、強靭性に優れ、機械的特性に優れる(例えば、最大伸長比、最大応力が大きい)ことを、「本発明の効果等が優れる」とも言う。
【0010】
[1]複合体
本発明の複合体は、
(メタ)アクリレートと、環状分子と上記環状分子を貫通する軸分子とを有し、上記環状分子及び上記軸分子のうち少なくとも一方が重合性不飽和基含有基を有する、ロタキサンとの共重合体からなる、高分子微粒子(以下、「特定高分子微粒子」とも言う)と、
無機フィラーとの、複合体である。
【0011】
本発明の複合体において、特定高分子微粒子は、無機フィラーを被覆する等、無機フィラーと相互作用して複合体を形成している。ここで、特定高分子微粒子は(メタ)アクリレートとロタキサンとの共重合体であり、柔軟性に優れる。本発明の複合体は、特定高分子微粒子の柔軟性と無機フィラーの剛性とが相まって、極めて優れた強靭性を示すものと考えられる。
【0012】
[特定高分子微粒子]
本発明の複合体に使用される特定高分子微粒子は、
(メタ)アクリレートと、環状分子と上記環状分子を貫通する軸分子とを有し、上記環状分子及び上記軸分子のうち少なくとも一方が重合性不飽和基含有基を有する、ロタキサンとの共重合体からなる、高分子微粒子である。
【0013】
〔(メタ)アクリレート〕〕
特定高分子微粒子に用いられる(メタ)アクリレートは特に制限されず、その具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシノニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-ジシクロヘキシルオキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグルコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2-モルホリノエチル(メタ)アクリレート、9-アントリル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トランス-1,4-シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール-テトラメチレングリコール)(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール-テトラメチレングリコール)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、p-メチルフェニル(メタ)アクリレート、2,4,6-トリメチルフェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0014】
<好適な態様>
上記(メタ)アクリレートは、本発明の効果等がより優れる理由から、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0015】
【化1】
【0016】
式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数1~10のアルキル基、又は、芳香族環を有するアルキル基を表す。
上記芳香族環を有するアルキル基としては、例えば、ベンジル基が挙げられる。
【0017】
上記(メタ)アクリレートは、本発明の効果等がより優れる理由から、(メタ)アクリル酸と炭素数1~10のアルコールとのエステルであることが好ましく、(メタ)アクリル酸と炭素数1~5のアルコールとのエステルであることがより好ましい。
【0018】
上記(メタ)アクリレートとして1種を用いても2種以上を併用してもよいが、本発明の効果等がより優れる理由から、2種以上を併用するのが好ましく、(メタ)アクリル酸と炭素数2~5のアルコールとのエステルとメチル(メタ)アクリレートとを併用するのがより好ましい。
【0019】
〔その他のモノマー〕
特定高分子微粒子は、上述した(メタ)アクリレートに加えて、(メタ)アクリレート以外のモノマー(その他のモノマー)を使用してもよいが、全モノマー((メタ)アクリレート、その他のモノマー)に対する(メタ)アクリレートの合計の割合は、本発明の効果等がより優れる理由から、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましい。全モノマーに対する(メタ)アクリレートの合計の割合の上限は特に制限されず、100モル%である。
【0020】
〔特定ロタキサン〕
特定高分子微粒子に用いられるロタキサンは、環状分子と上記環状分子を貫通する軸分子とを有し、上記環状分子及び上記軸分子のうち少なくとも一方が重合性不飽和基含有基を有する、ロタキサン(以下、「特定ロタキサン」とも言う)である。
【0021】
<環状分子>
上記環状分子は特に制限されないが、その具体例としては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、クラウンエーテル、及び、これらの誘導体等が挙げられる。
上記環状分子は置換基を有していてもよい。そのような置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、アセチル基、プロピオニル基、ヘキサノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2-ヒドロキシプロピル基、1,2-ジヒドロキシプロピル基、シクロヘキシル基、ブチルカルバモイル基、ヘキシルカルバモイル基、フェニル基、ポリカプロラクトン基、アルコキシシラン基、アクリロイル基、メタクリロイル基、シンナモイル基、ポリマー鎖(ポリカプロラクトン基、ポリカーボネート基など)、及び、これらの誘導体等が挙げられる。
上記環状分子は、本発明の効果等がより優れる理由から、クラウンエーテル、又は、クラウンエーテルの誘導体であることが好ましい。
【0022】
1つの特定ロタキサンが有する環状分子の数は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、1であることが好ましい。
【0023】
<軸分子>
上記軸分子は、上記環状分子を貫通する軸状(棒状)の分子であり、通常、その両末端に上述した環状分子の脱離を防止するための嵩高い末端官能基を有する。
【0024】
(軸状部分)
上記軸分子は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、2価の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、アルキレン基であることがより好ましい。
なお、上記2価の脂肪族炭化水素基を構成する1又は2以上の炭素原子は、-O-、-S-、-SO-、-N(R)-(R:水素原子又は置換基)、-CO-、-COO-、-CONR-(R:水素原子又は置換基)、又は、これらを組み合わせた基によって置き換えられていてもよい。
上記2価の脂肪族炭化水素基は、本発明の効果等がより優れる理由から、上記2価の脂肪族炭化水素基を構成する少なくとも1つの炭素原子が、-O-、-S-、-SO-、-N(R)-(R:水素原子又は置換基)、-CO-、-COO-、-CONR-(R:水素原子又は置換基)、又は、これらを組み合わせた基によって置き換えられたものであることが好ましい。
【0025】
(末端官能基)
上述のとおり、上記軸分子は、通常、その両末端に上述した環状分子の脱離を防止するための嵩高い末端官能基を有する。
上記末端官能基は特に制限されないが、その具体例としては、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、ジニトロフェニル基、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン基、シルセスキオキサン基、ピレン基、及び、これらの誘導体等が挙げられる。
上記軸分子は、本発明の効果等がより優れる理由から、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であることが好ましく、置換基を有していてもよいフェニル基であることがより好ましい。
【0026】
<炭素数>
上記軸分子の炭素数は、本発明の効果等がより優れる理由から、4~12であることが好ましい。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、6~10であることが好ましい。
なお、上記「軸分子の炭素数」とは、軸分子の軸状部分の炭素数であり、上述した末端官能基の炭素数、及び、軸分子が有する置換基(例えば、後述する重合性不飽和基含有基)の炭素数は含まれない。
【0027】
<重合性不飽和基含有基>
上述のとおり、上述した環状分子及び上述した軸分子のうち少なくとも一方は、重合性不飽和基含有基を有する。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、上述した環状分子及び上述した軸分子の両方が重合性不飽和基含有基を有するのが好ましい。上述した環状分子及び上述した軸分子の両方が重合性不飽和基含有基を有することで、特定ロタキサンのスライディング効果が生じて、柔軟性及び強靭性がさらに向上する。
また、上述した軸分子が上記重合性不飽和基含有基を有する場合、軸分子の軸状部分が上記重合性不飽和基含有基を有するのが好ましい。
上述した環状分子及び上述した軸分子は、それぞれ2以上の重合性不飽和基含有基を有していてもよい。
【0028】
上記重合性不飽和基含有とは、重合性不飽和基、又は、重合性不飽和基を含有する基であり、-L-P(ここで、Lは単結合又は2価の連結基を表し、Pは重合性不飽和基を表す)で表される基である。
上記重合性不飽和基含有基の重合性不飽和基は特に制限されないが、その具体例としては、ビニル基、アクリル基(アクリロイル基)、メタクリル基(メタクリロイル基)、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等が挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が好ましい。
【0029】
上記-L-P中のLが2価の連結基である場合のその具体例としては、2価の脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)、2価の芳香族炭化水素基、-O-、-S-、-SO-、-N(R)-(R:水素原子又は置換基)、-CO-、-COO-、-CONR-(R:水素原子又は置換基)、これらを組み合わせた基等が挙げられる。
【0030】
<合成方法>
特定ロタキサンの合成方法は特に制限されず、公知の方法を組み合わせることで合成することができる。
【0031】
〔特定ロタキサン/(メタ)アクリレート〕
上述した(メタ)アクリレート((メタ)アクリレートに加えてその他のモノマーを使用する場合には、(メタ)アクリレートとその他のモノマーとの合計)に対する上述した特定ロタキサンの割合(以下、「割合A」とも言う)は、本発明の効果等がより優れる理由から、0.001モル%以上10モル%以下であることが好ましく、0.005モル%以上1モル%以下であることがより好ましく、0.01モル%以上0.1モル%未満であることがさらに好ましい。
【0032】
〔合成方法〕
特定高分子微粒子の合成方法は特に制限されないが、(メタ)アクリレート(及び、その他のモノマー)並びに特定ロタキサンを、水中で開始剤とともに混合し、加熱することで、ラジカル重合させる方法等が挙げられる。
【0033】
〔調和平均径〕
特定高分子微粒子の調和平均径は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、2000nm以下であることが好ましく、1000nm以下であることがより好ましく、500nm以下であることがさらに好ましい。上記調和平均径の下限も特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましく、200nm以上であることが特に好ましい。
なお、上記調和平均径は、粒子径測定機(マルバーン社製ゼータサイザーナノS)を用いてキュムラント法によって測定されたDMF(ジメチルホルムアミド)中の調和平均径である。
【0034】
〔膨潤度〕
特定高分子微粒子の膨潤度は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、5以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましく、15以上であることがさらに好ましい。上記膨潤度の上限は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、100以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、30以下であることがさらに好ましい。
なお、上記膨潤度は、下記式によって表されるパラメータである。
膨潤度=(D(DMF))/(D(水))
ここで、D(DMF)は、上述したDMF中の調和平均径を表す。また、D(水)は水中の調和平均径を表し、その測定方法は、DMFの代わりに水を用いる点以外上述したDMF中の調和平均径と同じである。
【0035】
〔分子量〕
特定高分子微粒子の重量平均分子量は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、1,000~1,000,000であることが好ましく、10,000~100,000であることがより好ましい。
なお、上記重量平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値をもとにした標準ポリスチレン換算値である。
【0036】
〔破断伸び〕
特定高分子微粒子の破断伸びは特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、400%を超えるのが好ましい。破断伸びの上限は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、1000%以下であることが好ましい。
なお、上記破断伸びは以下のように測定したものとする。
高分子微粒子の分散液(5質量%、7mL)(遠心精製、透析済)を用いて5cm四方のフィルム(厚み:約0.4mm)を作製し、得られたフィルムから1cm×4cmのフィルムを4枚切り出して、長手方向中央にダイヤモンドカッターを使用して2mmの切り込みを入れる。このようにして、得られた引張試験用の試験片について、テンシロン引張試験機を用いて引張試験(ロードセル:50N、伸長速度:10mm/分、試験温度:25℃)を行う。
【0037】
〔残留歪〕
特定高分子微粒子の残留歪は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、25%を超えるのが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。残留歪の上限は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、80%以下であることが好ましい。
なお、上記残留歪みは以下のように測定したものとする。
高分子微粒子の分散液(5質量%、7mL)(遠心精製、透析済)を用いて5cm四方のフィルム(厚み:約0.4mm)を作製し、得られたフィルムに対して100kPaの応力を10時間印加し、その後14時間緩和させた後の残留歪を測定する。
【0038】
[無機フィラー]
本発明の複合体に使用される無機フィラーは特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、カーボンブラック及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、シリカであることがより好ましい。
【0039】
〔カーボンブラック〕
上記カーボンブラックは、1種のカーボンブラックを単独で用いても、2種以上のカーボンブラックを併用してもよい。
上記カーボンブラックは特に限定されず、例えば、SAF-HS、SAF、ISAF-HS、ISAF、ISAF-LS、IISAF-HS、HAF-HS、HAF、HAF-LS、FEF、GPF、SRF等の各種グレードのものを使用することができる。
【0040】
本発明の複合体において、上記カーボンブラックの含有量は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、上述した特定高分子微粒子100質量部に対して、1~50質量部であることが好ましい。
【0041】
〔シリカ〕
上記シリカは特に制限されず、従来公知の任意のシリカを用いることができる。
上記シリカとしては、例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、ヒュームドシリカ、珪藻土などが挙げられる。上記シリカは、1種のシリカを単独で用いても、2種以上のシリカを併用してもよい。
【0042】
上記シリカのセチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)吸着比表面積(以下、「CTAB吸着比表面積」を単に「CTAB」とも言う)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、100~300m/gであることが好ましく、150~200m/gであることがより好ましい。
ここで、CTAB吸着比表面積は、シリカ表面へのCTAB吸着量をJIS K6217-3:2001「第3部:比表面積の求め方-CTAB吸着法」にしたがって測定した値である。
【0043】
本発明の複合体において、上記シリカの含有量は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、上述した特定高分子微粒子100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましく、2~50質量部であることがより好ましく、5~20質量部であることがより好ましい。
【0044】
〔窒素吸着比表面積〕
上記カーボンブラック又は上記シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、60~160m/gであることが好ましい。
ここで、窒素吸着比表面積(NSA)は、カーボンブラック又はシリカへの窒素吸着量をJIS K6217-2:2001「第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」にしたがって測定した値である。
【0045】
〔含有量〕
本発明の複合体において、上記無機フィラーの含有量(2種以上の無機フィラーを含有する場合は合計の含有量)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、上述した特定高分子微粒子100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましく、2~50質量部であることがより好ましく、5~20質量部であることがより好ましい。
【0046】
[製造方法]
本発明の複合体の製造方法は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、
(メタ)アクリレートと、環状分子と上記環状分子を貫通する軸分子とを有し、上記環状分子及び上記軸分子のうち少なくとも一方が重合性不飽和基含有基を有する、ロタキサン(特定ロタキサン)とを、水中でラジカル重合させることで、上記(メタ)アクリレートと上記ロタキサンとの共重合体からなる高分子微粒子(特定高分子微粒子)の水分散液を得る、重合工程と、
上記高分子微粒子の水分散液に無機フィラーを添加し、混合することで、上記高分子微粒子と無機フィラーとの複合体を得る、複合化工程とを備える方法であることが好ましい。特定高分子微粒子及び無機フィラーについては上述のとおりである。
【0047】
[用途]
本発明の複合体は、例えば、フィルム、有機/無機ハイブリッドフィラー、塗料、コーティン剤等に有用である。
【0048】
[2]フィルム
本発明のフィルムは、上述した本発明の複合体を用いて形成されたフィルムである。
本発明の複合体については上述のとおりである。
【実施例0049】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
[ロタキサンの合成]
【0051】
〔軸状部分前駆体の合成〕
3,5-ジメチルベンズアルデヒド(3.3g)のTHF(テトラヒドロフラン)(250mL)溶液に6-アミノ-1-ヘキサノール(2.9g)を加えて、室温で一昼夜攪拌した。溶媒を留去した後、残渣をメタノール(250mL)に溶解させ、NaBH(2.9g)に滴下した。その混合溶液を室温で5時間攪拌し、溶媒を留去した後、残渣をクロロホルム(100mL)に溶解させ、その有機相を蒸留水で洗浄した。得られた有機相を硫酸マグネシウムで乾燥し、有機溶媒を留去させ、N-(3,5-ジメチルベンジル)-6-ヒドロキシヘキシルアミン)(化合物1)(5.8g)を無色のオイルとして得た。
次に、得られた化合物1をメタノール(100mL)に溶解させ、12Nの塩酸水溶液(8mL)を加えた。その混合溶液をジエチルエーテル(1L)に滴下すると沈殿物が固体成分として得られ、その固体成分を濾過した。得られた固体成分をヘキサフルオロホスフェートアンモニウム塩の飽和水溶液に加え、その溶液をメタノールに滴下すると、沈殿物を得た。得られた沈殿物をろ過した後、その固体成分を水洗した後乾燥し、N-(3,5-ジメチルベンジル)-6-ヒドロキシヘキシルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート塩)(化合物2)(1.4g)を白色固体として得た。
【0052】
〔環状分子の合成〕
ヒドロキシメチルジベンゾ-24-クラウン-8-エーテル(1.9g)の塩化メチレン(45mL)溶液に2-イソシアナートエチルメタクリレート(1.4mL)とジブチル錫ジラウレート(0.2mL)を0℃で加えて、室温で48時間攪拌した。得られた混合物を10mLに濃縮し、ヘキサン中に投入し沈殿物を得た。その沈殿物を酢酸エチル/ヘキサン混合溶液(2/3)に溶解させ、シリカカラムで生成した。目的の環状分子(化合物3)を2.5g得た。
【0053】
〔ロタキサンの合成〕
上記化合物2(150mg)と上記化合物3(260mg)の塩化メチレン(1mL)混合溶液を透明になるまで室温で超音波を照射した。その溶液にジブチル錫ジラウレート(1mg)と3,5-ジメチルフェニルイソシアナート(160mg)を加えて、室温で5時間攪拌した。その後、その溶液にメタノールを加えて、未反応のイソシアナートを失活させた。揮発成分を留去した後、残渣をTHF(4mL)に溶解した。そのTHF溶液にトリエチルアミン(810mg)と2-イソシアナートエチルメタクリレート(620mg)を加え、室温で2.5日攪拌した。その溶液から揮発成分を留去した後、カラムで生成することによって目的のロタキサン(下記)(290mg)を得た。
【0054】
【化2】
【0055】
得られたロタキサンは、環状分子(化合物3)と上記環状分子を貫通する軸分子とを有し、上記軸分子がその両末端に上記環状分子の脱離を防止するための嵩高い末端官能基(ジメチルフェニル基)を有し、上記環状分子が重合性不飽和基(メタクリロイルオキシ基)含有基を有し、上記軸分子が重合性不飽和基(メタクリロイルオキシ基)含有基(-C(=O)NHCOC(=O)C(CH)=CH)を有する、ロタキサンであり、上述した特定ロタキサンに該当する。
【0056】
[高分子微粒子の合成]
下記表1に記載の割合[mol%]のモノマー及び架橋剤の混合溶液(水:36g、界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム):0.1g、ハイドロホーブ(ヘキサデカン):0.46g、総モノマー濃度:1600mM)を、超音波ホモジナイザーで超音波照射(375W、3分)してエマルジョン化した後、得られたエマルジョンに開始剤(過硫酸カリウム)(0.1g)を加えて、70℃で4時間ラジカル重合させ(撹拌速度:200rpm(rotations per minute)、各高分子微粒子の分散液を得た。
【0057】
下記表1中のモノマーの略称は以下のとおりである。
・BA:アクリル酸ブチル
・MMA:メタクリル酸メチル
【0058】
下記表1中の架橋剤の略称は以下のとおりである。
・RC:上述のとおり合成したロタキサン
・HDD:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(化学架橋剤)
【0059】
[複合体の製造]
各高分子微粒子の分散液(高分子微粒子として100質量部)にシリカ10質量部を添加し、攪拌した。このようにして、高分子微粒子とシリカとの各複合体(高分子微粒子100質量部に対するシリカの含有量:10質量部)の分散液を得た。
【0060】
なお、実施例1~4の複合体は、(メタ)アクリレートと特定ロタキサンとの共重合体からなる高分子微粒子(特定高分子微粒子)と、シリカ(無機フィラー)との複合体であり、上述した本発明の複合体に該当する。一方、比較例1の複合体は、(メタ)アクリレートのみの共重合体からなる高分子微粒子(特定高分子微粒子以外の高分子微粒子)と、シリカとの複合体であり、上述した本発明の複合体に該当しない。また、比較例2の複合体は、(メタ)アクリレートと1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートとの共重合体からなる高分子微粒子(特定高分子微粒子以外の高分子微粒子)と、シリカとの複合体であり、上述した本発明の複合体に該当しない。
【0061】
[フィルムの作製]
得られた各複合体の分散液(5質量%、7mL)(遠心精製、透析済)を用いて5cm四方のフィルム(厚み:約0.1mm)を作製した。
【0062】
[評価]
得られたフィルムから1cm×4cmのフィルムを4枚切り出して、長手方向中央にダイヤモンドカッターを使用して2mmの切り込みを入れた。このようにして、引張試験用の試験片を作製した。
得られた試験片について、テンシロン引張試験機を用いて引張試験(ロードセル:50N、伸長速度:10mm/分、試験温度:25℃)を行い、最大伸長比(破断時の長さ/元の長さ)、最大応力、及び、破断エネルギーを評価した。
結果を表1に示す。最大伸長比、最大応力、及び、破断エネルギー共に大きい程好ましい。破断エネルギーが大きい程、強靭性に優れると言える。
【0063】
【表1】
【0064】
なお、表1中、D(水)、D(DMF)及び膨潤度については上述のとおりである。
【0065】
表1から分かるように、本発明の複合体以外の複合体である比較例1~2の複合体を用いて作製したフィルムと比較して、本発明の複合体である実施例1~4の複合体を用いて作製したフィルムは、優れた強靭性を示した。なかでも、割合Aが0.005モル%以上である実施例2~4は、より優れた強靭性を示した。そのなかでも、割合Aが0.02モル%以上である実施例3~4は、さらに優れた強靭性を示した。そのなかでも。割合Aが0.03モル%以上である実施例4は、さらに優れた強靭性を示した。