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特開2023-165277歯車装置およびそれを備えた移動装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165277
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】歯車装置およびそれを備えた移動装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/00 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
G01L5/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076119
(22)【出願日】2022-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝則
(72)【発明者】
【氏名】平田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】牧野 智昭
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051BA07
(57)【要約】
【課題】温度変化による影響を受けずに、アキシアル方向の荷重を検出することが可能な歯車装置およびそれを備えた移動装置を提供すること。
【解決手段】歯車装置(1)は、ハウジング(72)と、入力軸と、出力軸(5)と、入力軸に固定された第1はすば歯車と、出力軸に固定され、入力歯車と噛み合う第2はすば歯車と、第2転がり軸受(15)に作用するアキシアル方向の荷重を検出する荷重センサ(8)とを備える。第2転がり軸受(15)は、ハウジング(7)にラジアル方向の隙間(G2)をもって篏合される軌道輪(16)を含み、荷重センサ(8)は、軌道輪(16)から受ける荷重を検出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに第1転がり軸受を介して回転自在に支持される入力軸と、
前記ハウジングに第2転がり軸受を介して回転自在に支持される出力軸と、
前記入力軸に固定された第1はすば歯車と、
前記出力軸に固定され、前記第1はすば歯車と噛み合う第2はすば歯車と、
前記第1転がり軸受は前記第2転がり軸受に作用するアキシアル方向の荷重を検出する荷重センサとを備え、
前記第1転がり軸受または前記第2転がり軸受の少なくとも一方は、前記入力軸、前記出力軸、または前記ハウジングにラジアル方向の隙間をもって篏合される軌道輪を含み、
前記荷重センサは、前記軌道輪から受ける荷重を検出する、歯車装置。
【請求項2】
前記軌道輪の端面と前記ハウジングとの間には、アキシアル方向の隙間が設けられている、請求項1に記載の歯車装置。
【請求項3】
前記ラジアル方向の隙間は、前記軌道輪のラジアル方向の熱膨張量よりも大きくなるように設定されている、請求項1に記載の歯車装置。
【請求項4】
前記軌道輪と前記荷重センサとの間に設けられる前記アキシアル方向の隙間には、予圧弾性部材が設けられている、請求項1に記載の歯車装置。
【請求項5】
前記第1はすば歯車および第2はすば歯車のねじれ角度は、6度以上である、請求項1に記載の歯車装置。
【請求項6】
前記第1はすば歯車および第2はすば歯車の噛み合い率は、2以上である、請求項1に記載の歯車装置。
【請求項7】
前記荷重センサと前記軌道輪との当接面のラジアル方向の寸法は、2mm以上である、請求項1に記載の歯車装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の歯車装置を含む走行駆動装置と、
前記荷重センサで検出された検出値から前記走行駆動装置のアキシアル方向の伝達トルクを演算する制御装置と、
前記制御装置で演算され、前記伝達トルクをもとに制御される被制御装置とを備える、移動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車装置およびそれを備えた移動装置に関し、特に荷重センサを備えた歯車装置およびそれを備えた移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、軸受へのアキシアル荷重の増減から伝達トルクを算出するトルク検出装置が知られている。たとえば、特許文献1(特開2009-031058号)に記載のトルク検出装置は、トルクセンサがテーパベアリングの外側とハウジングとの間に挟まれており、テーパベアリングに作用するアキシアル荷重およびスラスト荷重を検出できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-031058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のトルクセンサは、テーパベアリングの外輪外径面とハウジングが圧入などで接触しているため、温度変化によってベアリングの外輪外径面とセンサの間の接触状態が変化し、トルクセンサが検出するアキシアル荷重も影響を受ける。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、温度変化による影響を受けずに、アキシアル方向の荷重を検出することが可能な歯車装置およびそれを備えた移動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る歯車装置は、ハウジングと、ハウジングに第1転がり軸受を介して回転自在に支持される入力軸と、ハウジングに第2転がり軸受を介して回転自在に支持される出力軸と、入力軸に固定された第1はすば歯車と、出力軸に固定され、第1はすば歯車と噛み合う第2はすば歯車と、第1転がり軸受は第2転がり軸受に作用するアキシアル方向の荷重を検出する荷重センサとを備え、第1転がり軸受または第2転がり軸受の少なくとも一方は、入力軸、出力軸、またはハウジングにラジアル方向の隙間をもって篏合される軌道輪を含み、荷重センサは、軌道輪から受ける荷重を検出する。
【0007】
好ましくは、軌道輪の端面とハウジングとの間には、アキシアル方向の隙間が設けられている。
【0008】
好ましくは、ラジアル方向の隙間は、軌道輪のラジアル方向の熱膨張量よりも大きくなるように設定されている。
【0009】
好ましくは、軌道輪と荷重センサとの間に設けられるアキシアル方向の隙間には、予圧弾性部材が設けられている。
【0010】
好ましくは、第1はすば歯車および第2はすば歯車のねじれ角度は、6度以上である。
【0011】
好ましくは、第1はすば歯車および第2はすば歯車の噛み合い率は、2以上である。
【0012】
好ましくは、荷重センサと軌道輪との当接面のラジアル方向の寸法は、2mm以上である。
【0013】
本発明の一態様に係る移動装置は、上述した歯車装置を含む走行駆動装置と、荷重センサで検出された検出値から走行駆動装置のアキシアル方向の伝達トルクを演算する制御装置と、制御装置で演算され、伝達トルクをもとに制御される被制御装置とを備える。
【0014】
本発明によれば、温度変化による影響を受けずに、アキシアル方向の荷重を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態1に係る歯車装置を示す断面図である。
図2図1のII部分を拡大して示す断面図である。
図3】本発明の実施の形態2に係る歯車装置を示す断面図である。
図4図3のIV部分を拡大して示す断面図である。
図5】本発明の実施の形態3に係る歯車装置を示す断面図である。
図6図5のVI部分を拡大して示す断面図である。
図7】本発明の実施の形態4に係る歯車装置を示す断面図である。
図8】本発明の実施の形態5に係る歯車装置を示す断面図である。
図9】本発明の実施の形態6に係る歯車装置を示す断面図である。
図10】本発明の実施の形態7に係る歯車装置を示す断面図である。
図11】歯車装置を用いた移動装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0017】
(実施の形態1)
はじめに、図1を参照して、本実施の形態に係る歯車装置1の概要について説明する。
【0018】
歯車装置1は、たとえば減速機、変速機、増速機などであり、典型的には後述する走行駆動装置102(図11)などに適用される。歯車装置1は、ハウジング7と、入力軸3と、入力軸3に固定された第1はすば歯車4と、出力軸5と、出力軸5に固定された第2はすば歯車6とを備える。
【0019】
ハウジング7は、第1はすば歯車4と第2はすば歯車6とを収容する空間を内部に有する筐体である。ハウジング7は、第1はすば歯車4を覆う第1ハウジング71と、第2はすば歯車6を覆う第2ハウジング72とを含む。第1ハウジング71と第2ハウジング72とは、一体的に形成されている。ハウジング7の材質は、たとえば鋼、軽金属、およびアルミ合金などであることが好ましい。
【0020】
第1ハウジング71には、第1穴部71aが設けられる。これにより、入力軸3は、その軸方向一方端部(紙面上の左側)が内部に収容され、その軸方向他方端部(紙面上の右側)が第1ハウジング71の外部に突出する。入力軸3の軸方向他方端部は、直接または間接的に他の動力伝達機構を介して、駆動源であるモータに接続されている。
【0021】
入力軸3には、第1はすば歯車4が固定されている。第1はすば歯車4は、外周部に複数の外歯を有する。複数の外歯は、第1はすば歯車4の回転中心軸を中心とする円弧に沿って、一定のピッチで傾斜して配列される。
【0022】
第1はすば歯車4は、ねじれ角度が6度以上40度以下であり、好ましくは20度以上35度以下である。ねじれ角度を6度以上にすることで、歯車に作用する接線力に対するアキシアル荷重の大きさの比重を10分の1よりも大きくすることができるため、後述する荷重センサ8の感度を下げることができ、安価な荷重センサを使用することができる。ねじれ角度が40度を超えると、スラスト荷重が大きくなり、軸受および軸受箱への影響が大きくなる。また、ねじれ角度を20度以上35度以下に設定することで、歯車装置1をたとえば自動車などの走行装置に好適に利用することができる。第1はすば歯車4は、たとえば左ねじれであることが好ましい。駆動源であるモータを駆動させると、モータから供給される動力によって入力軸3および第1はすば歯車4が回転する。
【0023】
第1はすば歯車4のモジュールは、1.5以上4以下であることが好ましい。モジュールが1.5未満であると、剛性が低くなるため歯車が変形しやすくなり、トルク変動に影響を与える。また、モジュールが4を超えると、同一の減速比を得るために歯車が大型化したり、噛み合い率が低下する。
【0024】
また、入力軸3は、詳細な構成として、第1ハウジング71の外部に突出する第1軸部31と、第1ハウジング71内に位置する第2軸部32と、第1軸部31および第2軸部32の第1段差部33と、第2軸部32の軸方向端部に設けられる第2段差部34とを含む。第1軸部31は、上述したモータなどの駆動源に直接または間接的に連結される。第2軸部32の軸方向略中央部には、第1はすば歯車4が設けられる。なお、第2軸部32は、第1軸部31よりも径方向寸法が大きい。
【0025】
入力軸3は、第1ハウジング71に第1転がり軸受10を介して回転自在に支持される。第1転がり軸受10は、軌道輪(外輪)11と、軌道輪(内輪)12と、この一対の軌道輪11,12の間に介在される転動体13とを備える。具体的には、第1転がり軸受10は、たとえば2つ設けられ、第1ハウジング71の角部と、入力軸3の第1段差部33および第2段差部34との間にそれぞれ設けられる。外輪11は第1ハウジング71に当接し、内輪12は入力軸3に当接する。第1転がり軸受10,10は、圧入篏合であることが好ましい。
【0026】
第2ハウジング72には、第2穴部72aが設けられる。これにより、出力軸5は、その軸方向一方端部(紙面上の左側)が外部に突出し、その軸方向他方端部が第2ハウジング72の内部に収容される。出力軸の軸方向一方端部(紙面上の右側)は、たとえば駆動装置など(図示せず)が接続されている。
【0027】
出力軸5には、第2はすば歯車6が固定されている。第2はすば歯車6は、外周部に複数の外歯を有し、第1はすば歯車4と噛み合う。第2はすば歯車6の径は、第1はすば歯車4の径よりも大きいことが好ましい。複数の外歯は、第2はすば歯車6の回転中心軸を中心とする円弧に沿って、一定のピッチで傾斜して配列される。第2はすば歯車6は、第1はすば歯車6に対応して、ねじれ角度が6度以上40度以下であり、好ましくは20度以上35度以下である。さらに、第2はすば歯車6は、たとえば第1はすば歯車4に対応して、右ねじれであることが好ましい。第1はすば歯車4の回転により、第2はすば歯車6が回転することで、出力軸5に動力が伝わる。
【0028】
また、第2はすば歯車6は、第1はすば歯車4に対応して、そのモジュールは、1.5以上4以下であることが好ましい。
【0029】
第1はすば歯車4および第2はすば歯車6の噛み合い率は、2以上であり、好ましくは2.5以上4以下である。噛み合い率とは、第1はすば歯車4と第2はすば歯車6が回転している場合に同時に噛み合っている歯の数の平均値であり、歯車の強度、振動、および騒音に影響を与えるものである。噛み合い率が小さいと、噛み合う歯が少ないため、撓んで振動が大きくなり、荷重センサ8で安定してアキシアル荷重を測定することができない。本実施の形態の歯車装置1は、後述する移動装置100として用いられ、静粛性が求められる。そのため、噛み合い率を2以上とすることで、振動を抑制することができ、荷重センサ8による荷重測定を安定させることができる。さらに、噛み合い率を2.5以上とすることで、同時に噛み合う歯が増えるため、撓みが減少し、さらに振動を抑制することができ、静粛性、噛み合い効率(燃費、電費に影響)を向上することができる。また、設計上の観点から、噛み合い率を4以下にしている。
【0030】
移動装置100には、複数の歯車装置1が用いられるが、その中で上記の噛み合い率に設定するものは、少なくとも荷重センサ8を配置した軸(本実施の形態では、第1はすば歯車5と第2はすば歯車6)である。なお、荷重センサ5を配置した軸以外で振動が発生した場合であっても、その振動が伝達され、荷重センサ5に影響を与える可能性があるため、移動装置100を構成する歯車装置1のすべてが上記した噛み合い率となるように設定されることが好ましい。
【0031】
このような構成により、本実施形態の歯車装置1は、入力軸3に回転トルクを入力すると、第1はすば歯車4が回転し、その回転が第2はすば歯車6に伝わり、出力軸5に回転トルクが出力される。
【0032】
また、出力軸5は、詳細な構成として、第2ハウジング72の外部に突出する第1軸部51と、第2ハウジング72内に位置する第2軸部52と、第1軸部51および第2軸部52の第1段差部53と、第2軸部52の軸方向端部に設けられる第2段差部54とを含む。第1軸部51は、上述した駆動装置などに直接または間接的に連結される。第2軸部52の軸方向略中央部には、第2はすば歯車6が設けられる。なお、第2軸部52は、第1軸部51よりも径方向寸法が大きい。
【0033】
出力軸5は、第2ハウジング72に第2転がり軸受15および荷重センサ8を介して回転自在に支持されている。さらに、第2転がり軸受15は、正の隙間をもって篏合(いわゆるルーズ篏合)されている。
【0034】
図2に示すように、第2転がり軸受15は、第1転がり軸受10と同様であり、軌道輪(外輪)16と、軌道輪(内輪)17と、この一対の軌道輪16,17の間に介装される転動体18とを備える。具体的には、第2転がり軸受15は、2つ設けられる。第2転がり軸受15の外輪16の軸方向外側は、いずれも荷重センサ8側に位置する。
【0035】
第2転がり軸受15の外輪16は、第2ハウジング72側に位置し、第2転がり軸受15の外輪16の外径面と第2ハウジング72の上壁72bとの間には、ラジアル方向の隙間G1が設けられる。このように、外輪16は、第2ハウジング72の上壁72bに対してルーズ篏合である。なお、ルーズ篏合により多少の滑りは許容されるものの、隙間G1が大きすぎると外輪16が回転してしまい好ましくない。そこで、適切な隙間G1は、外輪16のラジアル方向の膨張量よりも大きくなるように設けられることが好ましい。これにより、第2転がり軸受15または出力軸5が熱膨張したとしても、負隙間とならず、正隙間を保つことができる。さらに、第2転がり軸受15の外輪16の軸方向一方側の端部と荷重センサ8の内面との間には、アキシアル方向の隙間G2が設けられる。
【0036】
また、第2転がり軸受15の内輪17は、それぞれ出力軸5の第1段差部53または第2段差部54側に位置する。なお、内輪17は、圧入篏合であるが、外輪16のようにルーズ篏合であってもよい。
【0037】
荷重センサ8は、たとえばリング状であり、第2転がり軸受15と第2ハウジング72との間に配置される。具体的には、荷重センサ8は第2ハウジング72の上壁72bと側壁72cとのなす角部に固定される。荷重センサ8は、第2転がり軸受15に作用するアキシアル方向の荷重を検出するものである。具体的には、荷重センサ8は、第2転がり軸受15の外輪16から受ける荷重を検出する。
【0038】
また、荷重センサ8と第2転がり軸受15の外輪16との当接面のラジアル方向の寸法Dは、2mm以上である。これにより、荷重センサ8の当接面が局所的になることを防ぐことができるため、荷重センサ8の座屈を防ぐことができ、荷重センサ8の信頼性を向上させることができる。なお、荷重センサ8は、出力軸5の一方端と他方端の両側に設けたが、所定の動作条件のみの測定であれば、アキシアル方向の荷重が作用する一方の軸受のみに配置してもよい。
【0039】
荷重センサ8がアキシアル方向の荷重を受ける流れは図2の破線矢印で示す通りである。すなわち、入力軸3が回転することにより、第1はすば歯車4が回転し、第2はすば歯車6が回転することでアキシアル方向の荷重が発生し、第2転がり軸受15の内輪17、転動体18、外輪16、荷重センサ8の順で荷重が伝わる。第2転がり軸受15は、稼働により熱膨張し、微小変位する。そのため、従来は、荷重センサ8が第2転がり軸受15の微小変位まで計測してしまい、荷重センサ8の測定値に誤差が生じていた。
【0040】
それに対し、本実施の形態の歯車装置1は、第2転がり軸受15がラジアル方向の隙間をもってハウジング7に篏合されているため、たとえば出力軸5または外輪16などが温度変化により熱膨張した場合であっても、その微小変位を隙間G1,G2部分で吸収することができるため、第2転がり軸受15に作用するアキシアル方向の荷重をすべて荷重センサ8で検知することができる。これにより、ゼロ点の補正が不要となり、荷重センサ8での計測精度が向上する。
【0041】
以下の実施形態では、歯車装置1の他の構成例について説明する。以下に実施の形態1との相違点のみ詳細に説明する。実施の形態2において、他の部材を用いた一例を示し、実施の形態3~6において、荷重センサ8の位置が異なっている一例を示し、実施の形態7において、はすば歯車の数が異なっている形態を示している。
【0042】
(実施の形態2)
図3および図4を参照して、実施の形態2に係る歯車装置1Aについて説明する。
【0043】
実施の形態2に係る歯車装置1Aは、第2転がり軸受15の外輪16と荷重センサ8との間に設けられるアキシアル方向の隙間G3には、予圧弾性部材19Aが設けられている。予圧弾性部材19Aは、たとえば予圧バネなどであり、第2転がり軸受15に対して定圧予圧されたものである。実施の形態1と同様に、第2転がり軸受15の外輪16の端部と第2ハウジング72の上壁72bとの間には、ラジアル方向の隙間G1が設けられている。上述のように、ハウジング7は、たとえば鋼、軽金属、アルミ合金で形成されているため、隙間G1を設けることができる。
【0044】
荷重センサ8は、予圧弾性部材19Aによる初期のアキシアル方向の荷重からの増減を計測する。予圧弾性部材19Aは、熱膨張による微小変位を無視することができる程度に第2転がり軸受15側に付勢されている。これにより、本実施の形態の荷重センサ8は、温度変化による影響を受けずに、アキシアル方向の荷重を計測することができる。
【0045】
(実施の形態3)
図5および図6を参照して、実施の形態2に係る歯車装置1Bについて説明する。
【0046】
実施の形態3に係る歯車装置1Bは、荷重センサ8Bが第2転がり軸受15と出力軸5との間に設けられる。具体的には、荷重センサ8Bが出力軸5の第2段差部53に固定されている。
【0047】
さらに、第2転がり軸受15の内輪17の端部と、出力軸5の軸部50との間には、ラジアル方向の隙間G4が設けられる。内輪17は、出力軸5に対してルーズ篏合である。この隙間G4は、内輪17のラジアル方向の膨張量よりも大きくなるように設けられる。さらに、第2転がり軸受15の内輪17の軸方向他方側の端部と荷重センサ8の内面との間には、アキシアル方向の隙間G5が設けられる。
【0048】
また、第2転がり軸受15の外輪16は、第2ハウジング72の角部に位置する。なお、外輪16は、圧入篏合であるが、内輪17のようにルーズ篏合であってもよい。
【0049】
荷重センサ8がアキシアル方向の荷重を受ける流れは図6の破線で示す通りである。すなわち、出力軸5にアキシアル方向の荷重が作用し、荷重センサ8がそれに伴って移動し、第2転がり軸受15の内輪17に当接することで、荷重センサ8はアキシアル方向の荷重を計測することができる。
【0050】
(実施の形態4,5)
図7および図8を参照して、実施の形態4,5に係る歯車装置1C,1Dについて説明する。実施の形態3,4に係る歯車装置1C,1Dは、上述した実施の形態1の荷重センサ8と実施の形態3の荷重センサ8Bとを組み合わせたものである。
【0051】
具体的には、図7に示すように、実施の形態4の歯車装置1Cは、出力軸5の長手方向一方端側(紙面上の左側)に位置する荷重センサ8Bは、第2転がり軸受15の内輪17と出力軸5の第1段差部53に配置されている。出力軸5の長手方向他方端部側(紙面上の右側)に位置する荷重センサ8は、第2転がり軸受15の外輪16と第2ハウジング72の角部に配置されている。
【0052】
また、図8に示すように、実施の形態5の歯車装置1Dは、出力軸5の長手方向一方端側(紙面上の左側)に位置する荷重センサ8は、第2転がり軸受15の外輪16とハウジング7の角部に配置されている。出力軸5の長手方向他方端部側(紙面上の右側)に位置する荷重センサ8Bは、第2転がり軸受15の内輪17と出力軸5の第2段差部54に配置されている。このように、荷重センサ8,8Bを同じ出力軸5に設ける場合、実施の形態1~3のように対称的な位置に配置させるのではなく、異なる位置に配置させてもよい。
【0053】
(実施の形態6)
図9を参照して、実施の形態6に係る歯車装置1Eについて説明する。実施の形態1~5では、荷重センサ8,8Eを出力軸5に設けたが、入力軸3に設けてもよい。
【0054】
実施の形態6に係る歯車装置1Eは、荷重センサ8Eが入力軸3と第1ハウジング71の間に設けられている。具体的には、荷重センサ8Eが、第1転がり軸受10の外輪11と第1ハウジング71の角部に設けられている。この場合においても、第1ハウジング71の上壁71bと外輪11との間にはラジアル方向の隙間が設けられ、第1ハウジング71の側壁71cと外輪11との間にはアキシアル方向の隙間が設けられる。
【0055】
なお、荷重センサを入力軸3に設ける場合であっても、実施の形態2のように予圧弾性部材19Aを設けてもよいし、実施の形態3~5のように、荷重センサ8,8Eを配置する位置を異ならせてもよい。
【0056】
(実施の形態7)
図10を参照して、実施の形態7に係る歯車装置1Fについて説明する。実施の形態1~7に係る歯車装置1~1Eは、いずれも2つのはすば歯車が設けられたが、たとえば本実施の形態のように、4つのはすば歯車が設けられていてもよい。
【0057】
本実施の形態の歯車装置1Fは、入力軸3および出力軸5の間に中間軸9Fが設けられている。中間軸9Fは、第1はすば歯車4と噛み合う第3はすば歯車91Fと、第3はすば歯車91Fと並列に配置され、第2はすば歯車6と噛み合う第4はすば歯車92Fとを含む。さらに、第1~4はすば歯車4,6,91F,92Fを内部に収容するハウジング7は、第1,2ハウジング71,72に加えて第3ハウジング73Fが設けられる。第3ハウジング73Fは、中間軸9F全体を内部に収容する。
【0058】
中間軸9Fは、第3ハウジング73Fに第3転がり軸受19Fを介して回転自在に支持される。第3転がり軸受19Fは、第1,2転がり軸受10,15と同様であってよい。第3転がり軸受19Fの外輪とハウジング73Fの角部の間には、荷重センサ8Fが設けられる。荷重センサ8Fでは、中間軸9Fの第3,4はすば歯車91F,92Fのアキシアル方向の荷重の合力が検出される。
【0059】
本実施の形態の歯車装置1Fは、4つのはすば歯車が設けられたが、5つ以上のはすば歯車が設けられる歯車装置であってもよい。また、その場合、中間軸9Fは、入力軸または出力軸に繋がる軸であるため、いずれか一方に含まれる。
【0060】
(移動装置について)
最後に、図11を参照して、上述した歯車装置1~1Fを移動装置100に組み込んだ一例を説明する。
【0061】
図11に示すように、移動装置100は、上述した歯車装置1~1Fを含む走行駆動装置102と、荷重センサ8,8B,8E,8Fで検出された検出値から走行駆動装置102のアキシアル方向の伝達トルクを演算する制御装置101と、制御装置101で演算され、伝達トルクをもとに制御される被制御装置108,109,110とを備える。
【0062】
走行駆動装置102は、たとえばエンジンなどの原動機103と、たとえば減速機、変速機などの歯車装置1~1Fとを含む。歯車装置1~1Fには、上述した荷重センサ8,8B,8E,8F以外に、潤滑装置106および冷却装置107が付属されている。
【0063】
荷重センサ8,8B,8E,8Fの検出値から、統合ECU装置などの制御装置101で伝達トルクを演算する。演算した伝達トルクをもとに、被制御装置108,109,110を制御する。被制御装置としては、たとえば操舵装置108、制動装置109、懸架装置110などが挙げられる。なお、制御装置101は、原動機103の出力トルクと、荷重センサ8,8B,8E,8Fで検出された伝達トルクから、走行駆動装置102の故障を診断してもよい。
【0064】
近年、自動車の電動化や自動運転化が急速に進んでおり、伝達トルクの把握は非常に重要である。伝達トルクの状況を把握することで、被制御装置108,109,110をきめ細やかに制御することができ、自動車の安全性、快適性が向上する。特に、自動車の自動運転化においては、路面の状況の変化によって車輪に伝達される駆動トルクや、回生時の回生トルクを把握することは特に重要であり、それらの情報をフィードバックし、自動車の制御を行っている。そのため、外気温などの外部環境に影響されずに、荷重センサで安定して荷重測定を行うことが求められている。
【0065】
本実施の形態の歯車装置を備えた移動装置によれば、温度変化による影響を受けることがなく、荷重センサ8での計測精度を向上することができるため、近年の自動車の電動化や自動運転化に対応することができる。
【0066】
なお、図11では、移動装置に組み込まれた制御装置101で被制御装置108,109,110を制御する例を示したが、荷重センサ8の検出値をもとに、被制御装置108,109,110に組み込まれた制御装置がそれぞれの被制御装置108,109,110を制御してもよい。
【0067】
(変形例)
なお、上記実施の形態1~7の歯車装置1~1Fは、転がり軸受10,15の軌道輪が入力軸3、出力軸5、またはハウジング7に対してラジアル方向の隙間G1,G4をもって篏合され、転がり軸受10,15の軌道輪の端面とハウジング7との間にはアキシアル方向の隙間G2,G3,G5が設けられていたが、少なくともラジアル方向の隙間G1,G4をもって篏合されていればよい。
【0068】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F 歯車装置、3 入力軸、4 第1はすば歯車、5 出力軸、7 ハウジング、8,8B,8E,8F 荷重センサ、10 第1転がり軸受、11,12 軌道輪、15 第2転がり軸受、16,17 軌道輪、19A 予圧弾性部材、100 移動装置、101 制御装置、102,108,109,110 被制御装置、G1,G2,G3,G4,G5 隙間。
図1
図2
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図11