(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165279
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】回転電機用ステータ、およびこれを備える回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/18 20060101AFI20231108BHJP
H02K 1/14 20060101ALI20231108BHJP
H02K 1/2783 20220101ALI20231108BHJP
H02K 5/04 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
H02K1/18 C
H02K1/14 Z
H02K1/2783
H02K5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076121
(22)【出願日】2022-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】519315578
【氏名又は名称】株式会社マグネイチャー
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 和明
【テーマコード(参考)】
5H601
5H605
5H622
【Fターム(参考)】
5H601AA05
5H601AA22
5H601CC05
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD18
5H601EE03
5H601EE12
5H601EE18
5H601EE27
5H601GA02
5H601GB05
5H601GB13
5H601GB22
5H601GB36
5H601GB48
5H601GC02
5H601GD02
5H601GD07
5H601GD12
5H601GD14
5H601GD18
5H601GD22
5H601HH09
5H601JJ10
5H601KK25
5H605AA07
5H605AA08
5H605CC03
5H605EA01
5H622AA02
5H622CA02
5H622CA07
5H622CB03
5H622PP03
5H622PP18
(57)【要約】
【課題】小型化およびトルクリップルの低減が可能となる回転電機用ステータ、およびこれを備える回転電機を提供する。
【解決手段】円環状に一体に形成されたヨーク16と、ヨーク16の径方向内側であって周方向に配置された複数の電機子巻線15と、を備えた回転電機用ステータ3であって、ヨーク16は無方向性電磁鋼板を用いて形成され、電機子巻線15は、磁性コア17と磁性コア17に巻回されるコイル巻線18を備え、磁性コア17は、磁束の流れ方向と一致する磁化容易方向を有する方向性電磁鋼板を用いて形成する回転電機用ステータ3である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状に一体に形成されたヨークと、
前記ヨークの径方向内側であって周方向に配置された複数の電機子巻線と、を備えた回転電機用ステータであって、
前記ヨークは無方向性電磁鋼板を用いて形成され、
前記電機子巻線は、磁性コアと前記磁性コアに巻回されるコイル巻線を備え、
前記磁性コアは、磁束の流れ方向と一致する磁化容易方向を有する方向性電磁鋼板を用いて形成することを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項2】
前記電機子巻線は、磁性コアおよびコイル巻線をモールド樹脂で充填硬化したモールド樹脂構造体を有することを特徴とする請求項1に記載の回転電機用ステータ。
【請求項3】
前記モールド樹脂は、エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の回転電機用ステータ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載された回転電機用ステータと、
前記回転電機用ステータの内側に配置されて回転し、ハルバッハ配列をなして配置される複数の単位永久磁石を有する界磁子と、
前記回転電機用ステータおよび前記界磁子を収容するハウジングと、を備えることを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項2に記載の回転電機用ステータと、
前記回転電機用ステータの内側に配置されて回転し、ハルバッハ配列をなして配置される複数の単位永久磁石を有する界磁子と、
前記回転電機用ステータおよび前記界磁子を収容するハウジングと、を備えた回転電機であって、
前記モールド樹脂構造体における前記回転電機の軸方向側の端面には凹状に形成された位置決め凹部が配置され、
前記ハウジングは前方側のフロントハウジングを備え、
前記フロントハウジングの内周端面側には凸状の位置決めピンが配置され、
前記位置決めピンが前記位置決め凹部に挿入されて、前記複数の電機子巻線の周方向位置が定められることを特徴とする回転電機。
【請求項6】
前記ハウジングは後方側のリアハウジングを備え、
前記フロントハウジングと前記リアハウジングとの間に支持されて周方向に間隔を置いて配置される複数のコイル固定棒を備え、
前記複数のコイル固定棒はそれぞれ、隣り合う前記電機子巻線の間に配置されることを特徴とする請求項5に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機用ステータ、およびこれを備える回転電機に関し、特に、ハルバッハ界磁を有する回転電機の回転電機用ステータ、およびこれを備える回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機(電動機または発電機)において、磁場を高めるために、複数の単位永久磁石をハルバッハ配列という磁石配列に従った配置手法が知られている。例えば特許文献1では、ハルバッハ界磁子を備える回転電機において、電機子巻線は平面視が小判型をなす空芯コイルであり、
図8に示すように、電機子巻線30はコイルホルダ12の凹部に樹脂モールドされ、樹脂モールドされたコイルエンド31、33の部分がハウジング15、16それぞれの内周面に密着状態で保持される。コイルホルダ12の中心部には、長方形状の凸部が形成され、空芯コイルの空隙部が凸部の外周面にはめ込まれることで、電機子巻線30が決められた装着位置に確実に保持されるようになっている。
【0003】
また、異なるモータの種類である埋込磁石同期モータ(IPMモータ)においては、通常ステータコアはヨーク部とティース部が一体となっており、無方向性電磁鋼板が使用される。しかし、無方向性電磁鋼板は、方向性電磁鋼板と比較して鉄損が大きく、逆に飽和磁束密度はより小さいという問題がある。そこで、特許文献2においては、ヨーク部とティース部の形成に方向性電磁鋼板を使用し、ヨーク部は周方向を磁化容易方向とし、ヨーク部の径方向内側に接合されたティース部の各々は、径方向を磁化容易方向として、磁束の流れ方向と一致する磁化容易方向を有する方向性電磁鋼板を用いて分割型ステータを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-121153号公報
【特許文献2】特開2011-244672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されたハルバッハ界磁子を備える回転電機においては、コイルに磁性コアを使用しないため、鎖交磁束を集中的に大きくすることができず、回転電機の小型化が難しかった。また無方向性電磁鋼板をコイルの磁性コアとして使用した場合、空芯コイルと比較して著しくトルクリップルが増加する、という問題があった。また、特許文献2の分割型ステータでは、ヨーク部は周方向を磁化容易方向とする方向性電磁鋼板を使用しているが、分割した方向性電磁鋼板を接合する構造のため、一体型ステータコアと比較して接合部の磁気抵抗が大きくなる問題があった。また、分割型ステータコアは、一体型ステータコアと比較して製造工程が煩雑になる問題があった。
【0006】
上記課題に鑑み、本発明の目的は、小型化およびトルクリップルの低減が可能となる回転電機用ステータ、およびこれを備える回転電機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、円環状に一体に形成されたヨークと、ヨークの径方向内側であって周方向に配置された複数の電機子巻線と、を備えた回転電機用ステータであって、ヨークは無方向性電磁鋼板を用いて形成され、電機子巻線は、磁性コアと磁性コアに巻回されるコイル巻線を備え、磁性コアは、磁束の流れ方向と一致する磁化容易方向を有する方向性電磁鋼板を用いて形成する回転電機用ステータである。
【0008】
本発明の他の態様は、一態様における回転電機用ステータと、回転電機用ステータの内側に配置されて回転し、ハルバッハ配列をなして配置される複数の単位永久磁石を有する界磁子と、回転電機用ステータおよび界磁子を収容するハウジングと、を備える回転電機である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小型化およびトルクリップルの低減が可能となる回転電機用ステータ、およびこれを備える回転電機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一態様に係るハルバッハモータの斜視図であり、同図では、一部を軸方向に沿って破断して図示している。
【
図2】本発明の一態様に係る電機子巻線を示す斜視図である。
【
図3】本発明の一態様に係るハルバッハモータのステータの軸方向に垂直な断面概略図である。
【
図4】本発明の一態様に係るハルバッハモータの配線図である。
【
図5】本発明の一態様に係るハルバッハモータの界磁子部の単位永久磁石の配列を説明する模式図である。
【
図6】本発明の一態様に係るハルバッハモータを軸方向に沿って破断して示す説明図である。
【
図7】本発明の一態様に係るハルバッハモータの磁性コアを方向性電磁鋼板とした場合(a)と、無方向性電磁鋼板を使用した場合(b)を比較したシミュレーション解析のトルクリップル波形である。
【
図8】従来技術に係るハルバッハモータの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0012】
本実施形態は、回転電機として、三相同期電動機として構成されたハルバッハモータ1に、本発明を適用した例である。
【実施例0013】
図1、
図2を参照して、本実施形態であるハルバッハモータ1について説明する。
図1は、ハルバッハモータ1の斜視図であり、一部を軸方向に沿って破断して図示している。
図2は、後述する電機子巻線15を示す図である。尚、
図1において、視えている側(紙面における手前側)が前側であり、奥側(紙面における反対側)が後側となる。また、本明細書において径方向とは、ハルバッハモータ1の径方向、すなわち後述するロータ2の径方向を示し、周方向とは、ロータ2の周方向を示す。また、軸方向とは、ロータ2の軸方向を示す。
【0014】
図1に示すように、ハルバッハモータ1は、複数(本実施形態では32個)の単位永久磁石12を円筒状に配列した界磁子10で構成されるロータ2と、ロータ2の径方向外周面側に配置するステータ3と、ロータ2およびステータ3を収容するハウジング8とを有する。ハウジング8は、ハルバッハモータ1の前側に配置されるフロントハウジング4と、後側に配置されるリアハウジング5と、フロントハウジング4とリアハウジング5の間に配置されるセンターハウジング7とを備える。ロータ2の中心には、ハルバッハモータ1の出力軸となるシャフト11が同軸に固定され、そのシャフト11の軸方向前後に離隔して配置された図示しないシャフトフランジがロータ2の端面に固定されて界磁子10と一体化される。尚、ステータ3は本発明における回転電機用ステータである。
【0015】
シャフト11は、シャフト11の前側に配置するフロントハウジング4およびシャフト11の後側に配置するリアハウジング5の中心部に設けられた組み合わせ軸受け6によって回転自在に支持される。シャフト11の後端部はリアハウジング5に図示されないC型止め輪によって保持されることで軸方向の位置が規定されている。
【0016】
ステータ3は、ロータ2の径方向外周面側に所定の間隔を置いて電機子として構成されて周方向に配置される6つの電機子巻線15と、6つの電機子巻線15と同軸で、6つの電機子巻線15の外周面を囲むように配置されるヨーク16とを有する。
【0017】
ヨーク16は、無方向性電磁鋼板によって一体型のリング状に形成される。ヨーク16は、従来のような分割型ではなく一体型のリング状に形成されているため、分割型の様に接合部がないので磁気抵抗が小さく、また、製造工程が分割型と比較して煩雑にならない。
【0018】
図2は、電機子巻線15を示す斜視図であり、ロータ2の径方向外周面に面する電機子巻線15の内周面が上側を向いた状態を示し、
図2における左側がロータ2の軸方向後側を向き、右側がロータ2の軸方向前側を向くように各電機子巻線15は配置される。以下において、
図2における左側を電機子巻線15の後端側、右側を前端側として説明する。
図2に示すように、各電機子巻線15はロータ2の軸方向に長手方向となる平面視が小判型をなし、ロータ2の径方向外周面に沿うように短手方向に湾曲形成されている。電機子巻線15は、中心に軸方向に長尺の磁性コア17が配置され、磁性コア17の周りにコイル巻線18が巻回された構造となっている。磁性コア17は、積層した方向性電磁鋼板で形成される。方向性電磁鋼板によって形成される磁性コア17は、ハルバッハモータ1の径方向を磁化容易方向とし、ロータ2の単位永久磁石12とヨーク16との間で磁束が流れる方向と一致している。
図2における上下方向が磁性コア17の磁束が流れる方向となる。
【0019】
各電機子巻線15は、中心に配置された磁性コア17の周りにコイル巻線18が巻回された状態で、モールド樹脂により充填固化されたモールド樹脂構造体19を有する。モールド樹脂構造体19の外形はコイル巻線18の外形よりも大きく形成される。モールド樹脂としては、例えば2つの液体を混ぜ合わせることで化学反応を起こして硬化するエポキシ樹脂が挙げられる。またモールド樹脂の充填方法としては、真空含浸により、むらなく充填される方法が望ましい。尚、磁性コア17およびコイル巻線18はモールド樹脂により充填固化されたモールド樹脂構造体19に埋設されているため、
図2においては破線で示している。
【0020】
各電機子巻線15におけるモールド樹脂構造体19の前端側に一対の位置決め凹部20が配置されている。位置決め凹部20は凹状に形成されている。一対の位置決め凹部20はモールド樹脂構造体19の前端側の両側部に配置されている。一対の位置決め凹部20はロータ2の軸方向に開口している。一対の位置決め凹部20には後述する位置決めピン26が挿入される。各電機子巻線15におけるモールド樹脂構造体19の後端側に2つコイル端子21が配置され、2つコイル端子21はモールド樹脂構造体19の後端側の両側部に配置されている。
【0021】
図3は、ハルバッハモータ1のステータ3の軸方向に垂直な断面概略図である。ステータ3の内周側には、32個の単位永久磁石12を円筒状に配列した界磁子10で構成されたロータ2が配置されている。6つの電機子巻線15は、各電機子巻線15の外周側に配置されるリング状のヨーク16内周面に二次モールド樹脂30によって固定される。各電機子巻線15の配置構造については後述する。各電機子巻線15の周方向中央に配置された磁性コア17は、
図3における白抜き矢印で示すように径方向を磁化容易方向としている。リング状のヨーク16は無方向性電磁鋼板によって一体に形成される。
【0022】
図4に示すように、各電機子巻線15は、対向する2つの電機子巻線15の巻き終わりと巻き初めの端子で直列接続された、2つの電機子巻線15の巻き初めの端子相互に繋がれて中性点とされる。そして直列接続された各電機子巻線15の巻き終わりの各端子に、三相交流がそれぞれ印加されるようになっている。
【0023】
本実施例のハルバッハモータ1は、6つの電機子巻線15に対して時間的に120°遅れたU相、V相、W相の交流を順に流すことで、その回転磁界に8極の界磁子のN極・S極の磁極の吸引・反発によるトルクを発生する。三相巻線に角速度ω(rad/s)の三相交流電流を流した場合、同期モータの回転角速度(機械角速度)ωs(rad/s)は、極対数をPnとした場合、ωs=ω/Pnの関係式から、角周波数ωに応じた回転数で回転する。本実施形態では、極対数は4である。尚、U相、V相、W相に流す交流はインバータを介して印加される。
【0024】
図5は、ハルバッハモータ1の界磁子10の単位永久磁石の配列を説明する模式図である。本実施形態の界磁子10は、
図5で示すように32個の単位永久磁石12を有する。各単位永久磁石12は六面体形状を有する。本実施形態の六面体形状の態様は、軸方向両端の2つの面が相互に平行で且つ合同な台形形状であり、他の面は、すべて軸方向に沿った平行四辺形形状をなす四角柱状である。
【0025】
但し、単位永久磁石12の所定の六面体形状は、軸方向両端の2つの面が相互に平行で且つ合同な矩形若しくは扇形またはこれらを組み合わせた形状であって軸方向に沿った他の4つの面が、軸方向両端の2つの面相互の対向する輪郭線に沿った平面または湾曲面になっている立体形状を採用できる。また、軸方向両端の2つの面は、必ずしも相互に平行である必要はなく、互いに軸中心に向かう程近づくようにテーパ状になっていても構わない。
【0026】
図5に示すように、界磁子10は六面体形状の単位永久磁石12の軸線を並行にして、これらを周方向に32個を円筒状に組み合わせてハルバッハ配列された8極のN・S磁界構造を有するものである。ロータ2を構成する際は、この界磁子10の中心に軸方向に沿って前記したシャフト11が配置される。また、界磁子10は、32個の単位永久磁石12による円環状列が、径方向内側に薄肉円筒状の界磁子内ホルダ13がはめ込まれるととともに、径方向外側に薄肉円筒状の界磁子外ホルダ14が同軸にはめ込まれて構成される。内外の界磁子ホルダ13、14はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製である。これにより、本実施形態の界磁子10は、ハルバッハ界磁子を構成する複数の単位永久磁石12の円筒状組み合わせ状態が保持されている。
【0027】
ハルバッハ配列は、3の倍数に2を加えた数の何れか一つが電気角1周期の分割数とされ、電気角1周期を分割数で除した角度ずつ着磁方向が順に変更されてなる単位永久磁石12が配列されることが好ましい。この場合、すべての単位永久磁石12の着磁方向に平行な断面積形状が同一である。
【0028】
複数の単位永久磁石12は、所定のハルバッハ配列となるように、隣り合う単位永久磁石12相互の磁性方向を異ならせたものが円筒状に組み合わされる。なお、
図5において、各単位永久磁石12の端面に示す矢印は、それぞれのもつ磁性方向のイメージを示しており、矢印基端側がS極、先端側がN極である。
【0029】
本実施形態の界磁子10での着磁方向は、例えば
図5に示すように、S極部用として4つの単位永久磁石12、N極部用として4つの単位永久磁石12、そして、8つのハルバッハ遷移部には、それぞれ3種類の単位永久磁石12が8組配置される。そのため、1の界磁子10を組み上げるには、計5種類、32個の単位永久磁石12を要する。
【0030】
図6は、ハルバッハモータ1を軸方向に沿って破断して示す説明図である。
図6において、シャフト11の上側に見える電機子巻線15は、電機子巻線15の構造を分かり易くするためにモールド樹脂構造体19を除いたコイル巻線18および磁性コア17が表れた状態を示す。シャフト11の下側に見える電機子巻線15は、モールド樹脂構造体19を含む状態を示し、破線はモールド樹脂構造体19に覆われたコイル巻線18および磁性コア17を示す。
【0031】
フロントハウジング4の内周端面には側面リング25が固定されている。側面リング25のフロントハウジング4とは反対側の端面には周方向に一対の位置決めピン26が6組配置されている。6組の位置決めピン26は側面リング25に対して垂直であって軸方向に平行になるように設けられている。一対の位置決めピン26はモールド樹脂構造体19に形成された一対の位置決め凹部20に挿入される。6組の一対の位置決めピン26は、6つの電機子巻線15が周方向および径方向に適切な位置に配置されるように配置が決められている。そのため、各電機子巻線15は、側面リング25に設けられた一対の位置決めピン26に一対の位置決め凹部20を合わせて差込むことで、電機子巻線15の周方向および径方向における位置を適切に配置することができる。尚、本実施形態では、位置決めピン26は側面リング25に設けられているが、フロントハウジング4の内周端面側に設けられていれば、例えば、フロントハウジング4の内周側端面に設けられていても構わない。
【0032】
フロントハウジング4およびリアハウジング5に支持された6本のコイル固定棒27が、フロントハウジング4とリアハウジング5との間を軸方向に、かつ、周方向に所定間隔を置いて配置されている。各コイル固定棒27は、
図1、
図6に示すように、隣り合う電機子巻線15の間に配置されるようにフロントハウジング4とリアハウジング5と間に支持される。このように各コイル固定棒27は、隣り合う電機子巻線15の間に配置されることによって、各電機子巻線15の各端子に三相交流がそれぞれ印加された場合に発生するトルクの反作用による電機子巻線15の回転を防止することができる。
【0033】
次に、
図1に示したハルバッハモータ1において、シミュレーション解析を行った結果を示す。シミュレーション解析を行ったハルバッハモータ1のシミュレーション諸元を表1に示す。本シミュレーション解析は、有限要素法による2次元解析モデルで行った。
【0034】
【0035】
従来例として、コイル巻線18の中央に磁性コア17を使用せず、空芯コイルを使用した電機子巻線によるハルバッハモータと、本実施形態の電機子巻線15によるハルバッハモータ1を比較したシミュレーション結果を表2に示す。比較の条件として、各モータ部品の寸法比を維持したまま、トルク及び出力特性が同じになるように構成部品の径を変化させた。このときモータの発熱を考慮して、巻線電流密度は従来例での値以下になるようにした。
【0036】
【0037】
このシミュレーション結果より、本実施形態のハルバッハモータ1では、従来例のハルバッハモータと比較して、約9%の小型化が実現可能であるといえる。また、重量で比較した場合、従来例に対して、約13%の減少が見込まれる結果となった。
【0038】
次に、ハルバッハモータ1の磁性コア17を方向性電磁鋼板とした場合と、磁性コア17を無方向性電磁鋼板とした場合とを比較したシミュレーション解析結果を示す。
図7(a)は、本実施形態であるハルバッハモータ1の磁性コア17を方向性電磁鋼板とした場合のトルクリップル波形を示し、
図7(b)は、磁性コア17を無方向性電磁鋼板とした場合のトルクリップル波形を示す。シミュレーションにおいては、コイル磁性コアの材料特性以外、全く同じ条件とした。
【0039】
方向性電磁鋼板を使用した場合の
図7(a)は、平均トルクが79.7Nm、トルクリップルの大きさが0.8Nmになったのに対して、無方向性電磁鋼板を使用した場合の
図7(b)では、平均トルクが78.8Nm、トルクリップルの大きさが1.8Nmとなった。つまり、方向性電磁鋼板を使用した本実施例においては、無方向性電磁鋼板を使用した場合に対して、平均トルクが1.1%向上しているのにもかかわらず、トルクリップルは44.4%減少するという、回転電機として望ましい結果が得られた。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の回転電機であるハルバッハモータ1は、電機子巻線15は、巻回されたコイル巻線18の中心に配置された磁性コア17を、積層した方向性電磁鋼板で形成し、方向性電磁鋼板によって形成される磁性コア17は、ハルバッハモータ1の径方向を磁化容易方向とした。これにより、コイル巻線18による磁束の流れ方向と磁性コア17を流れる磁束の方向が一致し、鎖交磁束の増加とトルクリップルの低減が可能となる。また、中心に磁性コアを設けない空芯コイルを使用した場合と比較して、同一性能でより小型化が可能となり、回転電機の軽量化、及びロータ磁石の遠心力も小さくすることができる。さらに、電磁鋼板の熱伝導率は、約10~25W/(m・K)であるため、エポキシ樹脂の熱伝導率0.2~2.0W/(m・K)と比較して、非常に大きく放熱性も向上することができる。
【0041】
また、本実施形態の回転電機であるハルバッハモータ1において、ヨーク16は、無方向性電磁鋼板によって一体型のリング状に形成される。そのため、従来のような分割型のヨークに対して、本実施形態では一体型のリング状に形成されているため、分割型の様に接合部がないので磁気抵抗が小さく、また、製造工程の容易化が図れる。
【0042】
本実施形態では、回転電機として、ハルバッハモータ1を例として示したが、これに限定されず、本実施形態による発明は、他の電動機(モータ)、または発電機においても用いることができる。
【0043】
また、本実施形態のハルバッハモータ1は、界磁子10として、32個の単位永久磁石12を周方向に円筒状に組み合わせてハルバッハ配列された8極のN・S磁界構造を用いたが、他の構造を有するハルバッハモータでも構わない。
【0044】
以上、限られた数の実施形態を参照しながら説明したが、権利範囲はそれらに限定されるものではなく、上記の開示に基づく実施形態の改変は、当業者にとって自明のことである。
1…ハルバッハモータ、2…ロータ、3…ステータ、4…フロントハウジング、5…リアハウジング、6…組み合わせ軸受、7…センターハウジング、11…シャフト、12…単位永久磁石、13…界磁子内ホルダ、14…界磁子外ホルダ、15…電機子巻線、16…ヨーク、17…磁性コア、18…コイル巻線、19…モールド樹脂構造体、20…位置決め凹部、21…コイル端子、25…側面リング、26…位置決めピン、27…コイル固定棒、30…二次モールド樹脂