IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社バイオクロマトの特許一覧

特開2023-165341濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法
<>
  • 特開-濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法 図1
  • 特開-濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法 図2
  • 特開-濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法 図3
  • 特開-濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法 図4
  • 特開-濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法 図5
  • 特開-濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法 図6
  • 特開-濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法 図7
  • 特開-濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法 図8
  • 特開-濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法 図9
  • 特開-濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法 図10
  • 特開-濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法 図11
  • 特開-濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法 図12
  • 特開-濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法 図13
  • 特開-濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法 図14
  • 特開-濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165341
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 1/14 20060101AFI20231108BHJP
   G01N 1/40 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B01D1/14 Z
G01N1/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076246
(22)【出願日】2022-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】504119734
【氏名又は名称】株式会社バイオクロマト
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 和真
(72)【発明者】
【氏名】木下 一真
(72)【発明者】
【氏名】西口 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】島田 治男
【テーマコード(参考)】
2G052
4D076
【Fターム(参考)】
2G052AD06
2G052AD26
2G052AD46
2G052DA01
2G052DA21
2G052EB01
2G052ED01
2G052FB02
2G052FB08
2G052FD17
2G052JA03
2G052JA04
2G052JA08
2G052JA23
4D076AA07
4D076AA24
4D076BA09
4D076CA11
4D076CA16
4D076CA19
4D076CB01
4D076CB04
4D076CB11
4D076CD22
4D076DA10
4D076DA21
4D076EA02X
4D076EA03Y
4D076EA15X
4D076EA49
4D076FA33
4D076HA14
4D076JA05
(57)【要約】
【課題】溶液の定量濃縮を精度良く行うことができる濃縮用容器を提供する。
【解決手段】濃縮用容器2は、当該濃縮用容器2内の溶液4に対して気体Gの旋回流Rを供給する供給領域21と、供給領域21より下方に配置され、溶液4に対する旋回流Rの供給を回避する回避領域22と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液を濃縮する濃縮用容器であって、
当該濃縮用容器内の溶液に対して気体の旋回流を供給する供給領域と、
前記供給領域より下方に配置され、前記溶液に対する前記旋回流の供給を回避する回避領域と、
を備える濃縮用容器。
【請求項2】
前記供給領域は、当該濃縮用容器の上方から前記旋回流が供給されるよう形成され、
前記回避領域は、前記供給領域の下端部に連通され、前記供給領域より小径の細管を含む、
請求項1に記載の濃縮用容器。
【請求項3】
前記細管の上端開口の位置は、前記供給領域の中心からずれて配置される、
請求項2に記載の濃縮用容器。
【請求項4】
前記細管は、下端部が前記供給領域の中心に配置され、延在方向が上下方向に対して傾斜するよう形成される、
請求項3に記載の濃縮用容器。
【請求項5】
前記供給領域の下端部は、前記細管の上端開口の位置が上下方向の最低位置となるすり鉢状に形成される、
請求項2~4のいずれか一項に記載の濃縮用容器。
【請求項6】
前記回避領域の下端部に設けられる開口部と、
前記開口部を封止する封止部材と、
を備え、
前記溶液の濃縮処理中は、前記封止部材により前記開口部が封止され、前記溶液の濃縮後に、前記封止部材を当該濃縮用容器から取り外すことにより、前記回避領域に蓄積された濃縮後の前記溶液を前記開口部から注出可能とする、
請求項1に記載の濃縮用容器。
【請求項7】
前記旋回流が前記回避領域に進入するのを阻止する阻止部材を備える、
請求項1に記載の濃縮用容器。
【請求項8】
溶液を濃縮するための濃縮装置であって、
前記溶液を収容し、前記溶液に対して気体の旋回流を供給する供給領域と、当該濃縮装置への設置時に前記供給領域より下方に配置され、前記溶液に対する前記旋回流の供給を回避する回避領域と、を有する容器と、
前記容器の上部開口を塞ぐ栓と、
前記栓の側面に螺旋状に形成され、前記気体を前記容器の内部に導入する溝部と、
前記旋回流の作用により前記溶液から気化した溶媒を前記容器内から排出する排出部と、
を備える濃縮装置。
【請求項9】
前記排出部による前記容器からの前記溶媒の排出を制御する制御部と、
前記容器内における前記溶液の液面を検出する検出部と、
を備え、
前記制御部は、前記検出部により前記液面が前記容器内の所定高さまで低下したことが検出されたときに、前記排出部による前記容器からの前記溶媒の排出を停止させる、
請求項8に記載の濃縮装置。
【請求項10】
溶液を収容し、前記溶液に対して気体の旋回流を供給する供給領域と、前記供給領域より下方に配置され、前記溶液に対する前記旋回流の供給を回避する回避領域と、を有する容器を用いて溶液を濃縮する方法であって、
前記容器内に前記供給領域を含む高さまで溶液を注入する注入ステップと、
前記容器内の気体を排出することで、前記容器外から容器内に導入される気体の旋回流を前記容器内の前記溶液に供給し、前記旋回流の作用により前記溶液から気化した溶媒を前記気体と共に前記容器内から排出する濃縮ステップと、
前記溶液が所定の量に減少したことを検知して前記気体の排出を停止する停止ステップと、
前記容器内の濃縮された溶液を前記容器から取り出す取出しステップと、
を含む濃縮方法。
【請求項11】
前記溶液が所定の量に減少したことを検知して前記気体の排出を停止するステップは、前記溶液は前記供給領域には含まれないことを検知することを含む、
請求項10に記載の濃縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境分析や農薬分析、医療分析など溶液を対象とした分析が広く利用されている。近年、溶液の分析、特に濃度の定量はさらなる高感度化が求められている。高感度化には検出技術を高感度する方法が考えられるが、検出技術は変えずに溶液の濃縮を行うことで高感度化することも有効である。
【0003】
この場合、一般的な濃縮法としては、沸騰による蒸発濃縮が挙げられる。しかし、タンパクなど熱変性する目的分子にはこの方法は適用できない。一方、特許文献1には、溶液が接する気体に陰圧を用いて気体の螺旋状の旋回流を誘起することで液体の旋回流を形成し、増加した比界面積で濃縮を促す方法が提案されている。この手法では、室温程度でも効率的な濃縮が可能であり、分析に適した濃縮技術として有望である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4763805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1などに記載の従来手法では、旋回流を用いて効率的に溶液を濃縮できるが、分析で重要となる定量的な濃縮を行う点で改善の余地がある。
【0006】
本開示は、溶液の定量濃縮を精度良く行うことができる濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態の一観点に係る濃縮用容器は、溶液を濃縮する濃縮用容器であって、当該濃縮用容器内の溶液に対して気体の旋回流を供給する供給領域と、前記供給領域より下方に配置され、前記溶液に対する前記旋回流の供給を回避する回避領域と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、溶液の定量濃縮を精度良く行うことができる濃縮用容器、濃縮装置、及び濃縮方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る濃縮装置の全体構成を示す模式図
図2】実施形態に係る濃縮用容器の斜視断面図
図3】上方(図2中の矢印A方向)から視た容器の矢視図
図4】下方(図2中の矢印B方向)から視た容器の矢視図
図5】濃縮装置の動作時における溶液の推移を示す模式図
図6】第1実施形態の第1変形例に係る細管の形状を示す図
図7】第1実施形態の第2変形例に係る細管の形状を示す図
図8】第1実施形態の第3変形例に係る細管の形状を示す図
図9】第2実施形態に係る濃縮用容器の第1の例を示す模式図
図10】第2実施形態に係る濃縮用容器の第2の例を示す模式図
図11】第2実施形態に係る濃縮用容器の第3の例を示す模式図
図12】第3実施形態に係る濃縮用容器の例を示す模式図
図13】第3実施形態に係る濃縮用容器による濃縮後の溶液の注出手順の一例を示す模式図
図14】第4実施形態に係る濃縮装置の全体構成を示す模式図
図15】第4実施形態における溶液の濃縮制御のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0011】
[第1実施形態]
図1図6を参照して第1実施形態を説明する。
【0012】
<濃縮装置の構成>
図1は、第1実施形態に係る濃縮装置1の全体構成を示す模式図である。
【0013】
濃縮装置1は、気体状物質(溶媒)Sが溶解している溶液4から気体状物質Sを分離し、分析対象の試料としての溶液4の濃度を定量的に濃縮するための装置の一例である。また、濃縮装置1は、溶液4から分離した気体状物質Sを捕捉するための装置としても機能することができる。
【0014】
濃縮装置1を用いて溶液4から除去することができる気体状物質Sとしては、通常の有機化学(有機合成や精製)の実験等に用いられる溶媒や、蒸気圧を有する固体物質等を含む。具体的には、気体状物質Sは、例えば、メタノール、エタノール、アセトニトリル、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの揮発性物質や、炭酸、酸素などである。
【0015】
濃縮装置1は、溶液4が収容される容器2(濃縮用容器)と、容器2の上部開口2aを塞ぐ栓3と、容器2の内部を減圧する減圧部11と、気体状物質Sを捕捉する捕捉部15と、配管12と、を備える。
【0016】
減圧部11は例えば排気用エアポンプである。減圧部11には配管12が接続され、配管12の途中に捕捉部15が設けられる。なお、捕捉部15は、設けなくてもよく、例えば分離した気体状物質をそのまま大気に放出しても問題が生じない場合は、省略できる。配管12の先端は栓3の貫通孔3eに挿入される。なお、配管12には、適宜の箇所にバルブ13を設けることができ、バルブ13の開度を調節して、吸引ガスの量を調整することができる。
【0017】
容器2は、例えばガラス製、プラスチック製などの遠沈管又はそれに類する容器である。容器2は、内部に収容される溶液4を濃縮するために用いられる濃縮用の容器である。
【0018】
容器2の内部には溶液4が収容される。容器2は、例えば容器2の底部が水槽14内の水に浸るような状態で不図示の支持部材で支持される。水槽14内の水Wを加熱することにより、溶液4からの揮発性物質等の気体状物質Sの気化・分離が促進される。なお、図1の例では、容器2を水槽14に浸しているが、容器2を水槽14に浸す代わりに、アルミのビーズを敷き詰めたビーズバスを用いてもよいし、容器2に温風を当てるなどして容器2を加熱してもよい。また、気体状物質Sを含む溶液4の種類や外気温などによっては、加熱は不要となる。
【0019】
容器2は、不図示の支持部材などによって濃縮装置1に設置された状態では、上下方向(図1の上下方向)を長手方向とし、上端に溶液4を内部に投入するための上部開口2aを有する形状で形成される。容器2の長手方向と直交する断面形状は例えば円形状であるが、多角形状など他の形状でもよい。
【0020】
なお、以下の説明では、容器2が濃縮装置1に設置された状態の上部開口2a側を上方と呼び、その反対側を下方と呼ぶ場合がある。
【0021】
栓3は、容器2の上部開口2aを塞ぐように、容器2の上部開口2a近傍の内周面2cの形状に則して形成される。図1の例では、容器2の上部開口2aの近傍部分は略円筒形であるので、栓3は上部開口2aの内径と略同一の径の略円柱状に形成されている。栓3の円柱形状の側面3aには、気体を前記容器の内部に導入する溝部3dが螺旋状に形成される。また、栓3には、円柱形状の下端面3bの中央部と上端面3cの中央部との間に貫通孔3eが形成される。
【0022】
栓3の材料は、特に限定されないが、溶液4と接触しても安定している材料が好ましい。例えばフッ素系ゴムあるいはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂が好ましい。フッ素系材料以外では、溶液の種類によっては、例えばシリコーンゴム、ポリイソブチレンゴム、アクリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴムなどの汎用ゴムでもよいし、ポリエチレンエラストマー、ポリイソブチレンエラストマーなどの熱可塑性エラストマーでもよい。
【0023】
溝部3dは、上端面3cから下端面3bに伸びる複数のガス導入用の傾斜溝である。溝部3dは、栓3の側面3aに形成され、上端面3c及び下端面3bに対して所定角度で傾斜する。溝部3dの傾斜角θは、10~45°が好ましく、容器2内に導入されるガスの流速を高めつつ溝部3dによる分離効率を高める観点から、15~25°がより好ましい。溝部3dは、ガス導入溝の一例である。
【0024】
溝部3dに導入されるガスGは、空気が好ましい。気体状物質の種類により、溶液4からの分離を不活性ガス(例えば窒素ガス又はアルゴンガス)雰囲気で行う必要がある場合は、少なくとも、栓3が挿入された容器2全体を不活性ガス雰囲気下としてもよい。なお図1の例では、溝部3dは、上端面3cから下端面3bに向かい、栓3の上側から見て時計回り方向に伸びる形状であるが、反時計回り方向に伸びる形状でもよい。
【0025】
溝部3dの本数は複数が好ましい。1本だと吹き込まれるガス流に偏りが生じやすく、ガス流量によっては、液面が安定しない場合がある。本数は2~10本が好ましい。2本の場合は180°間隔が好ましく、3本の場合は120°間隔が好ましい。以下、4本、5本、・・・10本の場合のいずれも、ガス溝部は等間隔になるように配置するのが好ましい。
【0026】
溝部3dの深さや幅は、栓3の寸法によって適宜設定される。溝部3dの断面積は、栓3の断面積の0.4~10%であることが好ましく、栓3の断面積の1.6~3.5%であることが更に好ましい。溝部3dの断面積が栓3の断面積の0.4%未満であると、溝部3dから吹き込まれるガスGの旋回流Rによって吹き上げられた溶液4が、容器2の上部にまで達してしまい、配管12に入ってしまう場合がある。一方、溝部3dの断面積が栓3の断面積の10%を超えると、溝部3dから吹き込まれるガスGの旋回流Rが溶液4の上部にのみあたり、溶液4の上部のみが撹拌されることとなり、気体状物質Sの気化を促進する効果が十分でなくなる場合がある。
【0027】
溝部3dの断面積は、複数本とも同じ断面積とするのが好ましい。異なる断面積とする場合は、本数が偶数本の場合は交互に断面積が大きい溝部を小さい溝部とを組み合わせるのが好ましい。例えば溝部が6本の場合は、3本が大きい断面積で残りの3本が小さな断面積とすることにより、安定した分離が可能となる。
【0028】
溝部3dは、栓3の上端面3cから下端面3bに向かって、栓3の側面3aに螺旋状に形成することが好ましい。
【0029】
側面3aは、上端面3cから下端面3bに至るまでの領域が、図1に示す容器2の内周面2cに接触する。すなわち、栓3は、その側面3aの全体の内、溝部3dを除く部分が、容器2の内周面2cと接するように形成される。これにより、溝部3dと容器2の内周面2cとの間には空間3d1が形成される。この空間3d1は、栓3の上端面3cから下端面3bまで連通して、ガスGが導入される経路となる。従って、栓3の上端面3cから溝部3dへ導入されたガスGは、溝部3dを除く部分(栓3の側面3aと容器2の内周面2cとの間)に拡散されることなく、栓3の下端面3bへ導かれて、溝部3dの螺旋形状に則した旋回流Rとなって溶液4に吹き付けられる。
【0030】
貫通孔3eは、溶液4から分離した気体状物質Sを、溝部3dを介して容器2内に導入されたガスGと共に、排出するための排出孔である。貫通孔3eは、下端面3bの中央部と上端面3cの中央部との間に形成される。
【0031】
貫通孔3eの断面積は、好ましくは複数本の溝部の総断面積と同じか大きいほうが好ましい。
【0032】
なお、栓3の側面3aからガスGが溶液面(溶液4の液面4a)に旋回流Rになって吹き込まれると、ガスGの旋回流Rにより溶液4全体が回転運動を行う。溶液4の回転運動の結果、容器2の内周面2c側は、溶液4に作用する遠心力で液面4aが上昇する力が作用する。しかし、ガスGの旋回流Rにより上方から下方に向く力が作用し、また、栓3の中央に形成された貫通孔3eからガスGが吸引されることにより、液面4aの中央部付近の気圧が低下する作用が働く。このため、ある程度の量のガスGを吹き込んでも、これらのバランスにより、液面4aが大きく変動することは少なくなる。
【0033】
図2は、実施形態に係る濃縮用容器2の斜視断面図である。図3は、上方(図2中の矢印A方向)から視た容器2の矢視図である。図4は、下方(図2中の矢印B方向)から視た容器2の矢視図である。図2の断面図は、容器2の長手方向の中心軸C1を含む平面を断面とする縦断面図である。
【0034】
なお、図2図4には、各図の対応を明確するためにx軸、y軸、z軸の三軸方向を示している。x方向、y方向、z方向は互いに垂直な方向である。z方向は上述の上下方向に対応し、z正方向側が上方向である。x方向及びy方向は典型的には水平方向であり、x方向は後述する細管23の中心軸C2の傾斜方向である。
【0035】
図2に示すように、本実施形態に係る濃縮用容器2は、供給領域21と回避領域22とを備える。
【0036】
供給領域21は、濃縮用容器2内の溶液4に対して気体Gの旋回流Rを供給する部分である。供給領域21は、濃縮装置1への設置時に上下方向に延在する濃縮用容器2内の内部空間2bを含み、内部空間2bの上方から旋回流Rが供給されるよう形成される。供給領域21の内部空間2bは、例えば中心軸C1に沿って同径の円形孔形状に形成されている。
【0037】
なお、供給領域21の内部空間2bの形状は、内径が一定だけでなく、上部開口2a側から、容器2内の下方に向かってテーパー状に縮小する形状であっても、当該テーパー状の内径に密着しうる形状の栓3で上部を封止することができれば差し支えない。なお、密着しうるとは、栓3の側面3aに形成したガス導入溝3d以外には、実質的に栓3の側面3aからガスGが内部空間2bに流入出しない程度の気密性を有することを意味する。
【0038】
回避領域22は、濃縮装置1への設置時に供給領域21より下方に配置され、溶液4に対する旋回流Rの供給を回避する部分である。回避領域22は、供給領域21の内部空間2bの下端部21aに連通され、供給領域21より小径の細管23(微細管)を含む。
【0039】
図2図3に示すように、細管23の上端開口23aの位置が、供給領域21の中心C1からずれて配置される。例えば、図3の例では、供給領域21の内部空間2bの内径が14.90mmである場合、上端開口23aの中心軸C2の位置は、内部空間2bの中心軸C1から径方向に約4mmずれて配置されている。
【0040】
また、図2に示すように、供給領域21の下端部21aは、細管23の上端開口23aの位置が上下方向の最低位置となるすり鉢状に形成される。
【0041】
本実施形態では、細管23は、中心軸C2に沿って延在し、下端部23bに底面を有する孔である。細管23は、例えば供給領域21と同様に中心軸C2に沿って円形孔形状に形成されている。さらに、本実施形態では、細管23は、下端部23bが供給領域21の中心C1に配置され(すなわち下端部23bにおいて中心軸C2が中心軸C1と交差するよう配置され)、中心軸C2の延在方向が上下方向(すなわち中心軸C1の延在方向)に対して傾斜するよう形成される。
【0042】
細管23は、例えば上述のように供給領域21の内部空間2bの内径が約15mmである場合の例では、上端開口23aの内径が約4mmであり、下端部23bの内径が約3mmである。また、中心軸C2に沿った細管23の深さは約11mmである。
【0043】
なお、細管23の径は5mm以下であるのが好ましい。また、容器2の内部空間2bの容積は、細管23も含めて5ml程度の溶液4を注入でき、かつ、容器2内に導入されるガスGの旋回流Rによってこの溶液4を充分に撹拌可能なスペースを有する程度であるのが好ましい。なお、第3実施形態にて後述するように、例えば細管23をピペットの吐出口として利用する場合で、微量の濃縮液4を吐出させる場合は、細管23を内径が2mm以下の微細管とすることで吐出量の微調整をすることができる。
【0044】
<溶液の濃縮手順>
次に図5を参照して濃縮装置1の動作を説明する。図5は、濃縮装置1の動作時における溶液4の推移を示す模式図である。図5(A)~(C)の各図は、容器2の長手方向の中心軸C1を含む平面を断面とする縦断面図である。
【0045】
まず図5(A)に示すように、容器2内に供給領域21を含む高さまで溶液4を注入する(注入ステップ)。そして、容器2内に溶液4を減圧部11から伸びる配管12を栓3の貫通孔3eに挿入した状態で、栓3を容器2内に挿入し、上部開口2aを封止する。
【0046】
次に、減圧部11を作動させる。このとき、図1に示すように配管12にバルブ13が設置される構成の場合には、バルブ13を開いて配管12を連通させる。これにより、容器2内が減圧され、図5(B)に示すように、栓3の上端面3c側のガスGが溝部3dへ取り込まれ、溝部3dを通って容器2の内部空間2b(供給領域21)内に高速で吹き込まれる(供給ステップ)。
【0047】
高速で吹き込まれたガスGは、例えば、容器2の内周面2cに沿って螺旋状に旋回しながら旋回流R(サイクロン流)となって溶液4の液面4aに到達する。これにより、溶液4が旋回流Rによって巻き上げられて撹拌されるため、気体状物質S(溶媒)の気化が促進される。つまり、容器2内の溶液4が濃縮される(濃縮ステップ)。このとき、回避領域22の細管23にも溶液4が溜まっているが、細管23内の溶液4に旋回流Rの作用が伝達されないので、細管内の溶液の濃縮は遅れる。また、このとき、旋回流Rの作用によって溶液4が撹拌されるため液面4aが波立って安定しない。
【0048】
溶液4から気化した気体状物質Sは、貫通孔3e及び配管12を通じて、容器2内に導入されたガスGの一部と共に、容器2の外部へ排出される(排出ステップ)。また、このとき捕捉部15が排出された気体状物質Sを捕捉してもよい。
【0049】
つまり、本実施形態では、減圧部11と、栓3の貫通孔3eと、配管12と、バルブ13とが、旋回流Rの作用により溶液4から気化した溶媒(気体状物質S)を容器2内から排出する排出部20として機能する。図5(B)は、これらの排出部20により、容器2内の気体Gを排出し、溝部3dを介して旋回流Rを容器2内の溶液4に供給する供給ステップと、排出部20により、旋回流Rの作用により溶液4から気化した溶媒を容器2内から排出する排出ステップとを含む濃縮ステップに対応する。なお、濃縮装置1はバルブ13を備えない構成でもよく、この場合は減圧部11と、栓3の貫通孔3eと、配管12とが排出部20として機能する。
【0050】
図5(B)の処理が継続されることによって、溶液4内から気化した気体状物質Sが徐々に容器2外へ排出される。これにより、容器2内の溶液4の濃度が徐々に増加して、液面4aが徐々に回避領域22側へ下がってゆく。そして、図5(C)に示すように、溶液4の液面4aが細管23の近傍、例えば細管23の上端開口23aより上方の供給領域21の下端部21aのすり鉢状の部分の高さまで低下する。
【0051】
一方、細管23の外の溶液4の濃縮が進むと、細管23内の溶液4との比重さが生じるので、細管23内の溶液4は次第に濃縮された溶液4に置き換わる。また、細管23内と細管23外との濃度差による拡散作用で、細管23内の溶液4の濃度は濃くなっていく。
【0052】
上述のように、ガスGの旋回流Rは、容器2の内周面2cに沿って容器2の軸心C1を中心に螺旋状に旋回するので、軸心C1から外れていて、かつ、供給領域21の内部空間2bより小径の細管23の内部には旋回流Rの影響が小さくなる。このため、図5(C)に示すように液面4aが細管23の近傍まで低下すると、ガスGが容器2の内部に導入され続けても、細管23内に溜まっている溶液4は旋回流Rによる作用を受けにくくなるので、溶液4の液面4aが安定する。図5(C)の状態では、容器2内にガスGが導入されても、溶媒を気化させることなく、導入されたガスGのみが配管12を介して排出される。
【0053】
このように、図5(C)に示すように溶液4の液面4aが細管23の近傍まで低下すると、液面4aが安定化して位置を視認しやすくなるので、濃縮装置1の使用者は、細管23近傍の所定高さまで低下した濃縮後の溶液4の量をより正確に把握することができる。また、例えば濃縮装置1の作動前に容器2に注入した溶液4の量と、細管23内の所定高さまで低下した濃縮後の溶液4の量とを比較すれば、所望の濃度まで濃縮できたことを容易に確認できる。
【0054】
なお、図5(C)の状態からさらに時間をかけて濃縮処理を進めれば、溶液4の液面4aを細管23内の位置まで低下させることも可能である。この場合、溶液4は供給領域21には含まれないことが検知されることになる。これにより、溶液4の濃縮率をさらに増やすことができる。
【0055】
そして、溶液4が所望の濃度まで濃縮された後に、減圧部11を停止させて、容器2内へのガスGの供給を停止させ、濃縮装置1の動作を終了する(停止ステップ)。その後に、容器2内の濃縮された溶液4を容器2から取り出す(取出しステップ)。なお、濃縮液(濃縮後の溶液4)は、例えばスポイトなどにより容器2の上部開口2aから取り出すことができる。
【0056】
次に第1実施形態の作用効果を説明する。第1実施形態の濃縮用容器2は、当該濃縮用容器2内の溶液4に対して気体Gの旋回流Rを供給する供給領域21と、供給領域21より下方に配置され、溶液4に対する旋回流Rの供給を回避する回避領域22と、を備える。
【0057】
また、第1実施形態の濃縮装置1は、上述の容器2と、容器2の上部開口2aを塞ぐ栓3と、栓3の側面3aに螺旋状に形成され、気体Gを容器2の内部に導入する溝部3dと、旋回流Rの作用により溶液4から気化した溶媒(気体状物質S)を容器2内から排出する排出部20と、を備える。
【0058】
これらの構成により、図5(C)に示すように、容器2内に注入された溶液4が、液面4aの高さが回避領域22の近傍に低下するまで濃縮された後は、溶液4が旋回流Rの作用を受けにくくできるので、引き続き容器2内に旋回流Rが供給されていても、溶液4の液面4aの波立ちを抑えて安定化させることが可能となる。これにより、濃縮装置1の使用者が液面4aの位置を容易に視認することが可能となるので、溶液4の濃縮度合いを簡易かつより確実に把握することが可能となる。この結果、第1実施形態によれば、溶液4の定量濃縮を精度良く行うことができる。
【0059】
また、第1実施形態の濃縮用容器2において、供給領域21は、当該濃縮用容器2の上方から旋回流Rが供給されるよう形成される。回避領域22は、供給領域21の下端部21aに連通され、供給領域21より小径の細管23を含む。
【0060】
この構成により、溶液4が少量の高濃度のものに濃縮された後でも、小径の細管23に溜められるので、溶液4の濃縮に伴う体積減少に対する液面4aの変化をより大きくできる。これにより、溶液4の濃縮度合いの推移をより簡易に把握することができる。
【0061】
また、第1実施形態の濃縮用容器2において、回避領域22の細管23の上端開口23aの位置は、供給領域21の中心C1からずれて配置される。
【0062】
この構成により、容器2に導入される旋回流Rの回転中心(供給領域21の中心C1)から、細管23の上端開口23aの位置を離すことができるので、細管23内の溶液4に対する旋回流Rの供給(旋回流Rの影響)をより確実に回避させることが可能となる。
【0063】
また、第1実施形態の濃縮用容器2において、細管23は、下端部23bが供給領域21の中心C1に配置され、延在方向が上下方向に対して傾斜するよう形成される。
【0064】
一般に、溶液の分析に使用される容器は、底部が円錐状で尖っているスピッツ管であることが多い。本実施形態では、回避領域22の細管23を中心C1側へ傾斜するよう形成することにより、例えば図2図5に例示したように、従来のスピッツ管と同様の形状で、容器2の内部に回避領域22を設けることが可能となる。これにより、濃縮用容器2を従来のスピッツ管と同様に取り扱うことも可能となるので、例えば既存のスピッツ管用の分析装置等をそのまま使用可能となるなど、容器2の汎用性を向上できる。また、細管23の延在方向が傾斜していると、回避領域22の上下方向の寸法に対して細管23の深さを増やすことができるので、細管23に溜めることができる濃縮後の溶液4の量も増やすことができ、この点でも容器2の汎用性を向上できる。
【0065】
また、第1実施形態の濃縮用容器2において、供給領域21の下端部21aは、細管23の上端開口23aの位置が上下方向の最低位置となるすり鉢状に形成される。
【0066】
この構成により、濃縮装置1による溶液4の濃縮過程において、徐々に体積が減少する溶液4を供給領域21の下端部21aから細管23の上端開口23aに向けて流しやすくできる。これにより、細管23への溶液4の誘導をより確実に行うことが可能となり、最終的な細管23内の液面4aの安定化、すなわち溶液4の所定量までの濃縮に要する時間を短縮化できる。
【0067】
なお、濃縮液(濃縮後の溶液4)は、例えばスポイトなどにより容器2の上部開口2aから取り出すことができる。
【0068】
<実験結果>
次に、本実施形態に係る濃縮装置1を用いた実験結果について説明する。溶液4として、サンセットイエロー(食用色素)水溶液(488nm吸光度0.8)を用いた。容器2への導入量は1.0mlとした。濃度評価には、吸光光度計(ピーク波長488nmの値を利用)を用いた。容器2の形状や寸法は、図2図4を参照して説明したものと同様とした。
【0069】
1mlのサンセットイエロー水溶液を注入して栓3で封止した容器2を濃縮装置1に設置して、室温環境下で約1時間にわたって濃縮装置1を作動させた。この結果、サンセットイエロー水溶液は、容器2の細管23内の高さまで液面が低下するまで濃縮され、液面が安定して所望の高さとなった時点で濃縮装置1の動作を停止させた。最終的に溶液は47μl(0.047ml)まで濃縮された。
【0070】
その後、濃縮後の溶液を1547μl(1.547ml)に希釈増量して、吸光測定を行い、濃縮率を算出した。濃縮率の算出には下記の数式を用いた。
【0071】
濃縮率=濃縮後の吸光度×増量後体積/増量前体積(希釈率)÷濃縮前の吸光度
=0.36×1547/47÷0.8
=15
【0072】
このように、上記の実験結果によって、本実施形態に係る濃縮装置1を用いれば、分析対象の溶液の濃度を、濃縮装置1の使用者の目視によっても簡便に、かつ、精度良く所望の値に濃縮させることが可能となり、溶液の定量濃縮を簡便かつ精度良く行うことができることが示された。
【0073】
<変形例>
次に図6図8を参照して第1実施形態の変形例を説明する。回避領域22に設けられる細管23は、少なくとも供給領域21の下端部に連通され、供給領域21より小径であればよく、図1図5に例示した形状に限られない。
【0074】
図6は、第1実施形態の第1変形例に係る細管23Aの形状を示す図である。図6は、図5に対応する容器2の縦断面図であり、回避領域22を含む容器2の下部のみが図示されている。例えば、図6に示す細管23Aのように、細管23Aの延在方向、すなわち中心軸C2が斜め方向ではなく、供給領域21の中心軸C1から離間して、平行となるように形成される構成でもよい。
【0075】
図7は、第1実施形態の第2変形例に係る細管23Bの形状を示す図である。図7(A)は、図5に対応する容器2の縦断面図であり、回避領域22を含む容器2の下部のみが図示されている。図7(B)は、図7(A)中のC-C断面図であり、細管23Bを上方から視た図である。
【0076】
図7に示す細管23Bのように、細管23Bの中心軸C2が、供給領域21の中心軸C1と同軸となるように形成される構成の場合は、軸心付近でも旋回流Rの影響を受ける。しかし、図7の例では、細管23Bの周壁23B2に、旋回流Rを打ち消す邪魔板部材23B1を設ける。邪魔板部材23B1は、例えば図7(B)に示すように、細管23Bの周壁23B2の周方向に沿って略均等に複数(図7の例では約90度ごとに4個)が配置され、図7(A)に示すように、それぞれの長手方向が中心軸C2に沿い、かつ、中心軸C2側に突出するよう形成される。このような邪魔板部材23B1を設けることにより、細管23内の旋回流Rの一部が邪魔板部材23B1に当たり、その一部は逆方向の流れとなるので、細管23内の旋回流Rを回避することができる。
【0077】
図8は、第1実施形態の第3変形例に係る細管23Cの形状を示す図である。図8は、図5に対応する容器2の縦断面図であり、回避領域22を含む容器2の下部のみが図示されている。図8に示す細管23Cのように、細管23Cの径が中心軸C2の方向に均等ではなく、下方に進むほど広がるように形成される構成でもよい。この構成でも、上端開口23aが狭いので、旋回流Rが細管23C内へ進入することを抑制できる。
【0078】
[第2実施形態]
図9図11を参照して第2実施形態を説明する。図9図11は、それぞれ第2実施形態に係る濃縮用容器2Aの第1~第3の例を示す模式図であり、供給領域21の上方側の一部は省略されている。
【0079】
図9図11に示すように、第2実施形態の容器2Aは、回避領域22の径が供給領域21と同一であり、回避領域22の中心軸が供給領域21の中心軸C1と同軸である。したがって、このままでは回避領域22にも旋回流Rが進入してしまう。そこで第2実施形態の容器2Aは、第1実施形態の細管23の代わりに、旋回流Rが回避領域22に進入するのを阻止する阻止部材24を備える。図9図11には、阻止部材24の形状の3つの例を示す。
【0080】
図9(A)は、図5に対応する容器2Aの縦断面図である。図9(B)は、図9(A)中のD-D断面図であり、回避領域22を上方から視た図である。例えば図9に示す第1の例のように、回避領域22の内周面2cに、旋回流Rを打ち消す邪魔板部材24Aを阻止部材24として設ける。
【0081】
邪魔板部材24Aは、例えば図9(B)に示すように、回避領域22の内周面2cの周方向に沿って略均等に複数(図9の例では約90度ごとに4個)が配置され、図9(A)に示すように、それぞれの長手方向が中心軸C1に沿い、かつ、中心軸C1側に突出するよう形成される。このような邪魔板部材24Aを設けることにより、回避領域22内の旋回流Rの一部が邪魔板部材24Aに当たり、その一部は逆方向の流れとなるので、回避領域22内の旋回流Rを回避することができる。
【0082】
図10(A)は、図5に対応する容器2Aの縦断面図である。図10(B)は、図10(A)中のE-E断面図であり、回避領域22を上方から視た図である。図10に示す第2の例のように、容器2Aの内部空間2bにおいて、供給領域21と回避領域22の境界に、内周面2cから中心C1側に突出する円環状の水平邪魔板部材24Bを阻止部材24として設ける。さらに、回避領域22の内周面2cに、旋回流Rを打ち消す垂直邪魔板部材24Cを阻止部材24として設ける。なお、水平邪魔板部材24Bは、内周面2cの周方向に沿って環状に延在せず、所定間隔をとって複数の板材が断続的に配置される構成でもよい。また、垂直邪魔板部材24Cは、図9に示した第1の例の邪魔板部材24Aと同様の形状をとる。
【0083】
このような水平邪魔板部材24Bと垂直邪魔板部材24Cとを設けることにより、まず供給領域21を流れる旋回流Rの一部が水平邪魔板部材24Bに突き当たって、その一部が回避領域22に進入するのが阻害される。さらに、回避領域22に進入した旋回流Rの一部は垂直邪魔板部材24Cに当たり、その一部は逆方向の流れになるので、回避領域22内の旋回流Rを回避することができる。
【0084】
図11は、図5に対応する容器2Aの縦断面図である。図11に示す第3の例のように、回避領域22の内周面2cに、旋回流Rの旋回方向と反対向きの螺旋状に形成される筋部24Dを阻止部材24として設ける構成でもよい。図11の例では、容器2Aを上方から視たときに、旋回流Rの旋回方向は時計回り方向であるのに対して、筋部24Dは上方から下方に向けて反時計回り方向に形成されている。筋部24Dは、内周面2cから中心C1側に突出して形成されると共に、その長手方向が内周面2cの周方向に沿って螺旋状に延在するよう形成される。
【0085】
このような筋部24Dを設けることにより、回避領域22に進入した旋回流Rが筋部24Dに突き当たって旋回が阻害されるので、回避領域22内の旋回流Rを回避することができる。
【0086】
このように、第2実施形態に係る濃縮用容器2Aは、旋回流Rが回避領域22に進入するのを阻止する阻止部材24を備える。この構成によっても、容器2A内に注入された溶液4が、液面4aの高さが回避領域22の範囲に低下するまで濃縮された後は、溶液4が旋回流Rの作用を受けにくくできるので、溶液4の液面4aの波立ちを抑えて安定化させることが可能となる。したがって、第1実施形態と同様に、溶液4の定量濃縮を精度良く行うことができる。
【0087】
なお、図7の例では、回避領域22の径が供給領域21と同一である構成を例示しているが、第1実施形態と同様に回避領域22を供給領域21より小径としつつ、阻止部材24を備える構成としてもよい。
【0088】
[第3実施形態]
図12図13を参照して第3実施形態を説明する。図12は、第3実施形態に係る濃縮用容器2Bの例を示す模式図である。
【0089】
図12に示すように、第3実施形態の容器2Bは、第1実施形態の容器2の構成に加えて、さらに回避領域22の細管23の下端部23bに設けられる開口部25と、開口部25を封止する封止部材26と、を備える。
【0090】
図12に示すように、濃縮装置1の作動時には、封止部材26により開口部25が封止される。これにより、第1実施形態の容器2と同様に容器2Bの内部に溶液4を蓄積させることができ、第1実施形態の容器2と同様に、濃縮装置1による濃縮処理を実施できる。
【0091】
図13は、第3実施形態に係る濃縮用容器2Bによる濃縮後の溶液4の注出手順の一例を示す模式図である。図13に示すように、濃縮装置1による溶液4の濃縮後に、封止部材26を濃縮用容器2Bから取り外すことにより、回避領域22の細管23に蓄積された濃縮後の溶液4を容器2の下端の開口部25から注出可能となる。
【0092】
溶液4の抽出手法としては、例えば図13に示すように、例えばスポイトで使われているようなゴム製のバルーン27を容器2の上部開口2aに取り付けて、バルーン27の押圧操作によってピペット又はスポイトとして使用する構成が考えられる。操作手順としては次のような手順が考えられる。まず濃縮操作後、容器2から栓3を外して容器2を濃縮装置1から外し、栓3の代わり容器2の上部開口2aにゴムバルーン27を取り付ける。次に、容器2を横にした状態で、封止部材26を容器2から外し、濃縮液が開口部25から重力で滴下しないようにして、所定の分析装置などに運ぶ。そして、分析装置などにおいて、ゴムバルーン27を圧搾して、必要な量を開口部25から装置に滴下させる。
これにより、細管23に溜まっている濃縮後の溶液4が上方から押圧されて、下方の開口部25から外部に注出される。
【0093】
このように、第3実施形態に係る濃縮用容器2Bは、回避領域22の下端部23bに設けられる開口部25と、開口部25を封止する封止部材26と、を備える。溶液4の濃縮処理中には、封止部材26により開口部25が封止され、溶液4の濃縮後に、封止部材26を容器2Bら取り外すことにより、回避領域22に蓄積された濃縮後の溶液4を開口部25から注出可能とする。
【0094】
この構成により、濃縮後の溶液4を回避領域22の細管23から直接抽出することが可能となるので、濃縮装置1による濃縮処理の後には、濃縮用容器2Bをピペットに転用することができる。これにより、濃縮用容器2Bの汎用性、利便性を向上できると共に、溶液4の分析処理をより効率良く実施することが可能となる。なお、封止部材26に小さな開閉弁を設け、この弁を開いて細管23から濃縮液を取出すようにしても良い。
【0095】
[第4実施形態]
図14図15を参照して第4実施形態を説明する。
【0096】
図14は、第4実施形態に係る濃縮装置1Aの全体構成を示す模式図である。図10に示すように、第4実施形態の濃縮装置1Aは、第1実施形態の濃縮装置1の構成に加えて、さらに、検出部16と、制御部17とを備える。
【0097】
検出部16は、容器2内における溶液4の液面4aを検出する。検出部16は、例えば動画や静止画を撮像するカメラなど、容器2内の液面4aの位置を判別可能な情報を取得可能な任意の要素を適用できる。
【0098】
制御部17は、排出部20(減圧部11、配管12、貫通孔3e、バルブ13)による容器2からの溶媒(気体状物質S)の排出を制御する。制御部17は、例えばバルブ13の開閉制御や、減圧部11の動作、停止を制御して、排出部20による溶媒の排出動作を制御する。このため、本実施形態では、減圧部11とバルブ13は、制御部17からの動作指令に応じて、駆動源等により動作可能に構成されている。
【0099】
また、制御部17は、検出部16により液面4aが容器2内の所定高さまで低下したことが検出されたときに、排出部20による容器2からの溶媒の排出を停止させる。制御部17は、例えば減圧部11の動作を停止させるよう減圧部11の動作を制御するか、または、配管12上のバルブ13を閉じるようバルブ13の動作を制御することにより、溶媒の排出を停止させることができる。
【0100】
第4実施形態の濃縮装置1Aは、制御部17によって、溶液4を所望の濃度まで濃縮させる処理を自動的に制御することができる。
【0101】
図15を参照して、第4実施形態の濃縮装置1Aの動作を説明する。図15は、第4実施形態における溶液4の濃縮制御のフローチャートである。
【0102】
ステップS1では、容器2内に供給領域21を含む高さまで溶液4が注入され、溶液4を注入した容器2が濃縮装置1に設置される(注入ステップ)。
【0103】
ステップS2では、制御部17により、溶液4の濃縮率の目標値が設定される。制御部17は、例えば濃縮装置1の使用者の操作入力などによって目標値を取得する。濃縮率の目標値としては、例えば回避領域22の細管23内の液面4aの所定の高さ位置や、細管23の上端開口23aの近傍(例えば上端開口23aより上方の供給領域21の下端部21aのすり鉢状の部分)における液面4aの所定の高さ位置の情報を含む。または、容器2へ注入されている溶液4の量の情報や、濃縮率の目標値の情報が入力され、これらの情報に基づき制御部17が目標値に対応するように、容器2内における液面4aの高さ位置を算出する構成でもよい。
【0104】
ステップS3では、制御部17により、濃縮装置1の排出部20の動作が開始される。制御部17は、例えばバルブ13を開き、減圧部11を作動させる。
【0105】
ステップS4では、排出部20の作動開始に応じて、容器2内の気体が栓3の貫通孔3eや配管12を介して容器2の外部に排出される。これにより容器2内が減圧され、栓3の溝部3dを介して容器2内にガスGが導入される。ガスGは溝部3dの螺旋形状に沿って旋回流Rとなって容器2に導入され、容器2内の溶液4にガスGの旋回流Rが供給される(容器2内の溶液4に供給される(供給ステップ)。
【0106】
ステップS5では、排出部20により、旋回流Rの作用により気化した溶媒(気体状物質S)が容器2内から排出される(排出ステップ)。なお、供給ステップS4と排出ステップS5は、実質的に同時に行われる。これらのステップS4、S5を纏めて1つのステップ、すなわち容器2内の溶液4を濃縮する濃縮ステップ、としてもよい。
【0107】
ステップS6では、ステップS4(供給ステップ)とステップS5(排出ステップ)の実施中に、検出部16により、容器2内の溶液4の液面4aの高さ位置が検出される(検出ステップ)。検出部16は、検出した高さ位置の情報を制御部17に出力する。なお、検出は例えば排ガス量を少なくして旋回流Rの強さを弱くすることで、液面4aの波高さを比較的小さくし、目視などで行うこともできる。
【0108】
ステップS7では、制御部17により、ステップS6にて検出部16が検出した液面4aの位置が、ステップS2の目標値に対応する容器2内の所定高さまで低下していか否かが判定される。溶液4の液面4aが所定高さでない場合(ステップS7のNo)には、ステップS4に戻り、ステップS4~S6の処理が繰り返される。
【0109】
一方、溶液4の液面4aが所定高さに到達した場合(ステップS7のYes)には、容器2内の溶液4が所望の濃度まで濃縮されたので、ステップS8に進み、制御部17により排出部20の動作を停止させて、容器2からの溶媒の排出を停止させる(停止ステップ)。制御部17は、例えば減圧部11の動作を停止させるよう減圧部11の動作を制御するか、または、配管12上のバルブ13を閉じるようバルブ13の動作を制御することにより、溶媒の排出を停止させることができる。
【0110】
その後に、容器2内の濃縮された溶液4が容器2から取り出される(取出しステップ)。なお、濃縮液(濃縮後の溶液4)は、例えばスポイトなどにより容器2の上部開口2aから取り出すことができる。ステップS8の処理の後に、本制御フローを終了する。
【0111】
このように、第4実施形態の濃縮装置1Aは、排出部20による容器2からの溶媒(気体状物質S)の排出を制御する制御部17と、容器2内における溶液4の液面4aを検出する検出部16と、を備える。制御部17は、検出部16により液面4aが容器2内の所定高さまで低下したことが検出されたときに、排出部20による容器2からの溶媒の排出を停止させる。
【0112】
この構成により、制御部17によって、溶液4を所望の濃度まで濃縮させる処理を自動的に制御することができるので、濃縮装置1Aの操作性や利便性を向上できる。また、使用者の目視による液面4aの視認に比べて、より高精度に溶液4の濃縮度合いを検出できるので、溶液4を所望の濃度までより高精度に濃縮させることが可能となる。
【0113】
なお、濃縮装置1Aの制御部17は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)、入力デバイスであるキーボード及びマウス等の入力装置、ディスプレイ等の出力装置、ネットワークカード等のデータ送受信デバイスである通信モジュール、ハードディスク等の補助記憶装置、などを含むコンピュータシステムとして構成することができる。上述の制御部17の各機能は、CPU、RAM等のハードウェア上に所定のコンピュータソフトウェアを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで通信モジュール、入力装置、出力装置を動作させるとともに、RAMや補助記憶装置におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0114】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0115】
上記実施形態に係る濃縮用容器2、2A、2Bは、上記実施形態に係る濃縮装置1、1A以外の他の装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0116】
1、1A 濃縮装置
2、2A、2B 容器(濃縮用容器)
2a 上部開口
2b 内部空間
21 供給領域
21a 下端部
22 回避領域
23、23A、23B、23C 細管
23a 上端開口
23b 下端部
24 阻止部材
24A 邪魔板部材(阻止部材)
24B 水平邪魔板部材(阻止部材)
24C 垂直邪魔板部材(阻止部材)
24D 筋部(阻止部材)
25 開口部
26 封止部材
3 栓
3a 側面
3d 溝部
3e 貫通孔(排出部)
4 溶液
4a 液面
11 減圧部(排出部)
12 配管(排出部)
13 バルブ(排出部)
16 検出部
17 制御部
20 排出部
S 気体状物質(溶媒)
G ガス
R 旋回流
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15