(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165373
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】菓子用材料、ガム、及びガムの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/16 20160101AFI20231108BHJP
A23G 4/06 20060101ALI20231108BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20231108BHJP
A61K 33/08 20060101ALI20231108BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20231108BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
A23L33/16
A23G4/06
A61P1/02
A61K33/08
A61Q11/00
A61K8/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076333
(22)【出願日】2022-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】519254358
【氏名又は名称】株式会社ピアンタ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉田 昌之
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4B014GB13
4B014GK12
4B014GL01
4B014GL03
4B018LB01
4B018MD04
4B018MD72
4B018MD75
4B018ME09
4C083AB031
4C083AB032
4C083AC122
4C083BB44
4C083CC41
4C083DD12
4C083DD21
4C083EE32
4C083EE33
4C083FF05
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA04
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA47
4C086MA57
4C086NA14
4C086ZA67
(57)【要約】
【課題】虫歯及び歯周病の発生をより効果的に抑制することができる菓子用材料、ガム、及びガムの製造方法を提供する。
【解決手段】材料100質量%中にアルカリ性化合物を0.001~5.0質量%含有することを特徴とする菓子用材料。前記アルカリ性化合物は水酸化カルシウムであることが好ましい。また、前記水酸化カルシウムは、ホタテの貝殻を焼成して微粉砕した後、水で処理したもの、又は鶏卵の卵殻を焼成して微粉砕した後、水で処理したものであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料100質量%中にアルカリ性化合物を0.001~5.0質量%含有することを特徴とする菓子用材料。
【請求項2】
前記アルカリ性化合物が水酸化カルシウムである、請求項1に記載の菓子用材料。
【請求項3】
前記水酸化カルシウムが、ホタテの貝殻を焼成して微粉砕した後、水で処理したものである、請求項2に記載の菓子用材料。
【請求項4】
前記水酸化カルシウムが、鶏卵の卵殻を焼成して微粉砕した後、水で処理したものである、請求項2に記載の菓子用材料。
【請求項5】
前記菓子用材料が更に湿潤剤を含有し、
前記アルカリ性化合物100質量部に対して前記湿潤剤の含有量が70~150質量部であり、
前記菓子用材料100質量%中の前記アルカリ性化合物の含有量が0.01~3.0質量%であり、且つ
前記菓子用材料100質量%中の前記湿潤剤の含有量が0.01~3.0質量%である、請求項1又は2に記載の菓子用材料。
【請求項6】
ミュータンス菌の殺菌用である、請求項5に記載の菓子用材料。
【請求項7】
ジンジバリス菌の殺菌用である、請求項5に記載の菓子用材料。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の菓子用材料を用いたガム。
【請求項9】
請求項8に記載のガムの製造方法であって、前記アルカリ性化合物と湿潤剤とを混合し、虫歯及び歯周病予防成分を調製する工程と、前記虫歯及び歯周病予防成分及びガムベースを混合する工程とをこの順に有する、ガムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虫歯及び歯周病を抑制することができる菓子用材料、ガム、及びガムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans、以下「ミュータンス菌」という)はグラム陽性通性嫌気性のレンサ球菌の一種であり、ヒトの口腔内に存在し、齲蝕(虫歯)の原因菌の1つとなる菌である。虫歯は、ミュータンス菌がプラークの中で糖を分解(代謝)して酸を作り、この酸によって歯の表面のエナメル質が溶け、その下の象牙質、更にその内側のセメント質を齲蝕することにより進行する。
一方、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis、以下「ジンジバリス菌」という)はグラム陰性偏性嫌気性の桿菌であり、嫌気度が高い歯周ポケット深部に生息し、慢性歯周病等の原因になっている。
【0003】
虫歯や歯周病を予防するためには歯磨き等の習慣と共に、口腔内のミュータンス菌やジンジバリス菌を減少させる食品類の摂取が重要であると考えられている。ミュータンス菌を減少させる食品としては、例えば合成甘味料であるキシリトールが知られているが、実際には虫歯予防に関する有効性が立証されておらず、また摂取し過ぎると下痢を引き起こすため、腸の弱い人には不向きであるという問題がある。
またフッ化物も有効であるとされているが、強い抗酸化作用があるためガンや脳神経障害の原因として危険性が指摘されている。更に、ウーロン茶抽出物、花椒オイル、クロモジエキス等も知られているが、いずれも有効性は立証されていない。
【0004】
なお、虫歯を予防するガムとして特許文献1には、特定の細孔容積を有する多孔質炭素材料を含むガムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載のガムは、多孔質炭素材料によりミュータンス菌を吸収、除去するものであるが、虫歯の原因となるミュータン菌や歯周病の原因となるジンジバリス菌の数を減少させることについては記載がない。
【0007】
本発明は、前記従来の問題を鑑みてなされたものであって、虫歯や歯周病の発生をより効果的に抑制することができる菓子用材料、ガム、及びガムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のアルカリ性を示す化合物、中でもホタテの貝殻や鶏卵の卵殻に由来する化合物がミュータンス菌やジンジバリス菌等を死滅させる効果があることを知見した。そして、更に検討を重ねた結果、特定のアルカリ性を示す物質を特定の方法により配合した菓子、特にガムが虫歯や歯周病の予防に効果があることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は下記[1]~[9]に関する。
[1]材料100質量%中にアルカリ性化合物を0.001~5.0質量%含有することを特徴とする菓子用材料。
[2]前記アルカリ性化合物が水酸化カルシウムである、前記[1]に記載の菓子用材料。
[3]前記水酸化カルシウムが、ホタテの貝殻を焼成して微粉砕した後、水で処理したものである、前記[2]に記載の菓子用材料。
[4]前記水酸化カルシウムが、鶏卵の卵殻を焼成して微粉砕した後、水で処理したものである、前記[2]に記載の菓子用材料。
[5]前記菓子用材料が更に湿潤剤を含有し、
前記アルカリ性化合物100質量部に対して前記湿潤剤の含有量が70~150質量部であり、
前記菓子用材料100質量%中の前記アルカリ性化合物の含有量が0.01~3.0質量%であり、且つ
前記菓子用材料100質量%中の前記湿潤剤の含有量が0.01~3.0質量%である、前記[1]又は[2]に記載の菓子用材料。
[6]ミュータンス菌の殺菌用である、前記[5]に記載の菓子用材料。
[7]ジンジバリス菌の殺菌用である、前記[5]に記載の菓子用材料。
[8]前記[1]又は[2]に記載の菓子用材料を用いたガム。
[9]前記[8]に記載のガムの製造方法であって、前記アルカリ性化合物と湿潤剤とを混合し、虫歯及び歯周病予防成分を調製する工程と、前記虫歯及び歯周病予防成分及びガムベースを混合する工程とをこの順に有する、ガムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、虫歯や歯周病の発生をより効果的に抑制することができる菓子用材料、ガム、及びガムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】参考例2及び比較参考例1の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[菓子用材料]
本発明の菓子用材料は、材料100質量%中にアルカリ性化合物を0.001~5.0質量%含有することを特徴とするものである。材料中にアルカリ性化合物を特定量含有することにより、この材料を用いた菓子を口腔内に投入した際にミュータンス菌やジンジバリス菌を低減させることが可能になり、その結果、優れた虫歯及び歯周病予防効果を得ることができる。
【0013】
<アルカリ性化合物>
本発明に用いることができるアルカリ性化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物等のアルカリ性無機化合物が挙げられる。これらの中でも、アルカリ土類金属水酸化物が好ましく、水酸化カルシウムがより好ましい。
なお、ミュータンス菌及びジンジバリス菌を低減しつつ人体への影響を低減する観点から、アルカリ性化合物の種類によって適宜配合量を変えることが好ましい。
【0014】
本発明において用いる水酸化カルシウムとしては、ホタテの貝殻を焼成して微粉砕した後、水で処理したものが好ましい。具体的には、ホタテの貝殻を特殊窯により1,200℃程度で焼成して微粉砕した後、水で処理することにより得られた水酸化カルシウムが好ましい。
また、本発明においては、虫歯及び歯周病の発生をより効果的に抑制する観点から、鶏卵の卵殻を焼成して微粉砕した後、水で処理することにより得られた水酸化カルシウムを用いることがより好ましい。
なお、本発明において「水で処理する」とは、微粉砕したホタテの貝殻又は鶏卵の卵殻の濃度が0.01~3質量%、好ましくは0.01~0.3質量%になるように水に溶解(水和)させる処理を指し、その後、水を除去することにより粉末状の水酸化カルシウムを得ることができる。
【0015】
より具体的な方法としては、ホタテの貝殻又は鶏卵の卵殻を前記温度で焼成し、冷却する前に水に溶解(水和)させて溶液を調製し、その後、該溶液を熱風乾燥する方法により水酸化カルシウムを得ることが好ましい。この方法であれば、水に溶解(水和)させた際にホタテの貝殻又は鶏卵の卵殻が自然に粉砕されるため、後に微粉砕する工程において作業が容易になる。
【0016】
微粉砕したホタテの貝殻及び鶏卵の卵殻の平均粒子径は、1.0~30.0μmであることが好ましく、2.5~20.0μmであることがより好ましく、3.5~10.0μmであることが更に好ましい。ホタテの貝殻及び鶏卵の卵殻の平均粒子径が前記範囲内であると、ホタテの貝殻及び鶏卵の卵殻から得られる水酸化カルシウムのpH(25℃における飽和水溶液として測定したpH)が12.5~13程度の強アルカリ性を示すようになり、短時間でミュータンス菌やジンジバリス菌等の菌を死滅させることが可能になる。
なお、本発明において平均粒子径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-920)にて、溶媒をイオン交換水、屈折率を1.2、循環速度を4とし、循環3分の条件で測定した値を指す。
【0017】
本発明において、材料100質量%中のアルカリ性化合物の含有量は、0.001~5.0質量%である。アルカリ性化合物の含有量が0.001質量%未満であると、虫歯及び歯周病予防効果を十分に得ることができない。一方、アルカリ性化合物の含有量が5.0質量%を超えると人体に影響がある。これらの観点から、材料100質量%中のアルカリ性化合物の含有量は、0.01~3.0質量%であることが好ましく、0.05~2.5質量%であることがより好ましく、1.0~2.0質量%であることが更に好ましい。
【0018】
<菓子用材料のその他の成分、及び菓子用材料の用途>
本発明の菓子用材料は、前記アルカリ性化合物を含むものであれば特に制限はなく、公知の材料を含んでいてもよい。
また、本発明の菓子用材料を用いて製造する菓子について特に制限はなく、例えば、ガム、チューイングキャンディー、ソフトキャンディー類、ハードキャンディー類、かりんとう、ビスケット類、クラッカー類、せんべい類、チョコレート、ゼリー菓子等の菓子類等が挙げられ、シリアル食品、パン、切り餅、農水産加工品等であってもよいが、虫歯及び歯周病を効果的に抑制する観点から、口腔内に長時間留まるガム及びチューイングキャンディーが好ましい。
【0019】
本発明によれば、虫歯や歯周病の発生、進行を抑制することができるが、ミュータンス菌やジンジバリス菌以外の菌についても低減させることができることから、菓子以外の食品に応用することにより食品の賞味期限の延長化等も期待できる。
【0020】
<菓子用材料の製造方法>
本発明の菓子用材料の製造に特に制限はなく、必須成分である前記アルカリ性化合物と、目的とする菓子の一般的な材料とを混合することにより製造することができる。
【0021】
[ガム]
本発明のガムは、本発明の菓子用材料を用いたものであり、前述のとおり優れた虫歯及び歯周病予防効果を有するものである。
本発明の菓子用材料をガムに用いる場合において、菓子用材料(ガム用材料)は、少なくともガムベースを含み、更にバルク甘味料、脂肪、ワックス、風味剤、湿潤剤等を含むことが好ましい。
【0022】
<ガムベース>
ガムベースとしては、例えば、エラストマー、ビニルポリマー、樹脂等を挙げることができる。ガムベースに用いることができるエラストマーとしては、例えば、チクル、クラウンガム、ニスペロ、ロサジンハ、ジェルトン、ペリロ、ニジェールグッタ、チュニュ、バラタ、グタペルカ、レチカプシ、ソルバ、グッタケイ等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。また、ブタジエン-スチレンコポリマー、ポリイソブチレン、イソブチレンイソプレンコポリマー、ポリエチレン等も挙げられる。
【0023】
ガム用材料(菓子用材料)中のガムベースの量は、使用するガムベースの種類、ガムの稠度等により適宜調整することができるが、材料100質量%中に5~65質量%であることが好ましく、10~55質量%であることがより好ましい。
【0024】
<バルク甘味料>
バルク甘味料としては糖系のバルク甘味料が挙げられ、例えば、ショ糖(砂糖)、デキストロース、麦芽糖、デキストリン、キシロース、リボース、ブドウ糖、マンノース、ガラクトース、フルクトース(レブロース)、ラクトース、転化糖、フラクトオリゴ糖シロップ、部分加水分解デンプン等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
ガム用材料(菓子用材料)中のバルク甘味料の量は、材料100質量%中に10~85質量%であることが好ましく、20~80質量%であることがより好ましい。バルク甘味料の量が前記範囲内であると、製造するガムに対して程よい甘味を付与することができると共に、アルカリ性化合物による虫歯及び歯周病予防効果を阻害しないため好ましい。
【0025】
<脂肪>
脂肪としては、公知の植物性脂肪、動物性脂肪を用いることができる。植物性脂肪としては、大豆、綿実、トウモロコシ、アーモンド、落花生、ヒマワリ、菜種、オリーブ、パーム、パーム核、イリッペ、シア、ヤシ、ココア、ココアバター等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。また動物性脂肪としては、乳脂及びバター等の乳性脂肪等が挙げられる。
ガム用材料(菓子用材料)中の脂肪の量は、材料100質量%中に0.5~30質量%であることが好ましく、2~25質量%であることがより好ましい。脂肪の量が前記範囲内であると、ガムを程よい稠度に調製することが可能になる。
【0026】
<ワックス>
ワックスとしては、例えば、ポリウレタンワックス、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス等の石油ワックス、マイクロクリスタリンワックス、脂肪ワックス、ミツロウ、植物ワックス、コメヌカロウ、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ソルビタンモノステアレート、タロー、プロピレングリコール等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
ガム用材料(菓子用材料)中のワックスの量は、材料100質量%中に0.1~25質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがより好ましい。ワックスの量が前記範囲内であると、ガムを程よい稠度に調製することが可能になる。
【0027】
<風味剤>
風味剤(香料、香味剤)としては、例えば、オレオレジン、植物、葉、花、果実等由来抽出物等が挙げられる。また、スペアミント油、シナモン油、ウインターグリーン油(サリチル酸メチル)、ペパーミント油、チョウジ油、ベイ油、アニス油、ユーカリ油、タイム油、ニオイヒバ油、ニクズク油、オールスパイス、セージ油、メース、苦扁桃油、ケイヒ油、及びレモン、オレンジ、ライム、グレープフルーツを含む柑橘油等の油;バニラ;リンゴ、ナシ、モモ、ブドウ、イチゴ、ラズベリー、ブラックベリー、サクランボ、プラム、パイナップル、アプリコット、バナナ、メロン、熱帯果実、マンゴー、マンゴスチン、ザクロ、パパイヤを含む果実エキス;ハチミツレモン等;も用いることができる。
ガム用材料(菓子用材料)中の風味剤の量は、材料100質量%中に、0.001~5質量%であることが好ましく、0.01~4質量%であることがより好ましい。風味剤の量が前記範囲内であると、ガムに風味を付与することができるため更に食感が向上する。
【0028】
<湿潤剤>
本発明のガム用材料(菓子用材料)は更に湿潤剤を含んでもよい。湿潤剤としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。
湿潤剤、特にプロピレングリコールはアルカリ性化合物をガムベースに分散させるのに重要な役割を果たす。よって、湿潤剤の含有量は、アルカリ性化合物100質量部に対して、50~200質量部であることが好ましく、70~150質量部であることがより好ましく、80~120質量部であることが更に好ましい。
【0029】
本発明のガム用材料(菓子用材料)において前記湿潤剤を用いる場合の好ましい態様は、アルカリ性化合物100質量部に対して前記湿潤剤の含有量が、好ましくは70~150質量部、より好ましくは80~120質量部であり、ガム用材料(菓子用材料)100質量%中のアルカリ性化合物の含有量が、好ましくは0.01~3.0質量%、より好ましくは0.05~2.5質量%、更に好ましくは1.0~2.0質量%であり、且つガム用材料(菓子用材料)100質量%中の湿潤剤の含有量が、好ましくは0.01~3.0質量%、より好ましくは0.05~2.5質量%、更に好ましくは1.0~2.0質量%である。ガム用材料(菓子用材料)中の前記アルカリ性化合物及び前記湿潤剤の含有量が前記範囲内を満たすと、ミュータンス菌及びジンジバリス菌の殺菌効果、特にジンジバリス菌の殺菌効果が極めて優れたものになり、虫歯及び歯周病を効果的に予防することができる。
【0030】
<菓子用材料及びガムの特性>
本発明の菓子用材料及びガムは前記アルカリ性化合物を用いているため、ミュータンス菌の殺菌用、ジンジバリス菌の殺菌用として極めて優れた効果を示す。
特にジンジバリス菌を始めとする歯周病原細菌による慢性歯周炎は他の器官、及び臓器の疾患(粥腫性動脈硬化、虚血性脳血管疾患、関節リューマチ、早期低体重児出産、非アルコール性脂肪性肝疾患等)と密接な関係があるといわれている。これらの疾患を予防する観点からも本発明の菓子用材料は有用である。
【0031】
なお、本発明の菓子用材料及びガムではアルカリ性化合物を用いているが、菓子の飲食においてはアルカリ性化合物と皮膚とが長時間接触しないため特に問題は生じないと考えられる。また、ラットを用いた急性経口毒性試験、変異原性試験、ウサギを用いた皮膚一次刺激性試験の結果においては安全性が確認されている。
【0032】
[ガムの製造方法]
本発明のガムの製造方法は、アルカリ性化合物と湿潤剤とを混合し、虫歯及び歯周病予防成分を調製する工程と、前記虫歯及び歯周病予防成分及びガムベースを混合する工程とをこの順に有するガムの製造方法であり、本発明によればガムベースに対してアルカリ性化合物を均一に混合することが可能になるため、虫歯及び歯周病予防効果をより一層効果的に得ることができる。
【0033】
本発明の製造方法においては、アルカリ性化合物がホタテの貝殻又は鶏卵の卵殻を粉砕することにより得られた水酸化カルシウムであることが好ましく、湿潤剤はプロピレングリコールであることがより好ましい。ホタテの貝殻又は鶏卵の卵殻を粉砕して得られた水酸化カルシウムは平均粒子径が小さいため、ガムベースに混ざりにくい。そこで、水酸化カルシウムとプロピレングリコールとを混合した虫歯及び歯周病予防成分を予め調製し、これをガムベースと混合することにより、虫歯及び歯周病予防成分が均一に含まれるガムを製造することが可能になる。
なお、ホタテの貝殻又は鶏卵の卵殻に由来する水酸化カルシウムとプロピレングリコールとの混合方法に特に制限はなく、例えば乳鉢等で両者を混合することにより虫歯及び歯周病予防成分を得ることが可能になる。
【実施例0034】
以下、実施例等により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はかかる実施例等により何ら限定されない。
<実施例1:評価用ガムの製造>
評価用のガムを以下の手順で作成した。
(1)キシリトールを含まない一般的なガムベースを細断し、温水(35℃)に1日浸漬した。次いで、温水を交換して再度1日浸漬する作業を合計3日間行い、ガムベースに含まれる香料及び糖類を除去した。
(2)得られたガムベースを加熱しながら、糖アルコール等のいわゆるシュガーレス甘味料を混入させた。
【0035】
(3)ホタテの貝殻を微粉砕して水で処理することにより得られた水酸化カルシウム(平均粒子径3.5~10μm)3gと、プロピレングリコール3gとを乳鉢で練り、虫歯及び歯周病予防成分を調製した。
(4)前記(3)で得られた虫歯及び歯周病予防成分と、前記(2)で得られたガムベースとが均一になるように混合し、菓子用材料(ガム用材料)を得た。なお、得られた菓子用材料100質量%中の水酸化カルシウムの量は1.5質量%、プロピレングリコール1.5質量%であった。
(5)得られた菓子用材料を冷却した後、伸し成形して裁断し、板ガム状とした。
【0036】
<評価方法>
前記評価用ガムについて、以下の手順にしたがって「ミュータンス菌の減菌効果」を検査した。
まず、疑似唾液(pH7.0の精製水:ヒトの唾液と同等)を用いて前記評価用のガム(板ガム20枚、40g程度)を実際に咀嚼したものと同様の状態とした。具体的には、前記評価用のガムに疑似唾液を加えつつ10分間程度調理器具を用いて破砕することを繰り返し、疑似咀嚼唾液として100mlの試液を得た。
次に、試液にストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)を添加し、時間の経過に対する生菌数変化を観察した。なお、試験は日本食品分析センターにて行った。結果を表1に示す。
【0037】
【0038】
検査開始から1分後には検査開始時と比較して37.5%減少し、5分後には93.2%減少した。更に15分後には検査開始時の0.0053%しか生菌が存在しなかった。つまり、本発明によれば、ミュータンス菌を著しく減少させることができるため、結果として虫歯及び歯周病予防効果が期待できる。
【0039】
<参考例1:鶏卵の卵殻に由来する水酸化カルシウムと、ホタテの貝殻に由来する水酸化カルシウムとのpH評価>
鶏卵の卵殻に由来する水酸化カルシウム、及びホタテの貝殻に由来する水酸化カルシウムを純水に溶解させ、それぞれの1質量%水溶液を調製した。各水溶液について、株式会社アタゴ製、デジタルpHメーター「DPH-2」を用いて、前記各水溶液のpHを1日1回測定し、pHの推移を観察した。結果を
図1に示す。
なお、鶏卵の卵殻に由来する水酸化カルシウム、及びホタテの貝殻に由来する水酸化カルシウムはいずれも、焼成した後、微粉砕し、水処理することにより得られたものであって、平均粒子径が3.5~10μmであった。
【0040】
図1の結果より明らかなように、鶏卵の卵殻に由来する水酸化カルシムの方がホタテの貝殻に由来する水酸化カルシウムよりもpHの低下が少なく、試料の調製から2週間を経過しても高いアルカリ性を維持していた。よって、鶏卵の卵殻に由来する水酸化カルシウムは、ホタテの貝殻に由来する水酸化カルシウムと同程度かそれ以上に、虫歯の発生を効果的に抑制することができると推測される。
【0041】
<参考例2及び比較参考例1:ジンジバリス菌に対する殺菌効果>
(1)Porphyromonas gingivalis JCM8525株を5%馬脱繊維血液加Brucella Agar(BBL)平板培地に接種し、35℃にて4~7日嫌気条件下にて培養した。
(2)生育した菌体を生理食塩水に懸濁し、108~109個/mLの菌液を調製した。すなわち1mLの溶液中に1億個~10億個の細菌が存在する菌液を調製した。
(3)擬似咀嚼唾液10mLに対して、前記方法で調製した菌液を0.1mL加えた。(この操作により菌液を100倍に希釈した。)
【0042】
(4)前記混合液を、SCDLP培地を用いてさらに10倍に希釈した。
(5)試験液(ホタテの貝殻及び鶏卵の卵殻に由来する水酸化カルシウムからなる試験液〔pHが12.5〕)と前記菌液とを混ぜた混合液(参考例2)を室温にて1分、5分及び15分間静置した。比較参考例1として、同様の操作を行ったジンジバリス菌を含まない生理食塩水を用意した。
【0043】
(6)参考例2の検体は、経過時間1分後、5分後及び15分後にそれぞれサンプルを採取し生菌数を測定した。比較参考例1は試験開始時及び15分後にそれぞれサンプルを採取し生菌数を測定した。それぞれ結果を表2及び
図2に示す。なお、試験は日本食品分析センターにて行った。
【0044】
【0045】
参考例2と比較参考例1とは共に試験開始直後では1.5×106個(約150万個が1mL溶液中に存在)の細菌が生育していたが、参考例2は1分後の生菌数が100未満(検出限界未満)であり、5分後及び15分後の生菌数も100未満(検出限界未満)であった。
つまり本発明によれば速やかに目的のジンジバリス菌を殺菌し、その効果が15分後も維持されると推測される。
一方、比較参考例1(生理食塩水)は、1.5×106個の菌数が15分後に2.3×105個にやや減少はしていたが、これはジンジバリス菌が偏性嫌気性菌であるため、操作中の酸素への暴露などが原因で減少したものと思われる。