(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165392
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20231108BHJP
C08K 5/5397 20060101ALI20231108BHJP
C08K 5/50 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/5397
C08K5/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013775
(22)【出願日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2022076311
(32)【優先日】2022-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】濱口 龍樹
(72)【発明者】
【氏名】入江 康行
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CG011
4J002EW017
4J002EW146
4J002FD066
4J002FD067
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂等を含むポリカーボネート樹脂を用いた樹脂組成物であって、成形品が黄変しにくく、かつ、成形機内で滞留させた場合と滞留させない場合とで、得られる成形品の黄変の度合いの差が小さい樹脂組成物、ならびに、成形品の提供。
【解決手段】 (A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)アリールホスフィンオキシドを0.001~3質量部を含み、(A)ポリカーボネート樹脂が、式(1)で表される構成単位を含む樹脂組成物。R
1はメチル基を表す。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)アリールホスフィンオキシドを0.001~3質量部を含み、
前記(A)ポリカーボネート樹脂が、式(1)で表される構成単位を含む樹脂組成物。
式(1)
【化1】
(式(1)中、R
1はメチル基を表し、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
2は下記のいずれかの式を表し、
【化2】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
【請求項2】
前記(A)ポリカーボネート樹脂が、全構成単位中、前記式(1)で表される構成単位を5~95モル%の割合で含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)ポリカーボネート樹脂が、全構成単位中、前記式(1)で表される構成単位を10~95モル%の割合で含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)ポリカーボネート樹脂が、さらに、式(2)で表される構成単位を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
式(2)
【化3】
(式(2)中、X
1は下記のいずれかの式を表し、
【化4】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
【請求項5】
前記式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂が、リサイクル品を含む、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
ポリカーボネート樹脂のうち、リサイクル品の割合は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、1~75質量部である、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、さらに(C)アリールホスフィンを0.001~0.03質量部含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記(C)アリールホスフィンが、トリフェニルホスフィンを含む、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記アリールホスフィンオキシド(B)が、トリフェニルホスフィンオキシドを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
式(1)中、R
2は水素原子であり、X
2は、
【化5】
であり、R
3およびR
4がメチル基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記(A)ポリカーボネート樹脂が、さらに、式(2)で表される構成単位を含み、
前記式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂が、リサイクル品を含み、
前記(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、さらに(C)アリールホスフィンを0.001~0.03質量部含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
式(2)
【化6】
(式(2)中、X
1は下記のいずれかの式を表し、
【化7】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
【請求項12】
ポリカーボネート樹脂のうち、リサイクル品の割合は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、1~50質量部である、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物のペレット。
【請求項14】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項15】
請求項13に記載のペレットから形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および成形品に関する。特に、ポリカーボネート樹脂を主要成分とする樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、機械的強度、電気的特性、透明性などに優れ、エンジニアリングプラスチックとして、電気電子機器分野、自動車分野等の様々な分野において幅広く利用されている。
例えば、特許文献1には、ポリカーボネート、少なくとも1種の離型剤および少なくとも1種の帯電防止剤を含む静電気耐性のポリカーボネート組成物が提供されることが記載されている。また、開示した組成物は場合によって熱安定剤を含むこと、このポリカーボネート組成物からは静電気耐性のコンパクトディスクが成型されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、ポリカーボネート樹脂は種々の用途に用いられている。ここで、ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールAを主原料とするポリカーボネート樹脂(ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂)が汎用されている一方、ビスフェノールCを主原料とするポリカーボネート樹脂(ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂)も知られている。
ここで、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂よりも、黄変しやすい。特に、本発明者が検討を行ったところ、成形時に射出成形機で滞留した場合に黄変しやすいことが分かった。従って、滞留させた場合と滞留させない場合での黄変の度合いの差が小さいことが求められる。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂等の後述する式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂を用いた樹脂組成物であって、成形品が黄変しにくく、かつ、成形機内で滞留させた場合と滞留させない場合とで、得られる成形品の黄変の度合いの差が小さい樹脂組成物、ならびに、成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂に、アリールホスフィンオキシドを配合することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)アリールホスフィンオキシドを0.001~3質量部を含み、前記(A)ポリカーボネート樹脂が、式(1)で表される構成単位を含む樹脂組成物。
式(1)
【化1】
(式(1)中、R
1はメチル基を表し、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
2は下記のいずれかの式を表し、
【化2】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
<2>前記(A)ポリカーボネート樹脂が、全構成単位中、前記式(1)で表される構成単位を5~95モル%の割合で含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記(A)ポリカーボネート樹脂が、全構成単位中、前記式(1)で表される構成単位を10~95モル%の割合で含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<4>前記(A)ポリカーボネート樹脂が、さらに、式(2)で表される構成単位を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
式(2)
【化3】
(式(2)中、X
1は下記のいずれかの式を表し、
【化4】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
<5>前記式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂が、リサイクル品を含む、<4>に記載の樹脂組成物。
<6>ポリカーボネート樹脂のうち、リサイクル品の割合は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、1~75質量部である、<5>に記載の樹脂組成物。
<7>前記(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、さらに(C)アリールホスフィンを0.001~0.03質量部含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8>前記(C)アリールホスフィンが、トリフェニルホスフィンを含む、<7>に記載の樹脂組成物。
<9>前記アリールホスフィンオキシド(B)が、トリフェニルホスフィンオキシドを含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<10>式(1)中、R
2は水素原子であり、X
2は、
【化5】
であり、R
3およびR
4がメチル基である、<1>~<9>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<11>前記(A)ポリカーボネート樹脂が、さらに、式(2)で表される構成単位を含み、前記式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂が、リサイクル品を含み、前記(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、さらに(C)アリールホスフィンを0.001~0.03質量部含む、<1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
式(2)
【化6】
(式(2)中、X
1は下記のいずれかの式を表し、
【化7】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
<12>ポリカーボネート樹脂のうち、リサイクル品の割合は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、1~50質量部である、<11>に記載の樹脂組成物。
<13><1>~<12>のいずれか1つに記載の樹脂組成物のペレット。
<14><1>~<12>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
<15><13>に記載のペレットから形成された成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂を用いた樹脂組成物であって、成形品が黄変しにくく、かつ、成形機内で滞留させた場合と滞留させない場合とで、得られる成形品の黄変の度合いの差が小さい樹脂組成物、ならびに、成形品を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0008】
本実施形態の樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)アリールホスフィンオキシドを0.001~3質量部を含み、前記(A)ポリカーボネート樹脂が、式(1)で表される構成単位を含むことを特徴とする。
式(1)
【化8】
(式(1)中、R
1はメチル基を表し、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
2は下記のいずれかの式を表し、
【化9】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
【0009】
このような構成とすることにより、成形品が黄変しにくく、かつ、成形機内で滞留させて成形した成形品(以下、「滞留成形品」ということがある)と滞留せずに成形した成形品(以下、「初期成形品」ということがある)とで、成形品の黄変の度合いの差が小さい樹脂組成物を提供可能になる。
式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂は、式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂よりも、変色しやすい傾向にある。この理由の1つとして、式(1)で表される構成単位は、ビスフェノール構造に由来するベンゼン環部分にメチル基が置換しており、このメチル基がラジカル化しやすいことにあると推測された。本実施形態においては、(B)アリールホスフィンオキシドを用いることにより、アリールホスフィンオキシドのP=O部分がラジカルをトラップして、黄変、特に、成形機内で滞留させた場合の成形品の黄変を効果的に抑制できたと推測される。
以下、本発明の詳細について説明する。
【0010】
<(A)ポリカーボネート樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、式(1)で表される構成単位を含み、式(2)で表される構成単位を含んでいてもよい。
式(1)
【化10】
(式(1)中、R
1はメチル基を表し、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
2は下記のいずれかの式を表し、
【化11】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
式(2)
【化12】
(式(2)中、X
1は下記のいずれかの式を表し、
【化13】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
【0011】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂は、リサイクル品であってもよい。特に、本実施形態においては、式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂の一部または全部が、リサイクル品を含むことが好ましい。
式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂は、本来的に黄変しやすい傾向がある。しかしながら、本実施形態では、このような式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と式(1)で表される構成単位以外から構成されるリサイクル品のポリカーボネート樹脂をブレンドしても、黄変を効果的に抑制できる。
すなわち、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂は、式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と比較して、耐熱性が劣り、変色しやすい。一方、リサイクルポリカーボネート樹脂は、式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のリサイクル品であっても、変色しやすく、YI値が高くなりやすいものの、リサイクルポリカーボネート樹脂として式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂を配合することにより、相対的に式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂の配合量を減らすことができ、YI値の上昇を抑制することができる傾向がある。
【0012】
リサイクル品とは、ポリカーボネート樹脂から形成された成形品に由来するポリカーボネート樹脂であり、バージンポリカーボネート樹脂に何かしらの成形加工を施されたものを意味し、ポリカーボネート樹脂成形品、ポリカーボネート樹脂成形品の不合格品、ポリカーボネート樹脂成形品製造の際の端材などを含む趣旨である。成形加工品としては、射出成形品、押出成形品、その他の製法によって成形された成形品を含む趣旨である。
リサイクルポリカーボネート樹脂としては、回収された使用済ポリカーボネート樹脂成形品を粉砕、アルカリ洗浄して繊維等に再利用するマテリアルリサイクルにより得られたもの、ケミカルリサイクル(化学分解法)より得られたものおよびメカニカルリサイクルにより得られたもの等が挙げられる。
ケミカルリサイクルは、回収された使用済ポリカーボネート樹脂成形品を化学分解して、原料レベルに戻してポリカーボネート樹脂を再合成するものである。一方、メカニカルリサイクルは、上述したマテリアルリサイクルにおけるアルカリ洗浄をより厳密に行うこと、あるいは高温で真空乾燥すること等によって、マテリアルリサイクルよりもポリカーボネート樹脂成形品の汚れを確実に取り除くことを可能にした手法である。
例えば、使用済ポリカーボネート樹脂成形品からは、異物が取り除かれた後に、粉砕・洗浄され、次に押出機によりペレット化することにより、リサイクルポリカーボネート樹脂が得られる。
使用済みポリカーボネート樹脂成形品の例には、ディスク、シート(フィルムを含む)、メーターカバー、ヘッドランプレンズ、水ボトルが含まれる。
バージン品とは、リサイクル品以外のものをいう。
【0013】
本実施形態の樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂のうち、リサイクル品(好ましくは式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のリサイクル品)の割合は、配合する場合、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることがさらに好ましく、5質量部以上であることが一層好ましく、7質量部以上であることがより一層好ましく、さらには、20質量部以上、25質量部以上であってもよい。また、前記リサイクル品(好ましくは式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のリサイクル品)の割合は、配合する場合、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、75質量部以下であることが好ましく、70質量部以下であることがより好ましく、60質量部以下であることがさらに好ましく、さらには、55質量部以下、50質量部以下、25質量部以下、20質量部以下、15質量部以下、12質量部以下であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物は、リサイクル品のポリカーボネート樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0014】
<<式(1)で表される構成単位>>
本実施形態で用いる(A)ポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される構成単位を含む。
式(1)
【化14】
(式(1)中、R
1はメチル基を表し、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
2は下記のいずれかの式を表し、
【化15】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
式(1)中の2つのR
2は、それぞれ同一でも、異なっていてもよく、好ましくは同一である。R
2は水素原子であることが好ましい。
【0015】
式(1)中、X
2は、
【化16】
である場合、R
3およびR
4は、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
またX
2が、
【化17】
の場合、Zは、上記式(1)中の2個のフェニル基と結合する炭素Cと結合して、炭素数6~12の2価の脂環式炭化水素基を形成するが、2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基、シクロドデシリデン基等のシクロアルキリデン基が挙げられる。置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シキロヘキシリデン基のメチル置換体(好ましくは3,3,5-トリメチル置換体)、シクロドデシリデン基が好ましい。
式(1)中、X
2は下記構造が好ましい。
【化18】
【0016】
本実施形態においては、特に、式(1)中、R
2は水素原子であり、X
2は、
【化19】
であり、R
3およびR
4がメチル基である構成単位を含むポリカーボネート樹脂を用いることが好ましい。
【0017】
本実施形態では、(A)ポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される構成単位を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0018】
<<式(2)で表される構成単位>>
本実施形態で用いる(A)ポリカーボネート樹脂は、式(2)で表される構成単位を含むことが好ましい。
式(2)
【化20】
(式(2)中、X
1は下記のいずれかの式を表し、
【化21】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
【0019】
ZがCと結合して形成される脂環式炭化水素としては、シクロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基、シクロドデシリデン基等のシクロアルキリデン基が挙げられる。ZがCと結合して形成される置換基を有する脂環式炭化水素としては、上述した脂環式炭化水素基のメチル置換体、エチル置換体などが挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シクロヘキシリデン基のメチル置換体(好ましくは3,3,5-トリメチル置換体)、シクロドデシリデン基が好ましい。
【0020】
式(2)中、X
1は、
【化22】
である場合、R
3およびR
4は、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
またX
1が、
【化23】
の場合、Zは、上記式(2)中の2個のフェニル基と結合する炭素Cと結合して、炭素数6~12の2価の脂環式炭化水素基を形成するが、2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基、シクロドデシリデン基等のシクロアルキリデン基が挙げられる。置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シキロヘキシリデン基のメチル置換体(好ましくは3,3,5-トリメチル置換体)、シクロドデシリデン基が好ましい。
式(2)中、X
1は下記構造が好ましい。
【化24】
【0021】
上記式(2)で表される構成単位の好ましい具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわち、ビスフェノールAから構成される構成単位(カーボネート構成単位)である。
【0022】
本実施形態において、(A)ポリカーボネート樹脂は、式(2)で表される構成単位を含まなくてもよいし、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0023】
<<他の構成単位>>
本実施形態において、(A)ポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される構成単位および式(2)で表される構成単位以外の他の構成単位を含んでいてもよい。他の構成単位としては、以下に示すジヒドロキシ化合物由来の構成単位が例示される。
【0024】
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルエチル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルプロピル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルエチル)フェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルプロピル)フェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルエチル)フェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルプロピル)フェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、4,4'-(1,3-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4'-(1,4-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4'-ジヒドロキシフェニルエーテル、4,4'-ジヒドロキシビフェニル、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-6-メチル-3-tert-ブチルフェニル)ブタン。
【0025】
また、他の構成単位の一実施形態として、国際公開第2017/099226号の段落0008に記載の構成単位、国際公開第2017/099226号の段落0043~0052の記載、特開2011-046769号公報の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0026】
<<(A)ポリカーボネート樹脂の構成単位の比率、物性等>>
本実施形態で用いる(A)ポリカーボネート樹脂における式(1)で表される構成単位の割合は、全構成単位中、好ましくは5モル%以上であり、より好ましくは10モル%以上であり、さらに好ましくは15モル%以上であり、一層好ましくは20モル%以上であり、より一層好ましくは25モル%以上であり、さらに一層好ましくは30モル%以上である。前記全構成単位における式(1)で表される構成単位の割合の上限値は、95モル%以下であることが好ましく、85モル%以下であることがさらに好ましく、75モル%以下であることが一層好ましく、65モル%以下であることがより一層好ましく、55モル%以下であることがさらに一層好ましく、45モル%以下であることが特に一層好ましい。
また、前記全構成単位における式(2)で表される構成単位の割合は、好ましくは5モル%以上であり、より好ましくは15モル%以上であり、さらに好ましくは25モル%以上であり、一層好ましくは35モル%以上であり、より一層好ましくは45モル%以上であり、さらに一層好ましくは55モル%以上である。また、前記全構成単位における式(2)で表される構成単位の割合の上限値は、95モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましく、85モル%以下であることがさらに好ましく、80モル%以下であることが一層好ましく、75モル%以下であることがより一層好ましく、70モル%以下であることがさらに一層好ましい。
【0027】
本実施形態で用いる(A)ポリカーボネート樹脂における、上記式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位の合計は、全構成単位の90モル%以上を占めることが好ましく、95モル%以上を占めることがより好ましく、97モル%以上を占めることがさらに好ましい。前記合計の上限としては、末端基を除く全構成単位が、式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位となる割合である。
【0028】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂(A)は、以下の形態が好ましい。本実施形態では、(A1)または(A2)が好ましく、(A1)がより好ましい。
(A1)式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のブレンド物(特に、全構成単位の90質量%以上が式(1)で表される構成単位であるポリカーボネート樹脂と全構成単位の90質量%以上が式(2)で表される構成単位であるポリカーボネート樹脂のブレンド物)
(A2)式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂
(A3)式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のブレンド物
(A4)式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のブレンド物
(A5)式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のブレンド物
(A6)上記(A1)~(A5)において、ポリカーボネート樹脂またはそのブレンド物を構成するポリカーボネート樹脂が式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位以外の他の構成単位を含むポリカーボネート樹脂
(A7)上記(A1)~(A6)のポリカーボネート樹脂またはブレンド物と、他の構成単位とからなるポリカーボネート樹脂とのブレンド物
【0029】
本実施形態で用いる(A)ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、下限値が5,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、12,000以上であることが一層好ましい。また、Mvの上限値は、32,000以下であることが好ましく、30,000以下であることがより好ましく、29,000以下であることがさらに好ましく、27,000以下であることが一層好ましい。
2種以上のポリカーボネート樹脂を含む場合は、各ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量に質量分率をかけた値の合計とする。
粘度平均分子量を上記下限値以上とすることにより、成形性が向上し、かつ、機械的強度の高い成形品が得られる。また、上記上限値以下とすることにより、成形品の流動性が向上し、薄肉の成形品なども効率的に製造することができる。
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度(η)(単位:dL/g)を求め、以下のSchnellの粘度式から算出する。
η=1.23×10-4Mv0.83
【0030】
本実施形態で用いる(A)ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されないが、例えば、特開2014-065901号公報の段落0027~0043および実施例の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0031】
本実施形態の樹脂組成物における(A)ポリカーボネート樹脂の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、94質量%以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、樹脂組成物から形成された成形品の衝撃強度および耐熱性がより向上する傾向にある。また、(A)ポリカーボネート樹脂の含有量の上限値は、(B)アリールホスフィンオキシド以外の成分がすべて、(A)ポリカーボネート樹脂となる量であることができる。
【0032】
<(B)アリールホスフィンオキシド>
本実施形態の樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)アリールホスフィンオキシドを0.001~3質量部を含む。(B)アリールホスフィンオキシドを含むことにより、得られる成形品のYIを低くすることができ、さらに、成形の際に滞留させた場合でも、滞留させていない場合とのYI値の差を小さくできる。
本実施形態で用いるアリールホスフィンオキシド(B)は、式(B1)で表されることが好ましく、トリフェニルホスフィンオキシド、トリクレジルホスフィンオキシドおよびトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフィンオキシドの少なくとも1種を含むことがより好ましく、トリフェニルホスフィンオキシドを含むことがさらに好ましい。
【化25】
(式(B1)中、R
p1、R
p2、R
p3は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基を示す。)
R
p1、R
p2、R
p3は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニル基、および、置換基を有していてもよいナフチル基が好ましく、置換基を有していてもよいフェニル基がより好ましい。置換基は炭素数1~5のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基がより好ましい。
【0033】
本実施形態で用いる(B)アリールホスフィンオキシドの分子量は、278~1000であることが好ましく、278~700であることがより好ましい。
(B)アリールホスフィンオキシドは、ポリカーボネート樹脂に直接添加してもよいし、リサイクルポリカーボネート樹脂などに含まれている成分であってもよい。
【0034】
本実施形態の樹脂組成物における(B)アリールホスフィンオキシドの含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.001質量部以上であり、用途等に応じ、0.03質量部以上であることが好ましく、0.06質量部以上であることがより好ましく、0.10質量部以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、滞留成形品のYIを効果的に低くすることができ、さらに、滞留成形品のYIと初期成形品のYIの差(以下、「ΔYI」ということがある)を小さくすることができる。また、前記(B)アリールホスフィンオキシドの含有量の上限値は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、3質量部以下であり、1.3質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以下であることが好ましく、0.25質量部以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、初期成形品のYIを低くすることができる傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、(B)アリールホスフィンオキシドを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0035】
<(C)アリールホスフィン>
本実施形態の樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、さらに(C)アリールホスフィンを0.001~0.03質量部含むことが好ましい。(C)アリールホスフィンを含むことにより、得られる成形品のYIを低くすることができ、さらに、成形の際に滞留させた場合でも、滞留させていない場合とのYI値の差を小さくできる。
本実施形態で用いる(C)アリールホスフィンは、式(C1)で表されることが好ましく、トリフェニルホスフィン、トリクレジルホスフィン、および、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフィンの少なくとも1種を含むことがより好ましく、トリフェニルホスフィンを含むことがさらに好ましい。
【化26】
(式(C1)中、R
p1、R
p2、R
p3は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基を示す。)
R
p1、R
p2、R
p3は、それぞれ独立に、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニル基、および、置換基を有していてもよいナフチル基が好ましく、置換基を有していてもよいフェニル基がより好ましい。置換基は、水酸基または炭素数1~5のアルキル基が好ましく、水酸基、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基がより好ましい。
【0036】
本実施形態で用いる(C)アリールホスフィンの分子量は、262~1000であることが好ましく、278~700であることがより好ましい。
(C)アリールホスフィンは、ポリカーボネート樹脂に直接添加してもよいし、リサイクルポリカーボネート樹脂などに含まれている成分であってもよい。
【0037】
本実施形態の樹脂組成物における(C)アリールホスフィンの含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.001質量部以上であることが好ましく、用途等に応じ、0.003質量部以上であることがより好ましく、0.006質量部以上であることがより好ましく、0.009質量部以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、滞留成形品のYIと初期成形品のYIの差を小さくすることができる。また、前記(C)アリールホスフィンの含有量の上限値は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.03質量部以下であることが好ましく、0.03質量部未満であることがより好ましく、0.02質量部以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、初期成形品のYIをより低くすることができる傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、(C)アリールホスフィンを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0038】
本実施形態の樹脂組成物における(B)アリールホスフィンオキシドと(C)アリールホスフィンの質量比率である(C)/(B)は、0.01以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましく、また、0.1以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましい。
また、本実施形態の樹脂組成物においては、(B)アリールホスフィンオキシドの含有量>(C)アリールホスフィンの含有量となることが好ましい。なお、本実施形態の樹脂組成物において、(C)アリールホスフィンは含まない(0質量部)であってもよい。
【0039】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記以外の他成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、上記した(A)ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂(例えば、アクリル樹脂等)、各種樹脂添加剤などが挙げられる。
樹脂添加剤としては、例えば、離型剤、安定剤(熱安定剤、酸化防止剤等)、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、染料、顔料、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
帯電防止剤としては、特開2016-216534号公報の段落0063~0067の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
難燃剤としては、特開2016-216534号公報の段落0068~0075の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0040】
<<離型剤>>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を含んでいてもよい。
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸の塩、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル、ケトンワックス、ライトアマイドなどが挙げられ、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸の塩、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルが好ましい。
離型剤としては、具体的には、ステアリルステアレート、ベヘニルベヘネート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、パラフィンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、ライスブランワックス、その他動植物由来ワックス、および、酸変性ポリエチレンが例示され、特に、ステアリルステアレート、ベヘニルベヘネート、ペンタエリスリトールテトラステアレートが好ましい。
離型剤の詳細は、特開2018-095706号公報の段落0055~0061の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
本実施形態の樹脂組成物が離型剤を含む場合、その含有量は、樹脂組成物中、0.05~3質量%であることが好ましく、0.1~0.8質量%であることがより好ましく、0.1~0.6質量%であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0041】
<<安定剤>>
安定剤としては、熱安定剤や酸化防止剤が挙げられる。
安定剤としては、フェノール系安定剤、アミン系安定剤、リン系安定剤、チオエーテル系安定剤などが挙げられる。中でも本実施形態においては、リン系安定剤およびフェノール系安定剤が好ましい。
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜リン酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
【0042】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ADEKA社製「アデカスタブ(登録商標。以下同じ)1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP-10」、城北化学工業社製「JP-351」、「JP-360」、「JP-3CP」、BASF社製「イルガフォス(登録商標。以下同じ)168」等が挙げられる。
【0043】
フェノール系安定剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤が好ましく用いられる。ヒンダードフェノール系安定剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフェート、3,3',3'',5,5',5''-ヘキサ-tert-ブチル-a,a',a''-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0044】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなヒンダードフェノール系安定剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「Irganox(登録商標。以下同じ)1010」、「Irganox1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
【0045】
本実施形態の樹脂組成物における安定剤の含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下である。安定剤の含有量を前記範囲とすることにより、安定剤の添加効果がより効果的に発揮される。
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0046】
本実施形態の樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂、および、(B)アリールホスフィンオキシド、ならびに、必要に応じて配合されるその他の成分の合計が100質量%となるように調整される。
【0047】
<樹脂組成物の物性>
本実施形態の樹脂組成物は、成形品としたときのYI(初期YI)が低いことが好ましい。具体的には、本実施形態の樹脂組成物を3mm厚の試験片に成形したときのYIが、2.50以下であることが好ましく、2.30以下であることがより好ましく、2.05以下であることがさらに好ましい。前記初期YIの下限は、0が理想であるが、0.1以上であっても十分に要求性能を満たすものである。このような低い初期YIは、(B)アリールホスフィンオキシドを用いることによって達成される。
【0048】
本実施形態の樹脂組成物は、滞留成形品としたときのYI(滞留YI)が低いことが好ましい。具体的には、本実施形態の樹脂組成物を成形機内で10分滞留させた後3mm厚の試験片に成形したときのYI(滞留YI)が、2.55以下であることが好ましく、2.50以下であることがより好ましく、2.30以下であることがさらに好ましく、2.10以下であることが一層好ましい。前記滞留YIの下限は、0が理想であるが、0.1以上であっても十分に要求性能を満たすものである。このような低い滞留YIは、(B)アリールホスフィンオキシドを用いることによって、さらには、(B)アリールホスフィンオキシドと(C)アリールホスフィンを併用することによって達成される。特に、(B)アリールホスフィンオキシドと(C)アリールホスフィンの比率を調整することによって、達成される。
【0049】
本実施形態の樹脂組成物は、前記滞留YIと初期YIの差(ΔYI)が0.24以下であることが好ましく、0.20以下であることがより好ましく、0.18以下であることがさらに好ましく、0.16以下であることが一層好ましく、0.12以下であることがより一層好ましい。前記ΔYIの下限は、0が理想であるが、0超が実際的である。このような低いΔYIは、(B)アリールホスフィンオキシドを用いることによって、さらには、(B)アリールホスフィンオキシドと(C)アリールホスフィンを併用することによって達成される。
前記YIは、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0050】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知の樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、(A)ポリカーボネート樹脂、および、(B)アリールホスフィンオキシド、ならびに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240~320℃の範囲である。
【0051】
<成形品>
上記した樹脂組成物(例えば、ペレット)は、各種の成形法で成形して成形品とされる。すなわち、本実施形態の成形品は、本実施形態の樹脂組成物から形成される。成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルム状、ロッド状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状、ボタン状のもの等が挙げられる。
【0052】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。特に、本実施形態の樹脂組成物は、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法で得られる成形品に適している。しかしながら、本実施形態の樹脂組成物がこれらで得られた成形品に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0053】
本実施形態の成形品は、電気電子機器、OA機器、携帯情報端末、機械部品、家電製品、車輌部品、各種容器、照明機器、ディスプレイ等の部品等に好適に用いられる。
【実施例0054】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0055】
1.原料
表1に示す以下の原料を用いた。
【0056】
【0057】
<製造例1:ポリカーボネート樹脂(A-2)の製造>
ビスフェノールC(BPC)26.14モル(6.75kg)と、ジフェニルカーボネート26.79モル(5.74kg)を、撹拌機および留出凝縮装置付きのアルミ(SS)製反応器(内容積10リットル)内に入れ、反応器内を窒素ガスで置換後、窒素ガス雰囲気下で220℃まで30分間かけて昇温した。
次いで、反応器内の反応液を撹拌し、溶融状態下の反応液にエステル交換反応触媒として炭酸セシウム(Cs2CO3)を、BPC1モルに対し1.5×10-6モルとなるように加え、窒素ガス雰囲気下、220℃で30分間、反応液を撹拌醸成した。次に、同温度下で反応器内の圧力を40分かけて100Torrに減圧し、さらに、100分間反応させ、フェノールを留出させた。
次に、反応器内の温度を60分かけて284℃まで上げるとともに3Torrまで減圧し、留出理論量のほぼ全量に相当するフェノールを留出させた。次に、同温度下で反応器内の圧力を1Torr未満に保ち、さらに60分間反応を続け、重縮合反応を終了させた。このとき、撹拌機の撹拌回転数は38回転/分であり、反応終了直前の反応液温度は289℃、撹拌動力は0.60kWであった。
次に、溶融状態のままの反応液を二軸押出機に送入し、炭酸セシウムに対して4倍モル量のp-トルエンスルホン酸ブチルを二軸押出機の第1供給口から供給し、反応液と混練し、その後、反応液を二軸押出機のダイを通してストランド状に押し出し、カッターで切断してポリカーボネート樹脂(A-2)のペレットを得た。
【0058】
2.実施例1~11、比較例1~4
上記表1に記載した各成分を、以下の表2~表4に記載した割合(各成分は質量部である)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、二軸押出機(芝浦機械株式会社製「TEM-26SX」)を用いて、シリンダー温度250℃、吐出25kg/hで溶融混練し、ストランドカットにより樹脂組成物(ペレット)を得た。
【0059】
<YI(Yellow Index)>
上記で得られたペレットを100℃で5時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した後、射出成形機(株式会社日本製鋼所社製「J55AD-60H」)を用いて、シリンダー温度270℃、金型温度70℃にて、面積が90×60mm、厚みが1mmと2mmと3mmである段付き平板状試験片を得た。
また、10分間シリンダー内で滞留後に成形を行い同形状の試験片を得た。
【0060】
上記の方法で得られた試験片の3mm厚部において、色差計(日本電色工業社製 「SE6000」)によりJIS K7105に基づきイエローインデックス(YI)を測定した。
滞留後YIと初期YIの差であるΔYIを計算した。結果を表2~表4に示す。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
上記表3において、実施例9および10は、樹脂組成物の総量100質量部に対し、アリールホスフィンオキシドの合計量が0.2質量部となるように調整したものである。
上記結果から明らかなとおり、本実施形態の樹脂組成物から形成された成形品は、初期YIが低く、また、ΔYIも小さかった(実施例1~11)。これに対し、アリールホスフィンオキシドを含まない場合(比較例1~4)、ΔYIが高かった。
特に、実施例7~9は、リサイクルポリカーボネート樹脂を含むにもかかわらず、初期YIが低く、また、ΔYIも小さかった。