(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165438
(43)【公開日】2023-11-16
(54)【発明の名称】溶接ガン、それを用いた製造方法、ならびにスタッドおよび耐熱板付き金属材
(51)【国際特許分類】
B23K 9/20 20060101AFI20231109BHJP
【FI】
B23K9/20 D
B23K9/20 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076420
(22)【出願日】2022-05-06
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000228981
【氏名又は名称】日本スタッドウェルディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】今井 宏典
(72)【発明者】
【氏名】尾籠 秀樹
(57)【要約】
【課題】耐熱板をほぼ損傷することなく、これに貫通させたスタッドを金属材の表面に溶接することができる溶接ガンの提供。
【解決手段】表面に情報が付され、厚さ方向に貫通する貫通孔を有し、磁石に引き寄せられる性質を備える耐熱板を、その貫通孔に貫通させたスタッドを金属材の表面に溶接することによって、前記金属材の表面に固定することができる溶接ガンであって、前記スタッドを差し込むチャックの先端の外周側、かつ、前記耐熱板を引き寄せることができる位置に磁石を有し、前記耐熱板を前記金属材の表面から引き離した状態を保持したまま溶接することができる、溶接ガン。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に情報が付され、厚さ方向に貫通する貫通孔を有し、磁石に引き寄せられる性質を備える耐熱板を、その貫通孔に貫通させたスタッドを金属材の表面に溶接することによって、前記金属材の表面に固定することができる溶接ガンであって、
前記スタッドを差し込むチャックの先端の外周側、かつ、前記耐熱板を引き寄せることができる位置に磁石を有し、前記耐熱板を前記金属材の表面から引き離した状態を保持したまま溶接することができる、溶接ガン。
【請求項2】
表面に情報が付され、厚さ方向に貫通する貫通孔を有し、磁石に引き寄せられる性質を備える耐熱板、および、その貫通孔に貫通させることができるスタッドを用意し、請求項1に記載の溶接ガンにおける前記チャックに前記スタッドを差し込む準備工程と、
前記磁石によって前記耐熱板を引き寄せて前記耐熱板を前記金属材の表面から引き離し、その状態で請求項1に記載の溶接ガンを用いて前記スタッドを前記金属材の表面に溶接する溶接工程と、
を有し、
前記スタッドが表面に溶接されたことによって前記耐熱板が表面に固定されている前記金属材が得られる、スタッドおよび耐熱板付き金属材の製造方法。
【請求項3】
前記スタッドが、前記耐熱板が有する前記貫通孔の径よりも外径が大きいフランジを有する、請求項2に記載のスタッドおよび耐熱板付き金属材の製造方法。
【請求項4】
前記溶接工程においてショートサイクル方式で溶接する、請求項2または3に記載のスタッドおよび耐熱板付き金属材の製造方法。
【請求項5】
表面に情報が付され、厚さ方向に貫通する貫通孔を有し、磁石に引き寄せられる性質を備える耐熱板と、
その貫通孔に貫通しているスタッドと、
前記耐熱板および前記スタッドを表面に有する金属材と、
を有し、
前記耐熱板が有する前記貫通孔に貫通した前記スタッドの先端が前記金属材の表面に溶接されて、前記耐熱板が外れないように固定されている、スタッドおよび耐熱板付き金属材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶接ガン、それを用いた製造方法、ならびにスタッドおよび耐熱板付き金属材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材(例えば、表面状態の悪い金属、表示時の温度が常温~高温となる金属、後工程による熱処理(-150~1700度)のある金属など)の表面にペンキ等によりロット番号を書きつける作業を行う場合があった。この場合、作業者の安全面や作業効率面での問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記問題を解決するため、タグやラベルとして機能する耐熱板を取り付ける場合がある。具体的には、耐熱板に形成された貫通孔にスタッドを貫通させ、そのスタッドを金属材の表面に溶接する方法が考えられる。
【0004】
ここでスタッドを金属材の表面に溶接するとき、スタッドと金属材の表面との接点がスタッドおよび/または金属材の表面の溶融によって高温になるため、その熱の影響を受けて耐熱板が損傷してしまう場合があることを、本発明者は見出した。
【0005】
本発明は、耐熱板をほぼ損傷することなく、これに貫通させたスタッドを金属材の表面に溶接することができる溶接ガン、これを用いた製造方法、およびこれによって得ることができるスタッドおよび耐熱板付き金属材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の(1)~(5)である。
(1)表面に情報が付され、厚さ方向に貫通する貫通孔を有し、磁石に引き寄せられる性質を備える耐熱板を、その貫通孔に貫通させたスタッドを金属材の表面に溶接することによって、前記金属材の表面に固定することができる溶接ガンであって、
前記スタッドを差し込むチャックの先端の外周側、かつ、前記耐熱板を引き寄せることができる位置に磁石を有し、前記耐熱板を前記金属材の表面から引き離した状態を保持したまま溶接することができる、溶接ガン。
(2)表面に情報が付され、厚さ方向に貫通する貫通孔を有し、磁石に引き寄せられる性質を備える耐熱板、および、その貫通孔に貫通させることができるスタッドを用意し、上記(1)に記載の溶接ガンにおける前記チャックに前記スタッドを差し込む準備工程と、
前記磁石によって前記耐熱板を引き寄せて前記耐熱板を前記金属材の表面から引き離し、その状態で上記(1)に記載の溶接ガンを用いて前記スタッドを前記金属材の表面に溶接する溶接工程と、
を有し、
前記スタッドが表面に溶接されたことによって前記耐熱板が表面に固定されている前記金属材が得られる、スタッドおよび耐熱板付き金属材の製造方法。
(3)前記スタッドが、前記耐熱板が有する前記貫通孔の径よりも外径が大きいフランジを有する、上記(2)に記載のスタッドおよび耐熱板付き金属材の製造方法。
(4)前記溶接工程においてショートサイクル方式で溶接する、上記(2)または(3)に記載のスタッドおよび耐熱板付き金属材の製造方法。
(5)表面に情報が付され、厚さ方向に貫通する貫通孔を有し、磁石に引き寄せられる性質を備える耐熱板と、
その貫通孔に貫通しているスタッドと、
前記耐熱板および前記スタッドを表面に有する金属材と、
を有し、
前記耐熱板が有する前記貫通孔に貫通した前記スタッドの先端が前記金属材の表面に溶接されて、前記耐熱板が外れないように固定されている、スタッドおよび耐熱板付き金属材。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐熱板をほぼ損傷することなく、これに貫通させたスタッドを金属材の表面に溶接することができる溶接ガン、これを用いた製造方法、およびこれによって得ることができるスタッドおよび耐熱板付き金属材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図2は本発明におけるスタッドの一態様を示すものであり、
図2(a)は概略斜視図であり、
図2(b)はその軸線ω
1を含む面における概略断面図を示している。
【
図3】
図3は本発明におけるスタッドの別の一態様を示すものであり、
図3(a)は概略斜視図であり、
図3(b)はその軸線ω
2を含む面における概略断面図を示している。
【
図4】
図4は本発明におけるスタッドのさらに別の一態様を示すものであり、
図4(a)は概略斜視図であり、
図4(b)はその軸線ω
3を含む面における概略断面図を示している。
【
図5】
図5は本発明におけるスタッドのさらに別の一態様を示すものであり、
図5(a)は概略斜視図であり、
図5(b)はその軸線ω
4を含む面における概略断面図を示している。
【
図6】
図6は本発明において用いる溶接ガンの一例を示す概略側面図である。
【
図7】
図7は
図6に示した溶接ガンに、耐熱板を貫通させたスタッドを取付け、金属材の表面に押し付けた状態を示す概略側面図である。
【
図8】
図8は
図6、
図7に示した溶接ガンにおける本体部の概略一部断面図であり、トリガーボタン(スイッチ)を押す前の休止状態を示している。
【
図9】
図9は
図6、
図7に示した溶接ガンにおける本体部の概略一部断面図であり、トリガーボタン(スイッチ)を押した後の状態を示している。
【
図10】
図10は本発明の金属材の例示する概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における金属材、耐熱板、スタッド、溶接ガンについて説明する。
その後、スタッドおよび耐熱板付き金属材について説明する。
【0010】
<金属材>
本発明において金属材は少なくとも一部が金属からなるものであれば特に限定されない。一部が金属であって、他が金属ではない場合、金属の部分にスタッドを溶接することになる。金属材はすべてが金属からなるもの(金属塊)であることが好ましい。
金属の種類は限定されない。金属材は鉄を主成分とする塊であることが好ましく、鋼板、鋼管、H型鋼、鋼矢板、棒鋼などの鋼材であることがより好ましく、高温(例えば1000~1200℃程度)の鋼材であってもよい。
金属材の大きさや形状等も特に限定されない。
【0011】
例えば、鉄鋼生産工程において生じる鍛造品や鋳造品、具体的にはスラブ、ブルーム、ビレット、線材、これらの集合体などの鋼材(中間素材を含む)は、通常、放射温度計で測定される表面温度が1000~1200℃程度であるが、本発明における金属材はこのような高温の鋼材であってよい。
このような高温の鋼材の表面に何らかの情報をペンキ等を用いて記すと作業者への負担が大きく、また、間違った情報を記してしまうリスクも生じる。また、高温の鋼材の表面は凹凸を有することが多く、その場合、その表面に前記情報をペンキ等を用いて記すことは難しい。
そこで、予め後述するような情報を付した耐熱板を付けることが好ましい。スタッド溶接であれば表面に凹凸を有していてもスタッドを短時間で強固に付けることができるので、その表面が高温であっても作業者の負担を軽減できる。
【0012】
<耐熱板>
金属材にはその金属材に関する情報を付す場合がある。そこで耐熱板にその情報を付し、耐熱板を金属材に付ける場合がある。金属材が鉄鋼生産工程において生じる高温の鋼材であっても、耐熱性を有する耐熱板は損傷し難い。
【0013】
その情報の内容は特に限定されず、例えば
図1に示す耐熱板1のように、製品番号、次工程に関する情報や納入先に関する情報等であってよい。
その情報は文字であってもよいが、バーコードやQRコード等の何らかのコードとして付される場合もある。本発明では、そのような情報を表面に付した耐熱板をスタッドを介して金属材の表面に固定する。
【0014】
耐熱板の表面に情報を付す方法は特に限定されず、例えば情報を耐熱板の表面に印字してもよく、刻印してもよい。
耐熱板に情報が印字されている場合、印字するためのインクは耐熱性を有することが好ましい。金属材が高温である場合、高温において劣化し難いインクを用いて耐熱板の表面に情報が付されていることが好ましい。例えば高温に耐えることができるインクリボンを用いて熱転写プリンタによって耐熱板の表面に情報を印字することができる。耐熱板として、例えばYSテック社製、HP-L90を用いることができる。熱転写プリンタとして、サトーホールディングス株式会社製、M48PRO等の従来公知のものを用いることができる。
【0015】
本発明において耐熱板は、厚さ方向に貫通する貫通孔を有する。
貫通孔は、後述するスタッドの軸部が貫通するものであればよく、それ以外の態様は特に限定されない。通常、スタッドの断面は円形であるため、貫通孔もスタッドの断面の円形における直径よりも大きい直径を備える円形の貫通孔とすることが好ましい。ただし、スタッドの軸部が貫通すればよく、三角形や四角形など円以外の形状の貫通孔であってもよい。
【0016】
耐熱板が有する貫通孔の数は特に限定されない。貫通孔の個数は1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい。
例えば
図1に示す態様の耐熱板1は、円形の1つの貫通孔3を有している。ここで貫通孔3が円形の場合、その直径をhとする。
耐熱板が1つの貫通孔を有する場合、その貫通孔に1つのスタッドを貫通させてスタッドを金属材の表面に溶接することで、耐熱板を金属材の表面に固定することができる。後述するようにスタッドが貫通孔の直径よりも外径が大きいフランジを有すると、より強固に耐熱板を金属材の表面に固定することができる。
耐熱板が2つの貫通孔を有する場合、各々の貫通孔に1つずつのスタッドを貫通させてスタッドを金属材の表面に溶接することで、より強固に耐熱板を金属材の表面に固定することができる。2つのスタッドの内の少なくとも1つが、後述するような貫通孔の直径よりも外径が大きいフランジを有すると、より強固に耐熱板を金属材の表面に固定することができる。
【0017】
本発明において耐熱板は、磁石に引き寄せられる性質を備える。つまり、本発明において耐熱板は磁石に付く性質を備える。
磁石に付くか否かは磁石の磁力にもよる。用いる磁石の磁力が高い場合は、耐熱板が備える磁石に付く性質は弱くてもよいことになる。
【0018】
このような性質を備え、かつ、高温において劣化し難い材料からなるものであれば、耐熱板の材質は特に限定されない。例えばステンレス等の金属からなるものであってよい。
【0019】
耐熱板の厚さは特に限定されない。耐熱板の厚さが厚すぎると貫通孔を形成し難くなる。また、耐熱板が厚すぎると耐熱板は重くなり、磁石に引き寄せられ難くなったり、磁石に引き寄せられた耐熱板が磁石の表面に留まり難くなったりしてしまう。
【0020】
耐熱板の大きさや形は特に限定されず、例えば
図1に示す耐熱板1のように矩形であってよい。例えば一辺が数十mmの矩形の耐熱板であってよい。
【0021】
<スタッド>
本発明においてスタッドは、前述の耐熱板が有する貫通孔にその軸部を貫通させることができるものであればよい。なお、後に図を用いて説明するように、本発明においてスタッドの軸部とは、耐熱板の貫通孔にスタッドに貫通させてスタッドを金属材の表面に溶接したときの、スタッドにおける耐熱板が移動可能な部分を意味する。
【0022】
本発明におけるスタッドについて図を用いて説明する。
図2は本発明におけるスタッドの一態様を示すものであり、
図2(a)は概略斜視図であり、
図2(b)はその軸線ω
1を含む面における概略断面図を示している。
図2に示す態様のスタッド10を耐熱板の貫通孔に貫通させた状態で後述する溶接ガンにセットし、
図2に示す先端部10
Xを金属材の表面に付けて溶接する。
【0023】
図2において例示するスタッド10は円柱状のものである。この場合、軸線ω
1に垂直方向における断面は円形となる。ここで耐熱板の貫通孔も円形である場合、スタッドの軸線ω
1に垂直方向の断面におけるスタッドの直径(H
1)は、耐熱板の円形の貫通孔の直径(h)よりも小さければよい。
ただし、スタッドは円柱状でなくてもよく、例えば三角柱状、角柱状等の多角柱状であってよい。スタッドはその軸部が耐熱板が有する貫通孔を貫通するものであればよい。
【0024】
なお、耐熱板の貫通孔にスタッドに貫通させてスタッドを金属材の表面に溶接したときに、スタッドにおける耐熱板が移動可能な部分が軸部であるため、
図2に例示するスタッド10の場合では、全体が軸部に相当する。
図2に例示するスタッド10において軸部の軸線方向(軸線ω
1に平行な方向)の長さをL
1とする。
【0025】
図3は本発明におけるスタッドの一態様を示すものであり、
図3(a)は概略斜視図であり、
図3(b)はその軸線ω
2を含む面における概略断面図を示している。
図3に示す態様のスタッド12を耐熱板の貫通孔に貫通させた状態で後述する溶接ガンにセットし、
図3に示す先端部121
Xを金属材の表面に付けて溶接する。
【0026】
図3において例示するスタッド12における軸部121は、
図2に示した態様と同様、円柱状のものである。この場合、軸線ω
2に垂直方向における軸部121の断面は円形となる。ここで耐熱板の貫通孔も円形である場合、スタッドの軸線ω
2に垂直方向の断面における軸部121の直径(H
2)は、耐熱板の円形の貫通孔の直径(h)よりも小さければよい。
ただし、スタッドにおける軸部は円柱状でなくてもよく、例えば三角柱状、角柱状等の多角柱状であってよい。スタッドはその軸部が耐熱板が有する貫通孔を貫通するものであればよい。
【0027】
なお、耐熱板の貫通孔にスタッドに貫通させてスタッドを金属材の表面に溶接したときに、スタッドにおける耐熱板が移動可能な部分が軸部であるため、
図3に例示するスタッド12の場合では、軸線ω
2に平行な方向においてL
2の長さの部分が軸部121となる。
【0028】
図3に示す態様のスタッド12は、
図2に示した態様のスタッド10と類似する態様であるが、先端部121
Xと反対側の先端を含む部分が軸部121の軸線ω
2に対して垂直方向へ曲げられた態様となっている。この曲げられた部分を曲部122とする。また、曲部122の軸線ω
2に対して垂直方向の長さをR
2とする。
この長さR
2を貫通孔の直径(h)よりも大きくすることで、より強固に耐熱板を金属材の表面に固定することができる。
【0029】
図4は本発明におけるスタッドの一態様を示すものであり、
図4(a)は概略斜視図であり、
図4(b)はその軸線ω
3を含む面における概略断面図を示している。
図4に示す態様のスタッド14を耐熱板の貫通孔に貫通させた状態で後述する溶接ガンにセットし、
図4に示す先端部141
Xを金属材の表面に付けて溶接する。
【0030】
図4において例示するスタッド14における軸部141は、
図2に示した態様と同様、円柱状のものである。この場合、軸線ω
3に垂直方向における軸部141の断面は円形となる。ここで耐熱板の貫通孔も円形である場合、スタッドの軸線ω
3に垂直方向の断面における軸部141の直径(H
3)は、耐熱板の円形の貫通孔の直径(h)よりも小さければよい。
ただし、スタッドにおける軸部は円柱状でなくてもよく、例えば三角柱状、角柱状等の多角柱状であってよい。スタッドはその軸部が耐熱板が有する貫通孔を貫通するものであればよい。
【0031】
なお、耐熱板の貫通孔にスタッドに貫通させてスタッドを金属材の表面に溶接したときに、スタッドにおける耐熱板が移動可能な部分が軸部であるため、
図4に例示するスタッド14の場合では、軸線ω
3に平行な方向においてL
3の長さの部分が軸部141となる。
【0032】
図4に示す態様のスタッド14は、
図2に示した態様のスタッド10と類似する態様であるが、先端部141
Xと反対側の先端部に円盤状のフランジ部142を有している。
軸部141とフランジ部142とは、軸部141の軸線ω
3がフランジ部142の中心を通過するように付いている。軸部141とフランジ部142とは一体に鋳込まれてなったものであってよく、各々を形成した後、溶接等によって付けられたものであってもよい。
フランジ部142の軸線ω
3に対して垂直方向の長さをR
3とする。
なお、
図4ではフランジ部142が円盤状のものを例示しているが、フランジ部142の形状は特に限定されない。例えば三角形や四角形等の多角形であってよい。
【0033】
図4に示すスタッド14が有するフランジ部142は円盤状であるため、その直径は上記のR
3に一致する。この長さR
3は耐熱板が有する貫通孔の径(h)よりも外径が大きい。つまり、軸部141は耐熱板の貫通孔を通過可能であるが、フランジ部142は通過できない。したがって、
図4に示す態様のスタッド14の軸部141を耐熱板の貫通孔に貫通させた状態で後述する溶接ガンにセットし、
図4に示す先端部141
Xを金属材の表面に付けて溶接すれば、耐熱板は軸部141から離れることなく、軸部141が耐熱板を貫通した状態が保たれるため、耐熱板は金属材の表面とフランジ部142との間に保持され、耐熱板は金属材の表面に固定される。
貫通孔が円形でない場合やフランジ部142が円盤状ではない場合も同様の考え方に基づき、貫通孔の大きさに対してフランジ部142を大きくすれば、耐熱板が軸部141から離れることなく、軸部141が耐熱板を貫通した状態が保持されるため、より強固に耐熱板は金属材の表面に固定される。
【0034】
なお、
図4に示すように、スタッド14を耐熱板の貫通孔に貫通させた状態で後述する溶接ガンにセットし、先端部141
Xを金属材の表面に付けて溶接することで、耐熱板が金属材の表面とフランジ部142との間に保持され、耐熱板は金属材の表面に固定されるのであれば、そのフランジ部の径は耐熱板が有する貫通孔の径よりも大きいものであるとする。
【0035】
図5は本発明におけるスタッドの一態様を示すものであり、
図5(a)は概略斜視図であり、
図5(b)はその軸線ω
4を含む面における概略断面図を示している。
図5に示す態様のスタッド16を耐熱板の貫通孔に貫通させた状態で後述する溶接ガンにセットし、
図5に示す先端部161
Xを金属材の表面に付けて溶接する。
【0036】
図5において例示するスタッド16における軸部161は、
図2に示した態様と同様、円柱状のものである。この場合、軸線ω
4に垂直方向における軸部161の断面は円形となる。ここで耐熱板の貫通孔も円形である場合、スタッドの軸線ω
4に垂直方向の断面における軸部161の直径(H
4)は、耐熱板の円形の貫通孔の直径(h)よりも小さければよい。
ただし、スタッドにおける軸部は円柱状でなくてもよく、例えば三角柱状、角柱状等の多角柱状であってよい。スタッドはその軸部が耐熱板が有する貫通孔を貫通するものであればよい。
【0037】
なお、耐熱板の貫通孔にスタッドに貫通させてスタッドを金属材の表面に溶接したときに、スタッドにおける耐熱板が移動可能な部分が軸部であるため、
図5に例示するスタッド16の場合では、軸線ω
4に平行な方向においてL
4の長さの部分が軸部161となる。
【0038】
図5に示す態様のスタッド16は、
図2に示した態様のスタッド10と類似する態様であるが、先端部161
Xと反対側に円盤状のフランジ部162を有し、軸部161から離れる側に保持部163を有している。
図5に示す態様の保持部163は軸部161と同様に円柱状であり、軸部161の軸線ω
4と保持部163の軸線ω
4とは一致している。
軸部161とフランジ部162とは、軸部161の軸線ω
4がフランジ部162の中心を通過するように付いている。同様に保持部163とフランジ部162とは、保持部163の軸線ω
4がフランジ部162の中心を通過するように付いている。軸部161、フランジ部162および保持部163は一体に鋳込まれてなったものであってもよく、各々を形成した後、溶接等によって付けられたものであってもよい。
フランジ部162の軸線ω
4に対して垂直方向の長さをR
4とする。
また、軸部161の軸線方向(軸線ω
4に平行な方向)の長さをL
4とする。
なお、
図5ではフランジ部162が円盤状のものを例示しているが、フランジ部162の形状は特に限定されない。例えば三角形や四角形等の多角形であってよい。
【0039】
図5に示すスタッド16が有するフランジ部162は円盤状であるため、その直径は上記のR
4に一致する。この長さR
4は耐熱板が有する貫通孔の径(h)よりも外径が大きい。つまり、軸部161は耐熱板の貫通孔を通過可能であるが、フランジ部162は通過できない。したがって、
図5に示す態様のスタッド16の軸部161を耐熱板の貫通孔に貫通させた状態で後述する溶接ガンにセットし(保持部163を溶接ガンのチャックに取り付け)、
図5に示す先端部161
Xを金属材の表面に付けて溶接すれば、耐熱板は軸部161から離れることなく、軸部161が耐熱板を貫通した状態が保たれるため、耐熱板は金属材の表面とフランジ部162との間に保持され、耐熱板は金属材の表面に固定される。
貫通孔が円形でない場合やフランジ部162が円盤状ではない場合も同様の考え方に基づき、貫通孔の大きさに対してフランジ部162を大きくすれば、耐熱板が軸部161から離れることなく、軸部161が耐熱板を貫通した状態が保持されるため、より強固に耐熱板は金属材の表面に固定される。
【0040】
なお、
図5に示すように、スタッド16を耐熱板の貫通孔に貫通させた状態で後述する溶接ガンにセットし、先端部161
Xを金属材の表面に付けて溶接することで、耐熱板が金属材の表面とフランジ部162との間に保持され、耐熱板は金属材の表面に固定されるのであれば、そのフランジ部の径は耐熱板が有する貫通孔の径よりも大きいものであるとする。
【0041】
本発明のスタッドは、軸線(例えば
図2の場合は軸線ω
1、
図3の場合は軸線ω
2、
図4の場合は軸線ω
3、
図5の場合は軸線ω
4)と平行な方向における軸部(例えば
図2の場合はスタッド10そのもの、
図3の場合は軸部121、
図4の場合は軸部141、
図5の場合は軸部161)の長さ(例えば
図2の場合はL
1、
図3の場合はL
2、
図4の場合はL
3、
図5の場合はL
4)は特に限定されない。
この場合、耐熱板をほぼ損傷することなく、これに貫通させたスタッドを金属材の表面に溶接しやくなるからである。
【0042】
スタッドの太さ、大きさ、材質等は、従来公知のスタッド溶接で用いられるスタッドと同様であってよい。
【0043】
<溶接ガン>
本発明において用いる溶接ガンについて説明する。
溶接ガンはスタッドを差し込むチャックの先端の外周側、かつ、耐熱板を引き寄せることができる位置に磁石を有し、耐熱板を金属材の表面から引き離した状態を保持したまま溶接することができる溶接ガンであればよく、その他の態様については特に限定されず、その他の態様については、例えば従来公知の電力アーク方式やショートサイクル方式の溶接ガン(ショートサイクル方式の溶接を行うことができる溶接ガンが好ましい)と同様のものであってよい。
【0044】
本発明において用いる溶接ガンについて、図を用いて説明する。
図6は本発明において用いる溶接ガンの概略側面図であり、
図7は
図6に示した溶接ガンに、耐熱板を貫通させたスタッドを取付け、金属材の表面に押し付けた状態を示す概略側面図である。
図6、
図7に示す溶接ガンは、本発明において用いる溶接ガンの例示である。本発明において用いる溶接ガンはこれに限定されない。
【0045】
図6、
図7に示す溶接ガン20において、チャック22はチャックアダプタ24およびダストベロース26を介して本体部28内のリフティングロッドに繋がっている。本体部28の内部構造については後述する。
溶接ガン20は、チャック22の先端22
Xにスタッド40を差し込んで用いる。
図6、
図7に示したスタッド40は
図5に示したスタッド16と同じ態様のものであり、スタッド16における保持部163をチャック22へ差し込む。ただし、スタッドは別の態様であってもよい。別の態様のスタッドを用いる場合であっても同様であり、スタッドの端部をチャック22へ差し込む。例えば
図4に示したスタッド14であればフランジ部142の一部(端部)をチャック22へ差し込む。
チャック22の先端22
Xにスタッド40を差し込んだ後、または差し込む前に、スタッド40の軸部を耐熱板42の貫通孔に貫通させる。
【0046】
溶接ガンはスタッド40を差し込むチャック22の先端22
Xの外周側、かつ、耐熱板42を引き寄せることができる位置に磁石30を有する。スタッド40を金属材44の表面44
Xに溶接するときに、耐熱板42を金属材44の表面44
Xから離す方向へ引き寄せることができる位置であって、かつ、おおむねチャック22の先端22
Xの外周側付近であれば、磁石30は、チャック22の先端22
Xの外周側、かつ、耐熱板42を引き寄せることができる位置に配置されているものとする。
図7に示すように、チャック22にスタッド40を差し込んだときに、スタッド40のフランジ部における金属材44の表面44
Xに対向する面と、磁石の金属材44の表面44
Xに対向する面とが、水平方向においてほぼ同じ位置となることが好ましい。ただし、この水平位置が多少ずれていても、磁石30によって耐熱板42を引き寄せることができる。逆に言えば、磁石30の位置は、スタッド40を差し込むチャック22の先端22
Xのおおむね外周側であって、耐熱板42を金属材44の表面44
Xから離れる方向へ引き寄せることができる位置であればよい。
【0047】
チャック22の先端22
Xにスタッド40を差し込んだ後、または差し込む前に、スタッド40の軸部を耐熱板42の貫通孔に貫通させる。そして、耐熱板42が磁石30に付くと、耐熱板42を金属材44の表面44
Xから引き離した状態を保持したまま溶接することができる。
磁石30は
図6、
図7に示すように、例えば溶接ガン20に固定された支持棒32によって支持されている。
【0048】
溶接ガン20はレグ34を有することが好ましい。レグ34は溶接ガン20に固定されている。溶接する際にレグ34の先端を金属材44の表面44Xに押し付けることで、溶接ガン20の位置を安定させることができる。
【0049】
図6、
図7に示した溶接ガン20における本体部28の内容構造を、溶接時の動作と共に説明する。
図8、
図9は本体部28の概略一部断面図である。
図8はトリガーボタン(スイッチ)を押す前の休止状態を示しており、
図9はトリガーボタンを押した直後を示している。
図6、
図7に示したようにチャック22の先端22
Xにスタッド40を差し込み、磁石30に耐熱板42が付いた状態とした後、スタッド40の先端を金属材44の表面44
Xに押し付けると、メインスプリング50は少し圧縮され、リフティングロッド52はリフティングリング54の中を滑る。
そして、溶接ガンのトリガーボタン(スイッチ)を押すとガンコイル56が励磁される。そうすると、
図9に示すように、ガンコイル56はムーバブルコア58を引き上げ、その結果、ムーバブルコア58上のリフティングフックに、リフティングロッド52上のリフティングリング54を傾斜する。このときリフティングスプリング60およびコアスプリング62は圧縮される。
傾斜したリフティングリング54は、リフティングロッド52をつかみ、これによって可動部全体がスタッドと一緒に一体となって引き上る。そして、スタッドの先端が金属材44の表面44
Xから引き上げられる(離れる)と、アークが発生する。
予め設定された時間のみ引き上げ状態が続いた後、ガンコイル56の励磁が切れる。
その後、ムーバルコア58はコアスプリング62の力で元の位置に戻る。リフティングリング54は、リフティングフックとリフティングスプリング60の力で傾斜が戻される。
メインスプリング50の力でリフティングロッド52は元の位置に戻り、これによってスタッドの溶けた先端が溶けた金属材44の表面44
Xに突っ込まれ、スタッドの金属材44の表面44
Xへの溶接が完了する。
このような動作によると、耐熱板を金属材の表面から引き離した状態を保持したまま、スタッドを金属材の表面に溶接することができる。
【0050】
このような機構を有し、このようなショートサイクル方式の動作を行うことができる溶接ガンとして、日本スタッドウェルディング株式会社製、スタンダード溶接ガン、NS-400SDが挙げられる。
なお、ショートサイクル方式は200~2000Aの電流で10~100msecの間に溶接する方式である。これに対して電力アーク方式は200~2400Aの電流で100~1500msecの間に溶接する方式である。また、電力アーク方式では、通常、フェルールという耐熱性のセラミックで溶接部分を囲んで溶接する。
【0051】
本発明の溶接ガンは上記のような態様であってよい。
すなわち、本発明の溶接ガンは、表面に情報が付され、厚さ方向に貫通する貫通孔を有し、磁石に引き寄せられる性質を備える耐熱板を、その貫通孔に貫通させたスタッドを金属材の表面に溶接することによって、前記金属材の表面に固定することができる溶接ガンであって、
前記スタッドを差し込むチャックの先端の外周側、かつ、前記耐熱板を引き寄せることができる位置に磁石を有し、前記耐熱板を前記金属材の表面から引き離した状態を保持したまま溶接することができる、溶接ガンである。
【0052】
また、本発明の製造方法は、表面に情報が付され、厚さ方向に貫通する貫通孔を有し、磁石に引き寄せられる性質を備える耐熱板、および、その貫通孔に貫通させることができるスタッドを用意し、本発明の溶接ガンにおける前記チャックに前記スタッドを差し込む準備工程と、
前記磁石によって前記耐熱板を引き寄せて前記耐熱板を前記金属材の表面から引き離し、その状態で本発明の溶接ガンを用いて前記スタッドを前記金属材の表面に溶接する溶接工程と、
を有し、
前記スタッドが表面に溶接されたことによって前記耐熱板が表面に固定されている前記金属材が得られる、スタッドおよび耐熱板付き金属材の製造方法である。
【0053】
本発明の製造方法では、前記スタッドが、前記耐熱板が有する前記貫通孔の径よりも外径が大きいフランジを有することが好ましい。
【0054】
本発明の製造方法における前記溶接工程においてショートサイクル方式で溶接することが好ましい。
【0055】
次に、本発明のスタッドおよび耐熱板付き金属材(以下「本発明の金属材」ともいう)について説明する。
本発明の金属材は、上記のような本発明の製造方法によって得ることができる。
【0056】
本発明の金属材について図を用いて説明する。
図10は本発明の金属材の例示する概略斜視図である。ただし、本発明の金属材は
図10に示す態様に限定されない。
【0057】
図10において本発明の金属材70は、耐熱板1と、スタッド16と、金属材44とを有している。
【0058】
耐熱板1は
図1に示した態様のものであり、表面に情報が付され、厚さ方向に貫通する貫通孔を有し、磁石に引き寄せられる性質を備えている。
【0059】
スタッド16は
図5に示した態様のものであり、耐熱板1が有する貫通孔にその軸部が貫通していて、軸部の先端は金属材44の表面44
Xに溶接されている。溶接方法は特に限定されないが、ショートサイクル方式によって溶接されていることが好ましい。
スタッドは耐熱板が有する貫通孔の径よりも外径が大きいフランジを有することが好ましい。
【0060】
金属材44は
図6、
図7に示した態様のものであり、耐熱板1およびスタッド16を表面44
Xに有している。
【0061】
このような本発明の金属材70は、耐熱板1が有する貫通孔に貫通したスタッド16の先端が金属材44の表面44Xに溶接されて、耐熱板1が外れないように固定されている、スタッドおよび耐熱板付き金属材である。
【符号の説明】
【0062】
1 耐熱板
3 貫通孔
10、12、14、16 スタッド
10X、12X、14X、16X スタッドの先端
121、141、161 スタッドの軸部
122 スタッドの曲部
142、162 スタッドのフランジ部
163 スタッドの保持部
ω1、ω2、ω3、ω4 スタッドの軸線
20 溶接ガン
22 チャック
22X チャックの先端
24 チャックアダプタ
26 ダストベロース
28 本体部
30 磁石
32 支持棒
34 レグ
40 スタッド
42 耐熱板
44 金属材
44X 金属材の表面
50 メインスプリング
52 リフティングロッド
54 リフティングリング
56 ガンコイル
58 ムーバブルコア
60 リフティングスプリング
62 コアスプリング
70 本発明の金属材(スタッドおよび耐熱板付き金属材)