(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165446
(43)【公開日】2023-11-16
(54)【発明の名称】有孔チューブ構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/35 20060101AFI20231109BHJP
E04B 1/34 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
E04B1/35 K
E04B1/35 L
E04B1/34 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076432
(22)【出願日】2022-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】515359097
【氏名又は名称】SMRC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142550
【弁理士】
【氏名又は名称】重泉 達志
(72)【発明者】
【氏名】半澤 薫和
(72)【発明者】
【氏名】半澤 和夫
(57)【要約】
【課題】補強材を省略することができ、構造物に必要な強度を確保することのできる有孔チューブ構造体を提供する。また、コンクリート充填時の異常を簡単容易に発見することができる有孔チューブ構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】構造物の構築に使用される有孔チューブ構造体1の製造方法であって、孔を有するチューブ20を準備するチューブ準備工程と、チューブ20にフレッシュコンクリートを充填するコンクリート充填工程と、孔を通じて内部を視認可能な状態でコンクリートにより孔を埋めコンクリートの自重で硬化に不要な余剰水を絞りだして流動化を止めてコンクリートを仮固化させる余剰水排出工程と、仮固化されたコンクリートを孔に食い込ませてチューブと一体的に硬化させるコンクリート硬化工程と、を含むようにした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の構築に使用される有孔チューブ構造体の製造方法であって、
前記有孔チューブ構造体は、コンクリートからなる構造体本体と、前記構造体本体を包囲するとともに所定方向へ延び前記構造物の曲げ応力、引張応力及び剪断応力を負担するチューブと、前記チューブに形成され外部から内部を視認可能な孔と、を有し、
前記チューブを準備するチューブ準備工程と、
前記チューブの内側に、フレッシュコンクリートを充填するコンクリート充填工程と、
前記孔を通じて内部を視認可能な状態で、前記コンクリートにより前記孔を埋め、前記コンクリートの自重で硬化に不要な余剰水を絞りだして流動化を止めて前記コンクリートを仮固化させる余剰水排出工程と、
前記余剰水が排出され仮固化された前記コンクリートを、前記孔に食い込ませて前記チューブと一体的に硬化させるコンクリート硬化工程と、を含む有孔チューブ構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の有孔チューブ構造体の製造方法により製造される有孔チューブ構造体であって、
第1の方向へ延びる第1構造部と、前記第1構造部に連結され第2の方向へ延びる第2構造部と、を有し、
前記第1構造部及び前記第2構造部の前記チューブ及び前記コンクリートが一体的に形成される有孔チューブ構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有孔チューブ構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高層建築等に使用されるチューブ構造として、チューブ状の鋼管内にコンクリートを充填したCFT(Concrete Filled steel Tube)が知られている。通常、CFTは、建築物の柱部分にのみ用いられ、鉄骨構造と組み合わせて使用される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来用いられているCFTは、比較的高い強度であるものの、鉄骨構造との接合部の補強が必要であり、内部のダイヤフラム等の加工が複雑で鉄鋼の加工費が嵩むという問題点がある。また、充填されるコンクリートの流動性が十分でないと、圧入中に閉塞が発生したり,鋼管内にコンクリートを隅々まで均質に充填するのが難しくなるため、高価な高流動化コンクリートが不可欠であり、不経済であるという問題点があった。
これに加え、CFTは、密閉された鋼管内にコンクリートを充填するため、鋼管内部におけるフレッシュコンクリートの状態の確認が困難であり、フレッシュコンクリートに空洞等の異常が生じたとしても発見できない場合がある、非破壊検査を用いれば鋼管内部のフレッシュコンクリートの状態を確認することは可能だが、これでは鋼管内部の検査及び補修に多大な時間と費用がかかってしまう。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、ダイヤフラム等の補強材を省略することができ、充填されるコンクリートに高い流動性が求められず、かつ、構造物に必要な強度を確保することのできる有孔チューブ構造体を提供することを目的とする。また、コンクリート充填時のフレッシュコンクリートの異常を簡単容易に発見することができる有孔チューブ構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、
構造物の構築に使用される有孔チューブ構造体の製造方法であって、
前記有孔チューブ構造体は、コンクリートからなる構造体本体と、前記構造体本体を包囲するとともに所定方向へ延び前記構造物の曲げ応力、引張応力及び剪断応力を負担するチューブと、前記チューブに形成され外部から内部を視認可能な孔と、を有し、
前記チューブを準備するチューブ準備工程と、
前記チューブの内側に、フレッシュコンクリートを充填するコンクリート充填工程と、
前記孔を通じて内部を視認可能な状態で、前記コンクリートにより前記孔を埋め、前記コンクリートの自重で硬化に不要な余剰水を絞りだして流動化を止めて前記コンクリートを仮固化させる余剰水排出工程と、
前記余剰水が排出され仮固化された前記コンクリートを、前記孔に食い込ませて前記チューブと一体的に硬化させるコンクリート硬化工程と、を含む有孔チューブ構造体の製造方法が提供される。
【0007】
この有孔チューブ構造体の製造方法によれば、余剰水排出工程にて、チューブの孔からコンクリート中の余剰水及び空気が抜けるので、フレッシュコンクリート中に空洞が発生しにくく、また、コンクリートの緻密性が向上する。これに加え、コンクリートの充填状況をチューブの孔を通じて外部から確認することができる。これにより、作業者は、仮にコンクリートに空洞等の異常が生じたとしても、速やかに解消することができる。
また、コンクリートにより孔を埋めてコンクリートとチューブを一体化させることにより、構造体全体の強度を増すことができる。また、コンクリートの緻密性が向上することによっても、構造体全体の強度が増す。これにより、孔の形成によるチューブの強度低下が補われる。
さらに、コンクリート硬化後は、チューブの孔を通じ、コンクリートに対して補修剤等の圧入、含侵、塗布等のメンテナンス作業を簡単容易に行うことができる。
【0008】
また、本発明では、上記有孔チューブ構造体の製造方法により製造される有孔チューブ構造体であって、
第1の方向へ延びる第1構造部と、前記第1構造部に連結され第2の方向へ延びる第2構造部と、を有し、
前記第1構造部及び前記第2構造部の前記チューブ及び前記コンクリートが一体的に形成される有孔チューブ構造体が提供される。
【0009】
この有孔チューブ構造体によれば、第1構造部と第2構造部を一体的なチューブ構造とすることができ、第1構造部と第2構造部の一方をCFT、他方を鉄骨構造とした従来のような各構造部の接合部の補強は不要であり、チューブの内部にダイヤフラム等の補強材を設ける必要はない。従って、有孔チューブ構造体により構築される構造物の強度を確保しつつ、製造コストの低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有孔チューブ構造体によれば、ダイヤフラム等の補強材を省略することができ、充填されるコンクリートに高い流動性が求められず、かつ、構造物に必要な強度を確保することができる。
また、本発明の有孔チューブ構造体の製造方法によれば、コンクリート充填時のフレッシュコンクリートの異常を簡単容易に発見することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態を示す有孔チューブ構造体により構築された構造物の正面説明図である。
【
図2】有孔チューブ構造体の一部斜視説明図である。
【
図3】柱部分の有孔チューブ構造体の平面断面説明図である。
【
図5】有孔チューブ構造体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】石化部を含む有孔チューブ構造体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】有孔チューブ構造体の強度維持方法を示すフローチャートである。
【
図8】変形例を示す有孔チューブ構造体により構築された構造物の正面説明図である。
【
図10】変形例を示す有孔チューブ構造体により構築された構造物の正面説明図である。
【
図12】変形例を示す有孔チューブ構造体により構築された構造物の正面説明図である。
【
図14】変形例を示す有孔チューブ構造体により構築された構造物の正面説明図である。
【
図15】変形例を示す有孔チューブ構造体の断面説明図である。
【
図16】変形例を示す有孔チューブ構造体により構築された構造物の正面説明図である。
【
図17】変形例を示す有孔チューブ構造体の断面説明図である。
【0012】
図1から
図7は本発明の第1の実施形態を示し、
図1は有孔チューブ構造体により構築された構造物の正面説明図、
図2は有孔チューブ構造体の一部斜視説明図、
図3は有孔チューブ構造体の平面断面説明図、
図4はチューブの一部展開図、
図5は有孔チューブ構造体の製造方法を示すフローチャート、
図6は石化部を含む有孔チューブ構造体の製造方法を示すフローチャート、
図7は有孔チューブ構造体の強度維持方法を示すフローチャートである。
【0013】
図1に示すように、有孔チューブ構造体1(
図2参照)を使用して構築される構造物100は、高層ビルであり、基礎部110と、複数の柱120と、複数の梁130と、を有している。本実施形態においては、各柱120及び各梁130は、後述する有孔チューブ構造体1として一体的に構成され、有孔チューブ構造体1のチューブ20(
図2参照)は、構造物100の曲げ応力、引張応力及び剪断応力を負担している。構造物100は、基礎部110上の低層部101と、低層部101上の高層部102からなる。各柱120及び各梁130は、低い位置へ向かうにつれて、段階的に断面が大きくなるよう形成されている。
【0014】
図2に示すように、各柱120及び各梁130をなす有孔チューブ構造体1は、コンクリートからなり断面円形の構造体本体10と、構造体本体10の外周に配置され断面ドーナツ状のチューブ20と、を備えている。本実施形態においては、第1構造部としての各柱120及び第2構造部としての各梁130は、それぞれ円柱状を呈している。チューブ20は、円筒状を呈し、構造体本体10を包囲し、各柱120に対応する部分では鉛直方向に、各梁130に対応する部分では水平方向へそれぞれ延びる。コンクリートには、セメント、水、粗骨材及び細骨材が含まれ、構造体本体の内部に鉄筋等の所定方向へ延びる配筋部材は配置されていない。セメントの種類は任意であるが、ポルトランドセメントの他、ポルトランドセメントを主体として混合材料を混ぜ合わせた高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、アルミナセメントのような特殊セメントを用いることができる。また、二酸化炭素が封入されたセメントを用いることもできる。さらに、ポルトランドセメント、高炉セメント等のような水硬性セメントの他、気硬性セメントを用いることもできる。本実施形態の粗骨材及び細骨材の材質は任意であり、砂、砂利、砕砂、砕石、スラグ骨材、人工軽量骨材、石灰石骨材等の各種骨材を適宜用いることができる。また、二酸化炭素が封入された粗骨材及び細骨材を用いることもできる。尚、粗骨材、細骨材等の骨材は、必要に応じて省くこともできる。
【0015】
チューブ20は、構造体本体10よりも引張応力度が大きく、
図3に示すように、コンクリート充填時に外部から内部を視認可能な孔21が形成されている。各孔21は、コンクリートにより埋められ、各孔21の内部にコンクリートからなるチューブ補強部11が形成される。ここで、引張応力度とは、単位面積あたりに作用する応力をいう。チューブ20の材質は任意であるが、例えば、プラスチック、金属等とすることができる。本実施形態においては、チューブ20は、エンジニアリングプラスチックで構成されている。また、本実施形態においては、チューブ20は、引張応力度のみならず、曲げ応力度及びせん断応力度も構造体本体10より大きい。
【0016】
図4に示すように、チューブ20の形成面と垂直な方向から見て、チューブ20は、正方格子状に形成され各孔21の外縁をなす格子部22を有する。
図2に示すように、本実施形態においては、チューブ20は、互いに連結される複数のユニット23に分割して構成されている。各ユニット23は、外縁部に形成された図示しない連結用の凹部及び凸部を有しており、凹部及び凸部の嵌合により、隣接するユニット23と連結される。尚、各ユニット23の連結手段は、凹部と凸部の嵌合でなくともよく、例えば、ねじを用いた螺合としたり、溶接、接着等とすることもできる。また、有孔チューブ構造体1における、各柱120に使用される部分と、各梁130に使用される部分の結合も、嵌合、螺合、溶接等により行われる。チューブ20の厚さ、孔21の形状及び大きさ、格子部22における各孔21を仕切る部分の太さ等は、用途、目的、要求性能等に応じて適宜設定される。
【0017】
このように、チューブ20の各孔21の大きさは任意であるが、例えば、各孔21の内接円を直径1mm以上100mm以下とすることができる。コンクリート充填時に、コンクリート中の骨材はもとより、セメント成分が大量に流出することを抑制するのであれば、各孔21の内接円を直径1mm以上20mm以下とすることがのぞましい。尚、チューブ20が例えば超高層ビル等のような比較的高層の構造物に使用される場合、応力が比較的大きくなる下層部位では、チューブ20の厚さが数センチを超えることがある。このような場合に、高強度コンクリート等の比較的粘性が高いコンクリートが使用されるのであれば、各孔21にコンクリートが十分に充填されるように、各孔21の内接円を直径20mm以上100mm以下とすることがのぞましい。
【0018】
図3においては、断面円形の有孔チューブ構造体1を示しているが、有孔チューブ構造体1の断面は任意に変更可能である。また、
図2においては、有孔チューブ構造体1が適用される柱120及び梁130が真っ直ぐに延びているものを示しているが、有孔チューブ構造体1を曲がって延びるようにしてもよいし、延在方向について断面が変化するようにしてよい。また、構造物100が柱120及び梁130の他に、斜め方向へ延びる構造物を有している場合は、その構造物を柱120及び梁130と一体的に有孔チューブ構造体とすることもできる。
【0019】
以上のように構成された構造物100に使用される有孔チューブ構造体1の製造方法について、
図5のフローチャートを参照して説明する。
まず、構造体本体10をなすコンクリートが充填されない状態で、チューブ20を形成する(チューブ準備工程:S1)。本実施形態においては、チューブ20は、基礎部110の耐圧盤の上部に設置される。すなわち、各柱120をなす円筒状のチューブ20の底面は、耐圧盤により塞がれている。チューブ20の組立は、構造物100の設置現場で行ってもよいし、予め工場等で行っておいてチューブ20を設置現場へ搬入してもよい。尚、チューブ20を分割せずに構成することも勿論可能で、この場合も、例えば3Dプリンタを用いて設置現場でチューブ20を作製してもよいし、予め工場等でチューブ20を作製しておいて設置現場へ搬入してもよい。
【0020】
次に、後述するコンクリート充填工程S3において、経済設計、高速施行等の要求のために、コンクリート充填時に許容応力を超える負荷がチューブ20に加わる場合は、チューブ20の外側に仮設の補強チューブを重ねて設置する(補強チューブ設置工程:S2)。補強チューブは、経済設計、高速施行等のためだけでなく、チューブ20の各孔21からのコンクリートの流出を抑制するために用いることもできる。補強チューブの内面には、チューブ20から染み出た余剰水を排出するための孔、溝等を形成することが好ましい。尚、チューブ20がコンクリート充填時の負荷に耐えることができ、各孔21からのコンクリートの流出も問題となるレベルでなければ、補強チューブ設置工程S2を省略することができる。
【0021】
次に、チューブ20にフレッシュコンクリートを充填する(コンクリート充填工程:S3)。本実施形態においては、各柱120をなす円筒状のチューブ20の上端が開放されているので、チューブ20の上端を充填孔として、フレッシュコンクリートが充填される。具体的には、チューブ20の上端開口から、圧送ポンプ、ホッパ等から引き込んだフレキシブル管をコンクリート充填底まで降ろし、充填スピードに合わせてフレキシブル管を引き上げながら、フレッシュコンクリートが充填される。尚、圧送ポンプ及びフレキシブル管の性能、コンクリートの充填スピード等に応じて、チューブ20の所定位置に開口部を設け、この開口部から別途フレキシブル管を挿入して、追加的にコンクリートを充填してもよい。この場合、開口部から挿入されたフレキシブル管をコンクリート充填底まで降ろし、充填スピードに合わせてフレキシブル管を引き上げ、開口部からフレキシブル管を引き抜いた後、開口部に蓋をする。
【0022】
チューブ20内にフレッシュコンクリートが充填されると、コンクリートにより各孔21が埋められ、コンクリートの自重で硬化に不要な余剰水を絞りだして流動化が止められ、コンクリートが仮固化される(余剰水排出工程:S4)。チューブ20から染み出た余剰水は、排水溝に導かれ、沈殿槽でセメント分が回収される。回収されたセメント分は、二酸化炭素を封入して骨材等に成型し、充填コンクリートまたはその他のコンクリート製品として再利用することができる。本実施形態においては、各孔21から流出したセメントペーストによりチューブ20の外面が被覆される。コンクリートの充填状況は、チューブ20の各孔21を通じて外部から確認可能となっている。
【0023】
この後、余剰水が排出され仮固化されたコンクリートを、各孔21に食い込ませてチューブ20と一体的に硬化させる(コンクリート硬化工程:S5)。各孔21がコンクリートにより埋められることにより、チューブ補強部11が形成される。また、チューブ20の外面のセメントペーストは硬化して被覆膜となる。
【0024】
そして、コンクリートの強度が自立可能となったところで、補強チューブを撤去する(補強チューブ撤去工程:S6)。尚、補強具設置工程S2が省略された場合は、補強具撤去工程S6も省略される。
【0025】
尚、有孔チューブ構造体1の表面の仕上げ処理は、任意の処理方法を選択することができる。例えば、被覆膜で覆われた状態のまま使用する、吹き付け剤で化粧して仕上げる、ポリシャーで削って仕上げる、ポリシャーで削った上で吹き付け剤で化粧して仕上げる、高圧洗浄水で洗浄して仕上げる、高圧洗浄水で洗浄した上で吹き付け剤で化粧して仕上げる、モルタル等の鏝抑えとする、モルタル等の鏝押えとした上で吹き付け剤で化粧して仕上げる、塗装仕上げとする、又は、別の素材を貼り付けることができる。このように、本実施形態の有孔チューブ構造体1は、RC構造の仕上げと変わらない仕上げ処理をすることができる。
【0026】
本実施形態の有孔チューブ構造体1の製造方法によれば、余剰水排出工程S4にて、チューブ20の各孔21からコンクリート中の余剰水及び空気が抜けるので、コンクリート中に空洞が発生しにくく、充填されるコンクリートに高い流動性が求められることはない。また、コンクリート中の余剰水及び空気が抜けることで、コンクリートの緻密性が向上する。
【0027】
これに加え、コンクリートの充填状況をチューブ20の各孔21を通じて外部から確認することができる。これにより、充填時のコンクリートの異常を簡単容易に発見することができる。従って、作業者は、仮にコンクリートに空洞等の異常が生じたとしても、速やかに解消することができる。
【0028】
また、各孔21を埋めるコンクリートとチューブ20を一体化させることにより、構造体全体の強度を増すことができる。また、コンクリートの緻密性が向上することによっても、構造体全体の強度が増す。これにより、孔の形成によるチューブの強度低下が補われる。本実施形態の有孔チューブ構造体1は、各柱120及び各梁130を一体的なチューブ構造とすることができ、柱をCFT、梁を鉄骨構造とした従来のような柱と梁の接合部の補強は不要であり、チューブの内部にダイヤフラム等の補強材を設ける必要がない。このように、ダイヤフラム等の補強材を省略しつつ、構造物に必要な強度を確保することができる。
【0029】
さらに、コンクリート硬化後は、チューブ20の各孔21を通じ、コンクリートに対して補修剤等の圧入、含侵、塗布等のメンテナンス作業を簡単容易に行うことができる。
【0030】
本実施形態の有孔チューブ構造体1は、CFTの問題点を解決し、低層ビルばかりか高層ビル等にも適用可能で、耐久性をRC構造の数十倍とすることに成功し、さらに、工期の短縮及びコスト低減を図ることができる。
【0031】
また、本実施形態に有孔チューブ構造体1の製造方法によれば、チューブ20の外面にセメントペーストによる被覆膜が形成される。この被覆膜は、空気中の二酸化炭素により炭酸化されて炭酸カルシウムとなる。すなわち、チューブ20は比較的耐候性の高い炭酸カルシウムにより被覆され、チューブ20の劣化が抑制される。
【0032】
また、本実施形態に有孔チューブ構造体1によれば、構造体本体10をなすコンクリートには比較的高い吸熱能力があることから、火災時にはチューブ20の温度上昇が抑えられ、比較的高い耐火性能を有する構造となっているため、耐火被覆は不要である。これに加え、チューブ20の各孔21からコンクリートが露出するとともに、チューブ20の外面が被覆膜により覆われているので、従来の有孔チューブ構造体と比較して耐火性能が格段に向上している。
【0033】
コンクリート充填工程S3にて、チューブ20内に鉄筋等の配筋部材が配置されないことから、チューブ20内でコンクリートの流動が配筋部材により阻害されることはなく、配筋部材が配置される場合と比べコンクリートへのバイブレータの使用量を減らす、もしくは、バイブレータの作業を不要とすることができる。
【0034】
また、余剰水排出工程S4にて、コンクリートの硬化に不要な余剰水が排出されるため、コンクリートからチューブ20に加わる圧力が低減される。そして、空気が抜けコンクリートの硬化が始まる前に流動化が止まり、コンクリートはチューブ20と一体となって硬化する。チューブ20におけるコンクリートが硬化した箇所は、コンクリートから側圧を受けることがないので、チューブ20の比較的高い位置までコンクリートの充填を行うことができ、例えば1日あたりの打設効率を上げて工期の短縮を図ることができる。補強チューブ設置工程S2で補強チューブを設定した場合は、チューブ20に加わる圧力はさらに低減され、コンクリートの打設効率はさらに向上する。実際に、有孔チューブ構造体1によるエレベータシャフト及び非常階段のコンクリート打設実験を行った結果、12m(4階分)を1日で打設することができた。
【0035】
有孔チューブ構造体1は、チューブ20の各孔21を通じて構造体本体10に外気中の二酸化炭素が供給されることにより、構造体本体10の表面側からコンクリートの炭酸化が構造体本体10の内部へ進行し、コンクリートは粗骨材及び細骨材を礫とする石材へ変性していく。これにより、構造体本体10の表面側に石化部を有する有孔チューブ構造体1となる。この有孔チューブ構造体1は、石化部を有さないものと比べ、構造体本体10の強度及び耐久性が向上している。すなわち、時間の経過とともに、有孔チューブ構造体1は、構造体本体10の強度及び耐久性が向上していく。また、余剰水排出工程S4にてコンクリートの緻密性を向上させているため、良質な石化部を得ることができる。尚、フレッシュコンクリートに二酸化炭素が封入されたセメントを用いた場合、コンクリートが所定の割合で炭酸化された状態となるが、その場合も、コンクリートの炭酸化されてない部分が、構造体本体10の表面側から漸次炭酸化されていく。すなわち、所定割合で炭酸化されたコンクリートであっても、時間の経過とともに、コンクリート構造体は、構造体本体の強度及び耐久性が向上していく。
【0036】
石化部を有する有孔チューブ構造体1を製造するには、
図6に示すように、前述のチューブ準備工程S1、コンクリート充填工程S3、余剰水排出工程S4、コンクリート硬化工程S5に続いて、構造体本体10にチューブ20の各孔21を通じて外部から二酸化炭素を供給し、構造体本体10の少なくとも表面側を炭酸化させて石化部へ変性させる変性工程S7を含めればよい。本実施形態においては、構造体本体10への二酸化炭素の供給は、有孔チューブ構造体1を大気に曝すことによって行われる。尚、炭酸化を促進するために、有孔チューブ構造体1を二酸化炭素の濃度が大気よりも高い空間に設置したり、二酸化炭素を有孔チューブ構造体1へ定常的に吹き付けるようにしてもよい。本実施形態においては、チューブ20は、チューブ準備工程S1で自立している際に生じる応力、コンクリート充填工程S3でフレッシュコンクリートが充填された際に生じる応力、コンクリート硬化工程S5でコンクリートが硬化した際に生じる応力、及び、変性工程S7でコンクリートが炭酸化した際に生じる応力により破壊しない強度を有している。
【0037】
また、本実施形態の有孔チューブ構造体1によれば、チューブ20の強度を維持し続ければ、有孔チューブ構造体1の強度は向上していくが、有孔チューブ構造体1の強度が所定の要求性能を満たせば、必ずしもチューブ20の強度を維持し続ける必要はない。ここで、本実施形態の有孔チューブ構造体1の強度維持方法を
図7のフローチャートを参照して説明する。
【0038】
有孔チューブ構造体1の構造体本体10に殻体20の各孔21を通じて二酸化炭素を供給し、構造体本体10の表面側のコンクリートを石材へ変性させて石化部とし、構造体本体10の曲げ強度を増大させる(本体強度増大工程:S11)。そして、有孔チューブ構造体1の曲げ強度が全体として低下しない範囲で、チューブ20の曲げ強度の低減を許容する(チューブ強度低減工程:S12)。
【0039】
この有孔チューブ構造体1の強度維持方法によれば、炭酸化により構造体本体10の曲げ強度が増大した分だけチューブ20の曲げ強度の低減が許容されるので、石化部の形成後は、チューブ20の経年劣化、破損等による修復作業は強度を損なわない範囲に留めることができ、修復作業の負担を軽減することができる。本実施形態以外にも、チューブ20に引張応力が作用する有孔チューブ構造体1に、この強度維持方法は有効である。
【0040】
また、本体強度増大工程S11にて、石化部の曲げ強度がチューブ20の曲げ強度を上回る深さまで構造体本体10の表面側を石材へ変性させ、チューブ強度低減工程S12にて、チューブ20を構造体本体10からの除去を許容することもできる。この場合、コンクリートの中性化の進行状態を監視する必要がないことに加え、チューブ20のメンテナンスも不要となり、有孔チューブ構造体1の維持管理がさらに容易となる。チューブ強度低減工程S12で除去が許容された後のチューブ20の取扱いは自由であり、例えば、チューブ20を積極的に解体してもよいし、劣化等を監視することなくチューブ20を存置しておいてもよい。チューブ20を存置する場合は、チューブ20の外面が有孔チューブ構造体1の意匠面をなすことから、適宜、チューブ20の表面に化粧等を施してもよい。
【0041】
さらに、本体強度増大工程S11にて、構造体本体10の全部を石材へ変性させ、チューブ強度低減工程S12にて、チューブ20の構造体本体10からの除去を許容することもできる。この場合、構造体本体10が全て石材へ変性しているので、有孔チューブ構造体1は、石材と同様の強度、耐久性を発揮する。すなわち、構造体本体10の全てが石化部へ変性した有孔チューブ構造体1には、遺跡等の石造建築物と同様の、1000年以上の耐久性が付与される。
【0042】
前記実施形態においては、チューブ20の内側に構造体本体10をなすコンクリートを充填するものを示したが、例えば
図8及び
図9に示すように、チューブの内側に別のチューブを配置し、各チューブ間にコンクリートを充填し、内側のチューブの内部を中空とすることもできる。
図8に示すように、構造物200は、基礎部110と、構造物本体220と、を有している。
図9に示すように、構造物本体220は、有孔チューブ構造体であり、断面円形の外側チューブ240と、断面円形の内側チューブ250と、各チューブ240,250間に充填されるコンクリートからなる構造体本体230と、を有している。各チューブ240,250は、前記実施形態のチューブ20と同様に、コンクリート充填時に外部から内部を視認可能な孔が形成されている。構造物本体220は、低い位置へ向かうにつれて、拡径するとともに、厚さが厚くなるよう形成されている。構造体本体220には複数の開口201が形成され、構造体本体220の上部には別の構造体が設けられている。
図8及び
図9の構造物200においても、前記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。この構造部200の場合、補強チューブ設置工程S2で、補強チューブは、内側チューブ250の内側、または、外側チューブ240の外側、あるいは、内側チューブ250の内側と外側チューブ240の外側の両方に設けられる。
【0043】
また、例えば
図10に示すように、アーチ橋をなす構造物300に有孔チューブ構造体を適用することもできる。
図10の構造物300は、橋桁310と、床版320と、を有し、橋桁310が有孔チューブ構造体により構成される。橋桁310は、アーチ状に形成され、
図11及び
図12に示すように断面が変化する。このように、有孔チューブ構造体は、断面が変化する構造物300に適用することが可能である。
【0044】
図12に示すように、連結される複数の構造体からなるアーチ橋の構造物400に有孔チューブ構造体を適用することもできる。
図12の構造物400は、補剛桁410と、アーチリブ420と、複数の支柱430と、床版440と、を有し、補剛桁410、アーチリブ420及び各支柱430が有孔チューブ構造体により構成される。
図13に示すように、補剛桁410は、断面円形に形成され、幅方向に一対に設けられ、構造物400の幅方向外側に配置される。各補剛桁410は、幅方向へ延びる断面円形の梁部415により連結される。また、支柱430は、断面円形に形成され、アーチリブ420と各支柱430とを連結する。
図13に示すように、この構造物400は、トラス構造を有している。
【0045】
図14に示すように、アーチ橋以外の橋の構造物500に有孔チューブ構造体を適用することもできる。
図14の構造物500は、基礎510と、柱520と、橋桁530と、床版540と、を有し、柱520及び橋桁530が有孔チューブ構造体により構成される。柱520は所定間隔で配置され、橋桁530は2つの柱520に架け渡されている。
図14及び
図15に示すように、柱520は四角柱状に形成され、橋桁530は断面半円形に形成されている。
【0046】
図16に示すように、円柱状の有孔チューブ構造体の組み合わせにより橋の構造物600を構築することもできる。
図16の構造物600は、基礎610と、柱620と、橋桁630と、床版640と、を有し、柱620及び橋桁630が有孔チューブ構造体により構成される。柱620は所定間隔で配置され、橋桁630は2つの柱620に架け渡されている。
図16及び
図17に示すように、柱620及び橋桁630は、それぞれ、複数の円柱状の有孔チューブ構造体を構造物600の幅方向に並べて構成されている。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0048】
1 有孔チューブ構造体
10 構造体本体
11 チューブ補強部
20 チューブ
21 孔
100 構造物
200 構造物
300 構造物
400 構造物
500 構造物
600 構造物
S1 チューブ準備工程
S3 コンクリート充填工程
S4 余剰水排出工程
S5 コンクリート硬化工程