(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165469
(43)【公開日】2023-11-16
(54)【発明の名称】波浪計測装置、波浪計測方法、及び、波浪計測プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 15/06 20060101AFI20231109BHJP
G01S 7/526 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
G01S15/06
G01S7/526 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076490
(22)【出願日】2022-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】津久井 智也
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA02
5J083AB14
5J083AC30
5J083AD05
5J083AD13
5J083AE06
5J083AF18
5J083BE10
5J083BE44
5J083CA02
(57)【要約】
【課題】水面の広い範囲にわたって観測を行う場合であっても観測時間を増やすことなく、水面の波の波高及び波長に関する情報を得ることができる波浪計測装置、波浪計測方法、及び、波浪計測プログラムを提供する。
【解決手段】波浪計測装置、波浪計測方法、及び、波浪計測プログラムは、水中から水面に向けて、所定の広さの放射方向を有する音波の送信を行う送信部と、音波の水面での反射波を受信する受信部と、送信部及び受信部と接続されたコントローラを用いる。音波及び反射波に基づいて水面のインパルス応答を算出する。インパルス応答の周波数ごとの位相を算出し、複数のインパルス応答に基づいて、周波数ごとの位相の標準偏差を算出する。そして、周波数と標準偏差の間の関係に基づいて、水面における波の波高及び波長を推定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中から水面に向けて、所定の広さの放射方向を有する音波の送信を行う送信部と、
前記音波の前記水面での反射波を受信する受信部と、
前記送信部及び前記受信部と接続されたコントローラと、
を備える波浪計測装置であって、
前記コントローラは、
前記音波及び前記反射波に基づいて前記水面のインパルス応答を算出し、
前記インパルス応答の周波数ごとの位相を算出し、
複数の前記インパルス応答に基づいて、前記周波数ごとの前記位相の標準偏差を算出し、
前記周波数と前記標準偏差の間の関係に基づいて、前記水面における波の波高及び波長を推定する、波浪計測装置。
【請求項2】
前記音波は所定立体角以上の前記放射方向を有する、請求項1に記載の波浪計測装置。
【請求項3】
前記送信部は無指向性トランスデューサである、請求項1に記載の波浪計測装置。
【請求項4】
前記受信部は無指向性トランスデューサである、請求項1に記載の波浪計測装置。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記音波をフーリエ変換して第1信号を算出し、
前記反射波をフーリエ変換して第2信号を算出し、
前記第2信号を前記第1信号で除算して得られる信号を逆フーリエ変換して、前記インパルス応答を算出する、請求項1に記載の波浪計測装置。
【請求項6】
前記コントローラは、前記インパルス応答に対して前記周波数ごとに対応するトーンバースト信号を畳み込んで、前記周波数ごとの前記位相を算出する、請求項1に記載の波浪計測装置。
【請求項7】
前記送信部は、所定信号を疑似雑音系列信号によって変調して形成された前記音波を送信し、
前記受信部は、前記反射波を含む受信音波を受信し、
前記コントローラは、
前記受信音波に対して前記疑似雑音系列信号による相関処理を行って、前記受信音波の中から前記音波に対応付けられる前記反射波を抽出する、請求項1に記載の波浪計測装置。
【請求項8】
水中航走体に搭載される、請求項1に記載の波浪計測装置。
【請求項9】
水中から水面に向けて、所定の広さの放射方向を有する音波の送信を行う送信部と、
前記音波の前記水面での反射波を受信する受信部と、
前記送信部及び前記受信部と接続されたコントローラと、
を用いる波浪計測方法であって、
前記コントローラは、
前記音波及び前記反射波に基づいて前記水面のインパルス応答を算出し、
前記インパルス応答の周波数ごとの位相を算出し、
複数の前記インパルス応答に基づいて、前記周波数ごとの前記位相の標準偏差を算出し、
前記周波数と前記標準偏差の間の関係に基づいて、前記水面における波の波高及び波長を推定する、波浪計測方法。
【請求項10】
水中から水面に向けて、所定の広さの放射方向を有する音波の送信を行う送信部と、前記音波の前記水面での反射波を受信する受信部と、接続されたコンピュータに、
前記音波及び前記反射波に基づいて前記水面のインパルス応答を算出するステップと、
前記インパルス応答の周波数ごとの位相を算出するステップと、
複数の前記インパルス応答に基づいて、前記周波数ごとの前記位相の標準偏差を算出するステップと、
前記周波数と前記標準偏差の間の関係に基づいて、前記水面における波の波高及び波長を推定するステップと、
を実行させるための波浪計測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、波浪計測装置、波浪計測方法、及び、波浪計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、多重ビームソナー・システムを用いて、水中に設置されたシステムからみた1又は複数の方向における海面の波の高さを計測する技術が開示されている。当該技術によれば、システムから測定対象となる方向に位置する海面に対して鋭い指向性を有する音波が送信され、海面での反射波を受信する。音波が送信されてから反射波を受信するまでの往復時間を用いて海面水位が計測される。そして、海面水位の時間変動データから波高スペクトルが算出され、波高スペクトルに基づいて波高及び波長の推定が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される技術によれば、水面上のある1点における水面水位の時間変動データに基づいて波高及び波長の推定が行われる。そのため、水面の広い範囲にわたって観測を行う場合に観測時間が長くなってしまい、短時間で海象情報を得ることが難しいという問題がある。
【0005】
本開示は上述の状況を鑑みて成されたものである。即ち、本開示は、水面の広い範囲にわたって観測を行う場合であっても観測時間を増やすことなく、水面の波の波高及び波長に関する情報を得ることができる波浪計測装置、波浪計測方法、及び、波浪計測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る波浪計測装置は、送信部と、受信部と、コントローラと、を備える。送信部は、水中から水面に向けて、所定の広さの放射方向を有する音波の送信を行う。受信部は、上記音波の上記水面での反射波を受信する。コントローラは、上記送信部及び上記受信部と接続される。また、上記コントローラは、上記音波及び上記反射波に基づいて上記水面のインパルス応答を算出し、上記インパルス応答の周波数ごとの位相を算出する。そして、上記コントローラは、複数の上記インパルス応答に基づいて、上記周波数ごとの上記位相の標準偏差を算出し、上記周波数と上記標準偏差の間の関係に基づいて、上記水面における波の波高及び波長を推定する。
【0007】
上記音波は所定立体角以上の上記放射方向を有するものであってもよい。
【0008】
上記送信部は無指向性トランスデューサであってもよい。
【0009】
上記受信部は無指向性トランスデューサであってもよい。
【0010】
上記コントローラは、上記音波をフーリエ変換して第1信号を算出し、上記反射波をフーリエ変換して第2信号を算出し、上記第2信号を上記第1信号で除算して得られる信号を逆フーリエ変換して、上記インパルス応答を算出するものであってもよい。
【0011】
上記コントローラは、上記インパルス応答に対して上記周波数ごとに対応するトーンバースト信号を畳み込んで、上記周波数ごとの上記位相を算出するものであってもよい。
【0012】
上記送信部は、所定信号を疑似雑音系列信号によって変調して形成された上記音波を送信し、上記受信部は、上記反射波を含む受信音波を受信するものであってもよい。そして、上記コントローラは、上記受信音波に対して上記疑似雑音系列信号による相関処理を行って、上記受信音波の中から上記音波に対応付けられる上記反射波を抽出するものであってもよい。
【0013】
波浪計測装置は、水中航走体に搭載されてもよい。
【0014】
本開示に係る波浪計測方法は、送信部と、受信部と、コントローラと、を用いる。送信部は、水中から水面に向けて、所定の広さの放射方向を有する音波の送信を行う。受信部は、上記音波の上記水面での反射波を受信する。コントローラは、上記送信部及び上記受信部と接続される。上記コントローラは、上記音波及び上記反射波に基づいて上記水面のインパルス応答を算出し、上記インパルス応答の周波数ごとの位相を算出する。そして、上記コントローラは、複数の上記インパルス応答に基づいて、上記周波数ごとの上記位相の標準偏差を算出し、上記周波数と上記標準偏差の間の関係に基づいて、上記水面における波の波高及び波長を推定する。
【0015】
本開示に係る波浪計測プログラムは、水中から水面に向けて、所定の広さの放射方向を有する音波の送信を行う送信部と、上記音波の上記水面での反射波を受信する受信部と、接続されたコンピュータに、次のステップを実行させる。上記音波及び上記反射波に基づいて上記水面のインパルス応答を算出するステップを実行させる。上記インパルス応答の周波数ごとの位相を算出するステップを実行させる。複数の上記インパルス応答に基づいて、上記周波数ごとの上記位相の標準偏差を算出するステップを実行させる。上記周波数と上記標準偏差の間の関係に基づいて、上記水面における波の波高及び波長を推定するステップを実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、水面の広い範囲にわたって観測を行う場合であっても観測時間を増やすことなく、水面の波の波高及び波長に関する情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示の実施形態に係る波浪計測装置を使用する環境の一例を示す模式図である。
【
図2】波浪計測装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】波浪計測装置の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】位相の標準偏差とレイリーパラメータの間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、いくつかの例示的な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
[波浪計測装置を使用する環境]
図1は、本開示の実施形態に係る波浪計測装置を使用する環境の一例を示す模式図である。
図1に示すように、波浪計測装置1は、例えば、水中を航行可能な水中航走体400に搭載され、水面100に向けて送信音波R1を送信する。また、波浪計測装置1は、水面100での送信音波R1の反射波を含む受信音波R2を受信する。波浪計測装置1は、受信音波R2に含まれる反射波に基づいて、水面100における波の波高及び波長を推定する装置である。
【0020】
なお、水中にある波浪計測装置1から水面100に向けて送信される送信音波R1は、所定の広さの放射方向を有する。これにより、送信音波R1は、水面100の所定の広さを有するエリアをカバーでき、カバーされたエリアにおける波の波高及び波長を推定することが可能となる。なお、送信音波R1が有する「所定の広さの放射方向」については、後述する。
【0021】
波浪計測装置1を動作させながら水中航走体400が航行することにより、水面100の広い範囲にわたって観測を行い、水面100の広い範囲における波の波高及び波長に関する情報を得ることができる。波浪計測装置1は、水面100のある1点における波の波高及び波長のみならず、水面100の所定の広さを有するエリアにおける波の波高及び波長を推定する。そのため、水面100の広い範囲にわたって観測を行う場合であっても、観測時間が増大することが抑制される。
【0022】
[波浪計測装置の構成]
図2は、波浪計測装置の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、波浪計測装置1は、送信部10と、受信部20と、コントローラ30と、操作部27と、提示部29と、を備える。コントローラ30は、送信部10、受信部20、操作部27、提示部29と通信可能なように接続される。その他、コントローラ30は、図示しない、波浪計測装置1の外部のコンピュータなどに接続されて、情報の送受信を行うものであってもよい。
【0023】
なお、操作部27及び提示部29は、波浪計測装置1自体が備えていてもよいし、波浪計測装置1の外部に設置されて、波浪計測装置1と接続されるものであってもよい。
【0024】
送信部10は、水中から水面に向けて、所定の広さの放射方向を有する送信音波R1(音波)の送信を行う。ここで、「所定の広さの放射方向」とは、送信音波R1の放射方向(進行方向)に広がりがあることを意味する。例えば、送信音波R1の進行方向は、送信部10を頂点とする錐体を形成し、錐体によって切り取られる立体角が所定の大きさ以上となるよう設定されたものであってもよい。
【0025】
送信音波R1を送信する送信部10は、無指向性トランスデューサであってもよい。無指向性トランスデューサとは、指向性の広い(放射方向が一方向に向いている度合いが小さい)音波を送信するトランスデューサである。
【0026】
なお、送信部10から送信される送信音波R1は、所定信号を疑似雑音系列信号によって変調して形成したものであってもよい。疑似雑音系列信号によって変調することにより、複数回送信される送信音波R1が互いに独立した音波となる。その結果、後述する受信部20によって受信した受信音波R2に含まれる反射波が、送信部10によって複数回送信される送信音波R1のいずれに対応するかを判定することができる。そのため、送信部10は、送信した送信音波R1に対応する反射波を受信部20によって受信することを待つことなく、次の送信音波R1を送信可能である。
【0027】
送信部10は、図示しないデジタルアナログ変換器および信号増幅器を備えるものであってもよい。これにより、送信部10は、送信音波R1を示す符号で表されたデジタル信号を、振幅の時間変動によって表現されたアナログ信号に変換するものであってもよい。
【0028】
受信部20は、送信音波R1の水面100での反射波を含む受信音波R2を受信する。例えば、受信部20は、無指向性トランスデューサであってもよい。無指向性トランスデューサとは、特定の方向から到来した音波のみならず、広がりのある方向から到来した音波を受信するトランスデューサである。すなわち、受信部20は、受信感度のある音波の到来方向に広がりを有する。
【0029】
受信部20は、図示しないアナログデジタル変換器および信号増幅器を備えるものであってもよい。これにより、受信部20は、受信音波R2を示すアナログ信号の振幅を離散的な周期で切り出し、受信音波R2を符号で表されたデジタル信号に変換するものであってもよい。
【0030】
操作部27は、波浪計測装置1の監視員・保守員など、ユーザが操作を行うことができる入力装置である。例えば、操作部27は、キーボード、マウス、トラックボール、タッチパネルなどである。操作部27は、ここに挙げた例に限定されない。操作部27を介して入力されたユーザの操作内容は、コントローラ30に送信される。
【0031】
提示部29は、コントローラ30から受信した情報を表示する。また、提示部29は、コントローラ30によって推定された、水面100における波の波高及び波長を、ユーザに提示するものであってもよい。例えば、提示部29は、複数の表示画素の組合せにより図形、文字を表示するディスプレイであってもよいし、回転灯、ブザーなどであってもよい。提示部29は、ここに挙げた例に限定されない。
【0032】
コントローラ30(制御部、コンピュータ)は、CPU(中央処理装置)、メモリ、及び入出力部を備える汎用のマイクロコンピュータである。コントローラ30には、波浪計測装置1として機能するためのコンピュータプログラム(波浪計測プログラム)がインストールされている。コンピュータプログラムを実行することにより、コントローラ30は、波浪計測装置1が備える複数の情報処理回路(31、33、35、37、39)として機能する。なお、コンピュータプログラム(波浪計測プログラム)は、コンピュータによって読み書き可能な記憶媒体に格納されるものであってもよい。
【0033】
本開示では、ソフトウェアによって複数の情報処理回路(31、33、35、37、39)を実現する例を示す。ただし、以下に示す各情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して、情報処理回路(31、33、35、37、39)を構成することも可能である。また、複数の情報処理回路(31、33、35、37、39)を個別のハードウェアにより構成してもよい。
【0034】
図2に示すように、コントローラ30は、複数の情報処理回路(31、33、35、37、39)として、前処理部31、インパルス応答算出部33、位相算出部35、統計量算出部37、推定部39を備える。
【0035】
前処理部31は、受信部20で受信した受信音波R2に対して前処理を実行する。例えば、前処理部31は、ノイズ等を除去し、受信音波R2に含まれる反射波を抽出する。また、前処理部31は、抽出した反射波に対応付けられる送信音波R1を特定する。
【0036】
例えば、前処理部31は、送信音波R1が疑似雑音系列信号によって搬送波信号を変調して形成されている場合に、受信音波R2に対して、疑似雑音系列信号による相関処理を行って、抽出した反射波に対応付けられる送信音波R1を特定するものであってもよい。
【0037】
インパルス応答算出部33は、送信音波R1及び抽出した反射波に基づいて、水面100のインパルス応答を算出する。例えば、インパルス応答算出部33は、送信音波R1をフーリエ変換して第1信号を算出し、送信音波R1に対応付けられる反射波をフーリエ変換して第2信号を算出する。そして、インパルス応答算出部33は、第2信号を第1信号で除算して得られる信号を逆フーリエ変換して、インパルス応答を算出する。
【0038】
上記の例では、フーリエ変換及び逆フーリエ変換を用いてインパルス応答を算出したが、ラプラス変換及び逆ラプラス変換を用いてインパルス応答を算出するものであってもよい。
【0039】
なお、インパルス応答算出部33は、複数回送信された送信音波R1、及び、送信音波R1に対応して複数回受信された受信音波R2に基づいて、複数のインパルス応答を算出する。
【0040】
位相算出部35は、インパルス応答の周波数ごとの位相を算出する。例えば、位相算出部35は、インパルス応答に対して周波数ごとに対応するトーンバースト信号を畳み込んで、周波数ごとの位相を算出する。ここで、トーンバースト信号とは、一定周期のみの正弦波と無音部からなる試験信号であり、周波数および正弦波の継続時間を指定することで一意に決定される。正弦波の継続時間は、位相を算出できるよう適した長さが事前に設定されるものであってもよい。
【0041】
インパルス応答に対してトーンバースト信号を畳み込むことにより、インパルス応答における位相の時間変動が得られる。なお、位相の時間変動を抽出するため、位相算出部35は、インパルス応答に対してトーンバースト信号を畳み込んで得られる信号に対して、直交検波を行うものであってもよい。位相算出部35は、トーンバースト信号における継続時間の間での位相の平均値を算出する。
【0042】
算出した位相の平均値(以下、「位相」として記載)は、対応する周波数及び畳み込みで用いたインパルス応答と紐付けられて、図示しないデータベース、記憶部等に格納される。
【0043】
統計量算出部37は、複数のインパルス応答に基づいて、周波数ごとの位相の標準偏差を算出する。位相算出部35での処理により、周波数ごとに、インパルス応答の数と同じ数の位相が算出されている。したがって、インパルス応答の数と同じ数の位相を計算対象として、位相の標準偏差を算出する。これにより、周波数ごとの位相の標準偏差が算出される。
【0044】
推定部39は、周波数と標準偏差の間の関係に基づいて、水面100における波の波高及び波長を推定する。以下に示すように、発明者は、周波数と標準偏差の間の関係として、位相の標準偏差σθと水面100の凹凸の粗さを示すレイリーパラメータとの間に成立する関係を用いて、波の波高及び波長を推定することができるという知見を得た。
【0045】
送信音波R1が水面100で反射することで生成される反射波の特性のうち、位相の標準偏差σθは、水面100の凹凸の粗さを示すレイリーパラメータとのあいだに良い相関がある。周波数fを有する水中の音波の波数k、及び、水面100における波の波高σzを用いて、レイリーパラメータは、「2kσz」によって表現される。
【0046】
図4は、位相の標準偏差とレイリーパラメータの間の関係を示す図である。
図4に示すように、レイリーパラメータが小さい領域(レイリーパラメータが1.8未満の領域)において、位相の標準偏差σ
θは、レイリーパラメータに比例して増加する傾向を示す。
【0047】
したがって、推定部39は、レイリーパラメータが1.8未満の領域において、数式「σθ=2kσz」で示される直線FL1で、位相の標準偏差の分布を近似できるよう、フィッティングパラメータである波高σzを調整する。そして、推定部39は、調整後の波高σzを、水面100における波の波高として推定する。
【0048】
なお、直線FL1で、位相の標準偏差の分布を近似する領域は、レイリーパラメータが1.8未満の領域に含まれていればよく、上記の例に限定されない。例えば、推定部39は、レイリーパラメータが1未満の領域で、直線FL1が位相の標準偏差の分布を近似するよう、フィッティングパラメータである波高σzを調整するものであってもよい。
【0049】
一方、
図4に示すように、レイリーパラメータが大きい領域(レイリーパラメータが1.8以上の領域)において、位相の標準偏差σ
θは、レイリーパラメータが増大するにつれて、1.8程度の値(より詳細には、「π/√3」)に近づく傾向を示す。これは、位相が-π~π[rad]の範囲の値で表現されるため、-π~π[rad]の範囲を超えた位相は再び-π~π[rad]で表現されることに起因する。レイリーパラメータが1.8未満の領域において位相変動は正規分布の確率分布を有する。一方、レイリーパラメータが1.8以上の領域においては、位相が-π~π[rad]の範囲を超えるため、位相変動の確率分布は一様分布に収束する。「π/√3」は位相が-π~π[rad]の範囲で位相が一様分布となった際の標準偏差を示している。
【0050】
推定部39は、数式「σθ=2kσz」で示される直線FL1で、位相の標準偏差の分布を近似できるよう、フィッティングパラメータである波高σzを調整する。ここで、水面100の波の波長よりも大きな波長となる周波数の音波の波数kを用いた場合、位相変動σθが2kσzよりも小さくなる傾向が得られる。これは水面100の波の波長よりも音波の波長が大きくなった場合、音波は水面の波の凹凸が認識できず、水面は鏡面反射のふるまいを示すため、位相変動σθが小さくなることに起因する。
【0051】
推定部39は、位相変動σθが2kσzよりも小さくなる傾向を示す場合から位相の標準偏差の分布を近似できるようになる場合に切り替わる転換点に対応する波数kを抽出する。そして、推定部39は、抽出した波数kに対応する波長λを、水面100における波の波長として推定する。
【0052】
[波浪計測装置の処理手順]
次に、本開示に係る波浪計測装置の処理手順を、
図3を参照して説明する。
図3は、波浪計測装置の処理手順を示すフローチャートである。
図3に示されるフローチャートの処理は、ユーザの指示に基づいて開始されるものであってもよいし、繰り返し実行されるものであってもよい。
【0053】
ステップS101において、水中から水面に向けて、送信部10から送信音波R1(音波)の送信を行う。ここで、複数個の送信音波R1を送信する。
【0054】
ステップS103において、受信部20で反射波(又は、反射波を含む受信音波R2)を受信する。
【0055】
なお、ステップS101において複数個の送信音波R1を送信する間に、ステップS103が実行されてもよい。
【0056】
ステップS105において、インパルス応答算出部33は、複数のインパルス応答を算出する。算出されるインパルス応答の個数は、受信した受信音波R2に含まれる反射波の個数と等しくてもよいし、受信した受信音波R2に含まれる反射波の個数よりも少なくてもよい。
【0057】
ステップS107において、位相算出部35は、複数のインパルス応答の中から、計算対象となる一のインパルス応答を選択する。
【0058】
ステップS109において、位相算出部35は、複数の周波数の中から、計算対象となる周波数を選択する。
【0059】
ステップS111において、位相算出部35は、周波数に対応する位相を算出する。より具体的には、位相算出部35は、選択したインパルス応答に対して、選択した周波数に対応するトーンバースト信号を畳み込んで、周波数に対応する位相を算出する。
【0060】
ステップS113において、位相算出部35は、全ての周波数に対して位相を算出したかどうかを判定する。
【0061】
全ての周波数に対して位相を算出していない場合(ステップS113にてNOの場合)、ステップS109に戻り、未選択の周波数の中から、計算対象となる周波数を選択する。
【0062】
一方、全ての周波数に対して位相を算出した場合(ステップS113にてYESの場合)、ステップS115において、位相算出部35は、全てのインパルス応答に対して位相を算出したかどうかを判定する。
【0063】
全てのインパルス応答に対して位相を算出していない場合(ステップS115にてNOの場合)、ステップS107に戻り、未選択のインパルス応答の中から、計算対象となる一のインパルス応答を選択する。
【0064】
一方、全てのインパルス応答に対して位相を算出した場合(ステップS115にてYESの場合)、ステップS117において、統計量算出部37は、周波数ごとに位相の標準偏差を算出する。
【0065】
ステップS119において、推定部39は、周波数と標準偏差の間の関係に基づいて、水面100における波の波高及び波長を推定する。その後、
図3の処理手順を終了する。
【0066】
[実施形態の効果]
以上詳細に説明したように、本開示に係る波浪計測装置、波浪計測方法、及び、波浪計測プログラムは、送信部と、受信部と、コントローラと、を用いる。送信部は、水中から水面に向けて、所定の広さの放射方向を有する音波の送信を行う。受信部は、上記音波の上記水面での反射波を受信する。コントローラは、上記送信部及び上記受信部と接続される。上記コントローラは、上記音波及び上記反射波に基づいて上記水面のインパルス応答を算出し、上記インパルス応答の周波数ごとの位相を算出する。そして、上記コントローラは、複数の上記インパルス応答に基づいて、上記周波数ごとの上記位相の標準偏差を算出し、上記周波数と上記標準偏差の間の関係に基づいて、上記水面における波の波高及び波長を推定する。
【0067】
これにより、水面の広い範囲にわたって観測を行う場合であっても観測時間を増やすことなく、水面の波の波高及び波長に関する情報を得ることができる。
【0068】
特に、水面のある1点における波の波高及び波長のみならず、水面の所定の広さを有するエリアにおける波の波高及び波長を推定できるため、水面の広い範囲にわたって観測を行う場合であっても、観測時間が増大することが抑制される。
【0069】
本開示に係る波浪計測装置、波浪計測方法、及び、波浪計測プログラムにおいて、上記音波は所定立体角以上の上記放射方向を有するものであってもよい。これにより、水面の広い範囲にわたって、短時間に水面の波の波高及び波長に関する情報を得ることができる。
【0070】
本開示に係る波浪計測装置、波浪計測方法、及び、波浪計測プログラムにおいて、上記送信部は無指向性トランスデューサであってもよい。これにより、水面の広い範囲にわたって、短時間に水面の波の波高及び波長に関する情報を得ることができる。
【0071】
本開示に係る波浪計測装置、波浪計測方法、及び、波浪計測プログラムにおいて、上記受信部は無指向性トランスデューサであってもよい。これにより、水面の広い範囲にわたって、短時間に水面の波の波高及び波長に関する情報を得ることができる。
【0072】
本開示に係る波浪計測装置、波浪計測方法、及び、波浪計測プログラムは、上記音波をフーリエ変換して第1信号を算出し、上記反射波をフーリエ変換して第2信号を算出するものであってもよい。そして、上記第2信号を上記第1信号で除算して得られる信号を逆フーリエ変換して、上記インパルス応答を算出するものであってもよい。これにより、水面の波の波高及び波長に関する情報をインパルス応答として取得することができ、インパルス応答に基づいて、水面の波の波高及び波長に関する情報を抽出することができる。
【0073】
本開示に係る波浪計測装置、波浪計測方法、及び、波浪計測プログラムは、上記インパルス応答に対して上記周波数ごとに対応するトーンバースト信号を畳み込んで、上記周波数ごとの上記位相を算出するものであってもよい。これにより、インパルス応答に含まれる、水面での音波の散乱に関する情報を抽出することができる。その結果、水面の波の波高及び波長に関する情報を抽出することができる。
【0074】
本開示に係る波浪計測装置、波浪計測方法、及び、波浪計測プログラムにおいて、上記送信部は、所定信号を疑似雑音系列信号によって変調して形成された上記音波を送信し、上記受信部は、上記反射波を含む受信音波を受信するものであってもよい。そして、本開示に係る波浪計測装置、波浪計測方法、及び、波浪計測プログラムは、上記受信音波に対して上記疑似雑音系列信号による相関処理を行って、上記受信音波の中から上記音波に対応付けられる上記反射波を抽出するものであってもよい。
【0075】
これにより、複数回送信される音波が互いに独立した音波となる。その結果、受信した受信音波に含まれる反射波が、複数回送信される音波のいずれに対応するかを判定することができる。そのため、送信した音波に対応する反射波を受信することを待つことなく、次の音波を送信可能である。その結果、観測時間を短縮することができる。
【0076】
本開示に係る波浪計測装置、波浪計測方法、及び、波浪計測プログラムは、水中航走体に搭載されて、処理を実行するものであってもよい。これにより、水中航走体が航行することで、水面の広い範囲にわたって観測を行い、水面の広い範囲における波の波高及び波長に関する情報を得ることができる。
【0077】
上述の実施形態で示した各機能は、1又は複数の処理回路によって実装されうる。処理回路には、プログラムされたプロセッサ、電気回路などが含まれ、さらには、特定用途向けの集積回路(ASIC)のような装置、又は、記載された機能を実行するよう配置された回路構成要素なども含まれる。
【0078】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 波浪計測装置
10 送信部
20 受信部
27 操作部
29 提示部
30 コントローラ
31 前処理部
33 インパルス応答算出部
35 位相算出部
37 統計量算出部
39 推定部
100 水面
400 水中航走体