(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165488
(43)【公開日】2023-11-16
(54)【発明の名称】土壌及び地下水浄化方法、比抵抗値測定装置、並びに土壌及び地下水浄化システム
(51)【国際特許分類】
B09C 1/06 20060101AFI20231109BHJP
B09C 1/08 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
B09C1/06
B09C1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076537
(22)【出願日】2022-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 徹朗
(72)【発明者】
【氏名】瀬野 光太
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB03
4D004AB05
4D004AC07
4D004CA22
4D004CA34
4D004CA44
4D004CA50
4D004CB31
4D004DA01
4D004DA02
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち変動する土壌の比抵抗値を勘案したうえで土壌を加温し、汚染された土壌と地下水を原位置にて浄化する技術を提供することである。
【解決手段】本願発明の土壌及び地下水浄化方法は、汚染された土壌と地下水を浄化する方法であって、測定工程と薬液注入工程、土壌加温工程、回収工程、復水工程を備えた方法である。測定工程では比抵抗値測定装置を用いて土壌の比抵抗値を測定し、土壌加温工程では土壌に電流を流すことによって土壌を加温する。なお、測定工程では注入井戸に注入される液体を含む土壌の比抵抗値を測定し、土壌加温工程では測定工程で測定された比抵抗値に応じて電圧を調整したうえで電極井戸に印加する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染された土壌と地下水を浄化する方法であって、
比抵抗値測定装置を用いて、前記土壌の比抵抗値を測定する測定工程と、
注入井戸を通じて、前記土壌内に薬液を注入する薬液注入工程と、
前記土壌内に構築された3以上の電極井戸に印加して該土壌に電流を流すことによって、該土壌を加温する土壌加温工程と、
加温された前記土壌内のガスと地下水を、回収井戸を通じて回収する回収工程と、
前記回収工程で回収されたガスと地下水に対して回収又は分解を行ったうえで、復水井戸を通じて前記土壌内に戻す復水工程と、を備え、
前記測定工程では、前記注入井戸に注入される液体を含む前記土壌の比抵抗値を測定し、
前記土壌加温工程では、前記測定工程で測定された比抵抗値に応じて電圧を調整したうえで、前記電極井戸に印加する、
ことを特徴とする土壌及び地下水浄化方法。
【請求項2】
前記比抵抗値測定装置は、中空で筒状のカラム本体、該カラム本体内に液体を注入する注入手段、及び該カラム本体内に直流電気を通電する通電装置と、を含んで構成され、
前記測定工程では、前記カラム本体内に詰められた前記土壌に液体を注入しながら、該土壌に印加された電圧と電流を計測することによって、液体を含む該土壌の比抵抗値を測定する、
ことを特徴とする請求項1記載の土壌及び地下水浄化方法。
【請求項3】
液体を含む土壌の比抵抗値を測定する装置であって、
中空で筒状のカラム本体と、
前記カラム本体内に液体を注入する注入手段と、
前記カラム本体内に直流電気を通電する通電装置と、を備え、
前記カラム本体内に詰められた試料土壌に前記注入手段が液体を注入しながら、該試料土壌に印加された電圧と電流を計測することによって、液体を含む該試料土壌の比抵抗値を測定する、
ことを特徴とする比抵抗値測定装置。
【請求項4】
汚染された土壌と地下水を浄化するシステムであって、
前記土壌内に構築された3以上の電極井戸と、
前記電極井戸に電気を印加する電源装置と、
前記土壌内に液体を注入する注入井戸と、
前記土壌内のガスと地下水を吸引する回収井戸と、
比抵抗値測定装置と、を備え、
前記電源装置によって前記電極井戸に印加して前記土壌に電流を流すと、該土壌が加温されることに伴って該土壌内のガスと地下水の回収が促進され、
前記比抵抗値測定装置は、前記注入井戸に注入される液体を含む前記土壌の比抵抗値を測定可能であり、
測定された前記土壌の比抵抗値に応じて、前記電極井戸に印加する電圧を調整することができる、
ことを特徴とする土壌及び地下水浄化システム。
【請求項5】
前記比抵抗値測定装置は、中空で筒状のカラム本体、該カラム本体内に液体を注入する注入手段、及び該カラム本体内に直流電気を通電する通電装置と、を含んで構成され、
また前記比抵抗値測定装置は、前記カラム本体内に詰められた前記土壌に液体を注入しながら、該土壌に印加された電圧と電流を計測することによって、液体を含む該土壌の比抵抗値を測定することができる、
ことを特徴とする請求項4記載の土壌及び地下水浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、汚染された土壌及び地下水を原位置にて浄化する技術に関するものであり、より具体的には、事前に対象土壌の比抵抗値の変化を把握したうえで、その比抵抗値の変化に応じて加温を制御する電気発熱法を活用して浄化する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土壌汚染とは、人の健康にとって有害な物質で土壌が汚染された状態のことを指し、操業活動における不用意な取り扱いによって有害物質が地表から浸透することで発生したり、排煙に含まれる有害物質が地表面に降下して堆積や浸透することで発生したり、あるいは盛土や埋土が行われる際に汚染土壌が持ち込まれることで発生することもある。また、汚染された土壌から有害物質が地下水に溶け出し、地下水汚染を発生することも多い。この有害物質は土壌汚染対策法によって指定されており、現在、VOC(第1種特定有害物質)と重金属等(第2種特定有害物質)、農薬等(第3種特定有害物質)に分類され、具体的に26の物質が特定有害物質に挙げられている。日本国内においては、法的な規制はないものの油類による土壌地下水汚染が顕在化し、問題となる場合も多い。さらに近年では、1,4-ジオキサンや有機ふっ素化合物など、土壌汚染対策法の規制以外の有害物質による土壌・地下水汚染が問題となっている。
【0003】
近年、土壌と地下水汚染の浄化対策の分野でも、サステイナブルレメディエーションの考え方が浸透しつつある。このサステイナブルレメディエーションは、環境面のリスクや負荷を低減しつつ、社会的、経済的、環境的な影響を含めてバランスのとれた浄化対策の手法を選択するための評価、意思決定の手法であって、広くステークホルダー(利害関係人)の合意を形成しながら、浄化対策を進めていくことを特徴とする手法である。これにより、多大なコストやエネルギーが必要となる掘削除去にこだわることなく、リスクに応じた合理的な浄化対策を柔軟に選定することが可能となる。
【0004】
従来、操業中の工場などでは、汚染地下水の揚水対策や土壌ガス吸引などによる原位置浄化や拡散防止対策が実施されてきたが、十数年継続しても環境基準への適合が達成できず、現在もなお 継続実施しているサイトも多くあり、工場などの事業継続や跡地利用が制限されるなど、企業の大きな負担となっている。従来技術によって十分な効果が得られないのは、粘土層の細孔部に存在する有害物質(重金属、揮発性有機化合物、難分解性有機化合物等)の移動性が低いため、通常の揚水対策では回収することができないか、できたとしても極めて限定的であることがその理由として挙げられる。
【0005】
また、揚水した地下水をサイト外に排出するためには基準値に適合するように適切な処理を行わなければならないところ、サイトによっては揚水した地下水の処理設備(地下水浄化設備)がなかったり、あるいは下水道へ排除する費用が膨大となったりするなど、様々な理由から揚水対策も含め、積極的な対策を講じることができないことも少なくない。
【0006】
このように、従来の原位置浄化技術は、早期に十分な効果が得られない、揚水した地下水の処理が困難である、といった問題を抱えている。そして現状においては、粘性土に土壌汚染が存在する場合、掘削除去方法を採用するか、あるいは莫大な対策コストのため浄化自体を断念するかのいずれかの選択を余儀なくされている。これに伴い事業継続のリスクとなったり、跡地利用が進まなくなったりすることも考えられる。
【0007】
そこで、特に粘性土層を対象とした浄化対策であって、低コストでしかも確実な浄化対策技術の開発が望まれており、これまでにも種々の改良技術が提案されてきた。例えば特許文献1では、地下水揚水装置によって地下水位を低下させ、さらに電気発熱法によって土壌を加温したうえで、回収井戸内に発生するVOCを含むガスを吸引する浄化技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示される技術は、電気発熱法を利用することとしており、そのため効率的に土壌温度を所定温度(例えば40~90℃)に昇温することができ、しかも安定的にその所定温度を維持することができる。その結果、回収井戸内に発生するVOCを含むガスを効果的に回収することができるわけである。
【0010】
ところで、揚水した地下水をサイト外に排出するコスト負担回避や環境負荷を低減するには、当該サイト内で処理することが考えられる。揚水した汚染地下水に含まれる有害物質をある程度除去した後、当該サイトの同一帯水層に復水(つまり、地下水循環)するわけである。系外に排出しないことから基準値に適合する必要がなく、これにより恒久的な地下水浄化設備が不要となり、また新たな下水処理 コストも発生しないうえに、循環系を構築するため浄化(揚水)による汚染物質の拡散を防止することも可能となる。
【0011】
一方で、粘土層の細孔部に存在する有害物質の低移動性に起因する問題、すなわち通常の揚水対策では回収することができないか、できたとしても極めて限定的であるという問題は残っており、したがって循環方式(復水方式)を採用したとしても早期に十分な効果が得られないという問題は解決されない。そこで、特許文献1に開示される技術と循環方式を組み合わせることが考えられる。ところが、特許文献1で取り入れられた電気発熱法は、その昇温効果が土壌の比抵抗値に大きく影響を受けるという特性を有している。そして、循環方式を採用して土壌内で地下水を循環させたり、あるいは薬剤を注入したりすると、これに応じて土壌の比抵抗値は変化する。通常、事前のボーリング調査によって採取した土壌コアから得られる比抵抗値を利用して電気発熱法の加温シミュレーションを行い、対象土壌の加温や消費電力の予測評価を実施したうえで、設計及び実施工を行っているが、循環方式を採用した場合、比抵抗値が変動することから当初の比抵抗値をもって加温シミュレーションを行ったとしても適切な加温予測評価を得ることはできない。
【0012】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち変動する土壌の比抵抗値を勘案したうえで土壌を加温し、汚染された土壌と地下水を原位置にて浄化する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明は、地下水循環や薬剤注入などの浄化対策による土壌の比抵抗値の変動状況を事前に把握したうえで、その比抵抗値の変動状況を勘案しつつ土壌を加温し、汚染された土壌と地下水を原位置にて浄化する、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0014】
本願発明の土壌及び地下水浄化方法は、汚染された土壌と地下水を浄化する方法であって、測定工程と薬液注入工程、土壌加温工程、回収工程、復水工程を備えた方法であり、さらに処理工程を備えた方法とすることもできる。このうち測定工程では、比抵抗値測定装置を用いて土壌の比抵抗値を測定し、薬液注入工程では、注入井戸を通じて土壌内に薬液を注入する。また土壌加温工程では、土壌内に構築された3以上の電極井戸に印加して土壌に電流を流すことによって土壌を加温し、回収工程では、回収井戸を通じて加温された土壌内のガスと地下水を回収し、復水工程では、回収工程で回収されたガスと地下水に対してばっ気等により有害物質が含まれる回収地下水から有害物質を除去したり、分解したりしたうえで復水井戸を通じて土壌内に戻す。なお必要に応じて処理工程において、回収したガスや地下水の処理を行うことができる。また測定工程では、注入井戸に注入される液体を含む土壌の比抵抗値を測定し、土壌加温工程では、測定工程で測定された比抵抗値に応じて電圧を調整したうえで電極井戸に印加する。
【0015】
本願発明の土壌及び地下水浄化方法は、本願発明の比抵抗値測定装置を用いて土壌の比抵抗値を測定する方法とすることもできる。この本願発明の比抵抗値測定装置は、浄化対象となる土壌を充填するための中空で筒状のカラム本体と、カラム本体内に液体を注入する注入手段、カラム本体内に直流電気を通電する通電装置を含んで構成される。この場合、測定工程では、カラム本体内に詰められた土壌に液体を注入しながら、土壌に印加された電圧と電流を計測することによって、液体を含む土壌の比抵抗値を測定する。
【0016】
本願発明の比抵抗値測定装置は、液体を含む土壌の比抵抗値を測定する装置であって、浄化対象となる土壌を充填するための中空で筒状のカラム本体と、カラム本体内に液体を注入する注入手段、カラム本体内に直流電気を通電する通電装置を備えたものである。そして、カラム本体内に詰められた試料土壌に注入手段が液体を注入しながら、試料土壌に印加された電圧と電流を計測することによって、液体を含む試料土壌の比抵抗値を測定する。
【0017】
本願発明の土壌及び地下水浄化システムは、汚染された土壌と地下水を浄化するシステムであって、 土壌内に構築された3以上の電極井戸と、電極井戸に電気を印加する電源装置、土壌内に液体を注入する注入井戸、土壌内のガスと地下水を吸引する回収井戸、比抵抗値測定装置を備えたものであり、さらに回収したガスや地下水を浄化する処理装置、を備えたものとすることもできる。電源装置によって電極井戸に印加して土壌に電流を流すと、土壌間隙に有害物質が存在する土壌が加温されることに伴って土壌内のガスと地下水の回収が促進される。また比抵抗値測定装置は、注入井戸に注入される液体を含む土壌の比抵抗値を測定可能であり、測定された土壌の比抵抗値に応じて電極井戸に印加する電圧を調整することができる。
【0018】
本願発明の土壌及び地下水浄化システムは、本願発明の比抵抗値測定装置を備えたものとすることもできる。
【発明の効果】
【0019】
本願発明の土壌及び地下水浄化方法、比抵抗値測定装置、並びに土壌及び地下水浄化システムには、次のような効果がある。
(1)土壌を加温することによって地下水の温度も上昇することから、水の粘性が低下しその体積が膨張することによって間隙水自体の移動性が向上する。また、水蒸気の発生により連続した通気層が形成されることによって水蒸気による汚染物質の移動(水蒸気輸送)が生じ、さらに、汚染物質自体の気化が促進されるとともに溶解度も上昇する。この結果、地下水やガス(水蒸気)に含まれた有害物質を効果的に回収することができる。
(2)本願発明の比抵抗値測定装置を利用することによって、薬剤添加や地下水循環による土壌の比抵抗値の変化を事前に把握することができる。この結果、電極井戸を適切に配置することができ、比抵抗値の変化に応じたいわば適切な電圧によって土壌を加温することができる。
(3)揚水した地下水やガスを対象土壌に戻すことから、基準値に適合するための所定の処理が必要とされない。この結果、恒久的な地下水浄化設備が不要となり、また新たな下水処理コストも発生しないうえに、循環系を構築するため浄化(揚水)による汚染物質の拡散を防止することも可能となる。一方で、簡易な浄化装置を付帯させることによって、復水する水に含む有害物質濃度の低減や、浄化のさらなる促進も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本願発明の土壌及び地下水浄化システムを模式的に示す断面図。
【
図2】電気発熱法を利用した土壌加温装置を模式的に示す断面図。
【
図3】三角形を形成するように平面配置された電極井戸を示す平面図。
【
図4】本願発明の比抵抗値測定装置を模式的に示すモデル図。
【
図5】本願発明の比抵抗値測定装置を用いて試験を行った結果得られた土壌試料の比抵抗値の変動を示すグラフ図。
【
図6】本願発明の比抵抗値測定装置を利用した土壌及び地下水浄化システムを模式的に示す断面図。
【
図7】本願発明の土壌及び地下水浄化方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願発明の土壌及び地下水浄化方法、比抵抗値測定装置、並びに土壌及び地下水浄化システムの実施の例を、図に基づいて説明する。なお、本願発明の土壌及び地下水浄化方法は、本願発明の土壌及び地下水浄化システムを用いて土壌等を浄化する方法である。したがって、まずは本願発明の土壌及び地下水浄化システムについて説明し、その後に本願発明の土壌及び地下水浄化方法について説明することとする。また本願発明の土壌及び地下水浄化システムは、本願発明の比抵抗値測定装置を用いて構成することもできる。そのため本願発明の比抵抗値測定装置については、本願発明の土壌及び地下水浄化システムと併せて説明することとする。
【0022】
1.土壌及び地下水浄化システム
図1は、本願発明の土壌及び地下水浄化システム100を模式的に示す、鉛直面で切断した断面図である。この図に示すように本願発明の土壌及び地下水浄化システム100は、土壌加温装置(電極井戸111と電源装置112)と注入井戸120、回収井戸130、比抵抗値測定装置を含んで構成され、さらに地下水循環装置140やガス吸引装置150などを含んで構成することもできる。なお、土壌及び地下水浄化システム100を構成する比抵抗値測定装置は、浄化しようとする土壌(以下、「対象土壌」という。)の比抵抗値を測定することができるものであり、従来用いられている汎用品を利用することもできるし、後述する本願発明の比抵抗値測定装置を利用することもできる。また地下水循環装置140は、処理装置を付帯したものとすることもできる。以下、土壌及び地下水浄化システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0023】
(土壌加温装置)
土壌加温装置は、対象土壌を所定温度となるまで昇温するとともにその所定温度を維持するため、土壌を加温するものである。土壌の加温手法としては、熱伝導(ヒーター)によって土壌を加熱する手法なども知られているが、本願発明では電気抵抗加熱法の一種である電気発熱法を採用するとよい。この電気発熱法は、土壌自体を発熱させるため均一に加温でき、しかも温度コントロールも容易であり、また電流が流れやすい(電気の比抵抗値が低い)粘土層(高濃度の汚染が存在する場合が多い)の方が昇温しやすく、さらに熱効率が優れているため、有害物質を含む粘土層も昇温することができ、熱伝導(ヒーター)に比べ昇温にかかる消費電力を低減することができる、といった特長を有している。
【0024】
図2は、電気発熱法を利用した土壌加温装置110を模式的に示す断面図である。この図に示すように土壌加温装置110は、対象土壌内に構築された電極井戸111と、地上に設置された電源装置112を含んで構成される。この電極井戸111は鋼製のケーシングで形成されており、電源装置112によって電極井戸111それぞれのケーシングに三相交流電圧を印加することで、電極井戸111間に電流が流れ、その結果、対象土壌にジュール熱が発生し、すなわち対象土壌を昇温させることができる。そのため各電極井戸111は、対象土壌を取り囲むように3以上の箇所に設置する必要があり、例えば
図3に示すように複数の三角形を形成するように配置するとよい。なお
図3に示す4つの三角形はそれぞれ一辺が約3.5mの正三角形となっているが、もちろんこれに限らず種々の形状となるよう電極井戸111を配置することができる。
【0025】
既述したとおり、粘土層の細孔部に存在する有害物質(重金属、揮発性有機化合物、難分解性有機化合物等)は、その移動性が著しく低いことから通常の揚水対策では回収することができないか、できたとしても極めて限定的である。一方、加温により対象土壌の温度が上昇すると、水の粘性が低下するとともにその体積が膨張することによって、間隙水自体の移動性が向上する。また、ガス(例えば、水蒸気)の発生により連続した通気層が形成されることによってそのガスによる有害物質の移動(水蒸気輸送)が生じ、さらに有害物質自体の気化が促進されるとともに溶解度も上昇する。この結果、後述するように間隙水に含まれた有害物質を効果的に回収することができるわけである。
【0026】
上記したとおり電気発熱法は温度コントロールが容易であり、そのため対象土壌の温度を目的の温度まで昇温することも、その目的の温度を維持することも比較的容易である。対象土壌を昇温する目的の温度や維持しようとする温度(以下、「計画温度」という。)は、対象土壌の種類や常時の地温、回収しようとする有害物質の種類、有害物質の回収、分解方法などに基づいてあらかじめ定めておく必要がある。なお本願発明の発明者らが様々な試験を行った結果、計画温度を30~90℃の範囲で設定すれば種々のケースで概ね良好な結果が得られることを見出している。
【0027】
対象土壌の有害物質を十分回収するためには、計画温度で計画期間(例えば、数週間~数箇月)だけ土壌加温装置110で対象土壌を加温するとよい。しかしながら、加温された土壌や地下水の現実の温度は、予測された(あるいは解析された)温度とは異なることも十分考えられる。そのため、実際の温度を観測しながら電極井戸111に印加していくとよい。この場合、
図3に示すように各電極井戸111の間に温度観測井戸WTを構築しておき、この温度観測井戸WTを利用して土壌や地下水の温度を観測するとよい。
【0028】
(注入井戸と回収井戸)
注入井戸120は、対象土壌内に所定の薬液を注入したり、汲み上げられた地下水を再び対象土壌内に注入したりするために用いられる井戸である。一方、回収井戸130は、土壌昇温に伴って生じたガス(水蒸気)や地下水を汲み上げるために用いられる井戸である。これら注入井戸120と回収井戸130は、従来用いられている種々の工法によって削孔し、設置することができ、また従来用いられている種々の材料を用いることができる。なお対象土壌は加温されることになるが、本願発明で利用する電気発熱法は熱伝導(ヒーター)のように高温の熱媒体を必要としないため、比較的安価で調達が容易な塩化ビニル管(昇温温度によっては、耐熱性硬質塩化ビニル管)を注入井戸120や回収井戸130の材料として利用することもできる。
【0029】
注入井戸120を通じて薬液や地下水を注入し、回収井戸130を通じて地下水やガスを汲み上げるには、地下水循環装置140が用いられる。そのためこの地下水循環装置140は、地下水やガスを吸引する機能と、薬液や地下水を送り出す機能を有するものであり、例えば水中ポンプなど従来用いられている種々のポンプを利用することができる。なお、地下水循環装置140は、
図1に示すように地上に設置するとよい。さらに、循環装置140には、回収された地下水に含まれる有害物質を除去する機能を付帯することもできる。以下、注入井戸120と回収井戸130、ガス吸引装置150によって地下水等を循環させる手順について説明する。
【0030】
まず、地下水循環装置140が所定の薬液を送り出し、注入井戸120を通じて対象土壌内にその薬液を注入する。このとき、当然ながら有害物質(重金属、揮発性有機化合物、難分解性有機化合物等)の種類に応じた薬液を選択し、地下水循環装置140によって汲み上げられた地下水とともに薬液を注入するとよい。一方で加温により対象土壌の温度が上昇しており、これに伴って間隙水の移動性が向上し、また連続した通気層が形成されることで水蒸気輸送が生じ、さらに汚染物質自体の気化が促進されるとともに溶解度も上昇している。そして、この状態で地下水循環装置140がガス(水蒸気)や地下水を汲み上げると、その地下水やガスに含まれた有害物質を効果的に回収することができる。地下水循環装置140によって汲み上げられた地下水は、地上にてばっ気処理等により有害物質が含まれる回収地下水から有害物質を除去したり、分解したりしたうえで、再度、地下水循環装置140と注入井戸120によって対象土壌内に注入される。もちろん、ばっ気に代えて、油水分離処理や適当な薬剤処理を施すこともできる。
【0031】
(ガス吸引装置)
土壌昇温に伴って生じたガス(水蒸気)は、回収井戸130を通じて地下水循環装置140が汲み上げると説明したが、地下水循環装置140に加えてガス吸引装置150を利用することもできる。このガス吸引装置150は、回収井戸130を通じて発生したガス類を吸引するものであり、従来用いられている種々のポンプ等を利用することができる。またガス吸引装置130によって吸引されたガスは、40~90℃程度の温度で有害物質を含んでいることから、冷却したうえで有害物質の処理を行うとよい。そのためガス吸引装置150は、ガス類を冷却する機能と、冷却したガス類を気液分離する機能、気液分離によって生じた気体に含まれる有害物質を活性炭等に吸着させる機能、活性炭吸着後に大気へ放出する機能などを有するものが望ましい。なお、ガス吸引装置150は、
図1に示すように地上に設置するとよい。
【0032】
(比抵抗値測定装置)
既述したとおり、循環方式を採用した場合、対象地盤の比抵抗値は変動し、また注入した薬液の量によっても、さらには対象土壌の温度によっても比抵抗値は変動する。そこで本願発明では、対象土壌に対して実施工(電気発熱法による加温や、地下水の循環、薬液の注入)を模した試験(つまり、シミュレーション)を事前に行い、地下水の注入量(復水量)や経過時間、あるいは薬液の注入量に応じてどのように比抵抗値が変動するかを把握することとした。電気発熱法は温度コントロールが容易であることから、あらかじめ対象土壌に係る比抵抗値の変動特性を把握していれば、適切に電極井戸を配置し、電圧や電流を調整したうえで対象土壌にジュール熱を発生させることができるわけである。
【0033】
比抵抗値測定装置は、対象土壌(特に、その試料)の比抵抗値を測定するものであり、従来用いられている汎用品を利用することもできるし、
図4に示す本願発明の比抵抗値測定装置200を利用することもできる。この図に示すように本願発明の比抵抗値測定装置200は、カラム本体210と注入手段220、通電装置230を含んで構成され、さらに注入槽241、注入管242、排水層251、排水管252などを含んで構成することもできる。このうちカラム本体210は、中空の筒状であって土壌試料を充填することができるものである。また注入手段220は、カラム本体210内に収容された土壌試料に液体を注入する手段であり、通電装置230は、注入された液体と土壌試料に直流電気を通電する手段である。以下、比抵抗値測定装置200を用いて土壌試料の比抵抗値を測定する手順について説明する。
【0034】
まず
図4に示すように、カラム本体210内に土壌試料を詰め込むとともに、注入槽241内に所定の液体(水や薬液など)を溜めておく。このとき、複数の層に分けて、締固めながら順に土壌試料を詰め込むとよい。例えば、3層の補助層からなる主層を5層に分けて(つまり、15の補助層)詰め込むこととし、各補助層の締固めは重錘(例えば、125gの重錘)を所定高さ(例えば、20cm)から所定回数(例えば、3回)だけ落下させることで行うことができる。注入槽241とカラム本体210(図では下側)は、注入管242によって連結され、またこの注入管242にはポンプなどの注入手段220が設けられている。これにより注入管242が稼働することによって、注入管242内の液体は注入管242を移動してカラム本体210内の土壌試料に注入される。なお、カラム本体210内でオーバーフローした液体は、排水管252を移動して排水層251内に溜められる。もちろん、排水管252を移動した液体が注入槽241内に溜められることとし、すなわち系内で液体を循環させる仕様とすることもできる。
【0035】
また、土壌試料のうち上下に離れた位置に正電極232と負電極233を設置するとともに、直流電源231(例えば、電池)と正電極232と負電極233が直流となるように電線で接続する。なお、この直流回路上には電流計235が設置され、土壌試料に配置された2つの電位測定ピン234の間の電圧を測定する電圧計236が設置される。
【0036】
ここまでの準備が整うと、注入管242を稼働して注入管242の液体をカラム本体210内の土壌試料に注入するとともに、直流電源231と正電極232、負電極233からなる直流回路を閉じることによって正電極232と負電極233との間に通電する電流と電圧が得られ、これにより土壌試料の比抵抗値を求めることができ、さらに液体の注入量や経過時間に応じた比抵抗値の変動状況を把握することができる。比抵抗値測定装置200を用いて上記の試験を行った結果、
図5に示すような土壌試料の比抵抗値の変動が得られた。この図の例では、液体の注入量が増加するに伴って、そして経過が時間するに伴って、概ね土壌試料の比抵抗値は低下しており、しかもある時期に急激に低下する特性をみせている。このように、対象土壌に係る比抵抗値の変動特性を把握しておけば、適切な電圧や電流に調整したうえで、電気発熱法による対象土壌の加温を行うことができて好適となる。
【0037】
以上説明したように比抵抗値測定装置200は、あらかじめ対象土壌に係る比抵抗値の変動特性を把握するために用いられるものであり、したがって必ずしも対象土壌の周辺(つまり、土壌浄化サイト)に配置する必要はなく、例えば試験室や管理棟など土壌浄化サイトから離れた場所に配置することができる。あるいは
図6に示すように、土壌及び地下水浄化システム100の系内に比抵抗値測定装置200を設置することもできる。この図の例では、回収井戸130と地下水循環装置140を連結する中継管の途中に比抵抗値測定装置200を設置しており、すなわち比抵抗値測定装置200より上流川(図では左側)の中継管が注入管242の機能を果たすとともに、比抵抗値測定装置200より下流川(図では右側)の中継管が排水管252の機能を果たし、さらに地下水循環装置140が注入手段220の機能を果たしている。これにより、土壌浄化の実施工中にリアルタイムで汚染土壌の比抵抗値を測定することができ、あらかじめ比抵抗値の変動特性を確認することができるうえ、当初の想定と相違するときは所定の対策を適宜講じることができる。
【0038】
2.土壌及び地下水浄化方法
続いて、本願発明の土壌及び地下水浄化方法ついて
図7を参照しながら説明する。なお、本願発明の土壌及び地下水浄化方法は、ここまで説明した土壌及び地下水浄化システム100を用いて土壌等を浄化する方法であり、したがって土壌及び地下水浄化システム100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の土壌及び地下水浄化方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.土壌及び地下水浄化システム」で説明したものと同様である。
【0039】
図4に示すように、はじめに比抵抗値測定装置(例えば、本願発明の比抵抗値測定装置200)を利用することによって、対象土壌(特に、その試料)の比抵抗値を測定する(
図7のStep10)。具体的には、まず
図4に示すように比抵抗値測定装置200をセットしたうえで、注入管242を稼働して注入管242の液体をカラム本体210内の土壌試料に注入するとともに、直流回路を閉じることによって正電極232と負電極233間に通電する。そして、測定された電流と電圧や土壌試料温度を適時に記録しながら、
図5に示すような対象土壌に係る比抵抗値の変動特性を得る。そして、加温シミュレーションを行い、電極井戸111の配置計画や、通電する電圧と電流の設計を行う(
図7のStep20)。なお、対象土壌の比抵抗値の測定(
図7のStep10)は、土壌浄化の実施工前に行われ、例えば試験室や管理棟など土壌浄化サイトから離れた場所で行うこともできるし、土壌浄化サイトで行うこともできる。
【0040】
対象土壌に係る比抵抗値の変動特性を把握すると、電源装置112によって電極井戸111間に通電し、対象土壌にジュール熱を発生させることで加温していく(
図7のStep30)。このとき、計画温度で計画期間だけ土壌加温装置110で対象土壌を加温するが、経過時間(加温継続時間)や地下水の循環量(あるいは、注入した薬液量や対象地盤の温度)に応じて適切な電圧や電流に調整したうえで電極井戸111間に通電する。
【0041】
対象土壌の加温が開始されると、地下水循環装置140によって所定の薬液を送り出し、注入井戸120を通じて対象土壌内にその薬液を注入していく(
図7のStep40)。このとき、当然ながら有害物質(重金属、揮発性有機化合物、難分解性有機化合物等)の種類に応じた薬液を選択し、地下水循環装置140によって汲み上げられた地下水とともに薬液を注入するとよい。そして、地下水循環装置140により回収井戸130を通じてガス(水蒸気)や地下水を汲み上げ(
図7のStep50)、汲み上げられた地下水は地上にてばっ気処理等による水処理が施される(
図7のStep60)。ばっ気処理に代えて油水分離処理や適当な薬剤処理を施してもよい。また地下水循環装置140に加えてガス吸引装置150によってガス類を吸引することもできる。ここでばっ気処理された地下水は、下水循環装置140と注入井戸120によって、薬液とともに再び対象土壌内に注入される(
図7のStep70)。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本願発明の土壌及び地下水浄化方法、比抵抗値測定装置、並びに土壌及び地下水浄化システムは、重金属や揮発性有機化合物、難分解性有機化合物といった有害物質が使用され、排出され、あるいは副生成される操業地(又は操業跡地)で利用することができる。本願発明が、我が国の環境改善にとって極めて有益であることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献が期待できる発明といえる。
【符号の説明】
【0043】
100 本願発明の土壌及び地下水浄化システム
110 (土壌及び地下水浄化システムの)土壌加温装置
111 (土壌加温装置の)電極井戸
112 (土壌加温装置の)電源装置
120 (土壌及び地下水浄化システムの)注入井戸
130 (土壌及び地下水浄化システムの)回収井戸
140 (土壌及び地下水浄化システムの)地下水循環装置
150 (土壌及び地下水浄化システムの)ガス吸引装置
200 本願発明の比抵抗値測定装置
210 (比抵抗値測定装置の)カラム本体
220 (比抵抗値測定装置の)注入手段
230 (比抵抗値測定装置の)通電装置
231 (通電装置の)直流電源
232 (通電装置の)正電極
233 (通電装置の)負電極
234 (通電装置の)電位測定ピン
235 (通電装置の)電流計
236 (通電装置の)電圧計
241 (比抵抗値測定装置の)注入槽
242 (比抵抗値測定装置の)注入管
251 (比抵抗値測定装置の)排水層
252 (比抵抗値測定装置の)排水管
WT 温度観測井戸