(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165504
(43)【公開日】2023-11-16
(54)【発明の名称】3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸の単一重合体、及び3-ヒドロキシブタン酸単位と3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸単位とから成るポリヒドロキシアルカン酸共重合体
(51)【国際特許分類】
C08G 75/26 20060101AFI20231109BHJP
【FI】
C08G75/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076592
(22)【出願日】2022-05-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/生分解開始スイッチ機能を有する海洋分解性プラスチックの研究開発」 委託研究、 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】柘植 丈治
(72)【発明者】
【氏名】マルグプ ミリザティ
(72)【発明者】
【氏名】ルカス ヴィニシウス サンチニ セネヴィヴァ
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA03
4J030BA19
4J030BB06
4J030BC11
4J030BD22
4J030BG30
(57)【要約】
【課題】より優れた機械的特性を有する新規なポリチオエステルを提供すること。
【解決手段】3-ヒドロキシブタン酸単位と3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸単位とから成るポリヒドロキシアルカン酸共重合体、3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸の単一重合体、及び当該重合体を含む組成物。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-ヒドロキシブタン酸単位と3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸単位とから成るポリヒドロキシアルカン酸共重合体。
【請求項2】
3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸単位のモル分率が、6モル%以上である、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸共重合体。
【請求項3】
3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸単位のモル分率が、10モル%以上である、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸共重合体。
【請求項4】
3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸単位のモル分率が、実質的に100モル%である、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸共重合体。
【請求項5】
3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸の単一重合体。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリヒドロキシアルカン酸共重合体及び/又は請求項5に記載の単一重合体を含む組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の組成物からなるフィルム又はシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ヒドロキシブタン酸単位と3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸単位とから成るポリヒドロキシアルカン酸共重合体、及び3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸をモノマー単位とする単一重合体、並びに当該重合体を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
3-ヒドロキシアルカン酸のホモポリマー又は共重合体であるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は微生物が細胞内に蓄積するバイオポリエステルである。近年では、生分解性プラスチック素材としてのみならず、バイオマス由来のプラスチック素材として注目されている。
【0003】
ポリエステルの加工工程において、ポリエステルの結晶化速度の高さは加工時間の短縮につながるため、非常に重要である。
最も一般的なPHAである、(R)-3-ヒドロキシブタン酸(3HB)を構成単位とするホモポリマー(以下、「P(3HB)」)は、高結晶性であるために硬くて脆く、実用性に乏しい。また、溶融温度(180℃)と熱分解温度(約200℃)とが近いために、溶融時にポリマーが低分子量化してしまうなど成型加工時の劣化が問題となり、工業生産には向いていない。この物性を改善する手段の一つとして、3HBと他のモノマーとの共重合体化が種々検討されてきた。
【0004】
最近、本発明者らは、3HB単位と、α位に側鎖を持つ3-ヒドロキシ-2-メチルブタン酸(3H2MB)単位とから成るポリヒドロキシアルカン酸共重合体(以下、P(3HB-co-3H2MB))を報告している(特許文献1)。当該P(3HB-co-3H2MB)は、第2成分である3H2MBを低分率で含むものであるが、高い結晶化速度を有しながら低い温度で溶融するため、優れた溶融加工性を有する。
【0005】
一方、ポリチオエステル(PTE)は、約70年前に化学合成されたものの、高い製造コスト、低収率及び毒性物質の使用の点で、工業的スケールでは製造されたことがなかった。しかし、PTEは、PHAよりも低い結晶秩序を有するという性質があり、加工の点からもPTEの有用性は高いと期待されている。
【0006】
近年、生合成によるポリチオエステルとして、例えば、3HBと3-メルカプトプロピオン酸(3MP)とのコポリマーがRalstonia eutrophaを用いて製造できることが報告されている(非特許文献1、2)。また、3HBと3-メルカプトブタン酸(3MB)とのコポリマーがRalstonia eutrophaで生合成できることも報告されている(非特許文献3)。
【0007】
さらに、3MPのホモポリマー、3MBのホモポリマー、3-メルカプト吉草酸(3MV)のホモポリマー等のPTEのホモポリマーが、Escherichia coliの組換え株から得られたことも報告されている(非特許文献4、5)。具体的には、非特許文献1には、Escherichia coliの組換え株を用いて、ブチレートキナーゼを含む非天然経路によって各種のPTEのホモポリマーが得られている(非特許文献4のFig.1b)。PTEのホモポリマーは、対応するポリオキシエステルよりも低いガラス転移温度(Tg)及び/又は高い融解温度(Tm)を有し、さらには高い破断伸びを有し得る。これは、例えば3HBと3-メルカプトプロピオン酸(3MP)とのコポリマーが対応するポリオキシエステルコポリマーと比べて高い弾性を有するためと考えられる。
【0008】
しかし、上記のPTEの機械的特性は知られておらず、より優れた機械的特性を有するPTEの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Lutke-Eversloh,et al.,Microbiology 2001,147,11-19
【非特許文献2】Lutke-Eversloh,et al.,Biomacromoleules 2001,2,1061-1065
【非特許文献3】Lutke-Eversloh,et al.,Nat Mater 2002,1,236-40
【非特許文献4】Yu F.,et al.,Macromol Biosci 2007,7,810-819
【非特許文献5】J.Kawada,et al.,Biomacromolecules 2003,4,1698-1702
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明は、より優れた機械的特性を有する新規なPTEを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、斯かる実状に鑑み鋭意検討した結果、炭素源と、2位にメチル基を有する3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸(3M2MP)の存在下に、ポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子が特定の微生物のβ酸化欠損株に導入された形質転換体を用いることにより、3M2MP単位を高分率で含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体、また、実質的に3M2MP単位のみから成るポリヒドロキシアルカン酸共重合体(すなわち、3M2MPの単一重合体)が効率よく得られることを見出し、本発明を完成するに至った。また、これらの共重合体が従来のPHA、PTEと比較して高い弾性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下を提供する。
(1)3-ヒドロキシブタン酸単位と3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸単位とから成るポリヒドロキシアルカン酸共重合体。
(2)3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸単位のモル分率が、6モル% 以上である、(1)に記載のポリヒドロキシアルカン酸共重合体。
(3)3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸単位のモル分率が、10モル%以上である、(1)に記載のポリヒドロキシアルカン酸共重合体。
(4)3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸単位のモル分率が、実質的に100モル%である、(1)に記載のポリヒドロキシアルカン酸共重合体。
(5)3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸の単一重合体。
(6)(1)~(4)のいずれか1つに記載のポリヒドロキシアルカン酸共重合体及び/又は(5)に記載の単一重合体を含む組成物。
(7)(6)に記載の組成物からなるフィルム又はシート。
【発明の効果】
【0014】
本発明の3M2MP単位と3HB単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体、及び3M2MPの単一重合体は、異常に大きな破断伸びを有し、フィルム等のプラスチック材料として有効に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1の左は、P(3HB-co-3M2MP)の生合成経路の概略図である。
図1の右は、P(3M2MP)の生合成経路の概略図である。n及びmは繰り返し数であり、各々1~20,000の整数を示す。
【
図2】
図2の(a)は、P(3M2MP)(表1のサンプル番号7)の
1H NMRスペクトルである。構造式P(3M2MP)中の記号A~Dはプロトンを表し、それぞれ、
1H NMRスペクトルにおいて対応するシグナルとして観察される。
図2の(b)は、P(3M2MP)(表1のサンプル番号7)の
13C NMRスペクトルである。構造式P(3M2MP)中の記号E~Hはカーボンを表し、それぞれ、
13C NMRスペクトルにおいて対応するシグナルとして観察される。
【
図3】
図3は、サンプル番号1~7の共重合体の
1H NMRスペクトルの比較を示す。サンプル番号1(3M2MP 5.5mol%);サンプル番号2(10.1mol%);サンプル番号3(34.2mol%);サンプル番号4(53.9mol%);サンプル番号5(54.8mol%);サンプル番号6(10.7mol%):サンプル番号7(100mol%)。
図3のサンプル番号1~7によって表されるサンプルは、それぞれ表1に記載のサンプルを指す。以下の図面において同じ。
【
図4】
図4は、サンプル番号1~7の共重合体のDSCサーモグラムを示す。(a)は1回目に昇温した際の熱容量変化、(b)は2回目に昇温した際の熱容量変化を示す。
【
図5】
図5は、サンプル番号1~5及び7の重合体から溶剤キャストフィルム法によって得られたフィルムの写真を示す。
【
図6】
図6は、サンプル番号1~7の重合体の応力-ひずみ曲線を示す。
【
図7】
図7は、サンプル番号7の共重合体の破断伸び及び変形後の瞬間回復を示す。(a)は引っ張る前;(b)伸びた時;(c):回復時。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の新規なポリヒドロキシアルカン酸共重合体は、式(I)で表される、3-ヒドロキシブタン酸(3HB)単位と3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸(3M2MP)単位とから成るポリヒドロキシアルカン酸共重合体(P(3HB-co-3M2MP)と言うことがある)である。また、本発明の新規なポリヒドロキシアルカン酸共重合体は、式(II)で表される、3M2MPの単一重合体(P(3M2MP)と言うことがある)である。本明細書では、これらをまとめて、PHA又はポリチオエステル(PTE)と言うことがある。
【0017】
【化1】
(式中、n及びmは繰り返し数であり、各々1~20,000の整数を示す。)
【0018】
【化2】
(式中、mは繰り返し数であり、1~20,000の整数を示す。)
【0019】
本発明の式(I)の共重合体(P(3HB-co-3M2MP)中の3M2MP単位の割合は、ポリマーの弾性の点から、少なくとも6モル%であり、好ましくは少なくとも10モル%、より好ましくは少なくとも20モル%、より好ましくは少なくとも30モル%、より好ましくは少なくとも40モル%、より好ましくは少なくとも50モル%、より好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも70モル%、より好ましくは少なくとも80モル%、より好ましくは少なくとも90モル%、より好ましくは少なくとも95モル%、より好ましくは少なくとも98モル%、更に好ましくは少なくとも99モル%である。
【0020】
本発明のP(3HB-co-3M2MP)及びP(3M2MP)、特にP(3M2MP)は、異常に大きな破断伸びを示し、天然もしくは合成ゴム(典型的には、100~800%の範囲の伸び)等のほとんどの市販のエラストマーポリマー、又は共重合体及び/又は単一重合体の伸びが約1000%であるポリ(4-ヒドロキシブチレート)(P(4HB))等の周知のPHAよりも高い弾性を有する。P(3HB-co-3MP)にも有意な弾性特性があることから(非特許文献4)、PTEの弾性が優れているのはポリマー骨格中の硫黄原子によるものと考えられる。
【0021】
PTEにおけるイオウのポーリングの電気陰性度(2.58)は、ポリオキシエステルであるPHAの、酸素のポーリングの電気陰性度(3.44)より著しく低く、炭素原子の電気陰性度(2.55)に近いため(非特許文献3)、PTEは、PHAよりも低い結晶秩序を有し、伸縮時にポリマー構造をより容易に動員できる可能性がある(非特許文献4)。
【0022】
また、3M2MP単位のα炭素メチル基は、ポリマー構造のパッキングを妨げることによってその機械的特性にも影響を及ぼす可能性がある。
【0023】
本発明のP(3HB-co-3M2MP)は、特定の微生物のβ酸化欠損株を宿主に用いて製造される。
具体的には、炭素源と、3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸(3M2MP)の存在下に、宿主中で目的の遺伝子を発現するための広宿主域ベクターに、ポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子、及び3M2MPから3M2MP-CoAへの変換反応を促進することによって3M2MP-CoAトランスフェラーゼの供給を増加させるための、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ(pct)遺伝子、並びに公知のモノマー供給遺伝子を挿入してプラスミドを得、当該プラスミドを宿主細胞に導入することによって得られる。
【0024】
図1に、本発明のP(3HB-co-3M2MP)の代表的な生合成経路の例を示す(左パネル)。炭素源の一例であるグルコースは、ピルビン酸、次いでアセチル-CoAに変換された後、このアセチル-CoAはβ-ケトチオラーゼ(PhaA)により2量化(PhaA)され、アセトアセチルCoAレダクターゼ(PhaB)によって還元されて、3HB-CoAに変換される。一方、3M2MPは、プロピオニルCoAトランスフェラーゼにより、3M2MP-CoAに変換される。各々の経路で供給されたモノマーはポリヒドロキシアルカン酸重合酵素(PhaC)の基質として利用され、P(3HB-co-3M2MP)が合成される。
【0025】
また、
図1に、本発明のP(3M2MP)の代表的な生合成経路の例を示す(右パネル)。3M2MPは、phaA及びphaBを発現しない宿主中で、プロピオニルCoAトランスフェラーゼにより、3M2MP-CoAに変換される。3M2MP-CoAはポリヒドロキシアルカン酸重合酵素(PhaC)の基質として利用され、P(3M2MP)が合成される。
【0026】
更に、ポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子の上流には、フェイシン(phasin)と呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子が導入される(例えば、特開2013-42697号参照)。フェイシンは、細菌の細胞内でPHA顆粒に共局在することが知られており、PHA顆粒の形成、安定化などに関わると考えられている。
【0027】
宿主中で目的の遺伝子を発現するための広宿主域ベクターとしては、プロモーター、リボゾーム結合部位、遺伝子クローニング部位、ターミネーター等を有する公知のベクターを用いることができる。
【0028】
ポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子としては、例えば、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)61-3株、シュードモナス・スツッツェリ(Pseudomonas stutzeri)、シュードモナス・エスピーA33、アロクロマティウム・ビノサム(Allochromatium vinosum)、バシルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バシルス・セレウス(Bacillus cereus)、バシルス・エスピー(Bacillus sp.)INT005、ランプロシスティス・ロゼオペルシシナ(Lamprocystis roseopersicina)、ノカルディア・コラリナ(Nocardia corallina)、ロドバクター・シャエロイデス(Rhodobactor shaeroides)、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonnia eutropha)、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)NCIMB 40126、チオカプサ・フェニギー(Thiocapsa pfennigii)、アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)、及びアエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)から選ばれる微生物に由来するものが挙げられる。
【0029】
また、ポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子としては、上記のポリヒドロキシアルカン酸重合酵素の変異体をコードする遺伝子でもよい。このような変異体は、野生型のポリヒドロキシアルカン酸重合酵素のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されてなるアミノ酸配列からなり、かつポリヒドロキシアルカン酸重合活性を有するタンパク質である。かかる変異体を用いることにより、ポリヒドロキシアルカン酸重合体の生産量が増加する。例えば、本発明に用いられるPHA重合酵素変異体としては、微生物由来のPHA重合酵素(PhaC)のN末端から149番目のアスパラギンからセリンへの置換、及び/又はPhaCの171番目のアスパラギン酸からグリシンへの置換を含む変異体が挙げられる。
フェイシン(PhaP)としては、N末端から20番目までのアミノ酸領域において1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されてなるアミノ酸配列を有する変異体も好ましく用いられる。例えば、フェイシンのN末端から4番目のアスパラギン酸をアスパラギンに置換してなる変異体が挙げられる(例えば、特開2013-42697号参照)。フェイシンの変異体は、同様にポリヒドロキシアルカン酸重合体の生産性を向上させる。
上記のPhaCの149番目のアミノ酸の置換、同酵素の171番目のアミノ酸の置換、及びフェイシンの4番目のアミノ酸の置換、のすべてを含む変異体も好ましい。
PHA重合酵素及びフェイシンが由来する微生物は、例えばアエロモナス属微生物であり、具体的にはアエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)が挙げられる。
以下、PhaPの4番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換されてなる変異体を「PhaPAcD4N」、PhaCの149番目のアスパラギンがセリンに、及びPhaCの171番目のアスパラギン酸がグリシンに置換されてなる二重変異体を「PhaCAcNSDG」と表記することがある。
PhaPAcD4Nの製造法は、例えば、特開2013-42697号に開示され、PhaCAcNSDGの製造法は、例えば、Tsuge T,et al.,FEMS Microbial Lett 277(2007)217-222に詳述されている。
【0030】
公知のモノマー供給遺伝子としては、例えば、Ralstonia eutropha由来のphbA、phbB、phaA、phaB(Peoples,O.P.and Sinskey,A.J.,J.Biol.Chem.264:15293-15297(1989))、Aeromonas caviae由来のphaJ(Fukui,T.and Doi,Y.,J.Bacteriol.179:4821-4830(1997))等が挙げられる。
【0031】
本発明で使用される宿主微生物は、糖類や油脂類を炭素源として使用した場合の増殖性が良好で、菌株の安定性が高く、菌体と培養液との分離が比較的容易なものであれば特に制限されないが、例えば、エシュリキア(Escherichia)属、カプリアヴィドゥス(Cupriavidus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、アエロモナス(Aeromonas)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、バチルス(Bacillus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、セラチア(Serratia)属、又はビブリオ(Vibrio)属の微生物が好ましい。より好ましくは、エシュリキア(Escherichia)属である。
【0032】
本発明では、P(3HB-co-3M2MP)の合成のために、例えば、ポリヒドロキシアルカン酸重合体の生合成における反復単位のより高い制御を可能にする、E.coli LS5218のfadB遺伝子及びfadJ遺伝子ノックアウト変異株であるE.coli LSBJ株(β酸化欠損株)(J.Biosci Bioeng 2012,113,480-486)を宿主として、2つのプラスミド:pTTQ19-PCTとpBBR1phaP(D4N)JCAc(NSDG)ABReを導入することができる。
pTTQ19-PCTは、3M2MP-CoAの供給のためのMegasphaera elsdenii由来のプロピオニル-CoAトランスフェラーゼ(PCT)遺伝子を含む。pBR1phaP(D4N)JCAc(NSDG)ABReは、phaPCJオペロンの増強された発現を通してより高いPHA蓄積を可能にする点変異D4Nを有するAeromonas caviae由来のフェイシン遺伝子(phaPAc)[J.Gen Appl NIcrobial 2015,61,63-66]、3HBベース共重合体の第2の単量体ユニットの取り込みを増強するN149S及びD171G点変異を有するA.caviae由来のPHAシンターゼ遺伝子(phaCAc)[FEMS Microbial Let 2007,277,217-222]、(R)特異的エノイル-CoAヒドラターゼ遺伝子(phaJAc)、並びにPhaCAc重合のための3HB前駆物質の供給のためのR.eutropha H16由来の酵素である3-ケトチオラーゼ(PhaARe)及びアセトアセチル-CoA還元酵素(PhaBRe)の遺伝子を含む。
また、P(3M2MP)の生合成のために、例えば、E.coli LSBJ株(β酸化欠損株)を宿主として、2つのプラスミド:pTTQ19-PCTとpBBR1phaP(D4N)CAc(NSDG)を導入することができる。pBBR1phaP(D4N)CAc(NSDG)は、pBBR1phaP(D4N)JCAc(NSDG)ABReから、phaABRe遺伝子及びphaJAc遺伝子を削除したプラスミドである。
【0033】
上記の、PhaJAc遺伝子の点変異D4N及びPhaCAcの二重点変異NSDGの存在は、高い重合体の蓄積、及び3HB単位への第2モノマー(3M2MP)単位の高い取込みをもたらす。実際に、本発明では、点変異D4N及びPhaCAcの二重点変異NSDGの存在によって、これまで報告されているP(3HB-co-3-メルカプトアルカノエート)の生産量を有意に超える重合体が得られる(非特許文献1;Lutke-Eversloh,et al.,Biomacromolecules 2001,2,1061-1065;Lutke-Eversloh,et al.,FEMS Microbiology Letters 2003,221,191-196を参照)。
【0034】
炭素源としては、例えば、糖類、カルボン酸、油脂類等を用いることができる。糖類としては、グルコース、フルクトース、ガクトース、キシロース、アラビノース、サッカロース、マルトース、でんぷん、でんぷん加水分解物等が挙げられる。カルボン酸としては、酢酸、乳酸等が挙げられる。油脂類としては、植物油が好ましく、例えば大豆油、コーン油、綿実油、落花生油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、又はこられの分別油、例えばパームWオレイン油(パーム油を2回無溶媒分別した低沸点画分)、パーム核油オレイン(パーム核油を1回無溶媒分別した低沸点画分)、又はこれらの油脂やその画分を化学的もしくは生化学的に処理した合成油、あるいはこれらの混合油が挙げられる。
【0035】
培養温度は、菌の生育可能な温度、好ましくは15~40℃、特に好ましくは20~40℃、更に好ましくは28~34℃である。培養時間は、特に限定されないが、例えばバッチ培養では1~7日間が好ましく、また連続培養も可能である。培養培地は、本発明の宿主が利用できるものである限り特に限定されない。炭素源に加えて、窒素源、無機塩類、その他の有機栄養源等を含有する培地を使用することができる。
窒素源としては、例えばアンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、肉エキス、酵母エキス等が挙げられる。
無機塩類としては、例えばリン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸水素マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
その他の有機栄養源としては、例えばグリシン、アラニン、セリン、スレオニン、プロリン等のアミノ酸類;ビタミンB1、ビタミンB12、ビオチン、ニコチン酸アミド、パントテン酸、ビタミンC等のビタミン類などが挙げられる。
【0036】
本発明のPHAの菌体からの回収は、例えば、次の方法によって行うことができる。培養終了後、遠心分離器等で培養液から菌体を分離し、その菌体を蒸留水、メタノール等により洗浄した後、乾燥させた後、この乾燥菌体から、クロロホルム等の有機溶媒を用いて共重合体を抽出する。次いで、この共重合体を含む有機溶媒溶液から、濾過等によって菌体成分を除去し、その濾液にメタノール、へキサン等の貧溶媒を加えて共重合体を沈殿させる。沈殿した共重合体から、濾過や遠心分離によって上澄み液を除去し、乾燥させ、共重合体を回収することができる。得られた共重合体の分析は、例えば、ガスクロマトグラフ法、核磁気共鳴法等により行うことができる。
【0037】
本発明のP(3HB-co-3M2MP)及びP(3M2MP)、特にP(3M2MP)は異常に大きな破断伸びを有し、変形後ほとんど瞬間的に形状を回復する。このような特徴は、プラスチック材料としての加工時における大きな利点である。したがって、これらの共重合体を含む組成物はフィルム、シート、容器、ボトル、包装材料等の用途に使用することができる。
【0038】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例0039】
[材料及び調製方法]
(1)微生物
大腸菌E.coli LSBJ株(β酸化欠損株)を宿主に用いた。LSBJ株は、E.coli LS5218株(Spratt,S.et al.,J.Bacteriol.1981,146,1166)のβ酸化の一部を担うfadB遺伝子及びfadJ遺伝子が欠損した変異株である(Tappel et al.,J.Biosci.Bioeng.2012,113,480)。
【0040】
(2)培地
(a)Lysogeny Broth(LB)培地
Bacto trypton 10g、酵母エキス5g、NaCl 10gを脱イオン水1Lに溶かして、121℃で20分間オートクレーブして調製した。また、寒天培地は、上記成分に寒天1.5~2%(vol/vol)となるよう加え、オートクレーブ処理して調製した。抗生物質(カナマイシン:終濃度50μg/mL、カルベニシリン:終濃度50μg/mL)は、液体培地、寒天培地ともにオートクレーブ処理後に添加した。
(b)M9改良培地
Na2HPO4・12H2O 17.1g、KH2PO4 3g、NH4Cl 0.5g、bacto-yeast extract 2.5g、NaCl 0.5g、1M MgSO4 2mL、1M CaCl2 0.1mLを脱イオン水1Lに溶かして、121℃で20分間オートクレーブして調製した。カナマイシン 50mg及びカルベニシリン 50mgはオートクレーブ後に添加した。
【0041】
(3)プラスミド
(a)pBBR1phaP(D4N)CJAcABRc NSDG
pBBR1phaP(D4N)CJAcABRc NSDGは、文献(Saika et al.,J.Biosci.Bioeng.2014,117,670)にしたがって作製した。pBBR1phaP(D4N)CJAcABRc NSDGは、Aeromonas caviaeのPHAオペロンを有しており、phaPでは4位のアスパラギン酸(D)がアスパラギン(N)に、phaCでは149位のアスパラギン(N)がセリン(S)に、かつ171位のアスパラギン酸(D)がグリシン(G)に変異している(Ushimaru et al.,J.Gen.Appl.Microbiol.2015,61,63)。
(b)pBBR1phaP(D4N)CAc NSDG
pBBR1phaP(D4N)CJAcABRc NSDG(Saika et al.,J.Biosci.Bioeng.2014,117,670)のphaJ及びphaABを含まない領域をPCR法により増幅し、7kbの増幅断片を平滑末端化及びリン酸化し、自己環状化させることでpBBR1phaP(D4N)CAc NSDGを作製した。
(c)pTTQ19-PCT
pct遺伝子を含むNhe I-Mun I断片を、PCR法によってpTVpctC1STQKABReから増幅し、次いで、当該断片をpTTQ19のXba I-EcoR I部位に挿入することによって、pTTQ19-PCTを作製した(Furutate et al.,J.Polym.Res.2017,24:221)。当該pTTQ19-PCTは、Megasphaera elsdenii由来のプロピオン酸CoAトランスフェラーゼ遺伝子(pct)を有している(同文献)。
【0042】
実施例1 重合体の製造
1.P(3HB-co-3M2MP)の生合成
上記大腸菌E.coli LSBJ(β酸化欠損株)株に、プラスミドpBBR1phaP(D4N)CJAc NSDGを加え、pTTQ19-PCTを導入した。
LB寒天培地上に形成された組換え大腸菌E.coli LSBJの単一コロニーを、50mL振とうフラスコ中の20mLのLysogeny Broth(LB)培地に植菌し、37℃、160ストローク/分で、一晩培養した。この培養液5mLを、500mL振とうフラスコ中の95mLのM9改良培地(17.1g/L Na2HPO4・12H2O、3g/L KH2PO4、0.5g/L NaCl、2mLの1M MgSO4・7H2O、0.1mLの1M CaCl2、2.5g/L Bacto-yeast extract、20g/Lグルコース、0.25~2.5g/L (RS)-3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸(3M2MP)、50mg/L カナマイシン、50mg/L カルベニシリン、1mM 誘導剤IPTG)を植菌し、30℃、130ストローク/分で、72時間培養した。培養後、10分の遠心分離(5960×g)を行って菌体を回収し、水で洗浄後、凍結乾燥させた。
【0043】
2.P(3M2MP)の生合成
P(3M2MP)を製造するために、E.coli LSBJ(β酸化欠損株)株に、プラスミドpBBR1phaP(D4N)CAc NSDGを加え、pTTQ19-PCTを導入した。最初に、組換え大腸菌LSBJを5mL試験管に入った1.7mLのLB培地(50mg/L カナマイシンと50mg/L カルベニシリンを含む)に接種し、37℃で4時間、160rpmで振とう培養した。この培養液(0.2mL)を、50mlフラスコに入った20mL LB培地(50mg/L カナマイシン及び50mg/L カルベニシリンを含む)に植菌し、30℃で18時間、160rpmで振とう培養し、前培養液とした。次に、前培養液5mLを500mL振とうフラスコに入った100mLのM9改良培地(2mL/Lの1M MgSO4・7H2O、0.1mLの1M CaCl2、50mg/Lのカナマイシン及び50mg/Lのカルベニシリンを含む)に植菌し、30℃で4時間、130rpmで振とう培養を行った。その後、3.75g/Lグルコース、1.2g/Lの3-メルカプト-2-メチルプロピオン酸(pH中和済)、及び1mMのIPTGを培地に添加し、培養を76時間継続した。培養後、10分の遠心分離(5960×g)を行って菌体を回収し、水で洗浄後、凍結乾燥させた。
【0044】
3.P(3HB-co-3M2MP)、P(3M2MP)の回収
培養後、遠心分離により菌体を回収し、蒸留水で2回洗浄し、あらかじめ秤量したチューブで72時間凍結乾燥し、乾燥菌体重量を算出した。ポリマー含有量は、文献(Arikawa et al.,J Biosci Bioeng 2017,124,250-254)に記載されている方法を修正した超音波抽出によって決定した。すなわち、約100mgの凍結乾燥菌体を前もって秤量した50mL容のプラスチックチューブに加え、20mLの蒸留水に再懸濁した。続いて、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の10%溶液13mLを、最終濃度が約4%のSDSになるように添加した。次に、その溶液を出力10で4分間連続的に超音波処理し、3回のすすぎステップ(20mL蒸留水、次いで5mLメタノール、次いで20mL蒸留水、遠心分離で回収)を行い、24時間凍結乾燥してポリマー量を測定した。
【0045】
4.P(3HB-co-3M2MP)、P(3M2MP)PHAの精製
ポリマーを大量に精製する場合は、PHAを蓄積させた乾燥菌体を100mLの蓋付ガラス瓶に移し、100mLのクロロホルムを加え、スターラーで72時間攪拌した。撹拌後の溶液をNo.1濾紙(アドバンテック社製)でろ過し、ナス型フラスコに移し変えた。その後、ロータリーエバポレーターで完全に濾液を揮発させ、ポリマーを析出させた。次いで、析出したポリマーを少量のメタノールで洗い取り、約20mLのクロロホルムに完全に溶解させた後、400mLのメタノールに少量ずつ滴下しながら撹拌を行い、精製した。精製した共重合体をNo.1濾紙で回収し、48時間、ドラフト中で乾燥させた。結果を表1に示す。
【0046】
【0047】
実施例2 P(3HB-co-3M2MP)、P(3M2MP)の構造及び物性の分析
(1)
1H-NMR及び
13C-NMR
核磁気共鳴分光装置(Biospin AVANCE III 400A,Bruker、又はAVANCE III HD,Bruker)を使用して測定を行った。1次元(1D)
1H-NMR、2次元(2D)
1H-
1H COSY(相関分光法)、及び
1H-
13C HSQC(異核種単一量子コヒーレンス)NMRについては、精製及びろ過したポリマーの10~20mgを1mlのCDCl
3に溶解し、0.45μmポリビニリデンフルオリド(PVDF)フィルター膜でろ過し、
13C-NMRについては、40mgを1mlのCDCl
3に溶解し、0.45μmのPVDFフィルター膜でろ過し、測定サンプルとした。サンプル番号7のP(3M2MP)の
1H-NMR及び
13C-NMRスペクトルを
図2に示す。
図3には、サンプル番号1~6のP(3HB-co-3M2MP)、及びサンプル番号7のP(3M2MP)の
1H-NMRスペクトルの比較を示す。
【0048】
P(3M2MP)の1H-NMRスペクトルから、4つのピークA(3.14ppm)、B(3.01ppm)、C(2.86ppm)及びD(1.25ppm)を特定した。ピーク積分値は、ピークA~Cについては0.99~1、ピークDについては3.16であった。13C-NMRスペクトルから、ピークE、F、G、及びHはそれぞれ201.3、48.4、31.6、及び17.6ppmであった。
P(3HB-co-3M2MP)の3M2MP単位の含有量を、1H-NMRスペクトルにおけるメチン(>CH-)ピークの積分により決定した。3HBのメチン(3HB-CH)は5.25ppmに表れ、その他、3HBのメチレン(3HB-CH2)は2.5ppm付近、3HBのメチル(3HB-CH3)は1.27ppmに表れた。
また、2つのモノマー単位を有する共重合体として、4つの可能な共重合体の組合せ(3HB-3M2MP、3HB-3HB、3M2MP-3M2MP、及び3M2MP-3HB)が考えられるが、この共重合体の配列分布を、パラメーターD(Macromolecules 1989,22,1676-1682)を計算することにより予測した。
【0049】
【0050】
(式中、3HBはO、3M2MPはSであり、例えばFosは13C-NMRスペクトルにおける3HB-3M2MP配列のカルボニル基のモル分率である)
例えばDが1の場合、共重合体は有意にランダムであるが、Dが1より著しく大きい場合、共重合体はブロック状である。Dが1より著しく小さい場合、共重合体は交互共重合体である。4つの可能な共重合体の組合せに対するピークの帰属は、1H-13C-HMBC(異核多結合相関)NMRにより行った。結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
表2は、すべてのサンプルのD値が1よりも大幅に大きいことを示す。この結果は、すべてのサンプルがブロック状配列度分布を持ち得ることを示す。3M2MP単位のモル分率が低いと、ブロック配列の程度は高い傾向にあった。
【0053】
最後に、減衰全反射(ATR)、モデルATR PRO400-S(Jasco,Japan)を有するFT/IR-4600分析計(Jasco,Japan)によるフーリエ変換赤外(FTIR)分光法を用いて、ポリマー分子中のチオエステル化学基の発生を確認した(図示せず)。
【0054】
(2)GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)
菌体から精製したポリマーの数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)(Mw:重量平均分子量)をGPC測定によって求めた。標準物質としてポリスチレンを使用しているため、本発明で求めた分子量はポリスチレン換算相対分子量である。用いた5種類のポリスチレンの分子量は、3,790、30,300、219,000、756,000及び4,230,000である。
GPCサンプルは、精製したポリマーを約1mg/mLとなるようにクロロホルムに溶解し、孔径0.45μmのMillex-FH PVDFフィルター(ミリポア社製)を取り付けたシリンジでろ過して調製した。
GPC測定には島津製作所社製のNexera 40 182 GPC system(ディテクター:Shodex RI-504 refractive index detector)を使用し、カラムにはShodex社製のK-806M及びK-802を用いた。移動層にはクロロホルムを用い、総液流量は0.3mL/分、カラム温度は40℃に設定した。ポリスチレンスタンダードから検量線を引き、これとサンプルデータとを照合することによりポリスチレン換算分子量及び分子量分布を算出した。
【0055】
(3)示差走査熱量(DSC)
DSCサンプルは、精製したポリマーを約10mg秤り取り、5mL容のサンプルバイアルに入れ、約1~2mLのクロロホルムに完全に溶解した。これをドラフト中で約3週間乾燥させることによりキャストフィルムを作製した。このキャストフィルムから約3mgを秤量し、専用アルミニウムパンに入れたものをDSC測定サンプルとした。
測定には、パーキンエルマー社製のDSC 8500を使用した。測定は20mL/分の窒素雰囲気下で行った。対照には試料の入っていないアルミニウムパンを用いた。測定の条件として、初めに-50℃~200℃まで20℃/分の昇温速度で加熱し、200℃で1分間保持した後、-500℃/分で-50℃まで急冷した。次に、-50℃で1分間保持した後、20℃/分の昇温速度で200℃に加熱した。
なお、キャストフィルムは3週間以上室温下に置き、結晶形成を進行させたものを使用した。測定した試料の融点Tmは最初に昇温した時のサーモグラムより決定した。ガラス転移温度Tgは2回目に昇温した際の熱容量変化の中点とした。
結果を表3、
図4に示す。
T
cc:冷結晶化点。冷結晶化点(Cold Crystallization)は、昇温時にガラス転移温度以上の過冷却液体状態から結晶が生成する現象である。
【0056】
【0057】
表3から、サンプル7は、明瞭な非晶質挙動を示し、負のTgを示し、融点及び低温結晶化ピークは検出されなかった。また、サンプル1~3では、3M2MP単位のモル分率が増えるにつれてTg及びΔHmは減少し、サンプル4では不定形性をもたらした。
【0058】
実施例3 P(3HB-co-3M2MP)、P(3M2MP)の機械的特性
実施例1で製造したサンプル番号1~6の共重合体のキャストフィルム、及びサンプル番号7の重合体のキャストフィルムを作製し、降伏強度、引張強度、破断伸び、及びヤング率を決定した。
<装置>
引張試験機:AGS-H/EZTest(島津製作所)
分析ソフト:TRAPEZIUM 2(島津製作所)
<サンプル調製>
(a)キャストフィルムの作製
精製したポリマーを適量のクロロホルムの溶解し、フラットシャーレに展開した。ここで用いたポリマー重量は、シャーレの面積を考慮して、厚さが150μmになるように計算した。展開後、穴をあけたアルミホイルでシャーレにふたをして、クロロホルムが完全に気化するまで、平滑な場所に室温で静置した。乾燥後、シャーレからフィルムを丁寧に剥がし、1週間、室温で静置した。シャーレから剥がれにくいポリマーは、シャーレとポリマーとの間に超純水を滴下することにより、剥離した。
(b)引張試験片の作製
作製したキャストフィルムを縦20mm、横3mmに切断したものをサンプルとした。切断には剃刀を使用し、ポリマーの真上から押さえつけるように切断した。
<測定条件>
つかみ間距離10mm、引張速度10mm/分とし、室温で測定した。
<データ解析>
引張試験において、ポリマーの塑性が開始する応力を降伏強度、ポリマーが破断した時の応力を引張強度、伸び率を破断伸びとした。ヤング率は、応力-歪み曲線における開始点の傾きとした。
結果を表4、
図5~
図7に示す。
図5は各キャストフィルムの写真を、
図6は応力-歪み曲線を、
図7は、マニュアルによるサンプル7の伸び(b)、及び変形後の瞬間回復(c)を示す。
【0059】
【0060】
図5より、3M2MP単位のモル分率が増えると、キャストフィルムは透明度が高くなり、より柔軟になることが分かる。また、表4より、3M2MP単位のモル分率が増えるにしたがい、降伏強度、引張強度及びヤング率は減少し、一方、破断伸びは増加した。特に、サンプル4では1500%以上の破断伸びを示した。サンプル4とほぼ同じモル分率の3M2MP単位からなるサンプル5は、サンプル4よりも低い破断伸びを示したが、これは、サンプル4と比べて低い分子量及び微細構造の相違に因るものと考えられる。
サンプル7については、2605%という異常な破断伸び示し、また、変形したフィルムはほとんどが瞬間的に形状を回復した。これは、P(3M2MP)が格別な弾性を有することを意味しており、このことは加工上特に有利である。
本発明の3M2MP単位と3HB単位とを含むポリヒドロキシアルカン酸共重合体、及び3M2MPの単一重合体は、フィルム等のプラスチック材料として有効に活用できる。