(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165519
(43)【公開日】2023-11-16
(54)【発明の名称】縫合トレーナー
(51)【国際特許分類】
G09B 23/28 20060101AFI20231109BHJP
G09B 19/00 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
G09B23/28
G09B19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076651
(22)【出願日】2022-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】598144719
【氏名又は名称】株式会社 タナック
(74)【代理人】
【識別番号】100181250
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 信介
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 一将
(72)【発明者】
【氏名】岩田 真弘
(72)【発明者】
【氏名】安村 恒央
【テーマコード(参考)】
2C032
【Fターム(参考)】
2C032CA06
(57)【要約】
【課題】人体の縫合の感覚を有しつつ、縫合の際に皮膚等の人体の組織を模したトレーナーが裂けにくい縫合トレーナーを提供する。
【解決手段】人体の真皮を模した模擬真皮層20と、人体の皮下組織を模した模擬皮下組織層40と、を備える縫合トレーナー1であって、模擬真皮層20は、弾性材料で形成される第1真皮層21と、第1層よりも引き裂き強度の高い材料で形成される第1強化層22と、第1真皮層21と同じ弾性材料で形成される第2真皮層23と、を備え、模擬皮下組織層40は、弾性材料で形成されることを特徴とする縫合トレーナー1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の真皮を模した模擬真皮層と、
人体の皮下組織を模した模擬皮下組織層と、
を備える縫合トレーナーであって、
前記模擬真皮層は、弾性材料で形成される第1真皮層と、
前記第1真皮層よりも引き裂き強度の高い材料で形成される第1強化層と、
前記第1真皮層と同じ弾性材料で形成される第2真皮層と、
を備え、
前記模擬皮下組織層は、弾性材料で形成されることを特徴とする縫合トレーナー。
【請求項2】
請求項1に記載の縫合トレーナーにおいて、
前記模擬真皮層と前記模擬皮下組織層の間に、前記第1真皮層および前記模擬皮下組織層よりも引き裂き強度の高い材料で形成される第2強化層を備えることを特徴とする縫合トレーナー。
【請求項3】
請求項1に記載の縫合トレーナーにおいて、
前記第1強化層が、メッシュ形状であることを特徴とする縫合トレーナー。
【請求項4】
請求項2に記載の縫合トレーナーにおいて、
前記第1強化層及び前記第2強化層が、メッシュ形状であることを特徴とする縫合トレーナー。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の縫合トレーナーにおいて、
前記第1真皮層の前記第1強化層が接している面と反対の面に、前記第1真皮層よりも硬度が高い材料で形成される模擬表皮層を備えることを特徴とする縫合トレーナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の縫合をトレーニングすることができる縫合トレーナーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、実践的な縫合をトレーニングするための人体の組織を模擬するものとして、シリコーン樹脂やウレタン樹脂を用いて形成される模擬真皮とスポンジ素材から形成される模擬皮下組織からなる縫合トレーナーがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このような縫合トレーナーでは、模擬真皮が、単層のシリコーン樹脂やウレタン樹脂で構成されており、模擬皮下組織が、スポンジ素材で構成されているため、縫合や結紮時に模擬真皮、模擬皮下組織が裂けてしまい、縫合のトレーニングが効率よく行えないという課題があった。
【0005】
本発明は、こうした課題に鑑みなされたもので、人体の縫合の感覚を有しつつ、縫合や結紮時に皮膚等の人体組織を模擬したトレーナーが裂けにくい縫合トレーナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
なお、本欄における括弧内の参照符号や補足説明等は、本発明の理解を助けるために、後述する実施形態との対応を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0007】
[適用例1]
適用例1に記載の発明は、
人体の真皮を模した模擬真皮層(20)と、
人体の皮下組織を模した模擬皮下組織層(40)と、
を備える縫合トレーナー(1)であって、
前記模擬真皮層(20)は、弾性材料で形成される第1真皮層(21)と、
前記第1真皮層(21)よりも引き裂き強度の高い材料で形成される第1強化層(22)と、
前記第1真皮層(21)と同じ弾性材料で形成される第2真皮層(23)と、
を備え、
前記模擬皮下組織層(40)は、弾性材料で形成されることを要旨とする縫合トレーナー(1)である。
【0008】
このような縫合トレーナー(1)では、模擬真皮層(20)が3層構造となっており、弾性材料で形成される第1真皮層(21)および第2真皮層(23)で、第1真皮層(21)、第2真皮層(23)よりも引き裂き強度の高い材料で形成される第1強化層(22)を挟み込む3層構造となっている。
【0009】
これにより、弾性体で形成された単一層の模擬真皮よりも、引き裂き強度が高まり、縫合や結紮により模擬真皮の裂けを防止することができ、縫合トレーニングを効率的に実施することが可能となる。
【0010】
[適用例2]
適用例2に記載の縫合トレーナー(1)は、
適用例1に記載の縫合トレーナー(1)において、
前記模擬真皮層(20)と前記模擬皮下組織層(40)の間に、前記第1真皮層(21)および前記模擬皮下組織層(40)よりも引き裂き強度の高い材料で形成される第2強化層(30)を備えることを要旨とする。
【0011】
このような縫合トレーナー(1)では、模擬真皮層(20)の強度を増すために、中間層として、より引き裂き強度の高い第1強化層(22)を用いたのと同様に、引き裂き強度の高い材料で形成される第2強化層(30)を模擬真皮層(20)と模擬皮下組織層(40)の間に入れることで、模擬皮下組織層(40)が縫合や結紮時に裂けることを防止することができ、人体の縫合トレーニングを効率的に実施することができる。
【0012】
[適用例3]
適用例3に記載の縫合トレーナー(1)は、
適用例1に記載の縫合トレーナー(1)において、
前記第1強化層(22)が、メッシュ形状であることを要旨とする。
【0013】
縫合トレーナー(1)の引き裂き強度を増すために、第1強化層(22)を追加し、縫合や結紮時に裂けることは防止することができても、第1強化層(22)として選定した材料によっては、縫合のための針が通りにくくなったりして、人体の皮膚の模擬度が減少してしまい、縫合トレーニングの実効性が低下してしまう。
【0014】
そこで、第1強化層(22)をメッシュ形状とすることにより、裂け防止の強化層としての役割を果たしつつ、縫合針を通りやすくし、人体の真皮の模擬度を減少させることなく、縫合トレーナー(1)の強度を増すことができる。
【0015】
[適用例4]
適用例4に記載の縫合トレーナー(1)は、
適用例2に記載の縫合トレーナー(1)において、
前記第1強化層(22)及び前記第2強化層(30)が、メッシュ形状であることを要旨とする。
【0016】
このような縫合トレーナー(1)では、縫合や結紮時の裂け防止のために追加する第2強化層(30)をメッシュ形状とすることで、縫合や結紮の際の裂けを防止しつつ、現実に近い縫合抵抗を実現する。
【0017】
[適用例5]
適用例5に記載の縫合トレーナー(1)は、
適用例1~適用例4の何れか1項に記載の縫合トレーナー(1)において、
前記第1真皮層(21)の前記第1強化層(22)が接している面と反対の面に、前記第1真皮層(21)よりも硬度が高い材料で形成される模擬表皮層(10)を備えることを要旨とする。
【0018】
このような縫合トレーナー(1)では、模擬真皮層(20)の表面に、模擬真皮層(20)よりも硬度が高い材料で形成される模擬表皮層(10)を設けることで、より人体の皮膚に近い構造を模することができ、縫合トレーニングをより効果的に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】縫合トレーナーを台座に装着した場合の概略図である。
【
図3】縫合トレーナーを人体模型に装着した場合の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を取りうる。
【0021】
図1に基づき、縫合トレーナー1の構成について説明する。
図1は、本実施形態における縫合トレーナー1の概略的な断面図である。
【0022】
図1に示すように、縫合トレーナー1は、模擬表皮層10、模擬真皮層20、第2強化層30および模擬皮下組織層40を備えている。模擬表皮層10の下に模擬真皮層20、模擬真皮層20の下に第2強化層30、第2強化層30の下に模擬皮下組織層40の層構造を有するシート状のものである。縫合トレーナー1の大きさは、約150mm(縦)×100mm(横)×15mm(高さ)である。
【0023】
模擬表皮層10は、ポリウレタンで形成されており、層厚は、50μm、透明な乳白色をしている。ポリウレタンを使用することにより、弾性を有しつつ、硬度を高めることが可能となり、人体の表皮のうち、ケラチンたんぱくが積層し、表皮が傷つかないように固くなっている角質層を模擬することができる。
【0024】
模擬真皮層20は、第1真皮層21、第1強化層22および第2真皮層23を備え、第1強化層22が、第1真皮層21及び第2真皮層23に挟まれている3層構造となっている。
【0025】
第1真皮層21及び第2真皮層23は、弾力性のあるシリコーンにより形成されており、層厚は、1.8mmで、乳白色である。第1強化層22は、引き裂き強度の高いナイロンにより形成されており、層厚は、1.8mmで、透明な乳白色をしている。
【0026】
第1真皮層21及び第2真皮層で引き裂き強度の高いナイロン製の第1強化層22を挟むことにより、縫合トレーニングの際、第1真皮層21及び第2真皮層23で使用されるシリコーンが裂けることを防止する。
【0027】
また、引き裂き強度の高いナイロン製の第1強化層22が存在することで、縫合抵抗が高くなると、人体の縫合感覚とは異なってしまうため、第1強化層22をメッシュ形状とし、第1強化層22の存在が、縫合抵抗に影響を与えないようにしている。
【0028】
第2強化層30は、第1強化層22と同じくナイロンで形成され、メッシュ状に形成され、模擬真皮層20と模擬皮下組織層40に挟まれている。第2強化層30の層厚は、1.8mmであり、透明な乳白色をしている。
【0029】
模擬皮下組織層40は、主に人体の皮下脂肪を模擬している層であり、弾力性のあるシリコーンで形成され、層厚は10mmとなっており、色は、透明な黄色である。縫合トレーナー1は、模擬皮下組織層40を備えていることから、埋没縫合(真皮縫合)のトレーニングにも適している。
【0030】
また、この模擬皮下組織層40内に、皮下組織を通る血管を模擬する模擬血管を挿入し、模擬血管に血液を模擬した模擬血液を流すことにより、人体の皮下組織を通る血管の縫合トレーニングや、血管を傷つけないように縫合するトレーニングを行うこともできる。
【0031】
図2に、縫合トレーナー1を台座に装着した場合の概略図を示す。台座50の上に、縫合トレーナー1を固定して、縫合トレーナー1に縫合トレーニングの目的に適した長さ、深さの切り込み51を入れて、縫合トレーニングを行う。
【0032】
台座50は、単に、縫合トレーナー1を固定するために用いても良いが、台座50として、人体の皮膚層の下にある筋肉、腱等を模擬したものを用いれば、人体の模擬皮膚を介して筋肉や腱の縫合トレーニングを行うこともできる。
【0033】
また、
図3に示すように、縫合トレーナー1をマネキン等の人体模型60に設置することで、より実際に即した縫合トレーニングを実施することができる。この際、縫合トレーナー1を設置する人体模型60の部位によって、縫合トレーナー1を構成する各層の硬度、層厚を変化させることで、さらに現実に即した縫合トレーニングを行うことが可能となる。
【0034】
具体的には、足の裏の皮膚を模擬するのであれば、模擬表皮層10の硬度を高め、層厚を厚くすることで、足裏の厚く、固い皮膚を模擬することができる。腹部の皮膚を模擬するのであれば、模擬表皮層10の硬度は低く、層厚も薄くするのと反対に、模擬皮下組織層40の厚みを増すことで、皮下脂肪の厚い腹部の皮膚を模擬することができる。
【0035】
さらに、人体模型60の内部に、人体の各組織(心臓、肝臓、胃 等)の模擬組織を備えておけば、人体のあらゆる部位の縫合トレーニングを、より現実に近い状況で実施することができる。
【0036】
(縫合トレーナー1の特徴)
このような縫合トレーナー1では、模擬真皮層20を、人体の真皮の感触に近い弾力性のあるシリコーンを用いた層(第1真皮層21、第2真皮層23)で、シリコーンよりも引き裂き強度の高いナイロンを用いた層(第1強化層22)を挟み込む3層構造とすることにより、縫合トレーニングの際に、シリコーンが裂けることを防止することができる。
【0037】
さらに、単に引き裂き強度の高いナイロン素材の層(第1強化層22)を、真皮を模擬した層(第1真皮層21、第2真皮層23)で挟み込むだけでは、縫合する際の縫合抵抗が、真皮を模擬したシリコーン素材と、引き裂き強度の高いナイロン素材とでは、ナイロン素材の縫合抵抗が大きく、実際の人体の真皮の縫合感覚とは、異なった感覚となってしまう。
【0038】
そこで、ナイロン素材の第1強化層22をメッシュ形状とすることで、縫合抵抗は、人体の真皮に近いシリコーンによるものだけとなり、かつ、縫合や結紮時においてシリコーンが裂けることを防止することができる。
【0039】
また、模擬真皮層20の表面に、シリコーンよりも硬度の高いポリウレタンを用いた模擬表皮層10および、模擬真皮層20同様に弾力のあるシリコーンを用いた模擬皮下組織層40を設けることで、ポリウレタンの硬度及び厚み、シリコーンの厚みを調整することで、人体のあらゆる場所の皮膚を模擬することが可能となり、縫合トレーニングを、より効果的、効率的に実施することが可能となる。
【0040】
さらに、縫合トレーナー1を構成する各層が全て透明な材料で形成されることにより、本来の皮膚では見ることが出来なかった皮膚(真皮)を通過する縫合針の軌跡と真皮内での縫合糸の状態及び結紮された結び目の状態を目視確認することができ、縫合トレーニングにおける手技の確認を容易に行うことができる。
【0041】
[その他の実施形態]
(1)上記実施形態では、第1強化層22、第2強化層30をメッシュ形状としているが、メッシュ形状とせず平板形状としても良い。また、第1強化層22をメッシュ構造、第2強化層30を平板形状にしても良いし、第1強化層22を平板形状、第2強化層30をメッシュ形状としてもよい。
【0042】
(2)上記実施形態では、模擬表皮層10について、層厚50μmで透明な乳白色のポリウレタンで形成されているが、層厚、色はこれに限られることなく、多様な層厚、色とすることができる。また、材料についても、ポリウレタン以外に、シリコーンやニトリル等を用いた合成ゴム、もしくは天然ゴム等を用いてもよい。
【0043】
(3)上記実施形態では、模擬真皮層20について、第1真皮層21および第2真皮層23は、層厚1.8mmで乳白色のシリコーンで形成されているが、層厚、色はこれに限られることなく、多様な層厚、色とすることができる。また、材料についても、シリコーン以外にも、ウレタンやニトリル等を用いた合成ゴム、もしくは天然ゴム、水溶性ゲル等を用いてもよい。
【0044】
また、第1強化層22は、層厚1.8mmで、透明な乳白色のナイロンで形成されているが、層厚、色はこれに限られることなく、多様な層厚、色とすることができる。また、材料についても、ナイロンに限定されるものではない。
【0045】
(4)上記実施形態では、模擬皮下組織層40は、層厚10mmで黄色のシリコーンで形成されているが、層厚、色はこれに限られることなく、多様な層厚、色とすることができる。また、材料についても、シリコーン以外にも、ウレタンやニトリル等を用いた合成ゴム、もしくは天然ゴム、水溶性ゲル等を用いてもよい。
【0046】
(5)上記実施形態では、縫合トレーナー1は、模擬表皮層10、模擬真皮層20、第2強化層30及び模擬皮下組織層40から構成されているが、模擬表皮層10を使用せず、模擬真皮層20、第2強化層30及び模擬皮下組織層40で構成してもよい。
【0047】
また、模擬皮下組織層40を使用せず、模擬表皮層10および模擬真皮層20のみで構成しても良い。さらに、模擬表皮層10及び模擬皮下組織層40を使用せずに、模擬真皮層20だけであってもよい。
【0048】
上記実施形態では、縫合トレーナー1を構成する各層は、手技の確認を容易に行うために、透明の素材を用いているが、半透明、または不透明の素材を用いても良い。この場合、手技の確認は困難となるが、縫合トレーニング自体には影響がない。
【0049】
上記実施形態では、縫合トレーナー1は、人体の皮膚を構成する各層(表皮層、真皮層、皮下組織層)を模擬しているが、筋肉を模擬する層、さらには、内臓を模擬する層 などを追加し、より人体の模擬度を上げることができる。
【0050】
上記実施形態では、縫合トレーナー1の大きさは、約150mm(縦)×100mm(横)×15mm(高さ)としているが、これよりも大きなサイズとしてもよいし、小さなサイズとしてもよい。また形状についても、長方形状以外にも、正方形状、多角形状、円状等、様々な形状とすることができる。
【符号の説明】
【0051】
1…縫合トレーナー、10…模擬表皮層、20…模擬真皮層、21…第1真皮層、22…第1強化層、23…第2真皮層、30…第2強化層、40…模擬皮下組織層、50…台座、51…切り込み、60…人体模型