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特開2023-165548反射防止膜、光学部材、レンズモジュール、及びカメラモジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165548
(43)【公開日】2023-11-16
(54)【発明の名称】反射防止膜、光学部材、レンズモジュール、及びカメラモジュール
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/116 20150101AFI20231109BHJP
   G03B 30/00 20210101ALI20231109BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20231109BHJP
【FI】
G02B1/116
G03B30/00
G02B7/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076736
(22)【出願日】2022-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 真志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 安紘
【テーマコード(参考)】
2H044
2K009
【Fターム(参考)】
2H044AD03
2H044AE01
2K009AA03
2K009BB02
2K009CC02
2K009CC03
(57)【要約】
【課題】帯電防止機能及び耐擦傷性を有し、耐久性に優れた反射防止膜、光学部材、レンズモジュール、及びカメラモジュールを得る。
【解決手段】透明基板上に配置された多層膜である反射防止膜。多層膜の最表層は窒化珪素を主成分とした透明硬質膜である。多層膜の最表層に隣接する層が透明導電膜である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に配置された多層膜である反射防止膜であって、
前記多層膜の最表層は窒化珪素を主成分とした透明硬質膜であり、
前記多層膜の前記最表層に隣接する層が透明導電膜である
ことを特徴とする、反射防止膜。
【請求項2】
透明基板上に配置された多層膜である反射防止膜であって、
前記多層膜の最表層は窒化珪素を主成分とした透明硬質膜であり、
前記多層膜の前記最表層から2番目の層が透明導電膜である
ことを特徴とする、反射防止膜。
【請求項3】
前記多層膜の前記最表層に隣接する層が、波長500nmにおける屈折率が1.6以下の低屈折率膜であることを特徴とする、請求項2に記載の反射防止膜。
【請求項4】
透明基板上に配置された多層膜である反射防止膜であって、
前記多層膜の最表層は窒化珪素を主成分とした透明硬質膜であり、
前記多層膜は複数の低屈折率膜を有し、
前記多層膜は、前記複数の低屈折率膜の間、又は前記複数の低屈折率膜と前記最表層との間に、透明導電膜の層を有する
ことを特徴とする、反射防止膜。
【請求項5】
前記透明導電膜はTNOを主成分とすることを特徴とする、請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項6】
前記多層膜が、前記透明導電膜に加えて第2の透明導電膜を含むことを特徴とする、請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項7】
前記第2の透明導電膜はTNO又はITOを主成分とすることを特徴とする、請求項6に記載の反射防止膜。
【請求項8】
透明基板上に配置された多層膜である反射防止膜であって、
前記多層膜の最表層は窒化珪素を主成分とした透明硬質膜であり、
前記多層膜が透明導電膜を含み、前記透明導電膜の表面の一部が前記多層膜の隣接する層を越えて拡がっている
ことを特徴とする、反射防止膜。
【請求項9】
前記透明導電膜の表面の一部は周囲雰囲気に晒されるように前記透明基板上に形成されていることを特徴とする、請求項8に記載の反射防止膜。
【請求項10】
前記透明導電膜が接地されていることを特徴とする、請求項8に記載の反射防止膜。
【請求項11】
前記透明導電膜はITOを主成分とすることを特徴とする、請求項8に記載の反射防止膜。
【請求項12】
前記多層膜が、前記透明導電膜に加えて第2の透明導電膜を含むことを特徴とする、請求項8に記載の反射防止膜。
【請求項13】
前記多層膜の前記最表層に隣接する層が前記第2の透明導電膜であることを特徴とする、請求項12に記載の反射防止膜。
【請求項14】
前記多層膜の前記最表層から2番目の層が前記第2の透明導電膜であることを特徴とする、請求項12に記載の反射防止膜。
【請求項15】
前記多層膜の前記最表層に隣接する層が、波長500nmにおける屈折率が1.6以下の低屈折率膜であることを特徴とする、請求項14に記載の反射防止膜。
【請求項16】
前記第2の透明導電膜はTNO又はITOを主成分とすることを特徴とする、請求項12に記載の反射防止膜。
【請求項17】
透明基板と、前記透明基板上に設けられた請求項1から16のいずれか1項に記載の反射防止膜と、を備える光学部材。
【請求項18】
レンズとして請求項17に記載の光学部材を搭載したレンズモジュール。
【請求項19】
複数のレンズを搭載したレンズモジュールであって、前記複数のレンズのうち外気に晒されるレンズは請求項17に記載の光学部材であり、
残りのレンズの最表層には、前記残りのレンズ上に形成される多層膜のうち最も屈折率が低い層が配置される
ことを特徴とするレンズモジュール。
【請求項20】
筐体と、
請求項8から16のいずれか1項に記載の反射防止膜が設けられたレンズと、
を備えるレンズモジュールであって、前記反射防止膜が有する前記透明導電膜が前記筐体に電気的に接続されていることを特徴とする、レンズモジュール。
【請求項21】
請求項18に記載のレンズモジュールと、前記レンズモジュールを通過した光による像を撮像する撮像素子と、を搭載したカメラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反射防止膜、光学部材、レンズモジュール、及びカメラモジュールに関し、特に、帯電防止機能を有し、耐擦傷性に優れる反射防止膜に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外環境下で長時間使用される監視カメラ及び車載カメラでは、外部に面したカバーガラス又はレンズ上に、外部雰囲気中の砂埃のようなパーティクルが付着することがある。このようなパーティクルは、それ自体が撮影画像に悪影響を与えることがあり、またカバーガラス又はレンズの表面にキズを付けることにより撮影画像が劣化することがある。砂漠及び月面などの特殊環境下ではこのような問題が顕著となる。
【0003】
特許文献1は、耐摩耗性及び帯電防止効果に優れた光学部材を得るために、基材上の反射防止膜の最表層として、撥水膜を設けることや、有機-無機ハイブリッド層を設けることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-276568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように反射防止膜の最表層に有機物の層を設けると、長時間使用することで紫外線又は放射線などにより層が化学的に劣化し、耐摩耗性及び耐擦傷性も低下するという課題があった。
【0006】
本発明は、帯電防止機能及び耐擦傷性を有し、耐久性に優れた反射防止膜、光学部材、レンズモジュール、及びカメラモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る反射防止膜は以下の構成を備える。すなわち、
透明基板上に配置された多層膜である反射防止膜であって、
前記多層膜の最表層は窒化珪素を主成分とした透明硬質膜であり、
前記多層膜の前記最表層に隣接する層が透明導電膜である。
【発明の効果】
【0008】
帯電防止機能及び耐擦傷性を有し、耐久性に優れた反射防止膜、光学部材、レンズモジュール、及びカメラモジュールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】反射防止膜の分光反射率の特性を示す図。
図2】実施例1に係る反射防止膜の膜構成を示す概略図。
図3】実施例2に係る反射防止膜の膜構成を示す概略図。
図4】実施例3に係る反射防止膜の膜構成を示す概略図。
図5】実施例7に係るレンズモジュール及びカメラモジュールの概略図。
図6】実施例3の変形例に係る反射防止膜の膜構成を示す概略図。
図7】実施例4に係る反射防止膜の膜構成を示す概略図。
図8】実施例5に係る反射防止膜の膜構成を示す概略図。
図9】実施例6に係る反射防止膜の膜構成を示す概略図。
図10】実施例6の変形例に係る反射防止膜の膜構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
(反射防止膜)
本発明の一実施形態に係る反射防止膜は、透明基板上に配置された多層膜である。反射防止膜は、カバーガラス又レンズなどの透明基板上に形成することができ、可視波長などの所定の波長領域の反射を低減することができる。例えば、反射防止膜は、図1に示すように、少なくとも対象波長領域において反射率が1%以下程度となる特性を有している。特に、対象波長領域の各波長における反射率が1%以下程度となることが望ましい。反射防止膜の対象波長領域は、例えば可視波長領域(400~700nm)であるが、これには限られず、例えば700nm以上の近赤外波長領域、又は400nm以下の紫外線波長領域であってもよい。近赤外波長領域を対象波長領域とする場合には好ましくは700~1200nmの領域である。また、反射防止膜の対象波長領域における光吸収率は10%以下であることが好ましく、1%以下であることが特に好ましい。特に、対象波長領域の各波長における光吸収率が1%以下程度となることが望ましい。
【0012】
反射防止膜は、高屈折率膜と低屈折率膜との繰り返し部分を基本構成として有することができる。高屈折率膜は、低屈折率膜よりも屈折率が高い膜のことである。例えば、反射防止膜は、光吸収がほとんどなく屈折率の高い高屈折率膜と、光吸収がほとんどなく屈折率が低い低屈折率膜と、の交互積層構造を有することができる。このような反射防止膜によれば、対象波長領域の全域で高い透過特性と低い反射特性とを得ることができる。
【0013】
低屈折率膜としては、例えば波長500nmにおける屈折率が1.6以下の膜を用いることができる。低屈折率膜の材料としては、反射防止膜の対象波長領域における光吸収が少なく、安定的に成膜可能な材料を用いることができる。例えば、光学特性を重視する場合には屈折率が低いMgFを主成分とする薄膜層が、環境性を重視する場合にはSiOなどを主成分とした薄膜層を用いることができ、これらの薄膜層又はこれらの材料を組み合わせた複合層も用いることができる。
【0014】
高屈折率膜としては、例えば波長500nmにおける屈折率が1.8以上の膜を用いることができる。高屈折率膜の材料としては、反射防止膜の対象波長領域における光吸収が少なく、安定的に成膜可能な材料を用いることができる。例えば、TiO、Nb、チタンニオブ酸化物(TNO)、ZrO、Ta、HfO、LaTi(LaTiO)、又はSiなどを主成分とした薄膜層を用いることができ、これらの薄膜層又はこれらの材料を組み合わせた複合層も用いることができる。また、光学特性を重視する場合には屈折率が高いTiO又はNbなどが特に好ましく、紫外側の吸収を抑えたい場合にはTa、HfO、又はLaTiなどが特に好ましい。
【0015】
一実施形態において、多層膜の最表層は透明硬質膜である。このように反射防止膜の最表層に透明硬質膜を配置することにより、耐擦傷性を高めることができる。反射防止膜の光吸収率を低くするためには、無機材料を主成分とする透明硬質膜を多層膜の最表層に配置することができる。このような透明硬質膜は、砂埃又は月面のレゴリスなどの比較的硬質なパーティクルに対する擦傷性を高める効果を有している。また、無機材料を主成分とする透明硬質膜は、紫外線又は放射線などの影響を受ける環境においても劣化しにくく、十分な擦傷性を長期間維持することができる。
【0016】
透明硬質膜は、対象波長領域における光吸収率は10%以下、好ましくは1%以下となる膜である。透明硬質膜の材料としては、反射防止膜の対象波長領域における光吸収が少なく、安定的に成膜可能な材料を用いることができる。高い耐久性を得るために、透明硬質膜は無機材料を主成分とした薄膜層であってもよく、無機成分からなる薄膜層であってもよい。例えば、透明硬質層として、Al、Si、AlN、SiON、DLC、又はTiNなどを主成分とした薄膜層、又はこれらの材料からなる薄膜層を用いることができる。また、これらの材料を組み合わせた複合層、例えば主成分となるSiに微量のAlを添加した複合層なども用いることができる。なお、本明細書において特定の成分を「主成分とする」とは、複合層の成分のうち成分比が最も多い成分であり、特定の成分の質量比が75%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上であることを指す。また、本明細書において特定の成分「からなる」とは、特定の成分以外には不純物しか含まないこと、例えば特定の成分の質量比が99%以上であることを指す。
【0017】
透明硬質膜の硬度は、例えばビッカス硬度(JIS Z 2244)で1000Hv以上であることが好ましく、1500Hv以上が特に好ましい。また、ナノインデンター測定による硬度(ISO 14577)は10GPa以上であることが好ましい。このような硬度を有することにより、耐擦傷性がより向上する。
【0018】
透明硬質膜として、可視波長での透明性及び耐擦傷性などに優れる窒化珪素(Si)を主成分とした薄膜、又は窒化珪素からなる薄膜を用いることは特に好ましい。Si膜はビッカス硬度で1500Hv以上、マイヤー硬さで15GPa以上、ナノインデンターによる硬度で10GPa以上を有しているように非常に硬く、膜面のキズの発生を抑制することができる。また、透明性及び硬度の観点から、Siを主成分とした透明硬質膜は、波長500nmにおける屈折率が1.8以上程度であることが好ましく、2.2以下程度であることが好ましい。
【0019】
Siのような透明硬質膜は屈折率が高いため、膜厚が薄い方が反射率が低くなる傾向にある。一方で、透明硬質膜には、耐擦傷性を実現できる強度が求められる。このような観点から、透明硬質膜の膜厚は80Å以上であることが好ましく、150Å以上であることが特に好ましい。また、光学特性を重視する場合、透明硬質膜は、光の干渉が起こりにくい1μm程度以下の膜厚を有することが好ましい。
【0020】
ところで、透明性を備える硬質膜は屈折率が高いことが多く、最表層に配置すると周囲雰囲気との屈折率差が大きくなるために反射率が高くなる傾向がある。一方で、多層膜全体の干渉条件を調整することにより、最表層にMgFなどの低屈折率膜を配置した場合と比べると反射特性は高くなるものの、対象波長領域における反射率が1%以下程度となるような反射防止特性を得ることができる。図1は、このような膜構成を有する反射防止膜の光学特性例を示す。
【0021】
また、本発明の一実施形態に係る反射防止膜は透明導電膜を有している。透明導電膜は、光吸収を抑えて透過率を高めるために、対象波長領域において透明性を有する導電膜である。例えば、透明導電膜の対象波長領域における光吸収率は、10%以下、好ましくは1%以下である。透明導電膜は、20℃での電気抵抗率が1×10-5Ω・m以下の材料、好ましくは1×10-6Ω・m以下の材料で構成されている。
【0022】
このように、反射防止膜を構成する多層膜の1層以上として透明導電膜を配置することにより、帯電防止性能を高めることができる。特に砂漠地帯、月面、又は宇宙空間などの屋外環境下では、砂又はレゴリスなどの比較的硬質なパーティクルが反射防止膜に付着することが多い。これらのパーティクルが膜面上を滑りながら移動したり、又はワイパーのようなもので取り除かれたりする場合、パーティクルが引きずられることにより膜面上にキズが発生する可能性かある。また、このようなパーティクルは静電気を帯びていることが多く、静電気によって反射防止膜上にさらにパーティクルが引き寄せられてしまう可能性もある。本実施形態によれば、反射防止膜に導電膜を配置することにより、膜面上に電荷が溜まることを抑制し、反射防止膜に付着するパーティクルを減らすことができる。そして、パーティクルの付着及びこれに伴うキズの発生を減らすことにより、反射防止膜の耐擦傷性を長期間維持することが可能になる。
【0023】
一実施形態においては、多層膜の最表層に隣接する層が透明導電膜である。多層膜の最表層のより近くに透明導電膜を配置することによりパーティクルに対する影響がより大きくなるが、最表層には擦傷性を高める目的で比較的絶縁性の高い透明硬質膜を配置するため、最表層の手前の層として透明導電膜を配置することができる。後述する実施例2及び6はこのような構成を有する。
【0024】
一実施形態においては、多層膜の最表層から2番目の層が透明導電膜である。多層膜の最表層に配置される透明硬質膜は高屈折率であることが多いため、光学性能を向上させるために、最表層の手前の層として低屈折率膜を配置することができる。この場合、最表層から2層手前となる、低屈折率膜のさらに手前の層として、透明導電膜を配置することができる。このような構成によれば、比較的屈折率の高い透明導電膜を用いる場合に、反射防止膜の光学性能を向上させやすい。後述する実施例1、3、及び5はこのような構成を有する。
【0025】
一実施形態においては、透明導電膜は、多層膜が有する複数の低屈折率膜の間に設けられていてもよい。本実施形態において透明導電膜は高屈折率膜として用いられてもよく、この場合、透明導電膜が、より低い屈折率を有する低屈折率膜に挟まれていてもよい。後述する実施例1、3、及び5はこのような構成を有する。また、透明導電膜は、多層膜が有する複数の低屈折率膜と最表層との間に設けられていてもよい。後述する実施例2及び6はこのような構成を有する。また、一実施形態においては、透明導電膜は、帯電防止性能を高めるために、反射防止膜の膜厚方向の中間点よりも最表層に近い側に配置されている。このように、透明導電膜の配置には様々なバリエーションが考えられる。
【0026】
一実施形態においては、多層膜が透明導電膜を含み、透明導電膜の表面の一部が多層膜の隣接する層を越えて拡がっている。このように、より大きい透明導電膜を設けることにより、帯電防止機能を有する透明導電膜を広く形成し、反射防止膜の表面に溜まる電荷をより逃がしやすくすることができる。また、このような構成においては、透明導電膜の表面の一部を、周囲雰囲気に晒されるように透明基板上に形成することができる。この場合、透明導電膜のうち多層膜の隣接する層を越えて拡がっている部分、例えば周囲雰囲気に晒された部分にアース線を繋いで接地することで、電荷の蓄積をより一層抑制することができる。
【0027】
透明導電膜の材料は特に限定されないが、例えば、反射防止膜の第1層目として、透明基板の直上に、酸化インジウムスズ(ITO)膜、Nbドープ酸化チタン(TNO)膜、又は金属ナノメッシュなどの透明導電膜を形成することができる。この場合、さらに透明導電膜上に高屈折率膜及び低屈折率膜等を積層した後にも、透明導電膜の表面の一部が外気に晒されるような構成を採用することができる。このような反射防止膜は、第1層目として面積の大きい透明導電膜を成膜し、第2層目以降として面積の小さい高屈折率膜及び低屈折率膜等を成膜することにより作製することができる。この場合、面積が異なる透明導電膜を第1層目以外の層として設ける場合と比較して、成膜プロセスの分割回数を減らし、生産性を向上させることができる。後述する実施例4~6はこのような構成を有する。
【0028】
反射防止膜は2層以上の透明導電膜を有していてもよい。例えば、少なくとも1層の透明導電膜が上述の位置に配置されていることに加えて、多層膜がさらなる透明導電膜を含んでいてもよい。例えば、反射防止膜の最表層に隣接する層又は最表層から2番目の層として透明導電膜を設けるのに加えて、反射防止膜中にさらなる透明導電膜を配置することも可能である。また、反射防止膜の第1層目として透明導電膜を設けるのに加えて、反射防止膜中にさらなる透明導電膜を配置することも可能である。この場合、さらなる透明導電膜は、上述のように、多層膜の最表層に隣接する層、又は多層膜の最表層から2番目の層であってもよい。ここで、多層膜の最表層から2番目の層を透明導電膜とする場合、上述のように、最表層の手前の層として低屈折率膜、例えば波長500nmにおける屈折率が1.6以下の膜を配置することができる。このようなさらなる透明導電膜の材料は特に限定されないが、さらなる透明導電膜は、例えばTNO又はITOを主成分としていてもよく、TNO又はITOからなっていてもよい。これらの2層以上の透明導電膜は、それぞれ異なる材料で形成されていてもよい。
【0029】
透明導電膜の数及び膜厚は特に限定されない。透明導電膜の積層数が多く、透明導電膜の膜厚が厚い方が高い帯電防止効果を得ることができるが、具体的な設計は、必要な帯電防止性能に加え、光学的な特性、及び生産性なども考慮して行うことができる。一例として、透明導電膜の膜厚は、導電性を高めるために3nm以上又は10nm以上であってよく、光透過性を高めるために100nm以下又は50nm以下であってよい。一方で、透明基板の直上に形成される透明導電膜の膜厚は、透明導電膜が反射防止膜から離れていても十分な帯電防止効果を得る観点から、50nm以上、又は150nm以上であってもよく、例えば400nm以下又は300nm以下であってもよい。このように、反射防止膜が複数の透明導電膜を有する場合、第1層目の透明導電膜の膜厚が、他の透明導電膜の膜厚より大きくてもよい。
【0030】
後述する実施例1~3のように、反射防止膜の内部に設ける透明導電膜としては、例えば、TNO、ITO、IGZO、IZO、AZO、GZO、FTO、SnO、若しくはグラフェンなどを主成分とした薄膜層、又はこれらからなる薄膜層を用いることができる。また、これらの材料を組み合わせた複合層などを用いることもできる。これらの薄膜材料の中でも、成膜プロセスにおける選択性、コスト面、透明性、及び導電性などの点で総合的に優れている、TNOを主成分とする膜、TNOからなる膜、ITOを主成分とする膜、又はITOからなる膜が好ましく、TNOを主成分とする膜又はTNOからなる膜が特に好ましい。
【0031】
後述する実施例4~6のように、透明基板上に設ける透明導電膜としては、酸化チタンに数%程度ニオブをドープしたTNO、ITO、IGZO、IZO、AZO、GZO、FTO、SnO、若しくはグラフェンなどを主成分とした薄膜層、又はこれらの材料を組み合わせた複合層などを用いることができる。また、このような透明導電膜としては、透明性の高い、銀などで構成された金属ナノメッシュ膜、又は極薄の金属膜などを用いることもできる。これらの薄膜材料の中でも、成膜プロセスにおける選択性、コスト面、透明性、及び導電性などの点で総合的に優れている、TNOを主成分とする膜、TNOからなる膜、ITOを主成分とする膜、ITOからなる膜、又は銀などで構成される金属ナノメッシュ膜などが好ましく、ITOを主成分とする膜又はITOからなる膜が特に好ましい。
【0032】
これらに加えて、反射防止膜全体としてクラックを抑制する観点から、各層の膜厚及び膜密度などを制御することにより、反射防止膜全体の膜応力が小さくなるように調整することができる。さらにクラックを抑制するためには、各層の膜応力値を小さくすること、例えば膜厚が薄い層の積層構成を採用することができる。
【0033】
透明導電膜を有する本実施形態に係る反射防止膜の表面抵抗率は10Ω/□以下とすることができる。このような表面抵抗率においては、帯電自体が起きにくく、埃等が付着しにくい。
【0034】
ここまで、透明硬質膜及び透明導電膜を備え、透明硬質膜上の帯電を抑制できる反射防止膜について説明した。しかしながら、透明硬質膜を有さなくても、反射防止膜に透明導電膜を設けることにより、反射防止膜の帯電は抑制することができる。例えば、多層膜により構成され、多層膜が透明導電膜を含み、透明導電膜の表面の一部が多層膜の隣接する層を越えて拡がっている反射防止膜が、透明硬質膜を有さない実施形態も考えられる。このような実施形態においても、反射防止膜の表面における帯電を抑制することができ、パーティクルによる反射防止膜の損傷も抑制することができる。この効果は、特に透明導電膜を接地することにより向上させることができる。
【0035】
(透明基板)
本発明の一実施形態で用いられる透明基板は、対象波長領域における透明性を有する基板である。透明基板の対象波長領域における光吸収率は10%以下であることが好ましく、1%以下であることが特に好ましい。透明基板の形状は特に限定されず、例えば、透明基板は球面形状若しくは非球面形状を有するレンズ、又は平板形状の基板でありうる。透明基板の具体的な例としては、周囲雰囲気からレンズモジュール又はカメラモジュールを保護する目的で光入射面に配置されるカバーガラスが挙げられる。また、透明基板の別の例としては、カバーガラスを有さないタイプのレンズモジュールにおいて用いられ、周囲雰囲気に晒される位置に配置されるレンズそのものが挙げられる。このように、本発明の一実施形態に係る反射防止膜が設けられた透明基板は、光学部材として用いることができる。
【0036】
透明基板がレンズである場合、レンズ材料の種類は特に限定されず、使用環境に応じて、レンズとして必要とされる機械的、光学的、又は熱的な性能を有するものを利用することができる。このような材料としては、各硝材メーカが取り扱っている様々なガラス材料を使用することができる。例えば、月面環境などの放射線が降り注ぐ宇宙空間で使用される場合には、強い放射線環境下におけるガラスの着色を防ぐために、特殊な光学ガラスの1つである耐放射線ガラスを用いることができる。
【0037】
(成膜プロセス)
本発明の一実施形態に係る上記のような反射防止膜の成膜方法は特に限定されない。例えば、反射防止膜は、物理的又は化学的な成膜手法で形成することができる。再現性及び膜の耐環境性などの観点からは、スパッタ法、又は何らかのアシストを用いる蒸着方法などの、比較的高エネルギーで膜を形成できるプロセスを用いることができる。より具体的には、スパッタ法、IAD(Ion Assist Deposition)法、イオンプレーティング法、IBS(Ion Beam Sputter)法、クラスター蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、及びALD(Atomic Layer Deposition)法などが挙げられる。
【0038】
それぞれの成膜手法には、成膜速度及び膜厚制御等の点で違いがある。また、例えばALD法などには、光が透過する有効領域だけでなく、レンズ全体を覆うように成膜を行うことが容易であるという利点がある。これらを考慮して、求められる再現性、膜密度などの薄膜特性、及び生産性などを考慮して、適切な成膜方法を選択することができる。また、2つ以上の異なる成膜プロセスを組み合わせて用いてもよい。これらに加えて、成膜中は基板の耐熱性に合わせて加熱を行ってもよい。
【0039】
(レンズモジュール及びカメラモジュール)
図5は、本発明の一実施形態に係るレンズモジュール54及びカメラモジュール55の概略構成図である。レンズモジュール54は、レンズ50a~50eを有している。また、レンズモジュール54は、絞り53、鏡筒(不図示)、及びレンズ50a~50eの間に配置された遮光環(不図示)などを有することができる。
【0040】
レンズ50a~50eは、レンズモジュール54により所定の光学特性を得られるような、適切な形状及び材質を有する、適切な枚数のレンズである。図5には5枚のレンズが示されているが、レンズの枚数は限定されない。このようなレンズ50a~50eは、それぞれ異なる材料で構成されたレンズであってもよく、1枚以上の樹脂レンズを含んでいてもよい。図5の例において、最も外側のレンズ50aは外気に触れるように配置されており、優れた耐擦過性を有していることが望ましい。このような観点から、レンズ50aは、上述のように、透明基板上に本発明の一実施形態に係る反射防止膜が設けられた構成を有する。この場合、レンズ50aとしては、耐久性に優れるガラスを透明基板として有する、ガラスレンズを用いることができる。また、少なくとも、レンズ50aの外気に晒される側の面には、本発明の一実施形態に係る反射防止膜を設けることができる。この反射防止膜は、最表層に前述した透明硬質膜を最表層に備えており、また帯電防止機能を有している。
【0041】
また、レンズ50aの反対面(すなわち、外気に晒される側の面とは反対の面)に、本発明の一実施形態に係る反射防止膜を設けてもよい。このように、レンズ50aの反対面にも帯電防止機能を有する反射防止膜を設けることにより、レンズ50aの外気に晒される面の帯電防止性を向上させることができる。一方で、レンズ50aの反対面には、帯電防止機能を有していない反射防止膜を形成してもよい。このような反射防止膜は透明導電層を有さなくてもよいため、光学的な性能がより向上するように設計することが容易となる。レンズ50b~50eは直接的には外気に晒されないため、同様に、帯電防止機能を有していない反射防止膜を形成することができ、この反射防止膜は最表層に透明硬質膜を備えていなくてもよい。
【0042】
カメラモジュール55は、前述のレンズモジュール54に加えて、CCD又はCMOSなどの撮像素子51を有するモジュールである。撮像素子51は、レンズモジュール54を通過した光による像を撮像することができる。また、図5のように、カメラモジュール55には、近赤外波長領域の光の通過を制限するIRカットフィルタ52を有してもよい。また、カメラモジュール55は、近赤外波長領域の光のみを透過するIRパスフィルタなどの他の光学フィルタを有していてもよい。さらに、カメラモジュール55は、複数の光学フィルタを有していてもよいし、複数の光学フィルタから選択された光学フィルタを選択的に光軸上に配置するための機構を有していてもよい。
【0043】
上述したように、反射防止膜が有する透明導電膜は接地することができる。具体的には、レンズモジュール54又はカメラモジュール55が有する鏡筒などの筐体部分と、透明導電膜とを、配線などを介して電気的に接続することにより、透明導電膜の接地を行うことができる。具体的には、透明導電膜のうち多層膜の隣接する層を越えて拡がっている部分、例えば周囲雰囲気に晒された部分を、筐体と電気的に接続することができる。さらに、この筐体部分を接地してもよい。このような構成により、反射防止膜に溜まる電荷を積極的に逃がすことができるため、帯電防止効果をより高めることができる。
【0044】
(実施例1)
図2は、実施例1に係る反射防止膜21の膜構成を示す概略図である。図2では、膜構成を示す目的で、レンズ20の表面の一部に形成された反射防止膜21が示されている。実際の実施例1は、レンズ20の表裏両面の、少なくとも光が透過するレンズの有効部全域が、反射防止膜21に覆われた構造を有している。なお、反射防止膜21をALD法などにより成膜した場合には、側面を含めてレンズ20全面の全面が反射防止膜21に覆われる。
【0045】
実施例1に係る反射防止膜21を構成する全ての薄膜層は、膜密度が高くなり、膜面の平滑性も高くなるように、スパッタ法により成膜されている。実施例1では、宇宙空間、特には月面での使用を想定して、透明基板であるレンズ20として耐放射線ガラスを用いた。
【0046】
実施例1に係る反射防止膜21においては、図2に示すように、透明基板であるレンズ20の直上に高屈折率膜22であるTiO膜が配置され、さらにその直上に低屈折率膜23であるSiO膜が配置されている。この反射防止膜21は、TiOとSiOとの交互積層を基本構成として有している。また、反射防止膜21の最表層には透明硬質膜25であるSi膜が配置されている。そして、透明硬質膜25の手前の層として低屈折率膜23であるSiO膜が配置され、さらにその手前の層として透明導電膜24であり帯電防止効果を有するTNO膜が配置されている。このように、最表層の透明硬質膜25に隣接するように低屈折率膜23を配置することで、このSiO膜と、隣接し比較的屈折率が高いTNO膜及びSi膜のそれぞれと、の間の屈折率差を大きくすることができ、反射率などの光学特性を向上させることが容易になる。なお、実施例1では採用していないものの、反射防止膜21がさらなる層を有していてもよい。例えば、レンズ20と、レンズ20に最も近いTiO膜との間に、SiO層などの密着層を形成してもよい。また、レンズ20の直上には、低屈折率膜23であるSiO膜から始まる交互積層構造を設けてもよい。
【0047】
高屈折率膜22であるTiO膜は以下のように作製した。まず、Tiの金属ターゲットを用い、これをスパッタすることで極薄のTi薄膜を形成した後、所定の組成となるように、反応ソースとしてOガスを流して酸化させることで、極薄のTiO薄膜を作製した。このようなプロセスを所定の膜厚になるまで繰り返した。
【0048】
低屈折率膜23であるSiO膜は以下のように作製した。まず、Siの金属ターゲットを用い、これをスパッタすること極薄のSi薄膜を形成した後、所定の組成となるように、反応ソースとしてOガスを流して酸化させることで、極薄のSiO薄膜を作製した。このようなプロセスを所定の膜厚になるまで繰り返した。
【0049】
透明導電膜24であるTNO膜は以下のように作製した。まず、所定の比率で混合されたTi-Nb合金ターゲットを用い、これをスパッタすることで極薄のTi-Nb薄膜を形成した後、所定の組成となるように、反応ソースとしてOガスを流して酸化させることで極薄のTNO薄膜を作製した。このようなプロセスを所定の膜厚になるまで繰り返した。
【0050】
透明硬質膜25であるSi膜は以下のように作製した。まず、Siの金属ターゲットを用い、これをスパッタすることで極薄のSi薄膜を形成した後、所定の組成となるよう、反応ソースとしてNガスを流して窒化させることで極薄のSi薄膜を作製した。このようなプロセスを所定の膜厚になるまで繰り返した。実施例1においては、150Åの膜厚を有する透明硬質膜25を作製した。
【0051】
以上のように形成された反射防止膜21は、図1に示す反射特性と略等しい分光反射率を得ることができた。また、帯電防止効果を得やすいように、最表層から2層手前の位置に透明導電膜24を配置したことにより、反射防止膜21の全体としての表面抵抗率は10Ω/□以下となった。このように、実施例1で作製された反射防止膜21は、優れた反射防止効果を有しつつも、同時に高い帯電防止効果を有している。実施例1によれば、外気に直接触れる最表層に透明硬質膜25を設けた効果と合わせて、紫外線及び放射線などによる耐擦傷性の劣化が少なくなり、パーティクルの付着も低減できることから、優れた耐擦傷性を長期間維持することができる。このような実施例1に係る反射防止膜21は、宇宙空間又は月面環境下での使用にも適している。
【0052】
(実施例2)
図3は、実施例2に係る反射防止膜31の膜構成を示す概略図である。以下では、実施例1との違いについて説明する。
【0053】
実施例2に係る反射防止膜31は、透明基板であるレンズ30上に設けられ、図3に示すように、高屈折率膜32であるTiO膜と低屈折率膜33であるSiO膜との交互積層を基本構成として有している。反射防止膜31の最表層には、透明硬質膜35であるSi膜が配置されている。そして、透明硬質膜35の手前の層として透明導電膜34であり帯電防止効果を有するTNO膜が配置されている。このように、最表層の透明硬質膜35に隣接するように透明導電膜34を設けることにより、より高い帯電防止効果を得ることができる。
【0054】
レンズ30、高屈折率膜32、低屈折率膜33、透明導電膜34、及び透明硬質膜35の特性及び製法は実施例1と同様である。実施例2において、透明硬質膜35は150Å以上の膜厚とした。
【0055】
以上のように形成された反射防止膜31は、図1に示す反射特性と比較すると全体的に分光反射率が0.1~0.2%程度高くなっていたが、400~700nmの波長領域における分光反射率は略1%以下となっていた。また、帯電防止効果を得やすいように、最表層の手前に透明導電膜34を配置したことにより、反射防止膜31の全体としての表面抵抗率は10Ω/□以下となった。このように、実施例2で作製された反射防止膜31は、優れた反射防止効果を有しつつも、同時に高い帯電防止効果を有している。実施例2によれば、外気に直接触れる最表層に透明硬質膜35を設けた効果と合わせて、紫外線及び放射線などによる耐擦傷性の劣化が少なくなり、パーティクルの付着も低減できることから、優れた耐擦傷性を長期間維持することができる。このような実施例2に係る反射防止膜31は、宇宙空間又は月面環境下での使用にも適している。
【0056】
(実施例3)
図4は、実施例2に係る反射防止膜41の膜構成を示す概略図である。以下では、実施例1との違いについて説明する。実施例3においては、反射防止膜内に複数の透明導電膜が配置されている。
【0057】
実施例3に係る反射防止膜41は、透明基板であるレンズ40上に設けられ、図3に示すように、高屈折率膜42であるTiO膜と低屈折率膜43であるSiO膜との交互積層を基本構成として有している。反射防止膜41の最表層には、透明硬質膜45であるSi膜が配置されている。そして、透明硬質膜45の手前の層として低屈折率膜43であるSiO膜が配置され、さらにその手前の層として透明導電膜44であり帯電防止効果を有するTNO膜が配置されている。さらに、この透明導電膜44の手前の層として低屈折率膜43であるSiO膜が配置され、さらにその手前の層として透明導電膜44であり帯電防止効果を有するTNO膜が配置されている。このように、最表層の透明硬質膜45に隣接するように低屈折率膜43を配置することで、このSiO膜と、隣接し比較的屈折率が高いTNO膜及びSi膜のそれぞれと、の間の屈折率差を大きくすることができ、反射率などの光学特性を向上させることが容易になる。また、このように透明導電膜44であるTNO膜を複数層配置することで、高い帯電防止効果を得ることができる。
【0058】
レンズ40、高屈折率膜42、低屈折率膜43、透明導電膜44、及び透明硬質膜45の特性及び製法は実施例1と同様である。実施例3において、透明硬質膜45は150Å以上の膜厚とした。
【0059】
以上のように形成された反射防止膜41は、図1に示す反射特性と略等しい分光反射率を得ることができた。また、帯電防止効果を得やすいように、最表層から2層手前の位置に透明導電膜44を配置したことに加え、さらにもう1層の透明導電膜44を配置したことにより、実施例2よりも高い帯電防止効果が得られる。反射防止膜41の全体としての表面抵抗率は10Ω/□以下となった。このように、実施例3で作製された反射防止膜41は、優れた反射防止効果を有しつつも、同時に高い帯電防止効果を有している。実施例3によれば、外気に直接触れる最表層に透明硬質膜45を設けた効果と合わせて、紫外線及び放射線などによる耐擦傷性の劣化が少なくなり、パーティクルの付着も低減できることから、優れた耐擦傷性を長期間維持することができる。このような実施例3に係る反射防止膜41は、宇宙空間又は月面環境下での使用にも適している。
【0060】
さらには、図6で示すように、レンズ60の直上に透明導電膜66としてITO膜を設けてもよい。図6に示す反射防止膜61は、実施例3と同様の高屈折率膜62、低屈折率膜63、透明導電膜64、及び透明硬質膜65を有しており、すなわち3層の透明導電膜を有している。このような構成を有する反射防止膜61も、優れた反射防止効果を有しつつ、同時に高い帯電防止効果を有している。この場合、3層の透明導電膜は、それぞれ同じ薄膜材料で形成されていてもよいし、異なる薄膜材料で形成されていてもよい。また、図6において、透明導電膜64と透明導電膜66の薄膜材料を入れ替えてもよい。
【0061】
(実施例4)
図7は、実施例4に係る反射防止膜71の膜構成を示す概略図である。以下では、実施例1との違いについて説明する。
【0062】
実施例4に係る反射防止膜71は、図7に示すように、透明基板であるレンズ70の直上に成膜された、透明導電膜74であるITO膜を有している。反射防止膜71はさらに、透明導電膜74の直上に、透明導電膜74よりも小さい領域に形成された、低屈折率膜73であるSiO膜と高屈折率膜72であるTiOとの交互積層構造を有している。このように、透明導電膜74の一部は交互積層構造から露出している。反射防止膜71の最表層には、透明硬質膜75であるSi膜が配置されており、透明硬質膜75の手前の層には低屈折率膜73であるSiOが配置されている。このように、最表層の透明硬質膜75に隣接するように低屈折率膜73を配置することで、このSiO膜と、隣接し比較的屈折率が高いTiO膜及びSi膜のそれぞれと、の間の屈折率差を大きくすることができ、反射率などの光学特性を向上させることが容易になる。
【0063】
レンズ70、高屈折率膜72、低屈折率膜73、及び透明硬質膜75の特性及び製法は実施例1と同様である。実施例4において、透明硬質膜75は150Åの膜厚とした。
【0064】
透明導電膜74であるITO膜は、所定の比率で混合されたIn-Sn合金の酸化物ターゲットを用い、これを加熱しながら所定の組成となるようにOガスを流しながらスパッタすることで形成した。
【0065】
以上のように形成された反射防止膜71は、図1に示す反射特性と略等しい分光反射率を得ることができた。また、反射防止膜71を構成する他の積層膜に対して、高い帯電防止効果を有する透明導電膜74を、面積が大きく、外気に晒されるように配置したことにより、反射防止膜71の表面抵抗率は10Ω/□以下となった。このように、実施例4で作製された反射防止膜71は、優れた反射防止効果を有しつつも、同時に高い帯電防止効果を有している。また、透明導電膜74にアース線などを取り付けて接地することで、静電気の発生をさらに抑制することができ、さらなる帯電防止効果を得ることができる。実施例4によれば、外気に直接触れる最表層に透明硬質膜75を設けた効果と合わせて、紫外線及び放射線などによる耐擦傷性の劣化が少なくなり、パーティクルの付着も低減できることから、優れた耐擦傷性を長期間維持することができる。このような実施例4に係る反射防止膜71は、宇宙空間又は月面環境下での使用にも適している。
【0066】
(実施例5)
図8は、実施例5に係る反射防止膜81の膜構成を示す概略図である。以下では、実施例4との違いについて説明する。
【0067】
実施例5に係る反射防止膜81は、図8に示すように、透明基板であるレンズ80の直上に成膜された、透明導電膜84であるITO膜を有している。反射防止膜81はさらに、透明導電膜84の直上に、透明導電膜84よりも小さい領域に形成された、低屈折率膜83であるSiO膜と高屈折率膜82であるTiOとの交互積層構造を有している。反射防止膜81の最表層には、透明硬質膜85であるSi膜が配置されている。そして、透明硬質膜85の手前の層として低屈折率膜83であるSiO膜が配置され、さらにその手前の層として透明導電膜86であり帯電防止効果を有するTNO膜が配置されている。このように、最表層の透明硬質膜85に隣接するように低屈折率膜83を配置することで、このSiO膜と、隣接し比較的屈折率が高いTNO膜及びSi膜のそれぞれと、の間の屈折率差を大きくすることができ、反射率などの光学特性を向上させることが容易になる。
【0068】
レンズ80、高屈折率膜82、低屈折率膜83、透明導電膜84、及び透明硬質膜85の特性及び製法は実施例4と同様である。また、透明導電膜86の特性及び製法は実施例1と同様である。実施例3において、透明硬質膜85は150Å以上の膜厚とした。
【0069】
以上のように形成された反射防止膜81は、図1に示す反射特性と略等しい分光反射率を得ることができた。また、反射防止膜81を構成する他の積層膜に対して、高い帯電防止効果を有する透明導電膜84を、面積が大きく、外気に晒されるように配置し、さらには帯電防止効果を得やすいように最表層から2層手前の位置に透明導電膜86を配置したことにより、反射防止膜81の表面抵抗率は10Ω/□以下となった。このように、実施例5で作製された反射防止膜81は、優れた反射防止効果を有しつつも、同時に高い帯電防止効果を有している。実施例5によれば、外気に直接触れる最表層に透明硬質膜85を設けた効果と合わせて、紫外線及び放射線などによる耐擦傷性の劣化が少なくなり、パーティクルの付着も低減できることから、優れた耐擦傷性を長期間維持することができる。このような実施例5に係る反射防止膜81は、宇宙空間又は月面環境下での使用にも適している。
【0070】
(実施例6)
図9は、実施例6に係る反射防止膜91の膜構成を示す概略図である。以下では、実施例4との違いについて説明する。
【0071】
実施例6に係る反射防止膜91は、図9に示すように、透明基板であるレンズ90の直上に成膜された、透明導電膜94であるITO膜を有している。反射防止膜91はさらに、透明導電膜94の直上に、透明導電膜94よりも小さい領域に形成された、低屈折率膜93であるSiO膜と高屈折率膜92であるTiOとの交互積層構造を有している。反射防止膜91の最表層には、透明硬質膜95であるSi膜が配置されている。そして、透明硬質膜95の手前の層として透明導電膜96であり帯電防止効果を有するTNO膜が配置されている。このように、最表層の透明硬質膜95に隣接するように透明導電膜96を設けることにより、より高い帯電防止効果を得ることができる。
【0072】
レンズ90、高屈折率膜92、低屈折率膜93、透明導電膜94、及び透明硬質膜95の特性及び製法は実施例5と同様である。また、透明導電膜96の特性及び製法は実施例1と同様である。実施例6において、透明硬質膜95は150Å以上の膜厚とした。
【0073】
以上のように形成された反射防止膜91は、図1に示す反射特性と略等しい分光反射率を得ることができた。また、反射防止膜91を構成する他の積層膜に対して、高い帯電防止効果を有する透明導電膜94を、面積が大きく、外気に晒されるように配置し、さらには帯電防止効果を得やすいように最表層の手前の位置に透明導電膜96を配置したことにより、反射防止膜91の表面抵抗率は10Ω/□以下となった。このように、実施例6で作製された反射防止膜91は、優れた反射防止効果を有しつつも、同時に高い帯電防止効果を有している。実施例6によれば、外気に直接触れる最表層に透明硬質膜95を設けた効果と合わせて、紫外線及び放射線などによる耐擦傷性の劣化が少なくなり、パーティクルの付着も低減できることから、優れた耐擦傷性を長期間維持することができる。このような実施例6に係る反射防止膜91は、宇宙空間又は月面環境下での使用にも適している。
【0074】
さらには、図10で示すように、反射防止膜が3層以上の透明導電膜を有していてもよい。図10に示す反射防止膜101は、実施例6と同様に、透明基板100上に透明導電膜104及び低屈折率膜103と高屈折率膜102との積層構造を有する他、実施例3と同様に、2層の透明導電膜106、及び透明硬質膜105を有しており、すなわち3層の透明導電膜を有している。このような構成を有する反射防止膜101も、優れた反射防止効果を有しつつ、同時に高い帯電防止効果を有している。この場合、3層の透明導電膜は、それぞれ同じ薄膜材料で形成されていてもよいし、異なる薄膜材料で形成されていてもよい。また、図10において、透明導電膜104と透明導電膜106の薄膜材料を入れ替えてもよい。
【0075】
(実施例7)
以上のように実施例1~6で作製された、反射防止膜21,31,41,71,81,91が形成されたレンズ20,30,40,70,80,90を、鏡筒内に配置することで、図5に示すようなレンズモジュール54を作製した。前述のように、少なくともレンズ50aの外気に晒される側の面には、実施例1~6のような、透明硬質膜を最表層に備え、帯電防止機能を有する反射防止膜56を形成した。
【0076】
また、レンズ50aの反対面側にも反射防止膜を形成したが、この反対面は直接的には外気に晒されないため、反射防止膜の最表層には必ずしも透明硬質膜を配置する必要がない。このため、レンズ50aの反対面側には、光学的な性能を向上させやすい、最表層に低屈折率膜が配置された反射防止膜57を形成した。一方で、帯電防止機能を重視して、レンズ50aの反対面側に形成した反射防止膜57には、透明導電膜を配置した。より具体的には、反射防止膜57は、高屈折率膜であるTiO膜と低屈折率膜であるSiO膜の交互層を基本構成として有し、最表層に低屈折率膜としてSiO膜を配置し、最表層の手前の層に透明導電膜としてTNO膜を配置した。TNO膜は屈折率が高いことから、TiO膜のような高屈折率膜の一部又は全部の代わりにTNO膜を用いてもよい。また、反射防止膜57が、実施例4~6と同様に、透明基板の直上に設けられた透明導電膜を有していてもよい。
【0077】
同様に、レンズ50b~50eは直接的には外気には晒されないため、高度な耐擦傷性能及び帯電防止機能の必要性は低い。このため、光学特性を最重視した反射防止膜58を、透明基板であるレンズ50b~50eの表裏の2つの面に形成した。より具体的には、反射防止膜58は、高屈折率膜であるTiO膜と低屈折率であるSiO膜との交互層を有し、最表層には低屈折率膜であるSiO膜を配置した。これらの反射防止膜57及び58も、実施例1と同様の成膜プロセスに従って作製できる。
【0078】
さらに、このようなレンズモジュール54に撮像素子51及びIRカットフィルタ52を追加することでカメラモジュール55を作製した。このようなレンズモジュール54及びカメラモジュール55においては、外気に晒される透明基板の表面に帯電防止機能を有し耐擦傷性に優れた反射防止膜が形成されている。このため、レンズモジュール54及びカメラモジュール55も長期にわたる優れた耐擦傷性を発揮することができる。
【0079】
さらに、レンズ50aの外気に晒される側の面に作製した反射防止膜56において、実施例4~6のように、透明導電膜の表面の一部が多層膜の隣接する層を越えて拡がっている実施例においては、この部分を接地した。具体的には、透明導電膜の外気に晒されている部分と、鏡筒のようなレンズモジュール54又はカメラモジュール55の筐体部分とを電気的に接続した。このように構成により、反射防止膜56の膜面上に電荷が溜まるのをさらに抑制することができた。
【0080】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0081】
20,30,40,60,70,80,90,100:レンズ
21,31,41,61,71,81,91,101:反射防止膜
22,32,42,62,72,82,92,102:高屈折率膜
23,33,43,63,73,83,93,103:低屈折率膜
24,34,44,64,74,84,94,104:透明導電膜
25,35,45,65,75,85,95,105:透明硬質膜
66,86,96,106:透明導電膜
50a~50e:レンズ、51:撮像素子、52:IRカットフィルタ、53:絞り、54:レンズモジュール、55:カメラモジュール、56~58:反射防止膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10