(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165551
(43)【公開日】2023-11-16
(54)【発明の名称】熱間幅圧下プレス用工具及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/30 20060101AFI20231109BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231109BHJP
C21D 9/50 20060101ALI20231109BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20231109BHJP
C21D 7/06 20060101ALI20231109BHJP
B21B 1/02 20060101ALI20231109BHJP
B21B 15/00 20060101ALI20231109BHJP
B23K 9/04 20060101ALI20231109BHJP
B21J 1/04 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
B23K35/30 340C
C22C38/00 302X
C21D9/50 101B
C21D9/00 M
C21D7/06 B
B21B1/02 E
B21B15/00 E
B23K9/04 M
C22C38/00 302E
B21J1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076741
(22)【出願日】2022-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000143628
【氏名又は名称】株式会社黒木工業所
(71)【出願人】
【識別番号】511112607
【氏名又は名称】黒木工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤井 直久
(72)【発明者】
【氏名】金井 幸太
【テーマコード(参考)】
4E002
4E087
4K042
【Fターム(参考)】
4E002AB04
4E002BD01
4E087AA09
4E087CA03
4E087CB01
4E087ED07
4K042AA24
4K042AA25
4K042BA02
4K042BA03
4K042BA06
4K042BA14
4K042CA07
4K042CA08
4K042CA10
4K042CA13
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC03
(57)【要約】
【課題】 熱間幅圧下プレス用工具の熱間スラブに対する押圧面に肉盛溶接する合金鋼を改良し、耐摩耗性、耐熱亀裂性及び高温耐酸化性を向上させ、耐用期間をさらに延長すること。
【解決手段】
熱間スラブに対する押圧面に肉盛溶接する合金鋼の成分を、重量%にて、C:0.05%超0.5%以下、Si:0.2%超0.9%以下、Mn:0.4%超1.2%以下、Cr:9.0%超11.0%以下、Mo:2.0%超3.5%以下、Ni:1.5%超3.0%以下、V:0.1%超0.5%以下、W:0.1%超0.5%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるものとした熱間幅圧下プレス用工具。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間スラブをプレスにより幅圧下するための工具であって、該熱間スラブに対する押圧面に、重量%にて、
C:0.05%超0.5%以下、
Si:0.2%超0.9%以下、
Mn:0.4%超1.2%以下、
Cr:9.0%超11.0%以下、
Mo:2.0%超3.5%以下、
Ni:1.5%超3.0%以下、
V:0.1%超0.5%以下、
W:0.1%超0.5%以下を含有し、
残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼の肉盛溶接部を有している
ことを特徴とする熱間幅圧下プレス用工具。
【請求項2】
前記肉盛溶接部の厚さが、15~60mmである
ことを特徴とする請求項1記載の熱間幅圧下プレス用工具。
【請求項3】
熱間幅圧下プレス用工具における熱間スラブに対する押圧面に、請求項1記載の合金鋼を肉盛溶接し、
母材及び肉盛溶接部の全体を、500℃~570℃の温度にて、前記熱間幅圧下プレス用工具の厚さt(mm)に応じ、t/25時間以上保持したのち冷却する
ことを特徴とする熱間幅圧下プレス用工具の製造方法。
【請求項4】
前記肉盛溶接をブロック溶接により行い、ついで肉盛溶接部にピーニング処理を行う
ことを特徴とする請求項3記載の熱間幅圧下プレス用工具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材などの熱間スラブをプレスにより幅圧下する際に使用される工具、具体的には熱間スラブに対する押圧面に合金鋼の肉盛溶接部を有している熱間幅圧下プレス用工具及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼材などの製造において、熱間圧延用などのために加熱されたスラブ(本明細書ではこれを熱間スラブという)をプレスにより幅圧下することで、製品サイズに適した幅に調整することが行われる。このプレス用の金型には、ダクタイル鋳鉄(JISG5502に規定されるFCD)、機械構造用合金鋼(JISG4105に規定されるSCM)、熱間工具鋼(JISG4404に規定されるSKT)などの材料で一体物として製作されたものが使用されている。
【0003】
金型の形状に関し、例えば、特許文献1:特開昭60-203305号公報には、スラブ進行方向入側に傾斜角を限定した傾斜部を有し、引続き平行部を有する金型により、スラブの表面及び内部に割れなどの欠陥を生じることなく、任意幅に連続的に幅圧下できることが開示されている。
また、特許文献2:特公平4-33521号公報には、少なくともスラブ進行方向入側に傾斜部を有し、引続き平行部を有する金型のスラブ押圧面に、寸法を限定した傾斜カリバー溝を設けることで、圧延時のスラブ表面疵発生を防止できることが開示されている。
【0004】
さらに、本出願人の関連会社等の出願に係る特許文献3:特開平11-2562711号公報(特許第3563587号)及び特許文献4:特開2004-17076号公報(特許第3711090号)には、熱間幅圧下プレス用工具の熱間スラブに対する押圧面に、C、Si、Mn、Cr、Mo、Ni、V、Wを含有する合金鋼の肉盛溶接部を有している熱間幅圧下プレス用工具及びその製造方法並びに熱間幅圧下プレス用金型が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60-203305号公報
【特許文献2】特公平4-33521号公報
【特許文献3】特開平11-2562711号公報(特許第3563587号)
【特許文献4】特開2004-17076号公報(特許第3711090号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱間幅圧下プレス用工具のスラブ押圧面には摩耗のほか熱亀裂が発生し、使用回数が増すにつれて亀裂の程度が拡大するという問題がある。熱亀裂が大きくなった状態の熱間幅圧下プレス用工具でスラブを幅圧下すると、引続き行う熱間圧延において圧延材に耳割れなどの欠陥が発生するので、熱間幅圧下プレス用工具を交換しなくてはならない。
例えば、上記ダクタイル鋳鉄で一体物として製作された熱間幅圧下プレス用工具を使用して、連続熱間圧延用の普通鋼の熱間スラブを幅圧下プレスした場合、1日あたり約700本程度のスラブを処理する通常の使用において、9~10日で交換が必要であった。
【0007】
交換に際しては、連続的に行っているプレス作業を停止しなければならないので前後工程を含めた稼働率が低下し、生産性が損なわれる。また、亀裂が拡大した熱間幅圧下プレス用工具は亀裂を研削除去して再使用するが、研削コスト及び交換用の予備熱間幅圧下プレス用工具の保有数増によりコスト増となっていた。
さらに、熱間幅圧下プレス用工具の研削量が増すと左右1対の工具間距離の変化が大きくなり、プレス作業に支障を来すので、工具厚み補正用のシム板などを挿入して再使用回数の延長が図られているが、熱間幅圧下プレス用工具交換作業の負荷増大及び時間延長も必要であった。
【0008】
なお、上記機械構造用合金鋼や熱間工具鋼で製作された熱間幅圧下プレス用工具は、ダクタイル鋳鉄製のものより摩耗や熱亀裂の発生は改善されるものの、大きな改善はみられず、4~5回の研削再使用後は廃棄処分せざるを得なかった。また、特許文献1及び2に記載された技術は、いずれも金型の形状に関するものであり、金型耐用期間の延長効果は期待できない。
また、特許文献3及び4に記載された技術は、熱間幅圧下プレス用工具の熱間スラブに対する押圧面に、合金鋼を肉盛溶接することでスラブ押圧面の熱亀裂発生を抑制し、耐用期間を延長し、工具交換頻度を低減できるものであったが、酸化被膜Cr2O3の形成能力が低下し易く、高温耐酸化性が発揮されなくなってしまうという問題があった。
本発明は、熱間幅圧下プレス用工具において、耐用期間を延長し、工具交換頻度を低減するため、熱間スラブに対する押圧面に肉盛溶接する合金鋼を改良し、高温耐酸化性を向上させ耐用期間をさらに延長することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る熱間幅圧下プレス用工具は、熱間スラブをプレスにより幅圧下するための工具であって、該熱間スラブに対する押圧面に、重量%にて、C:0.05%超0.5%以下、Si:0.2%超0.9%以下、Mn:0.4%超1.2%以下、Cr:9.0%超11.0%以下、Mo:2.0%超3.5%以下、Ni:1.5%超3.0%以下、V:0.1%超0.5%以下、W:0.1%超0.5%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼の肉盛溶接部を有していることを特徴とする。
そして、前記肉盛溶接部の厚さは、15~60mmであることが好ましい。
また、上記課題を解決するための本発明に係る熱間幅圧下プレス用工具の製造方法は、熱間スラブをプレスにより幅圧下するための工具において、該熱間スラブに対する押圧面に、上記の合金鋼を肉盛溶接し、母材及び肉盛溶接部の全体を、500℃~570℃の温度にて、前記熱間幅圧下プレス用工具の厚さt(mm)に応じ、t/25時間以上保持したのち冷却することを特徴とする。
そして、前記肉盛溶接をブロック溶接により行い、ついで肉盛溶接部にピーニング処理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱間幅圧下プレス用工具は、熱間スラブに対する押圧面に上記成分を含有する合金鋼の肉盛溶接部を有しているので、耐摩耗性に優れ、かつ熱亀裂の発生や拡大が抑制される。また、高温耐酸化性が向上するので、耐用期間をさらに延長することができる。
そのため、熱間幅圧下プレス用工具の母材に、従来利用されている機械構造用炭素鋼などの比較的安価な材料を採用しても、耐用期間を大幅に延長することができる。
そして、本発明の熱間幅圧下プレス用工具の製造方法によれば、上記のような優れた熱間幅圧下プレス用工具を安定して確実に製造できる。
したがって、本発明は熱間スラブのプレス作業率向上、熱間幅圧下プレス用工具の保有個数減及び使用期間延長による生産性向上で、コスト削減に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】熱間幅圧下プレス用工具の使用例を示す平面図。
【
図2】2種類の熱間幅圧下プレス用工具における
図1のA-A矢視断面図。
【
図3】熱間幅圧下プレス用工具の製造方法におけるブロック溶接の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を、
図1及び
図2に示す熱間幅圧下プレス用工具2の例により説明する。
図1は熱間幅圧下プレス用工具の使用例を示す平面図で、熱間スラブ1を矢印の方向に移動させつつ、1組の熱間幅圧下プレス用工具2で幅方向に幅圧下プレスを行っている状態を示している。
図2は2種類の熱間幅圧下プレス用工具2における
図1のA-A矢視断面拡大図である。熱間幅圧下プレス用工具2のスラブ押圧面は(a)のようにフラットであってもよく、また(b)のようにカリバー3が形成されていてもよい。
【0013】
熱間幅圧下プレス用工具2の母材4としては、上記従来材と同様、機械構造用合金鋼(JISG4105に規定されるSCM)、熱間工具鋼(JISG4404に規定されるSKT)を採用することができるほか、より安価な機械構造用炭素鋼(JISG4051に規定されるS35CやS45Cなど)及びそれに類する鋼材(JISG3201に規定されるSF590など)などを採用することもできる。
【0014】
そして、熱間幅圧下プレス用工具2のスラブ押圧面には合金鋼5が肉盛溶接されており、合金鋼5の成分は、重量%にて、C:0.05%超0.5%以下、Si:0.2%超0.9%以下、Mn:0.4%超1.2%以下、Cr:9.0%超11.0%以下、Mo:2.0%超3.5%以下、Ni:1.5%超3.0%以下、V:0.1%超0.5%以下、W:0.1%超0.5%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
肉盛溶接は、例えば上記成分組成のフラックス入りワイヤを使用して、MAG溶接により施工することができる。
【0015】
以下に各成分範囲の限定理由を説明する。
Cは溶接金属の鋼中に固溶して、その硬さと強度を向上させるほか、CrやMo、VあるいはWと結合して炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる効果があるが、その含有量が0.05%以下では所望の効果が得られず、0.5%を超えると靭性が低下して耐熱亀裂性が低下する。したがってC含有量を0.05%超0.5%以下とした。
【0016】
Siは溶接時に溶接金属の脱酸作用を行うとともに、強度を向上させ、溶融した溶接金属の流動性を良好にして欠陥の発生を防止する効果があるが、その含有量が0.2%以下では所望の効果が得られず、0.9%を超えると靭性が低下して耐熱亀裂性が低下する。したがってSi含有量を0.2%超0.9%以下とした。
【0017】
Mnは溶接時に溶接金属の脱酸作用を行うとともに靭性を向上させる効果があるが、0.4%以下では所望の効果が得られず、1.2%を超えて添加してもその効果は飽和する。したがってMn含有量を0.4%超1.2%以下とした。
【0018】
Crは高温酸化や水蒸気腐食を防止する効果があるだけでなく、熱亀裂進展速度を抑制させる延性(伸び、絞り)も向上させる効果があり、延性が最大となるのは、おおよそ10.0%とされている。そして、Cr含有量が9.0%以下では酸化被膜Cr2O3の形成能力が低下し、高温耐酸化性が発揮されず、また、11.0%を超えるとフェライト相の生成によって延性が低下し、耐熱亀裂性の低下を招くのでCr含有量を9.0%超11.0%以下としたが、9.5%超10.5%以下とするとより良い。
【0019】
Moは溶接金属の鋼中に固溶して硬さ及び強度を向上させるほか、Cと結合して高温強度を高め、さらに焼戻し軟化抵抗性をもたらすために添加する。2.0%以下ではその効果が発揮されず、3.5%を超えると靭性が低下して耐熱亀裂性などが低下する。したがってMo含有量を2.0%超3.5%以下とした。
【0020】
Niは溶接金属の靭性を向上させるために添加し、1.5%以下ではその効果が発揮されず、3.0%を超えると硬さが低下し耐摩耗性が低下する。したがってNi含有量を1.5%超3.0%以下とした。
【0021】
Vは高温強度及び焼戻し軟化抵抗性をさらに高めるために必要に応じて添加する。0.1%以下ではそのさらなる効果が発揮されず、0.5%を超えると靭性が低下して耐熱亀裂性などが低下する。したがってV含有量を0.1%超0.5%以下とした。
残部はFe及び不可避成分である。不純物としてはP、Sが代表的である。P及びSは合金を脆化させるので、それぞれ0.01%以下の含有量に抑えるのが良い。
【0022】
Wは高温強度をさらに向上させるために添加し、0.1%以下ではその効果が発揮されず、0.5%を超えると靭性が低下し耐熱亀裂性が低下する。したがってW含有量を0.1%超0.5%以下とした。
【0023】
高温強度が高くなると摩耗は減り、熱亀裂が発生しにくくなるとともに高温靭性の改善により亀裂進展速度も抑制されるため、熱間幅圧下プレス用工具の耐熱亀裂性が格段に向上する。
【0024】
そして、本発明の熱間幅圧下プレス用工具におけるスラブ押圧面には、このような合金鋼の肉盛溶接部を有しているので、耐摩耗性に優れ、かつ熱亀裂の発生や拡大が抑制される。このため熱間幅圧下プレス用工具の母材には、上記機械構造用炭素鋼などの比較的安価な材料を採用しても、耐用期間を大幅に延長することができる。
また、スラブ押圧面が摩耗や亀裂により劣化した熱間幅圧下プレス用工具には、再び合金鋼を肉盛溶接して再使用できる。
【0025】
さらに、本発明の熱間幅圧下プレス用工具において、合金鋼5は厚さdが15~60mmの範囲で肉盛溶接されていることが好ましい。厚さdが15mm未満では耐用期間の延長効果が十分には発揮され難く、厚さdが60mm程度までの範囲において肉盛溶接作業の効率がよくかつ拡大亀裂を研削除去して再使用する回数を増やすことで、新作製造回数が抑えられるため、費用面からも適している。
【0026】
次に、本発明の熱間幅圧下プレス用工具の製造方法について説明する。
熱間幅圧下プレス用工具2のスラブ押圧面に上記の合金鋼5を肉盛溶接したのち、母材4及び肉盛溶接部の合金鋼5を併せた全体を、500℃~570℃の温度にて熱処理し、この範囲の温度での保持時間を、熱間幅圧下プレス用工具2の厚さt(mm)に応じ、t/25時間以上とする。なお肉盛溶接の前工程として、熱間幅圧下プレス用工具2を400~500℃に予熱しておくと、溶接後の残留応力軽減のために望ましい。
【0027】
肉盛溶接は、上述のように、例えば上記成分組成のフラックス入りワイヤを使用して、MAG溶接により施工することができるが、肉盛溶接部の残留応力を除去するとともに、組織を緻密化し延性を向上させるために上記条件の熱処理を行う。熱処理温度が500℃未満では二次硬化による強度の上昇が得られない。570℃を超えると、溶接金属の硬さが低下し、耐摩耗性が低下するとともに母材が軟化して強度が低下することになる。また、この温度範囲での保持時間がt/25時間未満では、スラブ押圧面の全体にわたる熱処理効果が得られ難くなる。
【0028】
さらに、熱間幅圧下プレス用工具の製造方法において、肉盛溶接をブロック溶接により行い、ついで肉盛溶接部にピーニング処理を行うことが好ましい。肉盛溶接後、溶接部にピーニングを行うことで残留応力を軽減するとともに溶着金属を強化する。さらにピーニング後、前記熱処理を行うことで、残留応力は除去され、溶着金属は一層強化される。
【実施例0029】
本発明に係る熱間幅圧下プレス用工具2の耐久性を検討するため、
図1に示すような形状の熱間幅圧下プレス用工具2で、スラブ押圧面が
図2(a)のようなフラットなものと
図2(b)のようなカリバー付きのものを3組、母材4に機械構造用炭素鋼S45Cを使用して製作した。熱間幅圧下プレス用工具2の厚さtはいずれも400mmである。
そして、1組のスラブ押圧面に合金鋼5として表1に示すAの成分からなるものをMAG溶接により肉盛溶接した。合金鋼5の厚さdはいずれも50~60mmとした。
また、比較例として、ダクタイル鋳鉄製の同形状の熱間幅圧下プレス用工具(以下「比較例A」という。)を製作し、さらに、1組のスラブ押圧面に合金鋼5として表1に示すBの成分(文献3の表1におけるAの成分)からなるものをMAG溶接により肉盛溶接し(以下「比較例B」という。)、1組のスラブ押圧面に合金鋼5として表1に示すCの成分(文献3の表1におけるBの成分)からなるものをMAG溶接により肉盛溶接した(以下「比較例C」という。)。合金鋼5の厚さdは同じくいずれも50~60mmとした。
【表1】
【0030】
本発明及び比較例B、Cに係る3組の熱間幅圧下プレス用工具は、いずれも電気炉にて400~500℃に予熱後、表1の各成分からなるフラックス入りワイヤを使用して、母材4の変形を緩和するため、
図3に示す数字の順にとびとびでエリアごとにブロック溶接を行い、各ブロックの溶接後、赤熱状態でピーニング処理を行ってスラブ押圧面に肉盛溶接を施した。
ついで電気炉にて500~570℃に16時間保持する熱処理を行い、室温まで放冷したのち、機械研削などにより所定寸法に仕上げた。
【0031】
これら肉盛溶接を施した3組及びダクタイル鋳鉄製1組の熱間幅圧下プレス用工具を使用して、薄鋼板向け熱間スラブの幅圧下プレスを行った。スラブのサイズは、長さが5000~12000mm、厚さは240mm、幅はプレス前とプレス後の差が約300mmであり、1日に約700本の熱間スラブをプレスした。
【0032】
比較例Aの熱間幅圧下プレス用工具は、フラットなもの、カリバー付きのものいずれも、熱亀裂の拡大により、10日で組替えが必要となった。
また、比較例Bの熱間幅圧下プレス用工具は、フラットなもの、カリバー付きのものいずれも、23日で組替えが必要となり、比較例Cの熱間幅圧下プレス用工具は、フラットなもの、カリバー付きのものいずれも、30日で組替えが必要となった。
なお、特許文献3及び4には、比較例B及びCの熱間幅圧下プレス用工具は、フラットなもの、カリバー付きのものいずれも、合金鋼が表1のA成分では60~80日、B成分では80~100日、組替えなしで使用できたと記載されているが、追試した結果は上記のとおりであった。
これに対して本発明に係る熱間幅圧下プレス用工具はフラットなもの、カリバー付きのものいずれも、40日間組替えなしで使用できた。
すなわち、比較例Aに比べて、本実施例に係る熱間幅圧下プレス用工具は亀裂の切削除去から交換までの1サイクルの処理量が約4倍、比較例Bに比べて同処理量が約1.7倍、比較例Cに比べて同処理量が約1.3倍となった。