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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165626
(43)【公開日】2023-11-16
(54)【発明の名称】マルチビームパターン規定装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20231109BHJP
   H01J 37/09 20060101ALI20231109BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
H01L21/30 541W
H01J37/09 A
H01J37/147 C
H01J37/147 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023066276
(22)【出願日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】22171589.9
(32)【優先日】2022-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】509316578
【氏名又は名称】アイエムエス ナノファブリケーション ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン エーデル-カプル
(72)【発明者】
【氏名】エルマー プラッツグマー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ シュペングラー
(72)【発明者】
【氏名】マティアス リールツァー
【テーマコード(参考)】
5C101
5F056
【Fターム(参考)】
5C101AA27
5C101EE03
5C101EE23
5C101EE36
5C101EE57
5C101EE65
5C101EE70
5F056AA07
5F056CB05
5F056EA03
5F056EA04
(57)【要約】
【課題】開口アレイ装置の縁部における横方向のビームレットの変位を低減する。
【解決手段】粒子ビーム処理または検査装置において使用するためのマルチビームパターン規定装置であって、荷電粒子のビームを照射され、当該ビームを複数の開口を通過させるよう適合され、対応する数のビームレットを形成するマルチビームパターン規定装置が提案される。装置は、少なくとも2つの開口セットが実現される開口アレイ装置と、開口アレイ装置の下流に位置し、ビームレットが通過するよう構成された複数の孔を有し、衝突領域を備え、荷電粒子が衝突領域に衝突し、複数の孔が実質的に規則的に配置される孔アレイ装置と、を備え、開口アレイ装置は、荷電粒子を通過させ、追加のビームレットを形成する複数の追加の開口を備え、孔アレイ装置は、追加の開口を通過した荷電粒子が、追加の衝突領域に衝突するよう、開口アレイ装置の追加の開口に対応する位置に追加の衝突領域を備える。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子ビーム処理または検査装置において使用するためのマルチビームパターン規定装置であって、荷電粒子(複数)のビームを照射され、当該ビームを複数の開口を通過させるように適合され、これにより、対応する数のビームレット(複数)を形成するマルチビームパターン規定装置であって、
開口アレイ装置と、
孔アレイ装置と、を備え、
前記開口アレイ装置は、
前記開口(複数)が実現され、
少なくとも2つの開口セットを備え、
各開口セットは、当該開口アレイ装置上に実質的に規則的な配列で配置された複数の開口を備え、
前記開口セットの前記配列(複数)は、少なくとも部分的にインターレース(interlace)し、
異なる開口セットの前記開口(複数)は、少なくとも、前記配列(複数)がインターレースしている領域において、共通の変位ベクトルに対応する変位だけ、互いにオフセットし、
前記孔アレイ装置は、
前記開口アレイ装置の下流に位置し、
前記開口(複数)の少なくとも1つのサブセットによって形成されたビームレット(複数)が通過するよう構成された複数の孔を有し、
衝突領域(複数)を備え、
前記衝突領域(複数)は、配列(複数)がインターレースする前記領域に対応する少なくとも1つの領域において、少なくとも1つの前記開口セットの開口(複数)に対応する位置に位置し、
前記衝突領域(複数)に対応する前記少なくとも1つの前記開口セットの開口(複数)を通過する荷電粒子は、前記衝突領域(複数)に衝突し、
当該孔アレイ装置の前記複数の孔は、前記領域において、前記開口アレイ装置の、前記開口(複数)の少なくとも1つの他の開口セットの前記配列に対応する、実質的に規則的な配列で配置され、
前記開口アレイ装置は、複数の追加の開口を備え、当該追加の開口は、前記少なくとも2つの開口セットのインターレースする配列の領域の外側に位置し、前記追加の開口(複数)は、追加のビームレット(複数)を形成するために、荷電粒子(複数)を通過させるよう構成され、
前記孔アレイ装置は、追加の衝突領域(複数)を備え、当該追加の衝突領域(複数)は、追加の開口(複数)を通過した荷電粒子(複数)が、追加の衝突領域(複数)に衝突するように、前記開口アレイ装置の追加の開口(複数)に対応する位置に位置する、マルチビームパターン規定装置。
【請求項2】
請求項1記載のマルチビームパターン規定装置であって、
衝突領域(複数)に衝突する荷電粒子(複数)は、局所電荷分布(複数)を形成し、
追加の衝突領域(複数)に衝突する荷電粒子(複数)は、追加の局所電荷分布(複数)を形成し、
前記追加の開口(複数)は、追加の局所電荷分布の電荷が、局所電荷分布の電荷に実質的に等しくなるように構成される、マルチビームパターン規定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマルチビームパターン規定装置であって、
前記開口アレイ装置の前記少なくとも2つの開口セットは、当該開口装置の中心部に位置し、前記追加の開口(複数)は、当該開口装置の縁部に位置し、
前記縁部は、少なくとも部分的にまたは完全に、前記中心部を取り囲む、マルチビームパターン規定装置。
【請求項4】
請求項3記載のマルチビームパターン規定装置であって、
前記縁部は、前記中心部を囲み、
当該縁部は、前記開口アレイ装置の全表面の少なくとも10%を超えて延在する、マルチビームパターン規定装置。
【請求項5】
請求項1記載のマルチビームパターン規定装置であって、
前記開口アレイ装置と前記孔アレイ装置とは、
-前記開口装置の第一の開口セットによって形成される第一ビームレット(複数)は、前記孔アレイ装置の対応する孔(複数)を通過することができ、
-前記開口装置の第二の開口セットによって形成される第二ビームレット(複数)は、前記孔アレイ装置の前記衝突領域(複数)に衝突することができ、当該衝突領域(複数)は、前記第二の開口セットの開口(複数)に対応し、
前記第二ビームレット(複数)の荷電粒子(複数)は、前記第二の開口セットのそれぞれの開口(複数)に対応する各衝突領域において、局所電荷分布(複数)を形成し、
-前記開口装置の前記複数の追加の開口(複数)によって形成される第三ビームレット(複数)は、前記孔アレイ装置の前記追加の衝突領域(複数)に衝突することができ、当該追加の衝突領域(複数)は、追加の開口(複数)に対応し、
前記第三ビームレット(複数)の荷電粒子(複数)は、それぞれの追加の開口(複数)に対応する各追加の衝突領域において、追加の局所電荷分布(複数)を形成する、
ように配置される、マルチビームパターン規定装置。
【請求項6】
請求項1記載のマルチビームパターン規定装置であって、
前記追加の開口(複数)は、前記開口アレイ装置上に、さらに実質的に規則的な配列で配置される、マルチビームパターン規定装置。
【請求項7】
請求項6記載のマルチビームパターン規定装置であって、
前記さらに実質的に規則的な配列は、前記開口アレイ装置上の少なくとも2つの開口セットの、少なくとも部分的にインターレースする、実質的に規則的な配列(複数)のうちの1つの続きである、マルチビームパターン規定装置。
【請求項8】
請求項1記載のマルチビームパターン規定装置であって、
前記追加の開口(複数)のサイズは、前記孔装置の前記追加の衝突領域(複数)に衝突する追加のビームレット(複数)によって形成された前記追加の局所電荷分布(複数)が、前記孔装置の前記衝突領域(複数)に衝突するビームレット(複数)によって形成された局所電荷分布と本質的に等しくなるような大きさである、マルチビームパターン規定装置。
【請求項9】
請求項1記載のマルチビームパターン規定装置であって、
開口アレイ装置表面あたりの追加の開口(複数)の密度は、前記少なくとも2つの開口セットのうちの1つの、開口アレイ装置表面あたりの密度に、本質的に等しい、マルチビームパターン規定装置。
【請求項10】
請求項1記載のマルチビームパターン規定装置であって、
前記少なくとも2つの開口セットのうちの1つの開口と、隣接する追加の開口と、の間の距離は、前記少なくとも2つの開口セットの1つのセットの2つの隣接する開口間の距離以上である、マルチビームパターン規定装置。
【請求項11】
請求項1記載のマルチビームパターン規定装置であって、
複数のブランキング孔を有する偏向アレイ装置をさらに備え、当該ブランキング孔(複数)は、各前記ビームレット(複数)が、公称経路に沿って前記ブランキング孔(複数)の1つを通過するように位置し、
前記偏向アレイ装置は、複数の静電型偏向電極を備え、各静電型偏向電極は、ブランキング孔に関連付けられ、前記それぞれの電極に駆動電圧が印加された時に、前記それぞれのブランキング孔を通過するビームレットを、当該ビームレットをその公称経路から逸脱させるために十分な量だけ偏向させるよう構成される、マルチビームパターン規定装置。
【請求項12】
請求項1記載のマルチビームパターン規定装置であって、
前記孔アレイ装置に対する前記開口アレイ装置の相対的な位置を調整するために、前記開口アレイ装置と前記孔アレイ装置の少なくとも一方の位置決めを行う位置決め配列をさらに備え、前記位置決め配列は、少なくとも配列がインターレースする前記領域において、選択的に、前記開口アレイ装置の前記開口セットの選択されたセットを、前記孔アレイ装置の前記複数の孔と整列させるよう構成される、マルチビームパターン規定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2022年5月4日に出願された欧州特許出願第22171589.9号についてのパリ条約上の優先権の利益を主張するものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。
【0002】
本発明は、粒子ビーム処理または検査装置に使用するためのマルチビームパターン規定装置に関する。この装置は、荷電粒子の、特に、電子のビームによって照射され、該ビームを複数の開口を貫通通過させるよう適合され、これにより、対応する数のビームレットを形成する。当該装置は、上述の開口が、対応する数のビームレットを形成するために規定されている開口アレイ装置を含む幾つかの構成要素を備える。
【背景技術】
【0003】
上述のタイプのパターン規定装置(以下、「PD(Pattern Definition)装置」と称する。)およびそのようなPD装置を組み込んだ荷電粒子マルチビーム処理装置は、本出願人の米国特許第6,768,125号、同第8,546,767号及び同第9,269,543号に記載されている。これらの文献の教示は、引用を以って本書に組み込み、本願の開示を構成するものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,768,125号
【特許文献2】米国特許第8,546,767号
【特許文献3】米国特許第9,269,543号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の文献には、PML2(“Projection Mask-Less Lithography”(投射(投影)式マスクレスリソグラフィ)の略称)と称される荷電粒子リソグラフィ、加工方法および装置が記載されている。本出願人による幾つかの文献には、eMET(“electron multi-beam Mask Exposure Tool”(電子マスク露光ツール)の略称)と称される加工装置が記載されている。これらの装置は、マルチビーム描画コンセプトを実現している。また、荷電粒子の単一の供給源から抽出される粒子ビームを構造化するためのPD装置としてプログラマブル開口プレートシステム(APS)を使用する。
【0006】
通常、PD装置は、開口アレイ装置と、孔アレイ装置と、偏向アレイ装置とを含む。US 8,546,767によれば、開口(複数)の複数アレイを含む「マルチプルマルチビームアレイ(multiple multi-beam arrays)」を備えてもよい。これは、開口アレイ装置(AAD:aperture array device)が、少なくとも2つの開口セットを含むためである。ここで、各セットは、AAD上に(実質的に)規則的な配列で配置された複数の開口を含む。これらの2つ以上のセットの配列は、少なくとも部分的にインターレース(interlace)し、異なるセットの開口は、-少なくとも配列がインターレースしている領域において-共通の変位ベクトルに(実質的に)対応する変位だけ互いに対しずらされている(offset)。これに対応して、また、開口の複数のセットから1つのセットを選択する手段として、孔アレイ装置は、複数の孔を備える。複数の孔は、AADの開口によって形成されるビームレットの、少なくとも1つのサブセットの経路に対応するよう構成される。少なくとも、前記配列がインターレースする領域に対応する領域において、孔アレイ装置は、複数の孔を備える。複数の孔は、実質的に規則的な配列で配置される。この配列は、前述の領域において、開口セットの1つの配列に対応している。一方、孔アレイ装置は、他の開口セットの開口に対応する位置では、孔が存在しない(そのため、そこでは、孔アレイ装置は不透明(不透過)である)。
【0007】
さらに、例えば、いわゆるブランキングプレートと呼ばれる形をした偏向アレイ装置は、PD装置の付加的な分離された構成要素として、しばしば存在し得る。偏向アレイ装置は、複数のブランキング孔を有する。これらのブランキング孔は、AADで形成されて孔アレイによって送られるビームレットそれぞれが、公称経路(nominal path)に沿ってブランキング孔の1つを通過するように配置される。偏向アレイ装置は、複数の静電型偏向電極を備える。各静電型偏向電極は、ブランキング孔に関連付けられ、それぞれのブランキング孔を通過するビームレットを偏向させるように構成される。このとき、偏向させられる量は、各電極に駆動電圧が印加されたときに、ビームレットを公称経路から逸脱させるのに十分な量である。
【0008】
さらに、有利には、AADを位置決めすることができる位置決め装置を備えてもよい。これは、孔アレイ装置および偏向アレイ装置に対して開口アレイ装置の位置を調整するためである。これらの位置決め装置は、AADの開口のセットのうちの1つ、すなわち、選択されたセットを、孔アレイ装置およびブランキングアレイ装置の複数の孔と選択的に整列させるように構成される。例えば、開口と孔とブランキング孔とが、少なくとも配列がインターレースする領域において整列するように構成される。
【0009】
上記の構造は非常に有用であることが証明されている。しかし、発明者らは、ある状況下ではPD装置の使用中に問題が生じる可能性があることに注目した。孔アレイ装置では、ビームレットのサブセットは、孔アレイ装置の物質(bulk)(特に、いわゆる衝突領域)によってブロックされる。(前述したように荷電粒子の)ビームレットと孔アレイ装置の物質(bulk)との相互作用は、しばしば二次粒子、例えば電子、の発生を引き起こすことがある。二次粒子の一部は物質内に留まるが、所定の割合の二次粒子は物質から放出される。その角度方向は、極角範囲は0度から90度、方位角範囲は0度から360度に及ぶ。ここで、極角とは、放出方向と孔アレイ装置の表面法線とのなす角であり、実質的に当該孔アレイ装置からAADの最も近い部分に向かう。二次粒子については、角度分布は、通常、極角0度で最大となる(極角に対する)余弦則に従う。このような二次粒子の放出は、通常、ビームレットが孔アレイ装置の表面に衝突する部位の周囲数μm(エネルギーが5keVの電子ビームレットの場合)で発生する。
【0010】
電荷を帯びた二次粒子(特に電子)が発生する場合、その二次粒子は、優勢的、直観的にわかるように、AADや孔アレイ装置の他の部位に電荷を堆積および蓄積する可能性がある。電荷の蓄積は、それらの部位で、局所的に顕著な低導電率によって促進され、電荷がグランドに向かって流れたり散逸したりすることを妨げる。
【0011】
蓄積された電荷は電界を発生させることになる。電界は、近傍の(一次)ビームレットを偏向させ、ターゲット表面で不所望なビームレットの変位を引き起こす可能性があり、その結果、パターンの忠実度を低下させる。また、開口アレイ装置や孔アレイ装置の表面汚染に起因する、局所的に顕著な低導電率を伴う(生ずる)場合もある。このような汚染は、例えば、粒子や製造プロセスの残渣、あるいは、一次ビームレット粒子による残留ガス分子(主に炭素を含むもの)の分解とその後の(炭素を含む固体材料の)堆積によって引き起こされる可能性がある。
【0012】
孔アレイ装置とAADとにおいて蓄積された電荷を有する部位の、合計の横方向寸法、つまり帯電領域全体は、ブロックされたビームレットによって規定されるアレイの横方向寸法とほぼ一致することになる。
【0013】
上述したような局所的なビームレットの偏向効果は、ビームレットへの影響を強化した別の偏向効果によって上回れることになる。
【0014】
第一に、特定のビームレットの周囲にほぼ対称的かつ近接して位置するいくつかの帯電領域からの電界は、横方向の成分が減少した局所的な生成電界に合計されることになる。このため、単一の帯電部位と比較して横方向の偏向が減少する。
【0015】
第二に、局所的な電荷蓄積によって生成される帯電領域全体の電界は、孔アレイ装置とAADとの間の、比較的滑らかに変化する電界と対応する電位分布とに重畳することになる。これは、2枚の平行な平板で構成されたコンデンサ内の電界とそれに対応する電位分布とに等しい。その平板のサイズは、孔アレイ装置とAADとの帯電領域全体に対応する。
【0016】
重畳電界は、単一の局所的な電荷誘導電界よりも遠くまで広がる。このため、重畳電界を交差通過するすべてのビームレットは、電界と相互作用する。
【0017】
帯電領域全体(複数)の中心間では、重畳電界は、孔アレイ装置およびAADの表面法線に平行な方向が支配的となる。
【0018】
この中央ゾーンを通過する全てのビームレットは、無視できる程度の横方向の偏向を経験することになる。このため、ターゲット表面での位置決め誤差が無視できるほど小さくなる。帯電領域全体の縁では、平行平板コンデンサの縁におけるフリンジ電界と同様に、重畳電界は非帯電領域に向かって消失することになる。このため、横方向の電界成分が無視できなくなり、交差ビームレットの横方向の偏向が発生する。
【0019】
本発明者らは、不所望なビームレットの変位が、開口アレイと孔アレイとの縁部において、すなわち、開口と対応する孔とを有する領域から開口がない領域への移行ゾーンにおいて、主として発生するだろうことを認識した。ビームレットの変位が最も大きくなるのは、最も外側に位置するビームレットであり、ビームレットの位置が開口アレイの中心に向かうにつれて、この現象は消失する。
【0020】
以上のことから、本発明の目的は、上記の問題を克服するためにPD装置のレイアウトを改善することにある。特に、開口アレイ装置の縁部における、横方向のビームレットの変位を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的は、請求項1に記載のマルチビームパターン規定装置によって解決される。好ましい実施形態は、従属項に記載される。
【0022】
本発明の第一の視点によれば、粒子ビーム処理または検査装置において使用するためのマルチビームパターン規定装置が提供される。当該装置は、荷電粒子(複数)のビームを照射され、当該ビームを複数の開口を通過させるよう適合され、これにより、対応する数のビームレット(複数)を形成する。
当該装置は、開口アレイ装置と、孔アレイ装置とを備える。
前記開口アレイ装置は、
前記開口(複数)が実現され、
少なくとも2つの開口セットを備え、
各開口セットは、前記開口アレイ装置上に実質的に規則的な配列で配置された複数の開口を備え、
前記開口セットの前記配列(複数)は、少なくとも部分的にインターレースし、異なる開口セットの前記開口(複数)は、少なくとも、前記配列(複数)がインターレースしている領域において、共通の変位ベクトルに対応する変位だけ、互いにオフセットする。
前記孔アレイ装置は、
前記開口アレイ装置の下流に位置し、
前記開口(複数)の少なくとも1つのサブセットによって形成されたビームレット(複数)が通過するよう構成された複数の孔を有し、
衝突領域(複数)を備え、前記衝突領域(複数)は、配列(複数)がインターレースする前記領域に対応する少なくとも1つの領域において、少なくとも1つの前記開口セットの開口(複数)に対応する位置に位置し、
衝突領域(複数)に対応する前記少なくとも1つの前記開口セットの開口(複数)を通過する荷電粒子は、前記衝突領域(複数)に衝突し、
当該孔アレイ装置の前記複数の孔は、前記領域において、前記開口アレイ装置の、前記開口(複数)の少なくとも1つの他の開口セットの前記配列に対応する、実質的に規則的な配列で配置される。
前記開口アレイ装置は、複数の追加の開口を備え、当該追加の開口は、前記少なくとも2つの開口セットのインターレースする配列の領域の外側に位置し、前記追加の開口(複数)は、追加のビームレット(複数)を形成するために、荷電粒子(複数)を通過させるよう構成される。
前記孔アレイ装置は、追加の衝突領域(複数)を備え、当該追加の衝突領域(複数)は、追加の開口(複数)を通過した荷電粒子(複数)が、追加の衝突領域(複数)に衝突するように、前記開口アレイ装置の追加の開口(複数)に対応する位置に位置する。
なお、「インターレース(interlace)」の語は、本願において、複数の格子配列が、夫々の格子点が互いに一致することなく、両格子配列間に所定の変位を有し、互いに組み合わされている状態を示す。
【0023】
<形態>
(形態1)上記本発明の第一の視点参照。
(形態2)形態1の装置において、衝突領域(複数)に衝突する荷電粒子(複数)は、局所電荷分布(複数)を形成し、追加の衝突領域(複数)に衝突する荷電粒子(複数)は、追加の局所電荷分布(複数)を形成し、前記追加の開口(複数)は、追加の局所電荷分布の電荷が、局所電荷分布の電荷に実質的に等しくなるように構成されることが好ましい。
(形態3)形態1または2の装置において、前記開口アレイ装置の前記少なくとも2つの開口セットは、当該開口装置の中心部に位置し、前記追加の開口(複数)は、当該開口装置の縁部に位置し、前記縁部は、少なくとも部分的にまたは完全に、前記中心部を取り囲むことが好ましい。
(形態4)形態3の装置において、前記縁部は、前記中心部を囲み、当該縁部は、前記開口アレイ装置の全表面の少なくとも10%を超えて延在することが好ましい。
(形態5)形態1から4のいずれかの装置において、前記開口アレイ装置と前記孔アレイ装置とは、
-前記開口装置の第一の開口セットによって形成される第一ビームレット(複数)は、前記孔アレイ装置の対応する孔(複数)を通過することができ、
-前記開口装置の第二の開口セットによって形成される第二ビームレット(複数)は、前記孔アレイ装置の前記衝突領域(複数)に衝突することができ、当該衝突領域(複数)は、前記第二の開口セットの開口(複数)に対応し、
前記第二ビームレット(複数)の荷電粒子(複数)は、前記第二の開口セットのそれぞれの開口(複数)に対応する各衝突領域において、局所電荷分布(複数)を形成し、
-前記開口装置の前記複数の追加の開口(複数)によって形成される第三ビームレット(複数)は、前記孔アレイ装置の前記追加の衝突領域(複数)に衝突することができ、当該追加の衝突領域(複数)は、追加の開口(複数)に対応し、
前記第三ビームレット(複数)の荷電粒子(複数)は、それぞれの追加の開口(複数)に対応する各追加の衝突領域において、追加の局所電荷分布(複数)を形成する、
ように配置されることが好ましい。
(形態6)形態1から5のいずれかの装置において、前記追加の開口(複数)は、前記開口アレイ装置上に、さらに実質的に規則的な配列で配置されることが好ましい。
(形態7)形態6の装置において、前記さらに実質的に規則的な配列は、前記開口アレイ装置上の少なくとも2つの開口セットの、少なくとも部分的にインターレースする、実質的に規則的な配列(複数)のうちの1つの続きであることが好ましい。
(形態8)形態1から7のいずれかの装置において、前記追加の開口(複数)のサイズは、前記孔装置の前記追加の衝突領域(複数)に衝突する追加のビームレット(複数)によって形成された前記追加の局所電荷分布(複数)が、前記孔装置の前記衝突領域(複数)に衝突するビームレット(複数)によって形成された局所電荷分布と本質的に等しくなるような大きさであることが好ましい。
(形態9)形態1から8のいずれかの装置において、開口アレイ装置表面あたりの追加の開口(複数)の密度は、前記少なくとも2つの開口セットのうちの1つの、開口アレイ装置表面あたりの密度に、本質的に等しいことが好ましい。
(形態10)形態1から9のいずれかの装置において、前記少なくとも2つの開口セットのうちの1つの開口と、隣接する追加の開口と、の間の距離は、前記少なくとも2つの開口セットの1つのセットの2つの隣接する開口間の距離以上であることが好ましい。
(形態11)形態1から10のいずれかの装置において、複数のブランキング孔を有する偏向アレイ装置をさらに備え、当該ブランキング孔(複数)は、各前記ビームレット(複数)が、公称経路に沿って前記ブランキング孔(複数)の1つを通過するように位置し、前記偏向アレイ装置は、複数の静電型偏向電極を備え、各静電型偏向電極は、ブランキング孔に関連付けられ、前記それぞれの電極に駆動電圧が印加された時に、前記それぞれのブランキング孔を通過するビームレットを、当該ビームレットをその公称経路から逸脱させるために十分な量だけ偏向させるよう構成されことが好ましい。
(形態12)形態1から11のいずれかの装置において、前記孔アレイ装置に対する前記開口アレイ装置の相対的な位置を調整するために、前記開口アレイ装置と前記孔アレイ装置の少なくとも一方の位置決めを行う位置決め配列をさらに備え、前記位置決め配列は、少なくとも配列がインターレースする前記領域において、選択的に、前記開口アレイ装置の前記開口セットの選択されたセットを、前記孔アレイ装置の前記複数の孔と整列させるよう構成されることが好ましい。
【0024】
本発明の第1の視点によれば、粒子ビーム装置または検査装置において使用するためのマルチビームパターン規定装置が提供される。この装置は、荷電粒子(複数)のビームを照射され、当該ビームを複数の開口を通過させるように適合され、これにより、対応する数のビームレット(複数)を形成する。
マルチビームパターン規定装置は、前記第一の視点で述べた特徴を備える。
【0025】
この解決手段により、開口アレイ装置の縁部における横方向のビームレットの変位が減少する。典型的なレイアウトでは、追加の開口によって形成された全てのビームレットは、典型的には、開口配列がインターレースする領域のすぐ外側の、縁の領域に位置する。そして、これらのビームレットは、孔アレイ装置の、それぞれの追加の衝突領域(複数)において、ブロックされることになることが強調される。
【0026】
衝突領域(複数)に衝突する荷電粒子(複数)は、局所電荷分布(複数)を形成し、追加の衝突領域(複数)に衝突する荷電粒子(複数)は、追加の局所電荷分布(複数)を形成し、前記追加の開口(複数)は、追加の局所電荷分布の電荷が、局所電荷分布の電荷に実質的に等しくなるように構成されてもよい。
【0027】
前記開口アレイ装置の前記少なくとも2つの開口セットは、当該開口装置の中心部に位置し、前記追加の開口(複数)は、当該開口装置の縁部に位置し、前記縁部は、少なくとも部分的にまたは完全に、前記中心部を取り囲んでもよい。
【0028】
前記縁部は、前記中心部を囲み、当該縁部は、前記開口アレイ装置の全表面の少なくとも10%を超えて延在してもよい。
【0029】
前記開口アレイ装置と前記孔アレイ装置とは、
-前記開口装置の第一の開口セットによって形成される第一ビームレット(複数)は、前記孔アレイ装置の対応する孔(複数)を通過することができ、
-前記開口装置の第二の開口セットによって形成される第二ビームレット(複数)は、前記孔アレイ装置の前記衝突領域(複数)に衝突することができ、当該衝突領域(複数)は、前記第二の開口セットの開口(複数)に対応し、
前記第二ビームレット(複数)の荷電粒子(複数)は、前記第二の開口セットのそれぞれの開口(複数)に対応する各衝突領域において、局所電荷分布(複数)を形成し、
-前記開口装置の前記複数の追加の開口(複数)によって形成される第三ビームレット(複数)は、前記孔アレイ装置の前記追加の衝突領域(複数)に衝突することができ、当該追加の衝突領域(複数)は、追加の開口(複数)に対応し、
前記第三ビームレット(複数)の荷電粒子(複数)は、それぞれの追加の開口(複数)に対応する各追加の衝突領域において、追加の局所電荷分布(複数)を形成する、
ように配置されてもよい。
【0030】
前記追加の開口(複数)は、前記開口アレイ装置上に、さらに実質的に規則的な配列で配置されてもよい。好ましくは、前記さらに実質的に規則的な配列は、前記開口アレイ装置上の少なくとも2つの開口セットの、少なくとも部分的にインターレースする、実質的に規則的な配列(複数)のうちの1つの続きであってもよい。典型的には、この更なる実質的に規則的な配列は、中心部から縁部へのそれぞれの配列の続きを実現することができる、追加の開口の配置を表す。
【0031】
前記追加の開口(複数)のサイズは、前記孔装置の前記追加の衝突領域(複数)に衝突する追加のビームレット(複数)によって形成された前記追加の局所電荷分布(複数)が、前記孔装置の前記衝突領域(複数)に衝突するビームレット(複数)によって形成された局所電荷分布と本質的に等しくなるような大きさであってもよい。
【0032】
開口アレイ装置表面あたりの追加の開口(複数)の密度は、前記少なくとも2つの開口セットのうちの1つの、開口アレイ装置表面あたりの密度に、本質的に等しくてもよい。
【0033】
前記少なくとも2つの開口セットのうちの1つの開口と、隣接する追加の開口と、の間の距離は、前記少なくとも2つの開口セットの1つのセットの2つの隣接する開口間の距離以上であってもよい。
【0034】
前記装置は、複数のブランキング孔を有する偏向アレイ装置をさらに備え、当該ブランキング孔(複数)は、各前記ビームレット(複数)が、公称経路に沿って前記ブランキング孔(複数)の1つを通過するように位置し、前記偏向アレイ装置は、複数の静電型偏向電極を備え、各静電型偏向電極は、ブランキング孔に関連付けられ、前記それぞれの電極に駆動電圧が印加された時に、前記それぞれのブランキング孔を通過するビームレットを、当該ビームレットをその公称経路から逸脱させるために十分な量だけ偏向させるよう構成されてもよい。
【0035】
前記装置は、前記孔アレイ装置に対する前記開口アレイ装置の相対的な位置を調整するために、前記開口アレイ装置と前記孔アレイ装置の少なくとも一方の位置決めを行う位置決め配列をさらに備え、前記位置決め配列は、少なくとも配列がインターレースする前記領域において、選択的に、前記開口アレイ装置の前記開口セットの選択されたセットを、前記孔アレイ装置の前記複数の孔と整列させるよう構成されてもよい。
【0036】
以下では、本発明をさらに実証するために、図面に示すように、例示的かつ非制限的な実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明に適した粒子ビーム露光装置の縦断面概観図である。
図2】PDシステムの上面図である。
図3図2のPDシステムの部分断面の側面図である。
図4】3プレート構成を有するPDセットアップ(装置)の断面詳細である。なお、開口プレートとして実現されるAADは、2セットの開口(複数)を備える。そのうち、第一セットの開口は、作動し、一方、第二セットは、孔アレイ装置で停止される。
図5】本発明のPDシステムの開口プレートの一部の上面図である。
図6図4の詳細図であるとともに、電荷を帯びた二次粒子による電位発生と、それに続く開口アレイ装置の様々な部位および孔アレイ装置の衝突領域での電荷の蓄積を示す図である。
図7図4と同様の断面詳細図である。しかし、規則的な開口アレイの縁部に描かれた複数の局所的な帯電部位(または、分布)を示す図である。
図8】孔アレイ装置の衝突領域における局所的な帯電部位のアレイの計算結果である。アレイの内側(「中心」)部分が左側に、縁部が右側に描かれている。
図9図8の詳細図である。ここでは、孔アレイ装置の中央に位置する1つの開口について、孔アレイ装置の衝突領域における、開口の両側の電荷の蓄積を示す。また、蓄積された電荷とその結果生じる電位の対称的な分布を示す。
図10】開口アレイ装置の縁部に追加の開口を有する本発明の一実施形態の断面図である。
図11】開口アレイ装置の縁部に追加の開口を有する本発明のPDシステムの開口アレイ装置の一部の上面図である。
図12】本発明の一実施形態の、追加の開口による追加の衝突領域を有する孔アレイ装置の、衝突領域における局所帯電部位のアレイの計算結果である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下においては、まず、本発明の技術的背景を―本発明の典型的な実施形態(複数)に関連する限りにおいて―議論し、次に、本発明の一例示的実施形態を詳細に提示する。
【0039】
以下に与えられる本発明の例示的実施形態の詳細な議論は本発明の基本的思想及び更なる有利な発展を開示する。本発明の特定の適用に好適であると認められるようなここで議論される実施形態の幾つか又は全てを任意に組み合わせることは当業者には明らかなはずである。この開示全体において、「有利な」、「例示的な」または「好ましい」といった用語は、本発明またはその一実施形態に特に好適である(但し不可欠ではない)要素または寸法を表し、当業者によって好適であると認められる場合であれば、明示的に要求されない限り、修正可能である。本発明は、本発明の可能な適用の1つを単に代表するに過ぎず、説明の目的のために与えられ、かつ、単に本発明の好適な具体化例を提示するに過ぎない以下の実施形態、または、PDシステムの特定のレイアウトに限定されるものではないことは当然である。また、本発明の実施形態は、ターゲットの露光のためのマルチビームセットアップ(装置)を使用する他のタイプの処理システムにも適する。この開示の範囲内において、「上方」または「上流」といった垂直(鉛直)方向または垂直伝播に関する用語は、縦方向(「垂直軸」)に沿って下方に進行すると考えられるビームの方向に関して理解されるべきである。この垂直軸は、同様に、X方向とY方向が横切るZ方向と同一であると見なされる。
【0040】
荷電粒子マルチビームシステム
本発明の実施形態を採用するeMETシステムの一種である荷電粒子マルチビームマスク露光ツール(マスク描画機)100の一例の模式的概観を図1に示す。以下においては、本発明の特定の実施形態(複数)を、当業者がそれぞれを実施できるように開示するために必要とされる詳細のみを与える。明確性のため、図1には、各構成要素は、寸法どおりには記載されていない。特に、粒子ビームの横幅は、誇張されている。さらなる詳細については、米国特許第6,768,125号、同第8,546,767号、および、同第7,781,748号を参照されたい。粒子ビーム装置およびPD装置のレイアウト全体に関するこれらの文献の教示は、引用をもって、本書に記載されているものとする。
【0041】
電子ビームを生成するのに適した供給源が、システム100において使用される。1つの変形例において、ビームは、他の荷電粒子、特に、適切なイオン供給源を用いた正電荷のイオンによって実現され得る。粒子光学照射系は、当該ビームから、ワイドビームを形成する。ワイドビームは、ターゲット表面上に投射されるビームパターンを規定(定義)するための、開口の規則的なアレイを有するPD装置を照射する。各開口によって、以下、ここでは通常「ビームレット」と称される小さなビームが規定される。各ビームレットの、1つの開口の貫通通過は、ビームの粒子が、開口、および/または、それに続く、縮小荷電粒子投射光学系を貫通通過してターゲットに向かうことを許可(「スイッチオン」)する、または、効果的に不活性化(「スイッチオフ」)する、ように制御されることができる。
【0042】
開口アレイを通過するビームレットは、パターン化された粒子ビームを形成する。このパターン化された粒子ビームは、開口の空間配置によって表され、個々のビームレットのオンオフ定義の情報を含む。そして、パターン化されたビームは、縮小荷電粒子光学投射系によって、ターゲット(例えば、マスクブランク、または、半導体ウェハ基板)上に投射される。対応するビームが偏向されない、これらの開口の像は、このようにして形成され、照射された部分のターゲットが露光または修正(modify)される。ビームレットによって形成され、基板に投射される像は、「パターン像」を形成する。「パターン像」は、機械的に一方向に移動する基板上の直線経路(「ストライプ」)に沿って露光される。基板の(大きな)動きは、通常、ターゲットステージの連続的な動きによって達成される。このとき、同時に投射系の微調整を行ってもよい。ステージに対する像の動く方向は、(主)走査方向とも称される。主走査方向に直角な方向のビームの追加走査は、短い横方向の範囲内においてのみ行われる。例えば、走査ステージの横方向の移動誤差を補正するため、および/または、(限定された)数の平行な画素列を含むために、行われる。これは、本出願人の米国特許第9,053,906号により詳細に説明されているとおりである。なお、本特許は、引用により本書に含まれる。
【0043】
装置100の主な構成要素は、-この例では、図1の鉛直方向下方に進むビームlb、pbの方向の順に-、照射系(システム)101と、PDシステム102と、投射系(システム)103と、ターゲットまたは基板14を有するターゲットステーション104とである。荷電粒子光学系(システム)101、103は、静電および/または電磁レンズを用いて実現される。装置100の、荷電粒子光学部品101、102、103と、ターゲットステーション104とは、真空のハウジング(不図示)内に収納される。そのハウジングは、装置の光軸に沿ったビームlb、pbの伝播が妨げられないことを確実にするために、高い真空度が保たれる。
【0044】
照射系101は、例えば、電子またはイオンの供給源11と、仮想供給源の位置を規定する抽出器配置と、汎用ブランカ(blanker)12と、粒子光学コンデンサレンズ系13によって実現される照射荷電粒子光学系と、を備える。なお、汎用ブランカ12は、イオンビームを使用する場合は、粒子フィルタとしても使用される。
【0045】
本実施形態では、粒子の供給源11は、例えば、5keVといった適切な運動エネルギーを有する高エネルギー電子を放出する。その他、主に特定の種のイオンといった他の荷電粒子を用いて実施されてもよい。特定の種のイオンは、例えば、水素イオンまたはAr+イオンであって、典型的には、数keV(例えば、PDシステム102では5keV)の、エネルギーの広がりが比較的小さく、例えば、ΔE=1eVなど、予め定められた(運動)エネルギーを有する。供給源11において生成され得る、他の不所望な粒子種を除去するために、速度/エネルギー依存フィルタ(不図示)が設けられてもよい。このフィルタは、ビームレットの再配置中にビーム全体を消去するためにも使用してもよい。コンデンサレンズ系13によって、供給源11から放出された荷電粒子は、広域の、実質的にテレセントリックなビーム(「照射ビーム」)lbに成形される。
【0046】
そして、ビームlbは、ブランキング装置を照射する。ブランキング装置は、その位置を保つために必要な装置(不図示)とともに、PD装置102を形成する。PD装置102については、図2図5を参照して、詳細に後述する。PD装置は、ビームlbの経路上の、特定の位置に保持される。それにより、ビームlbは、複数の開口21によって形成された開口アレイパターンを照射する。既述のように、各開口は、「スイッチオン」または「スイッチオフ」されることができる。「スイッチオン」または「オープン」の状態で、開口は、それぞれの開口を通過するビームレットをターゲットに到達させる。この場合、開口は、入射ビームに対して透過的である。それ以外では、開口は、「スイッチオフ」または「クローズ」された状態であり、この場合、各ビームレットのビーム経路は、ターゲットに到達できる前に、吸収されるか、そうでなければ、ビーム経路から逸脱するか、といった影響(例えば、横方向の電圧が印加された偏向電極によって:図4のビームレットb2参照)を受ける。この場合、開口は、ビームに対して、実質的に非透過的または不透過である。
【0047】
スイッチオンされた開口(複数)のパターンは、基板上に露光されるパターンに応じて選択される。これらの開口は、PD装置の、ビームlbに対して透過的な唯一の部分であるため、従って、ビームlbは、開口から出現するパターン化されたビームpbに成形される(例えば、図1の、PDシステム102の下)。PD装置の構造と動作、特に、そのブランキングプレートに関しては、以下で詳しく議論する。図1では、パターン化ビームpbとして、5本のビームレットしか示されていない。しかしながら、実際のビームレットの数は、非常に多く、典型的には、何千、あるいは、数百万というオーダになることは明らかであろう。図示されたビームレットのうち、左から2番目のものは、スイッチオフされたものとして描かれている。左から2番目のビームレットは、PD装置102で偏向され、ストッププレート17で吸収されている。なお、ストッププレート17は、荷電粒子投射光学系の第二交差部(crossover)c2、または、その近傍に位置する。他のビームレットは、スイッチオンされたものであり、プレート17の中央孔を通過し、従って、ターゲットに投射される。
【0048】
パターン化ビームpbとして表されるパターンは、荷電粒子光学投射系103によって、(レジスト被膜を有する6”(インチ)マスクブランクといった)基板14に向けて投射される。スイッチオフされたビームレットは、ストッププレート17で吸収されるため、スイッチオンされたビームレットのみがスイッチオンされた開口の像を形成することになる。投射系103は、本出願人によって実現されているような、例えば、200:1の縮小を実行する。基板14は、例えば、eMETタイプのシステムの場合、レジスト層で被覆された、6インチマスクブランク、または、ナノインプリント1xマスク、または、マスタテンプレートであってもよい。一方、PML2システムの場合、基板14は、粒子感応性レジスト層で被覆されたシリコンウェハであってもよい。基板14は、ターゲットステーション104の基板ステージ(不図示)によって保持され、位置決めされる。
【0049】
投射系103は、例えば、2つの連続する荷電粒子光学プロジェクタ部で構成される。荷電粒子光学プロジェクタ部は、それぞれ、交差部(crossover)c1とc2とを有する。プロジェクタを実現するために使われる粒子光学レンズ30、31(例えば、静電型マルチ電極加速レンズ30と2つの磁気レンズ31を備える)は、象徴的な形状のみで図1に示される。これは、静電型イメージング系(静電結合系)の技術的実現(具現化)は、先行技術において周知であるためである。本発明の他の実施形態では、好適なものとして、磁気および/または電磁レンズが含まれていてもよい。第一投射部は、PD装置の開口の面を中間像として結像し、次いで、中間像は、第二投射部によって、基板表面上に結像される。両投射部とも交差部c1、c2を介した縮小イメージングを採用している。従って、中間像は反転されるが、基板上に生成される最終像は、正立する(非反転)。縮小率は、両ステージ(両投射部)において14:1程度である。その結果、全体としての縮小率は、200:1となる。このオーダの縮小は、PD装置における小型化の問題を解決するために、特に、リソグラフィセットアップ(装置)に好適である。荷電粒子光学レンズは、主として静電電極で構成されるが、磁気レンズを使用してもよい。
【0050】
荷電粒子系のさらなる詳細は、上で引用した先行文献に記載されている。
小さな横方向の変位、すなわち、光軸cxに直角な方向に沿った小さな変位を導入する手段として、偏向手段16がいずれか一方または両方の投射部に設けられる。そのような偏向手段は、例えば、米国特許第6,768、125号で論じられている、多重極電極システムとして、実現されてもよい。さらに、必要に応じて基板面にパターンの回転を引き起こすために、アキシャル磁気コイルを用いてもよい。横方向の偏向は、パターン化ビームそれ自体の横方向の幅に比べ、通常、非常に小さい。総じて、単一のビームレットの幅の数倍あるいは隣り合うビームレットの間の距離程度である。しかし、そうであっても、ビーム幅より少なくとも1桁小さい(ここでは、ビームレット間の横方向の距離は、ビームbpのビーム幅全体よりも、かなり小さいことを理解されたい。)。
【0051】
PD装置102内に形成されたパターンによって、任意のビームパターンを生成し、基板に転送することができる。
【0052】
PDシステムおよびプレート構造
図2および図3に、装置100のPDシステム102の一実施形態を示す。具体的には、図2は、上面図であり、図3は、側面図と縦断面図との組み合わせである。図4は、図3の断面図の詳細であり、PDシステム102を通過する5つのビームレットの経路に沿ったPDシステム102のプレートの一断面である(5つの他の予期されるビームレットは、内部において除去される)。
【0053】
PDシステム102は、積み重ね構成において取り付けられた多数のプレート22を備える。多数のプレート22は、その構成要素がそれぞれの機能を果たす、複合装置を実現する。多数のプレート22は、例えば、開口アレイ装置(開口プレートとも呼ばれる。)201と、孔アレイ装置(ビーム選択プレートとも呼ばれる。)202と、偏向アレイ装置(ブランキングプレートとも呼ばれる。)203と、を含む。ビームレット経路の個別の微調整のための調整プレート(不図示:米国特許第6,768,125号参照)といった、さらなる構成要素のプレートが存在してもよい。各プレート22は、半導体(特に、シリコン)ウェハ、特に、図2でクロス(格子状)ハッチングによって示される複数の孔を備えるPDフィールドpfで表されるプレートの中に形成された膜部分として実現される。なお、ウェハは、その構造は、周知の微細構造ウェハによって形成される。リソグラフィビームは、以下においてさらに説明されるように、PDフィールドpfの(上下に)連続する孔を通って、プレートを横断する。
【0054】
プレート22は、チャック23によって保持される。チャック23は、駆動装置241、242、243によって、互いに対して位置決めされる。これらの駆動装置241、242、243は、既知の、ピエゾアクチュエータまたはナノポジショニング要素として実現され、フレックス(可撓性)ジョイントを介してチャックに取り付けられ、PDシステムの支持構造体24に固定される。チャックは、スライド可能なベアリング25を用いて垂直方向に接続される。プレート22とチャック23とは、同じ材料で製造されることが好ましい。同じ材料とは、例えば、シリコン、または、作動温度領域において同じ熱膨張挙動(特性)を有する材料等である。チャックは、また、ブランキングプレート203への電力供給も提供する。なお、明確性のため、電線は、図示していない。
【0055】
プレート22には、参照ビームの規定のための参照マーク26が設けられてもよい。参照ビームrbの形状は、例えば、プレート22の1つ、例えば、開口プレート201に形成された1つの開口によって規定される。一方、他のプレートの対応する孔は、参照ビームの放射を通過させるために十分な幅を有する。そして、参照ビームは、パターン化ビームpbとともに、結像される。しかしながら、パターン化ビームとは異なり、参照ビームは、基板41に到達せず、位置合わせシステム(米国特許第7,772、574号参照)において測定される。さらに、チャック23は、位置合わせ孔236を有する。位置合わせ孔236は、チャック23と、チャック23が保持するプレートとの相対的な位置合わせのための位置合わせマーカとして機能する。
【0056】
各プレート22の膜部分の厚みは、30~100μm程度である。ブランキングプレートの膜は、より良好な熱伝導の観点から適切であれば、より厚みがあってもよい。プレートの枠部は、より十分に厚みがあり、0.750mmのオーダである。プレート相互の距離は、0.5から数mmのオーダである。図4では、縦軸(装置の光軸に平行なz軸)の寸法は、縮尺どおりではないことに留意されたい。
【0057】
図4に、図3のプレート22の膜部分の縦断面詳細を示す。ここでは、PDフィールドpf内の多数のビームレットのうち、10本の予期されるビームレット(これらのうち、5本が最終ビームレットとして選択される)の経路に対応する部分のみを示す。既に述べたように、図示された実施形態は、3つのプレート201、202、203で構成される3枚プレート配置構成を実現する。ここで、第一プレート201は、AAD(開口プレート)を実現し、第二プレート202は、孔アレイ装置(ビーム選択プレート)を実現し、第三プレート203は、偏向アレイ装置(ブランキングプレート)として機能する。第一プレートは、異なるサイズおよび/または形状の開口211、212のセットを複数有する開口プレート201として実現される開口アレイ装置である。さらなる詳細は後述する。開口211は、予期されるビームレットb1・・・b5を規定する。また、開口212は、予期されるビームレットb1’・・・b5’を規定する。このように形成された全ての予期されるビームレットは、ビーム選択プレート202に向けて進行する。ビーム選択プレートは、孔220を備える。孔220により、1セットの予期されるビームレット、ここでは、開口211を通過したビームレットb1・・・b5のみがさらに進行できる。一方、他のビームレット(ここでは、b1’・・・b5’)はビーム選択プレートで吸収され、本質的に除去される。この目的のため、ビーム選択プレートの孔220は、開口211、212より大きな幅を有する。
【0058】
図5は、開口プレート201の一部分の上面図である。ここでは、3×3グループの開口のみを備える部分が示される。各グループは、3つの異なるタイプの開口211、212、213を備える。4-4線は、図4の断面図の切断面を示す。矢印d12は、1つのタイプの開口211とそれとは異なるタイプの開口212との間の相対オフセットを示す。このオフセット分、開口プレートは、開口211ではなく、開口212を選択するようシフトされる。
【0059】
PDシステム200の第三プレート203は、通常、ブランキングプレートと呼ばれる、偏向アレイプレートである。それは、孔230のセットを有する。孔230は、開口プレート201で決定されたビームレットb1・・・b5の経路に対応する位置に設けられる。しかし、孔230は、開口211、212の幅よりも大きな幅を有する(言い換えると、孔230は、より大きい)。このため、ビームレットは、ブランキングプレートの材料に影響を与えることなく、前者を通過できる。各孔230は、電極231、232を備える。これらの電極により、各電極231、232の組の間に選択的に印加される電圧に応じて、小さいが十分な偏向を、対応するビームレットに与えることができる。例えば、一方の電極232は、グラウンド電位に保たれて対向電極として機能し、他方の電極231は、活性電極として機能する。活性電極は、選択されたビームレットb1・・・b5を偏向するための電位を印加するためにブランキングプレート203の回路層に接続される。各ビームレットは、このようにして、個別に偏向されることができる。ブランキングプレートは、また、電子制御および電極への電力供給のための回路を備える。ブランキングプレートの回路の詳細も含む、PD装置のさらなる詳細については、本譲渡人/本出願人の米国特許第6,768,125号、第7,781,748号、および、第8,222,621号において議論されている。
【0060】
このようにして選択された各ビームレットb1・・・b5は、対応するブランキング電極231、232に通電されていない場合、その公称経路に沿ってプレート22の次の孔を通過する。これは、開口の「スイッチオン」された状態に対応する。「スイッチオフ」された開口は、電極に通電すること、すなわち、横断電圧を印加すること、によって実現される。この状態で、ビームレットb2で示されるように、対応するブランキング電極231、232は、ビームレットb2を公称経路から偏向させる。その結果、ビームレットは、異なる経路に(少しだが十分に)偏向する。偏向後の経路は、最終的に、何らかの(some)吸収面に導かれる。この吸収面は、交差部c1、c2(図1)のいずれかの周囲に位置するブロック開口17上に位置することが好ましい。図4の例示的な記載では、偏向されたビームレットb2の偏向角は、見やすくするために誇張して示される。
【0061】
開口プレート、複数の開口グリッドと追加の開口、孔アレイ装置
開口211、212、および、好ましくは、ビーム選択プレートの対応する孔220、ブランキングプレートの対応する孔230も同様に、規定されたグリッドに沿って、規則正しく配置される。各グリッドは、例えば、規則的な矩形のアレイ、または、ジグザグな線を形成する規則的なアレイである。ジグザグな線は、米国特許6,768、125号に記載されているように、ターゲット上の開口の像の相対運動に対応する方向に平行に延在する。配置の各ラインにおいて、同じタイプの連続する(隣り合う)開口の間のオフセットは、本発明の一実施形態として図5に示すように、開口配置の基礎をなすグリッド幅の倍数であることが好ましい。図5に示す開口は、それぞれが、そのような配置を表す3つの組み合わせられたグリッドを示す。一般に、開口は、実質的に規則的な2次元格子の各交点に位置付けられることになる。しかし、格子は、付加的に、正確な規則的な格子から少々ずれてもよい。これは、結像系における起こり得るひずみを許容するためである。これにより、開口位置での、そのような小さなずれによる結像誤差を補償し、ターゲット上の、それぞれの開口像の、正確かつ補償された位置を実現する。
【0062】
上述したように、開口プレートは、複数の開口セットを備える。各開口セットは、ターゲット上に結像するよう選択されることができる。所定の開口セットの選択、および、開口プレートとビーム選択プレートとブランキングプレートとの相互位置合わせに関するPD装置のさらなる詳細は、米国特許第6,768,125号で議論されている。
【0063】
図6図7および図8に、本発明者が分析し、既に上述した(「先行技術[発明が解決しようとする課題]」の章)、PD装置の使用における諸問題を示す。
【0064】
図6は、図4の部分拡大図である。ビームレットb6’(図4のビームレットb1’・・・b5’のいずれであってもよい。)は、ビーム選択プレート202のバルク材と相互作用し、例えば、電子等の二次粒子221を生成することになる。二次粒子のいくつかの部分は、その材料の中に留まることになるが、他の部分は、その材料から放射されることになる。優勢的、直観的にわかるように、二次粒子(特に電子)は、ビーム選択プレートの衝突領域(すなわち、開口プレート201の、少なくとも1つの開口セットの、開口に対応する、ビーム選択プレート202の表面の領域または一部)において、また、その上の開口プレート201においてにも、おそらく、堆積し、電荷の蓄積を引き起こす。これらは、図6において、参照番号222と213とによって示される。そのような電荷は、蓄積され、図6において破線の電気力線223によって示される、電界を形成する。その電気力線は、ビームレットb6(図4のビームレットb1・・・b5のいずれであってもよい。)を偏向させる効果を有する。このようにして、ターゲット表面における不所望なビームレット変位が引き起こされ、それにより、パターンの正確性を劣化させる。
【0065】
図7に、アレイの縁部近傍に位置する、複数の局所電荷分布(帯電部位と呼ぶ。)を示す。規則的な開口アレイ装置201の縁部および孔アレイ装置202の縁部において、ビームレットの横方向の偏向は、より大きくなる。開口アレイ装置201の中央部に近いビームレットほど、偏向は小さくなる。図7に、α9、α10、α11で示されているように、偏向角は、縁部に行くほど増大する。開口アレイ装置(孔アレイ装置もそれぞれ)の中心は、本質的に、開口アレイ装置201の内側表面領域における、中心領域、または、中心部である。中心部は、部分的に、好ましくは全体的に、縁部によって囲まれる。縁部は、中央領域を囲む枠としても記載され得る。
【0066】
図8に、孔アレイ装置202の衝突領域に位置する局所電荷分布222のアレイの計算結果を、断面図による描写で示す。図8には、以下に詳述するように、ビームレットへの影響、すなわち、局所ビームレット偏向効果を示す。図8では、対応する衝突領域における局所電荷分布222が、全部で7つ、示される。孔アレイ装置202の中心は、中心近傍の2つの孔a1、a2と比較用ビームレットとともに、一点鎖線227で、図8の左側に示される。孔アレイ装置202の、4つの孔a3、a4、a5、a6を有する縁部は、図8の右側に示される。いくつかの電気的に等電位な領域は、細い実線223および228で描かれ、対応する電界は、2頭矢印224で示される。2頭矢印224は、矢印のそれぞれの位置における負の荷電粒子に対する作用力を示す。電界の相対的な強度は、2頭矢印224のサイズによって示される。ビームレットの経路は、太黒線225で示される。偏向されていないビームレットに対する横方向の位置の変化は、見やすくするために誇張されている。孔アレイ装置202の孔における1頭矢印226は、孔アレイ装置表面におけるビームレットの偏向角を示す。偏向角は、見やすくするために誇張されている。横方向のビームレットの偏向は、規則的な孔アレイ装置202の縁部のビームレットで増加している。
【0067】
図9に、1つの孔a1と、該当するビームレット225とを、関連する電位分布228とともに示す、図8の拡大詳細を示す。なお、電位分布228は、孔アレイ装置202の衝突領域に、対称的に配置された局所電荷分布(「電荷蓄積部位」とも呼ばれる。)222によって生成される。図9に示される孔a1は、孔アレイの内部の1つである。通常のビームレットが通過する電荷蓄積部位間の中間位置における対応する電界229は、通常のビームレット225の伝播方向に対して優勢的に平行に配向される。したがって、通過する通常のビームレット225の横方向の偏向は、単一の電荷蓄積部位が1つの状態と比較して小さくなる。これについては、以下にさらに説明する。
【0068】
対照的に、孔アレイ装置202と開口アレイ装置201との間の、単一の帯電部位から所定の垂直距離の空間において、局所電荷分布222は、帯電領域全体にわたって電界を生成する、当該電界は、比較的滑らかに変化する電位分布223(図8参照)と、空間的変化が無視できる、対応する電界224と、に重畳する。これは、2枚の平行なプレートで構築されたコンデンサ内の電界に非常に似ている。なお、プレートのサイズは、孔アレイ装置202と開口アレイ装置201との帯電領域全体に対応する。重畳電界224は、単一の局所電荷によって誘起される電界よりも到達範囲が広く、それによって外側のビームレットに対してより強い影響を及ぼす。このため、重畳電界224を通過するすべてのビームレットは当該場と相互作用する。最も外側の孔a6のすぐ外側の縁部における重畳電界224は、通常のビームレットの伝播方向に対して直角な(または直交する)方向が支配的となる(図8参照)。
【0069】
孔アレイ装置202の内部(中心または中心部とも呼ばれる。)を通過するすべてのビームレット(図8の左側に示される領域)は、無視できる横方向の偏向を受けることになる。これは、孔アレイ装置表面における無視できる横方向のビーム変位と角度偏差とをもたらす。これは、ターゲット表面に、無視できる横方向のビーム変位と角度偏差とを引き起こすことになる。
【0070】
対照的に、孔アレイ装置202の縁部のさらに外側では、重畳電界224は、平行平板コンデンサの縁におけるフリンジ電界に類似した態様で、非帯電領域に向かって消失することになる。このため、横方向の電界成分が無視できなくなり、孔アレイ装置表面とターゲット表面とにおいて、横方向のビーム変位と角度偏差が発生することになる。
【0071】
図10に、図4および図7と同等の断面図において、孔アレイ装置302の縁部におけるビームレットの、不所望な横方向の偏向を克服することを意図した本発明の例示的な一実施形態を示す。この実施形態は、先行技術[発明が解決しようとする課題]を説明する章で説明したようなタイプのマルチビームパターン規定装置32に基づく。このマルチビームパターン規定装置32は、開口アレイ装置301と、好ましくは開口アレイ装置301の下流に位置する孔アレイ装置302と、を備える。開口アレイ装置301は、少なくとも2セットの規則的な開口311、312を備える。これらの開口は、少なくとも部分的に、ターゲットに転送されるビームレットb7・・・b11の成形に使用される。追加の開口314のセットは、前述の規則的なセット311、312と重ならずに、規則的な開口の近傍に配置され、孔アレイ装置302の衝突領域に衝突するビームレットb11’・・・b13’を形成する。上述した実施形態と同様に、これにより、対応する電界を生成する追加の局所電荷分布322が生成される。そして、これが重畳電界323(図12)に追加される。したがって、図12に見られるように、重畳電界323は、孔アレイ装置302の縁部に向かって横方向に拡張される。その結果、帯電領域全体が横方向に拡大する。その結果、縁部の上の領域では、前述の無視できない横方向の電界成分が減少する。これは、孔アレイ装置302の表面上の帯電領域から非帯電領域への移行領域の距離が長くなるためである。言い換えれば、不所望な、無視できない横方向の電界成分は、孔アレイ装置302の遠くの縁部まで、外側に「移動」させられる。これにより、ビームレットの、不所望な、横方向の偏向が減少する。
【0072】
図11は、開口プレート301の一部分の上面図である。この開口プレート301は、規則的な開口と追加の開口とを含む。図示の実施形態では、規則的な開口セットは、3×3の開口群を備える。各群は、3つの異なるタイプの開口311、312、313を備える。線4-4は、図10の断面図の断面線を示す。矢印d12は、1つのタイプの開口311と別のタイプの開口312との間の相対的なオフセットを示す。開口311ではなく開口312を選択するために、このオフセット分、開口プレートがシフトされる。
【0073】
規則的な開口311、312、313(図11では、開口プレート301のごく一部分のみが示されている。したがって、追加の開口314は、通常の開口311、312、313の右手側にのみ見える)のセットは、追加の開口314によって囲まれている。このように、開口アレイ装置301上に実質的に規則的な配列で配置された複数の開口を実現する。図示の例では、2列の追加の開口314が、規則的な開口311、312、313を取り囲んでいる。追加の開口314は同じ大きさであり、その配列は均一である。もちろん、代わりに1列のみまたは2列以上の追加の開口314を有することも可能であり、追加の開口314は、異なるサイズを有してもよく、不均一な配列であってもよい。追加の開口314の個々のサイズおよび配列は、有利には、孔アレイ装置301の衝突領域における、結果として生じる追加の電荷分布(それぞれの追加の局所的な帯電部位)が、規則的な開口311、312、313によって生成されるものと同様の振幅と向きとの重畳電界を生成するようにされることになる。
【0074】
図12に、図10に示した孔アレイ装置302における局所電荷分布のアレイの計算結果を、断面図による描写で示す。太い縦線325は、孔アレイ装置302の孔を通過するビームレットの経路を示す。孔アレイ装置302の縁部では、追加の局所電荷分布322が、横方向に拡張された重畳電界323を形成する。2頭矢印324は、矢印それぞれの位置で負に帯電した粒子に作用する力の方向を示す。重畳電界323の横方向への拡張により、孔アレイ装置表面の縁部におけるビームレット偏向角326は、図8に示す状態とは対照的に、無視できるほど小さい。その結果、孔アレイ装置301の縁部のビームレットには、(不所望な)横方向の偏向が発生しない。
【0075】
上記の実施形態の全部又は一部は以下の付記として記載可能であるが、それらに限定されない。
[付記1]
粒子ビーム処理または検査装置において使用するためのマルチビームパターン規定装置であって、荷電粒子(複数)のビームを照射され、当該ビームを複数の開口を通過させるように適合され、これにより、対応する数のビームレット(複数)を形成するマルチビームパターン規定装置であって、
開口アレイ装置と、
孔アレイ装置と、を備え、
前記開口アレイ装置は、
前記開口(複数)が実現され、
少なくとも2つの開口セットを備え、
各開口セットは、当該開口アレイ装置上に実質的に規則的な配列で配置された複数の開口を備え、
前記開口セットの前記配列(複数)は、少なくとも部分的にインターレース(interlace)し、
異なる開口セットの前記開口(複数)は、少なくとも、前記配列(複数)がインターレースしている領域において、共通の変位ベクトルに対応する変位だけ、互いにオフセットし、
前記孔アレイ装置は、
前記開口アレイ装置の下流に位置し、
前記開口(複数)の少なくとも1つのサブセットによって形成されたビームレット(複数)が通過するよう構成された複数の孔を有し、
衝突領域(複数)を備え、
前記衝突領域(複数)は、配列(複数)がインターレースする前記領域に対応する少なくとも1つの領域において、少なくとも1つの前記開口セットの開口(複数)に対応する位置に位置し、
前記衝突領域(複数)に対応する前記少なくとも1つの前記開口セットの開口(複数)を通過する荷電粒子は、前記衝突領域(複数)に衝突し、
当該孔アレイ装置の前記複数の孔は、前記領域において、前記開口アレイ装置の、前記開口(複数)の少なくとも1つの他の開口セットの前記配列に対応する、実質的に規則的な配列で配置され、
前記開口アレイ装置は、複数の追加の開口を備え、当該追加の開口は、前記少なくとも2つの開口セットのインターレースする配列の領域の外側に位置し、前記追加の開口(複数)は、追加のビームレット(複数)を形成するために、荷電粒子(複数)を通過させるよう構成され、
前記孔アレイ装置は、追加の衝突領域(複数)を備え、当該追加の衝突領域(複数)は、追加の開口(複数)を通過した荷電粒子(複数)が、追加の衝突領域(複数)に衝突するように、前記開口アレイ装置の追加の開口(複数)に対応する位置に位置する、マルチビームパターン規定装置。
[付記2]
上記のマルチビームパターン規定装置、特に、前記付記1のマルチビームパターン規定装置において、
衝突領域(複数)に衝突する荷電粒子(複数)は、局所電荷分布(複数)を形成し、
追加の衝突領域(複数)に衝突する荷電粒子(複数)は、追加の局所電荷分布(複数)を形成し、
前記追加の開口(複数)は、追加の局所電荷分布の電荷が、局所電荷分布の電荷に実質的に等しくなるように構成されることが好ましい。
[付記3]
上記のマルチビームパターン規定装置、特に、前記付記1または2のマルチビームパターン規定装置において、
前記開口アレイ装置の前記少なくとも2つの開口セットは、当該開口装置の中心部に位置し、前記追加の開口(複数)は、当該開口装置の縁部に位置し、
前記縁部は、少なくとも部分的にまたは完全に、前記中心部を取り囲むことが好ましい。
[付記4]
上記のマルチビームパターン規定装置、特に、前記付記3のマルチビームパターン規定装置において、
前記縁部は、前記中心部を囲み、
当該縁部は、前記開口アレイ装置の全表面の少なくとも10%を超えて延在することが好ましい。
[付記5]
上記のマルチビームパターン規定装置、特に、前記付記1から4のいずれかのマルチビームパターン規定装置において、
前記開口アレイ装置と前記孔アレイ装置とは、
-前記開口装置の第一の開口セットによって形成される第一ビームレット(複数)は、前記孔アレイ装置の対応する孔(複数)を通過することができ、
-前記開口装置の第二の開口セットによって形成される第二ビームレット(複数)は、前記孔アレイ装置の前記衝突領域(複数)に衝突することができ、当該衝突領域(複数)は、前記第二の開口セットの開口(複数)に対応し、
前記第二ビームレット(複数)の荷電粒子(複数)は、前記第二の開口セットのそれぞれの開口(複数)に対応する各衝突領域において、局所電荷分布(複数)を形成し、
-前記開口装置の前記複数の追加の開口(複数)によって形成される第三ビームレット(複数)は、前記孔アレイ装置の前記追加の衝突領域(複数)に衝突することができ、当該追加の衝突領域(複数)は、追加の開口(複数)に対応し、
前記第三ビームレット(複数)の荷電粒子(複数)は、それぞれの追加の開口(複数)に対応する各追加の衝突領域において、追加の局所電荷分布(複数)を形成する、
ように配置されることが好ましい。
[付記6]
上記のマルチビームパターン規定装置、特に、前記付記1から5のいずれかのマルチビームパターン規定装置において、
前記追加の開口(複数)は、前記開口アレイ装置上に、さらに実質的に規則的な配列で配置されることが好ましい。
[付記7]
上記のマルチビームパターン規定装置、特に、前記付記6のマルチビームパターン規定装置において、
前記さらに実質的に規則的な配列は、前記開口アレイ装置上の少なくとも2つの開口セットの、少なくとも部分的にインターレースする、実質的に規則的な配列(複数)のうちの1つの続きであることが好ましい。
[付記8]
上記のマルチビームパターン規定装置、特に、前記付記1から7のいずれかのマルチビームパターン規定装置において、
前記追加の開口(複数)のサイズは、前記孔装置の前記追加の衝突領域(複数)に衝突する追加のビームレット(複数)によって形成された前記追加の局所電荷分布(複数)が、前記孔装置の前記衝突領域(複数)に衝突するビームレット(複数)によって形成された局所電荷分布と本質的に等しくなるような大きさであることが好ましい。
[付記9]
上記のマルチビームパターン規定装置、特に、前記付記1から8のいずれかのマルチビームパターン規定装置において、
開口アレイ装置表面あたりの追加の開口(複数)の密度は、前記少なくとも2つの開口セットのうちの1つの、開口アレイ装置表面あたりの密度に、本質的に等しいことが好ましい。
[付記10]
上記のマルチビームパターン規定装置、特に、前記付記1から9のいずれかのマルチビームパターン規定装置において、
前記少なくとも2つの開口セットのうちの1つの開口と、隣接する追加の開口と、の間の距離は、前記少なくとも2つの開口セットの1つのセットの2つの隣接する開口間の距離以上であることが好ましい。
[付記11]
上記のマルチビームパターン規定装置、特に、前記付記1から10のいずれかのマルチビームパターン規定装置において、
複数のブランキング孔を有する偏向アレイ装置をさらに備え、当該ブランキング孔(複数)は、各前記ビームレット(複数)が、公称経路に沿って前記ブランキング孔(複数)の1つを通過するように位置し、
前記偏向アレイ装置は、複数の静電型偏向電極を備え、各静電型偏向電極は、ブランキング孔に関連付けられ、前記それぞれの電極に駆動電圧が印加された時に、前記それぞれのブランキング孔を通過するビームレットを、当該ビームレットをその公称経路から逸脱させるために十分な量だけ偏向させるよう構成されることが好ましい。
[付記12]
上記のマルチビームパターン規定装置、特に、前記付記1から11のいずれかのマルチビームパターン規定装置において、
前記孔アレイ装置に対する前記開口アレイ装置の相対的な位置を調整するために、前記開口アレイ装置と前記孔アレイ装置の少なくとも一方の位置決めを行う位置決め配列をさらに備え、前記位置決め配列は、少なくとも配列がインターレースする前記領域において、選択的に、前記開口アレイ装置の前記開口セットの選択されたセットを、前記孔アレイ装置の前記複数の孔と整列させるよう構成されることが好ましい。
【0076】
本発明の全開示(特許請求の範囲及び図面を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態の変更・調整が可能である。また、本発明の全開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせないし選択(「非選択」を含む。)が可能である。
すなわち、本発明は、特許請求の範囲及び図面を含む全開示、本発明の技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
特に、本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【0077】
さらに、特許請求の範囲に付記した図面参照符号は、専ら発明の理解を助けるためのものであり、本発明を実施形態及び図示の実施例に限定することは意図していない。
【0078】
さらに、上記の各文献の全内容は引用をもって本書に繰り込み、ここに記載されているものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【外国語明細書】