IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横河電機株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人国立高等専門学校機構の特許一覧

<>
  • 特開-電子機器及びその制御方法 図1
  • 特開-電子機器及びその制御方法 図2
  • 特開-電子機器及びその制御方法 図3
  • 特開-電子機器及びその制御方法 図4
  • 特開-電子機器及びその制御方法 図5
  • 特開-電子機器及びその制御方法 図6
  • 特開-電子機器及びその制御方法 図7
  • 特開-電子機器及びその制御方法 図8
  • 特開-電子機器及びその制御方法 図9
  • 特開-電子機器及びその制御方法 図10
  • 特開-電子機器及びその制御方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016563
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】電子機器及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   G10L 21/028 20130101AFI20230126BHJP
   G10L 21/0308 20130101ALI20230126BHJP
【FI】
G10L21/028 C
G10L21/0308 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120969
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】小河 晃太朗
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 美菜子
(72)【発明者】
【氏名】竹中 一馬
(72)【発明者】
【氏名】北村 大地
(72)【発明者】
【氏名】多田 敏貴
(57)【要約】
【課題】複数の信号の独立性を簡便に把握できる電子機器及びその制御方法を提供する。
【解決手段】電子機器10は、複数の信号の互いの独立性を表す独立性数値を算出する制御部12と、複数の信号それぞれの標本データを取得する標本取得部14とを備える。制御部12は、複数の信号それぞれの標本データに基づいて独立性数値を算出する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の信号の互いの独立性を表す独立性数値を算出する制御部と、
前記複数の信号それぞれの標本データを取得する標本取得部と
を備え、
前記制御部は、前記複数の信号それぞれの標本データに基づいて前記独立性数値を算出する、電子機器。
【請求項2】
前記制御部は、
前記複数の信号それぞれの標本データに基づく複数の単信号標本期待値を算出し、
前記複数の信号それぞれの標本データの積に基づく1つの積信号標本期待値を算出し、
前記各単信号標本期待値の積と前記積信号標本期待値との差を正の値で表す差分値に基づいて前記独立性数値を算出する、
請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記制御部は、
前記単信号標本期待値及び前記積信号標本期待値を複数の次数で算出し、
各次数において前記差分値を算出し、
各次数の前記差分値の総和を前記独立性数値として算出する、
請求項2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記制御部は、各次数において算出した前記差分値に各次数の重みづけ係数を乗じた値を前記差分値とする、請求項3に記載の電子機器。
【請求項5】
前記制御部は、各次数において算出した前記差分値の各次数の逆数のべき乗を前記差分値とする、請求項3又は4に記載の電子機器。
【請求項6】
前記制御部は、前記各単信号標本期待値の積と前記積信号標本期待値との差の二乗又は絶対値を前記差分値とする、請求項2から5までのいずれか一項に記載の電子機器。
【請求項7】
前記制御部は、前記独立性数値が所定の閾値以下である場合、前記複数の信号が互いに独立であると判定する、請求項1から6までのいずれか一項に記載の電子機器。
【請求項8】
前記複数の信号が互いに独立であるかの判定結果を出力する出力部を更に備える、請求項7に記載の電子機器。
【請求項9】
前記制御部は、
前記独立性数値が所定の閾値以下である場合に、前記複数の信号を含む混合信号を独立成分分析で分離し、
前記独立性数値が所定の閾値より大きい場合に、前記複数の信号を含む混合信号を周波数解析で分離する、
請求項1から8までのいずれか一項に記載の電子機器。
【請求項10】
複数の信号それぞれの標本データを取得することと、
前記複数の信号それぞれの標本データに基づいて、前記複数の信号の互いの独立性を表す独立性数値を算出することと
を含む、電子機器の制御方法。
【請求項11】
前記独立性数値が所定の閾値以下である場合に、前記複数の信号が互いに独立であると判定することを更に含む、請求項10に記載の電子機器の制御方法。
【請求項12】
前記独立性数値が所定の閾値以下である場合に、前記複数の信号を含む混合信号を独立成分分析で分離することと、
前記独立性数値が所定の閾値より大きい場合に、前記複数の信号を含む混合信号を周波数解析で分離することと
を更に含む、請求項10又は11に記載の電子機器の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子機器及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各構成音が混合した混合信号から各構成音を精度よく分離する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-34870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
混合信号を分離するために、混合信号に含まれる複数の信号の独立性を把握することが求められる。
【0005】
本開示は、上述の点に鑑みてなされたものであり、複数の信号の独立性を簡便に把握できる電子機器及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係る電子機器は、複数の信号の互いの独立性を表す独立性数値を算出する制御部と、前記複数の信号それぞれの標本データを取得する標本取得部とを備える。前記制御部は、前記複数の信号それぞれの標本データに基づいて前記独立性数値を算出する。このようにすることで、複数の信号の独立性が標本データに基づく数値として簡便に表され得る。その結果、複数の信号の独立性が簡便に把握され得る。
【0007】
一実施形態に係る電子機器において、前記制御部は、前記複数の信号それぞれの標本データに基づく複数の単信号標本期待値を算出し、前記複数の信号それぞれの標本データの積に基づく1つの積信号標本期待値を算出し、前記各単信号標本期待値の積と前記積信号標本期待値との差を正の値で表す差分値に基づいて前記独立性数値を算出してよい。このようにすることで、有限個の標本データによって複数の信号の独立性が評価され得る。その結果、複数の信号の独立性が簡便に把握され得る。
【0008】
一実施形態に係る電子機器において、前記制御部は、前記単信号標本期待値及び前記積信号標本期待値を複数の次数で算出し、各次数において前記差分値を算出し、各次数の前記差分値の総和を前記独立性数値として算出してよい。このようにすることで、独立性数値と複数の信号の独立性との相関が高められ得る。その結果、複数の信号の独立性が簡便に把握され得る。
【0009】
一実施形態に係る電子機器において、前記制御部は、各次数において算出した前記差分値に各次数の重みづけ係数を乗じた値を前記差分値としてよい。このようにすることで、独立性数値と複数の信号の独立性との相関が高められ得る。その結果、複数の信号の独立性が簡便に把握され得る。
【0010】
一実施形態に係る電子機器において、前記制御部は、各次数において算出した前記差分値の各次数の逆数のべき乗を前記差分値としてよい。このようにすることで、独立性数値と複数の信号の独立性との相関が高められ得る。その結果、複数の信号の独立性が簡便に把握され得る。
【0011】
一実施形態に係る電子機器において、前記制御部は、前記各単信号標本期待値の積と前記積信号標本期待値との差の二乗又は絶対値を前記差分値としてよい。このようにすることで、独立性数値と複数の信号の独立性との相関が高められ得る。その結果、複数の信号の独立性が簡便に把握され得る。
【0012】
一実施形態に係る電子機器において、前記制御部は、前記独立性数値が所定の閾値以下である場合、前記複数の信号が互いに独立であると判定してよい。このようにすることで、複数の信号が互いに独立であるかが判定されやすくなる。その結果、複数の信号の独立性が簡便に把握され得る。
【0013】
一実施形態に係る電子機器は、前記複数の信号が互いに独立であるかの判定結果を出力する出力部を更に備えてよい。このようにすることで、ユーザが複数の信号の独立性を速やかに理解できる。その結果、複数の信号の独立性が簡便に把握され得る。
【0014】
一実施形態に係る電子機器において、前記制御部は、前記独立性数値が所定の閾値以下である場合に、前記複数の信号を含む混合信号を独立成分分析で分離し、前記独立性数値が所定の閾値より大きい場合に、前記複数の信号を含む混合信号を周波数解析で分離してもよい。このようにすることで、独立成分分析による観測信号の解析が実行されやすくなる。また、独立成分分析が周波数解析よりも少ない演算負荷で実行される場合、独立成分分析が用いられやすいことによって、信号の分離が簡便化され得る。
【0015】
幾つかの実施形態に係る電子機器の制御方法は、複数の信号それぞれの標本データを取得することと、前記複数の信号それぞれの標本データに基づいて、前記複数の信号の互いの独立性を表す独立性数値を算出することを含む。このようにすることで、複数の信号の独立性が標本データに基づく数値として簡便に表され得る。その結果、複数の信号の独立性が簡便に把握され得る。
【0016】
一実施形態に係る電子機器の制御方法は、前記独立性数値が所定の閾値以下である場合に、前記複数の信号が互いに独立であると判定することを更に含む。このようにすることで、複数の信号が互いに独立であるかが判定されやすくなる。その結果、複数の信号の独立性が簡便に把握され得る。
【0017】
一実施形態に係る電子機器の制御方法は、前記独立性数値が所定の閾値以下である場合に、前記複数の信号を含む混合信号を独立成分分析で分離することと、前記独立性数値が所定の閾値より大きい場合に、前記複数の信号を含む混合信号を周波数解析で分離することとを更に含む。このようにすることで、独立成分分析による観測信号の解析が実行されやすくなる。また、独立成分分析が周波数解析よりも少ない演算負荷で実行される場合、独立成分分析が用いられやすいことによって、信号の分離が簡便化され得る。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、複数の信号の独立性を簡便に把握できる電子機器及びその制御方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】比較例に係る独立性評価の対象となる信号とその振幅のヒストグラムとを表すグラフである。
図2】第1信号及び第2信号の相関の一例を表す散布図である。
図3】比較例に係る独立性評価結果と独立成分分析の精度との関係を表すグラフである。
図4】本開示の一実施形態に係る信号解析システムの構成例を示すブロック図である。
図5】本開示の一実施形態に係る電子機器の構成例を示す模式図である。
図6】本開示の一実施形態に係る信号判定方法の手順例を示すフローチャートである。
図7】本開示の一実施形態に係る信号解析方法の手順例を示すフローチャートである。
図8】源信号の波形例(A)第1信号(B)第2信号を示すグラフである。
図9】観測信号の波形例(A)第1観測信号(B)第2観測信号を示すグラフである。
図10】分離信号の波形例(A)第1分離信号(B)第2分離信号を示すグラフである。
図11】本開示の一実施形態に係る信号判定方法によって算出した独立性数値と独立成分分析の精度との相関の一例を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
複数の源信号を混合した信号を複数の条件で観測し、各条件で観測した信号を解析することによって、混合される前の源信号が推定され得る。つまり、複数の源信号を混合した信号から、源信号に対応する信号に分離した信号が推定され得る。複数の源信号を混合した信号は、混合信号とも称される。混合信号を観測した信号は、観測信号とも称される。混合信号から源信号に対応する信号に分離した信号は、分離信号とも称される。解析手法として、周波数解析又は独立成分分析(Independent Component Analysis:ICA)が用いられ得る。周波数解析は、例えばビームフォーマ又は周波数フィルタ等の種々の手段を用いて観測信号から分離信号を生成できる。
【0021】
独立成分分析は、観測信号から源信号を推定し、推定結果を分離信号として生成する統計手法である。観測信号は、複数の源信号を混合した混合信号を観測することによって得られる信号であり、複数の源信号を混合行列Aで変換した信号として表される。また、分離信号は、観測信号から源信号を推定することによって得られる信号であり、複数の観測信号を分離行列Wで変換した信号として表される。独立成分分析は、分離行列Wを推定することによって、観測信号から分離信号を生成できる。また、独立成分分析は、源信号に対する分離信号の誤差が小さくなるように分離行列Wを推定する。独立成分分析は、源信号に関する情報、例えば源信号の周波数特性若しくは源信号の空間的位置情報又は源信号の混合条件を一切必要としないため、源信号に関する情報を必要とする周波数解析よりも少ない情報量で計算を実行でき、計算負荷を低減できる。
【0022】
独立成分分析は、複数の音源を含む混成音源の分析、例えばDNA配列又はアミノ酸配列等の生命情報配列の分析、例えば脳内信号等の磁界信号の分析、又は、画像に含まれる特徴的なパターンの認識等の種々の分野において用いられ得る。また、独立成分分析は、周波数解析よりも少ない計算負荷で実行され得る。
【0023】
独立成分分析において、以下の(1)から(3)までの事項が成立すると仮定して、源信号の周波数又は振幅等が未知の場合であっても、源信号に対する分離信号の誤差が小さくなるように分離行列Wが推定され得る。つまり、以下の(1)から(3)までの事項が成立すると仮定して、分離信号の推定精度が高められ得る。
(1)混合信号を構成する源信号の数nが既知である。言い換えれば、混合行列A及び分離行列Wがn×nの正則行列である。
(2)源信号が互いに統計的に独立である。
(3)各源信号が非ガウスな確率分布から生成されている。
【0024】
しかし、源信号について上記(1)から(3)までの事項が成立しない場合においても独立成分分析が用いられ得る。したがって、独立成分分析によって生成された分離信号が高精度の推定結果であるとは限らない。
【0025】
(比較例)
ここで、独立成分分析によって生成された分離信号の推定精度を直接確認することが考えられる。比較例として、源信号の統計モデル(確率分布)を設定することによって、独立成分分析による分離信号の推定精度を確認する手法が挙げられる。
【0026】
この手法において、源信号の統計的性質を完全に表現する統計モデルを設定するために、現実的ではない、無限個に近い標本データの収集が必要とされる。一方で、有限個の標本データに基づいて統計モデルを設定した場合に、その統計モデルに起因して不具合が生じ得る。例えば、周波数の異なる2つの正弦波が統計モデルとして設定されたとする。この統計モデルにおいて、2つの正弦波同士の位相差を変化させた場合、統計モデルにおいて2つの正弦波は互いに独立であるものの、独立成分分析による推定結果の妥当性が得られないことがある。また、信号を観測する観測器の設置場所に応じて独立成分分析による推定結果が大きく異なることがある。したがって、既知でない源信号の統計モデルを設定することによって、独立成分分析による分離信号の推定精度を確認することは難しい。
【0027】
また、他の比較例として、分離信号の推定精度と相関する指標を導入する手法が考えられる。分離信号の推定精度と相関しそうな指標として、源信号の独立性を表す指標が挙げられる。源信号の独立性を表す指標として、SUC(Symmetric Uncertainty Coefficient)と称される指標が用いられ得る。
【0028】
SUCは、以下の手順によって算出され得る。まず、図1に示されるように所定期間にわたる信号データが取得される。この信号データにおいて、振幅が有限個のビン(区間)で区切られる。そして、各ビンにおける信号の振幅の頻度を数えたヒストグラムが生成される。ヒストグラムは、独立性を評価する対象の各信号データについて生成される。次に、各信号データのヒストグラムから近似分布が算出される。そして、各信号データの近似分布に基づいて近似相互情報量が算出される。近似相互情報量を正規化することによって、正規化相互情報量が算出される。正規化相互情報量は、その値が0である場合に複数の信号データが独立であることを表し、その値が1である場合に複数の信号データが完全に従属する関係であることを表す。正規化相互情報量がSUCに対応する。SUCの算出に関する詳細は、下記論文を参照することによって理解され得る。
A. Kraskov, H. Stogbauer, and P. Grassberger, “Estimating mutual information,” Physical Review E, vol. 69, no. 6, 066138, 2004.
【0029】
ここで、源信号として既知の第1信号及び第2信号が得られるとする。既知の第1信号及び第2信号を混合した信号を観測した観測信号から、独立成分分析によって分離信号が生成される。既知の源信号と、分離信号とを比較することによって、分離信号の推定精度が確認され得る。
【0030】
源信号と分離信号との差は、例えば、図2に示される散布図によって視覚的に表され得る。図2の散布図において、横軸及び縦軸はそれぞれ第1信号及び第2信号に対応する。図2の散布図は、同時刻における第1信号の振幅と第2信号の振幅とに対応する点を各時刻においてプロットすることによって生成されている。図2の散布図で描かれている曲線は、オシロスコープのリサージュ曲線に相当する。図2において、源信号と分離信号とが完全に重なっている。この場合、分離信号が源信号に一致するように推定されていると判定される。一方で、源信号と分離信号との間に差がある場合、源信号を表す曲線と分離信号を表す曲線とが少なくとも一部において重ならなくなる。
【0031】
源信号の散布図の曲線と分離信号の散布図の曲線とが幾何学的にどの程度異なるかが数値として算出される。その数値は、ICAerrorとも称される。ICAerrorは、源信号と分離信号とが完全に一致する場合に0になる。ICAerrorは、混合行列Aと、独立成分分析で推定された分離行列Wの逆行列との差行列(A-W-1)のフロベニウスノルムの2乗値としても算出され得る。
【0032】
ICAerrorは、既知の第1信号及び第2信号について仮想的に観測信号を生成し、観測信号に独立成分分析を適用して分離信号を生成することによって、既知の第1信号及び第2信号と分離信号との差として算出される。一方で、既知の第1信号及び第2信号について、SUCとして正規化相互情報量が算出される。既知の第1信号及び第2信号について正規化相互情報量とICAerrorとを算出することによって、図3に例示されるように、正規化相互情報量とICAerrorとの相関を表すグラフが作成される。図3において、横軸及び縦軸はそれぞれICAerror及びSUCを表す。
【0033】
図3に例示されるグラフにプロットされている点は、第1信号の正弦波及び第2信号の正弦波それぞれの周波数を1Hzから60Hzまで1Hzずつ変更して組み合わせた、60×60=3600通りの組み合わせそれぞれに対応する。これらの点について、ICAerrorとSUCとの相関係数が、0.077と算出された。つまり、ICAerrorとSUCとは、ほとんど相関しないといえる。したがって、SUCを算出することによって独立成分分析の推定精度を保証することができない。
【0034】
さらに、SUCの算出に用いるヒストグラムを作成するために、ビンのサイズの調整が必要である。したがって、SUCの算出を装置に実装することが難しい。
【0035】
以上述べてきた比較例に係る手法によれば、観測信号を独立成分分析によって解析することによって生成される分離信号の妥当性を判定することが難しい。言い換えれば、独立成分分析の推定精度が所望の精度となるために満たすべき上記(1)から(3)までの条件が満たされているかを判定することが難しい。そこで、本開示は、複数の信号の独立性を簡便に把握でき、観測信号を独立成分分析によって解析することの妥当性を判定できる装置及び方法を説明する。
【0036】
(信号解析システム1の構成例)
図4に示されるように、一実施形態に係る信号解析システム1は、電子機器10と、第1観測器21と、第2観測器22と、第1信号源31と、第2信号源32とを備える。第1信号源31は、第1信号41を発信する。第2信号源32は、第2信号42を発信する。第1信号41及び第2信号42は、源信号とも称される。第1観測器21は、第1信号41若しくは第2信号42、又は、第1信号41と第2信号42とが混合された混合信号を観測し、観測した信号を第1観測信号として出力する。第2観測器22は、第1信号41若しくは第2信号42、又は、第1信号41と第2信号42とが混合された混合信号を観測し、観測した信号を第2観測信号として出力する。
【0037】
電子機器10は、第1観測器21から第1観測信号を取得し、第2観測器22から第2観測信号を取得する。電子機器10は、第1観測信号及び第2観測信号に基づいて、第1信号41と第2信号42とが混合された混合信号から、第1信号41及び第2信号42それぞれに対応する信号を推定し、推定した信号を第1分離信号及び第2分離信号として出力する。電子機器10は、分離信号を推定するために、独立成分分析又は周波数解析を実行する。
【0038】
また、電子機器10は、第1信号41だけを観測した観測信号と第2信号42だけを観測した観測信号との互いの独立性を表す数値を算出する。複数の信号の互いの独立性を表す数値は、独立性数値(Independence Score:IS)とも称される。電子機器10は、第1信号41と第2信号42とが混合された混合信号から分離信号を推定するために、独立成分分析を実行するか周波数解析を実行するかを独立性数値に基づいて決定する。
【0039】
電子機器10は、制御部12と、標本取得部14と、出力部16と、入力部18とを備える。
【0040】
制御部12は、電子機器10の各構成部から情報を取得したり、各構成部を制御したりする。制御部12は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成されてよい。制御部12は、所定のプログラムを実行することによって、電子機器10の種々の機能を実現してよい。
【0041】
制御部12は、記憶部を備えてよい。記憶部は、制御部12の動作に用いられる各種情報、又は、制御部12の機能を実現するためのプログラム等を格納してよい。記憶部は、制御部12のワークメモリとして機能してよい。記憶部は、例えば半導体メモリ等で構成されてよい。記憶部は、制御部12と別体で構成されてもよい。
【0042】
標本取得部14は、第1観測器21及び第2観測器22と有線又は無線によって通信可能に接続される。標本取得部14は、第1観測器21が出力する第1観測信号、及び、第2観測器22が出力する第2観測信号を、所定のサンプリング周期で標本化したデジタル信号として取得する。標本取得部14は、第1観測信号及び第2観測信号をアナログ信号として取得してもよい。
【0043】
出力部16は、制御部12から取得した情報を出力する。出力部16は、直接又は外部装置等を介して、文字、図形、又は画像等の視覚情報を出力することによってユーザに情報を通知してよい。出力部16は、表示デバイスを備えてもよいし、表示デバイスと有線又は無線で接続されてもよい。表示デバイスは、例えば液晶ディスプレイ等の種々のディスプレイを含んでよい。出力部16は、直接又は外部装置等を介して、音声等の聴覚情報を出力することによってユーザに情報を通知してもよい。出力部16は、スピーカ等の音声出力デバイスを備えてもよいし、音声出力デバイスと有線又は無線で接続されてもよい。出力部16は、振動デバイスを備えてもよい。出力部16は、視覚情報、聴覚情報又は触覚情報だけでなく、直接又は外部装置等を介して、ユーザが他の感覚で知覚できる情報を出力することによってユーザに情報を通知してもよい。
【0044】
入力部18は、ユーザからの入力を受け付ける入力デバイスを含んでもよい。入力デバイスは、例えば、キーボード又は物理キーを含んでもよいし、タッチパネル若しくはタッチセンサ又はマウス等のポインティングデバイスを含んでもよい。入力デバイスは、これらの例に限られず、他の種々のデバイスを含んでもよい。
【0045】
本実施形態において、第1信号41及び第2信号42は、音声信号であるとする。第1信号源31及び第2信号源32は、スピーカ又は発話する人間であるとする。第1観測器21及び第2観測器22は、マイクであるとする。電子機器10は、複数の音声の源信号が混合された混合信号から各音声の源信号を分離するように構成される。
【0046】
図5に示されるように、電子機器10は、出力部16として、インジケータランプ16aと、ディスプレイ16bと、スピーカ16cとを備える。電子機器10は、入力部18として十字キーを備える。電子機器10は、第1観測器21及び第2観測器22としてマイクを更に備える。つまり、第1観測器21及び第2観測器22は、電子機器10に含まれてよい。ディスプレイ16bに表示されている「音声A」及び「音声B」は、それぞれ第1信号41及び第2信号42に対応する。
【0047】
(電子機器10の動作例)
電子機器10は、混合信号を観測した観測信号を独立成分分析又は周波数解析によって解析することによって、混合信号に含まれる源信号に対応する信号を推定して分離信号として生成する。電子機器10は、独立成分分析及び周波数解析のどちらの解析手法を選択して実行するか決定するために、源信号の独立性を判定する。以下、源信号の独立性を判定する手順と、評価結果に基づいて解析手法を選択して分離信号を生成する手順とがそれぞれ説明される。
【0048】
<源信号の独立性を評価する手順例>
電子機器10の制御部12は、源信号の独立性を判定する信号判定方法として、図6のフローチャートに例示される手順を実行してよい。図6のフローチャートに例示される手順は、制御部12を構成するプロセッサに実行させる信号判定プログラムとして実現されてもよい。信号判定方法は、電子機器10の制御方法とも称される。
【0049】
制御部12は、観測信号及び観測条件を取得する(ステップS1)。具体的に、制御部12は、源信号を分けて観測した観測信号を取得する。源信号が第1信号41と第2信号42とを含む場合、第1信号41だけが発信される状態において、第1観測器21又は第2観測器22が第1信号41を観測する。また、第2信号42だけが発信される状態において、第1観測器21又は第2観測器22が第2信号42を観測する。電子機器10は、観測を第1観測器21、第2観測器22のどちらか一方に固定して行う。
【0050】
また、制御部12は、源信号を観測する観測器の位置又は指向性、及び、源信号を発信する信号源の位置又は指向性等を観測条件として取得する。
【0051】
第1観測器21が第1信号41だけを観測して得られる観測信号と、第2観測器22が第1信号41だけを観測して得られる観測信号とは、同じ信号を観測しているにもかかわらず、各観測器の位置又は指向性の違いに起因して、互いに異なる信号となり得る。また、第1観測器21が第2信号42だけを観測して得られる観測信号と、第2観測器22が第2信号42だけを観測して得られる観測信号とは、同様に互いに異なる信号となり得る。後述するように、制御部12は、観測条件毎に独立性を判定できる。また、制御部12は、観測信号の差異と観測条件とに基づいて分離信号を推定できる。
【0052】
制御部12は、独立性数値(IS)を算出する(ステップS2)。具体的に、制御部12は、以下の手順で独立性数値を算出する。
【0053】
源信号としての第1信号41及び第2信号42の確率分布は、それぞれX及びYと表されるとする。この場合、第1信号41と第2信号42との同時分布は、XYと表される。XとYとが統計的に独立である場合、X及びYそれぞれの期待値E[X]及びE[Y]、並びに、XYの期待値E[XY]について、以下の関係式(1)が成立する。
【数1】
期待値E[X]は、確率密度関数p(X)を用いた、以下の式(2)で表される。
【数2】
【0054】
上述の式(1)は、X及びYの同時分布がX及びYそれぞれの確率密度関数の積と等しいことを意味する。しかし、式(2)において無限の標本データが必要とされる。そのため、未知の信号に対して確率分布を適用することができない。そこで上述の式(2)の代わりに、期待値E[X]を有限の標本データを用いた標本期待値E^[X]で近似した形式の式(3)が用いられる。ここで、E^は、文字Eの上に^(ハット)が付されていることを表す。
【数3】
【0055】
式(3)を用いて式(1)を変形することによって、以下の式(4)が得られる。
【数4】
E^[X]及びE^[Y]は、n次の単信号標本期待値とも称される。E^[(XY)]は、n次の積信号標本期待値とも称される。
【0056】
式(4)が成立する場合、左辺と右辺との差分が0である。式(4)が成立しない場合、左辺と右辺との差分が生じる。式(4)の左辺と右辺との差分の絶対値が大きいほど、XとYとの独立性が低下するといえる。式(4)の左辺と右辺との差分の絶対値は、XとYとの独立性を表す指標として用いられ得る。
【0057】
制御部12は、式(4)の左辺と右辺との差分に基づく値を正の値で表す差分値を算出する。差分値は、式(4)の左辺と右辺との差分の絶対値と相関する値として算出される。制御部12は、差分値として、式(4)の左辺と右辺との差分の絶対値を算出してもよい。制御部12は、差分値として、例えば以下の式(5)で表されるように、式(4)の左辺と右辺との差分の二乗である二乗誤差eを算出してもよい。制御部12は、二乗誤差eの平方根である平方二乗誤差を、差分値として算出してもよい。
【数5】
【0058】
制御部12は、第1観測器21又は第2観測器22が第1信号41だけを観測して得られる観測信号から有限個の標本データを取得し、取得した標本データをXとする。また、制御部12は、第1観測器21又は第2観測器22が第2信号42だけを観測して得られる観測信号から有限個の標本データを取得し、取得した標本データをYとする。制御部12は、取得した標本データに対応するX及びYを式(5)に適用することによって、二乗誤差eを算出できる。
【0059】
制御部12は、正の値として算出された二乗誤差eを用いた以下の式(6)によって独立性数値(IS)を算出してよい。
【数6】
【0060】
式(6)は、複数の次数で単信号標本期待値(E^[X]及びE^[Y])と、積信号標本期待値(E^[(XY)])とに基づいて算出された二乗誤差e(n=1~k)を各次数における差分値として総和を算出することを表す。つまり、独立性数値(IS)は、単信号標本期待値及び前記積信号標本期待値を複数の次数で算出し、各次数において差分値を算出し、各次数の差分値の総和として算出される。複数の次数の差分値の総和として独立性数値(IS)が算出されることによって、独立性数値と複数の信号の独立性との相関が高められ得る。各次数のおける標本期待値に基づいて独立性数値(IS)を算出する際、各次数の差分値の総和に限られず、他の種々の演算が用いられてもよい。
【0061】
式(6)の右辺の各項において二乗誤差eを1/nのべき乗とした値が加算されている(n=1,・・・,k)。1/nは、各次数の逆数に対応する。つまり、式(6)の右辺の各項は、各次数において算出した差分値を各次数の逆数のべき乗としたものに対応する。二乗誤差eを1/nのべき乗とすることによって、X及びYに基づいて算出されている各項の期待値のうち一部の項の期待値が支配的になりにくい。べき乗の指数は、これに限られず、各項において共通の値とされてもよい。また、各項において二乗誤差eをべき乗しない値がそのまま加算されてもよい。
【0062】
式(6)の右辺の各項に含まれる係数αは、各項の重みづけ係数であり、任意に設定され得る。つまり、式(6)の右辺の各項は、各次数において算出した差分値に各次数の重みづけ係数を乗じたものに対応する。係数αは、例えば全て1に設定されてもよいし、各項において異なる値に設定されてもよい。
【0063】
式(6)の右辺は、nを1からkまでの1ずつ増加する値とした各項を加算する形式とされている。nの値の組み合わせ、つまり次数の組み合わせは、任意に設定されてよい。例えば、nは、2、4、6・・のように所定値ずつ増加するように設定されてもよいし、1、4、5、・・のように不規則に設定されてもよい。標本期待値の次数が高いほど、標本期待値はノイズの影響を受けやすくなる。したがって、標本データのSN比に応じて、次数の組み合わせが調整されてよい。
【0064】
本実施形態において、独立性数値を算出するために、nが1,2,3,4に設定されるとする。また、係数αは、全て1に設定されるとする。この場合、独立性数値(IS)は、以下の式(7)で算出される。
【数7】
【0065】
制御部12は、以上述べてきた手順例を実行することによって独立性数値(IS)を算出できる。制御部12は、算出した独立性数値(IS)が第1閾値以下であるか判定する(ステップS3)。制御部12は、第1閾値をあらかじめ設定しておく。制御部12は、独立成分分析によって所望の推定精度を得るために必要な独立性数値(IS)の上限をあらかじめ取得し、第1閾値として設定してよい。制御部12は、第1閾値を、入力部18で受け付けたユーザの入力に基づいて設定してよい。第1閾値は、所定の閾値とも称される。
【0066】
制御部12は、独立性数値(IS)が第1閾値以下である場合(ステップS3:YES)、出力部16によって、第1信号41と第2信号42との間に独立性が有ることを表す情報を出力する(ステップS4)。制御部12は、独立性数値(IS)が第1閾値より大きい場合、つまり独立性数値(IS)が第1閾値以下でない場合(ステップS3:NO)、出力部16によって、第1信号41と第2信号42との間に独立性が無いことを表す情報を出力する(ステップS5)。制御部12は、ステップS4又はS5の手順において、インジケータランプ16aの表示色を変更することによって独立性の有無を表す情報を出力してよい。制御部12は、ディスプレイ16bに独立性の有無を表す情報を表示させてよい。制御部12は、スピーカ16cに独立性の有無を表す音声情報を出力させてよい。つまり、制御部12は、ステップS4又はS5の手順において、第1信号41と第2信号42とが互いに独立であるかの判定結果を出力部16に出力させる。制御部12は、ステップS4又はS5の手順の実行後、ステップS6の手順に進む。制御部12は、ステップS4又はS5の一方を実行しなくてもよいし、ステップS4及びS5を両方とも実行しなくてもよい。
【0067】
制御部12は、観測条件及び算出した独立性数値(IS)を出力する(ステップS6)。制御部12は、観測条件及び算出した独立性数値(IS)を記憶部に格納してもよい。制御部12は、観測条件と独立性数値(IS)とを関連づけたデータベースとして記憶部に格納してもよい。制御部12は、観測条件と独立性数値(IS)とを関連づけたデータベースを外部装置に記憶させてもよい。制御部12は、ステップS6の手順の実行後、図6のフローチャートの実行を終了する。
【0068】
<源信号の独立性を評価する手順例>
電子機器10の制御部12は、図6のフローチャートの手順を実行することによって算出された独立性数値(IS)に基づいて、源信号を混合した信号を観測して得られた観測信号を解析する手法を選択する。制御部12は、選択した手法を実行することによって観測信号を解析し、分離信号を推定する。制御部12は、分離信号を推定する信号解析方法として、図7のフローチャートに例示される手順を実行してよい。図7のフローチャートに例示される手順は、制御部12を構成するプロセッサに実行させる信号解析プログラムとして実現されてもよい。信号解析方法は、電子機器10の制御方法とも称される。
【0069】
制御部12は、観測信号及び観測条件を取得する(ステップS11)。具体的に、制御部12は、第1観測器21及び第2観測器22から観測信号を取得する。制御部12は、観測条件を、例えば入力部18によってユーザからの入力を受け付けることによって取得する。
【0070】
制御部12は、観測条件に対応する独立性数値(IS)を取得する(ステップS12)。具体的に、制御部12は、記憶部又は外部装置に格納したデータベースに基づいて、観測条件に関連づけられた独立性数値(IS)を取得してよい。制御部12は、観測条件に関連づけられた独立性数値(IS)が存在しない場合、エラー処理として、後述するステップS15の手順の周波数解析に進んでよい。
【0071】
制御部12は、観測条件に対応する独立性数値(IS)が第2閾値以下であるか判定する(ステップS13)。制御部12は、第2閾値をあらかじめ設定しておく。制御部12は、独立成分分析によって所望の推定精度を得るために必要な独立性数値(IS)の上限をあらかじめ取得し、第2閾値として設定してよい。制御部12は、第2閾値を第1閾値と同じ値に設定してよい。制御部12は、第2閾値を、入力部18で受け付けたユーザの入力に基づいて設定してよい。第2閾値は、所定の閾値とも称される。
【0072】
制御部12は、独立性数値(IS)が第2閾値以下である場合(ステップS13:YES)、観測信号を解析するために独立成分分析を実行する(ステップS14)。制御部12は、独立性数値(IS)が第2閾値より大きい場合、つまり独立性数値(IS)が第2閾値以下でない場合(ステップS13:NO)、観測信号を解析するために周波数解析を実行する(ステップS15)。制御部12は、ステップS14又はS15の手順を実行することによって、観測信号から分離信号を推定できる。
【0073】
制御部12は、推定した分離信号を出力する(ステップS16)。制御部12は、ステップS16の手順の実行後、図7のフローチャートの実行を終了する。
【0074】
<解析例>
以上述べてきた信号判定方法及び信号解析方法を実行した場合に得られる分離信号の推定結果の妥当性が具体的な例に基づいて以下説明される。
【0075】
図8に源信号の一例が示される。図8(A)は、第1信号41の一例として正弦波の波形を表すグラフである。図8(B)は、第2信号42の一例として、第1信号41とは異なる周波数の正弦波の波形を表すグラフである。図8において、横軸は時刻を表す。縦軸は信号の振幅を表す。
【0076】
制御部12は、第1信号41と第2信号42とを混合した信号を第1観測器21及び第2観測器22それぞれで観測することによって、第1観測信号及び第2観測信号を取得できる。図9に観測信号の一例が示される。図9(A)は、第1信号41と第2信号42とを混合した信号を第1観測器21で観測して得られた第1観測信号の波形を表すグラフである。図9(B)は、第1信号41と第2信号42とを混合した信号を第2観測器22で観測して得られた第2観測信号の波形を表すグラフである。図9において、横軸は時刻を表す。縦軸は信号の振幅を表す。第1観測器21の位置又は指向性等の観測条件と、第2観測器22の位置又は指向性等の観測条件とが異なることによって、第1観測信号と第2観測信号とが互いに異なる波形となっている。
【0077】
制御部12は、第1観測信号及び第2観測信号に基づいて分離信号を推定する。図10に分離信号の一例が示される。図10(A)は、第1信号41に対応する信号として推定された第1分離信号の波形を表すグラフである。図10(B)は、第2信号42に対応する信号として推定された第2分離信号の波形を表すグラフである。
【0078】
第1信号41及び第2信号が既知である場合、既知の第1信号41及び第2信号42を源信号としてICAerrorが算出される。一方で、既知の第1信号41と第2信号42との独立性数値(IS)が算出される。本解析例において、ICAerrorと、独立性数値(IS)との相関が以下の手順で確認された。
【0079】
ICAerrorは、以下の手順で算出される。既知の第1信号41及び第2信号42を源信号として任意に設定された混合行列Aに基づいて第1観測信号及び第2観測信号が仮想的に生成される。観測信号に基づいて分離行列Wが推定される。推定した分離行列Wに基づいて分離信号が生成される。源信号と推定した分離信号との差分として、又は、混合行列Aと分離行列Wとに基づいて定まる数値として、ICAerrorが算出される。
【0080】
一方で、独立性数値(IS)を算出するために、既知の第1信号41だけを観測した観測信号と、既知の第2信号42だけを観測した観測信号とが仮想的に生成される。独立性数値(IS)は、仮想的に生成した、既知の第1信号41だけを観測した観測信号と、既知の第2信号42だけを観測した観測信号とに基づいて算出される。
【0081】
本解析例において、第1信号41及び第2信号42それぞれの周波数を1Hzから60Hzまで1Hzずつ変更して組み合わせた、60×60=3600通りの組み合わせが用いられた。各組み合わせにおいてICAerrorと独立性数値(IS)とが算出された。そして、各組み合わせにおいて算出された数値が図11に例示される相関グラフにプロットされた。図11において、横軸及び縦軸はそれぞれICAerror及び独立性数値(IS)を表す。図11のグラフにプロットされる点について、ICAerrorと独立性数値(IS)との相関係数が、0.91と算出された。つまり、ICAerrorと独立性数値(IS)とは相関を有するといえる。ICAerrorと独立性数値(IS)との相関は、少なくとも、上述した比較例において相関係数が0.077であった、ICAerrorとSUCとの相関よりも強いといえる。
【0082】
ICAerrorと独立性数値(IS)とが相関することによって、制御部12は、独立性数値(IS)に基づいて、観測信号を解析する手法を選択できる。具体的に、制御部12は、独立性数値(IS)が第2閾値以下である場合に、ICAerrorが所定値以下になる、つまり独立成分分析による分離信号の推定精度が高くなると判定できる。その結果、制御部12は、観測信号を解析する手法として独立成分分析を選択できる。一方、制御部12は、独立性数値(IS)が第2閾値より大きい場合に、ICAerrorが所定値より大きくなる、つまり独立成分分析による分離信号の推定精度が低くなると判定できる。その結果、制御部12は、観測信号を解析する手法として独立成分分析を選択せずに周波数解析を選択できる。
【0083】
以上述べてきたように、本実施形態に係る電子機器10、並びに、信号判定方法及び信号解析方法によれば、有限個の標本データによって源信号の独立性が評価され得る。具体的に、無限個の標本データを用いた統計モデルの設計が不要となる。また、混合信号を集めて独立成分分析を実行することによって独立成分分析による分離信号の推定精度を実際に確認する作業が不要となる。その結果、作業コスト及び作業負荷が低減され得る。また、複数の信号の独立性が標本データに基づく数値として簡便に表され得る。その結果、複数の信号の独立性が簡便に把握され得る。
【0084】
また、独立成分分析による推定精度を表すICAerrorが所定値以下と判定した場合に独立成分分析を実行できる。このようにすることで、独立成分分析による観測信号の解析が実行されやすくなる。独立成分分析が周波数解析よりも少ない演算負荷で実行される場合、独立成分分析が用いられやすいことによって、信号の分離が簡便化され得る。
【0085】
また、独立成分分析によって分離信号を推定した場合に生じ得る不具合について数値的な裏付けが可能となる。
【0086】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 信号解析システム
10 電子機器(12:制御部、14:標本取得部、16:出力部(16a:インジケータランプ、16b:ディスプレイ、16c:スピーカ)、18:入力部)
21、22 第1観測器、第2観測器
31、32 第1信号源、第2信号源
41、42 第1信号、第2信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11